説明

有機EL装置の製造方法

【課題】画素電極と対向電極とのショートを抑制することが可能な有機EL装置の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 画素電極を形成する工程と、前記画素電極の表面を洗浄する第1洗浄工程と、前記第1洗浄工程の後に、前記画素電極の上に第1酸化物層を形成する工程と、前記第1酸化物層の表面を洗浄する第2洗浄工程と、前記第2洗浄工程の後に、前記第1酸化物層の上に第2酸化物層を形成する工程と、前記第2酸化物層の上に有機層を形成する工程と、前記有機層の上に対向電極を形成する工程と、を備えたことを特徴とする有機EL装置の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、有機エレクトロルミネッセンス(EL)装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自発光型で、高速応答、広視野角、高コントラストの特徴を有し、かつ、更に薄型軽量化が可能な有機エレクトロルミネセンス(EL)素子を用いた表示装置の開発が盛んに行われている。
【0003】
例えば、特許文献1によれば、画素電極と有機発光層との間に、正孔輸送性及び電子ブロック性を有する無機物の積層体からなるバッファ層を備えた有機EL素子が開示されている。特に、この特許文献1においては、バッファ層として、遷移金属の酸化物、窒化物、酸窒化物などによって形成された正孔輸送層と機能層との積層体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−270731号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本実施形態の目的は、画素電極と対向電極とのショートを抑制することが可能な有機EL装置の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本実施形態によれば、
画素電極を形成する工程と、前記画素電極の表面を洗浄する第1洗浄工程と、前記第1洗浄工程の後に、前記画素電極の上に第1酸化物層を形成する工程と、前記第1酸化物層の表面を洗浄する第2洗浄工程と、前記第2洗浄工程の後に、前記第1酸化物層の上に第2酸化物層を形成する工程と、前記第2酸化物層の上に有機層を形成する工程と、前記有機層の上に対向電極を形成する工程と、を備えたことを特徴とする有機EL装置の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1は、本実施形態に係る有機EL表示装置の構成を概略的に示す平面図である。
【図2】図2は、図1に示した有機EL表示装置の有機EL素子を備えたアレイ基板の概略断面図である。
【図3】図3は、図2に示した有機EL表示装置の概略上面図である。
【図4】図4は、本実施形態における有機EL素子の主要部を模式的に示す断面図である。
【図5】図5は、図4に示した有機EL素子の製造方法を説明するための図である。
【図6】図6は、図5に示した製造工程を経て形成された有機EL素子の主要部を模式的に示す断面図である。
【図7】図7は、他の本実施形態における有機EL素子の主要部を模式的に示す断面図である。
【図8】図8は、製造過程で異物の影響を受けた有機EL素子の主要部を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において、同一又は類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0009】
図1は、有機EL装置の一例として、アクティブマトリクス駆動方式を採用した有機EL表示装置の構成を概略的に示す平面図である。
【0010】
すなわち、有機EL装置は、表示パネル1を備えている。この表示パネル1は、アレイ基板100及び封止基板200を備えている。アレイ基板100は、画像を表示する略矩形状のアクティブエリア102において、マトリクス状に配置された複数の有機EL素子OLEDを備えている。封止基板200は、アクティブエリア102において、アレイ基板100に備えられた有機EL素子OLEDと向かい合っている。この封止基板200は、ガラスやプラスチックなどの光透過性を有する絶縁基板である。
【0011】
これらのアレイ基板100及び封止基板200は、アクティブエリア102を囲む枠状に形成されたシール部材300によって貼り合わせされている。シール部材300は、例えば、樹脂材料や、フリットガラスによって形成されている。なお、アレイ基板100の封止基板200に向かい合う表面が無機系材料からなる保護膜によって覆われた固体封止構造を採用しても良いし、さらに、保護膜と封止基板200との間に樹脂材料が充填されても良い。有機EL素子OLEDが封止基板200の側から光を放射するトップエミッションタイプである場合には、保護膜や充填用の樹脂材料は光透過性を有する材料によって形成される。
【0012】
図2は、図1に示した有機EL表示装置の有機EL素子OLEDを備えたアレイ基板100の断面図である。なお、ここでは、トップエミッションタイプの有機EL素子OLEDが図示されているが、本実施形態においては、アレイ基板100の側から光を放射するボトムエミッションタイプの有機EL素子OLEDを適用しても良い。
【0013】
このアレイ基板100は、ガラスなどの絶縁基板SUB、絶縁基板SUBの上方に形成されたスイッチング素子SW、有機EL素子OLEDなどを備えている。絶縁基板SUBの上には、アンダーコート層111が配置されている。このアンダーコート層111は、例えば、シリコン酸化物やシリコン窒化物などの無機化合物によって形成されている。このようなアンダーコート層111は、アクティブエリア102の概ね全体に亘って延在している。
【0014】
アンダーコート層111の上には、スイッチング素子SWの半導体層SCが配置されている。この半導体層SCは、例えばポリシリコンによって形成されている。この半導体層SCには、チャネル領域SCCを挟んでソース領域SCS及びドレイン領域SCDが形成されている。
【0015】
半導体層SCは、ゲート絶縁膜112によって被覆されている。また、ゲート絶縁膜112は、アンダーコート層111の上にも配置されている。このゲート絶縁膜112は、例えば、シリコン酸化物やシリコン窒化物などの無機化合物によって形成されている。このようなゲート絶縁膜112は、アクティブエリア102の概ね全体に亘って延在している。
【0016】
ゲート絶縁膜112の上には、チャネル領域SCCの直上にスイッチング素子SWのゲート電極Gが配置されている。この例では、スイッチング素子SWは、トップゲート型のpチャネル薄膜トランジスタである。このゲート電極Gは、パッシベーション膜113によって被覆されている。また、パッシベーション膜113は、ゲート絶縁膜112の上にも配置されている。このパッシベーション膜113は、例えば、シリコン酸化物やシリコン窒化物などの無機化合物によって形成されている。このようなパッシベーション膜113は、アクティブエリア102の概ね全体に亘って延在している。
【0017】
パッシベーション膜113の上には、スイッチング素子SWのソース電極S及びドレイン電極Dが配置されている。ソース電極Sは、半導体層SCのソース領域SCSにコンタクトしている。ドレイン電極Dは、半導体層SCのドレイン領域SCDにコンタクトしている。スイッチング素子SWのゲート電極G、ソース電極S、及び、ドレイン電極Dは、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)などの導電材料を用いて形成されている。
【0018】
ソース電極S及びドレイン電極Dは、絶縁膜114によって被覆されている。また、絶縁膜114は、パッシベーション膜113の上にも配置されている。このような絶縁膜114は、例えば、紫外線硬化型樹脂や熱硬化型樹脂などの有機化合物や、シリコン窒化物などの無機化合物によって形成されている。また、このような絶縁膜114は、アクティブエリア102の全体に亘って延在している。
【0019】
有機EL素子OLEDを構成する画素電極PEは、絶縁膜114の上に配置されている。画素電極PEは、スイッチング素子SWのドレイン電極Dに接続されている。この画素電極PEは、この例では陽極に相当する。
【0020】
この画素電極PEは、反射電極PER及び透過電極PETが積層された2層構造である。つまり、反射電極PERは、絶縁膜114の上に配置されている。また、透過電極PETは、反射電極PERの上に配置されている。反射電極PERは、例えば、銀(Ag)、アルミニウム(Al)などの光反射性を有する導電材料によって形成されている。透過電極PETは、例えば、インジウム・ティン・オキサイド(ITO)、インジウム・ジンク・オキサイド(IZO)などの光透過性を有する導電材料によって形成されている。なお、画素電極PEは、上述した2層構造に限らず、3層以上の積層構造であっても良いし、反射電極PER単層であっても良いし、透過電極PET単層であっても良い。
【0021】
絶縁膜114の上には、隔壁PIが配置されている。この隔壁PIは、画素電極PEの周囲に配置されている。また、この隔壁PIは、画素電極PEの一部に重なっている。このような隔壁PIは、例えば、紫外線硬化型樹脂や熱硬化型樹脂などの有機化合物や、各種無機化合物などの絶縁材料によって形成されている。
【0022】
画素電極PEの上には、ホール輸送性を有する酸化物層120が配置されている。この酸化物層120は、隔壁PIから露出した画素電極PEを覆うとともに、隔壁PIの上に延在している。この酸化物層120の詳細については、後述する。なお、図2においては、酸化物層120は、隔壁PIの上で途切れているが、アクティブエリア102の全体に亘って延在していてもよい。
【0023】
有機EL素子OLEDを構成する有機層ORGは、酸化物層120の上に配置されている。この有機層ORGは、少なくとも発光層を含み、さらに、ホール注入層、ホール輸送層、電子注入層、電子輸送層などを含んでいる。この有機層ORGの詳細については、後述する。なお、有機層ORGの材料については、蛍光材料を含んでいても良いし、燐光材料を含んでいても良い。
【0024】
有機EL素子OLEDを構成する対向電極CEは、有機層ORGの上に配置されている。この対向電極CEは、有機層ORGのみならず隔壁PIも被覆している。この例では、対向電極CEは、陰極に相当する。このような対向電極CEは、例えば、マグネシウム・銀などによって形成された半透過層によって構成されている。なお、対向電極CEは、ITOやIZOなどの光透過性を有する導電材料によって形成された透過層を含んでいても良い。このような対向電極CEは、アクティブエリア102の全体に亘って延在している。
【0025】
図3は、図2に示した有機EL素子OLEDの上面図である。
【0026】
図示した有機EL素子OLEDにおいて、画素電極PEは、略長方形状であり、例えば長辺の長さが100μm程度であり、短辺の長さが50μm程度である。隔壁PIは、画素電極PEを囲み、しかも、画素電極PEの周縁の全周にわたって重なっている。酸化物層120は、画素電極PEに重なるとともに隔壁PIの上にも延在している。有機層ORGは、酸化物層120に重なるとともに、隔壁PIの上にも延在している。対向電極CEは、有機層ORGに重なるとともに隔壁PIの上にも延在している。
【0027】
図4は、本実施形態における有機EL素子OLEDの主要部を模式的に示す断面図である。なお、この図4においては、図示しない隔壁によって囲まれた内側の有機EL素子OLEDの断面構造を図示しており、説明に不要な構成は省略している。
【0028】
酸化物層120は、画素電極PEの上に配置された第1酸化物層121と、第1酸化物層121の上に配置された第2酸化物層122と、を有している。これらの第1酸化物層121及び第2酸化物層122は、例えば、主として酸化モリブデンなどの無機化合物によって形成され、必要に応じてマグネシウムなどの金属をドープして形成されても良い。このような酸化物層120は、ホール輸送性を有しており、本実施形態においては第1ホール輸送層HTL1(またはホール注入層)として機能する。
【0029】
なお、第1酸化物層121と第2酸化物層122とが同一材料によって形成されている場合には、両者の境界を確認できない場合があり得るが、一方の酸化物層のみに金属がドープされている場合には、両者の境界を確認できる。また、第1酸化物層121と第2酸化物層122とが異なる材料によって形成されている場合には、両者の境界を確認できる。
【0030】
有機層ORGは、第2酸化物層122の上に配置されている。この有機層ORGは、第2酸化物層122の上に配置されたホール輸送層HTLと、ホール輸送層HTLの上に配置された発光層EMLと、発光層EMLの上に配置された電子輸送層ETLと、を有している。ここでは、ホール輸送層HTLは、第1ホール輸送層HTL1と区別するために、第2ホール輸送層HTL2と称する。
【0031】
第1ホール輸送層HTL1が無機化合物によって形成されているのに対して、第2ホール輸送層HTL2が有機化合物によって形成されているため、第1ホール輸送層HTL1と第2ホール輸送層HTL2との境界は確認できる。なお、有機層ORGにおいては、第2ホール輸送層HTL2と発光層EMLとの境界が確認できない場合があり得る。
【0032】
対向電極CEは、有機層ORGの上に配置されている。
【0033】
次に、図4に示した有機EL素子OLEDの製造方法について図5を参照しながら説明する。
【0034】
まず、図5の(a)に示すように、絶縁基板SUBの上にアンダーコート層111、ゲート絶縁膜112、パッシベーション膜113、絶縁膜114、画素電極PE、図示しないスイッチング素子や隔壁などを形成した後に、前記画素電極PEの表面を洗浄する第1洗浄処理を行い、さらに、乾燥処理を行う。この第1洗浄処理は、例えば、純水や、イソプロピルアルコールなどのアルコール類などを用いて行う。このような第1洗浄処理により、画素電極PEの表面などに付着していた異物が除去される。
【0035】
図5の(a)では、第1洗浄処理の後の状態を図示しており、第1洗浄処理によって除去し切れなかった残留異物、もしくは、第1洗浄処理の際に付着した異物が画素電極PEの上に存在した状態を図示している。なお、図5では、絶縁基板SUBと画素電極PEとの間に配置されたアンダーコート層111、ゲート絶縁膜112、パッシベーション膜113、絶縁膜114を総称して絶縁膜110とした。
【0036】
続いて、図5の(b)に示すように、画素電極PEの上に、酸化物層120として第1酸化物層121を形成する。ここでは、第1酸化物層121として、例えば、蒸着法により酸化モリブデンの薄膜を20nmの膜厚に形成した。このように形成した第1酸化物層121の抵抗率は、1.5×10Ωcmであった。
【0037】
図5の(b)では、画素電極PEの上に第1酸化物層121が形成されている一方で、画素電極PEの上に存在している異物及びこの異物の周囲には第1酸化物層121が形成されていない状態を図示している。つまり、異物付近の画素電極PEは、第1酸化物層121によって覆われることなく、第1酸化物層121から露出している。なお、この図5の(b)においては、異物の一部にも第1酸化物層121が堆積するが図示を省略している。
【0038】
続いて、図5の(c)に示すように、このような第1酸化物層121を形成した後に、前記第1酸化物層121の表面を洗浄する第2洗浄処理を行い、さらに、乾燥処理を行う。この第2洗浄処理は、第1洗浄処理と同様に、例えば、純水やアルコール類などを用いて行う。このような第2洗浄処理により、画素電極PEの表面などに付着していた異物が除去される、あるいは、画素電極PEに付着していた異物が画素電極PEの表面から移動もしくは再付着する。
【0039】
図5の(c)では、第2洗浄処理の後の状態を図示しており、第2洗浄処理によって画素電極PEの表面から第1酸化物層121の表面に異物が移動もしくは再付着した状態を図示している。
【0040】
続いて、図5の(d)に示すように、第1酸化物層121の上、及び、異物の影響によって第1酸化物層121から露出していた画素電極PEの上に、酸化物層120として第2酸化物層122を形成する。ここでは、第2酸化物層122として、例えば、蒸着法により酸化モリブデンにマグネシウムを2%ドープした薄膜を20nmの膜厚に形成した。このように形成した第2酸化物層122の抵抗率は、8.0×10Ωcmであった。
【0041】
図5の(d)では、第1酸化物層121及び画素電極PEの上に第2酸化物層122が形成されている一方で、第1酸化物層121の上に存在している異物及びこの異物の周囲には第2酸化物層122が形成されていない状態を図示している。つまり、異物付近の第1酸化物層121は、第2酸化物層122によって覆われることなく、第2酸化物層122から露出している。なお、この図5の(d)においては、異物の一部にも第2酸化物層122が堆積するが図示を省略している。
【0042】
その後、図6に示すように、第2酸化物層122の上に有機層ORGを形成し、この有機層ORGの上に、対向電極CEを形成した。なお、有機層ORGは、第2酸化物層122の上に、図示しない第2ホール輸送層HTL2、発光層EML、電子輸送層ETLをこの順に積層して形成した。また、対向電極CEは、マグネシウム・銀によって形成した。さらに、本実施形態においては、有機層ORGと対向電極CEとの間に、図示しない電子注入層としてフッ化リチウム(LiF)の薄膜を形成した。
【0043】
なお、図6においては、上述した工程を経て形成された有機EL素子OLEDの主要部の断面を模式的に示しているが、説明に不要な構成は省略している。
【0044】
画素電極PEと有機層ORGとの間の酸化物層120に着目すると、第1酸化物層121が形成されていない部分、及び、第2酸化物層122が形成されていない部分については、第1酸化物層121及び第2酸化物層122が積層されている部分と比較して膜厚が薄い。ここでの膜厚とは、有機EL素子OLEDを構成する各層の積層方向に沿った長さに対応する。
【0045】
図6に示した例では、酸化物層120は、厚膜領域A1と、第1領域A11と、第2領域A12とを有している。厚膜領域A1は、画素電極PEと有機層ORGとの間に第1酸化物層121及び第2酸化物層122が積層されている部分に相当する。つまり、この厚膜領域A1では、画素電極PEの上に第1酸化物層121が積層されるとともに、第1酸化物層121の上に第2酸化物層122が積層され、第2酸化物層122の上に有機層ORGが積層されている。第1領域A11は、画素電極PEと有機層ORGとの間に第1酸化物層121が形成されずに第2酸化物層122が配置された部分に相当する。つまり、この第1領域A11では、画素電極PEが第1酸化物層121から露出しており、画素電極PEの上に第2酸化物層122が積層され、第2酸化物層122の上に有機層ORGが積層されている。第2領域A12は、画素電極PEと有機層ORGとの間に第2酸化物層122が形成されずに第1酸化物層121が配置された部分に相当する。つまり、この第2領域A12では、画素電極PEの上に第1酸化物層121が積層され、この第1酸化物層121が第2酸化物層122から露出しており、第1酸化物層121の上に有機層ORGが積層されている。
【0046】
厚膜領域A1における酸化物層120は、第1酸化物層121の膜厚及び第2酸化物層122の膜厚の総和に相当する第1膜厚T1を有している。第1領域A11は、厚膜領域A1よりも薄い第1薄膜領域A21を含んでいる。第2領域A12は、厚膜領域A1よりも薄い第2薄膜領域A22を含んでいる。なお、第1領域A11の全体が第1薄膜領域A21であるとは限らないし、同様に、第2領域A12の全体が第2薄膜領域A22であるとは限らない。本実施形態において、これらの第1薄膜領域A21及び第2薄膜領域A22を、単に薄膜領域A2と総称することがある。
【0047】
薄膜領域A2における酸化物層120は、第1膜厚T1より小さい第2膜厚T2を有している。すなわち、第1薄膜領域A21における酸化物層120の膜厚は、第2酸化物層122のみの膜厚に相当する第2膜厚T2となる。また、第2薄膜領域A22における酸化物層120の膜厚は、第1酸化物層121のみの膜厚に相当する第2膜厚T2となる。なお、図6において、第1薄膜領域A21の膜厚と、第2薄膜領域A22の膜厚とは、必ずしも同一の第2膜厚T2になるとは限らない。
【0048】
このように、酸化物層120の厚膜領域A1が介在する画素電極PEと有機層ORGとの間隔は、酸化物層120の薄膜領域A2が介在する画素電極PEと有機層ORGとの間隔よりも大きい。
【0049】
通常、第1酸化物層121及び第2酸化物層122を形成する過程で異物の影響を受けなければ、酸化物層120は、画素電極PEの上の略全体にわたって第1膜厚T1で略均一に形成される。つまり、酸化物層120の略全体が厚膜領域A1となる。
【0050】
第1酸化物層121及び第2酸化物層122を形成する過程で異物の影響を受けた場合にも、酸化物層120は、異物の影響を受けていない画素電極PEの上の大部分においては第1膜厚T1の厚膜領域A1となる一方で、異物の影響を受けた画素電極PEの上の局所的な部分においては第1膜厚T1より薄い第2膜厚T2の薄膜領域A2が形成される。つまり、薄膜領域A2が形成された第2面積は、厚膜領域A1が形成された第1面積より小さい。
【0051】
上述したように、画素電極PEと有機層ORGとの間に配置された酸化物層120は、第1面積にわたって第1膜厚T1に形成された厚膜領域A1と、第1面積より小さい第2面積にわたって第1膜厚T1より薄い第2膜厚T2に形成された薄膜領域A2と、を有している。
【0052】
因みに、異物の平均的なサイズは、直径が100nm〜500nm程度であり、画素電極PEの一辺のサイズと比較して極めて小さい。このため、異物が存在したとしても、この異物の影響によって形成される薄膜領域A2の面積は、厚膜領域A1の面積と比較して極めて小さい。
【0053】
また、第1領域A11及び第2領域A12が同一の異物に起因して形成された場合には、第1領域A11が形成された面積は、第2領域A12が形成された面積と略同等となる。このような場合であっても、第2領域A12に含まれる第2薄膜領域A22が形成された面積は、第1領域A11に含まれる第1薄膜領域A21が形成された面積よりも大きい。
【0054】
つまり、酸化物層120は、画素電極PEと有機層ORGとの間に第1酸化物層121及び第2酸化物層122が積層された厚膜領域A1と、画素電極PEと有機層ORGとの間に第1酸化物層121が形成されず第2酸化物層122が配置され厚膜領域A1よりも薄い第1薄膜領域A21を含む第1領域A11と、画素電極PEと有機層ORGとの間に第2酸化物層122が形成されず第1酸化物層121が配置され厚膜領域A1よりも薄い第2薄膜領域A22を含む第2領域A12と、を有しており、第2薄膜領域A22が第1薄膜領域A21よりも広い面積にわたって形成されている。
【0055】
画素電極PEと有機層ORGとの間に酸化物層120を配置しない場合、有機EL素子OLEDを形成する過程で、画素電極PEの上に異物が存在した状態で有機層ORGを蒸着すると、異物の影響により有機層ORGが均一に蒸着されず、画素電極PEの一部が有機層ORGから露出してしまうことがある。このため、有機層ORGに続いて対向電極CEを蒸着すると、画素電極PEと対向電極CEとの間でショートが発生する。このようなショートが発生した状態の有機EL素子OLEDでは、表示不良を発生し、点欠陥となる。このため、有機層ORGを形成する前に、十分な洗浄を行って異物を事前に取り除く必要があるが、異物が完全に除去できない場合がある。
【0056】
本実施形態によれば、有機EL素子OLEDは、画素電極PEと有機層ORGとの間に配置された酸化物層120を備えている。図4に示した例では、酸化物層120は、第1酸化物層121及びこの第1酸化物層121に積層された第2酸化物層122によって構成されている。このような酸化物層120を形成する過程においては、第1酸化物層121を形成した後に、洗浄工程を経てから、第2酸化物層122を形成している。
【0057】
このため、たとえ第1酸化物層121を形成する過程で画素電極PEの上に異物が付着していたとしても、第2酸化物層122を形成する前の洗浄工程により異物が除去される。この洗浄工程に続いて第2酸化物層122を形成する工程では、第1酸化物層121の上に第2酸化物層122が積層されるとともに、異物の影響により第1酸化物層121が形成されず画素電極PEが露出していた部分は第2酸化物層122によって覆われる。つまり、画素電極PEは、第1酸化物層121及び第2酸化物層122の少なくとも一方によって確実に覆われる。
【0058】
このような酸化物層120の上に有機層ORGを形成した後に、有機層ORGの上に対向電極CEを形成することによって得られた有機EL素子OLEDによれば、画素電極PEと対向電極CEとの間のショートを抑制することが可能となる。したがって、点欠陥の発生も抑制できる。
【0059】
一方で、第2酸化物層122を形成する前の洗浄工程において、除去した異物が第1酸化物層121の上に再付着したとしても、第2酸化物層122を形成する工程で、異物付近で第2酸化物層122が形成されていないものの、下地となる第1酸化物層121が画素電極PEを覆っているため、画素電極PEと対向電極CEとの間のショートを抑制することが可能となる。
【0060】
なお、画素電極PEを形成する工程と対向電極CEを形成する工程との間のEL工程において、異物は基板上にランダムに付着するため、洗浄処理の後の取り扱いで、異物が除去されたのと同じ位置に再度異物が付着する確率は極めて低い。このため、第1酸化物層121を形成したのちに洗浄し、異物を除去した後に第2酸化物層122を形成することで点欠陥の低減が可能となる。
【0061】
上述した工程を経て形成した表示パネル1について、点欠陥数をカウントしたところ、以下の結果が得られた。なお、ここでは、各画素が、赤色に発光する有機EL素子を備えた赤サブピクセル、緑色に発光する有機EL素子を備えた緑サブピクセル、及び、青色に発光する有機EL素子を備えた青サブピクセルを備えたQVGAモード(320×RGB×240、全230,400サブピクセル)の表示パネル1を作成した。酸化物層120を形成しなかった場合に点欠陥数が20個であったのに比較して、酸化物層120を形成した場合には、点欠陥数が3個に低減した。
【0062】
また、上述した工程を経て形成した表示パネル1については、第1酸化物層121が有する第1抵抗率(1.5×10Ωcm)よりも、第2酸化物層122が有する第2抵抗率(8.0×10Ωcm)の方が小さい。このため、画素電極PEと有機層ORGとの間の酸化物層120の抵抗増大による駆動電圧の上昇を抑制することができる。
【0063】
上述した本実施形態においては、酸化物層120が第1酸化物層121と第2酸化物層122との積層体である場合について説明したが、酸化物層120は、無機化合物からなる酸化物層を3層以上にわたって積層した積層体であっても良い。
【0064】
また、上述した本実施形態において、純水等を用いた洗浄工程より前に形成される第1酸化物層121は、無機化合物によって形成されているため、洗浄工程において剥離することはない。しかしながら、第1酸化物層121を有機化合物によって形成した場合には、洗浄工程において剥離するおそれがあるため、第1酸化物層121を形成する材料としては、有機化合物は望ましくない。
【0065】
一方で、洗浄工程より後に形成される第2酸化物層122については、有機化合物によって形成されたホール輸送層に置換しても良い。図7は、他の本実施形態における有機EL素子OLEDの主要部を模式的に示す断面図である。なお、この図7においては、説明に不要な構成は省略している。
【0066】
酸化物層120は、画素電極PEの上に配置されている。ここに示した例では、酸化物層120は、第1酸化物層121によって形成されている。この第1酸化物層121は、無機化合物によって形成されている。このような第1酸化物層121は、ホール輸送性を有しており、本実施形態においては第1ホール輸送層HTL1(またはホール注入層)として機能する。
【0067】
有機層ORGは、第1酸化物層121の上に配置されている。この有機層ORGは、第1酸化物層121の上に配置された第2ホール輸送層HTL2と、第2ホール輸送層HTL2の上に配置された発光層EMLと、発光層EMLの上に配置された電子輸送層ETLと、を有している。
【0068】
なお、第1ホール輸送層HTL1が無機化合物によって形成されているのに対して、第2ホール輸送層HTL2が有機化合物によって形成されているため、第1ホール輸送層HTL1と第2ホール輸送層HTL2との境界は確認できる。有機層ORGにおいては、第2ホール輸送層HTL2と発光層EMLとの境界が確認できない場合があり得る。
【0069】
対向電極CEは、有機層ORGの上に配置されている。
【0070】
図7に示した有機EL素子OLEDの製造方法について図8を参照しながら簡単に説明する。なお、図8は、このようにして形成された有機EL素子OLEDの主要部の断面を模式的に示している。
【0071】
画素電極PEなどを形成した後に、第1洗浄処理及び乾燥処理を行う。続いて、画素電極PEの上に、無機化合物からなる第1酸化物層121を形成する。画素電極PEの上に第1酸化物層121を形成する際、画素電極PEの上に付着した異物及びこの異物の周囲には第1酸化物層121が形成されず、異物付近の画素電極PEは、第1酸化物層121に覆われることなく、第1酸化物層121から露出している。
【0072】
このような第1酸化物層121を形成した後に、第2洗浄処理及び乾燥処理を行う。そして、このような第1酸化物層121を形成した後に、有機層ORGとして、有機化合物からなる第2ホール輸送層HTL2、発光層EML、電子輸送層ETLの順に形成する。その後、対向電極CEを形成し、有機EL素子OLEDを得る。
【0073】
上記工程で形成される第2ホール輸送層HTL2は、第1酸化物層121の上に形成されるとともに、第1酸化物層121から露出した画素電極PEの上にも形成される。このように形成された第2ホール輸送層HTL2については、その上面つまり発光層EMLとの境界面は、平坦ではなく、第1酸化物層121の上に積層された部分と比較して、第1酸化物層121から露出した画素電極PEの直上の部分では窪んでいる。なお、有機層ORGについては、上述した通り、第2ホール輸送層HTL2と発光層EMLとの境界面が確認できない場合があり得る。
【0074】
図8に示したように、画素電極PEと有機層ORGとの間の酸化物層120に着目すると、第1酸化物層121が形成されていない部分については、第1酸化物層121が形成されている部分と比較して膜厚が薄い。
【0075】
図8に示した例では、酸化物層120は、厚膜領域A1と、薄膜領域A2とを有している。厚膜領域A1は、画素電極PEと有機層ORGとの間に第1酸化物層121が形成されている部分に相当する。つまり、この厚膜領域A1では、画素電極PEの上に第1酸化物層121が積層されるとともに、第1酸化物層121の上に有機層ORGが積層されている。薄膜領域A2は、画素電極PEと有機層ORGとの間に第1酸化物層121が形成されず、画素電極PEが第1酸化物層121から露出しており、画素電極PEの上に有機層ORGの第2ホール輸送層HTL2が積層されている。
【0076】
厚膜領域A1における酸化物層120は、第1酸化物層121の膜厚に相当する第1膜厚T1を有している。薄膜領域A2は、酸化物層120を構成する第1酸化物層121が形成されていないため、膜厚はゼロであり、厚膜領域A1よりも薄い。
【0077】
このような有機EL素子OLEDにおいても、画素電極PEの上に第1酸化物層120を形成した後に、洗浄工程及び乾燥工程を経てから、第2ホール輸送層HTL2を形成しているため、たとえ第1酸化物層121を形成する過程で画素電極PEの上に異物が付着していたとしても、第2ホール輸送層HTL2を形成する前の洗浄工程により異物が除去される。この洗浄工程に続いて第2ホール輸送層HTL2を形成する工程では、第1酸化物層121の上に第2ホール輸送層HTL2が積層されるとともに、異物の影響により第1酸化物層121が形成されず画素電極PEが露出していた部分は第2ホール輸送層HTL2によって覆われる。つまり、画素電極PEは、第1酸化物層121及び第2ホール輸送層HTL2の少なくとも一方によって確実に覆われる。
【0078】
このような有機EL素子OLEDによれば、画素電極PEと対向電極CEとの間のショートを抑制することが可能となる。したがって、点欠陥の発生も抑制できる。
【0079】
なお、この発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、その実施の段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【0080】
本実施形態は、有機EL装置として、有機EL表示装置について説明したが、有機EL照明や有機ELプリンターヘッドなどにも利用可能である。
【符号の説明】
【0081】
1…表示パネル
100…アレイ基板
OLED…有機EL素子
PE…画素電極
CE…対向電極
ORG…有機層
120…酸化物層 121…第1酸化物層 122…第2酸化物層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画素電極を形成する工程と、
前記画素電極の表面を洗浄する第1洗浄工程と、
前記第1洗浄工程の後に、前記画素電極の上に第1酸化物層を形成する工程と、
前記第1酸化物層の表面を洗浄する第2洗浄工程と、
前記第2洗浄工程の後に、前記第1酸化物層の上に第2酸化物層を形成する工程と、
前記第2酸化物層の上に有機層を形成する工程と、
前記有機層の上に対向電極を形成する工程と、
を備えたことを特徴とする有機EL装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−181529(P2011−181529A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−136431(P2011−136431)
【出願日】平成23年6月20日(2011.6.20)
【分割の表示】特願2009−153913(P2009−153913)の分割
【原出願日】平成21年6月29日(2009.6.29)
【出願人】(302020207)東芝モバイルディスプレイ株式会社 (2,170)
【Fターム(参考)】