説明

有機EL表示装置

【課題】少ない消費電力で明るい画像を表示可能な有機EL表示装置を提供すること。
【解決手段】本発明の上面発光型有機EL表示装置1は、絶縁基板10と、第1有機EL素子40を含むとともに発光色が青色の複数の第1画素と、第2有機EL素子40を含むとともに発光色が緑色の複数の第2画素と、第3有機EL素子40を含むとともに発光色が赤色の複数の第3画素とを基板10上に並置してなる画素群と、その上に形成された光透過性の封止膜80と、接着剤層90を介して封止膜80に貼り付けられた光透過性の保護層100とを具備し、接着剤層90と保護層100の封止膜80と対向した表面領域とは屈折率が異なり、保護層100の封止膜80との対向面には50nm乃至630nmの範囲内の径を有する複数の凹部が設けられており、第1有機EL素子40の正面と第2有機EL素子40の正面と第3有機EL素子40の正面とで凹部の径が互いに等しい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL(エレクトロルミネッセンス)表示装置に係り、特には、上面発光型の有機EL表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL表示装置は自己発光表示装置であるため、視野角が広く、応答速度が速い。また、バックライトが不要であるため、薄型軽量化が可能である。これらの理由から、近年、有機EL表示装置は、液晶表示装置に代わる表示装置として注目されている。
【0003】
有機EL表示装置の主要部である有機EL素子は、光透過性の前面電極と、これと対向した光反射性または光透過性の背面電極と、それらの間に介在するとともに発光層を含んだ有機物層とで構成されている。有機EL素子は、有機物層に電気を流すことにより発光する電荷注入型の自発光素子である。
【0004】
有機EL表示装置は、例えば、下面発光型と上面発光型とに分類することができる。下面発光型の有機EL表示装置は、絶縁基板上に、前面電極と有機物層と背面電極とを、この順に積層した構造を有している。この有機EL表示装置では、有機物層が放出する光は、絶縁基板側から外部へと取り出す。他方、上面発光型の有機EL表示装置は、絶縁基板上に、背面電極と有機物層と前面電極とを、この順に積層した構造を有している。上面発光型の有機EL表示装置では、有機物層が放出する光は、絶縁基板側とは逆側から外部へと取り出す。
【0005】
上面発光型及び下面発光型の有機EL表示装置の製造プロセスでは、絶縁基板上に配線や画素回路を形成した後に有機EL素子を形成する。そのため、上面発光型の構造には、下面発光型の構造と比較して、より大きな開口率を実現できるという利点がある。
【0006】
このような理由から、上面発光型の構造によると、下面発光型の構造と比較して、より優れた表示特性を実現できると考えられている。しかしながら、有機EL表示装置,特には携帯機器に搭載される有機EL表示装置,には、より少ない消費電力でより明るい画像を表示可能であることが望まれている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、少ない消費電力で明るい画像を表示可能な有機EL表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1側面によると、絶縁基板と、第1有機EL素子を含むとともに発光色が青色の複数の第1画素と、第2有機EL素子を含むとともに発光色が緑色の複数の第2画素と、第3有機EL素子を含むとともに発光色が赤色の複数の第3画素とを前記絶縁基板上に並置してなる画素群と、前記画素群上に形成された光透過性の封止膜と、前記封止膜上に設けられた光透過性の接着剤層と、前記接着剤層を介して前記封止膜に貼り付けられた光透過性の保護層とを具備し、前記接着剤層と前記保護層の前記封止膜と対向した表面領域とは屈折率が異なり、前記保護層の前記封止膜との対向面には50nm乃至630nmの範囲内の径を有する複数の凹部が設けられており、前記第1有機EL素子の正面における前記凹部の径と、前記第2有機EL素子の正面における前記凹部の径と、前記第3有機EL素子の正面における前記凹部の径とは互いに等しいことを特徴とする上面発光型の有機EL表示装置が提供される。
【0009】
本発明の第2側面によると、絶縁基板と、第1有機EL素子を含むとともに発光色が青色の複数の第1画素と、第2有機EL素子を含むとともに発光色が緑色の複数の第2画素と、第3有機EL素子を含むとともに発光色が赤色の複数の第3画素とを前記絶縁基板上に並置してなる画素群と、前記画素群上に形成された光透過性の封止膜と、前記封止膜上に設けられた光透過性の接着剤層と、前記接着剤層を介して前記封止膜に貼り付けられた光透過性の保護層とを具備し、前記接着剤層と前記保護層の前記封止膜と対向した表面領域とは屈折率が異なり、前記保護層の前記封止膜との対向面には100nm乃至630nmの範囲内の径を有する複数の凹部が設けられており、前記第1有機EL素子の正面における前記凹部の径と、前記第2有機EL素子の正面における前記凹部の径と、前記第3有機EL素子の正面における前記凹部の径とは互いに等しいことを特徴とする上面発光型の有機EL表示装置が提供される。
【0010】
本発明の第3側面によると、絶縁基板と、第1有機EL素子を含むとともに発光色が青色の複数の第1画素と、第2有機EL素子を含むとともに発光色が緑色の複数の第2画素と、第3有機EL素子を含むとともに発光色が赤色の複数の第3画素とを前記絶縁基板上に並置してなる画素群と、前記画素群上に形成された光透過性の封止膜と、前記封止膜上に設けられた光透過性の接着剤層と、前記接着剤層を介して前記封止膜に貼り付けられた光透過性の保護層とを具備し、前記接着剤層と前記保護層の前記封止膜と対向した表面領域とは屈折率が異なり、前記保護層の前記封止膜との対向面には複数の凹部が設けられており、前記第1有機EL素子の正面における前記凹部の径は50nm乃至630nmの範囲内にあり、前記第2有機EL素子の正面における前記凹部の径は70nm乃至750nmの範囲内にあり、前記第3有機EL素子の正面における前記凹部の径は100nm乃至880nmの範囲内にあることを特徴とする上面発光型の有機EL表示装置が提供される。
【0011】
本発明の第4側面によると、絶縁基板と、第1有機EL素子を含むとともに発光色が青色の複数の第1画素と、第2有機EL素子を含むとともに発光色が緑色の複数の第2画素と、第3有機EL素子を含むとともに発光色が赤色の複数の第3画素とを前記絶縁基板上に並置してなる画素群と、前記画素群上に形成された光透過性の封止膜と、前記封止膜上に設けられるとともに光透過性樹脂とその中に分散した複数の光透過性粒子とを含有した接着剤層と、前記接着剤層を介して前記封止膜に貼り付けられた光透過性の保護層とを具備し、前記光透過性粒子は、前記光透過性樹脂とは屈折率が異なり且つ50nm乃至630nmの範囲内の径を有し、前記第1有機EL素子の正面における前記光透過性粒子の径と、前記第2有機EL素子の正面における前記光透過性粒子の径と、前記第3有機EL素子の正面における前記光透過性粒子の径とは互いに等しいことを特徴とする上面発光型の有機EL表示装置が提供される。
【0012】
本発明の第5側面によると、絶縁基板と、第1有機EL素子を含むとともに発光色が青色の複数の第1画素と、第2有機EL素子を含むとともに発光色が緑色の複数の第2画素と、第3有機EL素子を含むとともに発光色が赤色の複数の第3画素とを前記絶縁基板上に並置してなる画素群と、前記画素群上に形成された光透過性の封止膜と、前記封止膜上に設けられるとともに光透過性樹脂とその中に分散した複数の光透過性粒子とを含有した接着剤層と、前記接着剤層を介して前記封止膜に貼り付けられた光透過性の保護層とを具備し、前記光透過性粒子は、前記光透過性樹脂とは屈折率が異なり且つ100nm乃至630nmの範囲内の径を有し、前記第1有機EL素子の正面における前記光透過性粒子の径と、前記第2有機EL素子の正面における前記光透過性粒子の径と、前記第3有機EL素子の正面における前記光透過性粒子の径とは互いに等しいことを特徴とする上面発光型の有機EL表示装置が提供される。
【0013】
本発明の第6側面によると、絶縁基板と、第1有機EL素子を含むとともに発光色が青色の複数の第1画素と、第2有機EL素子を含むとともに発光色が緑色の複数の第2画素と、第3有機EL素子を含むとともに発光色が赤色の複数の第3画素とを前記絶縁基板上に並置してなる画素群と、前記画素群上に形成された光透過性の封止膜と、前記封止膜上に設けられるとともに光透過性樹脂とその中に分散した複数の光透過性粒子とを含有した接着剤層と、前記接着剤層を介して前記封止膜に貼り付けられた光透過性の保護層とを具備し、前記光透過性粒子と前記光透過性樹脂とは屈折率が異なり、前記第1有機EL素子の正面における前記光透過性粒子の径は50nm乃至630nmの範囲内にあり、前記第2有機EL素子の正面における前記光透過性粒子の径は70nm乃至750nmの範囲内にあり、前記第3有機EL素子の正面における前記光透過性粒子の径は100nm乃至880nmの範囲内にあることを特徴とする上面発光型の有機EL表示装置が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、少ない消費電力で明るい画像を表示可能な有機EL表示装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の幾つかの態様について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において、同様または類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0016】
図1は、本発明の第1態様に係る有機EL表示装置を概略的に示す断面図である。図1では、有機EL表示装置1を、その表示面,すなわち前面,が上方を向き、背面が下方を向くように描いている。
【0017】
この有機EL表示装置1は、アクティブマトリクス型駆動方式を採用した上面発光型の有機EL表示装置であり、光透過性絶縁層として、例えば、ガラス基板などの絶縁基板10を含んでいる。この絶縁基板10の前面側の主面上では、複数の画素がマトリクス状に配列している。各画素は、例えば、一対の電源端子間で直列に接続された駆動制御素子20及び有機EL素子40と、画素スイッチ(図示せず)とを含んでいる。駆動制御素子20は、その制御端子が画素スイッチを介して映像信号線(図示せず)に接続されており、映像信号線から供給される映像信号に対応した大きさの電流を有機EL素子40へ出力する。また、画素スイッチの制御端子は走査信号線(図示せず)に接続されており、走査信号線から供給される走査信号によりON/OFFが制御される。なお、これら画素には、他の構造を採用することも可能である。
【0018】
基板10上には、アンダーコート層12として、例えば、SiNx層とSiOx層とが順次積層されている。アンダーコート層12上には、例えばチャネル及びソース・ドレインが形成されたポリシリコン層である半導体層13、例えばTEOS(TetraEthyl OrthoSilicate)などを用いて形成され得るゲート絶縁膜14、及び例えばMoWなどからなるゲート電極15が順次積層されており、それらはトップゲート型の薄膜トランジスタ(以下、TFTという)を構成している。この例では、これらTFTは、駆動制御素子20及び画素スイッチのTFTとして利用している。また、ゲート絶縁膜14上には、ゲート電極15と同一の工程で形成可能な走査信号線(図示せず)がさらに設けられている。
【0019】
ゲート絶縁膜14及びゲート電極15上には、例えばプラズマCVD法などにより成膜されたSiOxなどからなる層間絶縁膜17が設けられている。
【0020】
層間絶縁膜17上には、ソース・ドレイン電極21、反射層70、及び図示しない映像信号線が設けられている。ソース・ドレイン電極21は、例えば、Mo/Al/Moの三層構造を有しており、層間絶縁膜17に設けられたコンタクトホールを介してTFTのソース・ドレインに電気的に接続されている。映像信号線や反射層70は、ソース・ドレイン電極21と同一の工程で形成することができる。
【0021】
ソース・ドレイン電極21、反射層70及び映像信号線は、例えばSiNxなどからなるパッシベーション膜18で埋め込まれている。
【0022】
パッシベーション膜18上には、背面電極43が互いから離間して並置されている。背面電極43は、パッシベーション膜18に設けられた貫通孔を介してドレイン電極21に電気的に接続されている。背面電極43は、この例では光透過性の陽極である。背面電極43は、光反射性であってもよい。この場合、反射層70は不要である。
【0023】
パッシベーション膜18には、さらに、隔壁絶縁層50が設けられている。この隔壁絶縁層50には、背面電極43に対応した位置に貫通孔が設けられている。隔壁絶縁層50は、例えば、有機絶縁層であり、フォトリソグラフィ技術を用いて形成することができる。
【0024】
隔壁絶縁層50の貫通孔内で露出した背面電極43上には、発光層を含んだ有機物層42が設けられている。発光層は、例えば、発光色が赤色、緑色、または青色のルミネセンス性有機化合物を含んだ薄膜である。この有機物層42は、発光層以外の層をさらに含むことができる。例えば、有機物層42は、背面電極43から発光層への正孔の注入を媒介する役割を果たすバッファ層をさらに含むことができる。また、有機物層42は、正孔輸送層、正孔ブロッキング層、電子輸送層、電子注入層などもさらに含むことができる。
【0025】
隔壁絶縁層50及び有機物層42上には、光透過性の前面電極41が設けられている。前面電極41は、この例では、各画素共通に連続して設けられた陰極である。前面電極41は、パッシベーション膜18及び隔壁絶縁層50に設けられたコンタクトホール(図示せず)を介して、映像信号線と同一の層上に形成された電極配線に電気的に接続されている。それぞれの有機EL素子40は、これら前面電極41、有機物層42、及び背面電極43で構成されている。
【0026】
前面電極41上には、光透過性絶縁層である封止膜80が形成されている。封止膜80は、外部から有機EL素子40などへの水分等の侵入を防ぐとともに、平坦な表面を提供する役割を果たす。この封止膜80は、例えば、前面電極41上に樹脂を塗布し、それにより得られる塗膜を硬化させることにより形成することができる。
【0027】
封止膜80には、接着剤層90を介して、光透過性の保護層100が貼り付けられている。本態様では、接着剤層90と保護層100の封止膜80側の表面領域とは、屈折率が異なっている。
【0028】
保護層100は、封止膜80を損傷から保護するとともに、外部から有機EL素子40などへの水分等の侵入を防ぐ。保護層100は、透明フィルムやガラス基板などであってもよく、偏光フィルムなどのように付加的な機能を有するものであってもよく、それらの積層体であってもよい。
【0029】
本態様に係る有機EL表示装置1では、保護層100の封止膜80との対向面に複数の凹部が設けられており、これら凹部は接着剤層90で埋め込まれている。なお、一主面に凹部が設けられた保護層100は、例えば、エンボス、エッチング、キャスティングなどを利用して得ることができる。
【0030】
図2は、図1の接着剤層90及び保護層100を概略的に示す平面図である。なお、図2には、接着剤層90及び保護層100の封止膜80との対向面を描いている。
【0031】
図2に示すように、保護層100の封止膜80との対向面では複数の凹部が二次元的に配列しており、接着剤層90はこれら凹部を埋め込んでいる。なお、図1及び図2では、一例として、接着剤層90が保護層100の凹部に対応して分断された構造を描いているが、接着剤層90は連続膜であってもよい。
【0032】
封止層80と保護層100との界面に図1及び図2の構造を採用すると、保護層100に設ける凹部の径を適宜設定することにより、有機EL素子40が放出する光を有機EL表示装置1の外部,特には表示面の略正面方向,へと高い効率で取り出すことができる。したがって、より少ない消費電力でより明るい画像を表示可能となり、また、有機EL素子の寿命を長くすることも可能となる。これについて、以下に説明する。
【0033】
保護層100に設ける凹部の径と光取り出し効率との関係を調べるべく、以下の計算を行った。
図3は、保護層100に設ける凹部の径と光取り出し効率との関係を求めるのに利用した構造を概略的に示す断面図である。図3には、図1及び図2の接着剤層90及び保護層100を簡略化した構造を描いている。具体的には、保護層100に設けた凹部の断面形状を矩形状としている。また、ここでは、保護層100に設けた凹部の隣り合うもの同士の間の距離Aと、凹部の開口径Bと、凹部の深さ(接着剤層90の厚さ)Cと、凹部の底面から保護層100の表面までの距離(保護層100の厚さと凹部の深さCとの差)Dとを互いに等しくしている。さらに、ここでは、保護層100の屈折率を1.5とし、接着剤層90の屈折率は1.0としている。
【0034】
有機EL素子40が放出する光のうち、表示面に対して略垂直な方向に進行する光は、構造を工夫しなくとも、高い効率で有機EL表示装置1の外部へと取り出すことができる。これに対し、有機EL素子40が放出する光のうち、表示面に対して斜めに進行する光の一部は、全反射を生じて保護層100などの内部に閉じ込められるため、有機EL表示装置1の外部へと取り出すことができない。
【0035】
また、有機EL表示装置1の外部へと取り出すことができた光のうち、広角側に進行する光は、低角側に進行する光と比較して重要度が低い。例えば、携帯機器の表示装置などとしての用途では、輝度の観察角度依存性を低減することよりも、表示面を略正面から観察した場合に明るい画像が視認できることが重要である。
【0036】
このように、より少ない消費電力でより明るい画像を表示可能とするには、有機EL素子40が放出する光を有機EL表示装置1の外部へと高い効率で取り出すことに加え、取り出した光の多くの進行方向が表示面の法線に対して比較的小さな角度を為していることが必要である。
【0037】
ところで、有機物層42が放出する光の一部は、例えば有機EL素子40の内部などで繰返し反射干渉を生じる。その結果、膜面の法線に対して特定の角度を為して進行する光の強度が著しく高くなる。通常、このような高強度の光の進行方向は、膜面の法線に対して比較的大きな角度を為している。それゆえ、より少ない消費電力でより明るい画像を表示するには、この高強度の光を有機EL表示装置1の外部へと高い効率で取り出すとともに、取り出した光の多くの進行方向を表示面の法線に対して比較的小さな角度範囲内に規制することが極めて有効である。
【0038】
そこで、ここでは、保護層100に設ける凹部の径と有機EL表示装置1の外部への光の取り出し効率との関係を求めるに際し、繰返し反射干渉によって高強度となった光のみを考慮した。具体的には、以下の条件を仮定して図3の構造についてミー散乱を考え、光の取り出し効率を計算した。すなわち、繰返し反射干渉によって高強度となった光は、膜面の法線に対して50°の角度を為して有機EL素子40を出射することとした。また、光の取り出し効率は、膜面の法線に対して50°の角度を為して有機EL素子40を出射した光のうち、表示面の法線に対して40°以下の角度を為して有機EL表示装置1を出射する光の割合として算出した。その結果を、下記表及び図4に示す。
【表1】

【0039】
図4は、保護層100に設けた凹部の開口径Bと光の取り出し効率との関係の例を示すグラフである。図中、横軸は保護層100に設けた凹部の開口径Bを示し、縦軸は先の方法により算出した光の取り出し効率を示している。また、図4には、波長450nmの青色光、波長530nmの緑色光、波長620nmの赤色光について得られたデータを示している。
【0040】
図4に示すように、青色光(波長450nm)については、約25%以上の光取り出し効率は、凹部の開口径Bを約50nm乃至約630nmの範囲内とすることにより実現可能である。また、緑色光(波長530nm)については、約25%以上の光取り出し効率は、凹部の開口径Bを約70nm乃至約750nmの範囲内とすることにより実現可能である。さらに、赤色光(波長620nm)については、約25%以上の光取り出し効率は、凹部の開口径Bを約100nm乃至約880nmの範囲内とすることにより実現可能である。なお、25%程度の光取り出し効率は、保護層100に凹部を設けない場合に実現可能な光取り出し効率と比較して、著しく高い値である。
【0041】
一般に、発光色が青色の有機EL素子は、発光色が緑色の有機EL素子や発光色が赤色の有機EL素子と比較して、発光効率が低い傾向にある。すなわち、カラーフィルタを使用せずにフルカラー表示を行う有機EL表示装置では、発光色が緑色の画素や発光色が赤色の画素と比較して、発光色が青色の画素に、より大きな電力を供給しなければならない。そのため、発光色が青色の画素で消費される電力が有機EL表示装置で消費される電力に占める割合は高く、また、発光色が青色の画素の寿命は他の画素の寿命よりも短い。
【0042】
したがって、有機EL表示装置1がカラーフィルタを使用せずにフルカラー表示を行うものである場合、例えば、保護層100の全体に亘って凹部の開口径Bを約50nm乃至約630nmの範囲内とすると、有機EL表示装置1の全体で消費される電力を大幅に低減することができるとともに、優れた寿命特性を実現することができる。
【0043】
また、凹部の開口径Bが保護層100の封止層80との対向面内で均一である場合、保護層100への凹部の形成が容易である。加えて、この場合、保護層100と絶縁基板10との位置合わせに高い精度を要求されることがない。
【0044】
保護層100に設ける凹部の開口径Bは、約100nm乃至約630nmの範囲内としてもよい。こうすると、発光色が青、緑、赤色の全ての画素で、先の光取り出し効率を25%以上とすることができる。この場合、したがって、保護層100に設ける凹部の開口径Bが約100nm未満である場合と比較して、より少ない消費電力で明るい画像を表示することができる。
【0045】
以上、凹部の開口径Bが保護層100の封止層80との対向面内で均一である場合について説明したが、凹部の開口径Bは、保護層100の封止層80との対向面内で均一である必要はない。例えば、保護層100に設ける凹部の開口径Bは、発光色が青色の画素が含む有機EL素子40の正面において約50nm乃至約630nmの範囲内とし、発光色が緑色の画素が含む有機EL素子40の正面において約70nm乃至約750nmの範囲内とし、発光色が赤色の画素が含む有機EL素子40の正面において約100nm乃至約880nmの範囲内としてもよい。この場合、凹部の開口径Bは、発光色に応じて異ならしめてもよい。
【0046】
本態様において、接着剤層90の屈折率と保護層100の封止膜80と対向した表面領域の屈折率とは異なっていればよく、どちらが大きくても構わない。但し、典型的には、接着剤層90の屈折率は、保護層100の封止膜80と対向した表面領域の屈折率と比較してより大きくする。また、それら屈折率の差は、典型的には、0.2以上とする。
【0047】
本態様において、保護層100に設ける凹部の隣り合うもの同士の間の距離Aは、例えば、100nm乃至1000nm程度とする。また、凹部の深さCは、例えば、200nm乃至3000nm程度とする。凹部の底面から保護層100の表面までの距離(保護層100の厚さと凹部の深さCとの差)Dは、例えば、100nm乃至3μm程度とする。また、接着剤層90の厚さは、例えば、200nm乃至3000nm程度とする。
【0048】
次に、本発明の第2態様について説明する。
図5は、本発明の第2態様に係る有機EL表示装置を概略的に示す断面図である。図2では、有機EL表示装置1を、その表示面,すなわち前面,が上方を向き、背面が下方を向くように描いている。
【0049】
図5の有機EL表示装置1は、以下の構成を採用したこと以外は、図1の有機EL表示装置1と同様の構造を有している。すなわち、図5の有機EL表示装置1では、保護層100として、封止膜80との対向面が平坦なものを使用しており、接着剤層90は、光透過性樹脂91とその中に分散した複数の光透過性粒子92とを含有している。これら光透過性樹脂91と光透過性粒子92とは、屈折率が互いに異なっている。
【0050】
例えば、光透過性樹脂91の屈折率が、保護層100の封止膜80と対向した表面領域の屈折率と等しい場合、光透過性樹脂91と保護層100との界面で屈折は生じない。そのため、光学的には、光透過性樹脂91を保護層100の一部とみなすことができる。すなわち、図5の有機EL表示装置1についても、図1の有機EL表示装置1と同様、保護層100の封止膜80との対向面には複数の凹部が設けられていると考えることができる。それゆえ、図5の光透過性粒子92は、図1の接着剤層80に相当していると考えることができる。したがって、本態様でも、光透過性粒子92の粒径を第1態様で凹部の開口径Bについて説明した範囲内とすることにより、上記と同様の効果が得られる。
【0051】
本態様において、光透過性樹脂91の屈折率と光透過性粒子92の屈折率とは異なっていればよく、どちらが大きくても構わない。但し、典型的には、光透過性粒子92は、光透過性樹脂91の屈折率と比較してより大きくする。また、それら屈折率の差は、典型的には、0.2以上とする。
【0052】
本態様では、上記の通り、光透過性樹脂91の屈折率と、保護層100の封止膜80と対向した表面領域の屈折率とをほぼ等しくする。例えば、それら屈折率の差を0.1以下とする。
【0053】
本態様において、光透過性粒子91間の距離は、例えば、第1態様で説明した距離Aとほぼ同程度とする。また、接着剤層90の厚さも、例えば、第1態様で説明した接着剤層90の厚さとほぼ同程度とする。
【0054】
光透過性樹脂91の材料としては、例えば、感圧性接着剤や熱硬化性接着剤などの様々な接着剤を使用することができる。光透過性粒子92の材料としては、有機材料及び無機材料の何れも使用することができる。
【0055】
本態様において、接着剤層90は、例えば、以下の方法により形成することができる。まず、接着剤中に光透過性粒子92を均一に分散させてなる塗工液を調製する。次いで、この塗工液を介して、保護層100を封止膜80に貼り付ける。これにより、接着剤層90を得る。なお、この塗工液は、封止膜80上に供給してもよく、或いは、保護層100の封止膜80との対向面上に供給してもよい。
【0056】
また、塗工液に使用する接着剤が硬化することにより体積が著しく減少するものである場合、予め、この塗工液を封止膜80または保護層100上に塗布し、これにより得られる塗膜を硬化させる。その後、硬化前後での体積変化が少ない接着剤を介して、保護層100を封止膜80に貼り付ける。これにより、接着剤層90を得る。
【0057】
光透過性粒子92の粒径を発光色毎に異ならしめる場合は、例えば、まず、それぞれ接着剤中に光透過性粒子92を均一に分散させてなるとともに、光透過性粒子92の粒径が互いに異なる3種の塗工液を調製する。次いで、これら塗工液を、スクリーン印刷法などにより、封止膜80または保護層100上であって発光色が青、緑、赤色の画素に対応した位置に順次塗布する。その後、これにより得られた塗膜を介して、保護層100を封止膜80に貼り付ける。或いは、先の塗膜を硬化させた後、別途準備した接着剤を介して、保護層100を封止膜80に貼り付ける。これにより、接着剤層90を得る。
【0058】
光透過性粒子92の粒径を発光色毎に異ならしめる場合、接着剤層90は他の方法で形成することもできる。例えば、それぞれ感光性樹脂と光透過性粒子92とを含有するとともに、光透過性粒子92の粒径が互いに異なる3種の塗工液を調製する。次いで、これら塗工液を用いたフォトリソグラフィプロセスにより、封止膜80または保護層100上であって発光色が青、緑、赤色の画素に対応した位置に、それぞれ光透過性樹脂91と光透過性粒子92とを含有するとともに光透過性粒子92の粒径が互いに異なる3種の薄膜を順次形成する。その後、別途準備した接着剤を介して、保護層100を封止膜80に貼り付ける。これにより、接着剤層90を得る。
【0059】
このように、第2態様では、第1態様とは異なり、保護層100に凹部を設ける必要がない。また、第2態様では、複雑な工程なしで接着剤層90を形成することができる。すなわち、第2態様に係る有機EL表示装置1は、第1態様に係る有機EL表示装置1と比較して製造が容易である。
【0060】
第1及び第2態様では、背面電極43及び前面電極41をそれぞれ陽極及び陰極としたが、背面電極43及び前面電極41をそれぞれ陰極及び陽極としてもよい。
【0061】
また、第1及び第2態様では、有機EL表示装置1に、発光色が青、緑、赤色の3種の有機EL素子40を絶縁基板10上に並置した構造を採用しているが、有機EL表示装置1には他の構造を採用することもできる。例えば、発光色が白色の有機EL素子40を絶縁基板10上に並置し、それら有機EL素子40に対向してカラーフィルタを配置した構造を採用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の第1態様に係る有機EL表示装置を概略的に示す断面図。
【図2】図1の接着剤層及び保護層を概略的に示す平面図。
【図3】保護層に設ける凹部の径と光取り出し効率との関係を求めるのに利用した構造を概略的に示す断面図。
【図4】保護層に設けた凹部の開口径Bと光の取り出し効率との関係の例を示すグラフ。
【図5】本発明の第2態様に係る有機EL表示装置を概略的に示す断面図。
【符号の説明】
【0063】
1…有機EL表示装置、10…絶縁基板、12…アンダーコート層、13…半導体層、14…ゲート絶縁膜、15…ゲート電極、17…層間絶縁膜、18…パッシベーション膜、20…駆動制御素子、21…ソース・ドレイン電極、40…有機EL素子、41…前面電極、42…有機物層、43…背面電極、50…隔壁絶縁層、70…反射層、80…封止膜、90…接着剤層、91…光透過性樹脂、92…光透過性粒子、100…保護層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁基板と、
第1有機EL素子を含むとともに発光色が青色の複数の第1画素と、第2有機EL素子を含むとともに発光色が緑色の複数の第2画素と、第3有機EL素子を含むとともに発光色が赤色の複数の第3画素とを前記絶縁基板上に並置してなる画素群と、
前記画素群上に形成された光透過性の封止膜と、
前記封止膜上に設けられた光透過性の接着剤層と、
前記接着剤層を介して前記封止膜に貼り付けられた光透過性の保護層とを具備し、
前記接着剤層と前記保護層の前記封止膜と対向した表面領域とは屈折率が異なり、
前記保護層の前記封止膜との対向面には50nm乃至630nmの範囲内の径を有する複数の凹部が設けられており、
前記第1有機EL素子の正面における前記凹部の径と、前記第2有機EL素子の正面における前記凹部の径と、前記第3有機EL素子の正面における前記凹部の径とは互いに等しいことを特徴とする上面発光型の有機EL表示装置。
【請求項2】
絶縁基板と、
第1有機EL素子を含むとともに発光色が青色の複数の第1画素と、第2有機EL素子を含むとともに発光色が緑色の複数の第2画素と、第3有機EL素子を含むとともに発光色が赤色の複数の第3画素とを前記絶縁基板上に並置してなる画素群と、
前記画素群上に形成された光透過性の封止膜と、
前記封止膜上に設けられた光透過性の接着剤層と、
前記接着剤層を介して前記封止膜に貼り付けられた光透過性の保護層とを具備し、
前記接着剤層と前記保護層の前記封止膜と対向した表面領域とは屈折率が異なり、
前記保護層の前記封止膜との対向面には100nm乃至630nmの範囲内の径を有する複数の凹部が設けられており、
前記第1有機EL素子の正面における前記凹部の径と、前記第2有機EL素子の正面における前記凹部の径と、前記第3有機EL素子の正面における前記凹部の径とは互いに等しいことを特徴とする上面発光型の有機EL表示装置。
【請求項3】
絶縁基板と、
第1有機EL素子を含むとともに発光色が青色の複数の第1画素と、第2有機EL素子を含むとともに発光色が緑色の複数の第2画素と、第3有機EL素子を含むとともに発光色が赤色の複数の第3画素とを前記絶縁基板上に並置してなる画素群と、
前記画素群上に形成された光透過性の封止膜と、
前記封止膜上に設けられた光透過性の接着剤層と、
前記接着剤層を介して前記封止膜に貼り付けられた光透過性の保護層とを具備し、
前記接着剤層と前記保護層の前記封止膜と対向した表面領域とは屈折率が異なり、
前記保護層の前記封止膜との対向面には複数の凹部が設けられており、
前記第1有機EL素子の正面における前記凹部の径は50nm乃至630nmの範囲内にあり、
前記第2有機EL素子の正面における前記凹部の径は70nm乃至750nmの範囲内にあり、
前記第3有機EL素子の正面における前記凹部の径は100nm乃至880nmの範囲内にあることを特徴とする上面発光型の有機EL表示装置。
【請求項4】
前記第1有機EL素子の正面における前記凹部の径と、前記第2有機EL素子の正面における前記凹部の径と、前記第3有機EL素子の正面における前記凹部の径とは、互いに異なっていることを特徴とする請求項3に記載の有機EL表示装置。
【請求項5】
絶縁基板と、
第1有機EL素子を含むとともに発光色が青色の複数の第1画素と、第2有機EL素子を含むとともに発光色が緑色の複数の第2画素と、第3有機EL素子を含むとともに発光色が赤色の複数の第3画素とを前記絶縁基板上に並置してなる画素群と、
前記画素群上に形成された光透過性の封止膜と、
前記封止膜上に設けられるとともに光透過性樹脂とその中に分散した複数の光透過性粒子とを含有した接着剤層と、
前記接着剤層を介して前記封止膜に貼り付けられた光透過性の保護層とを具備し、
前記光透過性粒子は、前記光透過性樹脂とは屈折率が異なり且つ50nm乃至630nmの範囲内の径を有し、
前記第1有機EL素子の正面における前記光透過性粒子の径と、前記第2有機EL素子の正面における前記光透過性粒子の径と、前記第3有機EL素子の正面における前記光透過性粒子の径とは互いに等しいことを特徴とする上面発光型の有機EL表示装置。
【請求項6】
絶縁基板と、
第1有機EL素子を含むとともに発光色が青色の複数の第1画素と、第2有機EL素子を含むとともに発光色が緑色の複数の第2画素と、第3有機EL素子を含むとともに発光色が赤色の複数の第3画素とを前記絶縁基板上に並置してなる画素群と、
前記画素群上に形成された光透過性の封止膜と、
前記封止膜上に設けられるとともに光透過性樹脂とその中に分散した複数の光透過性粒子とを含有した接着剤層と、
前記接着剤層を介して前記封止膜に貼り付けられた光透過性の保護層とを具備し、
前記光透過性粒子は、前記光透過性樹脂とは屈折率が異なり且つ100nm乃至630nmの範囲内の径を有し、
前記第1有機EL素子の正面における前記光透過性粒子の径と、前記第2有機EL素子の正面における前記光透過性粒子の径と、前記第3有機EL素子の正面における前記光透過性粒子の径とは互いに等しいことを特徴とする上面発光型の有機EL表示装置。
【請求項7】
絶縁基板と、
第1有機EL素子を含むとともに発光色が青色の複数の第1画素と、第2有機EL素子を含むとともに発光色が緑色の複数の第2画素と、第3有機EL素子を含むとともに発光色が赤色の複数の第3画素とを前記絶縁基板上に並置してなる画素群と、
前記画素群上に形成された光透過性の封止膜と、
前記封止膜上に設けられるとともに光透過性樹脂とその中に分散した複数の光透過性粒子とを含有した接着剤層と、
前記接着剤層を介して前記封止膜に貼り付けられた光透過性の保護層とを具備し、
前記光透過性粒子と前記光透過性樹脂とは屈折率が異なり、
前記第1有機EL素子の正面における前記光透過性粒子の径は50nm乃至630nmの範囲内にあり、
前記第2有機EL素子の正面における前記光透過性粒子の径は70nm乃至750nmの範囲内にあり、
前記第3有機EL素子の正面における前記光透過性粒子の径は100nm乃至880nmの範囲内にあることを特徴とする上面発光型の有機EL表示装置。
【請求項8】
前記第1有機EL素子の正面における前記光透過性粒子の径と、前記第2有機EL素子の正面における前記光透過性粒子の径と、前記第3有機EL素子の正面における前記光透過性粒子の径とは、互いに異なっていることを特徴とする請求項7に記載の有機EL表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−100137(P2006−100137A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−285379(P2004−285379)
【出願日】平成16年9月29日(2004.9.29)
【出願人】(302020207)東芝松下ディスプレイテクノロジー株式会社 (2,170)
【Fターム(参考)】