説明

有機EL表示装置および電子機器

【課題】消費電力を増大させることなく、表示画質の劣化を抑制することが可能な有機EL表示装置を提供する。
【解決手段】有機EL表示装置1は、光取り出し面を有する駆動側基板10の側から順に、第1電極14と、少なくとも有機電界発光層を含む有機層16R(16G,16B)と、有機層16R(16G,16B)よりも小さな膜厚を有する第2電極17とを備える。第2電極17の薄膜化により、製造プロセスにおいて、第1電極14上に異物が付着していた場合であっても、第1電極14および第2電極17間における電気的短絡が生じにくい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機材料の電界発光(EL;Electro Luminescence)現象を利用して画像表示を行う有機EL表示装置、およびそのような有機EL表示装置を備えた電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
有機材料のEL現象を利用して発光する有機EL素子は、第1電極(アノード)上に、発光層を含む有機層を介して第2電極(カソード)を設けたものであり、低電圧直流駆動による高輝度発光が可能な発光素子として注目されている。このような有機EL素子を画素として用いた有機EL表示装置は、様々な用途に利用されている。
【0003】
ところが、有機EL表示装置では、第1電極の表面に異物が付着していた場合、第1電極に対する有機層の十分なカバレッジが得られず、第1電極および第2電極間で電気的短絡(ショート)が生じることがある。この電気的短絡が生じた部分は、滅点となり画質劣化を引き起こしてしまう。
【0004】
そこで、いわゆるボトムエミッション構造を有する有機EL表示装置において、第1電極(透明電極)と第2電極(反射電極)との間に高抵抗層を設けることにより、上記のような電気的短絡を抑制する手法が提案されている(特許文献1,2参照)。具体的には、特許文献1では、第1電極と有機層との間に高抵抗層を設け、特許文献2では、第2電極を2層構造とし、そのうち有機層に近い側の電極層を高抵抗にする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−035667号公報
【特許文献2】特開2005−209647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1,2の手法では、第1電極および第2電極間に高抵抗となる層を有するので、駆動電圧が高くなり、消費電力が増大するという問題がある。
【0007】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、消費電力を増大させることなく、表示画質の劣化を抑制することが可能な有機EL表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の有機EL表示装置は、光取り出し面を有する基板側から順に、第1電極と、少なくとも有機電界発光層を含む有機層と、有機層よりも小さな膜厚を有する第2電極とを備えたものである。
【0009】
本発明の電子機器は、上記本発明の有機EL表示装置を備えたものである。
【0010】
本発明の有機EL表示装置および電子機器では、光取り出し面を有する基板側から順に、第1電極と、少なくとも有機電界発光層を含む有機層と、第2電極とを備え、この第2電極が有機層よりも小さな膜厚を有する。これにより、第1電極上に異物が付着していた場合であっても、第1電極および第2電極間における電気的短絡が生じにくくなる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の有機EL表示装置および電子機器によれば、光取り出し面を有する基板側から順に、第1電極と、少なくとも有機電界発光層を含む有機層と、有機層よりも小さな膜厚を有する第2電極とを設ける。これにより、第1電極および第2電極間に、高抵抗層を設けることなく(即ち、高駆動電圧化を招くことなく)、異物に起因する電気的短絡の発生を抑制することができる。よって、消費電力を増大させることなく、表示画質の劣化を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施の形態に係る有機EL表示装置の断面構成を表す図である。
【図2】TFT上にカラーフィルタを設けた断面構成の一例を表す図である。
【図3】図1に示した基板上の駆動回路の一例を表す図である。
【図4】図3に示した画素駆動回路の一例を表す図である。
【図5】図1に示した有機EL素子(画素)の断面構成を表す図である。
【図6】図1に示した有機EL表示装置の製造方法を説明するための断面図である。
【図7】図6に続く工程を表す断面図である。
【図8】図7に続く工程を表す断面図である。
【図9】比較例の構造において異物が付着していた場合の電気的影響について説明するための模式図である。
【図10】実施例の構造において異物が付着していた場合の電気的影響について説明するための模式図である。
【図11】第2電極の膜厚と滅点数との関係を表す特性図である。
【図12】第2電極の膜厚とシート抵抗との関係を表す特性図である。
【図13】変形例1に係る有機EL素子(画素)の概略構成を表す断面図である。
【図14】変形例2に係る有機EL素子(画素)の概略構成を表す断面図である。
【図15】変形例3に係る有機EL素子(画素)の概略構成を表す断面図である。
【図16】上記実施の形態等の表示装置を含むモジュールの概略構成を表す平面図である。
【図17】上記実施の形態等の表示装置の適用例1の外観を表す斜視図である。
【図18】(A)は適用例2の表側から見た外観を表す斜視図であり、(B)は裏側から見た外観を表す斜視図である。
【図19】適用例3の外観を表す斜視図である。
【図20】適用例4の外観を表す斜視図である。
【図21】(A)は適用例5の開いた状態の正面図、(B)はその側面図、(C)は閉じた状態の正面図、(D)は左側面図、(E)は右側面図、(F)は上面図、(G)は下面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。尚、説明は以下の順序で行う。

1.実施の形態(薄膜化した第2電極上に絶縁層を介して反射層を設けた有機EL表示装置の例)
2.変形例1(第2電極と反射層との間に高抵抗層を設けた例)
3.変形例2(絶縁層を画素開口部にのみ選択的に設けた例)
4.変形例3(高抵抗層を画素開口部にのみ選択的に設けた例)
5.適用例(電子機器への適用例)
【0014】
<実施の形態>
[構成]
図1は、本発明の一実施の形態に係る有機EL表示装置(有機EL表示装置1)の断面構成を表すものである。有機EL表示装置1は、いわゆるボトムエミッション方式(下面発光方式)により発光を生じるものであり、例えば、駆動側基板10上に、赤色光を発する有機EL素子10R,緑色光を発する有機EL素子10Gおよび青色光を発する有機EL素子10Bが例えばマトリクス状に配置されたものである。これらの有機EL素子10R,10G,10Bは、表示領域(後述の表示領域110)を構成する画素(サブピクセル)であり、例えばこれらのR,G,Bの3つのサブピクセルが1つのピクセルとして機能するようになっている。
【0015】
駆動側基板10は、例えば、石英、ガラス、金属箔、シリコン、プラスチック等からなる。この駆動側基板10上(駆動側基板10の表面側)には、TFT11を含む駆動回路(後述の画素駆動回路140等)が配設されている。駆動側基板10の裏面は、光取り出し面となっている。TFT11は、例えばゲート電極,ソース電極およびドレイン電極と、チャネルを形成する半導体層(いずれも図示せず)とを備えており、平坦化膜13によって被覆されている。
【0016】
尚、この駆動側基板10のTFT11上には、例えばカラーフィルタが設けられていてもよい。図2にその一例を示す。このように、TFT11を被覆して無機絶縁膜111が設けられており、この無機絶縁膜111上の第1電極14に対向する領域にカラーフィルタ112が形成されている。これらの無機絶縁膜111およびカラーフィルタ112を覆うように、平坦化膜13が設けられている。平坦化膜13上に配設される第1電極14は、無機絶縁膜111および平坦化膜13を貫通するコンタクトホールを介してTFT11に電気的に接続されている。カラーフィルタ112は、有機EL素子10R,10G,10Bに対応して配置された赤色,緑色または青色のフィルタを有し、例えば顔料や染料を混入した樹脂より構成されている。このようなカラーフィルタ112を設けることにより、有機EL素子10R,10G,10Bで発生した各色光を取り出すことができる。
【0017】
また更に、図示しないブラックマトリクス(遮光膜)が設けられていてもよく、これにより、有機EL素子10R,10G,10B間および配線等において反射された外光を吸収し、コントラストを改善することができる。遮光膜は、例えば黒色の着色剤を混入した樹脂膜、または薄膜の干渉を利用した薄膜フィルタにより構成されている。
【0018】
TFT11は、例えば後述の画素駆動回路140における駆動トランジスタTr1および書き込みトランジスタTr2に相当するものであり、その構成は例えば逆スタガ構造(いわゆるボトムゲート型)でもよいしスタガ構造(トップゲート型)であってもよい。
【0019】
平坦化膜13は、例えば例えばポリイミド,アクリル系樹脂またはノボラック系樹脂などの有機絶縁膜よりなる。あるいは、無機絶縁膜、例えば酸化シリコン(SiOx),窒化シリコン(SiNx)および酸窒化シリコン(SiON)等のうちの少なくとも1種を含む単層膜あるいは積層膜より構成されていてもよい。この平坦化膜13上に、上述の有機EL素子10R,10G,10Bが形成されている。平坦化膜13には、図示しないコンタクトホールが形成されており、このコンタクトホールを介してTFT11(ソース電極またはドレイン電極)と、後述の第1電極14とが電気的に接続されている。
【0020】
(回路構成)
図3は、駆動側基板10上に配設される駆動回路の一例を表すものである。駆動側基板10上には、表示領域110に画素駆動回路140が設けられ、表示領域110の周辺には、映像表示用のドライバである信号線駆動回路120および走査線駆動回路130が設けられている。図4は、画素駆動回路140の一例を表したものである。画素駆動回路140は、後述する第1電極14の下層に形成されたアクティブ型の駆動回路である。この画素駆動回路140は、駆動トランジスタTr1および書き込みトランジスタTr2(前述のTFT11の相当)と、これらトランジスタTr1,Tr2の間のキャパシタ(保持容量)Csとを有している。画素駆動回路140はまた、第1の電源ライン(Vcc)および第2の電源ライン(GND)の間において、駆動トランジスタTr1に直列に接続された有機EL素子10R(または有機EL素子10G,10B)を有している。
【0021】
画素駆動回路140では、列方向に沿って信号線120A、行方向に沿って走査線130Aがそれぞれ複数配置されている。各信号線120Aと各走査線130Aとの交差部が、有機EL素子10R,10G,10Bのいずれか1つに対応している。各信号線120Aは、信号線駆動回路120に接続され、この信号線駆動回路120から信号線120Aを介して書き込みトランジスタTr2のソース電極(またはドレイン電極)に画像信号が供給されるようになっている。各走査線130Aは走査線駆動回路130に接続され、この走査線駆動回路130から走査線130Aを介して書き込みトランジスタTr2のゲート電極に走査信号が順次供給されるようになっている。
【0022】
(有機EL素子10R,10G,10B)
図5は、有機EL素子10R(有機EL素子10G,10B)の断面構造について抜粋して示したものである。有機EL素子10R(10G,10B)は、ボトムエミッション方式により発光を生じるものであり、平坦化膜13上に、例えば第1電極14、有機層16R(16G,16B)、第2電極17、絶縁層18および反射層19を備えている。有機層16R,16G,16Bはそれぞれ、赤色光,緑色光,青色光を発する発光層(赤色発光層,緑色発光層,青色発光層)を含むものである。
【0023】
これらの有機EL素子10R,10G,10Bは、画素分離膜15によって分離されている(発光領域が区画されている)。詳細には、画素分離膜15には複数の開口が形成されており、この開口部分に有機層16R,16G,16Bが形成されている。これらの有機EL素子10R,10G,10Bは、保護層20により被覆されており、更にこの保護層20上に接着層21を介してガラス等よりなる封止用基板22が貼り合わされており、これによって、有機EL素子10R,10G,10Bを含む表示領域全体が封止されている。
【0024】
第1電極14は、例えば有機EL素子10R,10G,10Bの画素毎に設けられ、例えばアノードとして機能するものである。この第1電極14の膜厚t1は、例えば10nm以上500nm以下であり、透明導電膜、例えばインジウムとスズの酸化物(ITO)、および酸化亜鉛(ZnO)とアルミニウム(Al)との合金のうちのいずれかよりなる単層膜またはそれらのうちの2種以上からなる積層膜により構成されている。
【0025】
画素分離膜15は、例えばポリイミド,アクリル系樹脂またはノボラック系樹脂などの有機絶縁膜により構成されている。
【0026】
有機層16R,16G,16Bはそれぞれ、発光層(例えば、赤色発光層,緑色発光層または青色発光層)を含んでおり、電界をかけることにより電子と正孔との再結合を生じて、光を発生するようになっている。赤色発光層は、例えば赤色発光材料,正孔輸送性材料および電子輸送性材料のうち少なくとも1種を含み、例えば4,4−ビス(2,2−ジフェニルビニン)ビフェニル(DPVBi)に2,6−ビス[(4'−メトキシジフェニルアミノ)スチリル]−1,5−ジシアノナフタレン(BSN)を混合したものから構成されている。緑色発光層は、例えば、緑色発光材料,正孔輸送性材料および電子輸送性材料のうち少なくとも1種を含み、例えば、ADNやDPVBiにクマリン6を混合したものから構成されている。青色発光層は、例えば、青色発光材料,正孔輸送性材料および電子輸送性材料のうち少なくとも1種を含み、例えば、DPVBiに4,4'−ビス[2−{4−(N,N−ジフェニルアミノ)フェニル}ビニル]ビフェニル(DPAVBi)を混合したものから構成されている。このような発光層をそれぞれ含む有機層16R,16G,16Bの膜厚t2は、素子の全体構成や発光色によって相違するが、例えば10nm〜100nmとなっている。
【0027】
有機層16R,16G,16Bは、また、上記のような発光層の他にも、例えば正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層などを含んでいてもよい。具体的には、第1電極14がアノードとして機能する場合には、この第1電極14側から順に、正孔注入層、正孔輸送層、発光層および電子輸送層を積層した構造であってもよい。また、発光層または電子輸送層と、第2電極17との間には、更に電子注入層が設けられていてもよい。更に、これらの正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層および電子注入層は、各画素に共通して形成されていてもよいし、画素毎に設けられていてもよい。
【0028】
尚、ここでは、画素毎に赤色発光層、緑色発光層,青色発光層を設けた(画素毎に発光層を塗り分けた)場合について説明したが、発光層の構成は、これに限定されない。例えば、各画素に共通して白色発光層(例えば赤色発光層,緑色発光層および青色発光層の積層したもの)を設けてもよい。また、有機EL素子10R,10Gにはそれぞれ赤色,緑色の発光層が設けられ、青色の発光層が有機EL素子10R,10G,10Bの全てに共通して設けられていてもよい。
【0029】
第2電極17は、例えば有機EL素子10R,10G,10Bに共通して設けられ、例えばカソードとして機能するものである。この第2電極17は、例えばアルミニウム(Al),マグネシウム(Mg),カルシウム(Ca)および銀(Ag)のうちの少なくとも1種よりなる単体金属、またはそれらのうちの2種以上を含む合金から構成されている。第2電極17は、そのような単体金属および合金のうちのいずれかよりなる単層膜であってもよいし、それらのうちの2種以上を積層した積層膜であってもよい。具体的には、第2電極14としては、マグネシウムおよび銀の合金よりなる単層膜、アルミニウム単体よりなる単層膜、マグネシウムおよび銀の合金とカルシウムとの積層膜、およびアルミニウムとカルシウムとの積層膜などが用いられる。この第2電極17は、理想的には、第1電極14と絶縁された状態で有機層16R,16G,16B上に形成され、有機EL素子10R,10G,10Bに共通して設けられている。
【0030】
本実施の形態では、この第2電極17が薄膜化されている(上述の有機層16R,16G,16Bよりも膜厚が薄くなっている)。具体的には、第2電極17の膜厚t3は、例えば3nm〜50nmであり、望ましくは20nm以下、より望ましくは5nm以上20nm以下である。詳細は後述するが、第2電極17が5nm以上20nm以下であることにより、シート抵抗を大幅に増大させることなく、異物による電気的影響を緩和することができるためである。
【0031】
このような第2電極17上には、絶縁層18を介して反射層19が設けられている。上述のように、有機EL表示装置1では、ボトムエミッション方式により発光を行うため、この第2電極14側において光反射性を要する。ところが、上記のように第2電極17を薄膜化した場合、十分な反射性能が得られない場合があるため、本実施の形態のように、第2電極17とは別の層として反射層19を設けることが望ましい。
【0032】
反射層19は、光反射性に優れた金属膜、例えばアルミニウム,銀,マグネシウムなどのうちのいずれか1種からなる単層膜、またはそれらのうちの2種以上からなる合金(例えばマグネシウムと銀の合金(MgAg合金))等により構成されている。この反射層19の厚みは、例えば50nm以上200nmである。
【0033】
絶縁層18は、そのような反射層19と第2電極17とを接触させることなく(非接触な状態で)配置させるための中間層であり、絶縁材料(導電性の極めて低い材料)により構成されている。ここでは、絶縁層18が、例えば表示領域110内の全域にわたって形成されている。この絶縁層18は、例えば酸化珪素(SiOx),窒化珪素(SiNx)および酸窒化珪素(SiON)のうちのいずれかよりなる単層膜、またはそれらのうちの2種以上よりなる積層膜などの無機絶縁膜により構成されている。これらの無機絶縁膜は、可視光の吸収率が比較的低いため、絶縁膜18における光損失を抑えることができる。この絶縁層18の膜厚は、例えば0.1μm以上2.0μmである。
【0034】
保護層20は、例えば厚みが2〜5μmであり、絶縁性材料または導電性材料のいずれにより構成されていてもよい。絶縁性材料としては、無機アモルファス性の絶縁性材料、例えばアモルファスシリコン(a−Si),アモルファス炭化シリコン(a−SiC),アモルファス窒化シリコン(a−Si1-xx)、アモルファスカーボン(a−C)等が好ましい。このような無機アモルファス性の絶縁性材料は、グレインを構成しないため透水性が低く、良好な保護膜となる。
【0035】
接着層21は、例えば熱硬化性または紫外線硬化性を有するエポキシ樹脂などよりなる。
【0036】
封止用基板22は、保護層20および接着層21と共に、有機EL素子10R,10G,10Bを封止するものである。この封止用基板22は、有機EL素子10R,10G,10Bで発生した各色光に対して透明なガラスなどの材料により構成されている。
【0037】
(有機EL表示装置の製造方法)
上記のような有機EL表示装置1は、例えば次のようにして製造することができる。即ち、まず、駆動側基板10上に、TFT11を含む駆動回路を形成した後、これらを覆うように、平坦化膜13を、例えばスピンコート法,スリットコート法により成膜する。続いて、成膜した平坦化膜13を、例えばフォトリソグラフィ法により、所定の形状にパターニングすると共に、この平坦化膜13に、TFT11および第1電極14との導通を確保するためのコンタクトホールを形成する。この後、平坦化膜13上に、コンタクトホールを埋め込むように、上述した材料よりなる第1電極14を、例えばスパッタ法により成膜し、パターニングし、画素毎に分離する。
【0038】
このようにして第1電極14を形成した平坦化膜13上に、上述した材料よりなる画素分離膜15を、例えばスピンコート法,スリットコート法により成膜する。その後、図6に示したように、例えばフォトリソグラフィ法により、第1電極14に対応する領域に開口H1を形成し、第1電極14の表面を露出させる。
【0039】
続いて、図7に示したように、画素分離膜15の開口H1において、第1電極14上に、有機層16R,16G,16Bを形成する。この際、発光層としては、例えば蒸着マスクを用いて、画素毎に赤色発光層,緑色発光層および青色発光層をそれぞれ真空蒸着法により成膜する。また、発光層の他に、正孔注入層,正孔輸送層および電子輸送層を成膜する場合には、これらの層については、画素毎に成膜してもよいし、表示領域110の全面にわたって成膜してもよい。
【0040】
この後、図8に示したように、表示領域110の全面にわたって、上述した材料よりなる第2電極17を例えばスパッタ法により成膜する。次いで、図示はしないが、形成した第2電極17上の全面を覆って、上述した材料よりなる絶縁層18を、例えばCVD(Chemical Vapor Deposition;化学気相成長)法により成膜する。この後、絶縁膜18上に、上述した材料よりなる反射層19を例えばスパッタ法により成膜することにより、有機EL素子10R,10G,10Bを形成する。
【0041】
最後に、これらの有機EL素子10R,10G,10Bを覆って、保護層20を形成した後、接着層21を塗布して封止用基板22を重ね合わせ、接着層21を硬化させることにより、封止用基板22を保護層20上に貼り合わせる。以上により、図1に示した有機EL表示装置1を完成する。
【0042】
[作用・効果]
有機EL表示装置1では、各画素に対して走査線駆動回路130から書き込みトランジスタTr2のゲート電極を介して走査信号が供給されると共に、信号線駆動回路120から画像信号が書き込みトランジスタTr2を介して保持容量Csに保持される。この保持容量Csに保持された信号に応じて駆動トランジスタTr1がオンオフ制御され、有機EL素子10R,10G,10Bに駆動電流Idが注入される。これにより、有機EL素子10R,10G,10Bでは、有機層16R,16G,16Bにおける各発光層において、正孔と電子との再結合により発光が起こる。このようにして生じた各色の光のうち、第1電極14側(下方)へ放たれた光は、そのまま第1電極14を透過した後、駆動側基板10の下方より出射する。一方、第2電極17側(上方)へ放たれた光は、第2電極17等によって反射された後、第1電極14を透過して、駆動側基板10の下方より出射する。このようにして、ボトムエミッション方式による発光がなされる。
【0043】
このような有機EL表示装置1では、上述のように、画素毎に設けられた第1電極14上に、有機層16R,16G,16Bをそれぞれ形成した後、第2電極17を表示領域110の全面に渡って形成する。ところが、この有機層16R,16G,16Bおよび第2電極17の成膜工程において、第1電極14上に異物(パーティクル、埃や塵、第1電極14表面に生じる突起物など)が付着し易い。以下、この異物の付着によって起こる電気的な影響について、比較例と比較しつつ説明する。
【0044】
(比較例)
図9(A)に、比較例1に係る素子構造における異物付着箇所について模式的に示す。このように、比較例1では、本実施の形態と同様、第1電極101上に、発光層を含む有機層102および第2電極103がこの順に積層されている。但し、この比較例1では、第2電極103の膜厚t103が、例えば100nm以上となっている。第1電極14上に異物(X)が存在すると、有機層102の十分なカバレッジが得られない(例えば、図中のA100のように有機層102が異物Xの端部付近において断線する)。このような有機層102上に、第2電極103を上記のような膜厚となるように成膜した場合、第2電極103を構成する金属材料が、異物Xの下方へ回り込むように成膜され(A100)、これによって、第1電極101と第2電極103との間で電気的短絡が生じてしまう。そして、このよう短絡が生じると、アクティブマトリクス方式の有機EL表示装置においては、短絡の生じた画素が欠陥となってしまう。また、パッシブマトリクス方式の有機EL表示装置においては、そのような箇所が欠線となって表れる。このように、異物の付着箇所に対応して、表示映像にいわゆる滅点が生じ、表示画質の劣化を招いてしまう。このため、次の比較例2のような対策も考えられる。
【0045】
図9(B)に、比較例2に係る素子構造における異物付着箇所について模式的に示す。このように、比較例2では、上記比較例1の構造において、第1電極101と有機層102との間に高抵抗層104を設けた構造となっている。これにより、比較例2では、上記比較例1のように異物Xの付着により、第2電極103が異物Xの下方へ回り込むように成膜されている場合であっても、第2電極103と第1電極101とが電気的に導通しにくく、上記のような短絡の発生が抑制される。ところが、この比較例2の構成では、第1電極101と第2電極103との間に、高抵抗層104が設けられているため、有機層102の駆動電圧が高くなってしまう。
【0046】
これに対し、本実施の形態では、上述のように、第2電極17の薄膜化により、第1電極14の表面に異物Xが付着し、有機層16R(16G,16B)のカバレッジが十分に得られなかった場合であっても、第1電極14および第2電極17間における電気的短絡の発生が抑制される。具体的には、図10(A)に示したように、断線の生じた有機層16R(16G,16B)上に、成膜された第2電極17では、異物Xの下方にまで回り込みにくく、第1電極14との接触が生じにくい(A1)。あるいは、図10(B)に示したように、第2電極17が異物Xの下方へ回り込んで形成された場合であっても、回り込み量が少なく膜厚が薄くなるため、抵抗が高くなる。このような理由から、本実施の形態では、第1電極14および第2電極17間において電気的短絡の発生が抑制される。
【0047】
また、その第2電極17の膜厚が20nm以下であることにより、異物による第1電極と第2電極との間での短絡を減少させ、滅点を効果的に低減することができる。図11に、第2電極17の膜厚と滅点数との関係について示す。このように、膜厚20nm以下において、滅点数が大幅に低減していることがわかる。また、図12には、第2電極17の膜厚とそのシート抵抗との関係について示す。このように、シート抵抗の観点においては、膜厚5nm未満では抵抗値が急激に増大するが、5nm以上では、略一定の低い値が保持されている。従って、これらの結果から、第2電極17の膜厚は、上述のように、20nm以下であることが望ましく、5nm以上20nm以下であることがより望ましい。
【0048】
以上のように本実施の形態では、第1電極14上に、有機層16R(16G,16B)および第2電極17を順に積層してなる有機EL素子10R(10G,10B)において、第2電極17を薄膜化することにより、異物に起因する電気的短絡の発生を抑制できる。この際、第1電極14および第2電極17間に、高抵抗層を設けることがないため、高駆動電圧化を招くこともない。よって、消費電力を増大させることなく、表示画質の劣化を抑制することが可能となる。
【0049】
また、第2電極17上に反射層19が設けられることにより、次のような効果を得ることができる。即ち、上記のように第2電極17を薄膜化すると、第2電極17における反射率が低下するが、そのような反射率の低下を反射層19によって補うことができる。具体的には、有機層16R(16G,16B)から第2電極17側へ放たれた光の一部が第2電極17を透過した場合であっても、そのような光を反射層19によって反射させ、下方へ導くことができる。よって、第2電極17の薄膜化による光損失を低減することができ、表示画質の劣化を抑制可能となる。更に、そのような反射層19を第2電極17上に絶縁層18を介して設けることにより、反射層19と第2電極17との電気的導通を防ぐことができる。
【0050】
続いて、上記実施の形態の変形例(変形例1〜3)について説明する。尚、上記実施の形態における構成要素と同一のものには同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0051】
<変形例1>
図13は、変形例1に係る有機EL素子の断面構成を表したものである。上記実施の形態では、第2電極17と反射層19との間に絶縁層18を設けたが、第2電極17と反射層19との間に設ける中間層としては、必ずしも絶縁性を有していなくともよい。例えば、本変形例のように、高抵抗層18A(抵抗率が、例えば1×107Ω・m〜1×1010Ω・m)を設けた構成としてもよい。
【0052】
高抵抗層18Aは、例えば酸化ニオブ(NbOx),酸化チタン(TiOx),酸化モリブデン(MoOx),酸化タンタル(TaOx),酸化ニオブと酸化チタンとの混合物,酸化チタンと酸化亜鉛(ZnO)との混合物,または酸化珪素(SiOx)と酸化錫(SnOx)との混合物より構成されている。高抵抗層18Aの膜厚は、例えば0.1μm以上2.0μm以下である。
【0053】
本変形例のように、第2電極17上に、高抵抗層18Aを介して反射層19を設けた構成としてもよく、このような場合であっても、第2電極17と反射層19との電気的導通を生じにくくすることができる。よって、上記実施の形態とほぼ同等の効果を得ることができる。
【0054】
<変形例2>
図14は、変形例2に係る有機EL素子の断面構成を表したものである。上記実施の形態では、第2電極17および反射層19間において、絶縁層18を表示領域110の全面にわたって設けた構成について説明したが、この絶縁層は、必ずしも表示領域110の全面に設けられていなくともよく、画素毎の選択的な領域にのみ設けられていてもよい。即ち、図14に示したように、第1電極14上の画素開口に相当する部分にのみ、絶縁層18Bが設けられていてもよい。つまり、実質的に発光に寄与する領域においてのみ、第2電極17と反射層19とが非接触となっていればよい。絶縁層18Bの構成材料や厚みについては、上記実施の形態における絶縁層18と同様である。このような構成によっても、上記実施の形態と同等の効果を得ることができる。
【0055】
<変形例3>
図15は、変形例3に係る有機EL素子の断面構成を表したものである。上記変形例2では、絶縁層18Bが画素開口部分にのみ形成される場合について説明したが、この絶縁層18Bに代えて高抵抗層18Cを設けるようにしてもよい。高抵抗層18Cの構成材料や厚み、抵抗率については、上記実施の形態における高抵抗層18Aと同様である。このような構成によっても、上記実施の形態と同等の効果を得ることができる。
【0056】
<適用例>
以下、上記実施の形態および変形例で説明した有機EL表示装置の適用例について説明する。上記実施の形態等の有機EL表示装置は、テレビジョン装置,デジタルカメラ,ノート型パーソナルコンピュータ、携帯電話等の携帯端末装置あるいはビデオカメラなどのあらゆる分野の電子機器に適用することが可能である。言い換えると、上記実施の形態等の有機EL表示装置は、外部から入力された映像信号あるいは内部で生成した映像信号を、画像あるいは映像として表示するあらゆる分野の電子機器に適用することが可能である。
【0057】
(モジュール)
上記実施の形態等の有機EL表示装置は、例えば、図16に示したようなモジュールとして、後述する適用例1〜5などの種々の電子機器に組み込まれる。このモジュールは、例えば、駆動側基板10の一辺に、封止用基板22から露出した領域210を設け、この露出した領域210に、信号線駆動回路120および走査線駆動回路130の配線を延長して外部接続端子(図示せず)を形成したものである。外部接続端子には、信号の入出力のためのフレキシブルプリント配線基板(FPC;Flexible Printed Circuit)220が設けられている。
【0058】
(適用例1)
図17は、適用例1に係るテレビジョン装置の外観を表したものである。このテレビジョン装置は、例えば、フロントパネル310およびフィルターガラス320を含む映像表示画面部300を有しており、この映像表示画面部300は、上記実施の形態等に係る有機EL表示装置により構成されている。
【0059】
(適用例2)
図18は、適用例2に係るデジタルカメラの外観を表したものである。このデジタルカメラは、例えば、フラッシュ用の発光部410、表示部420、メニュースイッチ430およびシャッターボタン440を有しており、その表示部420は、上記実施の形態等に係る有機EL表示装置により構成されている。
【0060】
(適用例3)
図19は、適用例3に係るノート型パーソナルコンピュータの外観を表したものである。このノート型パーソナルコンピュータは、例えば、本体510,文字等の入力操作のためのキーボード520および画像を表示する表示部530を有しており、その表示部530は、上記実施の形態等に係る有機EL表示装置により構成されている。
【0061】
(適用例4)
図20は、適用例4に係るビデオカメラの外観を表したものである。このビデオカメラは、例えば、本体部610,この本体部610の前方側面に設けられた被写体撮影用のレンズ620,撮影時のスタート/ストップスイッチ630および表示部640を有しており、その表示部640は、上記実施の形態等に係る有機EL表示装置により構成されている。
【0062】
(適用例5)
図21は、適用例5に係る携帯電話機の外観を表したものである。この携帯電話機は、例えば、上側筐体710と下側筐体720とを連結部(ヒンジ部)730で連結したものであり、ディスプレイ740,サブディスプレイ750,ピクチャーライト760およびカメラ770を有している。そのディスプレイ740またはサブディスプレイ750は、上記実施の形態等に係る有機EL表示装置により構成されている。
【0063】
以上、実施の形態、変形例および適用例を挙げて本発明を説明したが、本発明はこれらの実施の形態等に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、上記実施の形態等において説明した各層の材料および厚み、または成膜方法および成膜条件などは限定されるものではなく、他の材料および厚みとしてもよく、または他の成膜方法および成膜条件としてもよい。
【0064】
また、上記実施の形態等では、アクティブマトリクス型の表示装置の場合について説明したが、本発明はパッシブマトリクス型の表示装置への適用も可能である。更にまた、アクティブマトリクス駆動のための画素駆動回路の構成は、上記実施の形態で説明したものに限られず、必要に応じて容量素子やトランジスタを追加してもよい。その場合、画素駆動回路の変更に応じて、上述した信号線駆動回路120や走査線駆動回路130のほかに、必要な駆動回路を追加してもよい。
【符号の説明】
【0065】
1…有機EL表示装置、10…駆動側基板、10R,10G,10B…有機EL素子、11…TFT、13…平坦化膜、14…第1電極、15…画素分離膜、16R,16G,16B…有機層、17…第2電極、18…絶縁層、19…反射層、20…保護層、21…接着層、22…封止用基板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光取り出し面を有する基板側から順に、
第1電極と、
少なくとも有機電界発光層を含む有機層と、
前記有機層よりも小さな膜厚を有する第2電極と
を備えた有機EL表示装置。
【請求項2】
前記第2電極上に、前記第2電極と非接触となるように配置された反射層を有する
請求項1に記載の有機EL表示装置。
【請求項3】
前記第2電極の厚みは、20nm以下である
請求項1に記載の有機EL表示装置。
【請求項4】
前記第2電極の厚みは、5nm以上である
請求項3に記載の有機EL表示装置。
【請求項5】
前記第2電極は、マグネシウム(Mg)および銀(Ag)の合金よりなる単層膜、アルミニウム(Al)単体よりなる単層膜、マグネシウムおよび銀の合金とカルシウム(Ca)との積層膜、またはアルミニウムとカルシウムとの積層膜よりなる
請求項1に記載の有機EL表示装置。
【請求項6】
前記第2電極と前記反射層との間に絶縁層が設けられている
請求項1に記載の有機EL表示装置。
【請求項7】
前記絶縁層は、酸化珪素(SiOx),窒化珪素(SiNx)および酸窒化珪素(SiON)のうちのいずれかよりなる単層膜、または前記シリコン酸化膜,前記シリコン窒化膜および前記シリコン酸窒化膜のうちの2種以上よりなる積層膜である
請求項6に記載の有機EL表示装置。
【請求項8】
前記絶縁層は、0.1μm以上2μm以下である
請求項6に記載の有機EL表示装置。
【請求項9】
複数の画素を含み、
前記第1電極は、前記画素毎に配設されており、
前記絶縁層は、前記第2電極上において、前記第1電極に対向する選択的な領域に設けられている
請求項6に記載の有機EL表示装置。
【請求項10】
前記第2電極と前記反射層との間に高抵抗層が設けられている
請求項1に記載の有機EL表示装置。
【請求項11】
前記高抵抗層は、酸化ニオブ(NbOx),酸化チタン(TiOx),酸化モリブデン(MoOx),酸化タンタル(TaOx),酸化ニオブと酸化チタンとの混合物,酸化チタンと酸化亜鉛(ZnO)との混合物,または酸化珪素(SiOx)と酸化錫(SnOx)との混合物よりなる
請求項10に記載の有機EL表示装置。
【請求項12】
前記高抵抗層の厚みは、0.1μm以上2μm以下である
請求項10に記載の有機EL表示装置。
【請求項13】
複数の画素を含み、
前記第1電極は、前記画素毎に配設されており、
前記高抵抗層は、前記第2電極上において、前記第1電極に対向する選択的な領域に設けられている
請求項10に記載の有機EL表示装置。
【請求項14】
光取り出し面を有する基板側から順に、
第1電極と、
少なくとも有機電界発光層を含む有機層と、
前記有機層よりも小さな膜厚を有する第2電極と、
を有する有機EL表示装置を備えた電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2012−209018(P2012−209018A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−71486(P2011−71486)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】