説明

有機EL素子の製造方法、有機EL素子、発光装置

【課題】撥水撥液性表面を有する膜は、塗膜性が悪く積層が困難であった。撥水撥液性表
面を有する膜の表面を改質し、その上に成膜する膜を安定で密着性の良い薄膜を形成する
方法を提供する。
【解決手段】その方法は、H2Oイオン照射による撥水撥液性表面を有する膜の表面の親
水化に改質し、その後シランカップリング処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL素子の製造方法、並びに、有機薄膜を用いて製造される有機EL素
子、及び発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、陽極の上に正孔注入輸送層と発光層を積層し、その上に陰極を形成した有機発光
素子を、画像表示装置やプリンタ光源のラインヘッド等に応用する研究開発が活発に進め
られている。
有機EL素子の電荷注入輸送性材料でNafionを用いた系の材料がある。例えば、
特許文献1ではpoly(dioxythiophene)(PEDOT)とNafionの混合物より少なくと
もなる分散液を用いて、正孔注入輸送性層を形成し、その上に発光層と陰極を形成してい
る。このデバイスの発光特性は従来のPEDOT/PSSに比べ優れた発光効率と寿命が
得られている。
【0003】
このようにNafionを用いた系は有機EL素子の正孔注入層において優れた特性を得られ
るが、その構造はテフロン(登録商標)に類似した構造であるため、表面自由エネルギー
が非常に低いために表面は撥水撥液性を示し、その膜上の塗れ性において問題がある。特
許文献2では、poly(dioxythiophene)(PEDOT)等とNafionの混合物より少なく
ともなる分散液より成膜した膜の、膜上の塗れ性を改善するために、プラズマによる表面
改質や次に成膜する溶液の溶媒をフッ素系溶媒などに変える等して、塗れ性を改善してい
る。
【0004】
プラズマによる表面改質は、物理的には、被改質材料表面がプラズマ中に存在するイオ
ンによりエッチングされて清浄化されるとともに、その清浄化過程で同材料表面に微小凹
凸が形成され、結果として、堆積される薄膜の密着面積が増大され、付着力の向上が図ら
れるようになる。もっともこの方法では、薄膜の付着力発現の元となる原子間結合がファ
ンデルワールス力(結合エネルギー;約0.leV)であるので、その付着力増大効果は
小さい。
【0005】
また、酸素プラズマによるテフロン(登録商標)の化学的改質効果としては、その表面
層が酸化によって親水化するとの報告がなされている。
【0006】
また、アルゴンプラズマ処理によってテフロン(登録商標)表面の親水性が向上し、結
果として、薄膜の付着力が増大したとの報告もある。この付着力は基本的に、表面酸素原
子に誘起される極性に依存すると考えられる。しかしこの場合、酸素原子と薄膜原子との
電子の共有はあり得ない。したがってこの方法では、化学的にも、結合力の増大効果は小
さいと考えられる。またさらに、プラズマの形状は、プラズマを発生させる電極形状及び
位置関係に左右されるものの、球形や楕円体が一般的である。そして、該プラズマ形状を
厳密にコントロールすることは困難である。このため、被改質材料が微小であったり複雑
な形状を有している場合には、プラズマがその材料形状に追従できず、上述した溶液中処
理の場合と同様、処理むらが発生する恐れもある。
【0007】
またフッ素系溶媒については、従来の発光材料等有機EL材料の溶解性が悪く、新たに
材料設計をする必要がある。
【0008】
特許文献3では、H2Oイオン照射により、テフロン(登録商標)膜を酸素よりも親水
化効果(分子極性)の大きい水酸(OH)基を被改質材料の表面に選択的に吸着させ、こ
れによってメッキや蒸着等によって薄膜材料が強固に付着させる方法も提案されているが
、親油性に対しては狙ってない。
【0009】
【特許文献1】米国特許出願公開2004/0102577号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開2005/0062021号明細書
【特許文献3】特開平9−3220号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで本願では、poly(dioxythiophene)(PEDOT)とNafionの混合物より少な
くともなる膜の表面を位置選択的に親油化させた部位を作製する方法を提供することを目
的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の有機EL素子の製造方法は、基板上に、撥水撥液
性の表面を有する有機物質より少なくともなる有機薄膜を形成する工程と、前記有機薄膜
を、親水基を含むガス、若しくは水蒸気雰囲気中に設置して、前記有機薄膜の表面を親水
性に改質する親水化工程と、前記親水性に改質された有機薄膜表面にシランカップリング
剤を成膜するシランカップリング処理を行うことで、前記有機薄膜表面を親油性に改質す
る親油化工程と、を含むことを特徴とする。また、本発明の有機EL素子の製造方法は、
前記親水化工程では、前記有機薄膜を、親水基を含むガス、若しくは水蒸気雰囲気中に設
置して、前記有機薄膜表面をH2Oイオン照射することにより、前記有機薄膜の表面を親
水性に改質することを特徴とする。
また、前記シランカップリング剤の加水分解性基としてアルコキシ、アシロキシ、アミ
ン又は塩素等を用いることを特徴とする。さらに、前記有機薄膜は、有機EL素子の電荷
注入層として機能することを特徴とする。
また、前記有機薄膜は、有機EL素子の電荷輸送層として機能することを特徴とする。
本発明の有機EL素子は、上記の有機EL素子の製造方法を用いて製造されることを特
徴とする。
これによりpoly(dioxythiophene)(PEDOT)とNafionの混合物より少なくとも
なる膜の表面の親油性が強まり積層が容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、添付された図面に基づいて本発明による薄膜形成物を挿入した有機EL素子の実
施形態を詳細に説明する。
【実施例1】
【0013】
図1は、本実施形態の有機EL素子の断面模式図である。図1において、有機EL素子
1は、基板2と、基板2の一方の面側に設けられた陽極(第1電極層)4及び陰極(第2
電極層)7と、これら陽極4及び陰極7間に狭持された有機EL層(機能層)3とを備え
て構成されている。また、陽極4と陰極7とには、素子制御部conが接続され、陽極4
、陰極7に任意の電圧を印加可能になっている。有機EL層3は、正孔注入/輸送層5と
、発光層8とを主体とから構成されている。
【0014】
ここで、図1に示す有機EL素子1は、発光層8からの出力光を基板2側から装置外部
に取り出す形態であり、基板2が光を透過可能な透明あるいは半透明材料から構成されて
いる。そのような材料としては、例えば、透明なガラス、石英、サファイア、あるいはポ
リエステル、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリエーテルケトンなどの透明な合
成樹脂などが挙げられる。特に、基板2の形成材料としては、安価なソーダガラスが好適
に用いられる。なお、本実施形態では図示を省略したが、基板2上には、配線や薄膜トラ
ンジスタ等の素子を形成することができる。
【0015】
また、陽極4についても同様に、光を透過可能な透明あるいは半透明の導電材料から構
成されている。具体的には、インジウム錫酸化物(Indium Tin Oxide:ITO)より少な
くともなるものを採用している。
【0016】
一方、基板2とは反対の側から発光光を取り出す形態の場合には、基板2を構成する材
料は不透明であってもよく、その場合、アルミナ等のセラミック、ステンレス等の金属シ
ートに表面酸化などの絶縁処理を施したもの、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂などを用いる
ことができる。この場合、陽極4は遮光性や光反射性の材料で形成することができる。
【0017】
正孔注入/輸送層5は、発光層8の発光効率、寿命などの素子特性を向上させる機能を
提供する。つまり、正孔注入/輸送層5を設けることで、発光層8内を移動する電子が効
率よくブロッキングされ、発光層8内での正孔と電子との再結合確率を高める効果を得ら
れる。ここで、正孔注入/輸送層を形成するための正孔注入/輸送材料(機能材料)とし
ては、ポリエチレンジオキシチオフェン(化学式1)とナフィオン(化学式2)との混合
物(PEDOT/Nafion)を用いた。
【0018】
【化1】

【0019】
【化2】

【0020】
ここで、正孔注入/輸送層5には、H2Oイオン照射を膜の表面に施し親水化に改質し
た。その後シランカップリング処理を行った。これにより親油性が強まり積層が容易とな
る。
【0021】
2Oイオン照射は、図2に示す構成である。上記の基板9を真空チャンバー10内に
配置し、3*10-4Pa程度まで真空ポンプ11で排気した。その後切り替えバルブ12
にて、水蒸気13を真空チャンバー内に4*10-2Paまで導入し、カウマン型のイオン
源14を用いてイオン化し、加速電圧300Vにて試料表面に30秒照射した。単位体積
当りのイオン密度は、0.6*1016ions/cm2*sであった。排気装置15に
て排気を行い基板9を取り出した。
【0022】
シランカップリング処理は、スピンコート法にて基板9上にシランカップリング剤(ビ
ニルトリメトキシシラン(化学式3)を水/メタノール混合溶媒に1%濃度溶解させた溶
液)を成膜し、加熱乾燥を行った。
【0023】
【化3】

【0024】
シランカップリング剤は、水と接すると加水分解してシラノール基を生成する。
R−Si(OR')3+3H2O→R−Si(OH)3+3R'OH(R':メチル基ま
たはエチル基)
シラノール基は自己縮合によって高分子化すると同時に、親水化処理した膜と酸塩基反
応で化学結合する。一方官能基Rは、塗料成分と化学結合又は架橋して強固に結合する。
【0025】
2Oイオン照射による親水化とその上に施したシランカップリング処理を確認するた
め正孔注入/輸送層5上の接触角を水とトルエンにて測定した。結果を図3に示す。正孔
注入/輸送層5は、親油化できていることがわかった。これにより容易に平滑な膜を作製
できる。
【0026】
発光層8に用いる材料としてポリ(9,9−ジアルキルフルオレン)(化学式4)の共
役系高分子を用いトルエンに溶解させた。この溶液を基板9上にスピンコート法にて発光
層8を形成した。この発光材料以外にも有機溶剤に溶解する材料であれば本効果は有効で
ある。
【0027】
【化4】

【0028】
続いて、形成した発光層8上にアルミニウムを成膜して、陰極7を得る。その後、素子
制御部con等との所定の配線形成を行って、図1に示す有機EL素子1が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本実施内容のNafionの薄膜表面の改質以外にも、フッ素系樹脂でも適用できる。
本実施内容を施した後、任意の部位に蒸着やメッキによって薄膜を堆積させ、装飾を施し
たり、或いは表面熱伝導性や光反射性、表面導電性、等々を付与したりすることが親油化
処理を施すことによりできる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】この発明にかかる第1の実施形態の有機EL素子を示す断面模式図。
【図2】この発明にかかる第1の実施形態の表面改質装置の構成略図。
【図3】この発明にかかる第1の実施形態の液体との接触角結果の図。
【符号の説明】
【0031】
1…有機EL素子(発光素子(有機半導体素子))、2…基板、3…有機EL層(機能
層)、4…陽極(第1電極層)、5…正孔注入/輸送層、7…陰極(第2電極層)、8…
発光層、9…基板、10…真空チャンバー、11…真空ポンプ、12…切り替えバルブ、
13…水蒸気、14…カウマン型のイオン源、15…排気装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、撥水撥液性の表面を有する有機物質より少なくともなる有機薄膜を形成する
工程と、
前記有機薄膜を、親水基を含むガス、若しくは水蒸気雰囲気中に設置して、前記有機薄
膜の表面を親水性に改質する親水化工程と、
前記親水性に改質された有機薄膜の表面にシランカップリング剤を成膜するシランカッ
プリング処理を行うことで、前記有機薄膜の表面を親油性に改質する親油化工程と、を含
むことを特徴とする有機EL素子の製造方法。
【請求項2】
前記親水化工程では、前記有機薄膜を、親水基を含むガス、若しくは水蒸気雰囲気中に
設置して、前記有機薄膜の表面をH2Oイオン照射することにより、前記有機薄膜の表面
を親水性に改質することを特徴とする請求項1に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項3】
前記シランカップリング剤の加水分解性基としてアルコキシ、アシロキシ、アミン又は
塩素の少なくともひとつを用いることを特徴とする請求項1または2に記載の有機EL素
子の製造方法。
【請求項4】
前記有機薄膜は、有機EL素子の電荷注入層として機能することを特徴とする請求項1
または2に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項5】
前記有機薄膜は、有機EL素子の電荷輸送層として機能することを特徴とする請求項1
または2に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の有機EL素子の製造方法により製造されたこと
を特徴とする有機EL素子。
【請求項7】
請求項6に記載の有機EL素子を用いて形成されたことを特徴とする発光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−60025(P2008−60025A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−238608(P2006−238608)
【出願日】平成18年9月4日(2006.9.4)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】