説明

有機EL装置及び電子機器

【課題】指向性表示の可能な高精細有機EL装置において、素子基板にカラーフィルター基板やレンチキュラレンズシートを貼り合せる構成では、位置ズレやシート自体の厚みに起因する隣接画素からの漏れ光が問題となる。
【解決手段】有機EL装置1は、基板本体20上に、第一電極としての陽極10と、陽極10の形成位置に対応した開口部を有する隔壁13と、少なくとも開口部に配置される機能層12と、隔壁13及び機能層12を覆う第二電極としての陰極11と、陰極11を覆う単層または多層の封止層Fと、封止層F上に上記開口部と平面的に重なって配置されたカラーフィルター25と、カラーフィルター25上に配置されたレンチキュラレンズ27とを有する。カラーフィルター25とレンチキュラレンズ27の開口部に対する位置ズレが少なく、機能層12からレンチキュラレンズ27までの光路長が短いため隣接画素の漏れ光が少ない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL装置及び当該有機EL装置を備えた電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電気光学装置の1つとして、複数の方向から見たときに、それぞれの視方向ごとに異なる画像を表示(以下、指向性表示と呼ぶ)することができる表示装置が知られている。このような表示装置として、表示部に表示される左眼用と右眼用との視差画像情報に対応するレンチキュラレンズと、表示部に対するレンチキュラレンズの位置を調整可能な位置調整手段とを備えたフィルターを枠部に取り付け、当該枠部が表示部に取り外し可能な状態で装着されたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
上記表示装置によれば、観察者は、レンチキュラレンズを介して視差画像情報を観察することにより、表示された画像を立体的なものとして視認することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−173034号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、レンチキュラレンズは、数百ミクロン〜数ミリメートル程度の厚みを持つシート状の基材表面に形成されてなることが一般的であり、これを表示部に取り付けることになる。表示部は、例えば複数の画素と、画素ごとに設けられたカラーフィルターとを有している。画素に対応したカラーフィルターとレンチキュラレンズとの位置を対応させて貼り合せることで、指向性表示が得られるため、表示装置を高解像度化しようとするほど、カラーフィルターとレンチキュラレンズとの位置合わせ精度が難しくなるという課題があった。例えば、画素ピッチが15ミクロンである表示部に、500ミクロンの基材厚を有するレンチキュラレンズシートを貼り合せる場合、カラーフィルターと、レンチキュラレンズシート上のレンチキュラレンズとを光学的に拡大し、同一被写界深度内の視野で捉えて位置合わせすることは非常に困難である。
【0006】
さらに、画素ピッチに比してレンチキュラレンズシートの基材厚が数倍以上厚くなってくると、画素に対応したカラーフィルターからの略斜め方向の出射光が、隣接レンチキュラレンズに入射するようになり、指向性表示の解像度を劣化させる原因となってしまうという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]本適用例に係る有機EL装置は、基板上に、第一電極と、前記第一電極の形成位置に対応した開口部を有する隔壁と、少なくとも前記開口部に配置される機能層と、前記隔壁及び前記機能層を覆う第二電極と、前記第二電極を覆う単層または多層の封止層と、前記封止層上に前記開口部と平面的に重なって配置されたカラーフィルターと、前記カラーフィルター上に配置されたレンチキュラレンズと、
を有することを特徴とする。
【0009】
本適用例によれば、レンチキュラレンズがカラーフィルター上に配置されるため、カラーフィルターとレンチキュラレンズとをレンチキュラレンズシートを形成する基材を介して位置合わせしなくてすむため、両者を光学的な拡大手段により同一被写界深度内の視野で捉えることができ、両者の位置合わせが簡便となる。また、カラーフィルターとレンチキュラレンズとの距離が短縮され、カラーフィルターから略斜め方向に出射する光が、隣接するレンチキュラレンズに入射する割合を減ずることができ、指向性表示の解像度劣化を抑制することが可能な有機EL装置を提供できる。
【0010】
[適用例2]上記適用例に記載の有機EL装置において、前記カラーフィルターと前記レンチキュラレンズとの間に、有機平坦化層を有することを特徴とする。
【0011】
本適用例によれば、カラーフィルターとレンチキュラレンズとの間に、有機平坦化層を有するため、カラーフィルターの有無により生じる段差を吸収した平坦化構造の上にレンチキュラレンズを形成することができ、これによって、カラーフィルター形状の影響の少ない、より良好なシリンドリカル形状を有するレンチキュラレンズを備えた有機EL装置を実現できる。
【0012】
[適用例3]上記適用例に記載の有機EL装置において、前記第一電極から前記カラーフィルターまでの積層構造を画素としたときに、複数の前記画素は、第一の画像を表示する第一の画素と、第二の画像を表示する第二の画素と、に区分けされており、前記レンチキュラレンズは、隣り合う前記第一の画素と前記第二の画素とを覆って配置されてなることを特徴とする。
【0013】
本適用例によれば、異なる二つの画像を表示する画素を覆うようにレンチキュラレンズを設けているため、レンチキュラレンズを通した画像として、観察者の左眼と右眼で異なる画像を観察することが可能となる。
【0014】
[適用例4]上記適用例に記載の有機EL装置において、前記第一の画素と前記第二の画素は、互いに異なる色の前記カラーフィルターを有し、前記レンチキュラレンズは、隣り合う前記第一の画素の略中心部と前記第二の画素の略中心部との間に配置されてなることを特徴とする。
【0015】
本適用例によれば、一つの画素の画像をレンチキュラレンズによって左右の二方向に振り分けて表示することが可能となる。したがって、左眼用・右眼用の画像を交互に表示し、交互の画像表示と同期して右眼には右眼用の画像だけが届き、左眼には左眼用の画像だけが届くようにすれば、表示装置の解像度を落とすことなく、視差画像を提供することができる。
【0016】
[適用例5]上記適用例に記載の有機EL装置において、前記第一電極から前記カラーフィルターまでの積層構造を画素としたときに、複数の前記画素は、赤色のカラーフィルターを備えた赤色画素と、緑色のカラーフィルターを備えた緑色画素と、青色のカラーフィルターを備えた青色画素とを少なくとも含み、一組の前記赤色画素と前記緑色画素および前記青色画素を含むものをカラー画素とし、第一の画像を表示する第一のカラー画素と、第二の画像を表示する第二のカラー画素と、に区分けされており、前記レンチキュラレンズは、隣り合う前記第一のカラー画素と前記第二のカラー画素とを覆って配置されてなることを特徴とする。
【0017】
本適用例によれば、異なる二つの画像を表示するカラー画素を覆うようにレンチキュラレンズを設けているため、カラー画素を例えば赤色・緑色・青色の三色で構成する場合、適用例3に比べて3倍の幅で画素を覆うようなレンチキュラレンズを形成することになり、画素が高精細化した場合でも、レンチキュラレンズは同一解像度まで精細化する必要がないため、比較的容易に形成が可能となる。
【0018】
[適用例6]本適用例の電子機器は、上記適用例の有機EL装置を備えていることを特徴とする。
この構成によれば、高品質な立体画像表示が可能であり、封止性能が高い電子機器とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1実施形態に係る有機EL装置の構成を示す斜視図。
【図2】図1のA−A'線に沿う断面図。
【図3】本発明の第1実施形態における2視点で画像を見る模式図。
【図4】本発明の第2実施形態に係る有機EL装置の構成を示す断面図。
【図5】本発明の第2実施形態における2視点で画像を見る模式図。
【図6】本発明の第3実施形態に係る有機EL装置の構成を示す断面図。
【図7】本発明の実施形態に係る電子機器を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(第1実施形態)
以下、図1〜図3を参照しながら、本発明の第1実施形態に係る有機EL装置について説明する。なお、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の膜厚や寸法の比率などは適宜異ならせてある。
【0021】
本発明における有機EL装置は、いわゆる「トップエミッション方式」の有機EL装置である。トップエミッション方式は、光を有機EL素子が配置された基板側ではなく対向する基板側から取り出すため、発光面積が素子基板に配置された各種回路の大きさに影響されず、発光面積を広く確保できる。そのため、電圧及び電流を抑えつつ輝度を確保することが可能であり、発光素子の寿命を長く維持することができる。
【0022】
図1および図2に示すように、本実施形態の有機EL装置1は、基板本体20上に複数の発光素子21が配置された素子基板20Aと、保護基板30と、を備えている。素子基板20Aには、複数の発光素子21を覆って積層して形成される電極保護層17と有機緩衝層18とガスバリア層19の各層が積層した封止層Fが設けられており、さらに封止層F上にはカラーフィルター層25と有機平坦化層26を形成し、その上にレンチキュラレンズ27が設けられている。この素子基板20Aに、保護基板30が、シール層33を介して貼り合わされている。
【0023】
(素子基板)
素子基板20Aが備える基板本体20は、透明基板及び不透明基板のいずれも用いることができる。不透明基板としては、例えばアルミナ等のセラミックス、ステンレススチール等の金属シートに表面酸化などの絶縁処理を施したもの、また熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂、さらにはそのフィルム(プラスチックフィルム)などが挙げられる。透明基板としては、例えばガラス、窒化ケイ素等の無機物や、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂等の有機高分子(樹脂)、またはこれらの複合材料など光透過性を備えた材料が挙げられる。
【0024】
基板本体20の上には、駆動用TFT等の駆動素子や、走査線、共通線等の配線、及びこれらを電気的に絶縁する無機物または有機物の絶縁膜などを備えた素子層16が形成されている。各種配線や駆動素子はフォトリソグラフィによりパターニングした後エッチングすることにより、また、絶縁膜は蒸着法やスパッタ法など通常知られた方法により適宜形成することができる。素子層16の絶縁膜は、例えば酸窒化シリコンで構成されている。
【0025】
素子層16上には、発光素子21からの射出光を保護基板30側に反射する金属反射板15が形成されている。金属反射板15は、例えばアルミニウムや銅などの金属で形成されており、光を反射する性質を備えている。本実施形態ではアルミニウムで形成されている。金属反射板15は、後述する発光素子21と基板本体20との間で発光素子21に平面的に重なるように配置されている。
【0026】
金属反射板15と平面的に重なる領域には、発光素子21が配置されており、隣り合う発光素子21の間および発光素子21と基板本体20の端部との間には隔壁13が形成されている。言い換えると、発光素子21は隔壁13によって区画されている。隔壁13は絶縁性の樹脂材料で形成されており、形成方法はフォトリソグラフィを用いるため、材料には例えば感光性のアクリル樹脂や環状オレフィン樹脂などが用いられている。隔壁13は、発光素子21から斜めに光が射出される「光漏れ」を防ぎ、対応するカラーフィルター25へ光を入射させる機能を備えている。具体的には隣り合う発光素子21からの光漏れを防ぐため、隔壁13は素子層16の表面から2μm程度の高さを備えている。
【0027】
発光素子21は、第一電極としての陽極10と第二電極としての陰極11とに発光層を含む機能層12が挟持されて構成されており、隔壁13に囲まれた平坦化層上に設けられている。発光素子21の厚みは500nm程度である。発光素子21の上面と隔壁13の頂部とは、1μm以上の厚み(高さ)差を有しており、複数の発光素子21が配置された領域では、1μm以上の起伏を備えた凹凸形状が連続して形成されている。
【0028】
陽極10は、素子層16上に形成され、素子基板20Aが備える駆動用TFTに接続されている。また陽極10には、仕事関数が5eV以上の正孔注入効果の高い材料が好適に用いられる。このような正孔注入効果の高い材料としては、例えばITO(Indium Thin Oxide:インジウム錫酸化物)等の金属酸化物を挙げることができる。本実施形態では陽極としてITOを用いる。なお、陽極10は必ずしも光透過性を有する必要は無く、アルミニウム等の光を反射する金属電極としてもよい。その場合には、陽極10が光を反射するので、前述した金属反射板15は設けなくても良い。
【0029】
機能層12に含まれる発光層は、白色に発光する白色発光層を採用している。本実施形態では、この白色発光層は低分子系の発光材料を用いて真空蒸着法を用いて形成されている。白色の発光材料としては、スリチルアミン系発光層にアントラセン系のドーパントをドーピングした層(青色)と、スリチルアミン系発光層にルブレン系のドーパントをドーピングした層(黄色)と、を同時に発光させて白色発光を実現している発光材料を挙げることができる。ここでは低分子系の発光材料を用いているが、高分子系の発光材料を用いて発光層を形成することとしても良い。また、各層の構成を変化させ、赤色、緑色、青色の3色を同時に発光させて白色発光を取り出す3層構造とすることも可能である。また発光層としては、赤色に発光する赤色発光層、緑色に発光する緑色発光層、青色に発光する青色発光層を有するようにすることも可能である。
【0030】
なお、陽極10と発光層との間に、トリアリールアミン多量体(ATP)層(正孔注入層)、トリフェニルジアミン系誘導体(TPD)層(正孔輸送層)、発光層と陰極11との間にアルミニウムキノリノール(Alq3)層(電子注入層)、LiF(電子注入バッファー層)をそれぞれ成膜し、各電極からの電子および正孔の注入を容易にさせる構成とすることが好ましい。
【0031】
陰極11は、機能層12と隔壁13との表面を覆って、少なくとも最も外側(素子基板20Aの外周部に近い側)に配置された隔壁13の頭頂部に至るまで延在して形成されている。陰極11の形成材料には、電子注入効果の大きい(仕事関数が4eV以下)材料が好適に用いられる。例えば、カルシウムやマグネシウム、ナトリウム、リチウム金属、又はこれらの金属化合物である。金属化合物としては、フッ化カルシウム等の金属フッ化物や酸化リチウム等の金属酸化物、アセチルアセトナトカルシウム等の有機金属錯体が該当する。これらの材料を用いる場合には、金属材料は真空蒸着法、金属化合物はECRプラズマスパッタ法やイオンプレーティング法、対向ターゲットスパッタ法などの高密度プラズマ成膜法を用いて陰極11を形成することができる。
【0032】
また、これらの材料だけでは、電気抵抗が大きく電極として機能しないため、発光部分を避けるようにアルミニウムや金、銀、銅などの金属層をパターン形成したり、ITOや酸化錫などの透明な金属酸化物導電層と組み合わせて積層体として用いたりしてもよい。なお、本実施形態では、マグネシウム−銀合金(MgAg)を透明性が得られる20nm以下の膜厚に調整して用いている。陰極11の膜厚は約10nmである。
【0033】
また、素子基板20A上の外周近傍であって、素子層16の平坦化層が形成されていない領域には陰極配線が形成され、陰極配線と陰極11とは補助陰極配線により接続され導通している。
【0034】
陰極配線は、陰極11を不図示の電源まで通電させることを目的として形成されており、主に素子基板20Aの外周部付近に設けられる。陰極配線の形成材料には、アルミニウム−シリコン合金や、チタン、タングステン、タンタルなどの金属が用いられ、これらの材料を単層もしくは多層に積層して形成したものが用いられる。また、陰極配線の最表層には、陽極10と同じ材料であるITOが形成されている。陽極10の形成時と同時に、陰極配線の最表層にもITOを形成しておくことで、製造工程におけるフォトリソグラフィ工程での陰極配線の腐食を防ぐことができる。
【0035】
補助陰極配線は、陰極11と陰極配線との通電を補助する目的で陰極11の端部に設けられている。補助陰極配線の形成材料には、アルミニウム等の導電性の高い金属が用いられ、マスクを介して真空蒸着法やスパッタ法で成膜して形成される。
【0036】
(封止層)
素子基板20A上には、発光素子21を覆い全面に複数の保護層が積層した封止層Fが形成されている。この封止層Fとして、本実施形態の有機EL装置1は、電極保護層17と有機緩衝層18とガスバリア層19とを備えている。
【0037】
素子基板20A上には、陰極配線の端面を覆い、陰極配線、補助陰極配線、陰極11の表面を覆って全面に、電極保護層17が形成されている。この電極保護層17により、10nmと非常に薄い陰極11や、その下の機能層12の破損を抑制することができる。また、発光素子21への水分の浸入を防ぐガスバリア層としての機能も兼ね備える。
【0038】
電極保護層17はECRスパッタ法やイオンプレーティング法などの高密度プラズマ成膜法を用いて形成することができる。形成前には、酸素プラズマ処理を行って形成した膜の密着性を向上させることが好ましい。
【0039】
電極保護層17は、透明性や密着性、耐水性、絶縁性、更にはガスバリア性を考慮して、酸窒化シリコンや窒化シリコンなどのケイ素化合物で構成することが望ましい。中でも、酸窒化シリコンは、含まれる酸素と窒素の比率を変えることで所望の透湿性を備えた無色透明な膜とすることが可能であるため好ましい。本実施形態では、酸窒化シリコンを用いて電極保護層17を形成している。
【0040】
また、電極保護層17の膜厚は100nm以上が好ましく、隔壁13を被覆することで発生する応力によるクラック発生を防ぐため、膜厚の上限は200nm以下に設定することが好ましい。なお、本実施形態においては、電極保護層17を単層で形成しているが、複数層で積層してもよい。例えば、低弾性率の下層と高耐水性の上層とで電極保護層17を構成してもよい。
【0041】
電極保護層17の上には、電極保護層17の内側に有機緩衝層18が形成されている。有機緩衝層18は、隔壁13の形状の影響により凹凸状に形成された電極保護層17の凹凸部分を埋め、起伏を緩和するように配置される。この有機緩衝層18は、素子基板20Aの反りや体積膨張により発生する応力を緩和し、隔壁13からの電極保護層17の剥離を防止する機能を有する。また、有機緩衝層18の上面では、電極保護層17表面の起伏が緩和されているので、後述するガスバリア層19に応力が集中する部位がなくなり、クラックの発生を防止することができる。
【0042】
有機緩衝層18の形成材料としては、流動性に優れ且つ溶媒や揮発成分の無い、全てが高分子骨格の原料となる有機化合物材料であることが好ましく、その様な形成材料としてエポキシ基を有する分子量3000以下のエポキシモノマー/オリゴマーを好適に用いることができる。ここでは、分子量1000未満の原料をモノマー、分子量1000以上3000以下の原料をオリゴマーとする。例えば、ビスフェノールA型エポキシオリゴマーやビスフェノールF型エポキシオリゴマー、フェノールノボラック型エポキシオリゴマー、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、アルキルグリシジルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3',4'−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート、ε−カプロラクトン変性3,4-エポキシシクロヘキシルメチル3',4'−エポキシシクロヘキサンカルボキレートなどがあり、これらが単独もしくは複数組み合わされて用いられる。
【0043】
また、有機緩衝層18の形成材料には、エポキシモノマー/オリゴマーと反応する硬化剤が含まれる。このような硬化剤としては、電気絶縁性や接着性に優れ、かつ硬度が高く強靭で耐熱性に優れる硬化被膜を形成するものが好適に用いられ、透明性に優れ且つ硬化のばらつきの少ない付加重合型が好ましい。例えば、3−メチル−1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸、メチル−3,6−エンドメチレン−1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物などの酸無水物系硬化剤が好ましい。これらの硬化剤を加えた有機緩衝層18の形成材料は優れた熱硬化性樹脂として振る舞う。
【0044】
さらに、酸無水物の反応(開環)を促進する反応促進剤として1,6−ヘキサンジオールなど分子量が大きく揮発しにくいアルコール類やアミノフェノールなどのアミン化合物を微量添加することで低温硬化しやすくなる。これらの硬化は60℃〜100℃の範囲で加熱することで行われ、その硬化被膜はエステル結合を持つ高分子となる。
【0045】
また、硬化時間を短縮するためよく用いられるカチオン放出タイプの光重合開始剤を用いてもよいが、硬化収縮が急激に進まないよう反応の遅いものが良く、また、塗布後の加熱による粘度低下で平坦化を進めるように最終的には熱硬化を用いて硬化物を形成するものが好ましい。更には、陰極11やガスバリア層19との密着性を向上させるシランカップリング剤や、イソシアネート化合物等の捕水剤が混入されていても良い。
【0046】
これらの原料ごとの粘度は、1000mPa・s(室温:25℃)以上が好ましい。塗布直後に機能層12へ浸透して、ダークスポットと呼ばれる非発光領域を発生させないためである。また、これらの原料を混合した緩衝層形成材料の粘度としては、500mPa・s〜20000mPa・s、特に2000mPa・s以上10000mPa・s以下(室温)が好ましい。また、含水量は1000ppm以下に調整された材料であることが好ましい。
【0047】
また、有機緩衝層18の最適な膜厚としては、2μm以上5μm以下が好ましい。有機緩衝層18の膜厚が厚いほうが異物混入した場合等にガスバリア層19の破損を防ぎやすいが、有機緩衝層18を合わせた層厚が5mを超えると、後述するカラーフィルター25と機能層12の距離が広がって側面に逃げる光が増え、光を取り出す効率が低下するためである。
【0048】
電極保護層17の上には、有機緩衝層18の端部を含め全面を被覆し、且つ電極保護層17の略全面を覆うガスバリア層19が形成されている。ガスバリア層19は、発光素子21に酸素や水分が浸入するのを防止する機能を備えており、これにより酸素や水分による発光素子21の劣化等を抑えることができる。ガスバリア層19は、透明性、ガスバリア性、耐水性を考慮して、好ましくは窒素を含むケイ素化合物、すなわち窒化シリコンや酸窒化シリコンなどを用いて形成される。本実施形態では、酸窒化シリコンを用いてガスバリア層19を形成している。
【0049】
ガスバリア層19は、ECRスパッタ法やイオンプレーティング法などの高密度プラズマ成膜法を用いて形成することができる。形成前には、形成面の酸素プラズマ処理を行って形成した膜の密着性を向上させることが好ましい。また、ガスバリア層19の膜厚は、ガスバリア層19の破損を防ぎガスバリア性を担保するために100nm以上であることが好ましい。また、有機緩衝層18の端部や陰極配線等の凹凸部を被覆する際にクラックを防ぐために800nm以下であることが好ましい。なお、本実施形態においては、ガスバリア層19を単層で形成しているが、複数層で積層してもよい。
【0050】
(カラーフィルター層)
カラーフィルター層25には、透過光を赤色(R)、緑色(G)、青色(B)のいずれかの光に変調する着色層がストライプ状に配列形成されている。着色層は、アクリル樹脂などの樹脂層に、赤色、緑色、青色を示す顔料または染料を混合して形成されている。また、必要に応じてライトブルーやライトシアン、白などの着色層を備えることとしても良い。なお、本実施形態においては、着色層同士が隣接するようにスピンコート法を用いて形成しているが、別のシートに形成した着色層を転写したり、黒色に着色された樹脂によるブラックマトリクス層を設けて、インクジェット法によって着色層を形成したりしてもよい。また、カラーフィルター層25の上に、着色層により生じる段差を解消するための、有機平坦化層26を設けてもよい。
【0051】
(レンチキュラレンズ)
この素子基板20Aの特徴は、赤色用、緑色用、青色用の白色発光素子21が、赤色用、赤色用、緑色用、緑色用、青色用、青色用のように、二列ずつ配列されていることであり、奇数番目の列は右眼用画像(第1の画素)、偶数番目列は左眼用画像(第2の画素)を、それぞれ独立して表示することができる。前記着色層の各々は、白色の光を射出する発光素子21の前記の二列ごとに対応して配置されている。さらに図1の斜視図に示すように、各着色層列に対応した位置に、レンチキュラレンズ27を形成する。レンチキュラレンズ27は、スピンコート法によりアクリル樹脂をストライプ状に形成した後で、加熱によりシリンドリカル形状を得ているが、ナノインプリント法などの型による転写方式を用いてもよい。
【0052】
(シール層及び保護基板)
最後に、シール層33を介して素子基板20Aと保護基板30とを貼り合せることにより、素子基板20Aに形成された発光素子21に対する、外力からの保護を行う。本実施形態においては、素子基板20Aと保護基板30の貼り合せを大気圧下の窒素中で実施しているため、シール層33により両基板間の空隙には好適に窒素を密封しているが、アルゴンなど他の不活性ガスや通常の大気、あるいはレンチキュラレンズ27よりも屈折率の低い、光学的に透明な液状材料を充填してもよい。また、保護基板30も、光学的に透明な基板であればよい。透明基板としては、例えばガラス、窒化ケイ素等の無機物や、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂等の有機高分子(樹脂)、またはこれらの複合材料など光透過性を備えた材料が挙げられる。
【0053】
シール層33の形成材料は、紫外線によって硬化して粘度が向上する樹脂材料で構成されている。好ましくはエポキシ基を有する分子量3000以下のエポキシモノマー/オリゴマーが用いられる。ここでは、分子量1000未満のものをモノマー、分子量1000以上3000以下のものをオリゴマーとしている。このような形成材料としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシオリゴマーやビスフェノールF型エポキシオリゴマー、フェノールノボラック型エポキシオリゴマー、3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3',4'−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート、ε−カプロラクトン変性3,4-エポキシシクロヘキシルメチル3',4'−エポキシシクロヘキサンカルボキレートなどがあり、これらが単独もしくは複数組み合わされて用いられる。
【0054】
また、シール層33の形成材料には、エポキシモノマー/オリゴマーと反応する硬化剤が含まれる。添加する硬化剤の種類により、エポキシ樹脂を熱硬化型、光硬化型のいずれでも用いることができる。ここでは、ジアゾニウム塩、ジフェニルヨウドニウム塩、トリフェルスルフォニウム塩、スルホン酸エステル、鉄アレーン錯体、シラノール/アルミニウム錯体など、主に紫外線照射によりカチオン重合反応を起こさせる光反応型開始剤が好適に用いられる。これらの硬化剤を加えたシール層33の形成材料は光(紫外線)硬化性樹脂として振る舞う。
【0055】
シール層33の形成材料の塗布時における粘度は、10Pa・s以上200Pa・s以下(室温)であることが好ましい。また、紫外線照射後に徐々に粘度が上昇するようにカチオンホールド剤と呼ばれる添加剤を用いると、貼り合わせ後の光照射工程を削除することができる上に、シール層33の形成材料が流動しにくくなるため貼り合わせ工程が容易になる。更に、1mm以下の細いシール幅でもシール層33の断裂を防ぎ、貼り合わせ後の充填剤のはみ出しを防ぐことができるため好ましい。また、含水量は1000ppm以下に調整された材料であることが好ましい。
【0056】
通常、シール層33を形成するための材料には、基板間の距離を制御するための所定粒径の球状粒子(スペーサ)や、粘度を調整するため燐片状や塊状の無機材料(無機フィラー)などの充填物が混合されていることが多い。しかし、これらの充填物は貼り合わせ圧着時にガスバリア層19を損傷させるおそれがあるため、本実施形態ではこれらの充填物が混入していないシール層形成材料を用いる。
【0057】
このような本実施形態の構成により、図3の右眼用赤色発光素子41Rおよび左眼用赤色発光素子41Lから射出された光は着色層の各々を透過した後、レンチキュラレンズ51により図面の左右方向に振り分けられ、右眼用赤色発光素子41Rの出射光は観察者の右眼、左眼用赤色発光素子41Rの出射光は観察者の左眼側に射出される。同様にして、右眼用緑色発光素子42Rおよび左眼用緑色発光素子42Lもレンチキュラレンズ52により、右眼用青色発光素子43Rおよび左眼用青色発光素子43Lもレンチキュラレンズ53により、それぞれ左右方向に振り分けられて観察者に射出されるため、観察者はカラーの視差表示を観察することができる。
【0058】
(第2実施形態)
図4から図5は、本発明の第2実施形態に係る有機EL装置の説明図である。本実施形態の有機EL装置2は、第1実施形態の有機EL装置1と一部共通している。異なるのは、素子基板20Aの白色発光素子21の色配列と、対応するカラーフィルター層25、およびレンチキュラレンズ27の位置関係のみである。したがって、本実施形態において第1実施形態と共通する構成要素については同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0059】
図4の断面図において、素子基板20Aの白色発光素子21は、赤色用、緑色用、青色用、赤色用、緑色用、青色用のように、1列ごとに異なる発光色用となっており、赤色用、緑色用、青色用の三つの発光素子21を一つのカラー画素と定義した場合に、奇数番目のカラー画素(第1のカラー画素)は右眼用画像、偶数番目列のカラー画素(第2のカラー画素)は左眼用画像を、それぞれ独立して表示する。
【0060】
(カラーフィルター層)
カラーフィルター層25は、赤色用、緑色用、青色用の白色発光素子21に1対1対応するように、赤色、緑色、青色の着色層がそれぞれ配置されている。
【0061】
(レンチキュラレンズ)
レンチキュラレンズ27は、二つのカラー画素、すなわち6列分の白色発光素子21を覆うように形成されている。
このような本実施形態の構成により、図5の右眼用赤色発光素子41R、右眼用緑色発光素子42R、右眼用青色発光素子43R、および左眼用赤色発光素子41L、左眼用緑色発光素子42L、左眼用青色発光素子43Lから射出された光は、着色層の各々を透過した後、レンチキュラレンズ51により図面の左右方向に振り分けられ、右眼用の各色発光素子41R〜43Rの出射光は観察者の右眼、左眼用の各色発光素子41L〜43Lの出射光は観察者の左眼側に射出される。これにより、観察者はカラーの視差表示を観察することができる。
【0062】
(第3実施形態)
図6は、本発明の第3実施形態に係る有機EL装置の説明図である。本実施形態の有機EL3は、第1実施形態の有機EL装置1と一部共通している。異なるのは、素子基板20Aの白色発光素子21の色配列と、対応するカラーフィルター層25、およびレンチキュラレンズ27の位置関係のみである。したがって、本実施形態において第1実施形態と共通する構成要素については同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0063】
図6の断面図において、素子基板20Aの白色発光素子21は、赤色用、緑色用、青色用のように、1列ごとに異なる発光色用となっており、カラーフィルター層25は、赤色用、緑色用、青色用の白色発光素子21に1対1対応するように、赤色、緑色、青色の着色層をそれぞれ配置している。
【0064】
レンチキュラレンズ27は、隣接する異なる色のカラーフィルター層25同士、すなわち隣接する白色発光素子21同士の略半分ずつを覆うよう、端部が白色発光素子21の列の略中心部分(略中央部分)に位置するよう配せられている。
【0065】
白色発光素子21は、図示範囲外の駆動回路により、時分割で右眼用画像と左眼用画像を交互に表示するように制御されており、観察者の両眼と本実施形態の有機EL装置3との間に設けられ、前記駆動回路の時分割駆動と同期して作動する外部シャッター手段40によって、右眼用画像と左眼用画像を交互の眼で観察することによって、カラーの視差表示を行うようになっている。外部シャッター手段40としては、例えば眼鏡式の液晶シャッターなどが好適である。
【0066】
(電子機器)
図7は本発明の電気光学装置を適用可能な電子機器の例を示す図である。
同図(a)は携帯電話への適用例であり、携帯電話230は、アンテナ部231、音声出力部232、音声入力部233、操作部234、及び表示部235を備えている。
同図(b)はビデオカメラへの適用例であり、ビデオカメラ240は、受像部241、操作部242、本体243、及び表示部244を備えている。
同図(c)は携帯型情報端末への適用例であり、情報端末250は、カメラ部251、操作部252、及び表示部253を備えている。
各表示部235,244,253には例えば上記第1実施形態の有機EL装置1が搭載されている。したがって、立体視が可能な携帯電話230、ビデオカメラ240、携帯型情報端末250として利用可能である。
【0067】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【符号の説明】
【0068】
1…有機EL装置、10…陽極、11…陰極、12…機能層、13…隔壁、15…金属反射板、16…素子層、17…電極保護層、18…有機緩衝層、19…ガスバリア層、20…基板本体、20A…素子基板、21…発光素子、25…カラーフィルター層、26…有機平坦化層、27…レンチキュラレンズ、30…保護基板、33…シール層、40…外部シャッター手段、230…電子機器としての携帯電話、240…電子機器としてのビデオカメラ、250…電子機器としての情報端末、F…封止層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、
第一電極と、
前記第一電極の形成位置に対応した開口部を有する隔壁と、
少なくとも前記開口部に配置された機能層と、
前記隔壁及び前記機能層を覆う第二電極と、
前記第二電極を覆う単層または多層の封止層と、
前記封止層上に前記開口部と平面的に重なって配置されたカラーフィルターと、
前記カラーフィルター上に配置されたレンチキュラレンズと、
を有することを特徴とする有機EL装置。
【請求項2】
前記カラーフィルターと前記レンチキュラレンズとの間に、有機平坦化層を有することを特徴とする請求項1に記載の有機EL装置。
【請求項3】
前記第一電極から前記カラーフィルターまでの積層構造を画素としたときに、
複数の前記画素は、
第一の画像を表示する第一の画素と、
第二の画像を表示する第二の画素と、に区分けされており、
前記レンチキュラレンズは、隣り合う前記第一の画素と前記第二の画素とを覆って配置されてなることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の有機EL装置。
【請求項4】
前記第一の画素と前記第二の画素は、互いに異なる色の前記カラーフィルターを有し、
前記レンチキュラレンズは、隣り合う前記第一の画素の略中心部と前記第二の画素の略中心部との間に配置されてなることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の有機EL装置。
【請求項5】
前記第一電極から前記カラーフィルターまでの積層構造を画素としたときに、
複数の前記画素は、
赤色のカラーフィルターを備えた赤色画素と、
緑色のカラーフィルターを備えた緑色画素と、
青色のカラーフィルターを備えた青色画素と、を少なくとも含み、
一組の前記赤色画素と前記緑色画素および前記青色画素を含むものをカラー画素とし、
第一の画像を表示する第一のカラー画素と、
第二の画像を表示する第二のカラー画素と、に区分けされており、
前記レンチキュラレンズは、隣り合う前記第一のカラー画素と、前記第二のカラー画素とを覆って配置されてなることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の有機EL装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の有機EL装置を備えたことを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図3】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−146497(P2012−146497A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−3719(P2011−3719)
【出願日】平成23年1月12日(2011.1.12)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】