説明

有機EL表示装置及びその製造方法

【課題】高精細な多色画像を表示可能とする有機EL表示装置及びその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 絶縁性の基板SUBと、基板上で配列すると共に発光色が互いに異なる第1乃至第3有機EL素子とを具備し、
第1乃至第3有機EL素子の各々は、画素電極PEと、画素電極と向き合った対向電極CEと、第1電極と第2電極との間に介在した有機層ORGとを含み、
第1乃至第3有機EL素子の各々の有機層ORGは、発光色の互いに異なる少なくとも3種類の発光材料EM1、EM2、EM3を含む混合層を有し、
しかも、第1乃至第3有機EL素子の発光色は、互いに異なることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス(EL)表示技術に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置に代表される平面表示装置は、CRTディスプレイと比較して、薄型、軽量、低消費電力であるといった特徴を活かして、需要が急速に伸びてきており、携帯情報端末機器を始め、大型テレビ等の種々のディスプレイに利用されるようになってきている。そして、近年では、液晶表示装置に比べて、自発光型で、高速応答、広視野角、高コントラストの特徴を有し、かつ、更に薄型軽量化が可能な有機エレクトロルミネセンス(EL)素子を用いた表示装置の開発が盛んに行われている。
【0003】
この有機EL素子は、正孔注入電極(陽極)から正孔を注入するとともに、電子注入電極(陰極)から電子を注入し、発光層で正孔と電子とを再結合させて発光を得るものである。フルカラー表示を得るためには、赤(R)、緑(G)、青(B)にそれぞれ発光する画素を構成する必要があり、赤、緑、青の各画素を構成する有機EL素子の発光層には、赤色、緑色、青色といったそれぞれ異なる発光スペクトルで発光する発光材料を塗り分ける必要がある。このような発光材料を塗り分ける方法としては、真空蒸着法で成膜する低分子有機EL材料の場合、各色の画素毎に開口した金属性のファインマスクを用いてそれぞれ独立にマスク蒸着する方法がある。
【0004】
しかしながら、この金属製のファインマスクを用いたマスク蒸着法では、表示装置として高い精細度(解像度)が要求され、画素が細かくなった場合には、十分な精度を出すことが困難となり、各色の発光材料が交じり合ってしまう、所謂、混色不良が多発して、正常な表示を得ることができない。これは、所謂、フォトリソグラフィに用いられるフォトマスクとは異なり、金属製のマスクの場合、初期の加工精度の低さに加え、蒸着源の輻射熱による熱膨張や歪みによって、開口の大きさや開口位置が大きく変わってしまうことなどが原因として挙げられる。
【0005】
また、金属製のマスクによるマスク蒸着は、マスクの大きさを大きくすればするほど、更に精度が低下し、表示装置の大形化にも制限が出てくる。
【特許文献1】特開2003−157973号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、高精細な多色画像を表示可能とする有機EL表示装置及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様による有機EL表示装置によれば、
絶縁性の基板と、前記基板上で配列すると共に発光色が互いに異なる第1乃至第3有機EL素子とを具備し、
前記第1乃至第3有機EL素子の各々は、第1電極と、前記第1電極と向き合った第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に介在した有機層とを含み、
前記第1乃至第3有機EL素子の各々の前記有機層は、発光色の互いに異なる少なくとも3種類の発光材料を含む混合層を有し、
しかも、前記第1乃至第3有機EL素子の発光色は、互いに異なることを特徴とする。
【0008】
本発明の第2の態様による有機EL表示装置の製造方法によれば、
絶縁性の基板と、前記基板上で配列すると共に発光色が互いに異なる第1乃至第3有機EL素子とを具備し、
前記第1乃至第3有機EL素子の各々は、第1電極と、前記第1電極と向き合った第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に介在した有機層とを含む有機EL表示装置の製造方法であって、
前記有機層の形成工程は、
前記第1乃至第3有機EL素子を形成する領域に、ホスト材料と、赤色波長に発光中心を有する第1発光材料と、緑色波長に発光中心を有する第2発光材料と、青色波長に発光中心を有する第3発光材料と、を共蒸着する工程と、
前記第1乃至第3有機EL素子を形成する領域において、それぞれ前記第1乃至第3発光材料のいずれかが発光するように、対象領域に電磁波照射する工程と、
を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、有機EL表示装置の製造過程において有機層をパターン成膜するための金属製ファインマスクを使用することなしに、高精細な多色画像を表示可能とする有機EL表示装置及びその製造方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の態様について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において、同一又は類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0011】
図1は、本発明の一態様に係る有機EL表示装置を概略的に示す平面図である。図2は、図1の表示装置に採用可能な構造の一例を概略的に示す断面図である。図3は、図2の表示装置が含む有機EL素子に採用可能な構造の一例を概略的に示す断面図である。図4は、図2の表示装置で採用可能な画素の配置の一例を概略的に示す平面図である。
【0012】
図1及び図2の表示装置は、アクティブマトリクス型駆動方式を採用した上面発光型の有機EL表示装置である。この表示装置は、表示パネルDPと、映像信号線ドライバXDRと、走査信号線ドライバYDRとを含んでいる。
【0013】
表示パネルDPは、例えば、ガラス基板などの絶縁性の基板SUBを含んでいる。基板SUB上には、図示しないアンダーコート層が形成されている。アンダーコート層は、例えば、基板SUB上にSiN層とSiO層とをこの順に積層してなる。アンダーコート層上には、例えば不純物を含有したポリシリコンからなる半導体パターンが形成されている。
【0014】
この半導体パターンの一部は、半導体層SCとして利用している。半導体層SCには、ソース及びドレインとして利用する不純物拡散領域が形成されている。また、この半導体パターンの他の一部は、後述するキャパシタCの下部電極として利用している。下部電極は、後述する画素PX1乃至PX3に対応して配列している。
【0015】
なお、画素PX1乃至PX3は、この順にX方向に並んでおり、トリプレットを構成している。表示領域内では、このトリプレットがX方向とY方向とに配列されている。すなわち、表示領域内では、画素PX1をY方向に並べてなる画素列と、画素PX2をY方向に並べてなる画素列と、画素PX3をY方向に並べてなる画素列とがこの順にX方向に並べられ、さらに、これら3つの画素列がX方向に繰り返し並べられている。
【0016】
半導体パターンは、ゲート絶縁膜GIによって被覆されている。ゲート絶縁膜GIは、例えばTEOS(tetraethyl orthosilicate)などを用いて形成することができる。ゲート絶縁膜GI上には、走査信号線SL1及びSL2が形成されている。走査信号線SL1及びSL2は、各々がX方向に延びており、Y方向に交互に配列している。走査信号線SL1及びSL2は、例えばMoWなどを用いて形成されている。
【0017】
ゲート絶縁膜GI上には、キャパシタCの上部電極がさらに配置されている。上部電極は、画素PX1乃至PX3に対応して配列しており、下部電極と向き合っている。上部電極は、例えばMoWなどを用いて形成され、走査信号線SL1及びSL2と同一の工程で形成することができる。
【0018】
走査信号線SL1及びSL2は、半導体層SCと交差している。走査信号線SL1と半導体層SCとの交差部は、スイッチングトランジスタSWaを構成している。走査信号線SL2と半導体層SCとの交差部は、スイッチングトランジスタSWb及びSWcを構成している。また、下部電極と上部電極とそれらの間に介在した絶縁膜GIとは、キャパシタCを構成している。上部電極は、半導体層SCと交差した延長部を含んでおり、延長部と半導体層SCとの交差部は、駆動トランジスタDRを構成している。
【0019】
なお、この例では、駆動トランジスタDR及びスイッチングトランジスタSWa乃至SWcは、トップゲート型のpチャネル薄膜トランジスタである。また、図2において参照符号Gで示す部分は、スイッチングトランジスタSWaのゲートである。
【0020】
ゲート絶縁膜GI、走査信号線SL1及びSL2、並びに上部電極は、層間絶縁膜IIによって被覆されている。層間絶縁膜IIは、例えばプラズマCVD(chemical vapor deposition)法により堆積させたSiOなどを用いて形成されている。
【0021】
層間絶縁膜II上には、映像信号線DLと電源線PSLとが形成されている。映像信号線DLは、各々がY方向に延びており、X方向に配列している。電源線PSLは、例えば、各々がY方向に延びており、X方向に配列している。層間絶縁膜II上には、ソース電極SE及びドレイン電極DEがさらに形成されている。ソース電極SE及びドレイン電極DEは、画素PX1乃至PX3の各々において素子同士を接続している。また、ソース電極SEとドレイン電極DEは、層間絶縁膜IIに空けられたコンタクトホールにより、半導体層SCに設けられた不純物拡散領域に接続されている。
【0022】
映像信号線DLと電源線PSLとソース電極SEとドレイン電極DEとは、例えば、Mo/Al/Moの三層構造を有している。これらは、同一工程で形成可能である。これらの映像信号線DLと電源線PSLとソース電極SEとドレイン電極DEとは、パッシベーション膜PSによって被覆されている。パッシベーション膜PSは、例えばSiNxなどを用いて形成されている。
【0023】
パッシベーション膜PS上では、画素電極(例えば第1電極に相当する)PEが、画素PX1乃至PX3に対応して配列している。各画素電極PEは、パッシベーション膜PSに設けたコンタクトホールを介してドレイン電極DEに接続されている。このドレイン電極は、スイッチングトランジスタSWaのドレインに接続されている。画素電極PEは、この例では陽極である。画素電極PEの材料としては、例えば、ITO(indium tin oxide)などの光透過性を有する導電材料を使用することができる。
【0024】
パッシベーション膜PS上には、さらに、隔壁絶縁層PIが形成されている。隔壁絶縁層PIには、画素電極PEに対応した位置に貫通孔が設けられているか、或いは、画素電極PEが形成する列に対応した位置にスリットが設けられている。ここでは、一例として、隔壁絶縁層PIには、画素電極PEに対応した位置に貫通孔が設けられていることとする。隔壁絶縁層PIは、例えば、有機絶縁層である。隔壁絶縁層PIは、例えば、フォトリソグラフィ技術を用いて形成することができる。
【0025】
各画素電極PE上には、有機層ORGが形成されている。有機層ORGは、典型的には、図2に示すように、全ての画素PX1乃至PX3を含む表示領域に亘って広がった連続膜である。すなわち、有機層ORGは、画素電極PEと隔壁絶縁層PIとを被覆している。
【0026】
隔壁絶縁層PI及び有機層ORGは、対向電極(例えば第2電極に相当する)CEによって被覆されている。この例では、対向電極CEは、陰極であり、画素PX1乃至PX3で共用する共通電極である。対向電極CEは、例えば、パッシベーション膜PSと隔壁絶縁層PIとに設けられたコンタクトホールを介して、映像信号線DLと同一の層上に形成された電極配線(図示せず)に電気的に接続されている。
【0027】
画素電極PEと有機層ORGと対向電極CEとは、画素電極PEに対応して配列した有機EL素子OLEDを形成している。なお、図4において、参照符号EA1乃至EA3は、画素PX1乃至PX3が含む有機EL素子OLEDの発光部をそれぞれ示している。発光部EA1乃至EA3の各々は、Y方向に延びた直角四辺形である。図4の構造では、発光部EA1乃至EA3の面積は、互いに略等しい。
【0028】
画素PX1乃至PX3の各々は、図1に示すように、駆動トランジスタDRと、スイッチングトランジスタSWa乃至SWcと、有機EL素子OLEDと、キャパシタCとを含んでいる。上記の通り、この例では、駆動トランジスタDR及びスイッチングトランジスタSWa乃至SWcはpチャネル薄膜トランジスタである。
【0029】
駆動トランジスタDRとスイッチングトランジスタSWaと有機EL素子OLEDとは、第1電源端子ND1と第2電源端子ND2との間で、この順に直列に接続されている。この例では、電源端子ND1は高電位電源端子であり、電源端子ND2は低電位電源端子である。
【0030】
スイッチングトランジスタSWaのゲートは、走査信号線SL1に接続されている。スイッチングトランジスタSWbは映像信号線DLと駆動トランジスタDRのドレインとの間に接続されており、そのゲートは走査信号線SL2に接続されている。スイッチングトランジスタSWcは駆動トランジスタDRのドレインとゲートとの間に接続されており、そのゲートは走査信号線SL2に接続されている。キャパシタCは、駆動トランジスタDRのゲートと定電位端子ND1’との間に接続されている。この例では、定電位端子ND1’は、電源端子ND1に接続されている。
【0031】
映像信号線ドライバXDR及び走査信号線ドライバYDRは、基板SUB上に配置されている。すなわち、映像信号線ドライバXDR及び走査信号線ドライバYDRは、COG(chip on glass)実装されている。なお、映像信号線ドライバXDR及び走査信号線ドライバYDRは、COG実装する代わりに、TCP(tape carrier package)実装してもよい。或いは、映像信号線ドライバXDR及び走査信号線ドライバYDRは、基板SUB上に直接形成してもよい。
【0032】
映像信号線ドライバXDRには、映像信号線DLが接続されている。この例では、映像信号線ドライバXDRには、電源線PSLがさらに接続されている。映像信号線ドライバXDRは、映像信号線DLに映像信号として電流信号を出力するとともに、電源線PSLに電源電圧を供給する。
【0033】
走査信号線ドライバYDRには、走査信号線SL1及びSL2が接続されている。走査信号線ドライバYDRは、走査信号線SL1及びSL2にそれぞれ第1及び第2走査信号として電圧信号を出力する。
【0034】
この有機EL表示装置で画像を表示する場合、例えば、走査信号線SL2を順次走査する。すなわち、画素PX1乃至PX3を行毎に選択する。或る行を選択している選択期間では、その行が含む画素PX1乃至PX3に対して書込動作を行う。そして、その行を選択していない非選択期間では、その行が含む画素PX1乃至PX3で表示動作を行う。
【0035】
或る行の画素PX1乃至PX3を選択する選択期間では、走査信号線ドライバYDRは、先の画素PX1乃至PX3が接続された走査信号線SL1にスイッチングトランジスタSWaを開く(非導通状態とする)走査信号を電圧信号として出力し、続いて、先の画素PX1乃至PX3が接続された走査信号線SL2にスイッチングトランジスタSWb及びSWcを閉じる(導通状態とする)走査信号を電圧信号として出力する。この状態で、映像信号線ドライバXDRは、映像信号線DLに映像信号を電流信号(書込電流)Isigとして出力し、駆動トランジスタDRのゲート−ソース間電圧Vgsを、先の映像信号Isigに対応した大きさに設定する。その後、走査信号線ドライバYDRは、先の画素PX1乃至PX3が接続された走査信号線SL2にスイッチングトランジスタSWb及びSWcを開く走査信号を電圧信号として出力し、続いて、先の画素PX1乃至PX3が接続された走査信号線SL1にスイッチングトランジスタSWaを閉じる走査信号を電圧信号として出力する。これにより、選択期間を終了する。
【0036】
選択期間に続く非選択期間では、スイッチングトランジスタSWaは閉じたままとし、スイッチングトランジスタSWb及びSWcは開いたままとする。非選択期間では、有機EL素子OLEDには、駆動トランジスタDRのゲート−ソース間電圧Vgsに対応した大きさの駆動電流Idrvが流れる。有機EL素子OLEDは、駆動電流Idrvの大きさに対応した輝度で発光する。ここで、Idrv≒Isigとなり、各画素で、電流信号(書込電流)Isigに対応した発光を得ることができる。
【0037】
尚、上記した例は、画素回路に映像信号として電流信号を書き込む構成を採用したものであるが、画素回路に映像信号として電圧信号を書き込む構成を採用することも可能であり、特に上記の例に限定したものではない。また、本態様では、pチャネル薄膜トランジスタを使用したが、nチャネル薄膜トランジスタを使用しても、本発明の本質を変えるものではない。
【0038】
また、有機EL素子OLEDの封止は、乾燥剤を付けた封止ガラス基板SUB2を表示領域の周辺に塗布したシール材で貼り合わせて実施する。
【0039】
以下、本発明の実施例を説明する。
(実施例1)
本実地例では、3.0型WVGA有機ELディスプレイを作成した。画素サイズは82.5μm×27.5μmであり、画素数は800×3×480である。ここで、画素サイズは、画素PX1、画素PX2、画素PX3のそれぞれの大きさを示しており、本実施例では全て同じ大きさとした。また、本実施例では、画素電極PEのITOは厚さ50nmとした。
【0040】
本実施例では、図3に示すように、有機層ORGは、発光色の互いに異なる少なくとも3種類の発光材料を含む単一の混合層として形成した。すなわち、図3に示した例では、有機層ORGは、ホスト材料HMと、第1発光材料EM1と、第2発光材料EM2と、第3発光材料EM3とを含んでいる。このような構成の有機層ORGは、全ての画素PX1乃至PX3を含む表示領域に亘って広がった連続膜として形成した。
【0041】
ここで、ホスト材料HMとしては、たとえば、4,4’−ビス(2,2’−ジフェニル−エテン−1−イル)−ジフェニル(略称;BPVBI)を使用した。
【0042】
また、第1発光材料EM1は、赤色波長に発光中心を有するルミネセンス性有機化合物又は組成物からなる。この第1発光材料(ドーパント材料)EM1としては、例えば、4−(Dicyanomethylene)−2−methyl−6−(julolidin−4−yl−vinyl)−4H−pyran(略称;DCM2)を使用した。
【0043】
また、第2発光材料EM2は、緑色波長に発光中心を有するルミネセンス性有機化合物又は組成物からなる。この第2発光材料(ドーパント材料)EM2としては、例えば、トリス(8−ヒドロキシキノラート)アルミニウム(略称;Alq)を使用した。
【0044】
また、第3発光材料EM3は、青色波長に発光中心を有するルミネセンス性有機化合物又は組成物からなる。この第3発光材料(ドーパント材料)EM3としては、例えば、bis[(4,6−difluorophenyl)−pyridinato−N,C2’](picorinate)iridium(III)(略称;FIrpic)を使用した。
【0045】
本実施例で適用した第1発光材料EM1、第2発光材料EM2、及び、第3発光材料EM3の吸光スペクトルを図5に示す。すなわち、第1発光材料EM1は、図5中の(a)で示した吸光スペクトルを有し、波長500nm付近に規格化吸光度のピークを有している。また、第2発光材料EM2は、図5中の(b)で示した吸光スペクトルを有し、波長400nm付近に規格化吸光度のピークを有している。また、第3発光材料EM3は、図5中の(c)で示した吸光スペクトルを有し、波長250nm付近に規格化吸光度のピークを有している。
【0046】
なお、500nm以上の波長においては、第2発光材料EM2及び第3発光材料EM3の規格化吸光度は10%以下となっている。また、400nm以上の波長においては、第3発光材料EM3の規格化吸光度は10%以下となっている。
【0047】
本実施例では、上述したように、画素PX1、画素PX2、及び、画素PX3が同一構成の有機層ORGを有していながら、画素PX1、画素PX2、及び、画素PX3の発光色は、互いに異なるように構成されている。ここに示した例では、画素PX1が含む有機EL素子OLEDは赤色に発光し、画素PX2が含む有機EL素子OLEDは緑色に発光し、画素PX3が含む有機EL素子OLEDは青色に発光する。
【0048】
なお、波長が400nm乃至435nmの範囲内にある光の色を紫、波長が435nm乃至480nmの範囲内にある光の色を青、波長が480nm乃至490nmの範囲内にある光の色を緑青、波長が490nm乃至500nmの範囲内にある光の色を青緑、波長が500nm乃至560nmの範囲内にある光の色を緑、波長が560nm乃至580nmの範囲内にある光の色を黄緑、波長が580nm乃至595nmの範囲内にある光の色を黄、波長が595nm乃至610nmの範囲内にある光の色を橙、波長が610nm乃至750nmの範囲内にある光の色を赤、波長が750nm乃至800nmの範囲内にある光の色を赤紫と定義するのが一般的であり、ここでは、主波長が400nm乃至490nmの範囲内にある光の色を青色、主波長が490nmより長く且つ595nmよりも短い光の色を緑色、主波長が595nm乃至800nmの範囲内にある光の色を赤色と定義する。
【0049】
以下に、上述した構成の有機EL表示装置の製造方法の一例について説明する。図6は、製造方法のプロセスフローを示す。
【0050】
まず、先に説明した表示パネルDPから対向電極CEと有機層ORGを除いた構造のアレイ基板を、アレイ工程で準備する。
【0051】
続いて、画素電極PE上に、有機層ORGを真空蒸着法によって形成する。ここで、有機層ORGを形成するための蒸着法としては、図7Aに示すようなポイントソースタイプの蒸着源を適用した蒸着装置を用いる手法と、図7Bに示すようなラインソースタイプの蒸着源を適用した蒸着装置を用いる手法とが挙げられる。
【0052】
すなわち、図7Aに示した蒸着装置においては、チャンバ内にポイントソースタイプの蒸着源Sが配置されている。この蒸着源Sは、例えば抵抗加熱方式により坩堝を加熱して材料源を飛散するように構成され、それぞれ第1発光材料EM1の材料源を備えた第1蒸着源RS、第2発光材料EM2の材料源を備えた第2蒸着源GS、第3発光材料EM3の材料源を備えた第3蒸着源BS、及び、ホスト材料HMの材料源を備えた第4蒸着源HSを備えている。また、図7Aに示した例では、このような構成の蒸着源Sは、装置内において4箇所に固定配置されている。
【0053】
一方、基板SUBは、図示しない保持機構により、画素電極PEを形成した主面が4つの蒸着源S側を向くよう保持される。基板SUBと蒸着源Sとの間には、画素毎に開口が形成されたファインマスクではなく、表示領域に対応した開口が形成された図示しないラフマスクが介在している。
【0054】
そして、保持機構によって基板SUBを回転させながら、蒸着源Sを加熱して各材料源を飛散させ、第1発光材料EM1、第2発光材料EM2、第3発光材料EM3、及び、ホスト材料HMを共蒸着する。このようにして形成された有機層ORGは、表示領域に亘って広がった連続膜である。
【0055】
また、このようにして形成された有機層ORGは、蒸着源Sの移動なしに形成されたため、第1発光材料EM1、第2発光材料EM2、及び、第3発光材料EM3のそれぞれについて、有機層ORG内の膜厚方向の濃度分布がほぼ均一となっている。換言すると、ポイントソースタイプの蒸着源を用いた場合には、画素電極PEから対向電極CEに向かう膜厚方向で各発光材料が均一な濃度分布となる特徴を持つ有機層ORGが形成される。
【0056】
一方、図7Bに示した蒸着装置においては、チャンバ内にラインソースタイプの蒸着源Sが配置されている。この蒸着源Sは、基板SUBの奥行き方向(紙面の法線方向)に伸びた形状であって、基板SUBの奥行きと同等以上の長さに形成されている。また、この蒸着源Sは、例えば抵抗加熱方式により坩堝を加熱して材料源を飛散するように構成され、それぞれ第1発光材料EM1の材料源を備えた第1蒸着源RS、第2発光材料EM2の材料源を備えた第2蒸着源GS、第3発光材料EM3の材料源を備えた第3蒸着源BS、及び、ホスト材料HMの材料源を備えた第4蒸着源HSを備えている。このような構成の蒸着源Sは、基板SUBの幅方向に移動可能に構成されている。
【0057】
図7Aに示した例では、蒸着源Sがホームポジション(基板SUBと正対する位置より外方の位置)に待機している状態において、蒸着源Sにおいては、基板SUBに近い方から幅方向に、第1蒸着源RS、第4蒸着源HS、第2蒸着源GS、及び、第3蒸着源BSの順番で近接して並んでいる。
【0058】
一方、基板SUBは、図示しない保持機構により、画素電極PEを形成した主面が蒸着源S側を向くよう保持される。基板SUBと蒸着源Sとの間には、画素毎に開口が形成されたファインマスクではなく、表示領域に対応した開口が形成された図示しないラフマスクが介在している。
【0059】
そして、蒸着源Sを加熱してそれぞれの材料源を飛散させながら、蒸着源Sをホームポジションから基板SUB端までの区間を一往復させる間に、第1発光材料EM1、第2発光材料EM2、第3発光材料EM3、及び、ホスト材料HMを共蒸着する。このようにして形成された有機層ORGは、表示領域に亘って広がった連続膜である。
【0060】
また、このようにして形成された有機層ORGは、蒸着源Sの移動に伴って形成されたため、第1発光材料EM1、第2発光材料EM2、及び、第3発光材料EM3のそれぞれについて、有機層ORG内の膜厚方向の濃度分布が互いに異なっている。
【0061】
例えば、図7Bに示したような構成の蒸着源Sを備えた蒸着装置において有機層ORGを形成した場合、有機層ORGにおいて画素電極PEに近接した第1領域では、各発光材料の濃度の関係は、以下の通りとなる。
【0062】
第1発光材料EM1(R)>第2発光材料EM2(G)>第3発光材料EM3(B)
このような関係となるのは、蒸着源Sが基板SUBに最も近い順に第1蒸着源RS、第2蒸着源GS、及び、第3蒸着源BSの順番に並んでいるためである。
【0063】
また、有機層ORGにおいて第1領域よりも対向電極CE側の第2領域では、各発光材料の濃度の関係は、以下の通りとなる。
【0064】
第2発光材料EM2(G)>第1発光材料EM1(R)=第3発光材料EM3(B)
また、有機層ORGにおいて対向電極CEに近接した第3領域では、各発光材料の濃度の関係は、以下の通りとなる。
【0065】
第3発光材料EM3(B)>第2発光材料EM2(G)>第1発光材料EM1(R)
このように、図7Bに示したような構成の蒸着源Sを備えた蒸着装置において有機層ORGを形成した場合には、有機層ORGにおいて、各発光材料の濃度の関係は、図7Cのようになり、膜厚方向のほぼ中間位置で各発光材料の濃度分布が対称となっているのは、蒸着源Sが往復する間に各発光材料を蒸着しているためである。
【0066】
換言すると、ラインソースタイプの蒸着源Sを用いた場合には、画素電極PEから対向電極CEに向かう膜厚方向で各発光材料が互いに異なる濃度分布となる特徴を持つ有機層ORGが形成される。
【0067】
続いて、画素PX1、画素PX2、及び、画素PX3のそれぞれが含む有機EL素子OLEDにおいて、第1発光材料EM1、第2発光材料EM2、及び、第3発光材料EM3のいずれかが発光するように対象領域に電磁波照射する。このような電磁波照射工程は、少なくとも2回の露光工程を含み、発光色が緑色の画素PX2においては、有機層ORGにおいて第1発光材料EM1の発光能を喪失させ、また、発光色が青色の画素PX3においては、有機層ORGにおいて第1発光材料EM1及び第2発光材料EM2の発光能を喪失させる。
【0068】
より具体的には、図8に示した例では、まず、第1露光工程において、画素PX2及び画素PX3を形成する領域の第1発光材料EM1が発光能を喪失するような露光条件を設定し、対象領域を露光する。すなわち、フォトマスク(図8中のMASK1)を用いて、画素PX1を覆うとともに、画素PX2及び画素PX3を露出する。そして、第1発光材料EM1が有する規格化吸光度のピーク波長、すなわち上述した例では500nm以上の波長の光により、画素PX2及び画素PX3を露光する(PHOTO1)。この露光により、第1発光材料EM1が発光能を喪失する。詳細は後述する。
【0069】
続く第2露光工程においては、画素PX3を形成する領域の第2発光材料EM2が発光能を喪失するような露光条件を設定し、対象領域を露光する。すなわち、フォトマスク(図8中のMASK2)を用いて、画素PX1及び画素PX2を覆うとともに、画素PX3を露出する。そして、第2発光材料EM2が有する規格化吸光度のピーク波長、すなわち上述した例では400nm以上の波長の光により、画素PX3を露光する(PHOTO2)。この露光により、第2発光材料EM2が発光能を喪失する。詳細は後述する。
【0070】
また、このような電磁波照射工程は、図8に示した例に限らず、図9に示した例のように、まず、第1露光工程において、画素PX2を形成する領域の第1発光材料EM1が発光能を喪失するような露光条件を設定し、対象領域を露光する。すなわち、フォトマスク(図9中のMASK1)を用いて、画素PX1及び画素PX3を覆うとともに、画素PX2を露出する。そして、第1発光材料EM1が有する規格化吸光度のピーク波長、すなわち上述した例では500nm以上の波長の光により、画素PX2を露光する(PHOTO1)。この露光により、第1発光材料EM1が発光能を喪失する。
【0071】
続く第2露光工程においては、画素PX3を形成する領域の第1発光材料EM1及び第2発光材料EM2が発光能を喪失するような露光条件を設定し、対象領域を露光する。すなわち、フォトマスク(図9中のMASK2)を用いて、画素PX1及び画素PX2を覆うとともに、画素PX3を露出する。そして、第1発光材料EM1及び第2発光材料EM2が有する規格化吸光度のピーク波長範囲、すなわち上述した例では少なくとも400nmから500nmの波長範囲を含む光により、画素PX3を露光する(PHOTO2)。この露光により、第1発光材料EM1及び第2発光材料EM2が同時に発光能を喪失する。
【0072】
続いて、有機層ORGの上に、対向電極CEを、例えば真空蒸着法により形成する。本実施例では、対向電極CEとしては、厚さ150nmのアルミニウム層を形成した。対向電極CEは、表示領域に亘って広がった連続膜として形成した。本実施例では、対向電極CEは、有機層ORGでの発光をアレイ基板SUB側に取り出すための反射層としての機能も兼ね備えている。
【0073】
さらに、有機EL素子OLEDを封止し、表示パネルDPに映像信号線ドライバXDRと走査信号線ドライバYDRとを実装する。以上のようにして、図1及び図2の有機EL表示装置を得る。
【0074】
ここで、表示領域の開口に要求されるパターニング精度は、表示領域外に十分な寸法が取れるので、画素毎に塗り分けるパターニング精度よりも1桁以上低くても良い。したがって、ラフマスクに要求される開口精度は低く、金属製のマスクによるマスク蒸着でも十分に形成することができる。
【0075】
一方、画素毎に電磁波を照射する露光工程のパターニング精度は、フォトマスクを用いるので、照射する対象画素と対象外の画素とを高精度に分けることができる。すなわち、画素寸法が小さい場合でも、照射したい画素以外の領域に電磁波を照射することがなく、処理することができる。
【0076】
ところで、1つの有機EL素子OLEDが複数の発光材料EM1乃至EM3を含んでいると、1つの色だけでなく、他の色も発光する可能性がある。通常、発光材料EM1乃至EM3を混合しただけの構成では、画素PX1乃至PX3は、全て同じ色に発光し、フルカラー表示を得ることができない。
【0077】
そこで、本発明では、電磁波を照射する画素と、そうでない画素とをフォトマスクを用いた露光工程で分離し、各画素の発光色を制御する。図10は、本発明の画素の発光色を制御する原理の一つを示した図である。
【0078】
有機層ORGにおいて、ホスト材料HM、及び、発光材料EM1乃至EM3が混合した構造では、基本的には、赤色の第1発光材料EM1が発光しやすい。なぜなら、ホスト材料HM、第3発光材料EM3、第2発光材料EM2、及び、第1発光材料EM1が共存する系において、この順に励起エネルギーが高い場合には、フェルスター遷移により、正孔と電子との再結合により励起されたホスト材料HMから、第3発光材料EM3にエネルギー移動が起こり、さらに、第2発光材料EM2を経由して第1発光材料EM1にエネルギー移動が起こる。つまり、系において、励起エネルギーの最も低い第1発光材料EM1が励起状態から最も発光しやすい。したがって、電磁波が照射されない画素PX1では、赤色が発光することになる。
【0079】
一方、第1発光材料EM1に電磁波が照射された画素PX2では、第1発光材料EM1である赤色ドーパント材料が電磁波を吸収することにより、材料が分解または重合または分子構造が変わることにより、赤色の光を発光しなくなる、所謂、消光する(つまり、発光能を喪失した状態に相当する)。この状態は、実質的に、ホスト材料HM、第3発光材料EM3、及び、第2発光材料EM2が共存する系に相当する。このため、励起されたホスト材料HMから、第3発光材料EM3にエネルギー移動が起こり、さらに、第2発光材料EM2にエネルギー移動が起こる。つまり、系において、励起エネルギーの最も低い(第1発光材料の次に励起エネルギーが低い)第2発光材料EM2が励起状態から最も発光しやすい。したがって、画素PX2では、緑色が発光することになる。
【0080】
さらに、第1発光材料EM1及び第2発光材料EM2に電磁波が照射された画素PX3では、第1発光材料EM1である赤色ドーパント材料及び第2発光材料EM2である緑色ドーパント材料が電磁波を吸収することにより、これらの材料が分解または重合または分子構造が変わることにより、赤色及び緑色の光を発光しなくなる、所謂、消光する(つまり、発光能を喪失した状態に相当する)。この状態は、実質的に、ホスト材料HM、及び、第3発光材料EM3が共存する系に相当する。このため、励起されたホスト材料HMから、第3発光材料EM3にエネルギー移動が起こるのみである。つまり、系において、励起エネルギーの最も低い(第2発光材料の次に励起エネルギーが低い)第3発光材料EM3が励起状態から最も発光しやすい。したがって、画素PX3では、青色が発光することになる。
【0081】
このように、本発明を用いれば、各画素の有機層は発光色の互いに異なる複数種類の発光材料を含む混合層を有し、また、各画素において、選択的に単一の発光材料が発光するように構成したことにより、画素毎にRGBを塗り分けるための金属製のファインマスクを使うことなく、RGB各画素に対応した色を発光させ、フルカラー表示を得ることできる。
【0082】
また、ファインマスクを使った蒸着の場合、マスク上に無駄な膜が形成されやすく、それにより、画素の開口が塞がれてしまう。それにより、画素に成膜される有機層の成膜レートが低下し、より多くの材料を消費することになる。それに伴い、マスクを洗浄する回数が増える。これに対し、本発明では、開口が広く、マスク上に無駄な膜が形成され難いラフマスクのみを使うので、ファインマスクを使用した場合と比較して、より生産性が高く、環境負荷が少ない。
【0083】
さらに、1回の共蒸着により、各画素において複数種類の発光材料を含む混合層を形成することが可能となり、製造時間を短縮できるとともに、製造コストの低減を図ることが可能となる。
【0084】
したがって、本発明では、高精細かつ大型のフルカラー有機EL表示装置を、環境に優しく、高い生産性を持って提供することが可能になる。
【0085】
以上のようにして、図1および図2に示す本発明の有機EL表示装置を得た。
【0086】
その結果、画素PX1では赤色が発光し、画素PX2では緑色が発光し、画素PX3では青色が、混色することなく発光した。それぞれ、発光効率は、赤色が8cd/Aであり、緑色が10cd/Aであり、青色が3cd/Aであった。また、各画素の色味については、画素PX1で発光した赤色の色度座標はxy色度図上において(0.65,0.35)であり、画素PX2で発光した緑色の色度座標は(0.30,0.60)であり、画素PX3で発光した青色の色度座標は(0.14,0.12)であった。
【0087】
なお、上述の値は、画面を正面から観察したときに100cd/mの輝度で(x,y)=(0.31,0.315)の基準白色(C)が表示されるようにし、画素PX1乃至PX3を順次点灯し、発光色毎に輝度と色度(x,y)とを測定した値である。
【0088】
また、本実施例では、画素PX1、画素PX2、画素PX3を全て同じ大きさとしたが、例えば、各画素の発光色の輝度劣化寿命を揃えるために、画素の大きさは、異ならせても良い。これにより、白色が着色しにくくすることができる。
【0089】
以下、本発明の別の実施例を示す。
【0090】
(実施例2:混合層EML以外に、HIL、HTL、ETL、EILを付加した場合)
図11にこの例の構造を示す。図11は、図2の表示装置が含む有機EL素子に採用可能な構造の他の一例を概略的に示す断面図である。この例では、各画素の有機層ORGは、図3に示したホスト材料HM、第1発光材料EM1、第2発光材料EM2、及び、第3発光材料EM3を混合した混合層EML以外に、混合層EMLの画素電極PE側にホール注入層HIL及びホール輸送層HTLを有し、混合層EMLの対向電極CE側に電子輸送層ETL及び電子注入層EILを有している。
【0091】
正孔注入層HILとしては、厚さ10nmのアモルファスカーボン層を形成した。正孔輸送層HTLとしては、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(1−ナフチルフェニル)−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン(α−NPD)からなる厚さ30nmの層を真空蒸着法により形成した。これらの正孔注入層HIL及び正孔輸送層HTLは、表示領域に亘って広がった連続膜とした。
【0092】
電子輸送層ETLとしては、厚さ30nmのAlq層を使用した。電子注入層EILとしては、厚さ1nmの弗化リチウム層を使用した。電子輸送層ETL及び電子注入層EILは、真空蒸着法により形成し、表示領域に亘って広がった連続膜とした。
【0093】
これにより、発光層内でのホール、電子のバランスが改善され、発光効率が良くなる。また、ホール注入、ホール輸送、電子注入および電子輸送が良好になり、駆動電圧が低減する。
【0094】
(実施例3:上面発光の場合)
図12にこの例の構造を示す。図12は、図2の表示装置が含む有機EL素子に採用可能な構造の他の一例を概略的に示す断面図である。この例では、画素電極PE上に反射層REFを形成した。これにより、対向電極CE側に発光が取り出される。対向電極CEは、半透明電極とし、マグネシウム及び銀の混合蒸着で作成した。対向電極CEの厚さは、20nmとし、表示領域に亘って広がった連続膜とした。また、マグネシウムと銀との比率は、高光透過性を有するためには、銀を60〜98%含有する構成とした。
【0095】
これにより、薄膜トランジスタ基板SUB側に発光を取り出す構造と異なり、薄膜トランジスタやその配線による開口率の制限を受けることなく、光を取り出すことができる。したがって、画素の小さい高精細のパネルでもOLED素子の発光面積が十分に取れるようになり、OLED素子の通電劣化(寿命)が改善する。
【0096】
(実施例4:上面発光にHIL、HTL、ETL、EILおよびマッチングレイヤMCを付加した場合)
図13にこの例の構造を示す。図13は、図2の表示装置が含む有機EL素子に採用可能な構造の他の一例を概略的に示す断面図である。図15の構造は、図12の構造に、ホール注入層HIL、ホール輸送層HTL、電子輸送層ETL、電子注入層EILを付加し、対向電極CE上に光学マッチング層MCを形成した。
【0097】
光学マッチング層MCは、光透過性の層であって、基板SUBと封止基板SUB2との間隙にある窒素などの気体層との光学的なマッチングを図る。光学マッチング層MCの屈折率は有機層ORGの屈折率とほぼ等しい。例えば、光学マッチング層MCとしては、SiON層などの透明無機絶縁層、ITO層などの透明無機導電層、有機層ORGが含んでいる層などの透明有機物層を使用することができる。光学マッチング層MCを使用すると、光取り出し効率を高めることができる。本実施例では、画素電極PEの膜厚を100nm、ホール輸送層HTLを75nmとした。光学マッチング層MCは70nmとした。
【0098】
これにより、実施例3と比較して、発光効率を4倍向上することができ、実施例3と同じ白輝度設定とした場合、消費電力を1/4にすることができた。
【0099】
(実施例5:上面発光にHIL、HTL、ETL、EILおよびマッチングレイヤMCおよびRGB干渉条件調整層MC2を付加した場合)
図14にこの例の構造を示す。図14は、図2の表示装置が含む有機EL素子に採用可能な構造の他の一例を概略的に示す断面図である。図14の構造は、図13の構造に、RGB各が画素PX1、PX2およびPX3の干渉条件を調整する層MC2を反射層REF上に形成した。
【0100】
干渉条件調整層MC2は、光透過性の層であって、この例のような上面発光構造の場合の反射層REFと対向電極CEとの間の光路長を発光色の波長に合せて最適化設計する必要がある。特に赤色Rと緑色Gと青色Bでは、同じ干渉次数では、その発光波長の違いから、最適な光路長(共振条件)が異なるが、それら3色の発光波長の1/4の最小公倍数に相当する光路長になるような干渉調整層MC2を反射層REFと対向電極CEの間に形成することにより、画素PX1乃至PX3の発光色、赤、緑、青の発光が効率よく取り出され、発光効率が向上し、より低消費電力化が図れる。
【0101】
干渉調整層MC2の屈折率は有機層ORGの屈折率とほぼ等しい。例えば、SiN層などの透明無機絶縁層、ITO層などの透明無機導電層、有機層ORGが含んでいる層などの透明有機物層を使用することができる。本実施例では、ホール輸送層HTLの膜厚を40nmとし、干渉調整層MC2には、SiNを使用し、膜厚を410nmとした。
【0102】
これにより、実施例3と比較して、発光効率を6倍にすることができ、消費電力を低減することができた。また、本実施例では、赤、緑、青の各色の色純度が向上し、色再現性範囲を100%以上(対NTSC比)にすることができた。
【0103】
(実施例6:上面発光の干渉調整層MC2を青画素PX3だけ抜き)
図15にこの例の構造を示す。図15は、図2の表示装置が含む有機EL素子に採用可能な構造の他の一例を概略的に示す断面図である。図15の構造は、図14の構造で画素PX3(青色)の干渉調整層MC2を抜く構造とした。
【0104】
これにより、干渉条件(共振条件)を,各色の画素で合せやすくなり、効率をより向上でき、各色の色純度も向上することができる。本実施例では、干渉調整層MC2の膜厚を、赤色と緑色のみに合せ、390nmとした。
【0105】
これにより、発光効率が向上し、実施例4と比較して、発光効率を更に1.5倍にすることができ、消費電力を低減することができた。
【0106】
(実施例7:上面発光に凹凸散乱層を作成する)
図16にこの例の構造を示す。図16は、図2の表示装置が含む有機EL素子に採用可能な構造の他の一例を概略的に示す断面図である。図16の構造は、図13の構造に上面発光の共振状態をなくす凹凸散乱層構造を反射層REFと有機材料を用いて形成した。
【0107】
これにより、干渉条件(共振条件)が無くなり、各有機EL素子の膜厚調整が必要なくなる。
【0108】
(実施例8:上面発光の画素PX1(赤)および画素PX2(緑)に凹凸散乱層を作成する)
図17にこの例の構造を示す。図17は、図2の表示装置が含む有機EL素子に採用可能な構造の他の一例を概略的に示す断面図である。図17の構造は、図13の構造の画素PX1(赤色)、画素PX2(緑色)に上面発光の共振状態をなくす凹凸散乱層構造を反射層REFと有機材料を用いて形成した。
【0109】
これにより、干渉条件(共振条件)は,画素PX3(青色)に合せてのみ設計すればよく、特に効率が低く、電力を消費する青色の効率をより向上でき、青色の色純度も向上することができる。
【0110】
(実施例9:隔壁絶縁層PI(リブ)を使用しない場合)
本実施例では、OLED素子を用いた表示装置に通常用いる画素と画素の間に形成する隔壁絶縁層PIを形成しない構成とした。これは、本発明では、金属製のマスクを使用しないため、真空蒸着の際にそれを支持するための隔壁絶縁層が不要なためである。
【0111】
これにより、隔壁絶縁層PIを形成する工程を削減でき、使用材料を削減でき、環境負荷を更に減らすことができる。
【0112】
なお、上記の実施例では、有機EL表示装置は、発光色が異なる3種の有機EL素子を含んでいる。有機EL表示装置は、有機EL素子として、発光色が異なる2種の有機EL素子のみを含んでいてもよく、発光色が異なる4種以上の有機EL素子を含んでいてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】本発明の一態様に係る有機EL表示装置を概略的に示す平面図。
【図2】図1の表示装置に採用可能な構造の一例を概略的に示す断面図。
【図3】図2の表示装置が含む有機EL素子に採用可能な構造の一例を概略的に示す断面図。
【図4】図2の表示装置で採用可能な画素の配置の一例を概略的に示す平面図。
【図5】図2の表示装置で採用した発光材料の吸光スペクトルを示す図。
【図6】図3の有機EL素子のプロセスフローの一例を概略的に示す図。
【図7A】ポイントソースタイプの蒸着源を用いた共蒸着工程の概略を示す図。
【図7B】ラインソースタイプの蒸着源を用いた共蒸着工程の概略を示す図。
【図7C】ラインソースタイプの蒸着源を用いた場合の有機層における各発光材料の濃度分布を説明するための図。
【図8】電磁波照射工程の概略を示す図。
【図9】他の電磁波照射工程の概略を示す図。
【図10】本発明の画素の発光色を制御する原理の一つを示した図である。
【図11】図2の表示装置が含む有機EL素子に採用可能な構造の他の例を概略的に示す断面図。
【図12】図2の表示装置が含む有機EL素子に採用可能な構造の他の例を概略的に示す断面図。
【図13】図2の表示装置が含む有機EL素子に採用可能な構造の他の例を概略的に示す断面図。
【図14】図2の表示装置が含む有機EL素子に採用可能な構造の他の例を概略的に示す断面図。
【図15】図2の表示装置が含む有機EL素子に採用可能な構造の他の例を概略的に示す断面図。
【図16】図2の表示装置が含む有機EL素子に採用可能な構造の他の例を概略的に示す断面図。
【図17】図2の表示装置が含む有機EL素子に採用可能な構造の他の例を概略的に示す断面図。
【符号の説明】
【0114】
EML…混合層、HM…ホスト材料、EM1…第1発光材料、EM2…第2発光材料、EM3…第3発光材料、OLED…有機EL素子、ORG…有機層、PE…画素電極、CE…対向電極、PX1…画素、PX2…画素、PX3…画素。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性の基板と、前記基板上で配列すると共に発光色が互いに異なる第1乃至第3有機EL素子とを具備し、
前記第1乃至第3有機EL素子の各々は、第1電極と、前記第1電極と向き合った第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に介在した有機層とを含み、
前記第1乃至第3有機EL素子の各々の前記有機層は、発光色の互いに異なる少なくとも3種類の発光材料を含む混合層を有し、
しかも、前記第1乃至第3有機EL素子の発光色は、互いに異なることを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項2】
前記混合層は、表示領域に亘って広がった連続膜であることを特徴とする請求項1に記載の有機EL表示装置。
【請求項3】
前記第1有機EL素子の発光色は赤色であり、前記第2有機EL素子の発光色は緑色であり、前記第3有機EL素子の発光色は青色であることを特徴とする請求項1に記載の有機EL表示装置。
【請求項4】
前記第1乃至第3有機EL素子の各々の前記混合層は、ホスト材料と、赤色波長に発光中心を有する第1発光材料と、緑色波長に発光中心を有する第2発光材料と、青色波長に発光中心を有する第3発光材料と、を含むことを特徴とする請求項3に記載の有機EL表示装置。
【請求項5】
前記第2有機EL素子の前記混合層において、前記第1発光材料は、発光能を喪失していることを特徴とする請求項4に記載の有機EL表示装置。
【請求項6】
前記第3有機EL素子の前記混合層において、前記第1発光材料及び前記第2発光材料は、発光能を喪失していることを特徴とする請求項4に記載の有機EL表示装置。
【請求項7】
前記ホスト材料、前記第1発光材料、前記第2発光材料、及び、前記第3発光材料は、共蒸着法により蒸着されたことを特徴とする請求項4に記載の有機EL表示装置。
【請求項8】
前記第1電極は陽極であり、前記第2電極は陰極であることを特徴とする請求項1に記載の有機EL表示装置。
【請求項9】
前記有機層は、その前記第1電極側にホール注入層とホール輸送層を有し、前記第2電極側に電子輸送層と電子注入層を有することを特徴とする請求項1に記載の有機EL表示装置。
【請求項10】
さらに、前記第1電極の前記前記有機層と反対側に、反射層を有することを特徴とする請求項1に記載の有機EL表示装置。
【請求項11】
さらに、前記第2電極の前記有機層と反対側に、光学マッチング層を有することを特徴とする請求項1に記載の有機EL表示装置。
【請求項12】
さらに、前記第1電極と前記反射層の間に、干渉条件調整層を有することを特徴とする請求項10に記載の有機EL表示装置。
【請求項13】
さらに、前記第1電極の前記有機層の外側に、反射層を含む凹凸散乱層を有することを特徴とする請求項1に記載の有機EL表示装置。
【請求項14】
3種類の前記発光材料は、それぞれ前記有機層内の膜厚方向の濃度分布が均一であることを特徴とする請求項1に記載の有機EL表示装置。
【請求項15】
3種類の前記発光材料は、ポイントソースタイプの蒸着源を用いた共蒸着法により蒸着されたことを特徴とする請求項14に記載の有機EL表示装置。
【請求項16】
3種類の前記発光材料は、それぞれ前記有機層内の膜厚方向の濃度分布が異なることを特徴とする請求項1に記載の有機EL表示装置。
【請求項17】
3種類の前記発光材料は、ラインソースタイプの蒸着源を用いた共蒸着法により蒸着されたことを特徴とする請求項16に記載の有機EL表示装置。
【請求項18】
絶縁性の基板と、前記基板上で配列すると共に発光色が互いに異なる第1乃至第3有機EL素子とを具備し、
前記第1乃至第3有機EL素子の各々は、第1電極と、前記第1電極と向き合った第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に介在した有機層とを含む有機EL表示装置の製造方法であって、
前記有機層の形成工程は、
前記第1乃至第3有機EL素子を形成する領域に、ホスト材料と、赤色波長に発光中心を有する第1発光材料と、緑色波長に発光中心を有する第2発光材料と、青色波長に発光中心を有する第3発光材料と、を共蒸着する工程と、
前記第1乃至第3有機EL素子を形成する領域において、それぞれ前記第1乃至第3発光材料のいずれかが発光するように、対象領域に電磁波照射する工程と、
を有することを特徴とする有機EL表示装置の製造方法。
【請求項19】
前記電磁波照射工程は、
前記第2有機EL素子及び前記第3有機EL素子を形成する領域の前記第1発光材料が発光能を喪失するように露光する第1露光工程と、
前記第3有機EL素子を形成する領域の前記第2発光材料が発光能を喪失するように露光する第2露光工程と、
を有することを特徴とする請求項18に記載の有機EL表示装置の製造方法。
【請求項20】
前記電磁波照射工程は、
前記第2有機EL素子を形成する領域の前記第1発光材料が発光能を喪失するように露光する第1露光工程と、
前記第3有機EL素子を形成する領域の前記第1発光材料及び前記第2発光材料が発光能を喪失するように露光する第2露光工程と、
を有することを特徴とする請求項18に記載の有機EL表示装置の製造方法。
【請求項21】
前記共蒸着工程は、前記ホスト材料、前記第1発光材料、前記第2発光材料、前記第3発光材料のそれぞれの材料源を備えたポイントソースタイプの蒸着源を適用したことを特徴とする請求項18に記載の有機EL表示装置の製造方法。
【請求項22】
前記共蒸着工程は、前記ホスト材料、前記第1発光材料、前記第2発光材料、前記第3発光材料のそれぞれの材料源を備えたラインソースタイプの蒸着源を適用したことを特徴とする請求項18に記載の有機EL表示装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2009−111023(P2009−111023A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−279247(P2007−279247)
【出願日】平成19年10月26日(2007.10.26)
【出願人】(302020207)東芝松下ディスプレイテクノロジー株式会社 (2,170)
【Fターム(参考)】