有用な細菌の成長を促進し、顆粒球コロニー刺激因子の放出を促進し、Tヘルパー細胞タイプIを調節し、及び/又はTヘルパー細胞タイプIIを調節するためのキバナシュスラン種・多糖類抽出物及び医薬組成物、及びその調製方法
【課題】有用な細菌の成長を促進し、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)の放出を促進し、Tヘルパー細胞タイプI(Th1細胞)を調節し、及び/又はTヘルパー細胞タイプII(Th2細胞)を調節するためのキバナシュスラン種・多糖類抽出物及び医薬組成物を提供する。
【解決手段】本抽出物及び組成物はそれぞれ、効果的な量のキバナシュスラン種のタイプIIアラビノガラクタンを含む。また、キバナシュスラン種・多糖類抽出物の調製方法及び該抽出物の使用も提供される。
【解決手段】本抽出物及び組成物はそれぞれ、効果的な量のキバナシュスラン種のタイプIIアラビノガラクタンを含む。また、キバナシュスラン種・多糖類抽出物の調製方法及び該抽出物の使用も提供される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有用な細菌の成長を促進し、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)の放出を促進し、Tヘルパー細胞タイプI(Th1細胞)を調節し、及び/又はTヘルパー細胞タイプII(Th2細胞)を調節するためのキバナシュスラン種・多糖類抽出物の使用と、その調製方法とに関する。
《関連する出願への相互参照》
本出願は、2009年10月5日付で出願した台湾特許出願第098133714号に基づく優先権を主張するものである。
【背景技術】
【0002】
キバナシュスラン種(Anoectochilus spp.)はラン科に属し、キバナシュスラン(Anoectochilus formosanus Hayata)は血圧を減少させる効果、血糖値を下げる効果、肝臓を保護する効果、抗炎症効果、制癌効果、免疫システムを調節する効果等の広い効果を有していると考えられている。従って、キバナシュスラン(Anoectochilus formosanus Hayata)は、中国医学において「薬の王」又は「薬の虎」とも呼ばれている(特許文献1、非特許文献1、非特許文献2を参照。これらの文献を本明細書に援用する)。
【0003】
しかし、キバナシュスラン(Anoectochilus formosanus Hayata)の活性成分は現在、不明なままであり、キバナシュスラン(Anoectochilus formosanus Hayata)についての研究は、原抽出物に限定され、従って、薬効率の最適化及び薬理学的研究も限定されている。また、キバナシュスラン種の生理学的作用は完全には分かっていないので、キバナシュスラン種の他の病気への適用を研究する必要がある。
【0004】
本発明の発明者は、キバナシュスラン種・多糖類抽出物は、有用な細菌の成長を促進する効果、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)の放出を促進する効果、Tヘルパー細胞タイプI(Th1細胞)を調節する効果、及び/又はTヘルパー細胞タイプII(Th2細胞)を調節する効果を有することを生体内実験と生体外実験とにより発見し、この抽出物の主活性成分はキバナシュスラン種のタイプIIアラビノガラクタンであることを確認した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第2004/0009239号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Shih et al. 2001, “Ameliorative effects of Anoectochilus formosanus extract on osteopenia in overiectomized rats”, J Ethnopharmacol 77, 233-238
【非特許文献2】Masuda et al. 2008, “Suppressive effects of Anoectochilus formosanus extract on osteoclast formation in vitro and bone resorption in vivo”, J Bone Miner Metab 26, 123-129
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の主な目的は、有用な細菌の成長を促進し、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)の放出を促進し、Tヘルパー細胞タイプI(Th1細胞)を調節し、及び/又はTヘルパー細胞タイプII(Th2細胞)を調節するためのキバナシュスラン種・多糖類抽出物を提供することである。この抽出物はキバナシュスラン種のタイプIIアラビノガラクタンを含み、約40〜約70キロダルトンの平均分子量を有する。
【0008】
本発明の別の目的は、前記抽出物の調製方法を提供することである。
【0009】
本発明の更に別の目的は、有用な細菌の成長を促進し、G−CSFの放出を促進し、Th1細胞を調節し、及び/又はTh2細胞を調節するための医薬組成物であって、効果的な量の前記抽出物を含む医薬組成物を提供することである。
【0010】
また、本発明は、有用な細菌の成長を促進し、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)の放出を促進し、Tヘルパー細胞タイプI(Th1細胞)を調節し、及び/又はTヘルパー細胞タイプII(Th2細胞)を調節するための薬剤の製造のための前記抽出物の使用を提供する。
【0011】
本発明の詳細な技術及び好適な実施形態を、当業者が本発明の特徴をよく理解できるように添付の図面を参照しながら下記に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のキバナシュスラン種・多糖類抽出物及びキバナシュスラン種のタイプIIアラビノガラクタンの調製のフローチャートである。
【図2】本発明のキバナシュスラン種・多糖類抽出物のβグルコシル・ヤリブ抗原親和性試験の発色グラフである。
【図3A】本発明のキバナシュスラン種・多糖類抽出物の単糖組成の分析グラフである。
【図3B】キバナシュスラン種のタイプIIアラビノガラクタンの単糖組成の分析グラフである。
【図4】本発明のキバナシュスラン種・多糖類抽出物及びキバナシュスラン種のタイプIIアラビノガラクタンの分子量の分析グラフである。
【図5】ビフィズス菌ブレーベの成長のカーブグラフである。
【図6】マウスの大腿骨のマイクロCT(コンピュータ断層撮影)グラフである。
【図7A】マウスの腸内の様々な短鎖脂肪酸の濃度を示す棒グラフである。
【図7B】マウスの腸内の様々な短鎖脂肪酸の濃度を示す棒グラフである。
【図7C】マウスの腸内の様々な短鎖脂肪酸の濃度を示す棒グラフである。
【図7D】マウスの腸内の様々な短鎖脂肪酸の濃度を示す棒グラフである。
【図8A】マウスの腸内のCaBP−D9k(カルシウム結合タンパク質)のmRNAの電気泳動グラフである。
【図8B】マウスの腸内のCaBP−D9kのmRNAの発現を示す棒グラフである。
【図9A】マクロファージRAW264.7の亜硝酸塩濃度を示す棒グラフである。
【図9B】マクロファージRAW264.7のG−CSF濃度を示す棒グラフである。
【図9C】マクロファージRAW264.7のG−CSFと一酸化窒素との比を示す棒グラフである。
【図10A】リポ多糖類(LPS)で刺激されたICRマウスにキバナシュスラン種のタイプIIアラビノガラクタンを投与して1時間後のマウス血液中のTNF−α濃度を示す棒グラフである。
【図10B】リポ多糖類(LPS)で刺激されたICRマウスにキバナシュスラン種のタイプIIアラビノガラクタンを投与して16時間後のマウス血液中のTNF−α濃度を示す棒グラフである。
【図11】EL4細胞内のT−bet、GATA−3、GAPDHタンパク質のウェスタンブロッティングの転写結果を示すグラフである。
【図12】BALB/cマウスの肺スライスのHE染色グラフである。
【図13】BALB/cマウスの腸のメチレンブルー染色グラフである。
【図14】ビフィズス菌ブレーベの培養液の濁度を示す棒グラフである。
【図15】マクロファージRAW264.7の一酸化窒素シンセターゼ、G−CSF、及びTNF−αのmRNAの電気泳動グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
アラビノガラクタンはタイプIとタイプIIのアラビノガラクタンに分類することができる。タイプIアラビノガラクタンのガラクタンの主鎖は、β(1→4)結合で結合され、一方、タイプIIアラビノガラクタンのガラクタンの主鎖は、β(1→3)(1→6)結合で結合されている。異なる由来のタイプIIアラビノガラクタン同士は異なる性質(例えば、分子量、主鎖又は分枝鎖の構造、成分など)を有しているので、それらの作用も異なる(Paulsen et al., “Bioactive peptic polysaccharides”, Adv Polym Sci., 2005, 186: 69-101を参照。この文献を本明細書に援用する)。この文献では、タイプIIアラビノガラクタンはキバナシュスラン種のタイプIIアラビノガラクタンとして定義されている。
【0014】
上述したように、キバナシュスラン種の活性成分は、まだ不明であり、キバナシュスラン種は、まだ多くの未知の効果を有している。本発明の発明者は多くの生体外細胞実験と生体内動物実験とにより、キバナシュスラン種・多糖類抽出物は、有用な細菌の成長を促進する効果、顆粒球コロニー刺激因子(以下、G−CSFと呼ぶ)の放出を促進する効果、Tヘルパー細胞タイプI(以下、Th1細胞と呼ぶ)を調節する効果、及び/又はTヘルパー細胞タイプII(以下、Th2細胞と呼ぶ)を調節する効果を有することを発見し、この抽出物の主活性成分はキバナシュスラン種のタイプIIアラビノガラクタンであることを確認した。
【0015】
従って、本発明は有用な細菌の成長を促進し、G−CSFの放出を促進し、Th1細胞を調節し、及び/又はTh2細胞を調節するためのキバナシュスラン種・多糖類抽出物を提供する。この抽出物は、キバナシュスラン種のタイプIIアラビノガラクタンを含む。
【0016】
本発明のキバナシュスラン種・多糖類抽出物は水溶性の抽出物で、キバナシュスラン種は、好ましくはキバナシュスラン(Anoectochilus formosanus Hayata)である。具体的には、本発明のキバナシュスラン種・多糖類抽出物は、主に多糖類と、幾つかのタンパク質とを含み、脂溶性の成分をほとんど含まない。これらのタンパク質は、自由または共役タンパク質(糖タンパク質またはプロテオグリカン)の形態で存在する。特性分析後、多糖類成分は、主にキバナシュスラン種のタイプIIアラビノガラクタンと、澱粉とからなり、この澱粉は高度に分枝したα(1→4)(1→6)結合の構造を有することが確認された。キバナシュスラン種・多糖類抽出物の単糖類成分とキバナシュスラン種のタイプIIアラビノガラクタンとの分析後、両者はアラビノース、ガラクトース、グルコース、マンノース、及びフルクトースを含むことが発見された。キバナシュスラン種・多糖類抽出物は、主にグルコースからなり、タイプIIアラビノガラクタンは、主にガラクトースからなる。
【0017】
本発明のキバナシュスラン種・多糖類抽出物は、約40〜約70キロダルトンの平均分子量を持ち、(本抽出物の乾燥重量に対して)約20重量%〜約50重量%のタイプIIアラビノガラクタンを含む。タイプIIアラビノガラクタンは、約15〜約45キロダルトンの平均分子量を持ち、自由または共役タンパク質(糖タンパク質またはプロテオグリカン)の形態で存在する幾つかのタンパク質を含む。本発明の好適な実施形態では、キバナシュスラン種・多糖類抽出物は、約50〜約60キロダルトンの平均分子量を持ち、(本抽出物の乾燥重量に対して)約30重量%〜約40重量%のタイプIIアラビノガラクタンを含み、タイプIIアラビノガラクタンは、約25〜約35キロダルトンの平均分子量を有する。
【0018】
本発明のキバナシュスラン種・多糖類抽出物は、「プレバイオティクス」効果を有し、腸内の有用な細菌(即ち、プロバイオティクス)の成長を促進する可能性がある。本明細書において、「有用な細菌」は健康に有益な生理学的作用を行う可能性があるか、又は動物体の病気を治すことができる細菌を指す。本発明の1つの実施形態では、ビフィズス菌ブレーベ(Bifidobacterium breve;ビフィズス菌属)をキバナシュスラン種・多糖類抽出物またはキバナシュスラン種のタイプIIアラビノガラクタンで培養し、この細菌の成長を促進した。本発明の別の実施形態では、キバナシュスラン種・多糖類抽出物が、マウスの腸内のビフィズス菌類の量を増加させる可能性があることを発見した。
【0019】
ビフィズス菌類は腸内で発酵を行い、腸内の脂肪酸、特に短鎖脂肪酸(例えば、酢酸、乳酸、プロピオン酸、及び酪酸)の量を増加させる可能性がある。短鎖脂肪酸は腸内のpH値を下げてカルシウム吸収を促進するだけでなく、骨芽細胞を活性化して骨形成を促進して、例えば骨粗しょう症を予防するか、緩和するか、治すか等の抗骨粗しょう症効果を達成する(Katono et al., “Sodium butyrate stimulates mineralized nodule formation and osteoprotegerin expression by human osteoblasts”, Arch oral Biol. 208; 53:903-909を参照。この文献を本明細書に援用する)。従って、腸内のビフィズス菌類の成長を促進することが出来れば、カルシウム吸収と骨形成とを効率的に促進して抗骨粗しょう症効果を達成できる可能性がある。本発明のキバナシュスラン種・多糖類抽出物は、ビフィズス菌類の成長を促進できるので、上記の抗骨粗しょう症効果を提供できる。また、本発明のキバナシュスラン種・多糖類抽出物は、体内の有用な細菌の成長を促進することが出来、従って、外来細菌を使用して骨粗しょう症を緩和する場合に発生する可能性がある問題、例えば、有用な外来細菌は長時間腸内にほとんど留まらないこと、腸の粘膜の吸収が少ないこと等を避けることが出来る。
【0020】
本発明のキバナシュスラン種・多糖類抽出物は、G−CSFを放出するよう体内のマクロファージを刺激する作用も有している。免疫システムでは、白血球が重要な役割を果す。病原体又は異物が体内に侵入した時、白血球がそれらを分解し、一連の生理学的防御反応を誘導する。患者が癌に対する化学療法を受けている場合、抗癌剤は患者の体の白血球を作る能力を損ない、これにより体内の白血球量を著しく減らして、患者の免疫力を不足させ、患者が病原菌又はウイルスに対して防御出来なくする。G−CSFは白血球にとっての成長ホルモンであり、白血球量を効率的に増加させる可能性がある。本発明のキバナシュスラン種・多糖類抽出物は、G−CSFを放出するよう体内のマクロファージを刺激するので、白血球量を間接的に増加させることが出来る。従って、癌患者の化学療法中、患者に本発明のキバナシュスラン種・多糖類抽出物を投与することで、白血球の減少という副作用を緩和することができる。
【0021】
また、G−CSFは、炎症を予防するか、緩和するか、治すか等の抗炎症効果を有し、リポ多糖類(LPS)によって促進されるTNF−α(腫瘍壊死因子−α)の放出を抑制することが知られている(Boneberg et al., “Molecular aspects of anti-inflammatory action of G-CSF”, Inflamm. Res. 2002. 51: 119-128を参照。この文献を本明細書に援用する)。従って、本発明のキバナシュスラン種・多糖類抽出物は、G−CSFの放出の促進による抗炎症効果も提供する可能性がある。
【0022】
また、本発明の発明者は、本発明のキバナシュスラン種・多糖類抽出物は、Th1細胞とTh2細胞とを調節できることも発見した。T細胞は免疫システムにおいて重要な役割を果し、分泌されるサイトカインの種類に依る2種類に分化する。Th1細胞はインターフェロン−γ(INF−γ)とインターロイキン−2(IL−2)とを産生し、一方、Th2細胞はインターロイキン−4(IL−4)、インターロイキン−5(IL−5)、インターロイキン−6(IL−6)、及びインターロイキン−10(IL−10)を産生する。Th1細胞はキラー細胞を助け、INF−γを分泌してマクロファージを活性化して細胞媒介性免疫を促進することができる。Th2細胞はアトピー抗体IgEの産生においてB細胞を助け、IL−4及びIL−5を分泌することで肥満細胞又は好酸球を活性化して、ヒスタミン、ロイコトリエン、ポスタグランジン(postaglandine)などを含む炎症メディエータを分泌させることができる。Th1細胞とTh2細胞とは互いに拮抗し、Th1細胞によって放出されるINF−γはTh2細胞を抑制し、Th2細胞によって放出されるIL−4とIL−10とはTh1細胞によるINF−γの産生を抑制する可能性がある。
【0023】
従って、Th1細胞とTh2細胞との間の相互作用は、生理学的免疫反応に影響する場合があり、多くの病気に大きく関係する。例えば、Th2細胞の過剰な活動がアレルギーを引き起こし、アトピー咳又は喘息を引き起こす気道アレルギーを発症する場合があることが知られている。また、Th2細胞の免疫反応の高まりは、発癌物質により誘導された結腸癌の形成を促進する可能性があることが、文献において証明された(Osawa et al., “Predominant T helper type 2-inflammatory responses promote murine colon cancers”, Int J Cancer. 2006. 118(9): 2232-6を参照。この文献を本明細書に援用する)。一方、過剰に活性なTh1細胞は自己免疫機能の異常を引き起こす場合がある。従って、Th1細胞とTh2細胞との間の免疫バランスを、それらの活動を正常状態に維持するよう調節することが出来れば、自己免疫疾患を治し、アレルギー(アトピー咳及び喘息を含む)を緩和し、結腸癌を抑制することが出来る。
【0024】
本発明のキバナシュスラン種・多糖類抽出物は、Th1細胞の分化とそれによって媒介される免疫反応とを促進し、同時にTh2細胞の分化と免疫反応とを抑制する可能性がある。従って、Th1細胞とTh2細胞との拮抗関係において、Th2細胞が過剰に活性で、Th1細胞とTh2細胞との間に不均衡がある場合、本発明のキバナシュスラン種・多糖類抽出物は、Th1細胞経路へ免疫反応を振り向けて、Th1細胞とTh2細胞とのバランスを調節し、抗アレルギー効果、喘息の緩和、結腸癌の抑制、及び免疫機能の調節を達成する可能性がある。
【0025】
本発明のキバナシュスラン種・多糖類抽出物を、下記のステップを含む方法によって提供することが出来る。
a)キバナシュスラン種から水を使って水溶性のキバナシュスラン種抽出物を抽出する、
b)キバナシュスラン種抽出物を脱脂し、次に水様の抽出物を収集する、
c)この水様抽出物にエタノールを加え、次に沈澱物を収集する。ここで、エタノールの濃度は水様抽出物とエタノールとの総体積に対して約65体積%〜約85体積%である。
【0026】
ステップa)、抽出ステップを実行する手法を下記に説明する。先ず、水とキバナシュスラン種とを混合し、かき混ぜジュースを作り、次に不溶性成分を濾過して取除き、水溶性のキバナシュスラン種抽出物を得る。或いは、キバナシュスラン種を水で煮て、その煮た溶液を集めて水溶性のキバナシュスラン種抽出物を得る。
【0027】
脱脂ステップb)は任意の既知の適切な脱脂手法で実行してよい。例えば、酢酸エチル(又はヘキサン)を水溶性キバナシュスラン種抽出物に加え、所望される作用を持たない脂溶性の成分を取除き、次に水様の抽出物を収集する。ここで、酢酸エチルの量に制限はなく、ステップa)の水溶性キバナシュスラン種抽出物の体積に対して、酢酸エチルの濃度は通常、約15体積%〜約35体積%、好ましくは、約20体積%〜約30体積%である(Wu et al., “The hepatoprotective activity of kinsenoside from Anoectochilus formosanus”, Phtother res. 2007; 21: 58-61を参照。この文献を本明細書に援用する)。
【0028】
ステップc)では、エタノールを水様抽出物に加え、生成沈澱物を収集する。この沈澱物の成分は、主に糖類と、少量のタンパク質と、核酸とである。エタノールの濃度は水様抽出物とエタノールとの総体積に対して約65体積%〜約85体積%、好ましくは、約70体積%〜約80体積%である。
【0029】
選択肢として、ステップa)又はステップb)は、抽出効率を増加させるために適切な抽出手段(例えば、超音波振動など)を使用してもよい。また、選択肢として、ステップa)及び/又はステップb)は、キバナシュスラン種の無効な成分から有効な成分をできるだけ多く分離し、所望の有効な成分をできるだけ多く抽出して、資源の無駄を減らし経済的利益を増加させるために繰り返し実行してもよい。
【0030】
キバナシュスラン種・多糖類抽出物の適用形態に依って、乾燥ステップd)をステップc)で得た沈澱物を乾燥するために実行してもよい。例えば、本発明のキバナシュスラン種・多糖類抽出物を経口投与で適用する場合、抽出物中の有機溶媒を体に害を及ぼさないよう取除くために乾燥ステップ(例えば、減圧下及び/又は通風状態での濃縮)を使用することができる。或いは、ステップc)又はステップd)で得た沈澱物を水に溶かして本発明の抽出物を水様溶液として提供してもよい。
【0031】
本発明の実施形態では、キバナシュスラン種・多糖類抽出物を次のようにして得ることが出来る。先ず、水とキバナシュスラン(Anoectochilus formosanus Hayata)とを混合し、かき混ぜジュースを作り、不溶性成分を濾過して取除き、水溶性のキバナシュスラン種抽出物を得る。次に、約25体積%酢酸エチルをキバナシュスラン種抽出物に加え、脱脂を行い、水相を集めて水様抽出物を得る。その後、最終濃度約75体積%のエタノールをこの水様抽出物に加えて、沈澱物を生成させ、次に、この沈澱物を集めてキバナシュスランの所望の多糖類抽出物を得る。
【0032】
また、本発明は、有用な細菌の成長を促進し、G−CSFの放出を促進し、Th1細胞を調節し、及び/又はTh2細胞を調節するための医薬組成物であって、キバナシュスラン種の効果的な量の上記多糖類抽出物を含む医薬組成物を提供する。具体的には、本発明の医薬組成物は、腸内の脂肪酸(例えば、短鎖脂肪酸)の量の増加、カルシウム吸収の促進、抗骨粗しょう症、抗炎症、白血球減少の抑制、抗アレルギー、喘息の緩和、結腸癌の抑制、及び/又は免疫機能の調節などのために使用されてよい。
【0033】
本発明の医薬組成物は、適切な様々な形態で薬剤として投与できる。例えば、この薬剤は、これらに限定されないが、経口投与、皮下投与、又は静脈投与等により適用することが出来る。本発明の抽出物に加えて、この薬剤は1つ以上の補助薬を含んでもよく、獣医療と人間医療の両方で実際に使用できる。
【0034】
経口投与に適した薬剤を製造する場合、本発明の医薬組成物を経口投与に適し本発明の抽出物の作用に悪影響を与えない補助薬と混合してもよい。例えば、補助薬は、溶媒、油溶媒、希釈剤、安定剤、吸収遅延剤、崩壊剤、乳化剤、結合剤、潤滑剤、溶解剤等であってよい。例えば、溶媒は水又は蔗糖溶液であってよく、希釈剤はラクトース、澱粉、又は微晶質セルロース、吸収遅延剤はキトサン又はグリコサミノグリカン、潤滑剤は炭酸マグネシウム、油溶媒は、オリーブ油、ヘリオトロープ油、魚肝油等の植物油又は動物油であってよい。本発明の医薬組成物と他の適切な補助薬とを、従来の方法で適切な経口投与形態、例えば錠剤、カプセル、顆粒、粉末、流体抽出物、溶液、シロップ、懸濁液、乳濁液、チンキ剤等にしてもよい。
【0035】
皮下投与又は静脈投与に適した薬剤を製造する場合、本発明の医薬組成物と省略可能な補助薬とをこれらの形態の場合に通常使用される1つ以上の成分(例えば、屈水剤、乳化剤、又は他の補助薬)と混合して、静脈注射液、乳濁静脈注射液、注射液、粉末注入剤、懸濁注入液、粉末懸濁注入剤等を調製してもよい。例えば、溶媒は水、生理食塩水、アルコール(例えば、エタノール、プロパノール、グリセリン等)、糖溶液(例えば、グルコース又はマンニトール溶液)、又はこれらの組合せであってよい。
【0036】
選択肢として、上記の有益な補助薬に加えて、他の添加剤、例えば香味剤、トナー、着色剤等も薬剤製造時に加え、投与時の口快適感と視感とを向上させてもよい。また、適切な投与量の防腐剤、保存料、殺菌剤、抗真菌剤等を加え、得られる薬剤の保存性を向上させてもよい。
【0037】
また、該薬剤は、その効果を向上させるか、又は適用及び調合の柔軟性を増加させるために1つ以上の他の活性成分を含んでもよい。例えば、該薬剤に含まれてもよい他の活性成分は、骨粗しょう症を治療するための物質(例えば、アレンドロナート、パラソリン(parathorine)、エストロゲン、カルシウム化合物、又はビタミンD等)、抗関節炎物質(例えば、コンドロイチン又はグルコサミン)、他の活性成分など本発明の抽出物に悪影響を与えない活性成分を含む。
【0038】
被験者の必要に応じて、該薬剤を、1日に1回、1日に数回、又は数日に1回等の異なる投与頻度で適用することが出来る。例えば、該薬剤が哺乳動物において抗炎症のために使用される場合、哺乳動物に投与される医薬組成物の量は、タイプIIアラビノガラクタンとして計算して、1日当り約2mg/kg体重〜約25mg/kg体重である。単位mg/kg体重は、体重1キログラム当りに必要な投与量を意味する。好ましくは、哺乳動物に投与される該医薬組成物の量は、タイプIIアラビノガラクタンとして計算して、1日当り約3mg/kg体重〜約20mg/kg体重である。しかし、深刻な状況(例えば、急性関節炎又は深刻な骨粗しょう症)では、投与量を実際の必要に応じて数倍又は数十倍に増加させることが出来る。
【0039】
また、本発明は、有用な細菌の成長を促進し、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)の放出を促進し、Tヘルパー細胞タイプI(Th1細胞)を調節し、及び/又はTヘルパー細胞タイプII(Th2細胞)を調節するための適切な形態の薬剤を製造するための上記抽出物の使用を提供する。
【0040】
下記に具体的な実施例を用いて本発明を更に詳細に説明する。下記の実施例を参照することで、当業者は本発明の基本思想と他の目的と、本発明の技術方法と実施形態とを容易に理解できるであろう。しかし、下記の実施例は本発明を例示するためだけに提供され、本発明の範囲はこれらによって限定されない。
【実施例】
【0041】
<実施例1>キバナシュスランの水溶性多糖類抽出物の調製
下記に例示するように、図1に示すフローチャートに従って、キバナシュスラン(Anoectochilus formosanus Hayata)の水溶性多糖類抽出物(以下、「WPAF抽出物」と呼ぶ)と、キバナシュスラン(Anoectochilus formosanus Hayata)のタイプIIアラビノガラクタン(以下、「II−AGAF」と呼ぶ)とを調製した。
【0042】
先ず、水と、Yu-Jung farm(台湾)から購入したキバナシュスラン(この植物のサンプルはthe Pharmacy College, China Medical University(台湾)に寄託番号CMU AF 0609で寄託され、このカレッジによって特定されている)とを混合し、ジュースを作り、不溶性成分を濾過して取除き、水溶性のキバナシュスラン抽出物を得た。次に、最終濃度約25体積%の酢酸エチルをキバナシュスラン抽出物に加え、水様抽出物を収集して脂溶性成分を取除いた。次に、最終濃度約75体積%のエタノールをこの水様抽出物に加えて、沈澱物を生成させ、この沈澱物を集めて水に溶かしキバナシュスランの水溶性多糖類抽出物(WPAF抽出物)を得た。収量はキバナシュスラン1kg当り約2.4mgであった。
【0043】
水溶性WPAF抽出物を2つに分け、一方にはアミラーゼ、アミルグルコシダーゼ、及びプロテアーゼ(アイルランドMegazyme International社から購入)を加え、分解させ、最終濃度約75体積%のエタノールを加え、沈澱物を生成させた。最後に、この沈澱物を水に溶かして、多糖であり完全には精製されていないタイプIIアラビノガラクタン(II−AGAF)を得た。
【0044】
<実施例2>WPAF抽出物とII−AGAFとの特性解析
I.ヨウ化物を使用する発色試験
ヨウ化物を使用する発色の原理は、多糖(例えば、澱粉又はグリコーゲン(両方ともグルカンである))はヨウ化物と複合体を形成し、発色する場合があることである。この複合体においてヨウ化物は多糖の螺旋分子鎖の真中に位置し、生成される色は直鎖(α(1→4)結合)の長さに依存する。例えば、アミロースは紫を発色し、澱粉を部分加水分解した生成物であるデキストリンは、鎖の長さに依存して赤褐色〜透明色を発色し、分枝鎖を持つグリコーゲンは赤褐色を発色する。
【0045】
実施例1のWPAF抽出物(12mg)を90%ジメチルスルホキシド(6ml)に加え、100℃で30分間加熱した。次に、得られたサンプルのうち100μlを900μlの水と混合し、50μlの0.01Nヨウ化物(ヨウ化カリウム)を加え、この混合物を振動させて混合した。
【0046】
ヨウ化物を使用する発色試験の結果は、WPAF抽出物が赤〜紫を発色する可能性があることを示した。これは、WPAF抽出物中のα右旋性グルカンが高度に分枝したα(1→4)(1→6)結合の構造を有することを示す。
【0047】
II.βグルコシル・ヤリブ抗原親和性試験
ヤリブ試験をvan Holstの方法及びvan Hengelの方法に従って実行した(van Holst et al., “Quantification of arabinogalactan protein by single radical gel diffusion”, Anal Biochem. 148:446-450, 1985及びvan Hengel et al., “Fucosylated arabinogalactan-proteins are required for full root cell elongation in Arabidopsis”, Plant J. 32:106-113, 2002を参照。これらの文献を本明細書に援用する)。アラビアゴムを陽性対照として使用した。脱イオン水中で、ゲル切片を加熱し、1重量%アガロースI(登録商標)、0.15M塩化ナトリウム、0.02w/v%アジ化ナトリウム、及び10μg/mlβグルコシル・ヤリブ抗原を溶かし、ゲル成形カセット(Protean II, 米国BioRad社)に徐々に注入し、厚さ3mmのゲル切片を作った。次に、直径1.2mmのサンプル装填穴をパスツールピペット(米国Kimble社)で作った。実施例1のWPAF抽出物を0.15M塩化ナトリウム及び0.02w/v%アジ化ナトリウム溶液で溶かした後、0.8μlの抽出物を該サンプル装填穴に装填した。該ゲル切片を湿気のある閉じた容器内に室温で2日間静置した。拡散円が観察された。結果を図2に示す。
【0048】
アラビノガラクタンはタイプIとタイプIIに分類することができ、タイプIアラビノガラクタンのガラクタンの主鎖はβ(1→4)結合で結合され、一方、タイプIIアラビノガラクタンのガラクタンの主鎖は、β(1→3)(1→6)結合で結合されている。合成フェニルグリコサイド(phenylglycoside)であるヤリブ試薬は、タイプIIアラビノガラクタンと反応し発色するので、アラビノガラクタンの結合形態を決定するために使用できる。
【0049】
図2はヤリブ反応が発生し、WPAF抽出物がアラビアゴムと反応し発色したことを示す。これはWPAF抽出物がタイプIIアラビノガラクタンを含んでいることを示す。
【0050】
上記の結果は、WPAF抽出物は主に澱粉とII−AGAFとを含むことを示す。従って、WPAF抽出物をアミラーゼ及びアミルグルコシダーゼで処置すると、澱粉は分解して主残留物としてII−AGAFが残る。また、多糖成分はタンパク質(例えば、糖タンパク質)を通常含むので、プロテアーゼで処置し、更にタンパク質を取除いてもよい。
【0051】
III.タンパク質、糖類、及びウロン酸の含有量の決定
タンパク質の総含有量をFolin-Lowry法及びCoomassie Blue法で測定し、ウシ血清アルブミンを基準として使用した(Lowry et al., “Protein measurement with the Folin phenol reagent”, J. Biol. Chem. 1951. 93: 265-275を参照。この文献を本明細書に援用する)。結果を表1に示す。
【0052】
糖類の総含有量をフェノール硫酸法で測定し、WPAF抽出物に関して、グルコースを基準として使用し、II−AGAFに関して、ガラクトースを基準として使用した(Dubois et al., “Colorimetric method for determination of sugars and related substances”, Anal. Chem. 1956. 28: 350-356を参照。この文献を本明細書に援用する)。結果を表1に示す。
【0053】
ウロン酸の含有量はm−ヒドロキシジフェニルを使用して測定した。この測定において、基準カーブを10〜90μg/mlのガラクツロン酸を使用して作り、0.5重量%水酸化ナトリウム溶液を、m−ヒドロキシジフェニル溶液を置き換え天然糖類の褐色発色反応を補正するために使用した。
【0054】
先ず、0.0125Mの四ホウ酸ナトリウムを含む硫酸溶液(1.2ml)に200μgのWPAF抽出物を加え、完全に混合し、沸騰水に5分間浸漬した。このサンプルを冷却した後、m−ヒドロキシジフェニル溶液(20μl)又は0.5重量%水酸化ナトリウム溶液を加え、15分間静置して発色させた。波長520nmを使って吸光度値を測定した。結果を表1に示す。上記方法はBlumenkrantz et al., “New method for quantitative determination of uronic acid”, Analytical Biochemistry. 1973. 54: 484-489に記載されている。この文献を本明細書に援用する。
【0055】
【表1】
a WPAF抽出物の固形分を基準として使用した。
b BSAを基準とするFolin-Lowry(FL)法による値。
c BSAを基準とするCoomassie Blue(CB)法(Bio-Radタンパク質検定試薬)による値。
d WPAF抽出物の場合、グルコースを、II−AGAFの場合、ガラクトースを基準とするフェノール硫酸法による値。
e ガラクツロン酸を基準として使用した。
【0056】
表1に示すように、WPAF抽出物は約33.4重量%のII−AGAFを含み、II−AGAFは幾らかのタンパク質を含む。
【0057】
IV.単糖比率の分析
WPAF抽出物の多糖類を酸で加水分解して単糖類にした後、HPAEC(高性能陰イオン交換クロマトグラフ)を使用して、WPAF抽出物の単糖比率を分析し、実施例1のWPAF抽出物及びII−AGAFの単糖組成を決定した。加水分解は2Mトリフルオロ酢酸を主に使用して行った。
【0058】
先ず、WPAF抽出物(1mg)又はII−AGAF(1mg)を2Mトリフルオロ酢酸溶液(1ml)に溶かし、真空加水分解管内に静置し酸加水分解を行った。反応条件は100℃、3時間であった。反応終了後、トリフルオロ酢酸を減圧下で濃縮することで取除き、脱イオン水をサンプルに加え、サンプルを再び減圧下で濃縮することで乾燥させた。上記手順はトリフルオロ酢酸を取除くために数回繰り返すことが出来る。
【0059】
次に、HPAEC分析を行った。上記の加水分解質を1mlの脱イオン水で溶かし、孔サイズ0.45μmのPVDF薄膜(米国Millipore社)で濾過し、HPAECシステムに注入し分析を行った。HPAECシステムの構成要素と分析条件は、817 Bi Bioscan(スイスMetrohm社)、812 valve unit(スイスMetrohm社)、Series III pump(米国LabAlliance社)、検出器:パルス式電流測定検出器(スイスMetrohm社)、電位及びパルス時間:E1:0.05ボルト/0.4s,E2:0.75ボルト/0.2s,E3:−0.15ボルト/0.4s、サンプルループ:容量:20μl、分離カラム:CarboPac PA1 guard column(4×50mm)−CarboPac PA1(4×250mm)(米国Dionex社)、流量:1.0ml/分、溶離システム:10mM水酸化ナトリウム及び1mM酢酸バリウム(孔サイズ0.2μmのナイロン薄膜(米国ChromTech社)で濾過した)、データ処理システム:Metrodata IC Net 2.1(スイスMetrohm社)であった。アラビノース、ガラクトース、グルコース、マンノース、及びフルクトースを基準として使用し、保持時間を比較することで分析を行った。結果を表2、図3A、及び図3Bに示す。
【0060】
【表2】
【0061】
図3Aに示すように、HPAEC分析によると、WPAF抽出物は、グルコース、ガラクトース、アラビノース、マンノース、及びフルクトース等の単糖単位を含む。それらの比率を表2に示す。グルコースの比率が最も高い。
【0062】
図3Bに示すように、アミラーゼ及びアミルグルコシダーゼでWPAF抽出物を分解した後に得られたII−AGAFは、グルコース、ガラクトース、アラビノース、マンノース、及びフルクトース等の単糖単位をまだ含む。それらの比率を表2に示す。ガラクトースの比率が最も高い。
【0063】
これらの結果は、本発明のWPAF抽出物は、澱粉と、ガラクタンをバックボーンとするアラビノガラクタンとを主に含むことを示す。アラビノガラクタンの側鎖はグルコース単位とマンノース単位を含む。
【0064】
V.分子量の決定
実施例1のWPAF抽出物とII−AGAFとの分子量をHPSEC(高性能サイズ排除クロマトグラフ)で分析した。WPAF抽出物又はII−AGAFの適当な量を脱イオン水で溶かし、孔サイズ0.45μmのPVDF薄膜(米国Millipore社)で濾過し、容量500μlのサンプルループに注入し、HPSEC機で分析した。分子量分析の基準はSTANDARD P-82(プルラン:P-800(78.8×104ダルトン)、400(40.4×104ダルトン)、200(21.2×104ダルトン)、100(11.2×104ダルトン)、50(4.73×104ダルトン)、20(2.28×104ダルトン)、10(1.18×104ダルトン)、及び5(0.59×104ダルトン)、日本Shodex社)である。
【0065】
HPSEC分析の条件は、洗浄溶液供給ポンプ:709 IC pump(スイスMetrohm社)、注入器:Rheodyne sample injector(米国Cotati社)、サンプル注入量:500μL、カラム用の定温キャビネット:70℃に維持されたSuper CO-150(台湾Enshine社)、検出器:直列接続された多角度レーザ光散乱光度計(DAWN EOS、米国Wyatt Technology社)と干渉型屈折率計(OPTILAB DSP、米国Wyatt Technology社)(屈折率計の温度は35℃に維持)、カラム:Tskgel guard column PWH (75×7.5mm内側寸法、日本Tosho社)+TSKgel G4000 PWXL(300×7.8mm内側寸法、日本Tosho社)+ViscoGel G2500 PWXL(300×7.8mm内側寸法、米国Viscotek社)、流相:0.3N亜硝酸ナトリウム(NaNO3)+0.02%アジ化ナトリウム(NaN3)、流量:0.8ml/分である。
【0066】
分析結果を図4に示す。図4において、実線はWPAF抽出物を、点線はII−AGAFを表す。計算後、WPAF抽出物の平均分子量(MW)は55キロダルトン、II−AGAFの平均分子量は29キロダルトンである。
【0067】
<実施例3>WPAF抽出物のプレバイオティクス効果
I.管試験
ビフィズス菌ブレーベ(Bifidobacterium breve)を食品工業発展研究所(台湾)から購入し、MRS培地(1重量%プロテオースNo.3、1重量%牛肉エキス、0.5重量%酵母菌エキス、2重量%デキストロース、0.1重量%Tween 80、0.2重量%クエン酸アンモニウム、0.5重量%酢酸ナトリウム、0.01重量%硫酸マグネシウム、0.005重量%マンガン、0.2重量%リン酸カリウム、及び1.5重量%寒天(米国Difco社)を含む)で培養した。この細菌を培養器内で嫌気的条件下で1〜2日間培養した後、培養液を集め、波長600nmを使って濁度を測定した。次に、培養液を適切に希釈し、プレート内のMRS培地の表面上に均一に塗布し、培養器内で嫌気的条件下で37℃で培養した。2日後、培地の濁度を測定し、コロニー数を計数した。
【0068】
濁度は、MRS培地に培養液を塗布し培養した後のコロニー数に直線的に比例する。これらの関係を表す式とr値を下記に示す。
Y=(1361X−11.74)×107、r2=0.9871
Y=コロニー形成ユニット(CFU)/ml、X=OD600
【0069】
上記の式は、濁度はコロニー数を反映し、従って、下記の実験においてコロニー数は濁度で表わされることを示す。
【0070】
図5に示すように、ビフィズス菌ブレーベの培養時間対濁度のカーブグラフにおいて、最大の傾き0.05は培養18時間後に存在する。実施例1の様々な濃度のWPAF抽出物をビフィズス菌ブレーベを含む培地に加えた場合、ビフィズス菌ブレーベの成長カーブの最大の傾きは18時間から16時間に移動した。様々な濃度0.5、1、2mg/mlのWPAF抽出物の16時間における傾きはそれぞれ0.08、0.10、0.10であり、対照グループの18時間における傾きは0.06である。この結果は本発明のWPAF抽出物はビフィズス菌ブレーベの成長を促進する可能性があることを示す。対照グループと実験グループに関して、18時間培養後のビフィズス菌ブレーベの濁度を表3に示す。
【0071】
【表3】
全ての値は平均±SD(n=6)。**P<0.01,
***P<0.001(対照グループと比較)
【0072】
II.マウス腸試験
ICRマウス(台湾BioLASCO社から購入)を下記の実験において使用した。先ず、水又は実施例1のWPAF抽出物(15又は40mg/kg体重)をマウスに投与した。3日後と7日後にマウスの糞を密封容器で収集した。これらの糞を適切な比率の無菌嫌気希釈液で希釈し、管振動器で均一に混合して均質な液体を作った。嫌気的条件下で、この液体を適切な濃度に希釈し、ビフィズス菌類を含むBeerens培地(1L培地は37gブレインハートインフュージョン、5g酵母菌エキス、0.5gシステイン、及び15g寒天を含む)の表面上に塗布し、次に、培養器内において嫌気的条件下で37℃で2〜4日間培養し、コロニー数を計数した。
【0073】
結果を表4に示す。3日目に投与量45mg/kg体重のWPAF抽出物は、マウスの糞のビフィズス菌類のコロニー数を明らかに増加させた。7日目に投与量15及び45mg/kg体重のWPAF抽出物の両方が、糞のビフィズス菌類のコロニー数を明らかに増加させた。
【0074】
【表4】
全ての値は平均±SD(n=7)。*** P<0.001(H2Oグループと比較)
【0075】
<実施例4>WPAF抽出物の抗骨粗しょう症効果
I.卵巣切除マウス試験
ICRマウス(台湾BioLASCO社から購入)を下記の実験において使用した。エストロゲンの不十分な分泌は骨粗しょう症を引き起こす場合があることが知られている。従って、この実験では、ICRマウスの卵巣を取除き、エストロゲンを分泌できなくして骨粗しょう症を発症させた。対照グループ(即ち、偽のグループ)では、ICRマウスの背の両側の卵巣位置の皮膚と筋肉を切開し、次に卵巣を取除くことなく縫合した。
【0076】
3日後、実施例1のWPAF抽出物を様々な投与量(15又は45mg/kg体重)でICRマウスに投与した。投与から3週間後、マウスを屠殺した。以下、卵巣を取除いたマウスを「OVX」又は「OVXマウス」と呼ぶ。
【0077】
マウスの血清内のI型コラーゲン架橋C末端テロペプチド(CTx)の量をELISA(酵素免疫吸着法)により決定した。実験薬剤はデンマークIDS Nordic社から購入した。CTxは骨のコラーゲンの分解生成物であり、血液中のCTxの濃度が上がると、骨吸収が増加すること意味し、骨粗しょう症を引き起こす可能性がある(Swaminathan. 2001, “Biochemical markers of bone turnover”, Clinica Chimica Acta. 313: 95-105を参照。この文献を本明細書に援用する)。結果を表5に示す。
【0078】
【表5】
全ての値は平均±SD(n=8)。##P<0.01(H2Oグループと比較)
*P<0.05(OVX+H2Oグループと比較)
【0079】
表5に示すように、卵巣を取除くことはマウスの血清中のCTx濃度を増加させる可能性があり、本発明のWPAF抽出物はCTx濃度を下げる可能性がある。これはWPAF抽出物は骨吸収を抑制し骨基質の喪失を低減できることを示す。
【0080】
その後、マウスの大腿骨を取出し、マイクロCT(コンピュータ断層撮影)スキャナー(SkyScan 1076)で撮影した。梁数と骨量(BV)と組織量(TV)との比を分析ソフトウェアで分析した。結果を図6及び表6に示す。
【0081】
【表6】
全ての値は平均±SD(n=8)。##P<0.01(対照グループと比較)
* P<0.05(OVX+H2Oグループと比較)
【0082】
図6及び表6から分かるように、本発明のWPAF抽出物は、OVXマウスの骨量比の減少と梁数の減少を抑制する可能性がある。
【0083】
その後、マウスの脊柱を取出し、付いている肉を完全に取除き、エタノールに浸漬して脂肪を取除き、100℃で一晩乾燥し、その重量を測定した。次に、脊柱を1000℃で10時間焼き、灰の重量を測定した。その灰を6N塩酸に溶かした。その灰のカルシウムの量をo−クレゾールフタレインコンプレクソンを用いて測定した。脊柱1g当りのカルシウムの重量を求めた。検定薬剤は英国Randox Lab.社から購入した。結果を表7に示す。
【0084】
【表7】
全ての値は平均±SD(n=8)。###P<0.001(対照グループと比較)
** P<0.01(OVX+H2Oグループと比較)
【0085】
表7に示すように、本発明のWPAF抽出物は、OVXマウスの脊柱のカルシウム喪失を抑制する可能性がある。図6、表5〜表7から、上記実験は、本発明のWPAF抽出物は、卵巣を取除いたことによって発症したマウスの骨粗しょう症を緩和できることを示す。
【0086】
II.カルシウム吸収試験
上記屠殺したICRマウスの盲嚢内の物質を取出し、遠心分離機にかけ上澄みを集めた。上澄みを適切に希釈した後、カルシウム濃度をo−クレゾールフタレインコンプレクソンを用いて測定した。結果を表8に示す。
【0087】
【表8】
全ての値は平均±SD(n=8)。*P<0.05(OVX+H2Oグループと比較)
【0088】
表8に示すように、本発明のWPAF抽出物は、マウスの盲嚢内の遊離カルシウムの量を増加させる可能性がある。酸性環境はカルシウムの溶解度を上昇させるので、腸によるカルシウムの吸収を容易にする。従って、下記の実験は、マウスの盲嚢内の物質中の短鎖脂肪酸の量を更に測定する。
【0089】
上記上澄みをHPLC機で分析した。HPLC機の構成要素は、ポンプ供給システム:SDS 9414溶剤供給システム(ドイツSchambeck SFD社)、サンプル注入容量:20μL、検出器:115 UV検出器(波長210nm)(米国Gilson社)及び屈折率計:Shodex RI-71(日本SHOWA DENKO社)、カラム:Transgenomic ICSep ION-300 column(米国Transgenomic社)及びガードカラム:Transgenomic ICSep ION-300 Guard kit(米国Transgenomic社)、カラムのオーブンの温度:65℃、溶離剤:0.0085NのH2SO4、データ処理システム:SISC Hsun-Huaクロマトグラフィー統合データ処理システム(台湾Hsun-Hua社)である。
【0090】
上記上澄みをこのシステムに注入し、吸光度を波長210nmで紫外線検出器を使って測定した。有機酸の最大吸光度の波長は210nmであるので、この波長を短鎖脂肪酸の量を検出するために使用でき、その濃度は屈折率計で測定できる。この実験では、様々な濃度の短鎖脂肪酸基準(酢酸、乳酸、プロピオン酸、及び酪酸を含む)を調製し、基準カーブを解析図中のピークの積分面積と濃度とに従って作成し、上澄み中の短鎖脂肪酸の濃度を求めた。単位「μmol/g盲嚢内物質」は酢酸、プロピオン酸、及び酪酸の量を表すために使用される。結果を図7A〜図7Dに示す。
【0091】
図7A〜図7Dから分かるように、本発明のWPAF抽出物は、マウスの盲嚢内の短鎖脂肪酸の量を増加させ、従って、盲嚢内のpH値を減少させ、カルシウム吸収を促進する可能性がある。
【0092】
腸粘膜細胞のCaBP−D9k(カルシウム結合タンパク質)はカルシウム吸収に密接に関係している。CaBP−D9kの発現量が増加すると、カルシウム吸収も増加する(Bouillon et al., 2003, “Intestinal calcium absorption: molecular vitamin D mediated mechanisms”, J. Cell. Biochem., 88: 332-339を参照。この文献を本明細書に援用する)。
従って、下記の実験はCaBP−D9kのmRNA量を、その発現量を観察するために更に分析した。
【0093】
先ず、ICRマウスの盲嚢粘膜を引っかき集め、mRNAを抽出した。盲嚢及び結腸粘膜のCaBP−D9kのmRNA発現量をRT−PCRで分析した。CaBP−D9kの分析のためのプライマー配列は次のとおりである。
センス:AAGAGCATTTTTCAAAAATA (SEQ ID NO: 1)
アンチセンス:GTCTCAGAATTTGCTTTATT (SEQ ID NO: 2)
【0094】
図8A及び図8Bから分かるように、WPAF抽出物は盲嚢のCaBP−D9kのmRNA発現を促進する。これはWPAF抽出物がカルシウム吸収を促進できることを示す。
【0095】
実施例3及び実施例4は、本発明のWPAF抽出物は、腸内の有用な細菌の成長を促進することで有用な細菌の量を増加させ、腸内の発酵を促進し、短鎖脂肪酸を産生してpH値を下げ、カルシウム吸収を促進する可能性がある。従って、本発明のWPAF抽出物は、骨粗しょう症を緩和することが出来る。
【0096】
<実施例5>WPAF抽出物は、G−CSFを放出するようマクロファージを刺激する
I.マウスのマクロファージ試験
先ず、5重量%チオグリコレート(米国Becton Dickinson社)をICRマウスに腹膜腔注射により投与した。3日後、ICRマウスに腹膜腔のマクロファージをハンクス液(米国Amresco社)で洗い出し、培地(ダルベッコMEM培地(Dulbecco’s modified eagle’s medium)、10%加熱不活性化したウシ胎児血清、100U/mlペニシリン、及び100μg/mlストレプトマイシンを含む)で培養した。次に、実施例1のWPAF抽出物(50、100、又は200μg/ml)をマクロファージを含む培地に加え、培養を続けた。16時間後、培養液を遠心分離機にかけ、上澄みを集め、マウス血清のG−CSFの濃度をELISAで測定した。結果を表9に示す。
【0097】
【表9】
全ての値は平均±SD(n=3)。*P<0.05, **P<0.01(対照グループと比較)
【0098】
表9から分かるように、本発明のWPAF抽出物は、マウスの腹膜腔のマクロファージを明らかに活性化し、G−CSFを放出させる。
【0099】
II.白血球試験
シクロホスファミドは化学療法のための薬剤であり、免疫抑制効果があり、白血球の量を減らす。先ず、実施例1のWPAF抽出物(15又は45mg/kg体重)をICRマウスに3日間連続して腹膜腔注射により投与した。3日目に、投与から30分後、100mg/kg体重のシクロホスファミドをマウスの腹膜腔に注射した。シクロホスファミドの投与後2日目に、マウスの血液を眼窩から採取し、その中の小核を測定した。マウス小核用のプロトタイプMicroFlow解析キット(FITC-anti CD71及びヨウ化プロピジウムを含む)を使用して測定した。フローサイトメトリー(Becton Dickinson FASCScan)を使用して600〜950個の多染赤血球(網状赤血球)、小核数、及び多染赤血球と全赤血球との比とを計数した。上記実験の手順は、Hayashi et al., 1990, “The micronucleus assay with mouse peripheral blood reticulocytes using acridine orange-coated slides”, Mutat. Res. 245: 245-249に記載されている。この文献を本明細書に援用する。
【0100】
実験中、実施例1のWPAF抽出物をICRマウスに毎日投与し、シクロホスファミド投与後7日目にICRマウスを屠殺した。マウスの脾臓を取出し、その重量を測定し、白血球の変化を血球分析装置で分析し、血清中のG−CSF濃度も分析した。結果を表10及び表11に示す。
【0101】
【表10】
全ての値は平均±SD(n=8)。 #P<0.05, ###P<0.01(対照グループと比較)。CP:シクロホスファミド、MN:小核、NCE:正染色性赤血球、PCE:多染赤血球
【0102】
表10から分かるように、シクロホスファミド投与の48時間後、シクロホスファミドはマウスの血液の多染赤血球数を減少させ、小核数を増加させる。実施例1のWPAF抽出物はこの現象に影響を与えない。このことは本発明のWPAF抽出物はシクロホスファミドの抗癌効果に影響を与えないことを示す。
【0103】
【表11】
全ての値は平均±SD(n=8)。##P<0.01(対照グループと比較)、*P<0.05, **P<0.01(CP+H2Oグループと比較)。CP:シクロホスファミド
【0104】
表11から分かるように、本発明のWPAF抽出物は脾臓重量の減少とシクロホスファミドによるマウス白血球数の減少とを緩和する可能性がある。また、本発明のWPAF抽出物は、シクロホスファミドを助け、マウス血液中のG−CSF濃度を増加させる。
【0105】
上記の結果は、本発明のWPAF抽出物は、シクロホスファミドの抗癌機構又は作用に影響を与えないが、シクロホスファミドによるマウス白血球数の減少という副作用をG−CSFの放出を促進することで緩和できることを示す。
【0106】
<実施例6>II−AGAFの抗炎症効果
I.免疫細胞活性化試験
幾つかの多糖は免疫細胞を活性化する作用を持つことが知られている。従って、マクロファージRAW264.7を使用してII−AGAFの活性化効果とリポ多糖類(LPS)の活性化効果とを比較した。
【0107】
様々な濃度(50又は100μg/ml)のII−AGAF又はLPS(1μg/ml)をマクロファージRAW264.7を含む培地(ダルベッコMEM培地、10%加熱不活性化したウシ胎児血清、100U/mlペニシリン、及び100μg/mlストレプトマイシンを含む)に加えた。24時間培養後、培養液を遠心分離機にかけ、上澄みを集めた。上澄み液中の一酸化窒素の量をグリース試薬を用いて測定し、G−CSF濃度をELISAで測定した。結果を図9A〜図9Cに示す。
【0108】
図9A〜図9Cから分かるように、II−AGAFとLPSの両方は、一酸化窒素とG−CSFを放出するようマクロファージを刺激することが出来る。LPSのG−CSF/一酸化窒素放出比率は約0.8、II−AGAFは約1.6であり、これはII−AGAFはG−CSFの放出を促進するより高い選択性を有していることを示す。
【0109】
II.マウス炎症試験
様々な濃度(5又は15mg/kg体重)のII−AGAFをICRマウスに腹膜腔注射により投与した。15分後、LPS(80mg/kg体重)をICRマウスに腹膜腔注射により投与した。1時間後と16時間後、ICRマウスの血液を眼窩から採取し、TNF−α濃度を酵素免疫測定剤(米国eBioscience社)を用いて測定した。結果を図10A及び図10Bに示す。
【0110】
図10A及び図10Bから分かるように、LPSの投与から1時間後と16時間後に、II−AGAFはマウス血液中のTNF−α濃度を明らかに減少させた。これはII−AGAFが抗炎症効果を有することを示す。
【0111】
<実施例7>WPAF抽出物はTリンパ球を調節する
EL4細胞株(台湾国家衛生研究所から頂いたATCC(American Tissue Culture Collection)で培養されたT細胞株)をDMEM培地(4mMのL−グルタミンを含み、1.5g/L重炭酸ナトリウム及び4.5g/Lグルコース(90%)含むよう調整されたダルベッコMEM培地及び10%ウシ胎児血清を含む)で培養し、実施例1のWPAF抽出物(0.8、4.0、又は20.0μg/ml)をこの培地に加えた。
【0112】
48時間培養した後、細胞のタンパク質とRNAを抽出した。タンパク質をウエスタンブロット法で転写し、T−bet抗体、GATA−3抗体、及びグリセロアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)抗体(Cell Signaling Technology社から購入)を検出のために使用した。結果を図11に示す。RNAの逆転写をMMLV逆転写酵素1stストランドcDNA合成キット(米国Epicentre Biotechnologies社)を用いて実行し、dUTP及びROX(台湾Protech社)と混合した特定のプライマーとPCR機(Smart-Quant Green Real-Time PCR Master)とをリアルタイム定量PCR分析を行うために使用した。デジタル分析結果を表12に示す。
【0113】
【表12】
全てのデータはGAPDHのmRNAの発現量で補正され、対照グループと比較されている。全てのデータは平均±SD(n=3)。*P<0.05, **P<0.01(対照グループと比較)
【0114】
表12と図11に示すように、WPAF抽出物(4.0及び20.0μg/ml)の刺激のもと、EL4細胞の転写因子T−betのタンパク質発現が明らかに増加し、T−betのmRNAの発現も増加した。また、IFN−γのmRNA発現も著しく増加した。これは本発明のWPAF抽出物がIFN−γの発現を誘導し、Th1細胞の分化を促進できることを示す。別の態様では、WPAF抽出物(4.0及び20.0μg/ml)の刺激のもと、転写因子GATA−3のタンパク質発現が明らかに減少し、そのmRNA発現も減少し、IL−4及びIL−13のmRNA発現も著しく減少した。これは本発明のWPAF抽出物はIL−4及びIL−13の発現を低減し、従って、Th2細胞の分化を抑制する効果があることを示す。
【0115】
<実施例8>WPAF抽出物は喘息を緩和する
8週齢のBALB−c雄マウス(台湾国家実験動物センターから購入)を下記の実験に使用した。マウスを4つのグループに分け、1つは対照グループ、他の3つは喘息実験グループとした。
【0116】
先ず、マウスに実施例1のWPAF抽出物を1週間経口投与し、次にアトピー性喘息を起こさせるために、0.2mlアルブミン(Sigma社)を実験グループのマウスに腹膜腔注射により投与した。以下、アルブミンによって引き起こされたアトピー性喘息のマウスを「OVA」又は「OVAマウス」と呼ぶ。
【0117】
アルブミンの調製において生理食塩水を溶媒として使用した。この溶液は10μgグレードVアルブミン(40μg水酸化アルミニウムゲルを吸収(Sigma社))を含む。アルブミン注射後11〜15日目に、1日1回アルブミンをマウスの鼻腔に滴下した。1週間後、アルブミンを再びマウスの鼻腔に滴下し、滴下から1時間後、6時間後、及び24時間後に、マウスの気道の抵抗力(enhanced pause(Penh))を呼吸装置(Buxco MAX II 1320 Modular Unit & Bias Flow Regulator)を用いて測定した。抵抗力の測定は呼気及び吸入のピーク流量と呼吸時間(breathing time)との比を計算することで行った。結果を表13に示す。
【0118】
実験が48時間経過した後、マウスをエーテルで麻酔して屠殺し、マウスが死ぬ前に脇の下から血液を採取した。マウスの肺を1mlハンクス液(米国Amresco社)で3回洗浄し、肺胞すすぎ液を集めた。次に、マウスの肺を取出し、生理スライス分析のために10体積%中性ホルマリンに浸漬した。生理スライス分析はHE染色法で行い、スライスの細胞を観察した。結果を図12に示す。
【0119】
細胞表面上の抗体をマーカーとして使用し、フローサイトメトリーを使用して肺胞すすぎ液中の細胞数を計数し、細胞を分類した。使用した薬剤はCD3、CD4、CD8、CD19、CD25、CD45、及びCD69(米国e-Bioscience社)であった。肺胞すすぎ液中のサイトカインIL−4、IL−5、IL−2、及びIFN−γの量を酵素免疫測定法で測定した。使用した検定薬剤は米国e-Bioscience社から購入した。マウスの血液中の抗体IgE、IgG1、及びIgG2aの量も酵素免疫測定法で測定した。使用した検定薬剤は米国Bethyl Laboratories社から購入した。結果を表14〜表16に示す。
【0120】
【表13】
全てのデータは平均±SD(n=10)。###P<0.001(対照グループと比較)、*P<0.05, ***P<0.001(OVA+H2Oグループと比較)
【0121】
表13に示すように、気道の抵抗力の分析において、OVA+H2Oグループのマウスの気道抵抗力は、1時間後と6時間後に明らかに増加し、24時間後に若干減少した。本発明のWPAF抽出物はマウスの気道抵抗力を明らかに減少させた。
【0122】
【表14】
全てのデータは平均±SD(n=10)。 ###P<0.001(対照グループと比較)、
*P<0.05, **P<0.01(OVA+H2Oグループと比較)
【0123】
図12及び表14に示すように、本発明のWPAF抽出物はOVAマウスの気道の全肺侵入性細胞(即ち、肺胞すすぎ液中の細胞)の数を効率的に抑制できる。様々な種類の侵入性細胞に関して、本発明のWPAF抽出物はマクロファージ及びエオシノフィルの数を減少させるが、ニューロフィルの数には影響しない。また、本発明のWPAF抽出物はリンパ球の数を増加させる。リンパ球はTリンパ球とBリンパ球とを含み、Tリンパ球は免疫調節作用を有している。
【0124】
【表15】
全てのデータは平均±SD(n=10)。###P<0.001, ##P<0.01, #P<0.05(対照グループと比較)、*P<0.05, **P<0.01, ***P<0.001(OVA+H2Oグループと比較)
【0125】
表15に示すように、肺侵入性細胞のサイトカインの発現を観察した。表15は、本発明のWPAF抽出物は上記肺胞すすぎ液中のIL−4及びIL−5の量を減少させ、一方、IFN−γの量を増加させ、IL−2の量を若干増加させたことを示す。
【0126】
IFN−γ及びIL−2はTh1細胞から分泌されるサイトカインであり、IL−4及びIL−5はTh2細胞から分泌されるサイトカインである。上記結果は、本発明のWPAF抽出物が免疫調節作用を有し、Th1細胞が媒介する免疫反応を促進し、一方、Th2細胞が媒介する免疫反応を抑制し、これによってTh1細胞とTh2細胞との免疫バランスを調節する。
【0127】
【表16】
全てのデータは平均±SD(n=10)。###P<0.001, ##P<0.01(対照グループと比較)、 *P<0.05(OVA+H2Oグループと比較)
【0128】
表16に示すように、高い投与量(45mg/kg体重)のWPAF抽出物は、マウス血清中の、Th2細胞によって調節される特定のアトピー抗体(抗OVA・IgE)とIgG1抗体との数を減少させる可能性がある。マウスにWPAF抽出物を投与すると、その免疫システムは調節され、Th1/Th2細胞の免疫バランスの変化(Th1細胞経路へ傾斜した)が起こり、Th1細胞によって調節されるIgG2a抗体の量を著しく増加させた。
【0129】
上記の結果は、本発明のWPAF抽出物は免疫調節作用を有し、Th1細胞とTh2細胞との免疫バランスを調節し、Th1細胞が媒介する免疫反応を促進してIgG2a抗体の量を増加させ、一方、Th2細胞の免疫反応を抑制してアトピー抗体IgE及びIgG1の量を著しく減少させる可能性があることを示す。
【0130】
図12及び表13〜表16は、本発明のWPAF抽出物は免疫調節により喘息を緩和する可能性があることを示す。
【0131】
<実施例9>WPAF抽出物は結腸癌を抑制する
8週齢のBALB−c雌マウス(台湾国家実験動物センターから購入)を下記の実験に使用した。マウスを4つのグループに分け、1つは対照グループ、他の3つは結腸癌実験グループとした。実験グループを水を投与するグループと、実施例1のWPAF抽出物(15又は45mg/kg体重)を投与するグループに更に分けた。
【0132】
先ず、マウスにWPAF抽出物を2週間経口投与し、次に10mg/kg体重の発癌物質アゾキシメタン(AOM、Sigma社)をマウスの腹膜腔に注入し、WPAF抽出物をマウスに連続して経口投与した。4ヶ月後、マウスを屠殺し、腸を取出し、腸内の物質をD−PBS緩衝液(ダルベッコ・リン酸緩衝生理食塩水)で洗い出した。次に、腸を切開し、10体積%中性ホルマリン溶液に浸漬し、平らに固定した。1週間浸漬後、大腸をメチレンブルーで染色し、単位長さ当りの前腫瘍組織(異常腺窩巣、ACF)の数を計数した。結果を図13及び表17に示す。
【0133】
次に、腸間膜リンパ節をマウスの大腸から取出し、単一細胞懸濁液にして、リンパ球サブファミリーの分化抗原を分析した。腸間膜リンパ節組織内の免疫調節細胞のサブファミリーTreg細胞(T制御性細胞CD4+、及びCD25+)、Th1細胞(CD4+及びTim−3+)、及びTh2細胞(CD4+及びCD278+)をFITC(イソチオシアン酸フルオレセイン)とPE(フィコエリトリン)で染色したモノクローナル抗体と、フローサイトメトリーとで分析した。結果を表18に示す。
【0134】
腸間膜リンパ球を1.0×106/mlの密度で24ウェル培養プレート内で培養した。細胞はコンカナバリンAで刺激された。1〜3日後、培養液を遠心分離機にかけ、上澄みを集めた。サイトカインIFN−γ、IL−4、及びIL−5の分泌量を酵素免疫測定法で測定した。結果を表19に示す。
【0135】
【表17】
全てのデータは平均±SD(n=10)。 ###P<0.001(対照グループと比較) *P<0.05(AOM+H2Oグループと比較)
【0136】
図13及び表17に示すように、直腸腫瘍がアゾキシメタンの誘導により生成された時、異常腺窩巣が明らかに形成され、マウスに高投与量(45mg/kg体重)のWPAF抽出物を経口投与するにしたがって、異常腺窩巣の数が効率的に減少した。
【0137】
【表18】
全てのデータは平均±SD(n=10)。単位は%。 #P<0.05(対照グループと比較)、 *P<0.05, **P <0.01(OVA+H2Oグループと比較)
【0138】
表18に示すように、マウスの大腸腫瘍がアゾキシメタンの誘導により生成された時、Treg細胞の数が明らかに増加し、マウスに低投与量(15mg/kg体重)のWPAF抽出物を経口投与するにしたがって、Treg細胞の比が減少した。これはWPAF抽出物は腫瘍細胞を抑制する作用を有することを示す。
【0139】
別の態様では、Th1細胞及びTh2細胞のサブファミリーの組成分析において、直腸腫瘍がアゾキシメタンの誘導により生成されるのにしたがって、Th1細胞(CD4+及びTim−3+)の比率は明らかに減少し、本発明のWPAF抽出物をマウスに投与した後、その比率は著しく増加したことが分かった。また、直腸腫瘍がアゾキシメタンの誘導により生成されるのにしたがって、Th2細胞(CD4+及びCD278+)の比率は著しく増加した。上述したように、Th2細胞の免疫反応の高まりは、アゾキシメタンにより誘導された腫瘍形成を促進することが知られている。本発明のWPAF抽出物をマウスに投与した後、Th2細胞の比率は著しく減少した。これは、本発明のWPAF抽出物はTh2細胞の免疫反応を低下させることで腫瘍形成を抑制する可能性があることを示す。
【0140】
【表19】
全てのデータは平均±SD(n=10)。#P<0.05(対照グループと比較)、*P<0.05(OVA+H2Oグループと比較)
【0141】
表19に示すように、本発明のWPAF抽出物は、アゾキシメタンにより誘導された腫瘍のあるマウスのIFN−γ分泌を増加させ、IL−4及びIL−5分泌を抑制する可能性がある。
【0142】
上記の実験は、本発明のWPAF抽出物はTh1細胞とTh2細胞との免疫バランスを調節してTh1細胞が媒介する免疫反応を促進し、一方、Th2細胞の免疫反応を抑制して免疫調節により結腸癌を抑制できることを示す。
【0143】
<実施例10>WPAF抽出物の活性成分の決定
I.II−AGAFのプレバイオティクス効果
実施例1の表1から分かるように、実施例1のWPAF抽出物は33.4重量%のII−AGAFを含む。実施例1のWPAF抽出物とII−AGAFをそれぞれ、プレバイオティクス検定を実行するために使用した。ビフィズス菌ブレーベを有用な細菌として使用した。検定に使用したII−AGAFの量は、WPAF抽出物のII−AGAF含有量に一致する(例えば、WPAF抽出物の投与量が0.6gである時、比較グループのII−AGAFの投与量は約0.2gである)。結果を図14に示す。図14に示すように、本発明のWPAF抽出物と対応する量のII−AGAFとが提供するプレバイオティクス効果は等しい。
【0144】
II.II−AGAFの免疫細胞活性化効果
上記のプレバイオティクス検定と同様に、実施例1のWPAF抽出物と対応する量のII−AGAFとをそれぞれ、マクロファージRAW264.7を含む培地に加えた。24時間培養後、mRNAを抽出し、一酸化窒素シンセターゼ、G−CSF、及びTNF−αの発現を分析するためにRT−PCRを行った。図15に示すように、本発明のWPAF抽出物と対応する量のII−AGAFとが提供する免疫細胞を活性化する効果は等しい。
【0145】
上記の結果から、本発明のWPAF抽出物の主活性成分はII−AGAFであることが推測できる。澱粉等のWPAF抽出物の他の成分は、特定の生理作用を提供しない。理論によって制約されることなく、澱粉が消化管に入った後、澱粉はアミラーゼによってグルコースに分解されると考えられており、従って、特定の生理作用を提供することはない。
【0146】
上記の開示は本発明の詳細な技術的内容と独創的特徴とに関する。当業者は、本発明の上記開示と示唆とに基づいて様々な変更と置換えとを本発明の特徴から逸脱することなく想到する可能性がある。しかし、そのような変更と置換えとは上記記載において完全には開示されていないが、添付の請求項に実質的に記載されている。
【技術分野】
【0001】
本発明は、有用な細菌の成長を促進し、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)の放出を促進し、Tヘルパー細胞タイプI(Th1細胞)を調節し、及び/又はTヘルパー細胞タイプII(Th2細胞)を調節するためのキバナシュスラン種・多糖類抽出物の使用と、その調製方法とに関する。
《関連する出願への相互参照》
本出願は、2009年10月5日付で出願した台湾特許出願第098133714号に基づく優先権を主張するものである。
【背景技術】
【0002】
キバナシュスラン種(Anoectochilus spp.)はラン科に属し、キバナシュスラン(Anoectochilus formosanus Hayata)は血圧を減少させる効果、血糖値を下げる効果、肝臓を保護する効果、抗炎症効果、制癌効果、免疫システムを調節する効果等の広い効果を有していると考えられている。従って、キバナシュスラン(Anoectochilus formosanus Hayata)は、中国医学において「薬の王」又は「薬の虎」とも呼ばれている(特許文献1、非特許文献1、非特許文献2を参照。これらの文献を本明細書に援用する)。
【0003】
しかし、キバナシュスラン(Anoectochilus formosanus Hayata)の活性成分は現在、不明なままであり、キバナシュスラン(Anoectochilus formosanus Hayata)についての研究は、原抽出物に限定され、従って、薬効率の最適化及び薬理学的研究も限定されている。また、キバナシュスラン種の生理学的作用は完全には分かっていないので、キバナシュスラン種の他の病気への適用を研究する必要がある。
【0004】
本発明の発明者は、キバナシュスラン種・多糖類抽出物は、有用な細菌の成長を促進する効果、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)の放出を促進する効果、Tヘルパー細胞タイプI(Th1細胞)を調節する効果、及び/又はTヘルパー細胞タイプII(Th2細胞)を調節する効果を有することを生体内実験と生体外実験とにより発見し、この抽出物の主活性成分はキバナシュスラン種のタイプIIアラビノガラクタンであることを確認した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第2004/0009239号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Shih et al. 2001, “Ameliorative effects of Anoectochilus formosanus extract on osteopenia in overiectomized rats”, J Ethnopharmacol 77, 233-238
【非特許文献2】Masuda et al. 2008, “Suppressive effects of Anoectochilus formosanus extract on osteoclast formation in vitro and bone resorption in vivo”, J Bone Miner Metab 26, 123-129
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の主な目的は、有用な細菌の成長を促進し、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)の放出を促進し、Tヘルパー細胞タイプI(Th1細胞)を調節し、及び/又はTヘルパー細胞タイプII(Th2細胞)を調節するためのキバナシュスラン種・多糖類抽出物を提供することである。この抽出物はキバナシュスラン種のタイプIIアラビノガラクタンを含み、約40〜約70キロダルトンの平均分子量を有する。
【0008】
本発明の別の目的は、前記抽出物の調製方法を提供することである。
【0009】
本発明の更に別の目的は、有用な細菌の成長を促進し、G−CSFの放出を促進し、Th1細胞を調節し、及び/又はTh2細胞を調節するための医薬組成物であって、効果的な量の前記抽出物を含む医薬組成物を提供することである。
【0010】
また、本発明は、有用な細菌の成長を促進し、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)の放出を促進し、Tヘルパー細胞タイプI(Th1細胞)を調節し、及び/又はTヘルパー細胞タイプII(Th2細胞)を調節するための薬剤の製造のための前記抽出物の使用を提供する。
【0011】
本発明の詳細な技術及び好適な実施形態を、当業者が本発明の特徴をよく理解できるように添付の図面を参照しながら下記に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のキバナシュスラン種・多糖類抽出物及びキバナシュスラン種のタイプIIアラビノガラクタンの調製のフローチャートである。
【図2】本発明のキバナシュスラン種・多糖類抽出物のβグルコシル・ヤリブ抗原親和性試験の発色グラフである。
【図3A】本発明のキバナシュスラン種・多糖類抽出物の単糖組成の分析グラフである。
【図3B】キバナシュスラン種のタイプIIアラビノガラクタンの単糖組成の分析グラフである。
【図4】本発明のキバナシュスラン種・多糖類抽出物及びキバナシュスラン種のタイプIIアラビノガラクタンの分子量の分析グラフである。
【図5】ビフィズス菌ブレーベの成長のカーブグラフである。
【図6】マウスの大腿骨のマイクロCT(コンピュータ断層撮影)グラフである。
【図7A】マウスの腸内の様々な短鎖脂肪酸の濃度を示す棒グラフである。
【図7B】マウスの腸内の様々な短鎖脂肪酸の濃度を示す棒グラフである。
【図7C】マウスの腸内の様々な短鎖脂肪酸の濃度を示す棒グラフである。
【図7D】マウスの腸内の様々な短鎖脂肪酸の濃度を示す棒グラフである。
【図8A】マウスの腸内のCaBP−D9k(カルシウム結合タンパク質)のmRNAの電気泳動グラフである。
【図8B】マウスの腸内のCaBP−D9kのmRNAの発現を示す棒グラフである。
【図9A】マクロファージRAW264.7の亜硝酸塩濃度を示す棒グラフである。
【図9B】マクロファージRAW264.7のG−CSF濃度を示す棒グラフである。
【図9C】マクロファージRAW264.7のG−CSFと一酸化窒素との比を示す棒グラフである。
【図10A】リポ多糖類(LPS)で刺激されたICRマウスにキバナシュスラン種のタイプIIアラビノガラクタンを投与して1時間後のマウス血液中のTNF−α濃度を示す棒グラフである。
【図10B】リポ多糖類(LPS)で刺激されたICRマウスにキバナシュスラン種のタイプIIアラビノガラクタンを投与して16時間後のマウス血液中のTNF−α濃度を示す棒グラフである。
【図11】EL4細胞内のT−bet、GATA−3、GAPDHタンパク質のウェスタンブロッティングの転写結果を示すグラフである。
【図12】BALB/cマウスの肺スライスのHE染色グラフである。
【図13】BALB/cマウスの腸のメチレンブルー染色グラフである。
【図14】ビフィズス菌ブレーベの培養液の濁度を示す棒グラフである。
【図15】マクロファージRAW264.7の一酸化窒素シンセターゼ、G−CSF、及びTNF−αのmRNAの電気泳動グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
アラビノガラクタンはタイプIとタイプIIのアラビノガラクタンに分類することができる。タイプIアラビノガラクタンのガラクタンの主鎖は、β(1→4)結合で結合され、一方、タイプIIアラビノガラクタンのガラクタンの主鎖は、β(1→3)(1→6)結合で結合されている。異なる由来のタイプIIアラビノガラクタン同士は異なる性質(例えば、分子量、主鎖又は分枝鎖の構造、成分など)を有しているので、それらの作用も異なる(Paulsen et al., “Bioactive peptic polysaccharides”, Adv Polym Sci., 2005, 186: 69-101を参照。この文献を本明細書に援用する)。この文献では、タイプIIアラビノガラクタンはキバナシュスラン種のタイプIIアラビノガラクタンとして定義されている。
【0014】
上述したように、キバナシュスラン種の活性成分は、まだ不明であり、キバナシュスラン種は、まだ多くの未知の効果を有している。本発明の発明者は多くの生体外細胞実験と生体内動物実験とにより、キバナシュスラン種・多糖類抽出物は、有用な細菌の成長を促進する効果、顆粒球コロニー刺激因子(以下、G−CSFと呼ぶ)の放出を促進する効果、Tヘルパー細胞タイプI(以下、Th1細胞と呼ぶ)を調節する効果、及び/又はTヘルパー細胞タイプII(以下、Th2細胞と呼ぶ)を調節する効果を有することを発見し、この抽出物の主活性成分はキバナシュスラン種のタイプIIアラビノガラクタンであることを確認した。
【0015】
従って、本発明は有用な細菌の成長を促進し、G−CSFの放出を促進し、Th1細胞を調節し、及び/又はTh2細胞を調節するためのキバナシュスラン種・多糖類抽出物を提供する。この抽出物は、キバナシュスラン種のタイプIIアラビノガラクタンを含む。
【0016】
本発明のキバナシュスラン種・多糖類抽出物は水溶性の抽出物で、キバナシュスラン種は、好ましくはキバナシュスラン(Anoectochilus formosanus Hayata)である。具体的には、本発明のキバナシュスラン種・多糖類抽出物は、主に多糖類と、幾つかのタンパク質とを含み、脂溶性の成分をほとんど含まない。これらのタンパク質は、自由または共役タンパク質(糖タンパク質またはプロテオグリカン)の形態で存在する。特性分析後、多糖類成分は、主にキバナシュスラン種のタイプIIアラビノガラクタンと、澱粉とからなり、この澱粉は高度に分枝したα(1→4)(1→6)結合の構造を有することが確認された。キバナシュスラン種・多糖類抽出物の単糖類成分とキバナシュスラン種のタイプIIアラビノガラクタンとの分析後、両者はアラビノース、ガラクトース、グルコース、マンノース、及びフルクトースを含むことが発見された。キバナシュスラン種・多糖類抽出物は、主にグルコースからなり、タイプIIアラビノガラクタンは、主にガラクトースからなる。
【0017】
本発明のキバナシュスラン種・多糖類抽出物は、約40〜約70キロダルトンの平均分子量を持ち、(本抽出物の乾燥重量に対して)約20重量%〜約50重量%のタイプIIアラビノガラクタンを含む。タイプIIアラビノガラクタンは、約15〜約45キロダルトンの平均分子量を持ち、自由または共役タンパク質(糖タンパク質またはプロテオグリカン)の形態で存在する幾つかのタンパク質を含む。本発明の好適な実施形態では、キバナシュスラン種・多糖類抽出物は、約50〜約60キロダルトンの平均分子量を持ち、(本抽出物の乾燥重量に対して)約30重量%〜約40重量%のタイプIIアラビノガラクタンを含み、タイプIIアラビノガラクタンは、約25〜約35キロダルトンの平均分子量を有する。
【0018】
本発明のキバナシュスラン種・多糖類抽出物は、「プレバイオティクス」効果を有し、腸内の有用な細菌(即ち、プロバイオティクス)の成長を促進する可能性がある。本明細書において、「有用な細菌」は健康に有益な生理学的作用を行う可能性があるか、又は動物体の病気を治すことができる細菌を指す。本発明の1つの実施形態では、ビフィズス菌ブレーベ(Bifidobacterium breve;ビフィズス菌属)をキバナシュスラン種・多糖類抽出物またはキバナシュスラン種のタイプIIアラビノガラクタンで培養し、この細菌の成長を促進した。本発明の別の実施形態では、キバナシュスラン種・多糖類抽出物が、マウスの腸内のビフィズス菌類の量を増加させる可能性があることを発見した。
【0019】
ビフィズス菌類は腸内で発酵を行い、腸内の脂肪酸、特に短鎖脂肪酸(例えば、酢酸、乳酸、プロピオン酸、及び酪酸)の量を増加させる可能性がある。短鎖脂肪酸は腸内のpH値を下げてカルシウム吸収を促進するだけでなく、骨芽細胞を活性化して骨形成を促進して、例えば骨粗しょう症を予防するか、緩和するか、治すか等の抗骨粗しょう症効果を達成する(Katono et al., “Sodium butyrate stimulates mineralized nodule formation and osteoprotegerin expression by human osteoblasts”, Arch oral Biol. 208; 53:903-909を参照。この文献を本明細書に援用する)。従って、腸内のビフィズス菌類の成長を促進することが出来れば、カルシウム吸収と骨形成とを効率的に促進して抗骨粗しょう症効果を達成できる可能性がある。本発明のキバナシュスラン種・多糖類抽出物は、ビフィズス菌類の成長を促進できるので、上記の抗骨粗しょう症効果を提供できる。また、本発明のキバナシュスラン種・多糖類抽出物は、体内の有用な細菌の成長を促進することが出来、従って、外来細菌を使用して骨粗しょう症を緩和する場合に発生する可能性がある問題、例えば、有用な外来細菌は長時間腸内にほとんど留まらないこと、腸の粘膜の吸収が少ないこと等を避けることが出来る。
【0020】
本発明のキバナシュスラン種・多糖類抽出物は、G−CSFを放出するよう体内のマクロファージを刺激する作用も有している。免疫システムでは、白血球が重要な役割を果す。病原体又は異物が体内に侵入した時、白血球がそれらを分解し、一連の生理学的防御反応を誘導する。患者が癌に対する化学療法を受けている場合、抗癌剤は患者の体の白血球を作る能力を損ない、これにより体内の白血球量を著しく減らして、患者の免疫力を不足させ、患者が病原菌又はウイルスに対して防御出来なくする。G−CSFは白血球にとっての成長ホルモンであり、白血球量を効率的に増加させる可能性がある。本発明のキバナシュスラン種・多糖類抽出物は、G−CSFを放出するよう体内のマクロファージを刺激するので、白血球量を間接的に増加させることが出来る。従って、癌患者の化学療法中、患者に本発明のキバナシュスラン種・多糖類抽出物を投与することで、白血球の減少という副作用を緩和することができる。
【0021】
また、G−CSFは、炎症を予防するか、緩和するか、治すか等の抗炎症効果を有し、リポ多糖類(LPS)によって促進されるTNF−α(腫瘍壊死因子−α)の放出を抑制することが知られている(Boneberg et al., “Molecular aspects of anti-inflammatory action of G-CSF”, Inflamm. Res. 2002. 51: 119-128を参照。この文献を本明細書に援用する)。従って、本発明のキバナシュスラン種・多糖類抽出物は、G−CSFの放出の促進による抗炎症効果も提供する可能性がある。
【0022】
また、本発明の発明者は、本発明のキバナシュスラン種・多糖類抽出物は、Th1細胞とTh2細胞とを調節できることも発見した。T細胞は免疫システムにおいて重要な役割を果し、分泌されるサイトカインの種類に依る2種類に分化する。Th1細胞はインターフェロン−γ(INF−γ)とインターロイキン−2(IL−2)とを産生し、一方、Th2細胞はインターロイキン−4(IL−4)、インターロイキン−5(IL−5)、インターロイキン−6(IL−6)、及びインターロイキン−10(IL−10)を産生する。Th1細胞はキラー細胞を助け、INF−γを分泌してマクロファージを活性化して細胞媒介性免疫を促進することができる。Th2細胞はアトピー抗体IgEの産生においてB細胞を助け、IL−4及びIL−5を分泌することで肥満細胞又は好酸球を活性化して、ヒスタミン、ロイコトリエン、ポスタグランジン(postaglandine)などを含む炎症メディエータを分泌させることができる。Th1細胞とTh2細胞とは互いに拮抗し、Th1細胞によって放出されるINF−γはTh2細胞を抑制し、Th2細胞によって放出されるIL−4とIL−10とはTh1細胞によるINF−γの産生を抑制する可能性がある。
【0023】
従って、Th1細胞とTh2細胞との間の相互作用は、生理学的免疫反応に影響する場合があり、多くの病気に大きく関係する。例えば、Th2細胞の過剰な活動がアレルギーを引き起こし、アトピー咳又は喘息を引き起こす気道アレルギーを発症する場合があることが知られている。また、Th2細胞の免疫反応の高まりは、発癌物質により誘導された結腸癌の形成を促進する可能性があることが、文献において証明された(Osawa et al., “Predominant T helper type 2-inflammatory responses promote murine colon cancers”, Int J Cancer. 2006. 118(9): 2232-6を参照。この文献を本明細書に援用する)。一方、過剰に活性なTh1細胞は自己免疫機能の異常を引き起こす場合がある。従って、Th1細胞とTh2細胞との間の免疫バランスを、それらの活動を正常状態に維持するよう調節することが出来れば、自己免疫疾患を治し、アレルギー(アトピー咳及び喘息を含む)を緩和し、結腸癌を抑制することが出来る。
【0024】
本発明のキバナシュスラン種・多糖類抽出物は、Th1細胞の分化とそれによって媒介される免疫反応とを促進し、同時にTh2細胞の分化と免疫反応とを抑制する可能性がある。従って、Th1細胞とTh2細胞との拮抗関係において、Th2細胞が過剰に活性で、Th1細胞とTh2細胞との間に不均衡がある場合、本発明のキバナシュスラン種・多糖類抽出物は、Th1細胞経路へ免疫反応を振り向けて、Th1細胞とTh2細胞とのバランスを調節し、抗アレルギー効果、喘息の緩和、結腸癌の抑制、及び免疫機能の調節を達成する可能性がある。
【0025】
本発明のキバナシュスラン種・多糖類抽出物を、下記のステップを含む方法によって提供することが出来る。
a)キバナシュスラン種から水を使って水溶性のキバナシュスラン種抽出物を抽出する、
b)キバナシュスラン種抽出物を脱脂し、次に水様の抽出物を収集する、
c)この水様抽出物にエタノールを加え、次に沈澱物を収集する。ここで、エタノールの濃度は水様抽出物とエタノールとの総体積に対して約65体積%〜約85体積%である。
【0026】
ステップa)、抽出ステップを実行する手法を下記に説明する。先ず、水とキバナシュスラン種とを混合し、かき混ぜジュースを作り、次に不溶性成分を濾過して取除き、水溶性のキバナシュスラン種抽出物を得る。或いは、キバナシュスラン種を水で煮て、その煮た溶液を集めて水溶性のキバナシュスラン種抽出物を得る。
【0027】
脱脂ステップb)は任意の既知の適切な脱脂手法で実行してよい。例えば、酢酸エチル(又はヘキサン)を水溶性キバナシュスラン種抽出物に加え、所望される作用を持たない脂溶性の成分を取除き、次に水様の抽出物を収集する。ここで、酢酸エチルの量に制限はなく、ステップa)の水溶性キバナシュスラン種抽出物の体積に対して、酢酸エチルの濃度は通常、約15体積%〜約35体積%、好ましくは、約20体積%〜約30体積%である(Wu et al., “The hepatoprotective activity of kinsenoside from Anoectochilus formosanus”, Phtother res. 2007; 21: 58-61を参照。この文献を本明細書に援用する)。
【0028】
ステップc)では、エタノールを水様抽出物に加え、生成沈澱物を収集する。この沈澱物の成分は、主に糖類と、少量のタンパク質と、核酸とである。エタノールの濃度は水様抽出物とエタノールとの総体積に対して約65体積%〜約85体積%、好ましくは、約70体積%〜約80体積%である。
【0029】
選択肢として、ステップa)又はステップb)は、抽出効率を増加させるために適切な抽出手段(例えば、超音波振動など)を使用してもよい。また、選択肢として、ステップa)及び/又はステップb)は、キバナシュスラン種の無効な成分から有効な成分をできるだけ多く分離し、所望の有効な成分をできるだけ多く抽出して、資源の無駄を減らし経済的利益を増加させるために繰り返し実行してもよい。
【0030】
キバナシュスラン種・多糖類抽出物の適用形態に依って、乾燥ステップd)をステップc)で得た沈澱物を乾燥するために実行してもよい。例えば、本発明のキバナシュスラン種・多糖類抽出物を経口投与で適用する場合、抽出物中の有機溶媒を体に害を及ぼさないよう取除くために乾燥ステップ(例えば、減圧下及び/又は通風状態での濃縮)を使用することができる。或いは、ステップc)又はステップd)で得た沈澱物を水に溶かして本発明の抽出物を水様溶液として提供してもよい。
【0031】
本発明の実施形態では、キバナシュスラン種・多糖類抽出物を次のようにして得ることが出来る。先ず、水とキバナシュスラン(Anoectochilus formosanus Hayata)とを混合し、かき混ぜジュースを作り、不溶性成分を濾過して取除き、水溶性のキバナシュスラン種抽出物を得る。次に、約25体積%酢酸エチルをキバナシュスラン種抽出物に加え、脱脂を行い、水相を集めて水様抽出物を得る。その後、最終濃度約75体積%のエタノールをこの水様抽出物に加えて、沈澱物を生成させ、次に、この沈澱物を集めてキバナシュスランの所望の多糖類抽出物を得る。
【0032】
また、本発明は、有用な細菌の成長を促進し、G−CSFの放出を促進し、Th1細胞を調節し、及び/又はTh2細胞を調節するための医薬組成物であって、キバナシュスラン種の効果的な量の上記多糖類抽出物を含む医薬組成物を提供する。具体的には、本発明の医薬組成物は、腸内の脂肪酸(例えば、短鎖脂肪酸)の量の増加、カルシウム吸収の促進、抗骨粗しょう症、抗炎症、白血球減少の抑制、抗アレルギー、喘息の緩和、結腸癌の抑制、及び/又は免疫機能の調節などのために使用されてよい。
【0033】
本発明の医薬組成物は、適切な様々な形態で薬剤として投与できる。例えば、この薬剤は、これらに限定されないが、経口投与、皮下投与、又は静脈投与等により適用することが出来る。本発明の抽出物に加えて、この薬剤は1つ以上の補助薬を含んでもよく、獣医療と人間医療の両方で実際に使用できる。
【0034】
経口投与に適した薬剤を製造する場合、本発明の医薬組成物を経口投与に適し本発明の抽出物の作用に悪影響を与えない補助薬と混合してもよい。例えば、補助薬は、溶媒、油溶媒、希釈剤、安定剤、吸収遅延剤、崩壊剤、乳化剤、結合剤、潤滑剤、溶解剤等であってよい。例えば、溶媒は水又は蔗糖溶液であってよく、希釈剤はラクトース、澱粉、又は微晶質セルロース、吸収遅延剤はキトサン又はグリコサミノグリカン、潤滑剤は炭酸マグネシウム、油溶媒は、オリーブ油、ヘリオトロープ油、魚肝油等の植物油又は動物油であってよい。本発明の医薬組成物と他の適切な補助薬とを、従来の方法で適切な経口投与形態、例えば錠剤、カプセル、顆粒、粉末、流体抽出物、溶液、シロップ、懸濁液、乳濁液、チンキ剤等にしてもよい。
【0035】
皮下投与又は静脈投与に適した薬剤を製造する場合、本発明の医薬組成物と省略可能な補助薬とをこれらの形態の場合に通常使用される1つ以上の成分(例えば、屈水剤、乳化剤、又は他の補助薬)と混合して、静脈注射液、乳濁静脈注射液、注射液、粉末注入剤、懸濁注入液、粉末懸濁注入剤等を調製してもよい。例えば、溶媒は水、生理食塩水、アルコール(例えば、エタノール、プロパノール、グリセリン等)、糖溶液(例えば、グルコース又はマンニトール溶液)、又はこれらの組合せであってよい。
【0036】
選択肢として、上記の有益な補助薬に加えて、他の添加剤、例えば香味剤、トナー、着色剤等も薬剤製造時に加え、投与時の口快適感と視感とを向上させてもよい。また、適切な投与量の防腐剤、保存料、殺菌剤、抗真菌剤等を加え、得られる薬剤の保存性を向上させてもよい。
【0037】
また、該薬剤は、その効果を向上させるか、又は適用及び調合の柔軟性を増加させるために1つ以上の他の活性成分を含んでもよい。例えば、該薬剤に含まれてもよい他の活性成分は、骨粗しょう症を治療するための物質(例えば、アレンドロナート、パラソリン(parathorine)、エストロゲン、カルシウム化合物、又はビタミンD等)、抗関節炎物質(例えば、コンドロイチン又はグルコサミン)、他の活性成分など本発明の抽出物に悪影響を与えない活性成分を含む。
【0038】
被験者の必要に応じて、該薬剤を、1日に1回、1日に数回、又は数日に1回等の異なる投与頻度で適用することが出来る。例えば、該薬剤が哺乳動物において抗炎症のために使用される場合、哺乳動物に投与される医薬組成物の量は、タイプIIアラビノガラクタンとして計算して、1日当り約2mg/kg体重〜約25mg/kg体重である。単位mg/kg体重は、体重1キログラム当りに必要な投与量を意味する。好ましくは、哺乳動物に投与される該医薬組成物の量は、タイプIIアラビノガラクタンとして計算して、1日当り約3mg/kg体重〜約20mg/kg体重である。しかし、深刻な状況(例えば、急性関節炎又は深刻な骨粗しょう症)では、投与量を実際の必要に応じて数倍又は数十倍に増加させることが出来る。
【0039】
また、本発明は、有用な細菌の成長を促進し、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)の放出を促進し、Tヘルパー細胞タイプI(Th1細胞)を調節し、及び/又はTヘルパー細胞タイプII(Th2細胞)を調節するための適切な形態の薬剤を製造するための上記抽出物の使用を提供する。
【0040】
下記に具体的な実施例を用いて本発明を更に詳細に説明する。下記の実施例を参照することで、当業者は本発明の基本思想と他の目的と、本発明の技術方法と実施形態とを容易に理解できるであろう。しかし、下記の実施例は本発明を例示するためだけに提供され、本発明の範囲はこれらによって限定されない。
【実施例】
【0041】
<実施例1>キバナシュスランの水溶性多糖類抽出物の調製
下記に例示するように、図1に示すフローチャートに従って、キバナシュスラン(Anoectochilus formosanus Hayata)の水溶性多糖類抽出物(以下、「WPAF抽出物」と呼ぶ)と、キバナシュスラン(Anoectochilus formosanus Hayata)のタイプIIアラビノガラクタン(以下、「II−AGAF」と呼ぶ)とを調製した。
【0042】
先ず、水と、Yu-Jung farm(台湾)から購入したキバナシュスラン(この植物のサンプルはthe Pharmacy College, China Medical University(台湾)に寄託番号CMU AF 0609で寄託され、このカレッジによって特定されている)とを混合し、ジュースを作り、不溶性成分を濾過して取除き、水溶性のキバナシュスラン抽出物を得た。次に、最終濃度約25体積%の酢酸エチルをキバナシュスラン抽出物に加え、水様抽出物を収集して脂溶性成分を取除いた。次に、最終濃度約75体積%のエタノールをこの水様抽出物に加えて、沈澱物を生成させ、この沈澱物を集めて水に溶かしキバナシュスランの水溶性多糖類抽出物(WPAF抽出物)を得た。収量はキバナシュスラン1kg当り約2.4mgであった。
【0043】
水溶性WPAF抽出物を2つに分け、一方にはアミラーゼ、アミルグルコシダーゼ、及びプロテアーゼ(アイルランドMegazyme International社から購入)を加え、分解させ、最終濃度約75体積%のエタノールを加え、沈澱物を生成させた。最後に、この沈澱物を水に溶かして、多糖であり完全には精製されていないタイプIIアラビノガラクタン(II−AGAF)を得た。
【0044】
<実施例2>WPAF抽出物とII−AGAFとの特性解析
I.ヨウ化物を使用する発色試験
ヨウ化物を使用する発色の原理は、多糖(例えば、澱粉又はグリコーゲン(両方ともグルカンである))はヨウ化物と複合体を形成し、発色する場合があることである。この複合体においてヨウ化物は多糖の螺旋分子鎖の真中に位置し、生成される色は直鎖(α(1→4)結合)の長さに依存する。例えば、アミロースは紫を発色し、澱粉を部分加水分解した生成物であるデキストリンは、鎖の長さに依存して赤褐色〜透明色を発色し、分枝鎖を持つグリコーゲンは赤褐色を発色する。
【0045】
実施例1のWPAF抽出物(12mg)を90%ジメチルスルホキシド(6ml)に加え、100℃で30分間加熱した。次に、得られたサンプルのうち100μlを900μlの水と混合し、50μlの0.01Nヨウ化物(ヨウ化カリウム)を加え、この混合物を振動させて混合した。
【0046】
ヨウ化物を使用する発色試験の結果は、WPAF抽出物が赤〜紫を発色する可能性があることを示した。これは、WPAF抽出物中のα右旋性グルカンが高度に分枝したα(1→4)(1→6)結合の構造を有することを示す。
【0047】
II.βグルコシル・ヤリブ抗原親和性試験
ヤリブ試験をvan Holstの方法及びvan Hengelの方法に従って実行した(van Holst et al., “Quantification of arabinogalactan protein by single radical gel diffusion”, Anal Biochem. 148:446-450, 1985及びvan Hengel et al., “Fucosylated arabinogalactan-proteins are required for full root cell elongation in Arabidopsis”, Plant J. 32:106-113, 2002を参照。これらの文献を本明細書に援用する)。アラビアゴムを陽性対照として使用した。脱イオン水中で、ゲル切片を加熱し、1重量%アガロースI(登録商標)、0.15M塩化ナトリウム、0.02w/v%アジ化ナトリウム、及び10μg/mlβグルコシル・ヤリブ抗原を溶かし、ゲル成形カセット(Protean II, 米国BioRad社)に徐々に注入し、厚さ3mmのゲル切片を作った。次に、直径1.2mmのサンプル装填穴をパスツールピペット(米国Kimble社)で作った。実施例1のWPAF抽出物を0.15M塩化ナトリウム及び0.02w/v%アジ化ナトリウム溶液で溶かした後、0.8μlの抽出物を該サンプル装填穴に装填した。該ゲル切片を湿気のある閉じた容器内に室温で2日間静置した。拡散円が観察された。結果を図2に示す。
【0048】
アラビノガラクタンはタイプIとタイプIIに分類することができ、タイプIアラビノガラクタンのガラクタンの主鎖はβ(1→4)結合で結合され、一方、タイプIIアラビノガラクタンのガラクタンの主鎖は、β(1→3)(1→6)結合で結合されている。合成フェニルグリコサイド(phenylglycoside)であるヤリブ試薬は、タイプIIアラビノガラクタンと反応し発色するので、アラビノガラクタンの結合形態を決定するために使用できる。
【0049】
図2はヤリブ反応が発生し、WPAF抽出物がアラビアゴムと反応し発色したことを示す。これはWPAF抽出物がタイプIIアラビノガラクタンを含んでいることを示す。
【0050】
上記の結果は、WPAF抽出物は主に澱粉とII−AGAFとを含むことを示す。従って、WPAF抽出物をアミラーゼ及びアミルグルコシダーゼで処置すると、澱粉は分解して主残留物としてII−AGAFが残る。また、多糖成分はタンパク質(例えば、糖タンパク質)を通常含むので、プロテアーゼで処置し、更にタンパク質を取除いてもよい。
【0051】
III.タンパク質、糖類、及びウロン酸の含有量の決定
タンパク質の総含有量をFolin-Lowry法及びCoomassie Blue法で測定し、ウシ血清アルブミンを基準として使用した(Lowry et al., “Protein measurement with the Folin phenol reagent”, J. Biol. Chem. 1951. 93: 265-275を参照。この文献を本明細書に援用する)。結果を表1に示す。
【0052】
糖類の総含有量をフェノール硫酸法で測定し、WPAF抽出物に関して、グルコースを基準として使用し、II−AGAFに関して、ガラクトースを基準として使用した(Dubois et al., “Colorimetric method for determination of sugars and related substances”, Anal. Chem. 1956. 28: 350-356を参照。この文献を本明細書に援用する)。結果を表1に示す。
【0053】
ウロン酸の含有量はm−ヒドロキシジフェニルを使用して測定した。この測定において、基準カーブを10〜90μg/mlのガラクツロン酸を使用して作り、0.5重量%水酸化ナトリウム溶液を、m−ヒドロキシジフェニル溶液を置き換え天然糖類の褐色発色反応を補正するために使用した。
【0054】
先ず、0.0125Mの四ホウ酸ナトリウムを含む硫酸溶液(1.2ml)に200μgのWPAF抽出物を加え、完全に混合し、沸騰水に5分間浸漬した。このサンプルを冷却した後、m−ヒドロキシジフェニル溶液(20μl)又は0.5重量%水酸化ナトリウム溶液を加え、15分間静置して発色させた。波長520nmを使って吸光度値を測定した。結果を表1に示す。上記方法はBlumenkrantz et al., “New method for quantitative determination of uronic acid”, Analytical Biochemistry. 1973. 54: 484-489に記載されている。この文献を本明細書に援用する。
【0055】
【表1】
a WPAF抽出物の固形分を基準として使用した。
b BSAを基準とするFolin-Lowry(FL)法による値。
c BSAを基準とするCoomassie Blue(CB)法(Bio-Radタンパク質検定試薬)による値。
d WPAF抽出物の場合、グルコースを、II−AGAFの場合、ガラクトースを基準とするフェノール硫酸法による値。
e ガラクツロン酸を基準として使用した。
【0056】
表1に示すように、WPAF抽出物は約33.4重量%のII−AGAFを含み、II−AGAFは幾らかのタンパク質を含む。
【0057】
IV.単糖比率の分析
WPAF抽出物の多糖類を酸で加水分解して単糖類にした後、HPAEC(高性能陰イオン交換クロマトグラフ)を使用して、WPAF抽出物の単糖比率を分析し、実施例1のWPAF抽出物及びII−AGAFの単糖組成を決定した。加水分解は2Mトリフルオロ酢酸を主に使用して行った。
【0058】
先ず、WPAF抽出物(1mg)又はII−AGAF(1mg)を2Mトリフルオロ酢酸溶液(1ml)に溶かし、真空加水分解管内に静置し酸加水分解を行った。反応条件は100℃、3時間であった。反応終了後、トリフルオロ酢酸を減圧下で濃縮することで取除き、脱イオン水をサンプルに加え、サンプルを再び減圧下で濃縮することで乾燥させた。上記手順はトリフルオロ酢酸を取除くために数回繰り返すことが出来る。
【0059】
次に、HPAEC分析を行った。上記の加水分解質を1mlの脱イオン水で溶かし、孔サイズ0.45μmのPVDF薄膜(米国Millipore社)で濾過し、HPAECシステムに注入し分析を行った。HPAECシステムの構成要素と分析条件は、817 Bi Bioscan(スイスMetrohm社)、812 valve unit(スイスMetrohm社)、Series III pump(米国LabAlliance社)、検出器:パルス式電流測定検出器(スイスMetrohm社)、電位及びパルス時間:E1:0.05ボルト/0.4s,E2:0.75ボルト/0.2s,E3:−0.15ボルト/0.4s、サンプルループ:容量:20μl、分離カラム:CarboPac PA1 guard column(4×50mm)−CarboPac PA1(4×250mm)(米国Dionex社)、流量:1.0ml/分、溶離システム:10mM水酸化ナトリウム及び1mM酢酸バリウム(孔サイズ0.2μmのナイロン薄膜(米国ChromTech社)で濾過した)、データ処理システム:Metrodata IC Net 2.1(スイスMetrohm社)であった。アラビノース、ガラクトース、グルコース、マンノース、及びフルクトースを基準として使用し、保持時間を比較することで分析を行った。結果を表2、図3A、及び図3Bに示す。
【0060】
【表2】
【0061】
図3Aに示すように、HPAEC分析によると、WPAF抽出物は、グルコース、ガラクトース、アラビノース、マンノース、及びフルクトース等の単糖単位を含む。それらの比率を表2に示す。グルコースの比率が最も高い。
【0062】
図3Bに示すように、アミラーゼ及びアミルグルコシダーゼでWPAF抽出物を分解した後に得られたII−AGAFは、グルコース、ガラクトース、アラビノース、マンノース、及びフルクトース等の単糖単位をまだ含む。それらの比率を表2に示す。ガラクトースの比率が最も高い。
【0063】
これらの結果は、本発明のWPAF抽出物は、澱粉と、ガラクタンをバックボーンとするアラビノガラクタンとを主に含むことを示す。アラビノガラクタンの側鎖はグルコース単位とマンノース単位を含む。
【0064】
V.分子量の決定
実施例1のWPAF抽出物とII−AGAFとの分子量をHPSEC(高性能サイズ排除クロマトグラフ)で分析した。WPAF抽出物又はII−AGAFの適当な量を脱イオン水で溶かし、孔サイズ0.45μmのPVDF薄膜(米国Millipore社)で濾過し、容量500μlのサンプルループに注入し、HPSEC機で分析した。分子量分析の基準はSTANDARD P-82(プルラン:P-800(78.8×104ダルトン)、400(40.4×104ダルトン)、200(21.2×104ダルトン)、100(11.2×104ダルトン)、50(4.73×104ダルトン)、20(2.28×104ダルトン)、10(1.18×104ダルトン)、及び5(0.59×104ダルトン)、日本Shodex社)である。
【0065】
HPSEC分析の条件は、洗浄溶液供給ポンプ:709 IC pump(スイスMetrohm社)、注入器:Rheodyne sample injector(米国Cotati社)、サンプル注入量:500μL、カラム用の定温キャビネット:70℃に維持されたSuper CO-150(台湾Enshine社)、検出器:直列接続された多角度レーザ光散乱光度計(DAWN EOS、米国Wyatt Technology社)と干渉型屈折率計(OPTILAB DSP、米国Wyatt Technology社)(屈折率計の温度は35℃に維持)、カラム:Tskgel guard column PWH (75×7.5mm内側寸法、日本Tosho社)+TSKgel G4000 PWXL(300×7.8mm内側寸法、日本Tosho社)+ViscoGel G2500 PWXL(300×7.8mm内側寸法、米国Viscotek社)、流相:0.3N亜硝酸ナトリウム(NaNO3)+0.02%アジ化ナトリウム(NaN3)、流量:0.8ml/分である。
【0066】
分析結果を図4に示す。図4において、実線はWPAF抽出物を、点線はII−AGAFを表す。計算後、WPAF抽出物の平均分子量(MW)は55キロダルトン、II−AGAFの平均分子量は29キロダルトンである。
【0067】
<実施例3>WPAF抽出物のプレバイオティクス効果
I.管試験
ビフィズス菌ブレーベ(Bifidobacterium breve)を食品工業発展研究所(台湾)から購入し、MRS培地(1重量%プロテオースNo.3、1重量%牛肉エキス、0.5重量%酵母菌エキス、2重量%デキストロース、0.1重量%Tween 80、0.2重量%クエン酸アンモニウム、0.5重量%酢酸ナトリウム、0.01重量%硫酸マグネシウム、0.005重量%マンガン、0.2重量%リン酸カリウム、及び1.5重量%寒天(米国Difco社)を含む)で培養した。この細菌を培養器内で嫌気的条件下で1〜2日間培養した後、培養液を集め、波長600nmを使って濁度を測定した。次に、培養液を適切に希釈し、プレート内のMRS培地の表面上に均一に塗布し、培養器内で嫌気的条件下で37℃で培養した。2日後、培地の濁度を測定し、コロニー数を計数した。
【0068】
濁度は、MRS培地に培養液を塗布し培養した後のコロニー数に直線的に比例する。これらの関係を表す式とr値を下記に示す。
Y=(1361X−11.74)×107、r2=0.9871
Y=コロニー形成ユニット(CFU)/ml、X=OD600
【0069】
上記の式は、濁度はコロニー数を反映し、従って、下記の実験においてコロニー数は濁度で表わされることを示す。
【0070】
図5に示すように、ビフィズス菌ブレーベの培養時間対濁度のカーブグラフにおいて、最大の傾き0.05は培養18時間後に存在する。実施例1の様々な濃度のWPAF抽出物をビフィズス菌ブレーベを含む培地に加えた場合、ビフィズス菌ブレーベの成長カーブの最大の傾きは18時間から16時間に移動した。様々な濃度0.5、1、2mg/mlのWPAF抽出物の16時間における傾きはそれぞれ0.08、0.10、0.10であり、対照グループの18時間における傾きは0.06である。この結果は本発明のWPAF抽出物はビフィズス菌ブレーベの成長を促進する可能性があることを示す。対照グループと実験グループに関して、18時間培養後のビフィズス菌ブレーベの濁度を表3に示す。
【0071】
【表3】
全ての値は平均±SD(n=6)。**P<0.01,
***P<0.001(対照グループと比較)
【0072】
II.マウス腸試験
ICRマウス(台湾BioLASCO社から購入)を下記の実験において使用した。先ず、水又は実施例1のWPAF抽出物(15又は40mg/kg体重)をマウスに投与した。3日後と7日後にマウスの糞を密封容器で収集した。これらの糞を適切な比率の無菌嫌気希釈液で希釈し、管振動器で均一に混合して均質な液体を作った。嫌気的条件下で、この液体を適切な濃度に希釈し、ビフィズス菌類を含むBeerens培地(1L培地は37gブレインハートインフュージョン、5g酵母菌エキス、0.5gシステイン、及び15g寒天を含む)の表面上に塗布し、次に、培養器内において嫌気的条件下で37℃で2〜4日間培養し、コロニー数を計数した。
【0073】
結果を表4に示す。3日目に投与量45mg/kg体重のWPAF抽出物は、マウスの糞のビフィズス菌類のコロニー数を明らかに増加させた。7日目に投与量15及び45mg/kg体重のWPAF抽出物の両方が、糞のビフィズス菌類のコロニー数を明らかに増加させた。
【0074】
【表4】
全ての値は平均±SD(n=7)。*** P<0.001(H2Oグループと比較)
【0075】
<実施例4>WPAF抽出物の抗骨粗しょう症効果
I.卵巣切除マウス試験
ICRマウス(台湾BioLASCO社から購入)を下記の実験において使用した。エストロゲンの不十分な分泌は骨粗しょう症を引き起こす場合があることが知られている。従って、この実験では、ICRマウスの卵巣を取除き、エストロゲンを分泌できなくして骨粗しょう症を発症させた。対照グループ(即ち、偽のグループ)では、ICRマウスの背の両側の卵巣位置の皮膚と筋肉を切開し、次に卵巣を取除くことなく縫合した。
【0076】
3日後、実施例1のWPAF抽出物を様々な投与量(15又は45mg/kg体重)でICRマウスに投与した。投与から3週間後、マウスを屠殺した。以下、卵巣を取除いたマウスを「OVX」又は「OVXマウス」と呼ぶ。
【0077】
マウスの血清内のI型コラーゲン架橋C末端テロペプチド(CTx)の量をELISA(酵素免疫吸着法)により決定した。実験薬剤はデンマークIDS Nordic社から購入した。CTxは骨のコラーゲンの分解生成物であり、血液中のCTxの濃度が上がると、骨吸収が増加すること意味し、骨粗しょう症を引き起こす可能性がある(Swaminathan. 2001, “Biochemical markers of bone turnover”, Clinica Chimica Acta. 313: 95-105を参照。この文献を本明細書に援用する)。結果を表5に示す。
【0078】
【表5】
全ての値は平均±SD(n=8)。##P<0.01(H2Oグループと比較)
*P<0.05(OVX+H2Oグループと比較)
【0079】
表5に示すように、卵巣を取除くことはマウスの血清中のCTx濃度を増加させる可能性があり、本発明のWPAF抽出物はCTx濃度を下げる可能性がある。これはWPAF抽出物は骨吸収を抑制し骨基質の喪失を低減できることを示す。
【0080】
その後、マウスの大腿骨を取出し、マイクロCT(コンピュータ断層撮影)スキャナー(SkyScan 1076)で撮影した。梁数と骨量(BV)と組織量(TV)との比を分析ソフトウェアで分析した。結果を図6及び表6に示す。
【0081】
【表6】
全ての値は平均±SD(n=8)。##P<0.01(対照グループと比較)
* P<0.05(OVX+H2Oグループと比較)
【0082】
図6及び表6から分かるように、本発明のWPAF抽出物は、OVXマウスの骨量比の減少と梁数の減少を抑制する可能性がある。
【0083】
その後、マウスの脊柱を取出し、付いている肉を完全に取除き、エタノールに浸漬して脂肪を取除き、100℃で一晩乾燥し、その重量を測定した。次に、脊柱を1000℃で10時間焼き、灰の重量を測定した。その灰を6N塩酸に溶かした。その灰のカルシウムの量をo−クレゾールフタレインコンプレクソンを用いて測定した。脊柱1g当りのカルシウムの重量を求めた。検定薬剤は英国Randox Lab.社から購入した。結果を表7に示す。
【0084】
【表7】
全ての値は平均±SD(n=8)。###P<0.001(対照グループと比較)
** P<0.01(OVX+H2Oグループと比較)
【0085】
表7に示すように、本発明のWPAF抽出物は、OVXマウスの脊柱のカルシウム喪失を抑制する可能性がある。図6、表5〜表7から、上記実験は、本発明のWPAF抽出物は、卵巣を取除いたことによって発症したマウスの骨粗しょう症を緩和できることを示す。
【0086】
II.カルシウム吸収試験
上記屠殺したICRマウスの盲嚢内の物質を取出し、遠心分離機にかけ上澄みを集めた。上澄みを適切に希釈した後、カルシウム濃度をo−クレゾールフタレインコンプレクソンを用いて測定した。結果を表8に示す。
【0087】
【表8】
全ての値は平均±SD(n=8)。*P<0.05(OVX+H2Oグループと比較)
【0088】
表8に示すように、本発明のWPAF抽出物は、マウスの盲嚢内の遊離カルシウムの量を増加させる可能性がある。酸性環境はカルシウムの溶解度を上昇させるので、腸によるカルシウムの吸収を容易にする。従って、下記の実験は、マウスの盲嚢内の物質中の短鎖脂肪酸の量を更に測定する。
【0089】
上記上澄みをHPLC機で分析した。HPLC機の構成要素は、ポンプ供給システム:SDS 9414溶剤供給システム(ドイツSchambeck SFD社)、サンプル注入容量:20μL、検出器:115 UV検出器(波長210nm)(米国Gilson社)及び屈折率計:Shodex RI-71(日本SHOWA DENKO社)、カラム:Transgenomic ICSep ION-300 column(米国Transgenomic社)及びガードカラム:Transgenomic ICSep ION-300 Guard kit(米国Transgenomic社)、カラムのオーブンの温度:65℃、溶離剤:0.0085NのH2SO4、データ処理システム:SISC Hsun-Huaクロマトグラフィー統合データ処理システム(台湾Hsun-Hua社)である。
【0090】
上記上澄みをこのシステムに注入し、吸光度を波長210nmで紫外線検出器を使って測定した。有機酸の最大吸光度の波長は210nmであるので、この波長を短鎖脂肪酸の量を検出するために使用でき、その濃度は屈折率計で測定できる。この実験では、様々な濃度の短鎖脂肪酸基準(酢酸、乳酸、プロピオン酸、及び酪酸を含む)を調製し、基準カーブを解析図中のピークの積分面積と濃度とに従って作成し、上澄み中の短鎖脂肪酸の濃度を求めた。単位「μmol/g盲嚢内物質」は酢酸、プロピオン酸、及び酪酸の量を表すために使用される。結果を図7A〜図7Dに示す。
【0091】
図7A〜図7Dから分かるように、本発明のWPAF抽出物は、マウスの盲嚢内の短鎖脂肪酸の量を増加させ、従って、盲嚢内のpH値を減少させ、カルシウム吸収を促進する可能性がある。
【0092】
腸粘膜細胞のCaBP−D9k(カルシウム結合タンパク質)はカルシウム吸収に密接に関係している。CaBP−D9kの発現量が増加すると、カルシウム吸収も増加する(Bouillon et al., 2003, “Intestinal calcium absorption: molecular vitamin D mediated mechanisms”, J. Cell. Biochem., 88: 332-339を参照。この文献を本明細書に援用する)。
従って、下記の実験はCaBP−D9kのmRNA量を、その発現量を観察するために更に分析した。
【0093】
先ず、ICRマウスの盲嚢粘膜を引っかき集め、mRNAを抽出した。盲嚢及び結腸粘膜のCaBP−D9kのmRNA発現量をRT−PCRで分析した。CaBP−D9kの分析のためのプライマー配列は次のとおりである。
センス:AAGAGCATTTTTCAAAAATA (SEQ ID NO: 1)
アンチセンス:GTCTCAGAATTTGCTTTATT (SEQ ID NO: 2)
【0094】
図8A及び図8Bから分かるように、WPAF抽出物は盲嚢のCaBP−D9kのmRNA発現を促進する。これはWPAF抽出物がカルシウム吸収を促進できることを示す。
【0095】
実施例3及び実施例4は、本発明のWPAF抽出物は、腸内の有用な細菌の成長を促進することで有用な細菌の量を増加させ、腸内の発酵を促進し、短鎖脂肪酸を産生してpH値を下げ、カルシウム吸収を促進する可能性がある。従って、本発明のWPAF抽出物は、骨粗しょう症を緩和することが出来る。
【0096】
<実施例5>WPAF抽出物は、G−CSFを放出するようマクロファージを刺激する
I.マウスのマクロファージ試験
先ず、5重量%チオグリコレート(米国Becton Dickinson社)をICRマウスに腹膜腔注射により投与した。3日後、ICRマウスに腹膜腔のマクロファージをハンクス液(米国Amresco社)で洗い出し、培地(ダルベッコMEM培地(Dulbecco’s modified eagle’s medium)、10%加熱不活性化したウシ胎児血清、100U/mlペニシリン、及び100μg/mlストレプトマイシンを含む)で培養した。次に、実施例1のWPAF抽出物(50、100、又は200μg/ml)をマクロファージを含む培地に加え、培養を続けた。16時間後、培養液を遠心分離機にかけ、上澄みを集め、マウス血清のG−CSFの濃度をELISAで測定した。結果を表9に示す。
【0097】
【表9】
全ての値は平均±SD(n=3)。*P<0.05, **P<0.01(対照グループと比較)
【0098】
表9から分かるように、本発明のWPAF抽出物は、マウスの腹膜腔のマクロファージを明らかに活性化し、G−CSFを放出させる。
【0099】
II.白血球試験
シクロホスファミドは化学療法のための薬剤であり、免疫抑制効果があり、白血球の量を減らす。先ず、実施例1のWPAF抽出物(15又は45mg/kg体重)をICRマウスに3日間連続して腹膜腔注射により投与した。3日目に、投与から30分後、100mg/kg体重のシクロホスファミドをマウスの腹膜腔に注射した。シクロホスファミドの投与後2日目に、マウスの血液を眼窩から採取し、その中の小核を測定した。マウス小核用のプロトタイプMicroFlow解析キット(FITC-anti CD71及びヨウ化プロピジウムを含む)を使用して測定した。フローサイトメトリー(Becton Dickinson FASCScan)を使用して600〜950個の多染赤血球(網状赤血球)、小核数、及び多染赤血球と全赤血球との比とを計数した。上記実験の手順は、Hayashi et al., 1990, “The micronucleus assay with mouse peripheral blood reticulocytes using acridine orange-coated slides”, Mutat. Res. 245: 245-249に記載されている。この文献を本明細書に援用する。
【0100】
実験中、実施例1のWPAF抽出物をICRマウスに毎日投与し、シクロホスファミド投与後7日目にICRマウスを屠殺した。マウスの脾臓を取出し、その重量を測定し、白血球の変化を血球分析装置で分析し、血清中のG−CSF濃度も分析した。結果を表10及び表11に示す。
【0101】
【表10】
全ての値は平均±SD(n=8)。 #P<0.05, ###P<0.01(対照グループと比較)。CP:シクロホスファミド、MN:小核、NCE:正染色性赤血球、PCE:多染赤血球
【0102】
表10から分かるように、シクロホスファミド投与の48時間後、シクロホスファミドはマウスの血液の多染赤血球数を減少させ、小核数を増加させる。実施例1のWPAF抽出物はこの現象に影響を与えない。このことは本発明のWPAF抽出物はシクロホスファミドの抗癌効果に影響を与えないことを示す。
【0103】
【表11】
全ての値は平均±SD(n=8)。##P<0.01(対照グループと比較)、*P<0.05, **P<0.01(CP+H2Oグループと比較)。CP:シクロホスファミド
【0104】
表11から分かるように、本発明のWPAF抽出物は脾臓重量の減少とシクロホスファミドによるマウス白血球数の減少とを緩和する可能性がある。また、本発明のWPAF抽出物は、シクロホスファミドを助け、マウス血液中のG−CSF濃度を増加させる。
【0105】
上記の結果は、本発明のWPAF抽出物は、シクロホスファミドの抗癌機構又は作用に影響を与えないが、シクロホスファミドによるマウス白血球数の減少という副作用をG−CSFの放出を促進することで緩和できることを示す。
【0106】
<実施例6>II−AGAFの抗炎症効果
I.免疫細胞活性化試験
幾つかの多糖は免疫細胞を活性化する作用を持つことが知られている。従って、マクロファージRAW264.7を使用してII−AGAFの活性化効果とリポ多糖類(LPS)の活性化効果とを比較した。
【0107】
様々な濃度(50又は100μg/ml)のII−AGAF又はLPS(1μg/ml)をマクロファージRAW264.7を含む培地(ダルベッコMEM培地、10%加熱不活性化したウシ胎児血清、100U/mlペニシリン、及び100μg/mlストレプトマイシンを含む)に加えた。24時間培養後、培養液を遠心分離機にかけ、上澄みを集めた。上澄み液中の一酸化窒素の量をグリース試薬を用いて測定し、G−CSF濃度をELISAで測定した。結果を図9A〜図9Cに示す。
【0108】
図9A〜図9Cから分かるように、II−AGAFとLPSの両方は、一酸化窒素とG−CSFを放出するようマクロファージを刺激することが出来る。LPSのG−CSF/一酸化窒素放出比率は約0.8、II−AGAFは約1.6であり、これはII−AGAFはG−CSFの放出を促進するより高い選択性を有していることを示す。
【0109】
II.マウス炎症試験
様々な濃度(5又は15mg/kg体重)のII−AGAFをICRマウスに腹膜腔注射により投与した。15分後、LPS(80mg/kg体重)をICRマウスに腹膜腔注射により投与した。1時間後と16時間後、ICRマウスの血液を眼窩から採取し、TNF−α濃度を酵素免疫測定剤(米国eBioscience社)を用いて測定した。結果を図10A及び図10Bに示す。
【0110】
図10A及び図10Bから分かるように、LPSの投与から1時間後と16時間後に、II−AGAFはマウス血液中のTNF−α濃度を明らかに減少させた。これはII−AGAFが抗炎症効果を有することを示す。
【0111】
<実施例7>WPAF抽出物はTリンパ球を調節する
EL4細胞株(台湾国家衛生研究所から頂いたATCC(American Tissue Culture Collection)で培養されたT細胞株)をDMEM培地(4mMのL−グルタミンを含み、1.5g/L重炭酸ナトリウム及び4.5g/Lグルコース(90%)含むよう調整されたダルベッコMEM培地及び10%ウシ胎児血清を含む)で培養し、実施例1のWPAF抽出物(0.8、4.0、又は20.0μg/ml)をこの培地に加えた。
【0112】
48時間培養した後、細胞のタンパク質とRNAを抽出した。タンパク質をウエスタンブロット法で転写し、T−bet抗体、GATA−3抗体、及びグリセロアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)抗体(Cell Signaling Technology社から購入)を検出のために使用した。結果を図11に示す。RNAの逆転写をMMLV逆転写酵素1stストランドcDNA合成キット(米国Epicentre Biotechnologies社)を用いて実行し、dUTP及びROX(台湾Protech社)と混合した特定のプライマーとPCR機(Smart-Quant Green Real-Time PCR Master)とをリアルタイム定量PCR分析を行うために使用した。デジタル分析結果を表12に示す。
【0113】
【表12】
全てのデータはGAPDHのmRNAの発現量で補正され、対照グループと比較されている。全てのデータは平均±SD(n=3)。*P<0.05, **P<0.01(対照グループと比較)
【0114】
表12と図11に示すように、WPAF抽出物(4.0及び20.0μg/ml)の刺激のもと、EL4細胞の転写因子T−betのタンパク質発現が明らかに増加し、T−betのmRNAの発現も増加した。また、IFN−γのmRNA発現も著しく増加した。これは本発明のWPAF抽出物がIFN−γの発現を誘導し、Th1細胞の分化を促進できることを示す。別の態様では、WPAF抽出物(4.0及び20.0μg/ml)の刺激のもと、転写因子GATA−3のタンパク質発現が明らかに減少し、そのmRNA発現も減少し、IL−4及びIL−13のmRNA発現も著しく減少した。これは本発明のWPAF抽出物はIL−4及びIL−13の発現を低減し、従って、Th2細胞の分化を抑制する効果があることを示す。
【0115】
<実施例8>WPAF抽出物は喘息を緩和する
8週齢のBALB−c雄マウス(台湾国家実験動物センターから購入)を下記の実験に使用した。マウスを4つのグループに分け、1つは対照グループ、他の3つは喘息実験グループとした。
【0116】
先ず、マウスに実施例1のWPAF抽出物を1週間経口投与し、次にアトピー性喘息を起こさせるために、0.2mlアルブミン(Sigma社)を実験グループのマウスに腹膜腔注射により投与した。以下、アルブミンによって引き起こされたアトピー性喘息のマウスを「OVA」又は「OVAマウス」と呼ぶ。
【0117】
アルブミンの調製において生理食塩水を溶媒として使用した。この溶液は10μgグレードVアルブミン(40μg水酸化アルミニウムゲルを吸収(Sigma社))を含む。アルブミン注射後11〜15日目に、1日1回アルブミンをマウスの鼻腔に滴下した。1週間後、アルブミンを再びマウスの鼻腔に滴下し、滴下から1時間後、6時間後、及び24時間後に、マウスの気道の抵抗力(enhanced pause(Penh))を呼吸装置(Buxco MAX II 1320 Modular Unit & Bias Flow Regulator)を用いて測定した。抵抗力の測定は呼気及び吸入のピーク流量と呼吸時間(breathing time)との比を計算することで行った。結果を表13に示す。
【0118】
実験が48時間経過した後、マウスをエーテルで麻酔して屠殺し、マウスが死ぬ前に脇の下から血液を採取した。マウスの肺を1mlハンクス液(米国Amresco社)で3回洗浄し、肺胞すすぎ液を集めた。次に、マウスの肺を取出し、生理スライス分析のために10体積%中性ホルマリンに浸漬した。生理スライス分析はHE染色法で行い、スライスの細胞を観察した。結果を図12に示す。
【0119】
細胞表面上の抗体をマーカーとして使用し、フローサイトメトリーを使用して肺胞すすぎ液中の細胞数を計数し、細胞を分類した。使用した薬剤はCD3、CD4、CD8、CD19、CD25、CD45、及びCD69(米国e-Bioscience社)であった。肺胞すすぎ液中のサイトカインIL−4、IL−5、IL−2、及びIFN−γの量を酵素免疫測定法で測定した。使用した検定薬剤は米国e-Bioscience社から購入した。マウスの血液中の抗体IgE、IgG1、及びIgG2aの量も酵素免疫測定法で測定した。使用した検定薬剤は米国Bethyl Laboratories社から購入した。結果を表14〜表16に示す。
【0120】
【表13】
全てのデータは平均±SD(n=10)。###P<0.001(対照グループと比較)、*P<0.05, ***P<0.001(OVA+H2Oグループと比較)
【0121】
表13に示すように、気道の抵抗力の分析において、OVA+H2Oグループのマウスの気道抵抗力は、1時間後と6時間後に明らかに増加し、24時間後に若干減少した。本発明のWPAF抽出物はマウスの気道抵抗力を明らかに減少させた。
【0122】
【表14】
全てのデータは平均±SD(n=10)。 ###P<0.001(対照グループと比較)、
*P<0.05, **P<0.01(OVA+H2Oグループと比較)
【0123】
図12及び表14に示すように、本発明のWPAF抽出物はOVAマウスの気道の全肺侵入性細胞(即ち、肺胞すすぎ液中の細胞)の数を効率的に抑制できる。様々な種類の侵入性細胞に関して、本発明のWPAF抽出物はマクロファージ及びエオシノフィルの数を減少させるが、ニューロフィルの数には影響しない。また、本発明のWPAF抽出物はリンパ球の数を増加させる。リンパ球はTリンパ球とBリンパ球とを含み、Tリンパ球は免疫調節作用を有している。
【0124】
【表15】
全てのデータは平均±SD(n=10)。###P<0.001, ##P<0.01, #P<0.05(対照グループと比較)、*P<0.05, **P<0.01, ***P<0.001(OVA+H2Oグループと比較)
【0125】
表15に示すように、肺侵入性細胞のサイトカインの発現を観察した。表15は、本発明のWPAF抽出物は上記肺胞すすぎ液中のIL−4及びIL−5の量を減少させ、一方、IFN−γの量を増加させ、IL−2の量を若干増加させたことを示す。
【0126】
IFN−γ及びIL−2はTh1細胞から分泌されるサイトカインであり、IL−4及びIL−5はTh2細胞から分泌されるサイトカインである。上記結果は、本発明のWPAF抽出物が免疫調節作用を有し、Th1細胞が媒介する免疫反応を促進し、一方、Th2細胞が媒介する免疫反応を抑制し、これによってTh1細胞とTh2細胞との免疫バランスを調節する。
【0127】
【表16】
全てのデータは平均±SD(n=10)。###P<0.001, ##P<0.01(対照グループと比較)、 *P<0.05(OVA+H2Oグループと比較)
【0128】
表16に示すように、高い投与量(45mg/kg体重)のWPAF抽出物は、マウス血清中の、Th2細胞によって調節される特定のアトピー抗体(抗OVA・IgE)とIgG1抗体との数を減少させる可能性がある。マウスにWPAF抽出物を投与すると、その免疫システムは調節され、Th1/Th2細胞の免疫バランスの変化(Th1細胞経路へ傾斜した)が起こり、Th1細胞によって調節されるIgG2a抗体の量を著しく増加させた。
【0129】
上記の結果は、本発明のWPAF抽出物は免疫調節作用を有し、Th1細胞とTh2細胞との免疫バランスを調節し、Th1細胞が媒介する免疫反応を促進してIgG2a抗体の量を増加させ、一方、Th2細胞の免疫反応を抑制してアトピー抗体IgE及びIgG1の量を著しく減少させる可能性があることを示す。
【0130】
図12及び表13〜表16は、本発明のWPAF抽出物は免疫調節により喘息を緩和する可能性があることを示す。
【0131】
<実施例9>WPAF抽出物は結腸癌を抑制する
8週齢のBALB−c雌マウス(台湾国家実験動物センターから購入)を下記の実験に使用した。マウスを4つのグループに分け、1つは対照グループ、他の3つは結腸癌実験グループとした。実験グループを水を投与するグループと、実施例1のWPAF抽出物(15又は45mg/kg体重)を投与するグループに更に分けた。
【0132】
先ず、マウスにWPAF抽出物を2週間経口投与し、次に10mg/kg体重の発癌物質アゾキシメタン(AOM、Sigma社)をマウスの腹膜腔に注入し、WPAF抽出物をマウスに連続して経口投与した。4ヶ月後、マウスを屠殺し、腸を取出し、腸内の物質をD−PBS緩衝液(ダルベッコ・リン酸緩衝生理食塩水)で洗い出した。次に、腸を切開し、10体積%中性ホルマリン溶液に浸漬し、平らに固定した。1週間浸漬後、大腸をメチレンブルーで染色し、単位長さ当りの前腫瘍組織(異常腺窩巣、ACF)の数を計数した。結果を図13及び表17に示す。
【0133】
次に、腸間膜リンパ節をマウスの大腸から取出し、単一細胞懸濁液にして、リンパ球サブファミリーの分化抗原を分析した。腸間膜リンパ節組織内の免疫調節細胞のサブファミリーTreg細胞(T制御性細胞CD4+、及びCD25+)、Th1細胞(CD4+及びTim−3+)、及びTh2細胞(CD4+及びCD278+)をFITC(イソチオシアン酸フルオレセイン)とPE(フィコエリトリン)で染色したモノクローナル抗体と、フローサイトメトリーとで分析した。結果を表18に示す。
【0134】
腸間膜リンパ球を1.0×106/mlの密度で24ウェル培養プレート内で培養した。細胞はコンカナバリンAで刺激された。1〜3日後、培養液を遠心分離機にかけ、上澄みを集めた。サイトカインIFN−γ、IL−4、及びIL−5の分泌量を酵素免疫測定法で測定した。結果を表19に示す。
【0135】
【表17】
全てのデータは平均±SD(n=10)。 ###P<0.001(対照グループと比較) *P<0.05(AOM+H2Oグループと比較)
【0136】
図13及び表17に示すように、直腸腫瘍がアゾキシメタンの誘導により生成された時、異常腺窩巣が明らかに形成され、マウスに高投与量(45mg/kg体重)のWPAF抽出物を経口投与するにしたがって、異常腺窩巣の数が効率的に減少した。
【0137】
【表18】
全てのデータは平均±SD(n=10)。単位は%。 #P<0.05(対照グループと比較)、 *P<0.05, **P <0.01(OVA+H2Oグループと比較)
【0138】
表18に示すように、マウスの大腸腫瘍がアゾキシメタンの誘導により生成された時、Treg細胞の数が明らかに増加し、マウスに低投与量(15mg/kg体重)のWPAF抽出物を経口投与するにしたがって、Treg細胞の比が減少した。これはWPAF抽出物は腫瘍細胞を抑制する作用を有することを示す。
【0139】
別の態様では、Th1細胞及びTh2細胞のサブファミリーの組成分析において、直腸腫瘍がアゾキシメタンの誘導により生成されるのにしたがって、Th1細胞(CD4+及びTim−3+)の比率は明らかに減少し、本発明のWPAF抽出物をマウスに投与した後、その比率は著しく増加したことが分かった。また、直腸腫瘍がアゾキシメタンの誘導により生成されるのにしたがって、Th2細胞(CD4+及びCD278+)の比率は著しく増加した。上述したように、Th2細胞の免疫反応の高まりは、アゾキシメタンにより誘導された腫瘍形成を促進することが知られている。本発明のWPAF抽出物をマウスに投与した後、Th2細胞の比率は著しく減少した。これは、本発明のWPAF抽出物はTh2細胞の免疫反応を低下させることで腫瘍形成を抑制する可能性があることを示す。
【0140】
【表19】
全てのデータは平均±SD(n=10)。#P<0.05(対照グループと比較)、*P<0.05(OVA+H2Oグループと比較)
【0141】
表19に示すように、本発明のWPAF抽出物は、アゾキシメタンにより誘導された腫瘍のあるマウスのIFN−γ分泌を増加させ、IL−4及びIL−5分泌を抑制する可能性がある。
【0142】
上記の実験は、本発明のWPAF抽出物はTh1細胞とTh2細胞との免疫バランスを調節してTh1細胞が媒介する免疫反応を促進し、一方、Th2細胞の免疫反応を抑制して免疫調節により結腸癌を抑制できることを示す。
【0143】
<実施例10>WPAF抽出物の活性成分の決定
I.II−AGAFのプレバイオティクス効果
実施例1の表1から分かるように、実施例1のWPAF抽出物は33.4重量%のII−AGAFを含む。実施例1のWPAF抽出物とII−AGAFをそれぞれ、プレバイオティクス検定を実行するために使用した。ビフィズス菌ブレーベを有用な細菌として使用した。検定に使用したII−AGAFの量は、WPAF抽出物のII−AGAF含有量に一致する(例えば、WPAF抽出物の投与量が0.6gである時、比較グループのII−AGAFの投与量は約0.2gである)。結果を図14に示す。図14に示すように、本発明のWPAF抽出物と対応する量のII−AGAFとが提供するプレバイオティクス効果は等しい。
【0144】
II.II−AGAFの免疫細胞活性化効果
上記のプレバイオティクス検定と同様に、実施例1のWPAF抽出物と対応する量のII−AGAFとをそれぞれ、マクロファージRAW264.7を含む培地に加えた。24時間培養後、mRNAを抽出し、一酸化窒素シンセターゼ、G−CSF、及びTNF−αの発現を分析するためにRT−PCRを行った。図15に示すように、本発明のWPAF抽出物と対応する量のII−AGAFとが提供する免疫細胞を活性化する効果は等しい。
【0145】
上記の結果から、本発明のWPAF抽出物の主活性成分はII−AGAFであることが推測できる。澱粉等のWPAF抽出物の他の成分は、特定の生理作用を提供しない。理論によって制約されることなく、澱粉が消化管に入った後、澱粉はアミラーゼによってグルコースに分解されると考えられており、従って、特定の生理作用を提供することはない。
【0146】
上記の開示は本発明の詳細な技術的内容と独創的特徴とに関する。当業者は、本発明の上記開示と示唆とに基づいて様々な変更と置換えとを本発明の特徴から逸脱することなく想到する可能性がある。しかし、そのような変更と置換えとは上記記載において完全には開示されていないが、添付の請求項に実質的に記載されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有用な細菌の成長を促進し、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)の放出を促進し、Tヘルパー細胞タイプI(Th1細胞)を調節し、及び/又はTヘルパー細胞タイプII(Th2細胞)を調節するためのキバナシュスラン種(Anoectochilus spp.)・多糖類抽出物であって、キバナシュスラン種のタイプIIアラビノガラクタンを含み、約40〜約70キロダルトンの平均分子量を有するキバナシュスラン種・多糖類抽出物。
【請求項2】
前記有用な細菌はビフィズス菌属に属する請求項1に記載の抽出物。
【請求項3】
前記有用な細菌はビフィズス菌ブレーベである請求項1に記載の抽出物。
【請求項4】
該抽出物は約50〜約60キロダルトンの範囲の平均分子量を有し、前記タイプIIアラビノガラクタンは約15〜約45キロダルトンの範囲の平均分子量を有する請求項1に記載の抽出物。
【請求項5】
前記タイプIIアラビノガラクタンは約25〜約35キロダルトンの範囲の平均分子量を有する請求項1に記載の抽出物。
【請求項6】
水溶液の形態である請求項1に記載の抽出物。
【請求項7】
前記キバナシュスラン種はキバナシュスラン(Anoectochilus formosanus Hayata)である請求項1に記載の抽出物。
【請求項8】
前記タイプIIアラビノガラクタンは、該抽出物の乾燥重量に対して約20重量%〜約50重量%の濃度である請求項1に記載の抽出物。
【請求項9】
前記タイプIIアラビノガラクタンは、該抽出物の乾燥重量に対して約30重量%〜約40重量%の濃度である請求項1に記載の抽出物。
【請求項10】
腸内の脂肪酸の量の増加、カルシウム吸収の促進、抗骨粗しょう症、抗炎症、白血球減少の抑制、抗アレルギー、喘息の緩和、結腸癌の抑制、及び/又は免疫機能の調節のために有用な請求項1に記載の抽出物。
【請求項11】
請求項1に記載のキバナシュスラン種・多糖類抽出物の調製方法であって、
a)キバナシュスラン種から水を使って水溶性のキバナシュスラン種抽出物を抽出するステップと、
b)該キバナシュスラン種抽出物を脱脂し、次に水様の抽出物を収集するステップと、
c)該水様抽出物に、該水様抽出物との総体積に対して約65体積%〜約85体積%のエタノールを加え、次に沈澱物を収集するステップと、
を含む調製方法。
【請求項12】
前記ステップb)において、脱脂ステップは前記キバナシュスラン種抽出物の体積に対して約15体積%〜約35体積%の酢酸エチルを該キバナシュスラン種抽出物に加えることで実行される請求項11に記載の、キバナシュスラン種・多糖類抽出物の調製方法。
【請求項13】
前記ステップb)において、脱脂ステップは前記キバナシュスラン種抽出物の体積に対して約20体積%〜約30体積%の酢酸エチルを該キバナシュスラン種抽出物に加えることで実行される請求項11に記載の、キバナシュスラン種・多糖類抽出物の調製方法。
【請求項14】
前記エタノールの濃度は、前記水様抽出物と該エタノールとの総体積に対して約70体積%〜約80体積%である請求項11に記載の、キバナシュスラン種・多糖類抽出物の調製方法。
【請求項15】
前記ステップc)において収集した前記沈澱物を水に溶かすことを更に含む請求項11に記載の、キバナシュスラン種・多糖類抽出物の調製方法。
【請求項16】
有用な細菌の成長を促進し、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)の放出を促進し、Tヘルパー細胞タイプI(Th1細胞)を調節し、及び/又はTヘルパー細胞タイプII(Th2細胞)を調節するための医薬組成物であって、
効果的な量の請求項1に記載の抽出物を含む医薬組成物。
【請求項17】
腸内の脂肪酸の量の増加、カルシウム吸収の促進、抗骨粗しょう症、抗炎症、白血球減少の抑制、抗アレルギー、喘息の緩和、結腸癌の抑制、及び/又は免疫機能の調節のための請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項18】
該医薬組成物の量は、前記タイプIIアラビノガラクタンとして計算して、1日当り約2mg/kg体重〜約25mg/kg体重である請求項17に記載の医薬組成物。
【請求項19】
該医薬組成物の量は、前記タイプIIアラビノガラクタンとして計算して、1日当り約3mg/kg体重〜約20mg/kg体重である請求項17に記載の医薬組成物。
【請求項1】
有用な細菌の成長を促進し、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)の放出を促進し、Tヘルパー細胞タイプI(Th1細胞)を調節し、及び/又はTヘルパー細胞タイプII(Th2細胞)を調節するためのキバナシュスラン種(Anoectochilus spp.)・多糖類抽出物であって、キバナシュスラン種のタイプIIアラビノガラクタンを含み、約40〜約70キロダルトンの平均分子量を有するキバナシュスラン種・多糖類抽出物。
【請求項2】
前記有用な細菌はビフィズス菌属に属する請求項1に記載の抽出物。
【請求項3】
前記有用な細菌はビフィズス菌ブレーベである請求項1に記載の抽出物。
【請求項4】
該抽出物は約50〜約60キロダルトンの範囲の平均分子量を有し、前記タイプIIアラビノガラクタンは約15〜約45キロダルトンの範囲の平均分子量を有する請求項1に記載の抽出物。
【請求項5】
前記タイプIIアラビノガラクタンは約25〜約35キロダルトンの範囲の平均分子量を有する請求項1に記載の抽出物。
【請求項6】
水溶液の形態である請求項1に記載の抽出物。
【請求項7】
前記キバナシュスラン種はキバナシュスラン(Anoectochilus formosanus Hayata)である請求項1に記載の抽出物。
【請求項8】
前記タイプIIアラビノガラクタンは、該抽出物の乾燥重量に対して約20重量%〜約50重量%の濃度である請求項1に記載の抽出物。
【請求項9】
前記タイプIIアラビノガラクタンは、該抽出物の乾燥重量に対して約30重量%〜約40重量%の濃度である請求項1に記載の抽出物。
【請求項10】
腸内の脂肪酸の量の増加、カルシウム吸収の促進、抗骨粗しょう症、抗炎症、白血球減少の抑制、抗アレルギー、喘息の緩和、結腸癌の抑制、及び/又は免疫機能の調節のために有用な請求項1に記載の抽出物。
【請求項11】
請求項1に記載のキバナシュスラン種・多糖類抽出物の調製方法であって、
a)キバナシュスラン種から水を使って水溶性のキバナシュスラン種抽出物を抽出するステップと、
b)該キバナシュスラン種抽出物を脱脂し、次に水様の抽出物を収集するステップと、
c)該水様抽出物に、該水様抽出物との総体積に対して約65体積%〜約85体積%のエタノールを加え、次に沈澱物を収集するステップと、
を含む調製方法。
【請求項12】
前記ステップb)において、脱脂ステップは前記キバナシュスラン種抽出物の体積に対して約15体積%〜約35体積%の酢酸エチルを該キバナシュスラン種抽出物に加えることで実行される請求項11に記載の、キバナシュスラン種・多糖類抽出物の調製方法。
【請求項13】
前記ステップb)において、脱脂ステップは前記キバナシュスラン種抽出物の体積に対して約20体積%〜約30体積%の酢酸エチルを該キバナシュスラン種抽出物に加えることで実行される請求項11に記載の、キバナシュスラン種・多糖類抽出物の調製方法。
【請求項14】
前記エタノールの濃度は、前記水様抽出物と該エタノールとの総体積に対して約70体積%〜約80体積%である請求項11に記載の、キバナシュスラン種・多糖類抽出物の調製方法。
【請求項15】
前記ステップc)において収集した前記沈澱物を水に溶かすことを更に含む請求項11に記載の、キバナシュスラン種・多糖類抽出物の調製方法。
【請求項16】
有用な細菌の成長を促進し、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)の放出を促進し、Tヘルパー細胞タイプI(Th1細胞)を調節し、及び/又はTヘルパー細胞タイプII(Th2細胞)を調節するための医薬組成物であって、
効果的な量の請求項1に記載の抽出物を含む医薬組成物。
【請求項17】
腸内の脂肪酸の量の増加、カルシウム吸収の促進、抗骨粗しょう症、抗炎症、白血球減少の抑制、抗アレルギー、喘息の緩和、結腸癌の抑制、及び/又は免疫機能の調節のための請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項18】
該医薬組成物の量は、前記タイプIIアラビノガラクタンとして計算して、1日当り約2mg/kg体重〜約25mg/kg体重である請求項17に記載の医薬組成物。
【請求項19】
該医薬組成物の量は、前記タイプIIアラビノガラクタンとして計算して、1日当り約3mg/kg体重〜約20mg/kg体重である請求項17に記載の医薬組成物。
【図1】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図7D】
【図8B】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図10A】
【図10B】
【図14】
【図2】
【図6】
【図8A】
【図11】
【図12】
【図13】
【図15】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図7D】
【図8B】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図10A】
【図10B】
【図14】
【図2】
【図6】
【図8A】
【図11】
【図12】
【図13】
【図15】
【公開番号】特開2011−79809(P2011−79809A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−102408(P2010−102408)
【出願日】平成22年4月27日(2010.4.27)
【出願人】(509075457)中國醫藥大學 (11)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月27日(2010.4.27)
【出願人】(509075457)中國醫藥大學 (11)
【Fターム(参考)】
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