説明

有機EL装置、その製造方法およびこれを備える電子機器

【課題】封止性能が高く、層同士の密着性を長期にわたって維持しダークスポットの発生
を抑制することが可能な有機EL装置を提供する。
【解決手段】有機EL装置1は、基板10と、基板10上に形成された複数の有機EL素
子12と、基板10上に形成され複数の有機EL素子12を区分する絶縁性の隔壁14と
、基板10と隔壁14の間に配置された無機絶縁膜13と、複数の有機EL素子12およ
び隔壁14を覆う絶縁性の封止膜30とを備える。有機EL素子12の各々は、基板10
上に形成された画素電極16と、画素電極16および隔壁14上に形成された発光機能層
18と、発光機能層18上に形成された対向電極20とを有する。無機絶縁膜13の端縁
部13aは、隔壁14で覆われずに有機EL素子12の画素電極16の周縁部と発光機能
層18の間に介在している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、封止膜を有する有機EL装置、その製造方法およびこれを備える電子機器に
関する。
【背景技術】
【0002】
発光素子の一種として、画素電極と対向電極の間に介在し電界により励起して発光する
有機発光層を有する有機EL(electro-luminescent)素子がある。有機EL素子を備え
る装置の製造工程では、外気や水分等により有機発光材料およびカルシウム、マグネシウ
ム、アルミニウム錯体などの電子注入層が劣化するのを防ぐために封止が行われる。この
封止の技術として、極薄の無機化合物膜で有機EL素子を覆う薄膜封止技術が知られてい
る(特許文献1〜5)。薄膜封止はベタ封止とも呼ばれる。
【0003】
有機EL素子を用いた発光パネルまたは画像表示パネルでは、隔壁(セパレータ)が用
いられることが多い。隔壁は各有機EL素子の画素電極を画定することにより複数の有機
EL素子を区分する。隔壁の役割としては、各画素電極の区画のほか、画素電極と対向電
極の短絡の防止がある。隔壁がない場合に基板から盛り上がっている画素電極に有機発光
層と対向電極を重ねて形成すると、画素電極と基板とで段差があるために、その段差で有
機発光層の破断が起こり画素電極と対向電極が短絡しうるが、画素電極の周縁を隔壁で覆
うことにより、画素電極の周縁と対向電極の間に有機発光層および隔壁が位置することに
なる。この状態で有機発光層が破断しても、画素電極の周縁と対向電極の間に隔壁がある
ので短絡が防止される。低分子有機ELパネルでは、発光色に応じて有機発光層を塗り分
ける場合には、隔壁は発光層を区画する機能も有し、パッシブマトリクス駆動の場合には
、隔壁は対向電極を区画する機能も有する。
【特許文献1】特開平9−185994号公報
【特許文献2】特開2001−284041号公報
【特許文献3】特開2000−223264号公報
【特許文献4】特開2003−17244号公報
【特許文献5】特許第2776040号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
有機ELパネルに薄膜封止技術を応用する場合には、封止膜の内部の残留応力や外力が
封止膜にかかることによって、その応力の方向および大きさによっては、対向電極または
有機発光層などが変位し、対向電極と画素電極の間に介在する層、例えば有機発光層がそ
の上下の層から剥離するおそれがある。このような剥離が一部でも発生すると、その部分
は電流が流れないために発光せず、ダークスポットが生じてしまう。
【0005】
特に、隔壁を有する有機ELパネルに薄膜封止技術を応用する場合には、隔壁による段
差ならびに隔壁と封止膜の熱膨張係数の相違のため、温度の上下によって封止膜に生ずる
歪みが大きいと予測される。また封止膜その他の要素の荷重が、対向電極または有機発光
層などを変位させるおそれが大きい。このためダークスポットが発生する可能性が高い。
さらに、低分子有機発光材料を使用する場合には、低分子有機発光材料は蒸着により画素
電極上だけでなく隔壁上にも堆積させられる。この場合には、有機発光層を含む発光機能
層が隔壁の傾斜した側面から剥がれ始め、さらに剥離が進行して、画素電極からも徐々に
剥がれてゆき、これに伴い徐々に有機発光層の発光面積が縮減することがある。
【0006】
そこで、本発明は、封止性能が高く、層同士の密着性を長期にわたって維持しダークス
ポットの発生を抑制することが可能な有機EL装置、その製造方法およびこれを備える電
子機器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る有機EL装置は、基板と、前記基板上に形成された複数の有機EL素子と
、前記基板上に形成され前記複数の有機EL素子を区分する絶縁性の隔壁と、前記基板と
前記隔壁の間に配置された無機絶縁膜と、前記複数の有機EL素子および前記隔壁を覆う
絶縁性の封止膜とを備える。前記有機EL素子の各々は、前記基板上に形成された画素電
極と、前記画素電極および前記隔壁上に形成された発光層と、前記発光層上に形成された
対向電極とを有する。前記無機絶縁膜の端縁部は、前記隔壁で覆われずに前記有機EL素
子の前記画素電極の周縁部と前記発光層の間に介在している。
【0008】
本発明によれば、基板と隔壁の間に無機絶縁膜が配置され、無機絶縁膜の端縁部は隔壁
で覆われずに有機EL素子の画素電極の周縁部と発光層の間に介在している。発光層は画
素電極上だけでなく隔壁上にも形成されており、発光層を含む発光機能層が隔壁から剥が
れ始めることがあるが、無機絶縁膜の端縁部が隔壁で覆われずに有機EL素子の画素電極
の周縁部上にあるために、発光機能層の剥離は無機絶縁膜の端縁部と画素電極との段差で
食い止められる。従って、画素電極と発光機能層の間の密着性が長期にわたって維持され
ダークスポットの発生が抑制される。つまり発光面積の縮減が抑制される。また、無機絶
縁膜の端縁部は隔壁で覆われずに有機EL素子の画素電極の周縁部と発光層の間に介在し
ているため、発光層のうち電流が流れ発光する領域の外縁は隔壁ではなく無機絶縁膜で画
定される。無機絶縁膜は隔壁よりも極めて薄く形成できるので、発光する領域の外縁の精
度が高く、有機EL素子の発光面積のバラツキを抑制することができる。
【0009】
このような本発明に係る有機EL装置を製造する方法は、前記基板上に複数の前記画素
電極を形成する工程と、前記画素電極の周縁部に前記無機絶縁膜の端縁部が重なるように
、前記無機絶縁膜を前記基板上に形成する工程と、前記無機絶縁膜の端縁部が前記隔壁か
ら突出するように、前記隔壁を前記無機絶縁膜上に形成する工程と、前記画素電極および
前記隔壁上に前記発光層を形成する工程と、前記発光層上に前記対向電極を形成する工程
と、前記対向電極を覆うように前記封止膜を形成する工程とを備える。
【0010】
本発明に係る電子機器は、上述した有機EL装置を備える。このような電子機器として
、有機EL装置を表示装置に適用したパーソナルコンピュータ、携帯電話機、および携帯
情報端末などが該当し、また、有機EL装置を露光ヘッドに用いた電子写真方式のプリン
タや複写器が該当する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、添付の図面を参照しながら本発明に係る様々な実施の形態を説明する。図面にお
いては、各部の寸法の比率は実際のものとは適宜に異ならせてある。
<有機EL装置>
図1は、本発明の実施の形態に係る有機EL装置1を示す断面図であり、図2は有機E
L装置1の一部を示す平面図である(具体的には後述する保護板40および接着剤42が
ない状態を示す)。有機EL装置1は、基板10と基板10上に形成された複数の有機E
L素子12を備える。基板10には、有機EL素子12に給電して発光させるための配線
が配置されているが、配線の図示は省略する。図示しないが、有機EL素子12に給電す
るための回路を基板10に配置してもよい。
【0012】
基板10には隔壁(セパレータ)14が形成されている。隔壁14は、絶縁性の透明材
料、例えばアクリル、ポリイミドなどにより形成されている。図2に示すように、隔壁1
4は、複数の縦壁14aと複数の横壁14bを有しており、縦壁14aと横壁14bは交
叉点すなわちコーナー部14cで互いに交叉し格子を構成する。後述するように、複数の
有機EL素子12は格子状の隔壁14に区分されてマトリクス状に配置されている。
【0013】
但し、基板10と隔壁14の間には、無機絶縁膜13が配置されている。無機絶縁膜1
3は、例えば酸化珪素、窒化珪素、酸窒化珪素、炭化珪素、
DLC(ダイヤモンドライクカーボン)、もしくは酸化アルミニウムなどの金属酸化物、
またはこれらの混合物から形成することができる。図1および図2において、符号13a
は無機絶縁膜13の端縁部を示す。図1に示すように、無機絶縁膜13の端縁部13aは
隔壁14で覆われていない。
【0014】
図1に示すように、有機EL素子12の各々は、画素電極16、発光機能層18および
対向電極20を有する。画素電極16は陽極であり、基板10上に形成され無機絶縁膜1
3で包囲されている。発光機能層18は、少なくとも発光層を含み、発光層は正孔と電子
が結合して発光する有機EL物質から形成されている。この実施の形態では、有機EL物
質は低分子材料である。発光機能層18を構成する他の層として、電子ブロック層、正孔
注入層、正孔輸送層、電子輸送層、電子注入層および正孔ブロック層の一部または全部を
備えていてもよい。
【0015】
この実施の形態では、各有機EL素子12の発光機能層18の発光層の有機EL物質は
低分子材料であるが、R(赤)、G(緑),B(青)の三種類の有機EL物質が使用され
る。つまり、Rの波長領域の光を発生する有機EL物質と、Gの波長領域の光を発生する
有機EL物質と、Bの波長領域の光を発生する有機EL物質のいずれかが一つの有機EL
素子12の発光層に使用される。従って、発光機能層18はすべての有機EL素子12に
共通ではなく、塗り分けられている。図1に示すように、発光機能層18は隔壁14の上
面にも達しているが、隔壁14上で隣の発光機能層18とはつながっていない。但し、隔
壁14上のこの部分では発光層は発光しないので、隣り合う有機EL素子の発光機能層1
8がこの部分で重なっていてもよい。対向電極20は陰極であり、複数の発光機能層18
の全面に接触している。つまり、対向電極20は、複数の有機EL素子12に共通するよ
うに、複数の画素電極16の区域および隔壁14上に広がっている。
【0016】
対向電極20は複数の有機EL素子12に共通であるが、個々の画素電極16は他の画
素電極16から離れており、隔壁14の下の無機絶縁膜13の端縁部13aが個々の画素
電極16の周縁に載っているため、個々の画素電極16と対向電極20の間で電流が流れ
たときには、その画素電極16に直接接触して重なった位置でのみ発光機能層18が発光
する。従って、隔壁14および無機絶縁膜13は複数の有機EL素子12を区分し、隔壁
14で包囲された部分つまり画素電極16の部分を有機EL素子12の区域と呼ぶことが
できる。
【0017】
この実施の形態の有機EL装置1では、画素電極16は、ITO(indium tin oxide
)、IZO(indium zinc oxide)、またはZnOのような透明酸化物導電材料から
形成され、対向電極20は仕事関数が小さく反射率の高い材料、例えば、アルミニウム、
カルシウム、マグネシウム、またはリチウム等またはそれらの合金から形成されている。
従って、発光層からの光は、画素電極16および基板10を透過して外部に放出される。
すなわち有機EL装置1は、基板10から光を放出するボトムエミッションタイプである

【0018】
但し、他の形態として有機EL装置1はトップエミッションタイプでもよい。トップエ
ミッションタイプでは、画素電極16は、仕事関数が大きく反射率の高い金属材料、例え
ば、ニッケル、金、白金等またはそれらの合金から形成され、対向電極20はITO、I
ZO、またはZnOのような透明酸化物導電材料から形成される。従って、発光層から
の光は、対向電極20を透過して基板10の反対側に放出される。
【0019】
無機絶縁膜13の端縁部13aは、基板10上の画素電極16の周縁部上に配置されて
いるが、無機絶縁膜13の他の部分は基板10上に形成されている。従って、無機絶縁膜
13には段差がある。無機絶縁膜13の端縁部13aは、隔壁14には完全には覆われて
おらず、この上に発光機能層18が形成されている。従って、無機絶縁膜13の端縁部1
3aは、画素電極16の周縁部と発光機能層18の間に介在している。このため、発光機
能層18の発光層のうち電流が流れ発光する領域の外縁は隔壁14ではなく無機絶縁膜1
3で画定される。無機絶縁膜13は無機化合物から形成されているために、製造中または
製造後にガスが無機絶縁膜13から漏出することがなく有機EL素子12の要素、特に発
光層の劣化を招かない。
【0020】
対向電極20上には、無機化合物から形成された封止膜30が配置されている。図1に
示すように、封止膜30は、対向電極20の全面に接触して、複数の有機EL素子12お
よび隔壁14を覆う。封止膜30は、窒化珪素や酸窒化珪素などのガス透過率が低い無機
材料から形成されている。これらの窒化珪素や酸窒化珪素は、非晶質材料であってもよい
し、結晶材料であってもよいし、水素を含んでいてもよい。
【0021】
封止膜30には接着剤42によって保護板40が接合される。接着剤42は透明な樹脂
、例えばエポキシ系の樹脂であり、保護板40は例えばガラスまたはプラスチックから形
成される。他の形態として、図示しないが、封止膜30を覆うように有機材料から形成さ
れた平坦化層を設け、その平坦化層の凹凸の少ない表面にさらにガスバリアのための封止
層を形成してもよい。また、この有機EL装置1をカラー画像表示装置として使用する場
合、発光色の色度を改善するために、光が放出される側にカラーフィルタを配置してもよ
い。
【0022】
図3(A)は、比較例としての従来の有機EL装置の一部の断面図である。この比較例
では、無機絶縁膜13がなく、隔壁14が基板10上に形成されており、画素電極16の
周縁部が隔壁14の端縁部で覆われている。従って、発光機能層18の発光層のうち電流
が流れ発光する領域の外縁は隔壁14で画定される。
【0023】
これに対して、実施の形態では、上記の通り、発光機能層18の発光層のうち電流が流
れ発光する領域の外縁は隔壁14ではなく無機絶縁膜13で画定される。無機絶縁膜13
は隔壁14よりも極めて薄く形成できるので、無機絶縁膜13がなく発光する領域の外縁
を隔壁14が画定する従来技術に比べて、発光する領域の外縁の精度が高く、有機EL素
子12の発光面積のバラツキを抑制することができる。
【0024】
また、図3(A)の従来技術では、隔壁14上に堆積させられた発光機能層18が隔壁
14の傾斜した側面から剥がれ始め、さらに剥離が進行して、図3(B)に示すように画
素電極16からも徐々に剥がれてゆき、これに伴い徐々に発光機能層18の有機発光層の
発光面積が縮減することがある。このような剥離の原因としては、例えば、隔壁14によ
る段差ならびに隔壁14と封止膜30の熱膨張係数の相違のため温度の上下によって封止
膜30に大きな歪みが発生すること、封止膜30その他の要素の荷重に起因する対向電極
16または有機発光層18などの変位が考えられる。
【0025】
しかし、この実施の形態によれば、基板10と隔壁14の間に無機絶縁膜13が配置さ
れ、無機絶縁膜13の端縁部13aは隔壁14で覆われずに有機EL素子12の画素電極
16の周縁部と発光機能層18の間に介在している。この実施の形態でも、発光機能層1
8は画素電極16上だけでなく隔壁14上にも形成されているので、発光層を含む発光機
能層18が隔壁14から剥がれ始めることがある。しかし、無機絶縁膜13の端縁部13
aが隔壁14で覆われずに有機EL素子12の画素電極16の周縁部上にあるために、図
4に示すように、発光機能層18の剥離は無機絶縁膜13の端縁部13aと画素電極16
との段差で食い止められる。従って、画素電極16と発光機能層18の間の密着性が長期
にわたって維持されダークスポットの発生が抑制される。つまり発光面積の縮減が抑制さ
れる。
【0026】
次に、この有機EL装置1を製造する方法を説明する。まず、無アルカリガラスなどの
ガラスまたはプラスチックで形成された基板10を準備し、有機EL素子12に給電して
発光させるための配線(図示せず)を形成する。一度に複数の有機EL装置1を製造する
場合には、複数の有機EL装置1に相当する広大な基板10を準備する。図示しないが、
有機EL素子12に給電するための回路を基板10に配置してもよい。例えば、低温ポリ
シリコンTFT(薄膜トランジスタ)を有するアクティブマトリクス駆動回路を公知の手
法で基板10に形成してもよい。
【0027】
次に、上記の配線または回路と有機EL素子12を遮蔽する層間絶縁膜(図示せず)を
酸化珪素などから形成し、配線または回路と有機EL素子12の画素電極16を電気的に
接続するコンタクトホールを層間絶縁膜に形成する。
【0028】
続いて、公知の手法で、図5に示すように基板10上に複数の画素電極16をマトリク
ス状に形成する。例えば、スパッタリングによってITOの膜を50nmの一様な厚さに
基板10の全面に形成した後にオーブンで焼結する。そして、そのITO膜上にフォトリ
ソグラフィーの手法で露光により所要の部分にレジストを形成し、例えばBHF(フッ酸/
フッ化アンモニウム水溶液)のようなITOエッチャントによってエッチングすることに
よって、図示の画素電極16のパターニングを行い、レジストを剥離する。
【0029】
さらに図6に示すように、画素電極16の周縁部に無機絶縁膜13の端縁部13aが重
なるように、無機絶縁膜13を基板10上に形成する。無機絶縁膜13のうち画素電極1
6に重ならない部分は層間絶縁膜に付着する。無機絶縁膜13は、例えば酸化珪素、窒化
珪素、酸窒化珪素、炭化珪素、DLC、もしくは酸化アルミニウムなどの金属酸化物、ま
たはこれらの混合物から形成することができ、その形成方法は、例えば、CVD(chemic
al vapor deposition)またはPVD(physical vapor deposition)等の気相成長法
、スパッタリング、またはイオンプレーティングといった膜を堆積させる公知の技術でよ
い。あるいは、材料をスピンコートした後に焼成して無機絶縁膜を形成してもよい。例え
ば酸化珪素から無機絶縁膜13を形成する場合には、プラズマCVD装置にて、テトラエ
トキシシラン(TEOS)を気化し、TEOS中の珪素分子と酸素が結合した酸化珪素の
膜を基板10上に堆積させる。そして、その酸化珪素の膜上にフォトリソグラフィーの手
法で露光により所要の部分にレジストを形成し、例えばドライエッチングすることによっ
て、図示の無機絶縁膜13のパターニングを行い、レジストを剥離する。
【0030】
無機絶縁膜13の厚さは、好ましくは200nm以下で50nm以上であり、例えば5
0nmであってよい。無機絶縁膜13が薄すぎると、無機絶縁膜13の端縁部13aと画
素電極16との段差が小さいことに直結し、上述した段差による発光機能層18の剥離を
食い止める効果がなくなる。他方、無機絶縁膜13が厚すぎると、無機絶縁膜13の端縁
部13aと画素電極16との段差が極めて大きくなり、その上に形成される発光機能層1
8に亀裂が生じて、画素電極16と対向電極20が短絡するおそれがある。
【0031】
次に図7に示すように、隔壁14を格子状に形成する。例えば隔壁14の材料となるア
クリルまたはポリイミドに感光性材料を混合して、フォトリソグラフィーの手法で露光に
より隔壁14をパターニングし、さらにキュアベークする。無機絶縁膜13の端縁部13
aが好ましくは0.1μm以上、例えば約5μm、隔壁14から突出するように隔壁14
を形成する。隔壁14からの無機絶縁膜13の突出長さが小さすぎると、上述した無機絶
縁膜13の端縁部13aと画素電極16との段差による発光機能層18の剥離を食い止め
る効果がなくなる。
【0032】
続いて、この状態のパネルを脱水処理のためにベークする。この後、画素電極16およ
び隔壁14上に発光機能層18を形成する。発光機能層18は、例えば、正孔注入層、正
孔輸送層、発光層、電子輸送層および電子注入層を有する。陽極である画素電極16に近
い方から遠い方に向けて、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層および電子注入
層は並んでいる。発光機能層18のうち発光層以外の層は、複数の有機EL素子12に共
通であってよいので、複数の有機EL素子12の領域に一括して形成することができる。
これらの層の形成には蒸着が使用される。
【0033】
但し、発光層はすべての有機EL素子12に共通ではなく、発光色に応じて塗り分けら
れている。図8に示すように、各色の発光層18aは、マスク50を利用して、必要な箇
所に発光層18aを蒸着させることにより塗り分けすることができる。マスク50上に堆
積した発光層材料18aはマスク50とともに除去できる。マスク50をずらしながら蒸
着を繰り返すことにより、R,G,Bの三色の発光層18aが形成される。
【0034】
このようにして図9に示すように、すべての発光機能層18を形成した後に、図10に
示すように、発光機能層18上に対向電極20を形成する。例えば、蒸着によってアルミ
ニウムの膜を200nmの一様な厚さに形成する。
【0035】
さらに、図11に示すように、対向電極20を覆うように封止膜30を形成する。例え
ば、スパッタリングまたはイオンプレーティングによって、酸窒化珪素の膜を200nm
の一様な厚さに形成する。
【0036】
この後に、例えばエポキシ系の接着剤42によって、無アルカリガラスなどのガラスま
たはプラスチックで形成された保護板40を封止膜30に接合して、図1に示す構造を得
る。一度に複数の有機EL装置1を製造する場合には、所定の形状および寸法に、この構
造のパネルを切断する。さらに必要な電気部品を有機EL装置1に実装する。
【0037】
<変形例>
本発明は上述した実施の形態に限定されるものではなく、例えば、以下に述べる変形が
可能である。
上述した実施の形態においては、すべての有機EL素子12の共通電極として単一の対
向電極20が設けられているが、複数の共通電極を設けて、それぞれの共通電極が異なる
有機EL素子12の陰極となるように配置してもよい。
上述した実施の形態においては、対向電極20は有機EL素子12の陰極であり、画素
電極16は陽極であるが、対向電極20が陽極で画素電極16が陰極であってもよい。
【0038】
<応用例>
次に、本発明に係る有機EL装置を適用した電子機器について説明する。図12は、上
記実施形態に係る有機EL装置1を表示装置に適用したモバイル型のパーソナルコンピュ
ータの構成を示す斜視図である。パーソナルコンピュータ2000は、表示装置としての
有機EL装置1と本体部2010とを備える。本体部2010には、電源スイッチ200
1およびキーボード2002が設けられている。この有機EL装置1はOLED素子70
を用いるので、視野角が広く見易い画面を表示できる。
また発光機能層はRGBの塗り分けではなく、白色の発光を有する材料をパネルの発光
エリア全面に一括で形成してもよい。特に白色材料の一括形成プロセスと、透明陰極を用
いたトップエミッション構造では、本発明は有効である。
また発光機能層は低分子材料に限らず、高分子材料をスピンコート法やインクジェット
法等を用いて形成しても良い。
【0039】
図13に、上記実施形態に係る有機EL装置1を適用した携帯電話機を示す。携帯電話
機3000は、複数の操作ボタン3001およびスクロールボタン3002、ならびに表
示装置としての有機EL装置1を備える。スクロールボタン3002を操作することによ
って、有機EL装置1に表示される画面がスクロールされる。
【0040】
図14に、上記実施形態に係る有機EL装置1を適用した情報携帯端末(PDA:Pers
onal Digital Assistant)を示す。情報携帯端末4000は、複数の操作ボタン400
1および電源スイッチ4002、ならびに表示装置としての有機EL装置1を備える。電
源スイッチ4002を操作すると、住所録やスケジュール帳といった各種の情報が有機E
L装置1に表示される。
【0041】
本発明に係る有機EL装置が適用される電子機器としては、図12から図14に示した
もののほか、デジタルスチルカメラ、テレビ、ビデオカメラ、カーナビゲーション装置、
ページャ、電子手帳、電子ペーパー、電卓、ワードプロセッサ、ワークステーション、テ
レビ電話、POS端末、ビデオプレーヤ、タッチパネルを備えた機器等が挙げられる。ほ
かに、電子写真方式を利用した画像印刷装置における像担持体に光を照射して潜像を形成
するプリンタヘッドのような発光源も、そのような電子機器に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施の形態に係る有機EL装置を示す断面図である。
【図2】図1の有機EL装置の一部を示す平面図である。
【図3】(A)は、比較例としての従来の有機EL装置の一部の断面図であり、(B)はこの従来の有機EL装置で起こりうる問題を示す図である。
【図4】図1の有機EL装置による効果を示す図である。
【図5】図1の有機EL装置を製造する手順の一工程を示す図である。
【図6】図5の次の工程を示す図である。
【図7】図6の次の工程を示す図である。
【図8】図7の次の工程を示す図である。
【図9】図8の次の工程を示す図である。
【図10】図9の次の工程を示す図である。
【図11】図10の次の工程を示す図である。
【図12】本発明に係る有機EL装置を有するパーソナルコンピュータの外観を示す斜視図である。
【図13】本発明に係る有機EL装置を有する携帯電話機の外観を示す斜視図である。
【図14】本発明に係る有機EL装置を有する携帯情報端末の外観を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0043】
1 有機EL装置、10 基板、12 有機EL素子、13 無機絶縁膜、13a 端
縁部、14 隔壁、16 画素電極、18 発光機能層、18a 発光層材料、20 対
向電極、30 封止膜、40 保護板、42 接着剤、50 マスク。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に形成された複数の有機EL素子と、
前記基板上に形成され前記複数の有機EL素子を区分する絶縁性の隔壁と、
前記基板と前記隔壁の間に配置された無機絶縁膜と、
前記複数の有機EL素子および前記隔壁を覆う絶縁性の封止膜とを備え、
前記有機EL素子の各々は、前記基板上に形成された画素電極と、前記画素電極および
前記隔壁上に形成された発光層と、前記発光層上に形成された対向電極とを有し、
前記無機絶縁膜の端縁部が、前記隔壁で覆われずに前記有機EL素子の前記画素電極の
周縁部と前記発光層の間に介在していることを特徴とする有機EL装置。
【請求項2】
請求項1に記載の有機EL装置を製造する方法であって、
前記基板上に複数の前記画素電極を形成する工程と、
前記画素電極の周縁部に前記無機絶縁膜の端縁部が重なるように、前記無機絶縁膜を前
記基板上に形成する工程と、
前記無機絶縁膜の端縁部が前記隔壁から突出するように、前記隔壁を前記無機絶縁膜上
に形成する工程と、
前記画素電極および前記隔壁上に前記発光層を形成する工程と、
前記発光層上に前記対向電極を形成する工程と、
前記対向電極を覆うように前記封止膜を形成する工程とを備えることを特徴とする有機
EL装置の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の有機EL装置を備える電子機器。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2007−220393(P2007−220393A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−37579(P2006−37579)
【出願日】平成18年2月15日(2006.2.15)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】