説明

有機EL表示装置

【課題】光取り出し効率が高く且つ視野角が十分に広い有機EL表示装置を提供すること。
【解決手段】本発明の有機EL表示装置1は、光透過性絶縁層10と、前記光透過性絶縁層10に対して背面側に配置された有機EL素子40と、前記光透過性絶縁層10と前記有機EL素子40との間または前記有機EL素子40に対して背面側に配置された回折格子30と、前記光透過性絶縁層10に対して前面側に配置された光学フィルム60とを具備し、前記光学フィルム60は光学的に等方性の第1部分61と光学的に異方性の第2部分62とを備え、前記光学フィルム62のその主面に垂直な一断面を観察した場合に、前記第1部分61と前記第2部分62とは前記主面に対して傾いた複数の境界を形成していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL(エレクトロルミネッセンス)表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL表示装置は自己発光表示装置であるため、視野角が広く、応答速度が速い。また、バックライトが不要であるため、薄型軽量化が可能である。これらの理由から、近年、有機EL表示装置は、液晶表示装置に代わる表示装置として注目されている。
【0003】
有機EL表示装置の主要部である有機EL素子は、光透過性の前面電極と、これと対向した光反射性または光透過性の背面電極と、それらの間に介在するとともに発光層を含んだ有機物層とで構成されている。有機EL素子は、有機物層に電気を流すことにより発光する電荷注入型の自発光素子である。
【0004】
有機EL表示装置で表示を行うためには、発光層が放出する光を前面電極から出射させる必要があるが、素子内で前面側へと進行する光のうち広角側へと進行する光は、前面電極界面で全反射される。そのため、有機物層が放出する光の多くを有機EL素子の外部に取り出すことができない,すなわち有機EL素子の光取り出し効率が低い,という問題があった。
【0005】
このような問題に対し、以下の特許文献1には、回折格子を利用することが記載されている。この技術によれば、有機EL素子の光取り出し効率を高めることができる。
しかしながら、本発明者らは、本発明を為すに際し、有機EL素子の光取り出し効率を高めるべく回折格子を使用した場合、視野角が著しく狭くなることを見出している。
【特許文献1】特許第2991183号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、光取り出し効率が高く且つ視野角が十分に広い有機EL表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面によると、光透過性絶縁層と、前記光透過性絶縁層に対して背面側に配置された有機EL素子と、前記光透過性絶縁層と前記有機EL素子との間または前記有機EL素子に対して背面側に配置された回折格子と、前記光透過性絶縁層に対して前面側に配置された光学フィルムとを具備し、前記光学フィルムは光学的に等方性の第1部分と光学的に異方性の第2部分とを備え、前記光学フィルムのその主面に垂直な一断面を観察した場合に、前記第1部分と前記第2部分とは前記主面に対して傾いた複数の境界を形成していることを特徴とする有機EL表示装置が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、有機EL素子の光取り出し効率が高く且つ視野角が十分に広い有機EL表示装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の幾つかの態様について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において、同様または類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0010】
図1は、本発明の第1態様に係る有機EL表示装置を概略的に示す断面図である。図1では、有機EL表示装置1を、その表示面,すなわち前面,が下方を向き、背面が上方を向くように描いている。
【0011】
この有機EL表示装置1は、アクティブマトリクス型駆動方式を採用した下面発光型の有機EL表示装置であり、光透過性絶縁層として、例えば、ガラス基板のような透明基板10を含んでいる。この透明基板10の背面側の主面上では、複数の画素がマトリクス状に配列している。各画素は、例えば、一対の電源端子間で直列に接続された駆動制御素子20及び有機EL素子40と、画素スイッチ(図示せず)とを含んでいる。駆動制御素子20は、その制御端子が画素スイッチを介して映像信号線(図示せず)に接続されており、映像信号線から供給される映像信号に対応した大きさの電流を有機EL素子40へ出力する。また、画素スイッチの制御端子は走査信号線(図示せず)に接続されており、走査信号線から供給される走査信号によりON/OFFが制御される。なお、これら画素には、他の構造を採用することも可能である。
【0012】
基板10上には、アンダーコート層12として、例えば、SiNx層とSiOx層とが順次積層されている。アンダーコート層12上には、例えばチャネル及びソース・ドレインが形成されたポリシリコン層である半導体層13、例えばTEOS(TetraEthyl OrthoSilicate)などを用いて形成され得るゲート絶縁膜14、及び例えばMoWなどからなるゲート電極15が順次積層されており、それらはトップゲート型の薄膜トランジスタ(以下、TFTという)を構成している。この例では、これらTFTは、駆動制御素子20及び画素スイッチのTFTとして利用している。また、ゲート絶縁膜14上には、ゲート電極15と同一の工程で形成可能な走査信号線(図示せず)がさらに設けられている。
【0013】
ゲート絶縁膜14及びゲート電極15上には、例えばプラズマCVD法などにより成膜されたSiOxなどからなる層間絶縁膜17が設けられている。層間絶縁膜17上にはソース・ドレイン電極21が設けられており、それらは、例えばSiNxなどからなるパッシベーション膜18で埋め込まれている。ソース・ドレイン電極21は、例えば、Mo/Al/Moの三層構造を有しており、層間絶縁膜17に設けられたコンタクトホールを介してTFTのソース・ドレインに電気的に接続されている。また、層間絶縁膜17上には、ソース・ドレイン電極21と同一の工程で形成可能な映像信号線(図示せず)がさらに設けられている。
【0014】
パッシベーション膜18上には、回折格子30が設けられている。ここでは、一例として、回折格子30として、有機EL素子40と接する面に所定パターンの凹部が設けられた第1部分31と、それら凹部を埋め込むとともに第1部分31とは光学特性が異なる材料からなる第2部分32とで構成したものを用いている。この回折格子30の第1部分31や第2部分32には、例えば、レジストやポリイミド等の有機絶縁材料を用いることができる。第1部分31の表面に設けるパターンには、例えば、ストライプ状や格子状などのように様々な設計が可能である。第1部分31は、パッシベーション膜18などの回折格子30に隣接した層と一体に形成してもよい。また、第2部分32は、必ずしも設ける必要はない。例えば、第2部分を設けず、第1部分31の凹部を後述する前面電極41などで埋め込んでもよい。これらパッシベーション膜18及び回折格子30には、ドレイン電極21に連通する貫通孔が設けられている。
【0015】
回折格子30上には、光透過性の前面電極41が互いから離間して並置されている。前面電極41は、この例では陽極であり、例えば、ITO(Indium Tin Oxide)のような透明導電性酸化物などからなる。前面電極41は、パッシベーション膜18及び回折格子30に設けられた貫通孔を介してドレイン電極21に電気的に接続されている。
【0016】
回折格子30上には、さらに、隔壁絶縁層50が設けられている。この隔壁絶縁層50には、前面電極41に対応した位置に貫通孔が設けられている。隔壁絶縁層50は、例えば、有機絶縁層であり、フォトリソグラフィ技術を用いて形成することができる。
【0017】
隔壁絶縁層50の貫通孔内で露出した前面電極41上には、発光層を含んだ有機物層42が設けられている。発光層は、例えば、発光色が赤色、緑色、または青色のルミネセンス性有機化合物を含んだ薄膜である。この有機物層42は、発光層以外の層をさらに含むことができる。例えば、有機物層42は、前面電極41から発光層への正孔の注入を媒介する役割を果たすバッファ層をさらに含むことができる。また、有機物層42は、正孔輸送層、ブロッキング層、電子輸送層、電子注入層などもさらに含むことができる。
【0018】
隔壁絶縁層50及び有機物層42上には、光反射性の背面電極43が設けられている。背面電極43は、この例では、各画素共通に連続して設けられた陰極である。背面電極43は、パッシベーション膜18、回折格子30及び隔壁絶縁層50に設けられたコンタクトホール(図示せず)を介して、映像信号線と同一の層上に形成された電極配線に電気的に接続されている。それぞれの有機EL素子40は、これら前面電極41、有機物層42、及び背面電極43で構成されている。
【0019】
透明基板10の前面側の主面には、光学フィルム60が設けられている。光学フィルム60は、光学的に等方性の第1部分61と光学的に異方性の第2部分62とを含んでいる。第1部分61と第2部分62とは、光学フィルム60をその主面に垂直な一断面を観察した場合に、先の主面に対して傾いた複数の境界を形成している。典型的には、これら複数の境界は互いに略平行であり、第2部分62の光学軸は各境界に対して実質的に平行である。また、第1部分61と第2部分62とは、光学フィルム60をその主面に垂直な方向から観察した場合に、例えば、ストライプ状の配列パターンを形成している。このような光学フィルム60は、例えば、光学的に等方性の層と光学的に異方性の層とを交互に積層することにより得られる。
【0020】
なお、図1に示す有機EL表示装置1は、通常、背面電極43と対向した封止基板(図示せず)と、その背面電極43との対向面周縁に沿って設けられたシール層(図示せず)とをさらに備えており、それにより、背面電極43と封止基板との間に密閉された空間を形成している。この空間は、例えば、Arガスなどの希ガスやN2ガスのような不活性ガスで満たされ得る。
【0021】
上記の通り、この有機EL表示装置1では、透明基板10の前面側の主面に、第1部分61と第2部分62との境界が光学フィルム60の主面に対して傾いた構造の光学フィルム60を設けている。このような構造の光学フィルム60を使用すると、光学フィルム60を設けなかった場合や、先の境界が光学フィルム60の主面に対して垂直な構造の光学フィルム60を使用した場合と比較して、透明基板10に入射した光をより多く有機EL表示装置1の外部へと取り出すことができる。しかも、このような構造の光学フィルム60を使用すると、光学フィルム60を設けなかった場合や、先の境界が光学フィルム60の主面に対して垂直な構造の光学フィルム60を使用した場合と比較して、より広い視野角を実現することができる。すなわち、本態様によると、高い光取り出し効率と広い視野角との双方を同時に実現することができる。
【0022】
次に、本発明の第2態様について説明する。
図2は、本発明の第2態様に係る有機EL表示装置を概略的に示す断面図である。図2では、有機EL表示装置1を、その表示面,すなわち前面,が上方を向き、背面が下方を向くように描いている。
【0023】
この有機EL表示装置1は、上面発光型の有機EL表示装置であり、第1態様とは異なり、基板10は光透過性である必要はない。
【0024】
基板10上には、第1態様と同様、アンダーコート層12、TFT20、層間絶縁膜17、パッシベーション膜18が順次形成されている。ゲート絶縁膜14、層間絶縁膜17、パッシベーション膜18にはコンタクトホールが設けられており、ソース・ドレイン電極21は、このコンタクトホールを介してTFTのソース・ドレインに電気的に接続されている。
【0025】
層間絶縁膜17上には、反射層70及び回折格子30の第1部分31(ここでは、パッシベーション膜と一体的に形成されている)が順次積層されている。反射層70の材料としては、例えば、Alなどの金属材料を使用することができるが、ここでは、ソース・ドレイン電極と同一工程で形成するよう、反射層70はMo/Al/Moの3層構造で構成している。また、第1部分31の材料としては、例えば、SiNなどの絶縁材料を使用することができる。
【0026】
第1部分31の凹部は、第1部分31よりも屈折率が大きい光透過性絶縁材料,例えばレジスト材料,からなる第2部分32で埋め込まれている。つまり、第1部分31と、第1部分32の凹部を埋め込んだ第2部分32との間の界面で、その界面を境界として屈折率が異なる規則的なパターンを形成し、回折格子としている。
【0027】
回折格子30上には、光透過性の背面電極43が互いから離間して並置されている。背面電極43は、この例では陽極であり、例えば、ITOのような透明導電性酸化物などからなる。
【0028】
回折格子30の第1部分31上には、さらに、第1態様で説明したのと同様の隔壁絶縁層50が設けられている。また、この隔壁絶縁層50の貫通孔内で露出した背面電極43上には、第1態様と同様に、発光層を含んだ有機物層42が設けられている。
【0029】
隔壁絶縁層50及び有機物層42上には、光透過性の前面電極41が設けられている。前面電極41は、この例では、各画素共通に連続して設けられた陰極である。
【0030】
前面電極41上には、光透過性絶縁層である透明保護膜80及び光散乱層60が順次設けられている。透明保護膜80は、外界から有機EL素子40中への水分の浸入等を防止するとともに、平坦化層としての役割を果たしている。透明保護膜80の材料としては透明樹脂を使用することができる。また、透明保護膜80には、単層構造を採用してもよく、或いは、多層構造を採用してもよい。
【0031】
第1態様では、有機EL素子40と光透過性絶縁層である透明基板10との間,すなわち有機EL素子40の前面側,に回折格子30を配置した。これに対し、第2態様では、有機EL素子40と反射層70との間,すなわち有機EL素子40の背面側,に回折格子30を配置している。このような構造を採用した場合も、第1態様で説明したのとほぼ同様の効果を得ることができる。
【0032】
但し、回折格子30を有機EL素子40の背面側に配置した場合、有機EL素子40が放出する一部の光は回折格子30を透過することなく光透過性絶縁層に入射する。したがって、より多くの光を回折させるうえでは、回折格子30を有機EL素子40と光透過性絶縁層との間に配置することが有利である。
【0033】
第1及び第2態様において、回折格子30としては、一次元格子を使用してもよく、或いは、二次元格子を使用してもよい。但し、より多くの光を回折させるうえでは、後者のほうが有利である。
【0034】
また、第1及び第2態様では、回折格子30として透過型回折格子を使用したが、反射型回折格子を使用してもよい。例えば、図2に示す回折格子30を省略するとともに、反射層70の前面に回折格子を構成する凹凸を設けてもよい。
【0035】
回折格子30を、光透過性の第1部分31と、第1部分が形成する凹部を埋め込んだ第2部分32とで構成する場合、上記の通り、第2部分32の光学特性を第1部分31の光学特性とは異ならしめる。第1部分31と第2部分32とは、屈折率、透過率、反射率などの少なくとも1つが異なっていればよいが、典型的には、第2部分32も光透過性とするとともに第1部分31とは屈折率を異ならしめる。
【0036】
第1部分31の凹部は、底面が第1部分31の表面で構成されていてもよい。或いは、第1部分31の凹部は、底面が第1部分31の下地層の表面で構成されていてもよい。
【0037】
回折格子30を構成する第1部分31及び第2部分32の少なくとも一方は、有機EL素子40側に隣接する層と比較して、屈折率がより高くてもよい。こうすると、回折格子30に対して有機EL素子40側に位置した層における繰返し反射干渉が促進される。
【0038】
回折格子30の格子定数は、例えば、0.1μm乃至0.8μm程度としてもよい。回折格子30の格子定数は、発光色が互いに異なる有機EL素子40毎に設定してもよく、或いは、それら有機EL素子40間で同一としてもよい。
【0039】
図3は、図1の有機EL表示装置1について得られた回折格子30の格子定数と1次回折光の光学フィルム60への入射角との関係を示すグラフである。図中、横軸は回折格子30の格子定数を示し、縦軸は1次回折光の光学フィルム60への入射角を示している。
【0040】
なお、図3に示すデータは、以下の条件のもとでシミュレーションを行うことにより得られたものである。すなわち、ここでは、有機物層42と前面電極41との積層体の厚さを250nmとし、この積層体の屈折率を1.9とした。また、有機物層42としては、発光色が青、緑、赤色の3種の有機物層を想定し、それらは、それぞれ、波長が440nm、540nm、620nmの光を放出することとした。
【0041】
また、回折格子30の第1部分31に屈折率が2.0の透明材料を使用し、第2部分32に屈折率が1.2の透明材料を使用することとした。透明基板10には、屈折率が1.5の透明材料を使用することとした。
【0042】
さらに、ここでは、有機物層42と前面電極41との積層体における繰返し反射干渉を考慮し、この積層体内を膜面方向へと伝播する光のうち最も高強度の光の回折格子30による回折を計算した。具体的には、先の波長と積層体の厚さと屈折率とから、積層体内を膜面方向へと伝播する光のうち最も高強度の光の進行方向が膜面に対して為す角度をもとに回折格子30による回折を計算した。また、0次回折光は進行方向を変化させず、1次回折光よりも高次の回折光は非常に弱いので、ここでは、1次回折光についてのみ考慮した。
【0043】
図3に示すように、回折格子30の格子定数が一定である場合、1次回折光の光学フィルム60への入射角は発光色に応じて変化する。したがって、例えば、全ての発光色で1次回折光の光学フィルム60への入射角をほぼ等しくすべく、回折格子30の格子定数を、発光色が青色の画素に対応した部分で最も小さくし、発光色が赤色の画素に対応した部分で最も大きくし、発光色が緑色の画素に対応した部分ではそれらの中間としてもよい。
【0044】
光学フィルム60としては、散乱ゲインが、例えば10乃至100の範囲内にあるものを使用する。なお、ここで使用する用語「散乱ゲイン」は、正面輝度/(発光照度×フィルム透過率/π)である。散乱ゲインが大きい場合、光学フィルム60の散乱能が小さく、上記の効果が顕著には現われない。また、散乱ゲインが小さい場合、光学フィルム60の散乱能が過剰に大きくなり、後方散乱に起因して光透過性絶縁層へと戻る光が増加する。このため、高い光の取り出し効率を実現することが難しくなるのに加え、混色が発生し易くなる。しかも、この場合、光学フィルム60による外光の散乱が顕著になり、画像の視認性が低下する。
【0045】
散乱ゲインが比較的小さな範囲,例えば10乃至50の範囲,内にある光学フィルム60を使用すると、輝度の観察角依存性を低減することができる。したがって、このような光学フィルム60は、大型の有機EL表示装置1での使用に適している。
【0046】
他方、散乱ゲインが比較的大きな範囲,例えば50乃至100の範囲,内にある光学フィルム60を使用すると、より高い指向性を実現することができる。したがって、このような光学フィルム60は、例えば携帯機器などに搭載される比較的小型の有機EL表示装置1での使用に適している。
【0047】
第1部分61と第2部分62との境界面が光学フィルム60の主面の法線に対して為す角度θ(以下、「傾き角θ」という)は、例えば、5°乃至60°程度としてもよい。
【0048】
光学フィルム60の一主面を観察した場合の第1部分61の幅W1と第2部分62の幅W2とは、互いに等しくてもよく、或いは、異なっていてもよい。典型的には、幅W1と幅W2との比W1/W2は、1未満,例えば0.2乃至0.8程度,とする。また、典型的には、幅W1は2μm乃至40μm程度とし、幅W2は1μm乃至20μm程度とする。
【0049】
第1部分61の屈折率nと第2部分62の常光線屈折率noとは、典型的にはほぼ等しい。例えば、それらの差の絶対値は0.02以下である。
【0050】
第2部分62の異常光屈折率neと常光屈折率noとの差の絶対値は、例えば0.1以上であり、典型的には0.2以上である。また、第2部分62の異常光屈折率neと常光屈折率noとの差の絶対値は、典型的には0.3以下である。
【実施例】
【0051】
以下、本発明の実施例について説明する。
(実施例1)
図4は、本発明の実施例に係る有機EL表示装置を概略的に示す断面図である。本例では、図4に示す有機EL表示装置1を以下の方法により作製した。
【0052】
まず、ガラス基板10の一主面上に、厚さ100nmの有機物からなる薄膜31を形成し、これに凹部を設けた。次いで、この薄膜の凹部をLow−k膜32で埋め込んだ。以上のようにして、格子定数が0.7μmの回折格子30を得た。
【0053】
次に、回折格子30上に、マスクスパッタリング法を用いてITOを堆積させることにより、厚さ100Åの前面電極41を得た。
【0054】
その後、基板11の前面電極41を形成した面に、蒸着法により、正孔注入層42a、正孔輸送層42b、発光層42c、電子輸送層42d、電子注入層42eを順次成膜した。このようにして、屈折率が1.9であり、厚さが250nmの有機物層42を得た。なお、この有機物層42は、波長540nmの光を放出する。
【0055】
続いて、有機物層42上に、蒸着法により、アルミニウムからなる背面電極43を形成した。これにより、アレイ基板を完成した。
【0056】
次に、別途用意したガラス基板(図示せず)の一方の主面の周縁部に紫外線硬化型樹脂を塗布してシール層(図示せず)を形成した。次いで、このガラス基板と先のアレイ基板とを、それらのシール層を設けた面と背面電極43を設けた面とが対向するように不活性ガス中で貼り合せた。続いて、紫外線照射によりしてシール層を硬化させた。
【0057】
その後、基板10の外面に光学フィルム60を貼り付けた。以上のようにして、図4に示す有機EL表示装置1を完成した。
【0058】
なお、本例で使用した光学フィルム60は、第1部分61がポリカーボネート(n=1.55)からなり、第2部分62が液晶ポリマー(no=1.53、ne=1.75)からなるものである。この光学フィルム60の第1部分61の幅W1は50μmであり、第2部分62の幅W2は50μmであり、第1部分61と第2部分62との境界面が光学フィルム60の主面の法線に対して為す角度である傾き角θは40°である。また、この光学フィルム60の散乱ゲインは40である。
【0059】
(実施例2)
以下の構造を有する光学フィルム60を使用したこと以外は、実施例1で説明したのと同様の方法により、図4に示す有機EL表示装置1を作製した。すなわち、本例では、光学フィルム60として、傾き角θが20°であること以外は実施例1で使用したのと同様のものを使用した。なお、この光学フィルム60の散乱ゲインは80である。
【0060】
(比較例1)
以下の構造を有する光学フィルム60を使用したこと以外は、実施例1で説明したのと同様の方法により、図4に示す有機EL表示装置1を作製した。すなわち、本例では、光学フィルム60として、傾き角θが0°であること以外は実施例1で使用したのと同様のものを使用した。なお、この光学フィルム60の散乱ゲインは120である。
【0061】
(比較例2)
光学フィルム60を設けなかったこと以外は、実施例1で説明したのと同様の方法により、図4に示す有機EL表示装置1を作製した。
【0062】
次に、実施例1及び2並びに比較例1及び2に係る有機EL表示装置1について、有機EL表示装置1がその外部に放出する全光束を測定した。その結果を、以下の表1に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
表1では、各有機EL表示装置1がその外部に放出する全光束は、比較例2に係る有機EL表示装置1がその外部に放出する全光束を1とした相対値で示している。表1に示すように、光学フィルム60を設けた有機EL表示装置1は、光学フィルム60を設けなかった有機EL表示装置1と比較して、光の取り出し効率がより高い。また、比較例1の有機EL表示装置1について得られたデータと比較例2の有機EL表示装置1について得られたデータとの比較から明らかなように、光学フィルム60を設けても、第1部分61と第2部分62との境界面が光学フィルム60の主面に対して垂直である場合には、光の取り出し効率を僅かに向上させることができるに過ぎない。これに対し、第1部分61と第2部分62との境界面を光学フィルム60の主面に対して傾けると、光の取り出し効率を大幅に向上させることが可能となる。
【0065】
次に、実施例1及び2並びに比較例1に係る有機EL表示装置1について、輝度の観察角度依存性を調べた。その結果を、表2及び図5に示す。
【0066】
【表2】

【0067】
図5は、実施例1及び2並びに比較例1に係る有機EL表示装置1について得られた輝度の観察角度依存性を示すグラフである。図中、横軸は、観察角度,すなわち、表示面の法線と視線とが為す角度,を示し、縦軸は、最大輝度を1として得られた規格化輝度を示している。また、図中、曲線111及び112は、それぞれ、実施例1及び2に係る有機EL表示装置1ついて得られたデータを示し、曲線121は比較例1に係る有機EL表示装置1ついて得られたデータを示している。
【0068】
表2及び図5から明らかなように、実施例1及び2に係る有機EL表示装置1は、比較例1に係る有機EL表示装置1と比較して、高輝度画像を観察可能な角度範囲がより広い。例えば、規格化輝度が0.6以上の観察角度の範囲を視野角と定義すると、比較例1に係る有機EL表示装置1では視野角が約80°であるのに対し、実施例1及び2に係る有機EL表示装置1では視野角はそれぞれ約95°及び約90°である。なお、図示していないが、比較例2に係る有機EL表示装置1の視野角は30°程度である。
【0069】
このように、第1部分61と第2部分62との境界面を光学フィルム60の主面に対して傾けた光学フィルム60を設けた場合、第1部分61と第2部分62との境界面が光学フィルム60の主面に対して垂直な光学フィルム60を設けた場合や光学フィルム60を設けなかった場合と比較して、より高い光の取り出し効率とより広い視野角とを実現することができた。なお、光学フィルム60の代わりに、透明マトリクス中にそれとは屈折率が異なる透明粒子を分散させた構造の拡散フィルムを設けた場合、光学フィルム60を設けなかった場合と比較して、より広い視野角とを実現することができたが、光の取り出し効率が低下した。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の第1態様に係る有機EL表示装置を概略的に示す断面図。
【図2】本発明の第2態様に係る有機EL表示装置を概略的に示す断面図。
【図3】図1の有機EL表示装置について得られた回折格子の格子定数と1次回折光の光学フィルムへの入射角との関係を示すグラフ。
【図4】本発明の実施例に係る有機EL表示装置を概略的に示す断面図。
【図5】実施例1及び2並びに比較例1に係る有機EL表示装置について得られた輝度の観察角度依存性を示すグラフ。
【符号の説明】
【0071】
1…有機EL表示装置、10…透明基板、12…アンダーコート層、13…半導体層、14…ゲート絶縁膜、15…ゲート電極、17…層間絶縁膜、18…パッシベーション膜、20…駆動制御素子、21…ソース・ドレイン電極、30…回折格子、31…第1部分、32…第2部分、40…有機EL素子、41…前面電極、42…有機物層、43…背面電極、50…隔壁絶縁層、60…光学フィルム、61…第1部分、62…第2部分、70…反射層、80…透明保護膜、111…実施例1のデータ、112…実施例2のデータ、121…比較例1のデータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性絶縁層と、
前記光透過性絶縁層に対して背面側に配置された有機EL素子と、
前記光透過性絶縁層と前記有機EL素子との間または前記有機EL素子に対して背面側に配置された回折格子と、
前記光透過性絶縁層に対して前面側に配置された光学フィルムとを具備し、
前記光学フィルムは光学的に等方性の第1部分と光学的に異方性の第2部分とを備え、
前記光学フィルムのその主面に垂直な一断面を観察した場合に、前記第1部分と前記第2部分とは前記主面に対して傾いた複数の境界を形成していることを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項2】
前記第2部分が有する光学異方性の少なくとも1個の光学軸は前記複数の境界のそれぞれに対して実質的に平行であることを特徴とする請求項1に記載の有機EL表示装置。
【請求項3】
前記複数の境界のそれぞれが前記主面に対して為す角度θは、5°乃至60°の範囲内にあることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の有機EL表示装置。
【請求項4】
前記第1部分の屈折率nと前記第2部分の常光屈折率noとの差の絶対値は0.02以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の有機EL表示装置。
【請求項5】
前記第2部分の異常光屈折率neと常光屈折率noとの差の絶対値は0.1以上であることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の有機EL表示装置。
【請求項6】
前記光学フィルムの散乱ゲインは、10乃至100の範囲内にあることを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載の有機EL表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−100430(P2006−100430A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−282676(P2004−282676)
【出願日】平成16年9月28日(2004.9.28)
【出願人】(302020207)東芝松下ディスプレイテクノロジー株式会社 (2,170)
【Fターム(参考)】