説明

有機EL表示装置およびその製造方法

【課題】歪みを防止した平坦化層を有する有機EL表示装置を提供する。
【解決手段】下部電極と発光層を少なくとも含む有機層と上部電極とが積層されてなる積層体を一単位とした発光素子と、前記発光素子の発光あるいは非発光を制御するスイッチング素子と、前記スイッチング素子の上に配置され活前記下部電極の下に配置されている平坦化層とを有する有機EL表示装置において、残留オリゴマーが5%以下の平坦化層を有する有機EL表示装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスイッチング素子と下部電極の間に平坦化層を有する有機EL表示装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子(以下有機EL素子)が盛んに開発されている。
【0003】
特許文献1は有機アクティブEL発光装置に関する発明で、薄膜トランジスタと層間絶縁膜と有機EL素子が記載されている。
【0004】
薄膜トランジスタのようなスイッチング素子と有機EL素子の下部電極との間に配置される層を平坦化層とも呼ぶ。平坦化層はスイッチング素子を覆う。
【特許文献1】特開平10−189252号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この平坦化層が歪むことにより種々の現象が生じる。
【0006】
例えば平坦化層内に含まれる水が平坦化層外へ放出する現象である。
【0007】
他にも平坦化層が変形することで配線が切断する現象や、電極(例えば有機EL素子の下部電極)と配線の接続が断たれてしまう現象である。
【0008】
本発明はこのような種々の現象、即ち平坦化層の歪みから生じる現象を解消し、有機EL表示装置の性能の長期的維持を図ることを目的とする。より具体的には平坦化層を改良することで有機EL表示装置の性能の長期的維持を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
よって本発明は、
下部電極と発光層を少なくとも含む有機層と上部電極とが積層されてなる積層体を一単位とした発光素子と、
前記発光素子の発光あるいは非発光を制御するスイッチング素子と、
前記スイッチング素子の上に配置され且つ前記下部電極の下に配置されている平坦化層とを有する有機EL表示装置において、
前記平坦化層の残留オリゴマーは5%以下であることを特徴とする有機EL表示装置を提供する。
【0010】
また本発明は、
基材に配置されているスイッチング素子の上に配置される平坦化層を形成する平坦化層形成工程と、
下部電極と発光層を少なくとも含む有機層と上部電極とが積層されてなる積層体を一単位とした発光素子の前記下部電極を形成する下部電極形成工程とを有する有機EL表示装置の製造方法において、
前記平坦化層形成工程は、
分子量500以上5000以下のオリゴマーを前記基材に配置し重合させ、
残留オリゴマーが5%以下である前記平坦化層を得る工程であることを特徴とする有機EL表示装置の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、残留オリゴマーの量を5%以下にすることによって歪みにくくなり、平坦化層に仮に水分が含まれているとしても水分が平坦化層から放出することを防ぐことが出来るので、有機EL表示装置特性の低下を防止できる。
【0012】
他にも例えばより具体的には、平坦化層の表面の水濡れ性を向上することによって、平坦化層と、下部電極の密着性が向上し、有機EL表示装置の信頼性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本実施形態に係る有機EL表示装置は、有機発光素子と、スイッチング素子と、スイッチング素子の上に配置され且つ有機発光素子の下部電極とスイッチング素子との間に配置される平坦化層を有する。
【0014】
有機発光素子は、下部電極と発光層を少なくとも含む有機層と上部電極とが積層されてなる積層体を一単位とした発光素子である。
【0015】
スイッチング素子は、発光素子の発光あるいは非発光を制御する。スイッチング素子は例えばトランジスタである。
【0016】
本実施形態においてポリシリコン薄膜トランジスターをスイッチング素子の一例として挙げる。
【0017】
この平坦化層には5%以下の残留オリゴマーが含まれている。
【0018】
残留オリゴマーの含有率は、削り取った平坦化層の一部から残留オリゴマーが占める割合を測定する。含有率はモル比により求めることが出来る。測定にはガスクロマトグラフィーを用いる。ガスクロマトグラフィから求めた残留オリゴマーの量と削り取られた平坦化層の一部を構成する樹脂の量とをモル比から求めることで含有量を求めることが出来る。
【0019】
この該平坦化層は、分子量500から5000のオリゴマーを塗布して、熱または光によって重合される層である。そして重合後の平坦化層中の残留オリゴマーが、5%以下である。
【0020】
ここで本発明における有機EL表示装置の断面図を図1に示す。
【0021】
図1に示すように本実施形態に係る有機EL表示装置は基材の一例である基板101上に、ポリシリコン薄膜トランジスター(ポリシリコン102、ソース103、ドレイン104、ゲート105、ゲート絶縁層106)が配置されている。
【0022】
さらに該薄膜トランジスターによる凹凸を平坦化するために絶縁性の平坦化層107が配置されている。
【0023】
さらに平坦化層107上には下部電極108、有機層からなる有機EL層109(該有機EL層は不図示の正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層等から構成される)が配置されている。さらに、素子分離膜113、上部電極110、保護層111、充填材112、封し材114等が配置されている。つまり平坦化層がスイッチング素子の上に配置されている。
【0024】
図1に示す有機EL表示装置を製造するプロセスを図2に示す。図中の符号は各工程に付された符号である。
【0025】
本実施形態に係る有機EL表示装置のプロセスを説明する。
まず基板を準備し(200)、その上に薄膜トランジスターからなる駆動回路を形成し(201)、駆動回路上に平坦化層前駆体(オリゴマー含有)を塗布し(202)、平坦化層前駆体をプリベークし(203)する。
【0026】
そして平坦化層に開口を形成するためにホトリソ法にてパターンを照射して平坦化層開口を形成する(204)。
【0027】
平坦化層開口を形成した後、洗浄し(205)、続いて平坦化層をポストベークして(206)平坦化層を十分に重合させる。
【0028】
平坦化層上に蒸着やスパッタ−等で下部電極を形成する(207)。下部電極は薄膜トランジスタとこの時点で接続されている。接続工程は例えば工程204乃至207の何れかの工程において行われればよい。
【0029】
下部電極形成後、洗浄を行う(208)。その後、素子分離膜前駆体を塗布し(209)、素子分離膜前駆体をプリベーク(210)、素子分離膜開口(211)を形成し、洗浄(212)を行ったあと、素子分離膜をポストベークする(213)。素子分離膜は平坦化層と接して配置されている。また下部電極の一部より具体的には下部電極の周辺部においてその上面を覆うように素子分離膜が配置されている。
【0030】
平坦化層や素子分離膜が配置された状態の基板に脱水処理を行う(214)。脱水処理とは例えばベーキングによる処理である。
【0031】
脱水処理後、有機EL層を形成し(215)、上部電極を形成し(216)、保護層を形成し(217)、充填材(充填層)を形成し(218)、ガラス等の封し材で密閉封止する(219)。このようなプロセスによって有機EL表示装置を製造する。
【0032】
本実施形態において、薄膜トランジスターはnチャンネルでもpチャンネルでもよい。また、薄膜トランジスターはポリシリコンで形成されたもののみならず、アモルファスシリコンで形成されるのも好ましいものである。更に、薄膜トランジスターから成る駆動回路は、2トランジスター構成、4トランジスター構成等が挙げられるが、電圧プログラミングの駆動回路や、有機EL層の発光強度を一定に保持するために、図3に示す電流プログラミングの回路を用いることができる。
【0033】
本実施形態において、平坦化層はアクリル基、エポキシ基、カルボキシル基、水酸基、イソシアナート基、アミン基、アミド基、フェノール基、シラノール基、アルキレン基、チオール基等の反応性活性基を有するオリゴマーから得られる樹脂であることが好ましい。このようなオリゴマーは分子内、若しくは分子間で反応が可能なオリゴマーであるからである。
【0034】
また、これらのオリゴマーを複数種混合して反応させ樹脂を得てもよい。
【0035】
これらのオリゴマーに加え、各種添加物も加えた状態で反応させてもよい。
【0036】
各種添加物とは、重合開始剤若しくは重合促進剤、重合阻害防止剤等である。
【0037】
他に各種添加剤とは密着性改良剤若しくは促進剤である。
【0038】
他に各種添加剤とは平坦化を促進するための各種レベリング剤、平坦化膜の構造を稠密化するためのモノマーおよび/または低分子量オリゴマーあるいは高分子量オリゴマーおよび/またはポリマーの稠密化材等である。
【0039】
平坦化層の主成分である樹脂即ちオリゴマーから得られる樹脂としては、メラミン樹脂、アルキド樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、マレイン酸樹脂を挙げることが出来る。
【0040】
あるいは平坦化層の主成分である樹脂即ちオリゴマーから得られる樹脂としては、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリビニルピロリドン挙げることが出来る。
【0041】
他にも平坦化層の主成分である樹脂即ちオリゴマーから得られる樹脂としては、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースを挙げることが出来る。
【0042】
これら列挙した樹脂は可視光に対して透明であるものでもよい。
【0043】
あるいは平坦化層の主成分である樹脂即ちオリゴマーから得られる樹脂として各種フッ素ポリマーも挙げることができる。
【0044】
特に平坦化層としては、アクリル系樹脂、または、ポリイミド系樹脂が好ましい。アクリル系樹脂は平坦性に優れている。また、ポリイミド系樹脂は耐熱性に優れ、特に有機EL素子のように発熱する素子には適している。
【0045】
オリゴマーから樹脂を得るための反応を生じさせる方法としては、室温もしくは加温条件下での反応、また、光(例えばUV)や電子線の照射による方法等がある。
【0046】
これらのオリゴマーの分子量が5000より大きいと粘度が高くなり、塗布しにくくなる。その場合平坦化層の均一性(例えば平坦性)が低下する。あるいはオリゴマーに含まれる水(あるいはオリゴマーを溶解している溶媒に含まれる水)が反応(重合)時に反応後の樹脂(即ち得られる平坦化層)中に残存しやすくなる。
【0047】
一方オリゴマーの分子量が500未満だと、流動性が増し、薄膜トランジスターの凹凸により均一な膜に塗布することが難しくなり、平坦化層としての機能を示さなくなるという。
【0048】
そしてこの分子量範囲(分子量が500以上5000以下)のオリゴマーを反応(重合)させると得られる平坦化膜には5%以下(0%を除く)の残留モノマーしか存在しないことがわかった。
【0049】
なお、分子量はポリスチレン換算若しくはそれに準じた基準で測定された値である。
【0050】
オリゴマーの残留割合が5%より大きいと、反応(重合)により得られる平坦化層が歪みにくくなる。その結果有機EL素子を長時間発光させて温度が上昇した場合でも、平坦化層中に残留する水分が放出されにくく、有機EL素子の寿命を短くする。
【0051】
そしてこの分子量範囲のオリゴマーを用いることで得られる平坦化層には特定の数値範囲の表面硬度が存在することに本発明者は気づいた。表面硬度の好ましい範囲は0.3Gpa以上0.6Gpa以下が好ましい範囲である。
【0052】
また、平坦化層の表面硬度が0.3Gpa未満だと、局所的な歪によって、平坦化層上に局所的に大きな力がかかり平坦化層が歪むことが考えられる(大面積の基板の場合その歪みが顕著である)。
【0053】
薄膜トランジスターと有機EL素子を接続する配線が歪むと、電気的な接触に問題が生じる場合が考えられる。また、平坦化層に残留する水分が、放出され、有機EL素子の寿命を短くすることがある。
【0054】
一方、平坦化層の表面硬度が0.6Gpaより大きいと、局所的に歪が生じ、平坦化層に割れ等が生じ、電気的な接触の低下や、有機EL素子の発光強度の低下等を招くことが考えられる。また、割れた部分から内含された水分が放出され、有機EL素子の寿命を短くすることがある。また、有機EL素子は電流注入動作素子であるため、有機EL素子が点灯している場合に発熱がある。その結果、平坦化層が軟化して変形しやすくなったり、残留するわずかな水分が放出され、点灯時間の長い画素においては水分による劣化が進行したりして、有機EL素子の寿命を短くすることがある。
【0055】
本実施形態に係る有機EL表示装置を構成する平坦化層は、このような制約を満たす。平坦化層は、MTSシステムズ社の薄膜の機械的な特性を評価するナノインデンターを使用した測定により表面硬度を測定することが出来る。平坦化層の硬度は、特に平坦化層の表面側(つまり下部電極と接する側の表面)において高いことが好ましい。一方薄膜トランジスターの近傍の平坦化層は、多少の柔軟性があるほうが、外力による歪に対して強度が増す。
【0056】
薄膜トランジスタ側よりも表面において硬度が高い平坦化層として、たとえば残留オリゴマーが薄膜トランジスタ側よりも表面において少ない状態の平坦化層を挙げることが出来る。つまり残留オリゴマーの残留量を表面から薄膜トランジスタへ向けて低濃度から高濃度へ変化するように分布させて得られた平坦化層が好ましい。
【0057】
次に平坦化層の作成条件を説明する。
【0058】
平坦化層のオリゴマーはスピンコート法、ロールコート法、キャスティング法等の方法で成膜する。
【0059】
オリゴマーの反応温度条件は、2℃から20℃/分の昇温速度で昇温し、50℃から350℃の温度範囲で数分から数時間の間保温しオリゴマーの高分子量化反応を進めることが好ましい条件である。より好ましい保温温度は、100℃から350℃の温度範囲である。オリゴマーを反応させるための昇温速度が20℃/分より速いとと、オリゴマーが均一に反応せず平坦化層の面内で均一な特性が得られなくなるものである。また、昇温速度が2℃/分未満だとと、平坦化膜の熱による分解若しくは望ましくない重合反応による弊害反応(膜強度の劣化・膜の着色・膜質のメソポーラス化等)を伴うことになる。
【0060】
また、保温温度が350℃より高いと、オリゴマーの揮発や分解が生じ所望の層厚及び特性が得られない、更に薄膜トランジスターの特性の低下を招くという新たな問題が発生する。一方、保温時間が50℃未満だと、残留オリゴマーの量が多くなり、所望の硬度が得られなくなる。
【0061】
昇温時あるいは保温時の環境は空気中でもよいが、窒素やアルゴン等の不活性ガス中が好ましい。
【0062】
本実施形態に係る有機EL表示装置において、下部電極や上部電極は金属や透明酸化物導電膜が蒸着やスパッタ等で積層される。
【0063】
上部電極上の保護層は、酸化シリコン、窒化シリコンや酸窒化シリコン膜等の絶縁膜である。この保護層は可視光に対して透明である。保護層はプラズマCVD法やスパッタ法で積層される。
【0064】
透明酸化物導電膜や保護層は、応力が大きい。そのため、基板や封止材が力を受けて局所的な歪が生じた場合や、あるいは有機EL素子の長時間点灯による発熱等を受けた場合に、平坦化層と下部電極との間において剥離等の問題が生じる。
【0065】
平坦化層と下部電極の密着性を向上させることは非常に重要である。密着性を向上させる方法として平坦化層表面に、紫外線を照射すること、オゾンを照射すること、酸素ガス、窒素ガス、水素ガス、アルゴンやヘリウムなどの不活性ガス、また、ハロゲン含有ガスのプラズマ雰囲気に置くこと等を挙げることが出来る。
【0066】
本発明の平坦化層にもこのような方法を適用することで密着性を向上させることが出来る。密着性を水に対する接触角で80°以下にすることが好ましい。
【0067】
なおこのような方法を用いると平坦化層は素子分離膜との密着性も向上する。
【0068】
さらに平坦化層表面に上記のオゾン処理、紫外線処理、プラズマ処理を行う場合には、オリゴマーを窒素雰囲気中で高分子量化反応を行った後、酸素含有雰囲気中で、窒素雰囲気中よりは短い時間、同じ温度または低い温度でアニーリングすることが好ましい。
【0069】
また、本発明の平坦化層中には、オリゴマーの原料となるモノマーを合成する場合やオリゴマーを合成する場合に用いられていた金属触媒等の残留金属が存在していてもよい。残留金属は主に鉄、ニッケル、クロム、モリブデン、マンガン等の遷移金属やアルカリ金属である。
【0070】
しかしながら残留金属の残留量が多いと有機EL素子の陽極に拡散し、有機EL素子の電気特性に影響を与えることが考えられる。そのため、反応(重合)を開始する前のオリゴマーから残留金属を除去した上で平坦化層を形成することが好ましい。除去にはアルカリ水を用いてオリゴマーの原料を洗浄したりオリゴマーをアルカリ水で洗浄すればよい。
【0071】
本実施形態に係る有機EL表示装置において平坦化層の層厚は、平坦化層が歪みにくくするという観点から1μm以上4μm以下の範囲でよい。さらに薄膜トランジスター等による凹凸を平坦化することと、平坦化層の外圧による歪、及び、残留する水分の有機EL素子への影響を考慮しても、1μm以上4μm以下が好ましい範囲でもある。より好ましくは、1から3μmがより好ましい範囲である。
【0072】
本実施の形態において基板101は、絶縁性の基板が好ましい。
【0073】
基板101としては、ガラス、ガラスセラミックス、石英、セラミックス、プラスチック等が適している。また、シリコンや金属等の導電性のある基板を用いる場合には、これらの基板表面に、酸化シリコン、窒化シリコン、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂等の絶縁性の高い材料でコーティングすることで使用することができる。樹脂基板としては、ポリカーボネート、アクリル、ポリエーテルサルファイド、ポリサルフォン、ポリイミド等を挙げることができる。
【0074】
また薄膜トランジスターは、有機EL素子が電流注入素子であるため、電流を多くとることのできるポリシリコン薄膜トランジスターが適している。ポリシリコンは、シランガスを原料としたプラズマCVD法で堆積したアモルファスシリコン膜をエキシマレーザーで再結晶したポリシリコンが適している。ポリシリコンの層厚は、有機EL素子に流す電流量やポリシリコン層の電気的特性を考慮して設計されるが、20nmから100nmが好ましい範囲である。
【0075】
図3に電流プログラミングの駆動回路を示す。動作は次のようになる。まずセレクトライン1(Select line1)をオンとしてデータライン(Data line)から所定の電流を有機EL素子に流す。そのときTr4のゲートに所望の電流を流すために電圧が記憶される。つづいて、セレクトライン1をオフし、セレクトライン2(Select line2)をオンとする。その結果、Tr.4に記憶された一定電流が有機EL素子に流れる。即ち、トランジスター1(Tr.1)、トランジスター2(Tr.2)、トランジスター3(Tr.3)は、スイッチとして動作する。そのため高いオン/オフ比及びより少ないオフ電流が要求される。一方、トランジスター4(Tr.4)は、多くの電流を流すことのできる特性が要求される。即ち、薄膜トランジスターのチャンネル幅W、チャンネル長L、また、ポリシリコンの層厚を調整することによって所望のトランジスター特性に設計することができる。チャンネル幅Wを大きくし、チャンネル長Lを小さくすると電流値を増加させることができる。また、平坦性に関係するポリシリコン層の層厚は25nmから60nmである。更にポリシリコンの薄膜トランジスターの駆動回路は、pチャンネルの薄膜トランジスター、nチャンネルの薄膜トランジスター、及び、pチャンネルとnチャンネルの両方から構成されたCMOS構造で構成されてもよい。特にCMOS構造は消費電力を低減でき、望ましい実施形態である。
【0076】
また、薄膜トランジスターとしては、アモルファスシリコンをチャンネルに用いた薄膜トランジスターも使用することができる。アモルファスシリコンは、電子の移動度が正孔よりも大きいのでnチャンネルの薄膜トランジスターとして使用される。アモルファスシリコンで有機EL素子駆動用の回路を作る場合に、電流が大きく取れるように、ポリシリコンの薄膜トランジスターと比較して、ゲート長を短くし、ゲート幅を広くすることが好ましい形態である。
【0077】
更に、薄膜トランジスター用の材料として、酸化物半導体も使用可能である。酸化物半導体としては、多結晶酸化亜鉛や多結晶及びアモルファスのInGaZnOが使用可能である。
【0078】
前記したように平坦化層は、図1に示すように、基板と下部電極との間に配置されている。そして特に平坦化層は薄膜トランジスターと下部電極の間に挿入され、薄膜トランジスターを覆う。平坦化層は薄膜トランジスターの凹凸を緩和し平坦化する。
【0079】
平坦化層は、長時間に渡るガラス基板の歪や外力による局所的な歪によって変形しにくいことが必要である。また、長時間有機EL素子を点灯しておくと、数10℃から100℃あるいはそれ以上(場合によっては200℃以上)まで昇温する場合がある。
【0080】
本実施形態に係る有機EL表示装置において平坦化層はそのような環境でも歪みにくい。
【0081】
下部電極を陽極として使用する場合には、4eV以上の仕事関数の大きい金属、合金、酸化物導電膜、及び、有機EL層側で仕事関数の大きな材料と他の電極材料との積層構造も好ましいものである。
【0082】
これらのうち金属は、金、白金、モリブデン、ニッケル等を挙げることができる。jまた合金は、これら例示した上記金属を少なくとも1種有する合金が適している。
【0083】
また酸化物導電膜では、酸化錫(SnO2)、アルミニウムをドーピングして酸化亜鉛(ZnO:Al)、インジウムスズ酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)等が挙げられる。
【0084】
陽極は、これらの電極材料を、真空蒸着法、スパッタリング法、プラズマCVD法、イオンプレーテリング法、電析法、電気メッキ法、無電界メッキ法等で、薄膜を形成させることによって作製することができる。
【0085】
陽極側から光を取り出す場合、陽極の透過率は20%よりも大きくすることが好ましい。また、陽極のシート抵抗は、300Ω/□以下が好ましい。陽極の層厚は、材料にもよるが、10nmから2μmの範囲で選択される。また、有機EL層からの光の取り出し効率を、良くするように干渉の効果も考慮して、層厚を設定することが好ましいものである。
【0086】
図1に示す有機EL層は不図示の正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層等から構成される。
【0087】
正孔注入輸送層としては、陽極からの正孔の注入を容易にし、更に注入された正孔を発光層に輸送する、優れた移動度を有することが好ましい。
【0088】
正孔注入輸送性能を有する低分子または高分子系材料としては、トリアリールアミン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体等を含むものを挙げることができる。
【0089】
他にも正孔注入輸送性能を有する低分子または高分子系材料としては、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、オキサゾール誘導体等を含むものを挙げることができる。
【0090】
他にも正孔注入輸送性能を有する低分子または高分子系材料としては、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体等を含むものを挙げることができる。
【0091】
他にも正孔注入輸送性能を有する低分子または高分子系材料としては、およびポリ(ビニルカルバゾール)、ポリ(シリレン)、ポリ(チオフェン)、その他導電性高分子が挙げられる。
【0092】
正孔注入輸送性能を有する低分子または高分子系材料としては、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0093】
正孔注入輸送層としては、10nmから100nmが好ましい層厚である。
【0094】
発光層としては、可視領域において蛍光あるいは燐光を発し成膜性が良い任意の発光材料を用いることができる。発光層としては、10nmから100nmが好ましい層厚である。
【0095】
電子注入輸送性材料としては、陰極からの電子の注入を容易にし、注入された電子を発光層に輸送する機能を有するものから任意に選ぶことができ、ホール輸送材料のキャリア移動度とのバランス等を考慮し選択される。
【0096】
電子注入輸送性能を有する材料としては、オキサジアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、チアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、ピラジン誘導体、トリアゾール誘導体、トリアジン誘導体を挙げることが出来る。
【0097】
他にも電子注入輸送性能を有する材料としては、ペリレン誘導体、キノリン誘導体、キノキサリン誘導体、フルオレノン誘導体、アントロン誘導体、フェナントロリン誘導体、有機金属錯体等が挙げることが出来る。
【0098】
電子注入輸送性能を有する材料としてはもちろんこれらに限定されるものではない。電子輸送層としては、5nmから50nmが好ましい層厚である。電子注入層としては、10nmから100nmが好ましい層厚である。
【0099】
以下に各層において必要に応じて用いることが出来る化合物の構造式を示す。
【0100】
【化1】

【0101】
【化2】

【0102】
本発明の有機EL素子は下部電極の一部を覆うように形成された素子分離膜を有している。この素子分離膜は、下部電極と上部電極との短絡を防止し、下部電極のエッジ部分を保護する機能をもたせている。
【0103】
素子分離膜の材料としては、種々の無機系および有機系材料が用いられる。
【0104】
無機系材料としては、酸化シリコン、窒化シリコン、酸化チタン、酸化クロム、アルミナなどの絶縁性の酸化物材料などが挙げられる。
【0105】
有機系材料としては、平坦化膜と同様な材料、アクリル系、ポリビニル系、ポリイミド系、ポリスチレン系、ノボラック系、シリコーン系などのポリマー材料などが挙げられる。
【0106】
素子分離膜の形成には既知の種々の形成方法を適用することができる。特に感光性樹脂を利用したフォトリソ法は好ましい形成方法であり、感光性樹脂は台形形状が得られやすいポジ型であることが好ましい。特に、硬度が高く耐熱性の高いポジ型の感光性ポリイミドを用いて絶縁層を形成することが好ましい。
【0107】
本発明の素子分離膜の層厚は、有機EL層と上部電極を積層した厚さよりも厚いこと、即ち、本発明の素子分離膜の厚さは0.1μm以上であることが好ましい。無機系材料の絶縁層は、エッチング法やリフトオフ法を用いてパターニングできるが、その厚さを0.1μm以上とすることが好ましい。有機系材料を用いた場合、無機系材料と比較して、層厚を厚くすることが容易である。有機系材料を用いた場合は、0.2μm以上にすることが好ましい。素子分離膜を有機EL層と上部電極を含む厚さを上回る厚さに設定することにより、シャドーマスクを用いたパターニングの際に、素子分離膜を、マスク傷を防止するスペーサーとして利用することも可能になる。
【0108】
上部電極を陰極とする場合、陰極材料としては、仕事関数の小さなものがよい。
【0109】
陰極材料としては例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、インジウム、ルテニウム、チタニウム、マンガン、イットリウム、銀、鉛、錫、クロム等の金属単体を挙げることが出来る。
【0110】
他にも陰極材料としてはリチウム−インジウム、ナトリウム−カリウム、マグネシウム−銀、アルミニウム−リチウム、アルミニウム−マグネシウム、マグネシウム−インジウム等、複数の合金を用いることができる。
【0111】
他にも陰極材料としては酸化錫インジウム(ITO)等の金属酸化物の利用も可能である。これらの電極物質は単独で用いるか、あるいは複数併用することもできる。また、陰極は一層構成でもよく、多層積層構成をとることもできる。積層構造とする場合、特に積層構造の場合、有機EL層側の電極表面に仕事関数の小さい材料を用いることが好ましい形態である。上部電極を陰極とする場合、陰極の好ましい層厚は、50nmから500nmである。
【0112】
本発明の有機EL層は下部電極を陽極とする構成であるが、下部電極を陰極とする構成を取ることも可能である。その場合には、有機EL層の構成を逆の構成にすれば良い。
【0113】
作成した有機EL素子に対して、酸素や水分等との接触を防止する目的で保護層を設けることが好ましい。
【0114】
保護層としては、ダイヤモンド薄膜、金属酸化物、金属窒化物等の無機材料膜、フッ素樹脂、ポリパラキシレン、ポリエチレン、シリコーン樹脂、ポリスチレン樹脂等の高分子膜、さらには、光硬化性樹脂等が挙げられる。
【0115】
特に、酸化シリコン、窒化シリコン層、酸窒化シリコン、及び、これらの積層構造が、保護層として適している。
【0116】
防湿性及び酸素の透過を抑えることから、保護層の層厚は、100nm以上20μmが好ましい範囲である。保護層のより好ましい範囲は、200nm以上10μmである。保護層の層厚が薄い場合には、十分な防湿性や酸素の透過を抑えることができない。一方、保護層が厚すぎる場合には、有機EL素子パネルの変形や歪等で、保護層の割れが生じる場合がある。上部電極側から光を取り出す場合には、光透過性の保護層が適している。
【0117】
EL素子を覆うようにして保護層の上に充填材をさらに設けてもよい。この充填材は封止材を接着するための接着剤としても機能する。
【0118】
充填材しては、アクリル樹脂、PVC(ポリビニルクロライド)、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、PVB(ポリビニルブチラル)またはEVA(エチレンビニルアセテート)を用いることができる。この充填材の内部に乾燥剤(図示せず)を設けておくと、吸湿効果を保ち続けられるので好ましい。このとき、乾燥剤は充填材に添加されたものであっても良いし、充填材に封入されたものであっても良い。充填材側に発光する場合には、透光性の充填材を用いることが好ましいものである。
【0119】
さらに封止材としては、ガラス板、FRP(Fiberglass−Reinforced Plastics)板、PVF(ポリビニルフロライド)フィルム、マイラーフィルム、ポリエステルフィルム、アクリルフィルムまたは金属を用いることができる。封止材側から発光する場合には、封止材も充填材同様に透光性でなければならない。
【0120】
(実施例)
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。しかし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0121】
(実施例1)
図1に示す有機EL素子を厚さ0.8mm、縦横450mm×550mmのガラス基板上に形成した。ガラス基板上に、KrF(248nm)のエキシマレーザーで再結晶した低温ポリシリコン薄膜を使用して、図3に示す回路を作製した。該回路上に回路保護層としてシランガスとアンモニアガスと水素ガスを1:1:10混合したガスを原料ガスとして、13.56MHzのプラズマCVD法で絶縁性の窒化シリコン層を約400nm堆積した。メチルメタクリル酸3%とメチルメタクリレート97%から成るオリゴマー60%とメチルメタクリル酸3%とブチルメタクリレート97%から成るオリゴマー40%からなる組成物を用意した。
【0122】
そしてこの組成物をジエチレングリコール・メチルエチルエーテルに25%混合し、ナフトキノンジアジドスルホン酸エステルを1%、多環のカップリング剤を2%混合した。この溶液をスピンコート法で回路保護層上に1.5μmを目標に塗布した。
【0123】
オリゴマーの分子量は、200、400、500、700、1000、3000、5000、6000、10000の9種類について検討した。
【0124】
まず、平坦化層を大気雰囲気で室温から10℃/分の昇温速度で90℃まで昇温し2分間保持しプリベークした。そしてトランジスターと接続するためのコンタクトホールのパターンを水銀灯のi線(365nm)で露光した。露光パターンを現像液で現像し、室温の超純水流水で2分間リンスした。その後、大気雰囲気で、10℃/分の昇温速度で220℃まで昇温し、60分間保持しポストベークした。
【0125】
続いて、紫外線を照射した後に、Cr電極を100nmの厚さにスパッタ法で堆積し、リフトオフ法でパターニングすることで光を反射する陽極を形成した。Cr電極上に液体状の感光性のあるポリイミドの前駆体をスピンコートし比較的低い温度でプリベークし、パターン露光・現像を行って素子分離膜に開口を形成する。次いで現像液や残渣除去のための洗浄を行い、素子分離膜を比較的高い温度でポストベークする。こうして素子分離膜を形成した。素子分離膜まで成膜した後、10Paの減圧中で200℃に加熱し、3時間保持し、脱水処理を行った。
【0126】
次にこのCr電極上に、以下の有機化合物と上部電極(陰極)を10−4Paの真空チャンバー内で抵抗加熱による真空蒸着により連続成膜した。使用した材料及び層厚は表1に示すとおりである。
【0127】
【表1】

【0128】
続いて、上部電極(ITO)上に、シランガスと窒素ガスと水素ガスを3:240:200の比で混合し、100Paの成膜圧力で、13.56MHzのプラズマCVD法で1μmの層厚に堆積した。この後に、充填材として、アクリル系の粘着材を塗布し、厚さ0.7mmのガラスで封止した。
このようにして、200ppi(画素面積 縦126μm 横42μm、発光面積 縦96μm 横96μm)のトップエミッション型の発光素子パネルを作製した。
【0129】
<硬度の測定方法>
平坦化層の硬度は、薄膜且つ微小面積で測定できるMTSシステムズ社の超微小硬度計(Nano Indenter XP)を用いてナノインデンテーション法で測定した。使用した圧子はダイヤモンド製の正三角錐圧子(Berkovich圧子)を用いた。測定雰囲気は、24±1℃、55±5%RHで測定した。硬度Hは、荷重Pと押し込み後に弾性変形分が回復し、残存する圧痕の投影面積Aを用いて、H=P/Aで定義される。
【0130】
<残留オリゴマーの測定方法>
残留オリゴマーは、平坦化層を削り、窒素ガス雰囲気で100℃から400℃まで昇温しながらオリゴマーを放出しさせて、島津製作のガスクロマトグラフ質量分析計GCMS−QP2010を使用して残留オリゴマーを測定した。そして平坦化層の仕込みのオリゴマー量との比を計算し、オリゴマーの残留割合を求めた。
【0131】
<平坦性の評価方法>
平坦化性は、有機EL素子パネルの断面を走査電子顕微鏡(SEM)で観察し、パネルの中央部と周囲部での平坦化層の層厚を観察し評価した。分子量の低いオリゴマーを使用してコートした平坦化層は、十分な層厚が得られなかった。また分子量の大きいオリゴマーを使用してコートした平坦化膜は、溶媒に対する溶解性が低下し、乾燥後凝集が見られ平坦性が低下した。
【0132】
<信頼性の評価方法>
有機EL素子パネルの信頼性を評価するために、実使用条件を考慮した加速試験を行った。有機EL素子パネルを点灯して、100℃で10時間保持し、続いて、点灯した状態で、−20℃で10時間保持した。このような温度刺激を与えるサイクルを、20サイクル繰り返した。その後、室温で、点灯している画素の発光強度を比較して、信頼性の評価とした。
【0133】
アクリル樹脂のオリゴマーの分子量を替えて成膜した平坦化層の特性と有機EL素子パネルの評価結果を表2に示す。本発明の平坦化層の条件、即ちオリゴマーの分子量500から5000、残留オリゴマーの割合、5%以下、及び、平坦化層の表面硬度0.3GPaから0.6GPaで良好な有機EL素子パネルが得られた。
【0134】
【表2】

【0135】
(実施例2)
実施例1で用いたオリゴマーの分子量1000から成るメタクリレートオリゴマーについて、昇温速度を表3に示すように変えて、他の条件は実施例1と同じにして、実施例1に示すような有機EL素子パネルを作製した。平坦化層の硬度と残留オリゴマー量については、実施例1と同様にして測定した。昇温速度が速いと、未反応成分が揮発し、所望の硬度が得られなかった。また、残留オリゴマーが多かった。一方、昇温速度が遅いと、熱分解が増え、歪やピンホールが増加した。信頼性の評価は、実施例1と同様に有機EL素子を点灯した状態で、100℃と−20℃の熱サイクルを20サイクル繰り返した。その後、室温で、点灯している画素の発光強度を比較して、信頼性の評価とした。
【0136】
その結果を、表3に示す。本発明の好適な昇温範囲、2℃/分から20℃/分の範囲で良好な特性が得られた。
【0137】
【表3】

【0138】
(実施例3)
ガラス基板上に、実施例2の昇温速度10℃/分で作製した平坦化層と同じ条件の平坦化層を2μm堆積した。該層上に下部電極と同じCrを真空蒸着法で100nm成膜した。平坦化層の表面は、Cr電極を堆積する前に、大気中に1日間放置し、さらに、Cr電極を成膜する前に紫外線光を照射した。紫外線の照射時間を変えて、平坦化層の表面処理を行った。平坦化層の接触角は、協和界面科学株式会社のDropMaster700を使用して測定した。その結果を表4に示す。このような接触角の平坦化層の表面に堆積したCrの密着性を、クロスハッチ試験で行った。クロスハッチ試験はJIS K5600に準じて行った。その結果を、表4に示す。水に対する接触角が80度以下で良好な密着性を示した。
【0139】
【表4】

【0140】
(実施例4)
平坦化層の原料となるアクリル樹脂のオリゴマー(分子量1000)について、キレート化剤(EDTA)を0.1%を添加した水溶液で10分間の攪拌洗浄をする、この攪拌洗浄の回数によって、触媒や反応容器から溶出した残留する金属量を制御した。そして、実施例1のサンプル#2−5と同様な手法により、平坦化層をガラス基板上に積層した。また、平坦化層に残留する金属(主にFe、Ni、Mo)は、仏 CAMECA社製の二次イオン質量分析機IMS−4Fで測定した。
【0141】
また、実施例1のサンプル#2−5と同様な手法で、有機EL素子パネルを作製した。有機EL素子を点灯して、70℃の雰囲気中に1000時間の間保持した。その後、各画素の発光状態を残留金属の少ないサンプル#5−4と比較して評価した。その結果を表5に示す。残留金属の量が150ppm以下のサンプルでは、発光状態は大きく変わらなかったが、200ppm残留しているサンプルでは、発光効率の低下が大きかった。このように、残留金属量の少ないサンプルで良好な結果が得られた。
【0142】
【表5】

【0143】
(実施例5)
実施例1で用いた分子量5000のオリゴマー組成物を使用して、平坦化層を形成する場合、20℃/分の昇温速度で昇温し、ポストベーク温度は230℃とした。他の条件は実施例1と同様にし、平坦化層を2μm形成した。この平坦化層について、平坦化層の厚さ方向の残留オリゴマーの量を測定するために、平坦化層の表面から順次平坦化層を削り、実施例1で説明した島津製作のガスクロマトグラフ質量分析計GCMS−QP2010を使用して残留オリゴマーを測定した。そして平坦化層の仕込みのオリゴマー量との比を計算し、オリゴマーの残留割合を求めた。
【0144】
その結果、残留オリゴマーは、平坦化層の表面数100nmの領域では、1%であり、平坦化層の表面から、1.5μmの領域では、2%であった。このように、分子量の大きいオリゴマーを速い昇温速度で昇温して形成した平坦化層には厚さ方向にオリゴマーの分布が見られ、平坦化層の表面から深くなるにつれて、残留オリゴマーが増加していることが分かった。
【0145】
この平坦化層の表面硬度を実施例1と同様にナノインテンダーで測定した。その結果表面の硬度は0.4GPaあったが、圧子が平坦化層に深く入るにつれて、硬度は低下し0.3GPaが観測された。
【0146】
この平坦化層上に、有機EL素子を形成し、実施例1と同様な信頼性の試験を行った。信頼性の試験後、有機EL素子パネルの発光状況を観察した。その結果、良好な結果が得られた。
【0147】
(実施例6)
平坦化層の最適な層厚を検討した。平坦化層は、実施例1のサンプル#2−3の条件で成膜した。平坦化層の層厚は、表6に示すように、0.5μmから5μmについて検討した。平坦化層の層厚及び平坦性は、有機EL素子の断面を走査電子顕微鏡(SEM)で観察して求めた。平坦化層の層厚は、基板からその上の平坦化層の表面までの距離から求めた。平坦化層の平坦性の結果を表6に示す。平坦化層の層厚が0.5μmのサンプル#6−1は、駆動回路の薄膜トランジスターや配線の凹凸を平坦化することはできなかった。平坦化層の表面は、約0.2μmの凹凸が観測された。平坦化層が1μm以上のサンプルでは、実用上問題となる凹凸は観測されなかった。平坦化層の層厚を、0.5μmから5μmまで変えたサンプル#6−1から#6−6のサンプルについて、有機EL素子の信頼性を実施例1と同様にして行った。その結果を表6に示す。平坦化層の層厚1μmから4μmで良好な結果が得られた。また、平坦化層の層厚1μmから3μmでより良好な結果が得られた。
【0148】
【表6】

【図面の簡単な説明】
【0149】
【図1】本実施形態に係る「有機EL表示装置の構成を示す模式的断面図である。
【図2】本実施形態に係る有機EL表示装置の製造プロセスの流れを示す図である。
【図3】本実施形態に係る有機EL表示装置の電流プログラミングによる駆動回路の回路図である。
【符号の説明】
【0150】
101 基板101
102 ポリシリコン
103 ソース
104 ドレイン
105 ゲート
106 ゲート絶縁層
107 平坦化層
108 下部電極
109 有機EL層
110 上部電極
111 保護層
112 充填剤
113 素子分離膜
114 封し材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部電極と発光層を少なくとも含む有機層と上部電極とが積層されてなる積層体を一単位とした発光素子と、
前記発光素子の発光あるいは非発光を制御するスイッチング素子と、
前記スイッチング素子の上に配置され且つ前記下部電極の下に配置されている平坦化層とを有する有機EL表示装置において、
前記平坦化層の残留オリゴマーは5%以下であることを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項2】
前記平坦化層の表面硬度が0.3GPa以上0.6GPa以下である請求項1に記載の有機EL表示装置。
【請求項3】
前記平坦化層の水に対する接触角が80度以下である請求項1乃至2のいずれかに記載の有機EL表示装置。
【請求項4】
前記平坦化層にふくまれる金属は150ppm以下であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の有機EL表示装置。
【請求項5】
前記平坦化層がアクリル樹脂である請求項1乃至4の何れか一項に記載の有機EL表示装置。
【請求項6】
基材に配置されているスイッチング素子の上に配置される平坦化層を形成する平坦化層形成工程と、
下部電極と発光層を少なくとも含む有機層と上部電極とが積層されてなる積層体を一単位とした発光素子の前記下部電極を形成する下部電極形成工程とを有する有機EL表示装置の製造方法において、
前記平坦化層形成工程は、
分子量500以上5000以下のオリゴマーを前記基材に配置し重合させ、
残留オリゴマーが5%以下である前記平坦化層を得る工程であることを特徴とする有機EL表示装置の製造方法。
【請求項7】
前記重合は、熱及び/または光により行われることを特徴とする請求項6に記載の有機EL表示装置の製造方法。
【請求項8】
前記重合は前記配置された前記オリゴマーを昇温速度2〜20℃/分の条件下で行われることを特徴とする請求項6に記載の有機EL表示装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−59128(P2007−59128A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−241063(P2005−241063)
【出願日】平成17年8月23日(2005.8.23)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】