説明

有機EL素子

【課題】印加電圧が変化しても白色光を維持する有機EL素子を提供する。
【解決手段】陽極と、陰極と、前記陽極及び前記陰極に挟まれた正孔輸送兼発光層及び電子輸送層とを有してなり、前記正孔輸送兼発光層が、前記陽極から供給された正孔と前記陰極から供給された電子とにより発光する有機EL素子であり、前記正孔輸送兼発光層は、蛍光寿命が50p秒以下であり、第1の発光色を発光する正孔輸送材料と、前記第1の発光色と補色関係にある第2の発光色を発光する発光材料とを有する有機EL素子である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL素子に関し、特に、白色光源として用いられる有機EL素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子は、単色光だけでなく白色光も得ることができ、色調も太陽光のような白、白熱電球のような白等のように必要に応じて設計し、実現することができる発光素子である。このような性能を利用して、有機EL素子は、次世代ディスプレイデバイス、照明機器等への利用の実現に向け、研究、開発が行われている。
【0003】
有機EL素子は、陽極と、陰極と、前記陽極及び陰極に挟まれた発光層とが積層された構成をなす。この有機EL素子の発光原理は、おおむね以下の通りと考えられている。すなわち、まず、陽極から発光層に注入された正孔と陰極から発光層に注入された電子とが、その発光層において再結合することにより、蛍光性有機化合物等の励起子が生成する。次いで、その励起子が失活する際に、エネルギーが光(蛍光、りん光)成分として放出されることにより発光すると考えられている。
【0004】
現在実用化されている主な白色発光の有機EL素子は、白色蛍光を有する有機色素を発光中心として用いたものと、光の三原色である赤、緑、青(RGB)の三色の発光を混合して白色とする素子構造を挙げられる。一般的な白色光は、このRGBの混色になるが、これら三原色を用いなくても、例えば黄色と青の1混色等により白色を得ることができる。フルカラーディスプレイ等の用途ではRGBの混色が必要であるが、照明機器に限ればRGB混色の必要はない。
【0005】
また、蛍光は、モノマーの蛍光、励起分子二量体からの蛍光(エキシマー蛍光、エキシプレックス蛍光)等があり、現在は蛍光、りん光、エキシマー・エキシプレックス蛍光といった様々な発光メカニズムからのアプローチが試みられている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−32629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、有機EL素子は、表示素子やディスプレイにかぎっては既に商品化され、一般市場に流通しているが、照明機器の商品化については未だ初期段階的なものであり、さらに開発の余地があると考えられている。
特に、照明用発光源として用いる場合、一定の色で強度のみが変化しなければいけないが、従来の有機EL素子においては、発光する際、与えるエネルギー(印加電圧)によって発光色が変化してしまう問題があった。
【0008】
そこで、本発明は上記の問題点に着目してなされたものであり、その目的は、印加電圧が変化しても白色光を維持する有機EL素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、フェルスターモデル及びデクスターモデルから導かれる正孔輸送材料と発光材料との組み合わせを有する有機ELが、印加電圧が変化しても、発現する白色光を維持することを知見した。
本発明は、本発明者による前記知見に基づくものであり、上記課題を解決するための本発明の請求項1に係る有機EL素子は、陽極と、陰極と、前記陽極及び前記陰極に挟まれた正孔輸送兼発光層及び電子輸送層とを有してなり、前記正孔輸送兼発光層が、前記陽極から供給された正孔と前記陰極から供給された電子とにより発光する有機EL素子であって、
前記正孔輸送兼発光層は、蛍光寿命が50p秒以下であり、第1の発光色を発光する正孔輸送材料と、前記第1の発光色と補色関係にある第2の発光色を発光する発光材料とを有することを特徴としている。
【0010】
また、請求項2に記載の発明に係る有機EL素子は、請求項1に記載の有機EL素子において、前記正孔輸送兼発光層は、下記構造式(A−1)〜(A−4)から選択される一の正孔輸送材料と、下記構造式(B−1)〜(B−5)から選択される一の発光材料とを有することを特徴としている。
【0011】
【化1】

【0012】
【化2】

【発明の効果】
【0013】
本発明の有機EL素子によれば、正孔輸送兼発光層に正孔輸送材料と発光材料とを有し、前記正孔輸送材料には、蛍光寿命が著しく短い材料を選んだので、電圧が変化しても各波長でのスペクトル比を保ち、結果として白色を維持する有機EL素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態の有機ELの概略構成を示す断面図である。
【図2】本実施形態に用いられる正孔輸送材料及び発光材料のそれぞれの光励起による蛍光スペクトルを示すグラフである。
【図3】本実施形態に用いられる正孔輸送材料及び発光材料のそれぞれの蛍光減衰曲線を示すグラフである。
【図4】実施例1〜5の有機EL素子のELスペクトルを示すグラフである。
【図5】実施例1〜5の有機EL素子のCIE座標を示す図である。
【図6】比較例1〜5の有機EL素子のELスペクトルを示すグラフである。
【図7】比較例1〜5の有機EL素子のCIE座標を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る有機ELの一実施形態について図面を参照して説明する。図1は本実施形態の有機ELの構成を示す断面図である。
(有機EL素子の構成)
図1に示すように、本実施形態の有機EL素子1は、基板50上に形成された陽極2と、陰極7と、陽極2及び陰極7に挟まれた正孔輸送兼発光層4及び電子輸送層5とを少なくとも有する。陽極2と正孔輸送兼発光層4との間には、必要に応じて正孔注入層3が形成される。また、陰極7と電子輸送層5との間には、必要に応じて電子注入層6が形成される。本実施形態の具体的な構成としては、基板50上に形成された陽極2と、正孔注入層3と、正孔輸送兼発光層4と、電子輸送層5と、電子注入層6と、陰極7とがこの順に積層されてなる。
【0016】
<基板>
基板50の材料としては、可視光を透過し、所定の強度を保つ絶縁性材料であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択でき、例えば、ソーダライムガラス、無アルカリガラス等のガラス、透明樹脂等が挙げられる。
基板50の材料として前記ガラスを用いる場合、該ガラスからの溶出イオンを少なくする観点からは、前記無アルカリガラス、シリカなどのバリアコートを施した前記ソーダライムガラスが好ましい。
基板50の厚みとしては、機械的強度を保つのに充分な厚みであれば特に制限はないが、基板50の材料としてガラスを用いる場合には、通常0.2mm以上であり、0.7mm以上が好ましい。
【0017】
<陽極>
陽極2は、正孔注入層3及び/又は正孔輸送兼発光層4に正孔(キャリア)を供給する層である。
陽極2の厚みとしては、特に制限はなく、材料等により適宜選択可能であるが、1〜5000nmが好ましく、20〜200nmがより好ましい。
陽極2の材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、金属、合金、金属酸化物、電気伝導性化合物、これらの混合物などが挙げられ、これらの中でも仕事関数が4eV以上の材料が好ましい。
【0018】
陽極2の材料の具体例としては、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化インジウムスズ(ITO;Indium Tin Oxide)等の導電性金属酸化物、金、銀、クロム、ニッケル等の金属、これらの金属と導電性金属酸化物との混合物又は積層物、ヨウ化銅、硫化銅等の無機導電性物質、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロール等の有機導電性材料、これらとITOとの積層物、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、導電性金属酸化物が好ましく、生産性、高伝導性、透明性などの観点からはITOが特に好ましい。
【0019】
陽極2は、例えば、蒸着法、湿式製膜法、電子ビーム法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、MBE(分子線エピタキシー)法、クラスターイオンビーム法、イオンプレーティング法、プラズマ重合法(高周波励起イオンプレーティング法)、分子積層法、LB法、印刷法、転写法、化学反応法(ゾル−ゲル法など)により該ITOの分散物を塗布する方法、などの上述した方法により好適に形成することができる。
【0020】
陽極2は、洗浄、その他の処理を行うことにより、該有機EL素子の駆動電圧を低下させたり、発光効率を高めることも可能である。前記その他の処理としては、例えば、陽極2の素材がITOである場合には、UV−オゾン処理、プラズマ処理等が好適に挙げられる。
陽極2の抵抗値としては、低い方が好ましく、数百Ω/□以下であるのが好ましい。
【0021】
<正孔注入層>
正孔注入層3は、陽極2と正孔輸送兼発光層4との間のバッファ層として機能する層である。
正孔注入層3の厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、1〜100nm程度が好ましく、5〜50nmがより好ましい。
正孔注入層3を構成する正孔注入材料としては、陽極2から正孔輸送兼発光層4への正孔注入を促進することを目的として中間的なエネルギー準位を有する導電性材料であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択されるが、例えば、下記構造式に示すPEDOT(ポリチオフェン、Poly ethylene dioxy thiophene)が好ましい。
【0022】
【化3】

【0023】
<正孔輸送兼発光層>
正孔輸送兼発光層4は、正孔輸送材料と発光材料とを有してなる。
ここで、有機EL素子におけるエネルギー移動を説明する場合、分光学的によく知られているモデルとして、下記式(1)に示すフェルスターモデル(Forster Model)と、下記式(2)に示すデクスターモデル(Dexter Model)とが挙げられる。
【0024】
【数1】

【0025】
【数2】

【0026】
フェルスターモデルは、励起状態の分子と基底状態の分子との間の励起エネルギー移動が双極子−双極子相互作用によって生じる場合であり、上記式(1)からエネルギーの移動の大きさ(KET)を求めることができる。ここで、式(1)中、νは振動数、f’H(ν)はエネルギードナー分子の蛍光スペクトルで1に規格化されている。また、式(1)中、εGはアクセプター分子の吸収スペクトルで単位はモル吸光係数、Nはアボガドロ数、nは媒体の屈折率、τ0はドナー分子の自然放射寿命、Rはドナーとアクセプター分子間の距離である。また、式(1)中、K2は、ドナー分子とアクセプター分子の遷移双極子モーメントの配向を表す係数で0〜4の値をとる。ランダム配向の場合には2/3である。
【0027】
一方、デクスターモデルは電子交換相互作用による励起エネルギー移動の過程であり、上記式(1)と同様に式(2)からも求めることができる。ここで、式(2)中、Kはエネルギーの次元を持つ定数、Rは分子間距離、Lは実効分子半径である。また蛍光スペクトルf’H(ν)とモル吸光係数ε’Gは共に1に規格化されている。したがって双極子−双極子相互作用の場合とは対照的に速度定数KH*Gアクセプターの遷移モーメントには無関係である。ただしこの場合においても蛍光スペクトルと吸収スペクトルの重なりが大きい方がエネルギー移動の速度は大きくなる。またドナーとアクセプターとの分子間距離に関して指数関数的に減少する。
【0028】
この2つの式から、エネルギーを与える側(ドナー)の寿命の緩和が速く、またドナー及びアクセプター個々の分子間が隣接していれば効率よく発光することがわかる。
本発明者らは、一対の電極と、該一対の電極間に挟まれた発光層とを有してなる有機EL素子において、エネルギーの移動の説明のために従来用いられてきたフェルスターモデル及びデクスターモデルを、発光層(正孔輸送兼発光層)の構成、並びに正孔輸送材料(ドナー)及び発光材料(アクセプター)の選定に用いることで上記目的が解決されることを知見した。
【0029】
具体的には、上記式(1)及び式(2)に基づいて、エネルギーを授受する分子間の距離を隣接させるには、正孔輸送材料と発光材料とが同じ層内に存在することが必須条件であるため正孔輸送兼発光層4をこのような構成とした。
正孔輸送材料としては、蛍光寿命が50p秒以下であるポリマーであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択されるが、例えば、下記構造式(A−1)〜(A−4)に示すポリフルオレン(以下、PFOと呼ぶ。)が好ましい。
【0030】
発光材料としては、正孔輸送材料が発する発光色と補色関係にある発光色を発するモノマーであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択されるが、例えば、下記構造式(B−1)〜(B−5)に示すモノマーが好ましい。
構造式(A−1):Poly(9,9-di-n-dodecylfluorenyl-2,7-diyl)
構造式(A−2):Poly(9,9-di-n-octylfluorenyl-2,7-diyl)
構造式(A−3):Poly(9,9-di-n-hexylfluorenyl-2,7-diyl)
構造式(A−4):Poly[9,9-di-(2'-ethylhexyl)fluorenyl-2,7-diyl]
構造式(B−1):(E)-2-(2-(4-(dimethylamino)styryl)-6-methyl-4H-pyran-4-ylidene)malononitrile
構造式(B−2):4-(Dicyanomethylene)-2-methyl-6-(1,1,7,7,-tetramethyljulolidyl-9-enyl)-4H-pyran
構造式(B−3):4-(Dicyanomethylene)-2-tert-butyl-6-(1,1,7,7,-tetramethyljulolidin-4-yl-vinyl)-4H-pyran
構造式(B−4):4-(Dicyanomethylene)-2-methyl-6-julolidyl-9-enyl-4H-pyran
構造式(B−5):(5,6,11,12)-Tetraphenylnaphthacene
【0031】
【化4】

【0032】
【化5】

【0033】
<電子輸送層>
電子輸送層5は、陰極7からの電子を輸送する機能、及び陽極2から注入された正孔を障壁する機能の少なくともいずれかの機能を有する層である。電子輸送層5は、単層構造であってもよいし、積層構造であってもよい。
電子輸送層5の厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、通常1〜500nm程度であり、10〜50nmが好ましい。
【0034】
電子輸送層5を構成する電子輸送材料としては、上記機能を有する材料であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記アルミニウムキノリン錯体(Alq)等のキノリン誘導体、オキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、フェナントロリン誘導体、ペリレン誘導体、ピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、キノキサリン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、ニトロ置換フルオレン誘導体等が挙げられる。これらの中でも、下記構造式(C−1)〜(C−2)に示すオキサジアゾール(OXD)誘導体が好ましい。
構造式(C−1):1,3-Bis[2-(2,2'-bipyridine-6-yl)-1,3,4-oxadiazo-5-yl]benzene
構造式(C−2):6,6'-Bis[5-(biphenyl-4-yl)-1,3,4-oxadiazo-2-yl]-2,2'-bipyridyl
【0035】
【化6】

【0036】
<電子注入層>
電子注入層6は、陰極7と電子輸送層5との間のバッファ層として機能する層である。
電子注入層6を構成する電子注入材料としては、陰極7から電子輸送層5への電子注入を促進することを目的として中間的なエネルギー準位を有する導電性材料であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択される。電子注入材料の具体例としては、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、及びアルカリハロゲン化物が挙げられる。
【0037】
アルカリ金属は、例えば、Li、Na、K、Csなどを用いることができる。アルカリ土類金属は、例えば、Ca、Sr、Baなどを用いることができる。その他にも、例えば、Mg、La、Ce、Sn、Zn、Zr等のような、アルカリ金属やアルカリ土類金属と特性が近い金属を用いることもできる。上記の金属の中でも、Caは特に低仕事関数であるため非常に好ましい。
【0038】
電子注入層の厚みとしては、電子輸送層5へ充分に電子を注入できる厚さであればよく、0.1〜100nmが好ましく、1.0〜50nmがより好ましい。
電子注入層の材料としてアルカリハロゲン化物を用いる場合、材料は適宜選択できるが、例えば、LiFやCsIなどが好ましい。この場合の電子注入層の厚みとしては、電子輸送層5へ充分に電子を注入できるよう薄いほうが好ましく、10nm以下が好ましく、1nm以下がより好ましい。
【0039】
<陰極>
陰極7は、電子輸送層5及び電子注入層6に電子を供給する層である。
陰極7の材料としては、特に制限はなく、電子輸送層5、又は電子注入層6などの該陰極7と隣接する層又は分子との密着性、イオン化ポテンシャル、安定性等に応じて適宜選択することができ、例えば、金属、合金、金属酸化物、電気伝導性化合物、これらの混合物などが挙げられる。
【0040】
陰極7の材料の具体例としては、アルカリ金属(例えばLi、Na、K、Csなど)、アルカリ土類金属(例えばMg、Caなど)、金、銀、鉛、アルミニウム、ナトリウム−カリウム合金又はそれらの混合金属、リチウム−アルミニウム合金又はそれらの混合金属、マグネシウム−銀合金又はそれらの混合金属、インジウム、イッテルビウム等の希土類金属、これらの合金、などが挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、仕事関数が4eV以下の材料が好ましく、アルミニウム、リチウム−アルミニウム合金又はそれらの混合金属、マグネシウム−銀合金又はそれらの混合金属、などがより好ましい。
【0041】
陰極7の厚みとしては、特に制限はなく、該陰極7の材料等に応じて適宜選択することができるが、1〜10000nmが好ましく、20〜200nmがより好ましい。
陰極7は、例えば、蒸着法、湿式製膜法、電子ビーム法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、MBE(分子線エピタキシー)法、クラスターイオンビーム法、イオンプレーティング法、プラズマ重合法(高周波励起イオンプレーティング法)、分子積層法、LB法、印刷法、転写法、などの上述した方法により好適に形成することができる。陰極7の材料として2種以上を併用する場合には、該2種以上の材料を同時に蒸着し、合金電極等を形成してもよいし、予め調製した合金を蒸着させて合金電極等を形成してもよい。
陰極7の抵抗値としては、低い方が好ましく、数百Ω/□以下であるのが好ましい。
【0042】
(有機EL素子の製造方法)
以上の構成をなす有機EL素子は、以下のようにして作製される。
本実施形態の有機EL素子は、まず、ガラスなどの非導電性の基板50上にITOからなる可視光を透過可能な陽極2をスリットパターニングする。
【0043】
次に、陽極2及び基板50上に正孔注入材料を、スピンコーターを用いて成膜し、乾燥することによって正孔注入層3を形成する。
次に、正孔注入層3上に、等量の正孔輸送材料及び発光材料を有機溶剤で溶解し、スピンコーターを用いて成膜し、乾燥することによって正孔輸送兼発光層4を形成する。
次に、正孔輸送兼発光層4上に、電子輸送材料を用いて真空蒸着法により電子輸送層5を成膜する。
【0044】
次に、電子輸送層5上に、電子注入材料を用いて真空蒸着法により電子注入層6を成膜する。
次に、電子注入層6上に、陰極材料を用いて真空蒸着法により陰極7を成膜して、本実施形態の有機EL素子が作製される。
【実施例】
【0045】
(実施例1)
以下、本発明に係る有機EL素子の実施例について説明する。
まず、ガラス基板50(例えば20mmX20mm)上に可視光を透過可能な陽極2をスリットパターニングした。陽極2の厚みは150nmとした。陽極2の材料としてはITOを用いた。
【0046】
次に、陽極2が形成された基板50上に正孔注入材料を、スピンコーターを用いて5000rpm、90秒で成膜し、約190℃で30分間乾燥させて正孔注入層3形成した。正孔注入層3の厚みは20nmとした。正孔注入材料としては、下記構造式に示すPEDOTを用いた。
【0047】
【化7】

【0048】
次に、正孔注入層3上に、正孔輸送材料及び発光材料をそれぞれ1w%ずつ有機溶剤(THF:テトラヒドロフラン)で溶解し、スピンコーターで5000rpm、50秒で成膜し、乾燥することによって正孔輸送兼発光層4を形成した。正孔輸送兼発光層4の厚みは50nmとした。正孔輸送材料には以下の構造式(A−2)に示すPFO(Poly(9,9-di-n-octylfluorenyl-2,7-diyl)を用いた。また、発光材料には以下の構造式(B−3)に示すDCJTB(4-(Dicyanomethylene)-2-tert-butyl-6-(1,1,7,7-tetramethyljulolidin-4-yl-vinyl)-4H-pyra)を用いた。
【0049】
【化8】

【0050】
【化9】

【0051】
次に、正孔輸送兼発光層4上に、電子輸送材料を用いて真空蒸着法により電子輸送層5を成膜した。電子輸送層5の厚みは30nmとした。電子輸送材料には、以下の構造式(C−1)に示すOXD誘導体(1,3-Bis[2-(2,2'-bipyridine-6-yl)-1,3,4-oxadiazo-5-yl]benzene)を用いた。
【0052】
【化10】

【0053】
次に、電子輸送層5上に、電子注入材料を用いて真空蒸着法により電子注入層6を成膜した。電子注入層6の厚みは1nmとした。電子注入材料としてはLiFを用いた。
次に、電子注入層6上に、陰極材料を用いて真空蒸着法により陰極7を成膜して、実施例1の有機EL素子を作製した。陰極7の厚みは100nmとした。陰極材料としてはAlを用いた。
【0054】
<吸収スペクトルと蛍光スペクトル>
図2(a)は、構造式(A−2)で示されたPFOの光励起による蛍光スペクトルを示すグラフである。また、図2(b)は、構造式(B−3)で示されたDCJTBの光励起による蛍光スペクトルを示すグラフである。図2(a)に示すように、構造式(A−2)で示されたPFOは、励起波長373nmで蛍光スペクトルを観測したところ、ピーク波長が430nmであった。一方、図2(b)に示すように、DCJTBの蛍光スペクトルのピーク波長は580nmであった。図2(a)及び図2(b)に示すように、DCJTBの蛍光スペクトルはPFOの蛍光スペクトルと重なり、エネルギーを与える側と受け取る側のスペクトルが重なりあい、迅速にエネルギー移動が起こることがわかる。
【0055】
<蛍光減衰曲線>
図3(a)は、構造式(A−2)で示されたPFOの励起波長373nmによる蛍光減衰曲線を示すグラフである。また、図3(b)は、構造式(B−3)で示されたDCJTBの励起波長373nmによる蛍光減衰曲線を示すグラフである。図3(a)及び図3(b)に示す蛍光減衰曲線を呈する構造式(A−2)で示されたPFOは、蛍光寿命測定装置(C4780,浜松ホトニクス社製)を用いて蛍光寿命を測定したところ、48p秒であった。
【0056】
(ELスペクトルの電圧依存性)
上述のようにして作製した実施例1の有機EL素子について、陽極2及び陰極に4Vの電圧を印加し、ELスペクトルを測定した。測定結果を図4に示す。
同様に、実施例1の有機EL素子において、印加電圧を5Vとした有機EL素子を実施例2、印加電圧を6Vとした有機EL素子を実施例3、印加電圧を7Vとした有機EL素子を実施例4、印加電圧を8Vとした有機EL素子を実施例5としてELスペクトルを測定した。測定結果を図4に示す。
【0057】
図4に示すように、実施例1〜5の有機EL素子は、430nm付近と580nm付近に2種類のピークが観測された。また、電圧をより多く印加するにつれて発光強度も大きくなった。さらに、印加電圧の増加と共に2つのピークの強度は大きくなるが、両者の強度比は変化していないことが観測された。
【0058】
次に、実施例1〜5のELスペクトルに基づいて、有機ELの発光色をCIE色座標に示した。その結果を図5に示す。図5に示すように、実施例1〜5の有機EL素子の発光色は、電圧が4V〜8V(1mA/cm2〜100mA/cm2に相当)のいずれのときでも、X=0.30、Y=0.33となり、いわゆるピュア・ホワイトであった。また、これらの有機EL素子は、輝度が100cd/m2でCIE座標のX=0.34、Y=0.35を示し、輝度が5500cd/m2でCIE座標のX=0.31、Y=0.33を示した。
【0059】
(比較例1)
上述した実施例1において、正孔輸送兼発光層4を形成する際に用いた正孔輸送材料を下記構造式に示すPVK(正孔輸送材料)に代えると共に、実施例1における発光材料を下記構造式に示すF(Ir)pic及び(BTP)2Ir(ACAC)に代えた以外は、上記実施例1と同様にして比較例1の有機EL素子を作製した。なお、F(Ir)picは青色発光材料であり、(BTP)2Ir(ACAC)は赤色発光材料である。
PVK:poly(9-vinylcarbazolel)
F(Ir)pic:Bis(3,5-Difluoro-2-(2-pyridyl)phenyl-(2-carboxypyridyl)iridium III
(BTP)2Ir(ACAC):Bis(3-(2-(2-pyridyl)benzothenoyl)mono-acelylacetonate iridium III
【0060】
【化11】

【0061】
【化12】

【0062】
【化13】

【0063】
(有機EL素子の電圧依存性)
上述のようにして作製した比較例1の有機EL素子について、陽極2及び陰極に4Vの電圧を印加し、ELスペクトルを測定した。測定結果を図6に示す。
同様に、比較例1の有機EL素子において、印加電圧を5Vとした有機EL素子を比較例2、印加電圧を6Vとした有機EL素子を比較例3、印加電圧を7Vとした有機EL素子を比較例4、印加電圧を8Vとした有機EL素子を比較例5としてELスペクトルを測定した。測定結果を図6に示す。
【0064】
図6に示すように、比較例1〜5の有機EL素子は、470nm付近と630nm付近に2種類のピークが観測された。また、電圧をより多く印加するにつれて発光強度も大きくなった。しかし、印加電圧の増加と共に2つのピークの強度は大きくなるが、両者の強度比は大きく変化することが観測された。
【0065】
次に、比較例1〜5のELスペクトルに基づいて、有機ELの発光色をCIE色座標に示した。その結果を図7に示す。図7に示すように、比較例1〜3(4V〜6V)の有機EL素子の発光色は白色であるが、比較例4(7V)及び比較例5(8V)の有機EL素子の発光色は白色ではなくなった。
図4〜図7に示すように、比較例1〜5の有機EL素子では、印加電圧が4〜6Vのときに発光色が白色であるものの、印加電圧が7〜8Vのときに発光色は白色ではなくなった。これに対し、実施例1〜5の有機EL素子では、印加電圧が4〜8Vで変化しても発光色は白色を維持していた。
【0066】
したがって、正孔輸送材料と発光材料とが特定の組合せからなる正孔輸送兼発光層を有することにより、印加電圧が変化しても白色光を維持することができる有機EL素子を提供することができる。
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明はこれに限定されずに、種々の変更、改良を行うことができる。
【符号の説明】
【0067】
1 有機EL素子
2 陽極
3 正孔注入層
4 正孔輸送兼発光層
5 電子輸送層
6 電子注入層
7 陰極
50 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と、陰極と、前記陽極及び前記陰極に挟まれた正孔輸送兼発光層及び電子輸送層とを有してなり、前記正孔輸送兼発光層が、前記陽極から供給された正孔と前記陰極から供給された電子とにより発光する有機EL素子であって、
前記正孔輸送兼発光層は、蛍光寿命が50p秒以下であり、第1の発光色を発光する正孔輸送材料と、前記第1の発光色と補色関係にある第2の発光色を発光する発光材料とを有することを特徴とする有機EL素子。
【請求項2】
前記正孔輸送兼発光層は、下記構造式(A−1)〜(A−4)から選択される一の正孔輸送材料と、下記構造式(B−1)〜(B−5)から選択される一の発光材料とを有することを特徴とする請求項1に記載の有機EL素子。
【化14】

【化15】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−177462(P2010−177462A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−18604(P2009−18604)
【出願日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】