説明

有機EL素子

【課題】視野角の変化に伴って表示光の色相が変化することを抑制可能な有機EL素子を提供する。
【解決手段】透光性の第一電極(陽極)4と、第一電極4上に形成される電荷注入輸送層(正孔注入輸送層)7a及び電荷注入輸送層7a上に形成される発光色の異なる複数の発光層7b,7cを少なくとも有する有機層7と、有機層7上に形成される第二電極(陰極)8と、を有する有機EL素子である。第一電極4及び電荷注入輸送層7aの総膜厚Tが、視野角θに対する表示光の色相の変化が認識されない範囲内であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異なる発光色を示す複数の発光層を有する有機EL素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有機EL素子としては、陽極となるITO(Indium Tin Oxide)等からなる透明電極と、正孔注入層、正孔輸送層、発光層及び電子輸送層等からなる有機層と、陰極となるアルミニウム(Al)等からなる非透光性の背面電極と、を順次積層形成して構成されるものが知られており、例えば、特許文献1に開示されるような、前記発光層として少なくとも2種類以上の異なる発光色を示す発光層を積層してなるものが知られている。かかる有機EL素子は、異なる発光色を示す前記発光層を積層することで混色により所定の色の表示光を得ることができ、例えば青色発光層と黄色発光層とを積層することにより混色によって白色の表示光を得ることができる。
【特許文献1】特開平12−68057号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、かかる有機EL素子を用いた有機ELパネルは、視野角θの変化によって使用者に認識される表示光の色度が大きく変化し、使用者が見る角度によっては表示光が目的とする色相と異なるという問題点があった。かかる問題点は、有機EL素子が複数層の積層構造であることにより前記発光層から発せられる光の光路長が出射方向によって異なり、その結果、光の干渉条件が出射方向によって変化することによって生じるものと考えられる。
【0004】
図6は、前記発光層として黄色発光層と青色発光層と積層形成してなる従来の有機EL素子における視野角θと表示光の色度を示すCIE色度座標との関係を示す図である。なお、視野角θ=0°とは有機EL素子を備えた有機ELパネルの表示面を正面から見た状態である。また、前記従来の有機EL素子はドットマトリクス型の有機EL素子である。また、前記黄色発光層は、例えば出光興産株式会社製のIDE120からなるホスト材料に例えばナフタセン誘導体からなる黄色発光を示す発光材料をドープして形成されており、さらに例えばα−NPD等の正孔輸送性材料を加えられている。前記青色発光層は、前記黄色発光層と同様のホスト材料に例えば出光興産株式会社製のBD102からなる青色発光を示す発光材料をドープして形成されており、さらに前記正孔輸送性材料を加えられている。特性S3が示すように、前記従来の有機EL素子は、0°から50°までの視野角θの変化に対してCIE色度座標のx値及びy値が大きく変化する。特に、視野角θ=0°で白色を示す場合、CIE色度座標のy値が視野角θ=0°である場合の値以下に変化するとその表示光は赤みがかった色となり、色相の変化を使用者が認識しやすく、また、赤色表示への切り換えは一般に警告表示に用いられることが多いため使用者が何らかの警告が表示されたものと誤認するおそれがあるという問題点があった。
【0005】
本発明は、このような問題に鑑み、視野角の変化に伴って表示光の色相が変化することを抑制可能な有機EL素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の有機EL素子は、前記課題を解決するために、透光性の第一電極と、前記第一電極上に形成される電荷注入輸送層及び前記電荷注入輸送層上に形成される発光色の異なる複数の発光層を少なくとも有する有機層と、前記有機層上に形成される第二電極と、を有する有機EL素子であって、前記第一電極及び前記電荷注入輸送層の総膜厚が、視野角に対する表示光の色相の変化が認識されない範囲内であることを特徴とする。
【0007】
本発明の有機EL素子は、前記課題を解決するために、透光性の第一電極と、前記第一電極上に形成される電荷注入輸送層及び前記電荷注入輸送層上に形成される発光色の異なる複数の発光層を少なくとも有する有機層と、前記有機層上に形成される第二電極と、を有する有機EL素子であって、前記第一電極及び前記電荷注入輸送層の総膜厚が、前記総膜厚の減少に対する表示光の色度を示すCIE色度座標のy値の変化量が0以上となる範囲内であることを特徴とする。
【0008】
また、前記第一電極及び前記電荷注入輸送層の総膜厚が、300nm以下であることを特徴とする。
【0009】
また、前記発光層は、電荷輸送材料を含有することを特徴とする。
【0010】
また、前記電荷輸送材料は、前記発光層における濃度が20%以上であることを特徴とする。
【0011】
また、前記発光層より発せられる表示光は、混色によって白色を示すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、異なる発光色を示す複数の発光層を有する有機EL素子に関するものであり、視野角の変化に伴って表示光の色相が変化することを抑制可能となるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、ドットマトリクス型の有機ELパネルに本発明を適用した実施形態を添付の図面に基いて説明する。
【0014】
図1は、ドットマトリクス型の有機ELパネル1を示す図である。有機ELパネル1は、支持基板2上に有機EL素子3が形成されてなるものであり、有機EL素子3の発光を支持基板2側から取り出し、後述する第一の発光層の黄色発光と第二の発光層の青色発光との混色によって白色の表示光を得るものである。また、支持基板2上には有機EL素子3を気密的に覆う封止部材が配設されるが、図1においては封止部材を省略している。
【0015】
支持基板2は、長方形形状の透明ガラス材からなり、電気絶縁性の基板である。
【0016】
有機EL素子3は、図2に示すように、ライン状に複数形成される陽極(第一電極)4と、絶縁層5と、隔壁部6と、有機層7と、ライン状に複数形成される陰極(第二電極)8と、から主に構成され、各陽極4と各陰極8とが交差する個所にて陽極4と陰極8とで有機層7が挟持されてなる複数の発光画素を備える。
【0017】
陽極4は、ITO等の透光性の導電材料からなり、スパッタリング法等の手段によって支持基板2上に前記導電材料を層状に形成した後、フォトリソグラフィー法等によって互いに略平行となるようにライン状に複数形成される。陽極4は、陽極配線部4a及び陽極部4bを有しており、陽極配線部4aは終端部に陽極端子部4cを備える。
【0018】
絶縁層5は、例えばポリイミド系の電気絶縁性材料から構成され、陽極4と陰極8との間に位置するように陽極4上に形成され、陽極部4bを露出させる開口部5aを有するものである。絶縁層5は、両電極4,8の短絡を防止するとともに、有機EL素子1の輪郭を明確にするものである。
【0019】
隔壁部6は、例えばフェノール系の電気絶縁性材料からなり、絶縁層5上に形成される。隔壁部6は、その断面が絶縁層5に対して逆テーパー形状等のオーバーハング形状となるようにフォトリソグラフィー法等の手段によって形成されるものである。また、隔壁部6は、陽極4と直交する方向に等間隔にて複数形成される。隔壁部6は、その上方から蒸着法やスパッタリング法等によって有機層7及び陰極8となる金属膜を形成する場合にオーバーハング形状によって有機層7及び前記金属膜が段切れを起こす構造を得るものである。
【0020】
有機層7は、少なくとも陽極部4b上に位置するべく絶縁層5における窓部5aの形成箇所に対応するように所定の大きさをもって形成されるものであり、図3に示すように、正孔注入輸送層(電荷注入輸送層)7a,第一の発光層7b,第二の発光層7c,電子輸送層7d及び電子注入層7eを蒸着法等の手段によって順次積層形成してなるものである。
【0021】
正孔注入輸送層7aは、陽極4から正孔を取り込むとともに正孔を第一の発光層7bへ伝達する機能を有し、例えばα−NPD等の正孔輸送性材料(電荷輸送性材料)を蒸着法等の手段によって層状に形成してなるものである。
【0022】
第一の発光層7bは、正孔及び電子の輸送が可能であり、正孔移動度が高い正孔輸送性の特性を有する有機材料である例えば出光興産株式会社製のIDE120からなるホスト材料に、正孔注入輸送層7aを構成する前記正孔輸送性材料と、電子と正孔との再結合に反応して発光する機能を有し黄色発光を示す例えばナフタセン誘導体からなる第一の発光材料と、を共蒸着等の手段によって混合し、例えば膜厚20nm程度の層状に形成してなる。また、第一の発光層7bは、層全体における前記正孔輸送性材料の濃度が20%以上となっている。
【0023】
第二の発光層7cは、正孔及び電子の輸送が可能であり、第一の発光層5bと同様の前記ホスト材料に、正孔注入輸送層7aを構成する前記正孔輸送性材料と、電子と正孔との再結合に反応して発光する機能を有し青色発光を示す例えば出光興産株式会社製のBD102からなる第二の発光材料と、を共蒸着等の手段によって混合し、例えば膜厚30nm程度の層状に形成してなる。また、第二の発光層7cは、層全体における前記正孔輸送性材料の濃度が20%以上となっている。
【0024】
電子輸送層7dは、電子を第二の発光層5cへ伝達する機能を有し、例えばキレート系化合物であるアルミキノリノール(Alq3)等の電子輸送性材料を蒸着法等の手段によって膜厚20〜60nmの層状に形成してなる。
【0025】
電子注入層5eは、第二電極6から電子を注入する機能を有し、例えばフッ化リチウム(LiF)等を蒸着法等の手段によって膜厚略1nmの層状に形成してなる。
【0026】
陰極8は、アルミニウム(Al)やマグネシウム銀(Mg:Ag)等の陽極4よりも導電率が高い金属性導電材料を蒸着法等の手段により層状に形成して金属膜を形成し、隔壁部6によってこの金属膜に段切れを生じてライン状に複数形成してなるものである。陰極8は、円弧状の陰極配線部8a及び陽極4の陽極部4bに略直角に交わる(交差する)陰極部8bを有する。また、陰極配線部8aは接続配線部10に電気的に接続されている。接続配線部10は、陽極4とともに形成されるものであり、同一材料のITOからなるものである。また、接続配線部10は、終端部に陰極端子部10aが形成されている。
【0027】
以上のように有機ELパネル1が構成されている。
【0028】
有機EL素子3は、表示面側の第一電極である陽極4の陽極部4b及び正孔注入輸送層7aの膜厚を合わせた総膜厚Tを視野角θに対する表示光の色相の変化が認識されない範囲内とするものである。「視野角θに対する表示光の色相の変化が認識されない」ためには、視野角θに対する表示光のメトリック色相角の変化量が±9°以下(さらに好ましくは±5°以下)の範囲内となることが望ましい。総膜厚Tの具体的範囲としては、総膜厚Tを300nm以下であって、かつ、総膜厚Tの減少に対する表示光の色度を示すCIE色度座標のy値の変化量ΔCIE.yが0以上となる範囲内とする。図4は、有機EL素子3における総膜厚Tの減少と表示光のCIE色度座標との関係を示すものである。なお、有機EL素子3のサイズや駆動条件は図6における前記従来の有機EL素子と同様であり、視野角θは0°で固定されているものとする。図4に示すように、表示光の色度の総膜厚Tの減少に対する依存性を示す特性S1は楕円状の軌跡となる。本願発明者は、表示光の色度の総膜厚Tの減少に対する依存性と表示光の色度の視野角θに対する依存性とに関連性があり、総膜厚Tを総膜厚Tの減少に対する表示光のCIE色度座標のy値の変化量ΔCIE.yが、
ΔCIE.y≧0
となる範囲内とすることによって、視野角θの変化に対して表示光のCIE色度座標のy値が視野角θ=0°での値以下に変化することを抑制できる傾向を見いだした。なお、「総膜厚Tの減少に対する表示光のCIE色度座標のy値の変化量が0以上となる範囲」とは、すなわち総膜厚Tが減少してもCIE色度座標のy値が減少しない範囲であり、図4においてはAで示す範囲(130nm≦T≦190nm)である。なお、かかる範囲は、有機EL素子を構成する有機材料あるいは積層構造等の諸条件によって変動する。
【0029】
図5は、有機EL素子3における陽極4の陽極部4b及び正孔注入輸送層7aの総膜厚Tを300nm以下であって、かつ、総膜厚Tの減少に対する表示光のCIE色度座標のy値の変化量ΔCIE.yが0以上となる範囲内とした場合の視野角θと表示光のCIE色度座標との関係を示す図である。なお、有機EL素子3のサイズや駆動条件は図6における前記従来の有機EL素子と同様であるものとする。特性S2が示すように、視野角θが0°から50°までの範囲で変化する場合であっても表示光のCIE色度座標のy値は視野角θが0°での値以下とならない。したがって、有機EL素子3は、視野角が0°から50°までの範囲で変化する場合であっても白色の表示光が赤みががった色となることがなく、色相の変化を使用者が認識しない程度に抑制することが可能となっている。なお、視野角θが50°以上となる場合であっても同様にCIE色度座標のy値が視野角θ=0°での値以下とならないことが望ましいが、正面方向から表示面を視認する一般的な表示パネルとしては0°から50°までの視野角θの変化に対して上述の効果が得られれば十分に視野角θに対する色相の変化を抑制していると言える。また、総膜厚Tを300nm以下とすることによって、光の出射角度によって生じる光路長の差を低減することができ、視野角θに対する表示光の色度変化量を抑制することができる。なお、有機EL素子3が前記従来の有機EL素子と比較して、視野角θの変化に対して表示光のCIE色度座標のx値及びy値の変化量が低減していることは図5及び図6より明らかである。
【0030】
かかる有機EL素子3は、透光性の陽極4と、陽極4上に形成される正孔注入輸送層7a及び正孔注入輸送層7a上に形成される発光色の異なる第一,第二の発光層7b,7cを少なくとも有する有機層7と、有機層7上に形成される陰極8と、を有し、陽極4及び正孔注入輸送層7aの総膜厚Tを、視野角に対する表示光の色相の変化が認識されない範囲内とするものである。さらに、かかる範囲として、陽極4及び正孔注入輸送層7aの総膜厚Tを、総膜厚Tの減少に対する表示光の色度を示すCIE色度座標のy値の変化量ΔCIE.yが0以上となる範囲内とするものである。
【0031】
かかる特徴を有することにより、有機EL素子3は、特に白色表示を行う場合に、視野角θが変化しても赤みがかった表示色に変化することを抑制でき、視野角θに伴って表示光の色相が変化することを抑制することができる。
【0032】
また、さらに、陽極4及び正孔注入輸送層7aの総膜厚Tを300nm以下とすることによって、光の出射角度によって生じる光路長の差を低減することができ、視野角θに対する表示光の色度変化量を抑制することができる。
【0033】
また、本実施形態はドットマトリクス型の有機EL素子1を備える有機ELパネルに本発明を適用したが、本発明の有機EL素子は、セグメント型の有機EL素子にも適用可能である。
【0034】
また、本実施形態において、有機EL素子3は、第一,第二の発光層7b,7cの2つの発光層を備える構成であったが、本発明における有機EL素子は、三層以上の発光層を備えるものであってもよく、また、1つの発光層に発光色の異なる複数の発光材料を混合するものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施形態である有機ELパネルを示す図。
【図2】同上の有機EL素子を示す拡大断面図。
【図3】同上の有機EL素子を示す拡大断面図
【図4】同上の有機EL素子の総膜厚Tと表示光の色度との関係を示す図。
【図5】同上の有機EL素子の視野角θと表示光の色度との関係を示す図。
【図6】従来の有機EL素子の視野角θと表示光の色度との関係を示す図。
【符号の説明】
【0036】
1 有機ELパネル
2 支持基板
3 有機EL素子
4 陽極(第一電極)
5 絶縁層
6 隔壁
7 有機層
7a 正孔注入輸送層(電荷注入輸送層)
7b 第一の発光層
7c 第二の発光層
7d 電子輸送層
7e 電子注入層
8 陰極(第二電極)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性の第一電極と、前記第一電極上に形成される電荷注入輸送層及び前記電荷注入輸送層上に形成される発光色の異なる複数の発光層を少なくとも有する有機層と、前記有機層上に形成される第二電極と、を有する有機EL素子であって、
前記第一電極及び前記電荷注入輸送層の総膜厚が、視野角に対する表示光の色相の変化が認識されない範囲内であることを特徴とする有機EL素子。
【請求項2】
透光性の第一電極と、前記第一電極上に形成される電荷注入輸送層及び前記電荷注入輸送層上に形成される発光色の異なる複数の発光層を少なくとも有する有機層と、前記有機層上に形成される第二電極と、を有する有機EL素子であって、
前記第一電極及び前記電荷注入輸送層の総膜厚が、前記総膜厚の減少に対する表示光の色度を示すCIE色度座標のy値の変化量が0以上となる範囲内であることを特徴とする有機EL素子。
【請求項3】
前記第一電極及び前記電荷注入輸送層の総膜厚が、300nm以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の有機EL素子。
【請求項4】
前記発光層は、電荷輸送材料を含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の有機EL素子。
【請求項5】
前記電荷輸送材料は、前記発光層における濃度が20%以上であることを特徴とする請求項4に記載の有機EL素子。
【請求項6】
前記発光層より発せられる表示光は、混色によって白色を示すことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の有機EL素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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