有機EL装置の製造方法及び有機EL装置の製造装置
【課題】歩留まりや信頼性の低下を防止すると共に構成部材である有機EL素子の性能を向上させるための有機EL装置及び製造方法を提供する。
【解決手段】下部電極21と、上部電極と、前記下部電極21と前記上部電極との間に配置される有機化合物層と、からなる有機EL素子を有する画素を複数備える有機EL装置の製造方法において、前記下部電極21が設けられた基板上に保護層を形成する工程と、少なくとも一部の画素に対応する領域に開口部31を有するマスク30を前記保護層に密着させた状態で、前記開口部31に対応する領域に設けられている保護層を選択的に除去する工程と、前記保護層が除去された領域において、前記下部電極21上に有機化合物層を形成する工程と、を有することを特徴とする、有機EL装置の製造方法。
【解決手段】下部電極21と、上部電極と、前記下部電極21と前記上部電極との間に配置される有機化合物層と、からなる有機EL素子を有する画素を複数備える有機EL装置の製造方法において、前記下部電極21が設けられた基板上に保護層を形成する工程と、少なくとも一部の画素に対応する領域に開口部31を有するマスク30を前記保護層に密着させた状態で、前記開口部31に対応する領域に設けられている保護層を選択的に除去する工程と、前記保護層が除去された領域において、前記下部電極21上に有機化合物層を形成する工程と、を有することを特徴とする、有機EL装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL装置の製造方法及びその製造方法で使用される製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子を備える表示デバイスを作製する際に、この表示デバイスの構成部材を形成する方法としてマスク蒸着を利用した有機材料等の薄膜パターン形成方法が知られている。この方法は、マスクの開口部を通過した蒸着物質が基板に到達することにより、所定のパターン形状を有する薄膜の形成を行うものである。またこの方法は、リソグラフィ技術を用いずに有機材料等の薄膜のパターンを形成することが可能となることから広く用いられている方法である。
【0003】
ただし薄膜のパターン形成の際にマスク蒸着を利用する場合には、マスクを基板と密着させた状態で蒸着を行うため、基板もしくはマスクの表面に異物が存在する場合には、その異物によって黒点や明点等の表示デバイス上の欠陥を引き起こす可能性がある。また、異物が存在しなくてもマスクが基板と接触することにより、基板上で成膜された蒸着膜及びリブ等に傷が発生し、その傷が黒点や明点等の欠陥を発生させる原因になると共に歩留まりを低下させる原因にもなる。さらに、封止膜による封止を行う場合、上述した異物や傷が封止膜の割れ等の欠陥原因となり有機EL素子の信頼性を低下させることがある。
【0004】
このような問題に対して、特許文献1では、端部カバー絶縁層と上層絶縁層とからなる2段リブを形成する態様が提案されている。つまり、この2段リブによって有機EL素子を構成する有機化合物層とマスクとが接触することによって生じる有機化合物層の損傷やダストの発生を防止する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−54603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし特許文献1にて提案されている方法では、2段リブを形成する際に利用するフォトリソ工程に対するコストと、2段リブとマスクとのギャップによる着膜ボケの発生を抑制することに起因する開口率の低下が問題となっていた。さらに、複数色(例えば、3色)の有機EL素子を塗り分け蒸着によって形成する際には、色の種類の分だけマスクを基板に接触させる必要がある(3色ならば、3回接触させる必要がある)。このため、マスクと基板とが接触する際にマスクの表面に膜が堆積していると、その膜の一部が他の色を蒸着する電極の表面や共通層の表面へ付着することがあり、これによってプロセスコンタミが生じるという課題があった。
【0007】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、その目的は、歩留まりや信頼性の低下を防止すると共に構成部材である有機EL素子の性能を向上させるための有機EL装置の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の有機EL装置の製造方法は、下部電極と、上部電極と、前記下部電極と前記上部電極との間に配置される有機化合物層と、からなる有機EL素子を有する画素を複数備える有機EL装置の製造方法において、
前記下部電極が設けられた基板上に保護層を形成する工程と、
少なくとも一部の画素に対応する領域に開口部を有するマスクを前記保護層に密着させた状態で、前記開口部に対応する領域に設けられている保護層を選択的に除去する工程と、
前記保護層が除去された領域において、前記下部電極上に有機化合物層を形成する工程と、
を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、歩留まりや信頼性の低下を防止すると共に構成部材である有機EL素子の性能を向上させるための有機EL装置の製造方法を提供することができる。
【0010】
即ち、本発明の有機EL装置の製造方法では、電極が形成された基板上に保護層が形成され、この保護層とマスクとが接触することにより、基板とマスクとの接触を回避することができる。従って、基板とマスクとの接触によって生じる基板上に設けられている蒸着膜及びリブ等への傷の発生を防ぐことができるので、歩留まりや信頼性を向上させることができる。さらに、基板側に2段リブを形成する必要がないことからフォトリソ工程を簡略化することができるので基板のコストを下げることが出来る。
【0011】
また、保護層上にマスクを密着させることで蒸着が可能となることから、開口率を狭める原因となる着膜ボケを心配する必要がない。このため設計上の自由度が上がる。
【0012】
さらに本発明の製造方法によれば、マスクの開口部に対応する電極上の保護層を除去した後、直ちに所望の有機化合物層の蒸着を行うことができる。このためプロセス環境に因むコンタミが生じない。即ち、RGBの3色を塗り分けるにあたり、各色を形成するごとに、保護層の除去工程と蒸着工程とを時間を置かずに繰り返すことができるので他の色によるプロセスコンタミを防ぐことができる。従って、装置を構成する素子の寿命を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の製造方法で製造される有機EL装置の具体例を示す断面模式図である。
【図2】電極付基板の作製工程において作製される電極付基板を示す断面模式図である。
【図3】保護層の作製工程の具体例を示す断面模式図である。
【図4】保護層の選択的除去工程の具体例を示す断面模式図である。
【図5】有機化合物層の形成工程の具体例を示す断面模式図である。
【図6】2色目の画素における保護層の選択的除去工程を示す断面模式図である。
【図7】2色目の画素における有機化合物層の形成工程を示す断面模式図である。
【図8】3色目の画素における保護層の選択的除去工程を示す断面模式図である。
【図9】3色目の画素における有機化合物層の形成工程を示す断面模式図である。
【図10】共通層の形成工程の具体例を示す断面模式図である。
【図11】本発明の有機EL装置の製造装置における第一の実施形態を示す模式図である。
【図12】本発明の有機EL装置の製造装置における第二の実施形態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の有機EL装置の製造方法は、下部電極と、上部電極と、前記下部電極と前記上部電極との間に配置される有機化合物層と、からなる有機EL素子を有する画素を複数備える有機EL装置の製造方法である。
【0015】
図1は、本発明の製造方法で製造される有機EL装置の具体例を示す断面模式図である。図1の有機EL装置1は、基板10上に3種類の画素(2a、2b、2c)がそれぞれ複数配置されている。そして各画素(2a、2b、2c)は、画素分離膜11によって区画されており、それぞれ有機EL素子20を有している。ここで図1中の有機EL素子20は、基板10上に、下部電極3、有機化合物層4及び上部電極を含む共通層5がこの順に積層してなる電子素子である。尚、図1中の有機化合物層4は、画素の種類ごとにその構成が異なっており、画素2aには有機化合物層4aが、画素2bには有機化合物層4bが、画素2cには有機化合物層4cが、それぞれ含まれている。
【0016】
ただし、本発明の製造方法によって製造される有機EL装置は、図1の態様に限定されるものではない。
【0017】
ここで本発明の製造方法は、少なくとも下記(A)乃至(C)に示される工程を有する。
(A)下部電極が設けられた基板上に保護層を形成する工程
(B)少なくとも一部の画素に対応する領域に開口部を有するマスクを前記保護層に密着させた状態で、この開口部に対応する領域に設けられている保護層を選択的に除去する工程
(C)保護層が除去された領域において、下部電極上に有機化合物層を形成する工程
【0018】
以下、図面を適宜参照しながら本発明の製造方法及び製造装置について説明する。尚、以下の説明において、特に図示又は記載されない部分に関しては、本発明に係る技術分野において周知又は公知の技術を適用することができる。また以下に説明する実施形態は、あくまでも本発明の実施形態の一つに過ぎず、本発明はこれらに限定されるものではない。また以下の説明において、本発明の趣旨とは関係がない部材については図示を省略することがある。
【0019】
まず本発明の製造方法について説明する。
【0020】
[電極付基板の作製工程]
図2は、電極付基板の作製工程において作製される電極付基板を示す断面模式図である。本発明においては、まず基板上に下部電極を形成する電極付基板の作製工程を行う。図2に示される電極付基板は、基板10上に下部電極21が形成されている。ここで図2にて図示されている下部電極21は、有機EL装置を構成する画素ごとに個別に設けられる薄膜状の電極である。本発明において、有機EL装置を構成する画素は複数存在するので、下部電極21は、各画素が設けられているにそれぞれ対応する領域において、基板10上に複数設けられている。
【0021】
図2に示される基板10として、例えば、ガラス基板、Si基板等を使用することができる。
【0022】
図2に示される下部電極21は、通常、有機EL素子のアノード電極として用いられるが、カソード電極であっても問題はない。一方、本発明の製造方法によりアクティブマトリクス型の有機EL装置を作成する場合、下部電極21として、画素選択に用いる薄膜トランジスタを構成するソース電極もしくはドレイン電極を絶縁膜(不図示)の表面へ延伸したものを採用することは可能である。
【0023】
図2に示される下部電極21の構成材料として、公知の電極材料を使用することが可能である。具体的には、Al、Ag等の金属材料からなる金属導電膜や、インジウム錫酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物等の透明導電性材料からなる透明導電膜が挙げられる。尚、上記金属導電膜と透明導電膜とを積層してなる積層電極膜を使用することもできる。
【0024】
また画素のパターンに対応した下部電極21の形成方法としては、特に制限はなく公知の方法を採用することができる。
【0025】
[保護層の形成工程]
図3は、保護層の作製工程の具体例を示す断面模式図である。本発明においては、上述した電極付基板の作製工程を行った後、その電極(下部電極21)上あるいは基板10上に保護層12を形成する保護層の形成工程を行う。本工程において形成される保護層12は、トリフェニルベンゼン等の比較的低温(90℃〜130℃)で昇華する材料からなる層である。この保護層12は、画素が形成される領域の全面にわたって形成される層であると共に、マスクと基板とが直接接触するのを防止するスペーサとしての役割も果たす。また保護層12は、後述する保護層の選択的除去工程を行った後においては、各画素を区画する画素分離膜11として機能する。
【0026】
また保護層12の形成方法としては、特に制限はなく公知の方法を採用することができる。
【0027】
[保護層の選択的除去工程]
図4は、保護層の選択的除去工程の具体例を示す断面模式図である。本発明においては、上述した保護層の形成工程を行った後、少なくとも一部の画素に対応する領域に設けられている保護層12を選択的に除去する保護層の選択的除去工程を行う。ここで本工程において保護層12を除去する方法として、例えば、エネルギー線の選択的な照射が挙げられる。
【0028】
以下、図4を参照しながら本工程の具体的な手順について説明する。まず特定の画素に対応する領域に開口31(31a、31b、31c)が設けられているマスク30aを保護層12と密着させる。このときマスク30は、保護層12にのみ接触し、リブ(不図示)等の基板10上に設けられている保護層12以外の部材とは直接接触することがない。
【0029】
次に、当該特定の画素に含まれる下部電極(21a、21b、21c)を、外部にある供給電源13と電気接続する。ここで図4にて図示されている供給電源13は、特定の下部電極(21a、21b、21c)を選択的に加熱するために利用される。つまり、供給電源13から電気を下部電極(21a、21b、21c)へ供給すると、当該下部電極(21a、21b、21c)が加熱される。ここで下部電極(21a、21b、21c)の電気加熱(下部電極のジュール加熱)は、保護層12のエネルギー線14との反応を促進するアシストとなる。これにより保護層12の加工部分(開口部)のエッジをシャープにすることが可能になる。尚、上述した下部電極の(選択的な)電気加熱に代えて基板全体を加熱してもよい。ここで基板全体を加熱する際には、局部的にエネルギー線を照射することで、下部電極のジュール加熱を行ったときと同じ効果を得ることができる。
【0030】
ただし本発明においては、保護層の選択的除去工程において、必ずしも下部電極21を加熱する必要はない。
【0031】
またマスク30と接触する保護層12としては、上述した低温昇華性であって導電率が低い材料、例えば、トリフェニルベンゼン等の比較的低温(90℃〜130℃)で昇華し導電性が低い材料が使用される。このため下部電極21のジュール加熱を行う際に、ショートの危険性がないばかりでなく、発光層の構成材料に対するコンタミの影響がない。従って、従来の方法と比べて基板上のリブが削れることによるデバイス欠陥の発生を抑えることができるので、有機EL装置を構成する有機EL素子の信頼性を向上させることが可能である。
【0032】
尚、本工程において使用される供給電源(加熱電源13)として、kHz〜MHz帯域の高周波電源を用いることが可能である。
【0033】
一方、本工程において使用されるエネルギー線として、波長が赤外領域である光を用いることができる。ここで赤外領域の光の光源として、例えば、ハロゲンランプヒータを用いることができる。このハロゲンランプヒータを用いる場合は、照射領域において、被照射物である保護層12を加熱する必要がある。このとき保護層12と比べてマスク30の熱容量が大きいため、マスクの開口31に対応する領域に設けられている保護層12のみが選択的に除去される。
【0034】
また別法として、レーザ光を用いたスキャニングがある。具体的には、マスクの開口31に対応する領域に設けられている保護層12のみを選択してレーザ光を照射する方法である。このレーザ光を用いたスキャニングを利用する際に使用されるレーザとしては、800nm〜2000nmの帯域に中心波長を持つレーザ光が好ましい。また使用されるレーザ光のパワー出力は、15W〜60Wであることが好ましい。
【0035】
[有機化合物層の形成工程]
図5は、有機化合物層の形成工程の具体例を示す断面模式図である。本発明においては、上述した保護層の選択的除去工程の後、この保護層の選択的除去工程によって保護層12が除去された電極(下部電極21a、21b、21c)上に、それぞれ有機化合物層22a、22b、22cを形成する。
【0036】
ここで本工程を行う際には、先の工程(保護層の選択的除去工程)で使用したマスク30をそのまま使用することができる。ところで、下部電極21a、21b、21c上に、それぞれ有機化合物層22a、22b、22cを形成する際には、図5に示されるように、マスク30aの下方に有機化合物層の構成材料が蒸着される。一方、マスク30aと保護層12とが密着していることから、有機化合物層の構成材料がマスクの開口31や保護層12が除去された部分以外の基板部分に入り込むことはないので、当該基板部分が有機化合物層の構成材料によって汚染されることはない。また開口31に対応する領域に設けられている保護層12を除去する際にマスク30aに加わる熱ストレスと、蒸着による有機化合物層の形成の際にマスク30aに加わる熱ストレスと、を同等のレベルにする。こうすることでパターン変形や色ずれを防止することが可能になる。
【0037】
本工程で形成される有機化合物層(22a、22b、22c)は、少なくとも発光層を有する単層あるいは複数層からなる積層体であり、この積層体の層構成は特に限定されるものではない。ここで発光層以外の層であって有機化合物層に含まれる層としては、ホール注入層、ホール輸送層、電子ブロック層、ホールブロック層、電子輸送層、電子注入層等が挙げられる。
【0038】
また有機化合物層の構成材料として、公知の電荷輸送材料(ホール注入・輸送材料、電子注入・輸送材料)及び発光材料を使用することができる。尚、後述する材料を複数組み合わせて層を形成してもよい。
【0039】
ホール注入層、ホール輸送層、電子ブロック層等の構成材料であるホール注入・輸送材料として、フタロシアニン誘導体、ポリフィリン誘導体、トリアリールアミン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ピラゾリン誘導体、オキサゾール誘導体、イミダゾール誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体及びポリ(ビニルカルバゾール)、ポリ(シリレン)、ポリ(チオフェン)、その他導電性高分子等を使用することができる。
【0040】
ホールブロック層、電子輸送層、電子注入層等の構成材料である電子注入・輸送材料として、チアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、ピラジン誘導体、トリアゾール誘導体、トリアジン誘導体、ペリレン誘導体、キノリン誘導体、キノキサリン誘導体、フルオレノン誘導体、アントロン誘導体、フェナントロリン誘導体、有機金属錯体等を使用することができる。
【0041】
発光層を構成する発光材料として、蛍光材料や燐光材料を使用することができる。例えば、アルミキノリノール錯体、ベリリウムキノリノール錯体、ヒドロキシフェニルオキサゾール、ヒドロキシフェニルチアゾール、アゾメチン金属錯体等を使用することができる。
【0042】
[有機化合物層の塗り分け]
以上の一連の工程を通して、一部あるいは全ての下部電極21上に有機化合物層22が形成される。ここで発光色が異なる等の性質が異なる複数種類の有機化合物層22を、特定の下部電極21上に塗り分けて形成する際には、その種類ごとに保護層の選択的除去工程と有機化合物層の形成工程と(の組み合わせ)を繰り返して実施することになる。
【0043】
ここで発光色が異なる三種類(R、G、B)の有機化合物層を形成する場合を具体例として有機化合物層の塗りわけについて説明する。係る場合、有機化合物層の塗り分け工程は、具体的には、以下のプロセスで行われる。
(i)1色目の画素の領域における保護層12の選択的除去工程(図4)
(ii)1色目の画素の領域における有機化合物層22の形成工程(図5)
(iii)2色目の画素の領域における保護層12の選択的除去工程(図6)
(iv)2色目の画素の領域における有機化合物層22の形成工程(図7)
(v)3色目の画素の領域における保護層12の選択的除去工程(図8)
(vi)3色目の画素の領域における有機化合物層22の形成工程(図9)
【0044】
上記プロセス(i)乃至(vi)について、以下に説明する。まず1色目の画素に含まれる有機化合物層を形成する際には、図4に示されるように、1色目の画素の領域に開口31を有するマスク30aを使用して、1色目の画素の領域に設けられている保護層12の選択的除去工程を行う。次に、図5に示されるように、1色目の画素に含まれる有機化合物層22(22a、22b、22c)を、下部電極21(21a、21b、21c)上に形成する。
【0045】
次に、2色目の画素に含まれる有機化合物層を形成する際には、図6に示されるように、2色目の画素の領域に開口32を有するマスク30bを使用して、2色目の画素の領域に設けられている保護層12の選択的除去工程を行う。次に、図7に示されるように、2色目の画素に含まれる有機化合物層22(22d、22e、22f)を、下部電極21(21d、21e、21f)上に形成する。
【0046】
次に、3色目の画素に含まれる有機化合物層を形成するため、図8に示されるように、3色目の画素の領域に開口33を有するマスク30cを使用して、3色目の画素の領域にも埋められている保護層の選択的除去工程を行う。次に、図9に示されるように、3色目の画素に含まれる有機化合物層22(22g、22h、22i)を、下部電極21(21g、21h、21i)上に形成する。
【0047】
以上の工程を経て、3色分に塗り分けられた有機化合物層22が形成される。尚、本発明において、有機化合物層の塗り分けは、上述した3色塗りわけの態様に限定されるものではない。他の塗り分けの態様(2色塗り分け、4色塗り分け等)の場合でも適用可能である。
【0048】
[共通層の形成工程]
図10は、共通層の形成工程の具体例を示す断面模式図である。上述した有機化合物層22の形成工程の後、この有機化合物層22上に、各画素において共通する共通層23を形成する。ここで共通層23とは、上部電極が含まれる単層あるいは複数の層からなる積層体である。また共通層23には、上部電極の他に電子注入層等の有機化合物層を含ませてもよい。ところで、基板10側にある下部電極21をアノードとした場合は、共通層23に含まれる上部電極をカソードとする。また共通層23に含まれる上部電極は、電極材料からなる薄膜を複数積層してなる積層電極としてもよい。
【0049】
[その他]
共通層23を形成した後、さらに一連の工程及び封止工程(不図示)を経ることにより、有機EL素子を備える有機EL装置が完成する。
【0050】
[製造装置]
次に、以上に説明した製造プロセスを実施するために使用される製造装置について、図面を参照しながら説明する。
【0051】
図11は、本発明の有機EL装置の製造装置における第一の実施形態を示す模式図である。ここで図11(a)は、製造装置の構成を示す模式図であり、図11(b)は、各室の並びに対応した基板とマスクとの接触状態を示す模式図である。尚、図11の製造装置40は、各室の間にはゲートバルブ(不図示)が設けられておりプロセス雰囲気がそれぞれ仕切られている。また図11の製造装置40は、別の室で予め保護層が形成された基板について、保護層の選択的除去工程と、有機化合物層の形成工程と、を実施して特定の1種類の画素において選択的に有機化合物層を形成する装置である。
【0052】
ここで図11の製造装置40は、基板投入室41、アライメント室42、保護層除去室43、有機化合物層形成室44、マスク回収室45及び基板回収室46を備えている。
【0053】
以下、図11の製造装置40にて行われる一連の操作の流れについて説明する。まず保護層(不図示)が設けられている基板10を基板投入室41に投入する。次に、基板10を進行方向47aに従って基板投入室41からアライメント室42へ移動させる。次に、アライメント室42において、マスク30及び基板10の両者のアライメントマークを合致させた後、マスク30と基板10とを一体化させる。次に、基板10を、一体化させたマスク30と共に、進行方向47bに従ってアライメント室42から保護層除去室43へ移動させる。次に、保護層除去室43において、所定の画素に対応する領域、即ち、マスク30の開口に対応する領域に設けられている保護層(不図示)を選択的に除去する。次に、基板10を、一体化させたマスク30と共に、進行方向47cに従って保護層除去室43から有機化合物層形成室44へ移動させる。次に、有機化合物層形成室44において、マスク30の開口に対応する領域(保護層が除去された領域)に、有機化合物層を蒸着・形成する。ここで有機化合物層形成室44において有機化合物層の蒸着・形成が完了すると、この有機化合物層形成室44内においてマスク30と基板10とが分離される。基板10と離されたマスク30は、進行方向47dに従ってマスク回収室45を通って再びアライメント室42に戻り、次に搬送される基板10と一体化される。一方、基板10は、進行方向47eに従って有機化合物層形成室44から基板回収室46へ移動される。
【0054】
ここで図11の製造装置40では、保護層除去室43と有機化合物層形成室44とが連接していることから、下部電極上であってマスク30の開口に対応する領域に設けられる保護層を除去した後、直ちに所望の有機化合物層の蒸着を行うことができる。このため、プロセス環境に因むコンタミが生じないという利点がある。また図11の製造装置40では、マスクと基板とのアライメントは1色分につき1回で済み、保護層を除去するときと有機化合物層の蒸着・形成のときに基板に加わる熱負荷は同等である。このため、基板の変形等の問題は生じないという利点もある。
【0055】
尚、図11の製造装置40は、保護層の形成のための装置としての応用が可能である。
【0056】
図12は、本発明の有機EL装置の製造装置における第二の実施形態を示す模式図である。図12の製造装置50は、本発明の製造方法における主要なプロセス、即ち、保護層の形成工程、保護層の選択的除去工程及び有機化合物層の形成工程を実施することができる装置である。尚、図12の製造装置50は、各室の間にはゲートバルブ(不図示)が設けられておりプロセス雰囲気がそれぞれ仕切られている。
【0057】
ここで図12の製造装置50は、基板投入室51、前処理室52、保護層形成室53、保護層除去室54、有機化合物層形成室55、共通層形成室56、スパッタ室57、封止処理室58及び基板回収室59を備えている。また図12の製造装置50は、基板搬送室を3室(第一基板搬送室61、第二基板搬送室62、第三基板搬送室63)有している。ここで第一基板搬送室61と第二基板搬送室62とは第一連結室64にて連結され、第二基板搬送室62と第三基板搬送室63とは第二連結室65にて連結されている。さらにまた図12の製造装置50は、保護層除去室54及び有機化合物層形成室55をそれぞれ3室有している。即ち、図12の製造装置50は、第一保護層除去室54a、第二保護層除去室54b、第三保護層除去室54c、第一有機化合物層形成室55a、第二有機化合物層形成室55b及び第三有機化合物層形成室55cを有している。
【0058】
以下、図12の製造装置50にて行われる一連の操作の流れについて説明する。
【0059】
まず下部電極(不図示)が予め設けられている基板(不図示)を基板投入室51へ投入する。次に、第一基板搬送室61内にある基板搬送ロボット(不図示)を利用して、基板投入室51にある基板10を前処理室52へ移動させる。次に、前処理室52にて、UV洗浄等による基板10の前処理が完了した後、第一基板搬送室61にある基板搬送ロボットを利用して、基板を保護層形成室53へ移動させる。次に、この保護層形成室53にて、基板(あるいは下部電極)上に、低温昇華性の材料を成膜して保護層を形成する。次に、第一基板搬送室61内にある基板搬送ロボットを利用して、基板を第一保護層除去室54aへ移動させる。次に、第一保護層除去室54aにて、所定の画素に対応する領域、即ち、青色画素領域に開口を有するマスクを介してこのマスクの開口に設けられている保護層を選択的に除去する。尚、第一保護層除去室54aは、マスクと基板との位置合わせを行うアライメント室も兼ねている。次に、第一基板搬送室61内にある基板搬送ロボットを利用して、青色画素領域に設けられている保護層が除去された基板を直ちに第一有機化合物層形成室55aへ移動させた後、第一有機化合物層形成室55aにて青色有機化合物層が形成される。
【0060】
次に、第一基板搬送室61内に備えられている基板搬送ロボット(不図示)及び第二基板搬送室62内にある基板搬送ロボット(不図示)を利用して、基板を、第一連結室64を経由して、第二保護層除去室54bに移動させる。次に、第二保護層除去室54bにて、所定の画素に対応する領域、即ち、緑色画素領域に開口を有するマスクを介して緑色画素領域に設けられている保護層を除去する。次に、第二基板搬送室62内にある基板搬送ロボットを利用して、緑色画素領域に設けられている保護層が除去された基板を直ちに第二有機化合物層形成室55bへ移動させた後、第二有機化合物層形成室55bにて緑色有機化合物層が形成される。
【0061】
次に、第二基板搬送室62内にある基板搬送ロボット(不図示)を利用して、基板を、第三保護層除去室54cへ移動させる。次に、第三保護層除去室54cにて、所定の画素に対応する領域、即ち、赤色画素領域に開口を有するマスクを介して赤色画素領域に設けられている保護層を除去する。次に、第二基板搬送室62内にある基板搬送ロボットを利用して、赤色画素領域に設けられている保護層が除去された基板を直ちに第三有機化合物層形成室55cへ移動させた後、第三有機化合物層形成室55cにて赤色有機化合物層が形成される。
【0062】
次に、第二基板搬送室62内にある基板搬送ロボット(不図示)及び第三基板搬送室63内にある基板搬送ロボット(不図示)を利用して、基板を、連結室62を経由して、共通層形成室56及びスパッタ室57へ順次搬送させる。そして両室内において共通層の構成材料を蒸着することで共通層が形成される。
【0063】
次に、第三基板搬送室63内にある基板搬送ロボット(不図示)を利用して、基板を、封止処理室58へ移動させた後、封止処理室58にて封止膜が形成される。尚、封止処理室58は、図12の製造装置50に示されるように2室(第一封止処理室58a、第二封止処理室58b)設けてもよい。
【0064】
最後に、第三基板搬送室63内にある基板搬送ロボット(不図示)を利用して、基板を、基板回収室59へ移動させた後、基板を装置外へ排出することにより一連の工程が完了する。
【0065】
ここで図12の製造装置50では、保護層除去室54を画素の種類ごとに3か所に分けて設けているが、1か所で兼用する構成にすることもできる。また保護層の除去から有機化合物層の蒸着・形成までの時間を短くする方がコンタミ発生のリスクが下がることから本発明の製造装置は、各製造プロセスを行うのに必要な装置が一通りそろっている一体型の装置であることが望ましい。一方、保護層形成室53に関しては、図11に示すように別の装置であっても構わない。
【実施例1】
【0066】
図2〜図10のプロセスに沿って、図1に示される3種類の画素(R、G、B)を有する有機EL装置を作製した。
【0067】
(1)電極付基板
全体寸法が365mm×465mm×0.6mmであって、サイズを約68.5mm×約46.0mm(3.2in)とするパネルが約30面レイアウトされたTFT付きアノード基板を作製した(図2)。そして作製したアノード基板を、電極付基板(以下、「基板10」ということがある。)として用いた。
【0068】
(2)保護層の作製工程
まず真空蒸着法により、図3に示される基板10上に、トリフェニルベンゼンを蒸着して、図3に示されるように保護層12を形成した。このとき保護層12の膜厚を200nmとし、蒸着時の真空度を1×10-4Paとし、成膜速度を0.2nm/secの条件とした。
【0069】
(3)保護層の選択的除去工程(青色画素)
次に、スーパーインバー製のフレーム上に厚さ50μmのスーパーインバーの箔を溶接した作製したマスクを使用して保護層12の選択的除去工程を行った。尚、使用したマスク30aは、上記パネルに含まれる青色画素が設けられる領域に対応する領域に開口31を有している。ここでマスク30aにおける各開口31のサイズは、青色画素のサイズに対応するものであり、具体的には、開口幅が90μm、長さが300μmである。
【0070】
次に、図4に示すように、波長1064nmのYAGレーザを、マスク30aの開口31に対応する領域に設けられている保護層11に向けて照射して、青色画素に対応する領域に設けられている保護層12を除去した。このとき使用されるYAGレーザの電力を20Wとした。
【0071】
(4)有機化合物層の形成工程(青色画素)
次に、Alq3(ホスト)と、ペリレン色素(1.0体積%、ゲスト)とを共蒸着(ホストとゲストとの重量比は、80:20)した。これにより、図5に示されるように、保護層12が除去されている下部電極21a、21b、21cに、それぞれ青色発光層(有機化合物層22a、22b、22c)を形成した。このとき青色発光層の膜厚を20nmとし、蒸着時の真空度を1×10-4Paとし、成膜速度を0.1nm/secの条件とした。
【0072】
(5)保護層の選択的除去工程(緑色画素)
次に、マスク30aと同じ材質であって上記パネルに含まれる緑色画素が設けられる領域に対応する領域に開口32を有しているマスク30bを使用して保護層12の選択的除去工程を行った。
【0073】
具体的には、図6に示すように、波長1064nmのYAGレーザを、マスク30bの開口32に対応する領域に設けられている保護層12に向けて照射して、緑色画素に対応する領域に設けられている保護層12を除去した。このとき使用されるYAGレーザの電力を20Wとした。
【0074】
(6)有機化合物層の形成工程(緑色画素)
次に、Alq3(ホスト)と、クマリン6(ゲスト)とを共蒸着(ホストとゲストとの重量比は、99:1)した。これにより、図7に示されるように、保護層12が除去されている下部電極21d、21e、21fに、それぞれ緑色発光層(有機化合物層22d、22e、22f)を形成した。このとき緑色発光層の膜厚を30nmとし、蒸着時の真空度を1×10-4Paとし、成膜速度を0.1nm/secの条件とした。
【0075】
(7)保護層の選択的除去工程(赤色画素)
次に、マスク30aと同じ材質であって上記パネルに含まれる赤色画素が設けられる領域に対応する領域に開口を有しているマスク30cを使用して保護層12の選択的除去工程を行った。
【0076】
具体的には、図8に示すように、波長1064nmのYAGレーザを、マスク30cの開口33に対応する領域に設けられている保護層12に向けて照射して、赤色画素に対応する領域に設けられている保護層12を除去した。このとき使用されるYAGレーザの電力を20Wとした。
【0077】
(8)有機化合物層の形成工程(赤色画素)
次に、下記に示されるホストとゲストとを、ホストとゲストとの重量比が99:1になるように共蒸着した。
ホスト:Alq3
ゲスト:発光性化合物DCM[4−(dicyanomethylene)−2−methyl−6(p−dimethylaminostyryl)−4H−pyran]
【0078】
これにより、図9に示されるように、保護層12が除去されている下部電極21g、21h、21iに、それぞれ赤色発光層(有機化合物層22g、22h、22i)を形成した。このとき赤色発光層の膜厚を40nmとし、蒸着時の真空度を13×10-4Paとし、成膜速度を0.2nm/secの条件とした。
【0079】
(9)共通層の形成工程等
次に、図10に示されるように共通層23を形成した。尚、本実施例において、共通層23とは、電子注入層と上部電極とからなる積層体である。
【0080】
まずBphenとCs2CO3とを共蒸着(重量比90:10)して電子注入層を形成した。このとき電子注入層の膜厚を20nmとし、蒸着時の真空度を3×10-4Paとし、成膜速度を0.2nm/secの条件とした。
【0081】
次に、電子注入層まで成膜した基板を、真空を破ること無しにスパッタ装置に移動し、パネル全体に開口を有するマスクを用いて、スパッタ法によりITOを成膜して透明電極(上部電極)を形成した。このとき透明電極の膜厚は40nmとした。
【0082】
最後に、スパッタ法により、窒化酸化シリコンを成膜して封止膜を形成した。このとき封止膜の膜厚を1200nmとした。以上により、有機EL装置を得た。
【0083】
作製した有機EL装置を、以下の3項目で評価した。評価結果を表1に示す。
【0084】
(評価実験1)封止膜上のキズ
非点灯状態の有機EL装置について、光学顕微鏡を用いて封止膜表面を観察して、封止膜上のキズの有無の評価を行った。尚、この実験は3枚のパネルに対して実施し、観察の際、光学顕微鏡の観察倍率を200倍とした。そして、下記に示される指標に基づいて封止膜上のキズの有無の評価を行った。
A:すべての封止膜全面でキズが観察されない。
B:封止膜へのキズが10ケ未満観察される。
C:封止膜へのキズが10ケ以上観察される。
【0085】
(評価実験2)発光特性
作製した有機EL装置について駆動電圧を印加した。そして装置駆動時における発光部の発光状態に関し目視観察を行った。そして、下記に示される指標に基づいて発光特性を判断した。
A:すべての発光部全面で良好な発光を示す。
B:局部的な非発光部が観察される。
C:発光しない発光部が観察される。
【0086】
(評価実験3)寿命評価
評価用に指定した有機EL装置について、直流電流(20mA/cm2)を100時間印加したときの寿命を測定した。ここで評価に当たっては、L100/Liniにて算出される相対輝度を使用した。ここで、L100は、印加を開始してから100時間経過後の発光輝度であり、Liniは、印加を開始してから2分経過後の発光輝度である。そして、下記に示される指標に基づいて寿命の評価を行った。
A:L100/Lini≧0.95
B:0.85≦L100/Lini<0.95
C:L100/Lini<0.85
【0087】
本実施例で作製した有機EL装置は、マスクが基板側に傷をつけることがないため、表1より、封止膜に欠陥がなく信頼性が高いことがわかった。また、プロセスコンタミが少なく寿命や歩留まりに優れることがわかった。
【実施例2】
【0088】
実施例1において、保護層の選択的除去工程を行う際に、使用したエネルギー線の線源として、1μm付近に中心波長を持つハロゲンランプ(ランプ出力:300W、真空度:3×10-4Pa)を使用した。これを除いては、実施例1と同様の方法により有機EL装置を作製した。
【0089】
作製した装置について、実施例1と同じ評価を実施した。結果を表1に示す。
【0090】
本実施例で作製した有機EL装置は、マスクが基板側に傷をつけることがないため、表1より、封止膜に欠陥がなく信頼性が高いことがわかった。また、プロセスコンタミが少なく寿命や歩留まりに優れることがわかった。
【実施例3】
【0091】
実施例1において、保護層の選択的除去工程を行う際に、加熱電源13によって対象となる電極を加熱(ジュール加熱)しながらYAGレーザの照射を行った。これを除いては、実施例1と同様の方法により有機EL装置を作製した。尚、電極を加熱する際に、加熱電源13の出力を1kHz、400Wとし、真空度を3×10-4Paとした。
【0092】
作製した装置について、実施例1と同じ評価を実施した。結果を表1に示す。
【0093】
本実施例で作製した有機EL装置は、マスクが基板側に傷をつけることがないため、表1より、封止膜に欠陥がなく信頼性が高いことがわかった。また、プロセスコンタミが少なく寿命や歩留まりに優れることがわかった。また本実施例では、実施例1と比べて、YAGレーザの出力を小さくしても保護層の除去が可能であることがわかった。
【0094】
[比較例1]
実施例3において、保護層の選択的除去を行う際に、YAGレーザを使用しなかった。これを除いては、実施例3と同様の方法により有機EL装置を作製した。尚、電極を加熱する際に、加熱電源13の出力を1kHz、400Wとし、真空度を3×10-4Paとした。
【0095】
作製した装置について、実施例1と同じ評価を実施した。結果を表1に示す。
【0096】
完成した表示装置は、マスクが基板側に傷をつけることがないメリットはあるものの、保護膜の除去に時間を要した。その影響か発光特性も悪化し素子寿命が短くなることが明らかになった。
【0097】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明の製造方法は、マスク蒸着による薄膜パターンの形成時に利用される方法である。中でも有機EL素子の製造工程の一部である有機材料の蒸着工程において、精度の良いパターン形状を得るのと同時に、基板とマスク箔のこすれによる異物の発生や、基板上の異物による発光素子の黒点や明点等の異常発生を防止するのに用いられる。
【符号の説明】
【0099】
1:有機EL装置、2a(2b、2c):画素、3(21(21a、21b、21c、21d、21e、21f、21g、21h、21i)):下部電極、4(22(22a、22b、22c、22d、22e、22f、22g、22h、22i)):有機化合物層、10:基板、11:画素分離膜、12:保護層、13:加熱電源、14:エネルギー線、23:共通層、30(30a、30b、30c):マスク、31(32、33):(マスクの)開口、40(50):製造装置、41(51):基板投入室、42:アライメント室、43(54(54a、54b、54c)):保護層除去室、44(55(55a、55b、55c)):有機化合物層形成室、45:マスク回収室、46(59):基板取出室、47a(47b、47c、47d、47e):進行方向、52:前処理室、53:保護層形成室、56:共通層形成室、57:スパッタ室、58(58a、58b):封止処理室、61(62、63):基板搬送室、64(65):連結室
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL装置の製造方法及びその製造方法で使用される製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子を備える表示デバイスを作製する際に、この表示デバイスの構成部材を形成する方法としてマスク蒸着を利用した有機材料等の薄膜パターン形成方法が知られている。この方法は、マスクの開口部を通過した蒸着物質が基板に到達することにより、所定のパターン形状を有する薄膜の形成を行うものである。またこの方法は、リソグラフィ技術を用いずに有機材料等の薄膜のパターンを形成することが可能となることから広く用いられている方法である。
【0003】
ただし薄膜のパターン形成の際にマスク蒸着を利用する場合には、マスクを基板と密着させた状態で蒸着を行うため、基板もしくはマスクの表面に異物が存在する場合には、その異物によって黒点や明点等の表示デバイス上の欠陥を引き起こす可能性がある。また、異物が存在しなくてもマスクが基板と接触することにより、基板上で成膜された蒸着膜及びリブ等に傷が発生し、その傷が黒点や明点等の欠陥を発生させる原因になると共に歩留まりを低下させる原因にもなる。さらに、封止膜による封止を行う場合、上述した異物や傷が封止膜の割れ等の欠陥原因となり有機EL素子の信頼性を低下させることがある。
【0004】
このような問題に対して、特許文献1では、端部カバー絶縁層と上層絶縁層とからなる2段リブを形成する態様が提案されている。つまり、この2段リブによって有機EL素子を構成する有機化合物層とマスクとが接触することによって生じる有機化合物層の損傷やダストの発生を防止する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−54603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし特許文献1にて提案されている方法では、2段リブを形成する際に利用するフォトリソ工程に対するコストと、2段リブとマスクとのギャップによる着膜ボケの発生を抑制することに起因する開口率の低下が問題となっていた。さらに、複数色(例えば、3色)の有機EL素子を塗り分け蒸着によって形成する際には、色の種類の分だけマスクを基板に接触させる必要がある(3色ならば、3回接触させる必要がある)。このため、マスクと基板とが接触する際にマスクの表面に膜が堆積していると、その膜の一部が他の色を蒸着する電極の表面や共通層の表面へ付着することがあり、これによってプロセスコンタミが生じるという課題があった。
【0007】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、その目的は、歩留まりや信頼性の低下を防止すると共に構成部材である有機EL素子の性能を向上させるための有機EL装置の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の有機EL装置の製造方法は、下部電極と、上部電極と、前記下部電極と前記上部電極との間に配置される有機化合物層と、からなる有機EL素子を有する画素を複数備える有機EL装置の製造方法において、
前記下部電極が設けられた基板上に保護層を形成する工程と、
少なくとも一部の画素に対応する領域に開口部を有するマスクを前記保護層に密着させた状態で、前記開口部に対応する領域に設けられている保護層を選択的に除去する工程と、
前記保護層が除去された領域において、前記下部電極上に有機化合物層を形成する工程と、
を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、歩留まりや信頼性の低下を防止すると共に構成部材である有機EL素子の性能を向上させるための有機EL装置の製造方法を提供することができる。
【0010】
即ち、本発明の有機EL装置の製造方法では、電極が形成された基板上に保護層が形成され、この保護層とマスクとが接触することにより、基板とマスクとの接触を回避することができる。従って、基板とマスクとの接触によって生じる基板上に設けられている蒸着膜及びリブ等への傷の発生を防ぐことができるので、歩留まりや信頼性を向上させることができる。さらに、基板側に2段リブを形成する必要がないことからフォトリソ工程を簡略化することができるので基板のコストを下げることが出来る。
【0011】
また、保護層上にマスクを密着させることで蒸着が可能となることから、開口率を狭める原因となる着膜ボケを心配する必要がない。このため設計上の自由度が上がる。
【0012】
さらに本発明の製造方法によれば、マスクの開口部に対応する電極上の保護層を除去した後、直ちに所望の有機化合物層の蒸着を行うことができる。このためプロセス環境に因むコンタミが生じない。即ち、RGBの3色を塗り分けるにあたり、各色を形成するごとに、保護層の除去工程と蒸着工程とを時間を置かずに繰り返すことができるので他の色によるプロセスコンタミを防ぐことができる。従って、装置を構成する素子の寿命を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の製造方法で製造される有機EL装置の具体例を示す断面模式図である。
【図2】電極付基板の作製工程において作製される電極付基板を示す断面模式図である。
【図3】保護層の作製工程の具体例を示す断面模式図である。
【図4】保護層の選択的除去工程の具体例を示す断面模式図である。
【図5】有機化合物層の形成工程の具体例を示す断面模式図である。
【図6】2色目の画素における保護層の選択的除去工程を示す断面模式図である。
【図7】2色目の画素における有機化合物層の形成工程を示す断面模式図である。
【図8】3色目の画素における保護層の選択的除去工程を示す断面模式図である。
【図9】3色目の画素における有機化合物層の形成工程を示す断面模式図である。
【図10】共通層の形成工程の具体例を示す断面模式図である。
【図11】本発明の有機EL装置の製造装置における第一の実施形態を示す模式図である。
【図12】本発明の有機EL装置の製造装置における第二の実施形態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の有機EL装置の製造方法は、下部電極と、上部電極と、前記下部電極と前記上部電極との間に配置される有機化合物層と、からなる有機EL素子を有する画素を複数備える有機EL装置の製造方法である。
【0015】
図1は、本発明の製造方法で製造される有機EL装置の具体例を示す断面模式図である。図1の有機EL装置1は、基板10上に3種類の画素(2a、2b、2c)がそれぞれ複数配置されている。そして各画素(2a、2b、2c)は、画素分離膜11によって区画されており、それぞれ有機EL素子20を有している。ここで図1中の有機EL素子20は、基板10上に、下部電極3、有機化合物層4及び上部電極を含む共通層5がこの順に積層してなる電子素子である。尚、図1中の有機化合物層4は、画素の種類ごとにその構成が異なっており、画素2aには有機化合物層4aが、画素2bには有機化合物層4bが、画素2cには有機化合物層4cが、それぞれ含まれている。
【0016】
ただし、本発明の製造方法によって製造される有機EL装置は、図1の態様に限定されるものではない。
【0017】
ここで本発明の製造方法は、少なくとも下記(A)乃至(C)に示される工程を有する。
(A)下部電極が設けられた基板上に保護層を形成する工程
(B)少なくとも一部の画素に対応する領域に開口部を有するマスクを前記保護層に密着させた状態で、この開口部に対応する領域に設けられている保護層を選択的に除去する工程
(C)保護層が除去された領域において、下部電極上に有機化合物層を形成する工程
【0018】
以下、図面を適宜参照しながら本発明の製造方法及び製造装置について説明する。尚、以下の説明において、特に図示又は記載されない部分に関しては、本発明に係る技術分野において周知又は公知の技術を適用することができる。また以下に説明する実施形態は、あくまでも本発明の実施形態の一つに過ぎず、本発明はこれらに限定されるものではない。また以下の説明において、本発明の趣旨とは関係がない部材については図示を省略することがある。
【0019】
まず本発明の製造方法について説明する。
【0020】
[電極付基板の作製工程]
図2は、電極付基板の作製工程において作製される電極付基板を示す断面模式図である。本発明においては、まず基板上に下部電極を形成する電極付基板の作製工程を行う。図2に示される電極付基板は、基板10上に下部電極21が形成されている。ここで図2にて図示されている下部電極21は、有機EL装置を構成する画素ごとに個別に設けられる薄膜状の電極である。本発明において、有機EL装置を構成する画素は複数存在するので、下部電極21は、各画素が設けられているにそれぞれ対応する領域において、基板10上に複数設けられている。
【0021】
図2に示される基板10として、例えば、ガラス基板、Si基板等を使用することができる。
【0022】
図2に示される下部電極21は、通常、有機EL素子のアノード電極として用いられるが、カソード電極であっても問題はない。一方、本発明の製造方法によりアクティブマトリクス型の有機EL装置を作成する場合、下部電極21として、画素選択に用いる薄膜トランジスタを構成するソース電極もしくはドレイン電極を絶縁膜(不図示)の表面へ延伸したものを採用することは可能である。
【0023】
図2に示される下部電極21の構成材料として、公知の電極材料を使用することが可能である。具体的には、Al、Ag等の金属材料からなる金属導電膜や、インジウム錫酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物等の透明導電性材料からなる透明導電膜が挙げられる。尚、上記金属導電膜と透明導電膜とを積層してなる積層電極膜を使用することもできる。
【0024】
また画素のパターンに対応した下部電極21の形成方法としては、特に制限はなく公知の方法を採用することができる。
【0025】
[保護層の形成工程]
図3は、保護層の作製工程の具体例を示す断面模式図である。本発明においては、上述した電極付基板の作製工程を行った後、その電極(下部電極21)上あるいは基板10上に保護層12を形成する保護層の形成工程を行う。本工程において形成される保護層12は、トリフェニルベンゼン等の比較的低温(90℃〜130℃)で昇華する材料からなる層である。この保護層12は、画素が形成される領域の全面にわたって形成される層であると共に、マスクと基板とが直接接触するのを防止するスペーサとしての役割も果たす。また保護層12は、後述する保護層の選択的除去工程を行った後においては、各画素を区画する画素分離膜11として機能する。
【0026】
また保護層12の形成方法としては、特に制限はなく公知の方法を採用することができる。
【0027】
[保護層の選択的除去工程]
図4は、保護層の選択的除去工程の具体例を示す断面模式図である。本発明においては、上述した保護層の形成工程を行った後、少なくとも一部の画素に対応する領域に設けられている保護層12を選択的に除去する保護層の選択的除去工程を行う。ここで本工程において保護層12を除去する方法として、例えば、エネルギー線の選択的な照射が挙げられる。
【0028】
以下、図4を参照しながら本工程の具体的な手順について説明する。まず特定の画素に対応する領域に開口31(31a、31b、31c)が設けられているマスク30aを保護層12と密着させる。このときマスク30は、保護層12にのみ接触し、リブ(不図示)等の基板10上に設けられている保護層12以外の部材とは直接接触することがない。
【0029】
次に、当該特定の画素に含まれる下部電極(21a、21b、21c)を、外部にある供給電源13と電気接続する。ここで図4にて図示されている供給電源13は、特定の下部電極(21a、21b、21c)を選択的に加熱するために利用される。つまり、供給電源13から電気を下部電極(21a、21b、21c)へ供給すると、当該下部電極(21a、21b、21c)が加熱される。ここで下部電極(21a、21b、21c)の電気加熱(下部電極のジュール加熱)は、保護層12のエネルギー線14との反応を促進するアシストとなる。これにより保護層12の加工部分(開口部)のエッジをシャープにすることが可能になる。尚、上述した下部電極の(選択的な)電気加熱に代えて基板全体を加熱してもよい。ここで基板全体を加熱する際には、局部的にエネルギー線を照射することで、下部電極のジュール加熱を行ったときと同じ効果を得ることができる。
【0030】
ただし本発明においては、保護層の選択的除去工程において、必ずしも下部電極21を加熱する必要はない。
【0031】
またマスク30と接触する保護層12としては、上述した低温昇華性であって導電率が低い材料、例えば、トリフェニルベンゼン等の比較的低温(90℃〜130℃)で昇華し導電性が低い材料が使用される。このため下部電極21のジュール加熱を行う際に、ショートの危険性がないばかりでなく、発光層の構成材料に対するコンタミの影響がない。従って、従来の方法と比べて基板上のリブが削れることによるデバイス欠陥の発生を抑えることができるので、有機EL装置を構成する有機EL素子の信頼性を向上させることが可能である。
【0032】
尚、本工程において使用される供給電源(加熱電源13)として、kHz〜MHz帯域の高周波電源を用いることが可能である。
【0033】
一方、本工程において使用されるエネルギー線として、波長が赤外領域である光を用いることができる。ここで赤外領域の光の光源として、例えば、ハロゲンランプヒータを用いることができる。このハロゲンランプヒータを用いる場合は、照射領域において、被照射物である保護層12を加熱する必要がある。このとき保護層12と比べてマスク30の熱容量が大きいため、マスクの開口31に対応する領域に設けられている保護層12のみが選択的に除去される。
【0034】
また別法として、レーザ光を用いたスキャニングがある。具体的には、マスクの開口31に対応する領域に設けられている保護層12のみを選択してレーザ光を照射する方法である。このレーザ光を用いたスキャニングを利用する際に使用されるレーザとしては、800nm〜2000nmの帯域に中心波長を持つレーザ光が好ましい。また使用されるレーザ光のパワー出力は、15W〜60Wであることが好ましい。
【0035】
[有機化合物層の形成工程]
図5は、有機化合物層の形成工程の具体例を示す断面模式図である。本発明においては、上述した保護層の選択的除去工程の後、この保護層の選択的除去工程によって保護層12が除去された電極(下部電極21a、21b、21c)上に、それぞれ有機化合物層22a、22b、22cを形成する。
【0036】
ここで本工程を行う際には、先の工程(保護層の選択的除去工程)で使用したマスク30をそのまま使用することができる。ところで、下部電極21a、21b、21c上に、それぞれ有機化合物層22a、22b、22cを形成する際には、図5に示されるように、マスク30aの下方に有機化合物層の構成材料が蒸着される。一方、マスク30aと保護層12とが密着していることから、有機化合物層の構成材料がマスクの開口31や保護層12が除去された部分以外の基板部分に入り込むことはないので、当該基板部分が有機化合物層の構成材料によって汚染されることはない。また開口31に対応する領域に設けられている保護層12を除去する際にマスク30aに加わる熱ストレスと、蒸着による有機化合物層の形成の際にマスク30aに加わる熱ストレスと、を同等のレベルにする。こうすることでパターン変形や色ずれを防止することが可能になる。
【0037】
本工程で形成される有機化合物層(22a、22b、22c)は、少なくとも発光層を有する単層あるいは複数層からなる積層体であり、この積層体の層構成は特に限定されるものではない。ここで発光層以外の層であって有機化合物層に含まれる層としては、ホール注入層、ホール輸送層、電子ブロック層、ホールブロック層、電子輸送層、電子注入層等が挙げられる。
【0038】
また有機化合物層の構成材料として、公知の電荷輸送材料(ホール注入・輸送材料、電子注入・輸送材料)及び発光材料を使用することができる。尚、後述する材料を複数組み合わせて層を形成してもよい。
【0039】
ホール注入層、ホール輸送層、電子ブロック層等の構成材料であるホール注入・輸送材料として、フタロシアニン誘導体、ポリフィリン誘導体、トリアリールアミン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ピラゾリン誘導体、オキサゾール誘導体、イミダゾール誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体及びポリ(ビニルカルバゾール)、ポリ(シリレン)、ポリ(チオフェン)、その他導電性高分子等を使用することができる。
【0040】
ホールブロック層、電子輸送層、電子注入層等の構成材料である電子注入・輸送材料として、チアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、ピラジン誘導体、トリアゾール誘導体、トリアジン誘導体、ペリレン誘導体、キノリン誘導体、キノキサリン誘導体、フルオレノン誘導体、アントロン誘導体、フェナントロリン誘導体、有機金属錯体等を使用することができる。
【0041】
発光層を構成する発光材料として、蛍光材料や燐光材料を使用することができる。例えば、アルミキノリノール錯体、ベリリウムキノリノール錯体、ヒドロキシフェニルオキサゾール、ヒドロキシフェニルチアゾール、アゾメチン金属錯体等を使用することができる。
【0042】
[有機化合物層の塗り分け]
以上の一連の工程を通して、一部あるいは全ての下部電極21上に有機化合物層22が形成される。ここで発光色が異なる等の性質が異なる複数種類の有機化合物層22を、特定の下部電極21上に塗り分けて形成する際には、その種類ごとに保護層の選択的除去工程と有機化合物層の形成工程と(の組み合わせ)を繰り返して実施することになる。
【0043】
ここで発光色が異なる三種類(R、G、B)の有機化合物層を形成する場合を具体例として有機化合物層の塗りわけについて説明する。係る場合、有機化合物層の塗り分け工程は、具体的には、以下のプロセスで行われる。
(i)1色目の画素の領域における保護層12の選択的除去工程(図4)
(ii)1色目の画素の領域における有機化合物層22の形成工程(図5)
(iii)2色目の画素の領域における保護層12の選択的除去工程(図6)
(iv)2色目の画素の領域における有機化合物層22の形成工程(図7)
(v)3色目の画素の領域における保護層12の選択的除去工程(図8)
(vi)3色目の画素の領域における有機化合物層22の形成工程(図9)
【0044】
上記プロセス(i)乃至(vi)について、以下に説明する。まず1色目の画素に含まれる有機化合物層を形成する際には、図4に示されるように、1色目の画素の領域に開口31を有するマスク30aを使用して、1色目の画素の領域に設けられている保護層12の選択的除去工程を行う。次に、図5に示されるように、1色目の画素に含まれる有機化合物層22(22a、22b、22c)を、下部電極21(21a、21b、21c)上に形成する。
【0045】
次に、2色目の画素に含まれる有機化合物層を形成する際には、図6に示されるように、2色目の画素の領域に開口32を有するマスク30bを使用して、2色目の画素の領域に設けられている保護層12の選択的除去工程を行う。次に、図7に示されるように、2色目の画素に含まれる有機化合物層22(22d、22e、22f)を、下部電極21(21d、21e、21f)上に形成する。
【0046】
次に、3色目の画素に含まれる有機化合物層を形成するため、図8に示されるように、3色目の画素の領域に開口33を有するマスク30cを使用して、3色目の画素の領域にも埋められている保護層の選択的除去工程を行う。次に、図9に示されるように、3色目の画素に含まれる有機化合物層22(22g、22h、22i)を、下部電極21(21g、21h、21i)上に形成する。
【0047】
以上の工程を経て、3色分に塗り分けられた有機化合物層22が形成される。尚、本発明において、有機化合物層の塗り分けは、上述した3色塗りわけの態様に限定されるものではない。他の塗り分けの態様(2色塗り分け、4色塗り分け等)の場合でも適用可能である。
【0048】
[共通層の形成工程]
図10は、共通層の形成工程の具体例を示す断面模式図である。上述した有機化合物層22の形成工程の後、この有機化合物層22上に、各画素において共通する共通層23を形成する。ここで共通層23とは、上部電極が含まれる単層あるいは複数の層からなる積層体である。また共通層23には、上部電極の他に電子注入層等の有機化合物層を含ませてもよい。ところで、基板10側にある下部電極21をアノードとした場合は、共通層23に含まれる上部電極をカソードとする。また共通層23に含まれる上部電極は、電極材料からなる薄膜を複数積層してなる積層電極としてもよい。
【0049】
[その他]
共通層23を形成した後、さらに一連の工程及び封止工程(不図示)を経ることにより、有機EL素子を備える有機EL装置が完成する。
【0050】
[製造装置]
次に、以上に説明した製造プロセスを実施するために使用される製造装置について、図面を参照しながら説明する。
【0051】
図11は、本発明の有機EL装置の製造装置における第一の実施形態を示す模式図である。ここで図11(a)は、製造装置の構成を示す模式図であり、図11(b)は、各室の並びに対応した基板とマスクとの接触状態を示す模式図である。尚、図11の製造装置40は、各室の間にはゲートバルブ(不図示)が設けられておりプロセス雰囲気がそれぞれ仕切られている。また図11の製造装置40は、別の室で予め保護層が形成された基板について、保護層の選択的除去工程と、有機化合物層の形成工程と、を実施して特定の1種類の画素において選択的に有機化合物層を形成する装置である。
【0052】
ここで図11の製造装置40は、基板投入室41、アライメント室42、保護層除去室43、有機化合物層形成室44、マスク回収室45及び基板回収室46を備えている。
【0053】
以下、図11の製造装置40にて行われる一連の操作の流れについて説明する。まず保護層(不図示)が設けられている基板10を基板投入室41に投入する。次に、基板10を進行方向47aに従って基板投入室41からアライメント室42へ移動させる。次に、アライメント室42において、マスク30及び基板10の両者のアライメントマークを合致させた後、マスク30と基板10とを一体化させる。次に、基板10を、一体化させたマスク30と共に、進行方向47bに従ってアライメント室42から保護層除去室43へ移動させる。次に、保護層除去室43において、所定の画素に対応する領域、即ち、マスク30の開口に対応する領域に設けられている保護層(不図示)を選択的に除去する。次に、基板10を、一体化させたマスク30と共に、進行方向47cに従って保護層除去室43から有機化合物層形成室44へ移動させる。次に、有機化合物層形成室44において、マスク30の開口に対応する領域(保護層が除去された領域)に、有機化合物層を蒸着・形成する。ここで有機化合物層形成室44において有機化合物層の蒸着・形成が完了すると、この有機化合物層形成室44内においてマスク30と基板10とが分離される。基板10と離されたマスク30は、進行方向47dに従ってマスク回収室45を通って再びアライメント室42に戻り、次に搬送される基板10と一体化される。一方、基板10は、進行方向47eに従って有機化合物層形成室44から基板回収室46へ移動される。
【0054】
ここで図11の製造装置40では、保護層除去室43と有機化合物層形成室44とが連接していることから、下部電極上であってマスク30の開口に対応する領域に設けられる保護層を除去した後、直ちに所望の有機化合物層の蒸着を行うことができる。このため、プロセス環境に因むコンタミが生じないという利点がある。また図11の製造装置40では、マスクと基板とのアライメントは1色分につき1回で済み、保護層を除去するときと有機化合物層の蒸着・形成のときに基板に加わる熱負荷は同等である。このため、基板の変形等の問題は生じないという利点もある。
【0055】
尚、図11の製造装置40は、保護層の形成のための装置としての応用が可能である。
【0056】
図12は、本発明の有機EL装置の製造装置における第二の実施形態を示す模式図である。図12の製造装置50は、本発明の製造方法における主要なプロセス、即ち、保護層の形成工程、保護層の選択的除去工程及び有機化合物層の形成工程を実施することができる装置である。尚、図12の製造装置50は、各室の間にはゲートバルブ(不図示)が設けられておりプロセス雰囲気がそれぞれ仕切られている。
【0057】
ここで図12の製造装置50は、基板投入室51、前処理室52、保護層形成室53、保護層除去室54、有機化合物層形成室55、共通層形成室56、スパッタ室57、封止処理室58及び基板回収室59を備えている。また図12の製造装置50は、基板搬送室を3室(第一基板搬送室61、第二基板搬送室62、第三基板搬送室63)有している。ここで第一基板搬送室61と第二基板搬送室62とは第一連結室64にて連結され、第二基板搬送室62と第三基板搬送室63とは第二連結室65にて連結されている。さらにまた図12の製造装置50は、保護層除去室54及び有機化合物層形成室55をそれぞれ3室有している。即ち、図12の製造装置50は、第一保護層除去室54a、第二保護層除去室54b、第三保護層除去室54c、第一有機化合物層形成室55a、第二有機化合物層形成室55b及び第三有機化合物層形成室55cを有している。
【0058】
以下、図12の製造装置50にて行われる一連の操作の流れについて説明する。
【0059】
まず下部電極(不図示)が予め設けられている基板(不図示)を基板投入室51へ投入する。次に、第一基板搬送室61内にある基板搬送ロボット(不図示)を利用して、基板投入室51にある基板10を前処理室52へ移動させる。次に、前処理室52にて、UV洗浄等による基板10の前処理が完了した後、第一基板搬送室61にある基板搬送ロボットを利用して、基板を保護層形成室53へ移動させる。次に、この保護層形成室53にて、基板(あるいは下部電極)上に、低温昇華性の材料を成膜して保護層を形成する。次に、第一基板搬送室61内にある基板搬送ロボットを利用して、基板を第一保護層除去室54aへ移動させる。次に、第一保護層除去室54aにて、所定の画素に対応する領域、即ち、青色画素領域に開口を有するマスクを介してこのマスクの開口に設けられている保護層を選択的に除去する。尚、第一保護層除去室54aは、マスクと基板との位置合わせを行うアライメント室も兼ねている。次に、第一基板搬送室61内にある基板搬送ロボットを利用して、青色画素領域に設けられている保護層が除去された基板を直ちに第一有機化合物層形成室55aへ移動させた後、第一有機化合物層形成室55aにて青色有機化合物層が形成される。
【0060】
次に、第一基板搬送室61内に備えられている基板搬送ロボット(不図示)及び第二基板搬送室62内にある基板搬送ロボット(不図示)を利用して、基板を、第一連結室64を経由して、第二保護層除去室54bに移動させる。次に、第二保護層除去室54bにて、所定の画素に対応する領域、即ち、緑色画素領域に開口を有するマスクを介して緑色画素領域に設けられている保護層を除去する。次に、第二基板搬送室62内にある基板搬送ロボットを利用して、緑色画素領域に設けられている保護層が除去された基板を直ちに第二有機化合物層形成室55bへ移動させた後、第二有機化合物層形成室55bにて緑色有機化合物層が形成される。
【0061】
次に、第二基板搬送室62内にある基板搬送ロボット(不図示)を利用して、基板を、第三保護層除去室54cへ移動させる。次に、第三保護層除去室54cにて、所定の画素に対応する領域、即ち、赤色画素領域に開口を有するマスクを介して赤色画素領域に設けられている保護層を除去する。次に、第二基板搬送室62内にある基板搬送ロボットを利用して、赤色画素領域に設けられている保護層が除去された基板を直ちに第三有機化合物層形成室55cへ移動させた後、第三有機化合物層形成室55cにて赤色有機化合物層が形成される。
【0062】
次に、第二基板搬送室62内にある基板搬送ロボット(不図示)及び第三基板搬送室63内にある基板搬送ロボット(不図示)を利用して、基板を、連結室62を経由して、共通層形成室56及びスパッタ室57へ順次搬送させる。そして両室内において共通層の構成材料を蒸着することで共通層が形成される。
【0063】
次に、第三基板搬送室63内にある基板搬送ロボット(不図示)を利用して、基板を、封止処理室58へ移動させた後、封止処理室58にて封止膜が形成される。尚、封止処理室58は、図12の製造装置50に示されるように2室(第一封止処理室58a、第二封止処理室58b)設けてもよい。
【0064】
最後に、第三基板搬送室63内にある基板搬送ロボット(不図示)を利用して、基板を、基板回収室59へ移動させた後、基板を装置外へ排出することにより一連の工程が完了する。
【0065】
ここで図12の製造装置50では、保護層除去室54を画素の種類ごとに3か所に分けて設けているが、1か所で兼用する構成にすることもできる。また保護層の除去から有機化合物層の蒸着・形成までの時間を短くする方がコンタミ発生のリスクが下がることから本発明の製造装置は、各製造プロセスを行うのに必要な装置が一通りそろっている一体型の装置であることが望ましい。一方、保護層形成室53に関しては、図11に示すように別の装置であっても構わない。
【実施例1】
【0066】
図2〜図10のプロセスに沿って、図1に示される3種類の画素(R、G、B)を有する有機EL装置を作製した。
【0067】
(1)電極付基板
全体寸法が365mm×465mm×0.6mmであって、サイズを約68.5mm×約46.0mm(3.2in)とするパネルが約30面レイアウトされたTFT付きアノード基板を作製した(図2)。そして作製したアノード基板を、電極付基板(以下、「基板10」ということがある。)として用いた。
【0068】
(2)保護層の作製工程
まず真空蒸着法により、図3に示される基板10上に、トリフェニルベンゼンを蒸着して、図3に示されるように保護層12を形成した。このとき保護層12の膜厚を200nmとし、蒸着時の真空度を1×10-4Paとし、成膜速度を0.2nm/secの条件とした。
【0069】
(3)保護層の選択的除去工程(青色画素)
次に、スーパーインバー製のフレーム上に厚さ50μmのスーパーインバーの箔を溶接した作製したマスクを使用して保護層12の選択的除去工程を行った。尚、使用したマスク30aは、上記パネルに含まれる青色画素が設けられる領域に対応する領域に開口31を有している。ここでマスク30aにおける各開口31のサイズは、青色画素のサイズに対応するものであり、具体的には、開口幅が90μm、長さが300μmである。
【0070】
次に、図4に示すように、波長1064nmのYAGレーザを、マスク30aの開口31に対応する領域に設けられている保護層11に向けて照射して、青色画素に対応する領域に設けられている保護層12を除去した。このとき使用されるYAGレーザの電力を20Wとした。
【0071】
(4)有機化合物層の形成工程(青色画素)
次に、Alq3(ホスト)と、ペリレン色素(1.0体積%、ゲスト)とを共蒸着(ホストとゲストとの重量比は、80:20)した。これにより、図5に示されるように、保護層12が除去されている下部電極21a、21b、21cに、それぞれ青色発光層(有機化合物層22a、22b、22c)を形成した。このとき青色発光層の膜厚を20nmとし、蒸着時の真空度を1×10-4Paとし、成膜速度を0.1nm/secの条件とした。
【0072】
(5)保護層の選択的除去工程(緑色画素)
次に、マスク30aと同じ材質であって上記パネルに含まれる緑色画素が設けられる領域に対応する領域に開口32を有しているマスク30bを使用して保護層12の選択的除去工程を行った。
【0073】
具体的には、図6に示すように、波長1064nmのYAGレーザを、マスク30bの開口32に対応する領域に設けられている保護層12に向けて照射して、緑色画素に対応する領域に設けられている保護層12を除去した。このとき使用されるYAGレーザの電力を20Wとした。
【0074】
(6)有機化合物層の形成工程(緑色画素)
次に、Alq3(ホスト)と、クマリン6(ゲスト)とを共蒸着(ホストとゲストとの重量比は、99:1)した。これにより、図7に示されるように、保護層12が除去されている下部電極21d、21e、21fに、それぞれ緑色発光層(有機化合物層22d、22e、22f)を形成した。このとき緑色発光層の膜厚を30nmとし、蒸着時の真空度を1×10-4Paとし、成膜速度を0.1nm/secの条件とした。
【0075】
(7)保護層の選択的除去工程(赤色画素)
次に、マスク30aと同じ材質であって上記パネルに含まれる赤色画素が設けられる領域に対応する領域に開口を有しているマスク30cを使用して保護層12の選択的除去工程を行った。
【0076】
具体的には、図8に示すように、波長1064nmのYAGレーザを、マスク30cの開口33に対応する領域に設けられている保護層12に向けて照射して、赤色画素に対応する領域に設けられている保護層12を除去した。このとき使用されるYAGレーザの電力を20Wとした。
【0077】
(8)有機化合物層の形成工程(赤色画素)
次に、下記に示されるホストとゲストとを、ホストとゲストとの重量比が99:1になるように共蒸着した。
ホスト:Alq3
ゲスト:発光性化合物DCM[4−(dicyanomethylene)−2−methyl−6(p−dimethylaminostyryl)−4H−pyran]
【0078】
これにより、図9に示されるように、保護層12が除去されている下部電極21g、21h、21iに、それぞれ赤色発光層(有機化合物層22g、22h、22i)を形成した。このとき赤色発光層の膜厚を40nmとし、蒸着時の真空度を13×10-4Paとし、成膜速度を0.2nm/secの条件とした。
【0079】
(9)共通層の形成工程等
次に、図10に示されるように共通層23を形成した。尚、本実施例において、共通層23とは、電子注入層と上部電極とからなる積層体である。
【0080】
まずBphenとCs2CO3とを共蒸着(重量比90:10)して電子注入層を形成した。このとき電子注入層の膜厚を20nmとし、蒸着時の真空度を3×10-4Paとし、成膜速度を0.2nm/secの条件とした。
【0081】
次に、電子注入層まで成膜した基板を、真空を破ること無しにスパッタ装置に移動し、パネル全体に開口を有するマスクを用いて、スパッタ法によりITOを成膜して透明電極(上部電極)を形成した。このとき透明電極の膜厚は40nmとした。
【0082】
最後に、スパッタ法により、窒化酸化シリコンを成膜して封止膜を形成した。このとき封止膜の膜厚を1200nmとした。以上により、有機EL装置を得た。
【0083】
作製した有機EL装置を、以下の3項目で評価した。評価結果を表1に示す。
【0084】
(評価実験1)封止膜上のキズ
非点灯状態の有機EL装置について、光学顕微鏡を用いて封止膜表面を観察して、封止膜上のキズの有無の評価を行った。尚、この実験は3枚のパネルに対して実施し、観察の際、光学顕微鏡の観察倍率を200倍とした。そして、下記に示される指標に基づいて封止膜上のキズの有無の評価を行った。
A:すべての封止膜全面でキズが観察されない。
B:封止膜へのキズが10ケ未満観察される。
C:封止膜へのキズが10ケ以上観察される。
【0085】
(評価実験2)発光特性
作製した有機EL装置について駆動電圧を印加した。そして装置駆動時における発光部の発光状態に関し目視観察を行った。そして、下記に示される指標に基づいて発光特性を判断した。
A:すべての発光部全面で良好な発光を示す。
B:局部的な非発光部が観察される。
C:発光しない発光部が観察される。
【0086】
(評価実験3)寿命評価
評価用に指定した有機EL装置について、直流電流(20mA/cm2)を100時間印加したときの寿命を測定した。ここで評価に当たっては、L100/Liniにて算出される相対輝度を使用した。ここで、L100は、印加を開始してから100時間経過後の発光輝度であり、Liniは、印加を開始してから2分経過後の発光輝度である。そして、下記に示される指標に基づいて寿命の評価を行った。
A:L100/Lini≧0.95
B:0.85≦L100/Lini<0.95
C:L100/Lini<0.85
【0087】
本実施例で作製した有機EL装置は、マスクが基板側に傷をつけることがないため、表1より、封止膜に欠陥がなく信頼性が高いことがわかった。また、プロセスコンタミが少なく寿命や歩留まりに優れることがわかった。
【実施例2】
【0088】
実施例1において、保護層の選択的除去工程を行う際に、使用したエネルギー線の線源として、1μm付近に中心波長を持つハロゲンランプ(ランプ出力:300W、真空度:3×10-4Pa)を使用した。これを除いては、実施例1と同様の方法により有機EL装置を作製した。
【0089】
作製した装置について、実施例1と同じ評価を実施した。結果を表1に示す。
【0090】
本実施例で作製した有機EL装置は、マスクが基板側に傷をつけることがないため、表1より、封止膜に欠陥がなく信頼性が高いことがわかった。また、プロセスコンタミが少なく寿命や歩留まりに優れることがわかった。
【実施例3】
【0091】
実施例1において、保護層の選択的除去工程を行う際に、加熱電源13によって対象となる電極を加熱(ジュール加熱)しながらYAGレーザの照射を行った。これを除いては、実施例1と同様の方法により有機EL装置を作製した。尚、電極を加熱する際に、加熱電源13の出力を1kHz、400Wとし、真空度を3×10-4Paとした。
【0092】
作製した装置について、実施例1と同じ評価を実施した。結果を表1に示す。
【0093】
本実施例で作製した有機EL装置は、マスクが基板側に傷をつけることがないため、表1より、封止膜に欠陥がなく信頼性が高いことがわかった。また、プロセスコンタミが少なく寿命や歩留まりに優れることがわかった。また本実施例では、実施例1と比べて、YAGレーザの出力を小さくしても保護層の除去が可能であることがわかった。
【0094】
[比較例1]
実施例3において、保護層の選択的除去を行う際に、YAGレーザを使用しなかった。これを除いては、実施例3と同様の方法により有機EL装置を作製した。尚、電極を加熱する際に、加熱電源13の出力を1kHz、400Wとし、真空度を3×10-4Paとした。
【0095】
作製した装置について、実施例1と同じ評価を実施した。結果を表1に示す。
【0096】
完成した表示装置は、マスクが基板側に傷をつけることがないメリットはあるものの、保護膜の除去に時間を要した。その影響か発光特性も悪化し素子寿命が短くなることが明らかになった。
【0097】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明の製造方法は、マスク蒸着による薄膜パターンの形成時に利用される方法である。中でも有機EL素子の製造工程の一部である有機材料の蒸着工程において、精度の良いパターン形状を得るのと同時に、基板とマスク箔のこすれによる異物の発生や、基板上の異物による発光素子の黒点や明点等の異常発生を防止するのに用いられる。
【符号の説明】
【0099】
1:有機EL装置、2a(2b、2c):画素、3(21(21a、21b、21c、21d、21e、21f、21g、21h、21i)):下部電極、4(22(22a、22b、22c、22d、22e、22f、22g、22h、22i)):有機化合物層、10:基板、11:画素分離膜、12:保護層、13:加熱電源、14:エネルギー線、23:共通層、30(30a、30b、30c):マスク、31(32、33):(マスクの)開口、40(50):製造装置、41(51):基板投入室、42:アライメント室、43(54(54a、54b、54c)):保護層除去室、44(55(55a、55b、55c)):有機化合物層形成室、45:マスク回収室、46(59):基板取出室、47a(47b、47c、47d、47e):進行方向、52:前処理室、53:保護層形成室、56:共通層形成室、57:スパッタ室、58(58a、58b):封止処理室、61(62、63):基板搬送室、64(65):連結室
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部電極と、上部電極と、前記下部電極と前記上部電極との間に配置される有機化合物層と、からなる有機EL素子を有する画素を複数備える有機EL装置の製造方法において、
前記下部電極が設けられた基板上に保護層を形成する工程と、
少なくとも一部の画素に対応する領域に開口部を有するマスクを前記保護層に密着させた状態で、前記開口部に対応する領域に設けられている保護層を選択的に除去する工程と、
前記保護層が除去された領域において、前記下部電極上に有機化合物層を形成する工程と、
を有することを特徴とする、有機EL装置の製造方法。
【請求項2】
下部電極と、上部電極と、前記下部電極と前記上部電極との間に配置される有機化合物層と、からなる有機EL素子を有する画素を複数備える有機EL装置を製造する製造装置において、
所定の画素に対応する領域に設けられている保護層を選択的に除去するための保護層除去室と、
前記保護層が除去された下部電極に対して有機化合物層を形成するための有機化合物層形成室と、
を有することを特徴とする、有機EL装置の製造装置。
【請求項1】
下部電極と、上部電極と、前記下部電極と前記上部電極との間に配置される有機化合物層と、からなる有機EL素子を有する画素を複数備える有機EL装置の製造方法において、
前記下部電極が設けられた基板上に保護層を形成する工程と、
少なくとも一部の画素に対応する領域に開口部を有するマスクを前記保護層に密着させた状態で、前記開口部に対応する領域に設けられている保護層を選択的に除去する工程と、
前記保護層が除去された領域において、前記下部電極上に有機化合物層を形成する工程と、
を有することを特徴とする、有機EL装置の製造方法。
【請求項2】
下部電極と、上部電極と、前記下部電極と前記上部電極との間に配置される有機化合物層と、からなる有機EL素子を有する画素を複数備える有機EL装置を製造する製造装置において、
所定の画素に対応する領域に設けられている保護層を選択的に除去するための保護層除去室と、
前記保護層が除去された下部電極に対して有機化合物層を形成するための有機化合物層形成室と、
を有することを特徴とする、有機EL装置の製造装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−33672(P2013−33672A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−169749(P2011−169749)
【出願日】平成23年8月3日(2011.8.3)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月3日(2011.8.3)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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