説明

有機EL素子

【課題】無機窒化物のパッシベーション性と平坦化層への良好な密着性を兼ね備えたパッシベーション膜を有する有機EL素子を提供する。
【解決手段】透明基板と、前記透明基板上に設けられた1つまたは複数種の色変換フィルタ層と、前記色変換層を覆って形成された平坦化層と、前記平坦化層上に形成されたパッシベーション膜とを備えた有機EL素子であって、前記パッシベーション膜の平坦化層に接する面が窒素比率(窒素/窒素+酸素)0.1〜0.5の酸窒化物からなり、平坦化層と接する面と反対側の面が窒化物からなることを特徴とする有機EL素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機EL素子に関し、より詳しくは、優れたパッシベーション性を示し、かつ、平坦化層との密着性に優れたパッシベーション膜を有する有機EL素子に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示素子等に対して視野角依存性および高速応答性などに優れた、有機分子の薄膜積層構造を有し、印加電圧10Vで、1000cd/m2以上の高輝度で発光する積層型有機エレクトロルミネセンス(以下、有機ELと称する)素子が、Tangらによって報告されて以来、有機EL素子は実用化に向けての研究が活発に行われている(例えば、非特許文献1参照。)。
【0003】
1997年11月にパイオニア社によって、車搭載用の緑色モノクロ有機ELディスプレイが製品化されて以来、多様化する社会のニーズに応えるべく、長期安定性および高速応答性を有し、多色表示または高精細なフルカラー表示が可能な有機ELディスプレイの実用化が急がれている。
【0004】
有機ELディスプレイのマルチカラー化またはフルカラー化の方法の1例は、赤、緑、青(以下、RGBと略す。)の3原色の発光体をマトリクス状に分離配置し、それぞれ発光させる方法である。RGBの3色を発光させるためにはカラーフィルタないし色変換層(以下、あわせて色変換フィルタ層という。)をフォトプロセスで形成する。
【0005】
色変換フィルタ層は、樹脂中に色変換用の色素を分散したものである。ここで、混合する色素の熱安定性の問題から200℃を超える温度での色変換フィルタ層の乾燥を行えないことから、色変換フィルタ層中に、塗布液中に含有される水分またはパターン形成工程中に混入した水分が含有される可能性が高い。
【0006】
また、色変換層を形成する際、RGB各色の色変換フィルタ層は有機EL層からの光をそれぞれの色に効率よく変換するために12μm程度の厚さにする必要がある。また、色のにじみを防止するために、各色変換フィルタ層間の重なりがないようにする必要がある。例えば、70dpiの場合、RGBのサブピクセル(RGBの各単色の画素)は120μm間隔で並ぶことになり、色のにじみを防止するためにRGBの各色変換フィルタ層を約10μm離して形成する必要がある。その結果、サブピクセル間に幅10μm、深さ10μmの溝が形成される。
【0007】
この上に透明電極や有機EL層を形成するためには、この溝を埋めて平坦化するために平坦化層が設けられる。平坦化層はアクリル樹脂などの透明な有機樹脂が用いられている。
【0008】
この平坦化層も平坦化層形成後には色変換フィルタ層の色素の熱安定性の問題から充分高温で乾燥することができず、平坦化層に水分が含有される可能性が高い。
【0009】
有機EL素子には、一定期間の駆動により電流−輝度特性が低下するという課題を有している。
【0010】
この発光特性の低下原因の代表的なものは、ダークスポット(発光欠陥点)の成長である。駆動時および保存中に酸化が進むとダークスポットの成長が進み、発光面全体に広がる。このダークスポットは、素子中の酸素または水分により、素子を構成する積層材料の酸化または凝集によるものと考えられている。その成長は、通電中はもちろん、保存中にも進行し、特に素子の周囲に存在する酸素または水分により加速されると考えられている。
【0011】
すなわち、上述の色変換フィルタ層や平坦化層に残留している微量の水分が有機EL層へ拡散するとダークスポットの発生原因となる。これを防止するため、厚さ200〜300nmのパッシベーション膜が設けている。
パッシベーション膜としては酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化チタンなどの透明無機酸化物からなる膜(例えば、特許文献1参照。)、窒化酸化珪素などの無機酸窒化物からなる膜(例えば、特許文献2参照。)などをスパッタ法やCVDで形成したものが用いられている。
【0012】
パッシベーション膜は無機物であり、平坦化層は有機物であるので、通常は親和性に乏しく密着性に劣る。そこで、パッシベーション膜と平坦化層の密着性を確保するため、平坦化層の上にパッシベーション膜を形成する前に、平坦化層表面に紫外線を照射して平坦化層の表面に酸素や水酸基を導入することにより改質している。
【0013】
【特許文献1】特開平8−279394号公報
【特許文献2】特開2003−297551号公報
【非特許文献1】C. W. Tang, S. A. VanSlike, Appl. Phys. Lett. 51, 913 (1987)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
紫外線を照射することにより平坦化層表面に酸素や水酸基を導入すると、無機酸化物からなるパッシベーション膜とは親和性がよいので良好な密着性を得ることができるが、酸化珪素をはじめとする無機酸化物は酸素や水分を通しやすく、無機酸化物からなるパッシベーション膜はパッシベーション性に劣る。
【0015】
無機窒化物はパッシベーション性に優れるが、酸素や水酸基を表面に有する有機層との密着性が不充分で後工程のフォトプロセスで剥離が生じやすいという問題がある。
【0016】
無機酸窒化物からなるパッシベーション膜はその酸素濃度が高ければ酸素や水酸基を表面に有する有機層との密着性が良好となるが、無機酸化物ほどではないにしてもやはりパッシベーション性に若干劣るという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明はこのような状況に鑑みなされたものであり、無機窒化物のパッシベーション性と平坦化層への良好な密着性を兼ね備えたパッシベーション膜を有する有機EL素子を提供することを目的とする。
【0018】
すなわち、本発明の有機EL素子は、透明基板と、前記透明基板上に設けられた1つまたは複数種の色変換フィルタ層と、前記色変換層を覆って形成された平坦化層と、前記平坦化層上に形成されたパッシベーション膜とを備えた有機EL素子であって、前記パッシベーション膜の平坦化層に接する面が窒素比率(窒素/窒素+酸素)0.1〜0.5の酸窒化物からなり、平坦化層と接する面と反対側の面が窒化物からなることを特徴とする。
【0019】
このような有機EL素子の1実施態様として、前記パッシベーション膜が平坦化層に接する第1のパッシベーション層と第1のパッシベーション層を介して平坦化層に接する第2のパッシベーション層とからなり、第1のパッシベーション層が窒素比率(窒素/窒素+酸素)0.1〜0.5の酸窒化物からなり、第2のパッシベーション層が窒化物からなるものを挙げることができる。
【0020】
また、他の実施態様の一例として、前記パッシベーション膜の平坦化層に接する面が窒素比率(窒素/窒素+酸素)0.1〜0.5の酸窒化物からなり、平坦化層に接する面とは反対側の面が窒化物からなり、パッシベーション層の厚み方向の少なくとも一部において、平坦化層から離れるにつれて窒素/酸素比が高くなる組成分布を有するものを挙げることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、パッシベーション膜と平坦化層の密着性を維持しつつ、優れたパッシベーション性能をも確保することができるため、有機EL素子の発光特性低下の原因となる色変換フィルタ層から有機EL素子への水分および酸素の移動を抑制して、長期にわたって安定した発光特性を維持することができるカラー有機ELディスプレイの提供が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の有機EL素子は色変換フィルタの上に透明電極および反射電極に挟持された有機EL層が形成されている。
色変換フィルタは、透明基板上に、所定のパターンを有する3種(赤色、緑色および青色)の色変換フィルタ層(R,G,B)が形成され、それら3種の色変換フィルタ層が一組となってマトリクス状に配置されている。色変換フィルタ層を覆って、その上面を平坦化する平坦化層が形成され、平坦化層の上にパッシベーション膜が形成されている。以下、各層について詳細に述べる。
【0023】
(透明基板)
透明基板は、可視光(波長400〜700nm)に対して透明であり、積層される層の形成に用いられる条件(溶媒、温度等)に耐えるものであり、寸法安定性に優れていることが好ましい。好ましい透明基板は、ガラス基板、およびポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂(ポリエチレンテレフタレートを含む)、ポリカーボネート樹脂、またはポリイミド樹脂などの樹脂で形成された剛直性の樹脂基板を含む。あるいはまた、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂(ポリメチルメタクリレートを含む)、ポリエステル樹脂(ポリエチレンテレフタレートを含む)、ポリカーボネート樹脂、またはポリイミド樹脂などから形成される可撓性フィルムを、透明基板として用いてもよい。
【0024】
(色変換フィルタ層)
色変換フィルタ層は、カラーフィルタ層、色変換層、またはカラーフィルタ層と色変換層との積層体から構成される。カラーフィルタ層は、色変換の機能を持たず、選択される範囲の波長の光を透過させて、出力される光の色純度を向上させる層である。カラーフィルタ層と色変換層との積層体を使用する場合、通常は透明基板と色変換層との間にカラーフィルタ層が配置される。カラーフィルタ層は、液晶ディスプレイなどにおいて用いられている材料など当該技術において知られている任意の材料を用いて形成することができる。
【0025】
色変換層は、色変換色素とマトリクス樹脂からなる層である。色変換色素は、入射光の波長分布変換を行って、異なる波長域の光を放射する色素であり、好ましくは有機発光層からの近紫外光または青色〜青緑色の光の波長分布変換を行って、所望の波長域の光(たとえば、青色、緑色または赤色)を放射する色素である。
【0026】
本発明における色変換色素は、発光体から発せられる近紫外領域ないし可視領域の光、特に青色ないし青緑色領域の光を吸収して異なる波長の可視光を蛍光として発光するものである。好ましくは、少なくとも赤色領域の蛍光を発する蛍光色素の1種類以上を用い、さらに緑色領域の蛍光を発する蛍光色素の1種類以上と組み合わせてもよい。
【0027】
すなわち、光源として青色ないし青緑色領域の光を発光する有機EL素子を用いる場合、該素子からの光を単なる赤色フィルタに通して赤色領域の光を得ようとすると、元々赤色領域の波長の光が少ないために極めて暗い出力光になってしまう。これに対して、該素子からの青色ないし青緑色領域の光を、赤色変換層中の色変換色素によって赤色領域の光に変換することにより、十分な強度を有する赤色領域の光の出力が可能となる。したがって、本発明において、赤色変換フィルタ層は、好ましくは色変換層から構成され、さらに好ましくはカラーフィルタ層と色変換層との積層体から構成される。
【0028】
一方、緑色領域の光は、赤色領域の光と同様に、該素子からの光を別の色変換色素によって緑色領域の光に変換させて出力してもよい。あるいはまた、該素子の発光が緑色領域の光を十分に含むならば、該素子からの光を単に緑色フィルタを通して出力してもよい。さらに、青色領域の光に関しては、有機EL素子の光を単なる青色フィルタに通して出力させることが可能である。
【0029】
発光体から発せられる青色から青緑色領域の光を吸収して、赤色領域の蛍光を発する蛍光色素としては、例えばローダミンB、ローダミン6G、ローダミン3B、ローダミン101、ローダミン110、スルホローダミン、ベーシックバイオレット11、ベーシックレッド2などのローダミン系色素、シアニン系色素、1−エチル−2−[4−(p−ジメチルアミノフェニル)−1,3−ブタジエニル]−ピリジニウムパークロレート(ピリジン1)などのピリジン系色素、あるいはオキサジン系色素などが挙げられる。さらに、各種染料(直接染料、酸性染料、塩基性染料、分散染料など)も蛍光性があれば使用することができる。
【0030】
発光体から発せられる青色ないし青緑色領域の光を吸収して、緑色領域の蛍光を発する蛍光色素としては、例えば3−(2’−ベンゾチアゾリル)−7−ジエチルアミノ−クマリン(クマリン6)、3−(2’−ベンゾイミダゾリル)−7−ジエチルアミノ−クマリン(クマリン7)、3−(2’−N−メチルベンゾイミダゾリル)−7−ジエチルアミノ−クマリン(クマリン30)、2,3,5,6−1H,4H−テトラヒドロ−8−トリフルオロメチルキノリジン(9,9a,1−gh)クマリン(クマリン153)などのクマリン系色素、あるいはクマリン色素系染料であるベーシックイエロー51、さらにはソルベントイエロー11、ソルベントイエロー116などのナフタルイミド系色素などが挙げられる。さらに、各種染料(直接染料、酸性染料、塩基性染料、分散染料など)も蛍光性があれば使用することができる。
【0031】
なお、本発明に用いる色変換色素を、ポリメタクリル酸エステル、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、アルキッド樹脂、芳香族スルホンアミド樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂およびこれらの樹脂混合物などに予め練り込んで顔料化して、有機色変換顔料としてもよい。また、これらの色変換色素や有機色変換顔料(本明細書中で、前記2つを合わせて色変換色素と総称する)は単独で用いてもよく、蛍光の色相を調整するために2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
本発明に用いる色変換色素は、色変換層に対して、該色変換層の重量を基準として0.01〜5質量%、より好ましくは0.1〜2質量%含有される。もし色変換色素の含有量が0.01質量%未満ならば、十分な波長変換を行うことができず、あるいは含有量が5%を越えるならば、濃度消光等の効果により色変換効率の低下をもたらす。
【0033】
本発明の色変換層に用いられるマトリクス樹脂は、光硬化性または光熱併用型硬化性樹脂(レジスト)を光および/または熱処理して、ラジカル種またはイオン種を発生させて重合または架橋させ、不溶不融化させたものであり、通常、有機EL素子の色変換層に用いられるものであればいずれも用いることができる。
【0034】
(平坦化層)
平坦化層は、色変換フィルタ層の機能を損なうことなく形成することができ、かつ適度な弾力性を有する材料から形成することができる。好ましい材料は、可視域における透明性が高く(400〜800nmの範囲で透過率50%以上)、表面硬度が鉛筆硬度2H以上であり、100℃以上のTgを有し、色変換フィルタ層上に平滑な塗膜を形成することができ、色変換層の機能を低下させないポリマー材料である。
【0035】
このようなポリマー材料の例としては、アクリル樹脂、イミド変性シリコーン樹脂、無機金属化合物(TiO、Al、SiO等)をアクリル、ポリイミド、シリコーン樹脂等の中に分散した材料、アクリレートモノマー/オリゴマー/ポリマーの反応性ビニル基を有した樹脂、レジスト樹脂、フッ素系樹脂などの熱硬化性樹脂を挙げることができる。
【0036】
平坦化層のパッシベーション膜が接する側の表面は、パッシベーション膜成膜前に紫外線処理されていることが好ましい。この紫外線処理により、酸素含有雰囲気中で紫外線を照射して平坦化層を形成している有機樹脂の表面の炭素原子と水素の結合を切断して、雰囲気中の酸素と反応させて、平坦化層表面の炭素原子に酸素ないし水酸基を結合させた状態にする。
【0037】
この紫外線処理としては、酸素含有雰囲気で低圧水銀ランプ、あるいはエキシマランプを用いて紫外線を照射する方法を例示できる。
【0038】
(パッシベーション層)
本発明においては、この平坦化層の上にパッシベーション膜が形成されている。このパッシベーション膜は、その平坦化層に接する面が窒素比率(窒素/窒素+酸素)0.1〜0.5の酸窒化物からなり、平坦化層と接する面と反対側の面が窒化物からなっている。パッシベーション膜の膜厚は可視域における透明性を有する限り厚くすることができるが、通常200〜300nmの範囲内である。
【0039】
パッシベーション膜の平坦化層に接する面が窒素比率0.1〜0.5の酸窒化物からなっているので、パッシベーション膜の平坦化層への密着性が良好となる。窒素比率が0.5を超えるとパッシベーション膜の平坦化層への密着性が低下する。一方、窒素比率が0.1未満になると、パッシベーション膜のパッシベーション効果が低下する。
【0040】
パッシベーション膜の平坦化層と接する面と反対側の面が酸化物や酸窒化物であるとパッシベーション効果が低下する。
【0041】
本発明におけるパッシベーション膜としては、平坦化層に接する第1のパッシベーション層と第1のパッシベーション層を介して平坦化層に接する第2のパッシベーション層とからなり、第1のパッシベーション層が窒素比率(窒素/窒素+酸素)0.1〜0.5の酸窒化物からなり、第2のパッシベーション層が窒化物からなっていてもよい。
【0042】
この場合、第1のパッシベーション層の厚みは、平坦化層への密着性とパッシベーション効果の観点から、20〜50nmであることが好ましい。また、第2のパッシベーション層の厚みはパッシベーション効果の観点から、250nm以上であることが好ましい。
【0043】
また、本発明におけるパッシベーション膜としては、パッシベーション膜の平坦化層に接する面が窒素比率(窒素/窒素+酸素)0.1〜0.5の酸窒化物からなり、平坦化層に接する面とは反対側の面が窒化物からなり、パッシベーション層の厚み方向の少なくとも一部において、平坦化層から離れるにつれて窒素/酸素比率が高くなる組成分布を有していてもよい。
【0044】
この場合、窒素比率が0.1〜0.5である酸窒化物からなる層の厚みは、平坦化層への密着性とパッシベーション効果の観点から、20〜100nmであることが好ましい。また、窒化物からなる層の厚みはパッシベーション効果の観点から、200nm以上であることが好ましい。
【0045】
パッシベーション層を構成する酸窒化物、窒化物としては、水蒸気および酸素に対して10−13cc・cm/cm・s・cmHg以下のガス透過係数(JIS K7126:1987の気体透過度試験方法による)を有するものであればどのようなものも用いることができるが、珪素、チタン、アルミニウム、ガリウム及びインジウムから選ばれる1種以上の酸窒化物、窒化物が好ましい。このパッシベーション膜は例えば、RFマグネトロンスパッタ装置を用い、酸窒化物、窒化物を構成する金属をスパッタターゲットとして、スパッタガスにアルゴンと窒素、あるいはアルゴンと酸素と窒素を用いてスパッタすることにより窒化物あるいは酸窒化物が得られる。
【0046】
第1段目でアルゴンと酸素と窒素雰囲気でスパッタを行い、第2段目で窒素とアルゴン雰囲気中でスパッタを行えば、酸窒化物からなる第1のパッシベーション層と、窒化物からなる第2のパッシベーション層とからなるパッシベーション膜が得られ、最初にアルゴンと酸素と窒素雰囲気でスパッタを行い、徐々に酸素濃度を減らし、窒素濃度を増加しながらスパッタを続け、最後は窒素とアルゴン中でスパッタを行うようにすると、平坦化層に接する面が酸窒化物からなり、平坦化層に接する面とは反対側の面が窒化物からなるパッシベーション膜が得られる。
【0047】
(透明電極)
透明電極は、波長400〜800nmの光に対して好ましくは50%以上、より好ましくは85%以上の透過率を有することが好ましい。透明電極は、ITO(In−Sn酸化物)、NESA膜、Sn酸化物、In酸化物、IZO(In−Zn酸化物)、Zn酸化物、Zn−Al酸化物、Zn−Ga酸化物、またはこれらの酸化物に対してF、Sbなどのドーパントを添加した導電性透明金属酸化物を用いて形成することができる。透明電極21は、蒸着法、スパッタ法(反応性スパッタ法を含む)または化学気相堆積(CVD)法を用いて形成され、好ましくはスパッタ法(反応性スパッタ法を含む)を用いて形成される。透明電極は、通常50nm以上、好ましくは50nm〜1μm、より好ましくは100〜300nmの範囲内の厚さを有することが望ましい。複数の部分電極からなる透明電極が必要になる場合には、所望の形状を与えるマスクを用いて複数の部分電極からなる透明電極を形成してもよいし、あるいは、逆テーパー状の断面形状を有する分離隔壁を用いて複数の部分電極からなる透明電極を形成してもよい。
【0048】
透明電極を陽極または陰極のいずれとしても用いることも可能である。透明電極を陰極として用いる場合、有機EL層との界面にバッファ層を設けて、電子注入効率を向上させることが望ましい。バッファ層の材料としては、Li、Na、K、またはCsなどのアルカリ金属、Ba、Srなどのアルカリ土類金属またはそれらを含む合金、希土類金属、あるいはそれら金属のフッ化物などの用いることができるが、それらに限定されるものではない。バッファ層の膜厚は、駆動電圧および透明性等を考慮して適宜選択することができるが、通常の場合には10nm以下であることが好ましい。
【0049】
(有機EL層)
有機EL層は、有機発光層を少なくとも含み、必要に応じて正孔輸送層、正孔注入層、電子輸送層および/または電子注入層を含む。これらの各層は、それぞれにおいて所望される特性を実現するのに充分な膜厚を有して形成される。たとえば、下記のような層構成からなるものが採用される。
(1)有機発光層
(2)正孔注入層/有機発光層
(3)有機発光層/電子注入層
(4)正孔注入層/有機発光層/電子注入層
(5)正孔輸送層/有機発光層/電子注入層
(6)正孔注入層/正孔輸送層/有機発光層/電子注入層
(7)正孔注入層/正孔輸送層/有機発光層/電子輸送層/電子注入層
(上記の構成において、陽極として機能する電極が左側に接続され、陰極として機能する電極が右側に接続される)
【0050】
有機発光層の材料としては、任意の公知の材料を用いることができる。たとえば、青色から青緑色の発光を得るためには、例えば縮合芳香環化合物、環集合化合物、金属錯体(Alqのようなアルミニウム錯体など)、スチリルベンゼン系化合物(4,4’−ビス(ジフェニルビニル)ビフェニル(DPVBi)など)、ポルフィリン系化合物、ベンゾチアゾール系、ベンゾイミダゾール系、べンゾオキサゾール系などの蛍光増白剤、芳香族ジメチリディン系化合物などの材料が好ましく使用される。あるいはまた、ホスト化合物にドーパントを添加することによって、種々の波長域の光を発する有機発光層を形成してもよい。ホスト化合物としては、ジスチリルアリーレン系化合物(たとえば出光興産製IDE−120など)、N,N’−ジトリル−N,N’−ジフェニルビフェニルアミン(TPD)、アルミニウムトリス(8−キノリノラート)(Alq)等を用いることができる。ドーパントとしては、ペリレン(青紫色)、クマリン6(青色)、キナクリドン系化合物(青緑色〜緑色)、ルブレン(黄色)、4−ジシアノメチレン−2−(p−ジメチルアミノスチリル)−6−メチル−4H−ピラン(DCM、赤色)、白金オクタエチルポルフィリン錯体(PtOEP、赤色)などを用いることができる。
【0051】
正孔注入層の材料としては、Pc類(CuPcなどを含む)またはインダンスレン系化合物などを用いることができる。正孔輸送層は、トリアリールアミン部分構造、カルバゾール部分構造、オキサジアゾール部分構造を有する材料を用いて形成することができる。用いることができる材料は、好ましくは、TPD、α−NPD、MTDAPB(o−,m−,p−)、m−MTDATAなどを含む。
【0052】
電子輸送層の材料としては、Alqのようなアルミニウム錯体;PBD、TPOBのようなオキサジアゾール誘導体;TAZのようなトリアゾール誘導体;以下に示す構造を有するもののようなトリアジン誘導体;フェニルキノキサリン類;BMB−2Tのようなチオフェン誘導体などを用いることができる。電子注入層の材料としては、Alqのようなアルミニウム錯体、あるいはアルカリ金属ないしアルカリ土類金属をドープしたアルミニウムのキノリノール錯体などを用いることができる。
【0053】
有機EL層を構成するそれぞれの層は、蒸着(抵抗加熱または電子ビーム加熱)などの当該技術において知られている任意の手段を用いて形成することができる。
【0054】
(反射電極)
反射電極は、高反射率の金属、アモルファス合金、微結晶性合金を用いて形成されることが好ましい。高反射率の金属は、Al、Ag、Mo、W、Ni、Crなどを含む。高反射率のアモルファス合金は、NiP、NiB、CrPおよびCrBなどを含む。高反射率の微結晶性合金は、NiAlなどを含む。反射電極を、陰極として用いてもよいし、陽極として用いてもよい。反射電極を陰極として用いる場合には、反射電極と有機EL層との界面に、前述のバッファ層を設けて有機EL層に対する電子注入の効率を向上させてもよい。あるいはまた、反射電極を陰極として用いる場合、前述の高反射率金属、アモルファス合金または微結晶性合金に対して、仕事関数が小さい材料であるリチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、カルシウム、マグネシウム、ストロンチウムなどのアルカリ土類金属を添加して合金化し、電子注入効率を向上させることができる。反射電極を陽極として用いる場合には、反射電極と有機EL層との界面に、前述の導電性透明金属酸化物の層を設けて有機EL層に対する正孔注入の効率を向上させてもよい。
【0055】
反射電極は、用いる材料に依存して、蒸着(抵抗加熱または電子ビーム加熱)、スパッタ、イオンプレーティング、レーザーアブレーションなどの当該技術において知られている任意の手段を用いて形成することができる。複数の部分電極からなる反射電極が必要になる場合には、所望の形状を与えるマスクを用いて複数の部分電極からなる反射電極を形成してもよいし、あるいは、逆テーパー状の断面形状を有する分離隔壁を用いて複数の部分電極からなる反射電極を形成してもよい。
【実施例】
【0056】
(実施例1)
透明基板としてのコーニングガラス(50×50×1.0mm)上に、常法によりそれぞれ幅0.1mm、ピッチ0.33mm、および膜厚12μmの複数のストライプからなる青色変換フィルタ層、緑色変換フィルタ層、赤色変換フィルタ層を形成した。
【0057】
RGB各色の色変換フィルタ層が形成された基板の上に、UV硬化型樹脂(エポキシ変性アクリレート)をスピンコート法にて塗布して、色変換フィルタ層上の平坦化層の厚みが5μmとなるように平坦化層を形成した。この際に、各色の色変換フィルタ層のパターンの変形はなく、かつ平坦化層の上面は平坦であった。この平坦化層の表面に185nmの波長で、150mJ/cmの紫外線を低圧水銀ランプで照射して表面改質を行った。ESCAの分析により、紫外線照射処理前には平坦化層表面の炭素は水素と結合していたのに対し、紫外線照射後には、表面の炭素が酸素もしくは水酸基と結合していることが確認された。
【0058】
紫外線照射後速やかに基板をスパッタ装置に戴置し、スパッタガスとして酸素と窒素の混合ガスとアルゴンガスの分圧比を1:3とし、酸素と窒素の混合ガス中の窒素比率(窒素+酸素=10)を0から10までの範囲におけるいくつかの点において、スパッタ圧力0.6Pa、スパッタパワー密度4W/cmで酸窒化珪素からなる第1のパッシベーション層を厚さ20nm形成した。次いで酸素ガスの供給を停止してスパッタガスを窒素ガスとアルゴンガスの分圧比1:3のガスとし、スパッタ圧力0.6Pa、スパッタパワー密度4W/cmで窒化珪素からなる第2のパッシベーション層を厚さ280nm形成した。
【0059】
得られたパッシベーション膜の平坦化層に対する密着性を碁盤目試験(JIS K5400)で評価した。この評価は、各窒素比率のものにつき、再現性を含め基板3枚の各3箇所ずつ、合計9箇所を測定して平均を求めた。
【0060】
そのときの密着性の評価基準を以下に示す。
10:切り傷1本ごとが、細かくて両側が滑らかで、切り傷の交点と正方形の一目一目にはがれがない。
8:切り傷の交点にわずかなはがれがあって、正方形の一目一目にはがれがなく、欠損部の面積は全正方形面積の5%以内。
6:切り傷の両側と交点にはがれがあって、欠損部の面積は全正方形面積の5〜15%。
4:切り傷によるはがれの幅が広く、欠損部の面積は全正方形面積の15〜35%。
2:切り傷による幅は4点よりも広く、欠損部の面積は全正方形面積の35〜65%。
0:はがれの面積は、全正方形面積の65%以上。
【0061】
その結果を図1に示す。図1に示すように、第1のパッシベーション層形成時の酸素と窒素の混合ガス中の窒素比率0〜7までは密着性が8点以上であり、実用性に耐えるものであった。
【0062】
また、得られたパッシベーション膜の第1のパッシベーション層の酸窒化珪素の窒素比率(窒素/窒素+酸素)で密着性の評価結果をプロットしたところ、図2に示すように、酸窒化珪素の窒素比率が0.5以下のとき密着性が8点以上となり、0.5を超えたものは密着性が不充分となった。
【0063】
また、Siウエハー上に上記と同様のスパッタ条件で各組成の酸窒化珪素からなる厚み20nmの第1のパッシベーション層、窒化ケイ素からなる厚み280nmの第2のパッシベーション層からなるパッシベーション膜を形成した。
これらのパッシベーション膜付きSiウエハーを75℃に加温した10%水酸化カリウム水溶液に30分間浸漬し、Siウエハーに生じたエッチピット数を計測した。その結果、第1のパッシベーション層形成時の酸素と窒素の分圧比が6:4〜0:10間ではエッチピット数が少なくなり、パッシベーション効果が良好であることがわかった。また、得られたパッシベーション膜の第1のパッシベーション層の酸窒化珪素の窒素比率(窒素/窒素+酸素)でパッシベーション効果の評価結果をプロットしたところ、図3に示すように、窒素比率0.1以上でエッチピット数が少なく、良好なパッシベーション効果を示すことがわかった。
【0064】
(実施例2)
実施例1と同様にして得た紫外線処理済み平坦化層を有する基板をスパッタ装置に戴置し、スパッタガスとして酸素と窒素の混合ガスとアルゴンガスの分圧比を1:3、スパッタ圧力0.6Pa、スパッタパワー密度4W/cmでパッシベーション膜を形成した。スパッタ開始当初は窒素と酸素の比を7:3とし、20nm厚まで成膜後、酸素分圧を徐々に下げ、100nmの厚さになったときに酸素分圧が0になるようにして、280nmのパッシベーション膜を形成した。平坦化層に接する面の酸窒化物中の窒素比率は0.5であった。このようにして製作したパッシベーション膜の密着性の評点は8点であった。また、平坦化層を有する基板の代わりにSiウエハーを用いた以外は同様にしてSiウエハー上にパッシベーション膜を形成した。
これらのパッシベーション膜付きSiウエハーを75℃に加温した10%水酸化カリウム水溶液に30分間浸漬し、Siウエハーに生じたエッチピット数を計測したところ、エッチピット数は2であり、パッシベーション効果に優れるものであった。
【0065】
(実施例3)
ターゲットを珪素の代わりにチタン、アルミニウム、ガリウム、インジウムを用いた以外はそれぞれ実施例1、実施例2と同様にして平坦化層を有する基板の上に酸窒化物の窒素比率=0.3の酸窒化物からなる第1のパッシベーション層と窒化物からなる第2のパッシベーション層とで構成されるパッシベーション膜及び平坦化層に接する面が酸窒化物からなり、平坦化層と反対側の面が厚さ180nmの窒化物からなり、その中間は平坦化層から離れるにつれて窒素/酸素比が高くなる組成分布を有するパッシベーション膜を作成して密着性とパッシベーション性に与える平坦化層に接するパッシベーション膜面の窒素比率との関係を調べた。パッシベーションレベルに若干の相違はあったものの、いずれも酸窒化物の窒素比率が0.5以下の場合に良好な密着性を示し、0.1以上の場合に良好なパッシベーション性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明によれば、パッシベーション性に優れしかも平坦化層に対する密着性に優れる有機EL素子を提供できるので、ダークスポットの発生が少なく、長期安定性に優れたカラーディスプレイを提供可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】スパッタ時の酸素窒素混合ガス中の窒素比率(窒素+酸素=10)を変えたときの平坦化層に対する密着性の関係を示す図である。
【図2】第1パッシベーション層中の酸窒化珪素中の窒素比率(窒素/窒素+酸素)と平坦化層に対する密着性の関係を示す図である。
【図3】Siウエハー上のパッシベーション膜の酸窒化物層の窒素比率とエッチピット数の関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板と、前記透明基板上に設けられた1つまたは複数種の色変換フィルタ層と、前記色変換層を覆って形成された平坦化層と、前記平坦化層上に形成されたパッシベーション膜とを備えた有機EL素子であって、前記パッシベーション膜の平坦化層に接する面が窒素比率(窒素/窒素+酸素)0.1〜0.5の酸窒化物からなり、平坦化層と接する面と反対側の面が窒化物からなることを特徴とする有機EL素子。
【請求項2】
前記パッシベーション膜が平坦化層に接する第1のパッシベーション層と第1のパッシベーション層を介して平坦化層に接する第2のパッシベーション層とからなり、第1のパッシベーション層が窒素比率(窒素/窒素+酸素)0.1〜0.5の酸窒化物からなり、第2のパッシベーション層が窒化物からなることを特徴とする請求項1記載の有機EL素子。
【請求項3】
前記パッシベーション膜の平坦化層に接する面が窒素比率(窒素/窒素+酸素)0.1〜0.5の酸窒化物からなり、平坦化層に接する面とは反対側の面が窒化物からなり、パッシベーション層の厚み方向の少なくとも一部において、平坦化層から離れるにつれて窒素/酸素比が高くなる組成分布を有することを特徴とする請求項1記載の有機EL素子。
【請求項4】
前記パッシベーション膜を形成する酸窒化物、窒化物が、珪素、チタン、アルミニウム、ガリウム及びインジウムから選ばれる1種以上の酸窒化物、窒化物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機EL素子。
【請求項5】
平坦化層が有機樹脂からなり、パッシベーション膜に接する表面が紫外線処理されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の有機EL素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−115544(P2007−115544A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−306225(P2005−306225)
【出願日】平成17年10月20日(2005.10.20)
【出願人】(000005234)富士電機ホールディングス株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】