説明

有用リン脂質組成物を含む機能性素材及び機能性食品

【課題】有用リン脂質と機能性物質とを有効成分とし、その相乗機能を有効に活用して、生理活性を向上させた、有用リン脂質組成物を含む機能性素材を提供する。
【解決手段】有用リン脂質組成物を含む機能性素材1は、オメガ−3高度不飽和脂肪酸結合リン脂質を含む有用リン脂質組成物と機能性物質とを有効成分とする。機能性物質3を、有用リン脂質組成物からなるリポソーム2に内包させてもよい。有用リン脂質に水中でリポソームを形成させ、その際に機能性物質を同時に配合し、機能性物質の生理活性成分を内包した有用リン脂質リポソームとすることにより、機能性物質の体内吸収効率を向上させ、少量で同等以上の生理機能を発揮させ得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有用リン脂質組成物を含む機能性素材とこの機能性素材を添加した機能性食品に関する。さらに詳しくは、有用リン脂質組成物と機能性物質とを有効成分とする機能性素材及び有用リン脂質組成物によって形成されるリポソーム中に機能性物質を内包した機能性素材と、この機能性材料を含む機能性食品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、健康志向の高まりに伴って、様々な機能性食品が注目を集めている。それら多くの中のひとつとして、魚介類から取れる有用リン脂質がある(特許文献1,非特許文献1参照)。これはヒトの健康に有用なEPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)などの高度不飽和脂肪酸エステルを豊富に含むため、これ自体が機能性食品の素材として注目を集め、商品化もされている。
【0003】
人体に有用な様々な機能性物質を構成する成分は種々あるが、例えば、新油性成分は、水、血液などからなる人体体液に難溶性であるため、人体への吸収効率は必ずしも高くなく、高価な、また貴重な素材を無駄にする場合がある。これらの親油性成分や親水性成分の吸収効率を向上させるための様々な製剤技術が考案され、食品、医薬品分野での重要な要素技術となっている。
【0004】
主として機能性食品の範疇に属する素材として、天然由来の各種機能性食品素材を経口摂取することにより、生活習慣の乱れに由来する身体の変調(メタボリックシンドローム等)の改善に近年広く利用されるようになったものがある。これらの中には原料入手が難しく、生産量に限界がある、などの理由から供給量の少ない高価な素材が多い。例えば、アガリクス(非特許文献2)、コエンザイムQ10(非特許文献3)、ブルーベリー、ルテイン、アスタキサンチン等を挙げることができる。これら高価な、また貴重な機能性物質の生物学的利用能を向上させる、すなわち、より少量で同等以上の効能を図ることが望まれている。
【0005】
【特許文献1】特開平11−123052号公報
【特許文献2】特開2002−272493号公報
【非特許文献1】井上良計、食品と開発、31、1,p.49
【非特許文献2】アガリクス インターネット<URL: HYPERLINK "http://www.aicplus.com/about" http://www.aicplus.com/about agaricus/index.html, 2005年8月19日検索
【非特許文献3】日本コエンザイムQ協会 インターネット<URL: HYPERLINK "http://www.coenzymeq-jp.com/enterprise.html#q10" http://www.coenzymeq-jp.com/enterprise.html#q10,2005年8月19日検索
【非特許文献4】フレグランスジャーナル、No.15、p.68−76、1965
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、人体に有用で高価な機能性物質を、より効率的に吸収することができる機能性食品や製剤などに使用可能な機能性素材が得られていないという課題がある。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑み、有用リン脂質と機能性物質とを有効成分とし、その相乗機能を有効に活用して、生理活性を向上させた、有用リン脂質組成物を含む機能性素材とこれを含む機能性食品を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、鋭意研究行ない、有用リン脂質と機能性物質とを組み合わせて一緒に投与するか、又は、有用リン脂質のリポソーム内に機能性物質を内包させた有用リン脂質組成物を含む機能性素材により、機能性物質単独投与の場合よりもその生理機能を高めることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の有用リン脂質組成物を含む機能性素材は、オメガ−3高度不飽和脂肪酸結合リン脂質を含む有用リン脂質組成物と機能性物質とを有効成分としたことを特徴とする。
上記構成によれば、人体に有用なリン脂質組成物と機能性物質の生理活性機能の相乗効果により極めて生理活性機能の高い、有用リン脂質組成物を含む機能性素材を提供することができる。
【0010】
また、本発明の有用リン脂質組成物を含む機能性素材は、オメガ−3高度不飽和脂肪酸結合リン脂質を含む有用リン脂質組成物からなるリポソームと機能性物質とから成り、機能性物質を、リポソーム内に内包したことを特徴とする。
この構成によれば、人体に有用な機能性物質は乳化性に優れた有用リン脂質から形成されるリポソームに内包され、体内における生物学的利用能を高めることによって、生理活性機能を向上させることができる。
【0011】
上記構成において、オメガ−3高度不飽和脂肪酸結合リン脂質は、好ましくは、リン脂質中にエステル結合する脂肪酸の10重量%以上、好ましくは20重量%以上がDHA(ドコサヘキサエン酸)及び/又はEPA(エイコサペンタエン酸)である。
また、オメガ−3高度不飽和脂肪酸結合リン脂質は、好ましくは、エステル交換によってオメガ−3高度不飽和脂肪酸含有量を高めた有用リン脂質組成物である。
また、機能性物質は、好ましくは、機能性食品素材である。また、好ましくは機能性物質は医薬品素材である。また、機能性物質は、好ましくは、アガリクス又はコエンザイムQ10である。
また、好ましくは、前記オメガ−3高度不飽和脂肪酸結合リン脂質は水産生物由来であり、水産生物は、魚卵、水産動物の生殖巣、イカ、ホタテ貝、ヒトデ、海藻、微生物の何れかである。
【0012】
上記構成によれば、有用リン脂質が天然由来のオメガ−3高度不飽和脂肪酸結合リン脂質であり、その内部に機能性物質として、食品素材や医薬品素材を含有するか、又は、これらの機能性物質を内包する有用リン脂質組成物を含む機能性素材を提供することができる。特に、機能性物質がアガリクスやコエンザイムQ10である場合、その効果は著しく、オメガ−3高度不飽和脂肪酸結合リン脂質又はアガリクスの何れの単体よりも、高い生理活性機能を発現することができる。
【0013】
また、本発明の機能性食品は、好ましくは、上記有用リン脂質組成物を含む機能性素材を添加している。この場合、機能性食品は、好ましくは飲料である。
上記構成によれば、機能性物質を内包する有用リン脂質組成物を含む機能性素材を、固形の食品や飲料などから摂取し得る機能性食品を提供することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、有用なリン脂質組成物及び機能性物質を含むか、又は有用なリン脂質組成物からなるリポソームに機能性物質を内包し、その生物学的利用能を向上させることができる機能性素材及び機能性素材を含有した食品を提供することができる。特に、飲用した場合には、機能性物質の体内吸収効率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を詳細に説明する。
最初に、本発明の有用リン脂質組成物を含む機能性素材について説明する。
本発明の有用リン脂質組成物を含む機能性素材は、有用リン脂質組成物と機能性物質とを有効成分としている。有用リン脂質を主成分とする有用リン脂質組成物において、リン脂質は、一例として、化学式(1)で表されるようなグリセリンリン酸エステルであり、魚介類をはじめ、卵黄、大豆などに多く含まれ、抽出利用されている。
【化1】

ここで、R1 COO,R2 COOは脂肪酸残基であり、Xはコリン(PC)、エタノールアミン(PE)、イノシトール(PI)、セリン(PS)、及びグリセロール(PG)のうちから選ばれるアルコールアミン基などである。この基Xとしては、多価アルコールをエステル結合させた基であってもよい。
【0016】
このようなグリセリンリン酸エステルの例として、化学式(2)で表されるホスファチジルコリンや、化学式(3)で表されるホスファチジルセリンなどが挙げられる。
【化2】

【化3】

ここで、R1 COO、R2 COOは脂肪酸残基であり、化学式(1)で表されるグリセリンリン酸エステルのXがコリン(PC)またはセリン(PS)である。
【0017】
1 COOである脂肪酸残基が、DHA(ドコサヘキサエン酸)基、EPA(エイコサペンタエン酸)基である場合の化学構造式を下記(4)式及び(5)式に示す。これらDHA,EPAは、何れも末端から3番目に位置する炭素が不飽和結合を有していることから、オメガ(ω)−3高度不飽和脂肪酸と呼ばれており、このようなオメガ−3高度不飽和脂肪酸を含むリン脂質が、オメガ−3高度不飽和脂肪酸結合リン脂質である。本発明においては、オメガ−3高度不飽和脂肪酸結合リン脂質を、有用リン脂質、又は、単にオメガ−3結合リン脂質あるいはn−3系リン脂質と呼ぶ。
【化4】

【化5】

【0018】
有用リン脂質は、親水基としてのリン酸部と親油基としてのアルキル基、アルケニル基部をバランスよく有する構造であるので、界面活性剤的な機能を持ち、水中、人体体液中、人体細胞内などで乳化微粒子であるリポソームを形成して、その内部に親水成分及び親油成分を取り込む性質を示す。
【0019】
なお、上記有用リン脂質のリン酸部分にエステル結合する化学物質は、コリンであるホスファチジルコリンが主要成分であるが、セリンの結合したリン脂質であるホスファチジルセリンを共存させることにより、リポソームの表面に正電荷を持たせることで、液中で相互に電気的に反発させ、分散液中でのリポソームの安定性を著しく高めることができる。共存濃度は、5重量%以上で安定性が顕著であり、60重量%以下が好ましい。また、有用リン脂質中でエステル結合する脂肪酸には、オメガ−3高度不飽和脂肪酸であるDHA及び/又はEPAが含まれていることが必須である。オメガ−3高度不飽和脂肪酸は、少量でも含まれていれば本発明の効果を得ることができるが、高濃度であるほど有効である。具体的には、有用リン脂質中にエステル結合する脂肪酸の10重量%以上で明瞭な効果を示し、好ましくは20重量%以上が望ましい。
ここで、ホスファチジルセリンは、水産生物由来のリン脂質から抽出製造しても良いし、ホスファチジルコリンなどのリン脂質をL−セリン存在下にホスファチジル基転移反応により、変換することにより製造することができる(特許文献2参照)。また、酵素法等によるエステル交換によって抽出してもよい。さらにコレステロールを1重量%〜50重量%の範囲で適宜加えることで、リポソーム膜の強度が増し、分散安定性を高めることができる。
【0020】
機能性物質2は、機能性食品素材や医薬品素材であれば何でもよい。このような機能性食品素材としては、アガリクス、メシマコブ、ハナビラタケなどのキノコ抽出エキス類や、コエンザイムQ10、水溶性ペプチド、カロチンなどカロチノイド類、ポリフェノール、茶カテキン、イチョウ葉エキス、各種ハーブ類、イソフラボン等のフラボノイド類、葉酸、ビタミン類、ミネラル類、アミノ酸類、トコフェロール、グルコサミン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、コラーゲン、フコイダン、キチン、キトサン、ブルーベリー、ルテイン、アスタキサンチン等、それにDHA,EPAなどのオメガ−3系脂肪酸、共役脂肪酸(CLA)などが挙げられる。これらの中で、アガリクスは顕著な抗がん作用を示すことが知られている。また、コエンザイムQ10は、人体細胞中でも生成して人体の“元気の素”と呼ばれる物質であり、健康、美容、体力増進の補助剤として多くの商品が販売されている。
【0021】
一般に医薬品は、食品と異なり不都合な副作用を伴っている。例えば、アドレアマイシン、シスプラチン、タキソール等の抗がん剤は、優れた殺がん細胞効果を示すので広くがんの治療に用いられている。しかしながら、効果を高めるために使用量を増すと、脱毛、吐き気などの副作用が強くなり、治療の障害となっている。本発明の有用リン脂質組成物を含む機能性素材により、これら医薬品の効能を高めると、医薬品の使用量を低下させ、副作用のレベルも大幅に低減化することができる。その結果、患者の生活の質(Quality of Life)を著しく高めることができる点も、本発明の優れた効果である。
【0022】
本発明の有用リン脂質組成物を含む機能性素材によれば、人体に有用なリン脂質組成物と機能性物質の生理活性機能の相乗効果により、極めて生理活性機能の高い機能性食品を提供することができる。
特に、機能性物質がアガリクスである場合、その効果は著しく、リン脂質組成物又は機能性物質の単体のいずれより高い生理活性機能を発現することができる。
【0023】
次に、本発明のさらに別の機能性素材として、オメガ−3結合リン脂質からなるリポソームに機能性物質を内包させた、有用リン脂質組成物を含む機能性素材について説明する。
図1は、本発明の別の有用リン脂質組成物を含む機能性素材の構造を模式的に示すものである。図において、本発明の有用リン脂質組成物を含む機能性素材1は、有用リン脂質からなるリポソーム2内に、機能性食品素材や医薬品素材の有効成分からなる機能性物質3が内包されている。機能性物質を内包するリポソーム2は、有用リン脂質が水中で乳化凝集して微粒子を形成している。このリポソーム2の粒径はリポソーム化条件によって異なり、通常10μm以下であり、より好ましくは1μm以下である。
ここで、有用リン脂質及び機能性物質としては、上記の機能性素材と同様の材料を好適に用いることができる。さらに、有用リン脂質としては、オメガが結合し、リポソーム効果を有するリン脂質の修飾又は誘導体であってもよい。このような、脂質としては、ジガラクトシルジアシルグリセロール(DGDG)のような糖脂質であってもよい。
なお、本発明の有用リン脂質組成物を含む機能性素材1を、適宜、機能性物質3を内包するリポソーム製剤1又は単にリポソーム製剤1とも呼ぶ。
【0024】
上記リポソームは、有用リン脂質よりなる二分子膜を形成し、その内部に水相を有する閉鎖小胞のことである。水と油など混じり合わない二液の一方が細粒となって他方の相に分散する系、乳化(エマルジョン)とは異なる。通常の乳化は界面活性剤などを用いてエマルジョンの安定化がなされている。有用リン脂質自体も界面活性剤の作用はあるが、本発明ではリポソームの二分子膜等として使用している。リポソームの形態としては、多膜リポソーム(0.1〜数μm) と一枚膜リポソーム(0.01〜数μm)が知られている。前者には、多重層リポソーム(MLV)、数枚膜リポソーム(OLV)、多相リポソームがあり、後者には小さな一枚膜リポソーム(SUV)、大きな一枚膜リポソーム(LUV)、それに巨大一枚膜リポソーム(GUV)がある。内部水相乃至二重膜相に機能性物質を必要量保持できさえすれば、そのいずれでも良いが、好ましくは一枚膜リポソームである。
ここで、リポソームの調製・製造方法としては、vortexing 法、sonication法、reverse-phase evaporation 法、などを用いることができる(非特許文献4参照)。大量生産法としては、多価アルコール法、加温法、噴霧乾燥法、メカノケミカル法などでもよい。
【0025】
本発明の有用リン脂質組成物を含む機能性素材においては、有用リン脂質からなるリポソーム形成の際に、リポソーム内に機能性物質3を内包させることで製造することができる。この場合、機能性物質は、リポソームの内部に1〜90重量%、好ましくは、20〜70重量%添加されることが好ましい。
【0026】
本発明の有用リン脂質組成物を含む機能性素材によれば、図1に示すように、有用リン脂質でリポソーム2を形成し、その内部に機能性物質3を内包させているので、種々の生物学的利用能を向上させる機能性物質を内包する有用リン脂質のリポソームからなる機能性素材1を提供することができる。したがって、本発明の有用リン脂質組成物を含む機能性素材に用いる場合には、機能性物質を単独で投与する以上の生理機能を発揮させることができる。
この場合、有用リン脂質は、単独でも多くの生理活性があることが知られており、良好な界面活性剤でもある。したがって、有用リン脂質自体をリポソーム化し、その内部に機能性素材を内包させた機能性素材は、その他の特別な界面活性剤などの添加物を使用せずに分散化できる。このため、有用リン脂質を水に添加して、リン脂質の脂質二重膜を形成する処理を施すことにより、リポソーム2を効率良く形成することができる。
【0027】
さらに、有用リン脂質は、例えば、肝機能改善、血圧降下、抗アレルギー、記憶力などの学習機能向上、制がんなどの生理活性があるので、機能性物質3の有効成分と有用リン脂質中の生理活性成分との相乗効果によっても、全体としての生理機能を向上させることができる。
【0028】
ここで、生理活性機能を向上させる機構としては、小腸における吸収性を高めたり、腸内や体内での機能性物質の分解を抑えたり、徐放性による血中濃度の維持、生体膜と類似構造であることから細胞との相互作用を促進したりすることに起因すると考えられる。また、生体の特定部位(疾患のターゲット部位)に機能性物質を、濃度高く集積したりできるものと推定される。さらに、腸管のパイエル板の免疫細胞の活性化や、オメガ−3高度不飽和脂肪酸結合リン脂質で作成したリポソームが、がん細胞の増殖抑制効果がある場合や、オメガ−3高度不飽和脂肪酸結合リン脂質そのものの他の生理機能との相乗効果などのいずれか、又はその複合効果などの種々の要因が考えられるが、詳細は不明である。
【0029】
次に、本発明の有用リン脂質自体をリポソーム化し、その内部に機能性素材を内包させた有用リン脂質組成物を含む機能性素材の製造方法を説明する。
有用リン脂質組成物と所定の機能性物質との混合物を、水中で乳化することによって、機能性物質を内包するリポソーム製剤を調製することができる。この乳化は、水、有用リン脂質組成物及び機能性物質を強力に撹拌し、又は、微細孔を通して噴射することによって行なうことができる。特に、機能性物質が親水性である場合には、機能性物質がリポソームのリン脂質二重膜内部に取り込まれて、均一な乳液となり易い(図1参照)。さらに、機能性物質が親油性である場合には、その一部又は全部がリポソーム内部のリン脂質二重膜の層間に挟まれて、リン脂質の内部に保持、即ち内包される。乳化により形成されるリポソームの粒径は、10μm以下である。粒径が小さいほど水性媒体中でリポソームは安定であり、また有用リン脂質中のリン酸部分にエステル結合する化学物質として、5重量%以上のセリンが含まれる場合、安定性は向上する。またリポソーム化の方法によって粒径分布は、適宜調製することができる。粒径および粒径分布は用途に応じて適宜設計すればよい。
【0030】
有用リン脂質としては、イクラなどの魚卵、カツオ、マグロなどの解体加工屑や生殖巣、イカ、ヒトデや、ホタテ貝、ヒトデ、海藻、微生物等の水産生物由来の油分から抽出し、精製したオメガ−3高度不飽和脂肪酸結合リン脂質を用いることができる。
【0031】
上記製造方法によれば、本発明の有用リン脂質自体をリポソーム化し、その内部又はリン脂質二重膜間に機能性素材を内包させた、有用リン脂質組成物を含む機能性素材を効率良く製造することができる。
【実施例1】
【0032】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。
実施例1として、有用リン脂質組成物と機能性物質とを有効成分とする、有用リン脂質組成物を含む機能性素材を製造した。
具体的には、へキサンに溶解したイカミール由来のオメガ−3高度不飽和脂肪酸結合リン脂質をナス型フラスコに入れ、窒素ガス気流下にて、その側壁にリン脂質が薄膜を形成するようにして乾固させ、さらに、減圧下で放置して溶媒を完全に留去して乾固物を得た。この乾固物0.4gを、純水1000cm3 に分散させた。一方、アガリクス(健康科学株式会社製、AICPLUS )の水抽出エキス凍結乾燥粉末1gを純水1000cm3 に溶解させた。
次に、上記乾固物の水分散液とアガリクス水溶液とを等量混合し、実施例1の機能性素材を調製した。
【実施例2】
【0033】
実施例2として、リポソーム2の原料としてイカ由来のDHA結合リン脂質を用い、機能性物質3としてアガリクス(健康科学株式会社製、AICPLUS )を用い、機能性物質を内包するリポソーム製剤1を調製した。
イカ由来のオメガ−3高度不飽和脂肪酸結合リン脂質によるリポソームに、アガリクスを下記の手順により内包させた。
最初に、実施例1と同様の手順で、オメガ−3高度不飽和脂肪酸結合リン脂質の乾固物を得た。
次に、アガリクスエキス凍結乾燥粉末0.5gを純水1000cm3 に溶かし、さらに、上記乾固物0.2gを加え、ボルテックスミキサーで20分間攪拌して、リポソーム化を行なった。
次に、孔径0.4μmのメンブランフィルターに20回通し、サイジング及び除菌を行ない、実施例2のアガリクスを内包するリポソーム製剤1を調製した。実施例2のアガリクスを内包するリポソーム製剤1において、その乳化液1cm3 当りのDHA(オメガ−3)リン脂質含有量は、0.2mg/cm3 であり、乳化液1cm3 当たりのアガリクス含有量は、0.5mgであった。ここで、リポソームに電荷を持たせて安定化させる場合には、ホスファチジルセリン(PS)及びコレステロールを乾固物の調製時に適宜加えればよい。
【0034】
次に、比較例について説明する。
(比較例1)
アガリクスを配合しない以外は実施例2と同様の操作で、比較例1のイカ由来のオメガ−3高度不飽和脂肪酸結合リン脂質を調製した。比較例1のリポソーム製剤1において、乳化液1cm3 当たりのDHAを主成分とするオメガ−3高度不飽和脂肪酸結合リン脂質の含有量は、0.2mg/cm3 である。
【0035】
(比較例2)
アガリクス単体を比較例2とした。
【0036】
次に、実施例1,2及び比較例1,2で調製した各組成物の効果について説明する。
各組成物を水に混ぜてマウス(BALB/c)に飲料として自由摂取させ、マウスに接種したがん細胞(SP2tumors)に及ぼす影響を調べた。上記飲料は、がん細胞接種後7日目以降毎日与えた。
ここで、試験に使用したマウスは、BALB/cの雄(nu/nu)、5週齢で入室馴化飼育後、6週齢から試験を開始した。がん細胞SP2は、7頭のマウス(試料数n=7)に、各頭30万細胞を右脇下に皮下投与した。マウスは、日本クレア製の飼料CE2で飼育した。また、実施例1,2及び比較例1,2で調製した各組成物の水への添加濃度は0.4mg/cm3 とした。
【0037】
最初に、実施例1と比較例1,2との比較について説明する。
図2は、実施例1及び比較例1,2の組成物を含む水を自由摂取させたときの、マウスに接種したがん細胞の大きさを示す。図2において、横軸はがん細胞接種以後の日数を、縦軸はがん細胞の大きさ(mm3 )を示す。図には、実施例1及び比較例1,2に対して、比較対照のために上記組成物を何も入れない水を自由摂取させたマウスのデータも合わせて示している(図1の無投与参照)。
図2から明らかなように、21日目のがん細胞量は、実施例1、比較例1、比較例2、無投与の場合、それぞれ、2mm3 、4mm3 、3.5mm3 、7mm3 となり、実施例1の場合には、無投与の場合と比較して、約30%しか増殖しなかった。これから、実施例1の場合には、がん細胞の増殖を抑圧している効果が、顕著に認められた。
【0038】
図3は、実施例1及び比較例1,2において、21日目のがん細胞の体重に対する重量%を示した図である。図において、縦軸はがん細胞の重量%を示す。
図3から明らかなように、がん細胞の重量%は、実施例1、比較例1、比較例2、無投与の場合、それぞれ、8%(無投与の約24%)、20%、17%、33%となり、実施例1の組成物の場合には、がん細胞の重量%は無投与の約24%であり、がん細胞の増殖を抑圧している効果が顕著に認められた。
【0039】
次に、実施例2と比較例1,2との比較について説明する。
図4は、実施例2及び比較例1,2の組成物を含む水を自由摂取させたときの、マウスに接種したがん細胞の重量を示す図である。図において、横軸はがん細胞接種以後の日数を示し、縦軸はがん細胞の重量(g)を示す。図には、実施例2及び比較例1,2に対して、比較対照のために上記組成物を何も入れない水を自由摂取させたマウスのデータも合わせて示している(図4の無投与参照)。
19日目のがん細胞量は無投与20g、リポソームのみ(比較例1)15g、アガリクスのみ(比較例2)3g、に対して、実施例では1g(無投与の5%)と抑制効果が認められた。
図4から明らかなように、実施例2のアガリクスを内包するリポソーム製剤1を含む水を自由摂取させたマウスは、19日目からがん細胞の成長が徐々に認められ、35日目に27gになったが、生存していた。
【0040】
比較例1のイカ由来のDHA(オメガ−3)リン脂質リポソームを含む水を自由摂取させたマウスは、12日目からがん細胞の成長が認められ、19日目で死亡し、そのときのがん細胞の重量は30gであった。
【0041】
比較例2のアガリクスを含む水を自由摂取させたマウスは、13日目からがん細胞の成長が徐々に認められ、35日目には40gになったが、生存していた。
【0042】
一方、組成物を何も投与しない無投与の場合には、12日目からがん細胞の成長が認められ、19日目で死亡し、そのときのがん細胞の重量は38gであった。
【0043】
上記実施例2及び比較例によれば、19日目に死亡した無投与や比較例1に対して、比較例2、実施例2の順に、がん細胞の成長が遅くなり、明瞭にがん細胞成長抑制効果が認められた。さらに、実施例2のアガリクスを内包するリポソーム製剤1の場合には、比較例2のアガリクス単独投与の場合よりもさらに、がん細胞成長抑制効果が認められた。また、比較例1のイカ由来のDHA(オメガ−3)結合リン脂質リポソームのみからなる組成物の場合には、無投与の場合に比較して、がん細胞の成長が遅いことが分かった。
【実施例3】
【0044】
実施例3として、機能性物質3としてコエンザイムQ10(日清ファルマ製)を用いた以外は、実施例2と同様にして、機能性物質を内包するリポソーム製剤1を調製した。
全量で25mgの実施例3の機能性素材を分散させた飲料(100cm3 )を健常人男性3名に飲ませた。
比較例として、健常人3名に、ノイキノン10mg錠(エーザイ株式会社製のコエンザイムQ10製剤)10錠を単回経口投与した。この場合のコエンザイムQ10の投与量は100mgである。両群より経時的に採血して、血漿注のコエンザイムQ10濃度を測定した。実施例3群および比較例群とも血漿中のコエンザイムQ10濃度の経時変化カーブはほぼ同一であった。両群ともに投与6時間後に最高血漿中濃度(0.55−0.70μg/cm3 )に達し、以後緩やかに減少した。
以上により、実施例3のコエンザイムQ10を有用リン脂質に内包させた機能性素材1を含有させた飲料は、市販コエンザイムQ10製剤(ノイキノン)の1/4の量で、効率良く体内に取り込まれ、コエンザイムQ10の血漿中濃度を高めることができた。
【実施例4】
【0045】
後述するホタテ由来のリン脂質を用いた以外は実施例2と同様にして、実施例4の有用リン脂質を含む機能性素材1の調製を行った。
【0046】
上記ホタテ由来のリン脂質は以下のようにして調製した。
出発原料としてホタテウロを用い、実施例4の有用リン脂質組成物を製造した。出発原料のホタテウロの重量は1000kgであり、一応の水切りはしてあるが特に乾燥していない状態(以下、湿潤基準と呼ぶ)である。その内訳は、固形分23重量%で、水分が770kgである。この固形分中の蛋白質は、ホタテウロの場合には約13.5%程度である。
最初に、出発原料を連続的に投入し、第1の蒸煮工程及び第2の固液分離工程を連続して行なった。具体的には、出発原料1に水2000リットルを加え、スチームジャケット加熱式連続蒸煮管で、95〜100℃、20分の滞留時間で加熱煮沸した。
【0047】
続いて、第2の固液分離工程として、連続式遠心分離機に通し、2000Gの回転を掛け、固形物及び液相を得た。この液相は、廃棄物として回収した。この工程で得た固形物の重量は470kgあり、カールフィッシャー測定により含水量は61.7重量%であった。
【0048】
有機溶剤抽出工程として、上記固形物のうち100kg(乾燥固形分約38kg)を、ステンレススティール製の円筒状抽出装置(直径0.5m、高さ1.5m、容量200リットル)に充填し、95%エタノール300リットルを流通速度100リットル/時で流通して抽出操作を行なった。最後に、空気で残留液相を押出して、これも有機溶剤抽出液に加え、約400リットルの有機溶剤抽出液を得た。このときに得られた抽出残渣固形物は、35kgであった。
【0049】
第4工程として、約400リットルの有機溶剤抽出液を、50℃、650mmHg(約、8.7×104 Pa)で減圧蒸留して有機溶剤を除去回収した。ここで得られた抽出液は、褐色粘ちょうな液体で、その重量は15.5kgであった。
【0050】
第5工程として、上記抽出液を直径50cm、高さ1.5mのステンレススティール製クロマトカラムに通した。クロマトカラム中には、シリカゲルを充填してある。粒径250〜500μmのシリカゲル(ヒシゲル、洞海化学製)を用いた。分離には95重量%エタノールで展開した。流出液相のうち、濃黒褐色の初期画分を分離廃棄し、その後淡褐色になった流出液相を目的画分として回収した。
【0051】
次に、第6工程として、上記精製液から、第4工程と同条件でエタノールを蒸留除去すると、有用リン脂質組成物として油相7.8kgを得た。この有用リン脂質組成物は、黒褐色の外観とオイル状の性状とを呈していた。
【0052】
実施例1及び2と同様に、マウスへの飲料水添加試験を行なった。その結果、19日目のがん細胞量は、実施例4、比較例1、比較例2、無投与の場合、それぞれ、1.2g、30g、4g、39gとなった。実施例4の場合には、がん細胞量は無投与の3%と非常に小さく、高いがん細胞抑圧効果を示した。
【0053】
上記実施例1〜4及び比較例1、2から、本発明の有用リン脂質組成物を含む機能性素材は、高いがん細胞抑圧効果を示すことが判明した。
【0054】
本発明は、上記実施例に限定されることなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々の変形が可能であり、それらも本発明の範囲内に含まれることはいうまでもない。例えば、上記機能性物質を内包するリポソーム製剤の製造工程におけるpHや、クロマト法による精製工程のクロマトカラムなどは、適宜に設計でき、また、魚介類の部位は、上記実施例のホタテやイカ由来に限らないことはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の別の機能性素材の構造を模式的に示す図である。
【図2】実施例1及び比較例1,2の組成物を含む水を自由摂取させたときの、マウスに接種したがん細胞の大きさを示す図である。
【図3】実施例1及び比較例1,2において、21日目のがん細胞の体重に対する重量%を示した図である。
【図4】実施例2及び比較例1,2の組成物を含む水を自由摂取させたときの、マウスに接種したがん細胞の重量を示す図である。
【符号の説明】
【0056】
1:機能性物質を内包するリポソーム製剤(リポソーム製剤)
2:有用リン脂質からなるリポソーム
3:機能性物質

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オメガ−3高度不飽和脂肪酸結合リン脂質を含む有用リン脂質組成物と機能性物質とを有効成分としたことを特徴とする、有用リン脂質組成物を含む機能性素材。
【請求項2】
オメガ−3高度不飽和脂肪酸結合リン脂質を含む有用リン脂質組成物からなるリポソームと、機能性物質と、から成り、
上記機能性物質を、上記リポソーム内に内包したことを特徴とする、有用リン脂質組成物を含む機能性素材。
【請求項3】
前記オメガ−3高度不飽和脂肪酸結合リン脂質が、リン脂質中にエステル結合する脂肪酸の10重量%以上、好ましくは20重量%以上がDHA(ドコサヘキサエン酸)及び/又はEPA(エイコサペンタエン酸)であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の有用リン脂質組成物を含む機能性素材。
【請求項4】
前記オメガ−3高度不飽和脂肪酸結合リン脂質が、エステル交換によってオメガ−3高度不飽和脂肪酸含有量を高めた有用リン脂質組成物であることを特徴とする、請求項3に記載の有用リン脂質組成物を含む機能性素材。
【請求項5】
前記機能性物質が機能性食品素材であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の有用リン脂質組成物を含む機能性素材。
【請求項6】
前記機能性物質が医薬品素材であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の有用リン脂質組成物を含む機能性素材。
【請求項7】
前記機能性物質が、アガリクスであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の有用リン脂質組成物を含む機能性素材。
【請求項8】
前記機能性物質が、コエンザイムQ10であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の有用リン脂質組成物を含む機能性素材。
【請求項9】
前記オメガ−3高度不飽和脂肪酸結合リン脂質が水産生物由来であり、該水産生物が、魚卵、水産動物の生殖巣、イカ、ホタテ貝、ヒトデ、海藻、微生物の何れかであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の有用リン脂質組成物を含む機能性素材。
【請求項10】
請求項1〜9の何れかに記載の有用リン脂質組成物を含む機能性素材を、添加したことを特徴とする、機能性食品。
【請求項11】
前記機能性食品が、飲料であることを特徴とする、請求項10に記載の機能性食品。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図1】
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【公開番号】特開2007−110904(P2007−110904A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−302339(P2005−302339)
【出願日】平成17年10月17日(2005.10.17)
【出願人】(393017535)コスモ食品株式会社 (18)
【Fターム(参考)】