説明

有機EL素子の製造方法及び製造装置

【課題】基材と蒸着源との距離を短くしつつ、発光色の変動が抑制された、高品質な有機EL素子を効率的に製造し得る有機EL素子の製造方法及び製造装置を提供する。
【解決手段】気化された有機層形成材料をノズルから吐出させることにより、該ノズルに対して相対的に移動する基材上に有機層を形成する蒸着工程を含み、前記有機層からなり基材移動方向に対して垂直な方向の幅A(mm)を有する発光領域を形成する有機EL素子の製造方法であって、前記ノズルの開口部における前記基材移動方向と垂直方向の長さをW(mm)、前記開口部と前記基材との距離をh(mm)とするとき、W≧A+2×h(但し、h≦5mmである。)を満たすようにして前記蒸着工程を行なうことを特徴とする有機EL素子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材に形成された電極層上に有機層を有し、該有機層から光を放出する有機EL素子の製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、次世代の低消費電力の発光表示装置に用いられる素子として有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子が注目されている。有機EL素子は、基本的には、有機発光材料から成る発光層を含む少なくとも1層の有機層と一対の電極とを有している。かかる有機EL素子は、有機発光材料に由来して多彩な色の発光が得られ、また、自発光素子であるため、テレビジョン(TV)等のディスプレイ用途として注目されている。
【0003】
有機EL素子は、発光層を含む少なくとも1層の有機層が、互いに反対電極を有する2つの電極層に挟持されて構成されており(サンドイッチ構造)、各有機層は、それぞれ数nm〜数十nmの有機膜から構成されている。電極層で挟まれた有機層は、基材上に支持されるようになっており、基材上に陽極層、有機層、陰極層の順に積層されることによって有機EL素子が形成されるようになっている。また、有機層が複数の場合、陽極層上に各有機層が順次積層されるようになっている。
【0004】
このような有機EL素子の製造方法において、基材に形成された陽極層上に各有機層を成膜(形成)する方法としては、一般的に真空蒸着法や塗布法が知られているが、これらのうち、有機層を形成するための材料(有機層形成材料)の純度を高めることができ、高寿命が得られ易いことから、真空蒸着法が主として用いられている。
【0005】
上記した真空蒸着法では、蒸着装置の真空チャンバー内において基材と対向する位置に設けられた蒸着源を用いて蒸着を行うことで有機層を形成しており、このために有機層に対応する蒸着源が設けられている。具体的には、かかる蒸着源に配置された加熱部で有機層形成材料を加熱してこれを気化させ、気化された有機層形成材料(気化材料)を上記蒸着源に設けられたノズルから吐出して、基材に形成された陽極層上に付着させることにより、該陽極層上に有機層形成材料を蒸着する。
【0006】
かかる真空蒸着法においては、いわゆるバッチプロセスやロールプロセスが採用されている。バッチプロセスとは、陽極層が形成された基材1枚ごとに陽極層上に有機層を蒸着するプロセスである。また、ロールプロセスとは、陽極層が形成されロール状に巻き取られた帯状の基材を連続的に(いわゆるロールトゥロールで)繰り出し、繰り出された基材を回転駆動するキャンロールの表面で支持してその回転と共に移動させつつ、陽極層上に連続的に各有機層を蒸着し、各有機層が蒸着された基材をロール状に巻き取るプロセスである。これらのうち、低コスト化を図る観点から、ロールプロセスを用いて有機EL素子を製造することが望ましい。
【0007】
しかし、このように真空蒸着法においてロールプロセスを採用した場合には、発光色が所望の発光色から変動(バラツキ)が生じてしまい、低品質の有機EL素子が製造される場合がある。
【0008】
一方、真空蒸着法では長寿命化の観点から発光層に取り込まれる水分量を少なくすべく、蒸着源と基材との間の距離を小さくする技術が提案されているが(特許文献1参照)、このように蒸着源と基材との距離を小さくすると、基材の幅方向において該基材の中央部から両端部に向かう程、有機層形成材料の付着量が少なくなり、該中央部の方が両端部の膜厚よりも大きくなる。このため、上記した発光色が所望の発光色から変動した低品質の有機EL素子が、特に基材の幅方向においてより一層製造され易くなる。
【0009】
そこで、ロールプロセスにおいて、基材の幅方向における中央部と両端部との間で有機層形成材料の付着量の差を小さくすべく、基材の移動方向と平行な流量補正部材により基材の幅方向に2以上の領域に分割し、該流量補正部材によって形成されたスリットを通して有機層形成材料を吐出し、基材に付着させることが提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−287996号公報
【特許文献2】特開2009−302045号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、上記流量補正部材を設けると、該流量補正部材によって遮蔽される分だけノズルの開口面積が実質的に小さくなるため、有機層の形成速度が遅くなり、有機EL素子の生産効率の低下を招くおそれがある。
【0012】
本発明は、上記問題点に鑑み、基材と蒸着源との距離を短くしつつ、発光色の変動が抑制された、高品質な有機EL素子を効率的に製造し得る有機EL素子の製造方法及び製造装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明者が鋭意検討したところ、ノズルの開口部の幅(基材の移動方向と垂直な方向のノズル開口幅)Wと、基材上に形成される有機層の発光幅(発光領域における基材の移動方向と垂直な方向の幅)Aと、開口部と基材との距離hと、を所定の関係に設定することによって、基材と蒸着源との距離を短くしつつ、発光色の変動が抑制された、高品質な有機EL素子を効率的に製造し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明に係る有機EL素子の製造方法は、
気化された有機層形成材料をノズルから吐出させることにより、該ノズルに対して相対的に移動する基材上に有機層を形成する蒸着工程を含み、前記有機層からなり基材移動方向に対して垂直な方向の幅A(mm)を有する発光領域を形成する有機EL素子の製造方法であって、
前記ノズルの開口部における前記基材移動方向と垂直方向の長さをW(mm)、前記開口部と前記基材との距離をh(mm)とするとき、式W≧A+2×h(但し、h≦5mmである。)を満たすようにして前記蒸着工程を行なうことを特徴とする。
【0015】
上記のように蒸着工程を行うことにより、基材と蒸着源との距離を短くしつつ、発光色の変動が抑制された、高品質な有機EL素子を効率的に製造することが可能となる。
【0016】
また、本発明に係る有機EL素子の製造装置は、
気化された有機層形成材料をノズルから吐出することにより、該ノズルに対して相対的に移動する基材上に有機層を形成する蒸着源を備え、有機層からなり基材移動方向に対して垂直な方向の幅A(mm)を有する発光領域を形成するように構成された有機EL素子の製造装置であって、
前記ノズルの開口部における前記基材移動方向と垂直方向の長さをW(mm)、前記開口部と前記基材との距離をh(mm)とするとき、式W≧A+2×h(但し、h≦5mmである。)を満たすように構成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
以上の通り、本発明によれば、基材と蒸着源との距離を短くしつつ、発光色の変動が抑制された、高品質な有機EL素子を効率的に製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係る有機EL素子の製造方法に用いられる一実施形態に係る有機EL素子の製造装置を模式的に示す概略側面断面図
【図2】基材上に形成された陽極層及び有機層の配置関係の一例を示す図であって、図2(a)は、陽極層上に有機層が積層された状態を示す上面図であり、図2(b)は、図2(a)のXX’矢視断面図
【図3】基材上に形成された陽極層、有機層及び陰極層の配置関係の一例を示す図であって、図3(a)は、上面図であり、図3(b)は、図3(a)のYY’矢視断面図
【図4】ノズルの開口部と基材との周辺の構成を模式的に示す概略拡大側面断面図
【図5】ノズルの開口部と基材との配置関係を図4の上方から模式的に示す概略拡大平面図
【図6】真空チャンバー内に蒸着源が複数設けられた状態を模式的に示す概略側面断面図
【図7】有機EL素子の層構成を模式的に示す概略側面断面図であって、図7(a)は、有機層が1層の場合、図7(b)は、有機層が3層の場合、図7(c)は、有機層が5層の場合を示す図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明に係る有機EL素子の製造方法及び有機EL素子の製造装置について図面を参照しつつ説明する。
【0020】
有機EL素子の製造装置1は、図1に示すように、真空チャンバー3を有する蒸着装置であり、真空チャンバー3内には、大まかには、基材供給手段たる基材供給装置5と、キャンロール7と、蒸着源9と、基材回収装置6とが配置されている。真空チャンバー3は、不図示の真空発生装置により、その内部が減圧状態にされ、内部に真空領域を形成することができるようになっている。
【0021】
上記基材供給装置5としては、ロール状に巻き取られた帯状の基材21を繰り出す供給ローラ5が備えられている。上記基材回収装置6としては、繰り出された基材21を巻き取る巻取ローラ6が備えられている。即ち、供給ローラ5から繰り出した基材21はキャンロール7に供給された後、巻取ローラ6によって巻き取られる、所謂ロールトゥロール方式となっている。
【0022】
キャンロール7は、円筒状のステンレスから形成されており、回転駆動するようになっている。かかるキャンロール7は、供給ローラ5から繰り出され(供給され)、巻取ローラ6に巻き取られる基材21が所定の張力で巻き架けられるような位置に配置されており、キャンロール7の周面(表面)で基材21の非電極層側(具体的には、陽極層の設けられた側と反対の側)を支持するようになっている。また、キャンロール7が回転(図1の反時計回りに回転)することにより、巻き掛けられた(支持された)基材21をキャンロール7と共に回転方向に移動させることができるようになっている。
【0023】
かかるキャンロール7は、内部に冷却機構等の温度調整機構を有していることが好ましく、これにより、後述する基材21上での有機層の成膜中において、基材21の温度を安定させることができる。キャンロール7の外径は、例えば、300〜2000mmに設定することができる。
【0024】
そして、キャンロール7が回転すると、その回転に応じて供給ローラ5から基材21が順次繰り出され、繰り出された基材21がキャンロール7の周面に当接して支持されつつその回転方向に移動すると共に、キャンロール7から離れた基材21が巻取ローラ6によって巻き取られる。
【0025】
基材21の形成材料としては、キャンローラ7に巻き架けられても損傷しないような可撓性を有する材料が用いられ、このような材料として、例えば、金属材料、非金属無機材料や樹脂材料を挙げることができる。
【0026】
上記金属材料としては、例えば、ステンレス、鉄−ニッケル合金等の合金、銅、ニッケル、鉄、アルミニウム、チタン等を挙げることができる。また、上記した鉄−ニッケル合金としては、例えば36アロイや42アロイ等を挙げることができる。これらのうち、ロールプロセスに適用し易いという観点から、上記金属材料は、ステンレス、銅、アルミニウムまたはチタンであることが好ましい。また、かかる金属材料から形成された基材の厚みは、取り扱い性や基材の巻き取り性の観点から、5〜200μmであることが好ましい。
【0027】
上記非金属無機材料としては、例えば、ガラスを挙げることができ、かかるガラスから形成された基材として、例えば、フレキシブル性を持たせた薄膜ガラスを挙げることができる。また、非金属無機材料から形成された基材の厚みは、十分な機械的強度および適度な可塑性の観点から、5〜500μmであることが好ましい。
【0028】
上記樹脂材料としては、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂などの合成樹脂を挙げることができ、かかる合成樹脂として、例えば、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリアミド樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)共重合体樹脂、ポリカーボネート樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂等を挙げることができる。また、樹脂材料から形成された基材として、例えば、上記合成樹脂のフィルムを用いることができる。また、該基材の厚みは、十分な機械的強度および適度な可塑性の観点から、5〜500μmであることが好ましい。
【0029】
基材21の幅は、形成される有機EL素子の大きさに応じて適宜設計され、特に限定されるものではないが、例えば、5mm〜1000mmであることが好ましい。
【0030】
基材21として具体的には、スパッタリングによって予め陽極層23(図2参照)を形成したものを用いることができる。
陽極層23を形成するための材料としては、インジウム−亜鉛酸化物(IZO)、インジウム−錫酸化物(ITO)等の各種透明導電材料や、金、銀、白金などの金属や合金材料を用いることができる。
【0031】
蒸着源9は、発光層(有機層25a)を含む少なくとも1層の有機層(図7参照)を形成するためのものであり、形成すべき有機層に応じて1つ以上設けられている。本実施形態では、1層の有機層25aを形成するために蒸着源9が1つ設けられている。蒸着源9は、キャンロール7の周面における基材21の支持領域と対向する位置に配置されており、基材21に有機層を形成するための材料(有機層形成材料22)を蒸着させることにより、基材21上に形成された陽極層23上に有機層25a(図2、図7参照)を形成するようになっている。
【0032】
かかる蒸着源9の構成は、加熱等により気化された有機層形成材料22を基材21に向けて吐出可能なノズルを有していれば、特に限定されるものではない。例えば、蒸着源9は、有機層形成材料22を収容することができるようになっており、ノズル9aと、加熱部(不図示)とを有している。ノズル9aは、キャンロール7における基材21の支持領域と、対向するように配置されている。上記加熱部は、有機層形成材料22を加熱して気化させるようになっており、気化された有機層形成材料22は、ノズル9aの開口部9aa(図4及び図5参照)から外部に吐出されているようになっている。また、開口部9aaは、矩形状に形成されている。なお、開口部9aaの大きさの詳細については後述する。
【0033】
そして、上記した蒸着源9内で有機層形成材料22が加熱されると、該有機層形成材料22が気化され、気化された有機層形成材料22が、ノズル9aから基材21に向かって吐出されて、基材21上に蒸着される。このように気化された有機層形成材料22が基材21に蒸着されることにより、図2及び図7(a)に示すように、基材21上に形成された陽極層23上に有機層25aが形成される。
【0034】
有機層としては、少なくとも発光層(有機層25a)を有していれば特に限定されるものではなく、また、必要に応じて、複数の有機層が形成されるようにすることができる。例えば図7(b)に示すように、正孔注入層(有機層25b)、発光層(有機層25a)及び電子注入層(有機層25c)をこの順に積層して、有機層を3層積層することもできる。その他、必要に応じて、上記図7(b)に示す発光層(有機層25a)と正孔注入層(有機層25b)の間に正孔輸送層(有機層25d、図7(c)参照)を挟むことによって、または、発光層(有機層25a)と電子注入層(有機層25c)との間に電子輸送層(有機層25e)(図7(c)参照)を挟むことによって、有機層を4層積層することもできる。
【0035】
さらに、図7(c)に示すように、正孔注入層(有機層25b)と発光層(有機層25a)との間に正孔輸送層(有機層25d)、発光層(有機層25a)と電子注入層(有機層25c)との間に電子輸送層(有機層25e)を挟むことによって、有機層を5層積層することもできる。また、各有機層の膜厚は、通常、数nm〜数十nm程度になるように設計されるが、かかる膜厚は、有機層形成材料22や、発光特性等に応じて適宜設計されるものであり、特に限定されない。
【0036】
上記発光層を形成するための材料としては、例えば、トリス(8−ハイドロキシキノリン)アルミニウム(Alq3)、イリジウム錯体(Ir(ppy)3)をドープした4,4’−N,N’−ジカルバゾニルビフェニル(CBP)等を用いることができる。
【0037】
正孔注入層25bを形成するための材料としては、例えば、銅フタロシアニン(CuPc)、4,4’−ビス[N−4−(N,N−ジ−m−トリルアミノ)フェニル]−N−フェニルアミノ]ビフェニル(DNTPD)等を用いることができる。
【0038】
上記正孔輸送層を形成するための材料としては、例えば、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル(α−NPD)、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−1,1’ビフェニル−4,4’ジアミン(TPD)等を用いることができる。
【0039】
上記電子注入層を形成するための材料としては、例えば、フッ化リチウム(LiF)、フッ化セシウム(CsF)、酸化リチウム(Li2O)等を用いることができる。
【0040】
上記電子輸送層を形成するための材料としては、例えば、トリス(8−ハイドロキシキノリン)アルミニウム(Alq3)、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)−4−フェニルフェノラト−アルミニウム(BAlq)、OXD−7(1,3−ビス[5−(p−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール−2−イル])ベンゼン等を用いることができる。
【0041】
また、蒸着源9は、上記したような基材21の陽極層23上に形成される有機層の積層構成や積層数量に応じて1つ以上配置されることができる。例えば、図7(b)に示すように有機層を3層積層する場合には、図6に示すように、キャンローラ7の回転方向に沿って3つの蒸着源を配置することができる。このようにキャンロール7の回転方向に沿って複数の蒸着源9が設けられた場合、該回転方向に対し最も上流側に配置された蒸着源9によって陽極層23上に1層目の有機層が蒸着された後、下流側の蒸着源9によって1層目の有機層上に順次2層目以降の有機層が蒸着されて、積層されるようになっている。
【0042】
陰極層27としては、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、銀(Ag)、ITO、アルカリ金属、または、アルカリ土類金属を含む合金等を用いることができる。図3に示す一例では、陰極層27は、有機層25aと重なる部分において、有機層25aよりも小さい矩形状に形成されている。
【0043】
なお、キャンロール7の回転方向に対し有機層を形成するための蒸着源9の上流側に陽極層23を形成するための真空成膜装置、下流側に陰極層27を形成するための真空成膜装置を配置し、キャンロール7に支持されつつ移動する基材21に陽極層23を成膜した後、有機層25aを蒸着し、さらに陰極層27を成膜することもできる。
【0044】
また、その他、陽極層23及び陰極層27の材料として、蒸着源によって蒸着可能な材料を用いた場合には、真空チャンバー3内に陽極層23及び陰極層27用の蒸着源を配置し、基材21上に、陽極層23、有機層25a、陰極層27をこの順に連続して蒸着することによって、有機EL素子20を形成することもできる。
【0045】
このようにして形成された有機EL素子20において、陽極層23及び陰極層27にそれぞれ陽極及び陰極の電圧が印加されると、有機層25aに電流が流れる。これにより、基材と垂直方向において、有機層25aにおける陽極層23及び陰極層27の両方と重なる領域が発光する(発光領域)。
【0046】
この有機層25aの発光領域Rにおける、基材21の移動方向と垂直な方向の幅を、発光幅Aとする。また、かかる発光領域Rから放射される光は、陽極層23または陰極層27の少なくともいずれか一方を通過することによって放射され、この陽極層23表面または陰極層27表面は、有機EL素子20の発光面を形成している。
【0047】
次に、ノズル9の開口部9aaにおける基材21の移動方向と垂直方向の長さ(開口幅)W(mm)と、有機層25aの発光幅A(mm)と、開口部9aaと基材21との距離h(mm)と、の関係について説明する。なお、図4の左右方向は、基材21の幅方向であり、図5の白抜き矢印は、基材の移動方向を示し、図5の上下方向は、基材21の幅方向(移動方向と垂直な方向)である。また、以下、「基材の幅方向」を、単に「幅方向」という場合がある。
【0048】
図4及び5に示すように、ノズル9aの開口幅をW、有機層25の発光幅をA、開口部9aaと基材21との距離をhとする。このとき、W、A及びhは、式W≧A+2×h(但しh≦5mmである。)を満たすように設計する。
【0049】
hが5mm以下(h≦5mm)であることにより、気化された有機層形成用材料22を高密度で基材21に到達させることができるため、該有機層形成用材料22の利用効率を高めることができる。また、気化された有機層形成材料22をより高密度にするという観点から、距離hが5mm以下であることが好ましく、3mm以下であることがより好ましい。かかる距離hを所定の値に調整するには、該所定の値だけ基材21に対して開口部9aaが離間するような位置に、ノズル9aを配置すればよい。
【0050】
また、式W≧A+2×hを満たすことにより、有機層25aにおける発光領域Rの幅方向両端部において、有機層形成用材料22の付着量を増加させることができるため、該発光領域Rの幅方向中央部と両端部との間で有機層形成用材料22の付着量の差、すなわち膜厚の差を小さくすることができる。また、一の有機EL素子20内部において有機層の膜厚(厚み)の変動を抑制する程、電気特性の差や光学特性の差が小さくなり、発光面の輝度ムラを抑制することができる。従って、有機層25aの発光の変動を抑制することができるため、発光色の変動が抑制された、高品質な有機EL素子を効率的に製造することが可能となる。
【0051】
なお、基材21の移動方向においては、吐出された有機層形成材料22が付着する領域の全域を、基材21が通過するため、発光領域Rの膜厚変動が小さい。従って、上記の様に、発光領域Rの幅方向において有機層の膜厚変動を小さくすることにより、発光領域Rの全域に亘って、上記吐出状態に起因する有機層の膜厚変動を小さくすることが可能となる。
【0052】
上記開口幅Wは、hが5mm以下であり、且つ、W≧A+2×hを満たす限り特に限定されるものではない。但し、開口幅Wが小さ過ぎると発光領域Rを形成するのに十分な有機層を形成できないおそれがあり、大き過ぎると製造装置の大型化を招きコストが増大するおそれがある。例えば、開口幅Wが5mm未満であると、発光エリアが狭くなり、スループットが低下するおそれがあり、開口幅Wが1000mmを超えると、装置の大型化を招き、装置コストがかかるおそれがある。従って、例えばかかる観点を考慮して開口幅Wを適宜設計することができ、例えば開口幅Wは、5mm以上1000mm以下であることが好ましく、5mm以上100mm以下であることがより好ましく、10mm以上70mm以下であることがさらに好ましい。また、開口幅Wが基材21の幅より大きいと、有機層形成用材料22が無駄に飛散するおそれがあるため、かかる観点を考慮して、例えば開口幅Wは基材21の幅以下であることが好ましい。
【0053】
上記発光幅Aは、hが5mm以下であり、且つ、W≧A+2×hを満たす限り特に限定されるものではない。但し、Aが小さ過ぎると発光領域Rが小さくなり過ぎて有機EL素子として十分な発光が得られないおそれがあり、大き過ぎると微小な異物の混入によって歩留まりが低下するおそれがある。また、発光幅Aは、有機EL素子が用いられる用途等に応じて設計されるという性質も有する。従って、例えばかかる観点を考慮して発光幅Aを適宜設計することができ、例えば発光幅Aは、3mm以上900mm以下であることが好ましく、3mm以上90mm以下であることがより好ましく、5mm以上60mm以下であることがさらに好ましい。
【0054】
次に、上記製造装置を用いた一実施形態に係る有機EL素子の製造方法について説明する。
【0055】
本実施形態に係る有機EL素子の製造方法は、気化された有機層形成材料22をノズル9aから吐出させることにより、該ノズル9aに対して相対的に移動する基材21上に有機層25aを形成する蒸着工程を含み、有機層25aからなり発光幅(基材移動方向に対して垂直な方向の幅)Aの発光領域Rを形成する有機EL素子の製造方法であって、基材移動方向と垂直なノズル開口幅をW、開口部9aaと基材21との距離をhとするとき、式W≧A+2×h(但しh≦5mmである。)を満たすようにして蒸着工程を行なう。
【0056】
本実施形態においては、予め、上述したようにして、開口幅W、発光幅A及び距離hを設定し、設定された距離hに基づいてノズル9aを配置し、陽極層23、有機層25a及び陰極層27の大きさ及び位置関係を設定しておく。
【0057】
例えば、まず、開口幅W、発光幅A及び距離hのうち距離hの数値を、5mm以下において所定値に設定することとする。先に距離hが設定された場合には、次に、W≧A+2×hを満たすように発光幅A及び開口幅Wを設定する。次に、設定された発光幅Aを有するように、発光領域Rの大きさを設定し、この発光領域Rが得られるように、有機層25a、陽極層23及び陰極層27の大きさと、これらの形成位置(すなわち重なり状態)と、を設定する。
【0058】
同様に、先に発光幅Aを設定した場合には、次に距離hが5mm以下であり且つ式W≧A+2×hを満たすように、開口幅W及び距離hを設定し、先に開口幅Wを設定した場合には、次に5mm以下であり式W≧A+2×hを満たすように、発光幅A及び距離hを設定する。
【0059】
そして、かかる設定後、先ず、スパッタリング等によって一面側に予め陽極層23が形成され、ロール状に巻き取られた基材21を基材供給装置5から繰り出す。
【0060】
次いで、繰り出された基材21を、陽極層23が形成された側と反対の側をキャンロール7の表面に当接させて移動させつつ、キャンロール7と対向して配置された蒸着源9によって有機層25a(図5参照)を含む有機層形成材料22を気化させ、気化された有機層形成材料22をノズル9aから吐出してキャンロール7に支持された基材21上の陽極層23上に蒸着させる。
【0061】
これにより、hが5mm以下であり且つ式W≧A+2×hを満たすようにして基材21上に有機層25aを形成することができる。有機層25aの形成後、有機層25aが形成された基材21を巻取ローラ6によって巻き取る。さらに、有機層25a上に、不図示の蒸着装置によって陰極層27を形成することにより、基材21に、陽極層23、有機層25a及び陰極層27がこの順に積層された有機EL素子20を形成することができる。
【0062】
このようにして有機EL素子20を製造することにより、上記した様に、発光領域Rでの有機層25aの膜厚変動を抑制することができる。
【0063】
なお、上記した様に、有機層25aの膜厚の変動を抑制する程、有機EL素子20の発光面の輝度ムラを、より抑制できることに鑑みれば、該膜厚の変動を±10%以下とすることが好ましい。膜厚の変動を±10%以内とすることにより、有機EL素子20の発光面における輝度ムラを20%以内に収めることが可能となる。
【0064】
本発明の有機EL素子の製造方法及び製造装置は、上記の通りであるが、本発明は上記各実施形態に限定されず本発明の意図する範囲内において適宜設計変更可能である。例えば、上記実施形態では、蒸着源9内で有機層形成材料22を気化させたが、別途の装置で気化された有機層形成材料22を蒸着源9内に導入し、該蒸着源9のノズル9aから吐出させることもできる。
【0065】
また、上記実施形態では、基材供給装置5を真空チャンバー3内に配置したが、基材21をキャンローラ7へと繰り出すことが可能であれば、キャンローラ7への供給方法は特に限定されるものではない。また、上記実施形態では、蒸着工程が終了した基材21を巻き取ったが、かかる基材21を巻き取ることなく、裁断等の工程に供することもできる。
【0066】
また、上記実施形態では、陰極層27を、有機層25aよりも小さい矩形状に形成することによって発光領域Rを設計したが、かかる発光領域Rの設計方法は特に限定されるものではなく、その他、有機層25aと陰極層27との間に絶縁層を配置し、該絶縁層を有機層25aよりも小さい矩形状に形成することによって発光領域Rを設計することもできる。また、上記実施形態では、有機層として発光層を蒸着させる場合について説明したが、その他、有機層として正孔注入層、正孔輸送層、電子注入層、電子輸送層を蒸着させる場合についても、それぞれに対応した蒸着源の開口幅W、各有機層の発光幅A、及び、各蒸着源のノズルにおける開口幅と基材21との距離h、の関係について、上記と同様にして、本発明を適用することができる。
【実施例】
【0067】
次に実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0068】
有機層の発光領域における膜厚誤差の評価
有機層の膜厚変動を精度良く測定するために、基材上に直接有機層を形成し、形成された有機層の膜厚を測定し、測定結果から膜厚誤差を算出した。
【0069】
具体的には、上記した第1実施形態に示すように、真空チャンバー内に蒸着源を1つ配置し、有機層(発光層)を形成するための材料としてトリス(8−ハイドロキシキノリン)アルミニウム(Alq3)、基材21として幅70mm、全長130mのフレキシブルガラス基板(基材)を用いた。
【0070】
そして、該フレキシブルガラス基板上に、直接、上記実施形態に係る有機EL素子の製造方法により、蒸着源でAlq3を気化させ、気化されたAlq3を基材上に連続して蒸着することによって、有機層を形成した。この際、ノズル9aの開口幅W、有機層の発光幅A、開口部と基材との距離hを、表1〜3に示すように種々変化させて、有機層を、膜厚が100nmとなるように形成した。また、チャンバー3内の真空度を5.0×10-5Paとし、蒸着源での加熱温度を300℃とした。
【0071】
形成された発光層の膜厚について、ULVAC社製の触針式表面形状測定器Dektakを用い、該測定器を、形成された有機層の表面に当接させて、該有機層における基材長手方向中央において、幅方向に1mmおきに膜厚を測定し、膜厚誤差=(膜厚の最大値−最小値)/最大膜厚×100(%)によって、幅方向の膜厚誤差を算出した。そして、膜厚誤差≦5%の場合を◎、5%<膜厚誤差≦10%の場合を○、10%<膜厚誤差の場合を×、として評価した。結果を表1〜表3に示す。
【0072】
有機EL素子の発光領域における輝度ムラの評価
陽極層として所定パターンのITOが形成された、幅70mm、長さ130mのフレキシブルガラス基板を用い、蒸着源を3つ用いて、該陽極層に有機層として、正孔注入層たるCuPcを膜厚25nm、正孔輸送層たるNPBを膜厚45nm、発光層たるAlq3を膜厚60nm、電子注入層たるLiFを膜厚0.5nm、陰極層たるAlを膜厚10nmとなるようにこの順で、基材上に順次形成した。また、一連のCuPc、NPB及びAlq3の形成ごとに、表1、2及び3に示すように、開口幅W、発光幅A及び距離hを変化させた。
【0073】
形成された有機EL素子を、有機層25を流れる電流の電流密度が7.5mA/cm2となるように陽極層23及び陰極層27に電圧を印加することにより、発光させた。このとき、有機EL特性評価装置(有機EL発光効率測定装置、プレサイスゲージ社製、型式EL−1003)を用い、有機EL素子の発光領域における基材の長手方向中央において、幅方向に1mmおきに発光面での輝度を測定した。測定結果から、輝度ムラ=(最大輝度−最小輝度)/最大輝度×100(%)によって、幅方向の輝度ムラを算出した。そして、輝度ムラ≦10%の場合を◎、10%<輝度ムラ≦20%の場合を○、20%<輝度ムラの場合を×、として評価した。結果を表1〜表3に示す。
【0074】
【表1】

【0075】
表1には、開口幅Wを、W=20mmで一定とし、発光幅A及び距離hを変化させた場合における結果を示す。実施例1〜5に示すように、A=18mm及び16mmの両方の場合において、式W≧A+2×hを満たすものは、膜厚誤差及び輝度ムラが小さいことが認められた。これに対し、比較例1〜7に示すように、式W≧A+2×hを満たさないものは、膜厚誤差及び輝度ムラの両方共大きいことが認められた。また、実施例6〜11で示すように、開口幅Wと発光幅Aとの差(W−A)が10mm以上の場合には、発光幅A及び距離hの大きさによらず式W≧A+2×hを満たすため、膜厚誤差及び輝度ムラが小さくなることが認められた。
【0076】
【表2】

【0077】
表2には、開口幅Wを、W=10mmで一定とし、発光幅A及び距離hを変化させた場合における結果を示す。実施例12〜16に示すように、A=9mm、8mm及び7mmのいずれの場合においても、式W≧A+2×hを満たすものは、膜厚誤差及び輝度ムラが小さいことが認められた。これに対し、比較例8〜20に示すように、式W≧A+2×hを満たさないものは、膜厚誤差及び輝度ムラの両方共大きいことが認められた。なお、W=10mmの場合、開口幅Wと発光幅Aとの差(W−A)は10mm未満となるため、上記表1とは異なり、発光幅A及び距離hの大きさによらず式W≧A+2×hを満たすような場合は、無かった。
【0078】
【表3】

【0079】
表3には、開口幅Wを、W=50mmで一定とし、発光幅A及び距離hを変化させた場合における結果を示す。実施例17〜21に示すように、A=48mm及び46mmの両方の場合において、式W≧A+2×hを満たすものは、膜厚誤差及び輝度ムラが小さいことが認められた。これに対し、比較例21〜27に示すように、式W≧A+2×hを満たさないものは、膜厚誤差及び輝度ムラの両方共大きいことが認められた。また、実施例22〜27で示すように、開口幅Wと発光幅Aとの差(W−A)が10mm以上の場合には、上記表1と同様、発光幅A及び距離hの大きさによらず式W≧A+2×hを満たし、膜厚誤差及び輝度ムラが小さくなることが認められた。
【0080】
上記の結果、本発明に係る有機EL素子の製造方法及び有機EL素子の製造装置により、基材21上に形成される有機層の膜厚の変動を抑制でき、有機EL素子の発光色の変動を抑制できることがわかった。
【符号の説明】
【0081】
1:有機EL素子の製造装置、3:真空チャンバー、3a:内壁、5:基材供給装置(基材供給手段)、7:キャンロール、9:蒸着源、9a:ノズル、9aa:開口部、20:有機EL素子、21:基材、25a:有機層、W:開口幅、A:発光幅、h:距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気化された有機層形成材料をノズルから吐出させることにより、該ノズルに対して相対的に移動する基材上に有機層を形成する蒸着工程を含み、前記有機層からなり基材移動方向に対して垂直な方向の幅A(mm)を有する発光領域を形成する有機EL素子の製造方法であって、
前記ノズルの開口部における前記基材移動方向と垂直方向の長さをW(mm)、前記開口部と前記基材との距離をh(mm)とするとき、式W≧A+2×h(但し、h≦5mmである。)を満たすようにして前記蒸着工程を行なうことを特徴とする有機EL素子の製造方法。
【請求項2】
気化された有機層形成材料をノズルから吐出することにより、該ノズルに対して相対的に移動する基材上に有機層を形成する蒸着源を備え、有機層からなり基材移動方向に対して垂直な方向の幅A(mm)を有する発光領域を形成するように構成された有機EL素子の製造装置であって、
前記ノズルの開口部における前記基材移動方向と垂直方向の長さをW(mm)、前記開口部と前記基材との距離をh(mm)とするとき、式W≧A+2×h(但し、h≦5mmである。)を満たすように構成されたことを特徴とする有機EL素子の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−230816(P2012−230816A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−98172(P2011−98172)
【出願日】平成23年4月26日(2011.4.26)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】