説明

有用タンパク質のスクリーニング方法

本発明の課題は、システイン残基をランダムにアミノ酸配列中に導入することによってジスルフィド結合をランダムに有するタンパク質を合成し、そのタンパク質の機能を解析することによって有用タンパク質を特定する方法であって、(a)少なくとも2以上のシステイン残基を含むタンパク質をコードするmRNAを1以上調製し、得られたmRNAのそれぞれをピューロマイシン又はピューロマイシン様化合物と連結してmRNA−ピューロマイシン連結体(群)を得る工程;(b)工程(a)で得られたmRNA−ピューロマイシン連結体(群)と、翻訳系とを接触させてタンパク質を合成し、mRNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体(群)を調製する工程;及び(c)工程(b)において調製されたmRNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体(群)と1以上の標的物質とを接触させ、mRNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体(群)中のいずれかのタンパク質と該標的物質とが相互作用しているか否かを判定する工程を含む上記スクリーニング方法等によって解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、ランダムな架橋を利用した有用なタンパク質のスクリーニング方法、そのスクリーニング方法によって得られるタンパク質などに関する。
【背景技術】
タンパク質の構造解析から有用な機能を持つタンパク質をデザインするという発想に基づくタンパク質工学は、長年の努力にも関わらず目立った成果を挙げることが困難であった。そこで、進化の原理を応用した分子デザインの方法である「進化分子工学」(Eigen,E.& Gardiner,W.,Pure & Appl.Chem.,56,967−978参照)の概念が1984年にEigenらによって提案された。これは様々な変異体集団(ライブラリー)、つまり様々な構造をもつ分子集団から、目的の機能をもった分子を選択する技術の開発を意味する。1990年代に入り「In vitro evolution(試験管内進化法)」と呼ばれる一連の研究により具体的な成果が現れ、取得された機能分子もRNA、DNA、タンパク質、ペプチドと多岐にわたっている。
核酸(RNAとDNA)のスクリーニング法としては、In vitro selection法(Ellington,A.D.& Szostak,J.W.,Nature,346,818−822(1990)参照)やSELEX法(Tuerk,C.& Gold,L.,Science,249,505−510(1990)参照)、また、ペプチド、タンパク質のスクリーニング法としては、ファージディスプレイ法(Scott,J.K.,& Smith,G.D.,Science,249,386−390(1990)参照)、基板上に様々な配列のペプチドを光マスク法と光反応を用いて固相合成していくフォトリソグラフィー法(Fodor,S.P.,et al.,Science,251,767−773(1991)参照)、また、無細胞翻訳系を用いたものとしてリボソームディスプレイ法(Mattheakis,L.C.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,91,9022−9026参照)が知られている。
また、ピューロマイシンの特異的性質を利用したin vitro virus法(Nemoto et al.,FEBS Lett.414,405(1997);Tabuchi et al.,FEBS Lett.508,309(2001)等参照)を用いてペプチドやタンパク質をスクリーニングする方法も開発されている(WO01/016600号公報参照)。
ペプチドやタンパク質のスクリーニング法では、大量に効率的にスクリーニングする上で、また、様々なタンパク質が合成できる点において無細胞翻訳系を用いるリボソームディスプレイ法やIn vitro virus法が優れている。一方、タンパク合成はいわゆる液相中で行われるため、タンパク質が機能を発現するために必須なフォールディングが必ずしも容易ではない。例えば、タンパク質にシステインを多く含むペプチドやタンパク質は分子間でS−S結合を形成し、個々のタンパク質がフォールディングできない問題がある。
一方、タンパク質の機能は、専らその立体構造に依存する。すなわち、タンパク質がフォールドすることによって、ある部位が特定の構造を有し、その部位が受容体、酵素などと結合し、その受容体又は酵素を活性化又は不活性化することによって何らかの生理的機能を発現する。タンパク質の立体構造の解析は、現在盛んに行われているが、立体構造の解析は簡単なものではない。例えば、解析の対象となるタンパク質をNMRあるいはX線回折によって解析できる程度までに大量に調製することは困難である。また、X線回折に供するためには、タンパク質を結晶化することが必須であるが、この結晶化も容易ではないからである。
【発明の開示】
このように、現在では、多くの労力が生体内で発現するタンパク質の立体構造解析とその機能解析に注がれている。しかしながら、上述のように、立体構造解析は困難であるから、人工合成によって得られる種々の立体構造を有するタンパク質から特定の機能を有するタンパク質を効率良く、かつ容易にスクリーニングできる手法が確立されることが望ましい。
また、タンパク質のスクリーニングあるいはタンパク質の機能解析において、タンパク質のフォールディングは極めて重要であるが上述のように合成途中で分子間の相互作用が生じるために困難である。タンパク質を確実にフォールディングさせた後にスクリーニングや機能解析をする手法を確立することが望ましい。また、そのようにして取得されたタンパク質の構造を改変してより高い活性を有するタンパク質を設計する手法が確立されることが望ましい。
上記の事情に鑑み本発明者らは、人工合成によって得られる種々の立体構造を有するタンパク質から特定の機能を有するタンパク質を効率良く、かつ容易にスクリーニングできる方法の提供を課題とする。
本発明者らは、システイン残基をランダムにアミノ酸配列中に導入することによって、ジスルフィド結合(S−S結合)をランダムに有するタンパク質群(ランダムライブラリー)を合成し、その機能を解析することにより、有用タンパク質をスクリーニング可能な方法の開発を行った。
まず本発明者らは、システイン残基を有するタンパク質をコードする核酸分子(mRNA)と、該mRNAの翻訳産物であるタンパク質との連結部としての役割を担うピューロマイシンとの連結体が、固相に固定された構造からなる「固定化mRNA−ピューロマイシン連結体」の作製を行った。次いで、該連結体を翻訳系へ供することにより、該mRNAの翻訳産物であるタンパク質がさらに連結されたランダムライブラリーを作製した。上記方法においては、固定化されたmRNA−ピューロマイシン連結体を翻訳系と接触させることにより、固相上においてタンパク質を効率的に合成させることが可能である。合成されたタンパク質は、ピューロマイシンを介して固相に固定される。
さらに本発明者らは、上記固定化ランダムライブラリーを、逆転写反応系へ供することにより、該ライブラリーにおけるmRNAの逆転写産物である相補的DNAが連結されたランダムライブラリーを構築した。通常、RNAに比べてDNAはより安定であることから、タンパク質相互作用解析等の機能解析において、被検分子と接触させる際に、上記ライブラリーは非常に有用である。
次いで本発明者らは、上記ライブラリーをペプチド酸化反応へ供することにより、該ライブラリーのタンパク質について、1以上のS−S結合を形成させ、タンパク質をフォールディングさせることに成功した。これにより、立体構造を形成し実際に機能を発現するタンパク質を、効率的にスクリーニングすることが可能となった。
続いて、フォールディングされたランダムライブラリーを、標的分子と接触させ、各ライブラリーに含まれるタンパク質の機能(例えば、標的分子との結合活性等)を解析し、所望の機能を有するタンパク質を選択することにより、有用タンパク質のスクリーニングを行うことができる。
本発明においては、例えば、ある標的分子に対して少しでも結合活性を有するタンパク質を取得できた場合、そのタンパク質のアミノ酸配列をランダムあるいは計画的に改変して、より活性の強いタンパク質を取得することが可能である。即ち、改変されたタンパク質をコードするmRNAを含む、前述の「固定化mRNA−ピューロマイシン連結体」を作製し、次いで、上述の方法を適宜、複数回繰り返すことにより、標的分子との結合活性が増強されたタンパク質を取得することができる。
本発明者らは、本発明の上記方法が、実際に実施し得ることを実証するために、標的分子としてCy3を選択し、該Cy3と結合活性を有する機能タンパク質のスクリーニングを行った。
その結果、実際にCy3と結合活性を有する複数のタンパク質を取得することに成功した。即ち、本発明の方法は実際に実施し得る有用な方法であることが明確に示された。
本発明は、人工合成によって得られる種々の立体構造を有するタンパク質から特定の機能を有するタンパク質を効率良く、かつ容易にスクリーニングできる方法に関し、より具体的には、次に示すような、有用なタンパク質のスクリーニング方法、そのスクリーニング方法によって得られるタンパク質等を提供する。
(1) システイン残基をランダムにアミノ酸配列中に導入することによってジスルフィド結合をランダムに有するタンパク質を合成し、そのタンパク質の機能を解析することによって有用タンパク質をスクリーニングする方法であって、
(a)少なくとも2以上のシステイン残基を含むタンパク質をコードするmRNAを1以上調製し、得られたmRNAのそれぞれをピューロマイシン又はピューロマイシン様化合物と連結してmRNA−ピューロマイシン連結体(群)を得る工程;
(b)工程(a)で得られたmRNA−ピューロマイシン連結体(群)と、翻訳系とを接触させてタンパク質を合成し、mRNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体(群)を調製する工程;及び
(c)工程(b)において調製されたmRNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体(群)と1以上の標的物質とを接触させ、mRNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体(群)中のいずれかのタンパク質と該標的物質とが相互作用しているか否かを判定する工程;
を含む上記スクリーニング方法。
(2) 前記mRNA−ピューロマイシン連結体が、mRNAの3′末端にスペーサーを介してピューロマイシン又はピューロマイシン様化合物を連結したものである前記(1)に記載の方法。
(3) 工程(a)において、前記mRNAが、2以上のシステイン残基を含むタンパク質をコードするDNAから転写されることによって調製される、前記(1)又は(2)に記載の方法。
(4) 工程(b)において用いられる翻訳系が無細胞翻訳系である、前記(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5) 工程(c)において、前記タンパク質と前記標的物質とが相互作用しているか否かの判定が、アフィニティーカラムクロマトグラフィー法又はアフィニティービーズ法によって両者が結合しているか否かを判断することによって行われる、前記(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
(6) 工程(c)において相互作用していると判断されたタンパク質及び/又は標的物質を同定する工程をさらに含む、前記(1)〜(5)のいずれかに記載の方法。
(7) 工程(c)に続いて、さらに、(d)前記標的物質と相互作用をするタンパク質を含むmRNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体(群)のmRNAから逆転写によりDNAを調製し、さらにそのDNAに変異を導入することによって改変された配列を有するmRNAを調製し、このmRNAを工程(a)に供することによって、標的物質との相互作用力を強化したタンパク質を取得する、前記(1)〜(6)のいずれかに記載の方法。
(8) 前記DNAの変異がError−Prone PCRによって行われる、前記(1)〜(7)のいずれかに記載の方法。
(9) 工程(a)〜(d)を複数回繰り返すことによって標的物質との相互作用力を強化したタンパク質を取得する、前記(1)〜(8)のいずれかに記載の方法。
(10) 前記mRNAが、8〜500個のアミノ酸残基を有するタンパク質をコードするものである、前記(1)〜(9)のいずれかに記載の方法。
(11) 前記mRNAが、10〜200個のアミノ酸残基を有するタンパク質をコードするものである、前記(1)〜(10)のいずれかに記載の方法。
(12) 前記mRNAが、4〜10個のシステイン残基を有するタンパク質をコードするものである、前記(1)〜(11)のいずれかに記載の方法。
(13) 前記mRNAが、隣接するシステイン残基がそれぞれ2〜20個離れて存在するようにアミノ酸配列中に分散しているタンパク質をコードするものである、前記(1)〜(12)のいずれかに記載の方法。
(14) 前記mRNAが、最もN末端側に位置するシステイン残基と最もC末端側に位置するシステイン残基が10〜50個離れているタンパク質をコードするものである、前記(1)〜(13)のいずれかに記載の方法。
(15) 前記スペーサーが、ポリヌクレオチド、ポリエチレン、ポリエチレングリコール、ポリスチレン、ペプチド核酸又はこれらの組合せを主骨格として含むものである、前記(1)〜(14)のいずれかに記載の方法。
(16) 前記スペーサーは固相結合部位を有し、前記mRNA−ピューロマイシン連結体が、その固相結合部位を介して固相に結合されている、前記(1)〜(15)のいずれかに記載の方法。
(17) 前記固相が、スチレンビーズ、ガラスビーズ、アガロースビーズ、セファロースビーズ、磁性体ビーズ、ガラス基板、シリコン基板、プラスチック基板、金属基板、ガラス容器、プラスチック容器及びメンブレンから選択される、前記(1)〜(16)のいずれかに記載の方法。
(18) 前記スペーサーの固相結合部位は切断可能部位を有しており、工程(b)において固相上でタンパク質を確実にフォールディングさせた後に、その切断可能部位を切断してmRNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体(群)を固相から切り離し、そして切り離されたmRNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体(群)を工程(c)に供する、前記(16)又は(17)に記載の方法。
(19) 前記スペーサーがDNAスペーサーであり、前記切断可能部位が制限酵素認識部位である、前記(18)に記載の方法。
(20) 前記(1)〜(19)のいずれかの方法によって得られるタンパク質であって、8〜500のアミノ酸残基を有し、ジスルフィド結合をするためのシステイン残基を2〜10個含み、かつ酸化還元により標的物質との結合定数が変化する合成タンパク質。
(21) 8〜500のアミノ酸残基を有し、ジスルフィド結合をするためのシステイン残基を2〜10個含み、かつ酸化還元により標的物質との結合定数が変化する合成タンパク質。
また本発明は、より好ましくは、以下の有用なタンパク質のスクリーニング方法、および該スクリーニング方法によって得られるタンパク質等に関する。
〔1〕 システイン残基をアミノ酸配列中に導入することによってジスルフィド結合を有するタンパク質を合成し、そのタンパク質の機能を解析することによって有用タンパク質をスクリーニングする方法であって、
(a)少なくとも2以上のシステイン残基を含むタンパク質をコードするmRNAを1以上調製し、得られたmRNAのそれぞれをピューロマイシン又はピューロマイシン様化合物と連結してmRNA−ピューロマイシン連結体(群)を得る工程;
(b)工程(a)で得られたmRNA−ピューロマイシン連結体(群)と、翻訳系とを接触させてタンパク質を合成し、mRNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体(群)を調製する工程;及び
(c)工程(b)において調製されたmRNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体(群)と1以上の標的物質とを接触させ、mRNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体(群)中のいずれかのタンパク質と該標的物質とが相互作用しているか否かを判定する工程;
を含む上記スクリーニング方法。
〔2〕 工程(c)に続いて、さらに、(d)前記標的物質と相互作用をするタンパク質を含むmRNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体(群)のmRNAから逆転写によりDNAを調製し、さらにそのDNAに変異を導入することによって改変された配列を有するmRNAを調製し、このmRNAを工程(a)に供することによって、標的物質との相互作用力が強化されたタンパク質を取得する、前記〔1〕に記載の方法。
〔3〕 システイン残基をアミノ酸配列中に導入することによってジスルフィド結合を有するタンパク質を合成し、そのタンパク質の機能を解析することによって有用タンパク質をスクリーニングする方法であって、
(a)少なくとも2以上のシステイン残基を含むタンパク質をコードするmRNAを1以上調製し、得られたmRNAのそれぞれをピューロマイシン又はピューロマイシン様化合物と連結してmRNA−ピューロマイシン連結体(群)を得る工程;
(b)工程(a)で得られたmRNA−ピューロマイシン連結体(群)と、翻訳系とを接触させてタンパク質を合成し、mRNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体(群)を調製する工程;
(c)工程(b)で得られたmRNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体(群)のmRNAから逆転写によりDNAを調製し、DNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体を調製する工程;及び
(d)工程(c)において調製されたDNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体(群)と1以上の標的物質とを接触させ、DNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体(群)中のいずれかのタンパク質と該標的物質とが相互作用しているか否かを判定する工程;
を含む上記スクリーニング方法。
〔4〕 工程(d)に続いて、さらに、(e)前記標的物質と相互作用をするタンパク質を含むDNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体(群)におけるDNAに変異を導入することによって改変された配列を有するmRNAを調製し、このmRNAを工程(a)に供することによって、標的物質との相互作用力が強化されたタンパク質を取得する、前記〔3〕に記載の方法。
〔5〕 工程(a)において、前記mRNA−ピューロマイシン連結体が、mRNAの3′末端にスペーサーを介してピューロマイシン又はピューロマイシン様化合物と連結した構造である前記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の方法。
〔6〕 工程(a)において、前記mRNAが、2以上のシステイン残基を含むタンパク質をコードするDNAから転写されることによって調製される、前記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の方法。
〔7〕 工程(b)において用いられる翻訳系が無細胞翻訳系である、前記〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の方法。
〔8〕 前記タンパク質と前記標的物質とが相互作用しているか否かの判定が、アフィニティーカラムクロマトグラフィー法又はアフィニティービーズ法によって両者が結合しているか否かを判断することによって行われる、前記〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の方法。
〔9〕 相互作用していると判断されたタンパク質及び/又は標的物質を同定する工程をさらに含む、前記〔1〕〜〔8〕のいずれかに記載の方法。
〔10〕 前記DNAの変異がError−Prone PCR、等の変異導入法によって行われる、前記〔2〕、または〔4〕〜〔9〕のいずれかに記載の方法。
〔11〕 前記の各工程を複数回繰り返すことによって標的物質との相互作用力が強化されたタンパク質を取得する、前記〔1〕〜〔10〕のいずれかに記載の方法。
〔12〕 前記mRNAが、8〜500個のアミノ酸残基を有するタンパク質をコードするものである、前記〔1〕〜〔11〕のいずれかに記載の方法。
〔13〕 前記mRNAが、10〜200個のアミノ酸残基を有するタンパク質をコードするものである、前記〔1〕〜〔12〕のいずれかに記載の方法。
〔14〕 前記mRNAが、2〜10個のシステイン残基を有するタンパク質をコードするものである、前記〔1〕〜〔13〕のいずれかに記載の方法。
〔15〕 前記mRNAが、隣接するシステイン残碁がそれぞれ2〜20個離れて存在するようにアミノ酸配列中に分散しているタンパク質をコードするものである、前記〔1〕〜〔14〕のいずれかに記載の方法。
〔16〕 前記mRNAが、最もN末端側に位置するシステイン残基と最もC末端側に位置するシステイン残基が5〜50個離れているタンパク質をコードするものである、前記〔1〕〜〔15〕のいずれかに記載の方法。
〔17〕 前記スペーサーが、ポリヌクレオチド、ポリエチレン、ポリエチレングリコール、ポリスチレン、ペプチド核酸又はこれらの組合せを主骨格として含むものである、前記〔5〕〜〔16〕のいずれかに記載の方法。
〔18〕 前記スペーサーは固相結合部位を有し、前記mRNA−ピューロマイシン連結体が、その固相結合部位を介して固相に結合されている、前記〔5〕〜〔17〕のいずれかに記載の方法。
〔19〕 前記固相が、スチレンビーズ、ガラスビーズ、アガロースビーズ、セファロースビーズ、磁性体ビーズ、ガラス基板、シリコン基板、プラスチック基板、金属基板、ガラス容器、プラスチック容器及びメンブレンから選択される、前記〔18〕に記載の方法。
〔20〕 前記スペーサーの固相結合部位が切断可能な部位を有するものであり、固相上でタンパク質をフォールディングさせた後に、前記切断可能部位を切断する工程を含む、前記〔18〕又は〔19〕に記載の方法。
〔21〕 前記スペーサーがDNAスペーサーであり、前記切断可能部位が制限酵素認識部位である、前記〔20〕に記載の方法。
〔22〕 前記〔1〕〜〔21〕のいずれかの方法によって得られるタンパク質であって、8〜500のアミノ酸残基を有し、ジスルフィド結合をするためのシステイン残基を2〜10個含み、かつ酸化還元により標的物質との結合定数が変化する合成タンパク質。
〔23〕 8〜500のアミノ酸残基を有し、ジスルフィド結合をするためのシステイン残基を2〜10個含み、かつ酸化還元により標的物質との結合定数が変化する合成タンパク質。
以下、本発明をその実施態様に基づいて詳細に説明する。
本発明は、システイン残基をアミノ酸配列中に導入することによってジスルフィド結合をランダムに有するタンパク質を合成し、そのタンパク質の機能を解析することによって有用タンパク質を特定する方法に関する。
本発明の好ましい態様においては、下記工程(a)〜(c)を有する、システイン残基をアミノ酸配列中に導入することによってジスルフィド結合を有するタンパク質を合成し、そのタンパク質の機能を解析することによって有用タンパク質を特定する方法に関する。
(a)少なくとも2以上のシステイン残基を含むタンパク質をコードするmRNAを1以上調製し、得られたmRNAのそれぞれをピューロマイシン又はピューロマイシン様化合物と連結してmRNA−ピューロマイシン連結体(群)(以下、「mRNA−PM連結体(群)」ともいう)を得る工程;
(b)工程(a)で得られたmRNA−PM連結体(群)と、翻訳系とを接触させてタンパク質を合成し、mRNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体(群)(以下、「mRNA−PM−PRT連結体(群)」ともいう)を調製する工程;及び
(c)工程(b)において調製されたmRNA−PM−PRT連結体(群)と1以上の標的物質とを接触させ、mRNA−PM−PRT連結体(群)中のいずれかのタンパク質と該標的物質とが相互作用しているか否かを判定する工程。
ここで、「システイン残基をアミノ酸配列中に導入する」とは、好ましくは、あるアミノ酸配列(天然タンパク質由来又は合成配列)に部位無作為的(ランダム)にシステイン残基を導入することをいう。但し本発明においては、アミノ酸配列中に導入されるシステイン残基は、必ずしもランダムに導入される場合に限定されず、例えば、ある規則性に基づいて、または計画的にシステイン残基が配置されるように導入される場合も含まれる。また、「ジスルフィド結合を有するタンパク質」とは、好ましくは、そのタンパク質が部位無作為的(ランダム)にジスルフィド結合を有することをいうが、上記のように必ずしも、ランダムにジスルフィド結合を有することに限定されない。
以下、各工程の詳細について説明する。
1.工程(a):mRNA−ピューロマイシン連結体(群)の調製
(mRNAの配列設計)
工程(a)において用いられるmRNAは、取得上および取り扱い上の便宜から、人工的に調製されるものが好ましいが、自然界に存在するものを排除するものではない。ここで用いられるmRNAは、少なくとも1以上のジスルフィド結合を有するタンパク質を合成するために、少なくとも2以上のシステイン残基を含むタンパク質をコードしている。このmRNAは、好ましくは、2〜10個、より好ましくは4〜10個のシステイン残基を有するタンパク質をコードする。本明細書中、「タンパク質」という用語はペプチドを含むものと解される。なお、翻訳によって合成されるタンパク質中のシステイン残基が、ジスルフィド結合を形成するためには、好ましくは、少なくとも2個以上のシステイン残基が、それぞれ、2アミノ酸残基以上、より好ましくは3アミノ酸残基以上離れていることが望まれる。また、システイン残基は、アミノ酸配列中にある程度分散していることが好ましく、N末端側あるいはC末端側に偏在しているものよりは、そうでない配列のほうが好ましい。また、最もN末端側に位置するシステイン残基と最もC末端側に位置するシステイン残基が、好ましくは5〜50個、より好ましくは10〜50個離れているタンパク質をコードするmRNAであることが望ましい。
本発明において用いられるmRNAとしては、特にこれに限定されないが、好ましくは、10〜200、より好ましくは10〜100、さらに好ましくは15〜50、さらに好ましくは20〜40個のアミノ酸残基を有するタンパク質をコードするものが挙げられる。あまりに長いものは調製が困難であるし、あまりに短いものは合成されるタンパク質が適当な立体構造をとりにくいからである。
尚、アミノ酸の種類は必ずしも20種類全てを含む必要はない。
本発明で用いられるmRNAは、上記のような条件を考慮して、適宜設計される。なお、上記のような条件を満たす配列は、人為的にも容易に設計できるし、簡単なコンピュータープログラムによっても容易に設計することができる。本発明においては、これらに限定されるものではないが、例えば、アミノ酸残基を30個有し、システインを6個有するタンパク質をターゲットとした場合は、例えば、下記のアミノ酸配列(式中、S1〜S6はシステイン残基を示し、A1〜A30はシステイン残基以外のアミノ酸残基(グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、プロリン、アスパラギン酸、グルタミン酸、メチオニン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、リシン、アルギニン又はヒスチジン)を有するタンパク質をコードするmRNAが用いられる。
(1)A1−A2−S1−A4−A5−A6−S2−A8−A9−A10−S3−A12−A13−A14−S4−A16−A17−A18−S5−A20−A21−A22−S6−A24−A25−A26−A27−A28−A29−A30;
(2)A1−A2−A3−S1−A5−A6−A7−S2−A9−A10−A11−S3−A13−A14−A15−S4−A17−A18−A19−−A21−A22−A23−S6−A25−A26−A27−A28−A29−A30;
(3)A1−S1−A3−A4−A5−A6−S2−A8−A9−A10−A11−S3−A13−A14−A15−A16−S4−A18−A19−A20−A21−S5−A23−A24−A25−A26−S6−A28−A29−A30;
(4)A1−S1−A3−A4−A5−A6−A7−S2−A9−A10−A11−A12−A13−S3−A15−A16−A17−A18−A19−S4−A21−A22−A23−A24−S5−A26−A27−A28−S6−A30;
(5)A1−A2−S1−A4−A5−S2−A7−A8−A9−A10−A11−A12−A13−S3−A15−S4−A17−A18−A19−A20−A21−A22−A23−A24−S5−A26−A27−S6−A29−A30;
(6)A1−A2−A3−A4−A5−S1−A7−A8−S2−A10−A11−A12−A13−A14−A15−S3−A17−S4−A19−A20−A21−S5−A23−A24−A25−S6−A27−S6−A29−A30;
(7)A1−A2−A3−S1−A5−A6−A7−A8−A9−A10−A11−S2−A13−A14−A15−S3−A17−A18−A19−A20−A21−S4−A23−A24−A25−S5−A27−A28−S6−A30;
(8)A1−S1−A3−S2−A5−A6−A7−A8−A9−S3−A11−A12−S4−A14−A15−A16−A17−A18−A19−A20−A21−A22−A23−S5−A25−A26−A27−S6−A29−A30;
(9)A1−A2−A3−A4−A5−A6−S1−A8−A9−A10−S2−A12−A13−S3−A15−A16−A17−A18−A19−A20−S4−A22−A23−A24−A25−A26−S5−A28−S6−A30;又は
(10)A1−S1−A3−A4−A5−A6−S2−A8−S3−A10−S4−A12−A13−A14−A15−A16−A17−S5−A19−A20−A21−A22−A23−A24−S6−A26−A27−A28−A29−A30。
なお、既に公知のアミノ酸配列あるいは核酸配列から、上記条件を満たす配列を検索し、これに基づいて所望の核酸配列を設計することもできる。このような公知のアミノ酸配列又は核酸配列情報は、公知のデータベース、例えば、PDB(プロテインデータバンク)、GenBank(National Center for Biotechnology Information)、EMBL(European Bioinformatics Institute,EBI)、DDBJ(国立遺伝学研究所)等から入手可能である。
また、タンパク質の立体構造の形成には、ジスルフィド結合以外にも、水素結合、イオン結合、ファンデルワールス力などの種々の要素が関与している。また、α−ヘリックス、β−シート、ジンクフィンガー、ロイシンジッパー、ヘリックスターンヘリックス、ヘリックスループヘリックス等を形成するアミノ酸配列も当業者には公知である。したがって、必要に応じてこれらの要素も考慮し、公知のコンピューター・アシステッド・モレキュラー・デザインの手法を用いて、より適切な配列を設計することもできる。例えば、βシート構造を3つほど有すると、それらのβシート構造間で水素結合を形成することが知られており、このような情報は、システイン残基によるS−S結合以外の立体構造形成のための情報として有用である。そのような配列設計のための有用な情報として下記文献が参考となる。
(1)Nielsen,KJ,et al.J.Mol.Recognit.,2000;13:55−70
(2)Norton,RS,& Pallaghy,Toxicon,1998;36:1573−1583.
(3)Kim JII,et al.,J.Mol.Biol.1995;250:659−671
(4)Goldenberg,DP.,et al.,Protein Science,2001;10:538−550.
(5)Miles,LA.,et al.,J.Biol.Chem.,2002;277:43033−43040.
(mRNAの調製)
本発明で用いられるmRNAは、上記のようにしてそれがコードすべきアミノ酸配列を設計すれば、後は公知の核酸合成手法に基づいて合成することができる(PerSeptive Biosystems,DNA/RNA Synthesis System,1995)。また、このようなmRNAは、上記のようにして設計したアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNAを合成し、そのDNAを転写反応に供することによって容易に調製することができる(Krupp G & Soll D,FEBS Lett.1987,212,271−275.)。
また、本発明の好ましい態様によれば、上記の設計方法に基づき、DNA合成機によって、所望のタンパク質群をコードするDNAライブラリーを作成し、このDNAライブラリーから転写されるmRNAを用いることができる。
(ピューロマイシン又はピューロマイシン様化合物)
上記のようにして得られるmRNAを、通常、mRNAの3′末端にスペーサーを介してピューロマイシン又はピューロマイシン様化合物を連結して、mRNA−PM連結体を調製する。ここで、ピューロマイシン又はピューロマイシン様化合物は、mRNA−PM連結体を翻訳系に投入してタンパク質を合成する際に、mRNAと翻訳されたタンパク質とを連結するヒンジあるいは連結部の役割をする。すなわち、mRNAにスペーサーを介してピューロマイシンを結合したものと翻訳系を接触させると、そのmRNAがピューロマイシンを介して翻訳されたタンパク質と結合したIn vitro virusビリオンが生成することが知られている(Nemoto et al.,FEBS Lett.414,405(1997)参照)。ピューロマイシン(Puromycin)は、その3′末端がアミノアシルtRNAに化学構造骨格が類似している、下記式(I):

に示される化合物で、翻訳系でタンパク質の合成が行われた際に、合成されたタンパク質のC末端に結合する能力を有する。本明細書中、「ピューロマイシン様化合物」とは、その3′末端がアミノアシルtRNAに化学構造骨格が類似し、翻訳系でタンパク質の合成が行われた際に、合成されたタンパク質のC末端に結合する能力を有する化合物をいう。
ピューロマイシン様化合物としては、3′−N−アミノアシルピューロマイシンアミノヌクレオシド(3′−N−Aminoacylpuromycin aminonucleoside、PANS−アミノ酸)、例えば、アミノ酸部がグリシンのPANS−Gly、アミノ酸部がバリンのPANS−Val、アミノ酸部がアラニンのPANS−Ala、その他、アミノ酸部が全ての各アミノ酸に対応するPANS−アミノ酸化合物が挙げられる。また、3′−アミノアデノシンのアミノ基とアミノ酸のカルボキシル基が脱水縮合して形成されるアミド結合で連結した3′−N−アミノアシルアデノシンアミノヌクレオシド(3′−Aminoacyladenosine aminonucleoside、AANS−アミノ酸)、たとえば、アミノ酸部がグリシンのAANS−Gly、アミノ酸部がバリンのAANS−Val、アミノ酸部がアラニンのAANS−Ala、その他、アミノ酸部が全アミノ酸の各アミノ酸に対応するAANS−アミノ酸化合物を使用できる。また、ヌクレオシドあるいはヌクレオシドとアミノ酸のエステル結合したものなども使用できる。なお、上記ピューロマイシン以外に好ましく用いられるピューロマイシン様化合物は、リボシチジルピューロマイシン(rCpPur)、デオキシジルピューロマイシン(dCpPur)、デオキシウリジルピューロマイシン(dUpPur)などであり、下記にその化学構造式を示す。


(スペーサー)
本発明のmRNA−PM連結体においては、mRNAとピューロマイシン又はピューロマイシン様化合物(以下、単に「ピューロマイシン」と称する)は、スペーサーを介して連結される。また、この連結体は、好ましくは、このスペーサーに設けられた固相結合部位を介して固相に固定化される。スペーサーは、主として、ピューロマイシンをリボソームのAサイトと呼ばれる部位に効率良く取り込ませるために用いられる。従って、スペーサーとしては、そのような性質を有する限り特に限定されないが、柔軟性があり、親水性で、側鎖の少ない単純な構造を有する骨格を有するものが好ましい。具体的には、ここで用いられるスペーサーとして、これらに限定されないが、ポリヌクレオチド(DNA含む)、ポリエチレンなどのポリアルキレン、ポリエチレングリコールなどのポリアルキレングリコール、ペプチド核酸(PNA)、ポリスチレン等の直鎖状物質又はこれらの組合せを主骨格として含むものが好ましく用いられる。上記直鎖上物質を組み合わせて用いる際は、適宜、それらを適当な連結基(−NH−、−CO−、−O−、−NHCO−、−CONH−、−NHNH−、−(CH−[nは例えば1〜10、好ましくは1〜3]、−S−、−SO−など)で化学的に連結することができる。
mRNAとスペーサーとの連結は、公知の手法を用いて直接的又は間接的に、化学的又は物理的に行うことができる。例えば、DNAをスペーサーとして用いる場合は、mRNAの3′末端にそのDNAスペーサーの末端と相補的な配列を設けておくことにより、両者を連結することができる。また、スペーサーとピューロマイシンを連結する場合は、通常、公知の化学的手法によって連結される。
なお、タンパク質を合成した後に、mRNA−PM−タンパク質の複合体を固相から切り離す必要がある場合は、スペーサー中に切断可能部位を設けると好ましい。DNAをスペーサーの一部に用いた場合は、そのような切断可能部位として、DNA鎖中に制限酵素認識部位を設けることができる。このような制限酵素認識部位をもつスペーサーを用いた場合は、タンパク質合成後など所望の時に、制限酵素(例えば、Alu I、BamH I、EcoR I、Hind II、Hind III、Pvu IIなど)を投入することによって、mRNA−PM−タンパク質の複合体を固相から切り離すことができる。制限酵素認識部位とその部位を切断する酵素の組合せは公知である(New England BioLabs 2000・01 Catalog & Technical reference等参照)。
なお、本発明のmRNA−PM連結体には、必要に応じて標識物質を結合させることによって標識することができる。そのような標識物質は、蛍光性物質、放射性標識物質などから適宜選択される。蛍光物質としては、フリーの官能基(例えば活性エステルに変換可能なカルボキシル基、ホスホアミダイドに変換可能な水酸基、あるいはアミノ基など)を持ち、スペーサー又はピューロマイシン又はピューロマイシン様化合物に連結可能な種々の蛍光色素を用いることができる。適当な標識物質としては、例えばフルオレスセインイソチオシアネート、フィコビリタンパク、希土類金属キレート、ダンシルクロライド若しくはテトラメチルローダミンイソチオシアネート等の蛍光物質;H、14C、125I若しくは131I等の放射性同位体などが挙げられる。
(固相)
mRNA−PM連結体が固定される固相は特に限定されず、その連結体が使用される目的に応じて適宜選択される。本発明で用いられる固相としては、生体分子を固定する担体となるものを用いることができ、例えば、スチレンビーズ、ガラスビーズ、アガロースビーズ、セファロースビーズ、磁性体ビーズ等のビーズ;ガラス基板、シリコン(石英)基板、プラスチック基板、金属基板(例えば、金箔基板)等の基板;ガラス容器、プラスチック容器等の容器;ニトロセルロース、ポリビニリデンフルオリド(PVDF)等の材料からなるメンブレンなどが挙げられる。
本発明のmRNA−PM連結体を固相に固定する場合は、mRNAが翻訳系と接触する際に、その翻訳の障害とならないように固定すればよく、その固定化手段は特に限定されない。通常は、mRNAとPMを連結するスペーサーに固相結合部位を設け、その固相結合部位を、固相に結合させた「固相結合部位認識部位」を介して、mRNA−PM連結体を固相に固定する。固相結合部位は、mRNA−PM連結体を所望の固相に結合し得るものであれば特に限定されない。例えば、このような固相結合部位として、特定のポリペプチドに特異的に結合する分子(例えば、リガンド、抗体など)が用いられ、この場合は、固相表面には固相結合部位認識部位として、その分子と結合する特定のポリペプチドを結合させておく。固相結合部位/固相結合部位認識部位の組合せの例としては、例えば、アビジン及びストレプトアビジン等のビオチン結合タンパク質/ビオチン、マルトース結合タンパク質/マルトース、Gタンパク質/グアニンヌクレオチド、ポリヒスチジンペプチド/ニッケルあるいはコバルト等の金属イオン、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ/グルタチオン、DNA結合タンパク質/DNA、抗体/抗原分子(エピトープ)、カルモジュリン/カルモジュリン結合ペプチド、ATP結合タンパク質/ATP、あるいはエストラジオール受容体タンパク質/エストラジオールなどの、各種受容体タンパク質/そのリガンドなどが挙げられる。これらの中で、固相結合部位/固相結合部位認識部位の組合せとしては、アビジン及びストレプトアビジンなどのビオチン結合タンパク質/ビオチン、マルトース結合タンパク質/マルトース、ポリヒスチジンペプチド/ニッケルあるいはコバルト等の金属イオン、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ/グルタチオン、抗体/抗原分子(エピトープ)などが好ましく、特にストレプトアビジン/ビオチンの組合せが最も好ましい。
上記タンパク質の固相表面への結合は、公知の方法を用いることができる。そのような公知の方法としては、例えば、タンニン酸、ホルマリン、グルタルアルデヒド、ピルビックアルデヒド、ビス−ジアゾ化ベンジゾン、トルエン−2,4−ジイソシアネート、カルボキシル基、又は水酸基あるいはアミノ基などを利用する方法を挙げることができる(P.M.Abdella,P.K.Smith,G.P.Royer,A New Cleavable Reagent for Cross−Linking and Reversible Immobilization of Proteins,Biochem.Biophys.Res.Commun.,87,734(1979)等参照)。
なお、上記組合せは、固相結合部位と固相結合部位認識部位とを逆転させて用いることもできる。上記の固定化手段は、2つの相互に親和性を有する物質を利用した固定化方法であるが、固相がスチレンビーズ、スチレン基板などのプラスチック材料であれば、必要に応じて、公知の手法を用いてスペーサーの一部を直接それらの固相に共有結合させることもできる(Qiagen社、LiquiChip Applications Handbook等参照)。なお、本発明においては、固定手段については上記の方法に限定されることなく、当業者に公知である如何なる固定手段をも利用することができる。
2.工程(b):mRNA−PM−PRT連結体(群)の調製
工程(b)では、mRNA−PM連結体を翻訳系と接触させることによって、タンパク質の合成を行い、mRNA−PM−PRT連結体(群)を調製する。ここで用いることができる翻訳系としては、無細胞翻訳系又は生細胞などが挙げられる。無細胞翻訳系としては、原核又は真核生物の抽出物により構成される無細胞翻訳系、例えば大腸菌、ウサギ網状赤血球、小麦胚芽抽出物などが使用できる(Lamfrom H,Grunberg−Manago M.Ambiguities of translation of poly U in the rabbit reticulocyte system.Biochem Biophys Res Commun.1967 27(1):1−6等参照)。生細胞翻訳系としては、原核又は真核生物、例えば大腸菌の細胞などが使用できる。本発明においては、取り扱いの容易さから、無細胞系を使用することが好ましい。
さらに必要に応じて、ジスルフィド結合(S−S結合)を形成させるために、得られたmRNA−PM−PRT連結体(群)を酸化還元処理に供する。例えば、得られたmRNA−PM−PRT連結体(群)をジチオスレイトール(DTT)などの還元剤の存在下、0〜35℃で、0.5〜3時間反応させて還元する。次に、このように処理されたmRNA−PM−PRT連結体(群)をo−ヨードソ安息香酸等の酸化剤の存在下、適当なバッファー(例えばpH.7の50mMリン酸バッファー)中、0〜35℃で、5分〜1時間反応させる。必要に応じて各処理後、適当な洗浄用バッファー(例えば、Washing Buffer(Tris−HCl pH.8.0,NaCl 100mM))で洗浄する。
なお、本発明の好ましい態様によれば、前記スペーサーの固相結合部位は切断可能部位を有しており、工程(b)においては、固相上でタンパク質を確実にフォールディングさせた後に、その切断可能部位を切断してmRNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体(群)を固相から切り離し、そして切り離されたmRNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体(群)を工程(c)に供するようにする。このような操作をすることにより、タンパク質を確実にフォールディングさせた後にスクリーニングや機能解析をすることができる。
本発明においてタンパク質のフォールディングは、好ましくは、該タンパク質中に含まれるシステイン残基中のSH基を酸化し、ジスルフィド結合を形成させることによって、実施することができる。このようにして形成されるタンパク質は、安定な立体構造を呈する。通常、タンパク質の機能は、その立体構造に依存することから、本発明の方法においては、立体構造に依存する機能タンパク質を、効率的にスクリーニングすることが可能である。
本発明の好ましい態様においては、固相に結合された状態のタンパク質についてフォールディングされることが好ましい。固相に結合された本発明の連結体を酸化反応に供することにより、効率的にS−S結合を形成させることができる。
3.工程(c):タンパク質と標的物質との相互作用の測定
上記工程(c)においては、工程(b)において調製されたmRNA−PM−PRT連結体(群)と1以上の標的物質とを接触させる。ここで用いられる「標的物質」とは、本発明において合成されるタンパク質と相互作用するか否か調べるための物質を意味し、具体的にはタンパク質、核酸、糖鎖、低分子化合物などが挙げられる。
タンパク質としては、特に制限はなく、タンパク質の全長であっても結合活性部位を含む部分ペプチドでもよい。またアミノ酸配列、及びその機能が既知のタンパク質でも、未知のタンパク質でもよい。これらは、合成されたペプチド鎖、生体より精製されたタンパク質、あるいはcDNAライブラリー等から適当な翻訳系を用いて翻訳し、精製したタンパク質等でも標的分子として用いることができる。合成されたペプチド鎖はこれに糖鎖が結合した糖タンパク質であってもよい。これらのうち好ましくはアミノ酸配列が既知の精製されたタンパク質か、あるいはcDNAライブラリー等から適当な方法を用いて翻訳、精製されたタンパク質を用いることができる。
核酸としては、特に制限されることはなく、DNAあるいはRNAも用いることができる。また、塩基配列あるいは機能が既知の核酸でも、未知の核酸でもよい。好ましくは、タンパク質に結合能力を有する核酸としての機能、及び塩基配列が既知のものか、あるいはゲノムライブラリー等から制限酵素等を用いて切断単離してきたものを用いることができる。
糖鎖としては、特に制限はなく、その糖配列あるいは機能が、既知の糖鎖でも未知の糖鎖でもよい。好ましくは、既に分離解析され、糖配列あるいは機能が既知の糖鎖が用いられる。
低分子化合物としては、特に制限されず、機能が未知のものでも、あるいはタンパク質に結合する能力が既に知られているものでも用いることができる。
なお、これら標的物質とタンパク質との「相互作用」とは、通常は、タンパク質と標的分子間の共有結合、疎水結合、水素結合、ファンデルワールス結合、及び静電力による結合のうち少なくとも1つから生じる分子間に働く力による作用を示すが、この用語は最も広義に解釈すべきであり、いかなる意味においても限定的に解釈してはならない。共有結合としては、配位結合、双極子結合を含有する。また静電力による結合とは、静電結合の他、電気的反発も含有する。また、上記作用の結果生じる結合反応、合成反応、分解反応も相互作用に含有される。相互作用の具体例としては、抗原と抗体間の結合及び解離、タンパク質レセプターとリガンドの間の結合及び解離、接着分子と相手方分子の間の結合及び解離、酵素と基質の間の結合及び解離、核酸とそれに結合するタンパク質の間の結合及び解離、情報伝達系におけるタンパク質同士の間の結合と解離、糖タンパク質とタンパク質との間の結合及び解離、あるいは糖鎖とタンパク質との間の結合及び解離が挙げられる。したがって、相互作用力は、2つの物質の結合の程度(結合定数)及び/または解離の程度(解離定数)を測定することによって判断することができる。(LeTilly V.& Royer CA,Biochemistry.1993,32,7753−7758)。なお、本明細書中、「酸化還元により標的物質との結合定数が変化する」とは、通常、数値が1桁以上(例えば、10が10)変化することをいう。
ここで用いられる標的物質は、必要に応じて標識物質により標識して用いることができる。必要に応じて標識物質を結合させることによって標識することができる。そのような標識物質は、蛍光性物質、放射性標識物質などから適宜選択される。蛍光物質としては、フリーの官能基(例えば活性エステルに変換可能なカルボキシル基、ホスホアミダイドに変換可能な水酸基、あるいはアミノ基など)を持ち、標的物質に連結可能な種々の蛍光色素を用いることができる。適当な標識物質としては、例えばフルオレスセインイソチオシアネート、フィコビリタンパク、希土類金属キレート、ダンシルクロライド、テトラメチルローダミンイソチオシアネートもしくはCy3等の蛍光物質;H、14C、125I若しくは131I等の放射性同位体などが挙げられる。これらの標識物質は、標的物質と固定化タンパク質との間の相互作用に基づいて発生される信号の変化の測定又は解析方法に適したものが適宜用いられる。上記標識物質の標的物質への結合は、公知の手法に基づいて行うことができる。
工程(c)において、該タンパク質と該標的物質とが相互作用しているか否かを測定する。該タンパク質と該標的物質とが相互作用しているか否かの測定は、両分子間の相互作用に基づいて発生される信号の変化を測定、検出することにより行う。そのような測定手法としては、例えば、表面プラズモン共鳴法(Cullen,D.C.,et al.,Biosensors,3(4),211−225(1987−88))、エバネッセント場分子イメージング法(Funatsu,T.,et al.,Nature,374,555−559(1995))、蛍光イメージングアナライズ法、固相酵素免疫検定法(Enzyme Linked Immunosorbent Assay(ELISA):Crowther,J.R.,Methods in Molecular Biology,42(1995))、蛍光偏光解消法(Perran,J.,et al.,J.Phys.Rad.,1,390−401(1926))、及び蛍光相関分光法(Fluorescence Correlation Spectroscopy(FCS):Eigen,M.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,91,5740−5747(1994))等が挙げられる。
また、両分子間の相互作用は、単純に、両分子が結合するか否かを判定することによって行うことができ、両分子の特異的親和性を利用した方法(例えば、アフィニティークロマトグラフィー)によってそのような結合実験を行うことができる。具体的には、セルロース系担体、アガロース系担体、ポリアクリルアミド系担体、デキストラン系担体、ポリスチレン系担体、ポリビニルアルコール系担体、ポリアミノ酸系担体あるいは多孔性シリカ系担体等のような不溶性担体上(例えばビーズ、フィルター、メンブレン等の担体)に標的物質を常法により固定化(物理的吸着、架橋による高分子化、マトリックス中への封印あるいは非共有結合等による固定化)し、該不溶性担体をガラス製、プラスチック製あるいはステンレス製等のカラムに充填し、該カラム(例えば、円柱状カラム)に、試料を通して溶出させることにより、該試料中に含まれる、標的物質に結合するmRNA−PM−PRT連結体を分離することができる。またこのような操作を行なうことによって、標的物質に結合しなかったタンパク質を本スクリーニングプロセスから排除することができ、必要なタンパク質のみを選別することができる。あるいは、両分子の特異的親和性を利用した方法としてアフィニティービーズ法によって結合実験を行うことができる(文献,Ogata Y,et al.,Anal Chem.2002;74:4702−4708)。具体的にはストレプトアビジンを表面に結合させた磁性体ビーズまたは標的分子をアミノ基などを介して表面に固定した磁性体ビーズを用いる。ビオチン化した標的分子に結合するmRNA−PM−PRT連結体はストレプトアビジンビーズと接触させた後、磁石でストレプトアビジン磁性体ビーズを回収することによって分離することができる。また、標的分子を表面に固定した磁性体ビーズとmRNA−PM−PRT連結体とを接触させた後に磁石で磁性体ビーズを回収することによって分離することができる。他にも、ビーズが磁性体でなく、アガロースビーズ等の場合は、磁石の代わりに遠心機を用いてビーズのみ沈殿させて回収することで分離することが可能である。
本発明の方法においては、必要に応じて、さらに、工程(c)において相互作用していると判断されたタンパク質−標的物質結合体中の、タンパク質及び/又は標的物質を同定する。タンパク質の同定は、通常のアミノ酸配列シークエンサーで行うこともできるし、該タンパク質に結合しているmRNAからDNAを逆転写し、得られたDNAの塩基配列を解析することによって行うこともできる。標的物質の同定は、NMR、IR、各種質量分析などによって行うことができる。
4.工程(d):改変されたタンパク質の調製
本発明においては、好ましくは、工程(c)に続いて、さらに、(d)前記標的物質と相互作用をするタンパク質を含むmRNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体(群)のmRNAから逆転写によりDNAを調製し、さらにそのDNAに変異を導入することによって改変された配列を有するmRNAを調製し、このmRNAを工程(a)に供し、次いで上述のように工程(b)及び(c)の処理を行うことによって、標的物質との相互作用力を強化したタンパク質を取得することができる。ここで、前記DNAの変異は、Error−Prone PCR法(Gram H,et al,Proc Natl Acad Sci USA.1992,89,3576−80.)、DNA Shuffling法(Stemmer WP,Nature.1994,370,389−391)等の公知の方法によって行うことができる。本発明においては、DNAにランダムに低確率で変異を導入することができる、Error−Prone PCR法が好ましい。なお、Error−Prone PCR法のキットは、Stratagene社からGeneMorph PCT Mutagenesis Kit(GeneMorphは商標)として市販されている。このような方法を利用すると、上記工程(a)〜(c)において、ある標的物質に対して少しでも相互作用するタンパク質を取得できた場合に、そのタンパク質のアミノ酸配列をランダムに改変して、より活性の強いタンパク質を取得することができる。したがって、上記工程(a)〜(d)を複数回繰り返すことによって標的物質との相互作用力をより強化したタンパク質を取得することができる。
また、このような工程を複数回(例えば、2〜10回、好ましくは4〜8回)繰り返すことによって、ある特定の標的物質と相互作用するタンパク質が複数取得できた場合は、それら複数タンパク質のアミノ酸配列のコンセンサス配列情報等に基づいて新たなアミノ酸配列を有するタンパク質を設計し、これを前記工程(a)に供することによって、さらに高い活性を有するタンパク質を取得することが可能となる。
このようにして得られたタンパク質は、公知の有機合成手法に基づいて有機合成することができる(泉屋信夫他、ペプチド合成の基礎と実験、丸善(株)(1975年)等参照)。なお、このようなスクリーニング方法によって得られるタンパク質は、標的物質の生理的機能を調整する、生理活性物質として、種々の医薬用途に用いることができる。
また上記工程(c)においては、mRNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体(群)と標的物質とを接触させるが、本発明においては、該mRNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体(群)中のmRNAから逆転写によりDNAを調製し、DNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体(群)を調製した後、該連結体(群)を標的物質と接触させてもよい。
通常、DNA分子はRNA分子より安定であることが知られている。また、DNA分子は、RNA分子と比べてアルカリに強いため、例えば、架橋反応に供する場合、DNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体は、より化学反応を行い易い利点を有する。
また、本発明においては、本発明の上記工程によって調製されるDNA/mRNA−ピューロマイシン−連結体(群)を、一旦保存した後に、適宜、保存された該連結体を標的分子との接触に供することも可能である。通常、DNA分子は、凍結、融解を繰り返しても安定であるが、RNA分子は、凍結、融解を繰り返すことにより通常、分解され易いことが知られている。さらに、RNA分子はDNA分子と比べて非特異的な相互作用の影響が大きいことが知られており、従って、本発明において、標的分子との接触に供する連結体は、DNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体(群)であることが好ましい。
即ち、本発明の好ましい態様においては、以下の工程(a)〜(d)を含む、システイン残基をアミノ酸配列中に導入することによってジスルフィド結合を有するタンパク質を合成し、そのタンパク質の機能を解析することによって有用タンパク質をスクリーニングする方法に関する。
(a)少なくとも2以上のシステイン残基を含むタンパク質をコードするmRNAを1以上調製し、得られたmRNAのそれぞれをピューロマイシン又はピューロマイシン様化合物と連結してmRNA−ピューロマイシン連結体(群)を得る工程
(b)工程(a)で得られたmRNA−ピューロマイシン連結体(群)と、翻訳系とを接触させてタンパク質を合成し、mRNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体(群)を調製する工程
(c)工程(b)で得られたmRNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体(群)のmRNAから逆転写によりDNAを調製し、DNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体を調製する工程
(d)工程(c)において調製されたDNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体(群)と1以上の標的物質とを接触させ、DNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体(群)中のいずれかのタンパク質と該標的物質とが相互作用しているか否かを判定する工程
なお本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の一実施態様に係るスクリーニング方法の概要を示す図である。
図2は、mRNAへ、ピューロマイシン付きスペーサーDNAを共有結合させたものの概略図を示す図である。
図3は、PM付きスペーサーDNAの概略図を示す図である。Pはピューロマイシン、FはFITC、Bはビオチン、A,T,C,GはDNA、a,u,g,cはRNAのシーケンスを示している。四角枠で囲った部分は制限酵素PvuIIサイトを示す。RNAの3′末端とDNAの5′末端は“T4 RNA Ligase”と示した部分でライゲーションされるように合成した。
図4は、全長DNAライブラリーの配列構成を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明を実施例に基づいてより具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実験例1
1.スペーサーBioLoop−Puro(以下“PM付きスペーサーDNA”と略す)の合成
Puro−F−S[配列;5′−(S)−TC(F)−(Spec18)−(Spec18)−(Spec18)−(Spec18)−CC−(Puro)−3′、BEX社より購入]10nmolを、100μlの50mMリン酸バッファー(pH7.0)に溶かし、100mM TCEPを1μl加え(final 1mM)、室温で6時間放置し、Puro−F−SのThiolを還元した。架橋反応を行う直前に50mMリン酸バッファー(pH7.0)で平衡化したNAP5(アマシャム、17−0853−02)を用いてTCEP(Tris(2−carboxyethyl)phosphine hydrochloride)を除いた。なお、Puro−F−Sの配列中、(S)は5′−Thiol−Modifier C6、(Puro)はPuromycin CPG、Spacer18はGlen Research Search社製のスペーサー(18−O−Dimethoxytritylhexaethyleneglycol,1−[(2−cyanoethyl)−(N,N−diisopropyl)]−phosphoramidite)で次の化学構造を有する。

0.2Mリン酸バッファー(pH7.0)100μlに、500pmol/μl Biotin−loop[(56mer)配列;5′−CCCGG TGCAG CTGTT TCATC(T−B)CGGA AACAG CTGCA CCCCC CGCCG CCCCC CG(T)CCT−3′(配列番号1、BEX社より購入)、(T):Amino−Modifier C6 dT、(T−B):Biotin−dT(アンダーラインは制限酵素PvuIIのサイトを示す)]20μl、100mM架橋剤EMCS(344−05051;6−Maleimidohexanoic acid N−hydroxysuccinide ester)、Dojindo社製)20μl、を加え、良く攪拌した後、37℃で30分放置した後に、未反応のEMCSを取り除いた。沈殿を減圧下で乾燥させた後、0.2Mリン酸バッファー(pH7.0)10μlに溶かし、上記の還元したPuro−F−S(〜10nmol)を加えて4℃で一晩放置した。サンプルに最終で4mMになるようにTCEPを加え室温で15分放置した後、未反応のPuro−F−Sをエタノール沈殿で取り除き、未反応のBiotin−loopを取り除くために以下の条件でHPLC精製を行った。
カラム;nacalai tesque CSOMOSIL 37918−31 10 x 250mm C18−AR−300(Waters)
BufferA;0.1M TEAA、BufferB;80%アセトニトリル(超純水で希釈したもの)
流速:0.5ml/min(B%:15−35% 33min)
HPLCの分画は18%アクリルアミドゲル(8M尿素、62℃)で解析し、目的の分画を減圧下で乾燥させた後、DEPC処理水で溶かして、10pmol/μlにした。
2.抗体様ペプチドの鋳型DNA作成
抗体様ペプチドの鋳型DNAは同一分子内に少なくとも2つ以上のS−S結合を形成させるために、一つのペプチド内に4つ以上のシステイン残基を含ませた。したがって鋳型DNAはシステインに対応するコドン(UGU、UGC)のうちどれかを4つ以上含む配列を作成した。
本実施例では、下記アミノ酸配列(配列番号2又は3)を有するタンパク質をコードする下記DNAライブラリ(配列番号4又は5、ただしこの配列は相補的な配列)をDNA合成機(Applied Biosystems社製:3400)を用いて固相合成法によって合成した。


また、これを鋳型にしてDNAプライマー(配列番号6:CATTACATTTTACATTCTACAACTACAAGCCACCATG、及び配列番号7:TTTCCCCGCCCCCCGTCCT)を用いてPCR(条件:熱変性95℃2分の後、熱変性95℃30秒、アニーリング69℃15秒、伸長反応72℃45秒、サイクル数30回)を行い、エタノール沈殿により精製した後、T7プロモーター配列と非翻訳領域配列をもつDNA(以下、T7Ωと略す)(配列番号8:GATCCCGCGAAATTAATACGACTCACTATAGGGGAAGTATTTTTACAACAATTACCAACAACAACAACAAACAACAACAACATTACATTTTACATTCTACAACTACAAGCCACCATG)をプライマーなしのPCR(条件:熱変性95℃2分の後、熱変性95℃30秒、アニーリング60℃15秒、伸長反応72℃50秒、サイクル数30回)を行い連結し、フェノール抽出、エタノール沈殿を行うことで精製した。これにより、5′側にT7、Cap、オメガ配列、Kozak配列、3′末端にx6ヒスチジンタグの他にスペーサーDNAの一部と相補なタグ配列(5′側−AGGACGGGGGGCGGGGAAA(配列番号9)アンダーラインはスペーサー配列と相補な部分)を含む鋳型DNAが合成された。
3.転写
上記工程2で合成したDNAを鋳型として、以下のようにin vitro転写をプロメガ社のプロトコルに従い行なった。DNA8μgに対し、m7G Cap Analog(Promega社)を最終濃度が320μMになるように加え、37℃で1時間反応させた。次にDNase、フェノール・クロロフォルム処理した後、DS Primer Remover(Edge Biosystems)で精製し定量した。
4.mRNAとPM付きスペーサーDNAの結合
5′キャップ及び3′にタグ配列を持ったmRNA 300pmolに、PM付きスペーサーDNAを300pmol、10 x Ligation Buffer(TaKaRa)6μl、DMSO 2.5μlを加え、55μlになるようDEPC処理水を加えた。熱湯上で85℃から35℃へ20分かけてアニーリングし、15unit T4 Polynucleotide Kinase(TaKaRa、2.5μl)、100unit T4 RNA Ligase(TaKaRa、2.5μl)を加え、25℃45分反応させた。サンプルをRNeasy Mini Kit(Qiagen,74104)で処理した後、さらにDS Primer Removerで精製した。
図2に、mRNAへPM付きスペーサーDNAを共有結合させたものの概略図を示す。図2中、Pはピューロマイシン、Bはビオチン、ATCGuはDNA、RNAシーケンスを示している。大文字で示した部分は制限酵素PvuIIサイト(四角枠で囲った部分)を含むDNA部分、小文字で示した部分はmRNAで、3′末端側のDNAと相補鎖を形成している部分がTag配列に結合している。RNAの3′末端とDNAの5′末端は“T4 RNA Ligase”と示した部分でライゲートされている。
5.PM付きスペーサーDNA−mRNA複合体のビーズ上への結合
上記のように合成した、PM付きスペーサーDNAとmRNAの複合体を、直径2.3μm±0.3μmのアビジンビーズ(MAGNOTEX−SA、TaKaRa、9088)へ、添付のプロトコルに基づき以下のようにして結合させた。
60μlのアビジンビーズを200μlのx1 Binding Buffer(添付されたもの)で2回、マグネットスタンドを用いてアビジンビーズを沈殿させ、上清を交換することで洗浄した。洗浄後、沈殿させたビーズへ、上記2−2で合成したPM付きスペーサーDNAとmRNAの複合体を48pmol加え、1 x Binding Buffer(添付されたもの)を合計で120μlになるように加え、10分間室温で静置した。その後、上記のように、200μlの1 x Binding Buffer(添付されたもの)でビーズを洗浄することで、ビーズに結合しなかったPM付きスペーサーDNAとmRNAの複合体を取り除いた。さらに、20 x Translation Mix(Ambion)10μl、DEPC処理水190μlを加え、同様にビーズを洗浄した。
6.翻訳
上記のビーズをマグネットスタンド上で沈殿させ、無細胞翻訳系(Retic Lysate IVT Kit,Ambion社,1200)を300μl加え、30℃15分翻訳反応を行った。その後、MgCl、KClをそれぞれ最終で63mM、750mMになるように加えて37℃で1.5時間放置した。サンプルは、約1時間毎に軽く攪拌した。上記のようにビーズを沈殿させ、SUPERase・In(Ambion社、2694)20unitを含んだ1 x Binding Buffer(添付されたもの)200μlで2回ビーズを洗浄した。
7.逆転写
洗浄後、上記と同様にして沈殿させたビーズに対して、TaKaRa BIOMEDICALS社添付のプロトコルに従い、80μlのスケールで逆転写酵素M−MLV(TaKaRa、2640A)を用いて42℃10分間、逆転写反応を行った。その後に上記と同様にして、1 x Binding Buffer(添付されたもの)200μlでビーズを洗浄した。
8.酸化還元処理
上記工程6及び7で翻訳されてビーズに固定化されたペプチドを100mMのDTT(ジチオスレイトール)を用いて室温、1時間反応させ還元したのち、Washing Buffer(Tris−HCl pH.8.0,NaCl 100mM)200μlで2回ビーズを洗浄した。次にペプチドを酸化するためにo−ヨードソ安息香酸50mMを用いて室温で10分、pH.7の50mMリン酸バッファー中で反応後、Washing Buffer(Tris−HCl pH.8.0,NaCl 100mM)200μlでビーズを2回洗浄した。
9.ビーズからDNA−タンパク質を回収
沈殿させたビーズに対して、添付のプロトコルに従い、40μlのスケールで24unitの制限酵素PvuII(TaKaRa)で37℃1時間放置することで、ビーズ上のDNA−タンパク質をビーズから切り離す処理を行った。ここでは特に、ビーズとDNA−タンパク質の非特異的な吸着を避けるために、BSAを最終0.1mg/mlになるように加えた。その後、上記と同様にしてビーズを沈殿させ、上清を新しいサンプルチューブに移した。
10.Hisタグ精製
Qiagen社のプロトコルに従い、サンプルを等量のLysisバッファー(NaHPO50mM,NaCl 300mM,imidazole 10mM,Tween20 0.05%,pH8.0)に希釈し、20μlのNi−NTAビーズ(Ni−NTA MagneticAgaroseBeads、QIAGEN社、36111)を加え、室温で40分攪拌しながら放置した。上記と同様にしてマグネットスタンドでNi−NTAビーズを沈殿させ、100μlのWashバッファー(NaHPO 50mM,NaCl 300mM,imidazole 20mM,Tween20 0.05%,pH8.0)で軽く洗浄した。ビーズを沈殿させた後、Eluteバッファー(NaHPO 50mM,NaCl 300mM,imidazole 250mM,Tween20 0.05%,pH8.0)を15μl加え1分間室温で放置し、DNA−タンパク質を溶出させた。
11.選択過程
上記工程10で溶出したDNA−タンパク質は、ビオチン−セルロースゲル(sigma社)を充填したカラムに流し、溶出されたものを回収した。次にこれとFluorescein biotin(5−((N−(6−(biotinyl)amino)hexanoyl)amino)pentyl)thioureidyl)fluorescein)(Molecular Probes社)をBinding buffer(50mMリン酸バッファー、100mM NaCl)で混合し、25℃で1時間インキュベーションした。次にアビジンビーズ(MAGNOTEX−SA、TaKaRa社)20μlを加え、室温で10分静置した。ここでマグネットを使いビーズを集めて、バッファー交換した。Binding bufferで3回ビーズを洗浄した後、Elution buffer(50mMリン酸バッファー、100mM NaCl,50mM DTT)を加えて1時間室温で静置した。マグネットでビーズを底に集めた後、上清を回収した。
12.PCRによる選択分子のDNA増幅
上記工程11で回収したDNA−タンパク質を2μl取り、最終的な体積が50μlになるように調整してPCR反応に供した。この際、プライマーはΩ−RT−L(5′−CAACA ACATT ACATT TTACA TTCTA CAACT ACAAG CCACC−3′(配列番号10))、Ytag−R(5′−TTTCC CCGCC CCCCG TCCT−3′(配列番号11))を用い、TaqポリメラーゼはTaKaRa Ex Taq(Takara社)、反応条件は熱変性95℃2分の後、熱変性95℃30秒:アニーリング69℃15秒:伸長反応72℃45秒のサイクルを30回繰り返した。プライマーを除くためにプライマーリムーバー(Edge Science社)を用いて精製後、エタノール沈殿した。
13.T7プロモーター領域連結のためのPCR
上記工程12で得られたDNAをRNA化するために、T7プロモーターを連結した。そのため、T7プロモーター配列と非翻訳領域配列をもつDNA(T7Ω)(配列番号5)を用いてプライマーなしのPCRを行い連結し精製した。(上記工程2と同じ)
14.選択サイクルの繰り返し
上記工程3で得たDNAは再度、上記工程3に戻し、転写を行い、以下、工程4〜13を3回繰り返した。
15.シーケンス
上記工程14までで、最終的にこのサイクルを4回ほど回して得られたPCR産物はプライマー(NewLeft)を用いてシーケンスを行った。その際、最初のライブラリーと各サイクルで得られたPCR産物も同時にシーケンスを行い、ランダムな配列が特定の配列に収束することを確認した。そこで、PCR産物をクローニングし、20本のクローンを選びだし、再度、シーケンスを行った。シーケンス結果からホモロジー配列を抽出した。
16.有機合成
上記工程15で得られたDNAのホモロジー配列に基づいてアミノ酸配列に直し、有機的にペプチドの固相合成法によってペプチドを合成、ペプチドを固相から切り離す前に脱保護の後に上記工程8の酸化還元処理を行ったのち、切り離し回収した。
17.結合アッセイ
合成されたペプチドが実際にFITCと結合能があるかどうかを調べるために蛍光偏光解消法を用いて解離定数を測定した。
なお、参考のため、図1に上記実施例のフローを示す概略図を示す。
実験例2 蛍光分子Cy3に対する結合ペプチドの取得
1.PM付きスペーサーDNAの合成
PM付きスペーサーDNAは実験例1の方法に従って合成した。概略図を図3に示す。
2.In vitroウィルスの合成のためのライブラリー作成
57bpのランダムな領域を含むDNAライブラリーは、(株)ファスマックに依託合成した3本の一本鎖DNAフラグメント(配列番号12−14)をつなぎ合わせて完全長を作成した(図4)。配列番号12−14で示すようにfragment1と2、2と3が互いに20〜30merの相補な配列を持つ。これら3本の一本鎖DNAフラグメントを、最初にfragment2と3、次に、fragment1の順で逐一伸長反応を行うことでつなぎ合わせて、全長のDNAライブラリーを得た(配列番号15)。伸長反応はEx Taq(TaKaRa)を用いて、熱変性95℃2分の後、熱変性95℃30秒、アニーリング69℃15秒、伸長反応72℃45秒のサイクルを18回繰り返すことで行った。完全長のDNAは5′末端にT7プロモーター、Cap、オメガ配列、Kozak配列、3′末端にヒスチジンタグ、転写したときにPM付きスペーサーDNAの一部と相補なタグ配列(図4中、“Y−tag”)を含む。配列番号15で“xyz”の19回の繰り返しで示した124bp−180bpのランダムな領域は、翻訳時に終止コドンの出現が少なくなるように、xはT13%,C20%,A35%,G32%,yはT24%,C22%,A30%,G24%、zはT37%,C37%,A0%,G26%(Protein Sci.1993 Aug;2(8):1249−54)、になるように特殊ミックスした塩基を表す。配列表においては、“xyz”は“nnn”の繰り返しで示される。完全長のDNAは変性アクリルアミドゲルから切り出し精製した後、定量しそのまま転写反応に使用した。


転写は、プロメガ社のキット(Promega、P1300)に付属するプロトコルに従いDNA 2μg、40μlスケールで行った。合成の際、m7G Cap Analog(Promega、P1711)を加えた。37℃で1時間放置した後、キット付属のDNase(RQ1 DNase)を2unit加え、さらに37℃で15分放置することでテンプレートのDNAを分解した。フェノール・クロロフォルム処理を行った後、DS Primer Remover(Edge Biosystems)で精製した。
3.PM付きスペーサーDNAとmRNAの結合
転写した結果できたmRNA 450pmolに、PM付きスペーサーDNAを450pmol、10 x Ligation Buffer(TaKaRa)12μlを加え、112μlになるようDEPC処理水を加えた。85℃から25℃へ10〜15分かけてアニーリングし、T4 Polynucleotide Kinase(TaKaRa)を24unit、T4 RNA Ligase(TaKaRa)を80unit加え、25℃40分反応させた。後に、RNeasy Mini Kit(QIAGEN、74104)で精製した。
4.翻訳(in vitroウィルスの合成)
PM付きスペーサーDNAとmRNAの複合体400pmolを、無細胞翻訳系(Retic Lysate IVT Kit,Ambion社,1200)2.5mlスケールで翻訳した。翻訳は30℃10分間行った。その後、MgCl、KClをそれぞれ最終で63mM、750mMになるように加えて37℃で2時間放置することで、PM付きスペーサーDNA・mRNA・翻訳されたペプチドの三者複合体を得た。翻訳のスケールは、セレクションの最初のラウンドのために上記のように400pmol、2ndラウンドのために50pmol、以降のラウンドのためには20pmolへスケールダウンして行った。
5.逆転写
翻訳した産物400pmol分を、付属のBindingバッファーであらかじめ洗浄した400μlのアビジンビーズ(TaKaRa、9088、MAGNOTEX−SA)に結合させ、付属のバッファーで洗浄した後、直ちに400pmolに対して、逆転写用のバッファー400μl(逆転写酵素M−MLV(TaKaRa、2640A)を4000unit、dNTP 0.5mM.RNaseインヒビター(Ambion、2694、SUPERase・In)400unitを含む)に置換して、PM付きスペーサーDNA(配列番号1)の3′末端にある塩基“CCT”からmRNAの5′末端へ逆転写反応を行った(10分間、42℃)。
6.ビーズからDNA−タンパク質を回収
アビジンビーズから、翻訳した産物400pmol分(PM付きスペーサーDNA・mRNA/DNA・翻訳されたペプチドの三者複合体、および翻訳に使用されなかったPM付きスペーサーDNA・mRNA/DNA)を回収するため、225unitの制限酵素PvuII(TaKaRa)、0.01%BSAを含む付属のバッファー300μlに置換し、1時間37℃で放置した。
7.Hisタグ精製
アビジンビーズを沈殿させた上清を回収し、Ni−NTAビーズ(QIAGEN、36111、Ni−NTA MagneticAgaroseBeads)100μlを使って、付属のプロトコルどおりに、His−tag精製を行い、翻訳に使用されなかったPM付きスペーサーDNA・mRNA・複合体を取り除いた。His−tag精製した産物は、6M尿素を含んだ6%SDS−PAGEで解析し、バンドをMolecular imager FX(Bio RAD co.)でFITCの蛍光を可視化することで純度の確認および定量を行い、以下のセレクションに使用した。
8.Cy3−Sepharoseの作成
Cy3(Amersham、Q13108、Cy3 monofunctional reactive dye to label 1.0mg antibody or other protein)1vialをSepharoseゲル(Amersham、17−0569−01、EAH Sepharose4B)2mlへ、20mM Hepes pH7.5、室温で2〜6時間、攪拌させて結合させた。
9.選択過程
精製されたPM付きスペーサーDNA・mRNA/DNA・翻訳されたペプチドの三者複合体は、30分〜2時間シェーカーで攪拌した後、1日〜3日間4℃で放置することにより酸化させた。得られたPM付きスペーサーDNA・mRNA/DNA・翻訳されたペプチドの三者複合体は、1stラウンドでは27 x 1010、以降は3 x 1010個程度で、これらほぼ全量をセレクションに使用した。セレクションは下記のように、ダミーカラム、Cy3カラムの順で各ラウンド1本ずつ使用して行った。
最初に、ダミーカラム(Sepharoseゲルを空のカラム(Amersham、27−3565−01、MicroSpinColumns)にカラムのベッドボリューム約400μl程度になるように充填したもの)へ、精製されたPM付きスペーサーDNA・mRNA/DNA・翻訳されたペプチドの三者複合体をアプライし、フロースルー(アプライした量の1〜1.5倍)を回収した。カラムは、使用前に10カラムボリューム以上のカラム用バッファー(10mM Tris−HCl pH8.0、1M NaCl、0.1%TritonX100、1mM EDTA)で平衡化した。
次に、カラム用バッファー10カラムボリューム以上で平衡化したCy3カラム(Cy3−Sepharoseを空のカラムにカラムボリューム約350μl程度になるように充填したもの)へ、回収したダミーカラムのフロースルーを流速0.1−0.3ml/分でアプライすることで、Cy3カラムへ結合させた。カラム用バッファーで洗浄(14column volume(cv)〜63cv)した後、最終濃度50mMのDTT(Wako、047−08973、Dithiothreitol)を含むカラム用バッファーでCy3カラムに結合しているPM付きスペーサーDNA・mRNA/DNA・翻訳されたペプチドの三者複合体を溶出した(流速0.1−0.3ml/分)。
溶出されたPM付きスペーサーDNA・mRNA/DNA・翻訳されたペプチドの三者複合体は脱塩・濃縮の後、PCRで増幅し(プライマー;配列番号16/5′−CAACAACATTACATTTTACATTCTACAACTACAAGCCACC−3′、配列番号17/5′−TTTCCCCGCCGCCCCCCGTCCTGCTTCCGCCGTGATGAT−3′、熱変性95℃2分の後、熱変性95℃30秒、アニーリング69℃15秒、伸長反応72℃45秒のサイクルを30回繰返し)、精製したPCR産物にfragment1をライゲーションすることで、再び全長のDNAを得た。後に、転写、PM付きスペーサーとのライゲーション、翻訳、精製を行い、次のラウンドのセレクションに使用した。
10.クローニング
上記のようなセレクションを13回連続して行った後のDNAを、ベクターpDrive(QIAGEN、231222、PCR Cloning Kit)へライゲーション、QIAGEN EZ Competent Cellへトランスフォーメーション、LBプレートで培養を行い、25個のコロニーをランダムに選びDNAのシーケンス解析を行った。シーケンス解析は(株)日立ハイテクノロジーズへ依頼した。25個のクローンの解析結果全てについて、115bp〜180bpをアミノ酸の一文字表記に変換して配列番号18−42へ示した。
25個のクローンのうち、44%のクローンにはN末端−SCGMLCTHVRHHSRFHMVH(配列番号43)、16%のクローンにはN末端−SVHFGLQCGNMGHVHDSIH(配列番号44)、4%のクローンにはN末端−TLVGSGNPNVGSVIHLHCH(配列番号45)が含まれていた。
13ラウンド後に選択された配列を以下に示す。なお、配列中のアスタリスク(*)は終止コドンに対応する部位を表す。:


11.Cy3との結合定数決定
標的分子が低分子でかつ蛍光をもつCy3であるため、蛍光偏向解消法によってKdを求めた。ただし、上述したような無細胞翻訳系では十分な量のペプチドを回収することが困難なため、(1)大腸菌による発現精製、(2)ペプチド合成、で測定に十分な量(10μg)を確保した後、蛍光偏向解消装置(BEACON2000、Invitogen社)によって測定した。
(1)大腸菌による発現精製
上記スクリーニングで得られたコンセンサス配列“SCGMLCTHVRHHSRFHMVH(配列番号43)”のN末端にMGCを連結した“MGCSCGMLCTHVRHHSRFHMVH(配列番号18)”のC末端側にリンカーとして“GGGSGGGS(配列番号46)”を加えさらにタグ配列(XXX)として、1)GST(Glutathione S−Transferase)Geneと2)His−tagを連結した。
発現ベクターに組み込む遺伝子領域は、“MGCSCGMLCTHVRHHSRFHMVH−GGGSGGGS−XXX”とした。ここでXXXは、1)XXX=GST(配列番号47)、2)XXX=His−tag(配列番号48)の2通りである。
1)GST融合タンパク質
GST Gene Fusion System(Amersham Bioscience社)を用いてペプチドの発現及び精製を行った。その際、発現ベクターpGEM−1λEcoR1/BAP(Amersham Bioscience社)にインサートするために、BamH1サイトとXho1サイトを両端にもつ配列番号:49および配列番号50に示すDNA相補鎖を作成した。
上記の配列コードする2種類のDNAをファスマック(株)で合成し、それぞれ100pMずつを20mM Tris−HClバッファーで溶かした後、95℃5分間、20分間でゆっくり室温まで冷まし、アニーリングさせハイブリダイゼーションを行った。その後、BamH1とXho1で制限酵素処理した後に、同様にBamH1とXho1で処理し精製したpGEM−1λEcoR1/BAPをQuickLigation Kit(New England Biolab)を用いて1時間反応させた。作成したプラスミドはAmersham Bioscience社のGST融合タンパク質の発現と検出のプロトコールにしたがい、大腸菌に形質転換後、目的プラスミドをもつクローンを選択した。ここでクローンをシーケンスし確認を行った。次に通常のプロトコールに従い大腸菌を培養した。大腸菌はSDSを含むバッファーを用いて5分間95℃で煮た後、12%SDS−PAGEで解析した。CBB染色で確認後、抗GSTヤギ抗体を用いてウェスタンブロッティング行い、GST融合タンパク質の発現を確認した。次にAmersham Bioscience社のBulk GST Purification Moduleに添付のプロトコールに従いタンパク質の精製を行った。100mlの培養液で大腸菌を培養後、培養液を8,000×g、10分間遠心分離を行った。回収した菌体のペレットを開始バッファーに懸濁、氷冷下、超音波で処理した。不溶物除去のために12,000×g、4℃、10分間の遠心分離後、沈殿物を開始バッファーで懸濁した。上精および沈殿をSDS−PAGEして目的のタンパク質を確認した。次にAmershqm Bioscience社のGSTrap FFのプロトコールに従い、Hitrap Desaltingカラムによりバッファー中のグルタチオンを除去した。GSTタグについては上述のプロトコールに従い切断、除去したものと切断せず精製したものを調製した。
2)His−tag
The QIAexpress System(QIAGEN社)を用いてペプチドの発現・精製を行った。このシステム用の発現ベクターpQE−30 Xa(QIAGEN社)のマルチクローニングサイトには、N末端側にBamH1、C末端側にはHindIIIをもつ必要があるため、上述のコンセンサス配列の両端に制限酵素配列をもつ配列番号51および52に示すような配列をもつDNA相補鎖をファスマック(株)で合成した。
合成されたDNAはそれぞれ20mM Tris−HClバッファーで100pmol溶かした後、95℃5分間、20分間でゆっくり室温までアニーリングしてハイブリダイゼーションさせた。その後、BamH1とHindIIIで制限酵素処理した後に、同様にBamH1とHindIIIで処理し精製したpQE−30 XaをQuickLigation Kit(New England Biolab社)を用いて1時間反応させた。作成したプラスミドはQIAGEN社のプロトコール「The QIAexpressionist」に従い、▲1▼トランスフォーメーション ▲2▼トランスフォーメーション体の選択 ▲3▼目的タンパク質の溶解度の決定 ▲4▼変性常態下での精製をおこなった。この場合もFactor XaによってHis−tagを除去したものと除去していないものの両方を調整した。
(2)ペプチド合成
ペプチド合成は部位特異的にS−S結合架橋させる技術をもつペプチド研究所に以下の配列は同じであるがS−S架橋が異なる3種類のペプチド合成を依頼した。
(C1)(C2)(C3)はシステインのインデックスを表す。
MG(C1)S(C2)GML(C3)THVRHHSRFHMVH(配列番号53)、
MG(C1)S(C2)GML(C3)THVRHHSRFHMVH(配列番号54):(C1)と(C3)がS−S架橋したもの、
MG(C1)S(C2)GML(C3)THVRHHSRFHMVH(配列番号55):(C1)と(C2)がS−S架橋したもの、
MG(C1)S(C2)GML(C3)THVRHHSRFHMVH(配列番号56):(C2)と(C3)がS−S架橋したもの。
これらは、いずれも1mg以上の収量が得られた。
(3)ペプチド酸化処理
(1)で精製したタンパク質はpH7.0の50mMリン酸バッファーに溶解し、オーバーナイトした。あるいは、o−ヨードソ安息香酸50mMを用いて室温で10分、pH.7の50mMリン酸バッファー中で反応させた。
(4)蛍光偏向解消度測定
(2)のペプチド及び(3)の酸化処理したそれぞれのペプチドを最終濃度1μMになるように50mMのリン酸バッファーに溶解した。次にそれぞれのペプチド溶液を2倍ごとに希釈した。つまり500pM、250pM,125pM,62.5pM、31.25pM、16pM、8pM、4pM、2pM、1pM、0.5pM、0.25pM、0.125pM、0.6pMの各濃度になるようにし、いずれも100μl以上用意した。これらの溶液に最終濃度1pMになるようにCy3を加えた。10分ほど室温で静置したのち、BEACON2000(Invitrogen社)で偏向解消度を順次測定した。得られたデータは、グラフ解析ソフトGraphPad PRISMによって、Kdを求めた。
測定の結果、各サンプルとも1μ〜100μMの間のKd値をとり、十分に結合することがわかった。
産業上の利用の可能性
本発明のスクリーニング方法によれば、種々の立体構造を構成する種々のタンパク質を設計し、そのタンパク質と標的物質との相互作用を容易に判定できる形態で調製し、それをスクリーニング工程に供することができるので、ある標的物質と相互作用するタンパク質を容易にスクリーニングすることができる。
また、本発明の別の態様によれば、ある標的物質と相互作用する有用タンパク質のアミノ酸配列をランダムに改変して、さらにその改変されたタンパク質の活性を測定することによって、有用タンパク質のアミノ酸配列の最適化を容易に行うことができるという利点がある。このようなスクリーニング方法によって得られるタンパク質は、標的物質の生理的機能を調整する、生理活性物質として、種々の医薬用途に用いることができる。
【配列表】










































【図1】

【図2】

【図3】

【図4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
システイン残基をアミノ酸配列中に導入することによってジスルフィド結合を有するタンパク質を合成し、そのタンパク質の機能を解析することによって有用タンパク質をスクリーニングする方法であって、
(a)少なくとも2以上のシステイン残基を含むタンパク質をコードするmRNAを1以上調製し、得られたmRNAのそれぞれをピューロマイシン又はピューロマイシン様化合物と連結してmRNA−ピューロマイシン連結体(群)を得る工程;
(b)工程(a)で得られたmRNA−ピューロマイシン連結体(群)と、翻訳系とを接触させてタンパク質を合成し、mRNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体(群)を調製する工程;及び
(c)工程(b)において調製されたmRNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体(群)と1以上の標的物質とを接触させ、mRNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体(群)中のいずれかのタンパク質と該標的物質とが相互作用しているか否かを判定する工程;
を含む上記スクリーニング方法。
【請求項2】
工程(c)に続いて、さらに、(d)前記標的物質と相互作用をするタンパク質を含むmRNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体(群)のmRNAから逆転写によりDNAを調製し、さらにそのDNAに変異を導入することによって改変された配列を有するmRNAを調製し、このmRNAを工程(a)に供することによって、標的物質との相互作用力が強化されたタンパク質を取得する、前記請求項1に記載の方法。
【請求項3】
システイン残基をアミノ酸配列中に導入することによってジスルフィド結合を有するタンパク質を合成し、そのタンパク質の機能を解析することによって有用タンパク質をスクリーニングする方法であって、
(a)少なくとも2以上のシステイン残基を含むタンパク質をコードするmRNAを1以上調製し、得られたmRNAのそれぞれをピューロマイシン又はピューロマイシン様化合物と連結してmRNA−ピューロマイシン連結体(群)を得る工程;
(b)工程(a)で得られたmRNA−ピューロマイシン連結体(群)と、翻訳系とを接触させてタンパク質を合成し、mRNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体(群)を調製する工程;
(c)工程(b)で得られたmRNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体(群)のmRNAから逆転写によりDNAを調製し、DNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体を調製する工程;及び
(d)工程(c)において調製されたDNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体(群)と1以上の標的物質とを接触させ、DNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体(群)中のいずれかのタンパク質と該標的物質とが相互作用しているか否かを判定する工程;
を含む上記スクリーニング方法。
【請求項4】
工程(d)に続いて、さらに、(e)前記標的物質と相互作用をするタンパク質を含むDNA−ピューロマイシン−タンパク質連結体(群)におけるDNAに変異を導入することによって改変された配列を有するmRNAを調製し、このmRNAを工程(a)に供することによって、標的物質との相互作用力が強化されたタンパク質を取得する、前記請求項3に記載の方法。
【請求項5】
工程(a)において、前記mRNA−ピューロマイシン連結体が、mRNAの3’末端にスペーサーを介してピューロマイシン又はピューロマイシン様化合物と連結した構造である前記請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
工程(a)において、前記mRNAが、2以上のシステイン残基を含むタンパク質をコードするDNAから転写されることによって調製される、前記請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
工程(b)において用いられる翻訳系が無細胞翻訳系である、前記請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記タンパク質と前記標的物質とが相互作用しているか否かの判定が、アフィニティーカラムクロマトグラフィー法又はアフィニティービーズ法によって両者が結合しているか否かを判断することによって行われる、前記請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
相互作用していると判断されたタンパク質及び/又は標的物質を同定する工程をさらに含む、前記請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記DNAの変異がError−Prone PCRによって行われる、前記請求項2、または4〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記の各工程を複数回繰り返すことによって標的物質との相互作用力が強化されたタンパク質を取得する、前記請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記mRNAが、8〜500個のアミノ酸残基を有するタンパク質をコードするものである、前記請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記mRNAが、10〜200個のアミノ酸残基を有するタンパク質をコードするものである、前記請求項1〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記mRNAが、2〜10個のシステイン残基を有するタンパク質をコードするものである、前記請求項1〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記mRNAが、隣接するシステイン残基がそれぞれ2〜20個離れて存在するようにアミノ酸配列中に分散しているタンパク質をコードするものである、前記請求項1〜14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記mRNAが、最もN末端側に位置するシステイン残基と最もC末端側に位置するシステイン残基が5〜50個離れているタンパク質をコードするものである、前記請求項1〜15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
前記スペーサーが、ポリヌクレオチド、ポリエチレン、ポリエチレングリコール、ポリスチレン、ペプチド核酸又はこれらの組合せを主骨格として含むものである、前記請求項5〜16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
前記スペーサーは固相結合部位を有し、前記mRNA−ピューロマイシン連結体が、その固相結合部位を介して固相に結合されている、前記請求項5〜17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
前記固相が、スチレンビーズ、ガラスビーズ、アガロースビーズ、セファロースビーズ、磁性体ビーズ、ガラス基板、シリコン基板、プラスチック基板、金属基板、ガラス容器、プラスチック容器及びメンブレンから選択される、前記請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記スペーサーの固相結合部位が切断可能な部位を有するものであり、固相上でタンパク質をフォールディングさせた後に、前記切断可能部位を切断する工程を含む、前記請求項18又は19に記載の方法。
【請求項21】
前記スペーサーがDNAスペーサーであり、前記切断可能部位が制限酵素認識部位である、前記請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記請求項1〜21のいずれかの方法によって得られるタンパク質であって、8〜500のアミノ酸残基を有し、ジスルフィド結合をするためのシステイン残基を2〜10個含み、かつ酸化還元により標的物質との結合定数が変化する合成タンパク質。
【請求項23】
8〜500のアミノ酸残基を有し、ジスルフィド結合をするためのシステイン残基を2〜10個含み、かつ酸化還元により標的物質との結合定数が変化する合成タンパク質。

【国際公開番号】WO2005/012902
【国際公開日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【発行日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−512597(P2005−512597)
【国際出願番号】PCT/JP2004/011308
【国際出願日】平成16年7月30日(2004.7.30)
【出願人】(504212817)有限会社ジーン・フィールド (2)
【Fターム(参考)】