説明

有益な化合物の微生物産生方法

本発明は、すべての栄養素が全培養期間にわたって過剰に提供されると共に、培養物を酸素制限条件下に維持するために、好適な量の酸素が培養物に供給されている培地において微生物を培養するステップを含む、微生物の培養による有益な化合物の産生方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[発明の分野]
本発明は、微生物培養による、好ましくはタンパク質、または二次代謝産物またはバイオマスのようなものの有益な化合物の産生分野に関する。
【0002】
[発明の背景]
有益な化合物の産生のための微生物の培養は、典型的には特に培養プロセスの産生フェーズにおいて、少なくとも1種の栄養素が、増殖の制限をもたらす量で培養物に提供される条件下で行われ得る。典型的には、栄養素制限は、培養されている微生物に対する窒素、炭素、または両方の制限をもたらす。
【0003】
一方でタンパク質および他の有益な化合物を製造する産業的な重要性が増加し、他方で消費される糖質グラム当たり、または酸素モル当たりで形成されるバイオマスの劣った収率により、未だ、微生物におけるタンパク質および他の有益な化合物の産生に対する向上されたプロセスを得る必要性がある。本発明は、タンパク質および他の有益な化合物を高い効率で産生するための向上された方法を提供する。
【0004】
[発明の説明]
第一の態様において、本発明は、すべての栄養素が全培養期間にわたって過剰に提供される培地において微生物を培養するステップと、培養物を酸素制限条件下に維持するために、好適な量の酸素を培養物に供給するステップとを含む、微生物の培養による有益な化合物の産生方法を提供する。
【0005】
微生物の培養のために用いられる栄養培地の組成は、すべての栄養分が過剰に全培養期間にわたって供給される限り、本発明に対して重要ではない。
【0006】
特徴「過剰に供給された」では、微生物の増殖における制限の確立を回避するために、すべての栄養素が十分な量で供給されることが意味される。この文脈においては、栄養素は回分でのみ与えられ得、すなわち出発培地でのみ与えられ得、または培養プロセス中に培養物に追加的に供給され得る。好ましくは、1種以上の栄養素が、出発培地に与えられた次に培養物に供給される。より好ましくは、供給される栄養素は、少なくとも炭素および/または窒素供給源である。明らかに、栄養素は、抑制または毒性作用を生じるような量で与えるべきではない。
【0007】
本発明によれば、培養物を酸素制限条件下に維持するために、好適な量の酸素が培養物に供給される。「好適な量の酸素」は、本願明細書において、培養中の酸素制限条件を達成する、培養物に供給される酸素の量として定義される。
【0008】
本発明の文脈において、OTR(酸素移動速度)は、酸素が気相から液相(培養ブロス)に移動する速度である。OTRは、単位時間当たりの酸素量(例えばモル/h)として示される。OTRは、発酵槽に入る酸素量と、ガスアウトレットで計測された酸素量との間の差から簡便に測定される。
【0009】
通常は、酸素は空気として供給されることとなる。しかしながら、純粋な酸素および/または富酸素空気を培養ブロスに供給すること、および/または空気および酸素を個別に供給することも可能である。
【0010】
本発明の文脈において、OUR(酸素摂取速度)は、微生物が、培養ブロスに供給された酸素を消費する速度である。
【0011】
ブロスを本発明による酸素制限下に維持するために、培養ブロスに供給される酸素量は、微生物によって消費される酸素量を超えるべきではない。換言すると、OTRは、実質的に、OURと同等であるべきである。「実質的に同等」とは、OTRが、好ましくはプラスまたはマイナス10%、より好ましくは5%の偏差でOURと等しいことを意味する。好ましくは、OTRが可能な限り高いこと(すなわち例えば発酵槽構成および/または供給ガス中の酸素濃度によって許容される限り高いこと)をさらに保証するために、好適な量の酸素が培養物に供給されるが、ただし、微生物が直ちに酸素を消費することが可能であることを条件とする。しかしながら、到達可能な最大OTRより低いOTRで、例えば最大OTR値の80または90%での酸素制限下で培養プロセスを行うことも可能であることは当業者には明らかであろう。
【0012】
OTRがOURと実質的に同等であるとき、培養ブロス中の溶存酸素濃度は、典型的には一定となり、および酸素制限が培養を制御する場合、溶存酸素は、ゼロまたはほとんどゼロであろう。
【0013】
本発明による培養プロセス中に酸素制限が存在するかどうかを判定する好ましい方法は、供給栄養素の増加のOTRへの影響を判定することである。供給栄養素の増加がOTRの増加を伴わない場合、酸素制限が存在する。本発明による培養プロセス中に酸素制限が存在するかどうかを判定するもっとも好ましい方法は、例えば、攪拌機速度のわずかな低減(例えば5%)のOTRへの影響をテストすることである。OTRも低減する場合には、酸素制限が存在する。OTRが低減せず、および/または溶存酸素濃度のみが低減する場合、酸素制限は存在しない。
【0014】
OTRを調節するために採ることができる手段は、通例、当業者に公知である。好ましくは、調節された酸素移動速度(OTR)の条件は、以下の、攪拌の増加、エアレーションの増加、過圧の増加、進入ガス流中の酸素割合の増加(富酸素化)、ブロス重量の低減、総ブロス粘度の低減からなる群から選択されるパラメータの少なくとも1つの調節によって確立される。総ブロス粘度を調節するために、培地組成、培地希釈、温度変化、栄養素のパルス−ポーズサイクル供給(例えば、国際公開第03/029439号パンフレットによる炭化水素)に関する手段を採ることができる。好ましくは、総ブロス粘度は、ブロスの温度を、至適な増殖が生じるレベルより上にまたは下に、摂氏2〜6度間のレベルで変化させることによって調節される。より好ましくは、総ブロス粘度は、特にクロカビ(Aspergillus niger)のような糸状真菌について、ブロスの温度を、至適な増殖が生じるレベルより上に、摂氏2〜6度間のレベルで昇温させることにより減少される。もちろん、必要な場合には、酸素移動を低減させるために逆の手段を採り得る。この場合、総ブロス粘度は、ブロスの温度を、至適な増殖が生じるレベルより下に、摂氏2〜6度間のレベルで降温させることにより増加される。
【0015】
本発明の一実施形態において、微生物培養は、OTRを例えば1または2時間毎に定期的に計測すると共に、OTRを(例えば攪拌機速度を調節することにより)、計測されたOTRに依存して、OUR設定値と比して調節することにより酸素制限下に維持される。
【0016】
OUR設定値は、培養される微生物および、典型的には例えば培養容器のタイプ、攪拌機構成、培養培地のタイプおよび栄養素供給条件を含む培養構成に依存することとなる。特定の培養プロセスについてのOUR設定値は、従って、移動した酸素が直ちに微生物によって消費されることを条件として、可能な限り高いOTRを伴うOUR値を測定することにより、経験的に確立される。
【0017】
酸素制限条件下での培養物の維持は、全培養期間にわたってなされ得る。好ましくは、培養物は、産生フェーズ中に酸素制限条件下に維持される。この場合、酸素制限の条件は、微生物の十分な増殖が生じた後に確立されおよび維持される。バイオマスの最低密度は、酸素制限が生じるための必要条件であり、すなわち酸素制限は、十分な増殖の後に確立されることが当業者に明らかである。換言すると、酸素制限の条件は、好ましくは、培養プロセスの産生フェーズ、すなわち有益な化合物の産生フェーズにおいて確立されおよび維持される。典型的には、微生物培養プロセスは、バイオマスの形成を指す増殖フェーズと、有益な化合物の産生を指す産生フェーズとに区分され得る。当業者は、培養の2つのフェーズは、時間で厳密に分けられ得ず、ある程度重畳し得ることは把握するであろう。しかも、当業者は、微生物の培養のいずれのフェーズ中にも、有益な化合物はある程度産生されるであろうことは把握するであろう。
【0018】
本発明による培養プロセスを実施するために必要な培養培地は、本発明にとって重要ではない。栄養素は、対象となっている生体の要求に応じてプロセスに添加されるが、ただし、栄養素は、過剰に与えられる。本発明の文脈において、栄養素は酸素ではない。
【0019】
培養培地は、炭素供給源、窒素供給源、ならびに微生物の増殖および/または有益な化合物の形成に要求される追加の化合物を簡便に含有する。例えば、追加の化合物は、有益な化合物の産生を誘導するために必要であり得る。
【0020】
当該技術分野において公知である好適な炭素供給源の例としては、グルコース、マルトース、マルトデキストリン、スクロース、加水分解デンプン、デンプン、糖蜜、油が挙げられる。当該技術分野において公知である窒素供給源の例としては、大豆粉、コーンスティープリカー、イースト菌抽出物、アンモニア、アンモニウム塩、硝酸塩、尿素が挙げられる。追加の化合物の例としては、リン酸、硫酸塩、微量元素および/またはビタミンが挙げられる。
【0021】
本発明による培養プロセスに添加されるべき炭素および窒素供給源の総量は、例えば微生物の要求および/または培養プロセスの長さに応じて異なり得る。
【0022】
培養プロセスにおける炭素および窒素供給源の比は、かなり異なり得、そのため、炭素および窒素供給源の間の至適比に対する一決定因子は、形成されるべき産生物の元素組成である。
【0023】
リン酸、硫酸塩または微量元素のような、微生物の増殖および/または産生物形成に要求される追加の化合物は、微生物の異なるクラス、すなわち真菌、イースト菌および細菌間で異なり得る量で添加され得る。さらに、添加されるべき追加の化合物の量は、形成される有益な化合物のタイプによって決定され得る。
【0024】
典型的には、微生物の増殖に必要な培地成分の量は、形成されるバイオマスの量が用いられた炭素供給源の量によって主に決定されることとなるため、培養において用いられている炭素供給源の量と相対的に決定され得る。
【0025】
本発明による培養プロセスは、産業規模で実施されることが好ましい。産業規模プロセスは、≧0.01m、好ましくは≧0.1m、好ましくは≧0.5m、好ましくは≧5m、好ましくは≧10m、より好ましくは≧25m、より好ましくは≧50m、より好ましくは≧100m、もっとも好ましくは≧200mでの発酵槽体積規模での培養プロセスを包含していると理解される。
【0026】
有益な化合物を産生する、またはバイオマスなどとして用いられるいずれかの微生物が、本発明による培養プロセスに供され得る(例えば細菌性、イースト菌および真菌性微生物)。例えば、本発明による培養に好適である微生物菌株としては、アクレモニウム属(Acremonium)、アスペルギルス属(Aspergillus)、アウレオバシジウム属(Aureobasidium)、クリプトコッカス属(Cryptococcus)、フィリバシジウム属(Filibasidium)、フザリウム属(Fusarium)、フミコラ属(Humicola)、マグナポルテ属(Magnaporthe)、ケカビ属(Mucor)、ミセリオフトラ属(Myceliophthora)、ネオカリマスティクス属(Neocallimastix)、ニューロスポラ属(Neurospora)、ペシロマイセス属(Paecilomyces)、ピロマイセス属(Piromyces)、スエヒロタケ属(Schizophyllum)、タラロマイセス属(Talaromyces)、サーモアスカス属(Thermoascus)、チエラビア属(Thielavia)、トリポクラジウム属(Tolypocladium)、およびトリコデルマ属(Trichoderma)菌株などの真菌菌株;酵母菌属(Saccharomyces)、ピキア属(Pichia)、ファフィア属(Phaffia)またはクリベロマイセス(Kluyveromyces)菌株などのイースト菌菌株;およびバチルス属(Bacillus)、大腸菌類(Escherichia)または放線菌類(Actinomycete)菌株などの細菌菌株が挙げられる。特に糸状微生物は、本発明による培養プロセスに対する酸素制限の適用から利益を得るであろう。糸状微生物は、アクチノミセテス(Actinomycetes)、好ましくはストレプトマイセス属(Streptomyces)のような糸状細菌であることができ、または糸状真菌であることができる。糸状真菌菌株としては、限定されないが、アクレモニウム属(Acremonium)、アスペルギルス属(Aspergillus)、アウレオバシジウム属(Aureobasidium)、クリプトコッカス属(Cryptococcus)、フィリバシジウム属(Filibasidium)、フザリウム属(Fusarium)、フミコラ属(Humicola)、マグナポルテ属(Magnaporthe)、ケカビ属(Mucor)、ミセリオフトラ属(Myceliophthora)、ネオカリマスティクス属(Neocallimastix)、ニューロスポラ属(Neurospora)、ペシロマイセス属(Paecilomyces)、ピロマイセス属(Piromyces)、スエヒロタケ属(Schizophyllum)、タラロマイセス属(Talaromyces)、サーモアスカス属(Thermoascus)、チエラビア属(Thielavia)、トリポクラジウム属(Tolypocladium)、およびトリコデルマ属(Trichoderma)の菌株が挙げられる。
【0027】
アスペルギルス(Aspergillus)またはトリコデルマ(Trichoderma)の属、およびより好ましくはクロカビ(Aspergillus niger)、醤油麹菌(Aspergillus sojae)、アスペルギルスフミガーツス(Aspergillus fumigatus)、麹菌(Aspergillus oryzae)、またはトリコデルマ・リーセイ(Trichoderma reesei)の種に属する糸状真菌細胞が好ましい。もっとも好ましいクロカビ(Aspergillus niger)種は、クロカビ(Aspergillus niger)CBS513.88、およびそれらの派生種である。
【0028】
糸状真菌の数々の菌株は、アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)、ドイッチェサムルングフォンミクロオルガニズムメンウントツェルクルツレン(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH)(DSM)、オランダ微生物株保存センター(Centraalbureau Voor Schimmelcultures)(CBS)、およびアグリカルチュラルリサーチサービスパテントカルチャーコレクション、ノーザンリジョナルリサーチセンター(Agricultural Research Service Patent Culture Collection,Northern Regional Research Center)(NRRL)などの多数の菌株保存機関において公共に容易に利用可能である(クロカビ(Aspergillus niger)CBS513.88、麹菌(Aspergillus oryzae)ATCC20423、IFO4177、ATCC1011、ATCC9576、ATCC14488−14491、ATCC11601、ATCC12892、アクレモニウムクリゾゲナム(Acremonium chrysogenum)ATCC36225またはATCC48272、トリコデルマ・リーセイ(Trichoderma reesei)ATCC26921またはATCC56765またはATCC26921、醤油麹菌(Aspergillus sojae)ATCC11906、クリソスポリウムルクノウェンセ(Chrysosporium lucknowense)ATCC44006およびこれらの派生種)。
【0029】
本発明のプロセスに供される微生物菌株は、天然発生微生物、または、いずれかの種類の、突然変異誘発テクノロジー、例えば伝統的な突然変異誘発処理または遺伝子工学テクノロジーによる、いずれかの好適な親菌株から派生される微生物菌株であり得る。
【0030】
本発明のプロセスに供される微生物によって産生される有益な化合物は、好ましくは、ポリペプチド、例えば酵素または医薬品タンパク質である。しかしながら、プロセスはまた、代謝生成物、例えばカロチノイドまたはビタミンの産生、またはバイオマスのようなものの産生に好適である。有益な化合物は、単一遺伝子または生合成または代謝経路を構成する一連の遺伝子によってコードされ得、または単一遺伝子の産生物または一連の遺伝子の産生物の直接的な結果であり得る。有益な化合物は、微生物または異種に由来し得る。
【0031】
用語「異種化合物」は、本願明細書において、細胞に由来しない化合物、または未変性化合物を変化させるために構造改変がなされた未変性化合物として定義される。
【0032】
本発明により産生される有益な化合物はポリペプチドであり得る。ポリペプチドは、関心のある生物活性を有するいずれかのポリペプチドであり得る。用語「ポリペプチド」とは、本願明細書において、コードされた産生物の特定の長さを指すことを意味せず、従って、ペプチド、オリゴペプチド、およびタンパク質を包含する。用語「ポリペプチド」はまた、組み合わされてコード化産生物を形成する2つ以上のポリペプチドを包含する。ポリペプチドはまた、1種以上が糸状真菌細胞に異種であり得る少なくとも2種の異なるポリペプチドから得られる、部分または完全ポリペプチド配列の組み合わせを含むハイブリッドポリペプチドを含む。ポリペプチドは、さらに、天然発生対立遺伝子および上述のポリペプチドおよびハイブリッドポリペプチドの改変異形体を含む。ポリペプチドは、コラーゲンまたはゼラチン、またはこれらの変異体またはハイブリッドであり得る。ポリペプチドは、抗体またはその部分、抗原、凝固因子、酵素、ホルモンまたはホルモン変異体、受容体またはその部分、制御タンパク質、構造タンパク質、レポーター、または輸送タンパク質、分泌プロセスに伴うタンパク質、フォールディングプロセスに伴うタンパク質、シャペロン、ペプチドアミノ酸トランスポータ、グリコシル化因子、転写因子、合成ペプチドまたはオリゴペプチド、細胞内タンパク質であり得る。細胞内タンパク質は、プロテアーゼ、セラミダーゼ、エポキシドヒドロラーゼ、アミノペプチダーゼ、アシラーゼ、アルドラーゼ、ヒドロキシラーゼ、アミノペプチダーゼ、リパーゼなどの酵素であり得る。ポリペプチドは、細胞外で分泌された酵素であり得る。このような酵素は、オキシドレダクターゼ、トランスフェラーゼ、ヒドロラーゼ、リアーゼ、イソメラーゼ、リガーゼ、カタラーゼ、セルラーゼ、キチナーゼ、クチナーゼ、デオキシリボヌクレアーゼ、デキストラナーゼ、エステラーゼの群に属し得る。酵素は、例えばエンドグルカナーゼ、β−グルカナーゼ、セロビオヒドロラーゼまたはβ−グルコシダーゼ、ヘミセルラーゼなどのセルラーゼ;またはキシラナーゼ、キシロシダーゼ、マンナナーゼ、ガラクタナーゼ、ガラクトシダーゼ、ペクチンメチルエステラーゼ、ペクチンリアーゼ、ペンチン酸リアーゼ、エンドポリガラクチュロナーゼ、エクソポリガラクチュロナーゼ ラムノガラクチュロナーゼ(rhamnogalacturonases)、アラバナーゼ、アラビノフラノシダーゼ、アラビノキシランヒドロラーゼ、ガラクチュロナーゼ、リアーゼ、またはデンプン分解酵素などのペクチン分解酵素;ヒドロラーゼ、イソメラーゼ、またはリガーゼ、フィターゼなどのホスファターゼ、リパーゼなどのエステラーゼ、タンパク質分解酵素、オキシダーゼなどのオキシドレダクターゼ、トランスフェラーゼ、またはイソメラーゼといったカルボヒドラーゼであり得る。酵素はフィターゼであり得る。酵素は、アミノペプチダーゼ、アミラーゼ、カルボヒドラーゼ、カルボキシペプチダーゼ、エンドプロテアーゼ、メタロプロテアーゼ、セリン−プロテアーゼカタラーゼ、キチナーゼ、クチナーゼ、シクロデキストリングリコシルトランスフェラーゼ、デオキシリボヌクレアーゼ、エステラーゼ、α−ガラクトシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、グリコアミラーゼ、α−グルコシダーゼ、β−グルコシダーゼ、ハロペルオキシダーゼ、タンパク質分解酵素、インベルターゼ、ラッカーゼ、リパーゼ、マンノシダーゼ、ムタナーゼ、オキシダーゼ、ペクチン分解酵素、ペルオキダーゼ、ホスホリパーゼ、ポリフェノールオキシダーゼ、リボヌクレアーゼ、トランスグルタミナーゼ、デアミナーゼ、アスパラギナーゼ、グルコースオキシダーゼ、ヘキソースオキシダーゼ、モノオキシゲナーゼであり得る。
【0033】
本発明により産生される有益な化合物は多糖であり得る。多糖はいずれかの多糖であり得、特に限定されないが、ムコ多糖(例えば、ヘパリンおよびヒアルロン酸)および窒素含有多糖(例えば、キチン)が挙げられる。より好ましい選択肢において、多糖はヒアルロン酸である。
【0034】
用語「代謝生成物」は一次および二次代謝生成物の両方を包含し、代謝生成物はいずれの代謝生成物でもあり得る。好ましい代謝生成物はクエン酸である。
【0035】
代謝生成物は、1つまたは複数の遺伝子によって、生合成または代謝経路中などにおいてコードされ得る。一次代謝生成物は、エネルギー代謝、増殖、および構造に関係している、細胞の一次または一般的な代謝の産生物である。二次代謝生成物は、二次代謝の産生物である(例えば、R.B.ハーバート(R.B.Herbert)、「The Biosynthesis of Secondary Metabolites」、Chapman and Hall、ニューヨーク州、1981年を参照のこと)。
【0036】
本発明により産生される一次代謝生成物は、限定されないが、アミノ酸、脂肪酸、ヌクレオシド、ヌクレオチド、糖質、トリグリセリド、またはビタミンであり得る。
【0037】
本発明により産生される二次代謝生成物は、限定されないが、アルカロイド、クマリン、フラボノイド、ポリケチド、キニーネ、ステロイド、ペプチド、またはテルペンであり得る。二次代謝産物は、摂取阻害物質、誘引剤、殺菌薬、殺菌剤、ホルモン、殺虫剤、または殺鼠剤であり得る。
【0038】
本発明による培養プロセスは、回分、反復回分、流加、反復流加または連続培養プロセスとして実施することができる。
【0039】
回分プロセスにおいては、すべての培地成分が、培養プロセスの開始前に、全体として直接的に培地に添加される。
【0040】
反復回分プロセスにおいては、完全培地の部分的な付与が伴うブロスの部分的収集が、任意により数回反復して、生じる。
【0041】
流加プロセスにおいては、微生物性の増殖および/または産生物の形成に必要な化合物の一部が、培養プロセスを開始する前に出発培地に与えられる。培養プロセスの過程において、所望のとおり、追加の炭素供給源、窒素供給源および/または追加の化合物がプロセスに、1回の供給でまたは各化合物について個別の供給で供給され得る。
【0042】
反復流加または連続培養プロセスにおいて、完全出発培地が、追加的に培養中に供給される。出発培地は、まとめてまたは個別の例えば炭素および窒素供給源流で供給されることができる。反復流加プロセスにおいては、バイオマスを含む培養ブロスの一部が定期的な時間間隔で除去され、その一方で連続プロセスにおいては、培養ブロスの一部の除去は連続的に生じる。培養プロセスは、従って、ある分量の新鮮な培地で補給されて、ブロスの一定の体積および/または重量が保証される。
【0043】
本発明の好ましい実施形態においては、流加または反復流加プロセスが適用され、ここで、炭素供給源および/または窒素供給源および/または追加の化合物が培養プロセスに供給される。より好ましい実施形態においては、炭素および/または窒素供給源が培養プロセスに供給される。
【0044】
本発明のさらなる態様は、培養ブロスの後処理プロセスの選択肢に関する。本発明による酸素制限の使用は、特に有益な化合物の高収率および低量の副産生物のために、後処理プロセスを促進する。後処理プロセスは、回収ステップならびに配合ステップを含み得る。好ましくは、本発明の酸素制限プロセスによって得られる有益な化合物は、培養ブロスから回収され、および/または好適な組成物中に配合される。
【0045】
培養プロセスが終了した後、有益な産生物は、関心のある有益な化合物の回収のために開発された標準的なテクノロジーを用いて培養ブロスから回収され得る。適用される関連する後処理プロセステクノロジーは、従って、有益な化合物の性質および細胞局在および関心のある産生物の所望の純度レベルに依存する。典型的な回収プロセスにおいては、バイオマスは、培養液から、例えば遠心分離またはろ過を用いて分離される。有益な産生物が内部に集積されている、または微生物細胞に関連付けられている場合には、有益な化合物が、次いで、バイオマスから回収される。もちろん、バイオマス自体もまた用いられ得る。そうでなければ、有益な産生物が微生物細胞から抽出されるとき、これは、培養液から回収される。バイオマスおよび/または有益な化合物は、液体または固体産生物として配合され得る。好ましくは、本発明のプロセスによって得られる有益な化合物は、培養ブロスから回収され、および/または好適な組成物中に配合される。
【0046】
本発明は、さらに、本発明の範囲を限定するとして解釈されるべきではない以下の実施例によって例示される。
【実施例】
【0047】
実施例1
クロカビ(Aspergillus niger)によるフィターゼの産業的製造
フィターゼを過剰発現するクロカビ(Aspergillus niger)CBS513.88を設計し、および国際公開第98/46772号パンフレットに基づいて構築した。ワーキングセルバンクを、−80℃でおよそ1mLのバイアル中に保管した。
【0048】
播種手順:
1つのバイアルの内容物を前培養物培地に添加した:バッフル付2L−振盪フラスコ(20g/Lコーンスティープソリッド(Corn Steep Solid)、20g/Lグルコース、pH6.5(NaOHと共に)、300ml培地、121℃で30分間蒸気滅菌)。前培養物を40時間、34℃および220rpmで増殖させた。時間的調節は、当然、振盪フラスコ構成およびバイアル生存度に適用させることができる。
【0049】
連続培養:
培地は、グルコースおよびマルトデキストリン、ならびに塩画分の混合物から組成されている。塩画分は、国際公開第98/37179号パンフレット、表1、第12ページに適合していた。この表からの偏差は:MgSO4 . 7aq 0.25g/L、CaCl2 . 2aq 0.22g/L、(NH4)2SO4 6g/L、クエン酸 . 1aq 0.2g/L(キレート化剤)であった。培地組成物は、回分および流加について同等であった。グルコース濃度は、それぞれ炭素制限または酸素制限について22.5または45g/Lであり、一方、マルトデキストリンはそれぞれ2.5または5.0g/Lであった。培地を2回の画分で蒸気滅菌し、その1つは糖質および塩化カルシウムを組み合わせていた。培地塩画分のpHは滅菌前は4.5(硫酸)であり、および発酵槽中にこの画分をプールした後にこの同一のpHに制御した(硫酸、アンモニア)。温度を34℃で制御した。空気流は、それぞれ炭素制限または酸素制限について1.0または0.5vvm(体積空気/体積ブロス/分)であった。バイオリアクターを6%種菌比で播種した。操作体積は10Lであった。炭素制限発酵について、DOTは、播種前のブロスのDOTの20%で制御した。用語「DOT」(溶存酸素張力)は、溶存酸素の尺度として定義され、および大気圧の空気と飽和した溶存酸素の割合として表され、すなわち100%DOTは、大気圧で溶解される最大酸素量である。発酵のDOTでの制御は、炭素制限発酵については典型的である。
【0050】
酸素制限発酵について、同一の希釈度について炭素制限下で計測された値の80%で酸素移動速度を制御し(攪拌速度のおかげ)、これにより酸素制限を確立した。クレロール(Clerol)を、消泡剤として周期的な方策で用いた:最初の24時間については30分毎に2秒、次いでその後は、1時間毎に2秒。定常状態に到達するために、少なくとも5回の体積交換がなされた。すべての定常状態について、新規の発酵を行った。
【0051】
結果:
図1〜図4に見ることができるとおり(グラフ中の各点は個別の定常状態を表す)、酸素制限は、炭素制限とは対照的に、グルコースおよび酸素で明らかにより高いバイオマス収量を提供する。より興味深いのは、低い酸素摂取速度にも関わらず、グルコースおよび酸素での酵素収量がまた増進されている。これは、発酵が酸素制限下で行われるときには、明らかに生産能がより高く、およびより経済的であるプロセスであると言い換えられる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】消費酸素でのバイオマスの収量(Yxo)対特定の増殖速度。
【図2】消費糖質でのバイオマスの収量(Yxs)対特定の増殖速度。
【図3】消費酸素でのフィターゼの収量(Ypo)(任意単位)対特定の増殖速度。
【図4】消費糖質でのフィターゼの収量(Yps)(任意単位)対特定の増殖速度。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
すべての栄養素が全培養期間にわたって過剰に提供される培地において微生物を培養するステップと、培養物を酸素制限条件下に維持するために、好適な量の酸素を培養物に供給するステップとを含む微生物の培養による有益な化合物の産生方法。
【請求項2】
好適な量の酸素が、OTRが実質的にOURと同等であることを保証するよう培養物に供給される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
好適な量の酸素が、さらに、OTRが可能な限り高いことを保証するよう培養物に供給される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
OTRが、以下の、攪拌、エアレーション、過圧、進入ガス流中の酸素割合、ブロス重量、総ブロス粘度からなる群から選択されるパラメータの少なくとも1つを調節することにより調節される、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
総ブロス粘度が、ブロスの温度を、至適な増殖が生じるレベルより上または下に、摂氏2〜6度間のレベルで変化させることにより調節される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
総ブロス粘度が、ブロスの温度を、至適な増殖が生じるレベルより上に、摂氏2〜6度間のレベルで昇温させることにより減少される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
総ブロス粘度が、ブロスの温度を、至適な増殖が生じるレベルより下に、摂氏2〜6度間のレベルで降温させることにより増加される、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
培養物が、産生フェーズ中に酸素制限条件下に維持される、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
微生物が、糸状微生物であり、好ましくは糸状真菌類である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
得られる有益な化合物が、培養ブロスから回収される、および/または好適な組成物中に配合される、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
有益な化合物が代謝生成物である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
有益な化合物が、ポリペプチドであり、好ましくは酵素である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2008−533981(P2008−533981A)
【公表日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−502422(P2008−502422)
【出願日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際出願番号】PCT/EP2006/060996
【国際公開番号】WO2006/100292
【国際公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】