説明

有機EL装置及びその設計方法

【課題】光取出し効率が高く、かつ画像のにじみが少ない有機EL装置及び有機EL装置の設計方法の提供。
【解決手段】陽極と陰極の間に少なくとも発光層を含む有機EL表示部と、前記発光層から発光される光の光路を制御する略四角錐プリズムと、を少なくとも有し、前記略四角錐プリズムを光取り出し面に設けたときの正面輝度での光取り出し効率Aと、前記略四角錐プリズムを光取り出し面に設けないときの正面輝度での光取り出し効率Bとの比(A/B)が1を超え、かつ前記正面輝度での光取り出し効率において、前記略四角錐プリズムの1辺の長さbと、前記略四角錐プリズムの高さhとの比(h/b)が1.2以下である有機EL装置とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光取出し効率が高く、かつ画像のにじみが少ない有機EL装置及び有機EL装置の設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL装置(有機電界発光装置)は自発光型の表示装置であり、ディスプレイや照明の用途に用いられる。有機ELディスプレイは、従来のCRTやLCDと比較して視認性が高い、視野角依存性がないといった表示性能の利点を有する。また、ディスプレイを軽量化、薄層化できるといった利点もある。また、有機EL照明は、軽量化、薄層化という利点に加え、フレキシブル基板を用いることで、これまで実現できなかった形状の照明を実現できる可能性を持っている。
【0003】
このように有機EL装置は、優れた特徴を有するが、一般に、発光層を含め表示装置を構成する各層の屈折率は空気より高い。例えば、有機EL装置では、発光層などの有機薄膜層の屈折率は1.6〜2.1である。このため、発光した光は界面で全反射しやすく、その光取出し効率は20%に満たず、大部分の光を損失している。
例えば、一般的に知られる有機EL装置における有機EL表示部は、基板上に、一対の電極層の間に配される有機化合物層を備えて構成されている。該有機化合物層は、発光層を含み、有機EL装置は、該発光層から発光される光を光取出し面側から出射させている。この場合、光取出し面や電極層と有機化合物層の界面において、臨界角以上の光である全反射成分を取出すことができないため、光の取出し効率が低いという問題がある。
【0004】
このようなことから、光取出し効率を向上させるため、発光層から発光される光の光路を制御し、該発光層から発光される光を光取出し面側から出射させるプリズム等の光取り出し部材を、光路上に配する有機EL装置が種々提案されている。
例えば特許文献1には、透明基板の上面に、四角錐状の微小プリズムを各画素に対応させてドットマトリックス状に配列した電界発光素子が提案されている。この提案によれば、有機発光層で発光した発散光を透明基板の法線とほぼ平行な方向に向けて屈折させることができ、観察者側に向けて出射される。
また、特許文献2には、面状発光素子としての有機EL素子と、光学素子としてのプリズムシートを備えた照明装置が提案されている。この提案では、プリズムシートは、多数のプリズム状の凸部からなる出射部を有し、該凸部としては、三角形の頂部を切り取ったような台形断面を有するプリズムが用いられている。
【0005】
そこで、前記課題を解決するため本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、後述するように、有機EL装置は、その素子設計により配光分布(光の角度分布)が大きく変化すること、その配光分布によって光取り出しに適した光取り出し部材であるプリズムの構造が変わることを知見した。
しかしながら、従来技術においては、このことが全く考慮されておらず、そのため、光取り出し効率の最適化が図れていなかった。即ち、有機EL表示部の構造に応じて、該有機EL表示部と組み合わせる最適なプリズムの構造は異なり、有機EL表示部の構造とプリズムとの組み合わせを適正化する設計が行われていなかった。その結果、十分な正面輝度での光取り出し効率が得られなかったり、また、プリズムと発光層の間に光が導波した場合に、画像ボケが生じてしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−326297号公報
【特許文献2】特開2007−188065号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであり、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、画像ボケがなく、高い取り出し効率を有し、低消費電力を図れる有機EL装置、及び該有機EL装置の設計方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 陽極と陰極の間に少なくとも発光層を含む有機EL表示部と、前記発光層から発光される光の光路を制御する略四角錐プリズムと、を少なくとも有し、
前記略四角錐プリズムを光取り出し面に設けたときの正面輝度での光取り出し効率Aと、前記略四角錐プリズムを光取り出し面に設けないときの正面輝度での光取り出し効率Bとの比(A/B)が1を超え、かつ前記正面輝度での光取り出し効率において、前記略四角錐プリズムの1辺の長さbと、前記略四角錐プリズムの高さhとの比(h/b)が1.2以下であることを特徴とする有機EL装置である。
<2> 有機EL表示部が、光学長L(λ)が1λ(ただし、λは発光波長を表す)である1次のマイクロキャビティ構造を有し、
略四角錐プリズムを光取り出し面に設けたときの正面輝度での光取り出し効率Aと、略四角錐プリズムを光取り出し面に設けないときの正面輝度での光取り出し効率Bとの比(A/B)が1を超え、かつ前記正面輝度での光取り出し効率において、前記略四角錐プリズムの1辺の長さbと、前記略四角錐プリズムの高さhとの比(h/b)が0.7以下である前記<1>に記載の有機EL装置である。
<3> 有機EL表示部が、光学長L(λ)が2λ(ただし、λは発光波長を表す)である2次のマイクロキャビティ構造を有し、
略四角錐プリズムを光取り出し面に設けたときの正面輝度での光取り出し効率Aと、略四角錐プリズムを光取り出し面に設けないときの正面輝度での光取り出し効率Bとの比(A/B)が1を超え、かつ前記正面輝度での光取り出し効率において、前記略四角錐プリズムの1辺の長さbと、前記略四角錐プリズムの高さhとの比(h/b)が0.5以下である前記<1>に記載の有機EL装置である。
<4> 有機EL表示部が、光学長L(λ)が3λ(ただし、λは発光波長を表す)である3次のマイクロキャビティ構造を有し、
略四角錐プリズムを光取り出し面に設けたときの正面輝度での光取り出し効率Aと、略四角錐プリズムを光取り出し面に設けないときの正面輝度での光取り出し効率Bとの比(A/B)が1を超え、かつ前記正面輝度での光取り出し効率において、前記略四角錐プリズムの1辺の長さbと、前記略四角錐プリズムの高さhとの比(h/b)が0.4以下である前記<1>に記載の有機EL装置である。
<5> 有機EL表示部の陽極が、発光層からみた反射率が10%以下の透明電極であり、
略四角錐プリズムを光取り出し面に設けたときの正面輝度での光取り出し効率Aと、略四角錐プリズムを光取り出し面に設けないときの正面輝度での光取り出し効率Bとの比(A/B)が1を超え、かつ前記正面輝度での光取り出し効率において、前記略四角錐プリズムの1辺の長さbと、前記略四角錐プリズムの高さhとの比(h/b)が1.2以下である前記<1>に記載の有機EL装置である。
<6> 発光層と略四角錐プリズムとの距離dと、前記発光層の1辺の最大長さaとの比(d/a)が0.1以下である前記<1>から<5>のいずれかに記載の有機EL装置である。
<7> 陽極と陰極の間に少なくとも発光層を含む有機EL表示部と、前記発光層から発光される光の光路を制御する略四角錐プリズムと、を少なくとも有する有機EL装置の設計方法であって、
前記略四角錐プリズムを光取り出し面に設けたときの正面輝度での光取り出し効率Aと、前記略四角錐プリズムを光取り出し面に設けないときの正面輝度での光取り出し効率Bとの比(A/B)が1を超え、かつ前記正面輝度での光取り出し効率において、前記略四角錐プリズムの1辺の長さbと、前記略四角錐プリズムの高さhとの比(h/b)が1.2以下を満たすように設計することを特徴とする有機EL装置の設計方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、従来における諸問題を解決でき、画像ボケがなく、高い取り出し効率を有し、低消費電力である有機EL装置、及び該有機EL装置の設計方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、本発明の有機EL装置の一例を示す概略断面図である。
【図2】図2は、本発明の有機EL装置の他の一例を示す概略断面図である。
【図3】図3は、有機EL素子(wm=2)の配光分布の一例を示す図である。
【図4】図4は、有機EL素子(sm=1)の配光分布の一例を示す図である。
【図5】図5は、有機EL素子(sm=2)の配光分布の一例を示す図である。
【図6】図6は、有機EL素子(sm=3)の配光分布の一例を示す図である。
【図7】図7は、実施例1の光取り出し効率の評価実験に用いた有機EL装置の概略図である。
【図8】図8は、実施例1の光取り出し効率の評価実験に用いた有機EL装置の上面図である。
【図9】図9は、実施例1の正面輝度での光取り出し効率と四角錐プリズムの高さの関係を示すグラフである。
【図10】図10は、実施例1の積分強度での光取り出し効率と四角錐プリズムの高さの関係を示すグラフである。
【図11】図11は、実施例2の光取り出し効率の評価実験に用いた有機EL装置の概略図である。
【図12】図12は、実施例2の光取り出し効率の評価実験に用いた有機EL装置の概略図である。
【図13】図13は、実施例2の正面輝度での光取り出し効率と四角錐プリズムの高さの関係を示すグラフである。
【図14】図14は、実施例2の積分強度での光取り出し効率と四角錐プリズムの高さの関係を示すグラフである。
【図15】図15は、RGB3画素における各画素ごとに四角錐プリズムを配置した状態を示す図である。
【図16】図16は、RGB3画素を一単位として四角錐プリズムを配置した状態を示す図である。
【図17】図17は、1つの画素に多数の小さなプリズムを配置した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(有機EL装置及び有機EL装置の設計方法)
本発明の有機EL装置は、有機EL表示部と、光取り出し面に設けられる略四角錐プリズムとを少なくとも有し、基板、バリア層、更に必要に応じてその他の部材を有してなる。
本発明の有機EL装置の設計方法は、本発明の前記有機EL装置を設計する方法であって、
前記略四角錐プリズムを光取り出し面に設けたときの正面輝度での光取り出し効率Aと、前記略四角錐プリズムを光取り出し面に設けないときの正面輝度での光取り出し効率Bとの比(A/B)が1を超え、かつ前記正面輝度での光取り出し効率において、前記略四角錐プリズムの1辺の長さbと、前記略四角錐プリズムの高さhとの比(h/b)が1.2以下を満たすように設計するものである。
以下、本発明の有機EL装置及び有機EL装置の設計方法について詳細に説明する。
【0012】
本発明においては、第1に、前記略四角錐プリズムを光取り出し面に設けたときの正面輝度での光取り出し効率Aと、前記略四角錐プリズムを光取り出し面に設けないときの正面輝度での光取り出し効率Bとの比(A/B)が1を超えることを特徴とする。
【0013】
前記比(A/B)が1を超えるとは、略四角錐プリズムを光取り出し面に設けたときの正面輝度での光取り出し効率Aが、略四角錐プリズムを光取り出し面に設けないときの正面輝度での光取出し効率Bよりも高いことを意味し、略四角錐プリズムを光取り出し面に設けたことにより、正面輝度での光取り出し効率が向上し、正面から見たときの明るさが向上する。
ここで、光取り出し効率について積分強度ではなく正面輝度を採用したのは、有機ELディスプレイへの適用を考慮すると、消費電力の定義として一定の正面輝度が得られる電力が定義されるため消費電力の指標という観点から、積分強度よりも正面輝度が重要となるからである。
前記比(A/B)は、1を超えていれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1.5以上が好ましく、2.0以上がより好ましい。前記比(A/B)が1以下であると、光取り出し部材としての略四角錐プリズムを設けたことの効果がなく、本発明の目的を達成することができないことがある。
ここで、前記正面輝度での光取り出し効率は、略四角錐プリズムを光取り出し面に装着した有機EL装置の正面輝度を、略四角錐プリズムを光取り出し面に装着しない有機EL装置の正面輝度で割った値から求めることができる。前記正面輝度は、例えば分光放射輝度計(トプコン社製、SR−3)などにより測定することができる。
【0014】
本発明においては、第2に、正面輝度での光取り出し効率において、略四角錐プリズムの1辺の長さbと、略四角錐プリズムの高さhとの比(h/b)が1.2以下である。
ここで、略四角錐プリズムの底辺の1辺の長さbは、通常、略四角錐プリズムの底面における1辺の長さを意味し、四角錐の形状などに応じて異なり適宜選択することができ、例えば底面の1辺の長さが等しい場合(例えば底面が正方形)にはいずれの1辺であってもよいが、底面の1辺の長さが異なる場合(例えば底面が長方形)には最も長い辺を採用する。
前記略四角錐プリズムの高さhとは、該略四角錐プリズムを設ける光取り出し面(例えばガラス基板表面)からの高さを意味する。
【0015】
前記正面輝度での光取り出し効率において、略四角錐プリズムの1辺の長さbと、略四角錐プリズムの高さhとの比(h/b)は、1.2以下であり、0.7以下が好ましく、0.5以下がより好ましい。なお、下限値は、0.2以上が好ましい。
前記比(h/b)が、1.2を超えると、正面輝度がプリズムを取り付けない場合よりも低くなることがある。
【0016】
前記積分強度での光取り出し効率については、特に制限はなく、有機EL表示部(有機EL素子)の構造に応じて異なり適宜選択することができるが、略四角錐プリズムを光取り出し面に設けたときの積分強度での光取り出し効率Cと、略四角錐プリズムを光取り出し面に設けないときの積分強度での光取り出し効率Dとの比(C/D)が1を超え、かつ前記略四角錐プリズムの1辺の長さbと、前記略四角錐プリズムの高さhとの積分強度での光取り出し効率についての比(h/b)は、2.4以下であることが好ましく、0.4以下がより好ましい。
【0017】
前記比(C/D)が1を超えるとは、略四角錐プリズムを取り付けたことにより積分強度での光取り出し効率が向上したことを意味する。正面輝度での光取り出し効率が高くても積分強度での光取り出し効率が低ければ斜め方向から見たときの明るさが十分でないことがある。
【0018】
ここで、前記積分強度での光取り出し効率は、略四角錐プリズムを光取り出し面に装着した有機EL装置の積分強度を、略四角錐プリズムを光取り出し面に装着しない有機EL装置の積分強度で割った値から求めることができる。前記積分強度は、例えば分光放射輝度計(トプコン社製、SR−3)などにより測定することができる。
【0019】
前記正面輝度及び積分強度での光取り出し効率についての比(h/b)は、有機EL表示部(有機EL素子)の構造、略四角錐プリズムの高さなどに応じて異なり、本発明においては、有機EL表示部の構造に合った略四角錐プリズムを組み合わせることで、光取り出し効率の最適化を図ることができる。
【0020】
ここで、前記有機EL表示部の構造としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば(1)有機EL表示部における光出射側の電極(陽極)の反射率、(2)マイクロキャビティ構造の光学長、(3)ボトムエミッション型又はトップエミッション型、などが挙げられる。
【0021】
前記(1)の有機EL表示部の光出射側の電極(陽極)としては、ボトムエミッション型では、発光層からみた反射率が10%以下である透明電極(例えばITO)、又は発光層からみた反射率が10%を超える半透過電極(例えばAg電極)を用いることができる。前記陽極として透明電極を用いると、光の反射が弱いので、マイクロキャビティ構造を形成できない。前記陽極として半透過電極を用いると、マイクロキャビティ構造を形成できる。
トップエミッション型では、光出射側の電極(陽極)として、発光層からみた反射率が10%を超える半透過電極を用い、マイクロキャビティ構造を形成する。
【0022】
前記(2)のマイクロキャビティ構造の光学長は、有機EL表示部を構成する陽極と陰極の間の有機化合物層の厚みを変えることにより適宜調整することができる。ここで、前記有機化合物層としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えばホール輸送層、ホール注入層、発光層、電子輸送層、電子注入層、などが挙げられる。
ここで、前記マクロキャビティ構造とは、光出射側の半透過反射層と光出射と逆側の反射層とが干渉する構造を意味する。
【0023】
前記マイクロキャビティ構造の光学長(光学距離)Lは、L=2×Σn(ただし、iは積層数で1〜iまでの整数を表す)及び反射による位相シフトで表され、陽極と陰極の間に形成される各層の厚さdとその層の屈折率nの積の和で表される。
前記光学長Lは、発光波長λに対し、光学長L(λ)=mλ(m=1:1次、m=2:2次、m=3:3次)で示す関係があり、光学長L(λ)は、下記数式で表される。
【数1】

ただし、前記数式中、L(λ)は光学長〔=2Σnjj+ΣABS(φmiλ/2π)〕、λは、発光波長、iは、金属反射層を示すサフィックス、jは、金属反射層以外の金属層間の層(有機層や誘電体層等)を示すサフィックスを表す。
【0024】
前記マイクロキャビティ構造が1次であるとは、光学長L(λ)が1λ(ただし、λは発光波長を表す)であり、金属反射層間をラウンドトリップする光が強めあう条件となる最小の光学長であることを意味する。
前記マイクロキャビティ構造が2次であるとは、光学長L(λ)が2λ(ただし、λは発光波長を表す)であり、金属反射層間をラウンドトリップする光が強めあう条件となる最小の光学長から2番目に短い光学長であることを意味する。
前記マイクロキャビティ構造が3次であるとは、光学長L(λ)が3λ(ただし、λは発光波長を表す)であり、金属反射層間をラウンドトリップする光が強めあう条件となる最小の光学長から3番目に短い光学長であることを意味する。
【0025】
<第1の実施形態>
前記第1の実施形態では、有機EL表示部は、光学長L(λ)が1λ(ただし、λは発光波長を表す)である1次のマイクロキャビティ構造を有し、ボトムエミッション型及びトップエミッション型のいずれであってもよい。
この第1の実施形態では、略四角錐プリズムを光取り出し面に設けたときの正面輝度での光取り出し効率Aと、略四角錐プリズムを光取り出し面に設けないときの正面輝度での光取り出し効率Bとの比(A/B)が1を超え、かつ前記正面輝度での光取り出し効率において、前記略四角錐プリズムの1辺の長さbと、前記略四角錐プリズムの高さhとの比(h/b)は、0.7以下であることが好ましく、0.4以下がより好ましい。下限値は、0.2以上であることが好ましい。
また、略四角錐プリズムを光取り出し面に設けたときの積分強度での光取り出し効率Cと、略四角錐プリズムを光取り出し面に設けないときの積分強度での光取り出し効率Dとの比(C/D)が1を超え、かつ前記積分強度での光取り出し効率において、前記略四角錐プリズムの1辺の長さbと、前記略四角錐プリズムの高さhとの比(h/b)は、0.45以下であることが好ましい。
【0026】
<第2の実施形態>
前記第2の実施形態では、有機EL表示部は、光学長L(λ)が2λ(ただし、λは発光波長を表す)である2次のマイクロキャビティ構造を有し、ボトムエミッション型及びトップエミッション型のいずれであってもよい。
この第2の実施形態では、略四角錐プリズムを光取り出し面に設けたときの正面輝度での光取り出し効率Aと、略四角錐プリズムを光取り出し面に設けないときの正面輝度での光取り出し効率Bとの比(A/B)が1を超え、かつ前記正面輝度での光取り出し効率において、前記略四角錐プリズムの1辺の長さbと、前記略四角錐プリズムの高さhとの比(h/b)は、0.5以下であることが好ましい。下限値は、0.2以上であることが好ましい。
また、略四角錐プリズムを光取り出し面に設けたときの積分強度での光取り出し効率Cと、略四角錐プリズムを光取り出し面に設けないときの積分強度での光取り出し効率Dとの比(C/D)が1を超え、かつ前記積分強度での光取り出し効率において、前記略四角錐プリズムの1辺の長さbと、前記略四角錐プリズムの高さhとの比(h/b)は、1.2以下であることが好ましく、0.35以下であることがより好ましい。
【0027】
<第3の実施形態>
前記第3の実施形態では、有機EL表示部は、光学長L(λ)が3λ(ただし、λは発光波長を表す)である3次のマイクロキャビティ構造を有し、ボトムエミッション型及びトップエミッション型のいずれであってもよい。
この第3の実施形態では、略四角錐プリズムを光取り出し面に設けたときの正面輝度での光取り出し効率Aと、略四角錐プリズムを光取り出し面に設けないときの正面輝度での光取り出し効率Bとの比(A/B)が1を超え、かつ前記正面輝度での光取り出し効率において、前記略四角錐プリズムの1辺の長さbと、前記略四角錐プリズムの高さhとの比(h/b)は、0.4以下であることが好ましい。下限値は、0.2以上であることが好ましい。
なお、この第3の実施形態では、積分強度での光取り出し効率については、特に制限はなく、目的に応じて適宜選定することができる。
【0028】
<第4の実施形態>
前記第4の実施形態では、有機EL表示部の陽極が、発光層からみて反射率が10%以下の透明電極(例えばITO)であり、ボトムエミッション型である。
この第4の実施形態では、略四角錐プリズムを光取り出し面に設けたときの正面輝度での光取り出し効率Aと、略四角錐プリズムを光取り出し面に設けないときの正面輝度での光取り出し効率Bとの比(A/B)が1を超え、かつ前記正面輝度での光取り出し効率において、前記略四角錐プリズムの1辺の長さbと、前記略四角錐プリズムの高さhとの比(h/b)は、1.2以下であることが好ましく、0.5以下であることがより好ましい。下限値は、0.2以上であることが好ましい。
なお、この第4の実施形態では、積分強度での光取り出し効率については、特に制限はなく、目的に応じて適宜選定することができる。
【0029】
本発明においては、発光層と略四角錐プリズムとの距離dと、前記発光層の1辺の最大長さaとの比(d/a)は、0.1以下であることが好ましく、0.05以下がより好ましい。前記比(d/a)が、0.1を超えると、画像ボケが生じることがある。
ここで、前記発光層の1辺の最大長さaは、発光層の形状などに応じて異なり適宜選択することができ、例えば1辺の長さが等しい場合(例えば正方形)にはいずれの1辺であってもよいが、1辺の長さが異なる場合(例えば長方形)には最も長い辺を採用する。
【0030】
<有機EL表示部>
前記有機EL表示部(有機EL素子)は、陽極と陰極の間に少なくとも発光層を有し、必要に応じて正孔注入層、正孔輸送層、電子注入層、電子輸送層などを有してもよく、またこれらの各層はそれぞれ他の機能を備えたものであってもよい。各層の形成にはそれぞれ種々の材料を用いることができる。
前記有機EL表示部は、赤色(R)、緑色(G)及び青色(B)のいずれかを含む画素として構成される。
このような画素の構成としては、例えば「月刊ディスプレイ」、2000年9月号、33〜37ページに記載されているように、前記発光層を、赤色、緑色、又は青色に対応する光をそれぞれ発光する発光層とした画素を形成し、これら赤色、緑色、及び青色のいずれかの画素を配する3色発光法など、公知の構成を適用することができる。
【0031】
−陽極−
前記陽極は、正孔注入層、正孔輸送層、発光層などに正孔を供給するものであり、金属、合金、金属酸化物、電気伝導性化合物、又はこれらの混合物などを用いることができ、好ましくは仕事関数が4eV以上の材料である。
前記陽極の材料としては、例えば酸化スズ、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化インジウムスズ(ITO)等の導電性金属酸化物;金、銀、クロム、ニッケル等の金属、更にこれらの金属と導電性金属酸化物との混合物又は積層物、ヨウ化銅、硫化銅等の無機導電性物質;ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロール等の有機導電性材料、又はこれらとITOとの積層物などが挙げられる。これらの中でも、導電性金属酸化物が好ましく、生産性、高導電性、透明性等の点からITOが特に好ましい。
前記陽極の厚みは、特に制限はなく、材料に応じて適宜選択可能であるが、10nm〜5μmが好ましく、50nm〜1μmがより好ましく、100nm〜500nmが更に好ましい。
【0032】
前記陽極としては、例えばソーダライムガラス、無アルカリガラス、透明樹脂基板などの上に層形成したものが用いられる。ガラスを用いる場合、その材質については、ガラスからの溶出イオンを少なくするため、無アルカリガラスを用いることが好ましい。また、ソーダライムガラスを用いる場合、シリカなどのバリアコートを施したものを使用することが好ましい。
前記基板の厚みは、機械的強度を保つのに十分であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、ガラスを用いる場合には、0.2mm以上が好ましく、0.7mm以上がより好ましい。
【0033】
前記透明樹脂基板としては、バリアフィルムを用いることもできる。該バリアフィルムとは、プラスチック支持体上にガス不透過性のバリア層を設置したフィルムである。バリアフィルムとしては、酸化ケイ素や酸化アルミニウムを蒸着したもの(特公昭53−12953号公報、特開昭58−217344号公報)、有機無機ハイブリッドコーティング層を有するもの(特開2000−323273号公報、特開2004−25732号公報)、無機層状化合物を有するもの(特開2001−205743号公報)、無機材料を積層したもの(特開2003−206361号公報、特開2006−263989号公報)、有機層と無機層を交互に積層したもの(特開2007−30387号公報、米国特許第6413645号明細書、Affinitoら著 Thin Solid Films 1996年 290-291頁)、有機層と無機層を連続的に積層したもの(米国特許出願公開公報2004−46497号明細書)などが挙げられる。
【0034】
前記陽極の作製には、材料によって種々の方法が用いられるが、例えばITOの場合、電子ビーム法、スパッタリング法、抵抗加熱蒸着法、化学反応法(ゾル−ゲル法など)、酸化インジウムスズの分散物の塗布などの方法で膜形成される。陽極は洗浄その他の処理により、表示装置の駆動電圧を下げたり、発光効率を高めることも可能である。例えばITOの場合、UV−オゾン処理などが効果的である。
【0035】
−陰極−
前記陰極は、電子注入層、電子輸送層、発光層などに電子を供給するものであり、電子注入層、電子輸送層、発光層などの陰極と隣接する層との密着性やイオン化ポテンシャル、安定性等を考慮して選ばれる。
前記陰極の材料としては、金属、合金、金属酸化物、電気伝導性化合物、又はこれらの混合物を用いることができ、具体例としてはアルカリ金属(例えばLi、Na、K等)又はそのフッ化物、アルカリ土類金属(例えばMg、Ca等)又はそのフッ化物、金、銀、鉛、アルミニウム、ナトリウム−カリウム合金又はそれらの混合金属、リチウム−アルミニウム合金又はそれらの混合金属、マグネシウム−銀合金又はそれらの混合金属、インジウム、イッテリビウム等の希土類金属などが挙げられる。これらの中でも、仕事関数が4eV以下の材料が好ましく、アルミニウム、リチウム−アルミニウム合金又はそれらの混合金属、マグネシウム−銀合金又はそれらの混合金属が特に好ましい。
【0036】
前記陰極の厚みは、特に制限はなく、材料に応じて適宜選択可能であるが、10nm〜5μmが好ましく、50nm〜1μmがより好ましく、100nm〜1μmが更に好ましい。
前記陰極の作製方法としては、例えば電子ビーム法、スパッタリング法、抵抗加熱蒸着法、コーティング法などの方法が用いられ、金属を単体で蒸着することも、二成分以上を同時に蒸着することもできる。更に、複数の金属を同時に蒸着して合金電極を形成することも可能であり、また予め調整した合金を蒸着させてもよい。
前記陽極及び陰極のシート抵抗は、低い方が好ましく、数百Ω/□以下が好ましい。
【0037】
−発光層−
前記発光層の材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、電界印加時に陽極又は正孔注入層、正孔輸送層から正孔を注入することができると共に、陰極又は電子注入層、電子輸送層から電子を注入することができる機能や、注入された電荷を移動させる機能、正孔と電子の再結合の場を提供して発光させる機能を有する層を形成することができるものなどを用いることができる。
【0038】
前記発光層の材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えばベンゾオキサゾール誘導体、ベンゾイミダゾール誘導体、ベンゾチアゾール誘導体、スチリルベンゼン誘導体、ポリフェニル誘導体、ジフェニルブタジエン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体、ナフタルイミド誘導体、クマリン誘導体、ペリレン誘導体、ペリノン誘導体、オキサジアゾール誘導体、アルダジン誘導体、ピラリジン誘導体、シクロペンタジエン誘導体、ビススチリルアントラセン誘導体、キナクリドン誘導体、ピロロピリジン誘導体、チアジアゾロピリジン誘導体、シクロペンタジエン誘導体、スチリルアミン誘導体、芳香族ジメチリディン化合物、8−キノリノール誘導体の金属錯体や希土類錯体に代表される各種金属錯体;ポリチオフェン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン等のポリマー化合物、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記発光層の厚みは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、1nm〜5μmが好ましく、5nm〜1μmがより好ましく、10nm〜500nmが更に好ましい。
前記発光層の形成方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば抵抗加熱蒸着、電子ビーム、スパッタリング、分子積層法、コーティング法(スピンコート法、キャスト法、ディップコート法など)、LB法などが挙げられる。これらの中でも、抵抗加熱蒸着、コーティング法が特に好ましい。
【0039】
−正孔注入層、正孔輸送層−
前記正孔注入層及び正孔輸送層の材料としては、陽極から正孔を注入する機能、正孔を輸送する機能、陰極から注入された電子を障壁する機能のいずれかを有しているものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記正孔注入層及び正孔輸送層の材料としては、例えばカルバゾール誘導体、トリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、芳香族第三級アミン化合物、スチリルアミン化合物、芳香族ジメチリディン系化合物、ポルフィリン系化合物、ポリシラン系化合物、ポリ(N−ビニルカルバゾール)誘導体、アニリン系共重合体、チオフェンオリゴマー、ポリチオフェン等の導電性高分子オリゴマー、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0040】
前記正孔注入層及び正孔輸送層は、上述した材料の1種又は2種以上からなる単層構造であってもよいし、同一組成又は異種組成の複数層からなる多層構造であってもよい。
前記正孔注入層及び正孔輸送層の形成方法としては、例えば真空蒸着法、LB法、前記正孔注入輸送剤を溶媒に溶解又は分散させてコーティングする方法(スピンコート法、キャスト法、ディップコート法など)が用いられる。コーティング法の場合、樹脂成分と共に溶解又は分散することができる。
前記樹脂成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリブチルメタクリレート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリブタジエン、ポリ(N−ビニルカルバゾール)樹脂、炭化水素樹脂、ケトン樹脂、フェノキシ樹脂、ポリアミド樹脂、エチルセルロース、酢酸ビニル樹脂、ABS樹脂、ポリウレタン樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記正孔注入層及び正孔輸送層の厚みは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば1nm〜5μmが好ましく、5nm〜1μmがより好ましく、10nm〜500nmが更に好ましい。
【0041】
−電子注入層、電子輸送層−
前記電子注入層及び電子輸送層の材料としては、陰極から電子を注入する機能、電子を輸送する機能、陽極から注入された正孔を障壁する機能のいずれか有しているものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記電子注入層及び電子輸送層の材料としては、例えばトリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、フルオレノン誘導体、アントラキノジメタン誘導体、アントロン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、カルボジイミド誘導体、フルオレニリデンメタン誘導体、ジスチリルピラジン誘導体、ナフタレンペリレン等の複素環テトラカルボン酸無水物、フタロシアニン誘導体、8−キノリノール誘導体の金属錯体やメタルフタロシアニン、ベンゾオキサゾールやベンゾチアゾールを配位子とする金属錯体に代表される各種金属錯体、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0042】
前記電子注入層、電子輸送層は、上述した材料の1種又は2種以上からなる単層構造であってもよいし、同一組成又は異種組成の複数層からなる多層構造であってもよい。
前記電子注入層、電子輸送層の形成方法としては、例えば真空蒸着法、LB法、前記電子注入輸送剤を溶媒に溶解又は分散させてコーティングする方法(スピンコート法、キャスト法、ディップコート法など)などが用いられる。コーティング法の場合、樹脂成分と共に溶解又は分散することができ、前記樹脂成分としては、例えば、正孔注入輸送層の場合に例示したものが適用できる。
前記電子注入層、電子輸送層の厚みは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、1nm〜5μmが好ましく、5nm〜1μmがより好ましく、10nm〜500nmが更に好ましい。
【0043】
<略四角錐プリズム>
前記略四角錐プリズムは、光取り出し面に設けられ発光層から発光される光の光路を制御する機能を有する。
前記略四角錐プリズムとしては、底面が略正方形のものから略長方形のものまでも含まれる。また、前記略四角錐プリズムには、三角形の頂部が曲線状であるもの、三角形の頂部を切り取った台形断面を有するものも含まれる。なお、プリズム形状としては、本発明の効果を奏することができれば特に制限はなく、四角錐以外にも、三角柱、円錐、六角錐八角錐などであっても構わない。
前記略四角錐プリズムは、1画素に1個配置することには限られず、複数個配置しても構わない。また、1画素に小さなプリズムを多数配置しても構わない。
前記光取り出し面としては、ボトムエミッション型では、例えばガラス基板などが挙げられる。トップエミッション型では、例えばバリア層などが挙げられる。
【0044】
前記略四角錐プリズムとしては、その配列、大きさ、材質などについては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、前記プリズムの配列としては、例えば正方格子状、ハニカム状、ドットマトリックス状などが挙げられる。
前記プリズムの材質としては、透明樹脂、ガラス、透明結晶、透明セラミックなどが挙げられる。
前記略四角錐プリズムの底面の1辺の長さbとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、5μm以上であることが好ましく、10μm〜200μmがより好ましい。前記底面の1辺の長さbが、5μm未満であると、回折の影響がでてきて光取り出し効率が下がることがある。
【0045】
前記略四角錐プリズムの作製方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば切削加工、インクジェット法、インプリント法、フォトリソグラフィ法、などが挙げられる。
前記インプリント法では、例えば離型剤及びUV硬化樹脂を含む組成物を、略四角錐プリズムを形成可能に成形した透明なモールド上に塗布した後に、該透明なモールドを有機EL素子上に圧着し、UV光を照射した後、離型することによって有機EL素子上に略四角錐プリズムを形成することができる。
【0046】
−バリア層−
前記バリア層としては、大気中の酸素、水分、窒素酸化物、硫黄酸化物、オゾン等の透過を防ぐという機能を有すれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記バリア層の材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、SiN、SiON、などが挙げられる。
前記バリア層の厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、5nm〜1,000nmが好ましく、7nm〜750nmがより好ましく、10nm〜500nmが特に好ましい。前記バリア層の厚みが、5nm未満であると、大気中の酸素及び水分の透過を防ぐバリア機能が不充分であることがあり、1,000nmを超えると、光線透過率が低下し、透明性を損なうことがある。
前記バリア層の光学的性質は、光線透過率が80%以上であることが好ましく、85%以上がより好ましく、90%以上が更に好ましい。
前記バリア層の形成方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、CVD法、真空蒸着法、などが挙げられる。
【0047】
−基板−
前記基板としては、その材料、形状、構造、大きさ等については、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、前記基板の形状としては、板状であることが好ましい。前記基板の構造としては、単層構造であってもよいし、積層構造であってもよく、また、単一部材で形成されていてもよいし、2以上の部材で形成されていてもよい。前記基板は、無色透明であっても、有色透明であってもよいが、発光層から発せられる光を散乱又は減衰等させることがない点で、無色透明であることが好ましい。
【0048】
前記基板の材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えばイットリア安定化ジルコニア(YSZ)、ガラス等の無機材料;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリイミド、ポリシクロオレフィン、ノルボルネン樹脂、ポリ(クロロトリフルオロエチレン)等の有機材料、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0049】
前記基板としてガラスを用いる場合には、その材質については、ガラスからの溶出イオンを少なくするため、無アルカリガラスを用いることが好ましい。また、ソーダライムガラスを用いる場合には、シリカなどのバリアコートを施したもの(例えば、バリアフィルム基板)を使用することが好ましい。有機材料の場合には、耐熱性、寸法安定性、耐溶剤性、電気絶縁性、及び加工性に優れていることが好ましい。
【0050】
前記熱可塑性基板を用いる場合には、更に必要に応じて、ハードコート層、アンダーコート層などを設けてもよい。
【0051】
ここで、図1は、本発明の有機EL装置の一例であるボトムエミッション型の有機EL装置を示す概略断面図である。図2は、本発明の有機EL装置の一例であるトップエミッション型の有機EL装置を示す概略断面図である。
【0052】
図1のボトムエミッション型の有機EL装置100は、ガラス基板1上に、有機EL表示部101(陽極2、ホール注入層3、ホール輸送層4、発光層5、電子輸送層6、電子注入層7、陰極8)を有し、光取り出し面としてのガラス基板1上に四角錐プリズム9が形成されている。
図2のトップエミッション型の有機EL装置200は、ガラス基板1上に、有機EL表示部201(陰極8、ホール注入層3、ホール輸送層4、発光層5、電子輸送層6、電子注入層7、陽極2)を有し、陽極2上にガスバリア層10が形成され、光取り出し面としてのガスバリア層10上に四角錐プリズム9が形成されている。
なお、「光出射方向」は、発光層からの光が、光取り出し面から有機EL装置の外部に出射される方向を示す。図1に示すボトムエミッション型の有機EL装置100の場合、矢印で示した通り、発光層5からみて図面に平行に下方に向かう方向を示す。図2に示すトップエミッション型の有機EL装置200の場合、矢印で示した通り、発光層5からみて図面に平行に上方に向かう方向を示す。
【0053】
本発明の有機EL装置は、フルカラーで表示し得る装置として構成されてもよい。本発明の有機EL装置をフルカラータイプのものとする方法としては、例えば「月刊ディスプレイ」、2000年9月号、33〜37ページに記載されているように、色の3原色(青色(B)、緑色(G)、赤色(R))に対応する光をそれぞれ発光する層構造を基板上に配置する3色発光法、白色発光用の層構造による白色発光をカラーフィルタを通して3原色に分ける白色法、青色発光用の層構造による青色発光を蛍光色素層を通して赤色(R)及び緑色(G)に変換する色変換法、などが知られている。
【0054】
また、上記方法により得られる異なる発光色の層構造を複数組み合わせて用いることにより、所望の発光色の平面型光源を得ることができる。例えば、青色及び黄色の発光素子を組み合わせた白色発光光源、青色、緑色、赤色の発光素子を組み合わせた白色発光光源、等である。
【0055】
本発明の有機EL装置は、例えば、コンピュータ、車載用表示器、野外表示器、家庭用機器、業務用機器、家電用機器、交通関係表示器、時計表示器、カレンダ表示器、ルミネッセントスクリーン、音響機器等をはじめとする各種分野において好適に使用することができる。
【実施例】
【0056】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0057】
(実施例1)
ボトムエミッション型の下記4種類の有機EL素子(1)〜(4)を、以下のようにして、それぞれ作製した。
【0058】
<有機EL素子(1)(wm=2)の作製;陽極が透明電極(ITO)である場合>
ガラス基板として、厚みが0.2mm、屈折率が1.8のS−TIH6(オハラ社製)を用いた。
次に、ガラス基板上に、陽極としてITOを、厚みが100nmとなるように、真空蒸着により形成した。作製したITO膜の発光層からみた反射率は2%、透過率は97%であった。
次に、ITO膜上に、ホール注入層として2−TNATA〔4,4’,4”−トリス(2−ナフチルフェニルアミノ)トリフェニルアミン〕とMnOを7:3の割合で、厚みが20nmとなるように、真空蒸着により形成した。
次に、ホール注入層上に、第1のホール輸送層として2−TNATAにF4−TCNQ(2,3,5,6−tetrafluoro−7,7,8,8tetracyanoquinodimethane)を1.0%ドープして141nmの厚さとなるように、真空蒸着により形成した。
次に、第1のホール輸送層上に、第2のホール輸送層としてα−NPD〔N,N’−(ジナフチルフェニルアミノ)ピレン〕を、厚みが10nmとなるように、真空蒸着により形成した。
次に、第2のホール輸送層上に、第3のホール輸送層として下記構造式で表されるホール輸送材料Aを、厚みが3nmとなるように、真空蒸着により形成した。
【化1】

【0059】
次に、第3のホール輸送層上に、発光層を、ホスト材料としてCBP(4,4’−ジカルバゾール−ビフェニル)と、発光材料として下記構造式で表される発光材料Aを、85:15の割合で、厚みが20nmとなるように、真空共蒸着により形成した。
【化2】

【0060】
次に、発光層上に、第1の電子輸送層としてBAlq(Aluminum(III)bis(2-methyl-8-quinolinato)-4-phenylphenolate)を、厚みが39nmとなるように、真空蒸着により形成した。
次に、第1の電子輸送層上に、第2の電子輸送層としてBCP(2,9-dimethyl-4,7-diphenyl-1,10-phenanthrolin)を、厚みが1nmとなるように、真空蒸着により形成した。
次に、第2の電子輸送層上に、電子注入層としてLiFを、厚みが1nmとなるように、真空蒸着により形成した。
次に、電子注入層上に、陰極としてアルミニウム(Al)を、厚みが100nmとなるように、真空蒸着により形成した。
以上により、有機EL素子(1)を作製した。
【0061】
<有機EL素子(2)(sm=1)の作製;光学長が1次のマイクロキャビティ構造である場合>
有機EL素子(1)の作製において、陽極として厚み100nmのITO膜の変わりに厚み20nmのAg膜を形成し、第1のホール輸送層の厚みを141nmから11nmに変えた以外は、有機EL素子(1)の作製と同様にして、有機EL素子(2)を作製した。作製したAg膜の発光層からみた反射率は47%、透過率は45%であった。
得られた有機EL素子(2)は、光学長L(λ)が1λ(ただし、λは発光波長を表す)である1次のマイクロキャビティ構造を有していた。
【0062】
<有機EL素子(3)(sm=2)の作製;光学長が2次のマイクロキャビティ構造である場合>
有機EL素子(1)の作製において、陽極として厚み100nmのITO膜の変わりに厚み20nmのAg膜を形成した以外は、有機EL素子(1)の作製と同様にして、有機EL素子(3)を作製した。作製したAg膜の発光層からみた反射率は47%、透過率は45%であった。
得られた有機EL素子(3)は、光学長L(λ)が2λ(ただし、λは発光波長を表す)である2次のマイクロキャビティ構造を有していた。
【0063】
<有機EL素子(4)(sm=3)の作製;光学長が3次のマイクロキャビティ構造である場合>
有機EL素子(1)の作製において、陽極として厚み100nmのITO膜の変わりに厚み20nmのAg膜を形成し、第1のホール輸送層の厚みを141nmから271nmに変えた以外は、有機EL素子(1)の作製と同様にして、有機EL素子(4)を作製した。作製したAg膜の発光層からみた反射率は47%、透過率は45%であった。
得られた有機EL素子(4)は、光学長L(λ)が3λ(ただし、λは発光波長を表す)である3次のマイクロキャビティ構造を有していた。
【0064】
作製した各有機EL素子は、緑(約530nm)の発光に最適化したものであり、各有機EL素子の発光部分(発光層)は1辺の最大長さaが2mmであった。
【0065】
次に、作製した各有機EL素子について、その光取り出し面としてのガラス基板上に、十分に径の大きい(半径10mm)、屈折率1.8のシリンダーレンズをマッチングオイル(屈折率=1.8)で装着した。各有機EL素子について、以下のようにして、配光分布を測定した。この評価により、ガラス内での光の角度分布を知ることができる。
有機EL素子(1)(wm=2)の配光分布の結果を図3、有機EL素子(2)(sm=1)の配光分布の結果を図4、有機EL素子(3)(sm=2)の配光分布の結果を図5、及び有機EL素子(4)(sm=3)の配光分布の結果を図6にそれぞれ示す。
<配光分布の測定方法>
シリコンディテクターをゴニオメータに装着し、各有機EL素子を発光させて、ゴニオメータの角度と、ディテクターからの光強度に対応する電圧信号との関係を測定し、配光分布を求めた。
【0066】
図3〜図6の結果から、各有機EL素子におけるガラス内での配光分布(光の角度分布)が、有機EL素子の構造によって大きく変化することが分かった。即ち、図3の有機EL素子(1)(wm=2)と図5の有機EL素子(3)(sm=2)は、陽極が透明電極(ITO)であるか、半透過電極(Ag電極)であるかの点でのみ相違するが、図3と図5に示すように、ガラス内での配光分布が大きく異なることが分かった。
また、図4の有機EL素子(2)(sm=1)、図5の有機EL素子(3)(sm=2)、及び図6の有機EL素子(4)(sm=3)は、ホール輸送層の厚みが異なり、マイクロキャビティ構造の光学長が異なるものである。図4、図5、及び図6の結果から、マイクロキャビティ構造の光学長が1次、2次、及び3次と異なることにより、配光分布(光の角度分布)も異なることが分かった。
【0067】
ここで、各有機EL素子の光取り出し面に、光取り出し部材としての四角錐プリズムが装着されていない場合は、ガラスと空気の界面の全反射角度は±33°であり、この角度より大きい角度に光は空気中に放射されない。
【0068】
次に、各有機EL素子において、光取り出し部材としての四角錐プリズムを装着した場合について検討する。
実際の有機EL素子の配光分布を考慮した場合の四角錐プリズムに対する光取り出し効率の定量的な振る舞いは予測が困難であり、以下のようにして、光取り出し効率の評価実験を行った。
【0069】
<光取り出し効率の評価実験>
図7及び図8に示すように、有機EL素子の光取り出し面となるガラス基板23上に、切削加工により作製した屈折率が1.8の四角錐プリズム22を5面研磨により作製し、高屈折率ナノ粒子(TiO)を分散させた接着剤で接着することにより装着し、各有機EL装置を作製した。そして、四角錐プリズム22の1辺の長さbを2mmとし、四角錐プリズムの高さhを0mm〜3mmに変化させた。
各有機EL装置において、発光層と四角錐プリズムとの距離dと、発光層の1辺の最大長さaとの比(d/a)は0.1であった。
【0070】
作製した各有機EL装置について、以下のようにして、光取り出し効率を測定した。なお、光取り出し効率は、積分強度と正面輝度の両方について測定した。結果を図9(正面輝度)及び図10(積分強度)に示す。
<光取り出し効率>
四角錐プリズムを装着した有機EL素子の正面輝度を、四角錐プリズムを装着しない有機EL素子の正面輝度で割った値を正面輝度での光取り出し効率と定義した。
四角錐プリズムを装着した有機EL素子の積分強度を、四角錐プリズムを装着しない有機EL素子の積分強度で割った値を積分強度での光取り出し効率と定義した。
なお、積分強度及び正面輝度は、分光放射輝度計(トプコン社製、SR−3)で測定した。
【0071】
図9及び図10の結果から、光取り出し効率の正面輝度及び積分強度は、四角錐プリズムの高さh、及び比(h/b)により変動し、有機EL素子の構成により異なることが分かった。以下、有機EL素子ごとに説明する。
【0072】
<有機EL素子(1)(wm=2):有機EL素子の陽極が透明電極(ITO)である場合>
有機EL素子(1)は、図9に示すように、光取り出し効率の正面輝度については、四角錐プリズムの高さhが0.5mmまでは急激に上昇し、その後、急激に減少し、有機EL素子(2)〜(4)よりも減少率が大きいことが分かった。
したがって有機EL素子(1)において、四角錐プリズムを光取り出し面に設けたときの正面輝度での光取り出し効率Aと、四角錐プリズムを光取り出し面に設けないときの正面輝度での光取り出し効率Bとの比(A/B)が1を超えるのは、前記正面輝度での光取り出し効率についての比(h/b)が1.2以下であることが分かった。
また、有機EL素子(1)は、図10に示すように、光取り出し効率の積分強度については、四角錐プリズムの高さh及び比(h/b)の影響を受けないことが分かった。
【0073】
<有機EL素子(2)(sm=1):光学長が1次のマイクロキャビティ構造である場合>
有機EL素子(2)は、図9に示すように、光取り出し効率の正面輝度については、四角錐プリズムの高さhが0.5mmまでは上昇し、その後、減少することが分かった。
したがって有機EL素子(2)において、四角錐プリズムを光取り出し面に設けたときの正面輝度での光取り出し効率Aと、四角錐プリズムを光取り出し面に設けないときの正面輝度での光取り出し効率Bとの比(A/B)が1を超えるのは、前記正面輝度での光取り出し効率についての比(h/b)が0.7以下であることが分かった。
また、有機EL素子(2)は、図10に示すように、光取り出し効率の積分強度については、四角錐プリズムの高さhが0.3mmまでは上昇し、その後、減少することが分かった。
したがって有機EL素子(2)において、四角錐プリズムを光取り出し面に設けたときの積分強度での光取り出し効率Cと、四角錐プリズムを光取り出し面に設けないときの積分強度での光取り出し効率Dとの比(C/D)が1を超えるのは、光取り出し効率の積分強度についての比(h/b)が0.45以下であることが分かった。
【0074】
<有機EL素子(3)(sm=2):光学長が2次のマイクロキャビティ構造である場合>
有機EL素子(3)は、図9に示すように、光取り出し効率の正面輝度については、四角錐プリズムの高さhが0.5mmまでは上昇し、その後、減少することが分かった。
したがって有機EL素子(3)において、四角錐プリズムを光取り出し面に設けたときの正面輝度での光取り出し効率Aと、四角錐プリズムを光取り出し面に設けないときの正面輝度での光取り出し効率Bとの比(A/B)が1を超えるのは、光取り出し効率の正面輝度についての比(h/b)が0.5以下であることが分かった。
また、有機EL素子(3)は、図10に示すように、光取り出し効率の積分強度については、四角錐プリズムの高さhが0.3mmまで上昇した後減少し、再度上昇した後減少することが分かった。
したがって有機EL素子(3)において、四角錐プリズムを光取り出し面に設けたときの積分強度での光取り出し効率Cと、四角錐プリズムを光取り出し面に設けないときの積分強度での光取り出し効率Dとの比(C/D)が1を超えるのは、光取り出し効率の積分強度についての比(h/b)が1.2以下であることが分かった。
【0075】
<有機EL素子(4)(sm=3):光学長が3次のマイクロキャビティ構造である場合>
有機EL素子(4)は、図9に示すように、光取り出し効率の正面輝度については、四角錐プリズムの高さhが0.5mmまでは増加し、その後減少することが分かった。
したがって有機EL素子(4)において、四角錐プリズムを光取り出し面に設けたときの正面輝度での光取り出し効率Aと、四角錐プリズムを光取り出し面に設けないときの正面輝度での光取り出し効率Bとの比(A/B)が1を超えるのは、光取り出し効率の正面輝度についての比(h/b)が0.4以下であることが分かった。
また、有機EL素子(4)は、図10に示すように、光取り出し効率の積分強度については、四角錐プリズムの高さh及び比(h/b)の影響を受けないことが分かった。
【0076】
(実施例2)
トップエミッション型の3種類の有機EL素子(5)〜(7)を、以下のようにして、それぞれ作製した。
【0077】
<有機EL素子(5)(sm=1)の作製;光学長が1次のマイクロキャビティ構造である場合>
ガラス基板として、厚みが0.7mm、屈折率が1.5のイーグル2000(コーニング社製)を用いた。
次に、ガラス基板上に、陰極としてアルミニウム(Al)を、厚みが100nmとなるように、真空蒸着により形成した。
次に、Al膜上に、ホール注入層として2−TNATA〔4,4’,4”−トリス(2−ナフチルフェニルアミノ)トリフェニルアミン〕とMnOを7:3の割合で、厚みが20nmとなるように、真空蒸着により形成した。
次に、ホール注入層上に、第1のホール輸送層として2−TNATAにF4−TCNQ(2,3,5,6−tetrafluoro−7,7,8,8tetracyanoquinodimethane)を1.0%ドープして11nmの厚みとなるように、真空蒸着により形成した。
次に、第1のホール輸送層上に、第2のホール輸送層としてα−NPD〔N,N’−(ジナフチルフェニルアミノ)ピレン〕を、厚みが10nmとなるように、真空蒸着により形成した。
次に、第2のホール輸送層上に、第3のホール輸送層材料として下記構造式で表されるホール輸送材料Aを、厚みが3nmとなるように、真空蒸着により形成した。
【化3】

【0078】
次に、第3のホール輸送層上に、発光層を、ホスト材料としてCBP(4,4’−ジカルバゾール−ビフェニル)と、発光材料として下記構造式で表される発光材料Aを、85:15の割合で、厚みが20nmとなるように、真空共蒸着により形成した。
【化4】

【0079】
次に、発光層上に、第1の電子輸送層としてBAlq(Aluminum(III)bis(2-methyl-8-quinolinato)-4-phenylphenolate)を、厚みが39nmとなるように、真空蒸着により形成した。
次に、第1の電子輸送層上に、第2の電子輸送層としてBCP(2,9-dimethyl-4,7-diphenyl-1,10-phenanthrolin)を、厚みが1nmとなるように、真空蒸着により形成した。
次に、第2の電子輸送層上に、電子注入層としてLiFを、厚みが1nmとなるように、真空蒸着により形成した。
次に、電子注入層上に、陽極として、Agを、厚みが20nmとなるように、真空蒸着により形成した。作製したAg膜の発光層からみた反射率は47%、透過率は45%であった。
以上により、有機EL素子(5)を作製した。
得られた有機EL素子(5)は、光学長L(λ)が1λ(ただし、λは発光波長を表す)である1次のマイクロキャビティ構造を有していた。
【0080】
<有機EL素子(6)(sm=2)の作製;光学長が2次のマイクロキャビティ構造である場合>
有機EL素子(5)の作製において、第1のホール輸送層の厚みを11nmから141nmに変えた以外は、有機EL素子(5)の作製と同様にして、有機EL素子(6)を作製した。
得られた有機EL素子(6)は、光学長L(λ)が2λ(ただし、λは発光波長を表す)である2次のマイクロキャビティ構造を有していた。
【0081】
<有機EL素子(7)(sm=3)の作製;光学長が3次のマイクロキャビティ構造である場合>
有機EL素子(5)の作製において、第1のホール輸送層の厚みを11nmから271nmに変えた以外は、有機EL素子(5)の作製と同様にして、有機EL素子(7)を作製した。
得られた有機EL素子(7)は、光学長L(λ)が3λ(ただし、λは発光波長を表す)である3次のマイクロキャビティ構造を有していた。
【0082】
作製した各有機EL素子は、緑(約530nm)の発光に最適化したものであり、各有機EL素子の発光部分(発光層)の1辺は、最大長さaが2mmであった。
【0083】
次に、作製した各有機EL素子について、実施例1と同様にして、配光分布を測定した。この評価により、ガラス内での配光分布(光の角度分布)を知ることができる。有機EL素子(5)(sm=1)の配光分布の結果を図4、有機EL素子(6)(sm=2)の配光分布の結果を図5、及び有機EL素子(7)(sm=3)の配光分布の結果を図6にそれぞれ示す。
【0084】
図4〜図6の結果から、各有機EL素子におけるガラス内での配光分布(光の角度分布)は、有機EL素子の構造によって大きく変化することが分かった。
即ち、図4の有機EL素子(5)、図5の有機EL素子(6)、及び図6の有機EL素子(7)は、第1のホール輸送層の厚みが異なり、マイクロキャビティ構造の光学長が異なるものである。図4、図5、及び図6の結果から、マイクロキャビティ構造の光学長が1次、2次、及び3次と異なることにより、配光分布(光の角度分布)も異なることが分かった。
【0085】
次に、各有機EL素子について、以下のようにして、光取り出し効率の評価を行った。
<光取り出し効率の評価実験>
図11及び図12に示すように、有機EL素子の光取り出し面に、切削加工により作製した屈折率が1.8の四角錐プリズム22を、高屈折率の無機微粒子(TiO)を分散した樹脂で貼り付けて、有機EL装置を作製した。そして、四角錐プリズムの1辺の長さbを2mmとし、四角錐プリズムの高さhを0mm〜3mmに変化させた。
各有機EL装置において、発光層と四角錐プリズムとの距離dと、発光層の1辺の最大長さaとの比(d/a)は0.1であった。
【0086】
作製した各有機EL装置について、実施例1と同様にして、光取り出し効率を測定した。なお、光取り出し効率は、積分強度と正面輝度の両方を測定した。結果を図13(正面輝度)及び図14(積分強度)に示す。
【0087】
図13及び図14の結果から、光取り出し効率の正面輝度及び積分強度は、四角錐プリズムの高さh、及び比(h/b)により変動し、有機EL素子の構成により異なることが分かった。以下、有機EL素子ごとに説明する。
【0088】
<有機EL素子(5)(sm=1):光学長が1次のマイクロキャビティ構造である場合>
有機EL素子(5)は、図13に示すように、光取り出し効率の正面輝度については、四角錐プリズムの高さhが0.5mmまでは上昇し、その後、減少することが分かった。
したがって有機EL素子(5)において、四角錐プリズムを光取り出し面に設けたときの正面輝度での光取り出し効率Aと、四角錐プリズムを光取り出し面に設けないときの正面輝度での光取り出し効率Bとの比(A/B)が1を超えるのは、前記正面輝度での光取り出し効率についての比(h/b)が0.7以下であることが分かった。
また、有機EL素子(5)は、図14に示すように、光取り出し効率の積分強度については、四角錐プリズムの高さhが0.3mmまでは上昇し、その後、減少することが分かった。
したがって有機EL素子(5)において、四角錐プリズムを光取り出し面に設けたときの積分強度での光取り出し効率Cと、四角錐プリズムを光取り出し面に設けないときの積分強度での光取り出し効率Dとの比(C/D)が1を超えるのは、光取り出し効率の積分強度についての比(h/b)が0.45以下であることが分かった。
【0089】
<有機EL素子(6)(sm=2):光学長が2次のマイクロキャビティ構造である場合>
有機EL素子(6)は、図13に示すように、光取り出し効率の正面輝度については、四角錐プリズムの高さhが0.5mmまでは上昇し、その後、減少することが分かった。
したがって有機EL素子(6)において、四角錐プリズムを光取り出し面に設けたときの正面輝度での光取り出し効率Aと、四角錐プリズムを光取り出し面に設けないときの正面輝度での光取り出し効率Bとの比(A/B)が1を超えるのは、光取り出し効率の正面輝度についての比(h/b)が0.5以下であることが分かった。
また、有機EL素子(6)は、図14に示すように、光取り出し効率の積分強度については、四角錐プリズムの高さhが0.3mmまで上昇した後減少し、再度上昇した後減少することが分かった。
したがって有機EL素子(6)において、四角錐プリズムを光取り出し面に設けたときの積分強度での光取り出し効率Cと、四角錐プリズムを光取り出し面に設けないときの積分強度での光取り出し効率Dとの比(C/D)が1を超えるのは、光取り出し効率の積分強度についての比(h/b)が1.2以下であることが分かった。
【0090】
<有機EL素子(7)(sm=3):光学長が3次のマイクロキャビティ構造である場合>
有機EL素子(7)は、図13に示すように、光取り出し効率の正面輝度については、四角錐プリズムの高さhが0.5mmまでは増加し、その後減少することが分かった。
したがって有機EL素子(7)において、四角錐プリズムを光取り出し面に設けたときの正面輝度での光取り出し効率Aと、四角錐プリズムを光取り出し面に設けないときの正面輝度での光取り出し効率Bとの比(A/B)が1を超えるのは、光取り出し効率の正面輝度についての比(h/b)が0.4以下であることが分かった。
また、有機EL素子(7)は、図14に示すように、光取り出し効率の積分強度については、四角錐プリズムの高さh及び比(h/b)の影響を受けないことが分かった。
【0091】
以上説明した実施例1及び2の結果から、有機EL素子の構成に応じて、組み合わせる最適な四角錐プリズムの高さhが異なり、有機EL素子の構成と四角錐プリズムとの組み合わせを適正化しないと、十分な光取り出し効率が得られない領域があることが分かった。
【0092】
以上説明した実施例1及び実施例2の結果は、緑色(約530nm)1画素について行ったものであるが、青色(約470nm)及び赤色(約630nm)についても同様の結果が得られた。
即ち、赤色(R)、緑色(G)、及び青色(B)のRGBの3画素を有するデバイスを作製し、RGB3画素について四角錐プリズムを配置する場合は、図15に示すように、RGB3画素の一つ一つの各画素を四角錐プリズムで取り囲んで配置してもよく、図16に示すように、RGB3画素を一単位として四角錐プリズムで取り囲んで配置してもよい。また、四角錐プリズムは、1画素に1個には限られず、複数個配置しても構わない。図17に示すように、1つの画素Gに多数の小さい四角錐プリズム24を配置することもできる。
また、画素の形状については、特に制限はなく、目的に応じて適宜変更することができ、例えば正方形状の画素、長方形状の画素、円形状の画素、三角形状の画素、などが挙げられる。
また、前記実施例1及び2では、発光部分(発光層)の1辺の最大長さaが2mmの有機EL素子を作製して評価を行ったが、プリズムの大きさ(1辺の長さb)と発光部分(発光層)の1辺の最大長さaとの比(a/b)が同じであれば、光学的性質は等価である。
実際、発光部分(発光層)の1辺の最大長さaが2μmの有機EL素子を作製し、同様に評価した。なお、この際、厚み(d)が20μmのガラス基板を用いて実験を行った。その結果、1辺が2mmの場合と同様な光学的性質が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明の有機EL装置は、光取出し効率が高く、かつ画像のにじみが少ないので、ボトムエミッション型有機EL表示装置、及びトップエミッション型有機EL表示装置のいずれにも好適に用いられ、例えば、コンピュータ、車載用表示器、野外表示器、家庭用機器、業務用機器、家電用機器、交通関係表示器、時計表示器、カレンダ表示器、ルミネッセントスクリーン、音響機器等をはじめとする各種分野において好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0094】
1 ガラス基板
2 陽極
3 ホール注入層
4 ホール輸送層
5 発光層
6 電子輸送層
7 電子注入層
8 陰極
9 四角錐プリズム
10 バリア層
21 画素
22 四角錐プリズム
23 ガラス基板
24 小さい四角錐プリズム
100 有機EL装置
101 有機EL素子(有機EL表示部)
200 有機EL装置
201 有機EL素子(有機EL表示部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と陰極の間に少なくとも発光層を含む有機EL表示部と、前記発光層から発光される光の光路を制御する略四角錐プリズムと、を少なくとも有し、
前記略四角錐プリズムを光取り出し面に設けたときの正面輝度での光取り出し効率Aと、前記略四角錐プリズムを光取り出し面に設けないときの正面輝度での光取り出し効率Bとの比(A/B)が1を超え、かつ前記正面輝度での光取り出し効率において、前記略四角錐プリズムの1辺の長さbと、前記略四角錐プリズムの高さhとの比(h/b)が1.2以下であることを特徴とする有機EL装置。
【請求項2】
有機EL表示部が、光学長L(λ)が1λ(ただし、λは発光波長を表す)である1次のマイクロキャビティ構造を有し、
略四角錐プリズムを光取り出し面に設けたときの正面輝度での光取り出し効率Aと、略四角錐プリズムを光取り出し面に設けないときの正面輝度での光取り出し効率Bとの比(A/B)が1を超え、かつ前記正面輝度での光取り出し効率において、前記略四角錐プリズムの1辺の長さbと、前記略四角錐プリズムの高さhとの比(h/b)が0.7以下である請求項1に記載の有機EL装置。
【請求項3】
有機EL表示部が、光学長L(λ)が2λ(ただし、λは発光波長を表す)である2次のマイクロキャビティ構造を有し、
略四角錐プリズムを光取り出し面に設けたときの正面輝度での光取り出し効率Aと、略四角錐プリズムを光取り出し面に設けないときの正面輝度での光取り出し効率Bとの比(A/B)が1を超え、かつ前記正面輝度での光取り出し効率において、前記略四角錐プリズムの1辺の長さbと、前記略四角錐プリズムの高さhとの比(h/b)が0.5以下である請求項1に記載の有機EL装置。
【請求項4】
有機EL表示部が、光学長L(λ)が3λ(ただし、λは発光波長を表す)である3次のマイクロキャビティ構造を有し、
略四角錐プリズムを光取り出し面に設けたときの正面輝度での光取り出し効率Aと、略四角錐プリズムを光取り出し面に設けないときの正面輝度での光取り出し効率Bとの比(A/B)が1を超え、かつ前記正面輝度での光取り出し効率において、前記略四角錐プリズムの1辺の長さbと、前記略四角錐プリズムの高さhとの比(h/b)が0.4以下である請求項1に記載の有機EL装置。
【請求項5】
有機EL表示部の陽極が、発光層からみた反射率が10%以下の透明電極であり、
略四角錐プリズムを光取り出し面に設けたときの正面輝度での光取り出し効率Aと、略四角錐プリズムを光取り出し面に設けないときの正面輝度での光取り出し効率Bとの比(A/B)が1を超え、かつ前記正面輝度での光取り出し効率において、前記略四角錐プリズムの1辺の長さbと、前記略四角錐プリズムの高さhとの比(h/b)が1.2以下である請求項1に記載の有機EL装置。
【請求項6】
発光層と略四角錐プリズムとの距離dと、前記発光層の1辺の最大長さaとの比(d/a)が0.1以下である請求項1から5のいずれかに記載の有機EL装置。
【請求項7】
陽極と陰極の間に少なくとも発光層を含む有機EL表示部と、前記発光層から発光される光の光路を制御する略四角錐プリズムと、を少なくとも有する有機EL装置の設計方法であって、
前記略四角錐プリズムを光取り出し面に設けたときの正面輝度での光取り出し効率Aと、前記略四角錐プリズムを光取り出し面に設けないときの正面輝度での光取り出し効率Bとの比(A/B)が1を超え、かつ前記正面輝度での光取り出し効率において、前記略四角錐プリズムの1辺の長さbと、前記略四角錐プリズムの高さhとの比(h/b)が1.2以下を満たすように設計することを特徴とする有機EL装置の設計方法。

【図9】
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【図10】
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【図13】
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【図14】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図11】
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【図12】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2011−18583(P2011−18583A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−162988(P2009−162988)
【出願日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】