説明

有機EL素子ならびに有機ELモジュールおよびその製造方法

【課題】110℃以上の高温処理に供しても特性の劣化を抑制する。
【解決手段】支持基板1上に陽極2、有機化合物層3および陰極4が形成された有機EL素子が開示されている。当該有機EL素子では、有機化合物層3が少なくとも正孔輸送層302、発光層303および電子輸送層305を有し、正孔輸送層302が正孔輸送材料から構成され、発光層303がホスト化合物と発光ドーパントとから構成され、電子輸送層305が電子輸送材料から構成され、前記発光ドーパントを除く前記正孔輸送材料、前記ホスト化合物および前記電子輸送材料のすべてのガラス転移点Tgが110℃以上であり、かつ、電子輸送層305にはアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種類以上の金属またはそれらの金属化合物が含有されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機EL素子ならびにこれを封止・保護した有機ELモジュールおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、照明装置や表示装置などの光源としてエレクトロルミネッセンスパネル(ELパネル)が広く利用されている。
ELパネルでは、たとえば、駆動時の熱の影響からの素子劣化を防ぐため、素子自身の耐熱性の改良手段として、材料のガラス転移点Tgを高くする方法や界面の混合等を抑制する方法が従来公知である。
特許文献1では、正孔輸送性を有しガラス転移点が150℃以上またはガラス転移しない材料を含有する耐熱性層を設けることで、駆動時の熱による界面混合の影響を抑えようとしている。しかしながら、この方法では、正孔輸送層と発光層の界面混合の影響は防止できるが、電子輸送層側からの混合影響は防止できないという問題を抱えている。
【0003】
特許文献2では、基板上に陽極、有機化合物層および陰極を積層し、その積層体を、接着剤層を介して放熱板で封止したELパネル(有機EL素子)が開示されている。特に、特許文献2の有機EL素子によれば、接着剤層としてシート状の熱硬化性接着剤が使用可能とされ(段落0034〜0036参照)、そのことが実験2で検証されている(段落0053〜0054参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−91570号公報
【特許文献2】国際公開第2005/122644号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
有機EL素子に熱処理を実行する場合においては、特許文献2の段落0036の記載にあるように、一般に、有機EL素子は耐熱温度が110℃程度であり、これを超えるような温度での熱処理は、有機EL素子の特性を劣化させる要因になると考えられている。
有機EL素子を屋外用途で使用する場合には、高耐久性が求められるが、実際には有機EL素子自身の耐熱性の問題により、耐候性が十分でないという課題を抱えている。また、素子自身の耐久性が維持できても、有機ELモジュールにした場合、モジュールへの水分の浸入の影響により電極の腐食が起きたり、電圧変動が起きたり、輝度が低下する等の課題を抱えている。電極を保護するためには、太陽光パネル等で使用されるような湿度耐性のある熱硬化樹脂を用いることが有用であるが、110℃よりも高い温度で硬化する樹脂は有機EL素子自身の耐熱性の問題で使用できなかった。
したがって、本発明の主な目的は、有機化合物層を含む耐熱性の良好な有機EL素子であって、110℃以上の高温処理に供しても特性の劣化を抑制することができる有機EL素子を提供することにある。
本発明の他の目的は、当該有機EL素子を封止・保護した有機ELモジュールおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の一態様によれば、
支持基板上に陽極、有機化合物層および陰極が形成された有機EL素子において、
前記有機化合物層が少なくとも正孔輸送層、発光層および電子輸送層を有し、
前記正孔輸送層が正孔輸送材料から構成され、
前記発光層がホスト化合物と発光ドーパントとから構成され、
前記電子輸送層が電子輸送材料から構成され、
前記発光ドーパントを除く前記正孔輸送材料、前記ホスト化合物および前記電子輸送材料のすべてのガラス転移点Tgが110℃以上であり、かつ、前記電子輸送層にはアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種類以上の金属またはそれらの金属化合物が含有されていることを特徴とする有機EL素子が提供される。
【0007】
本発明の他の態様によれば、
前記有機EL素子と、
前記有機EL素子を、陽極および陰極の一部を露出させた状態で封止する封止部材と、
前記封止部材ならびにそこから露出した陽極および陰極の一部を保護する保護部材であって、架橋温度が110℃以上の熱硬化性樹脂製の前記保護部材と、
を備えることを特徴とする有機ELモジュールが提供される。
【0008】
本発明の他の態様によれば、
前記有機EL素子を形成する工程と、
前記有機EL素子を、陽極および陰極の一部を露出させた状態で封止する工程と、
架橋温度が110℃以上の熱硬化性樹脂製の保護部材で、前記有機EL素子の封止体ならびにそこから露出した陽極および陰極の一部を被覆し、前記保護部材の重複部分を110℃以上の温度で加熱圧着する工程と、
を備えることを特徴とする有機ELモジュールの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、110℃以上の高温処理に供しても特性の劣化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】有機ELモジュールの概略構成を示す断面図である。
【図2】有機ELモジュールの製造方法を概略的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら本発明の好ましい実施形態について説明する。
【0012】
《有機ELモジュール(100)》
図1に示すとおり、有機ELモジュール100は電極や有機化合物層を支持するための支持基板1を有している。
支持基板1上には陽極2、有機化合物層3および陰極4がこの順に形成され、有機化合物層3が陽極2と陰極4との間に形成されている。有機化合物層3はたとえば正孔注入層301、正孔輸送層302、発光層303、正孔阻止層304、電子輸送層305などから構成される。
陽極2、有機化合物層3および陰極4の積層体は封止部材5で封止(被覆)されている。有機ELモジュール100では封止部材5は封止樹脂で構成されている。
支持基板1、陽極、有機化合物層3および陰極4の積層体は2枚の保護部材10で被覆され保護されている。保護部材10は主に保護基板11と接着剤層12とから構成されている。各保護部材10の接着剤層12同士が対向した状態で各保護部材10の側縁部が加熱接着されている。
陽極2と陰極4とには取出し電極20,21が接続され、取出し電極20,21が封止部材5や接着剤層12を貫通して有機ELモジュール100の外部に延出している。このような構成から、保護部材10は封止部材5ならびに有機EL素子の陽極2および陰極4の一部(取出し電極20,21)を被覆し保護している。
なお、本実施形態にかかる有機EL素子は、基本的には、有機ELモジュール100から保護部材10を除いた部材(または封止部材5および保護部材10を除いた部材)で構成される。
【0013】
《有機EL素子の層構成》
次に、本発明の有機EL素子の層構成の好ましい具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されない。
【0014】
(i)陽極/発光層/電子輸送層/陰極
(ii)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
(iii)陽極/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/陰極
(iv)陽極/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/陰極バッファー層/陰極
(v)陽極/陽極バッファー層/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/陰極バッファー層/陰極
【0015】
発光層には蛍光発光層とリン光発光層とがある。
蛍光発光層とは、主に励起一重項からの発光をする層であり、蛍光ドーパントと蛍光ホストを有することが好ましい。
本発明において蛍光ドーパントは青色発光であることが好ましく、2−メチルTHF等の溶剤に溶解し、希薄溶液中での発光極大波長が400〜500nmであることが好ましく、420〜480nmであることがより好ましい。
本発明の蛍光発光層は少なくとも1層以上の層構成を有し、単層でも複数層でも良い。
【0016】
他方、リン光発光層とは、主に励起三重項からの発光をする層であり、リン光ドーパントとリン光ホストを有することが好ましい。
本発明において、リン光ドーパントは、どのような発光色のものでもよいが、有機EL素子の発光色として白色発光を意図する場合は、黄色の発光色のものかまたは緑色と赤色との発光色のものとし、青色蛍光発光層と組み合わせることが好ましい。
本発明のリン光発光層は少なくとも1層以上の層構成を有し、単層でも複数層でも良く、発光色の異なるリン光発光層を複数層設けることが好ましい。
【0017】
《発光層(リン光発光層、蛍光発光層(303))》
本発明に係る発光層は、電極または電子輸送層、正孔輸送層から注入されてくる電子及び正孔が再結合して発光する層であり、発光する部分は発光層の層内であっても発光層と隣接層との界面であってもよい。本発明に係る発光層は、本発明で規定する要件を満たしていれば、その構成には特に制限はない。
【0018】
発光層の膜厚の総和は、特に制限はないが、形成する膜の均質性や、発光時に不必要な高電圧を印加するのを防止し、且つ、駆動電流に対する発光色の安定性向上の観点から、5nm〜200nmの範囲に調整することが好ましく、更に好ましくは20nm以上、150nm以下の範囲に調整される。また、本発明の構成で規定される構成において個々の発光層の膜厚としては、5nm〜200nmの範囲に調整することが好ましく、更に好ましくは、3nm以上、150nm以下の範囲に調整することである。
【0019】
本実施形態にかかる発光層は、蛍光発光層またはリン光発光層のどちらか一方で構成されてもよいし、両方で構成されてもよい。
蛍光発光層には蛍光発光ドーパントとホスト化合物とが含有される。この蛍光ドーパントの含有比率は、0.01〜20体積%であり、好ましくは0.1〜10体積%である。
リン光発光層にもリン光発光ドーパントとホスト化合物とが含有される。このリン光ドーパントの含有比率は、0.01〜40体積%であり、好ましくは0.1〜20体積%である。
【0020】
発光層を形成する方法としては、後述する発光ドーパントやホスト化合物を、例えば、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、LB法(ラングミュア−ブロジェット法)、インクジェット法、スプレー法、印刷法、スロット型コータ法等の公知の薄膜形成法により製膜して形成することができる。
【0021】
発光層を構成する層は、本発明で規定する要件を満たす構成を有していれば何層でもよく、積層数は任意に設定可能である。
【0022】
各発光層に含有されるリン光発光性、または蛍光発光性発光ドーパントは、発光層内においてその膜厚方向に対し、均一な濃度で含有されていてもよいが、濃度分布を有していてもよい。
【0023】
(1)ホスト化合物
次に、発光層に含まれるホスト化合物(発光ホスト化合物ともいう)について説明する。
ホスト化合物としては、ホスト化合物を単独で用いてもよく、または複数種併用して用いてもよい。
【0024】
本発明の有機EL素子のリン光発光層に含まれるリン光ホスト化合物とは、室温(25℃)におけるリン光発光のリン光量子収率が、0.1未満の化合物であることが好ましく、更に好ましくはリン光量子収率が0.01未満の化合物である。
【0025】
本発明に用いられるリン光ホスト化合物としては、構造的には特に制限はないが、代表的にはカルバゾール誘導体、トリアリールアミン誘導体、芳香族ボラン誘導体、含窒素複素環化合物、チオフェン誘導体、フラン誘導体、オリゴアリーレン化合物等の基本骨格を有するもの、または、カルボリン誘導体やジアザカルバゾール誘導体(ここで、ジアザカルバゾール誘導体とは、カルボリン誘導体のカルボリン環を構成する炭化水素環の少なくとも一つの炭素原子が窒素原子で置換されているものを表す。)等が挙げられる。
【0026】
本発明に係る発光層に用いられるリン光ホスト化合物としては、下記一般式(a)で表される化合物が好ましい。
【0027】
【化1】

【0028】
一般式(a)において、Xは、NR′、O、S、CR′R″またはSiR′R″を表し、R′、R″は各々水素原子または置換基を表す。Arは芳香環を表す。nは0から8の整数を表す。
【0029】
一般式(a)におけるXにおいて、R′、R″で各々表される置換基としては、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基等)、シクロアルキル基(例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等)、アルケニル基(例えば、ビニル基、アリル基、1−プロペニル基、2−ブテニル基、1,3−ブタジエニル基、2−ペンテニル基、イソプロペニル基等)、アルキニル基(例えば、エチニル基、プロパルギル基等)、芳香族炭化水素基(芳香族炭素環基、アリール基等ともいい、例えば、フェニル基、p−クロロフェニル基、メシチル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、アントリル基、アズレニル基、アセナフテニル基、フルオレニル基、フェナントリル基、インデニル基、ピレニル基、ビフェニリル基等)、芳香族複素環基(例えば、フリル基、チエニル基、ピリジル基、ピリダジニル基、ピリミジニル基、ピラジニル基、トリアジニル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、チアゾリル基、キナゾリニル基、カルバゾリル基、カルボリニル基、ジアザカルバゾリル基(前記カルボリニル基のカルボリン環を構成する任意の炭素原子の一つが窒素原子で置き換わったものを示す)、フタラジニル基等)、複素環基(例えば、ピロリジル基、イミダゾリジル基、モルホリル基、オキサゾリジル基等)、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、ドデシルオキシ基等)、シクロアルコキシ基(例えば、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等)、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等)、アルキルチオ基(例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、ペンチルチオ基、ヘキシルチオ基、オクチルチオ基、ドデシルチオ基等)、シクロアルキルチオ基(例えば、シクロペンチルチオ基、シクロヘキシルチオ基等)、アリールチオ基(例えば、フェニルチオ基、ナフチルチオ基等)、アルコキシカルボニル基(例えば、メチルオキシカルボニル基、エチルオキシカルボニル基、ブチルオキシカルボニル基、オクチルオキシカルボニル基、ドデシルオキシカルボニル基等)、アリールオキシカルボニル基(例えば、フェニルオキシカルボニル基、ナフチルオキシカルボニル基等)、スルファモイル基(例えば、アミノスルホニル基、メチルアミノスルホニル基、ジメチルアミノスルホニル基、ブチルアミノスルホニル基、ヘキシルアミノスルホニル基、シクロヘキシルアミノスルホニル基、オクチルアミノスルホニル基、ドデシルアミノスルホニル基、フェニルアミノスルホニル基、ナフチルアミノスルホニル基、2−ピリジルアミノスルホニル基等)、アシル基(例えば、アセチル基、エチルカルボニル基、プロピルカルボニル基、ペンチルカルボニル基、シクロヘキシルカルボニル基、オクチルカルボニル基、2−エチルヘキシルカルボニル基、ドデシルカルボニル基、フェニルカルボニル基、ナフチルカルボニル基、ピリジルカルボニル基等)、アシルオキシ基(例えば、アセチルオキシ基、エチルカルボニルオキシ基、ブチルカルボニルオキシ基、オクチルカルボニルオキシ基、ドデシルカルボニルオキシ基、フェニルカルボニルオキシ基等)、アミド基(例えば、メチルカルボニルアミノ基、エチルカルボニルアミノ基、ジメチルカルボニルアミノ基、プロピルカルボニルアミノ基、ペンチルカルボニルアミノ基、シクロヘキシルカルボニルアミノ基、2−エチルヘキシルカルボニルアミノ基、オクチルカルボニルアミノ基、ドデシルカルボニルアミノ基、フェニルカルボニルアミノ基、ナフチルカルボニルアミノ基等)、カルバモイル基(例えば、アミノカルボニル基、メチルアミノカルボニル基、ジメチルアミノカルボニル基、プロピルアミノカルボニル基、ペンチルアミノカルボニル基、シクロヘキシルアミノカルボニル基、オクチルアミノカルボニル基、2−エチルヘキシルアミノカルボニル基、ドデシルアミノカルボニル基、フェニルアミノカルボニル基、ナフチルアミノカルボニル基、2−ピリジルアミノカルボニル基等)、ウレイド基(例えば、メチルウレイド基、エチルウレイド基、ペンチルウレイド基、シクロヘキシルウレイド基、オクチルウレイド基、ドデシルウレイド基、フェニルウレイド基ナフチルウレイド基、2−ピリジルアミノウレイド基等)、スルフィニル基(例えば、メチルスルフィニル基、エチルスルフィニル基、ブチルスルフィニル基、シクロヘキシルスルフィニル基、2−エチルヘキシルスルフィニル基、ドデシルスルフィニル基、フェニルスルフィニル基、ナフチルスルフィニル基、2−ピリジルスルフィニル基等)、アルキルスルホニル基(例えば、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、ブチルスルホニル基、シクロヘキシルスルホニル基、2−エチルヘキシルスルホニル基、ドデシルスルホニル基等)、アリールスルホニル基またはヘテロアリールスルホニル基(例えば、フェニルスルホニル基、ナフチルスルホニル基、2−ピリジルスルホニル基等)、アミノ基(例えば、アミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ブチルアミノ基、シクロペンチルアミノ基、2−エチルヘキシルアミノ基、ドデシルアミノ基、アニリノ基、ナフチルアミノ基、2−ピリジルアミノ基等)、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等)、フッ化炭化水素基(例えば、フルオロメチル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ペンタフルオロフェニル基等)、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシ基、メルカプト基、シリル基(例えば、トリメチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、トリフェニルシリル基、フェニルジエチルシリル基等)、ホスホノ基等が挙げられる。
【0030】
これらの置換基は、上記の置換基によってさらに置換されていてもよい。また、これらの置換基は複数が互いに結合して環を形成していてもよい。
【0031】
一般式(a)において、好ましいXはNR′またはOであり、R′としては芳香族炭化水素基、芳香族複素環基が特に好ましい。
【0032】
一般式(a)において、Arで表される芳香族環としては、芳香族炭化水素環または芳香族複素環が挙げられる。また、該芳香族環は単環でもよく、縮合環でもよく、更に未置換でも、後述するような置換基を有していてもよい。
【0033】
一般式(a)において、Arで表される芳香族炭化水素環としては、ベンゼン環、ビフェニル環、ナフタレン環、アズレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ピレン環、クリセン環、ナフタセン環、トリフェニレン環、o−テルフェニル環、m−テルフェニル環、p−テルフェニル環、アセナフテン環、コロネン環、フルオレン環、フルオラントレン環、ナフタセン環、ペンタセン環、ペリレン環、ペンタフェン環、ピセン環、ピレン環、ピラントレン環、アンスラアントレン環等が挙げられる。これらの環は更に置換基を有していてもよい。
【0034】
一般式(a)において、Arで表される芳香族複素環としては、例えば、フラン環、ジベンゾフラン環、チオフェン環、オキサゾール環、ピロール環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、トリアジン環、ベンゾイミダゾール環、オキサジアゾール環、トリアゾール環、イミダゾール環、ピラゾール環、チアゾール環、インドール環、インダゾール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾオキサゾール環、キノキサリン環、キナゾリン環、シンノリン環、キノリン環、イソキノリン環、フタラジン環、ナフチリジン環、カルバゾール環、カルボリン環、ジアザカルバゾール環(カルボリン環を構成する炭化水素環の炭素原子の一つが更に窒素原子で置換されている環を示す)等が挙げられる。これらの環は更に置換基を有していてもよい。
【0035】
上記の中でも、一般式(a)において、Arで表される芳香族環として好ましく用いられるのは、カルバゾール環、カルボリン環、ジベンゾフラン環、ベンゼン環であり、特に好ましく用いられるのは、カルバゾール環、カルボリン環、ベンゼン環である。上記の中でも、置換基を有するベンゼン環が好ましく、特に好ましくは、カルバゾリル基を有するベンゼン環が好ましい。
【0036】
また、一般式(a)において、Arで表される芳香族環としては、下記に示すような、各々3環以上の縮合環が好ましい一態様であり、3環以上が縮合した芳香族炭化水素縮合環としては、具体的には、ナフタセン環、アントラセン環、テトラセン環、ペンタセン環、ヘキサセン環、フェナントレン環、ピレン環、ベンゾピレン環、ベンゾアズレン環、クリセン環、ベンゾクリセン環、アセナフテン環、アセナフチレン環、トリフェニレン環、コロネン環、ベンゾコロネン環、ヘキサベンゾコロネン環、フルオレン環、ベンゾフルオレン環、フルオランテン環、ペリレン環、ナフトペリレン環、ペンタベンゾペリレン環、ベンゾペリレン環、ペンタフェン環、ピセン環、ピラントレン環、コロネン環、ナフトコロネン環、オバレン環、アンスラアントレン環等が挙げられる。尚、これらの環は更に、置換基を有していてもよい。
【0037】
また、3環以上が縮合した芳香族複素環としては、具体的には、アクリジン環、ベンゾキノリン環、カルバゾール環、カルボリン環、フェナジン環、フェナントリジン環、フェナントロリン環、カルボリン環、サイクラジン環、キンドリン環、テペニジン環、キニンドリン環、トリフェノジチアジン環、トリフェノジオキサジン環、フェナントラジン環、アントラジン環、ペリミジン環、ジアザカルバゾール環(カルボリン環を構成する炭素原子の任意の一つが窒素原子で置き換わったものを表す)、フェナントロリン環、ジベンゾフラン環、ジベンゾチオフェン環、ナフトフラン環、ナフトチオフェン環、ベンゾジフラン環、ベンゾジチオフェン環、ナフトジフラン環、ナフトジチオフェン環、アントラフラン環、アントラジフラン環、アントラチオフェン環、アントラジチオフェン環、チアントレン環、フェノキサチイン環、チオファントレン環(ナフトチオフェン環)等が挙げられる。尚、これらの環は更に置換基を有していてもよい。
【0038】
ここで、一般式(a)において、Arで表される芳香族環が有してもよい置換基は、R′、R″で、各々表される置換基と同義である。
【0039】
また、一般式(a)において、nは0〜8の整数を表すが、0〜2であることが好ましく、特にXがO、Sである場合には1または2であることが好ましい。
【0040】
以下に、一般式(a)で表される発光ホスト化合物の具体例を示すが、これらに限定されるものではない。
【0041】
【化2】

【0042】
【化3】

【0043】
【化4】

【0044】
【化5】

【0045】
【化6】

【0046】
【化7】

【0047】
【化8】

【0048】
【化9】

【0049】
また、本発明に用いるリン光ホスト化合物は、低分子化合物でも、繰り返し単位をもつ高分子化合物でもよく、ビニル基やエポキシ基のような重合性基を有する低分子化合物(蒸着重合性発光ホスト)でもいい。
【0050】
リン光ホスト化合物としては、ガラス転移温度Tgが110℃以上である化合物が使用され、正孔輸送能、電子輸送能を有しつつ、且つ、発光の長波長化を防止しうる化合物が好ましい。
【0051】
従来公知のホスト化合物の具体例としては、以下の文献に記載されている化合物が好適である。例えば、特開2001−257076号公報、同2002−308855号公報、同2001−313179号公報、同2002−319491号公報、同2001−357977号公報、同2002−334786号公報、同2002−8860号公報、同2002−334787号公報、同2002−15871号公報、同2002−334788号公報、同2002−43056号公報、同2002−334789号公報、同2002−75645号公報、同2002−338579号公報、同2002−105445号公報、同2002−343568号公報、同2002−141173号公報、同2002−352957号公報、同2002−203683号公報、同2002−363227号公報、同2002−231453号公報、同2003−3165号公報、同2002−234888号公報、同2003−27048号公報、同2002−255934号公報、同2002−260861号公報、同2002−280183号公報、同2002−299060号公報、同2002−302516号公報、同2002−305083号公報、同2002−305084号公報、同2002−308837号公報等が挙げられる。
【0052】
本発明においては、複数の発光層を有する場合には、ホスト化合物は発光層ごとに異なっていてもよいが、同一の化合物であることが優れた駆動寿命特性が得られることから好ましい。
【0053】
また、前記リン光ホスト化合物は、その最低励起3重項エネルギー(T1)が、2.2eVより大きいことがより高い発光効率を得られることから好ましい。本発明でいう最低励起3重項エネルギーとは、ホスト化合物を溶媒に溶解し、液体窒素温度において観測したリン光発光スペクトルの最低振動バンド間遷移に対応する発光バンドのピークエネルギーを言う。
【0054】
ここで、ガラス転移点(Tg)とは、DSC(Differential Scanning Colorimetry:示差走査熱量法)を用いて、JIS−K−7121に準拠した方法により求められる値である。
【0055】
本発明の有機EL素子においては、ホスト材料はキャリアの輸送を担うため、キャリア輸送能を有する材料が好ましい。キャリア輸送能を表す物性としてキャリア移動度が用いられるが、有機材料のキャリア移動度は、一般的に電界強度に依存性が見られる。電界強度依存性の高い材料は、正孔と電子注入・輸送バランスを崩しやすい為、中間層材料、ホスト材料は、移動度の電界強度依存性の少ない材料を用いることが好ましい。
【0056】
なお、上記リン光ホスト化合物は、蛍光発光ドーパントに対するホスト化合物としても適宜用いることができる。
【0057】
(2)発光ドーパント
次いで、本発明に係る発光ドーパントについて説明する。
【0058】
(2.1)蛍光発光ドーパント(蛍光性ドーパント、蛍光発光体等ともいう)
本発明に係る発光性材料として用いられる蛍光発光ドーパントとしては、クマリン系色素、ピラン系色素、シアニン系色素、クロコニウム系色素、スクアリウム系色素、オキソベンツアントラセン系色素、フルオレセイン系色素、ローダミン系色素、ピリリウム系色素、ペリレン系色素、スチルベン系色素、ポリチオフェン系色素、又は希土類錯体系蛍光体等が挙げられる。
【0059】
また、従来公知のドーパントも本発明に用いることができ、例えば、国際公開第00/70655号パンフレット、特開2002−280178号公報、同2001−181616号公報、同2002−280179号公報、同2001−181617号公報、同2002−280180号公報、同2001−247859号公報、同2002−299060号公報、同2001−313178号公報、同2002−302671号公報、同2001−345183号公報、同2002−324679号公報、国際公開第02/15645号パンフレット、特開2002−332291号公報、同2002−50484号公報、同2002−332292号公報、同2002−83684号公報、特表2002−540572号公報、特開2002−117978号公報、同2002−338588号公報、同2002−170684号公報、同2002−352960号公報、国際公開第01/93642号パンフレット、特開2002−50483号公報、同2002−100476号公報、同2002−173674号公報、同2002−359082号公報、同2002−175884号公報、同2002−363552号公報、同2002−184582号公報、同2003−7469号公報、特表2002−525808号公報、特開2003−7471号公報、特表2002−525833号公報、特開2003−31366号公報、同2002−226495号公報、同2002−234894号公報、同2002−235076号公報、同2002−241751号公報、同2001−319779号公報、同2001−319780号公報、同2002−62824号公報、同2002−100474号公報、同2002−203679号公報、同2002−343572号公報、同2002−203678号公報等が挙げられる。
【0060】
(2.2)リン光発光ドーパント
本発明に係るリン光発光ドーパントは、励起三重項からの発光が観測される化合物であり、具体的には、室温(25℃)にてリン光発光する化合物であり、リン光量子収率が、25℃において0.01以上の化合物であると定義されるが、好ましいリン光量子収率は0.1以上である。
【0061】
上記リン光量子収率は、例えば、第4版実験化学講座7の分光IIの398頁(1992年版、丸善)に記載の方法により測定できる。溶液中でのリン光量子収率は種々の溶媒を用いて測定できるが、本発明に係るリン光発光体は、任意の溶媒のいずれかにおいても、上記リン光量子収率(0.01以上)が達成されればよい。
【0062】
リン光発光ドーパントの発光の原理としては、2タイプが挙げられる。
一つのタイプはキャリアが輸送されるホスト化合物上でキャリア(電子、正孔)が結合し、ホスト化合物の励起状態が生成し、この励起エネルギーをリン光発光ドーパントに移動させることでリン光発光ドーパントからの発光を得るというエネルギー移動型である。
もう一つのタイプは、リン光発光ドーパントがキャリアトラップとなり、リン光発光ドーパント上でキャリアの再結合が生じ、リン光発光ドーパントからの発光が得られるというキャリアトラップ型である。
いずれの場合においても、リン光発光ドーパントの励起状態のエネルギーは、ホスト化合物の励起状態のエネルギーよりも低いことが高い発光効率を得る上で好ましい。
【0063】
リン光発光ドーパントは、有機EL素子の発光層に使用される公知のものの中から適宜選択して用いることができる。
【0064】
本発明に係るリン光発光ドーパントとしては、好ましくは元素の周期表で8族〜10族の金属を含有する錯体系化合物であり、更に好ましくはイリジウム化合物、オスミウム化合物、または白金化合物(白金錯体系化合物)、希土類錯体であり、中でも最も好ましいのはイリジウム化合物である。
【0065】
本発明に用いることができる化合物の具体例を以下に示すが、これらの化合物は、例えば、Inorg.Chem.40巻、1704〜1711に記載の方法等により合成できる。
【0066】
【化10】

【0067】
【化11】

【0068】
【化12】

【0069】
【化13】

【0070】
《注入層:電子注入層、正孔注入層(301)》
注入層は必要に応じて設けることができ、陽極と発光層または正孔輸送層の間、及び陰極と発光層または電子輸送層との間に存在させてもよい。
【0071】
注入層とは、駆動電圧低下や発光輝度向上のために電極と有機層間に設ける層のことで、例えば、「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日エヌ・ティー・エス社発行)」の第2編第2章「電極材料」(123〜166頁)にその詳細に記載されており、正孔注入層(陽極バッファー層)と電子注入層(陰極バッファー層)とがある。
【0072】
陽極バッファー層(正孔注入層)としては、特開平9−45479号公報、同9−260062号公報、同8−288069号公報等にもその詳細が記載されており、具体例として、銅フタロシアニンに代表されるフタロシアニンバッファー層、酸化バナジウムに代表される酸化物バッファー層、アモルファスカーボンバッファー層、ポリアニリン(エメラルディン)やポリチオフェン等の導電性高分子を用いた高分子バッファー層等が挙げられる。また、特表2003−519432号公報に記載される材料を使用することも好ましい。
【0073】
陰極バッファー層(電子注入層)としては、特開平6−325871号公報、同9−17574号公報、同10−74586号公報等にその詳細が記載されており、具体的にはストロンチウムやアルミニウム等に代表される金属バッファー層、フッ化リチウムに代表されるアルカリ金属化合物バッファー層、フッ化マグネシウムに代表されるアルカリ土類金属化合物バッファー層、酸化アルミニウムに代表される酸化物バッファー層等が挙げられる。
【0074】
上記バッファー層(注入層)はごく薄い膜であることが望ましく、使用する素材にもよるが、その膜厚は0.1nm〜5μmの範囲が好ましい。
【0075】
《阻止層:正孔阻止層(304)、電子阻止層》
阻止層は、有機化合物薄膜の基本構成層の他に必要に応じて設けられるものである。例えば、特開平11−204258号公報、同11−204359号公報、及び「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日エヌ・ティー・エス社発行)」の237頁等に記載されている正孔阻止(ホールブロック)層がある。
【0076】
正孔阻止層とは広い意味では電子輸送層の機能を有し、電子を輸送する機能を有しつつ正孔を輸送する能力が著しく小さい正孔阻止材料からなり、電子を輸送しつつ正孔を阻止することで電子と正孔の再結合確率を向上させることができる。また、後述する電子輸送層の構成を必要に応じて、正孔阻止層として用いることができる。
【0077】
本発明の有機EL素子に設ける正孔阻止層は、発光層に隣接して設けられていることが好ましい。
【0078】
一方、電子阻止層とは広い意味では正孔輸送層の機能を有し、正孔を輸送する機能を有しつつ電子を輸送する能力が著しく小さい材料からなり、正孔を輸送しつつ電子を阻止することで電子と正孔の再結合確率を向上させることができる。また、後述する正孔輸送層の構成を必要に応じて電子阻止層として用いることができる。
【0079】
本発明に係る正孔阻止層、電子輸送層の膜厚としては、好ましくは3nm〜100nmであり、更に好ましくは5nm〜30nmである。
【0080】
《正孔輸送層(302)》
正孔輸送層とは、正孔を輸送する機能を有する正孔輸送材料からなり、広い意味で正孔注入層、電子阻止層も正孔輸送層に含まれる。正孔輸送層は単層または複数層設けることができる。
【0081】
正孔輸送材料としては、正孔の注入または輸送、電子の障壁性のいずれかを有するものであり、有機物、無機物のいずれであってもよい。例えば、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体及びピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、アニリン系共重合体、また導電性高分子オリゴマー、特にチオフェンオリゴマー等が挙げられる。
【0082】
正孔輸送材料としては上記のものを使用することができるが、更には、ポルフィリン化合物、芳香族第3級アミン化合物及びスチリルアミン化合物、特に芳香族第3級アミン化合物を用いることが好ましい。
【0083】
芳香族第3級アミン化合物及びスチリルアミン化合物の代表例としては、N,N,N′,N′−テトラフェニル−4,4′−ジアミノフェニル;N,N′−ジフェニル−N,N′−ビス(3−メチルフェニル)−〔1,1′−ビフェニル〕−4,4′−ジアミン(TPD);2,2−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)プロパン;1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)シクロヘキサン;N,N,N′,N′−テトラ−p−トリル−4,4′−ジアミノビフェニル;1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)−4−フェニルシクロヘキサン;ビス(4−ジメチルアミノ−2−メチルフェニル)フェニルメタン;ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)フェニルメタン;N,N′−ジフェニル−N,N′−ジ(4−メトキシフェニル)−4,4′−ジアミノビフェニル;N,N,N′,N′−テトラフェニル−4,4′−ジアミノジフェニルエーテル;4,4′−ビス(ジフェニルアミノ)クオードリフェニル;N,N,N−トリ(p−トリル)アミン;4−(ジ−p−トリルアミノ)−4′−〔4−(ジ−p−トリルアミノ)スチリル〕スチルベン;4−N,N−ジフェニルアミノ−(2−ジフェニルビニル)ベンゼン;3−メトキシ−4′−N,N−ジフェニルアミノスチルベンゼン;N−フェニルカルバゾール、更には、米国特許第5,061,569号明細書に記載されている2個の縮合芳香族環を分子内に有するもの、例えば、4,4′−ビス〔N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ〕ビフェニル(NPD)、特開平4−308688号公報に記載されているトリフェニルアミンユニットが3つスターバースト型に連結された4,4′,4″−トリス〔N−(3−メチルフェニル)−N−フェニルアミノ〕トリフェニルアミン(MTDATA)等が挙げられる。
【0084】
更にこれらの材料を高分子鎖に導入した、またはこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。また、p型−Si、p型−SiC等の無機化合物も正孔注入材料、正孔輸送材料として使用することができる。
【0085】
また、特開平4−297076号公報、特開2000−196140号公報、特開2001−102175号公報、J.Appl.Phys.,95,5773(2004)、特開平11−251067号公報、J.Huang et.al.著文献(Applied Physics Letters 80(2002),p.139)、特表2003−519432号公報に記載されているような、いわゆるp型半導体的性質を有するとされる正孔輸送材料を用いることもできる。
本発明においては、より高効率の発光素子が得られることから、これらの材料を用いることが好ましく、特に上記材料のなかでもガラス転移温度Tgが110℃以上の材料を用いる。
【0086】
正孔輸送層は上記正孔輸送材料を、例えば、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、LB法(ラングミュア−ブロジェット法)、インクジェット法、スプレー法、印刷法、スロット型コータ法等の公知の薄膜形成法により製膜して形成することができる。正孔輸送層の膜厚については、特に制限はないが、通常は5nm〜5μm程度、好ましくは5nm〜200nmである。この正孔輸送層は上記材料の1種または2種以上からなる一層構造であってもよい。
【0087】
《電子輸送層(305)》
電子輸送層とは、電子を輸送する機能を有する材料からなり、広い意味で電子注入層、正孔阻止層も電子輸送層に含まれる。電子輸送層は単層または複数層設けることができる。
【0088】
従来、単層の電子輸送層、及び複数層とする場合は、発光層に対して陰極側に隣接する電子輸送層に用いられる電子輸送材料(正孔阻止材料を兼ねる)としては、陰極より注入された電子を発光層に伝達する機能を有していればよく、その材料としては従来公知の化合物の中から任意のものを選択して用いることができ、例えば、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、カルボジイミド、フレオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタン及びアントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体等が挙げられる。更に、上記オキサジアゾール誘導体において、オキサジアゾール環の酸素原子を硫黄原子に置換したチアジアゾール誘導体、電子吸引基として知られているキノキサリン環を有するキノキサリン誘導体も、電子輸送材料として用いることができる。更にこれらの材料を高分子鎖に導入した、またはこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。
【0089】
また、8−キノリノール誘導体の金属錯体、例えば、トリス(8−キノリノール)アルミニウム(Alq)、トリス(5,7−ジクロロ−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(5,7−ジブロモ−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(2−メチル−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(5−メチル−8−キノリノール)アルミニウム、ビス(8−キノリノール)亜鉛(Znq)等、及びこれらの金属錯体の中心金属がIn、Mg、Cu、Ca、Sn、GaまたはPbに置き替わった金属錯体も、電子輸送材料として用いることができる。
その他、メタルフリーもしくはメタルフタロシアニン、またはそれらの末端がアルキル基やスルホン酸基等で置換されているものも、電子輸送材料として好ましく用いることができる。
また、発光層の材料として例示したジスチリルピラジン誘導体も、電子輸送材料として用いることができるし、正孔注入層、正孔輸送層と同様に、n型−Si、n型−SiC等の無機半導体も電子輸送材料として用いることができる。
特に本実施形態では、電子輸送材料として、上記材料のなかでもガラス転移温度Tgが110℃以上の材料を用いる。
【0090】
電子輸送層は上記電子輸送材料を、例えば、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、LB法(ラングミュア−ブロジェット法)、インクジェット法、スプレー法、印刷法、スロット型コータ法等の公知の薄膜形成法により製膜して形成することができる。電子輸送層の膜厚については特に制限はないが、通常は5nm〜5μm程度、好ましくは5〜200nmである。電子輸送層は上記材料の1種または2種以上からなる一層構造であってもよい。
【0091】
また、不純物をドープしたn型半導体的性質を有するとされる電子輸送材料を用いることもできる。その例としては、特開平4−297076号公報、特開平10−270172号公報、特開2000−196140号公報、特開2001−102175号公報、J.Appl.Phys.,95,5773(2004)などに記載されたものが挙げられる。
【0092】
本発明においては、このようなn型半導体的性質を有するとされる電子輸送材料を用いることもより低消費電力の素子を作製することができるため好ましい。
【0093】
本実施形態にかかる電子輸送層は、主にフェニルピリジン構造を有する化合物から構成され、これにさらにアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属のうちから選択された1種以上の金属またはそれらの金属化合物が含有されている。
当該「金属化合物」には、有機金属錯体、金属−有機塩、金属−無機塩、酸化物、ハロゲン化物が含まれる。
特に有用なのは、Li、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca、Sr、Ba、La、Ce、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ybのいずれかと、これらの有機化合物または無機化合物であり、特に、アルカリ金属やアルカリ土類金属のハロゲン化物を用いることが好ましい。
当該金属およびその金属化合物の電子輸送層の構成材料中に占める含有比率は、0.01〜45体積%であり、好ましくは0.1〜25体積%である。
【0094】
フェニルピリジン構造を有する化合物は好ましくは一般式(1)で表わされる
【0095】
【化14】

【0096】
一般式(1)中、「Ar」はn価のアリール基を表し、「R」、「R’」は各々水素原子または置換基を表し、「n」は1以上6以下の整数を表す。R、R’が複数存在する場合、隣接する置換基同士は互いに縮合して環を形成してもよい。
【0097】
一般式(1)において、R、R’が置換基を表す場合、それらの置換基の具体例としては、アルキル基(例えばメチル基、エチル基、イソプロピル基、ヒドロキシエチル基、メトキシメチル基、トリフルオロメチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロ−n−ブチル基、パーフルオロ−t−ブチル基、t−ブチル基、ベンジル基等)、又脂環式炭化水素の残基、例えばシクロアルキル基(シクロペンチル基、シクロヘキシル基等)及びシクロアルケニル基(例えばシクロヘキセニル基、シクロペンテニル基)等が、更に、アラルキル基(例えばベンジル基、2−フェネチル基等)、アリール基(例えばフェニル基、ナフチル基、p−トリル基、p−クロロフェニル基、フルオレニル基等)、アルコキシ基(例えばエトキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基等)、アリールオキシ基(例えばフェノキシ基等)、アルキルチオ基(メチルチオ、エチルチオ、イソプロピルチオ基等)、アリールチオ基(例えばフェニルチオ基、ナフチルチオ基、p−トリルチオ基、p−クロロフェニルチオ基)、ヒドロキシル基、アミノ基(ジメチルアミノ基、ジアリールアミノ基)、アルケニル基(例えばアリル基、1−エテニル基、1−プロペニル基、1−ブテニル基、1−オクタデセニル基等)、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)等が挙げられる。
これらの基はさらに置換されていてもよく、前記置換基としては、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトロ基、シアノ基、カルボキシル基、スルホ基、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシル基、アシルオキシ基、アミノ基、カルボンアミド基、スルホンアミド基、カルバモイル基、スルファモイル基、ウレイド基、アルコキシカルボニルアミノ基、スルファモイルアミノ基等が挙げられる。R、R’の好ましい例としては水素原子、アルキル基、アリール基等が挙げられ、水素原子であることがより好ましい。
【0098】
一般式(1)において、ベンゼン環とピリジン環の結合はいずれの位置で行われていてもよいが、ピリジンの2位でベンゼン環に結合していることが好ましく、ベンゼン環側はArに結合しているオルト位でピリジン環に結合していることが好ましい。また、R,R’を介して、ベンゼン環とピリジン環が縮環する構造をとることもできる。
【0099】
一般式(1)において、Arで表わされるアリール基としてはフェニル基、ナフチル基、トリフェニレン基、ビフェニル基、ターフェニル基等の芳香族炭化水素基、ピリジル基、ピリミジル基、トリアジニル基、チエニル基、フリル基、カルバゾリル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチエニル基、キノリル基、イソキノリル基、アザカルバゾリル基等の芳香族複素環基が挙げられ、Arで表わされるアリール基は置換基を有していてもよく、更に複数のアリール基が連結した構造を有していてもよい。Arで表わされるアリール基としては、フェニル基、ジベンゾフラニル基、カルバゾリル基、ジベンゾチエニル基、アザカルバゾリル等が挙げられる。
【0100】
一般式(1)において、nは1以上6以下の整数を表わし、アリール基からn個の結合手を介してフェニルピリジン構造と結合する。
nは2または3が好ましく、具体的なArの構造としては、以下の挙げるものまたはその組み合わせが好ましく用いられる(Arはアリール基を表わし、*の位置で一般式(1)のベンゼン環と結合する)。
【0101】
【化15】

【0102】
【化16】

【0103】
【化17】

【0104】
一般式(1)に係る化合物の具体例を示すが、これらに限定されるものではない。
【0105】
【化18】

【0106】
【化19】

【0107】
【化20】

【0108】
【化21】

【0109】
【化22】

【0110】
【化23】

【0111】
【化24】

【0112】
【化25】

【0113】
【化26】

【0114】
【化27】

【0115】
【化28】

【0116】
【化29】

【0117】
【化30】

【0118】
【化31】

【0119】
【化32】

【0120】
【化33】

【0121】
《支持基板(1)》
本発明の有機EL素子に適用する支持基板(以下、基体、基板、基材、支持体等ともいう)としては、ガラス、プラスチック等の種類には特に限定はなく、また、透明であっても不透明であってもよい。支持基板側から光を取り出す場合には、支持基板は透明であることが好ましい。好ましく用いられる透明な支持基板としては、ガラス、石英、透明樹脂フィルムを挙げることができる。特に好ましい支持基板は、有機EL素子にフレキシブル性を与えることが可能な樹脂フィルムである。
【0122】
樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、セロファン、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、セルロースアセテートフタレート(TAC)、セルロースナイトレート等のセルロースエステル類又はそれらの誘導体、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンビニルアルコール、シンジオタクティックポリスチレン、ポリカーボネート、ノルボルネン樹脂、ポリメチルペンテン、ポリエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン類、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトンイミド、ポリアミド、フッ素樹脂、ナイロン、ポリメチルメタクリレート、アクリル或いはポリアリレート類、アートン(商品名JSR社製)或いはアペル(商品名三井化学社製)といったシクロオレフィン系樹脂等を挙げられる。樹脂フィルムの表面には、無機物、有機物の被膜またはその両者のハイブリッド被膜が形成されていてもよく、JIS K 7129−1992に準拠した方法で測定された水蒸気透過度が、0.01g/(m・24h・atm)以下のバリア性フィルムであることが好ましく、更には、JIS K 7126−1992に準拠した方法で測定された酸素透過度が、10−3g/(m・24h)以下、水蒸気透過度が、10−3g/(m・24h)以下の高バリア性フィルムであることが好ましく、前記の水蒸気透過度、酸素透過度がいずれも10−5g/(m・24h)以下であることが、更に好ましい。
【0123】
バリア膜を形成する材料としては、水分や酸素など素子の劣化をもたらすものの浸入を抑制する機能を有する材料であればよく、例えば、酸化珪素、二酸化珪素、窒化珪素などを用いることができる。更に該膜の脆弱性を改良するためにこれら無機層と有機材料からなる層の積層構造を持たせることがより好ましい。無機層と有機層の積層順については特に制限はないが、両者を交互に複数回積層させることが好ましい。
【0124】
バリア膜の形成方法については、特に限定はなく、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、分子線エピタキシー法、クラスタ−イオンビーム法、イオンプレーティング法、プラズマ重合法、大気圧プラズマ重合法、プラズマCVD法、レーザーCVD法、熱CVD法、コーティング法などを用いることができるが、特開2004−68143号公報に記載されているような大気圧プラズマ重合法によるものも好ましい。
【0125】
不透明な支持基板としては、例えば、アルミ、ステンレス等の金属板・フィルムや不透明樹脂基板、セラミック製の基板等が挙げられる。
【0126】
《陽極(2)》
有機EL素子における陽極としては、仕事関数の大きい(4eV以上)金属、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが好ましく用いられる。このような電極物質の具体例としてはAu等の金属、CuI、インジウムチンオキシド(ITO)、SnO、ZnO等の導電性透明材料が挙げられる。また、IDIXO(In−ZnO)等非晶質で透明導電膜を作製可能な材料を用いてもよい。陽極はこれらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により、薄膜を形成させ、フォトリソグラフィー法で所望の形状のパターンを形成してもよく、あるいはパターン精度をあまり必要としない場合は(100μm以上程度)、上記電極物質の蒸着やスパッタリング時に所望の形状のマスクを介してパターンを形成してもよい。あるいは、有機導電性化合物のように塗布可能な物質を用いる場合には、印刷方式、コーティング方式など湿式製膜法を用いることもできる。この陽極より発光を取り出す場合には、透過率を10%より大きくすることが望ましく、また陽極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましい。更に膜厚は材料にもよるが、通常10nm〜1000nm、好ましくは10nm〜200nmの範囲で選ばれる。
【0127】
《陰極(4)》
一方、陰極としては、仕事関数の小さい(4eV以下)金属(電子注入性金属と称する)、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが用いられる。このような電極物質の具体例としては、ナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、マグネシウム、リチウム、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al)混合物、インジウム、リチウム/アルミニウム混合物、希土類金属等が挙げられる。これらの中で、電子注入性及び酸化等に対する耐久性の点から、電子注入性金属とこれより仕事関数の値が大きく安定な金属である第二金属との混合物、例えば、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al)混合物、リチウム/アルミニウム混合物、アルミニウム等が好適である。陰極はこれらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させることにより、作製することができる。また、陰極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましく、膜厚は通常10nm〜5μm、好ましくは50nm〜200nmの範囲で選ばれる。なお、発光した光を透過させるため、有機EL素子の陽極または陰極のいずれか一方が、透明または半透明であれば発光輝度が向上し好都合である。
【0128】
また、陰極に上記金属を1nm〜20nmの膜厚で作製した後に、陽極の説明で挙げた導電性透明材料をその上に作製することで、透明または半透明の陰極を作製することができ、これを応用することで陽極と陰極の両方が透過性を有する素子を作製することができる。
【0129】
《封止(封止部材5)》
本発明の有機EL素子の封止に用いられる封止手段としては、例えば、封止樹脂で被覆する方法や、封止部材と電極および支持基板とを接着剤で接着する方法などを挙げることができる。
【0130】
封止部材は、有機EL素子の表示領域を覆うように配置されておればよく、陽極および陰極の一部(取出し電極)を露出させた状態で有機EL素子を封止している。
封止部材は、凹板状を呈するものであってもよいし平板状を呈するものであってもよく、その透明性や電気絶縁性の有無は特に限定されない。
【0131】
具体的には、封止部材としては、ガラス板、ポリマー板・フィルム、金属板・フィルム等が挙げられる。ガラス板としては、特にソーダ石灰ガラス、バリウム・ストロンチウム含有ガラス、鉛ガラス、アルミノケイ酸ガラス、ホウケイ酸ガラス、バリウムホウケイ酸ガラス、石英等を挙げることができる。また、ポリマー板としては、ポリカーボネート、アクリル、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルサルファイド、ポリサルフォン等を挙げることができる。金属板としては、ステンレス、鉄、銅、アルミニウム、マグネシウム、ニッケル、亜鉛、クロム、チタン、モリブテン、シリコン、ゲルマニウムおよびタンタルからなる群から選ばれる一種以上の金属または合金からなるものが挙げられる。
【0132】
本発明においては、有機EL素子を薄膜化できるということからポリマーフィルム、金属フィルムを好ましく使用することができる。更には、ポリマーフィルムは、酸素透過度10−3g/(m・24h)以下、水蒸気透過度10−3g/(m・24h)以下のものであることが好ましい。また、前記の水蒸気透過度、酸素透過度がいずれも10−5g/(m・24h)以下であることが、更に好ましい。
【0133】
封止部材を凹状に加工するのは、サンドブラスト加工、化学エッチング加工等が使われる。接着剤として具体的には、アクリル酸系オリゴマー、メタクリル酸系オリゴマーの反応性ビニル基を有する光硬化および熱硬化型接着剤、2−シアノアクリル酸エステルなどの湿気硬化型等の接着剤を挙げることができる。また、エポキシ系などの熱および化学硬化型(二液混合)を挙げることができる。また、ホットメルト型のポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィンを挙げることができる。また、カチオン硬化タイプの紫外線硬化型エポキシ樹脂接着剤を挙げることができる。
【0134】
前記接着剤中に乾燥剤を分散させておいてもよい。封止部分への接着剤の塗布は、市販のディスペンサーを使ってもよいし、スクリーン印刷のように印刷してもよい。
【0135】
また、有機層を挟み支持基板と対向する側の電極の外側に、該電極と有機層を被覆し、支持基板と接する形で無機物、有機物の層を形成し封止膜とすることも好適にできる。この場合、該膜を形成する材料としては、水分や酸素など素子の劣化をもたらすものの浸入を抑制する機能を有する材料であればよく、例えば、酸化珪素、二酸化珪素、窒化珪素などを用いることができる。更に該膜の脆弱性を改良するためにこれら無機層と有機材料からなる層の積層構造を持たせることが好ましい。これらの膜の形成方法については、特に限定はなく、例えば真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、分子線エピタキシー法、クラスタ−イオンビーム法、イオンプレーティング法、プラズマ重合法、大気圧プラズマ重合法、プラズマCVD法、レーザーCVD法、熱CVD法、コーティング法などを用いることができる。
【0136】
封止部材と有機EL素子の表示領域との間隙には、気相および液相では、窒素、アルゴン等の不活性気体や、フッ化炭化水素、シリコンオイルのような不活性液体を注入することが好ましい。また、真空とすることも可能である。また、内部に吸湿性化合物を封入することもできる。
【0137】
吸湿性化合物としては、例えば、金属酸化物(例えば、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム等)、硫酸塩(例えば、硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸コバルト等)、金属ハロゲン化物(例えば、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、フッ化セシウム、フッ化タンタル、臭化セリウム、臭化マグネシウム、沃化バリウム、沃化マグネシウム等)、過塩素酸類(例えば過塩素酸バリウム、過塩素酸マグネシウム等)等があげられ、硫酸塩、金属ハロゲン化物および過塩素酸類においては無水塩が好適に用いられる。
【0138】
《保護部材(10)》
有機EL素子の支持基板と対向する封止膜または封止用フィルムの外側には、有機EL素子の取出し電極を保護する目的で、保護部材が設けられている。
特に、封止が前記封止膜により行われている場合には、その機械的強度は必ずしも高くないため、このような保護部材を設けることが好ましい。
保護部材は主に保護基板と接着剤層とから構成され、保護基板上に接着剤層が形成されている。保護部材は接着剤層が封止部材に接着され、封止部材ならびにそこから露出している有機EL素子の陽極および陰極の一部(取出し電極)を被覆し保護している。
保護基板としては、機械的あるいは化学的強度に優れ、具体的には、耐候性、耐熱性、耐水性、耐光性、耐風圧性、耐降雹性、耐薬品性、耐突き刺し性等の諸堅牢性に優れた樹脂シートが使用される。このような樹脂シートとしては、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリ塩化ビニル系樹脂、フッ素系樹脂、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、各種のナイロン等のポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリアリールフタレート系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アセタール系樹脂、セルロース系樹脂等、各種の樹脂シートを使用することができる。保護基板としては、樹脂シートに代えて、ガラスも使用できる。
接着剤層を構成する樹脂としては、硬化プロセスでかかる加熱温度が110℃以上の熱硬化性樹脂が使用され、シート状に加工したときに柔軟性を示すものが好ましい。このような樹脂としては、例えば、EVA(エチレン−酢酸ビニル共重合体)系の樹脂、PVB(ポリビニルブチラール)系の樹脂、シリコーン系の樹脂、ポリエチレン系の樹脂等が例示される。これらの樹脂は、必要とされる性能に応じて、1種又は2種以上を混合して使用することができる。
【0139】
《有機ELモジュールの製造方法》
はじめに、有機EL素子の作製方法の一例として、陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/陰極からなる有機EL素子の作製法について説明する。
【0140】
図2(a)に示すとおり、まず、適当な支持基板1上に所望の電極物質、例えば、陽極用物質からなる薄膜を1μm以下、好ましくは10nm〜200nmの膜厚になるように、蒸着やスパッタリング等の方法により形成させ、陽極2を作製する。
【0141】
次に、この上に有機EL素子材料である正孔注入層301、正孔輸送層302、発光層303、正孔阻止層304、電子輸送層305の有機化合物層3を形成する。
かかる場合、少なくとも正孔輸送層302の正孔輸送材料、発光層303のホスト化合物および電子輸送層304の電子輸送材料のすべての材料については、ガラス転移温度が110℃以上の材料を選択する。
有機化合物層3の形成方法としては、前記の如く蒸着法、ウェットプロセス(スピンコート法、キャスト法、インクジェット法、印刷法、LB法(ラングミュア−ブロジェット法)、スプレー法、印刷法、スロット型コータ法)等があるが、均質な膜が得られやすく、且つピンホールが生成しにくい等の点から、真空蒸着法、スピンコート法、インクジェット法、印刷法、スロット型コータ法が特に好ましい。
【0142】
更に層毎に異なる形成法(製膜法)を適用してもよい。
製膜に蒸着法を採用する場合、その蒸着条件は使用する化合物の種類等により異なるが、一般にボート加熱温度50℃〜450℃、真空度10−6Pa〜10−2Pa、蒸着速度0.01nm/秒〜50nm/秒、基板温度−50℃〜300℃、膜厚0.1nm〜5μm、好ましくは5nm〜200nmの範囲で適宜選ぶことが望ましい。
【0143】
その後、図2(b)に示すとおり、有機化合物層3上に陰極用物質からなる薄膜を、1μm以下好ましくは50nm〜200nmの範囲の膜厚になるように、例えば、蒸着やスパッタリング等の方法により形成させ、陰極4を設けることにより所望の有機EL素子が得られる。
【0144】
この有機EL素子の作製は、一回の真空引きで一貫して正孔注入層301から陰極4まで作製するのが好ましいが、途中で取り出して異なる製膜法を施しても構わない。その際、作業を乾燥不活性ガス雰囲気下で行う等の配慮が必要となる。
【0145】
また作製順序を逆にして、陰極4、電子輸送層305、正孔阻止層304、発光層303、正孔輸送層302、正孔注入層301、陽極2の順に作製することも可能である。
【0146】
その後、図2(c)に示すとおり、有機EL素子の陽極2および陰極4に対し取出し電極20,21をそれぞれ接続し、有機EL素子を、陽極2および陰極4の一部(取出し電極20,21)を露出させた状態で封止部材5(封止樹脂)により封止する。
その後、図2(d)に示すとおり、有機EL素子の封止体とそこから露出した有機EL素子の陽極2および陰極4の一部(取出し電極20,21)とを、保護部材10で被覆し、保護部材10の重複部分を110℃以上の温度で加熱圧着する。かかる場合、2枚の保護部材10を重ね合わせて有機EL素子の封止体などを被覆しその側縁部同士を加熱圧着してもよいし、1枚の保護部材10を折り畳んで有機EL素子の封止体などを被覆しその側縁部(特に開放端)同士を加熱圧着してもよい。
以上の処理により、有機EL素子を封止・保護した有機ELモジュール100が製造される。
有機ELモジュール100は、有機EL素子を複数個並べて作製される大型パネルにも適用できる。広告や標識として屋外でも使用されるような大型パネルの場合、特に高耐久性が必要とされるため、有機EL素子を複数個並べた後の電極(取出し電極20,21)の露出部分を、保護部材10を用いて保護することが特に好ましい。
【0147】
《表示装置》
本発明の有機EL素子または有機ELモジュールを適用した表示装置について説明する。
本発明の有機EL素子または有機ELモジュールは、多色または白色の表示装置に用いられる。
多色または白色の表示装置の場合は、発光層形成時のみシャドーマスクを設け、一面に蒸着法、キャスト法、スピンコート法、インクジェット法、印刷法、スロット型コータ法等で膜を形成できる。発光層のみパターニングを行う場合、その方法に限定はないが、好ましくは蒸着法、インクジェット法、印刷法である。蒸着法を用いる場合においてはシャドーマスクを用いたパターニングが好ましい。
【0148】
有機EL素子の製造では、作製順序を上記と逆にして陰極、電子輸送層、正孔阻止層、発光層、正孔輸送層、陽極の順に作製することも可能である。
このようにして得られた多色または白色の表示装置に直流電圧を印加する場合には、陽極を+、陰極を−の極性として電圧2〜40V程度を印加すると、発光が観測できる。
【0149】
また、逆の極性で電圧を印加しても電流は流れずに発光は全く生じない。
更に、交流電圧を印加する場合には、陽極が+、陰極が−の状態になったときのみ発光する。なお、印加する交流の波形は任意でよい。
【0150】
《照明装置》
本発明の有機EL素子または有機ELモジュールを適用した照明装置について説明する。
本発明の有機EL素子または有機ELモジュールは、照明用や露光光源のような一種のランプとして使用してもよいし、画像を投影するタイプのプロジェクション装置や、静止画像や動画像を直接視認するタイプの表示装置(ディスプレイ)として使用してもよい。
動画再生用の表示装置として使用する場合の駆動方式は、単純マトリクス(パッシブマトリクス)方式でもアクティブマトリクス方式でもどちらでもよい。
【0151】
本発明に用いられる白色有機EL素子または有機ELモジュールにおいては、必要に応じ製膜時にメタルマスクやインクジェットプリンティング法等でパターニングを施してもよい。パターニングする場合は、電極のみをパターニングしてもよいし、電極と発光層をパターニングしてもよいし、素子全層をパターニングしてもよい。
【0152】
発光層に用いる発光ドーパントとしては特に制限はなく、例えば、液晶表示素子におけるバックライトであれば、CF(カラーフィルタ)特性に対応した波長範囲に適合するように、本発明に係る白金錯体、また公知の発光ドーパントの中から任意のものを選択して組み合わせて、また本発明係る光取り出し及び/または集光シートと組み合わせて、白色化すればよい。
【0153】
このように、本発明の白色の有機EL素子または有機ELモジュールは、CF(カラーフィルタ)と組み合わせて、また、CF(カラーフィルタ)パターンに合わせ素子及び駆動トランジスタ回路を配置することで、有機エレクトロルミネッセンス素子から取り出される白色光をバックライトとして、青色フィルタ、緑色フィルタ、赤色フィルタを介して青色光、緑色光、赤色光を得ることで、低駆動電圧で長寿命のフルカラーの有機エレクトロルミネッセンスディスプレイができ、好ましい。
【0154】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0155】
《サンプル(有機EL素子)の作製》
(1)陽極の形成および支持基板の洗浄
はじめに、陽極として、縦横30mm×30mm,厚さ0.7mmのガラス基板上に厚さ110nmとなる条件でITOをスパッタ法で成膜してパターニングを行い、ITO層から成るアノード(陽極)を形成した。
次いで、ITO層を設けた透明支持基板を、イソプロピルアルコールで超音波洗浄し、乾燥窒素ガスで乾燥させ、UVオゾン洗浄を5分間行った。
【0156】
(2)サンプル101〜120の作製
(2.1)サンプル101の作製
洗浄後の透明支持基板上に、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)−ポリスチレンスルホネート(PEDOT/PSS、ガラス転移点(Tg)=190℃、Bayer製、Baytron P Al 4083)を純水で70%に希釈した溶液を、3000rpm、30秒でスピンコート法により製膜した後、130℃にて1時間乾燥させ、膜厚30nmの正孔注入層を設けた。
【0157】
正孔注入層を設けた後、この透明支持基板を市販の真空蒸着装置の基板ホルダーに固定した。
真空蒸着装置内の蒸着用るつぼの各々に、各層の構成材料を各々素子作製に最適の量、充填した。蒸着用るつぼはモリブデン製またはタングステン製の抵抗加熱用材料で作製されたものを用いた。
【0158】
次いで、真空度1×10−4Paまで減圧した後、HT−1(ガラス転移点(Tg)=148℃)を厚さ70nmになるよう蒸着し正孔輸送層を形成した。
【0159】
【化34】

【0160】
次いで、化合物2(Tg=189℃)が95%、化合物3が5%となるように蒸着し、厚さ10nmの蛍光発光層を形成した。
【0161】
【化35】

【0162】
【化36】

【0163】
次いで、H−1(Tg=129℃)が86%、化合物5が12質量%、化合物6が2質量%となるように蒸着し、厚さ5nmのリン光発光層1を形成した。
【0164】
【化37】

【0165】
【化38】

【0166】
【化39】

【0167】
次いで、H−1(Tg=129℃)が88質量%、化合物5が12質量%となるように蒸着し、厚さ10nmのリン光発光層2を形成した。
さらに化合物E−1(Tg=147℃)とフッ化カリウムとを50質量%の濃度になるように共蒸着し、厚さ40nmの電子輸送層を形成した。
次に、アルミニウムを110nm蒸着して陰極を形成してその非発光面をガラスケースで覆って封止し、有機EL素子(サンプル101)を得た。
【0168】
(2.2)サンプル102の作製
サンプル101の作製において、リン光発光層2の形成後に、H−1(Tg=129℃)を蒸着し、厚さ10nmの正孔阻止層を形成した。
その他はサンプル101の作製と同様にして作製した。
【0169】
(2.3)サンプル103,104の作製
サンプル102の作製において、正孔輸送材料をHT−2(Tg=110℃)とHT−3(Tg=140℃)とに変更した。
それ以外はサンプル102の作製と同様にしてサンプル103,104を作製した。
【0170】
(2.4)サンプル105〜107の作製
サンプル102の作製において、リン光ホスト材料をH−2(Tg=114℃)、H−3(Tg=131℃)、H−4(Tg=141℃)にそれぞれ変更した。
それ以外はサンプル102の作製と同様にしてサンプル105〜107を作製した。
【0171】
(2.5)サンプル108,109の作製
サンプル102の作製において、電子輸送層の構成材料をE−2、E−3に変更した。
それ以外はサンプル102の作製と同様にしてサンプル108,109を作製した。
【0172】
(2.6)サンプル110の作製
サンプル102の作製において、電子輸送層の構成材料をH−4に、またフッ化カリウムをフッ化リチウムに変更した。
それ以外はサンプル102の作製と同様にしてサンプル110を作製した。
【0173】
(2.7)サンプル111の作製
サンプル102の作製において、電子輸送層の作製後に電子注入層としてフッ化カリウムを2nm蒸着した。
それ以外はサンプル102の作製と同様にしてサンプル111を得た。
【0174】
(2.8)サンプル112の作製
サンプル108の作製において、電子輸送層の作製後に電子注入層としてフッ化カリウムを1nm蒸着した。
それ以外はサンプル108の作製と同様にしてサンプル112を得た。
【0175】
(2.9)サンプル113の作製
サンプル108の作製において、リン光発光層2の形成後に電子輸送層を形成し、電子輸送層の作製後に電子注入層としてフッ化カリウムを2nm蒸着した。
それ以外はサンプル108の作製と同様にしてサンプル112を得た。
【0176】
(2.10)サンプル114の作製
サンプル102の作製において、電子輸送層にフッ化リチウムを共蒸着したのち、電子注入層としてフッ化リチウムを1nm形成した。
それ以外はサンプル102の作製と同様にしてサンプル114を得た。
【0177】
(2.11)サンプル115の作製
サンプル110の作製において、電子注入層にフッ化リチウムを1nm形成した。
それ以外はサンプル110の作製と同様にしてサンプル115を得た。
【0178】
(2.12)サンプル116の作製
サンプル102の作製において、電子輸送層の構成材料をE−4(Tg=104℃)に変更した。
それ以外はサンプル102の作製と同様にしてサンプル116を作製した。
【0179】
(2.13)サンプル117の作製
サンプル102の作製において、正孔輸送材料をα−NPD(Tg=95℃)に変更した。
それ以外はサンプル102の作製と同様にしてサンプル117を作製した。
【0180】
(2.14)サンプル118の作製
サンプル102の作製において、リン光発光層1,2のホストをH−5(Tg=102℃)に変更した。
それ以外はサンプル102の作製と同様にしてサンプル118を作製した。
【0181】
(2.15)サンプル119の作製
サンプル102の作製において、電子輸送材料をE−1のみに変更し、さらに電子注入層としてフッ化カリウムを2nm形成した。
それ以外はサンプル102と同様にしてサンプル119を作製した。
【0182】
(2.16)サンプル120の作製
サンプル119の作製において、電子輸送材料をBalq(Tg=99℃)に変更し、さらに電子注入層としてフッ化リチウムを1nm形成した。
それ以外はサンプル119と同様にしてサンプル120を作製した。
【0183】
【化40】

【0184】
【化41】

【0185】
【化42】

【0186】
【表1】

【0187】
【表2】

【0188】
《サンプルの評価》
(1)外部取り出し発光効率の算出
5mA/cmの通電量における外部取り出し発光量子効率を求めた。
外部取り出し発光量子効率の測定には、分光放射輝度計CS-1000(コニカミノルタセンシング社製)を用いた。各有機EL素子の正面輝度および輝度確度依存性を測定することにより、基板前面から外部に放射される光量を測定し、外部取り出し発光量子効率を算出した。
算出結果を表3および表4に示す。
表3および表4中、発光効率の値はサンプル101を100とした場合の相対値で表わしている。
【0189】
(2)加熱処理に伴う性能評価
各サンプルを、表3および表4に示す加熱条件(100℃,110℃,150℃)でそれぞれ1時間加熱し、加熱前後での性能(駆動電圧および発光輝度)の変動量を算出した。
駆動電圧および発光輝度の測定には上記と同様に分光放射輝度計CS-1000(コニカミノルタセンシング社製)を用いた。
評価結果を表3および表4に示す。
表3および表4中、「電圧変動」は加熱前の駆動電圧を100とした場合の相対値を示している。「輝度変化率」は加熱前後での輝度残存率(%)を示している。
なお、加熱条件は、有機EL素子を保護部材で加熱圧着する際の条件を想定して温度と時間とを設定している。
【0190】
【表3】

【0191】
【表4】

【0192】
(3)まとめ
表3および表4に示すとおり、サンプル101〜115とサンプル116〜120とを比較すると、サンプル101〜115は発光効率が向上するかまたは発光効率の低下が抑制されるとともに、加熱前後で性能変動が抑えられ、特に110℃以上の加熱温度条件においてその効果が顕著に現れている。
以上から、110℃以上の高温処理に対し有機EL素子の特性(性能)の劣化を抑制する上では、有機化合物層の構成材料としてガラス転移点110℃以上の材料を選択し、かつ、電子輸送層に一定の金属化合物を含有させることが有用であることがわかる。
【実施例2】
【0193】
《サンプル(有機ELモジュール)の作製》
(1)保護部材の準備
PETフィルムに対しエチレン系ポリマー樹脂のニュクレル(三井デュポン社製、架橋温度100℃)を接着して「保護部材A」を作製した。
PETフィルムに対しEVA系樹脂のCIKcap(シーアイ化成社製、架橋温度150℃)を接着して「保護部材B」を作製した。
【0194】
(2)サンプル101〜120の作製
実施例1の各有機EL素子101〜120を、保護部材A,Bで被覆して加熱圧着し、その後加熱硬化させ、各有機EL素子101〜120に対し2個ずつ有機ELモジュールを作製した。
保護部材Aによる保護では、90℃で30分間加熱圧着し、その後100℃のオーブンで30分間加熱硬化させた。
保護部材Bによる保護では、130℃で2分間加熱圧着し、その後150℃のオーブンで30分間加熱硬化させた。
【0195】
《サンプルの評価》
各サンプルを、温度85℃,湿度85%の高温・高湿条件で1000時間保存し、保存前後での性能(駆動電圧および発光輝度)の変動量を算出した。
当該変動量の算出は実施例1と同様の手法・基準でおこなった。
算出結果を表5および表6に示す。
併せて、温度85℃,湿度85%の高温・高湿条件で1000時間保存した後のサンプルを観察したところ、保護部材A(エチレン系ポリマー樹脂を使用)で被覆したサンプルでは電極部分に腐食が見られたが、保護部材B(EVA系樹脂を使用)で被覆したサンプルでは電極部分に腐食は見られなかった。
【0196】
【表5】

【0197】
【表6】

【0198】
表5および表6に示すとおり、サンプル101〜115のうち保護部材Bで被覆したサンプルと、それ以外のサンプルとを比較すると、前者のサンプルは保存前後で性能変動が抑えられている。
そのため、高温・高湿処理に対し有機EL素子の特性(性能)の劣化を抑制する上では、保護部材として架橋温度が110℃以上の熱硬化性樹脂(接着剤)を使用することおよび110℃以上の温度で加熱圧着・加熱硬化させることが有用であることがわかる。
さらに、前者のサンプルでは、電極部分の腐食が抑制されており、本発明の有機ELモジュールは、小型パネル(有機EL素子)を複数個並べて作製する大型パネル等には非常に有用であることがわかる。
【符号の説明】
【0199】
1 支持基板
2 陽極
3 有機化合物層
4 陰極
5 封止部材(封止樹脂)
10 保護部材
11 保護基板
12 接着剤層
20,21 取出し電極
100 有機ELモジュール
301 正孔注入層
302 正孔輸送層
303 発光層
304 正孔阻止層
305 電子輸送層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基板上に陽極、有機化合物層および陰極が形成された有機EL素子において、
前記有機化合物層が少なくとも正孔輸送層、発光層および電子輸送層を有し、
前記正孔輸送層が正孔輸送材料から構成され、
前記発光層がホスト化合物と発光ドーパントとから構成され、
前記電子輸送層が電子輸送材料から構成され、
前記発光ドーパントを除く前記正孔輸送材料、前記ホスト化合物および前記電子輸送材料のすべてのガラス転移点Tgが110℃以上であり、かつ、前記電子輸送層にはアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種類以上の金属またはそれらの金属化合物が含有されていることを特徴とする有機EL素子。
【請求項2】
請求項1に記載の有機EL素子において、
前記電子輸送材料がフェニルピリジン基を有することを特徴とする有機EL素子。
【請求項3】
請求項1または2に記載の有機EL素子において、
前記金属化合物がアルカリ金属フッ化物であることを特徴とする有機EL素子。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の有機EL素子において、
前記発光層と前記電子輸送層との間には、正孔阻止層が形成されていることを特徴とする有機EL素子。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の有機EL素子において、
前記電子輸送層と前記陰極との間には、電子注入層が形成されていることを特徴とする有機EL素子。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の有機EL素子と、
前記有機EL素子を、陽極および陰極の一部を露出させた状態で封止する封止部材と、
前記封止部材ならびにそこから露出した陽極および陰極の一部を保護する保護部材であって、接着時にかかる温度が110℃以上の熱硬化性樹脂製の前記保護部材と、
を備えることを特徴とする有機ELモジュール。
【請求項7】
請求項6に記載の有機ELモジュールにおいて、
前記保護部材が少なくとも接着剤層と保護基板とから構成されていることを特徴とする有機ELモジュール。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の有機EL素子を形成する工程と、
前記有機EL素子を、陽極および陰極の一部を露出させた状態で封止する工程と、
架橋温度が110℃以上の熱硬化性樹脂製の保護部材で、前記有機EL素子の封止体ならびにそこから露出した陽極および陰極の一部を被覆し、前記保護部材の部分を110℃以上の温度で加熱する工程と、
を備えることを特徴とする有機ELモジュールの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−110262(P2013−110262A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−253867(P2011−253867)
【出願日】平成23年11月21日(2011.11.21)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】