説明

有毛細胞を産生するための経路

本開示は、Atoh1の活性(例えば、生物活性)および/または発現(例えば、転写および/または翻訳)を、インビボおよび/またはインビトロ、例えば、生体細胞および/または対象において調整する(例えば、増加させる)ための方法および組成物に関する。本明細書に記載される方法および組成物は、生体細胞におけるAtoh1の発現の増加から利益を享受する疾患および/または障害の処置において使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権の主張
本出願は、35USC§119(e)の下、2008年11月24日に出願された、米国特許仮出願第61/117,515号に対する優先権を主張しており、その内容全体を引用により本明細書の一部とする。
【0002】
技術分野
本開示は、Atoh1の活性(例えば、生物活性)および/または発現(例えば、転写および/または翻訳)をインビボおよび/またはインビトロ、例えば、生体細胞および/または対象において調整する(例えば、増加させる)ための方法および組成物に関する。より具体的には、本明細書に記載される方法および組成物は、生体細胞におけるAtoh1の発現の増加から利益を享受する疾患および/または障害の処置において使用することができる。
【背景技術】
【0003】
背景技術
無調タンパク質ホモログ1(Atoh1または無調)は、ベーシックヘリックスループヘリックス(bHLH)ドメイン含有タンパク質をコードするプロニューラル遺伝子であり、ショウジョウバエ神経系の発生における細胞運命決定において重要な役割を果たすと考えられている(Jarman et al.,Cell,73:1307−1321,1993)。Atoh1は、進化的に保存されており、ホモログがコクヌストモドキ(Tribolium castenium)、トラフグ(Fugu rubripes)、ニワトリ(Cath1)、マウス(Math1)、およびヒト(Hath1)において同定されている(Ben−Arie et al.,Hum.Mol.Gene.,:1207−1216,1996)。これらのホモログのそれぞれは、長さが同一であり、かつ、Atoh1 bHLHドメインに対して高い配列同一性を有するbHLHドメインを含む。例えば、Hath1およびMath1遺伝子は、長さがほぼ同一である。これらの分子はまた、極めて類似するヌクレオチド配列(同一性86%)および極めて類似するbHLHアミノ酸配列(89%)を有する。Cath1のbHLHドメインは、Hath1およびMath1のbHLHドメインと、それぞれ97%および95%同一である。Cath1のbHLHは、Atoh1 bHLHドメインと67%同一である。対照的に、他のショウジョウバエコード化タンパク質のbHLHドメインは、40〜50%の配列同一性を共有するに過ぎない。
【0004】
哺乳類Atoh1ホモログのそれぞれは、Eボックス(CANNTG(配列番号1))依存性の転写を活性化する転写因子として機能し(Arie et al.,上記、Akazawa et al.,J.Biol.Chem.,270:8730−8738,1995)、神経組織および胃腸(GI)管において細胞運命決定の重要な正の調節因子として機能する(Helms et al.,Development,125:919−928,1998、Isaka et al.,Eur.J.Neurosci.,11:2582−2588,1999、Ben−Arie et al.,Development,127:1039−1048,2000)。さらに、Atoh1は、Atoh1ノックアウト動物における聴覚有毛細胞の非存在によって示されるとおり、内耳前駆細胞からの聴覚有毛細胞の発生に重要である(Bermingham et al.,Science,284:1837−1841,1999)。
【0005】
Atoh1の転写は、いったん活性化されると、Atoh1がAtoh13'エンハンサーに結合することにより自己永続し(Helms et al.,Development,127:1185−1196,2000)、Atoh1プロモーターは、Atoh1ノックアウトマウスにおいてスイッチが入る(Bermingham et al.,Science,284:1837−1841,1999、Tsuchiya et al.,Gastroenterology,132:208−220,2007)。これらの観察は、Atoh1の上流調節因子等のAtoh1を活性化させる機序が存在しなければならないことを示す。そのようなAtoh1の上流調節因子は、中枢および末梢神経系、ならびに腸上皮における発生の調節(そのすべては、分化についてAtoh1に依存する)において重要な役割を有する可能性がある。
【発明の概要】
【0006】
発明の概要
本開示は、Atoh1の発現(例えば、転写および/または翻訳)および/または活性(例えば、生物活性)を対象および/または標的細胞において調整する(例えば、増加させる)ための方法および組成物を特徴とする。
【0007】
したがって、一態様において、本発明は、難聴または前庭機能障害を有するか、または発症する危険性がある対象を処置するための方法を提供する。方法は、難聴または前庭機能障害を有するか、または発症する危険性がある対象を同定すること;対象の耳の細胞においてβ−カテニン発現または活性を増加させる、1つ以上の化合物を含む組成物を対象の耳に投与すること;およびそれによって、対象において難聴または前庭機能障害を処置することを含む。
【0008】
一部の実施形態において、対象は、感音難聴、聴覚神経障害、または両方を有するか、または発症する危険性がある。一部の実施形態において、対象は、眩暈、平衡失調、または回転性眩暈をもたらす前庭機能障害を有するか、または発症する危険性がある。
【0009】
一部の実施形態において、組成物は、全身的に投与される。一部の実施形態において、組成物は、局所的に内耳に投与される。
【0010】
一部の実施形態において、組成物は、β−カテニンポリペプチドを含む。一部の実施形態において、組成物は、1つ以上のWnt/β−カテニン経路アゴニストを含む。一部の実施形態において、組成物は、1つ以上のグリコーゲンシンターゼキナーゼ3β(GSK3β)阻害剤を含む。一部の実施形態において、組成物は、1つ以上のカゼインキナーゼ1(CK1)阻害剤を含む。
【0011】
一部の実施形態において、方法は、Notchシグナル伝達経路の阻害剤を対象に投与することをさらに含む。一部の実施形態において、Notchシグナル伝達経路の阻害剤は、γセクレターゼ阻害剤である。
【0012】
一部の実施形態において、組成物は、薬学的に許容される賦形剤を含む。
【0013】
別の態様において、本発明は、難聴または前庭機能障害を有するか、または発症する危険性がある対象を処置するための方法であって、処置を必要とする対象を選択すること;有毛細胞に分化することができる細胞の集団を取得すること;細胞の集団を、インビトロで、細胞の少なくとも一部を誘導して、p27kip、p75、S100A、Jagged−1、Prox1、ミオシンVIIa、無調ホモログ1(Atoh1)またはそのホモログ、I9アセチルコリン受容体、エスピン、パルブアルブミン3およびF−アクチン(ファロイジン)のうちの1つ以上を発現させるのに十分な時間の間、β−カテニンの発現または活性を増加させる1つ以上の化合物を含む、有効量の組成物と接触させること;任意で細胞の集団を、例えば、少なくとも50%、60%、70%、80%、90%またはそれ以上の純度に精製すること;および細胞の集団またはそのサブセットを対象の耳に投与することを含む方法を提供する。
【0014】
一部の実施形態において、対象は、感音難聴、聴覚神経障害、または両方を有するか、または発症する危険性がある。
【0015】
一部の実施形態において、聴覚有毛細胞に分化することができる細胞の集団は、幹細胞、前駆細胞、支持細胞、ダイテルス細胞、柱細胞、内指節細胞、視蓋細胞、ヘンゼン細胞、および胚細胞からなる群から選択される細胞を含む。
【0016】
一部の実施形態において、幹細胞は、成体幹細胞であり、例えば、成体幹細胞は、内耳、骨髄、間充組織、皮膚、脂肪、肝臓、筋肉、または血液、あるいは胚性幹細胞であるか、もしくは胎盤または臍帯から得られる幹細胞に由来する。
【0017】
一部の実施形態において、前駆細胞は、内耳、骨髄、間充組織、皮膚、脂肪、肝臓、筋肉、または血液に由来する。
【0018】
一部の実施形態において、組成物は、β−カテニンをコードするDNA、β−カテニンポリペプチド、1つ以上のWnt/β−カテニン経路アゴニスト、1つ以上のグリコーゲンシンターゼキナーゼ3β(GSK3β)阻害剤、および/または1つ以上のカゼインキナーゼ1(CK1)阻害剤を含む。
【0019】
一部の実施形態において、細胞の集団を投与することは、(a)細胞を蝸牛の内腔、内耳道の聴覚神経幹、または鼓室階に注入すること、または(b)細胞を人工内耳内に埋め込むことを含む。
【0020】
一部の実施形態において、方法は、細胞を、Notchシグナル伝達経路の阻害剤、例えば、γセクレターゼ阻害剤、例えば、アリールスルホンアミド、ジベンズアゼピン、ベンゾジアゼピン、N−[N−(3,5−ジフルオロフェンアセチル)−L−アラニル]−(S)−フェニルグリシンt−ブチルエステル(DAPT)、L−685,458、またはMK0752のうちの1つ以上と接触させることをさらに含む。
【0021】
一部の実施形態において、方法は、対象の耳の細胞においてβ−カテニンの発現または活性を増加させることができる、1つ以上の化合物を含む組成物、例えば、β−カテニンをコードするDNA、β−カテニンポリペプチド、1つ以上のWnt/β−カテニン経路アゴニスト、1つ以上のグリコーゲンシンターゼキナーゼ3β(GSK3β)阻害剤、および/または1つ以上のカゼインキナーゼ1(CK1)阻害剤を、対象の耳に投与することをさらに含む。
【0022】
一部の実施形態において、方法は、Notchシグナル伝達経路の1つ以上の阻害剤を含む組成物、例えば、γセクレターゼ阻害剤を、対象の耳に投与することをさらに含む。
【0023】
さらに別の態様において、本発明は、難聴または前庭機能障害を有するか、または発症する危険性がある対象を処置するための方法であって、難聴または前庭機能障害を経験したか、または発症する危険性がある対象を同定すること;対象の耳の細胞においてβ−カテニンの発現または活性を特異的に増加させる、1つ以上の化合物を含む組成物を対象の耳に投与すること;Notchシグナル伝達経路の阻害剤、例えば、γセクレターゼ阻害剤を対象に投与すること;およびそれによって難聴または前庭機能障害を処置することを含む方法を提供する。
【0024】
一部の実施形態において、組成物は、1つ以上のWnt/β−カテニン経路アゴニストを含む。一部の実施形態において、組成物は、1つ以上のグリコーゲンシンターゼキナーゼ3β(GSK3β)阻害剤を含む。一部の実施形態において、組成物は、1つ以上のカゼインキナーゼ1(CK1)阻害剤を含む。
【0025】
一部の実施形態において、1つ以上のCK1阻害剤は、アンチセンスRNAまたはCK1 mRNAに特異的に結合するsiRNAである。
【0026】
一部の実施形態において、組成物は、1つ以上のプロテアソーム阻害剤を含む。
【0027】
一部の態様において、本開示は、難聴または前庭機能障害を有するか、または発症する危険性がある単数または複数の対象を処置するための方法を提供する。これらの方法は、難聴または前庭機能障害を経験したか、または発症する危険性がある対象を同定すること;対象の耳の細胞においてβ−カテニンの発現または活性を増加させることができる1つ以上の化合物を含む組成物を、対象の耳に投与することによって、対象のステップにおいて、難聴または前庭機能障害を処置するための方法を含む。
【0028】
別の態様において、本開示は、難聴または前庭機能障害を有するか、または発症する危険性がある対象を処置する方法を提供する。これらの方法は、処置を必要とする対象を選択すること;聴覚有毛細胞に分化することができる細胞の集団を入手すること;細胞の集団を、インビトロで、細胞の少なくとも一部を誘導して、(a)p27kip、p75、S100A、Jagged−1、Prox1、ミオシンVIIa、無調ホモログ1(Atoh1)またはそのホモログ、I9アセチルコリン受容体、エスピン、パルブアルブミン3およびF−アクチン(ファロイジン)のうちの1つ以上、または(b)ミオシンVIIa、無調ホモログ1(Atoh1)またはそのホモログのうちの1つ以上を発現させるのに十分な時間の間、β−カテニンの発現または活性を増加させることができる1つ以上の化合物を含む、有効量の組成物と接触させること;および細胞の集団またはそのサブセットを対象の耳に投与することを含む。一部の実施形態において、有毛細胞に分化することができる細胞の集団は、p27kip、p75、S100A、Jagged−1、Prox1、ミオシンVIIa、無調ホモログ1(Atoh1)またはそのホモログ、I9アセチルコリン受容体、エスピン、パルブアルブミン3およびF−アクチン(ファロイジン)のうちの1つ以上を発現する。
【0029】
さらに別の態様において、本開示は、(a)p27kip、p75、S100A、Jagged−1、Prox1、ミオシンVIIa、無調ホモログ1(Atoh1)またはそのホモログ、I9アセチルコリン受容体、エスピン、パルブアルブミン3およびF−アクチン(ファロイジン)のうちの1つ以上、または(b)ミオシンVIIa、無調ホモログ1(Atoh1)またはそのホモログのうちの1つ以上を、例えば、インビトロで発現する細胞の数を増加させる方法を提供する。これらの方法は、(a)p27kip、p75、S100A、Jagged−1、Prox1、ミオシンVIIa、無調ホモログ1(Atoh1)またはそのホモログ、I9アセチルコリン受容体、エスピン、パルブアルブミン3およびF−アクチン(ファロイジン)のうちの1つ以上、または(b)ミオシンVIIa、無調ホモログ1(Atoh1)またはそのホモログのうちの1つ以上を発現する細胞に分化することができる細胞の集団を取得するステップと、細胞の集団を、インビトロで、細胞の集団において聴覚有毛細胞の特徴を有する細胞の数を増加させるのに十分な時間の間、β−カテニンの発現または活性を増加させることができる1つ以上の化合物を含む、有効量の組成物と接触させることを含む。
【0030】
さらなる態様において、本開示は、(a)p27kip、p75、S100A、Jagged−1、Prox1、ミオシンVIIa、無調ホモログ1(Atoh1)またはそのホモログ、I9アセチルコリン受容体、エスピン、パルブアルブミン3およびF−アクチン(ファロイジン)のうちの1つ以上、または(b)ミオシンVIIa、無調ホモログ1(Atoh1)またはそのホモログのうちの1つ以上を発現する細胞の数が増加した、細胞の集団を提供する。一部の実施形態において、この細胞の集団は、(a)p27kip、p75、S100A、Jagged−1、Prox1、ミオシンVIIa、無調ホモログ1(Atoh1)またはそのホモログ、I9アセチルコリン受容体、エスピン、パルブアルブミン3およびF−アクチン(ファロイジン)のうちの1つ以上、または(b)ミオシンVIIa、無調ホモログ1(Atoh1)またはそのホモログのうちの1つ以上を発現する細胞に分化することができる細胞の集団を取得すること;細胞の集団を、インビトロで、細胞の集団において聴覚有毛細胞の特徴を有する細胞の数を増加させるのに十分な時間の間、β−カテニンの発現または活性を増加させることができる1つ以上の化合物を含む、有効量の組成物と接触させることによって得られる。
【0031】
一部の実施形態において、この接触させた細胞の集団は、p27kip、p75、A100AS100A、Jagged−1、Prox1、I9アセチルコリン受容体、エスピン、パルブアルブミン3およびF−アクチン(ファロイジン)のうちの1つ以上を発現する。
【0032】
さらなる態様において、本開示は、β−カテニンの発現または活性を増加させることができる1つ以上の化合物を含む組成物および情報資料を含むキットを含む。一部の実施形態において、これらのキットは、β−カテニンをコードするDNAを含む。
【0033】
追加の態様において、本開示は、難聴または前庭機能障害を有するか、または発症する危険性がある対象を処置する方法を提供する。そのような方法は、難聴または前庭機能障害を経験しているか、または発症する危険性がある対象を同定するステップと、対象の耳の細胞においてβ−カテニンの発現または活性を増加させる、1つ以上の化合物を含む組成物を対象の耳に投与するステップと、Notchシグナル伝達経路の阻害剤を対象に投与するステップと、を含む。
【0034】
一部の態様において、本明細書で開示される方法のうちのいずれかに対して選択された対象は、感音難聴、聴覚神経障害、または両方を発症する危険性がある。例えば、対象は、眩暈、平衡失調、または回転性眩暈をもたらす前庭機能障害を発症する危険性がある。あるいは、またはさらに、対象は、耳毒性薬剤により処置されたか、または処置される対象であり得る。
【0035】
一部の態様において、本明細書で開示される方法は、(a)ネスチン、sox2、ムサシ、Brn3c、islet1、Pax2、p27kip、p75、S100A、Jagged−1、Prox1、ミオシンVIIa、Atoh1またはそのホモログ、I9アセチルコリン受容体、エスピン、パルブアルブミン3、およびF−アクチン(ファロイジン)、(b)対象の内耳の細胞におけるミオシンVIIa、Atoh1、(c)対象の内耳の細胞におけるp27kip、p75、S100A、Jagged−1、およびProx1のうちの1つ以上、(d)患者の内耳の細胞におけるマウス無調遺伝子1ミオシンVIIa、Atoh1またはそのホモログ、I9アセチルコリン受容体、エスピン、パルブアルブミン3、およびF−アクチン(ファロイジン)のうちの1つ以上、のうちの1つ以上の発現を効果的に増加させる。
【0036】
一部の態様において、本明細書で開示される任意の組成物は、例えば、非経口投与、静脈注射、筋肉内注射、腹腔内注射、経口投与、トローチ、圧縮錠剤、ピル、錠剤、カプセル、ドロップ、点耳薬、シロップ、懸濁液、乳剤、直腸投与、肛門坐薬、浣腸、膣坐剤、尿道坐薬、経皮投与、吸入、鼻スプレイ、およびカテーテルまたはポンプを使用する投与からなる群から選択される、全身投与経路を使用して、全身的に投与することができる。
【0037】
一部の態様において、本明細書で開示される任意の組成物は、例えば、蝸牛の内腔、内耳道内の聴覚神経幹、および/または鼓室階への注射を使用して、局所的に内耳に投与することができる。そのような方法は、例えば、カテーテルまたはポンプを使用して、中耳または内耳、あるいは両方に投与することも含み得る。
【0038】
一部の態様において、本明細書で開示される任意の組成物は、鼓室内注射、外耳、中耳、または内耳への注射、耳の正円窓からの注射、および蝸牛カプセルからの注射からなる群から選択される投与経路によって投与され得る。
【0039】
一部の態様において、本明細書で開示される方法で投与される組成物は、β−カテニンをコードするDNA(例えば、β−カテニンをコードする裸のDNA、β−カテニンをコードするプラスミド発現ベクター、β−カテニンをコードするウイルス発現ベクター)のうちの1つ以上、β−カテニンポリペプチド、1つ以上のWnt/β−カテニン経路アゴニスト(例えば、Wntリガンド、DSH/DVL1、2、3、LRP6N、WNT3A、WNT5A、およびWNT3A、5Aからなる群から選択される)、1つ以上のグリコーゲンシンターゼキナーゼ3β(GSK3β)阻害剤(例えば、塩化リチウム(LiCl)、プルバラノールA、オロモウシン、アルステルパウロン、ケンパウロン、ベンジル−2−メチル−1,2,4−チアジアゾリジン−3,5−ジオン(TDZD−8)、2−チオ(3−ヨードベンジル)−5−(1−ピリジル)−[1,3,4]−オキサジアゾール(GSK3阻害剤II)、2,4−ジベンジル−5−オキソチアジアゾリジン−3−チオン(OTDZT)、(2'Z,3'E)−6−ブロモインジルビン−3'−オキシム(BIO)、α−4−ジブロモアセトフェノン(すなわち、タウタンパク質キナーゼI(TPK I)阻害剤)、2−クロロ−1−(4,5−ジブロモ−チオフェン−2−イル)−エタノン、N−(4−メトキシベンジル)−N'−(5−ニトロ−1,3−チアゾール−2−イル)尿素(AR−A014418)、インジルビン−5−スルホンアミド、インジルビン−5−スルホン酸(2−ヒドロキシエチル)−アミドインジルビン−3'−モノキシム、5−ヨード−インジルビン−3'−モノキシム、5−フルオロインジルビン、5,5'−ジブロモインジルビン、5−ニトロインジルビン、5−クロロインジルビン、5−メチルインジルビン、5−ブロモインジルビン、4−ベンジル−2−メチル−1,2,4−チアジアゾリジン−3,5−ジオン(TDZD−8)、2−チオ(3−ヨードベンジル)−5−(1−ピリジル)−[1,3,4]−オキサジアゾール(GSK3阻害剤II)、2,4−ジベンジル−5−オキソチアジアゾリジン−3−チオン(OTDZT)、(2'Z,3'E)−6−ブロモインジルビン−3'−オキシム(BIO)、α−4−ジブロモアセトフェノン(すなわち、タウタンパク質キナーゼI(TPK I)阻害剤)、2−クロロ−1−(4,5−ジブロモ−チオフェン−2−イル)−エタノン、(vi)N−(4−メトキシベンジル)−N'−(5−ニトロ−1,3−チアゾール−2−イル)尿素(AR−A014418)、H−KEAPPAPPQSpP−NH2(L803)、およびMyr−N−GKEAPPAPPQSpP−NH2(L803−mts)からなる群から選択される)、1つ以上のアンチセンスRNAまたはGSK3β mRNAに特異的に結合するsiRNA、1つ以上のカゼインキナーゼ1(CK1)阻害剤(例えば、アンチセンスRNAまたはCK1 mRNAに特異的に結合するsiRNA)、1つ以上のプロテアーゼ阻害剤、1つ以上のプロテアソーム阻害剤を含む。本明細書で開示される組成物および方法は、Notchシグナル伝達経路の阻害剤(例えば、γセクレターゼ阻害剤のうちの1つ以上(例えば、アリールスルホンアミド、ジベンズアゼピン、ベンゾジアゼピン、N−[N−(3,5−ジフルオロフェンアセチル)−L−アラニル]−(S)−フェニルグリシン t−ブチルエステル(DAPT)、L−685,458、またはMK0752、および低分子干渉RNAを含む阻害核酸、アンチセンスオリゴヌクレオチド、およびモルホリノオリゴのうちの1つ以上)の使用または投与をさらに含むこともできる。Notchシグナル伝達の阻害剤が投与される場合、全身的(例えば、非経口投与、静脈注射、筋肉内注射、腹腔内注射、経口投与、トローチ、圧縮錠剤、ピル、錠剤、カプセル、ドロップ、点耳薬、シロップ、懸濁液、乳剤、直腸投与、肛門坐薬、浣腸、膣坐剤、尿道坐薬、経皮投与、吸入、鼻スプレイ、およびカテーテルまたはポンプを使用する投与からなる群から選択される)、および/または(例えば、蝸牛の内腔、内耳道内の聴覚神経幹、および/または鼓室階への注射によって)局所的に投与することができる。一部の態様において、Notchシグナル伝達経路の阻害剤は、鼓室内注射、外耳、中耳、または内耳への注射、耳の正円窓からの注射、および蝸牛カプセルからの注射からなる群から選択される投与経路によって、および/またはカテーテルまたはポンプを使用して、中耳または内耳に投与することができる。
【0040】
一部の態様において、本明細書で開示される方法は、単一細胞(すなわち、単離細胞)および/または細胞の集団の使用を含み、細胞または細胞の集団は、幹細胞(例えば、成体幹細胞(例えば、対象、例えば、処置される対象の内耳、骨髄、間充組織、皮膚、脂肪、肝臓、筋肉、または血液から得られる成体幹細胞)、胚性幹細胞、または胎盤あるいは臍帯から得られる幹細胞、前駆細胞(例えば、内耳、骨髄、間充組織、皮膚、脂肪、肝臓、筋肉、または血液から得られる前駆細胞)、支持細胞、ダイテルス細胞、柱細胞、内指節細胞、視蓋細胞、ヘンゼン細胞、および胚細胞からなる群から選択される聴覚有毛細胞を分化することができる(例えば、本明細書で開示される方法に従う場合、聴覚有毛細胞に分化することができる)。
【0041】
定義
本明細書で使用される「Atoh1」は、任意およびすべてのAtoh1関連核酸またはタンパク質配列を意味し、Atoh1核酸またはアミノ酸配列に対してそれぞれオーソロガスまたはホモログであるか、または有意な配列相同性を有する任意の配列を含む。配列は、哺乳類(例えば、ヒト)および昆虫を含む任意の動物に存在し得る。Atoh1関連配列の実施例には、Atoh1(例えば、GenBank受入番号NM_001012432.1)、Hath1(例えば、NM_005172.1)、Math1(例えば、NM_007500.4)、およびCath1(例えば、U61149.1およびAF467292.1)、ならびにこのタンパク質を意味するように使用され得るすべての他の同義語、例えば、無調、無調ホモログ1、Ath1、およびヘリックスループヘリックスタンパク質Hath1等が挙げられるが、それらに限定されない。さらに、複数のホモログまたは同様の配列は、動物1個体中に存在し得る。
【0042】
本明細書で使用される「処置」は、疾患または障害の症状のうちの1つ以上が軽減されるか、または有益に変容される、任意の方法を意味する。本明細書で使用される、特定の障害の症状の軽減は、永久か、または一時的かに関わらず、本発明の組成物および方法による処置によるものであるか、またはそれに関連し得る継続的または一時的な任意の緩和を意味する。
【0043】
本明細書で使用される「有効量」および「処置に有効な」という用語は、意図される効果または生理学的結果をもたらすためのその投与の面において有効な一定期間利用される(急性もしくは慢性投与および周期的もしくは継続的投与を含む)、本明細書に記載された1つ以上の化合物または医薬組成物の量または濃度を意味する。
【0044】
本発明における使用のための1つ以上の有効量の化合物または医薬組成物は、標的細胞におけるβ−カテニンレベル(例えば、タンパク質レベル)および/または活性(例えば、生物活性)の増加、標的細胞の核におけるβ−カテニンレベル(例えば、タンパク質レベル)および/または活性(例えば、生物活性)の増加、Atoh1の発現または活性の増加を促進する量、および/またはAtoh1の発現の増加から利益を享受する疾患を処置するように、例えば、発症を回避または遅延させる、進行を遅延させる、Atoh1の発現の増加から利益を享受する1つ以上の疾患、例えば、本明細書に記載の疾患のうちの1つ以上の影響を軽減する、またはそのような疾患を診断された対象の予後を概して改善するように、1つ以上の細胞の完全または部分的分化を促進する量を含む。例えば、難聴の処置において、聴覚を任意の程度に改善するか、または難聴の任意の症状を停止させる化合物は、治療上有効である。治療上有効量の化合物は、疾患を治癒するために必要ではないが、疾患の処置を提供する。
【0045】
「対象」という用語は、本明細書全体をとおして、本発明の方法による処置が提供される動物、ヒト、または非ヒトを記載するように使用される。獣医学的および非獣医学的用途が考慮される。用語は、鳥類および哺乳類、例えば、ヒト、他の霊長類、ブタ、マウスおよびラット等の齧歯類、ウサギ、モルモット、ハムスター、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、ヒツジ、およびヤギを含むが、これらに限定されない。典型的な対象は、ヒト、家畜、およびネコおよびイヌ等の家庭用ペットを含む。
【0046】
本明細書で使用される「標的細胞」は、聴覚有毛細胞の特徴を有する1つまたは複数の細胞に対するか、またはそれに向かう変換(例えば、分化)を経ることができる1つまたは複数の細胞を意味する。標的細胞には、例えば、幹細胞(例えば、内耳幹細胞、成体幹細胞、骨髄由来幹細胞、胚性幹細胞、間充組織幹細胞、皮膚幹細胞、および脂肪由来幹細胞)、前駆細胞(例えば、内耳前駆細胞)、支持細胞(例えば、ダイテルス細胞、柱細胞、内指節細胞、視蓋細胞、およびヘンゼン細胞)、p27kip、p75、S100A、Jagged−1、およびProx1および/または胚細胞のうちの1つ以上を発現する支持細胞が挙げられるが、これらに限定されない。本明細書に記載されるように、本明細書に記載の方法、化合物、および組成物による処置の前に、これらの標的細胞のそれぞれは、標的細胞に固有の1つ以上のマーカー(例えば、細胞表面マーカー)の定義されたセットを用いて同定することができる。1つ以上のマーカー(例えば、細胞表面マーカー)の異なるセットは、複数または単数の聴覚有毛細胞の特徴を有する細胞に対するか、またはそれに向かう部分または完全変換(例えば、部分または完全分化)を有する標的細胞を同定するように使用することもできる。
【0047】
標的細胞は、マウスまたはヒト等の哺乳動物から単離された幹細胞から作製することができ、細胞は、胚性幹細胞または成熟した(例えば、成体)組織、例えば、内耳、中枢神経系、血液、皮膚、眼または骨髄に由来する幹細胞であり得る。特に指定のない限り、幹細胞を培養し、内耳細胞(例えば、有毛細胞)への分化を誘導するための下記の方法のうちのいずれかが使用され得る。
【0048】
本明細書で使用される、「β−カテニン」は、任意およびすべてのβ−カテニン関連核酸またはタンパク質配列を意味し、オーソロガスまたはホモログであるか、またはβ−カテニン核酸または核酸配列に有意な配列類似性を有する任意の配列を含む。
【0049】
一部の実施形態において、β−カテニンは、本明細書で使用されるとおり、β−カテニン(例えば、哺乳類β−カテニン)、α−カテニン(例えば、哺乳類α−カテニン)、γ−カテニン(例えば、哺乳類γ−カテニン)、δ−カテニン(例えば、哺乳類δ−カテニン)を意味する。
【0050】
本明細書で使用される、「β−カテニン調整化合物」または単なる「化合物」は、標的細胞において、β−カテニンレベル(例えば、タンパク質レベル)および/または活性(例えば、生物活性)を増加させることができる任意の化合物を含む。あるいは、またはさらに、本戦略は、標的細胞の核においてβ−カテニンのレベル(例えば、タンパク質レベル)および/または活性(例えば、生物活性)の増加を促進することができる。
【0051】
本明細書で使用される、「発現」という用語は、タンパク質および/または核酸の発現ならびに/またはタンパク質の活性を意味する。
【0052】
別段の定義のない限り、本明細書で使用されるすべての技術的および科学的用語は、本発明が属する技術分野における当業者に一般的に理解されるものと同一の意味を有する。本発明において使用される方法および材料が本明細書おいて記載されているが、当該技術分野において既知である他の適当な方法および材料も使用することができる。材料、方法および実施例は、単なる例示であり、限定することを意図するものではない。すべての公開物、特許出願、特許、配列、データベースエントリー、および本明細書で言及される他の参考文献は、その全体を引用により本明細書の一部とする。矛盾する場合、定義を含む本明細書が優先される。
【0053】
本発明の他の特徴および利点は、下記の詳細な説明および図面、ならびに請求項から明らかとなる。
【0054】
図面の簡単な説明
特許または出願ファイルは、カラーで作成された少なくとも1つの図面を含む。本特許または特許出願公開の複製は、カラー図面とともに、申込みおよび必要料金の支払いによって、特許庁(Office)から提供される。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1A−1B】図1Aおよび1Bは、それぞれHEK細胞およびHT29細胞におけるAtoh1およびGAPDH mRNAの発現を示すアガロースゲルの図である。「なし」は、細胞が非トランスフェクトであったことを示す。
【図1C−1D】図1Cは、Atoh1、β−カテニン、または緑色蛍光タンパク質(GFP)でトランスフェクトされた(示されたとおり)Neuro2aおよび神経前駆細胞におけるAtoh1およびGAPDHのmRNAの発現レベルを示すゲルの図である。図1Dは、RT−PCRによって評価された相対的Atoh1発現を示す棒グラフである。Atoh1のレベルは、S18ハウスキーピング遺伝子に対して標準化された。
【図1E−1F】図1Eは、Atoh1もしくはβ−カテニンmRNAを標的とするsiRNA、またはコントロールとしての非標的siRNAでトランスフェクトされたNeuro2aおよび神経前駆細胞におけるAtoh1およびGAPDHのmRNAの発現レベルを示すゲルの図である。図1Fは、RT−PCRによって評価された相対的Atoh1発現を示す棒グラフである。Atoh1のレベルは、S18ハウスキーピング遺伝子に対して標準化された。
【図1G−1H】図1Gは、ルシフェラーゼレポーターの発現レベルを示す線グラフである。図1Hは、核画分からのAtoh1および核非リン酸化β−カテニンの発現レベルを示すウエスタンブロットゲルの図である。
【図2A】図2Aは、リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)を用いて定量されたHEK細胞におけるAtoh1の発現を示す棒グラフである。カラムは、それぞれ3回行われた2つの独立した実験の平均を示す。Atoh1レベルは、トランスフェクションのないコントロール細胞に対して示され、S18に対して標準化される。
【図2B】図2Bは、Atoh13'エンハンサーの概略図であり、β−カテニンに結合したAtoh1、Tcf/Lef、または血清を示すゲルの図である。インプット(抗体沈降のないDNA)は、コントロールとして示される。
【図3】図3は、非トランスフェクトHEK細胞およびAtoh1でトランスフェクトされたHEK細胞におけるAtoh1タンパク質の発現を示すイムノブロットの画像であり、その各々は、CMVプロモーターの制御下にあった。
【図4A−4B】図4Aおよび4Bは、それぞれNeuro2aおよびマウス胚性幹(ES)細胞(mES)に由来するマウス前駆細胞におけるAtoh1およびGAPDH mRNAの発現を示す、アガロースゲルの画像である。「なし」は、細胞が非トランスフェクトであったことを示す。
【図5】図5は、RT−PCRを用いて定量されたNeuro2a細胞におけるAtoh1の発現を示す棒グラフである。カラムは、2つの独立した実験の平均を表し、それぞれ3回行った。Atoh1のレベルは、トランスフェクションのないコントロール細胞に対して示され、S18に対して標準化される。
【図6】図6は、クロマチン免疫沈降(ChIP)を用いて増幅されたHEK細胞からのAtoh1エンハンサー領域を示すアガロースゲルの画像である。
【図7A−7B】図7Aおよび7Bは、DNAプルダウン後のβ−カテニンおよびTcf−Lef検出を示すイムノブロットの画像である。左のレーンは、プローブ309(7A)およびプローブ966(7B)を用いたタンパク質プルダウンを示す。中央のレーンは、プローブ309(7A)およびプローブ966(7B)競合プルダウンを示す。右のレーンは、突然変異体プローブ309(7A)および突然変異体プローブ966(7B)を用いたタンパク質プルダウンを示す。
【図7C−7D】図7Cは、β−カテニンおよびTcf−Lefのウエスタンブロット法を示すゲルの画像である。図7Dは、非トランスフェクトNeuro2a細胞および神経前駆体におけるAtoh1の発現を示す棒グラフである。
【図8A−8C】図8A〜8Cは、ルシフェラーゼベクターpGL3によってコードされるルシフェラーゼレポーター発現カセットを示す概略図である。(8A)β−グロビンプロモーター(BGZA)およびホタルルシフェラーゼ遺伝子(Luc+)をコードするコントロールルシフェラーゼレポーター発現カセット(Atoh1 3'エンハンサーは存在しない)。(8B)BGZAプロモーター(BGZA)、Luc+、および野生型Atoh1 3'エンハンサーをコードする野生型ルシフェラーゼレポーター発現カセット。(8C)BGZAプロモーター(BGZA)、Luc+、およびAF218258のヌクレオチド309−315に位置する突然変異した第1のβ−カテニン結合部位をコードするAtoh1 3'エンハンサーをコードする突然変異体ルシフェラーゼレポーター発現カセット。AF218258のヌクレオチド309−315および966−972における第1および第2のβ−カテニン結合部位によりコードされるヌクレオチドは、大文字で示される。アスタリスク(*)は、突然変異したヌクレオチドを示す。*の付いたヌクレオチドは、突然変異体ヌクレオチドである。
【図8D−8E】図8D〜8Eは、ルシフェラーゼベクターpGL3によってコードされるルシフェラーゼレポーター発現カセットを示す概略図である。(8D)BGZAプロモーター(BGZA)、Luc+、およびAF218258のヌクレオチド966−972に位置する突然変異した第2のβ−カテニン結合部位をコードするAtoh1 3'エンハンサーをコードする突然変異体ルシフェラーゼレポーター発現カセット。(8E)BGZAプロモーター(BGZA)、Luc+、およびAF218258のヌクレオチド309−315および966−972に位置する突然変異した第1および第2のβ−カテニン結合部位をコードするAtoh1 3'エンハンサーをコードする突然変異体ルシフェラーゼレポーター発現カセット。AF218258のヌクレオチド309−315および966−972における第1および第2のβ−カテニン結合部位によりコードされるヌクレオチドは、大文字で示される。アスタリスク(*)は、突然変異したヌクレオチドを示す。*の付いたヌクレオチドは、突然変異体ヌクレオチドである。
【図9】図9は、マウスNeuro2a細胞単独(オープンバー)、またはβ−カテニン(ソリッドバー)の存在下での相対的ルシフェラーゼ発現を示す棒グラフである。細胞は、図8A〜8Eに表されるルシフェラーゼ構築体(A)〜(E)でトランスフェクトされた。
【図10A−10F】図10A、C、およびEは、γ−セクレターゼ阻害剤DAPT(10μMおよび50μMにおいて使用される)、GSK3β阻害剤、および/またはβ−カテニンを標的とするsiRNAで細胞を処理した後のβ−カテニン、Atoh1、およびβ−アクチンの発現レベルを示すゲルの画像である。図10Bは、RT−PCRによって評価されたβ−カテニンに対する2つのsiRNAの効果を示す棒グラフである。図10Dは、Notchシグナル伝達が阻害されるPofut1−/−細胞を用いて収集されたデータを示す棒グラフである。図10Fは、β−カテニンアゴニストおよびNotchシグナル伝達阻害剤による処理後の細胞におけるβ−カテニンの発現を示すゲルの画像である。
【図11A−11D】図11A〜11Cは、内耳幹細胞発現蛍光マーカーの画像である。(11A)GFPをコードするアデノウイルスに感染させた細胞。左パネルは、緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現する内耳幹細胞を示し、中央パネルは、核染色4'−6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI−青色)で染色された細胞を示し、右パネルは、左および中央パネルのマージを示す。(11B)および(11C)左パネルは、ミオシンVIIa(赤色)に対して染色された細胞を示し、第2のパネルは、Atoh1−nGFP陽性細胞(緑色)を示し、第3のパネルは、DAPIで染色された細胞を示し、右のパネルは、マージした細胞を示す(赤色、緑色、および青色)。三重の染色細胞は、矢印で示される。(11B)細胞に、空のアデノウイルスベクターを感染させた。(11C)細胞は、ヒトβ−カテニンをコードするアデノウイルスに感染させた。図11Dは、Atoh1およびミオシンVIIa二重染色細胞の定量を示す棒グラフである。データは、5000個の細胞がカウントされた3つの独立した実験を表す。
【図12A−12B】図12Aおよび12Bは、β−カテニン−IRES−DsRed(12A)およびIRES−DsRed(β−カテニンは存在しない)(12B)を発現する内耳幹細胞の画像である。(i)β−カテニン−IRES−DsRedまたはIRES−DsRed(赤色)を発現する細胞を示す。(12A)および(12B)の両方について1つの細胞が示される。(ii)(i)と同一の視野におけるAtoh1の発現(緑色)を示す。(iii)(i)および(ii)と同一の視野の位相差画像を示す。(iv)(i)、(ii)、および(iii)のマージした画像を示す。共染色された細胞は、矢印で示される。
【図13A−13D】図13A〜13Dは、Atoh1−nGFPマウスのE16において切除されたコルチ器における有毛細胞の画像である。(13A)未処理のコントロール有毛細胞、(13B)空のアデノウイルスベクターに5日間感染させた有毛細胞、(13CおよびD)β−カテニンをコードするアデノウイルスに5日間感染させた有毛細胞。緑色の細胞は、Atoh1陽性有毛細胞である。
【図14A−14B】図14Aおよび14Bは、Atoh1−nGFPマウスから切除された異なるコルチ器の図である。(14A)は、βカテニンの感染2日後の切除されたコルチ器を示す。(14B)は、非感染コルチ器を示す。
【図15A】図15Aは、推定上のWNT/β−カテニンシグナル伝達経路を示す図である。
【図15B】図15Bは、推定上のWNT/β−カテニンシグナル伝達経路を示す図である。図15Bは、本明細書で提示されるデータに基づいて、β−カテニンによるAtoh1の制御を示す。
【発明を実施するための形態】
【0056】
詳細な説明
本開示は、特に、下記の状態に対して対象を処置するための方法および医薬組成物を提供する。したがって、本開示は、少なくとも部分的に、内耳の成熟細胞、例えば、聴覚有毛細胞に対するか、またはそれに向かう細胞の分化が、β−カテニン依存性WNTシグナル伝達を通じて促進され得るという発見に基づく。つまり、本開示は、聴覚有毛細胞の特徴を有する細胞を産生するためのWNT/β−カテニンシグナル伝達経路に関連する方法および組成物を提供する。
【0057】
処置方法は、特定の基本的細胞事象が発生するものに限定されないが、本化合物および組成物は、対象および/または標的細胞において、Atoh1遺伝子の発現を増加させ得る。
【0058】
本明細書で示されるとおり、β−カテニン、カノニカルWntシグナル伝達経路の細胞内媒体は、生体細胞におけるAtoh1の発現を増加させることができる。この効果の特徴は、β−カテニンが、Atoh1 3'エンハンサー領域(例えば、GenBank受入番号AF218258(例えば、AF218258.1、GI7677269)のヌクレオチド309−315およびヌクレオチド966−972)においてコードされた2つの個別のβ−カテニン結合ドメインとの直接相互作用を通じて、Atoh1の発現を増加させることを明らかにした。これら2つのβ−カテニン結合ドメインは、T細胞因子(TCF)およびリンパ球エンハンサー結合タンパク質(LEF)とも相互作用し、これらは、通常、抑制状態で、他の共抑制剤と組み合わせて、Wnt標的遺伝子のプロモーターまたはエンハンサー領域と相互作用することによって、WNTシグナル伝達経路の標的遺伝子を維持する転写因子である。したがって、本明細書に提示されるデータは、β−カテニンが、Atoh1の上方調節として機能することを示す。追加として、本明細書に提示されるデータは、β−カテニン依存性Atoh1の発現が、聴覚有毛細胞の特徴を有する細胞に対して、またはそれに向かって内耳前駆細胞の分化を促進することを示す。
【0059】
カテニン
カテニンは、カドヘリン細胞接着分子との複合体において、例えば、動物細胞において一般に見出される、一群のタンパク質である。今日までに4つのカテニン、すなわちα−カテニン、β−カテニン、δ−カテニン、およびγ−カテニンが同定されている。
【0060】
α−カテニンは、接着結合におけるアクチン結合タンパク質であり、接着複合体に存在する別のアクチン結合タンパク質である、ビンクリンに全体的に類似している。α−カテニンは、ウエスタンブロット法によって検出されるように、約100kDa(例えば、102kDa)である(例えば、Nagafuchi et al.,Cell,65:849−857,1991を参照)。α−カテニンは、例えば、GenWayから入手可能な抗αカテニンモノクローナル抗体(例えば、カタログ番号20−272−191447)を使用して、ウエスタンブロット法によって検出可能である。
【0061】
βカテニンは、一部のカドヘリンのサブドメインに結合することができ、WNTシグナル伝達経路に関係している。他のタンパク質に結合するβ−カテニンの能力は、チロシンキナーゼおよびセリンキナーゼ、例えば、GSK−3によって調節される(例えば、Lilien et al.,Current Opinion in Cell Biology,17:459−465,2005を参照)。β−カテニンは、ウエスタンブロット法によって検出されるように、約80−100kDaである(例えば、88kDa〜92kDa、例えば、92kDa)。β−カテニンは、例えば、Abcamから入手可能な抗β−カテニンモノクローナル抗体(例えば、カタログ番号Ab2982)を使用して、ウエスタンブロット法により検出可能である。
【0062】
δ−カテニン(例えば、δ1−カテニンおよびδ2−カテニン)は、10のアルマジロ反復を有するタンパク質族の一員である(カテニンのp120カテニン亜科)。δ−カテニンは、神経組織において優性に発現され、プレセニリンと相互作用する(例えば、Israely et al.,Current Biology,14:1657−1663,2004およびRubio et al.,Mol.And Cell.Neurosci.,:611−623,2005を参照)。δ−カテニンは、ウエスタンブロット法によって検出されるように、約100−150kDa(例えば、約125kDa)である。δ1−カテニンは、例えば、Sigma Aldrichから入手可能な抗δカテニン抗体を使用して、ウエスタンブロット法により検出可能である(例えば、カタログ番号C4989)。δ2−カテニンは、Abcamから入手可能な抗δカテニン抗体(例えば、カタログ番号ab54578)を使用して、ウエスタンブロット法により検出可能である。
【0063】
γ−カテニンは、デスモソームの構成要素として一般に見出され、デスモグレインIに結合することができる(例えば、Franke et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,86:4027−31,1989を参照)。γ−カテニンは、ウエスタンブロット法によって検出されるように、約80−100kDa(例えば、約80kDa)である。γ−カテニンは、例えば、Abcamから入手可能な抗γカテニンモノクローナル抗体(例えば、カタログ番号Ab11799)を使用して、ウエスタンブロット法によって検出可能である。
【0064】
WNT/β−カテニンシグナル伝達
bHLH転写因子、例えば、Atoh1の発現は、Notch経路の様々な構成要素によって部分的に調節される。しかしながら、Notchは、bHLH転写因子が発現するタイミングおよび量、ならびに発現の組織特異性を支配する複合調節回路の一部にすぎない。
【0065】
WNTシグナル伝達経路(例えば、図14を参照)は、例えば、腸上皮および内耳を含むがこれらに限定されない複数の組織の初期発生に重要な役割を果たす(Clevers,Cell,127:469−480,2006、Ohyama et al.,Development,133:865−875,2006、Pinto et al.,Exp.Cell.Res.,306:357−363,2005、Stevens et al.,Dev.Biol.,261:149−164,2003、van ES et al.,Nat.Cell.Biol.,:381−386,2005、van ES et al.,Nature,435:959−963,2005)。さらに、Wntシグナル伝達の破壊は、Atoh1発現の減少に付随して、腸上皮の成熟細胞型への分化を妨げる(Pinto et al.,上記)。
【0066】
WNTは、分泌された高システイン糖タンパク質であり、短距離リガンドとして作用し、受容体により媒介されるシグナル伝達経路を局所的に活性化する。哺乳類において、WNTタンパク質族の19のメンバーが同定されている。WNTは、β−カテニン依存経路およびβ−カテニン独立経路の両方を含む2つ以上のシグナル伝達経路を活性化する(Veerman et al.,Dev.Cell.,:367−377,2003)。しかしながら、WNT活性化経路の中で最もよく理解されているのは、WNT/β−カテニン経路であり、WNT/β−カテニン経路に関与するものとして同定されたタンパク質の一覧は、広範囲にわたり、なお拡大している。
【0067】
Wntシグナル伝達は、frizzled(Fzd)系の受容体によって、細胞内で変換される(Hendrickx and Leyns,Dev.Growth Differ.,50:229−243,2008)。WNT/β−カテニン経路の活性化は、β−カテニンの翻訳後の安定性増加をもたらす。β−カテニンレベルが上昇するにつれて、核内で蓄積し、相互作用して、DNA結合TCFおよびLEF系メンバーとの複合体を形成し、標的遺伝子の転写を活性化する。逆に、WNTシグナル伝達の非存在下で、β−カテニンは、大腸腺腫様ポリポーシス(APC)およびAXINを含有する破壊複合体に動員され、それらは共に、カゼインキナーゼ1(CK1)および次いでグリコーゲンシンターゼキナーゼ3(GSK3)によるβ−カテニンのリン酸化を促進するために機能する。このプロセスは、β−カテニンのユビキチン化およびプロテオソーム分解をもたらす。結果として、WNTシグナル伝達の非存在下で、細胞は、低い細胞質および核β−カテニンレベルを維持する。一部のβ−カテニンは、血漿膜におけるカドヘリンとの会合を通じて、プロテオソーム分解から回避される(Nelson et al.,Science,303,1483−1487,2004)。
【0068】
β−カテニンの発現は、幹細胞の増殖と幹細胞の分化の間のバランスを維持することに関与する(Chenn and Walsh,Science,297:365−369,2002)。マウス聴覚上皮の発生におけるβ−カテニンの役割も説明されており、β−カテニンの発現が、マウスモデルにおいて、聴覚上皮の発生と関連することが示されている(Takebayashi et al.,Acta.Otolaryngol Suppl.,551:18−21,2004)。他の研究でも、マウスの聴覚上皮(Takebyashi et al.,Neuroreport,16:431−434,2005、Warchol,J.Neurosci.,22:2607−2616,2002)およびラットの卵形嚢(Kim et al.,Acta.Otolaryngol Suppl.,551:22−25,2004)を発生させる際に、細胞増殖の促進におけるβ−カテニンの役割を支持している。ラットの胚において行われたさらなる研究も、アンチセンス技術を使用したβ−カテニンの抑制が、耳カップにおける細胞の数を減少させたことを報告しており、著者らは、β−カテニンが、耳プラコードにおける細胞増殖、および聴覚神経クレスト複合体内の聴覚ニューロンの分化において、役割を果たすことが示されたと結論した(Matsuda and Keino,Anat.Embryol.(Berl).,202:39−48,2000)。さらに、Wnt/β−カテニン経路は、蝸牛管において、感覚/神経感覚境界を定義および維持することに関与することが報告されている(Stevens et al.,Dev.Biol.,261:149−164,2003)。併せて、以前に公開されたデータは、β−カテニンが、分化ではなく、幹細胞の増殖促進に関与することを示した。
【0069】
処置の方法
一部の実施形態において、本開示は、Atoh1の発現および/または活性の増加から利益を享受する、疾患を処置するための新規の処置法を提供する。一部の実施形態において、そのような方法は、標的細胞におけるβ−カテニンのレベル(例えば、タンパク質レベル)および/または活性(例えば、生物活性)の増加を促進することができ、それによって、内耳の成熟細胞、例えば、聴覚有毛細胞に対する、またはそれに向かう標的細胞の分化を促進する。あるいは、またはさらに、方法は、標的細胞の核におけるβ−カテニンのレベル(例えば、タンパク質レベル)および/または活性(例えば、生物活性)の増加を促進することができ、それによって、内耳の成熟細胞、例えば、聴覚有毛細胞に対する、またはそれに向かう標的細胞の分化を促進する。
【0070】
一部の実施形態において、本明細書に記載される方法および組成物は、本質的な細胞増殖を促進することなく、内耳の成熟細胞、例えば、聴覚有毛細胞に対する、またはそれに向かう標的細胞の分化を促進する。一部の実施形態において、標的細胞の0、0.5、1、3、5、10、15、20、25、30、40、または50%が、本明細書に記載される方法および組成物による処理時に、増殖を経る。
【0071】
β−カテニンの発現を調整する組成物および方法
一部の実施形態において、本開示は、標的細胞において、β−カテニンのレベル(例えば、タンパク質レベル)および/または活性(例えば、生物活性)を増加させる化合物、組成物(集合的に本明細書では、β−カテニン調整化合物と称される)、および方法の使用を含む。典型的なβ−カテニン調整化合物および方法には、標的細胞において、β−カテニンの発現(例えば、転写および/または翻訳)またはレベル(例えば、濃度)を増加させるための組成物および方法が挙げられるが、これらに限定されない。下記の使用を含む。
【0072】
(i)β−カテニンをコードするDNA。β−カテニンは、1つ以上の発現構築体を使用して発現され得る。そのような発現構築体には、裸のDNA、ウイルス、および非ウイルス発現ベクターが挙げられるがそれらに限定されない。有用に発現され得る典型的なβ−カテニン核酸配列は、例えば、NM_001098209(例えば、NM_001098209.1)、GI:148233337、NM_001904(例えば、NM_001904.3)、GI:148228165、NM_001098210(例えば、NM_001098210.1)、GI:148227671、NM_007614(例えば、NM_007614.2)、GI:31560726、NM_007614(例えば、NM_007614.2)、およびGI:31560726が挙げられるが、これらに限定されない。
【0073】
一部の実施形態において、β−カテニン核酸は、α−カテニンをコードする核酸(例えば、NM_001903.2)、δ−カテニン(例えば、NM_001085467.1(δ1)およびNM_01332.2(δ2))、およびγ−カテニン(例えば、AY243535.1およびGI:29650758)を含み得る。
【0074】
一部の実施形態において、β−カテニンをコードするDNAは、非修飾野生型配列であり得る。あるいは、β−カテニンをコードするDNAは、標準的な分子生物学的手法を用いて修飾され得る。例えば、β−カテニンをコードするDNAは、例えば、DNAまたは得られるポリペプチドの安定性を上昇させるために改変または突然変異され得る。そのような改変DNAから得られるポリペプチドは、野生型β−カテニンの生物活性を保持する。一部の実施形態において、β−カテニンをコードするDNAは、得られるポリペプチドの核移行を増加させるように改変され得る。一部の実施形態において、β−カテニンをコードするDNAは、標準的な分子生物学的手法を用いて、例えば、検出可能なポリペプチド、シグナルペプチド、およびプロテアーゼ開裂部位のうちの1つ以上をコード可能な追加のDNA配列を含むように修飾され得る。
【0075】
(ii)β−カテニンをコードするポリペプチド。典型的な有用なβ−カテニンポリペプチドには、例えば、NP_001091679(例えば、NP_001091679.1)、GI:148233338、NP_001895(例えば、NP_001895.1)、GI:4503131、NP_001091680(例えば、NP_001091680.1)、GI:148227672、NP_031640(例えば、NP_031640.1)、およびGI:6671684が挙げられるが、これらに限定されない。そのようなβ−カテニンをコードするポリペプチドは、生体細胞へのポリペプチドの取り込みを増強するように、組成物と組み合わせて使用することができる。一部の実施形態において、β−カテニンをコードするポリペプチドは、生体細胞へのポリペプチドの取り込みを増強するアミノ酸配列を含むように突然変異され得る。一部の実施形態において、β−カテニンをコードするポリペプチドは、ポリペプチド(例えば、β−カテニン点突然変異体)の安定性および/または活性を増加させるように改変または突然変異され得る。一部の実施形態において、β−カテニンをコードするポリペプチドは、ポリペプチドの核移行を含むように改変され得る。一部の実施形態において、改変したポリペプチドは、野生型β−カテニンの生物活性を保持する。
【0076】
一部の実施形態において、有用なβ−カテニン核酸配列およびβ−カテニンをコードするポリペプチドは、修飾β−カテニン核酸配列およびβ−カテニンをコードするポリペプチドを含む。そのような修飾β−カテニン核酸配列およびβ−カテニンをコードするポリペプチドは、NM_001098209(例えば、NM_001098209.1)、GI:148233337、NM_001904(例えば、NM_001904.3)、GI:148228165、NM_001098210(例えば、NM_001098210.1)、GI:148227671、NM_007614(例えば、NM_007614.2)、GI:31560726、NM_007614(例えば、NM_007614.2)、GI:31560726、NP_001091679(例えば、NP_001091679.1)、GI:148233338、NP_001895(例えば、NP_001895.1)、GI:4503131、NP_001091680(例えば、NP_001091680.1)、GI:148227672、NP_031640(例えば、NP_031640.1)およびGI:6671684の核酸またはアミノ酸配列と実質的に同一である配列を有する核酸および/またはポリペプチドであり得る。一部の実施形態において、有用なβ−カテニン核酸配列は、NM_001098209(例えば、NM_001098209.1)、GI:148233337、NM_001904(例えば、NM_001904.3)、GI:148228165、NM_001098210(例えば、NM_001098210.1)、GI:148227671、NM_007614(例えば、NM_007614.2)、GI:31560726、NM_007614(例えば、NM_007614.2)、およびGI:31560726に対して50%、60%、70%、80%、85%、90%、95%、98%、99%、または100%ホモログであり得る。一部の実施形態において、有用なβ−カテニンをコードするポリペプチド配列は、NP_001091679(例えば、NP_001091679.1)、GI:148233338、NP_001895(例えば、NP_001895.1)、GI:4503131、NP_001091680(例えば、NP_001091680.1)、GI:148227672、NP_031640(例えば、NP_031640.1)、およびGI:6671684に対して50%、60%、70%、80%、85%、90%、95%、98%、99%、または100%ホモログであり得る。一部の実施形態において、有用な修飾β−カテニン核酸配列およびβ−カテニンをコードするポリペプチド配列によってコードされた分子は、対応する、例えば、非修飾β−カテニン核酸配列およびβ−カテニンをコードするポリペプチド配列によってコードされた分子の活性(例えば、生物活性)の少なくとも一部を有する。例えば、修飾β−カテニン核酸配列およびβ−カテニンをコードするポリペプチドによってコードされた分子は、対応する、例えば、非修飾β−カテニン核酸配列およびβ−カテニンをコードするポリペプチド配列によってコードされた分子の活性(例えば、生物活性)の50%、60%、70%、80%、85%、90%、95%、98%、99%、または100%を保持することができる。β−カテニンまたはβ−カテニン様分子の活性を評価するために必要な方法は、本明細書において説明される。
【0077】
2つのアミノ酸配列、または2つの核酸配列の%同一性を決定するために、最適な比較目的で配列を並べる(例えば、最適なアライメントのために第1および第2のアミノ酸または核酸配列の一方または両方にギャップを導入することができ、非相同配列を比較目的で無視することができる)。好適な実施形態において、比較目的で並べられた参照配列の長さは、参照配列の少なくとも30%、好ましくは、少なくとも40%、より好ましくは、少なくとも50%、さらにより好ましくは、少なくとも60%、さらにより好ましくは、少なくとも70%、80%、90%、または100%である。次いで、対応するアミノ酸部位またはヌクレオチド部位におけるアミノ酸残基またはヌクレオチドを比較する。第1の配列における部位が第2の配列における対応する部位において同一のアミノ酸残基またはヌクレオチドで占められる場合、その分子は、該部位において同一である。2つのアミノ酸配列間の%同一性の決定は、BLAST2.0プログラムを使用して達成される。配列比較は、非ギャップ整列を使用し、かつデフォルトパラメータを使用して行われる(Blossom62マトリクス、ギャップ存在コスト11、残ギャップコスト当たり1、およびλ率0.85)。BLASTプログラムにおいて使用される数学アルゴリズムは、Altschulらによって説明されている(Nucleic Acids Res.25:3389−3402,1997)。有用なβ−カテニンをコードするポリペプチド配列またはポリペプチド画分は、最大約20(例えば、最大約10、5、または3)のアミノ酸の削除、追加、または置換、例えば、保存的置換を有し、本明細書に記載される組成物および方法に有用となる。保存的アミノ酸置換は、当該技術分野において知られている。
【0078】
(iii)Wnt/β−カテニン経路アゴニスト。一部の実施形態において、β−カテニンレベル(例えば、タンパク質レベル)および/または活性(例えば、生物活性)は、WNT/β−カテニン経路の1つ以上の成分を標的とする、化合物または組成物を使用して、調整する(例えば、増加させる)ことができる。例えば、適当な化合物または組成物は、WNT/β−カテニン経路の2つ、3つ、4つ、5つ、またはそれ以上の成分を標的とすることができる。一部の実施形態において、β−カテニンレベル(例えば、タンパク質レベル)および/または活性(例えば、生物活性)に対して拮抗作用を有する成分を標的とすることができる。例えば、β−カテニンレベル(例えば、タンパク質レベル)および/または活性(例えば、生物活性)を増加させる第1の成分は、β−カテニンレベル(例えば、タンパク質レベル)および/または活性(例えば、生物活性)を阻害する、第2の標的と組み合わせて標的とされ得る。この実施例において、第1の標的は活性化され、第2の標的は阻害される。
【0079】
典型的な有用なβ−カテニン経路アゴニストは、Wnt/β−カテニンシグナル伝達経路の1つ以上の成分に作用することによって、β−カテニンの発現(例えば、転写および/または翻訳)、レベル(例えば、濃度)、または活性を増加させる。例えば、適当なWnt/β−カテニン経路アゴニストは、β−カテニンの安定性を増加させることによって(例えば、カゼインキナーゼ1(CK1)およびグリコーゲンシンターゼキナーゼ3β(GSK3β)の阻害を通じてβ−カテニンの分解を減少させることによって)、および/または隔離された内因性細胞内β−カテニンの放出を促進することによって、β−カテニンの上流モジュレータまたは阻害剤、あるいは細胞転写マシンの構成要素に)間接的に作用することができる。典型的なWnt/β−カテニン経路アゴニストには、例えば、Wntリガンド、DSH/DVL1、2、3、LRP6−N、WNT3A、WNT5A、およびWNT3A、5Aを含むが、これらに限定されない。追加のWnt/β−カテニン経路活性剤および阻害剤は、当該技術分野において再検討される(Moon et al.,Nature Reviews Genetics,:689−699,2004)。一部の実施形態において、適当なWnt/β−カテニン経路アゴニストは、その抗体および抗原結合画分、およびfrizzled(Fzd)系の受容体に特異的に結合するペプチドを含み得る。
【0080】
(iv)キナーゼ阻害剤、例えば、カゼインキナーゼ1(CK1)およびグリコーゲンシンターゼキナーゼ3β(GSK3β)阻害剤。一部の実施形態において、有用なキナーゼ阻害剤は、β−カテニンの分解を減少させることによって、β−カテニンレベルを増加させることができる。一部の実施形態において、典型的な有用なキナーゼ阻害剤、例えば、GSK3β阻害剤には、塩化リチウム(LiCl)、プルバラノールA、オロモウシン、アルステルパウロン、ケンパウロン、ベンジル−2−メチル−1,2,4−チアジアゾリジン−3,5−ジオン(TDZD−8)、2−チオ(3−ヨードベンジル)−5−(1−ピリジル)−[1,3,4]−オキサジアゾール(GSK3β阻害剤II)、2,4−ジベンジル−5−オキソチアジアゾリジン−3−チオン(OTDZT)、(2'Z,3'E)−6−ブロモインジルビン−3'オキシム(BIO)、α−4−ジブロモアセトフェノン(すなわち、タウタンパク質キナーゼI(TPK I)阻害剤)、2−クロロ−1−(4,5−ジブロモ−チオフェン−2−イル)−エタノン、N−(4−メトキシベンジル)−N'−(5−ニトロ−1,3−チアゾール−2−イル)尿素(AR−A014418)、およびインジルビン(例えば、インジルビン−5−スルホンアミド、インジルビン−5−スルホン酸(2−ヒドロキシエチル)−アミドインジルビン−3’−モノキシム、5−ヨード−インジルビン−3’−モノキシム、5−フルオロインジルビン、5,5’−ジブロモインジルビン、5−ニトロインジルビン、5−クロロインジルビン、5−メチルインジルビン、5−ブロモインジルビン)、4−ベンジル−2−メチル−1,2,4−チアジアゾリジン−3,5−ジオン(TDZD−8)、2−チオ(3−ヨードベンジル)−5−(1−ピリジル)−[1,3,4]−オキサジアゾール(GSK3阻害剤II)、2,4−ジベンジル−5−オキソチアジアゾリジン−3−チオン(OTDZT)、(2'Z,3'E)−6−ブロモインジルビン−3'−オキシム(BIO)、α−4−ジブロモアセトフェノン(すなわち、タウタンパク質キナーゼI(TPK I)阻害剤)、2−クロロ−1−(4,5−ジブロモ−チオフェン−2−イル)−エタノン、(vi)N−(4−メトキシベンジル)−N'−(5−ニトロ−1,3−チアゾール−2−イル)尿素(AR−A014418)、およびH−KEAPPAPPQSpP−NH2(L803)またはその細胞透過性誘導体Myr−N−GKEAPPAPPQSpP−NH2(L803−mts)が挙げられるが、それらに限定されない。他のGSK3β阻害剤は、特許第6,417,185号、第6,489,344号、第6,608,063号、および2003年10月20日に提出された公開米国出願第690497号、2003年8月19日に提出された第468605号、2003年8月21日に提出された第646625号、2003年2月6日に提出された第360535号、2003年5月28日に提出された第447031号、および2002年12月3日に提出された第309535号において開示される。一部の実施形態において、適当なキナーゼ阻害剤は、GSK3βおよび/またはCK1タンパク質レベルを減少させるように設計された、RNAiおよびsiRNAを含み得る。一部の実施形態において、有用なキナーゼ阻害剤は、FGF経路阻害剤を含む。一部の実施形態において、FGF経路阻害剤には、例えば、SU5402が挙げられる。
【0081】
(v)プロテアーゼ阻害剤およびプロテアソーム阻害剤。一部の実施形態において、有用なプロテアーゼ阻害剤は、β−カテニンの分解を減少させることによって、β−カテニンレベルを増加させることができる。適当なプロテアーゼ阻害剤は、当該技術分野において知られている(例えば、Shargel et al.,Comprehensive Pharmacy Review,Fifth Edition,published by Lippincott Williams、およびWilkinsの例えば、ページ373および872−874を参照)。一部の実施形態において、有用なプロテアーゼ阻害剤には、例えば、天然プロテアーゼ阻害剤、合成プロテアーゼ阻害剤、抗レトロウイルスプロテアーゼ阻害剤、およびプロテアーゼ阻害剤のカクテルが挙げられ得る。
【0082】
一部の実施形態において、有用なプロテアーゼ阻害剤は、プロテアソームまたはプロテアソーム阻害剤の阻害剤を含み得る。適当なプロテアソーム阻害剤は、例えば、Velcade(登録商標)(例えば、ボルテゾミブ、Millenium Pharmaceuticals)、MG132(Calbiochem)、ラクタシスチン(Calbiochem)、およびプロテアソーム阻害剤(PSI)が挙げられるが、これらに限定されない。一部の実施形態において、有用なプロテアーゼ阻害剤は、ユビキチン経路の阻害剤を含み得る。
【0083】
(vi)(i)−(v)の任意の組み合わせ
(vii)Notchシグナル伝達経路の阻害剤、例えば、γセクレターゼ阻害剤または阻害核酸との(i)−(v)の任意の組み合わせ。典型的なγセクレターゼ阻害剤には、例えば、アリールスルホンアミド、ジベンズアゼピン、ベンゾジアゼピン、N−[N−(3,5−ジフルオロフェンアセチル)−L−アラニル]−(S)−フェニルグリシンt−ブチルエステル(DAPT)、L−685,458、またはMK0752が挙げられるが、これらに限定されない。Notchシグナル伝達経路の阻害剤を同定するための他の典型的なNotch経路阻害剤および方法は、例えば、国際特許第PCT/US2007/084654号、米国特許公開第2005/0287127号、および米国出願番号第61/027,032号において開示される。
【0084】
一部の実施形態において、本開示は、方法を提供し、それによって、
(a)1つ以上のβ−カテニン調整化合物が対象、例えば、対象の耳に投与される(直接療法);
(b)1つ以上の標的細胞が、例えば、インビトロで、1つ以上のβ−カテニン調整化合物と接触し、成熟細胞型、例えば、有毛細胞に対するか、またはそれに向かうそれらの細胞の完全または部分的な変換(例えば、分化)を促進する;
(c)方法(b)に従って処理された1つ以上の標的細胞(例えば、方法(b)に起因する1つ以上の細胞)は、対象、例えば、対象の耳に投与される(細胞療法);および
(d)方法(b)に従って処理された1つ以上の標的細胞(例えば、方法(b)に起因する1つ以上の細胞)は、1つ以上のβ−カテニン調整化合物と組み合わせて対象に、例えば、対象の耳に投与される、方法(複合療法)。
【0085】
対象の選択
有毛細胞を産生することができる細胞は内耳に存在するが、内耳における自然な有毛細胞の再生が低いことは、広く受け入れられている(Li et al.,Trends Mol.Med.,10,309−315(2004)、Li et al.,Nat.Med.,9,1293−1299(2003)、Rask−Andersen et al.,Hear.Res.,203,180−191(2005))。結果として、喪失または損傷した有毛細胞は、自然な生理学的プロセスによって適切に置き換えられない場合があり(例えば、細胞分化)、有毛細胞の喪失が起こる。多くの個人において、そのような有毛細胞の喪失は、例えば、感音難聴、聴覚障害、および平衡失調障害をもたらし得る。内耳における有毛細胞の数を増加させる処置方法は、有毛細胞を喪失した対象、例えば、これらの状態のうちの1つ以上を有する対象に有益となる。
【0086】
有毛細胞発生におけるAtoh1の重要性は、十分に文書化されている。例えば、Atoh1は、有毛細胞の発生および内耳支持細胞および/または有毛細胞への内耳前駆細胞の分化に必要とされる(Bermingham et al.,Science,284:1837−1841,1999)。さらに、成熟モルモットの内リンパにおけるアデノウイルス媒介性Math1の過剰発現は、未成熟の有毛細胞への成熟蝸牛における非感覚細胞の分化をもたらす(Kawamoto et al.,The Journal of Neuroscience,23:4395−4400,2003)。これらの研究は、二重の意味を持つ。第1に、それらは、成熟蝸牛の非感覚細胞が、感覚細胞、例えば、有毛細胞に分化する能力を保持することを示す。第2に、それらは、Math1の過剰発現が、非感覚細胞からの有毛細胞の分化を配向するために必須かつ十分であることを示す。後の研究は、アデノウイルス媒介性Atoh1の過剰発現が、有毛細胞の再生を誘導し、実験的に失聴させた動物モデルにおいて、実質的に、聴覚閾値を向上させることを示すことによって、これらの所見をさらに進めた(Izumikawa et al.,Nat.Med.,11:271−276,2005)。
【0087】
一部の実施形態において、本明細書に記載される方法、化合物、および組成物は、聴覚有毛細胞、例えば、感覚神経有毛細胞の喪失等、聴覚有毛細胞の喪失に起因する聴覚障害を有するか、または発症する危険性がある対象を処置するために使用することができる。
【0088】
感覚神経有毛細胞を喪失した対象は、蝸牛有毛細胞の変性を経験し、これは、有毛細胞喪失領域において、らせん神経節ニューロンの喪失をもたらす場合が多い。そのような対象は、コルチ器における支持細胞の喪失、および側頭骨物質における縁、らせん靭帯、および血管条の変性も経験し得る。
【0089】
一部の実施形態において、本発明を使用して、例えば、耳の感覚細胞、例えば、有毛細胞として機能することができる1つ以上の細胞への1つ以上の細胞の分化(例えば、完全または部分的な分化)を促進することによって、有毛細胞の喪失および耳の細胞喪失の結果として起こる任意の疾患、例えば、聴覚障害、失聴、および前庭障害を処置することができる。
【0090】
一部の実施形態において、方法は、有毛細胞喪失の危険性がある対象および/または有毛細胞喪失のある対象を選択するステップを含む。あるいは、またはさらに、方法は、感音難聴の危険性がある対象および/または感音難聴のある対象を選択するステップを含む。難聴を経験しているか、または発症する危険性がある任意の対象は、本明細書に記載される処置方法の候補である。難聴を有するか、または発症する危険性があるヒト対象は、平均的なヒトよりも良好に聴こえないか、または難聴を経験する前のヒトよりも良好に聴くことができない。例えば、聴力は、少なくとも5%、10%、30%、50%またはそれ以上消失し得る。
【0091】
一部の実施形態において、対象は、感音難聴を有してもよく、これは、耳の感覚部分(蝸牛)または神経部分(聴覚神経)の損傷または機能不全、あるいは外耳および/または中耳の遮断または損傷によってもたらされる伝音難聴に起因する。あるいは、またはさらに、対象は、伝音経路(外耳または中耳)および神経経路(内耳)の両方における問題によってもたらされる混合難聴を有し得る。混合難聴の例は、加齢に関連する損傷に起因して、感音難聴と組み合わされる、中耳感染に起因する伝音障害である。
【0092】
一部の実施形態において、対象は、任意の理由、または任意の種類の事象の結果として、耳が聞こえないか、または難聴を有し得る。例えば、対象は、遺伝学的または先天性の欠陥のために耳が聞こえない場合があり、例えば、ヒト対象は、出生以来耳が聞こえないか、または遺伝学的または先天性の欠陥に起因して聴力が徐々に低下した結果、耳が聞こえないか、または難聴であり得る。別の実施例において、ヒト対象は、耳の構造に対する物理的外傷、または突然の騒音、または騒音に対する長期曝露等の外傷的事象の結果として、耳が聞こえないか、または難聴であり得る。例えば、コンサート場、空港の滑走路、および工事現場での長期曝露は、内耳の損傷および後次の難聴をもたらし得る。
【0093】
一部の実施形態において、対象は、化学的に誘導された耳毒性を経験し得、耳毒素は、抗腫瘍薬、サリチル酸塩、キニーネ、およびアミノグリコシド抗生物質を含む処置薬、食品または医薬品の汚染、および環境または工業汚染を含む。
【0094】
一部の実施形態において、対象は、加齢に起因する聴覚障害を有し得る。あるいは、またはさらに、対象は耳鳴を有し得る(耳内の共鳴によって特徴付けられる)。
【0095】
一部の実施形態において、本開示において取り上げられる方法およびβ−カテニン調整化合物を使用する処置に適した対象は、両側および片側前庭機能障害を含む、前庭機能障害を有する対象を含み得る。前庭機能障害は、眩暈、平衡失調、回転性眩暈、吐き気、および目のかすみを含む症状によって特徴付けられる内耳機能不全であり、聴力の問題、疲労、および認知機能の変化を伴い得る。前庭機能障害は、遺伝学的または先天性欠陥、ウイルスまたは細菌感染等の感染、または外傷または非外傷性負傷等の傷害の結果であり得る。前庭機能障害は、疾患の個別の症状を測定することによって、もっとも一般的に試験される(例えば、回転性眩暈、吐き気、および目のかすみ)。
【0096】
一部の実施形態において、本明細書において提供される方法およびβ−カテニン調整化合物は、難聴、失聴、または内耳機能の喪失に関連する他の聴覚疾患を回避する等、予防的に使用することができる。例えば、1つ以上の化合物を含む組成物は、第2の処置薬、例えば、聴覚障害に影響し得る処置薬とともに投与することができる。そのような耳毒性薬物には、ネオマイシン、カナマイシン、アミカシン、ビオマイシン、ゲンタマイシン、トブラマイシン、エリスロマイシン、バンコマイシン、およびストレプトマイシン等の抗生物質、シスプラチン等の化学療法薬、コリンマグネシウムトリサリチレート、ジクロフェナク、ジフルニサル、フェノプロフェン、フルルビプロフェン、イブプロフェン、インドメタシン、ケトプロフェン、メクロフェナム酸、ナブメトン、ナプロキセン、オキサプロジン、フェニルブタゾン、ピロキシカム、サルサレート、スリンダク、およびトルメチン等の非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)、利尿剤、アスピリン等のサリチル酸塩、およびキニーネおよびクロロキン等の所定のマラリア処置薬が挙げられる。例えば、化学療法を受けているヒトは、本明細書に記載される化合物および方法を使用して処置することができる。例えば、化学療法薬シスプラチンは、例えば、難聴をもたらすことが知られている。したがって、1つ以上の化合物を含有する組成物は、シスプラチン療法とともに投与され、シスプラチン副作用を予防するか、または重篤度を低減することができる。そのような組成物は、第2の処置薬の前、後、および/または同時に投与することができる。2つの薬剤を異なる投与経路によって投与することができる。
【0097】
一部の実施形態において、聴覚有毛細胞喪失の処置は、それによって1つ以上のβ−カテニン調整化合物が、対象の耳において、対象の内耳に自然に存在する非有毛細胞型からの完全または部分的な有毛細胞の分化を促進することによって、聴覚有毛細胞(例えば、内耳および/または外耳有毛細胞)の形成を促進し、および/または有毛細胞(例えば、内耳および/または外耳有毛細胞)の数を増加させるように、対象に投与されるステップを含む。この処置方法は、直接療法と称される。
【0098】
一部の実施形態において、聴覚有毛細胞喪失の処置は、それによって1つ以上の標的細胞が、例えば、1つ以上のβ−カテニン調整化合物とインビトロで接触して、内耳の成熟細胞型、例えば、有毛細胞(例えば、内耳および/または外耳有毛細胞)に対する、またはそれに向かうそれらの細胞の完全または部分的な分化を促進する、ステップを含む。
【0099】
あるいは、またはさらに、方法は、それによって1つ以上のβ−カテニン調整化合物と、例えば、インビトロで接触した1つ以上の標的細胞が、対象の耳(例えば、内耳)に投与される、ステップを含む。この処置方法は、細胞療法と称される。
【0100】
一部の実施形態において、方法は、それによって1つ以上のβ−カテニン調整化合物と、例えば、インビトロで接触した1つ以上の標的細胞が、1つ以上のβ−カテニン調整化合物と組み合わせて、対象の耳(例えば、内耳)に投与される、ステップを含む。この処置方法は、複合療法と称される。
【0101】
一般に、本明細書に記載される化合物および方法は、耳内で有毛細胞の成長をもたらし、および/または耳内の(例えば、内耳、中耳、および/または外耳において)有毛細胞の数を増加させるように使用することができる。例えば、耳内の有毛細胞の数は、処置前の有毛細胞の数と比較して、約2倍、3倍、4倍、6倍、8倍、または10倍、またはそれ以上増加させることができる。この新しい有毛細胞の成長は、対象の聴覚を効果的に回復させるか、または少なくとも部分的に向上させることができる。例えば、薬剤の投与は、約5%、10%、15%、20%、40%、60%、80%、100%、またはそれ以上の難聴を改善することができる。
【0102】
適当な場合、処置後に、聴覚または内耳障害に関連する他の症状の改善に関してヒトを試験することができる。聴覚を測定するための方法は、よく知られており、純音聴力検査、気導、および骨導検査を含む。これらの検査は、ヒトが聴くことができる大きさ(強度)およびピッチ(周波数)の限界を測定する。ヒトにおける聴力検査は、聴性行動反応聴力検査(幼児〜7ヶ月)、視覚強化詮索聴力検査(7ヶ月〜3歳までの子供)、および3歳より上の子供に対するプレイ聴力検査を含む。耳アコースティックエミッション検査を使用して、蝸牛有毛細胞の機能を検査することができ、蝸電図法は、蝸牛の機能および脳への神経経路の第1の部分についての情報を提供する。一部の実施形態において、処置は、修正の有無に関わらず継続することができるか、または停止させることができる。
【0103】
投与経路
直接療法
投与経路は、処置される疾患に応じて異なる。有毛細胞の喪失、感音難聴、および前庭障害は、全身投与および/または局所投与を使用する直接療法を使用して処置することができる。一部の実施形態において、投与経路は、対象のヘルスケア提供者または医師によって、例えば、対象の評価に従って決定することができる。一部の実施形態において、個々の対象の療法は、カスタマイズされてもよく、例えば、1つ以上のβ−カテニン調整化合物、投与経路、および投与頻度をカスタマイズすることができる。あるいは、療法は、標準的な処置工程を用いて、例えば、1つ以上の事前選択したβ−カテニン調整化合物、および事前選択した投与経路、ならびに投与頻度を使用して行ってもよい。
【0104】
一部の実施形態において、1つ以上のβ−カテニン調整化合物は、対象、例えば、有毛細胞の喪失に対する処置が必要であると同定された対象に、全身投与経路を使用して投与することができる。全身投与経路には、非経口投与経路、例えば、静脈内注射、筋肉内注射、および腹腔内注射、腸内投与経路、例えば、経口経路、トローチ、圧縮錠剤、ピル、錠剤、カプセル、ドロップ(例えば、点耳薬)、シロップ、懸濁液および乳剤による投与、直腸投与、例えば、直腸坐薬または浣腸、膣坐剤、尿道坐剤、経皮投与経路、および吸入(例えば、鼻スプレイ)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0105】
あるいは、またはさらに、1つ以上のβ−カテニン調整化合物は、対象、例えば、有毛細胞の喪失に対する処置が必要であると同定された対象に、局所投与経路を使用して投与することができる。そのような局所投与経路は、1つ以上の化合物を対象の耳および/または対象の内耳に、例えば、注射および/またはポンプを使用して投与することを含む。
一部の実施形態において、1つ以上のβ−カテニン調整化合物は、耳(例えば、耳介投与)、例えば、蝸牛の内腔(例えば、中央階、Sc前庭、およびSc鼓膜)に注射することができる。例えば、1つ以上のβ−カテニン調整化合物は、鼓膜内注射によって(例えば、中耳に)、および/または外耳、中耳、および/または内耳に注射することによって投与することができる。そのような方法は、当該技術分野において、例えば、ヒトの耳にステロイドおよび抗生物質を投与するために日常的に使用されている。注射は、例えば、耳の正円窓または蝸牛カプセルを介し得る。
【0106】
別の投与モードにおいて、1つ以上のβ−カテニン調整化合物は、in situで、カテーテルまたはポンプを介して投与することができる。カテーテルまたはポンプは、例えば、医薬組成物を耳の蝸牛内腔または正円窓に配向させ得る。1つ以上の化合物を耳、例えば、ヒトの耳に投与するために適した典型的な薬物送達装置および方法は、McKenna et al.,(米国公開第2006/0030837号)およびJacobsen et al.,(米国特許第7,206,639号)によって説明されている。一部の実施形態において、カテーテルまたはポンプは、外科手術中に、例えば、対象の耳(例えば、外耳、中耳、および/または内耳)に位置付けることができる。一部の実施形態において、カテーテルまたはポンプは、例えば、外科手術の必要なく、対象の耳(例えば、外耳、中耳、および/または内耳)に位置付けることができる。
【0107】
あるいは、またはさらに、1つ以上の化合物は、外耳に装着される、人工内耳または補聴器等の機械装置と組み合わせて投与することができる。本発明との併用に適した典型的な人工内耳は、Edge et al.,(米国公開第2007/0093878号)によって説明される。
【0108】
一部の実施形態において、上記の投与モードは、任意の順序で組み合わされてもよく、同時または散在し得る。
【0109】
あるいは、またはさらに、本発明は、食品医薬品局(FDA)が承認した方法のうちのいずれかに従って、例えば、CDER Data Standards Manualバージョン004(fda.give/cder/dsm/DRG/drg00301.htmから入手可能)において説明されるように、投与され得る。
【0110】
β−カテニン発現構築物
一部の態様において、β−カテニンは、発現構築物、例えば、裸のDNA構築物、DNAベクター系構築物、および/またはウイルスベクターおよび/またはウイルス系構築物を使用して発現させることができる。
【0111】
本出願は、例えば、対象に投与するために、医薬組成物として製剤されるそのような発現構築物も提供する。そのような医薬組成物は、1つの発現構築物に限定されないが、むしろ2つ以上の発現構築物(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10またはそれ以上の発現構築物)を含み得る。
【0112】
裸のDNA構築物およびそのような構築物の処置的使用は、当業者によく知られている(例えば、Chiarella et al.,Recent Patents Anti−Infect.Drug Disc.,:93−101,2008、Gray et al.,Expert Opin.Biol.Ther.,:911−922,2008、Melman et al.,Hum.Gene Ther.,17:1165−1176,2008を参照)。通常、裸のDNA構築物は、1つ以上の治療核酸(例えば、β−カテニンをコードするDNA)およびプロモーター配列を含む。裸のDNA構築物は、DNAベクターであり得、一般に、pDNAと称される。裸のDNAは、通常、染色体DNAには組み込まれない。概して、裸のDNA構築物は、脂質、ポリマー、またはウイルスタンパク質の存在を必要としないか、またはそれらと併用されない。そのような構築物は、本明細書に記載される非治療化合物のうちの1つ以上も含み得る。
【0113】
DNAベクターは、当該技術分野において知られており、通常、環状二本鎖DNA分子である。DNAベクターは、通常、3〜5キロベース対のサイズである(例えば、挿入された治療核酸を含む)。裸のDNAと同様に、DNAベクターは、1つ以上の治療タンパク質を標的細胞に送達し、発現させるように使用することができる。DNAベクターは、染色体DNAには組み込まれない。
【0114】
概して、DNAベクターは、標的細胞における複製を可能にする少なくとも1つのプロモーター配列を含む。DNAベクターの取り込みは、DNAベクターを、例えば陽イオン脂質と組み合わせてDNA複合体を形成することにより促進(例えば、改善)され得る。
【0115】
ウイルスベクターも有用であり、これも当業者によく知られている。通常、ウイルスベクターは、ウイルスに由来する二本鎖環状DNA分子である。ウイルスベクターは、通常、裸のDNAおよびDNAベクター構築物よりも大きく、外来(すなわち、ウイルス的にコードされていない)遺伝子を導入する能力が優れている。裸のDNAおよびDNAベクターと同様に、ウイルスベクターは、標的細胞において、1つ以上の治療核酸を送達および発現させるように使用することができる。所定のウイルスベクターは、裸のDNAおよびDNAベクターとは異なり、それら自体を染色体DNAに安定的に組み込む。
【0116】
通常、ウイルスベクターは、宿主細胞において、1つ以上のベクターコード化核酸、例えば、治療核酸の複製を可能にする少なくとも1つのプロモーター配列を含む。ウイルスベクターは、本明細書に記載される1つ以上の非治療化合物を任意で含んでもよい。有利には、ウイルスベクターを標的細胞に取り込むことは、追加の構成要素、例えば、陽イオン脂質を必要としない。むしろ、ウイルスベクタートランスフェクトまたは感染細胞は、標的細胞と直接接触している。
【0117】
本明細書に記載の方法は、レトロウイルスベクター、アデノウイルス由来ベクター、および/またはアデノ随伴ウイルスベクターを、外因性遺伝子をインビボで、特にヒトに移行させるための組み換え遺伝子送達システムとして使用することを含む。組み換えレトロウイルスを作製し、細胞をインビトロまたはインビボでそのようなウイルスに感染させるためのプロトコールは、Current Protocols in Molecular Biology,Ausubel,F.M.et al.(eds.)Greene Publishing Associates,(1989),Sections9.10−9.14、および他の標準的な研究室マニュアルにおいて見出すことができる。
【0118】
アデノウイルスのゲノムは、それが関心対象の遺伝子産物をコードおよび発現するが、正常な溶解ウイルス生活環において複製する能力に関して不活性化されるように操作することができる。例えば、Berkner et al.,BioTechniques6:616,1988、Rosenfeld et al.,Science252:431−434,1991、およびRosenfeld et al.Cell68:143−155,1992を参照されたい。アデノウイルス株Ad型5dl324または他のアデノウイルス株(例えば、Ad2、Ad3、Ad7等)に由来する適当なアデノウイルスベクターは、当業者に知られている。組み換えアデノウイルスは、それらが非分裂細胞に感染できず、上皮細胞を含む種々の細胞型に感染させるために使用され得るという点で、特定の状況下において有利であり得る(上記で引用されるRosenfeld et al.(1992))。さらに、ウイルス粒子は、比較的安定しており、精製および濃縮に適しており、上記のとおり感染性のスペクトルに作用するように修飾することができる。その上、導入されるアデノウイルスDNA(およびそこに含まれる外来DNA)は、宿主細胞のゲノムに統合されずに依然としてエピソーム性であり、それによって、挿入突然変異の結果としてin situで発生し得る潜在的な問題を回避しする(そこでは、導入されたDNA(例えば、レトロウイルスDNA)は、宿主ゲノムに統合される)。さらに、外来DNAのアデノウイルスゲノムの保有能力は、他の遺伝子送達ベクターに関して大きい(最大8キロベース)(上で引用されるBerkner et al.、Haj−Ahmand and Graham,J.Virol.,57:267,1986)。
【0119】
アデノ随伴ウイルスは、自然発生する欠損ウイルスであり、効率的な複製および生産的な生活環のためのヘルパーウイルスとして、別のウイルス、例えば、アデノウイルスまたはヘルペスウイルスを必要とする。(Muzyczka et al.,Curr.Topics in Micro.and Immunol.158:97−129,1992を参照されたい)。アデノ随伴ウイルスは、そのDNAを非分裂細胞に統合し得る数少ないウイルスのうちの1つでもあり、高い頻度で安定した統合を呈する(例えば、Flotte et al.,Am.J.Respir.Cell.Mol.Biol.7:349−356,1992、Samulski et al.,J.Virol.,63:3822−3828,1989、およびMcLaughlin et al.,J.Virol.,62:1963−1973,1989も参照されたい)。AAVの300塩基対しか含有しないベクターは、パッケージ化および統合することができる。外来DNAのためのスペースは、約4.5kbに制限される。AAVベクター、例えば、Tratschin et al.,Mol.Cell.Biol.5:3251−3260,1985において説明されるものは、DNAを細胞に導入するために使用することができる。熟練した実践者であれば、ここで説明される方法で、任意の数のウイルスベクターの使用が可能であることを理解するであろう。
【0120】
本明細書に記載される発現構築物を作製するために必要なすべての分子生物学的技術は、標準技術であり、当業者に理解されるであろう。詳細な方法は、例えば、Current Protocols in Molecular Biology,Ausubel et al.(eds.)Greene Publishing Associates,(1989),Sections 9.10−9.14および他の標準研究室マニュアルにおいて見出すこともできる。改変したβ−カテニンをコードするDNAは、例えば、部位配向された突然変異生成技術を使用して生成することができる。
【0121】
β−カテニンをコードするポリペプチド
β−カテニンをコードするポリペプチドは、組み換え技術または化学合成を使用して作製することができる。そのようなポリペプチドを作製するための方法、およびそのようなポリペプチドの精製に必要な方法は、当業者によって理解されるであろう。
【0122】
医薬組成物
一部の実施形態において、1つ以上のβ−カテニン調整化合物は、医薬組成物として製剤することができる。1つ以上のβ−カテニン調整化合物を含有する医薬組成物は、意図される投与方法に従って製剤することができる。
【0123】
1つ以上のβ−カテニン調整化合物は、対象に直接投与するための医薬組成物として製剤することができる。1つ以上の化合物を含有する薬学組成物は、1つ以上の生理学的に許容される担体または賦形剤を使用して、従来の方法で製剤することができる。医薬組成物は、例えば、局所または全身投与、例えば、耳への点薬または注射による投与、(例えば、耳への)吹送、静脈内、局所または経口投与による投与のために製剤され得る。
【0124】
投与するための医薬組成物の性質は、投与モードに依存し、当業者によって容易に決定され得る。一部の実施形態において、医薬組成物は、滅菌されているか、または滅菌可能である。本発明において取り上げられる処置組成物は、担体または賦形剤を含むことができ、それらの多くは、当業者に知られている。使用できる賦形剤には、緩衝剤(例えば、クエン酸塩緩衝液、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、および重炭酸緩衝液)、アミノ酸、尿素、アルコール、アスコルビン酸、リン脂質、ポリペプチド(例えば、血清アルブミン)、EDTA、塩化ナトリウム、リポソーム、マンニトール、ソルビトール、水、およびグリセロールが挙げられる。核酸、ポリペプチド、小分子、および本発明で取り上げられる他の調整化合物は、任意の標準投与経路によって投与され得る。例えば、投与は、非経口、静脈内、皮下、または経口であり得る。
【0125】
医薬組成物は、対応する投与経路に従って、様々な方法で製剤することができる。例えば、耳への点薬による投与、注射、または摂取のための溶液を形成することができ、ゲルまたは粉末は、摂取または局所適用のために形成することができる。そのような製剤を形成するための方法は、十分に知られており、例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences,18th Ed.,Gennaro,ed.,Mack Publishing Co.,Easton,Pa.,1990を参照されたい。
【0126】
1つ以上のβ−カテニン調整化合物は、例えば、薬学組成物として、直接および/または局所的に、注射または外科的配置によって、例えば、内耳に投与することができる。医薬組成物の量は、有効量として説明され得るか、または細胞系組成物の量は、治療上有効量として説明され得る。一定期間の適用が推奨されるか、または望ましい場合、本発明の組成物は、徐放性製剤または埋め込み可能な装置(例えば、ポンプ)に入れることができる。
【0127】
あるいは、またはさらに、医薬組成物は、注射、例えば、ボーラス注射または静注によって、全身的に非経口投与するために製剤され得る。そのような製剤は、添加された保存剤とともに、単位投与形態、例えば、アンプル、または複数回投与用容器で提示され得る。組成物は、油性または水性媒体中の懸濁液、溶液、または乳液等の形態を取り得、懸濁、安定化および/または分散剤等の製剤化剤を含んでもよい。あるいは、活性成分は、使用前は、適当な媒体、例えば、ピロゲンを含まない滅菌水を有する構成のための粉末形態であり得る。
【0128】
前述される製剤に加えて、組成物は、デポー製剤として製剤することもできる。そのような長時間作用する製剤は、移植によって(例えば、皮下的に)投与することができる。したがって、例えば、組成物は、適当なポリマーまたは疎水性材料(例えば、許容可能なオイル中の乳剤として)またはイオン交換樹脂を用いるか、または難溶性の誘導体として、例えば、難溶性の塩として製剤され得る。
【0129】
全身経口投与のために製剤された薬学組成物は、薬学的に許容される賦形剤、例えば、結合薬剤(例えば、α化トウモロコシスターチ、ポリビニルピロリドン、またはヒドロキシプロピルメチルセルロース)、充填剤(例えば、ラクトース、マイクロ結晶セルロース、またはリン酸水素カルシウム)、潤滑剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク、またはシリカ)、分解剤(例えば、ポテトスターチ、またはナトリウムスターチグリコレート)、または湿潤剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム)を用いて、従来の手段によって調製される、錠剤またはカプセルの形態を取り得る。錠剤は、当該技術分野においてよく知られている方法によってコーティングされ得る。経口投与のための液体調製物は、例えば、溶液、シロップ、または懸濁液の形態を取ってもよく、またはそれらは、使用する前に、水または他の適当な媒体を有する構成の乾燥生成物として提示され得る。そのような液体調製物は、薬学的に許容される添加剤、例えば、懸濁剤(例えば、ソルビトールシロップ、セルロース誘導体または水素化食用脂)、乳化剤(例えば、レクチンまたはアカシア)、非水性媒体(例えば、アーモンドオイル、油性エステル、エチルアルコール、または画分植物油)および保存剤(例えば、メチルまたはプロピル−p−ヒドロキシベンゾエートまたはソルビン酸)等の薬学的に許容される添加剤とともに、従来の手段によって調製され得る。調製物は、緩衝塩、香味剤、着色剤、および甘味剤を必要に応じて含有してもよい。経口投与のための調製物は、活性化合物の制御放出を付与するために適切に製剤され得る。
【0130】
一部の実施形態において、本明細書に記載される医薬組成物は、上記の方法のうちのいずれかに従って、1つ以上の化合物、および本明細書に記載される方法により得られる1つ以上の細胞を含むことができる。
【0131】
細胞療法
一般に、本明細書に記載の細胞療法の方法は、インビトロで、内耳の成熟細胞型(例えば、有毛細胞)に対するか、またはそれに向かう細胞の完全または部分的分化を促進するように使用することができる。そのような方法から得られる細胞は、そのような処置を必要とする対象に移植または埋め込むことができる。適当な細胞型を同定および選択するための方法、選択した細胞の完全または部分的分化を促進するための方法、完全または部分的に分化した細胞型を同定するための方法、および完全または部分的に分化した細胞を埋め込むための方法を含む、これらの方法を実践するために必要な細胞培養方法は、下記に説明される。
【0132】
細胞選択
本発明における使用に適した標的細胞には、例えば、インビトロで、1つ以上のβ−カテニン調整化合物と接触すると、内耳の成熟細胞、例えば、有毛細胞(例えば、内耳および/または外耳有毛細胞)に完全または部分的に分化することができる細胞が挙げられるが、これらに限定されない。有毛細胞に分化することができる典型的な細胞には、幹細胞(例えば、内耳幹細胞、成体幹細胞、骨髄由来幹細胞、胚性幹細胞、間葉幹細胞、皮膚幹細胞、および脂肪由来幹細胞)、前駆細胞(例えば、内耳前駆細胞)、支持細胞(例えば、ダイテルス細胞、柱細胞、内指節細胞、視蓋細胞、およびヘンゼン細胞)、および/または胚細胞が挙げられるが、これらに限定されない。内耳感覚細胞の代わりに幹細胞を使用することは、例えば、Li et al.,(米国公開第2005/0287127号)およびLi et al.,(米国特許第11/953,797号)において説明されている。内耳感覚細胞の代わりに骨髄由来幹細胞を使用することは、例えば、Edge et al.,国際特許第PCT/US2007/084654号において説明されている。
【0133】
そのような適当な細胞は、1つ以上の組織特異的遺伝子の存在を(例えば、定性的または定量的に)解析することによって同定することができる。例えば、遺伝子の発現は、1つ以上の組織特異的遺伝子のタンパク質産物を検出することによって検出され得る。タンパク質検出技術は、適当な抗原に対する抗体を使用して、(例えば、細胞抽出物または細胞全体を使用して)タンパク質を染色することを含む。この場合、適当な抗原は、組織特異的な遺伝子発現のタンパク質産物である。原則として、第1の抗体(すなわち、抗原を結合する抗体)は標識され得るが、第1の抗体(例えば、抗−IgG)に対して配向された第2の抗体を使用することがより一般的である(かつ視覚化が向上する)。この第2の抗体は、蛍光色素、または比色反応に適当な酵素、または(電子顕微鏡用)ゴールドビーズ、またはビオチン−アビジン系のいずれかと結合して、一次抗体の位置、およびしたがって抗原の位置を認識することができる。
【0134】
組織特異的な遺伝子発現は、遺伝子から転写されるRNAの検出によって解析することもできる。RNAの検出方法は、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応法(RT−PCR)、ノーザンブロット解析、およびRNAse保護解析を含む。
【0135】
幹細胞(例えば、未分化細胞)を同定するように使用され得る、典型的な組織特異的遺伝子は、例えば、ネスチン、sox1、sox2、またはムサシ、NeuroD、Atoh1、およびニューロゲニン1が挙げられるが、これらに限定されない。あるいは、またはさらに、幹細胞は、そのような細胞型がインビトロで提示する固有の特性のうちの1つ以上に基づいて選択することができる。例えば、インビトロで、幹細胞は、単一細胞の増殖によってスフィアを形成する顕著な能力を示す場合が多い。したがって、スフィアの同定および単離は、成熟組織から幹細胞を単離する工程において支援となり得、内耳の分化細胞を形成する際に使用される。例えば、幹細胞は、無血清かつN2およびB27溶液および成長因子を補充したDMEM/高グルコースおよびF12培地(1:1で混合)において培養することができる。成長因子、例えば、EGF、IGF−1、およびbFGFは、培養下のスフィア形成を増補することを示した。
【0136】
前駆細胞および/または内耳前駆細胞(例えば、完全分化または部分的に分化した細胞)を同定するように使用され得る典型的な組織特異的遺伝子には、例えば、ネスチン、sox2、およびムサシに加えて、所定の内耳特異的マーカー遺伝子、例えば、Brn3c、islet1およびPax2が挙げられるが、これらに限定されない。
【0137】
完全に分化した支持細胞を同定するように使用され得る典型的な組織特異的遺伝子には、例えば、p27kip、p75、S100A、Jagged−1、およびProx1が挙げられるが、これらに限定されない。
【0138】
内耳感覚細胞として機能することができる完全に分化した細胞を同定するように使用され得る典型的な組織特異的遺伝子には、例えば、ミオシンVIIa、Math1(Atoh1)、α9アセチルコリン受容体、エスピン、パルブアルブミン3、およびF−アクチン(ファロイジン)を含むが、これらに限定されない。
【0139】
あるいは、またはさらに、完全に分化していると疑われる細胞(例えば、内耳感覚細胞として機能することができる細胞)は、成熟有毛細胞に存在するコンダクタンスチャネルが存在し、活性であるか否かを決定する、生理学的試験を受けてもよい。
【0140】
あるいは、またはさらに、内耳有毛細胞は、らせん神経節に特異的なマーカーの発現を解析することによって、内耳の他の完全に分化した細胞から区別され得(例えば、らせん神経節)、エフリンB2、エフリンB3、trkB、trkC、GATA3、およびBF1が挙げられるが、これらに限定されない。一部の実施形態において、らせん神経節に特異的な1つ以上のマーカーを発現すると同定された細胞、例えば、エフリンB2、エフリンB3、trkB、trkC、GATA3、およびBF1は、単離および除去される。
【0141】
一部の実施形態において、適当な細胞は、哺乳類、例えば、ヒト、マウス、ラット、ブタ、ヒツジ、ヤギ、または非ヒト霊長類に由来し得る。例えば、幹細胞は、マウスの卵形嚢斑から同定および単離された(Li et al.,Nature Medicine :1293−1299,2003)。細胞は、それらが次いで再投与される対象から得ることもできる。
【0142】
一部の実施形態において、標的細胞は、動物の内耳から単離され得る。より具体的には、適当な細胞は、コルチ器の蝸牛、蝸牛軸(中心)、蝸牛のらせん神経節、球形嚢斑の前庭感覚上皮、卵形嚢斑、または半規管の稜から得ることができる。
【0143】
一部の実施形態において、標的細胞は、Atoh1を発現するか、または発現することができる任意の細胞であり得る。一部の実施形態において、標的細胞は、骨髄、血液、皮膚、または眼等の組織から得ることができる。一部の実施形態において、標的細胞は、Atoh1を発現するか、または発現することができる任意の組織、例えば、腸組織、皮膚(例えば、メルケル細胞)、および小脳から得ることができる。
【0144】
一部の実施形態において、標的細胞は、単一の源(例えば、耳または耳内の構造または組織)または源の組み合わせ(例えば、耳および1つ以上の末梢組織(例えば、骨髄、血液、皮膚、または眼))から得ることができる。
【0145】
あるいは、またはさらに、方法は、動物の内耳から組織を得ることを含み、組織は、卵形嚢斑の少なくとも一部を含む。動物は、哺乳類、例えば、マウス、ラット、ブタ、ウサギ、ヤギ、ウマ、ウシ、イヌ、ネコ、霊長類、またはヒトであり得る。単離された組織は、中性緩衝液、例えば、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に懸濁させ、続いて、組織消化酵素(例えば、トリプシン、ロイペプチン、キモトリプシン等)または酵素の組み合わせ、あるいは機械的(例えば、物理的)力、例えば、滴定に暴露して、組織を小片に破壊することができる。あるいは、またはさらに、組織破壊の両機序を使用することができる。例えば、組織は、約0.05%酵素(例えば、約0.001%、0.01%、0.03%、0.07%、または1.0%の酵素)中で、約5、10、15、20、または30分間培養することができ、培養に続いて、細胞は、機械的に破壊され得る。破壊された組織は、分化細胞または細胞残屑から幹細胞または前駆細胞を分離する、フィルタまたはボアピペット等の装置を通過し得る。細胞の分離は、孔のサイズが漸減する一連のフィルタを細胞が通過することを含み得る。例えば、フィルタの孔のサイズは、約80μm以下、約70μm以下、約60μm以下、約50μm以下、約40μm以下、約30μm以下、約35μm以下、約20μm以下の範囲であり得る。
【0146】
得られる細胞は、幹細胞および/または前駆細胞の濃縮集団を構成し得、すべての(または実質的にすべての)分化細胞または組織内の他の細胞物質からの単離が達成され得るが、「単離される」という定義を満たす必要はない。絶対純度は必要とされない。本発明は、本明細書に記載される単離手順によって得られる細胞を包含する。細胞は、抗凍結剤と混合されて保管されるか、またはキットにまとめられてもよい。入手した後、幹細胞および/または前駆細胞は、培地において拡大させることができる。
【0147】
混合した細胞集団が使用される場合、試験集団内の幹細胞の割合は異なり得る。例えば、集団は、幹細胞をほとんど含まないか(例えば、約1〜10%)、適度な割合の幹細胞(例えば、約10〜90%(例えば、約20%、25%、30%、40%、50%、60%、70%、75%、80%、または85%幹細胞))または多くの幹細胞(例えば、集団の少なくとも90%(例えば、92%、94%、96%、97%、98%、または99%)が幹細胞であり得る)を含有し得る。細胞は、内耳の完全または部分的に分化した細胞に分化する能力を有する(例えば、細胞は、1つ以上の聴覚タンパク質を発現する細胞に分化する、多能性幹細胞であり得る)。部分的に分化した細胞は、それらが十分な数および種類の聴覚特異的タンパク質を発現して、対象に利益を付与する限り(例えば、聴覚の改善)、(処置的または予防的に関わらず)処置方法において有用である。
【0148】
分化方法
一般に、分化は、適当な標的細胞および/または細胞集団を、内耳の成熟感覚細胞、例えば、有毛細胞に対するか、またはそれに向かう標的細胞の完全または部分変換(例えば、分化)を促進させるのに十分な時間の間、1つ以上のβ−カテニン調節化合物と接触させることによって促進させることができる。
【0149】
例えば、上記の方法に従って同定される適当な標的細胞は、インビトロで培養することができる。一般に、本明細書に記載の方法では、標準的な培養方法が使用される。適当な培養培地は、当該技術分野において、Li et al.Nature Medicine :1293−1299,2003等において説明されている。培養した幹細胞の成長培地は、1つ以上の成長因子または任意の組み合わせを含有し得る。例えば、成長培地は、白血病阻害因子(LIF)を含むことができ、幹細胞が分化することを防ぐ。
【0150】
標的細胞は、培養皿の個別ウェルに分離して、培養することができる。単離した細胞からのスフィアの形成(クローン浮遊コロニー)は監視することができ、スフィアは、それらを破壊することによって(例えば、物理的手段によって)増幅させて、細胞を分離することができ、細胞は、追加のスフィアを形成するように再度培養することができる。そのような培養細胞を、次いで、1つ以上のβ−カテニン調整化合物と接触させることができる。
【0151】
あるいは、またはさらに、標的細胞は、追加の誘導プロトコールと組み合わせて、1つ以上のβ−カテニン調整化合物と接触させてもよい。当該技術分野において知られている、神経性能力を有する幹細胞の神経前駆細胞への分化を誘導するための多数の誘導プロトコールが存在し、成長因子の処置(例えば、本明細書に記載されるようなEGF、FGF、およびIGFによる処置)およびニューロトロフィン処置(例えば、本明細書に記載されるようなNT3およびBDNFによる処置)を含む。他の分化プロトコールは、当該技術分野において知られており、例えば、Corrales et al.,J.Neurobiol.66(13):1489−500(2006)、Kim et al.,Nature 418,50−6(2002)、Lee et al.,Nat Biotechnol 18,675−9(2000)、およびLi et al.,Nat Biotechnol.,23,215−21(2005)を参照されたい。
【0152】
追加の誘導プロトコールの一実施例として、標的細胞は、補足的成長因子の存在下で成長し、前駆細胞への分化を誘導する。これらの補足的成長因子は、培地に添加される。補足的成長因子の型および濃度を調整して、細胞の成長特性を調節し(例えば、細胞を刺激または感作して分化させる)、ニューロン、グリア細胞、支持細胞、または有毛細胞等の分化細胞の生存を許可する。
【0153】
典型的な補足的成長因子には、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、インスリン様成長因子(IGF)、および上皮成長因子(EGF)が挙げられるが、これらに限定されない。あるいは、補足的成長因子は、神経栄養因子ニュートロフィン3(NT3)および脳由来の神経栄養因子(BDNF)を含み得る。成長因子の濃度は、約100ng/mL〜約0.5ng/mLの範囲内であり得る(例えば、約80ng/mL〜約3ng/mL、例えば、約60ng/mL、約50ng/mL、約40ng/mL、約30ng/mL、約20ng/mL、約10ng/mL、または約5ng/mL)。
【0154】
あるいは、またはさらに、培地は、成長因子の欠失した培地と交換することができる。例えば、培地は、N2およびB27溶液を補充した無血清DMEM/高グルコースおよびF12培地(1:1で混合)であってもよい。同等の代替培地および栄養素を使用することもできる。培養条件は、当該技術分野において知られている方法を使用して、最適化することができる。
【0155】
完全または部分的な分化を解析するための方法
1つ以上のβ−カテニン調整化合物と接触した標的細胞を解析して、完全または部分的な分化が起こったか否かを決定することができる。そのような決定は、上記のとおり、組織特異的遺伝子の存在または非存在を解析することによって行うことができる(細胞選択を参照)。あるいは、またはさらに、有毛細胞を生理学的試験によって同定して、細胞が、成熟有毛またはらせん神経節細胞に特徴的なコンダクタンスチャネルを生成するか否かを決定することができる。そのような細胞は、上記のマーカーを使用して、らせん神経節細胞から区別することができる。
【0156】
二次解析を使用して、細胞が内耳細胞に分化したことを確認するか、または追加の証拠を提供することができる。例えば、内耳の細胞を同定するためのマーカーとして有用な遺伝子は、特定の細胞型で排他的(例えば、有毛細胞において排他的であるか、またはらせん神経節の細胞において排他的)に発現され得るか、または細胞は、いくつかの他の細胞型で発現されてもよい(好ましくは、多くても1つ、2つ、3つ、4つ、または5つの他の細胞型)。例えば、エフリンB1およびエフリンB2は、らせん神経節細胞、および網膜細胞においても発現する。したがって、エフリンB1またはエフリンB2の発現は、幹細胞がらせん神経節の細胞に分化したことを明確には証明しない。二次解析を使用して、細胞がらせん神経節の細胞に発生したことを確認することができる。そのような解析は、疑わしい細胞型で発現することが知られている複数の遺伝子の検出を含む。例えば、エフリンB1および/またはエフリンB2を発現する細胞は、GATA3、trkB、trkC、BF1、FGF10、FGF3、CSP、GFAP、およびIslet1のうちの1つ以上の発現に関して解析することもできる。これらの追加遺伝子が発現するという決定は、幹細胞がらせん神経節細胞に分化したことの追加の証拠である。
【0157】
二次解析は、遺伝子発現の非存在、または有毛細胞において通常は発現しないタンパク質の非存在の検出も含む。そのようなネガティブマーカーは、パン−サイトケラチン遺伝子を含み、これは、成熟有毛細胞において発現されないが、内耳の支持細胞において発現する(Li et al.,Nature Medicine :1293−1299,2003)。
【0158】
内耳感覚細胞、例えば、有毛細胞に向かう完全または部分的な分化を経たことが確認される細胞は、対象に移植するか、または埋め込むことができる。
【0159】
移植方法
例えば、上記の方法によって作製される部分的および/または完全に分化した細胞は、注射によって、細胞懸濁の形態で内耳、例えば蝸牛の内腔に移植するか、または埋め込むことができる。注射は、例えば、耳の正円窓を通じて、または蝸牛を取り囲む骨性カプセルを通じて行うことができる。細胞は、正円窓を通じて、内部聴覚耳道における聴覚神経幹または鼓室階に注射することができる。
【0160】
移植または埋め込まれた細胞の生着能力を向上させるために、分化に先立って、細胞を修飾することができる。例えば、細胞は、前駆体または分化した細胞において、1つ以上の抗アポトーシス遺伝子を過剰発現するように設計することができる。FakチロシンキナーゼまたはAkt遺伝子は、この目的で有用であり得る抗アポトーシス遺伝子の候補であり、FAKまたはAktの過剰発現は、らせん神経節細胞における細胞死を回避し、別の組織、例えば、外植されたコルチ器に移植される場合に生着を促す(例えば、Mangi et al.,Nat.Med.:1195−201,2003を参照)。インテグリンは、ラミニン基質上のらせん神経節ニューロンからの神経突起の伸長を媒介することが示されているため、αβインテグリンを過剰発現する神経前駆細胞は、組織の外植への神経突起を伸長させる高い能力を有し得る(Aletsee et al.,Audiol.Neurootol.:57−65,2001)。別の実施例において、エフリンB2およびエフリンB3の発現を、例えば、RNAiによるサイレンシングまたは外因性発現したcDNAによる過剰発現によって改変し、EphA4シグナル伝達事象を修飾することができる。らせん神経節ニューロンは、エフリンB2およびB3の細胞表面発現によって媒介される、EphA4からの信号によってガイドされることが示されている(Brors et al.,J.Comp.Neurol.462:90−100,2003)。このガイダンス信号の不活性化は、成体内耳におけるそれらの標的に到達するニューロンの数を増強し得る。外因性因子、例えば、ニューロトロフィンBDNFおよびNT3、およびLIFを組織移植片に添加して、神経突起の伸長および標的組織に向かうそれらの成長をインビボおよびエクスビボ組織培地において増強することができる。感覚神経の神経突起の伸長は、ニューロトロフィン(BDNF,NT3)およびLIFの添加によって増強することができる(Gillespie et al.,NeuroReport 12:275−279,2001)。
【0161】
一部の実施形態において、本明細書に記載の細胞は、例えば、Edge et al.,(米国公開第2007/0093878号)において説明されるように、人工内耳において使用することができる。人工内耳は、難聴、特に重度〜深刻な難聴を経験したヒトの聴覚を向上させるために使用される電子装置である。これらの装置は、通常、「外部」および「内部」部品を含む。外部部品は、耳の後ろに配置され得るマイクを含み、環境における音を検出する。次いで、音は、スピーチプロセッサと呼ばれる小型のコンピュータによってデジタル化および処理される。外部部品は、プロセッサユニットと称され得る。マイクおよびスピーチプロセッサに加えて、移植片の外部は、バッテリ等の電源、および外部アンテナトランスミッタコイルを含むことができる。内部部品は、耳辺の皮膚の下に配置される電子装置であり、一般に、刺激装置/受信装置と称される(図1を参照)。スピーチプロセッサによってコードされた信号出力は、被移植者の側頭骨の窪み内に埋め込まれた刺激装置/受信装置に経皮的に伝送される。この経皮伝送は、刺激装置/受信装置とともに提供される埋め込み型アンテナ受信器コイルと通信するように位置付けられる、外部アンテナトランスミッタコイルの間に提供される誘導結合の使用を通じて発生する。通信は、通常、無線周波(RF)リンクによって提供されるが、他のそのようなリンクが提案および実装されており、成功の程度は異なる。
【0162】
埋め込まれた刺激装置/受信装置は、通常、コードされた信号および外部プロセッサ構成要素からの電力を受信するアンテナ受信器コイルと、コードされた信号を処理し、刺激信号を電極アセンブリに出力する刺激装置と、を含み、電気刺激を直接聴覚神経に印加して、元の検出音に対応する聴覚を生成する。
【0163】
電子装置に接続される電極は、内耳に挿入される。電極は、蝸牛の長さに沿ってオープン接点スプレッドを有するワイヤ束であり得、異なる周波数の音を表す。電極の数は、1〜約30電極まで異なり得、例えば、約5、10、15、18、20、22、24、26、または28電極である。
【0164】
複合療法
一部の実施形態において、本発明は、上記の直接投与および細胞療法の方法を使用して、1つ以上の化合物により対象を処置するための方法を提供する。
【0165】
有効用量
本明細書に記載の化合物および医薬組成物の毒性および治療有用性は、標準的な薬学手順によって決定することができ、培地または実験動物における細胞のいずれかを使用して、LD50(集団の50%に致死的な用量)およびED50(集団の50%において治療上有効な用量)を決定する。毒性と治療効果の間の用量比は、治療インデックスであり、LD50/ED50の比として表すことができる。ポリペプチドまたは大きい治療インデックスを呈する他の化合物が好ましい。
【0166】
細胞培養解析およびさらなる動物研究から得られたデータを、ヒトにおいて使用するための用量範囲を形成する際に使用することができる。そのような化合物の用量は、毒性がほとんどまたは全くない、およびヒトの聴覚に悪影響をほとんどまたは全く及ぼさないED50を含む、循環濃度の範囲内にあることが好ましい。用量は、用いられる用量形態および利用される投与経路に応じて、この範囲内で異なり得る。本明細書に記載される方法において使用される任意の化合物の場合、治療上有効な用量は、最初に細胞培養解析から推定することができる。用量は、動物モデルにおいて、細胞培養において決定されるように、IC50を含む循環血漿濃度範囲(つまり、症状の半最大阻害を達成する試験化合物の濃度)を達成するように調整することができる。そのような情報を使用して、ヒトにおいて有用な用量をより正確に決定することができる。典型的な分化剤の用量は、少なくとも約0.01〜3000mg/日であり、例えば、少なくとも約0.00001、0.0001、0.001、0.01、0.1、1、2、5、10、25、50、100、200、500、1000、2000、または3000mg/kg/日、あるいはそれ以上である。
【0167】
製剤および投与経路は、処置されている疾患または障害に対して、かつ処置されている特定のヒトに対して調整することができる。対象は、1週間、1ヶ月、6ヶ月、1年、またはそれ以上に1回または2回、あるいはそれ以上、1用量の薬剤を受けることができる。処置は、例えば、ヒトの生涯を通じて、無制限に継続することができる。処置は、定期的または不定期的な感覚で投与され得(1日おきに1回または1週間に2回)、用量および投与のタイミングは、処置の工程を通じて調整することができる。用量は、処置レジメンの工程に渡って一貫していてもよく、または処置の工程にわたって減少または増加させることができる。
【0168】
概して、用量は、望ましくない副作用、例えば、毒性、刺激、またはアレルギー反応なしに、予防および処置の両方に対して意図される目的を助長する。個別のニーズは異なり得るが、製剤の有効量に関する最適範囲の決定は、当該技術分野の範囲である。ヒトの用量は、動物研究から容易に推定することができる(Katocs et al.,Chapter 27 In:Remington's Pharmaceutical Sciences,18th Ed.,Gennaro,ed.,Mack Publishing Co.,Easton,Pa.,1990)。概して、有効量の製剤を提供するために必要な用量は、当業者によって調整することができ、受益者の年齢、健康、身体状態、体重、体型、疾患または障害の程度、処置頻度、同時療法の性質を含む複数の因子、および必要に応じて、望ましい効果の性質および範囲に応じて変更する(Nies et al.,Chapter 3,In: Goodman & Gilman's ″The Pharmacological Basis of Therapeutics″,9th Ed.,Hardman et al.,eds.,McGraw−Hill,New York,N.Y.,1996)。
【0169】
スクリーニングの方法
一部の実施形態において、化合物候補は、標的細胞においてβ−カテニンレベル(例えば、タンパク質レベル)および/または活性(例えば、生物活性)を増加させる能力、β−カテニンレポーター構築物を発現するように設計された細胞(例えば、幹細胞)を使用して、標的細胞の核において、β−カテニンのレベル(例えば、タンパク質レベル)および/または活性(例えば、生物活性)の増加を促進する能力を試験することができる。これらの設計された細胞が、レポーター細胞株を形成する。レポーター構築物は、(1)発現が間接的または直接的に検出および/または解析される任意の遺伝子または核酸配列、および(2)β−カテニンレポーター配列(例えば、発現がβ−カテニンの活性または発現と特異的に関連付けられる任意の核酸配列)を含み、(2)は(1)に対して動作可能に結合され、(2)が(1)の発現を駆動するようにする。(1)の実施例には、限定なしに、緑色蛍光タンパク質(GFP)、α−グルクロニダーゼ(GUS)、ルシフェラーゼ、クロラムフェニコールトランスアセチラーゼ(CAT)、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)、アルカリホスファターゼ、アセチルコリンエステラーゼおよびβ−ガラクトシダーゼが挙げられる。タンパク質対が顕著な波長で蛍光を発するという条件で、他の任意の蛍光レポーター遺伝子には、赤色蛍光タンパク質(RFP)、シアン蛍光タンパク質(CFP)、および青色蛍光タンパク質(BFP)、または任意の対になったそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。β−カテニンレポーター配列の実施例には、β−カテニン転写結合配列が挙げられる(例えば、β−カテニンによって結合され得る(例えば、特異的に結合される)核酸配列、配列に対するβ−カテニンの結合は、配列の発現を調整する(例えば、β−カテニンによって結合され得るプロモーター配列))。一部の実施形態において、化合物候補は、TOPflash遺伝子レポーターシステム(Chemicon)を使用して評価することができる。
【0170】
あるいは、またはさらに、レポーター遺伝子は、幹細胞内ではなく、内耳の細胞内で活性である、プロモーターの制御下にあり得、異なる分化の程度で前駆細胞および細胞を含む。そのような場合において、理想的には、プロモーターは、分化細胞または前駆細胞内で安定して上方調節され、部分的または完全に分化した発現型の評価(例えば、レポーター遺伝子の発現および内耳で発現することが知られている遺伝子のさらなる同定)を可能にする。
【0171】
β−カテニンのレベルおよび/または活性を評価するための方法
標的細胞および/または標的細胞の核において、β−カテニンレベル(例えば、タンパク質レベル)および/または活性(例えば、生物活性)は、ウエスタンブロット法、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応、免疫細胞化学、および遺伝子レポーターアッセイ等の標準的な方法を使用して評価することができ、それぞれの実施例は、本明細書で提供される。標的細胞および/または標的細胞の核におけるβ−カテニンレベル(例えば、タンパク質レベル)および/または活性(例えば、生物活性)のレベルは、第1のサンプルまたは第2のサンプルにおいてβ−カテニンレベルおよび/または活性を有する標準を比較することによって、例えば、β−カテニンのレベルおよび/または活性を増加させることが予想される方法または組成物を使用してサンプルを処理した後に、評価することができる。
【0172】
キット
本明細書に記載の化合物および医薬組成物は、分化するように誘導された細胞(例えば、有毛細胞または毛様細胞に分化した幹細胞、前駆細胞、および/または支持細胞)および/または有毛細胞に分化することができる缶細胞として、キットで提供され得る。キットは、本明細書に記載される化合物、薬学組成物、および細胞の組み合わせも含み得る。キットは、(a)例えば、化合物を含む組成物中の1つ以上の化合物、(b)分化するように誘導された細胞(例えば、有毛細胞または毛様細胞に分化した幹細胞、前駆細胞、および/または支持細胞)および/または有毛細胞に分化することができる細胞、(c)情報資料、および(a)−(c)の任意の組み合わせを含み得る。情報資料は、記述的、指示的、マーケティングであり得るか、または本明細書に記載の方法および/または本明細書に記載の方法のための薬剤の使用に関連する他の資料であり得る。例えば、情報資料は、聴覚有毛細胞の欠損を有するか、または発症する危険性がある対象を処置するための化合物の使用に関する。キットは、1つ以上の化合物を細胞に(培地中またはインビボで)投与するための道具、および/または細胞を患者に投与するための道具、および本明細書に記載される方法の任意の組み合わせも含み得る。
【0173】
一実施形態において、情報資料は、例えば、適当な用量、製剤、または投与モード(例えば、本明細書に記載される用量、製剤、または投与モード)で、ヒトを処置するために医薬組成物および/または細胞を適当な方法で投与するための指示を含み得る。別の実施形態において、情報資料は、医薬組成物を適当な対象、例えば、ヒト、例えば、聴覚有毛細胞の欠損を有するか、または発症する危険性があるヒトに投与するための指示を含み得る。
【0174】
キットの情報資料は、その形態に限定されない。多くの場合において、情報資料(例えば、指示)は、印刷された物体、例えば、印刷されたテキスト、図面、および/または写真、例えば、ラベルまたはプリントシート等で提供される。しかしながら、情報資料は、他のフォーマット、例えば、点字、コンピュータ可読資料、ビデオ記録、または聴覚記録でも提供される。当然のことながら、情報資料は、フォーマットの任意の組み合わせで提供されてもよい。
【0175】
化合物に加えて、キットの組成物は、他の材料、例えば、溶媒または緩衝液、安定剤、保存剤、芳香剤または他の審美材料、および/または本明細書に記載される状態または疾患を処置するための第2の薬剤を含み得る。あるいは、他の材料は、キットに含まれ得るが、化合物とは異なる組成物または容器に含まれる。そのような実施形態において、キットは、薬剤および他の材料を混合するため、または1つ以上の化合物を他の材料と併せて使用するための指示を含み得る。
【0176】
キットは、医薬組成物のための1つ以上の容器を含み得る。一部の実施形態において、キットは、組成物および情報資料のための別個の容器、分割器、またはコンパートメントを含む。例えば、組成物は、ボトル(例えば、滴を耳に投与するためのスポイトボトル)、バイアル、またはシリンジに含めることができ、情報資料は、プラスチックスリーブまたはパックに含まれ得る。他の実施形態において、キットの別個の要素は、単一の分割されていない容器内に含まれる。例えば、組成物は、ラベルの形態で情報資料をそこに添付したボトル、バイアル、またはシリンジに含まれる。一部の実施形態において、キットは、複数(例えば、1パック)の個別の容器を含み、それぞれ1つ以上の単位用量形態の医薬組成物(例えば、本明細書に記載される製剤)を含む。例えば、キットは、複数のシリンジ、アンプル、ホイルパケットを含み得、それぞれ単位用量形態の医薬組成物を含む。キットの容器は、気密および/または防水であり得、容器は、特定用途のためにラベルを付けることができる。例えば、コンテナは、聴覚障害を処置する目的で使用するためにラベル付けされ得る。
【0177】
上記のとおり、キットは、任意で、組成物の投与に適した装置(例えば、シリンジ、ピペット、鉗子、スポイト(例えば、点耳スポイト)、スワブ(例えば、綿スワブまたは木製スワブ)、または任意のそのような送達装置)を含む。
【実施例】
【0178】
実施例
本発明は、下記の実施例においてさらに説明され、これは請求項において説明される本発明の範囲を制限しない。
【0179】
アデノウイルスライブラリを用いて、多数の遺伝子がAtoh1の発現に及ぼす影響を試験した。本方法により得られた予備データは、β−カテニンが、Atoh1の発現を調整したことを示した。これらの発見を確認および特徴付けるために、β−カテニンは、後次の実施例において説明されるように、様々なヒトおよび非ヒト細胞株および動物モデルにおいて発現した。
【0180】
実施例1:β−カテニンは、ヒト細胞においてAtoh1mRNAの発現を調整する
ヒト胚腎臓(HEK)細胞およびヒトの腸上皮細胞株HT29(ヒト大腸腺癌グレードII細胞株)を、標準的な細胞培養方法を使用して、10%熱不活性化ウシ胎仔血清(FCS)、2mM グルタマックス、ペニシリン(50U/mL)、およびストレプトマイシン(50μg/mL)を補充した、ダルベッコ改変イーグルス培地(Dulbecco's Modified Eagles Medium(DMEM))を含む培地において維持した。β−カテニンの過剰発現実験の場合、10HEKおよびHT29細胞を、10cmディッシュごとに播種した。
【0181】
上述のとおり播種したHEKおよびHT29細胞を、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーターの制御下にあるβ−カテニンをコードする5μgのpcDNA3(Invitrogen)でトランスフェクトすることによって、β−カテニンの過剰発現を達成した(Michiels et al.,Nature Biotechnology,20:1154−1157,2002)。ネガティブコントロール細胞は、非トランスフェクト細胞およびCMVプロモーターの制御下、5μgの緑色蛍光タンパク質でトランスフェクトした細胞を含んでいた(GFP:Michiels et al.,上記)。ポジティブコントロール細胞は、CMVプロモーターの制御下、5μgのAtoh1でトランスフェクトされた(Lumpkin et al.,Gene Expr.Patterns,:389−395,2003)。すべてのトランスフェクションは、製造者の指示(Invitrogen)に従って、15μLのリポフェクトアミン3 2000を使用して、4時間行った。4時間が経過した時点で、トランスフェクション溶液を培地と置き換えた。次いで、細胞を計24時間培養した後、RNeasyミニキットを使用し、製造者の指示(Qiagen)に従ってRNAの抽出を行った。次いで、SuperTranscript3 IIIおよびTaq DNAポリメラーゼを使用し、製造者の指示に従って(New England Biolabs)、下記のプライマー対を使用して、1μgのRNAを、逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応に供した。
【表1】

【0182】
各プライマー対について、アニーリング温度およびサイクルを最適化した。上記Atoh1およびGAPDHプライマー対から得られたポリメラーゼ連鎖反応(PCR)産物は、それぞれ479ベース対(bp)および287bpであった。PCR産物を溶解し、アガロースゲル電気泳動によって解析した。
【0183】
図1Aおよび1Bに示されるとおり、β−カテニンの発現は、それぞれHEKおよびHT29におけるAtoh1 mRNAの発現の増加を促進し、これは、各細胞株において、ポジティブコントロールとして、Atoh1でトランスフェクトされた細胞によって促進される増加と類似していた。対照的に、非トランスフェクト細胞およびGFPでトランスフェクトされた細胞は、Atoh1 mRNAの発現の増加を示さなかった。
【0184】
図1において認められるAtoh1の上方調節を、リアルタイムPCR(RT−PCR)を使用してHEK細胞内で定量した。簡潔には、上記のとおり細胞を培養し、トランスフェクトした。Applied BiosystemsからRT−PCRプライマーAtoh1およびS18を購入し、Perkin Elmer ABI PRISM3 7700配列検出器(PE Applied Biosystems)を用いてRT−PCRを行った。2つの独立した実験を3回行い、Atoh1の発現を、ハウスキーピング遺伝子S18の発現に対する平均値として示した。
【0185】
図1Bに示されるとおり、Atoh1の発現は、未処理のコントロール細胞と比較して、HEK細胞内で36.02±4.46倍増加した。
【0186】
同様の実験をまた、神経前駆細胞を用いて行った。
【0187】
ROSA26マウス胚性幹細胞(Zambrowicz et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,94:3789−3794,1997)を用いて、Li et al.(BMC Neurosci,10:122,2009)に記載された方法により神経前駆細胞を得た。上記のとおりβ−カテニンを過剰発現させた。
【0188】
β−カテニンの過剰発現後に、上記したSuperTranscript3 IIIおよびTaq DNAポリメラーゼ(New England Biolabs)を用いて1μgのRNAをRT−PCRに供することにより、Atoh1およびβ−カテニンレベルを決定した。GAPDHレベルを、コントロールとして評価した。下記のオリゴヌクレオチドプライマーを用いて、各マーカーのレベルを評価した。
【表2】

【0189】
図1Cおよび1Dに示されるとおり、Atoh1 mRNAの発現は、非トランスフェクトコントロール細胞またはGFPでトランスフェクトされた細胞と比較して、β−カテニンの発現(741.2±218.2)後に神経前駆細胞において上方調節された(1±0.2)。予期されたとおり、Atoh1の発現はまた、Atoh1によるトランスフェクション後に増加した。
【0190】
これらの観察は、β−カテニンがヒト細胞株におけるAtoh1 mRNAの発現を増加させることを示す。
【0191】
実施例2:β−カテニンは、ヒト細胞においてAtoh1タンパク質の発現を調整する
実施例1において示されるとおりにトランスフェクトされたHEK細胞において、Atoh1タンパク質の発現を解析した。トランスフェクション後、細胞を72時間培養した。次いで、タンパク質を4−12% nuPAGE(登録商標)Bis−Trisゲル(Invitrogen)上で分離(resolved)し、0.2μmのニトロセルロース膜(BioRad)に移した。次いで、該膜をマウス抗Atoh1抗体(Developmental Studies Hybridomaバンク)で、その後にHRP共役抗マウス抗体(Sigma)でイムノブロットした。製造者の指示(Amersham Pharmacia)に従って、ECL3を用いてイムノブロットを処理した。
【0192】
図3に示されるとおり、Atoh1は、非トランスフェクトコントロールHEK細胞またはGFPトランスフェクト細胞において検出されなかった。対照的に、Atoh1は、β−カテニンおよびAtoh1でトランスフェクトされたHEK細胞において検出可能であった。
【0193】
これらの観察は、β−カテニンが、ヒト細胞株において、Atoh1タンパク質の発現を増加させることを示す。Atoh1の発現はまた、Atoh1によるトランスフェクション後に、おそらくはAtoh1自己フィードバックループを介する内因性Atoh1の活性化のために増加した(Helms et al.,Development,127:1185−1196,2000)。
【0194】
実施例3:β−カテニンは、マウス細胞においてAtoh1 mRNAの発現を調整する
マウスNeuro2a細胞およびマウスES細胞(mES)に由来するマウス神経前駆細胞を、実施例1において示されるとおりに培養およびトランスフェクトした。PCRおよび下記のプライマー対を用いて、Atoh1およびGAPDH mRNAを増幅させた。
【表3】

【0195】
各プライマー対について、アニーリング温度およびサイクルを最適化した。上記Atoh1およびGAPDHプライマー対から得られたポリメラーゼ連鎖反応(PCR)産物は、それぞれ479ベース対(bp)および287bpであった。PCR産物を溶解し、アガロースゲル電気泳動によって解析した。
【0196】
図4Aおよび4Bに示されるとおり、β−カテニンの発現は、それぞれNeuro2aおよびmES細胞におけるAtoh1 mRNAの発現の増加を促進した。この増加は、両細胞株におけるポジティブコントロールとしてAtoh1でトランスフェクトされた細胞によって促進される増加と類似していた。対照的に、非トランスフェクト細胞およびGFPトランスフェクト細胞は、Atoh1 mRNAの発現の増加を示さなかった。
【0197】
実施例1において示されるとおり、リアルタイムPCR(RT−PCR)を用いて、図4において観察されるAtoh1の上方調節をNeuro2a細胞において定量した。
【0198】
図5に示されるとおり、Atoh1の発現は、未処理のコントロール細胞と比較して、Neuro2a細胞内で871.86±141.31倍増加した。
【0199】
Neuro2aデータは、図1Cおよび1Dに示されるとおりである。
【0200】
これらの観察は、β−カテニンが、マウス細胞株において、Atoh1 mRNAの発現を増加させることを示す。
【0201】
実施例1〜3に示されるデータは、遺伝子サイレンシングを用いて確証された。簡潔には、下記に示されるとおり、Atoh1(NM_007500.4、NM_005172.1)およびβ−カテニン(NM_007614.2およびNM_001904.3)を抑制するようなsiRNA設計した:
【表4】

【0202】
GeneSilencer3トランスフェクション試薬を5μL/mLで用いて、200nMの各siRNAをトランスフェクトした。トランスフェクションミックスの存在下で16時間細胞を培養し、計48時間後に回収した。非標的siRNAを、コントロールとして使用した。RT−PCRを用いて、遺伝子サイレンシングを確認した。上記の方法を用いて、細胞をまた、Atoh1、β−カテニン、またはGFPでトランスフェクトした。
【0203】
図1EおよびFに示されるとおり、Atoh1の発現は、神経前駆細胞(実施例2を参照)およびNeuro2aの両方において、Atoh1およびβ−カテニンを標的とするsiRNAにより減少した(Atoh1 siRNAの存在下でのAtoh1の発現は、約45%減少し、β−カテニンの存在下でのAtoh1の発現は、約40%減少した)。β−カテニンはまた、試験されたすべての細胞型において、β−カテニンの発現レベルも抑制した。
【0204】
β−カテニンとAtoh1との間の相関をまた、遺伝学的レポーターアッセイを用いて確証した。簡潔には、トランスフェクションの1日前に、10Neuro2a細胞を、24ウェルプレートに播種した。0.125μgのAtoh1−ルシフェラーゼレポーター構築物および0.125μgのCBFI−ルシフェラーゼレポーター構築物(Hseih et al.,Mol.Cell.Biol.,16(3):952−959,1996)TOPFlashまたはFOPFlas(Addgene)または0.125μgのRenilla−ルシフェラーゼを、0.125mLのopti−MEM中、0.25μgのβ−カテニンおよび0.5μLリポフェクトアミン2000の存在または非存在下で混合した。次いで、このトランスフェクション混合物を、細胞上で4時間培養した。48時間後に細胞を溶解し、TD−20/20照度計(Turner Designs)におけるデュアルルシフェラーゼレポーターアッセイシステム(Promega)を使用して、ルシフェラーゼ活性を測定した。
【0205】
図1GおよびHに示されるとおり、TOPFlashのレポーター活性は(複数のβ−カテニン結合部位を含む)、Atoh1レポーターのレポーター活性に匹敵し、これは、Atoh1がβ−カテニンによって調節されることを示す(図1G)。増加したβ−カテニンの発現はまた、非リン酸化形態に特異的に結合する抗体を用いて検出されたとおり、核β−カテニンの活性画分のレベルを上昇させた(図1H)(非リン酸化β−カテニンは、van Noort et al.,Blood,110(7):2778−2779,2007によって開示される抗非リン酸化β−カテニン抗体を使用して検出された)。
【0206】
核非リン酸化β−カテニンおよびAtoh1のレベルはまた、細胞がWnt3a馴化培地において培養される場合に増加した。対照的に、β−カテニン結合部位が欠落している優性阻害Tcf4の過剰発現は、Atoh1のレベルを減少させた。
【0207】
実施例4:β−カテニンは、Atoh1エンハンサー領域と直接相互作用する
β−カテニンがTcf−Lef因子との組み合わせでAtoh1遺伝子の制御領域と直接相互作用するか否かを調べるために、クロマチン免疫沈降(ChIP)を用いてβ−カテニンに結合するDNAを解析した。
【0208】
10HEK細胞を、1%ホルムアルデヒドを含有するDMEMで10分間、その後、0.125Mグリシンで飽和したホルムアルデヒドを用いて37℃で5分間架橋した。架橋した細胞を回収し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄し、冷却PBS中、160g、4℃で5分間、遠心分離した。次いで、サンプルを超音波処理緩衝液(1%Triton(登録商標)X−100,0.1%デオキシコール酸塩、50mM Tris pH8.1、150mM NaCl、5mM エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、2mM フッ化フェニルメタンスルホニル(PMSF)に再懸濁し、フレッシュプロテイナーゼ阻害剤カクテル(Sigma)とゲノムDNAの1:100希釈液を、超音波バス中で、15パルス(5秒/パルス)を用いて剪断した。細胞抽出物をペレット化し、フレッシュプロテイナーゼ阻害剤(Sigma)を補充した1mlの放射免疫沈降測定(RIPA)緩衝液に再懸濁させた。次いで、各サンプルを1つの200μLアリコートと2つの400μLアリコートに分離した。200μLアリコートは、免疫沈降に供さず、次のPCR反応のための入力制御としてそれを用いた(インプット)。第1の400μLアリコートを、マウス抗−βカテニン抗体(Upstate,05−601)を一次抗体(1:100の希釈)として使用し、免疫沈降させた。第2の400μLアリコートを、非免疫IgGを一次抗体として1:6000の濃度で使用し、免疫沈降させた(Sigma,M5905)。免疫沈降は、一次抗体を使用して、4℃で16時間行われた。次いで、プロテイン質Aアガロース(Amersham Pharmacia)および2μLニシン精子DNA(10mg/mL)をサンプルに2時間添加した。次いで、免疫沈降物を洗浄し、65℃で3分間、RIPA緩衝液中で加熱した。DNAを免疫沈降物から回収し、エタノール沈降およびフェノール抽出を使用して入力した。PCRおよび下記のプライマー対を用いて、Atoh1エンハンサーDNAを増幅させた。
【表5】

【0209】
次いで、アガロースゲル電気泳動法を用いてサンプルを解析した。図6に示されるとおり、Atoh1エンハンサーDNAは、β−カテニンが沈降したサンプルおよびインプットサンプルで検出された。Atoh1エンハンサーDNAは、非免疫IgGで免疫沈降したコントロールクロマチンから増幅されなかった。これらの観察は、β−カテニンがAtoh1エンハンサーに直接結合することを示す。
【0210】
Neuro2a細胞を使用して、同様のクロマチン免疫沈降実験をまた行った。該方法は、回収した細胞を、720g、4℃で10分間、ペレット化したことを除いて、上記のとおりである。次いで、Dounceホモジナイザーを用いて、タンパク質分解酵素阻害剤を含有するPBS(上記参照)中に核を放出し、2400gの遠心分離によって4℃で回収した。ChIP−IT3Expressキット(Active Motif)からの酵素カクテルを用いて、37℃で10分間、核を処理した後、遠心分離(8,000g、4℃、10分間)により、上清から剪断したクロマチンを回収した。1μgのマウス抗β−カテニン抗体(Upstate,05−601,1:100)、マウス抗−LEF−1抗体(Sigma L7901)または非免疫マウス血清(Sigma)を用いた免疫沈降のために、1μgの剪断DNAを使用した。沈殿したクロマチンを、架橋を反転させた後に回収し、タンパク質をプロテイナーゼKで消化した。下記のプライマーを用いたPCRにより、標的Atoh1調節DNA(AF218258)を増幅した(それは、重複するセグメントにおいて、全1.3kB配列をカバーする(示されたとおり)):
【表6】

【0211】
図2Bに示されるとおり、β−カテニンおよびTcf−Lef抗体は、1.3kB配列の5'および3'末端においてDNAを免疫沈降した。この観察は、これらの領域におけるDNAが両方のタンパク質に対する親和性を有することを示す。これらの配列は、血清に暴露されたコントロールサンプルにおいて見られなかった。
【0212】
Atoh1は、そのコード領域の3'に位置する1.7kb制御エンハンサーを有する。この3'Atoh1エンハンサーは、トランスジェニックマウスにおいて、異種レポーター遺伝子の発現を誘導するのに十分である(Helms et al.,Development,127:1185−1196,2000)。マウスAtoh1エンハンサー上の結合部位を定義するために、MatInspector(Genomatix)ソフトウェアを用いて、マウスAtoh13'エンハンサー配列(AF218258)を探索した。これらの探索は、AF218258のヌクレオチド309−315および966−972において、Tcf−Lef転写コアクチベータとの組み合わせでのβ−カテニンの2つの結合部位候補を同定した。これらの候補部位がβ−カテニンについての親和性を有するか否かを決定するために、我々は、2つのビオチン標識化オリゴヌクレオチドプローブ(プローブ309およびプローブ966)を用いて、DNAプルダウン解析を行った。これらのプローブのそれぞれは、AF218258のヌクレオチド309−315および966−972ならびに周囲のヌクレオチドにおける候補部位と相同な配列を含む。プローブ309は、AF218258のヌクレオチド297−326にわたり、プローブ966は、ヌクレオチド956−985にわたる。プローブ309および966の配列は、下記のとおりである:
【表7】

【0213】
プローブ309および966は、いずれも5つのプライム末端ビオチン標識化をコードする。β−カテニン/Tcf−Lef結合部位候補(309−315および966−972)の配列を太字で示す。
【0214】
下記のとおりプルダウンアッセイを行った。20ゲージニードルを用いて機械的に破壊した後、核を10HEKおよびNeuro2a細胞から単離した。フレッシュプロテイナーゼ阻害剤を用いて、4℃で60分間、200μl RIPA緩衝液中の核からタンパク質を抽出した。クロマチンDNAを、14,000gで、4℃で15分間ペレット化し、核溶解物(上清)を回収した。ビオチン標識化DNAプローブ(0.3μg)(10μgの非標識DNAプローブの有無で)を、40μl核溶解物と共に、室温で30分間、タンパク質分解酵素阻害剤を有する結合緩衝液(10mM Tris、50mM KCl、1mM DTT、5%グリセロール、pH7.5、40mM 20merポリAおよびポリC)中で静かに振りながらインキュベートした。50μlのストレプトアビジン磁気ビーズ(Amersham Pharmacia)を用いて、プローブ結合タンパク質を回収した。沈殿したタンパク質を、結合緩衝液で5回洗浄し、50μlの2Xサンプル緩衝液(BioRad)で煮沸して、ウエスタンブロットのために上清を回収した。
【0215】
ウエスタンブロットを行って、プローブ309および966と相互作用するタンパク質を検出した。簡潔には、タンパク質を4−12%のNuPAGE Bis−Trisゲル(Invitrogen)上で分離し、0.2μmのニトロセルロース膜(BioRad)に電気移動させた。膜を、マウス抗Atoh1抗体(Developmental Studies Hybridoma Bank)、抗Lef−1/Tcf抗体(Sigma L4270)、またはウサギ抗β−カテニン抗体(Sigma C2206)、その後、HRP共役抗マウス(Sigma)、抗ヤギ(Santa−Cruz)または抗ウサギ(Chemicon)抗体でプローブした。製造者の指示に従って、ECL3(Amersham Pharmacia)を用いて、ブロットを処理した。
【0216】
図7Aおよび7Bの左カラムに示されるとおり、β−カテニンおよびTcf−Lefの両方はそれぞれ、DNAプルダウン後のウエスタンブロットを用いて検出された。図7Aおよび7Bの中央カラムに示されるとおり、プローブに対するβ−カテニンおよびTcf−Lefの結合は、非標識プローブとの競合によって減少した。図7Aおよび7Bの右カラムに示されるとおり、プローブ309および966の結合部位候補の突然変異(配列番号11および12を参照)はまた、プローブに対するβ−カテニンおよびTcf−Lefの結合を減少させた。突然変異体309および966プローブの配列は、下記のとおりである:
【表8】

野生型プローブの配列は、下記のとおりである。
【表9】

【0217】
突然変異β−カテニン/Tcf−Lef結合部位候補(309−315および966−972)の配列を太字で示す。突然変異体プローブ309および966はいずれも、5つのプライム末端ビオチン標識化をコードする。したがって、ストレプトアビジン磁気ビーズ(50μL、Amersham−Pharmacia)を用いて、プローブ結合タンパク質を回収した。沈降したタンパク質を結合緩衝液で5回洗浄し、50μLのサンプル緩衝液で煮沸した。抗β−カテニン抗体および抗Lef−1−Tcf抗体を用いたウエスタンブロットのために、上清を回収した。
【0218】
上記のDNAプルダウンを用いて、β−カテニンおよびTcf−Lefに対して結合親和性を有するAtoh1内の正確な配列を同定した。HEK細胞、Neuro2a細胞における上記の観察と一致して、図7Cに示されるとおり、プローブ309および966は、β−カテニンおよびTcf−Lefと相互作用し、この相互作用は、競合により減少し、突然変異により破壊された。
【0219】
競合および突然変異アッセイは、DNAプルダウンアッセイの特異性を確認する。
【0220】
これらのデータは、Atoh1エンハンサー領域内で同定された結合部位候補の両方が、Tcf/Lef複合体中のβ−カテニンと結合することを示す。
【0221】
図7Dに示されるとおり、優性阻害Tcf4は、β−カテニンにより誘導されるAtoh1の発現を抑制した。さらに、阻害は、より高いレベルでほぼ完了し、β−カテニンとTcf−Lefとの間の複合体は、β−カテニンによるAtoh1の活性化に必要であることを示す。
【0222】
実施例5:β−カテニンは、Atoh1エンハンサー領域の活性を調整する
Atoh1エンハンサー上の2つの確認されたβ−カテニン結合部位がAtoh1エンハンサーの機能活性を増加させるか否かを決定するために、我々は、インタクトまたは突然変異Atoh1 3'エンハンサーを有する複数のAtoh1エンハンサーレポーター遺伝子を構築した。
【0223】
ホタルルシフェラーゼ遺伝子(Luc)の発現を制御するAtoh1 3'エンハンサーを有する構築物を下記のとおり作製した。基本的なβ−グロビンプロモーターを有するAtoh1 3'エンハンサー領域を含むBamH1/NcoIフラグメント(上記で同定されたβ−カテニン/Tcf−Lef結合部位を含む)をAtoh1−GFP構築物から切り出し(Lumpkin et al.,上記)、ルシフェラーゼベクターであるpGL3(Promega)中の複数クローニング領域におけるBglII/NcoIに挿入して、Atoh1−lucベクターを構築した。
【0224】
Atoh1−lucベクターを用いて、Atoh1エンハンサーをBgII/EcoR1で切り出し、次いで、平滑末端ライゲーションを行うことにより、コントロールLuc構築物を作製した。すべての配列を塩基配列決定法により確認した。
【0225】
部位特異的突然変異生成を、製造者の指示に従って、QuickChange(登録商標)II部位特異的突然変異生成キット(Stratagene)を用いて行った。要約すると、標的遺伝子を含むベクターを変性させ、製造者の指示に従って設計された相補鎖に所望の突然変異を有するオリゴヌクレオチドプライマーとアニーリングさせた。温度サイクリング後、環状DNAは、PfuTurbo DNAポリメラーゼを用いて、組み込まれた突然変異プライマーを含むテンプレートベクターから作製され、メチル化された親DNAは、Dpn1エンドヌクレアーゼで消化された。最後に、環状で切れ目の入ったdsDNAを修復のためにコンピテント細胞に導入した。図8A〜8Eに示されるとおり、ルシフェラーゼレポーター構築物において、Atoh1エンハンサー上のβ−カテニン結合部位のそれぞれを、単独でまたは一緒に突然変異させた。
【0226】
次いで、図8に示される野生型(WT)および変異型(MUT)構築物を用いて、ルシフェラーゼアッセイによりAtoh1エンハンサーの機能活性を評価した。簡潔には、10マウスNeuro2a細胞を、トランスフェクション前日に24ウェルプレートに播種した。0.125μg Atoh1−ルシフェラーゼレポーター構築物、0.125μg Renilla−ルシフェラーゼ構築物(0.25μg β−カテニン発現構築物の有無で)を、0.125ml opti−MEM中の0.5μL リポフェクトアミン3 2000トランスフェクション試薬と混合し、細胞を4時間培養した。24時間後に細胞を溶解し、TD−20/20照度計(Turner Designs)において、デュアルルシフェラーゼレポーターアッセイシステム(Promega)を用いてルシフェラーゼ活性を測定した。
【0227】
図9に示されるとおり、β−カテニンは、Atoh1 3'エンハンサーを含まないコントロールルシフェラーゼ構築物に対して影響を及ぼさない。逆に、β−カテニンは、WT Atoh1 3'エンハンサーをコードするルシフェラーゼ構築物からのレポーター遺伝子の発現を増加させた。β−カテニンにより仲介されるAtoh1 3'エンハンサーレポーター遺伝子の発現は、すべての突然変異体構築物においてβ−カテニンの存在下で減少した。β−カテニンにより仲介される上方調節は、二重突然変異体構築物において消滅した。
【0228】
これらのデータは、Atoh1 3'エンハンサーに結合するβ−カテニンがエンハンサーの活性を増加させ、β−カテニン結合部位の両方が最大エンハンサー活性に必要であることを示す。
【0229】
実施例6:Notchシグナル伝達阻害およびβ−カテニン活性の組み合わせは、Atoh1発現の増強を促進する
γ−セクレターゼ阻害剤(DAPT)を用いてNotchシグナル伝達を阻害し、GSK3β阻害剤(GSKi)を用いてβ−カテニンを活性化した。簡潔には、Notchシグナル伝達の阻害後にAtoh1活性の増加を呈する骨髄由来のMSCを、γ−セクレターゼ阻害剤およびGSK3β−阻害剤に暴露した。CBF−1ルシフェラーゼレポーターを用いて、改変されたNotch活性を確認した。
【0230】
Jeon et al.(Mol.Cell.Neurosci.,34(1):59−68,(2007))に記載された方法を用いて、ヒト骨髄から間葉幹細胞(MSC)を単離した。細胞を使用前に一度増殖させ、9%ウマ血清、9%ウシ胎孔血清、およびペニシリン(100U/mL)およびストレプトマイシン(100μg/mL)を補充したMEM−I細胞培地(Sigma−Aldrich)で培養した。
【0231】
図10Aに示されるとおり、β−カテニンの発現は、γ−セクレターゼ阻害剤に暴露された細胞において増加した。さらに、上記のとおり、Atoh1の発現は、β−カテニンにより増加する。図10Aに示されるとおり、Atoh1の発現は、β−カテニンおよびNotch阻害の組み合わせによりさらに増加する。この観察におけるβ−カテニンの役割を確認するために、β−カテニンの発現を、siRNAを用いて調整した(上記実施例3に示されたとおり)。β−カテニンの減少は、図10Bに示される。図10Cに示されるとおり、β−カテニンの抑制は、γ−セクレターゼ処理後の任意のβ−カテニンの発現を妨げ、Atoh1の発現を減少させる。同様の結果はまた、非γ−セクレターゼ阻害剤を用いてNotchシグナル伝達を阻害した場合に観察された(図10Dを参照)。この結果は、Notchシグナル伝達の阻害とβ−カテニンの活性との間の関係がγ−セクレターゼ阻害剤の使用に限定されないことを示す。
【0232】
優性阻害Tcf(dn Tcf)の過剰発現によるβ−カテニン仲介転写の阻害はまた、Notchシグナル伝達の阻害剤で処理された細胞において観察されるAtoh1の発現の増加を反転させる(図10Eを参照)。逆に、β−カテニンおよびAtoh1の発現は、Notchシグナル伝達の上昇後に消滅したが、Wnt3aによるβ−カテニンの活性化は、Atoh1の発現をレスキューした(図10Eを参照)。
【0233】
これらの結果は、β−カテニン活性と組み合わされるNotchシグナル伝達の阻害がAtoh1の発現を増加させるように相乗的に機能し得ることを示す。したがって、Notchシグナル伝達の阻害およびβ−カテニン調整化合物、例えば、β−カテニンアゴニストを用いた組み合わせ療法を使用することにより、Atoh1の発現を促進することができる。
【0234】
実施例7:β−カテニンは、トランスジェニックマウスにおいて内耳幹細胞のAtoh1陽性細胞への変換を促進する
Atoh1エンハンサーの制御下で核緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現するマウス(Atoh1−nGFPマウス(Lumpkin et al.,上記))を用いて、内耳幹細胞の有毛細胞への変換を評価した。これらの動物におけるGFPの発現の増加は、Atoh1 3'エンハンサーの活性の増加を示す。トランスジェニック動物に由来する内耳幹細胞にCMVプロモーターの制御下でβ−カテニンまたはGFPを含むアデノウイルスを形質導入した(Michiels et al.,Nat.Biotec.,20:1154−1157,2002)。
【0235】
以前に示されたとおり(Li et al.,Nat.Med.,:1293−1299,2003)、内耳幹細胞をAtoh1−nGFPから単離した。簡潔には、生後4日目(P4)の4匹のAtoh1−nGFPマウスから卵形嚢を切除し、単一細胞懸濁液中でトリプシン処理した。次いで、遊離された細胞を、懸濁液中で7日間、N2/B27、10ng/mL FGF−2(Chemicon)、50ng/mL IGF(Chemicon)、および20ng/mL EGF(Chemicon)を補充したDMEM/FD12培地(1:1)で7日間増殖させて、スフィアを得た。
【0236】
スフィアとして単離された内耳幹細胞を、4コンパートメントの35mm組織培養皿に播種し、単層としてDMEM/N2培地において増殖させた。100μL Opti−MEM中で、10細胞に、β−カテニン、GFP、または空のアデノウイルス(9X10ウイルス粒子)を16時間感染させた。
【0237】
図11Aに示されるとおり、コントロールGFPアデノウイルスによる内耳幹細胞の形質導入は、細胞の68%においてGFPの発現をもたらした。図5Cに示されるとおり、β−カテニンアデノウイルスによる内耳幹細胞の形質導入は、空のウイルスで形質導入された内耳幹細胞と比較して、Atoh1陽性細胞の数を増加させた。このデータは、β−カテニンが、Atoh1−nGFPマウスから得た内耳幹細胞におけるAtoh1の活性を増加させたことを示す。この観察は、有毛細胞への内耳幹細胞の分化と一致する。有毛細胞への内耳幹細胞の分化をさらに確認するために、免疫細胞化学を用いて形質導入した細胞を解析し、有毛細胞特異的マーカーを検出した。1:1000希釈でのミオシンVII1に対するウサギ抗体(Proteus Bioscience)、または1:100希釈でのPCNA(eBioscience)を検出するためのマウスモノクローナル抗体PC10を用いて免疫染色を行った。MetaMorph Imaging7.0を用いて、陽性染色細胞をカウントし、3つの独立した実験から統計を行った。
【0238】
図11Dに示されるとおり、5000の細胞が3つの独立した実験においてカウントされる場合、Atoh1およびミオシンVIIaについて陽性である細胞染色の数は、β−カテニンを発現する細胞において2倍になった(Atoh1陽性細胞は、8.9%〜15.8%に増加し、ミオシンVIIa陽性細胞は、3.3%〜6.6%に増加した)。Atoh1およびミオシンVIIaは、既知の特異的有毛細胞マーカーであるため、この観察は、β−カテニンが、内耳幹細胞の有毛細胞への分化を促進することを確認する。β−カテニンの過剰発現を内耳前駆細胞のAtoh1陽性細胞への変換と相関させるために、β−カテニンコード領域、続いてレポーター配列IRES−DsRedをコードする発現ベクターを構築した。
【0239】
XbaI(New England Biolabsからの酵素)の粘着性末端を含むヒトβ−カテニンcDNAを、NheI部位においてpIRES2−DsRed Express(Clontech)にクローニングすることにより、β−カテニン−IRES−DsRed構築物を作製した。
【0240】
内耳幹細胞を上記のとおり単離および播種し、100μL Opti−MEM中、3μL リポフェクトアミン3 2000トランスフェクション試薬を用いて、4μgのIRES−DsRed空ベクターまたは4μgのβ−カテニン−IRES−DsRedを4時間トランスフェクトした。次いで、5日後、トランスフェクトした細胞を、免疫細胞化学によって解析した。上記のとおり免疫染色を行った。
【0241】
図12Bおよび表1に示されるとおり、IRES−DsRed空ベクターを発現する14個の細胞はいずれもAtoh1について陽性染色を示さなかった。対照的に、図12Aおよび表1に示されるとおり、β−カテニン−IRES−DsRedを発現する15個の細胞のうち8個は、Atoh1について陽性染色を示した。
【0242】
表1:内耳幹細胞におけるβ−カテニン媒介Atoh1発現の定量
【表10】

【0243】
他の神経前駆細胞に関して報告されているように(Adachi et al.,Stem Cells,25:2827−36,2007、Woodhead et al.,J.Neurosci.,26:12620−12630,2006)、上記で観察されたAtoh1陽性細胞の増加が内耳幹細胞の増殖の増加に起因するか否かを確認するために、PCNAの標識をβ−カテニン発現細胞において評価した。
【0244】
アデノウイルス仲介β−カテニンの発現は、68±7.9%のPCNA陽性細胞を生じたが、空のアデノウイルスで形質導入した細胞(69.7±5.2%PCNA陽性細胞)および非形質導入細胞(72±8.8%PCNA陽性細胞)とは有意に異なっておらず(p>0.05)、これは、5000個の細胞をカウントした3つの独立した実験に基づくものである。
【0245】
このデータは、細胞の増殖がβ−カテニン仲介の細胞分化に必要なかったことを示す。
【0246】
実施例8:β−カテニン媒介性有毛細胞の形成
図13に示されるとおり、β−カテニンの発現は、E16における外部有毛細胞の追加の列形成を促進した。8.1E+07アデノウイルス粒子を、E16Atoh1−nGFP胚から切除されたコルチ器に塗布し、5日間培養した。図13Cおよび12Dに示されたとおり、β−カテニンをコードするアデノウイルスは、未処理の細胞(A)または空のアデノウイルスで処理した細胞(B)と比較して、Atoh1陽性外部有毛細胞の数を増加させた。
【0247】
図14および表2に示されるとおり、8.1E+07アデノウイルス粒子を用いて、E16 Atoh1−nGFP胚から切除されたコルチ器に感染させ、次いで5日間培養した。感染前(図13B)および感染5日後(図13Aを参照)に画像を撮影した。結果を定量し、表2に示す。表2に示されるとおり、処理後に32±3.1%の増加が認められた。
【0248】
表2:
【表11】

【0249】
実施例9:トランスジェニックマウスにおけるAtoh1陽性細胞への内耳幹細胞の変換に対するβ−カテニンおよびNotchシグナル伝達経路の阻害剤の複合効果の評価
実施例9に示したとおり、Atoh1エンハンサーの制御下で核緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現するマウス(Atoh1−nGFPマウス(Lumpkin et al.,上記))を処理した。
【0250】
スフィアとして単離した内耳幹細胞を、4コンパートメントの35mm組織培養皿に播種し、単層としてDMEM/N2培地中で増殖させた。表3に示されるとおり、β−カテニンアデノウイルスまたは1つ以上のβ−カテニン調整化合物、GFPアデノウイルス、空のアデノウイルス(9X10ウイルス粒子)およびNotchシグナル伝達経路の阻害剤の組み合わせを、100μL Opti−MEM中で16時間、10個の細胞に感染させた(Xは、細胞が処理されたことを示す)。
【0251】
表3:
【表12】

【0252】
処理後、Atoh1およびミオシンVIIaの発現について細胞を解析した。
【0253】
他の実施形態
本発明はその詳細な説明と併せて説明されたが、上記説明は、本発明を例示することが意図されるものであり、本発明の範囲を限定するものではなく、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲により既定されることが理解されるべきである。他の態様、利点、および修飾は、特許請求の範囲の範囲内である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
難聴または前庭機能障害を有するか、または発症する危険性がある対象を処置する方法であって、
難聴または前庭機能障害を経験したか、または発症する危険性がある対象を同定すること;
前記対象の耳の細胞において、β−カテニンの発現または活性を増加させる、1つ以上の化合物を含む組成物を、前記対象の耳に投与すること;および
それによって、前記対象において前記難聴または前庭機能障害を処置すること
を含む、方法。
【請求項2】
対象が、感音難聴、聴覚神経障害、または両方を有するか、または発症する危険性がある、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
対象が、眩暈、平衡失調、または回転性眩暈をもたらす前庭機能障害を有するか、または発症する危険性がある、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
組成物が、全身的に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
組成物が、局所的に内耳に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
組成物が、β−カテニンポリペプチドを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
組成物が、1つ以上のWnt/β−カテニン経路アゴニストを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
組成物が、1つ以上のグリコーゲンシンターゼキナーゼ3β(GSK3β)阻害剤を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
組成物が、1つ以上のカゼインキナーゼ1(CK1)阻害剤を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
Notchシグナル伝達経路の阻害剤を前記対象に投与することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
Notchシグナル伝達経路の前記阻害剤が、γセクレターゼ阻害剤である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
組成物が、薬学的に許容される賦形剤を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
難聴または前庭機能障害を有するか、または発症する危険性がある対象を処置する方法であって、
処置を必要とする対象を選択すること;
有毛細胞に分化することができる細胞の集団を取得すること;
前記細胞の集団を、インビトロで、前記細胞の少なくとも一部を誘導して、p27kip、p75、S100A、Jagged−1、Prox1、ミオシンVIIa、無調ホモログ(atonal homolog)1(Atoh1)、またはそのホモログ、I9アセチルコリン受容体、エスピン、パルブアルブミン3、およびF−アクチン(ファロイジン)のうちの1つ以上を発現させるのに十分な時間の間、β−カテニンの発現または活性を増加させる1つ以上の化合物を含む、有効量の組成物と接触させること;および
前記細胞の集団、またはそのサブセットを前記対象の耳に投与すること
を含む、方法。
【請求項14】
対象が、感音難聴、聴覚神経障害、または両方を有するか、または発症する危険性がある、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
聴覚有毛細胞に分化することができる前記細胞の集団が、幹細胞、前駆細胞、支持細胞、ダイテルス細胞、柱細胞、内指節細胞、視蓋細胞、ヘンゼン細胞、および胚細胞からなる群から選択される、細胞を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
幹細胞が、成体幹細胞である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
成体幹細胞が、内耳、骨髄、間充組織、皮膚、脂肪、肝臓、筋肉、または血液に由来する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
幹細胞が、胚性幹細胞であるか、または胎盤あるいは臍帯から得られる幹細胞である、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前駆細胞が、内耳、骨髄、間充組織、皮膚、脂肪、肝臓、筋肉、または血液に由来する、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
組成物が、β−カテニンをコードするDNAを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項21】
組成物が、β−カテニンポリペプチドを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項22】
組成物が、1つ以上のWnt/β−カテニン経路アゴニストを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項23】
組成物が、1つ以上のグリコーゲンシンターゼキナーゼ3β(GSK3β)阻害剤を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項24】
組成物が、1つ以上のカゼインキナーゼ1(CK1)阻害剤を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項25】
細胞の集団を投与することが、(a)前記細胞を蝸牛の内腔、前記内耳道の聴覚神経幹、または鼓室階に注入すること、または(b)前記細胞を人工内耳内に埋め込むことを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項26】
細胞を、前記Notchシグナル伝達経路の阻害剤と接触させることをさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項27】
Notchシグナル伝達経路の阻害剤が、γセクレターゼ阻害剤である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
γセクレターゼ阻害剤が、アリールスルホンアミド、ジベンズアゼピン、ベンゾジアゼピン、N−[N−(3,5−ジフルオロフェンアセチル)−L−アラニル]−(S)−フェニルグリシンt−ブチルエステル(DAPT)、L−685,458、またはMK0752のうちの1つ以上である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
対象の耳の細胞において、β−カテニン発現または活性を増加させることができる、1つ以上の化合物を含む組成物を、前記対象の耳に投与することをさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項30】
組成物が、β−カテニンをコードするDNAを含む、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
組成物が、β−カテニンポリペプチドを含む、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
組成物が、1つ以上のWnt/β−カテニン経路アゴニストを含む、請求項29に記載の方法。
【請求項33】
組成物が、1つ以上のグリコーゲンシンターゼキナーゼ3β(GSK3β)阻害剤を含む、請求項29に記載の方法。
【請求項34】
組成物が、1つ以上のカゼインキナーゼ1(CK1)阻害剤を含む、請求項29に記載の方法。
【請求項35】
Notchシグナル伝達経路の1つ以上の阻害剤を含む組成物を、前記対象の耳に投与することをさらに含む、請求項29に記載の方法。
【請求項36】
Notchシグナル伝達経路の前記阻害剤が、γセクレターゼ阻害剤である、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
難聴または前庭機能障害を有するか、または発症する危険性がある対象を処置する方法であって、
難聴または前庭機能障害を経験したか、または発症する危険性がある対象を同定すること;
前記対象の耳の細胞においてβ−カテニン発現または活性を特異的に増加させる、1つ以上の化合物を含む組成物を、前記対象の耳に投与すること;
前記Notchシグナル伝達経路の阻害剤を前記対象に投与すること;および
それによって、前記対象において難聴または前庭機能障害を処置すること
を含む、方法。
【請求項38】
Notchシグナル伝達経路の阻害剤が、γセクレターゼ阻害剤である、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
組成物が、1つ以上のWnt/β−カテニン経路アゴニストを含む、請求項37に記載の方法。
【請求項40】
組成物が、1つ以上のグリコーゲンシンターゼキナーゼ3β(GSK3β)阻害剤を含む、請求項37に記載の方法。
【請求項41】
組成物が、1つ以上のカゼインキナーゼ1(CK1)阻害剤を含む、請求項37に記載の方法。
【請求項42】
1つ以上のCK1阻害剤が、CK1 mRNAに特異的に結合するアンチセンスRNAまたはsiRNAである、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
組成物が、1つ以上のプロテアソーム阻害剤を含む、請求項37に記載の方法。

【図1A−1B】
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【図1C−1D】
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【図1E−1F】
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【図1G−1H】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4A−4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7A−7B】
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【図7C−7D】
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【図8A−8C】
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【図8D−8E】
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【図9】
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【図10A−10F】
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【図11A−11D】
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【図12A−12B】
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【図13A−13D】
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【図14A−14B】
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【図15A】
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【図15B】
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【公表番号】特表2012−509899(P2012−509899A)
【公表日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−537715(P2011−537715)
【出願日】平成21年11月24日(2009.11.24)
【国際出願番号】PCT/US2009/065747
【国際公開番号】WO2010/060088
【国際公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(596114853)マサチューセッツ・アイ・アンド・イア・インファーマリー (11)
【Fターム(参考)】