説明

有用食品及びその製造方法

【課題】
核家族化や高齢化社会の到来が明確になっており、更には健康増進を目的としたダイエットブームが生じているにも拘らず、これらのニーズに対応できる複合機能性成分を含有する食品はほとんどなかった。
【解決手段】
アルコール発酵で生じる酵母含有組成物と特定の糖質等を組み合わせることにより、複合機能性成分を含有する食品の提供が可能となる。更には、酵母含有組成物を脱水粉砕後、糖質等を添加した混合物を流動層造粒工程を介して粒状食品にすることにより、大量の食品の製造が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は発酵アルコール製造工程で副生する副産物を所定工程により濃縮した酵母含有組成物と糖質等を含む、γ−アミノ酪酸等の機能性成分が高濃度である有用食品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
健康志向の高まりにより、有用食品として機能性成分を含む食品の研究及びそれらの商品化が活発に行われている。これらの有用食品は、その機能性成分である栄養素として、タンパク質(アミノ酸含む)、炭水化物、脂肪、ビタミン、ミネラルや、栄養素ではないが生体機能を増進する役割を果たすポリフェノールや食物繊維等を含有するものがあり、人間の健康維持にとって非常に重要な役割を果たしている。
【0003】
これらの有用食品のうち、最近特にγ−アミノ酪酸を機能性成分とする食品が注目されている。即ち、γ−アミノ酪酸は体内摂取により、塩分の過剰摂取による血圧上昇傾向を、余剰のナトリウムイオンを尿成分として体外に排出することにより、血圧上昇を抑制することが知られている。
【0004】
また、喫煙、暑さや寒さ、強いストレスを受けた場合において、人体のアスコルビン酸濃度が低下することが知られており、この濃度低下が各種疾病の原因となる。従って、当該濃度低下による不足分を補うため、アスコルビン酸等の抗酸化作用を有する機能性成分を含有する食品の補給が必要となってくる。特に、日本では寿命が延び、老人世代が多くなっているが、加齢によりスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)、グルタチオンペルオキシダーゼ、カタラーゼ等の所謂抗酸化酵素の体内レベルが低下する。これを補う上でも、ポリフェノールなどの抗酸化物質の摂取が重要である。過度の運動、不適切な食事、喫煙やストレスにより、体内のフリーラジカル濃度が上昇する。これを消去するラジカル捕捉活性のある物質の摂取も必要である。
【0005】
更に、食物繊維についても、従来は栄養素でないため、あまり注目されていなかったが、最近は食物繊維の摂取により、肥満や糖尿病の予防、大腸がんの原因となる便秘への対応としての糞便量の増加作用等の有用性が確認されており、飽食化の現代食生活においては特に重要な機能性成分として注目されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、このような機能性成分は、食品素材(野菜、果物等)では一般的に含有量が少なく、従って必要な栄養分を摂取するために大量に摂取する必要がある。一方、特定の有用成分が高含有である食品素材においても他の有用成分が少なく若しくは無いため、偏った食生活を余儀なくされる傾向がある。
【0007】
また、核家族化傾向により偏った食生活は更に助長されやすく、一方高齢化社会の到来により今後益々予防的意義のある有用食品の摂取の必要性があるが、これらの核家族化や高齢化社会に伴う課題を解決する、例えば複合機能性成分を含有する有用食品はほとんど存在していない。
【0008】
更に、肥満は各種疾病の起因となることが学術的に立証されている昨今、ダイエットブームを背景として各種の食物繊維含有食品が開発されてきているが、これらの食品は胃での満腹感や消化管でのエネルギーの取り込みの軽減作用が明らかとなっている。しかし、一般にダイエット行為には過度のストレスが伴うことから、逆に過食につながり、ダイエットが実現できない傾向も多分に見受けられる。
【0009】
このような状況に際し、複合機能性成分を含有する食品を簡易に摂取することが可能となれば、現代のいわゆる生活習慣病は著しく減少することが期待でき、結果として健康増進に大きく貢献することとなる。更に、食品に含まれる機能性成分によりストレスを抑制する効果、即ち精神安定作用により過食等の問題を解消するとともに食物繊維の働きによりダイエット効果を実現できれば、老若男女を問わず全ての人に利用可能な有用食品の提供が可能となる。
【0010】
なお、特許第3426157号に開示されている有用食品の製造方法では、脱脂乳とトマト果汁とを含む培地に特定の2種の乳酸菌を接種し、脱脂乳を乳酸発酵させてγ−アミノ酪酸を含有する乳酸発酵食品の製造方法等が記載されているが、当該方法においてはγーアミノ酪酸を生成するために人為的に培地や乳酸菌を準備する必要があり、その実施例においては0.040%のγ−アミノ酪酸を含有する発酵乳の提供が可能である旨記載されている。この場合、当該発酵乳自体が主産物でありいわゆる副産物でないため、一般に副産物製造費に比較しその生産に多くの費用を要し、また発酵乳のγ−アミノ酪酸濃度についても一定の濃度を有してはいるが効果を発揮するために十分高いとは言い難い。
【特許文献1】特許第3426157号公報
【課題を解決するための手段】
【0011】
係る現状を踏まえ、本発明者らは、アルコール発酵において副生する酵母含有組成物に多数の複合機能性成分が含有されていることを見出し、当該酵母含有組成物とその他の各種機能性成分を含む有用食品について鋭意検討を重ねた結果、生体内で顕著な機能的効果を発揮する有用食品、更には当該有用食品の効果的な製造方法を解明し、本発明を解決するに至った。
【0012】
即ち、請求項1の発明は、アルコール発酵において副生する酵母含有組成物と糖質を含む食品を特徴する。
【0013】
請求項2の発明は、請求項1の食品がDPPHラジカル消去活性作用、肥満抑制作用、精神安定作用、血圧低下作用、整腸作用のいずれか一又は二以上の機能性を有することを特徴とする。
【0014】
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2の食品の組成成分である糖質が、ラクトース、トレハロース、エリスリトール、スクラロース、ステビア、オリゴ糖、澱粉のいずれか一又は二以上の組み合わせであることを特徴とする。
【0015】
請求項4の発明は、請求項1から請求項3のいずれかの食品に、さらにリン脂質を含むことを特徴とする。
【0016】
請求項5の発明は、請求項1から請求項4のいずれかの食品において、食品1mgのDPPHラジカル消去活性がアスコルビン酸相当量で0.5mg以上、酵母菌数が10cells/g以上、ポリフェノール濃度が15,000mg/L以上、及び活性酸素消去能が15,000unit/g以上であるであることを特徴とする。
【0017】
請求項6の発明は、請求項1から請求項5のいずれかの食品において、当該食品に含まれるアミノ酸総量濃度が0.8g/100g以上であることを特徴とする。
【0018】
請求項7の発明は、請求項1から請求項6のいずれかの食品において、γ−アミノ酪酸濃度が50mg/100g以上であることを特徴とする。
【0019】
請求項8の発明は、請求項1から請求項6のいずれかの食品において、食物繊維含有濃度が7.0g/100g以上であることを特徴とする。
【0020】
請求項9の発明は、請求項1から請求項8のいずれかの食品において、カルシウム含有量が0.6g/100g以上であることを特徴とする。
【0021】
請求項10の発明は、食品の製造方法において、アルコール発酵において副生する酵母含有組成物を、加熱工程及び/又は遠心分離工程により脱水し、脱水した酵母含有組成物を破砕工程により粉末にした後、当該粉末に糖質及び/又はリン脂質を添加した混合物から流動層造粒工程を介して粒状食品を製造することを特徴とする。
【0022】
アルコール発酵において副生する酵母含有組成物とは、酒類用や工業用のアルコール発酵工程で生じる発酵残渣の所定加工物、即ち蒸発工程や遠心分離工程により水分を除去した発酵残渣の固形分である。
【0023】
酵母含有組成物自体の味覚や歯触りは、客観的嗜好性に優れているとは言い難く、酵母含有組成物以外に糖質やリン脂質を構成成分として含有させることは、嗜好性を向上させるとともに、当該糖質やリン脂質により機能性成分も更に付加され、極めて機能性成分に富む食品の提供が可能となった。
【0024】
前記糖質とは、具体的にはラクトース、トレハロース、エリスリトール、スクラロース、ステビア、オリゴ糖、澱粉のいずれか一又は二以上の組み合わせであり、酵母含有組成物にこれらの糖質及び黒糖フレーバーを加える効果は以下のとおり。
【0025】
ラクトースは、主に有用腸内細菌の繁殖を助け、酵母含有組成物に含有する高濃度のカルシウムやマグネシウム等のミネラルの吸収を促進する。カルシウムは人体で1.4%ほどの組成率であるため、人体で最も多く存在するミネラルであるとともに、骨や歯に主要構成成分であるため、カルシウム不足は骨粗しょう症等の原因となる。一方、マグネシウムも生体内の酵素活性化による代謝調節、ATPaseの活性調節等の機能を果たすため、極めて重要なミネラルといえる。また、骨粗しょう症予防や骨密度上昇には、マグネシウムがカルシウムと同時に必要であることが知られている。酵母含有組成物には高濃度のカルシウムやマグネシウムが含まれているため、ラクトースにより増加した有用腸内細菌により、これらの有用ミネラルの体内への吸収の促進が図られることとなる。従って本発明食品構成成分の酵母、糖質及びリン脂質を含む食品は、極めて人体にとって有用であるといえる。
【0026】
トレハロースは、酵母含有組成物に高濃度に含まれるカルシウムをラクトースにより増加した有用腸内細菌の吸収促進作用により体内に吸収した後、カルシウムの体外流出の抑制作用がある。従って、組み合わされたトレハロースにより、骨粗しょう症等の予防が可能となるため、有用であるといえる。
【0027】
エリスリトールは、ノンカロリー甘味料であるため糖代謝に影響を与えない甘味料であるが、酵母含有組成物に含有するポリフェノールの強い苦みや渋みを緩和する効果(いわゆるマスキング効果)があるたため、食品としての嗜好性向上に貢献している。この点において、エリスリトールと酵母含有組成物の併用において嗜好性向上効果があるといえる。
【0028】
黒糖フレーバーは、さとうきびの汁を煮詰めたものの揮発成分であるため、酵母含有組成物に含有するポリフェノールの強い苦みや渋みを緩和する効果(いわゆるマスキング効果)があるたため、エリスリトールと同様に、食品としての嗜好性向上に貢献している。
【0029】
スクラロースは甘味料独特の苦み、渋味がなく、保存安定性や加熱安定性にも優れているため、食品甘味料として利用する上で利点は多い。
【0030】
ステビアは、ブラジルにおいて血糖値の低下、血圧降下作用、利尿作用、強壮効果があるとの考えられており、 糖尿病や高血圧の治療や強心薬としてステビアが利用されている。米国では、1996年に発表されたネズミを使った臨床実験では加工していないステビアエッセンスには血圧降下作用があることが実証されていている。血圧降下の作用機序として、通常の血圧或いは高血圧の動物において血管拡張効果があることが実験レベルで判明しているため、これらの点において機能性を有する甘味料と考えられる。また、請求項3に記載のステビアは食品添加物の甘味料の簡略名・類別名であり、品名としてはα−グルコシルトランスフェラーゼ処理ステビア、ステビア抽出物、ステビア末のいずれかである。
【0031】
次に、リン脂質(好適にはレシチン)は、体内では細胞の膜組織を構成しており、栄養素の摂取や老廃物の排泄に関与していることから、リン脂質を更に食品に添加するメリットがある。レシチンは、脂肪を細かくする乳化作用を持つため、細胞膜内のレシチンが減少すると代謝機能が低下することとなる。国内での研究報告において、血清コレステロール上昇抑制、コレステロール排出促進などの生理活性が動物実験で確認されており、血液中の総コレステロールに占める善玉コレステロールである、HDLコレステロールの割合を上昇させる働きが確認されている。
【0032】
酵母含有組成物が有するラジカル消去活性は、活性酸素をはじめとするフリーラジカルを消去又は抑制する特性があり、具体的には生体の防御システムを通過したフリーラジカルをラジカル消去活性含有物を投与することにより、消去又は捕捉し、生体における老化スピードの抑制等を図る機能を有している。このような、ラジカル消去活性機能がアスコルビン酸相当量で極めて多く存在するため、優れた食品の提供が可能となる。
【0033】
また、酵母含有組成物には高濃度のアミノ酸が含有されている。その中でも、アラニンが極めて高濃度に含有されている。アラニンは、脂肪燃焼作用(=肥満抑制作用)、肝機能改善作用、皮膚更新促進作用等の各種機能性を有するため、優れた食品の提供が可能となる。
【0034】
更に注目すべきこととして、酵母含有組成物に含有されているアミノ酸のうち、γ−アミノ酪酸(いわゆる、GABA)が高含有である。GABAは、血圧低下作用、脳代謝亢進作用、記憶促進作用、精神安定作用、成長ホルモン分泌促進作用の各種機能性を有するため、優れた食品の提供が可能となる。
【0035】
酵母含有組成物はその他に、食物繊維やポリフェノールの含有量が極めて多い。即ち、アルコール発酵の主な原料作物となるサトウキビは、その搾汁工程で搾汁液に多量の食物繊維やポリフェノールが移行し、最終的に副産物の糖蜜には多量の食物繊維やポリフェノールが残留する。それを発酵原料とするアルコール発酵工程においては、発酵終了後の貯槽底部に多量の食物繊維等を含む酵母含有組成物が生成することとなる。
【0036】
当該食物繊維は、その生理作用において各種の機能性が報告されている。即ち、肥満抑制作用との関係においては、消化管において食物繊維(特に水溶性食物繊維)は保水性があるため膨潤するとともに、水溶過程において他の食物成分(例えば糖分)が包み込まれるため、糖の吸収遅延作用を引き起こす。更には、整腸作用との関係においては、その摂取量と糞便量との相関や、その摂取量と消化管通過時間との反比例関係を示した結果が報告されている。従って、このような酵母含有組成物に含有する食物繊維が肥満抑制作用、整腸作用に貢献し、優れた食品の提供が可能となる。
【0037】
更に、酵母含有組成物に高含有の食物繊維とポリフェノールの相乗効果として、いわゆるバルキング効果が生じ、結果として肥満抑制作用、整腸作用に大きな貢献をすると考えられる。(Pomace as a Food Ingredient, Martin Carron et al, Am. J. Enol. Vitic., Vol. 48, No. 3:328-332(1997))
【0038】
以上のような、酵母含有組成物と糖質等により、優れた有用作用を有する食品の提供が可能となる。つまり、従来は食品においてはDPPHラジカル消去活性作用、肥満抑制作用、精神安定作用、血圧低下作用、整腸作用、骨粗しょう症予防作用のような複合有用作用を保有する食品は極めて少なかったが、本発明食品により複合機能性作用を有する成分の摂取が可能となり、結果として生活習慣病の減少が期待でき、また食品に高含有のγ―アミノ酪酸の作用によりストレスを抑制する効果、即ち精神安定作用により過食等の問題を解消すると伴に食物繊維の働きによりダイエット効果を実現することが可能となった。
【発明の効果】
【0039】
本発明に係る食品は、その構成物質である酵母含有組成物に抗酸化物質、有用酵母、γ−アミノ酪酸を含むアミノ酸、食物繊維のような機能性成分を多量に含有し、更に嗜好性の向上を目的とした所定糖質等を構成物質として加えることにより、結果としてDPPHラジカル消去活性、肥満抑制作用、精神安定作用、血圧低下作用、整腸作用、骨粗しょう症予防作用のような複数の機能性作用をもつ食品の提供が可能となる。併せて、これらの機能性成分を高濃度に食品に含有させる製造方法により、工業的生産手段を介して大量の発明食品の提供が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下、本発明の食品が有する機能性成分の含有量分析を実施例1から実施例4で、本発明食品の摂取による具体的効果を実施例5で、本発明食品の製造方法について実施例6で、それぞれ説明する。また、本発明の食品の構成物である酵母含有組成物は、実施例1から6では、糖含有物のアルコール発酵で生じた発酵残渣であり、アルコール発酵酵母は凝集性のサッカロミセス・セレビシエ(本発明食品で利用したアルコール発酵酵母はサッカロミセス・セレビシエF−5株)を利用している。しかし、酵母含有組成物の脱水の際の加熱工程等の調整で単位重量当りの酵母菌数の調整は可能であるため、凝集性の有無を問わずアルコール発酵酵母であれば特段の問題はない。
【実施例1】
【0041】
まず、本発明食品のラジカル消去活性の含有量について、以下のとおり確認した。
【0042】
ラジカル消去活性とは、活性酸素を始めとするフリーラジカルの活動を消去又は抑制する特性であり、具体的には生体の防御システムを通過した活性酸素やフリーラジカルをラジカル消去活性含有物を投与することにより、生体における老化スピードの抑制等を図る機能をいう。
【0043】
このようなラジカル消去活性の有用性が本発明食品にどの程度含有されているか確認するために、DPPHラジカル消去活性の測定法である電子スピン共鳴法(フリーラジカルが含有する不対電子の電子スピン共鳴を測定する方法であり、所謂ESR法であり、フリーラジカルの動態確認に最適な方法)により、当該活性の定量測定を行った。更に、本発明食品のポリフェノール含有量(ポリフェノールはGallic acid(没食子酸)としての相当量で算出)についてもFolin−Ciocalteu法に基づく吸光光度法により定量測定を行うとともに、活性酸素消去能(スーパーオキシドアニオンラジカル消去能)についてもスピントラッピング法により測定し、その測定結果をSOD活性換算値として算出した。
【0044】
DPPH消去活性の具体的な試料調製及び測定方法等は、以下のとおり。
DPPH溶液はエタノールで希釈調製(24μM)するとともに、所定濃度のアスコルビン酸及びサンプル溶液は各々50%メタノールで希釈調製(サンプルである食品は、各々2mg/mLに希釈調製)した。次に、前記アスコルビン酸及びサンプル溶液をそれぞれ100μL採取し、それぞれに前記DPPH100μLを混合し60秒後にESR測定装置にて測定した。
【0045】
活性酸素消去能の具体的な試料調整及び測定方法等は、以下のとおり。
食品の粉末サンプルについては10mg/mLとなるように蒸留水で希釈し、更に蒸留水にて100倍希釈し測定試料とした。次に、A液〔2mM ヒポキサンチン+5.5mM Diethylenetriaminepentaacetic acid(DTPA)+9.2M 5,5-Dimethyl-1-pyroline-N-oxide(DMPO)溶液(等量混合)〕0.1mL、サンプル50μL及び0.5U/mLキサンチンオキシダーゼ(XOD)溶液 50μLを混合し、60秒後にESR測定装置にて測定した。
【0046】
前記諸条件により各種測定した結果を表1に示す。なお、各サンプルとなる食品の構成物である酵母含有組成物の原料である糖蜜の原産地は表1の(注2)のとおり。
【0047】
【表1】

【0048】
表1は、本発明食品1mg当りの換算値であり、15%以上の高いDPPH消去能を示していることから、比較的高いラジカル消去活性を有していることが分かる。また、DPPHラジカル消去能のアスコルビン酸相当量については、1mgの本発明食品当たり0.5 mg以上であるため、この点からも高いラジカル消去活性の特徴を裏付けることができる。更にポリフェノール濃度(没食子酸の相当換算値)についても、全酵母含有組成物について概ね20,000mg/Lの高濃度(即ち、15,000mg/L以上)を呈している。活性酸素消去能については、本発明食品で20,000 unit/g前後の極めて高い消去能(即ち、15,000unit/g以上)を有しており、ワインで一般的に高いと考えられる1,000 unit/g程度の実に20倍の活性酸素消去能を有する。
【0049】
このように、本発明食品は比較的高いDPPHラジカル消去活性及びポリフェノール濃度、さらには格段に高い活性酸素消去能を有しており、機能性成分が豊富な食品であるといえる。また、食品の構成物である酵母含有組成物は、そもそもアルコール発酵副産物であるため、これを原料とする食品は極めて低廉なコストで製品を加工生産することも可能である。
【実施例2】
【0050】
酵母菌数については、食品について1mL当りの酵母菌数を測定した。サンプル調製、測定方法、及びは以下のとおり。
サンプル調製:食品の1gを蒸留水で1Lにメスアップし酵母菌数測定用試料とした。
測定方法:測定方法は、Thoma氏血球係数器を用いた対角法により行った。計算方法は以下のとおり。
酵母数=測定酵母数×2倍×1万×試料希釈倍数(1000倍)
なお、食品の構成物である酵母含有組成物の原産地については以下のとおり
1. タイ産+沖縄産+果汁蜜
2. タイ産+沖縄産+果汁蜜
3. タイ産+沖縄産+果汁蜜
表2に酵母数測定結果を示す。
【0051】
【表2】

【0052】
表2より、全ての食品において少なくとも10cells /g以上の酵母菌数を示しており、高い菌濃度であることが判明した。この高い菌濃度より、ビール酵母の一般的な機能性、即ち栄養的及び体重減少効果などの機能的特徴を相当程度含む食品であることが明確となった。
【実施例3】
【0053】
アミノ酸総量については、本発明食品について高速アミノ酸分析計を用いた生体液分析法により行った。具体的な前処理試料調製は以下のとおり。
1) 食品100mgをトリクロロ酢酸10mLにて除タンパク後、2N HCl で25mLにメスアップ
2) 超音波洗浄機に15分間かけ攪拌し溶解させる
3) 10,000rpmで15分遠心分離し、上澄液をとる
4) 3)を0.45μmフィルターでろ過後、20μL注入し、生体液分析法にて分析
分析の手順として、標準液を分析後、各食品の分析を開始している。測定結果は表3のとおり。なお、食品1から食品4は各生産ロッドを示す。
【0054】
【表3】

【0055】
表3より、本発明食品のアミノ酸総量で、0.8g/100g以上の含有が示されており、本発明食品に高濃度でアミノ酸が含有されていることが分かる。顕著な実態として、いずれの試料においてもアラニンが極めて高濃度に含有されているため、その有用性として一般的にいわれている、脂肪燃焼作用・肝機能改善作用・皮膚更新促進作用等の各種有用作用を有する食品の提供が可能となる。
【0056】
更に、γ−アミノ酪酸(所謂「GABA」)についても、50mg/100g以上の高い含有率がある。当該GABAは優れた生理活性、即ち血圧低下作用・脳代謝亢進作用・記憶促進作用・精神安定作用・成長ホルモン分泌促進作用等があり、本発明食品にその効果が期待でき、従って本発明食品は機能性成分が豊富な食品であることがこの点からも明らかである。
【実施例4】
【0057】
本発明食品中のカルシウム及び食物繊維の各含有量分析は、五訂日本食品標準分析表によるカルシウム分析方法であるIPC発光分析法、同じく五訂日本食品標準分析表による食物繊維分析方法である酵素−重量法(プロスキー変法)により、それぞれ分析した。表4に分析結果を示す。
【0058】
【表4】

【0059】
表4の年月分は本発明食品の生産時期であり、その下に糖蜜の産地等を記載した。
結果より、カルシウムは本発明食品100g当り少なくとも0.6g以上あること、食物繊維(水溶性食物繊維と不溶性食物繊維の総量)は本発明食品100g当り少なくとも7.0g以上あることを、それぞれ確認した。
【0060】
水溶性食物繊維の機能的特徴として消化吸収遅延作用があることから、肥満抑制作用が考えられ、一方不溶性食物繊維の機能的特徴は便秘解消による整腸作用が考えられ、表4の測定結果よりこれらの成分が高濃度に本発明食品に含まれていることより、極めて機能性に富む食品の提供が可能となった。
【0061】
本発明食品の摂取による具体的効果として、前記の機能性成分量より、DPPHラジカル消去活性作用、精神安定作用、血圧低下作用、整腸作用が十分に考えられるため、その他肥満抑制作用について以下のとおり試験結果を記載する。
【実施例5】
【0062】
肥満抑制作用試験
粒径を20から30μm程度に粉砕した重量比で0%、3%、6%の本発明食品と脂肪分含有餌(脂肪分12%)の3種類の餌を3.5週齢のICR系雄マウス30匹を3群(1群10匹)に分け、それぞれ3種類の餌のいずれかを自然摂取により8日間与えて体重の変化を確認した。
【0063】
【表5】

【0064】
その結果、表5に示すように本発明食品無投与群に比較し、3%投与群は概ね28%、6%投与群は概ね18%の体重増加にとどまり、肥満抑制作用が確認されたが、無投与群は概ね41%の体重増加となった。また、本試験において、全3群30匹の毛並み、排泄状況、食事行動に特段の異状は認められなかったため、これら30匹全ての健康状況も8日間正常に維持されていたと考えられる。
【0065】
以上より、本発明食品に含有される機能性成分(特にアラニンを主成分とするアミノ酸)が有効に作用し、本発明食品投与群のマウスに体重増加を抑制したことから、本発明食品は肥満抑制作用を有すると考えられる。
【実施例6】
【0066】
本発明食品の製造方法
本発明食品の製造方法について、図1のとおりである。
アルコール発酵において副生する酵母含有組成物とは、発酵槽1で糖蜜に所定加水後の仕込液にアルコール発酵酵母を添加しアルコール発酵を行い、当該発酵終了後発酵槽1の底部残渣である。この場合、アルコール発酵酵母は特に種類を問わないが、凝集性を有するサッカロミセス・セレビシエが酵母菌数が多いため好適である。
【0067】
発酵槽1で回収された含水の酵母含有組成物を、ストレーナー2を介して中継タンク3に移送し、後述の乾燥装置4で乾燥物として回収できなかった不完全乾燥物と含水の酵母含有組成物が循環タンク3で混合し、当該混合物が乾燥装置4に移送されることとなる。
【0068】
前記混合物は乾燥装置4で、加熱工程(遠心分離工程は図示していないが当該工程を単独又は加熱工程と併用することに、同様な効果を得ることができる)により脱水され、脱水した酵母含有組成物(乾燥物)を破砕機5による破砕工程により粉末にした後、原料サイロ6に移送される。この場合、乾燥装置4の加熱工程は様々な方法が考えられるが、脱水された酵母含有組成物の水分率は10%以下が好適であり、当該水分率であれば次工程の流動層造粒工程で効率的に粒状食品を製造することができる。また、粉砕機5で粉砕される乾燥物の粒径は250μm以下が好適であり、当該粒径であれば次工程の流動層造粒工程で効率的に粒状食品を製造することができる。
【0069】
原料サイロ6に移送された脱水後の粒状乾燥物となった酵母含有組成物を、流動層造粒工程の流動層造粒機7に供給し、バインダー液として糖質及びリン脂質を使用し、噴霧空気を供給することにより本発明食品を生産され、最終的に製品タンク8を経て計量包装され商品となる。
【0070】
なお、本発明食品の各物質の構成割合としては、
・ 酵母含有組成物 45.0%から54.9%
・ 糖質 54.9%から45.0%
・ リン脂質 0.1%
であり、酵母含有組成物と糖質の合計の構成割合が常に99.9%となる組み合わせで本発明食品を製造することができるが、好適には、1800mgの本発明食品の各物質の構成量として
・酵母含有組成物 900mg
・糖質
トレハロース 100mg
エリスリトール 460mg
澱粉(コーンスターチ) 315mg
黒糖フレーバー 18mg
スクラロース 3.4mg
ステビア 1.8mg
・リン脂質
レシチン 1.8mg
であり、前記糖質のトレハロースと澱粉の代替又は併用として、ラクトース又はオリゴ糖のいずれかを使用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明に係る食品は、その構成物質である酵母含有組成物に抗酸化物質、有用酵母、γ−アミノ酪酸を含むアミノ酸、食物繊維のような有用成分を多量に含有し、更に嗜好性の向上を目的とした所定糖質等を構成物質として加えることにより、結果としてDPPHラジカル消去活性、肥満抑制作用、精神安定作用、血圧低下作用、整腸作用のような複数の機能性作用をもつ食品の提供が可能となるため、産業上広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】食品の製造方法のフローを示した説明図である。
【符号の説明】
【0073】
1 発酵槽
2 ストレーナー
3 循環タンク
4 乾燥装置
5 粉砕機
6 原料サイロ
7 流動層造粒機
8 製品タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコール発酵において副生する酵母含有組成物と糖質を含む食品。
【請求項2】
DPPHラジカル消去活性作用、肥満抑制作用、精神安定作用、血圧低下作用、整腸作用のいずれか一又は二以上の機能性を有する請求項1の食品。
【請求項3】
糖質が、ラクトース、トレハロース、エリスリトール、スクラロース、ステビア、オリゴ糖、澱粉のいずれか一又は二以上の組み合わせである請求項1又は請求項2の食品。
【請求項4】
食品に、更にリン脂質を含む、請求項1から請求項3のいずれかの食品。
【請求項5】
食品1mgのDPPHラジカル消去活性がアスコルビン酸相当量で0.5mg以上、酵母菌数が10cells/g以上、ポリフェノール濃度が15,000mg/L以上、及び活性酸素消去能が15,000unit/g以上である、請求項1から請求項4のいずれかの食品。
【請求項6】
食品に含まれるアミノ酸総量濃度が0.8g/100g以上である請求項1から請求項5のいずれかの食品。
【請求項7】
γ−アミノ酪酸濃度が50mg/100g以上である請求項1から請求項6のいずれかの食品。
【請求項8】
食物繊維含有濃度が7.0g/100g以上である請求項1から請求項7のいずれかの食品。
【請求項9】
カルシウム含有量が0.6g/100g以上である請求項1から請求項8のいずれかの食品。
【請求項10】
アルコール発酵において副生する酵母含有組成物を、加熱工程及び/又は遠心分離工程により脱水し、脱水した酵母含有組成物を破砕工程により粉末にした後、当該粉末に糖質及び/又はリン脂質を添加した混合物から流動層造粒工程を介して粒状食品を製造することを特徴とする食品の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−174974(P2007−174974A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−377005(P2005−377005)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(599098518)株式会社ディーエイチシー (31)
【出願人】(000187471)松浦薬業株式会社 (7)
【出願人】(506148822)日本アルコール産業株式会社 (6)
【Fターム(参考)】