有毒物質の高度な検出のための方法および装置
本発明によるリアルタイム検出のための水質アナライザ100は、複数の光合成生物をその中に含んだ分析されるべき流動体を受け取り、かつ光合成生物を少なくとも1つの濃縮領域に濃縮するためのバイアス交流電気浸透(ACEO)セル154を備える。光源105からの入射光に反応する濃縮領域中で測定される複数の光合成生物の光合成活動を取得するために光検出器157が提供される。化学剤、生物剤または放射線剤は、光合成生物の見掛けの光合成活動を弱める。電子回路パッケージ158は、流動体中に化学剤、生物剤または放射線剤が存在していることを知らせるべく、測定された光合成活動を分析する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中または空気中における化学的汚染物質、生物的汚染物質および/または放射性汚染物質、あるいはそれらの前駆物質を検出するためのバイオセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
化学兵器、生物兵器、および放射能兵器を使用した大都市エリアに対する攻撃の可能性の認識が高まっている。オークリッジ国立研究所(ORNL)の研究者らは、蛍光誘導曲線の分析を通じてグリーンバウムらの米国特許第6569384号で開示されているような、一次供給源の飲用水中の有毒物質を検出するためのバイオセンサシステムを開発した。グリーンバウムらの米国特許第6569384号は、少なくとも1つの化学兵器または生物兵器の存在を検出するための水質センサを開示している。このセンサは、セルと、水中に天然に存在する自由生活性で常在性の光合成生物の光合成作用を分析するのに適合した、セル内に水を導入し、かつセルから水を排出するための装置と、セルに取り込まれた天然に存在する自由生活性で常在性の光合成生物の光合成作用を測定するための蛍光光度計とを備える。電子回路パッケージは、蛍光光度計からの未加工データを分析し、水の中に少なくとも1つの化学兵器または生物兵器が存在していることを知らせる信号を生成する。
【特許文献1】米国特許第6569384号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
グリーンバウムらの米国特許第6569384号で開示されている水質センサは非常に有益なデバイスを提供するものであるが、デバイスの速度および感度の向上が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
バイオセンサによる毒素の検出方法は、分析されるべき流動体中の複数の光合成生物を、バイアス交流電気浸透を使用して濃縮領域中に濃縮する工程と、濃縮領域中で測定される光合成生物の光合成活動を取得する工程であって、化学剤、生物剤または放射線剤が光合成生物の見掛けの光合成活動を弱めることを含む。化学剤、生物剤または放射線剤、あるいはそれらの前駆物質のうちの少なくとも1つが流動体中に存在していることは、測定された光合成活動に基づいて判定される。前記複数の光合成生物は、例えば水中の天然藻類のような、流動体中に天然に存在する自由生活性で常在性の生物でありうる。一般に、バイアスACEOのための直流バイアスは1〜10ボルトである。
【0005】
本発明によるバイアスACEOは、光合成生物の濃度を結果的に増大することにより、著しい蛍光信号の増強を実現する。光合成生物の濃度が増大されることにより、従来の関連するデバイスおよび方法に比較して、本発明によるデバイスおよび方法の感度と速度は著しく向上する。
【0006】
前記光合成活動は、クロロフィル蛍光誘導を含みうる。前記濃縮工程のためにラボオンチップ装置が使用されうる。前記流動体は、一次供給源の飲用水の供給源から抜き取られうる。この実施形態では、本方法は、飲用水を新たに補給することによって光合成生物を補給して当該方法を繰り返す工程をさらに含みうる。
【0007】
本発明の好適な実施形態においては、有毒物質の存在を検出するために高度な信号処理アルゴリズムが使用される。こうした実施形態において、前記判定工程は、流動体媒体中のバイオセンサによって生成される少なくとも1つの時間依存性の対照信号を提供する工程と、1つまたは複数の化学剤、生物剤または放射線剤の存在に関して監視または分析されるべき流動体媒体中のバイオセンサから時間依存性のバイオセンサ信号を取得する工程と、振幅統計量と時間周波数分析の少なくとも一方を使用して、複数の特徴ベクトルを得るべく時間依存性のバイオセンサ信号を処理する工程と、対照信号の参照に基づいて、特徴ベクトルから、前記剤あるいはそれらの前駆物質のうちの少なくとも1つの存在を判定する工程とをさらに含む。時間周波数分析はウェーブレット係数分析を含みうる。1つの実施形態においては、処理工程において振幅統計量と時間周波数分析の両方が使用されうる。
【0008】
本方法は、流動体中に前記剤のうちのいずれが存在しているかを同定する工程をさらに含みうる。前記同定工程のために線形判別法が使用されうる。線形判別法は、サポートベクターマシン(SVM)分類を含みうる。
【0009】
水質アナライザは、複数の光合成生物をその中に含んだ分析されるべき流動体を受け取り、かつ複数の光合成生物を少なくとも1つの濃縮領域に濃縮させるためのバイアス交流電気浸透(ACEO)セルを備える。光検出器は、濃縮領域中で測定される複数の光合成生物の光合成活動を取得し、化学剤、生物剤または放射線剤が光合成生物の見掛けの光合成活動を弱める。電子回路パッケージは、流動体中に化学剤、生物剤または放射線剤が存在していることを知らせるべく、測定された光合成活動を分析する。ACEOセルはラボオンチップ装置からなることができる。ラボオンチップ装置は、チップ上に少なくとも1つの電子デバイスを有しうる。また、測定された光合成活動、あるいは電子回路パッケージによる分析後の測定された光合成活動を、1つまたは複数の遠隔場所に通信するための機構が提供されうる。
【0010】
本発明ならびにその特徴および利点のより完全なる理解は、以降の詳細な説明を添付の図面と共に検討することによって得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
背景技術で言及したように、従来の水中バイオセンサは、一次供給源の飲用水の品質を、光合成中の正常な藻類からの蛍光信号特性を分析することによって監視する。正常な藻類から放出される蛍光は、有毒物質に曝された藻類によって放出される蛍光とは異なる。一般に、PSII効率に基づいた比較的単純なアルゴリズムが蛍光信号の特性を特徴づけるために使用される。しかし、有毒物の検出において遭遇する主要な課題は、微細藻類が低濃度で存在するために往々にして信頼性のある検出ができないことである。
【0012】
感度と選択度とが毒素のリアルタイム検出のために決定的に重要である。選択度に関しては、好適には組織をベースにした検出システムが使用され、このシステムは、水中のアンタゴニストを検出するために検出材料(微細藻類)として天然の水中光合成組織を使用する。感度については、微生物濃度スキームにより、新しく発見されて動電学的ミクロ流動体に関する研究の最前線にあるバイアス交流電気浸透(ACEO)が使用される。ACEOは、ある領域へのミクロ流動体の対流を通じてそれらの拡散を促すことによって、局所的な微細藻類の濃度を急速に高め、その結果それらの濃縮を可能にする。濃縮されたバイオセンサは、電子回路における増幅器の機能に類似して、結果として生じる信号レベルを向上させる。好適には、蛍光技術は、続いてバイオセンサの代謝正常を評価するために使用される。
【0013】
本発明によるリアルタイム検出のための水質アナライザは、複数の光合成生物をその中に含んだ分析されるべき流動体を受け取り、かつ複数の光合成生物を少なくとも1つの濃縮領域に濃縮するためのバイアス交流電気浸透(ACEO)セルを備える。濃縮領域中で測定される複数の光合成生物の光合成活動を取得するために、光度計または蛍光光度計などの光検出器が提供される。化学剤、生物剤または放射線剤は、光合成生物の見掛けの光合成活動を弱める。電子回路パッケージは、流動体中に化学剤、生物剤または放射線剤が存在していることを知らせるべく、測定された光合成活動を分析する。また、特定の剤を同定することも可能である。例えば、所与のライブラリの剤に関する特徴的な蛍光誘導曲線を使用して、特定の剤を特定することができる。剤がある最小濃度にあると仮定して、また、この剤の濃度を決定することもできる。
【0014】
図1は、本発明の一実施形態に係る典型的な交流電気浸透(ACEO)による水質分析システム100を示す概略図である。システム100は、光ビームを放射するための光源105と、放射された光ビームを集束レンズ153に向けて再反射させるためのビームスプリッタ152とを備える。集束レンズ153は、ビームスプリッタから再反射した後の光ビームをバイアス交流電気浸透(ACEO)捕集セル154の上に収束させる。光合成生物が生物発光性であるときは、光源105、ビームスプリッタ152および集束レンズ153は必要とされない。ACEOセル154は、複数の光合成生物をその中に含んだ分析されるべき流動体を受け取り、かつ複数の光合成生物を少なくとも1つの濃縮領域中に濃縮する。光はACEOセル154中の濃縮領域に向けて照射され、したがってACEOセル154上の光合成生物を刺激して蛍光155を生じさせる。蛍光を検出する光検出器157の上に蛍光を集束させるために集束レンズ156が用意されている。コンピュータ装置158は、光検出器157によって検出される測定された蛍光信号を受信する。
【0015】
好適には、ACEOセル154はプラットフォーム169の上に配置される。一般に、プラットフォームはコンピュータ装置158の制御のもとで可動である。コンピュータ装置は、プラットフォーム169の移動を制御するだけでなく蛍光データを分析するためのアルゴリズムを搭載されている。
【0016】
平面状の噛み合わせ電極構成および平行な平板電極構成を備えた2つのタイプのACEO粒子トラップが一般に存在する。平面状の噛み合わせ電極が本発明には好適である。平面電極は通常、電極面に対して垂直に均一な電界を発生させる。本構成においては、接線方向に働く電界がプレート上の非対称な電極パターンによって発生される。好適には、パターン化された電極は、バートらの論文(バート、ケー・エイチ(Bhatt,K.H.)、グレゴ、エス(Grego,S.)、ヴェレヴ、オー・ディー(Velev.O.D.)、2005年、An AC electrokinetic technique for collection and concentration of particles and cells on patterned electrodes、Langmuir,21巻14号、6603〜6612ページ)に開示されたものとして提供される。電極は、平行なプレートの形状で互いに対向する。電界は、純粋な交流信号を使用してバートらによって生成されている。直流バイアスは、バートによっては開示または示唆されない。不均一な電界勾配は、ホトレジストまたは二酸化ケイ素などの非電気伝導性材料を備えた1つの電極をパターニングすることによって実現される。粒子は、流速が相対的に遅い囲いの中央部に蓄積する。
【0017】
バートらとは対照的に、本発明は、好適には、電極をバイアスさせるために交流信号を直流バイアスと共に使用しており、本明細書ではこれを「バイアスACEO」と呼ぶ。バイアスACEOは、バートらによって開示されたACだけを使用したACEOによっては不可能な異なる電極の分極を活用している。重要なことに、本発明のバイアスACEOは、粒子の明確な経路を生成させることができ、したがって粒子を集中させることができる。一般に、約0.5mmのプレート分離において、直流バイアスは1〜10Vの範囲であり、交流信号は20V未満のピーク・トゥ・ピーク振幅および50Hz〜1MHzの周波数を有する。好適には、電圧範囲は直流および交流成分の組み合わせについて10Vrmsの範囲内である。
【0018】
本発明による平面状噛み合わせ電極に基づいた典型的なACEOセル200が図2に示される。底部電極を設けるために、n−またはp−ドープシリコンウェーハ205などの少なくとも半導体性の電気伝導性を有する基板サポート205が用意される。二酸化ケイ素などの電気的に絶縁性の材料210のパターン化された層が基板サポート205の上に配置される。電気絶縁性の間隔保持材料215は、分析されるべき液体がセル内に保持されるように、セル200の周囲を囲んで封止する。任意の基板205が、導電性の層が基板205頂部の上に配置されその導電性の層が流動体に曝される限り、使用されることができる。
【0019】
曝露されるパターン化電極は、他の絶縁性の層を加えることによるか、導電性の層をエッチングすることによって実現される。光合成生物223が濃縮される電極パターン225の中央部で流動体のよどみは発生する。
【0020】
間隔保持材料の見掛けの高さは一般に、数百ミクロン程度である。セルの囲い込みを完全にするために、インジウムスズ酸化物がコートされたガラス層などの、問題とする波長領域で光学的に透明な頂部電極220が間隔保持材料の上に配置される。複数の光合成生物223がセル200の内部に入れられる。直流バイアスの上に乗った交流信号を供給する電源231は、頂部電極220と底部電極205の間に電気信号を印加する。図示されていないが、交流信号と直流バイアスのために別の電源が使用されてもよい。
【0021】
図3は、ACEOセルによるシステム300の好適な実施形態を、関連するインターフェース装置と共に示す。AECO捕集セルは、この好適な実施形態ではラボオンチップ装置320として具体化される。ラボオンチップは、単一の小型化されたデバイスの上で迅速且つ高感度な生物学的および臨床的分析を可能にする。ラボオンチップ装置は、MEMSデバイスのサブセットである。
【0022】
微細藻類センサと共に働くラボオンチップの実施形態にはいくつかの利点があり、動電学的濃縮からの迅速な検出時間、微細藻類をセンサとして使用する結果としての特異性、検出成分が単一のプラットフォーム上に配置されることによる簡潔性を含む。また、ラボオンチップ技術は携帯性と分析時間の削減ももたらす。試料および反応物質の容積の減少は効率を高め、分析化学および分析生化学に関連するコストを削減する。さらに、微細加工(microfabrication)は量産の可能性をもたらす。単一のチップであることを示す図3の破線で示されるように、ラボオンチップ装置320ならびに光検出器157および計算デバイス158などの電子的構成要素は、同一のチップ上に製造されてもよい。
【0023】
ラボオンチップ320への電気的接続は外部電極321および322によって行われる。交流電源231はACEOを実現し、バイオセンサを少なくとも1つの濃縮領域内に押しやるために必要とされるバイアスを供給する。一実施形態では、電池(図示せず)がシステム300の様々な構成要素に電力を供給する。
【0024】
ラボオンチップ装置320は、水の入口315および水の出口318を含む。一般に、水は、ラボオンチップ装置のために普通に使用されている小さな内部ポンプ316によって入口315に運ばれる。また、水は小さな内部ポンプ317によって出口318から引き出される。定期的に、好適には、水の新しい試料が「連続モード」よりはむしろ「バッチ・モード」を使用してシステム100によって分析される。本発明の1つのユニークな態様は、従来のセンシング装置とは異なり、センサ材料が検出機器の外部にあって連続的にリフレッシュされうることである。したがって、こうしたシステムは、太陽光に曝露されている飲用水給水施設における化学兵器物質の検出のために連続的に緊急警報する見張りとして使用されることができる。
【0025】
システム100は、測定されおよび/または分析されたデータを1つまたは複数の遠隔場所359に通信するための機構を含む。遠隔場所は、軍または民間の場所であってよい。例えば、軍事用途では、軍職員が当該技術分野において本発明を使用することができる。民間用途では、水道事業職員が、彼らの水処理プラントまたは配水施設から遠く離れて位置する貯水池の取水ポイントで本発明を使用することができる。たとえば、通信のための機構359は、Wi−Fi(商標)カード150を備えることができる。カード150は、ネットワークアクセスポイントが近くにある場合にはローカルエリアネットワーク(LAN)に接続する。接続は無線周波数信号によってなされる。ローカルエリアネットワークがインターネットに接続されているならば、Wi−Fiデバイスはさらにインターネットアクセスを有することもできる。あるいは、通信のための機構359は、測定されたデータまたは分析されたデータのシリアルなバイナリデータ相互接続のためのRS232インターフェースまたは同等物を備えることができる。
【0026】
一実施形態において、光検出器157から受信された未加工データは、Wi−Fi(商標)359によってLANを介してプロセッサ/コンピュータが配置されている(図示せず)遠隔場所に伝送される。プロセッサ/コンピュータは、濃縮領域内の光合成生物の測定された光合成活動を取得し、測定された光合成活動に基づいて化学剤、生物剤または放射線剤、あるいはその前駆物質の存在を判定するためにアルゴリズムを適用し、好適な実施形態においては、特定の剤ならびにその濃度を決定することもできる。
【0027】
本発明の一実施形態において、水の試料は保存されてタイムスタンプを刻印されることができる。本発明の好適な実施形態では、危険な有毒物質が検出された場合に監督指令(例えば、連邦、州、市、産業など)に従ってさらなる分析を可能にするために、オペレータはどの時刻および日付で試料が収集されたかを検出することができる。ラボオンチップ320上の微細チャネルがこの目的のために使用されうる。本発明の好適な実施形態においては、本システムは、そうした事態のときに採集された水を保存している微細チャネルを含む指定されたチップ/カートリッジをオペレータが取り外しできるようにする。或る内部ポンプを作動させまたは或る水路を開き、他のポンプを停止させまたは他の水路を閉じることによって、本システムは、水を微細チャネルの主セットから保存目的に使用される微細チャネルに向かわせるように設計されることができる。
【0028】
有毒物質の存在を検出するための伝統的な方法は、いわゆる「PSII(フォトシステムII)光科学の効率」、
【0029】
【数1】
を測定することであり、ここで、Fsは、図4に示されるような蛍光誘導曲線の定常時における値であり、Fmaxは最大値である。PSII効率は、蛍光信号「特性」の単純な誘導曲線をベースにした計算値を表し、その著しい偏りは水中における有毒物質の潜在的な存在を示す。
【0030】
PSII効率は一般に、有毒物質の存在の検出に有効であるが、ある場合には、ある有毒物質によって呈される有意でない光化学収率のために失敗する。さらに、PSII効率は一般に、異なる物質の間または異なる濃度を有する同一物質の間を分類できない。さらに、このパラメータを使用したときには、汚染物質の事象の検出に関する決定に至るまでに60分もの長い時間を要することがある。様々な物質をより短い反応時間で分類することは、汚染物質の事象に対する反応時間を短縮するためなどに、極めて重要なことである。有毒物質の種類の知識を用いることによって、適切な医薬と救助戦略が生命を救うとともにテロリストの攻撃に対する反撃に間に合うように使用されることができる。
【0031】
好適な実施形態において、有毒物質の存在を検出するために高度な信号処理アルゴリズムが使用される。この高度な分析方法は、バイオセンサによって液体(例えば水)または気体(例えば空気)中で生成される少なくとも1つの時間依存性の対照信号を提供する工程と、化学剤、生物剤または放射線剤から選択される1つまたは複数の毒素に関して監視し分析されるべき気体または液体媒体中のバイオセンサから、時間依存性のバイオセンサ信号を取得する工程とを含む。時間依存性バイオセンサ信号は、振幅統計量と時間周波数分析の少なくとも一方を使用して、複数の特徴ベクトルを取得するべく処理される。次いで、気体または液体媒体の有毒性に関する少なくとも1つのパラメータが、用意された対照信号の参照に基づいて特徴ベクトルから決定される。本明細書で使用されるように、「特徴ベクトル」という語句は、(i)以降(振幅統計量)で説明されるように加算に基づく統計的大きさ、および(ii)時間周波数分析を時間依存性センサ信号に適用させることによって発生された係数(例えばウェーブレット係数)またはその係数から導かれた統計的パラメータ(例えばウェーブレット係数の標準偏差)であると定義される。
【0032】
第1の新しいアルゴリズムは、時間ドメインにおける光信号の高次統計分析(本明細書では「振幅統計量」と呼ぶ)を備える。本明細書で使用されるように、語句「振幅統計量」は、1次(平均)、2次(標準偏差)、3次(歪み度)および4次(尖度)などの、信号曲線中の複数(N個)の時点から導かれた加算に基づいた統計的測度と定義される。したがって、グリーンバウムらの米国特許第6569384号で開示されたようなPSII効率は、その測定が蛍光誘導曲線の最大値(Fmax)をなす離散点と定常時の蛍光値(Fs)である離散点との間の単純な差に基づいていることから、明らかに振幅統計量ではない。
【0033】
振幅統計量は、PSII効率よりもダイナミックな信号の特徴を捕捉することができ、信号がどれくらい急速に最大値および最小値に接近しているか、試料がどれくらい平均値から離れているか、および信号がどれだけ対称的に見えるかを含む。一般に、これらの特徴は、異なる有毒物質の存在に関する検出および同定に必要とされる。
【0034】
第1の新しいアルゴリズムは、本明細書で「時間周波数分析」と呼ばれる時間周波数ドメインでの光信号のウェーブレット分析を備える。水中のバイオセンサによって捕捉される光信号の性質のために、時間周波数分析は信号の周波数がいつどのように変化したかを明らかにすることができる。好適な実施形態では、信号の特徴記述のための係数の全セットの替わりにウェーブレット係数から抽出された3つの特徴だけがアルゴリズムの中で使用される。
【0035】
本発明による振幅統計量および時間周波数分析は、蛍光信号の固有特徴に基づくアルゴリズムに比較して著しく向上した検出結果を実現するため、独立して使用されることができる。しかし、振幅統計量と時間周波数分析を組み合わせることによって、検出信頼性および識別信頼性を高いレベルにまで向上することができる。
【0036】
監視または分析されるべき気体または液体媒体は一般に、気体の場合には空気であり、液体の場合には水である。水は一次供給源の飲用水でありうる。本発明の好適な実施形態において、藻類は、太陽光に曝露された一次供給源の飲用水中の様々な有毒物質の分類を特徴ベクトルに基づいて可能にするため、特徴ベクトルの抽出を通じて分析される蛍光誘導曲線などの時間依存性バイオセンサ信号を生成するために使用されるバイオセンサである。検討された剤には、クリンチ川(テネシー)の試料ならびに実験栽培のクラミドモナス(Chlamidomonas Reinhardtii)を含む試料の両方の中の、メチルパラチオン(MPt)、シアン化カリウム(KCN)、ジウロン(Diuron)(DCMU)およびパラコート(Paraquat)が含まれる。
【0037】
一般に、バイオセンサはセルをベースにしたもので、遺伝子操作されたセルを含むことができる。例えば、lux遺伝子で操作されたバクテリアが使用されうる。蛍光誘導の場合には、天然または遺伝子操作された藻類が使用されうる。一般に、天然の水生藻類は培養を必要としない。
【0038】
太陽光に曝される全ての水源は、ミリリットル当たり10〜最大100,000個体に及ぶ濃度で光合成微生物(例えば、植物プランクトンおよび藻類)を含む。これらの微生物は、太陽光に曝されている水中に常に存在しているが、多くの場合、肉眼では見ることができない。植物プランクトンは、もしも低い微生物濃度の溶液中で検出できるならば、化学および/または生物兵器物質の給水施設現場のインジケータとして利用されることが可能な特徴的な蛍光信号を放出する。一方、バイオセンサは、化学剤、生物剤または放射線剤から選択される1つまたは複数の毒素の存在を監視または分析されるべき気体または液体媒体中で時間依存性バイオセンサ信号を提供する。例えば、水溶性の有毒な化学剤および/または生物剤は、一次供給源の飲用水給水に脅威をもたらす可能性のある血液物質(blood agents)(例えば、シアン化物)、殺虫剤(例えばメチルパラチオン)および除草剤(例えばDCMU)、あるいは放射性核種を含むことができる。
【0039】
時間依存性バイオセンサ信号は、毒素がない場合の対照信号に比較して毒素によって修飾される。多様な信号のタイプが本発明を使用して分析されうる。例えば、信号は分光的(例えば蛍光性)であり得る。分光的信号に関しては、例えば、ファング、ジィ ジィ(Huang,G.G.)、ヤング、ジェイ(Yang,J)著、「Development of infrared optical sensor for selective detection of tyrosine in biological fluids」、Biosensors and Bioelectronics、21巻(3号)、408〜418ページ、2005年、を参照されたい。音響信号に関しては、例えば、ドロンら(Doron,et al)の米国特許第6486588号、「Acoustic biosensor for monitoring physiological conditions in a body implantation site」、クライッヒ、エム・エル(Khraiche,M.L.)、チョウ、エイ(Zhou,A.)、ムシュスワミー、ジェイ(Muthuswamy,J)著、「Acoustic immunosensor for real−time sensing of neurotransmitter GABA」、Proceedings of the 25th IEEE Annual International Conference,4巻、2998〜3000ページ、2003年、および、「Acoustic sensors for monitoring neuronal adhesion in real−time」、Proceedings of the 25th IEEE Annual International Conference、3巻、2186〜2188ページを参照されたい。電気化学的信号に関しては、例えば、アサノヴら(Asanov et al)の米国特許第6511854号、「Regenerable biosensor using total internal reflection fluorescence with electrochemical control」、およびクー、ジェイ・ゼットら(Ku,J.Z.et al)著、「Development and evaluation of electrochemical glucose enzyme biosensors based on carbon film electrodes」、Talanta,65巻(2号)、306〜312ページ、2004年、を参照されたい。
【0040】
熱的検出に関しては、例えば、タウ、ビー・シー(Tow,B.C.)、ギルバウ、イー・ジェイ(Guilbau,E.J.)著、「Calorimetric biosensors with integrated microfluidic channels」、Biosensors and Bioelectronics、19巻(12号)、1733〜1743ページ、1996年、を参照されたい。磁気に基づくセンサに関しては、ドゥ・オリベイラ、ジェイ・エフら(de Oliveira,J.F. et al)著、「Magnetic Resonance as a technique to magnetic biosensors characterization in Neocapritermes opacus termites」、Journal of Magnetism and Magnetic Materials、292巻(2号)、e171〜e174、2005年、および、チェムラ、ワイ・アールら(Chemla,Y.R. et al)著、「Ultrasensitive magnetic biosensor for homogeneous immunoassay」、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,97巻(26号)、14268〜72ページ、2000年、を参照されたい。酵素または抗体を使用した表面プラズモン共鳴(SPR)に関しては、シノキら(Shinoki et al)の米国特許第6726881号、「Measurement chip for surface resonance biosensor」、ボーエンら(Bowen,et al)の米国特許第6573107号、「Immunochemical detction of an explosive substance in the gas phase through surface plasmon resonance spectroscopy」、イヴァルソンら(Ivarsson, et al)の米国特許第5313264号、「Optical biosensor system」を参照されたい。
【0041】
藻類をベースにしたバイオセンサを使用した空気モニタリングの場合には、一般に、藻類は培養を必要とする。この実施形態では、分析されるべき空気は、その上に培養された藻類を有するフィルタペーパを通じて吸い込まれうる。
【0042】
全体として、本発明は、上に述べたように水中の藻類バイオセンサによってもたらされる蛍光誘導に関連して以降で説明されるが、本発明はこの特定の実施形態にいささかも限定されない。
蛍光誘導曲線の特徴抽出
蛍光誘導曲線の分析を通じた一次供給源の飲用水中の様々な有毒物質の分類は、興味深い取り組みである。曲線の振幅応答を単に眺めているだけでは様々な曲線を分離することは困難である。本発明による統計分析は、例えば、曲線がいかに「急速に」最大値に到達するか、その曲線が最大値に到達した後でどのように「緩慢に」減少するかを説明できる。これらの特徴は主として高次の統計量に関する。さらに、時間に対する周波数変化に関する追加の情報を提供するために、以下に説明するような他の変換ドメイン(周波数または時間周波数)でのさらなる分析も好適に行なわれる。
振幅統計量
振幅統計量は、時間にわたっての平均蛍光振幅などの、分析されるべきバイオセンサ信号の統計的測定値を提供する。4次までの振幅統計量の数学的定義は以下のとおりであり、
【0043】
【数2】
ここで、蛍光に関して、F(i)はi番目の時点における相対蛍光を表し、Nは誘導曲線中の時点の数である。
【0044】
1次統計量である平均は、実際に振幅の平均値である。2次統計量の標準偏差は、各試料が平均からどのくらい異なっているかを表す。3次統計量である歪み度は、その曲線がいかに対称的であるかを示す。4次統計量である尖度は、その曲線がどのくらい平坦であるかを説明する。曲線が平坦になるほど尖度は小さくなる。
【0045】
図5は、各有毒物質のクラスの対照信号および曝露信号から生成される平均振幅統計量を比較している。図6は、3つの振幅統計量特徴(平均、標準偏差および歪み度)に関する3次元プロットを示す。図6から、異なる有毒物質の群からのデータは、比較的容易に分離されることができる3次元特徴空間内の異なる位置にかたまっていることがわかる。このデータは、異なる有毒化学物質間を分類するのに特徴抽出に振幅統計量を使用することの有効性を示している。
ウェーブレット係数の統計量
ウェーブレット変換は、信号処理において良く知られたフーリエ変換の一般化である。フーリエ変換は、波形を元の波形に加算する異なる振幅(重み)を備えた異なる周波数の正弦波に分解することによって、信号を周波数ドメインの中に表す。言い換えると、フーリエ変換は、元の波形を形成するために必要とされる各周波数成分の量を明らかにする。フーリエ変換は、有益ではあるけれども、例えば、特定の周波数成分が時間ドメインの中でいつおよびどのくらい長く生じたのかといった、時間ドメインに関する任意の情報を保存しない。フーリエ変換における時間ドメイン情報の欠落は、信号の持続期間にわたって同一の周波数成分を維持しない非定常性信号の分析にとっては重大な問題を提示する。例えば、全ての時間で4つの周波数成分(例えば、10Hz、25Hz、50Hzおよび100Hz)を有する定常信号と、異なる時間期間で同じ4つの周波数成分が発生している非定常性信号とは、それぞれの時間ドメイン信号中に示される明確な差異にもかかわらず、同一のフーリエ変換値を有する。
【0046】
フーリエ変換とは異なり、ウェーブレット変換によって行なわれるような時間周波数分析は信号の時間周波数表現を表す。信号の時間周波数表現は、特定のスペクトル成分が生じているという時間ドメイン情報を提供する。一般に、蛍光誘導信号などのバイオセンサ信号は非定常的であるので、時間ドメイン情報と周波数ドメイン情報との両方を表すためには、ウェーブレット変換などの時間周波数分析を適用することが有益である。
【0047】
正弦関数および余弦関数を基本関数として使用するフーリエ変換とは異なり、ウェーブレット変換は、時間および周波数ドメインの双方の中に局在化される基本関数を使用する。ウェーブレット変換は、時間関数をウェーブレットと呼ばれる単純で固定されたモデルで表すことを狙いとしている。ウェーブレットは、マザーウェーブレットと呼ばれる単一の生成関数から導かれる。マザーウェーブレットは以下の条件、
【0048】
【数3】
を満たし、ここで、aはスケーリングファクタ、bは変換係数である。マザーウェーブレットの変換およびスケーリングは1群の関数を発生させる。パラメータaはウェーブレットのスケールを変化させ、即ち、|a|が大きくなるほど周波数は低くなる。パラメータbはウェーブレットの変換を制御する。言い換えると、ウェーブレット変換は、信号周波数が高い場合はより狭い窓を、信号周波数が低い場合はより広い窓を使用する。この表現は、ウェーブレット変換に信号中の過渡などの全ての高周波成分を「拡大」させる。これは、ウェーブレット変換のフーリエ変換に対する主要な利点の1つである。ウェーブレット変換は、連続ウェーブレット変換(CWT)と離散ウェーブレット変換(DWT)とに分類されることができ、
【0049】
【数4】
として定義される。所与の有限長のサンプリングされた信号について、CWTの計算の複雑さを考慮すると、全体として、本発明に関してDWTの使用が好適である。DWTでは、1群のウェーブレットは、
【0050】
【数5】
として与えられる。
【0051】
いくつかの典型的なマザーウェーブレットのいくつかの例が図7に示され、これらは、ドベシス(Daubechies)ウェーブレット、コアフレット(Coiflet)ウェーブレット、ハール(Harr)ウェーブレット、シムレット(Symmlet)ウェーブレット、メイエ(Meyer)ウェーブレットおよびバトル−ルマリエ(Battle−Lemarie)ウェーブレットを含む。これらのウェーブレットの中で、ドベシスウェーブレットがエンジニアリング分野で広く使用されている。対応するドベシスウェーブレットのパラメータは、以下の条件、
【0052】
【数6】
を満たす数列(h0、h1、・・・、hN)によって与えられる。
【0053】
実際には、図8に示されるようなデジタルフィルターバンクと呼ばれる1組のサンプリング関数を使用して正および逆ウェーブレット変換が実行されうる。サンプリングされたデータf[n]は、最初にローパスフィルタ(H[n])およびハイパスフィルタ(G[n])に並列に入力される。2つのフィルタからの出力はダウンサンプリングされ、したがって、入力信号のサイズの1/2を厳密に保持する。第1段の後で、ハイパスフィルタの出力は第1段階ウェーブレット係数、C1になる。第2段は、前段のローパスフィルタからの出力を入力として使用し、この入力は再びH[n]とG[n]とに送られる。この段のダウンサンプリングされたハイパスフィルタの出力は、第2段階ウェーブレット係数、C2になる。同じ方法が2つのサンプル点が残されるだけになるまで継続する。言い換えると、DWTは、異なるスケールで信号を分析するために異なるカットオフ周波数のフィルタを使用する。信号は、高周波および低周波成分を分析するために一連のハイパスおよびローパスフィルタをそれぞれ通過される。図8は、4つの一連の係数C1〜C4を有する3段階ウェーブレット変換を示す。図9は、10mMのKCNに曝露された蛍光誘導曲線および対応する3段階ウェーブレット分解の例を示す。
【0054】
図10(a)〜図10(d)は、有毒物質の4つの群に曝露された蛍光誘導曲線とこれらの信号の対応するウェーブレット変換とを示す。好適な実施形態では、それぞれのオリジナルな誘導曲線は、それらをダウンサンプリングすることによって256個の離散サンプルを有する信号に予備処理され、次いで、DWTを適用する。蛍光誘導信号中に存在する最高周波数成分はfmaxであると仮定すると、その場合は、3段階ウェーブレット分解において、128個のサンプルのC1ウェーブレット係数は周波数帯(fmax/2、fmax)の範囲の周波数成分に対応し、64個のサンプルのC2ウェーブレット係数は周波数帯(fmax/4、fmax/2)の範囲の周波数成分を反映し、32個のサンプルのC3ウェーブレット係数は周波数帯(fmax/8、fmax/4)の範囲の周波数成分に対応し、32個のサンプルのC4ウェーブレット係数は周波数帯(0、fmax/4)のローパス成分である。図9は3段階分解の1つの例を示す。
【0055】
主に、蛍光誘導信号は極めて低い周波数成分によって構成されるので、低い周波数スペクトル成分に対応する最初の64個のウェーブレット係数(C3およびC4)が考慮され、図10に示される。
【0056】
現行の方法は、分類のための特徴セットとしての役割をさせるためにウェーブレット係数自体を使用する。しかし、全ての係数が必要とはされない。さらに、全ての発生された係数の使用は特徴セットの次元の数を増加させ、計算の負荷と「不十分なトレーニングサンプル」問題との双方を招く。したがって、一般に、最初の64個のウェーブレット係数から3つの統計的特徴、つまり平均、分散およびエネルギーだけを計算するために選択することが好適である。異なる有毒物質群の対照データと曝露データとの間の差異を示すための例として、最初の64個のウェーブレット係数の平均が図10にプロットされている。
分類子設計
好適には、教師付の分類子が異なる有毒物質間を識別するために使用される。全ての現行の教師付き分類アルゴリズムの中で、サポートベクターマシン(SVM)技法(デューダ、アール・オー(Duda,R.O.)、ハート、ピー・イー(Hart,P.E.)、ストーク、ディー・ジー(Stork,D.G.)著、Pattern classification、John Wiley & Sons、2001年、第2版)などの線形判別法が好適である。SVM分類子は、元の特徴空間よりもはるかに高い次元内にパターンを表現するためにデータを変換することに依拠する。十分に高い次元への適切な(アプリケーション特有の)非線形マッピングを用いて、異なるカテゴリーからのデータは超平面によって分離されることができる。各対のクラス間の最適な超平面は、分類タスクのための最も情報量の多いトレーニングサンプルであるサポートベクトルによって決定される。他の分類方法に比較して、SVMは、分類子の複雑性が変換された空間の次元の数の替わりにサポートベクトルの数によって特徴づけられるので、オーバーフィッティング問題を解決する。分類子を適用する前に、好適には、上で説明したアルゴリズムを使用して未加工データから抽出された特徴に基づいて、正規化フェーズが実施される。
【0057】
しばしば、有毒物質は、意図的でない産業活動または場合によっては故意になされる人間の行為のために一次供給源の飲用水中に現れ、バイオテロリズムおよび環境汚染は世界中で増加しているのでそのリアルタイム検出がきわめて重要である。昨今の予防業務はリアルタイム監視に依拠している。社会に対する毒素の脅威は早期検知によって実質的に和らげられるので、低濃度毒素の迅速な検知に対する要求は、自国の安全を向上させるために民生用途および軍事用途の双方で急速に拡大している。本発明は、特に好適なラボオンチップセルを使用して具現化された場合に毒素を極めて低濃度で検出すること可能であり、したがって、従来可能であったよりもより早期の警報を提供することができる。本発明によるシステムは、汚染事件の事態における早期検出のために、民生および軍事施設における水道施設設備の管理者に他に類の無い利点を提供する。
実施例
以降で説明される実施例は例示の目的だけに提供され、決して本発明の範囲を規定するものではないことを理解されたい。
【0058】
第1の実験では、3ボルト未満の交流バイアスを備えたACEOセルを使用して、高効率な生体粒子の濃縮が示された。約60セルの大腸菌(Escherichia coli)が、106粒子/mlの懸濁液から10μm×10μmの表面領域のなかに30秒以内で収集されることが見出された(溶液中で大腸菌セルは約100μm離されていた)。
【0059】
他の実験では、普通クロレラ(Chlorella vulgaris)(緑の藻類)がモデル生体粒子として選択された。検出信号を最大化するために、生体粒子のそれらに相当するマイクロメートルおよびナノメートルの特徴サイズを有する薄膜金属電極が使用され、これらの電極上での生体粒子の動電学的捕捉およびそれらの自己蛍光が調べられた。
【0060】
生体粒子の捕集に適した電気信号で検出電極のインピーダンスを測定することによって、104個のバクテリア/mlよりも優れた解像度および2つのタイプの生体粒子間のインピーダンス識別が得られた。電極に付着した生体粒子は一対の電極の間で測定されるインピーダンスを低下させる。そのため、測定されたインピーダンスの読みを対照サンプルと比較することにより、インピーダンスの差異が生体粒子の存在を示すことができる。
【0061】
ビデオファイルが普通クロレラ藻類に関して取得された。得られた結果は、等電点電気泳動法が微細藻類の局所的濃度を数桁の大きさでリアルタイムに高められることを示した。得られたビデオファイルの中で、セルは左の電極で単一のファイルを形成することが分かった。各電極は直径が約70マイクロメートル(μm)であった。
【0062】
本発明は、その好適な特定の実施形態を参照して説明されてきたが、前述の説明ならびにそれに続く実施例は説明を意図しており本発明を限定することは意図されていないことを理解されよう。本発明の範囲の範囲内の他の態様、利点および修正は本発明が関係する当業者にとって明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の一実施形態に係る典型的な交流電気浸透(ACEO)による水質分析システム100の概略図。
【図2】本発明の一実施形態に係る平面状の噛み合わせ電極に基づいた典型的な交流電気浸透(ACEO)セルを示す図。
【図3】本発明の一実施形態に係るACEOセルによるシステムの好適な実施形態の概略を、関連するインターフェース装置と共に示す図。この好適な実施形態では、ACEO捕集セルはラボオンチップ装置として具体化されている。
【図4】典型的な蛍光誘導曲線の図。
【図5】各有毒物質群の対照信号および曝露信号から生成される平均振幅統計量を比較した図。
【図6】3つの振幅統計量特徴(平均、標準偏差および歪み度)を示した3次元プロットを示す図。図6から、異なる有毒物質の群からのデータは、比較的容易に分離されることができる3次元特徴空間内の異なる位置にかたまっていることがわかる。
【図7】ドベシスウェーブレット、コアフレットウェーブレット、ハールウェーブレット、シムレットウェーブレット、メイエウェーブレット、およびバトル−ルマリエウェーブレットを含むいくつかの典型的なマザーウェーブレットのいくつかの例を示す図。
【図8】離散ウェーブレット変換のフィルターバンク実行を示す図。
【図9】10mMのKCNに曝露された蛍光誘導曲線の例および対応する3段階ウェーブレット分解を示す図。
【図10(a)】有毒物質の4つの群に曝露された蛍光誘導曲線およびこれらの信号の対応するウェーブレット変換を示す図。
【図10(b)】有毒物質の4つの群に曝露された蛍光誘導曲線およびこれらの信号の対応するウェーブレット変換を示す図。
【図10(c)】有毒物質の4つの群に曝露された蛍光誘導曲線およびこれらの信号の対応するウェーブレット変換を示す図。
【図10(d)】有毒物質の4つの群に曝露された蛍光誘導曲線およびこれらの信号の対応するウェーブレット変換を示す図。
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中または空気中における化学的汚染物質、生物的汚染物質および/または放射性汚染物質、あるいはそれらの前駆物質を検出するためのバイオセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
化学兵器、生物兵器、および放射能兵器を使用した大都市エリアに対する攻撃の可能性の認識が高まっている。オークリッジ国立研究所(ORNL)の研究者らは、蛍光誘導曲線の分析を通じてグリーンバウムらの米国特許第6569384号で開示されているような、一次供給源の飲用水中の有毒物質を検出するためのバイオセンサシステムを開発した。グリーンバウムらの米国特許第6569384号は、少なくとも1つの化学兵器または生物兵器の存在を検出するための水質センサを開示している。このセンサは、セルと、水中に天然に存在する自由生活性で常在性の光合成生物の光合成作用を分析するのに適合した、セル内に水を導入し、かつセルから水を排出するための装置と、セルに取り込まれた天然に存在する自由生活性で常在性の光合成生物の光合成作用を測定するための蛍光光度計とを備える。電子回路パッケージは、蛍光光度計からの未加工データを分析し、水の中に少なくとも1つの化学兵器または生物兵器が存在していることを知らせる信号を生成する。
【特許文献1】米国特許第6569384号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
グリーンバウムらの米国特許第6569384号で開示されている水質センサは非常に有益なデバイスを提供するものであるが、デバイスの速度および感度の向上が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
バイオセンサによる毒素の検出方法は、分析されるべき流動体中の複数の光合成生物を、バイアス交流電気浸透を使用して濃縮領域中に濃縮する工程と、濃縮領域中で測定される光合成生物の光合成活動を取得する工程であって、化学剤、生物剤または放射線剤が光合成生物の見掛けの光合成活動を弱めることを含む。化学剤、生物剤または放射線剤、あるいはそれらの前駆物質のうちの少なくとも1つが流動体中に存在していることは、測定された光合成活動に基づいて判定される。前記複数の光合成生物は、例えば水中の天然藻類のような、流動体中に天然に存在する自由生活性で常在性の生物でありうる。一般に、バイアスACEOのための直流バイアスは1〜10ボルトである。
【0005】
本発明によるバイアスACEOは、光合成生物の濃度を結果的に増大することにより、著しい蛍光信号の増強を実現する。光合成生物の濃度が増大されることにより、従来の関連するデバイスおよび方法に比較して、本発明によるデバイスおよび方法の感度と速度は著しく向上する。
【0006】
前記光合成活動は、クロロフィル蛍光誘導を含みうる。前記濃縮工程のためにラボオンチップ装置が使用されうる。前記流動体は、一次供給源の飲用水の供給源から抜き取られうる。この実施形態では、本方法は、飲用水を新たに補給することによって光合成生物を補給して当該方法を繰り返す工程をさらに含みうる。
【0007】
本発明の好適な実施形態においては、有毒物質の存在を検出するために高度な信号処理アルゴリズムが使用される。こうした実施形態において、前記判定工程は、流動体媒体中のバイオセンサによって生成される少なくとも1つの時間依存性の対照信号を提供する工程と、1つまたは複数の化学剤、生物剤または放射線剤の存在に関して監視または分析されるべき流動体媒体中のバイオセンサから時間依存性のバイオセンサ信号を取得する工程と、振幅統計量と時間周波数分析の少なくとも一方を使用して、複数の特徴ベクトルを得るべく時間依存性のバイオセンサ信号を処理する工程と、対照信号の参照に基づいて、特徴ベクトルから、前記剤あるいはそれらの前駆物質のうちの少なくとも1つの存在を判定する工程とをさらに含む。時間周波数分析はウェーブレット係数分析を含みうる。1つの実施形態においては、処理工程において振幅統計量と時間周波数分析の両方が使用されうる。
【0008】
本方法は、流動体中に前記剤のうちのいずれが存在しているかを同定する工程をさらに含みうる。前記同定工程のために線形判別法が使用されうる。線形判別法は、サポートベクターマシン(SVM)分類を含みうる。
【0009】
水質アナライザは、複数の光合成生物をその中に含んだ分析されるべき流動体を受け取り、かつ複数の光合成生物を少なくとも1つの濃縮領域に濃縮させるためのバイアス交流電気浸透(ACEO)セルを備える。光検出器は、濃縮領域中で測定される複数の光合成生物の光合成活動を取得し、化学剤、生物剤または放射線剤が光合成生物の見掛けの光合成活動を弱める。電子回路パッケージは、流動体中に化学剤、生物剤または放射線剤が存在していることを知らせるべく、測定された光合成活動を分析する。ACEOセルはラボオンチップ装置からなることができる。ラボオンチップ装置は、チップ上に少なくとも1つの電子デバイスを有しうる。また、測定された光合成活動、あるいは電子回路パッケージによる分析後の測定された光合成活動を、1つまたは複数の遠隔場所に通信するための機構が提供されうる。
【0010】
本発明ならびにその特徴および利点のより完全なる理解は、以降の詳細な説明を添付の図面と共に検討することによって得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
背景技術で言及したように、従来の水中バイオセンサは、一次供給源の飲用水の品質を、光合成中の正常な藻類からの蛍光信号特性を分析することによって監視する。正常な藻類から放出される蛍光は、有毒物質に曝された藻類によって放出される蛍光とは異なる。一般に、PSII効率に基づいた比較的単純なアルゴリズムが蛍光信号の特性を特徴づけるために使用される。しかし、有毒物の検出において遭遇する主要な課題は、微細藻類が低濃度で存在するために往々にして信頼性のある検出ができないことである。
【0012】
感度と選択度とが毒素のリアルタイム検出のために決定的に重要である。選択度に関しては、好適には組織をベースにした検出システムが使用され、このシステムは、水中のアンタゴニストを検出するために検出材料(微細藻類)として天然の水中光合成組織を使用する。感度については、微生物濃度スキームにより、新しく発見されて動電学的ミクロ流動体に関する研究の最前線にあるバイアス交流電気浸透(ACEO)が使用される。ACEOは、ある領域へのミクロ流動体の対流を通じてそれらの拡散を促すことによって、局所的な微細藻類の濃度を急速に高め、その結果それらの濃縮を可能にする。濃縮されたバイオセンサは、電子回路における増幅器の機能に類似して、結果として生じる信号レベルを向上させる。好適には、蛍光技術は、続いてバイオセンサの代謝正常を評価するために使用される。
【0013】
本発明によるリアルタイム検出のための水質アナライザは、複数の光合成生物をその中に含んだ分析されるべき流動体を受け取り、かつ複数の光合成生物を少なくとも1つの濃縮領域に濃縮するためのバイアス交流電気浸透(ACEO)セルを備える。濃縮領域中で測定される複数の光合成生物の光合成活動を取得するために、光度計または蛍光光度計などの光検出器が提供される。化学剤、生物剤または放射線剤は、光合成生物の見掛けの光合成活動を弱める。電子回路パッケージは、流動体中に化学剤、生物剤または放射線剤が存在していることを知らせるべく、測定された光合成活動を分析する。また、特定の剤を同定することも可能である。例えば、所与のライブラリの剤に関する特徴的な蛍光誘導曲線を使用して、特定の剤を特定することができる。剤がある最小濃度にあると仮定して、また、この剤の濃度を決定することもできる。
【0014】
図1は、本発明の一実施形態に係る典型的な交流電気浸透(ACEO)による水質分析システム100を示す概略図である。システム100は、光ビームを放射するための光源105と、放射された光ビームを集束レンズ153に向けて再反射させるためのビームスプリッタ152とを備える。集束レンズ153は、ビームスプリッタから再反射した後の光ビームをバイアス交流電気浸透(ACEO)捕集セル154の上に収束させる。光合成生物が生物発光性であるときは、光源105、ビームスプリッタ152および集束レンズ153は必要とされない。ACEOセル154は、複数の光合成生物をその中に含んだ分析されるべき流動体を受け取り、かつ複数の光合成生物を少なくとも1つの濃縮領域中に濃縮する。光はACEOセル154中の濃縮領域に向けて照射され、したがってACEOセル154上の光合成生物を刺激して蛍光155を生じさせる。蛍光を検出する光検出器157の上に蛍光を集束させるために集束レンズ156が用意されている。コンピュータ装置158は、光検出器157によって検出される測定された蛍光信号を受信する。
【0015】
好適には、ACEOセル154はプラットフォーム169の上に配置される。一般に、プラットフォームはコンピュータ装置158の制御のもとで可動である。コンピュータ装置は、プラットフォーム169の移動を制御するだけでなく蛍光データを分析するためのアルゴリズムを搭載されている。
【0016】
平面状の噛み合わせ電極構成および平行な平板電極構成を備えた2つのタイプのACEO粒子トラップが一般に存在する。平面状の噛み合わせ電極が本発明には好適である。平面電極は通常、電極面に対して垂直に均一な電界を発生させる。本構成においては、接線方向に働く電界がプレート上の非対称な電極パターンによって発生される。好適には、パターン化された電極は、バートらの論文(バート、ケー・エイチ(Bhatt,K.H.)、グレゴ、エス(Grego,S.)、ヴェレヴ、オー・ディー(Velev.O.D.)、2005年、An AC electrokinetic technique for collection and concentration of particles and cells on patterned electrodes、Langmuir,21巻14号、6603〜6612ページ)に開示されたものとして提供される。電極は、平行なプレートの形状で互いに対向する。電界は、純粋な交流信号を使用してバートらによって生成されている。直流バイアスは、バートによっては開示または示唆されない。不均一な電界勾配は、ホトレジストまたは二酸化ケイ素などの非電気伝導性材料を備えた1つの電極をパターニングすることによって実現される。粒子は、流速が相対的に遅い囲いの中央部に蓄積する。
【0017】
バートらとは対照的に、本発明は、好適には、電極をバイアスさせるために交流信号を直流バイアスと共に使用しており、本明細書ではこれを「バイアスACEO」と呼ぶ。バイアスACEOは、バートらによって開示されたACだけを使用したACEOによっては不可能な異なる電極の分極を活用している。重要なことに、本発明のバイアスACEOは、粒子の明確な経路を生成させることができ、したがって粒子を集中させることができる。一般に、約0.5mmのプレート分離において、直流バイアスは1〜10Vの範囲であり、交流信号は20V未満のピーク・トゥ・ピーク振幅および50Hz〜1MHzの周波数を有する。好適には、電圧範囲は直流および交流成分の組み合わせについて10Vrmsの範囲内である。
【0018】
本発明による平面状噛み合わせ電極に基づいた典型的なACEOセル200が図2に示される。底部電極を設けるために、n−またはp−ドープシリコンウェーハ205などの少なくとも半導体性の電気伝導性を有する基板サポート205が用意される。二酸化ケイ素などの電気的に絶縁性の材料210のパターン化された層が基板サポート205の上に配置される。電気絶縁性の間隔保持材料215は、分析されるべき液体がセル内に保持されるように、セル200の周囲を囲んで封止する。任意の基板205が、導電性の層が基板205頂部の上に配置されその導電性の層が流動体に曝される限り、使用されることができる。
【0019】
曝露されるパターン化電極は、他の絶縁性の層を加えることによるか、導電性の層をエッチングすることによって実現される。光合成生物223が濃縮される電極パターン225の中央部で流動体のよどみは発生する。
【0020】
間隔保持材料の見掛けの高さは一般に、数百ミクロン程度である。セルの囲い込みを完全にするために、インジウムスズ酸化物がコートされたガラス層などの、問題とする波長領域で光学的に透明な頂部電極220が間隔保持材料の上に配置される。複数の光合成生物223がセル200の内部に入れられる。直流バイアスの上に乗った交流信号を供給する電源231は、頂部電極220と底部電極205の間に電気信号を印加する。図示されていないが、交流信号と直流バイアスのために別の電源が使用されてもよい。
【0021】
図3は、ACEOセルによるシステム300の好適な実施形態を、関連するインターフェース装置と共に示す。AECO捕集セルは、この好適な実施形態ではラボオンチップ装置320として具体化される。ラボオンチップは、単一の小型化されたデバイスの上で迅速且つ高感度な生物学的および臨床的分析を可能にする。ラボオンチップ装置は、MEMSデバイスのサブセットである。
【0022】
微細藻類センサと共に働くラボオンチップの実施形態にはいくつかの利点があり、動電学的濃縮からの迅速な検出時間、微細藻類をセンサとして使用する結果としての特異性、検出成分が単一のプラットフォーム上に配置されることによる簡潔性を含む。また、ラボオンチップ技術は携帯性と分析時間の削減ももたらす。試料および反応物質の容積の減少は効率を高め、分析化学および分析生化学に関連するコストを削減する。さらに、微細加工(microfabrication)は量産の可能性をもたらす。単一のチップであることを示す図3の破線で示されるように、ラボオンチップ装置320ならびに光検出器157および計算デバイス158などの電子的構成要素は、同一のチップ上に製造されてもよい。
【0023】
ラボオンチップ320への電気的接続は外部電極321および322によって行われる。交流電源231はACEOを実現し、バイオセンサを少なくとも1つの濃縮領域内に押しやるために必要とされるバイアスを供給する。一実施形態では、電池(図示せず)がシステム300の様々な構成要素に電力を供給する。
【0024】
ラボオンチップ装置320は、水の入口315および水の出口318を含む。一般に、水は、ラボオンチップ装置のために普通に使用されている小さな内部ポンプ316によって入口315に運ばれる。また、水は小さな内部ポンプ317によって出口318から引き出される。定期的に、好適には、水の新しい試料が「連続モード」よりはむしろ「バッチ・モード」を使用してシステム100によって分析される。本発明の1つのユニークな態様は、従来のセンシング装置とは異なり、センサ材料が検出機器の外部にあって連続的にリフレッシュされうることである。したがって、こうしたシステムは、太陽光に曝露されている飲用水給水施設における化学兵器物質の検出のために連続的に緊急警報する見張りとして使用されることができる。
【0025】
システム100は、測定されおよび/または分析されたデータを1つまたは複数の遠隔場所359に通信するための機構を含む。遠隔場所は、軍または民間の場所であってよい。例えば、軍事用途では、軍職員が当該技術分野において本発明を使用することができる。民間用途では、水道事業職員が、彼らの水処理プラントまたは配水施設から遠く離れて位置する貯水池の取水ポイントで本発明を使用することができる。たとえば、通信のための機構359は、Wi−Fi(商標)カード150を備えることができる。カード150は、ネットワークアクセスポイントが近くにある場合にはローカルエリアネットワーク(LAN)に接続する。接続は無線周波数信号によってなされる。ローカルエリアネットワークがインターネットに接続されているならば、Wi−Fiデバイスはさらにインターネットアクセスを有することもできる。あるいは、通信のための機構359は、測定されたデータまたは分析されたデータのシリアルなバイナリデータ相互接続のためのRS232インターフェースまたは同等物を備えることができる。
【0026】
一実施形態において、光検出器157から受信された未加工データは、Wi−Fi(商標)359によってLANを介してプロセッサ/コンピュータが配置されている(図示せず)遠隔場所に伝送される。プロセッサ/コンピュータは、濃縮領域内の光合成生物の測定された光合成活動を取得し、測定された光合成活動に基づいて化学剤、生物剤または放射線剤、あるいはその前駆物質の存在を判定するためにアルゴリズムを適用し、好適な実施形態においては、特定の剤ならびにその濃度を決定することもできる。
【0027】
本発明の一実施形態において、水の試料は保存されてタイムスタンプを刻印されることができる。本発明の好適な実施形態では、危険な有毒物質が検出された場合に監督指令(例えば、連邦、州、市、産業など)に従ってさらなる分析を可能にするために、オペレータはどの時刻および日付で試料が収集されたかを検出することができる。ラボオンチップ320上の微細チャネルがこの目的のために使用されうる。本発明の好適な実施形態においては、本システムは、そうした事態のときに採集された水を保存している微細チャネルを含む指定されたチップ/カートリッジをオペレータが取り外しできるようにする。或る内部ポンプを作動させまたは或る水路を開き、他のポンプを停止させまたは他の水路を閉じることによって、本システムは、水を微細チャネルの主セットから保存目的に使用される微細チャネルに向かわせるように設計されることができる。
【0028】
有毒物質の存在を検出するための伝統的な方法は、いわゆる「PSII(フォトシステムII)光科学の効率」、
【0029】
【数1】
を測定することであり、ここで、Fsは、図4に示されるような蛍光誘導曲線の定常時における値であり、Fmaxは最大値である。PSII効率は、蛍光信号「特性」の単純な誘導曲線をベースにした計算値を表し、その著しい偏りは水中における有毒物質の潜在的な存在を示す。
【0030】
PSII効率は一般に、有毒物質の存在の検出に有効であるが、ある場合には、ある有毒物質によって呈される有意でない光化学収率のために失敗する。さらに、PSII効率は一般に、異なる物質の間または異なる濃度を有する同一物質の間を分類できない。さらに、このパラメータを使用したときには、汚染物質の事象の検出に関する決定に至るまでに60分もの長い時間を要することがある。様々な物質をより短い反応時間で分類することは、汚染物質の事象に対する反応時間を短縮するためなどに、極めて重要なことである。有毒物質の種類の知識を用いることによって、適切な医薬と救助戦略が生命を救うとともにテロリストの攻撃に対する反撃に間に合うように使用されることができる。
【0031】
好適な実施形態において、有毒物質の存在を検出するために高度な信号処理アルゴリズムが使用される。この高度な分析方法は、バイオセンサによって液体(例えば水)または気体(例えば空気)中で生成される少なくとも1つの時間依存性の対照信号を提供する工程と、化学剤、生物剤または放射線剤から選択される1つまたは複数の毒素に関して監視し分析されるべき気体または液体媒体中のバイオセンサから、時間依存性のバイオセンサ信号を取得する工程とを含む。時間依存性バイオセンサ信号は、振幅統計量と時間周波数分析の少なくとも一方を使用して、複数の特徴ベクトルを取得するべく処理される。次いで、気体または液体媒体の有毒性に関する少なくとも1つのパラメータが、用意された対照信号の参照に基づいて特徴ベクトルから決定される。本明細書で使用されるように、「特徴ベクトル」という語句は、(i)以降(振幅統計量)で説明されるように加算に基づく統計的大きさ、および(ii)時間周波数分析を時間依存性センサ信号に適用させることによって発生された係数(例えばウェーブレット係数)またはその係数から導かれた統計的パラメータ(例えばウェーブレット係数の標準偏差)であると定義される。
【0032】
第1の新しいアルゴリズムは、時間ドメインにおける光信号の高次統計分析(本明細書では「振幅統計量」と呼ぶ)を備える。本明細書で使用されるように、語句「振幅統計量」は、1次(平均)、2次(標準偏差)、3次(歪み度)および4次(尖度)などの、信号曲線中の複数(N個)の時点から導かれた加算に基づいた統計的測度と定義される。したがって、グリーンバウムらの米国特許第6569384号で開示されたようなPSII効率は、その測定が蛍光誘導曲線の最大値(Fmax)をなす離散点と定常時の蛍光値(Fs)である離散点との間の単純な差に基づいていることから、明らかに振幅統計量ではない。
【0033】
振幅統計量は、PSII効率よりもダイナミックな信号の特徴を捕捉することができ、信号がどれくらい急速に最大値および最小値に接近しているか、試料がどれくらい平均値から離れているか、および信号がどれだけ対称的に見えるかを含む。一般に、これらの特徴は、異なる有毒物質の存在に関する検出および同定に必要とされる。
【0034】
第1の新しいアルゴリズムは、本明細書で「時間周波数分析」と呼ばれる時間周波数ドメインでの光信号のウェーブレット分析を備える。水中のバイオセンサによって捕捉される光信号の性質のために、時間周波数分析は信号の周波数がいつどのように変化したかを明らかにすることができる。好適な実施形態では、信号の特徴記述のための係数の全セットの替わりにウェーブレット係数から抽出された3つの特徴だけがアルゴリズムの中で使用される。
【0035】
本発明による振幅統計量および時間周波数分析は、蛍光信号の固有特徴に基づくアルゴリズムに比較して著しく向上した検出結果を実現するため、独立して使用されることができる。しかし、振幅統計量と時間周波数分析を組み合わせることによって、検出信頼性および識別信頼性を高いレベルにまで向上することができる。
【0036】
監視または分析されるべき気体または液体媒体は一般に、気体の場合には空気であり、液体の場合には水である。水は一次供給源の飲用水でありうる。本発明の好適な実施形態において、藻類は、太陽光に曝露された一次供給源の飲用水中の様々な有毒物質の分類を特徴ベクトルに基づいて可能にするため、特徴ベクトルの抽出を通じて分析される蛍光誘導曲線などの時間依存性バイオセンサ信号を生成するために使用されるバイオセンサである。検討された剤には、クリンチ川(テネシー)の試料ならびに実験栽培のクラミドモナス(Chlamidomonas Reinhardtii)を含む試料の両方の中の、メチルパラチオン(MPt)、シアン化カリウム(KCN)、ジウロン(Diuron)(DCMU)およびパラコート(Paraquat)が含まれる。
【0037】
一般に、バイオセンサはセルをベースにしたもので、遺伝子操作されたセルを含むことができる。例えば、lux遺伝子で操作されたバクテリアが使用されうる。蛍光誘導の場合には、天然または遺伝子操作された藻類が使用されうる。一般に、天然の水生藻類は培養を必要としない。
【0038】
太陽光に曝される全ての水源は、ミリリットル当たり10〜最大100,000個体に及ぶ濃度で光合成微生物(例えば、植物プランクトンおよび藻類)を含む。これらの微生物は、太陽光に曝されている水中に常に存在しているが、多くの場合、肉眼では見ることができない。植物プランクトンは、もしも低い微生物濃度の溶液中で検出できるならば、化学および/または生物兵器物質の給水施設現場のインジケータとして利用されることが可能な特徴的な蛍光信号を放出する。一方、バイオセンサは、化学剤、生物剤または放射線剤から選択される1つまたは複数の毒素の存在を監視または分析されるべき気体または液体媒体中で時間依存性バイオセンサ信号を提供する。例えば、水溶性の有毒な化学剤および/または生物剤は、一次供給源の飲用水給水に脅威をもたらす可能性のある血液物質(blood agents)(例えば、シアン化物)、殺虫剤(例えばメチルパラチオン)および除草剤(例えばDCMU)、あるいは放射性核種を含むことができる。
【0039】
時間依存性バイオセンサ信号は、毒素がない場合の対照信号に比較して毒素によって修飾される。多様な信号のタイプが本発明を使用して分析されうる。例えば、信号は分光的(例えば蛍光性)であり得る。分光的信号に関しては、例えば、ファング、ジィ ジィ(Huang,G.G.)、ヤング、ジェイ(Yang,J)著、「Development of infrared optical sensor for selective detection of tyrosine in biological fluids」、Biosensors and Bioelectronics、21巻(3号)、408〜418ページ、2005年、を参照されたい。音響信号に関しては、例えば、ドロンら(Doron,et al)の米国特許第6486588号、「Acoustic biosensor for monitoring physiological conditions in a body implantation site」、クライッヒ、エム・エル(Khraiche,M.L.)、チョウ、エイ(Zhou,A.)、ムシュスワミー、ジェイ(Muthuswamy,J)著、「Acoustic immunosensor for real−time sensing of neurotransmitter GABA」、Proceedings of the 25th IEEE Annual International Conference,4巻、2998〜3000ページ、2003年、および、「Acoustic sensors for monitoring neuronal adhesion in real−time」、Proceedings of the 25th IEEE Annual International Conference、3巻、2186〜2188ページを参照されたい。電気化学的信号に関しては、例えば、アサノヴら(Asanov et al)の米国特許第6511854号、「Regenerable biosensor using total internal reflection fluorescence with electrochemical control」、およびクー、ジェイ・ゼットら(Ku,J.Z.et al)著、「Development and evaluation of electrochemical glucose enzyme biosensors based on carbon film electrodes」、Talanta,65巻(2号)、306〜312ページ、2004年、を参照されたい。
【0040】
熱的検出に関しては、例えば、タウ、ビー・シー(Tow,B.C.)、ギルバウ、イー・ジェイ(Guilbau,E.J.)著、「Calorimetric biosensors with integrated microfluidic channels」、Biosensors and Bioelectronics、19巻(12号)、1733〜1743ページ、1996年、を参照されたい。磁気に基づくセンサに関しては、ドゥ・オリベイラ、ジェイ・エフら(de Oliveira,J.F. et al)著、「Magnetic Resonance as a technique to magnetic biosensors characterization in Neocapritermes opacus termites」、Journal of Magnetism and Magnetic Materials、292巻(2号)、e171〜e174、2005年、および、チェムラ、ワイ・アールら(Chemla,Y.R. et al)著、「Ultrasensitive magnetic biosensor for homogeneous immunoassay」、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,97巻(26号)、14268〜72ページ、2000年、を参照されたい。酵素または抗体を使用した表面プラズモン共鳴(SPR)に関しては、シノキら(Shinoki et al)の米国特許第6726881号、「Measurement chip for surface resonance biosensor」、ボーエンら(Bowen,et al)の米国特許第6573107号、「Immunochemical detction of an explosive substance in the gas phase through surface plasmon resonance spectroscopy」、イヴァルソンら(Ivarsson, et al)の米国特許第5313264号、「Optical biosensor system」を参照されたい。
【0041】
藻類をベースにしたバイオセンサを使用した空気モニタリングの場合には、一般に、藻類は培養を必要とする。この実施形態では、分析されるべき空気は、その上に培養された藻類を有するフィルタペーパを通じて吸い込まれうる。
【0042】
全体として、本発明は、上に述べたように水中の藻類バイオセンサによってもたらされる蛍光誘導に関連して以降で説明されるが、本発明はこの特定の実施形態にいささかも限定されない。
蛍光誘導曲線の特徴抽出
蛍光誘導曲線の分析を通じた一次供給源の飲用水中の様々な有毒物質の分類は、興味深い取り組みである。曲線の振幅応答を単に眺めているだけでは様々な曲線を分離することは困難である。本発明による統計分析は、例えば、曲線がいかに「急速に」最大値に到達するか、その曲線が最大値に到達した後でどのように「緩慢に」減少するかを説明できる。これらの特徴は主として高次の統計量に関する。さらに、時間に対する周波数変化に関する追加の情報を提供するために、以下に説明するような他の変換ドメイン(周波数または時間周波数)でのさらなる分析も好適に行なわれる。
振幅統計量
振幅統計量は、時間にわたっての平均蛍光振幅などの、分析されるべきバイオセンサ信号の統計的測定値を提供する。4次までの振幅統計量の数学的定義は以下のとおりであり、
【0043】
【数2】
ここで、蛍光に関して、F(i)はi番目の時点における相対蛍光を表し、Nは誘導曲線中の時点の数である。
【0044】
1次統計量である平均は、実際に振幅の平均値である。2次統計量の標準偏差は、各試料が平均からどのくらい異なっているかを表す。3次統計量である歪み度は、その曲線がいかに対称的であるかを示す。4次統計量である尖度は、その曲線がどのくらい平坦であるかを説明する。曲線が平坦になるほど尖度は小さくなる。
【0045】
図5は、各有毒物質のクラスの対照信号および曝露信号から生成される平均振幅統計量を比較している。図6は、3つの振幅統計量特徴(平均、標準偏差および歪み度)に関する3次元プロットを示す。図6から、異なる有毒物質の群からのデータは、比較的容易に分離されることができる3次元特徴空間内の異なる位置にかたまっていることがわかる。このデータは、異なる有毒化学物質間を分類するのに特徴抽出に振幅統計量を使用することの有効性を示している。
ウェーブレット係数の統計量
ウェーブレット変換は、信号処理において良く知られたフーリエ変換の一般化である。フーリエ変換は、波形を元の波形に加算する異なる振幅(重み)を備えた異なる周波数の正弦波に分解することによって、信号を周波数ドメインの中に表す。言い換えると、フーリエ変換は、元の波形を形成するために必要とされる各周波数成分の量を明らかにする。フーリエ変換は、有益ではあるけれども、例えば、特定の周波数成分が時間ドメインの中でいつおよびどのくらい長く生じたのかといった、時間ドメインに関する任意の情報を保存しない。フーリエ変換における時間ドメイン情報の欠落は、信号の持続期間にわたって同一の周波数成分を維持しない非定常性信号の分析にとっては重大な問題を提示する。例えば、全ての時間で4つの周波数成分(例えば、10Hz、25Hz、50Hzおよび100Hz)を有する定常信号と、異なる時間期間で同じ4つの周波数成分が発生している非定常性信号とは、それぞれの時間ドメイン信号中に示される明確な差異にもかかわらず、同一のフーリエ変換値を有する。
【0046】
フーリエ変換とは異なり、ウェーブレット変換によって行なわれるような時間周波数分析は信号の時間周波数表現を表す。信号の時間周波数表現は、特定のスペクトル成分が生じているという時間ドメイン情報を提供する。一般に、蛍光誘導信号などのバイオセンサ信号は非定常的であるので、時間ドメイン情報と周波数ドメイン情報との両方を表すためには、ウェーブレット変換などの時間周波数分析を適用することが有益である。
【0047】
正弦関数および余弦関数を基本関数として使用するフーリエ変換とは異なり、ウェーブレット変換は、時間および周波数ドメインの双方の中に局在化される基本関数を使用する。ウェーブレット変換は、時間関数をウェーブレットと呼ばれる単純で固定されたモデルで表すことを狙いとしている。ウェーブレットは、マザーウェーブレットと呼ばれる単一の生成関数から導かれる。マザーウェーブレットは以下の条件、
【0048】
【数3】
を満たし、ここで、aはスケーリングファクタ、bは変換係数である。マザーウェーブレットの変換およびスケーリングは1群の関数を発生させる。パラメータaはウェーブレットのスケールを変化させ、即ち、|a|が大きくなるほど周波数は低くなる。パラメータbはウェーブレットの変換を制御する。言い換えると、ウェーブレット変換は、信号周波数が高い場合はより狭い窓を、信号周波数が低い場合はより広い窓を使用する。この表現は、ウェーブレット変換に信号中の過渡などの全ての高周波成分を「拡大」させる。これは、ウェーブレット変換のフーリエ変換に対する主要な利点の1つである。ウェーブレット変換は、連続ウェーブレット変換(CWT)と離散ウェーブレット変換(DWT)とに分類されることができ、
【0049】
【数4】
として定義される。所与の有限長のサンプリングされた信号について、CWTの計算の複雑さを考慮すると、全体として、本発明に関してDWTの使用が好適である。DWTでは、1群のウェーブレットは、
【0050】
【数5】
として与えられる。
【0051】
いくつかの典型的なマザーウェーブレットのいくつかの例が図7に示され、これらは、ドベシス(Daubechies)ウェーブレット、コアフレット(Coiflet)ウェーブレット、ハール(Harr)ウェーブレット、シムレット(Symmlet)ウェーブレット、メイエ(Meyer)ウェーブレットおよびバトル−ルマリエ(Battle−Lemarie)ウェーブレットを含む。これらのウェーブレットの中で、ドベシスウェーブレットがエンジニアリング分野で広く使用されている。対応するドベシスウェーブレットのパラメータは、以下の条件、
【0052】
【数6】
を満たす数列(h0、h1、・・・、hN)によって与えられる。
【0053】
実際には、図8に示されるようなデジタルフィルターバンクと呼ばれる1組のサンプリング関数を使用して正および逆ウェーブレット変換が実行されうる。サンプリングされたデータf[n]は、最初にローパスフィルタ(H[n])およびハイパスフィルタ(G[n])に並列に入力される。2つのフィルタからの出力はダウンサンプリングされ、したがって、入力信号のサイズの1/2を厳密に保持する。第1段の後で、ハイパスフィルタの出力は第1段階ウェーブレット係数、C1になる。第2段は、前段のローパスフィルタからの出力を入力として使用し、この入力は再びH[n]とG[n]とに送られる。この段のダウンサンプリングされたハイパスフィルタの出力は、第2段階ウェーブレット係数、C2になる。同じ方法が2つのサンプル点が残されるだけになるまで継続する。言い換えると、DWTは、異なるスケールで信号を分析するために異なるカットオフ周波数のフィルタを使用する。信号は、高周波および低周波成分を分析するために一連のハイパスおよびローパスフィルタをそれぞれ通過される。図8は、4つの一連の係数C1〜C4を有する3段階ウェーブレット変換を示す。図9は、10mMのKCNに曝露された蛍光誘導曲線および対応する3段階ウェーブレット分解の例を示す。
【0054】
図10(a)〜図10(d)は、有毒物質の4つの群に曝露された蛍光誘導曲線とこれらの信号の対応するウェーブレット変換とを示す。好適な実施形態では、それぞれのオリジナルな誘導曲線は、それらをダウンサンプリングすることによって256個の離散サンプルを有する信号に予備処理され、次いで、DWTを適用する。蛍光誘導信号中に存在する最高周波数成分はfmaxであると仮定すると、その場合は、3段階ウェーブレット分解において、128個のサンプルのC1ウェーブレット係数は周波数帯(fmax/2、fmax)の範囲の周波数成分に対応し、64個のサンプルのC2ウェーブレット係数は周波数帯(fmax/4、fmax/2)の範囲の周波数成分を反映し、32個のサンプルのC3ウェーブレット係数は周波数帯(fmax/8、fmax/4)の範囲の周波数成分に対応し、32個のサンプルのC4ウェーブレット係数は周波数帯(0、fmax/4)のローパス成分である。図9は3段階分解の1つの例を示す。
【0055】
主に、蛍光誘導信号は極めて低い周波数成分によって構成されるので、低い周波数スペクトル成分に対応する最初の64個のウェーブレット係数(C3およびC4)が考慮され、図10に示される。
【0056】
現行の方法は、分類のための特徴セットとしての役割をさせるためにウェーブレット係数自体を使用する。しかし、全ての係数が必要とはされない。さらに、全ての発生された係数の使用は特徴セットの次元の数を増加させ、計算の負荷と「不十分なトレーニングサンプル」問題との双方を招く。したがって、一般に、最初の64個のウェーブレット係数から3つの統計的特徴、つまり平均、分散およびエネルギーだけを計算するために選択することが好適である。異なる有毒物質群の対照データと曝露データとの間の差異を示すための例として、最初の64個のウェーブレット係数の平均が図10にプロットされている。
分類子設計
好適には、教師付の分類子が異なる有毒物質間を識別するために使用される。全ての現行の教師付き分類アルゴリズムの中で、サポートベクターマシン(SVM)技法(デューダ、アール・オー(Duda,R.O.)、ハート、ピー・イー(Hart,P.E.)、ストーク、ディー・ジー(Stork,D.G.)著、Pattern classification、John Wiley & Sons、2001年、第2版)などの線形判別法が好適である。SVM分類子は、元の特徴空間よりもはるかに高い次元内にパターンを表現するためにデータを変換することに依拠する。十分に高い次元への適切な(アプリケーション特有の)非線形マッピングを用いて、異なるカテゴリーからのデータは超平面によって分離されることができる。各対のクラス間の最適な超平面は、分類タスクのための最も情報量の多いトレーニングサンプルであるサポートベクトルによって決定される。他の分類方法に比較して、SVMは、分類子の複雑性が変換された空間の次元の数の替わりにサポートベクトルの数によって特徴づけられるので、オーバーフィッティング問題を解決する。分類子を適用する前に、好適には、上で説明したアルゴリズムを使用して未加工データから抽出された特徴に基づいて、正規化フェーズが実施される。
【0057】
しばしば、有毒物質は、意図的でない産業活動または場合によっては故意になされる人間の行為のために一次供給源の飲用水中に現れ、バイオテロリズムおよび環境汚染は世界中で増加しているのでそのリアルタイム検出がきわめて重要である。昨今の予防業務はリアルタイム監視に依拠している。社会に対する毒素の脅威は早期検知によって実質的に和らげられるので、低濃度毒素の迅速な検知に対する要求は、自国の安全を向上させるために民生用途および軍事用途の双方で急速に拡大している。本発明は、特に好適なラボオンチップセルを使用して具現化された場合に毒素を極めて低濃度で検出すること可能であり、したがって、従来可能であったよりもより早期の警報を提供することができる。本発明によるシステムは、汚染事件の事態における早期検出のために、民生および軍事施設における水道施設設備の管理者に他に類の無い利点を提供する。
実施例
以降で説明される実施例は例示の目的だけに提供され、決して本発明の範囲を規定するものではないことを理解されたい。
【0058】
第1の実験では、3ボルト未満の交流バイアスを備えたACEOセルを使用して、高効率な生体粒子の濃縮が示された。約60セルの大腸菌(Escherichia coli)が、106粒子/mlの懸濁液から10μm×10μmの表面領域のなかに30秒以内で収集されることが見出された(溶液中で大腸菌セルは約100μm離されていた)。
【0059】
他の実験では、普通クロレラ(Chlorella vulgaris)(緑の藻類)がモデル生体粒子として選択された。検出信号を最大化するために、生体粒子のそれらに相当するマイクロメートルおよびナノメートルの特徴サイズを有する薄膜金属電極が使用され、これらの電極上での生体粒子の動電学的捕捉およびそれらの自己蛍光が調べられた。
【0060】
生体粒子の捕集に適した電気信号で検出電極のインピーダンスを測定することによって、104個のバクテリア/mlよりも優れた解像度および2つのタイプの生体粒子間のインピーダンス識別が得られた。電極に付着した生体粒子は一対の電極の間で測定されるインピーダンスを低下させる。そのため、測定されたインピーダンスの読みを対照サンプルと比較することにより、インピーダンスの差異が生体粒子の存在を示すことができる。
【0061】
ビデオファイルが普通クロレラ藻類に関して取得された。得られた結果は、等電点電気泳動法が微細藻類の局所的濃度を数桁の大きさでリアルタイムに高められることを示した。得られたビデオファイルの中で、セルは左の電極で単一のファイルを形成することが分かった。各電極は直径が約70マイクロメートル(μm)であった。
【0062】
本発明は、その好適な特定の実施形態を参照して説明されてきたが、前述の説明ならびにそれに続く実施例は説明を意図しており本発明を限定することは意図されていないことを理解されよう。本発明の範囲の範囲内の他の態様、利点および修正は本発明が関係する当業者にとって明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の一実施形態に係る典型的な交流電気浸透(ACEO)による水質分析システム100の概略図。
【図2】本発明の一実施形態に係る平面状の噛み合わせ電極に基づいた典型的な交流電気浸透(ACEO)セルを示す図。
【図3】本発明の一実施形態に係るACEOセルによるシステムの好適な実施形態の概略を、関連するインターフェース装置と共に示す図。この好適な実施形態では、ACEO捕集セルはラボオンチップ装置として具体化されている。
【図4】典型的な蛍光誘導曲線の図。
【図5】各有毒物質群の対照信号および曝露信号から生成される平均振幅統計量を比較した図。
【図6】3つの振幅統計量特徴(平均、標準偏差および歪み度)を示した3次元プロットを示す図。図6から、異なる有毒物質の群からのデータは、比較的容易に分離されることができる3次元特徴空間内の異なる位置にかたまっていることがわかる。
【図7】ドベシスウェーブレット、コアフレットウェーブレット、ハールウェーブレット、シムレットウェーブレット、メイエウェーブレット、およびバトル−ルマリエウェーブレットを含むいくつかの典型的なマザーウェーブレットのいくつかの例を示す図。
【図8】離散ウェーブレット変換のフィルターバンク実行を示す図。
【図9】10mMのKCNに曝露された蛍光誘導曲線の例および対応する3段階ウェーブレット分解を示す図。
【図10(a)】有毒物質の4つの群に曝露された蛍光誘導曲線およびこれらの信号の対応するウェーブレット変換を示す図。
【図10(b)】有毒物質の4つの群に曝露された蛍光誘導曲線およびこれらの信号の対応するウェーブレット変換を示す図。
【図10(c)】有毒物質の4つの群に曝露された蛍光誘導曲線およびこれらの信号の対応するウェーブレット変換を示す図。
【図10(d)】有毒物質の4つの群に曝露された蛍光誘導曲線およびこれらの信号の対応するウェーブレット変換を示す図。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオセンサによる毒素の検出方法であって、
分析されるべき流動体中の複数の光合成生物を、バイアス交流電気浸透を使用して濃縮領域中に濃縮する工程と、
前記濃縮領域中で測定される前記光合成生物の光合成活動を取得する工程であって、化学剤、生物剤または放射線剤が前記光合成生物の見掛けの光合成活動を弱めることと、
測定された光合成活動に基づいて、前記化学剤、生物剤または放射線剤、あるいはそれらの前駆物質のうちの少なくとも1つが前記流動体中に存在していることを判定する工程と
を含む方法。
【請求項2】
前記複数の光合成生物は、前記流動体中に天然に存在する自由生活性で常在性の生物である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記光合成活動は、クロロフィル蛍光誘導を含む請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記濃縮する工程のためにラボオンチップ装置が使用される請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記流動体は、一次供給源の飲用水の供給源から抜き取られる請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記飲用水を新たに補給することによって前記光合成生物を補給して前記方法を繰り返す工程をさらに含む請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記判定する工程は、
前記流動体中の前記光合成生物によって生成される少なくとも1つの時間依存性の対照信号を提供する工程と、
1つまたは複数の前記剤の存在に関して前記流動体中の前記バイオセンサから時間依存性のバイオセンサ信号を取得する工程と、
振幅統計量と時間周波数分析の少なくとも一方を使用して、複数の特徴ベクトルを得るべく前記時間依存性のバイオセンサ信号を処理する工程と、
前記対照信号の参照に基づいて、前記特徴ベクトルから、前記化学剤、生物剤または放射線剤、あるいはそれらの前駆物質のうちの少なくとも1つの存在を判定する工程と
をさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記時間周波数分析はウェーブレット係数分析を含む請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記処理する工程において前記振幅統計量と時間周波数分析の両方が使用される請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記流動体中に前記剤のうちのいずれが存在しているかを同定する工程をさらに含む請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記同定する工程のために線形判別法が使用される請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記線形判別法は、サポートベクターマシン(SVM)分類を含む請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記バイアス交流電気浸透のための直流バイアスは1〜10ボルトである請求項1に記載の方法。
【請求項14】
複数の光合成生物をその中に含んだ分析されるべき流動体を受け取り、かつ前記複数の光合成生物を少なくとも1つの濃縮領域に濃縮するためのバイアス交流電気浸透(ACEO)セルと、
前記濃縮領域中で測定される前記複数の光合成生物の光合成活動を取得するための光検出器であって、化学剤、生物剤または放射線剤が前記光合成生物の見掛けの光合成活動を弱めることと、
前記流動体中に前記化学剤、生物剤または放射線剤が存在していることを知らせるべく、測定された光合成活動を分析するための電子回路パッケージと
を備える水質アナライザ。
【請求項15】
前記ACEOセルはラボオンチップ装置からなる請求項14に記載のセンサ。
【請求項16】
前記ラボオンチップ装置は、チップ上に少なくとも1つの電子デバイスを有する請求項15に記載のセンサ。
【請求項17】
測定された光合成活動、あるいは前記電子回路パッケージによる分析後の測定された光合成活動を、1つまたは複数の遠隔場所に通信するための機構をさらに備える請求項14に記載のセンサ。
【請求項1】
バイオセンサによる毒素の検出方法であって、
分析されるべき流動体中の複数の光合成生物を、バイアス交流電気浸透を使用して濃縮領域中に濃縮する工程と、
前記濃縮領域中で測定される前記光合成生物の光合成活動を取得する工程であって、化学剤、生物剤または放射線剤が前記光合成生物の見掛けの光合成活動を弱めることと、
測定された光合成活動に基づいて、前記化学剤、生物剤または放射線剤、あるいはそれらの前駆物質のうちの少なくとも1つが前記流動体中に存在していることを判定する工程と
を含む方法。
【請求項2】
前記複数の光合成生物は、前記流動体中に天然に存在する自由生活性で常在性の生物である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記光合成活動は、クロロフィル蛍光誘導を含む請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記濃縮する工程のためにラボオンチップ装置が使用される請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記流動体は、一次供給源の飲用水の供給源から抜き取られる請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記飲用水を新たに補給することによって前記光合成生物を補給して前記方法を繰り返す工程をさらに含む請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記判定する工程は、
前記流動体中の前記光合成生物によって生成される少なくとも1つの時間依存性の対照信号を提供する工程と、
1つまたは複数の前記剤の存在に関して前記流動体中の前記バイオセンサから時間依存性のバイオセンサ信号を取得する工程と、
振幅統計量と時間周波数分析の少なくとも一方を使用して、複数の特徴ベクトルを得るべく前記時間依存性のバイオセンサ信号を処理する工程と、
前記対照信号の参照に基づいて、前記特徴ベクトルから、前記化学剤、生物剤または放射線剤、あるいはそれらの前駆物質のうちの少なくとも1つの存在を判定する工程と
をさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記時間周波数分析はウェーブレット係数分析を含む請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記処理する工程において前記振幅統計量と時間周波数分析の両方が使用される請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記流動体中に前記剤のうちのいずれが存在しているかを同定する工程をさらに含む請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記同定する工程のために線形判別法が使用される請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記線形判別法は、サポートベクターマシン(SVM)分類を含む請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記バイアス交流電気浸透のための直流バイアスは1〜10ボルトである請求項1に記載の方法。
【請求項14】
複数の光合成生物をその中に含んだ分析されるべき流動体を受け取り、かつ前記複数の光合成生物を少なくとも1つの濃縮領域に濃縮するためのバイアス交流電気浸透(ACEO)セルと、
前記濃縮領域中で測定される前記複数の光合成生物の光合成活動を取得するための光検出器であって、化学剤、生物剤または放射線剤が前記光合成生物の見掛けの光合成活動を弱めることと、
前記流動体中に前記化学剤、生物剤または放射線剤が存在していることを知らせるべく、測定された光合成活動を分析するための電子回路パッケージと
を備える水質アナライザ。
【請求項15】
前記ACEOセルはラボオンチップ装置からなる請求項14に記載のセンサ。
【請求項16】
前記ラボオンチップ装置は、チップ上に少なくとも1つの電子デバイスを有する請求項15に記載のセンサ。
【請求項17】
測定された光合成活動、あるいは前記電子回路パッケージによる分析後の測定された光合成活動を、1つまたは複数の遠隔場所に通信するための機構をさらに備える請求項14に記載のセンサ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図8】
【図6】
【図7】
【図9】
【図10(a)】
【図10(b)】
【図10(c)】
【図10(d)】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図8】
【図6】
【図7】
【図9】
【図10(a)】
【図10(b)】
【図10(c)】
【図10(d)】
【公表番号】特表2009−516203(P2009−516203A)
【公表日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−542328(P2008−542328)
【出願日】平成18年11月3日(2006.11.3)
【国際出願番号】PCT/US2006/042984
【国際公開番号】WO2008/054394
【国際公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【出願人】(301027074)ユーティ―バテル エルエルシー (19)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年11月3日(2006.11.3)
【国際出願番号】PCT/US2006/042984
【国際公開番号】WO2008/054394
【国際公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【出願人】(301027074)ユーティ―バテル エルエルシー (19)
【Fターム(参考)】
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