説明

有機EL素子

【目的】 耐湿効果を損なうことなく薄く形成することができ、且つ製造コストを削減すること。
【構成】 ガラス基板1上に透明電極2、正孔輸送層3、有機物EL層4及び背面電極5を順次積層した後、耐湿性を有する光硬化性樹脂層14を介して非透水性ガラス基板13を固着させた。これにより、図7及び図8に示したように、EL素子の劣化の進行を大幅に抑制するることができ、長寿命化を図ることができる。
【効果】 従来のように、真空引きのために設けられた気密ケース7が不要となるため、有機EL素子自体を薄く形成することができ、しかも気密ケース7の設計加工や真空引き後の封止工程等が不要となるため、有機EL素子の製造コストを大幅に削減することもできる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、電界の印加によって高輝度発光を行う有機EL素子に関する。
【0002】
【従来の技術】機器と人間との媒介を行う情報表示装置の重要性が高まり、各種の表示デバイスが開発されている。現在、大型の機器にはもっぱらブラウン管が使われているが、体積・重量ともに大きく動作電圧も高いので、家庭用の機器や携帯性を重視する小型の機器には適していない。これらの小型機器には、もっと薄く平板状で軽く、その上動作電圧が低く電力消費も少ないデバイスが必要とされている。
【0003】腕時計や電卓には、小型の液晶表示デバイス(LCD)が使われている。動作電圧が低く消費電力も少ないという点を買われて、簡単な小容量表示からスタートしたLCDも最近では、小型の液晶カラーTVやワープロの表示という大容量で複雑なデバイスまで発展し、情報表示デバイスとしての地位を固めてきている。
【0004】このデバイスは自ら発光せず、デバイスを透過する光あるいはデバイスで反射される光を制御して明暗のコントラストを作り、情報を表示するものであるから、大型になってくると、一様にデバイスを照らす特別の光源を用意して見やすくしてやらなければならず、また見る角度によってコントラストが変わるので、ある角度領域内から読み取らないと明瞭な表示が得られないという欠点がある。
【0005】これに対し、自ら光を発するものとしてプラズマ表示パネル(PDP)がある。これは、最初から大容量の平面表示デバイスを目的に開発されたもので、低圧ガス中の放電に伴って生じる発光を利用したものであり、パーソナルコンピュータ等の情報処理装置の表示デバイスとして採用されている。
【0006】更に、自ら光を発するものとして、エレクトロクミネセント(EL)パネルがある。これは、完全固体で自発光性の薄型平面表示デバイスとして期待されている。性質は、発光ダイオード(LED)と同様な半導体デバイスであるが、単結晶ではなく多結晶の薄層デバイスなので、大面積化が可能でありコスト面でも有利であると思われている。電気的特性及び表示性能等は、PDPに類似するものであるが、開発の歴史が浅くこれからの期待されるデバイスである。
【0007】このようなEL発光素子をEL層の材質によって分類すると、無機EL層を有するものと、有機EL層を有するものとに分けられる。有機化合物におけるELは、強い蛍光を有するアントラセン等の単結晶において、キャリア注入によるEL発光現象の発見から研究が始まり、薄膜型素子への展開がなされてきた。
【0008】無機EL素子は、ガラス基板上に透明電極、絶縁層、発光層、絶縁層、背面電極を順次形成した後、湿気の侵入を防止するために外囲器で密封して形成されており、更に防湿効果を上げるために、外囲器内にシリコンオイルを封入したものが実用化されている。
【0009】一方、有機EL素子は、最近、10000cd/m2 以上の高輝度発光及び駆動電圧10V以下での作動が報告され、実用化に向けての研究開発が注目されている。
【0010】ところで、有機EL素子は水分に極めて弱く、具体的には金属電極と有機物EL層との界面が水分の影響で剥離してしまったり、金属が酸化して高抵抗化してしまったり、有機材料自体が水分によって変質してしまったりし、このようなことから発光が行われなくなってしまうという欠点がある。
【0011】このような欠点を解消するために、たとえば図1に示すような構造の有機EL素子がある。ガラス基板1上には、ITO等の透明電極2、正孔輸送層3、有機物EL層4及び背面電極5がこの順に積層されている。また、ガラス基板1上には、孔6を有する気密ケース7が密着固定されている。
【0012】透明電極2及び背面電極5間にはリード線9,10を介して駆動回路8が接続されている。各リード線9,10を挿通させるための孔6は気密ケース7の内部を真空状態にした後に封止剤11によって封止されている。
【0013】なお、図示しないが、透明電極と背面電極との間に有機物EL層(蛍光物質、電子輸送層)が積層された構造又は正孔輸送層、有機EL層、電子輸送層が積層された構造のものが考えられている。
【0014】ここで、有機物電界発光素子において、有機物EL層は、たとえばクマリン化合物を含む層である。有機正孔輸送層は電極から正孔を注入させ易くする機能と電子をブロックする機能とを有し、有機電子輸送層は電極から電子を注入させ易くする機能を有している。有機物電界発光素子において、一対の電極から注入された電子と正孔との再結合によって励起子が生じ、この励起子が放射失活する過程で光を放ち、この光が透明電極及びガラス基板を介して外部に放出されることとなる。
【0015】ところで、有機EL素子は、低電圧で高輝度発光させることが可能である反面、湿気や熱等により劣化が促進され、寿命が短いという点で実用化上問題となっている。一方、無機EL素子では湿気対策として上述したように、シリコンオイルで封入しているのに対し、有機EL素子はより水分に敏感であるため、従来レベルのシリコンオイルでは変質し劣化を生じてしまうことから、真空封入が考えられている。
【0016】しかしながら、真空封入では、特に有機物EL層4から発せられる熱の放散が悪く素子の劣化を有効に防止することが困難であった。このような欠点を解消するものとして、特願平3−36747号には、図2及び図3に示す構造のEL表示装置が示されている。
【0017】つまり、図2における構造のものでは、ガラス基板1上にITO等の透明電極2、正孔輸送層3、有機物EL層4及び背面電極5がこの順に積層されている。各透明電極2及び背面電極5は、リード線9,10を介して駆動回路8に接続されている。ガラス基板1上の気密ケース7の孔6は封止剤11によって封止されている。
【0018】気密ケース7には封止口12が設けられており、この封止口12を介して気密ケース7の内部が真空引きされる。このような真空引きによって気密ケース7内部の残留水分を除き、He ガスを注入した後に封止口12を封止する。
【0019】ここで、He ガスの圧力は高い方が放熱効果の点で望ましいが、薄型、軽量の素子を得るためには、He ガスの圧力を約1気圧程度のものとし、また封入されるHe ガスの露点を−60℃以下のものとすることによって、He ガスに含まれる水分の量を規定している。
【0020】一方、図3における構造のものでは、ガラス基板1上に積層された透明電極2の上に気密ケース7を密着固定している。
【0021】図2及び図3に示す構造のものでは、透明電極2及び背面電極5間に駆動電圧を印加すると、電子と正孔との再結合によって励起子が生じ、この励起子が放射失活する過程で光が放たれ、この放たれた光が透明電極2及びガラス基板1を介して外部に放出される。この光を放つ際、有機物EL層4自体が発熱する。このとき、有機物EL層4の表面は、気密ケース7内に封入されている熱伝導率の高いHe ガスに触れているため、有機物EL層4の表面からの放熱効果が高められる。
【0022】
【発明が解決しようとする課題】このように、図2及び図3に示した構造のものでは、気密ケース7による密閉空間内に熱伝導率や安全性の面で優れているHe ガスを封入し、発光の際に発生する有機物EL層4自体の熱をその表面から効率よく奪い取るようにしたので、EL発光素子の劣化の進行が抑制されるようになった。
【0023】しかしながら、これらの構造のものは、いずれも気密ケース7を用いこの内部を真空引きするようにしたものであるため、気密ケース7やガラス基板1を厚くする必要があり、有機EL素子自体が厚いものとなってしまうという欠点がある。また、このような真空引きする構造のものでは、気密ケース7の設計加工や真空引き後の封止工程等が必要となるため、有機EL素子の製造コスト削減の妨げを招いてしまう。
【0024】本発明は、このような事情に対処してなされたもので、耐湿効果を損なうことなく薄く形成することができ、且つ製造コストを削減することができる有機EL表示装置を提供することを目的とする。
【0025】
【課題を解決するための手段】本発明の有機EL素子は、上記目的を達成するために、ガラス基板上に薄膜状の透明電極及び背面電極によって挟持された有機物EL層と、この有機物EL層を覆うように形成された耐湿性を有する光硬化性樹脂層と、この光硬化性樹脂層の上部に固着された透水性の小さい基板とを具備することを特徴とする。
【0026】
【作用】本発明の有機EL素子では、ガラス基板上に透明電極及び背面電極によって挟持された有機物EL層を積層した後、耐湿性を有する光硬化性樹脂層を介して非透水性の基板を固着させた。
【0027】これにより、図7及び図8に示すように、EL素子の劣化の進行を大幅に抑制することができ、長寿命化を図ることができる。したがって、従来のように、真空引きのために設けられた気密ケース7が不要となるため、有機EL素子自体を薄く形成することができ、しかも気密ケース7の設計加工や真空引き後の封止工程等が不要となるため、有機EL素子の製造コストを大幅に削減することもできる。
【0028】
【実施例】以下、本発明の実施例の詳細を図面に基づいて説明する。なお、以下に説明する図において、図2と共通する部分には同一符号を付し重複する説明を省略する。
【0029】図1は、本発明の有機EL素子の一実施例を示すもので、ガラス基板1上には、ITO等の透明電極2、正孔輸送層3、有機物EL層4及び背面電極5がこの順に積層されている。またガラス基板1上には、耐湿性を有した光硬化性樹脂層14を介しガラスや金属等の非透水性ガラス基板13が固着されている。
【0030】このような構成の有機EL素子は、次のようにして製造される。まず、ガラス基板1上に透明電極2を0.1μmの厚みで成膜する。透明電極2の成膜に際しては、真空蒸着及びスパッタ等による方法がある。但し、真空蒸着による成膜は、結晶粒が成長して膜表面の平滑度を低下させることがあり、薄膜ELに適用する場合には絶縁破壊や不均一発光の原因を作ることがあるため、注意を要する。一方、スパッタによる成膜は表面の平滑性がよく、その上に薄膜デバイスを積層する場合に好ましい結果が得られる。
【0031】続いて、透明電極2の上部に正孔輸送層3及び有機物EL層4を0.05μmの厚みで順次成膜する。また有機物EL層4の上部に背面電極5を0.1〜0.3μmの厚みで成膜する。
【0032】これらの素子の成膜を終えた後、ガラス基板1の上部に光硬化性樹脂を約0.1mmの厚みで滴下し、この光硬化性樹脂の上から非透水性ガラス基板13を密着させる。光硬化性樹脂として、たとえば(スリーボンド社製TB−3101)を使用した。
【0033】非透水性ガラス基板13の密着に際しては、ガラス基板1と非透水性ガラス基板13との間に気泡が残らないように配慮する必要がある。たとえば非透水性ガラス基板13の1辺側から順次密着させるか、あるいは非透水性ガラス基板13の中心部から順次外側に向けて密着させるかし、その間の気泡を押し出すような密着方法が好ましい。
【0034】非透水性ガラス基板13の密着を終えた後、この非透水性ガラス基板13の上方から高圧水銀灯により紫外線を照射し、光硬化性樹脂を硬化させて光硬化性樹脂層14を形成する。これにより、非透水性ガラス基板13は光硬化性樹脂層14を介してガラス基板1に固着される。
【0035】このようにして製造された有機EL素子は、図5乃至図8に示す特性を示した。図5は、樹脂層14の封止の有無による劣化進行を(時間−距離)で比較したものであり、樹脂層14によって封止した場合には封止無しの場合に比べて背面電極5のエッジからの劣化進行が抑制されていることが解る。
【0036】図6は、樹脂層14の封止の有無による劣化進行を(時間−面積)で比較したものであり、樹脂層14によって封止した場合には封止無しの場合に比べて劣化された面積の広がりの進行が抑制されていることが解る。
【0037】以上が非透水性ガラス基板13を用いずに、樹脂層14によってのみ封止した場合の特性を示したものである。このように、樹脂層14によってのみ劣化の進行を抑制することは可能である。但し、長期的に有機EL素子の寿命を延ばそうとした場合には、上述したように、非透水性ガラス基板13を用いる必要があり、これを用いた場合の劣化進行の比較を以下に説明する。
【0038】図7は、樹脂層14及び非透水性ガラス基板13の封止の有無による劣化進行を(時間−距離)で比較したものである。また同図においては、光硬化性樹脂として、上述した(スリーボンド社製TB−3101)に加え、(スリーボンド社製TB−3042C)を用いた場合を併せて示している。同図から解る通り、樹脂層14及び非透水性ガラス基板13によって封止した場合には、背面電極5のエッジからの劣化進行が封止無しの場合に比べて抑制されている。しかも、樹脂層14を(スリーボンド社製TB−3101)とした場合には、劣化の進行が極端に抑制されていることが解る。
【0039】図8は、樹脂層14及び非透水性ガラス基板13の封止の有無による劣化進行を(時間−面積)で比較したものである。また同図においては、光硬化性樹脂として、上記同様に(スリーボンド社製TB−3042C)を用いた場合を併せて示している。同図から解る通り、樹脂層14及び非透水性ガラス基板13によって封止した場合には、劣化された面積の広がりの進行が封止無しの場合に比べて抑制されている。しかも、樹脂層14を(スリーボンド社製TB−3101)とした場合には、劣化の進行が極端に抑制されていることが解る。
【0040】このように、この実施例では、ガラス基板1上に透明電極2、正孔輸送層3、有機物EL層4及び背面電極5を順次積層した後、耐湿性を有する光硬化性樹脂層14を介して非透水性ガラス基板13を固着させた。
【0041】これにより、図7及び図8に示したように、EL素子の劣化の進行を大幅に抑制させることができ、長寿命化を図ることができる。
【0042】したがって、従来のように、真空引きのために設けられた気密ケース7が不要となるため、有機EL素子自体を薄く形成することができ、しかも気密ケース7の設計加工や真空引き後の封止工程等が不要となるため、有機EL素子の製造コストを大幅に削減することもできる。
【0043】図9は、図4の有機EL素子の構造を変えた場合の他の実施例を示すものである。この実施例では、種類の異なる光硬化性樹脂による硬化時等における不具合を考慮したものであり、ガラス基板1上に形成された透明電極2、正孔輸送層3、有機物EL層4及び背面電極5を覆うように、たとえばSi O2 膜15が形成されている。
【0044】Si O2 膜15の成膜に際しては、上記同様に、ガラス基板1上に透明電極2、正孔輸送層3、有機物EL層4及び背面電極5を形成した後、これらの素子の上部に雰囲気が10-6 〜10-7 の真空度中にてSi O2 膜15をスパッタにより約0.2μmの厚みに成膜する。これらの素子の成膜を終えた後、上記同様に、ガラス基板1の上部に光硬化性樹脂膜14を介して非透水性ガラス基板13を固着させる。
【0045】このように、この実施例では、ガラス基板1上に透明電極2、正孔輸送層3、有機物EL層4及び背面電極5を順次積層した後、これらの素子を覆うようにSi O2 膜15を成膜し、このSi O2 膜15の上部に光硬化性樹脂層14を介して非透水性ガラス基板13を固着させた。
【0046】これにより、光硬化性樹脂の硬化時における背面電極5の剥離現象や光硬化性樹脂の成分が硬化前に有機物EL層4に及ぼす悪影響を阻止することができる。したがって、Si O2 膜15によって各悪影響が阻止されるので、光硬化性樹脂の種類に制約を受けることが無くなる。また、各悪影響が阻止されるので、上記実施例に比べて更に寿命を延ばすことができ、信頼性を向上させることができる。
【0047】
【発明の効果】以上説明したように、本発明の有機EL素子によれば、ガラス基板上に透明電極及び背面電極によって挟持された有機物EL層を積層した後、耐湿性を有する光硬化性樹脂層を介して非透水性の基板を固着させた。
【0048】これにより、図7及び図8に示すように、EL素子の劣化の進行を大幅に抑制することができ、長寿命化を図ることができる。したがって、従来のように、真空引きのために設けられた気密ケース7が不要となるため、有機EL素子自体を薄く形成することができ、しかも気密ケース7の設計加工や真空引き後の封止工程等が不要となるため、有機EL素子の製造コストを大幅に削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】従来の有機EL素子の構造の一例を示す断面図である。
【図2】従来の有機EL素子の構造の他の例を示す断面図である。
【図3】従来の有機EL素子の構造の更に他の例を示す断面図である。
【図4】本発明の有機EL素子の一実施例を示す断面図である。
【図5】図4の樹脂層の封止の有無による劣化進行を(時間−距離)で比較した場合を示す図である。
【図6】図4の樹脂層の封止の有無による劣化進行を(時間−面積)で比較した場合を示す図である。
【図7】図4の樹脂層及び非透水性ガラス基板の封止の有無による劣化進行を(時間−距離)で比較した場合を示す図である。
【図8】図4の樹脂層及び非透水性ガラス基板の封止の有無による劣化進行を(時間−面積)で比較した場合を示す図である。
【図9】図4の有機EL素子の構造を変えた場合の他の実施例を示す断面図である。
【符号の説明】
1 ガラス基板
2 透明電極
3 正孔輸送層
4 有機物EL層
5 背面電極
13 非透水性ガラス基板
14 光硬化性樹脂層
15 Si O2

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ガラス基板上に薄膜状の透明電極及び背面電極によって挟持された有機物EL層と、この有機物EL層を覆うように形成された耐湿性を有する光硬化性樹脂層と、この光硬化性樹脂層の上部に固着された透水性の小さい基板とを具備することを特徴とする有機EL素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開平5−182759
【公開日】平成5年(1993)7月23日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−359134
【出願日】平成3年(1991)12月26日
【出願人】(000111889)パイオニアビデオ株式会社 (4)
【出願人】(000005016)パイオニア株式会社 (3,620)