説明

有機EL素子及び有機EL表示装置

【課題】発光層で生じた光を陰極から取り出す有機EL素子で低駆動電圧と高輝度とを実現可能とする。
【解決手段】本発明の有機EL素子OLEDは、光反射性の陽極ANと、光透過性の陰極CTと、前記陽極ANと前記陰極CTとの間に介在した発光層EMTとを具備し、前記陽極ANは、光反射性の金属材料層MLと、前記金属材料層MLと前記発光層EMTとの間に介在した厚さが2nm以上のカーボン層CLとを含んだことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセント(EL)素子及び有機EL表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子では、陽極の材料として、仕事関数の大きな材料を使用することが有利である。陽極の材料として仕事関数の大きな材料を使用すると、高い正孔注入効率を達成でき、それゆえ、低い駆動電圧及び高い発光効率とを実現することができる。そのため、多くの有機EL素子は、陽極の材料として、仕事関数が5.0eVであるインジウム錫酸化物(以下、ITOという)を使用している。
【0003】
ITOは、代表的な透明導電性酸化物である。そのため、発光層で生じた光を陰極から取り出す場合には、一般に、透明導電性酸化物層が透過した光を反射層に反射させて、高い光取り出し効率を実現している。すなわち、低駆動電圧と高輝度とを実現すべく、陽極として透明導電性酸化物層と反射層との積層体を使用するか、又は、陽極としての透明導電性酸化物層と反射層とを組み合わせている。
【0004】
反射層の仕事関数が十分に大きければ、透明導電性酸化物層を使用することなく、低駆動電圧及び高輝度を実現できる可能性がある。しかしながら、一般的な電極材料に、大きな仕事関数を有し且つ高い反射率を達成可能なものはない。例えば、アルミニウム及び銀は、可視光領域のほぼ全体に亘って90%以上の反射率を達成可能であるが、仕事関数は4.3eVである。また、金は、仕事関数は5.1eVであるものの、短波長領域(特には青色領域)内の光についての反射率は40%である。
【0005】
なお、非特許文献1には、本発明に関連した技術が記載されている。すなわち、この文献には、UVオゾン処理によって銀陽極の表面を酸化して、高い反射率を維持しつつ、正孔注入効率を高めることが記載されている。
【非特許文献1】SID 04 DIGEST p.682
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、発光層で生じた光を陰極から取り出す有機EL素子で低駆動電圧と高輝度とを実現可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1側面によると、光反射性の陽極と、光透過性の陰極と、前記陽極と前記陰極との間に介在した発光層とを具備し、前記陽極は、光反射性の金属材料層と、前記金属材料層と前記発光層との間に介在した厚さが2nm以上のカーボン層とを含んだことを特徴とする有機EL素子が提供される。
【0008】
本発明の第2側面によると、発光色が互いに異なる第1及び第2画素を具備し、前記第1及び第2画素の各々は、光反射性の陽極と、光透過性の陰極と、前記陽極と前記陰極との間に介在した発光層とを備えた有機EL素子を含み、前記第1及び第2画素の各々において、前記陽極は、光反射性の金属材料層と、前記金属材料層と前記発光層との間に介在した厚さが2nm以上のカーボン層とを含んだことを特徴とする有機EL表示装置が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、発光層で生じた光を陰極から取り出す有機EL素子で、陽極に透明導電性酸化物を使用せずとも、低駆動電圧と高輝度とを実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の態様について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において、同様又は類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0011】
図1は、本発明の一態様に係る有機EL素子を概略的に示す断面図である。
この有機EL素子OLEDは、陽極ANと、有機物層ORGと、陰極CTとを含んでおり、基板SUBに支持されている。陽極ANと陰極CTとは向き合っており、有機物層ORGは、陽極ANと陰極CTとの間に介在している。ここでは、一例として、有機EL素子は、陽極ANが陰極CTと基板SUBとの間に介在するように基板SUBに支持させている。
【0012】
陽極ANは、光反射性であって、有機物層ORGが放出する光を反射する。陽極ANは、金属材料層MLと、金属材料層MLと有機物層ORGとの間に介在したカーボン層CLとを含んでいる。
【0013】
金属材料層MLは、光反射性であって、有機物層ORGが放出する光を反射する。金属材料層MLの材料としては、例えば、アルミニウム、銀、及びそれらの合金を使用することができる。
【0014】
カーボン層CLは、例えば、アモルファスカーボンからなる。アモルファスカーボンのイオン化ポテンシャルは約5.3eVである。
【0015】
カーボン層CLを薄くすると、有機EL素子OLEDの駆動電圧が高くなる。カーボン層CLの厚さが2nm以上であれば、十分に小さな駆動電圧を達成できる。典型的には、カーボン層CLの厚さは30nm以上とする。
【0016】
カーボン層CLを厚くすると、陽極ANの反射率が低下する。典型的には、カーボン層CLの厚さは100nm以下とする。
【0017】
有機物層ORGは、発光層EMTと、正孔輸送層HTLと、電子輸送層ETLとを含んでいる。正孔輸送層HTLは、発光層EMTと陽極ANとの間に介在している。電子輸送層ETLは、発光層EMTと陰極CTとの間に介在している。
【0018】
発光層EMTは、例えば、ホスト材料とドーパント材料との混合物からなる。ホスト材料としては、例えば、Alq3(tris(8-hydroxyquinolinato)aluminum(III))及びCBP(4,4'-di(carbazolyl-9-yl)biphenyl)を使用することができる。ドーパント材料としては、例えば、Ir(ppy)3(tris(2-phenylpyridine)iridium)を使用することができる。
【0019】
正孔輸送層HTLは、例えば、α−NPD(N,N'-diphenyl-N,N'-bis(1-naphthylphenyl)-1,1'-biphenyl-4,4'-diamine)からなる。正孔輸送層HTLは、省略してもよい。
【0020】
電子輸送層ETLは、例えば、Alq3からなる。電子輸送層ETLは、省略してもよい。
【0021】
有機物層ORGは、正孔輸送層HTLと発光層EMTとの間に、電子ブロッキング層をさらに含むことができる。また、有機物層ORGは、電子輸送層ELTと発光層EMTとの間に、正孔ブロッキング層をさらに含むことができる。
【0022】
陰極CTは、光透過性であって、有機物層ORGが放出する光を透過する。陰極CTの材料としては、例えば、マグネシウムと銀との合金を使用することができる。
【0023】
この有機EL素子OLEDは、陽極ANと有機物層ORGとの間に、正孔注入層をさらに含むことができる。また、この有機EL素子OLEDは、陰極CTと有機物層ORGとの間に、電子注入層をさらに含むことができる。
【0024】
この構造を採用すると、高い正孔注入効率と高い反射率とを達成できる。それゆえ、本態様によると、低駆動電圧と高輝度とを実現することができる。
【0025】
この有機EL素子OLEDには、光共振器としての機能を与えてもよい。すなわち、この有機EL素子OLEDには、発光層EMTが放出する光が金属層MLと陰極CTとの間で繰り返し反射干渉する構成を採用してもよい。この構造を採用すると、輝度及び色純度を高めることができる。
【0026】
この有機EL素子OLEDは、例えば、表示装置の発光素子として利用することができる。
【0027】
図2は、図1の有機EL素子を含む表示装置の一例を概略的に示す平面図である。図3は、図2の表示装置に採用可能な構造の一例を概略的に示す断面図である。なお、図3では、表示装置を、その表示面,すなわち前面又は光出射面,が上方を向き、背面が下方を向くように描いている。
【0028】
図2の表示装置は、アクティブマトリクス型駆動方式を採用した上面発光型の有機EL表示装置である。この有機EL表示装置は、表示パネルDPと、映像信号線ドライバXDRと、走査信号線ドライバYDRとを含んでいる。
【0029】
表示パネルDPは、図2及び図3に示すように、アレイ基板ASと封止基板CSとを含んでいる。アレイ基板ASと封止基板CSとは、向き合っており、中空体を形成している。具体的には、封止基板CSの中央部は、アレイ基板ASから離間している。封止基板CSの周縁部は、図3に示す枠形のシール層SSを介して、アレイ基板ASの一方の主面に貼り付けられている。
【0030】
表示パネルDPは、図2及び図3に示すように、ガラス基板などの絶縁基板SUBを含んでいる。
【0031】
基板SUB上には、図3に示すアンダーコート層UCが形成されている。アンダーコート層UCは、例えば、基板SUB上に、シリコン窒化物層とシリコン酸化物層とをこの順に積層してなる。
【0032】
アンダーコート層UC上には、例えば不純物を含有したポリシリコンからなる半導体パターンが形成されている。この半導体パターンの一部は、図3の半導体層SCとして利用している。半導体層SCには、ソース及びドレインとして利用する不純物拡散領域が形成されている。また、この半導体パターンの他の一部は、後述するキャパシタCの下部電極として利用している。下部電極は、後述する画素PXに対応して配列している。
【0033】
半導体パターンは、図3に示すゲート絶縁膜GIで被覆されている。ゲート絶縁膜GIは、例えばTEOS(tetraethyl orthosilicate)を用いて形成することができる。
【0034】
ゲート絶縁膜GI上には、図2に示す走査信号線SL1及びSL2が形成されている。走査信号線SL1及びSL2は、画素PXの行に沿ったX方向に延びており、画素PXの列に沿ったY方向に交互に配列している。走査信号線SL1及びSL2は、例えばMoWからなる。なお、Z方向は、X方向とY方向とに垂直な方向である。
【0035】
ゲート絶縁膜GI上には、キャパシタCの上部電極がさらに配置されている。この上部電極は、画素PXに対応して配列しており、キャパシタCの下部電極と向き合っている。上部電極は、例えばMoWからなり、走査信号線SL1及びSL2と同一の工程で形成することができる。
【0036】
走査信号線SL1及びSL2は、半導体層SCと交差している。走査信号線SL1と半導体層SCとの交差部は、図2及び図3に示すスイッチングトランジスタSWaを構成している。走査信号線SL2と半導体層SCとの交差部は、図2に示すスイッチングトランジスタSWb及びSWcを構成している。また、先に説明した下部電極と上部電極とそれらの間に介在した絶縁膜GIとは、図2に示すキャパシタCを構成している。上部電極は、キャパシタCからZ方向に垂直な方向に突き出た突出部を含んでおり、この突出部と半導体層SCとは交差している。この交差部は、図2に示す駆動トランジスタDRを構成している。
【0037】
なお、この例では、駆動トランジスタDR及びスイッチングトランジスタSWa乃至SWcは、トップゲート型のpチャネル薄膜トランジスタである。また、図3に参照符号Gで示す部分は、スイッチングトランジスタSWaのゲートである。
【0038】
ゲート絶縁膜GI、走査信号線SL1及びSL2、並びに上部電極は、図3に示す層間絶縁膜IIで被覆されている。層間絶縁膜IIは、例えばプラズマCVD法により堆積させたシリコン酸化物からなる。
【0039】
層間絶縁膜II上には、図2に示す映像信号線DLと電源線PSLとが形成されている。映像信号線DLは、図2に示すように、Y方向に延びており、X方向に配列している。電源線PSLは、例えば、Y方向に延びており、X方向に配列している。
【0040】
層間絶縁膜II上には、図3に示すソース電極SE及びドレイン電極DEがさらに形成されている。ソース電極SE及びドレイン電極DEは、画素PXの各々において素子同士を接続している。
【0041】
映像信号線DLと電源線PSLとソース電極SEとドレイン電極DEとは、例えば、Mo/Al/Moの三層構造を有している。これらは、同一工程で形成可能である。
【0042】
映像信号線DLと電源線PSLとソース電極SEとドレイン電極DEとは、図3に示すパッシベーション膜PSで被覆されている。パッシベーション膜PSは、例えばシリコン窒化物からなる。
【0043】
パッシベーション膜PS上では、図3に示す陽極ANが、画素PXに対応して配列している。これら陽極ANは、光反射性の背面電極としての画素電極である。各陽極ANは、パッシベーション膜PSに設けたコンタクトホールを介してドレイン電極DEに接続されており、このドレイン電極はスイッチングトランジスタSWaのドレインに接続されている。
【0044】
陽極ANは、上述した通り、図1に示す金属材料層MLとカーボン層CLとを含んでいる。金属材料層MLは、パッシベーション膜PSとカーボン層CLとの間に介在している。
【0045】
金属材料層MLは、画素PXに対応してパターニングされている。カーボン層CLは、画素PXに対応してパターニングされていてもよい。或いは、カーボン層CLは、画素PX間で繋がっていてもよい。例えば、カーボン層CLは、画素PXが配置された領域として規定される表示領域の全体に亘って広がった連続膜であってもよい。カーボン層CLのシート抵抗は十分に大きいので、金属材料層ML同士が短絡することはない。
【0046】
パッシベーション膜PS上には、さらに、図3に示す隔壁絶縁層PIが形成されている。隔壁絶縁層PIには、陽極ANに対応した位置に貫通孔が設けられているか、或いは、陽極ANが形成する列に対応した位置にスリットが設けられている。ここでは、一例として、隔壁絶縁層PIには、陽極ANに対応した位置に貫通孔が設けられていることとする。
【0047】
隔壁絶縁層PIは、例えば、有機絶縁層である。隔壁絶縁層PIは、例えば、フォトリソグラフィ技術を用いて形成することができる。
【0048】
隔壁絶縁層PIは、カーボン層CLを形成した後に形成してもよい。或いは、隔壁絶縁層PIは、カーボン層CLを形成する前に形成してもよい。後者の場合、フォトリソグラフィ技術を用いて隔壁絶縁層PIを形成することに起因してカーボン層CLが損傷を受けるのを防止できる。
【0049】
各陽極AN上には、有機物層ORGが形成されている。有機物層ORGが含んでいる各層は、画素PXに対応してパターニングされていてもよい。或いは、有機物層ORGが含んでいる各層は、画素PX間で繋がっていてもよい。
【0050】
隔壁絶縁層PI及び有機物層ORGは、陰極CTで被覆されている。この例では、陰極CTは、画素PX間で共用している共通電極である。また、この例では、陰極CTは、光透過性の前面電極である。陰極CTは、例えば、パッシベーション膜PSと隔壁絶縁層PIとに設けられたコンタクトホールを介して、映像信号線DLと同一の層上に形成された電極配線(図示せず)に電気的に接続されている。各々の有機EL素子OLEDは、陽極ANと、有機物層ORGと、陰極CTとを含んでいる。
【0051】
画素PXの各々は、図2に示すように、駆動トランジスタDRと、スイッチングトランジスタSWa乃至SWcと、有機EL素子OLEDと、キャパシタCとを含んでいる。上記の通り、この例では、駆動トランジスタDR及びスイッチングトランジスタSWa乃至SWcはpチャネル薄膜トランジスタである。
【0052】
駆動トランジスタDRとスイッチングトランジスタSWaと有機EL素子OLEDとは、第1電源端子ND1と第2電源端子ND2との間で、この順に直列に接続されている。この例では、電源端子ND1は高電位電源端子であり、電源端子ND2は低電位電源端子である。
【0053】
スイッチングトランジスタSWaのゲートは、走査信号線SL1に接続されている。スイッチングトランジスタSWbは、映像信号線DLと駆動トランジスタDRのドレインとの間に接続されており、そのゲートは走査信号線SL2に接続されている。スイッチングトランジスタSWcは、駆動トランジスタDRのドレインとゲートとの間に接続されており、そのゲートは走査信号線SL2に接続されている。
【0054】
キャパシタCは、駆動トランジスタDRのゲートと定電位端子ND1’との間に接続されている。この例では、定電位端子ND1’は、電源端子ND1に接続されている。
【0055】
封止基板CSは、図3に示すように、有機EL素子OLEDを間に挟んで基板SUBと向き合っている。封止基板CSは、対向電極CEから離間している。封止基板CSは、例えばガラス基板である。
【0056】
シール層SSは、上記の通り、枠形状を有しており、アレイ基板ASと封止基板CSの周縁部との間に介在している。シール層SSは、有機EL素子OLEDを取り囲んでいる。シール層SSの材料としては、例えば、フリットガラス及び接着剤を使用することができる。
【0057】
映像信号線ドライバXDRには、映像信号線DLが接続されている。この例では、映像信号線ドライバXDRには、電源線PSLがさらに接続されている。映像信号線ドライバXDRは、映像信号線DLに映像信号を電流信号として出力すると共に、電源線PSLに電源電圧を供給する。
【0058】
走査信号線ドライバYDRには、走査信号線SL1及びSL2が接続されている。走査信号線ドライバYDRは、走査信号線SL1及びSL2にそれぞれ第1及び第2走査信号を電圧信号として出力する。
【0059】
この有機EL表示装置で画像を表示する場合、例えば、画素PXを行毎に順次選択する。或る画素PXを選択している選択期間では、その画素PXに対して書込動作を行う。或る画素PXを選択していない非選択期間では、その非選択中の画素PXで表示動作を行う。
【0060】
具体的には、或る行の画素PXを選択する選択期間では、まず、走査信号線ドライバYDRから、先の画素PXが接続された走査信号線SL1に、スイッチングトランジスタSWaを開く(非導通状態とする)走査信号を電圧信号として出力する。続いて、走査信号線ドライバYDRから、先の画素PXが接続された走査信号線SL2に、スイッチングトランジスタSWb及びSWcを閉じる(導通状態とする)走査信号を電圧信号として出力する。この状態で、映像信号線ドライバYDRから、映像信号線DLに、映像信号を電流信号(書込電流)Isigとして出力し、駆動トランジスタDRのゲート−ソース間電圧Vgsを、先の映像信号Isigに対応した大きさに設定する。その後、走査信号線ドライバYDRから、先の画素PXが接続された走査信号線SL2に、スイッチングトランジスタSWb及びSWcを開く走査信号を電圧信号として出力する。続いて、走査信号線ドライバYDRから、先の画素PXが接続された走査信号線SL1に、スイッチングトランジスタSWaを閉じる走査信号を電圧信号として出力する。これにより、選択期間を終了する。
【0061】
選択期間に続く非選択期間では、走査信号線ドライバYDRから、先の画素PXが接続された走査信号線SL1に、スイッチングトランジスタSWaを閉じる走査信号を電圧信号として出力する。スイッチングトランジスタSWaは閉じたままとし、スイッチングトランジスタSWb及びSWcは開いたままとする。非選択期間では、有機EL素子OLEDには、駆動トランジスタDRのゲート−ソース間電圧Vgsに対応した大きさの駆動電流Idrvが流れる。有機EL素子OLEDは、駆動電流Idrvの大きさに対応した輝度で発光する。
【0062】
図2の有機EL表示装置でカラー表示を行う場合、以下の構造を採用してもよい。
図4は、図2の有機EL表示装置に採用可能な他の例を概略的に示す断面図である。図4において、参照符号OLED1は発光色が青色の有機EL素子OLEDを示し、参照符号OLED2は発光色が緑色の有機EL素子OLEDを示し、参照符号OLED3は発光色が赤色の有機EL素子OLEDを示している。
【0063】
有機EL素子OLEDに光共振器としての機能を与えるためには、発光層EMTが放出する光が金属層MLと陰極CTとの間で繰り返し反射干渉するように、金属層MLと陰極CTとの間の光路長を設計する必要がある。すなわち、有機EL素子OLED1乃至OLED3間で、先の光路長を異ならしめる必要がある。
【0064】
有機EL素子OLED1乃至OLED3の発光層EMTは、別々に形成する。それゆえ、発光層EMTを利用して、先の光路長を有機EL素子OLED間で異ならしめることができる。しかしながら、発光層EMTの厚さは、発光効率などに影響を及ぼすため、必ずしも任意に設定できる訳ではない。
【0065】
図4では、有機EL素子OLED3においてのみ、金属材料層MLとカーボン層CLとの間に透明導電性酸化物層OLを挿入している。この構造を採用すると、有機EL素子OLED3では、透明導電性酸化物層OLの厚さのみにより、先の光路長を最適化することができる。それゆえ、有機EL素子OLED1及びOLED2を設計するうえで、有機EL素子OLED3の光路長を考慮する必要がない。したがって、図4の構造を採用すると、設計の自由度が高くなる。
【0066】
図4では、有機EL素子OLED3においてのみ、金属材料層MLとカーボン層CLとの間に透明導電性酸化物層OLを挿入している。その代わりに、有機EL素子OLED2及びOLED3においてのみ、金属材料層MLとカーボン層CLとの間に透明導電性酸化物層OLを挿入してもよい。
【0067】
図4では、有機EL素子OLED1乃至OLED3の発光色は、それぞれ、青、緑、赤色である。有機EL素子OLED1乃至OLED3の発光色を、赤、青、緑色の中で変更可能である。また、有機EL素子OLED1乃至OLED3の発光色として、他の色を採用してもよい。
【0068】
図3及び図4には、図1の有機EL素子OLEDを上面発光型の有機EL表示装置に適用した例を示したが、図1の有機EL素子OLEDは下面発光型の有機EL表示装置でも使用可能である。また、図2には、画素回路に映像信号として電流信号を書き込む有機EL表示装置を示したが、図1の有機EL素子OLEDは、画素回路に映像信号として電圧信号を書き込む有機EL表示装置で使用することも可能である。さらに、図2にはアクティブマトリクス駆動方式の有機EL表示装置を示したが、図1の有機EL素子OLEDは、パッシブマトリクス駆動方式やセグメント駆動方式などの他の駆動方式の有機EL表示装置でも使用可能である。
【実施例】
【0069】
以下、本発明の実施例について説明する。
(素子Aの製造)
図5は、有機EL素子の一例を概略的に示す断面図である。
この有機EL素子OLEDを、以下の方法により製造した。
【0070】
まず、ガラス基板SUB上に、アルミニウムからなる金属材料層MLを形成した。次に、スパッタリングにより、金属材料層ML上に、厚さ10Åのカーボン層CLを形成した。その後、真空蒸着により、α−NPDからなる厚さ500Åの正孔輸送層HTLと、Alq3からなる厚さ500Åの発光層EMTとを順次形成した。なお、この発光層EMTは、電子輸送層を兼ねている。さらに、マグネシウムと銀との共蒸着により、発光層EMT上に、厚さ150Åの陰極CTを形成した。マグネシウムの蒸着レートと銀の蒸着レートとの比は10:1とした。以上のようにして、図5の有機EL素子OLEDを完成した。以下、この有機EL素子OLEDを素子Aと呼ぶ。
【0071】
次に、不活性雰囲気中で、基板SUBとガラス製の封止基板(図示せず)とを、素子Aが封止基板と向き合うように、紫外線硬化樹脂からなるシール層(図示せず)を介して貼り合わせた。シール層は、素子Aを取り囲む枠形状に形成した。さらに、シール層に紫外線を照射して、紫外線硬化樹脂を硬化させた。以上のようにして、素子Aを封止した。
【0072】
(素子Bの製造)
カーボン層CLの厚さを20Åとしたこと以外は、素子Aについて説明したのと同様の方法により図5の有機EL素子OLEDを製造した。以下、この有機EL素子OLEDを素子Bと呼ぶ。この素子Bも、素子Aに対して行ったのと同様に封止した。
【0073】
(素子Cの製造)
カーボン層CLの厚さを30Åとしたこと以外は、素子Aについて説明したのと同様の方法により図5の有機EL素子OLEDを製造した。以下、この有機EL素子OLEDを素子Cと呼ぶ。この素子Cも、素子Aに対して行ったのと同様に封止した。
【0074】
(素子Dの製造)
カーボン層CLの厚さを50Åとしたこと以外は、素子Aについて説明したのと同様の方法により図5の有機EL素子OLEDを製造した。以下、この有機EL素子OLEDを素子Dと呼ぶ。この素子Dも、素子Aに対して行ったのと同様に封止した。
【0075】
(素子Eの製造)
カーボン層CLの厚さを75Åとしたこと以外は、素子Aについて説明したのと同様の方法により図5の有機EL素子OLEDを製造した。以下、この有機EL素子OLEDを素子Eと呼ぶ。この素子Eも、素子Aに対して行ったのと同様に封止した。
【0076】
(素子Fの製造)
カーボン層CLの厚さを100Åとしたこと以外は、素子Aについて説明したのと同様の方法により図5の有機EL素子OLEDを製造した。以下、この有機EL素子OLEDを素子Fと呼ぶ。この素子Fも、素子Aに対して行ったのと同様に封止した。
【0077】
(素子Gの製造)
カーボン層CLを省略したこと以外は、素子Aについて説明したのと同様の方法により有機EL素子を製造した。以下、この有機EL素子を素子Gと呼ぶ。この素子Gも、素子Aに対して行ったのと同様に封止した。
【0078】
(素子Hの製造)
カーボン層CLの代わりに厚さ500ÅのITO層を形成したこと以外は、素子Aについて説明したのと同様の方法により有機EL素子を製造した。以下、この有機EL素子を素子Hと呼ぶ。この素子Hも、素子Aに対して行ったのと同様に封止した。
【0079】
(素子性能評価試験)
素子A乃至Hの各々を10mA/cm2の電流密度で駆動し、駆動電圧と輝度と色度とを測定した。その結果を、素子A乃至Hの構成と共に、以下の表1に纏める。また、カーボン層の厚さと駆動電圧との関係を図6に纏める。
【表1】

【0080】
図6は、カーボン層の厚さと駆動電圧との関係の例を示すグラフである。図中、横軸はカーボン層の厚さを示し、縦軸は駆動電圧を示している。また、表1において、「x」及び「y」は、それぞれ、CIE1931表色系における色度座標x及びyを表している。
【0081】
表1及び図6に示すように、素子B乃至Fの駆動電圧は、素子A及びGの駆動電圧と比較して著しく低い。そして、表1に示すように、素子A及びGは発光しなかったのに対し、素子B乃至Fは発光している。この結果は、アルミニウム製の金属材料層からα−NPD製の正孔輸送層への正孔注入が困難であることと、カーボン層が十分に厚ければカーボン層からα−NPD製の正孔輸送層への正孔注入が可能であることとを示している。
【0082】
また、表1に示すように、素子B乃至Fの輝度は、素子Aの輝度と比較して著しく高い。そして、素子B乃至Fの駆動電圧は、素子Aの駆動電圧と比較して低い。すなわち、素子B乃至Fは、低駆動電圧と高輝度とを達成した。
【0083】
(光学シミュレーション)
カーボンは可視光を吸収するため、カーボン層を厚くすると、陽極ANの反射率が低下する。そこで、アルミニウム層とカーボン層との積層体について、光学シミュレーションにより反射率を計算した。その結果を、以下の表2に纏める。
【表2】

【0084】
表2には、青色光の代表値として波長が450nmの光に関する反射率と、緑色光の代表値として波長が500nmの光に関する反射率と、赤色光の代表値として波長が650nmの光に関する反射率とを記載している。表2に示すように、カーボン層の厚さが100nm以下の場合、何れの波長でも、反射率は85%以上である。金の青色光に関する反射率が約40%であることを考慮すると、この反射率は十分に高いといえる。
【0085】
(カーボン層の導電性評価)
スパッタリング法により、ガラス基板上に、厚さ1000Åのアルミニウム層と、厚さ1000Åのカーボン層と、厚さ1000Åのアルミニウム層とを順次形成した。次いで、この三層構造の素子の電圧電流特性を測定した。その結果、カーボン層は、導電性を有しており、アルミニウム層とオーミック接触していることを確認できた。
【0086】
次に、上述したのと同様の方法によりカーボン層を形成し、このカーボン層の比抵抗を測定した。その結果、比抵抗は1.6MΩcmであった。この結果は、カーボン層が十分に薄い場合には、カーボン層は電極の一部として十分に機能し且つそのシート抵抗は十分に大きいことを示している。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明の一態様に係る有機EL素子を概略的に示す断面図。
【図2】図1の有機EL素子を含む表示装置の一例を概略的に示す平面図。
【図3】図2の表示装置に採用可能な構造の一例を概略的に示す断面図。
【図4】図2の有機EL表示装置に採用可能な他の例を概略的に示す断面図。
【図5】有機EL素子の一例を概略的に示す断面図。
【図6】カーボン層の厚さと駆動電圧との関係の例を示すグラフ。
【符号の説明】
【0088】
AN…陽極、AS…アレイ基板、C…キャパシタ、CL…カーボン層、CS…封止基板、CT…陰極、DE…ドレイン電極、DL…映像信号線、DP…表示パネル、DR…駆動トランジスタ、EMT…発光層、ETL…電子輸送層、G…ゲート、GI…ゲート絶縁膜、HTL…正孔輸送層、II…層間絶縁膜、ML…金属材料層、ND1…電源端子、ND1’…定電位端子、ND2…電源端子、OLED…有機EL素子、OLED1…有機EL素子、OLED2…有機EL素子、OLED3…有機EL素子、ORG…有機物層、PI…隔壁絶縁層、PS…パッシベーション膜、PSL…電源線、PX…画素、SC…半導体層、SE…ソース電極、SL1…走査信号線、SL2…走査信号線、SS…シール層、SUB…基板、SWa…スイッチングトランジスタ、SWb…スイッチングトランジスタ、SWc…スイッチングトランジスタ、UC…アンダーコート層、XDR…映像信号線ドライバ、
YDR…走査信号線ドライバ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光反射性の陽極と、光透過性の陰極と、前記陽極と前記陰極との間に介在した発光層とを具備し、前記陽極は、光反射性の金属材料層と、前記金属材料層と前記発光層との間に介在した厚さが2nm以上のカーボン層とを含んだことを特徴とする有機EL素子。
【請求項2】
前記カーボン層の厚さは3nm乃至10nmの範囲内にあることを特徴とする請求項1に記載の有機EL素子。
【請求項3】
前記金属材料層はアルミニウムからなることを特徴とする請求項1に記載の有機EL素子。
【請求項4】
発光色が互いに異なる第1及び第2画素を具備し、
前記第1及び第2画素の各々は、光反射性の陽極と、光透過性の陰極と、前記陽極と前記陰極との間に介在した発光層とを備えた有機EL素子を含み、
前記第1及び第2画素の各々において、前記陽極は、光反射性の金属材料層と、前記金属材料層と前記発光層との間に介在した厚さが2nm以上のカーボン層とを含んだことを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項5】
前記第1画素において、前記カーボン層は前記金属材料層と接触し、
前記第2画素において、前記陽極は、前記金属材料層と前記カーボン層との間に介在した透明導電性酸化物層をさらに含んだことを特徴とする請求項4に記載の有機EL表示装置。
【請求項6】
前記第1画素の前記カーボン層は、前記第2画素の前記カーボン層と繋がっていることを特徴とする請求項4に記載の有機EL表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−124073(P2008−124073A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−303037(P2006−303037)
【出願日】平成18年11月8日(2006.11.8)
【出願人】(302020207)東芝松下ディスプレイテクノロジー株式会社 (2,170)
【Fターム(参考)】