有益な薬剤を搬送するための拡張可能な医療器具及びこの医療器具を形成する方法
【課題】ステントの有効壁厚を増加せず、ステントの機械的拡張特性に悪影響を及ぼさずに、比較的体積の大きい有益な薬剤を、血管腔内の外傷を負った部位に搬送できるステントを提供する。
【解決手段】拡張可能な医療器具10は、第1直径を有する円筒形から第2直径を有する円筒形へと拡張することが可能である略円筒形の器具を形成するために相互に結合する複数の細長いストラット18を有する。複数のストラットのうちの少なくとも一つは、ストラットの厚さ方向に少なくとも部分的に延設される少なくとも一つの開口部を含む。有益な薬剤は、薬剤を所要の時間に放出する動力学を達成するためにステントの開口部に装填される。あるいは、所要の薬剤送出プロファイルを達成するために構成される形状の中に有益な薬剤は装填される。様々な送出プロファイルは、ゼロ次、脈動、増加、減少、シヌソイド関数、その他の送出プロファイルを含む。
【解決手段】拡張可能な医療器具10は、第1直径を有する円筒形から第2直径を有する円筒形へと拡張することが可能である略円筒形の器具を形成するために相互に結合する複数の細長いストラット18を有する。複数のストラットのうちの少なくとも一つは、ストラットの厚さ方向に少なくとも部分的に延設される少なくとも一つの開口部を含む。有益な薬剤は、薬剤を所要の時間に放出する動力学を達成するためにステントの開口部に装填される。あるいは、所要の薬剤送出プロファイルを達成するために構成される形状の中に有益な薬剤は装填される。様々な送出プロファイルは、ゼロ次、脈動、増加、減少、シヌソイド関数、その他の送出プロファイルを含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、組織を支持する医療器具に関するもので、より詳細には、臓器を支持して開存性を維持するために、生きている動物またはヒトの体腔内に埋め込まれ、有益な薬剤を介入部位に搬送でき、体腔内で拡張可能であり、体腔内に埋め込む器具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
(関連技術の概要)
これまで、身体通路の開存性を維持するために身体通路内に埋め込まれる、永久的または生分解性の器具が開発されてきた。これらの器具は、通常、経皮的に導入され、所望の場所に位置決めされるまで経腔輸送される。次いで、これらの器具は、機械的に、例えば装置内側に位置決めされたマンドレル(mandrel)またはバルーン(balloon)の拡張によって拡張し、あるいは体内で作動して蓄積したエネルギーを放出することによって単独で拡張する。ステント(stents)と呼ばれるこれらの器具は、管腔内で拡張した後、体組織内でカプセル化し、永久的に埋め込まれたまま残る。
【0003】
公知のステント設計には、単繊維巻線ステント(米国特許第4,969,458号)、溶接金属ケージ(米国特許第4,733,665号、4,776,337号)が含まれ、最も有名なものには、周囲に軸方向のスロットが形成された薄壁金属円筒(米国特許4,733,665号、4,739,762号、4,776,337号)がある。ステントで使用するための公知の構成材料には、ポリマー、有機織物、および生体適合性金属、例えば、ステンレス鋼、金、銀、タンタル、チタン、ニチノール(Nitinol)などの形状記憶合金などが含まれる。
【0004】
米国特許第4,733,665号、4,739,762号、および4,776,337号は、軸方向スロットによって部材を半径方向の外側に拡張させて身体通路に接触させることのできる、薄壁管状部材の形態の拡張・変形可能な管腔内血管グラフトを開示している。挿入後、管状部材は、その弾性限界を超えて機械的に拡張して、体内で永久的に固定される。米国特許第5,545,210号は、前述のものと幾何学的に同様の、ニッケル・チタン形状記憶合金(「ニチノール(Nitinol)」)で構築された薄壁管状ステントを開示しており、この薄壁管状ステントは、弾性限度(elastaic limit)を超えることなく、身体内に永久に固定することができる。前述のすべてのステントは、非常に重要な設計特性を共有する。すなわち、各設計において、ステント拡張時に永久変形するフィーチャ(feature)が角柱状である、すなわちこれらのフィーチャの断面積が一定のままか、またはその活動長さ全体に沿って徐々に変化する。角柱状の構造は、永久変形が開始する前に大きな弾性変形を与える理想的な構造として適しており、ステントの構成要素の安定性、送出(delivery)カテーテルに関するステントの確保と迅速な操作性(radiopacity)を含む重要な特性を達成する部分最適デバイス(sub-optimal device)を導出する。
【0005】
米国特許第6,241,762号は、先に説明したステントの性能の足りない部分を改善する角柱状でないステントの設計を開示するものであり、この内容の全体は参考文献として組み込まれます。加えて、この特許の好ましい実施形態は、大きく変形しない支柱(strut)とリンク要素を提供するものであり、支柱あるいはリンク要素、若しくは装置全体の機械的特性を危険にさらすことがないような複数の穴を含むことができるものである。さらに、これらの穴は、装置を注入する位置に様々な有益な薬剤を送るために広く保護された貯蔵部分として役立たせることが可能である。
【0006】
有益な薬剤の局所的な送出における多くの問題のうち、最も重要なもののうちの1つは再狭窄である。再狭窄は血管形成及びステントの注入のような管の介在に伴って発生し得る主要な合併症である。簡単に定義すれば、再狭窄とは、瘢痕組織の形成によって血管腔の直径を縮小させ、最終的には管腔の再閉塞をまねくことのある、創傷治癒プロセスである。改善された外科技術、装置、および医薬品製剤の導入にもかかわらず、依然として、全体的な再狭窄率が、血管形成処置後6〜12か月以内に25%〜50%の範囲にあると報告されている。この問題を修正するために、追加的な血管再生処置がしばしば必要となり、その結果患者への外傷および危険が増大する。
【0007】
再狭窄の問題に対処するために開発が進められているいくつかの技術が、傷害部位への放射線照射、ならびに、外傷を負った血管腔に様々な有益な薬剤または医薬品製剤を搬送するためのステントの使用である。後者の場合、ステントは、しばしば有益な薬剤(たいていは薬物含浸ポリマー)で表面コーティングされ、血管形成部位に埋め込まれる。あるいは、外部の薬物含浸ポリマー・シースを、ステントを覆って取り付け、血管内で併せて展開させる。
【0008】
放射線療法による結果は急激なものであり一時的には有望であるが、長期的な結果では、先に注入されたステント、いわゆる”in-stent”内において生じる再狭窄を減少させることにとどまる。放射線療法は損傷中(de novo lesions)の再狭窄を防ぐことには有効ではなかった。動脈や、主要な器官壁(vessel wall)へステントの支柱を挿入することは、血管を封鎖する危険を有し、人間の臨床試験においてポリマー・サックは危険であることも証明されている。死亡に至る心臓発作あるいは繰り返し血管形成か冠状動脈バイパス手術の必要性を含んでいる心臓疾患に関して、サックで覆われたステントの臨床試験は承諾しがたいほど高いレベルの有害な作用をもたらすため(Major Adverse Cardiac Events:MACE)、早期に終了した。
【0009】
様々な有益な薬剤の表面のコーティングを有する従来のステントは、対照的に、早期にその結果を見込むことができるものとして開示されている。例えば、米国特許第5,716,981号は、ポリマー・キャリアーおよびパクリタキセル化合物(paclitaxel:癌の腫瘍の処理の中で一般に使用される、有名な合成物)を含む構成で表面が覆われるステントを開示する。その特許は、被覆自体の所望の特性の他、スプレーと薬浴のようにステント表面を覆うための具体的な方法を提供するものであり、その被覆は、ステントを滑らかに、平らに覆うべきであること、均一性と予測が可能であること、血管造影を妨げる要因の放出を長引かせることを可能にする。しかしながら、表面のコーティングは、有益な薬剤の放出動力学(release Kinetics)に対する実際の制御をほとんど提供することができない。これらのコーティングは、典型的には5〜8ミクロンの非常に薄いものが必要である。ステントの表面積は比較的大きいものであり、これは周囲の組織に有益な薬剤の全体を放出するための非常に短い拡散パスを有することになる。
【0010】
表面のコーティングの厚さを増加させることは、薬の放出をコントロールする能力を含む薬剤の放出動力学を改善する有益な効果があり、また、表面のコーティングの厚さの増加を許容することは、装荷する薬剤を増加させることになる。しかしながら、増加したコーティング厚さは、ステントの全面的な厚さの増加に帰着する。このことは、注入時において、血管壁が損傷することを含む多くの理由のために不適当であり、注入後においては、器官の横断面を縮小させることになり、拡張と注入の間においては、機械的な故障あるいは損傷に増加させるという問題がある。コーティング厚さは、有益な薬剤の放出動力学(release kinetics)に影響するいくつかの要因のうちの1つであり、また、厚さに対する限定は、放出レート(release rates)、保持(durations)、また同様の場合に再現でいる範囲を制限する。
【0011】
部分最適の放出プロファイル(sub-optimal release profiles)に加えて、表面のコーティングを施したステントに関するさらなる問題もある。器具のコーティングにおいて典型的に使用される固定マトリッス・ポリマー・キャリアー(fixed matrix polymer carriers)は、コーティングでの有益な薬剤のおよそ30%を無期限に保持する。これらの有益な薬剤はしばしば、高い割合で細胞毒素であるので、慢性の炎症、血栓症および不完全な血管壁の治療のような副急性及び慢性疾患の問題が生じ得る。さらに、キャリアー・ポリマーはそれら自身、多くの場合、血管壁に対する組織にとても刺激を与えるものである。他方では、ステント表面で生物分解性のポリマー・キャリアーを使用することは、「仮想空間」の生成、すなわち、ステントと血管壁の組織の間の空間を生成することに帰着し、ポリマー・キャリアーが分解した後に、ステントと隣接する組織の間でステントに差動的な動きを許容する。この場合生じる得る問題としては、微細な摩滅および炎症、ステントの横滑り(drift)および血管壁が破損(failure to reendothelialize)することを含んでいる。
【0012】
他の重要な問題は、ステントの拡張が積層ポリマー・コーティングに負荷を与え、塑性変形あるいは、コーティングの破損をもたらすことであり、このことは、薬剤の放出動力学等に悪影響を及ぼすことになる。さらに、アテローム性動脈硬化の血管中にそのような上塗り(コーティング)を施したステントの拡張は、ポリマー・コーティング上の円周方向にせん断力を発生させることになり、この力はステントの表面の下層からコーティングを分離するために作用し得る。そのような分離は、血管の閉塞をもたらすコーティング破片の塞栓血症を含む不運な効果を再発させることになるかもしれない。
【0013】
(発明の概要)
従来技術の欠点に鑑みて、本発明は、ステントの有効壁厚を増加せず、ステントの機械的拡張特性に悪影響を及ぼさずに、比較的体積の大きい有益な薬剤を、血管腔内の外傷を負った部位に搬送できるステントを提供することが有利な点である。
【0014】
さらに、有益な薬剤リザーバ(reservoir)の利用可能性(available depth)も著しく増加させるステントを提供することが有利な点である。
【0015】
さらに、種々の有益な薬剤あるいはその組み合わせを、深いリザーバに装填し、薬剤の放出動力学を時間に関して制御することを提供することが利点である。
【0016】
本発明の一態様によれば、拡張可能な医療器具は、略円筒形で、拡張可能な医療用のデバイスと、前記医療用のデバイス内における複数の開口部であって、支柱の半径方向の最も外側の面から、当該支柱の半径方向の最も内側の面において略一定の横断面を有し、前記支柱を少なくとも部分的に貫通する開口部と、前記医療用のデバイスの第1側面から活性な有益薬剤の送出を実質的に防ぐ一方で、当該医療用のデバイスの第2側面から活性な有益薬剤が送出されることを許容するバリア層とを備える。
【0017】
本発明の一態様によれば、拡張可能な医療器具は、複数の支柱を有する拡張可能な円筒形状のデバイスと、前記複数の支柱における貫通した複数の開口部で、各開口部は半径方向の内周端と、外周端を有する開口部と、複数の分解可能な有益な薬剤の層において、前記開口部に提供される有益な薬剤と、前記開口部の半径方向の内周端に提供されるバリア層で、当該バリア層は前記有益な薬剤の層より遅く分解し、当該開口部からの流出を防止するバリア層とを備える。
【0018】
本発明の一態様によれば、拡張可能な医療器具は、複数の支柱が形成された略円筒形状の拡張可能な医療用のデバイス本体と、前記支柱内における複数の開口部と、前記開口部において形成される複数の有益な薬剤層とを備え、前記複数の有益な薬剤層は、第1放出プロファイルに従い薬剤を送出するために配置された第1活性薬剤と、第2放出プロファイルに従い薬剤を送出するために配置された第2活性薬剤とを含み、当該第1及び第2放出プロファイルは異なる。
【0019】
本発明の一態様によれば、拡張可能な医療器具は、複数の支柱が形成された略円筒形状の拡張可能な医療用のデバイス本体と、前記支柱内における複数の開口部と、前記開口部において形成される複数の有益な薬剤層とを備え、前記複数の有益な薬剤層は、蛋白質薬を含む。
【0020】
本発明の一態様によれば、拡張可能な医療器具を形成する方法であって、当該方法が、(a)複数開口部を有する複数の支柱が形成された略円筒形状の拡張可能な医療用のデバイス本体を形成する工程と、
(b)有益な薬剤、ポリマー・キャリアーおよび溶剤の溶液を作る工程と、
(c)前記溶液を前記開口部に与える工程と、
(d)前記有益な薬剤およびキャリアーの固体層を形成するために前記溶剤を蒸発させる工程と、
(e)前記(c)及び(d)の工程を繰り返す工程と
を備える。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1の好ましい実施形態による組織支持器具の斜視図である。
【図2】組織支持器具の一部分の拡大側面図である。
【図3】本発明の他の好ましい実施形態による組織支持器具の拡大側面図である。
【図4】図3に示すステントの一部分の拡大側面図である。
【図5】開口部の拡大断面図である。
【図6】有益な薬剤が装填された開口部の拡大断面図である。
【図7】ステントの開口部に装填された有益な薬剤と、有益な薬剤の薄いコーティングとを示す、開口部の拡大断面図である。
【図8】ステントの開口部に装填された有益な薬剤と、器具の異なる表面上の異なる有益な薬剤の薄いコーティングとを示す、開口部の拡大断面図である。
【図9】複数の層において供給される有益な薬剤を例示する開口部の拡大断面図である。
【図10】層内の開口部に装填されるバリア層(barrierlayer)と有益な薬剤を例示する開口部の拡大断面図である。
【図11A】有益な薬剤、生物分解性のキャリアー、および層内の開口部に装填されるバリア層を例示する開口部の拡大断面図である。
【図11B】図11Aの器具における放出動力学の特性を示す図である。
【図12】異なる有益な薬剤、キャリアー、および開口部に装填されるバリア層を例示する開口部の拡大断面図である。
【図13】異なる濃度の有益な薬剤が装填される開口部の拡大断面図である。
【図14】異なるサイズのミクロスフェア(microspheres)層の開口部に有益な薬剤が装填される開口部の拡大断面図である。
【図15A】開口部に有益な薬剤が装填されるテーパがつけられた開口部の拡大断面図である。
【図15B】有益な薬剤が外れた図15Aのテーパがつけられた開口部の拡大断面図である。
【図15C】図15Aと図15Bの放出動力学の特性を示す図である。
【図16A】所要の薬剤送出プロファイル(profile)を達成するために形成された開口部に薬剤が装填される開口部の拡大断面図である。
【図16B】部分的に有益な薬剤が外れた状態を示す図16Aの開口部の拡大断面図である。
【図16C】図16Aと図16Bの放出動力学の特性を示す図である。
【図17A】球形の開口部に有益な薬剤が装填される開口部の拡大断面図である。
【図17B】図17Aの放出動力学の特性を示す図である。
【図18A】所要の薬剤送出プロファイルを達成する、複数の有益な薬剤の層とバリア層を例示する開口部の拡大断面図である。
【図18B】薬剤の放出が始まる薬剤層の状態を示す図18Aの開口部の拡大断面図である。
【図18C】更に薬剤の放出が進んだ薬剤層の状態を示す図18Aの開口部の拡大断面図である。
【図19】複数の円柱状の有益な薬剤の層の開口部を例示する拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(好ましい実施形態の詳細な説明)
図1および図2を参照すると、本発明の好ましい一実施形態による組織支持器具が、参照番号10で示されている。組織支持器具10は、S字形の架橋要素14によって接続された複数の円筒管12を含む。架橋要素14は、脈管構造の曲がりくねった経路内を通過して展開部位に到達させるときには、組織支持器具を軸方向に曲げ、支持すべき管腔の曲率に合致させるのに必要なときには、装置を曲げる。各円筒管12は、円筒管の端面から反対側の端面に向かって延びる、複数の軸方向スロット16を備える。
【0023】
スロット16の間には、軸方向ストラット(strut:支柱)18と連結部22の網状体が形成されている。軸方向ストラット18と連結部22は、有益な薬剤を受け取り、送出するための開口部を提供する。以下に説明する図9から17において説明されるように、有益な薬剤は、時間に関する薬剤の放出動力学に対する制御を提供する層あるいは他の構成における開口部に装填される。
【0024】
個々の各ストラット18が、各端部に1つ、応力/ひずみ集中化機構(feature)として働く1対の縮小部分20を通じて、構造の他の部分に連結されることが好ましい。ストラットの縮小部分20は、円筒形構造中でヒンジとして機能する。応力/ひずみ集中化機構は、概ね延性材料の塑性変形範囲内に作用するように設計されるので、延性ヒンジ20と呼ばれる。延性ヒンジ20の詳細な構造に関しては、米国特許第6,241,762号において開示されているので、こちらを参照されたい。
【0025】
図面および記述に関しては、いずれの機構の幅も、円筒の円周方向の寸法として定義する。いずれの機構の長さも、円筒の軸方向寸法として定義する。いずれの機構の厚さも、円筒の壁厚として定義する。
【0026】
延性ヒンジ20が存在するので、組織支持器具の他のすべての機構(feature)の幅、あるいはそのそれぞれの矩形慣性モーメントの円周方向に配向する成分が増大し、その結果、これらの機構の強度および剛性が大きく増加する。最終結果として、弾性変形およびその後の塑性変形が始まり、延性ヒンジ20内に広がってから、装置の他の構造要素が著しく弾性変形する。組織支持器具10を拡張させるのに必要な力は、装置構造全体ではなく、延性ヒンジ20の幾何学形状に応じて決まるようになり、任意に、事実上いずれの材料の壁厚に関しても、ヒンジ幾何学形状を変更することによって小さい拡張力を指定することができる。ストラット18と連結部22の幅および厚さを増加させる能力は、薬剤を受ける開口部に関する付加的なエリアと深さを提供する。
【0027】
図1および図2の好ましい実施形態では、延性ヒンジ20の間の個々のストラット18の幅を、所与の直径、かつその直径周りに配置されるストラットの所与の数に関して、幾何学的に可能な最大幅まで増大させることが望ましい。ストラット幅に対する唯一の幾何学的な制限は、スロット16の実際的な最小幅が、レーザ加工のために、約0.0508mm(0.002インチ)になることである。ストラット18の横剛性が、ストラット幅の3乗で増加するので、ストラット幅の比較的小さい増加で、ストラット剛性が顕著に増加する。延性ヒンジ20を挿入し、ストラット幅を増大させると、最終的に、ストラット18がもはや柔軟性のある板バネとしては働かず、延性ヒンジ間の本質的に剛性の梁として働く。円筒形の組織支持器具10の径方向のすべての拡張または圧縮は、ヒンジ機構(features)20内の機械的なひずみによって調整され、非常に小さい全体的な径方向の拡張または圧縮で、ヒンジ内の降伏が始まる。
【0028】
図1および2において図示された延性ヒンジ20は、応力/ひずみ集中化機構として機能する好ましい構造の一例である。他の多くの応力/ひずみ集中化機構の構成も、例えば米国特許第6,241,762号に示され記載されるように、本発明で延性ヒンジとして使用することができる。応力/ひずみ集中化装置または延性ヒンジ20の幾何学的な詳細は、正確な機械的拡張特性を特定の用途に必要とされるように調整するために、大きく変更することができる。
【0029】
組織支持器具の構成は、延性ヒンジを含む図1において図示されているが、この内容は、ステントの開口部に有益な薬剤を含む設計上のバリエーションとして、米国特許出願番号(U. S. Provisional Patent Application Serial No.)60/314,360号(2001年8月20日出願)及び米国特許出願番号09/948、987号(2001年9月7日出願)により示されている。有益な薬剤開口部を組込む本発明も、他の既知のステントの設計と共に使用することができる。
【0030】
図1から4において示すように、ストラット18の中立軸に沿って、少なくとも1つ、より好ましくは一連の貫通開口部24が、レーザ・ドリルまたは当業者に公知の任意の他の手段によって間隔をあけて形成されている。同様に、少なくとも1つ、好ましくは一連の貫通開口部26が、連結部22内の選択した場所に形成されている。ストラット18および連結部22の両方で貫通開口部24および26を使用することが好ましいが、ストラットおよび連結部の一方だけに貫通開口部を形成できることは、当業者には明らかである。開口部は架橋要素14において形成してもよい。図1および2の実施形態において、開口部24、26は本質的に円形であり、組織支持器具10の幅方向に延びる円筒状の穴を形成する。ただし、本発明の範囲から逸脱することなく、任意の幾何学形状または構成の貫通開口部を当然使用できることは、当業者には明らかである。さらに、器具の厚さよりも浅い深さの開口部を使用するようにしてもよい。
【0031】
曲げの際のストラット18の挙動は、I字形梁またはトラスの挙動に類似している。ストラット18の外縁要素32は、I字形梁フランジに相当し、引張りおよび圧縮応力を支えており、ストラット18の内部要素34は、せん断力を支え、面の座屈および皺形成(wrinkling)を妨げるのに役立つ、I字形梁のウェブに相当する。大部分の曲げ荷重がストラット18の外縁要素32によって支えられるので、可能な限り多くの材料を中立軸から離して集中させると、ストラットの屈曲を妨げる最も有効な部分になる。結果として、ストラットの強度および剛性に悪影響を及ぼすことなく、貫通開口部24、26を形成するように、材料をストラットの軸に沿って取り除くことが賢明である。このようにして形成されるストラット18および連結部22がステント拡張時に本質的に剛性のままであるので、貫通開口部24、26も変形しない。
【0032】
ストラット18内の貫通開口部24、26は、内皮細胞の再生を促進することによって、介入部位の治癒を促進する。ストラット18に貫通開口部24、26を設けることによって、ストラットの断面が、前述のように、ストラットの強度および完全性を低下させることなく効果的に縮小される。結果として、内皮細胞の再生を起こさなければならない全体的な距離が、約0.0635〜0.0889mm(約0.0025〜0.0035インチ)まで短縮される。これは、従来のステントの厚さの約半分である。さらに、拡張可能な医療器具の挿入時に、内皮層由来の細胞が、貫通開口部24、26によって管腔内壁から擦り取られ、埋込み後にもそこに留まることがあると考えられている。したがって、このような内皮細胞が存在すると、管腔の治癒のための基盤が提供される。
【0033】
また、貫通開口部24、26には、組織支持器具10を展開させる管腔に搬送するための、薬剤、最も好ましくは有益な薬剤を装填することもできる。
【0034】
用語「薬剤」及びここで使用される「有益な薬剤」は、考えられる最も広義の解釈を意図しており、任意の治療用薬剤または薬物、ならびにバリア層またはキャリア層のような不活性な薬剤と同様に使用される。用語「薬物」および「治療用薬剤」は、交換可能に使用され、所望の効果、普通は有益な効果を生むように生物の体腔に搬送される、治療的に活性な任意の物質を指す。本発明は、特に、例えばパクリタキセルやラパマイシン、その相似体、あるいは、その派生物などの抗増殖性物質(抗再狭窄剤)、ならびに、例えばヘパリンなどの抗トロンビンなどの相似体、あるいは派生した化合物の搬送に良く適している。
【0035】
本発明において使用される有益な薬剤は、次のものに例示されるように、すべての主要治療分野にある治療用薬剤が含まれ、これだけに限るものではないが、抗豚増殖性腸炎剤(antiproliferatives),抗血栓症剤(antithrombins),血小板凝集阻害薬(antiplatelet)、抗脂質剤(antilipid)、抗炎症性(anti-inflammatory)、angiogenic、ビタミン(vitamins)、ACE抑制剤 (ACE inhibitors)、血管に作用する物質(vasoactive substances)、抗有糸分裂薬(antimitotics)、メテロ-プロテイナーゼ抑制剤 (metello-proteinase inhibitors)、酸化窒素ドナー(NO donors)、エストラジオール (estradiols)、抗硬化症薬剤(anti-sclerosing agents)等の単独、あるは、その組み合わせのものが含まれる。
【0036】
有益な薬剤は、更に、生物的な物質で薬剤と同様の効果を有する分子量レベルの物資を含むことができるが、以下の物資に限定されるものではない。ペプチド(peptides)、脂質( lipids)、蛋白質薬(protein drugs)、酵素(enzymes)、オリゴヌクレオチド(oligonucleotides)、リボザイム(ribozymes)、遺伝物質(genetic material)、クジラドリ(prions)、ウィルス(virus)、バクテリア(bacteria)、内皮細胞(endothelial cells)、単球/マクロファージあるいは血管の平滑筋細胞等のような真核細胞(eucaryotic cells)等が含まれる。
他の有益な薬剤を含めてもよく、微小球状体(microspheres)、微小気泡体(microbubbles)、リポソーム(liposomes)、放射性同位体(radioactive isotopes)、あるいは光か超音波のエネルギー、あるいは体系的に処理することができる循環分子によって活性化された薬剤のような物理的な薬剤に制限されるものではない。
【0037】
図1および図2に示す本発明の実施形態は、ストラットおよび連結部の貫通開口部内の有益な薬剤の展開を最適化するように、有限要素解析および他の技術を用いてさらに改良することができる。基本的には、ストラット18の比較的高い強度および剛度を延性ヒンジ20に関して維持しながら、貫通開口部24、26の形状および場所を、空隙の容積を最大にするように修正することができる。
【0038】
図3は、本発明の他の好ましい一実施形態を示しており、類似のコンポーネントを示すのに類似の参照番号を用いた。組織支持器具100は、S字形の架橋要素14によって接続された複数の円筒管12を含む。各円筒管12は、円筒管の端面から反対側の端面に向かって延びる、複数の軸方向スロット16を有する。スロット16の間には、軸方向ストラット18と連結部22の網状体が形成されている。個々の各ストラット18が、各端部に1つ、応力/ひずみ集中化機構(feature)として働く1対の延性ヒンジ20を通じて、構造の他の部分に連結されている。各延性ヒンジ20は、弧状表面28と凹状切欠き表面29の間に形成されている。
【0039】
ストラット18の中立軸に沿って、少なくとも1つ、より好ましくは一連の貫通開口部24’が、レーザ・ドリルまたは当業者に公知の任意の他の手段によって間隔をあけて形成されている。同様に、少なくとも1つ、好ましくは一連の貫通開口部26’が、連結部22内の選択した場所に形成されている。ストラット18および連結部22の両方で貫通開口部24’および26’を使用することが好ましいが、ストラットおよび連結部の一方だけに貫通開口部を形成できることを、当業者には明らかにすべきである。図示した実施形態では、ストラット18内の貫通開口部24’が概ね長方形で、連結部22内の貫通開口部26’が多角形である。ただし、本発明の範囲から逸脱することなく、任意の幾何学形状または構成の貫通開口部を当然使用でき、貫通開口部24、24’の形を、貫通開口部26、26’の形と同じまたは異なるものにできることを、当業者には明らかにすべきである。詳細に前述したように、貫通開口部24’、26’には、組織支持器具100を展開させる管腔に搬送するための、薬剤、最も好ましくは有益な薬剤を装填することができる。
【0040】
前述の比較的大きい保護された貫通開口部24、24’、26、26’により、本発明の拡張可能な医療器具が、例えば、蛋白質/酵素、抗体、アンチセンスのオリゴヌクレオチド(antisense oligonucleotides)、リボザイム、遺伝子/ベクター構造物、細胞(これだけに限るものではないが、患者自身の内皮細胞の培養物を含む)など、より内的な大分子あるいは遺伝子または細胞性薬剤を有する薬剤を搬送するのに特に適したものになる。これらのタイプの薬剤の多くは、生分解性または脆弱性であり、貯蔵可能期間が非常に短いか、または貯蔵可能期間がなく、使用時に調製しなければならず、あるいは他のいくつかの理由から、ステントなどの搬送用器具に、製造時に事前に装填することができない。本発明の拡張可能な器具の大きい貫通開口部は、使用時にこのような薬剤を装填するのを容易にし、搬送および埋込みの際に薬剤が磨耗し押し出されるのを防ぐために、保護された領域または受容部を形成する。
【0041】
開口部の使用により送出することができる有益な薬剤の量は、同じステントに対する適用範囲の比率で比較した場合、5ミクロンのコーティング量に対して約3〜10倍大きいものである。より大きな有益な薬剤の容量がいくつかの利点を提供することになる。より大きな容量は各々独立した放出プロファイル(profiles)と共に、薬剤を送出するために改善された効果によって、複数の薬剤を組み合わせ(multi-drug combinations)て送出することを可能にする。さらに、より大きな容量は即効性のない薬を大量に提供し、かつ内皮の層の薬効を抑制して治療するようにして、薬の不適当な副作用のない臨床の効能を達成するように使用することを可能にする。
【0042】
貫通した開口部は有益な薬剤の混合物を運ぶ、露出した血管壁表面エリアを減少させる。有益な薬剤開口部を備えた典型的な器具に関して、コートされた(coated)ステント表面との比較により露出は、約6:1から8:1の範囲に減少することになる。送出された有益な薬剤の量を増加させるとともに、薬剤を放出するための放出動力学のコントロールを改善する一方、炎症をもたらすポリマー・キャリアーおよび他の薬剤が血管壁組織に露出する状態を劇的に縮小する。
【0043】
図4は、複数の開口部24’を有する1対の延性ヒンジ20の間に配置された器具100のストラット18のうちの1つの拡大図を示す。図5は、図4に示す開口部24’の1つの断面を示す。図6は、有益な薬剤36をストラット18の貫通開口部24’に装填したときの同じ断面を示す。図7に模式的に示すように、貫通開口部24’および/また26’に有益な薬剤36を装填した後、任意で、ステントの外部表面全体を有益な薬剤38の薄い層でコーティングすることができ、この有益な薬剤38は、有益な薬剤36と同じまたは異なるものにすることができる。さらに、本発明の他の変形した形態は、図8に示すように、ステントの外向き表面を第1の有益な薬剤38でコーティングし、ステントの内向き表面を異なる有益な薬剤39でコーティングするものである。ステントの内向き表面は、少なくとも、拡張後に内腔経路を形成するステント表面によって画定される。ステントの外向き表面は、少なくとも、拡張後に管腔の内壁に接触してそれを直接的に支持するステント表面によって画定される。内部の表面上においてコーティングされた有益な薬剤39は有益な薬剤36が血管のルーメンへ進み、かつ血液循環において押し流されるのを防ぐバリア層になる。
【0044】
図9は、個別の層50の開口部24に1つまたは複数の有益な薬剤が装填された状態を示す開口部24の拡大断面図である。そのような複数の層を生成する1つの方法は、開口部へ有益な薬剤、ポリマー・キャリアーおよび溶剤を含む溶液を与え、キャリアーにおいて有益な薬剤の薄い固体層を作成するために溶剤を蒸発させる方法が挙げられる。また、この方法のほか、有益な薬剤を送出する他の方法も層を作成するために使用することができる。層を作成する他の方法によれば、薬剤がキャリアーために必要がなく、器具の構造上実行可能ならば、有益な薬剤は開口部に単独で装填されるかもしれない。その後、各開口部が部分的にあるいは完全に満たされるまで、上述のプロセスが繰り返えされる。
【0045】
典型的な実施形態では、開口部24の深さの合計が約125ミクロンから約140ミクロンであり、典型的な層の厚さは約2ミクロンから約50ミクロンであり、好ましくは約12ミクロンである。典型的な各層は、表面コーティングを施したステントの2倍の厚さを有する。典型的な開口部には、有益な薬剤の厚さの合計が典型的な表面コーティングに比べて約25〜28倍の厚さを有する、少なくとも2つ、好ましくは約10〜12の層が形成されることが好ましい。本発明の好ましい実施形態の1つによると、開口部は、少なくとも、0.0032mm2(5×10−6平方インチ)、好ましくは、0.0045mm2(少なくとも7×10−6平方インチ)の面積を有する。
【0046】
各層が独立して形成されるので、化学成分および薬物動態学の特性(pharmacokinetic properties)の各々を各層に与えることができる。上述の多数層の有用な配列は、以下に記述するように形成される。多数層の各々は、1つまたは複数の同一または異なる特性の薬剤を各層ごとに含んでもよい。層は固体でもよく、あるいは多孔性(porous)のものでもよく、他の薬剤あるいは補形薬(excipients)で充填してもよい。
【0047】
図9は、最も単純な層として、均一で、有益な薬剤の分布が同質となっている同一の層50を含む層の配置を示す図である。もしキャリアー・ポリマーが生物分解性の材料で構成されれば、キャリアーを含んでいる有益な薬剤の浸食が開口部の両方の面で同時に生じることになり、また、有益な薬剤はキャリアーの浸食割合に対応する時間に対してほぼ線形の割合で放出される。この線形あるいは一定の放出割合は0(ゼロ)オーダー送出プロファイルと呼ばれる(zero order delivery profile)。生物分解性のキャリアーを組み合わせて使用することは、ステントの半径方向の最外表面と器壁の組織との間に仮想的な空間(virtual spaces)あるいは、空孔(voids)を生成することなく所要の時間内に有益な薬剤を100%放出することを保証する。貫通した開口部内において、生物分解性の物質が削除される場合、開口部はストラットで覆われた器壁と血液循環との間で循環経路(communication)を提供する。そのような循環経路は器具による治療を加速し、血管壁に接するステントをより徹底的にロックする細胞および細胞外の構成要素の内へ適用されることを許容する。いくつかの貫通した開口部は有益な薬剤を装填し、他の貫通した開口部は装填されないまま残されるかもしれない。薬剤を装填する開口部が有益な薬剤を分配する一方で、薬剤の装填されていない穴(unloaded holes)は、適所へステントをロックするために、細胞および細胞外の構成要素の内へ拡張して直接的に病巣へ働きかけをすることができる。
【0048】
表面コーティングを施したステントに貫通した開口部を形成して使用する完全な浸食(erosion)の利点は、ステントによる治療に新しい可能性を開くものである。例えば、持続的及び発作的である心房細動、持続的な心室頻脈、リエントラント(reentrant)と転位(ectopic)を含む極度の心室頻脈、膿漏頻脈(sinus tachycardia)などの心臓の不整脈(cardiac arrhythmias)の治療では、肺静脈やその他の重要な部位において、瘢痕組織の形成で望まない電気信号が伝播することに対するバリアを作るために、マイクロ波や、一般的に無線周波数アブレーション(radio-frequency ablation)と呼ばれる様々なエネルギー源を使用して組織をアブレート(ablate)するための数多くの技術が試みられている。これらの技術は、正確にコントロールすることが困難であることが立証されている。永久的に貫通した開口部、生物分解性キャリアー及びここで説明した関連技術を利用した治療に基づくステントは、本質的に細胞毒素の除去をする薬剤のいずれもが、血管壁の組織に接して永久的に抜き取られないことを保証する一方で、心房細動の治療のために特定のエリアに対して、化学的作用によるアブレーション用の薬剤を明確かつ正確に送出することができる。
【0049】
他方では、特別の治療に対する目標が長期的な結果を提供することである場合、開口部に装填される有益な薬剤は表面コーティングを施した器具に対対して等しく劇的な長所がある。この場合、有益な薬剤および非生物分解性のキャリアーを含む構成は、好ましくは、以下に説明するような拡散障壁層と結合して、貫通した開口部に装填される。心臓の不整脈の例を継続するために、肺静脈(pulmonary veins)あるいは他の重要な部位の心門(ostia)の近くに、長期的に薬を導入することは望ましいかもしれない。非生物分解性キャリアー・マトリックスを介した有益な薬剤の過渡的な拡散挙動は、以下の式により示されるFick’sの第2法則により一般に記述することができる。
【0050】
【数1】
【0051】
ここで、Cは横断面xにおける有益な薬剤の濃度であり、xは表面コーティングの厚さ、あるいは貫通した開口部の深さであり、Dは拡散係数でありそしてtは時間である。バリア層のある貫通した開口部に関する偏微分方程式の解法は、非線形化された予測積分(probability integral)あるいはガウスの誤差関数(Gaussian Error Function)の形式を有することになり、関数の引数としては、数2式で示される項を含む。
【0052】
【数2】
【0053】
与えられた治療のレベルを保持するための時間間隔を、表面コーティングの場合と貫通した開口部の場合とで比較するために、コーティングの最も内側と開口部とでそれぞれ等しい濃度を達成するのに要求される時間を比較するためにFick’sの第2法則を使用することができる。すなわち、xとtの値は、誤差関数の引数の関係と等しく、数3式で与えられる。
【0054】
【数3】
【0055】
比較可能な濃度を達成する拡散比率(ratio of diffusion times)は、このように、深さの比率の2乗として変化する。典型的なコーティング厚さが約5ミクロンである一方、典型的な開口部深さは約140ミクロンであり、この比率の2乗は784となる。このことは、貫通した開口部に関する治療の有効的な持続は、同じ構成をとる表面コーティングの場合に比べて貫通した開口部の場合、潜在的に3桁のオーダーで大きいことを意味する。薬剤の放出プロファイル(release profiles)の固有の非線形性は、貫通した開口部の場合、以下に説明するように貫通した開口部内の有益な薬剤の濃度を変えることによって、部分的に補償することができるが、薄い表面コーティングの場合はできない。有益な薬剤の送出を持続することに関する大きな利点に加えて、貫通した開口部は、有益な薬剤の送出量として3〜10倍の量の薬剤を持続した治療において患部に供給することを可能にするという、決定的な利点があることは想起される。上述の拡散例は、固体状態の輸送メカニズムのより広い特性である、深さと拡散時間の一般的な関係を示すものである。
拡張した器具の表面に面するルーメン(lumen)として知られている放射状の方向の最も内側である、内向きの表面に放出される有益な薬剤は、急速に血流によって目標とされたエリアから運び去られるかもしれない。そのような状況では装填した薬剤の合計の半分まで、血流によって運び去られることにより治療の効果は得られないことになる。恐らく、これは図9の貫通した開口部の器具と同様にすべての表面コーティングを施したステントにあてはまることであろう。
【0056】
図10は、層(layer)の内側表面が、円筒状の器具の内向きに面する表面(inwardly facing surface)54と略共同平面(co-planar)であるような貫通開口部24に、第1層52が装填される器具を示す。第1層52は、血管ルーメン(vessel lumen)に向かう内向きに面する方向に次の層の生物分解(biodegradation)を妨げたり、または遅らせたり、および/または、その方向に有益な薬剤が拡散することを妨げたり、または遅らせたりするバリア部材と呼ばれる部材を有する。その後、他の層の生物分解あるいは有益な薬剤の拡散は、目標とされた血管壁組織と接触する器具の外向きに面する表面56の方向にのみ進むことができる。バリア層52は、さらに有益な薬剤の内側の層の水和(hydration)を防ぎ、かつそのような層が吸湿性の材料から作られる場合、内側の層の膨潤を防ぐために機能することができる。バリア層52は更に、他の層における生物分解性の部材より遥かに遅い速さで分解する生物分解性の部材を含むことも可能であり、その結果、開口部内は完全にクリアされる。従って、貫通した開口部の最も内向きに面する表面にバリア層52を設けることは、血管壁内の目標アリアに対して有益な薬剤の全てを送出することを保証するものである。開口部の無い表面コーティングを施した内向きの面にバリア層を設けたとしても、同一の効果を得ることはできない点に注目するべきである。そのようなコーティングにおいては有益な薬剤が、外部表面上の目標エリアに金属ステントを介して移動することができないために、治療の効果も無く、器具の内径において閉じ込められたまま残ることになる。
【0057】
バリア層は更に精巧な方法で有益な薬剤の放出動力学をコントロールするために使用することができる。前もって決められた分解時間(pre-determined degradation time)を伴うバリア層52は、両面から急速な生物分解に対する下地層(underlying layers)を露出することにより、予め決められた時間において有益な薬剤による治療を確実に終了させるために使用することができる。バリア層を分離した有益な薬剤は、体系的に適用される作用物(agent)によって活性化されるために特定される。そのように体系的に適用される作用物は、バリア層の孔隙率( porosity)を変更し、および/またはバリア層あるいは有益な薬剤のキャリア容積の生物分解の割合を変更することができる。各場合において、有益な薬剤の放出は、体系的に適用される作用物の送出において、内科的により活性化され得るものである。内科的により活性化される治療法の更なる一実施形態は、ミクロの泡の中で、カプセルに入れられ、器具の開口部に装填された有益な薬剤を利用するものである。貯蔵部(reservoirs)の外形に面する表面に対して拡散するために有益な薬剤を放出して、所要の時間に泡を崩壊させるために身体の外部からの超音波のエネルギーを負荷する方法が使用できるかもしれない。これらの活性化技術は、選択可能な時間で活発化させ、および/または終了させる所要の薬剤放出プロファイルを達成するために、ここに記述された放出動力学コントロール技術と共に使用することができる。
【0058】
図11Aは、生物分解性のキャリアー材において、有益な薬剤の層50が貫通した開口部に設けられている層の配置を示す図であり、有益な薬剤の層50は、活性な薬剤の装填無しで、生物分解性のキャリアー材の層58と単独で交互に配置され、そして、バリア層52は内向きの面の表面に設けられている。図11Bの放出動力学の特性を示すグラフにおいて示されるように、そのような配置は、段階的あるいは脈動的に変化する3つのプログラム可能な送出プロファイルを示す。活性的な薬剤のないキャリアー材層の使用は、増強された効能ために細胞(cell)の生化学のプロセスを伴う薬物の放出と同期する可能性を与える。
【0059】
あるいは、図12において示されるように、異なる層は、異なる時間で異なる有益な薬剤を放出するための能力が生成されている、異なる有益な薬剤により構成され得る。例えば、図12において、反血栓症(anti-thrombotic)の薬剤の層60は、ステントの内向きに面する表面に配置することができ、この層に続きバリア層52と、抗増殖性物質の層(antiproliferatives )62および抗炎症性の層(antiinflamatories) 64の各層が交互に配置される。この構成は、血管壁に対する抗炎症性(antiinflammatory)の薬剤についてプログラムされた特性の変化を伴いつつ、ちりばめられた抗増殖性物質の緩やかな放出を同時に提供する一方で、血流に抗血栓症(anti-thrombotic)の薬剤の初期的な放出を提供することができる。これらの層の構成は、身体の様々な自然治癒プロセスで調整された特定の時間で送出した薬剤の起爆(bursts)を達成するように設計することができる。
【0060】
更なる構成例は図13に示される。ここで、同一の有益な薬剤の濃度は、任意の形状の放出プロファイルを生成する能力を作り出すために層ごとに変えられる。外向きに面する面56からの距離の増加に伴い、層66内で薬剤の濃度を次第に増加させることは、例えば、放出レートを次第に増加させる放出プロファイルを生成することになり、そのようなプロファイルは薄い表面コーティングを施すことで生成することは不可能である。
【0061】
有益な薬剤放出動力学をコントロールする他の一般的な方法は、時間の関数として薬剤溶出源(drug elution sources)の表面積を変更することにより、有益な薬剤の流出を変更することである。これは、瞬間的に発生する分子の流れが表面積に対して比例する関係を示す、数4式のFickの第1法則に従うものである。
【0062】
【数4】
【0063】
ここで、δN/δtは、単位時間あたりの分子の数であり、Aは瞬間的に溶出する薬剤の表面積であり、Dは拡散係数であり、また、Cは濃度である。表面コーティングされたステントにおいて、薬剤が溶出する表面積は単にステント自体の表面積である。この表面積は固定的なものなので、表面コーティングを施した器具に対して、放出動力学をコントロールするこの方法は利用できない。しかしながら、貫通した開口部は、時間の関数として表面積を変化させるためのいくつかの可能性を提供する。
図14の実施形態では、有益な薬剤が、微小球状体(ミクロスフェア:microspheres)、粒子あるいはその他同種のものの形により開口部24に設けられている。これらの粒子を含んでいる個々の層70を生成することができ、更に、粒子のサイズは、各層ごとに変えることができる。与えられた層のボリュームに関しては、より小さな粒子サイズが、その層内の粒子表面積の合計を増加させ、各層ごとに有益な薬剤の表面積の合計を変化させる効果を有する。薬剤の分子の流出が表面積に比例するので、薬剤の流出の合計は粒子サイズの変化によって調整され、ネット効果(net effect)は、層内において変化する粒子サイズの変化により放出動力学を制御する。
【0064】
時間の関数として薬剤が溶出する表面積を変えるためのもう一つの方法は、開口部の軸に沿って薬を運ぶ要素の形状または横断面の面積を変更することである。図15Aが示す開口部70は、ステント自体の部材が円錐形にカットされている。上述の方法で説明したように、開口部70は、層内に有益な薬剤72を充填することができる。この実施形態では、有益な薬剤72が循環する血流へ進むのを防ぐために、バリア層74が、開口部70の内向きの面に提供される。この例では、薬剤の溶出する表面積Atは、生物分解性のキャリアー部材が浸蝕するように連続的に縮小し(図15Aから図15Bまで)し、図15Cのような溶出パターンを与える。
【0065】
図16Aは、単純な円筒状の貫通開口部80に有益な薬剤の円錐82を逆に挿入した状態を示す。ここで、貫通した開口部80内で薬剤が充填されない残りの部分は、分解レートのより遅い生物分解性の物質84あるいは非生物分解性の物質により円錐の後方(back)が充填され、貫通開口部の内向きの面はバリア層86でシールされる。この技術は、先に説明した例に対して反対の特性を提供することになる。薬剤の溶出する表面積Atは図16Aと図16Bとの間で時間とともに連続的に増加し、図16Cのような溶出パターンを与える。
【0066】
図15Aの開口部70の横断面の変化と図16Aの非生物分解性の後方充填(backfilling)技術は、所要の放出プロファイル(desired release profiles)を達成するために、図9〜図14の階層状の薬剤に関する実施形態のうちのいずれかと結合するかもしれない。例えば、図15Aの実施形態は、より正確に所要のプロファイルを放出カーブに合わせるために、図13の薬剤濃度層の変化を用いることができるかもしれない。
【0067】
特別な形状に対する有益な薬剤プラグ(plug)82を作り、貫通した開口部に挿入し、そして、第2の部材で後方充填するプロセスは、より複雑な放出動力学による薬剤の放出を可能にする。図17Aは、球状の有益な薬剤プラグ92が挿入された、貫通した開口部90を示す。球体による生物分解(biodegradation)は、図17Bにあるように、深さのシヌソイド関数(sinusoidal function)により横断面の表面積は変化し、時間に関する概略的なシヌソイド関数である流出密度(flux density)を生成する。他のプロファイルによるその他の結果は当然に可能性のあるものであるが、一定の面積を薄く表面コーティングするステントでは、これらの複雑なプロファイル特性を生成することができない。
【0068】
図18A〜図18Cの代替的な実施形態は、図16Cの増加する薬剤解放プロファイルを達成するために開口96を有するバリア層52’を使用する。図18Aに示すように、開口部24は内側のバリア層52と図10の実施形態における多数の有益な薬剤層50を提供し、付加的な外側のバリア層52’には、血管壁に薬剤を送出するために、小さな穴96が設けられている。図18B及び図18Cに示すように、有益な薬剤を含んでいる層50は時間とともに半球のパターンに変化(degrade)し、その結果、薬剤を送出するための表面積が増加し、薬剤の放出プロファイルが増加する。
【0069】
図19は、組織支持器具内の開口部に有益な薬剤の円筒状の層が充填されている状態を示す代替的な実施形態を例示する。図19の器具を形成する一つの方法によると、器具の全体は有益な薬剤に続く層100、102、104、106で覆われる。器具の内側の表面54と外表面56とは開口部の中の有益な薬剤の円筒状の層を残して、これら表面上の有益な薬剤を除去するために取り除かれる。この実施形態においては、コーティング層が配された後、組織支持器具の外表面56と内表面54の間の連絡を許容する中央の開口部が残る。
【0070】
図19の実施形態においては、円筒状の層は連続して侵食されることになる。これは、異なる有益な薬剤の脈動送出(pulsatile delivery)、有益な薬剤の異なる濃度の送出、あるいは、同一薬剤の送出のために使用することが可能である。図19に示すように、円筒状の層100、102、104、106の端部が露出される。これは露出した層の侵食の間に、下地層(underlying layers)の低いレベルの侵食に起因するものである。代わりに、この低いレベルの連続的な侵食を防ぐために、バリア層で円筒状の層の端部が覆われるかもしれない。円筒状の層の侵食割合は、層の表面を形成する輪郭によって更に制御できるかもしれない。例えば、均一な表面積、すなわち半径方向の内側の層と外側の層の間で均一な侵食割合(uniform erosion rate)を提供するために、その半径方向の内側の層には、リブや星型のパターン(ribbed or star-shaped pattern )が設けられるかもしれない。侵食割合をコントロールするための補足的な変数(additional variable)を提供するために、層の表面の輪郭が他の実施形態において使用されてもよい。
【0071】
本発明について、その好ましい実施形態に即して詳細に説明したが、本発明から逸脱することなく、様々な変更および修正を実施でき、同等物を採用できることが、当業者には明らかであろう。
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、組織を支持する医療器具に関するもので、より詳細には、臓器を支持して開存性を維持するために、生きている動物またはヒトの体腔内に埋め込まれ、有益な薬剤を介入部位に搬送でき、体腔内で拡張可能であり、体腔内に埋め込む器具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
(関連技術の概要)
これまで、身体通路の開存性を維持するために身体通路内に埋め込まれる、永久的または生分解性の器具が開発されてきた。これらの器具は、通常、経皮的に導入され、所望の場所に位置決めされるまで経腔輸送される。次いで、これらの器具は、機械的に、例えば装置内側に位置決めされたマンドレル(mandrel)またはバルーン(balloon)の拡張によって拡張し、あるいは体内で作動して蓄積したエネルギーを放出することによって単独で拡張する。ステント(stents)と呼ばれるこれらの器具は、管腔内で拡張した後、体組織内でカプセル化し、永久的に埋め込まれたまま残る。
【0003】
公知のステント設計には、単繊維巻線ステント(米国特許第4,969,458号)、溶接金属ケージ(米国特許第4,733,665号、4,776,337号)が含まれ、最も有名なものには、周囲に軸方向のスロットが形成された薄壁金属円筒(米国特許4,733,665号、4,739,762号、4,776,337号)がある。ステントで使用するための公知の構成材料には、ポリマー、有機織物、および生体適合性金属、例えば、ステンレス鋼、金、銀、タンタル、チタン、ニチノール(Nitinol)などの形状記憶合金などが含まれる。
【0004】
米国特許第4,733,665号、4,739,762号、および4,776,337号は、軸方向スロットによって部材を半径方向の外側に拡張させて身体通路に接触させることのできる、薄壁管状部材の形態の拡張・変形可能な管腔内血管グラフトを開示している。挿入後、管状部材は、その弾性限界を超えて機械的に拡張して、体内で永久的に固定される。米国特許第5,545,210号は、前述のものと幾何学的に同様の、ニッケル・チタン形状記憶合金(「ニチノール(Nitinol)」)で構築された薄壁管状ステントを開示しており、この薄壁管状ステントは、弾性限度(elastaic limit)を超えることなく、身体内に永久に固定することができる。前述のすべてのステントは、非常に重要な設計特性を共有する。すなわち、各設計において、ステント拡張時に永久変形するフィーチャ(feature)が角柱状である、すなわちこれらのフィーチャの断面積が一定のままか、またはその活動長さ全体に沿って徐々に変化する。角柱状の構造は、永久変形が開始する前に大きな弾性変形を与える理想的な構造として適しており、ステントの構成要素の安定性、送出(delivery)カテーテルに関するステントの確保と迅速な操作性(radiopacity)を含む重要な特性を達成する部分最適デバイス(sub-optimal device)を導出する。
【0005】
米国特許第6,241,762号は、先に説明したステントの性能の足りない部分を改善する角柱状でないステントの設計を開示するものであり、この内容の全体は参考文献として組み込まれます。加えて、この特許の好ましい実施形態は、大きく変形しない支柱(strut)とリンク要素を提供するものであり、支柱あるいはリンク要素、若しくは装置全体の機械的特性を危険にさらすことがないような複数の穴を含むことができるものである。さらに、これらの穴は、装置を注入する位置に様々な有益な薬剤を送るために広く保護された貯蔵部分として役立たせることが可能である。
【0006】
有益な薬剤の局所的な送出における多くの問題のうち、最も重要なもののうちの1つは再狭窄である。再狭窄は血管形成及びステントの注入のような管の介在に伴って発生し得る主要な合併症である。簡単に定義すれば、再狭窄とは、瘢痕組織の形成によって血管腔の直径を縮小させ、最終的には管腔の再閉塞をまねくことのある、創傷治癒プロセスである。改善された外科技術、装置、および医薬品製剤の導入にもかかわらず、依然として、全体的な再狭窄率が、血管形成処置後6〜12か月以内に25%〜50%の範囲にあると報告されている。この問題を修正するために、追加的な血管再生処置がしばしば必要となり、その結果患者への外傷および危険が増大する。
【0007】
再狭窄の問題に対処するために開発が進められているいくつかの技術が、傷害部位への放射線照射、ならびに、外傷を負った血管腔に様々な有益な薬剤または医薬品製剤を搬送するためのステントの使用である。後者の場合、ステントは、しばしば有益な薬剤(たいていは薬物含浸ポリマー)で表面コーティングされ、血管形成部位に埋め込まれる。あるいは、外部の薬物含浸ポリマー・シースを、ステントを覆って取り付け、血管内で併せて展開させる。
【0008】
放射線療法による結果は急激なものであり一時的には有望であるが、長期的な結果では、先に注入されたステント、いわゆる”in-stent”内において生じる再狭窄を減少させることにとどまる。放射線療法は損傷中(de novo lesions)の再狭窄を防ぐことには有効ではなかった。動脈や、主要な器官壁(vessel wall)へステントの支柱を挿入することは、血管を封鎖する危険を有し、人間の臨床試験においてポリマー・サックは危険であることも証明されている。死亡に至る心臓発作あるいは繰り返し血管形成か冠状動脈バイパス手術の必要性を含んでいる心臓疾患に関して、サックで覆われたステントの臨床試験は承諾しがたいほど高いレベルの有害な作用をもたらすため(Major Adverse Cardiac Events:MACE)、早期に終了した。
【0009】
様々な有益な薬剤の表面のコーティングを有する従来のステントは、対照的に、早期にその結果を見込むことができるものとして開示されている。例えば、米国特許第5,716,981号は、ポリマー・キャリアーおよびパクリタキセル化合物(paclitaxel:癌の腫瘍の処理の中で一般に使用される、有名な合成物)を含む構成で表面が覆われるステントを開示する。その特許は、被覆自体の所望の特性の他、スプレーと薬浴のようにステント表面を覆うための具体的な方法を提供するものであり、その被覆は、ステントを滑らかに、平らに覆うべきであること、均一性と予測が可能であること、血管造影を妨げる要因の放出を長引かせることを可能にする。しかしながら、表面のコーティングは、有益な薬剤の放出動力学(release Kinetics)に対する実際の制御をほとんど提供することができない。これらのコーティングは、典型的には5〜8ミクロンの非常に薄いものが必要である。ステントの表面積は比較的大きいものであり、これは周囲の組織に有益な薬剤の全体を放出するための非常に短い拡散パスを有することになる。
【0010】
表面のコーティングの厚さを増加させることは、薬の放出をコントロールする能力を含む薬剤の放出動力学を改善する有益な効果があり、また、表面のコーティングの厚さの増加を許容することは、装荷する薬剤を増加させることになる。しかしながら、増加したコーティング厚さは、ステントの全面的な厚さの増加に帰着する。このことは、注入時において、血管壁が損傷することを含む多くの理由のために不適当であり、注入後においては、器官の横断面を縮小させることになり、拡張と注入の間においては、機械的な故障あるいは損傷に増加させるという問題がある。コーティング厚さは、有益な薬剤の放出動力学(release kinetics)に影響するいくつかの要因のうちの1つであり、また、厚さに対する限定は、放出レート(release rates)、保持(durations)、また同様の場合に再現でいる範囲を制限する。
【0011】
部分最適の放出プロファイル(sub-optimal release profiles)に加えて、表面のコーティングを施したステントに関するさらなる問題もある。器具のコーティングにおいて典型的に使用される固定マトリッス・ポリマー・キャリアー(fixed matrix polymer carriers)は、コーティングでの有益な薬剤のおよそ30%を無期限に保持する。これらの有益な薬剤はしばしば、高い割合で細胞毒素であるので、慢性の炎症、血栓症および不完全な血管壁の治療のような副急性及び慢性疾患の問題が生じ得る。さらに、キャリアー・ポリマーはそれら自身、多くの場合、血管壁に対する組織にとても刺激を与えるものである。他方では、ステント表面で生物分解性のポリマー・キャリアーを使用することは、「仮想空間」の生成、すなわち、ステントと血管壁の組織の間の空間を生成することに帰着し、ポリマー・キャリアーが分解した後に、ステントと隣接する組織の間でステントに差動的な動きを許容する。この場合生じる得る問題としては、微細な摩滅および炎症、ステントの横滑り(drift)および血管壁が破損(failure to reendothelialize)することを含んでいる。
【0012】
他の重要な問題は、ステントの拡張が積層ポリマー・コーティングに負荷を与え、塑性変形あるいは、コーティングの破損をもたらすことであり、このことは、薬剤の放出動力学等に悪影響を及ぼすことになる。さらに、アテローム性動脈硬化の血管中にそのような上塗り(コーティング)を施したステントの拡張は、ポリマー・コーティング上の円周方向にせん断力を発生させることになり、この力はステントの表面の下層からコーティングを分離するために作用し得る。そのような分離は、血管の閉塞をもたらすコーティング破片の塞栓血症を含む不運な効果を再発させることになるかもしれない。
【0013】
(発明の概要)
従来技術の欠点に鑑みて、本発明は、ステントの有効壁厚を増加せず、ステントの機械的拡張特性に悪影響を及ぼさずに、比較的体積の大きい有益な薬剤を、血管腔内の外傷を負った部位に搬送できるステントを提供することが有利な点である。
【0014】
さらに、有益な薬剤リザーバ(reservoir)の利用可能性(available depth)も著しく増加させるステントを提供することが有利な点である。
【0015】
さらに、種々の有益な薬剤あるいはその組み合わせを、深いリザーバに装填し、薬剤の放出動力学を時間に関して制御することを提供することが利点である。
【0016】
本発明の一態様によれば、拡張可能な医療器具は、略円筒形で、拡張可能な医療用のデバイスと、前記医療用のデバイス内における複数の開口部であって、支柱の半径方向の最も外側の面から、当該支柱の半径方向の最も内側の面において略一定の横断面を有し、前記支柱を少なくとも部分的に貫通する開口部と、前記医療用のデバイスの第1側面から活性な有益薬剤の送出を実質的に防ぐ一方で、当該医療用のデバイスの第2側面から活性な有益薬剤が送出されることを許容するバリア層とを備える。
【0017】
本発明の一態様によれば、拡張可能な医療器具は、複数の支柱を有する拡張可能な円筒形状のデバイスと、前記複数の支柱における貫通した複数の開口部で、各開口部は半径方向の内周端と、外周端を有する開口部と、複数の分解可能な有益な薬剤の層において、前記開口部に提供される有益な薬剤と、前記開口部の半径方向の内周端に提供されるバリア層で、当該バリア層は前記有益な薬剤の層より遅く分解し、当該開口部からの流出を防止するバリア層とを備える。
【0018】
本発明の一態様によれば、拡張可能な医療器具は、複数の支柱が形成された略円筒形状の拡張可能な医療用のデバイス本体と、前記支柱内における複数の開口部と、前記開口部において形成される複数の有益な薬剤層とを備え、前記複数の有益な薬剤層は、第1放出プロファイルに従い薬剤を送出するために配置された第1活性薬剤と、第2放出プロファイルに従い薬剤を送出するために配置された第2活性薬剤とを含み、当該第1及び第2放出プロファイルは異なる。
【0019】
本発明の一態様によれば、拡張可能な医療器具は、複数の支柱が形成された略円筒形状の拡張可能な医療用のデバイス本体と、前記支柱内における複数の開口部と、前記開口部において形成される複数の有益な薬剤層とを備え、前記複数の有益な薬剤層は、蛋白質薬を含む。
【0020】
本発明の一態様によれば、拡張可能な医療器具を形成する方法であって、当該方法が、(a)複数開口部を有する複数の支柱が形成された略円筒形状の拡張可能な医療用のデバイス本体を形成する工程と、
(b)有益な薬剤、ポリマー・キャリアーおよび溶剤の溶液を作る工程と、
(c)前記溶液を前記開口部に与える工程と、
(d)前記有益な薬剤およびキャリアーの固体層を形成するために前記溶剤を蒸発させる工程と、
(e)前記(c)及び(d)の工程を繰り返す工程と
を備える。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1の好ましい実施形態による組織支持器具の斜視図である。
【図2】組織支持器具の一部分の拡大側面図である。
【図3】本発明の他の好ましい実施形態による組織支持器具の拡大側面図である。
【図4】図3に示すステントの一部分の拡大側面図である。
【図5】開口部の拡大断面図である。
【図6】有益な薬剤が装填された開口部の拡大断面図である。
【図7】ステントの開口部に装填された有益な薬剤と、有益な薬剤の薄いコーティングとを示す、開口部の拡大断面図である。
【図8】ステントの開口部に装填された有益な薬剤と、器具の異なる表面上の異なる有益な薬剤の薄いコーティングとを示す、開口部の拡大断面図である。
【図9】複数の層において供給される有益な薬剤を例示する開口部の拡大断面図である。
【図10】層内の開口部に装填されるバリア層(barrierlayer)と有益な薬剤を例示する開口部の拡大断面図である。
【図11A】有益な薬剤、生物分解性のキャリアー、および層内の開口部に装填されるバリア層を例示する開口部の拡大断面図である。
【図11B】図11Aの器具における放出動力学の特性を示す図である。
【図12】異なる有益な薬剤、キャリアー、および開口部に装填されるバリア層を例示する開口部の拡大断面図である。
【図13】異なる濃度の有益な薬剤が装填される開口部の拡大断面図である。
【図14】異なるサイズのミクロスフェア(microspheres)層の開口部に有益な薬剤が装填される開口部の拡大断面図である。
【図15A】開口部に有益な薬剤が装填されるテーパがつけられた開口部の拡大断面図である。
【図15B】有益な薬剤が外れた図15Aのテーパがつけられた開口部の拡大断面図である。
【図15C】図15Aと図15Bの放出動力学の特性を示す図である。
【図16A】所要の薬剤送出プロファイル(profile)を達成するために形成された開口部に薬剤が装填される開口部の拡大断面図である。
【図16B】部分的に有益な薬剤が外れた状態を示す図16Aの開口部の拡大断面図である。
【図16C】図16Aと図16Bの放出動力学の特性を示す図である。
【図17A】球形の開口部に有益な薬剤が装填される開口部の拡大断面図である。
【図17B】図17Aの放出動力学の特性を示す図である。
【図18A】所要の薬剤送出プロファイルを達成する、複数の有益な薬剤の層とバリア層を例示する開口部の拡大断面図である。
【図18B】薬剤の放出が始まる薬剤層の状態を示す図18Aの開口部の拡大断面図である。
【図18C】更に薬剤の放出が進んだ薬剤層の状態を示す図18Aの開口部の拡大断面図である。
【図19】複数の円柱状の有益な薬剤の層の開口部を例示する拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(好ましい実施形態の詳細な説明)
図1および図2を参照すると、本発明の好ましい一実施形態による組織支持器具が、参照番号10で示されている。組織支持器具10は、S字形の架橋要素14によって接続された複数の円筒管12を含む。架橋要素14は、脈管構造の曲がりくねった経路内を通過して展開部位に到達させるときには、組織支持器具を軸方向に曲げ、支持すべき管腔の曲率に合致させるのに必要なときには、装置を曲げる。各円筒管12は、円筒管の端面から反対側の端面に向かって延びる、複数の軸方向スロット16を備える。
【0023】
スロット16の間には、軸方向ストラット(strut:支柱)18と連結部22の網状体が形成されている。軸方向ストラット18と連結部22は、有益な薬剤を受け取り、送出するための開口部を提供する。以下に説明する図9から17において説明されるように、有益な薬剤は、時間に関する薬剤の放出動力学に対する制御を提供する層あるいは他の構成における開口部に装填される。
【0024】
個々の各ストラット18が、各端部に1つ、応力/ひずみ集中化機構(feature)として働く1対の縮小部分20を通じて、構造の他の部分に連結されることが好ましい。ストラットの縮小部分20は、円筒形構造中でヒンジとして機能する。応力/ひずみ集中化機構は、概ね延性材料の塑性変形範囲内に作用するように設計されるので、延性ヒンジ20と呼ばれる。延性ヒンジ20の詳細な構造に関しては、米国特許第6,241,762号において開示されているので、こちらを参照されたい。
【0025】
図面および記述に関しては、いずれの機構の幅も、円筒の円周方向の寸法として定義する。いずれの機構の長さも、円筒の軸方向寸法として定義する。いずれの機構の厚さも、円筒の壁厚として定義する。
【0026】
延性ヒンジ20が存在するので、組織支持器具の他のすべての機構(feature)の幅、あるいはそのそれぞれの矩形慣性モーメントの円周方向に配向する成分が増大し、その結果、これらの機構の強度および剛性が大きく増加する。最終結果として、弾性変形およびその後の塑性変形が始まり、延性ヒンジ20内に広がってから、装置の他の構造要素が著しく弾性変形する。組織支持器具10を拡張させるのに必要な力は、装置構造全体ではなく、延性ヒンジ20の幾何学形状に応じて決まるようになり、任意に、事実上いずれの材料の壁厚に関しても、ヒンジ幾何学形状を変更することによって小さい拡張力を指定することができる。ストラット18と連結部22の幅および厚さを増加させる能力は、薬剤を受ける開口部に関する付加的なエリアと深さを提供する。
【0027】
図1および図2の好ましい実施形態では、延性ヒンジ20の間の個々のストラット18の幅を、所与の直径、かつその直径周りに配置されるストラットの所与の数に関して、幾何学的に可能な最大幅まで増大させることが望ましい。ストラット幅に対する唯一の幾何学的な制限は、スロット16の実際的な最小幅が、レーザ加工のために、約0.0508mm(0.002インチ)になることである。ストラット18の横剛性が、ストラット幅の3乗で増加するので、ストラット幅の比較的小さい増加で、ストラット剛性が顕著に増加する。延性ヒンジ20を挿入し、ストラット幅を増大させると、最終的に、ストラット18がもはや柔軟性のある板バネとしては働かず、延性ヒンジ間の本質的に剛性の梁として働く。円筒形の組織支持器具10の径方向のすべての拡張または圧縮は、ヒンジ機構(features)20内の機械的なひずみによって調整され、非常に小さい全体的な径方向の拡張または圧縮で、ヒンジ内の降伏が始まる。
【0028】
図1および2において図示された延性ヒンジ20は、応力/ひずみ集中化機構として機能する好ましい構造の一例である。他の多くの応力/ひずみ集中化機構の構成も、例えば米国特許第6,241,762号に示され記載されるように、本発明で延性ヒンジとして使用することができる。応力/ひずみ集中化装置または延性ヒンジ20の幾何学的な詳細は、正確な機械的拡張特性を特定の用途に必要とされるように調整するために、大きく変更することができる。
【0029】
組織支持器具の構成は、延性ヒンジを含む図1において図示されているが、この内容は、ステントの開口部に有益な薬剤を含む設計上のバリエーションとして、米国特許出願番号(U. S. Provisional Patent Application Serial No.)60/314,360号(2001年8月20日出願)及び米国特許出願番号09/948、987号(2001年9月7日出願)により示されている。有益な薬剤開口部を組込む本発明も、他の既知のステントの設計と共に使用することができる。
【0030】
図1から4において示すように、ストラット18の中立軸に沿って、少なくとも1つ、より好ましくは一連の貫通開口部24が、レーザ・ドリルまたは当業者に公知の任意の他の手段によって間隔をあけて形成されている。同様に、少なくとも1つ、好ましくは一連の貫通開口部26が、連結部22内の選択した場所に形成されている。ストラット18および連結部22の両方で貫通開口部24および26を使用することが好ましいが、ストラットおよび連結部の一方だけに貫通開口部を形成できることは、当業者には明らかである。開口部は架橋要素14において形成してもよい。図1および2の実施形態において、開口部24、26は本質的に円形であり、組織支持器具10の幅方向に延びる円筒状の穴を形成する。ただし、本発明の範囲から逸脱することなく、任意の幾何学形状または構成の貫通開口部を当然使用できることは、当業者には明らかである。さらに、器具の厚さよりも浅い深さの開口部を使用するようにしてもよい。
【0031】
曲げの際のストラット18の挙動は、I字形梁またはトラスの挙動に類似している。ストラット18の外縁要素32は、I字形梁フランジに相当し、引張りおよび圧縮応力を支えており、ストラット18の内部要素34は、せん断力を支え、面の座屈および皺形成(wrinkling)を妨げるのに役立つ、I字形梁のウェブに相当する。大部分の曲げ荷重がストラット18の外縁要素32によって支えられるので、可能な限り多くの材料を中立軸から離して集中させると、ストラットの屈曲を妨げる最も有効な部分になる。結果として、ストラットの強度および剛性に悪影響を及ぼすことなく、貫通開口部24、26を形成するように、材料をストラットの軸に沿って取り除くことが賢明である。このようにして形成されるストラット18および連結部22がステント拡張時に本質的に剛性のままであるので、貫通開口部24、26も変形しない。
【0032】
ストラット18内の貫通開口部24、26は、内皮細胞の再生を促進することによって、介入部位の治癒を促進する。ストラット18に貫通開口部24、26を設けることによって、ストラットの断面が、前述のように、ストラットの強度および完全性を低下させることなく効果的に縮小される。結果として、内皮細胞の再生を起こさなければならない全体的な距離が、約0.0635〜0.0889mm(約0.0025〜0.0035インチ)まで短縮される。これは、従来のステントの厚さの約半分である。さらに、拡張可能な医療器具の挿入時に、内皮層由来の細胞が、貫通開口部24、26によって管腔内壁から擦り取られ、埋込み後にもそこに留まることがあると考えられている。したがって、このような内皮細胞が存在すると、管腔の治癒のための基盤が提供される。
【0033】
また、貫通開口部24、26には、組織支持器具10を展開させる管腔に搬送するための、薬剤、最も好ましくは有益な薬剤を装填することもできる。
【0034】
用語「薬剤」及びここで使用される「有益な薬剤」は、考えられる最も広義の解釈を意図しており、任意の治療用薬剤または薬物、ならびにバリア層またはキャリア層のような不活性な薬剤と同様に使用される。用語「薬物」および「治療用薬剤」は、交換可能に使用され、所望の効果、普通は有益な効果を生むように生物の体腔に搬送される、治療的に活性な任意の物質を指す。本発明は、特に、例えばパクリタキセルやラパマイシン、その相似体、あるいは、その派生物などの抗増殖性物質(抗再狭窄剤)、ならびに、例えばヘパリンなどの抗トロンビンなどの相似体、あるいは派生した化合物の搬送に良く適している。
【0035】
本発明において使用される有益な薬剤は、次のものに例示されるように、すべての主要治療分野にある治療用薬剤が含まれ、これだけに限るものではないが、抗豚増殖性腸炎剤(antiproliferatives),抗血栓症剤(antithrombins),血小板凝集阻害薬(antiplatelet)、抗脂質剤(antilipid)、抗炎症性(anti-inflammatory)、angiogenic、ビタミン(vitamins)、ACE抑制剤 (ACE inhibitors)、血管に作用する物質(vasoactive substances)、抗有糸分裂薬(antimitotics)、メテロ-プロテイナーゼ抑制剤 (metello-proteinase inhibitors)、酸化窒素ドナー(NO donors)、エストラジオール (estradiols)、抗硬化症薬剤(anti-sclerosing agents)等の単独、あるは、その組み合わせのものが含まれる。
【0036】
有益な薬剤は、更に、生物的な物質で薬剤と同様の効果を有する分子量レベルの物資を含むことができるが、以下の物資に限定されるものではない。ペプチド(peptides)、脂質( lipids)、蛋白質薬(protein drugs)、酵素(enzymes)、オリゴヌクレオチド(oligonucleotides)、リボザイム(ribozymes)、遺伝物質(genetic material)、クジラドリ(prions)、ウィルス(virus)、バクテリア(bacteria)、内皮細胞(endothelial cells)、単球/マクロファージあるいは血管の平滑筋細胞等のような真核細胞(eucaryotic cells)等が含まれる。
他の有益な薬剤を含めてもよく、微小球状体(microspheres)、微小気泡体(microbubbles)、リポソーム(liposomes)、放射性同位体(radioactive isotopes)、あるいは光か超音波のエネルギー、あるいは体系的に処理することができる循環分子によって活性化された薬剤のような物理的な薬剤に制限されるものではない。
【0037】
図1および図2に示す本発明の実施形態は、ストラットおよび連結部の貫通開口部内の有益な薬剤の展開を最適化するように、有限要素解析および他の技術を用いてさらに改良することができる。基本的には、ストラット18の比較的高い強度および剛度を延性ヒンジ20に関して維持しながら、貫通開口部24、26の形状および場所を、空隙の容積を最大にするように修正することができる。
【0038】
図3は、本発明の他の好ましい一実施形態を示しており、類似のコンポーネントを示すのに類似の参照番号を用いた。組織支持器具100は、S字形の架橋要素14によって接続された複数の円筒管12を含む。各円筒管12は、円筒管の端面から反対側の端面に向かって延びる、複数の軸方向スロット16を有する。スロット16の間には、軸方向ストラット18と連結部22の網状体が形成されている。個々の各ストラット18が、各端部に1つ、応力/ひずみ集中化機構(feature)として働く1対の延性ヒンジ20を通じて、構造の他の部分に連結されている。各延性ヒンジ20は、弧状表面28と凹状切欠き表面29の間に形成されている。
【0039】
ストラット18の中立軸に沿って、少なくとも1つ、より好ましくは一連の貫通開口部24’が、レーザ・ドリルまたは当業者に公知の任意の他の手段によって間隔をあけて形成されている。同様に、少なくとも1つ、好ましくは一連の貫通開口部26’が、連結部22内の選択した場所に形成されている。ストラット18および連結部22の両方で貫通開口部24’および26’を使用することが好ましいが、ストラットおよび連結部の一方だけに貫通開口部を形成できることを、当業者には明らかにすべきである。図示した実施形態では、ストラット18内の貫通開口部24’が概ね長方形で、連結部22内の貫通開口部26’が多角形である。ただし、本発明の範囲から逸脱することなく、任意の幾何学形状または構成の貫通開口部を当然使用でき、貫通開口部24、24’の形を、貫通開口部26、26’の形と同じまたは異なるものにできることを、当業者には明らかにすべきである。詳細に前述したように、貫通開口部24’、26’には、組織支持器具100を展開させる管腔に搬送するための、薬剤、最も好ましくは有益な薬剤を装填することができる。
【0040】
前述の比較的大きい保護された貫通開口部24、24’、26、26’により、本発明の拡張可能な医療器具が、例えば、蛋白質/酵素、抗体、アンチセンスのオリゴヌクレオチド(antisense oligonucleotides)、リボザイム、遺伝子/ベクター構造物、細胞(これだけに限るものではないが、患者自身の内皮細胞の培養物を含む)など、より内的な大分子あるいは遺伝子または細胞性薬剤を有する薬剤を搬送するのに特に適したものになる。これらのタイプの薬剤の多くは、生分解性または脆弱性であり、貯蔵可能期間が非常に短いか、または貯蔵可能期間がなく、使用時に調製しなければならず、あるいは他のいくつかの理由から、ステントなどの搬送用器具に、製造時に事前に装填することができない。本発明の拡張可能な器具の大きい貫通開口部は、使用時にこのような薬剤を装填するのを容易にし、搬送および埋込みの際に薬剤が磨耗し押し出されるのを防ぐために、保護された領域または受容部を形成する。
【0041】
開口部の使用により送出することができる有益な薬剤の量は、同じステントに対する適用範囲の比率で比較した場合、5ミクロンのコーティング量に対して約3〜10倍大きいものである。より大きな有益な薬剤の容量がいくつかの利点を提供することになる。より大きな容量は各々独立した放出プロファイル(profiles)と共に、薬剤を送出するために改善された効果によって、複数の薬剤を組み合わせ(multi-drug combinations)て送出することを可能にする。さらに、より大きな容量は即効性のない薬を大量に提供し、かつ内皮の層の薬効を抑制して治療するようにして、薬の不適当な副作用のない臨床の効能を達成するように使用することを可能にする。
【0042】
貫通した開口部は有益な薬剤の混合物を運ぶ、露出した血管壁表面エリアを減少させる。有益な薬剤開口部を備えた典型的な器具に関して、コートされた(coated)ステント表面との比較により露出は、約6:1から8:1の範囲に減少することになる。送出された有益な薬剤の量を増加させるとともに、薬剤を放出するための放出動力学のコントロールを改善する一方、炎症をもたらすポリマー・キャリアーおよび他の薬剤が血管壁組織に露出する状態を劇的に縮小する。
【0043】
図4は、複数の開口部24’を有する1対の延性ヒンジ20の間に配置された器具100のストラット18のうちの1つの拡大図を示す。図5は、図4に示す開口部24’の1つの断面を示す。図6は、有益な薬剤36をストラット18の貫通開口部24’に装填したときの同じ断面を示す。図7に模式的に示すように、貫通開口部24’および/また26’に有益な薬剤36を装填した後、任意で、ステントの外部表面全体を有益な薬剤38の薄い層でコーティングすることができ、この有益な薬剤38は、有益な薬剤36と同じまたは異なるものにすることができる。さらに、本発明の他の変形した形態は、図8に示すように、ステントの外向き表面を第1の有益な薬剤38でコーティングし、ステントの内向き表面を異なる有益な薬剤39でコーティングするものである。ステントの内向き表面は、少なくとも、拡張後に内腔経路を形成するステント表面によって画定される。ステントの外向き表面は、少なくとも、拡張後に管腔の内壁に接触してそれを直接的に支持するステント表面によって画定される。内部の表面上においてコーティングされた有益な薬剤39は有益な薬剤36が血管のルーメンへ進み、かつ血液循環において押し流されるのを防ぐバリア層になる。
【0044】
図9は、個別の層50の開口部24に1つまたは複数の有益な薬剤が装填された状態を示す開口部24の拡大断面図である。そのような複数の層を生成する1つの方法は、開口部へ有益な薬剤、ポリマー・キャリアーおよび溶剤を含む溶液を与え、キャリアーにおいて有益な薬剤の薄い固体層を作成するために溶剤を蒸発させる方法が挙げられる。また、この方法のほか、有益な薬剤を送出する他の方法も層を作成するために使用することができる。層を作成する他の方法によれば、薬剤がキャリアーために必要がなく、器具の構造上実行可能ならば、有益な薬剤は開口部に単独で装填されるかもしれない。その後、各開口部が部分的にあるいは完全に満たされるまで、上述のプロセスが繰り返えされる。
【0045】
典型的な実施形態では、開口部24の深さの合計が約125ミクロンから約140ミクロンであり、典型的な層の厚さは約2ミクロンから約50ミクロンであり、好ましくは約12ミクロンである。典型的な各層は、表面コーティングを施したステントの2倍の厚さを有する。典型的な開口部には、有益な薬剤の厚さの合計が典型的な表面コーティングに比べて約25〜28倍の厚さを有する、少なくとも2つ、好ましくは約10〜12の層が形成されることが好ましい。本発明の好ましい実施形態の1つによると、開口部は、少なくとも、0.0032mm2(5×10−6平方インチ)、好ましくは、0.0045mm2(少なくとも7×10−6平方インチ)の面積を有する。
【0046】
各層が独立して形成されるので、化学成分および薬物動態学の特性(pharmacokinetic properties)の各々を各層に与えることができる。上述の多数層の有用な配列は、以下に記述するように形成される。多数層の各々は、1つまたは複数の同一または異なる特性の薬剤を各層ごとに含んでもよい。層は固体でもよく、あるいは多孔性(porous)のものでもよく、他の薬剤あるいは補形薬(excipients)で充填してもよい。
【0047】
図9は、最も単純な層として、均一で、有益な薬剤の分布が同質となっている同一の層50を含む層の配置を示す図である。もしキャリアー・ポリマーが生物分解性の材料で構成されれば、キャリアーを含んでいる有益な薬剤の浸食が開口部の両方の面で同時に生じることになり、また、有益な薬剤はキャリアーの浸食割合に対応する時間に対してほぼ線形の割合で放出される。この線形あるいは一定の放出割合は0(ゼロ)オーダー送出プロファイルと呼ばれる(zero order delivery profile)。生物分解性のキャリアーを組み合わせて使用することは、ステントの半径方向の最外表面と器壁の組織との間に仮想的な空間(virtual spaces)あるいは、空孔(voids)を生成することなく所要の時間内に有益な薬剤を100%放出することを保証する。貫通した開口部内において、生物分解性の物質が削除される場合、開口部はストラットで覆われた器壁と血液循環との間で循環経路(communication)を提供する。そのような循環経路は器具による治療を加速し、血管壁に接するステントをより徹底的にロックする細胞および細胞外の構成要素の内へ適用されることを許容する。いくつかの貫通した開口部は有益な薬剤を装填し、他の貫通した開口部は装填されないまま残されるかもしれない。薬剤を装填する開口部が有益な薬剤を分配する一方で、薬剤の装填されていない穴(unloaded holes)は、適所へステントをロックするために、細胞および細胞外の構成要素の内へ拡張して直接的に病巣へ働きかけをすることができる。
【0048】
表面コーティングを施したステントに貫通した開口部を形成して使用する完全な浸食(erosion)の利点は、ステントによる治療に新しい可能性を開くものである。例えば、持続的及び発作的である心房細動、持続的な心室頻脈、リエントラント(reentrant)と転位(ectopic)を含む極度の心室頻脈、膿漏頻脈(sinus tachycardia)などの心臓の不整脈(cardiac arrhythmias)の治療では、肺静脈やその他の重要な部位において、瘢痕組織の形成で望まない電気信号が伝播することに対するバリアを作るために、マイクロ波や、一般的に無線周波数アブレーション(radio-frequency ablation)と呼ばれる様々なエネルギー源を使用して組織をアブレート(ablate)するための数多くの技術が試みられている。これらの技術は、正確にコントロールすることが困難であることが立証されている。永久的に貫通した開口部、生物分解性キャリアー及びここで説明した関連技術を利用した治療に基づくステントは、本質的に細胞毒素の除去をする薬剤のいずれもが、血管壁の組織に接して永久的に抜き取られないことを保証する一方で、心房細動の治療のために特定のエリアに対して、化学的作用によるアブレーション用の薬剤を明確かつ正確に送出することができる。
【0049】
他方では、特別の治療に対する目標が長期的な結果を提供することである場合、開口部に装填される有益な薬剤は表面コーティングを施した器具に対対して等しく劇的な長所がある。この場合、有益な薬剤および非生物分解性のキャリアーを含む構成は、好ましくは、以下に説明するような拡散障壁層と結合して、貫通した開口部に装填される。心臓の不整脈の例を継続するために、肺静脈(pulmonary veins)あるいは他の重要な部位の心門(ostia)の近くに、長期的に薬を導入することは望ましいかもしれない。非生物分解性キャリアー・マトリックスを介した有益な薬剤の過渡的な拡散挙動は、以下の式により示されるFick’sの第2法則により一般に記述することができる。
【0050】
【数1】
【0051】
ここで、Cは横断面xにおける有益な薬剤の濃度であり、xは表面コーティングの厚さ、あるいは貫通した開口部の深さであり、Dは拡散係数でありそしてtは時間である。バリア層のある貫通した開口部に関する偏微分方程式の解法は、非線形化された予測積分(probability integral)あるいはガウスの誤差関数(Gaussian Error Function)の形式を有することになり、関数の引数としては、数2式で示される項を含む。
【0052】
【数2】
【0053】
与えられた治療のレベルを保持するための時間間隔を、表面コーティングの場合と貫通した開口部の場合とで比較するために、コーティングの最も内側と開口部とでそれぞれ等しい濃度を達成するのに要求される時間を比較するためにFick’sの第2法則を使用することができる。すなわち、xとtの値は、誤差関数の引数の関係と等しく、数3式で与えられる。
【0054】
【数3】
【0055】
比較可能な濃度を達成する拡散比率(ratio of diffusion times)は、このように、深さの比率の2乗として変化する。典型的なコーティング厚さが約5ミクロンである一方、典型的な開口部深さは約140ミクロンであり、この比率の2乗は784となる。このことは、貫通した開口部に関する治療の有効的な持続は、同じ構成をとる表面コーティングの場合に比べて貫通した開口部の場合、潜在的に3桁のオーダーで大きいことを意味する。薬剤の放出プロファイル(release profiles)の固有の非線形性は、貫通した開口部の場合、以下に説明するように貫通した開口部内の有益な薬剤の濃度を変えることによって、部分的に補償することができるが、薄い表面コーティングの場合はできない。有益な薬剤の送出を持続することに関する大きな利点に加えて、貫通した開口部は、有益な薬剤の送出量として3〜10倍の量の薬剤を持続した治療において患部に供給することを可能にするという、決定的な利点があることは想起される。上述の拡散例は、固体状態の輸送メカニズムのより広い特性である、深さと拡散時間の一般的な関係を示すものである。
拡張した器具の表面に面するルーメン(lumen)として知られている放射状の方向の最も内側である、内向きの表面に放出される有益な薬剤は、急速に血流によって目標とされたエリアから運び去られるかもしれない。そのような状況では装填した薬剤の合計の半分まで、血流によって運び去られることにより治療の効果は得られないことになる。恐らく、これは図9の貫通した開口部の器具と同様にすべての表面コーティングを施したステントにあてはまることであろう。
【0056】
図10は、層(layer)の内側表面が、円筒状の器具の内向きに面する表面(inwardly facing surface)54と略共同平面(co-planar)であるような貫通開口部24に、第1層52が装填される器具を示す。第1層52は、血管ルーメン(vessel lumen)に向かう内向きに面する方向に次の層の生物分解(biodegradation)を妨げたり、または遅らせたり、および/または、その方向に有益な薬剤が拡散することを妨げたり、または遅らせたりするバリア部材と呼ばれる部材を有する。その後、他の層の生物分解あるいは有益な薬剤の拡散は、目標とされた血管壁組織と接触する器具の外向きに面する表面56の方向にのみ進むことができる。バリア層52は、さらに有益な薬剤の内側の層の水和(hydration)を防ぎ、かつそのような層が吸湿性の材料から作られる場合、内側の層の膨潤を防ぐために機能することができる。バリア層52は更に、他の層における生物分解性の部材より遥かに遅い速さで分解する生物分解性の部材を含むことも可能であり、その結果、開口部内は完全にクリアされる。従って、貫通した開口部の最も内向きに面する表面にバリア層52を設けることは、血管壁内の目標アリアに対して有益な薬剤の全てを送出することを保証するものである。開口部の無い表面コーティングを施した内向きの面にバリア層を設けたとしても、同一の効果を得ることはできない点に注目するべきである。そのようなコーティングにおいては有益な薬剤が、外部表面上の目標エリアに金属ステントを介して移動することができないために、治療の効果も無く、器具の内径において閉じ込められたまま残ることになる。
【0057】
バリア層は更に精巧な方法で有益な薬剤の放出動力学をコントロールするために使用することができる。前もって決められた分解時間(pre-determined degradation time)を伴うバリア層52は、両面から急速な生物分解に対する下地層(underlying layers)を露出することにより、予め決められた時間において有益な薬剤による治療を確実に終了させるために使用することができる。バリア層を分離した有益な薬剤は、体系的に適用される作用物(agent)によって活性化されるために特定される。そのように体系的に適用される作用物は、バリア層の孔隙率( porosity)を変更し、および/またはバリア層あるいは有益な薬剤のキャリア容積の生物分解の割合を変更することができる。各場合において、有益な薬剤の放出は、体系的に適用される作用物の送出において、内科的により活性化され得るものである。内科的により活性化される治療法の更なる一実施形態は、ミクロの泡の中で、カプセルに入れられ、器具の開口部に装填された有益な薬剤を利用するものである。貯蔵部(reservoirs)の外形に面する表面に対して拡散するために有益な薬剤を放出して、所要の時間に泡を崩壊させるために身体の外部からの超音波のエネルギーを負荷する方法が使用できるかもしれない。これらの活性化技術は、選択可能な時間で活発化させ、および/または終了させる所要の薬剤放出プロファイルを達成するために、ここに記述された放出動力学コントロール技術と共に使用することができる。
【0058】
図11Aは、生物分解性のキャリアー材において、有益な薬剤の層50が貫通した開口部に設けられている層の配置を示す図であり、有益な薬剤の層50は、活性な薬剤の装填無しで、生物分解性のキャリアー材の層58と単独で交互に配置され、そして、バリア層52は内向きの面の表面に設けられている。図11Bの放出動力学の特性を示すグラフにおいて示されるように、そのような配置は、段階的あるいは脈動的に変化する3つのプログラム可能な送出プロファイルを示す。活性的な薬剤のないキャリアー材層の使用は、増強された効能ために細胞(cell)の生化学のプロセスを伴う薬物の放出と同期する可能性を与える。
【0059】
あるいは、図12において示されるように、異なる層は、異なる時間で異なる有益な薬剤を放出するための能力が生成されている、異なる有益な薬剤により構成され得る。例えば、図12において、反血栓症(anti-thrombotic)の薬剤の層60は、ステントの内向きに面する表面に配置することができ、この層に続きバリア層52と、抗増殖性物質の層(antiproliferatives )62および抗炎症性の層(antiinflamatories) 64の各層が交互に配置される。この構成は、血管壁に対する抗炎症性(antiinflammatory)の薬剤についてプログラムされた特性の変化を伴いつつ、ちりばめられた抗増殖性物質の緩やかな放出を同時に提供する一方で、血流に抗血栓症(anti-thrombotic)の薬剤の初期的な放出を提供することができる。これらの層の構成は、身体の様々な自然治癒プロセスで調整された特定の時間で送出した薬剤の起爆(bursts)を達成するように設計することができる。
【0060】
更なる構成例は図13に示される。ここで、同一の有益な薬剤の濃度は、任意の形状の放出プロファイルを生成する能力を作り出すために層ごとに変えられる。外向きに面する面56からの距離の増加に伴い、層66内で薬剤の濃度を次第に増加させることは、例えば、放出レートを次第に増加させる放出プロファイルを生成することになり、そのようなプロファイルは薄い表面コーティングを施すことで生成することは不可能である。
【0061】
有益な薬剤放出動力学をコントロールする他の一般的な方法は、時間の関数として薬剤溶出源(drug elution sources)の表面積を変更することにより、有益な薬剤の流出を変更することである。これは、瞬間的に発生する分子の流れが表面積に対して比例する関係を示す、数4式のFickの第1法則に従うものである。
【0062】
【数4】
【0063】
ここで、δN/δtは、単位時間あたりの分子の数であり、Aは瞬間的に溶出する薬剤の表面積であり、Dは拡散係数であり、また、Cは濃度である。表面コーティングされたステントにおいて、薬剤が溶出する表面積は単にステント自体の表面積である。この表面積は固定的なものなので、表面コーティングを施した器具に対して、放出動力学をコントロールするこの方法は利用できない。しかしながら、貫通した開口部は、時間の関数として表面積を変化させるためのいくつかの可能性を提供する。
図14の実施形態では、有益な薬剤が、微小球状体(ミクロスフェア:microspheres)、粒子あるいはその他同種のものの形により開口部24に設けられている。これらの粒子を含んでいる個々の層70を生成することができ、更に、粒子のサイズは、各層ごとに変えることができる。与えられた層のボリュームに関しては、より小さな粒子サイズが、その層内の粒子表面積の合計を増加させ、各層ごとに有益な薬剤の表面積の合計を変化させる効果を有する。薬剤の分子の流出が表面積に比例するので、薬剤の流出の合計は粒子サイズの変化によって調整され、ネット効果(net effect)は、層内において変化する粒子サイズの変化により放出動力学を制御する。
【0064】
時間の関数として薬剤が溶出する表面積を変えるためのもう一つの方法は、開口部の軸に沿って薬を運ぶ要素の形状または横断面の面積を変更することである。図15Aが示す開口部70は、ステント自体の部材が円錐形にカットされている。上述の方法で説明したように、開口部70は、層内に有益な薬剤72を充填することができる。この実施形態では、有益な薬剤72が循環する血流へ進むのを防ぐために、バリア層74が、開口部70の内向きの面に提供される。この例では、薬剤の溶出する表面積Atは、生物分解性のキャリアー部材が浸蝕するように連続的に縮小し(図15Aから図15Bまで)し、図15Cのような溶出パターンを与える。
【0065】
図16Aは、単純な円筒状の貫通開口部80に有益な薬剤の円錐82を逆に挿入した状態を示す。ここで、貫通した開口部80内で薬剤が充填されない残りの部分は、分解レートのより遅い生物分解性の物質84あるいは非生物分解性の物質により円錐の後方(back)が充填され、貫通開口部の内向きの面はバリア層86でシールされる。この技術は、先に説明した例に対して反対の特性を提供することになる。薬剤の溶出する表面積Atは図16Aと図16Bとの間で時間とともに連続的に増加し、図16Cのような溶出パターンを与える。
【0066】
図15Aの開口部70の横断面の変化と図16Aの非生物分解性の後方充填(backfilling)技術は、所要の放出プロファイル(desired release profiles)を達成するために、図9〜図14の階層状の薬剤に関する実施形態のうちのいずれかと結合するかもしれない。例えば、図15Aの実施形態は、より正確に所要のプロファイルを放出カーブに合わせるために、図13の薬剤濃度層の変化を用いることができるかもしれない。
【0067】
特別な形状に対する有益な薬剤プラグ(plug)82を作り、貫通した開口部に挿入し、そして、第2の部材で後方充填するプロセスは、より複雑な放出動力学による薬剤の放出を可能にする。図17Aは、球状の有益な薬剤プラグ92が挿入された、貫通した開口部90を示す。球体による生物分解(biodegradation)は、図17Bにあるように、深さのシヌソイド関数(sinusoidal function)により横断面の表面積は変化し、時間に関する概略的なシヌソイド関数である流出密度(flux density)を生成する。他のプロファイルによるその他の結果は当然に可能性のあるものであるが、一定の面積を薄く表面コーティングするステントでは、これらの複雑なプロファイル特性を生成することができない。
【0068】
図18A〜図18Cの代替的な実施形態は、図16Cの増加する薬剤解放プロファイルを達成するために開口96を有するバリア層52’を使用する。図18Aに示すように、開口部24は内側のバリア層52と図10の実施形態における多数の有益な薬剤層50を提供し、付加的な外側のバリア層52’には、血管壁に薬剤を送出するために、小さな穴96が設けられている。図18B及び図18Cに示すように、有益な薬剤を含んでいる層50は時間とともに半球のパターンに変化(degrade)し、その結果、薬剤を送出するための表面積が増加し、薬剤の放出プロファイルが増加する。
【0069】
図19は、組織支持器具内の開口部に有益な薬剤の円筒状の層が充填されている状態を示す代替的な実施形態を例示する。図19の器具を形成する一つの方法によると、器具の全体は有益な薬剤に続く層100、102、104、106で覆われる。器具の内側の表面54と外表面56とは開口部の中の有益な薬剤の円筒状の層を残して、これら表面上の有益な薬剤を除去するために取り除かれる。この実施形態においては、コーティング層が配された後、組織支持器具の外表面56と内表面54の間の連絡を許容する中央の開口部が残る。
【0070】
図19の実施形態においては、円筒状の層は連続して侵食されることになる。これは、異なる有益な薬剤の脈動送出(pulsatile delivery)、有益な薬剤の異なる濃度の送出、あるいは、同一薬剤の送出のために使用することが可能である。図19に示すように、円筒状の層100、102、104、106の端部が露出される。これは露出した層の侵食の間に、下地層(underlying layers)の低いレベルの侵食に起因するものである。代わりに、この低いレベルの連続的な侵食を防ぐために、バリア層で円筒状の層の端部が覆われるかもしれない。円筒状の層の侵食割合は、層の表面を形成する輪郭によって更に制御できるかもしれない。例えば、均一な表面積、すなわち半径方向の内側の層と外側の層の間で均一な侵食割合(uniform erosion rate)を提供するために、その半径方向の内側の層には、リブや星型のパターン(ribbed or star-shaped pattern )が設けられるかもしれない。侵食割合をコントロールするための補足的な変数(additional variable)を提供するために、層の表面の輪郭が他の実施形態において使用されてもよい。
【0071】
本発明について、その好ましい実施形態に即して詳細に説明したが、本発明から逸脱することなく、様々な変更および修正を実施でき、同等物を採用できることが、当業者には明らかであろう。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
拡張可能な医療器具を形成する方法であって、
(a)複数開口部を有する複数の支柱が形成された略円筒形状の拡張可能な医療用のデバイス本体を形成する工程と、
(b)第1の有益な薬剤、第1のポリマー・キャリアーおよび溶剤の第1の溶液を作る工程と、
(c)前記第1の溶液を前記開口部に与える工程と、
(d)前記第1の有益な薬剤および第1のポリマー・キャリアーの固体層を形成するために前記第1の溶剤を蒸発させる工程と、
(e)前記(c)及び(d)の工程を繰り返す工程と、
(f)前記第1の有益な薬剤と異なる第2の有益な薬剤、第2のポリマー・キャリアー、および溶剤の第2溶液を作る工程と、
(g)当該第2溶液を前記第1の有益な薬剤の層の上部開口部に与える工程と
を備えることを特徴とする拡張可能な医療器具を形成する方法。
【請求項2】
第3の有益な薬剤、第3のポリマー・キャリアー、および溶剤の第3の溶液を作る工程と、
当該第3の溶液を前記第1の有益な薬剤の層の上部開口部に与える工程と
を更に備えることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記有益な薬剤は、活性薬剤であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記有益な薬剤は、抗増殖性部物質であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記有益な薬剤は、抗炎症剤であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記有益な薬剤は、閉塞性動脈硬化症剤であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記有益な薬剤は、蛋白質薬であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記第1の有益な薬剤は抗血小板凝集阻害薬である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記第1の有益な薬剤はパクリタキセルである、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記第1の有益な薬剤はラパマイシンである、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記第1の有益な薬剤はヘパリンである、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記第1の有益な薬剤は抗血栓症剤であり、前記第2の有益な薬剤は抗豚増殖性腸炎剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記第1の有益な薬剤は抗豚増殖性腸炎剤であり、前記第2の有益な薬剤は抗炎症剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記第1の有益な薬剤及び前記第2の有益な薬剤は、前記デバイス本体の第1の面に与えられるように配置されている、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
溶剤の第3の溶液および第3のポリマー・キャリアーを作る工程と、
前記第3の溶液を前記開口部に与えて該開口部にバリア層を形成する工程と
を更に備えることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記第1の有益な薬剤が前記開口部内に配置されて第1の放出プロファイルを達成し、前記第2の有益な薬剤が前記開口部内に配置されて、前記第1の放出プロファイルとは異なる第2の放出プロファイルを達成する、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記層の全ての厚さは2μmから1μmである、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記開口部の面積は、少なくとも0.0032mm2である、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記開口部の深さの合計は、125μmから140μmである、請求項1に記載の方法。
【請求項1】
拡張可能な医療器具を形成する方法であって、
(a)複数開口部を有する複数の支柱が形成された略円筒形状の拡張可能な医療用のデバイス本体を形成する工程と、
(b)第1の有益な薬剤、第1のポリマー・キャリアーおよび溶剤の第1の溶液を作る工程と、
(c)前記第1の溶液を前記開口部に与える工程と、
(d)前記第1の有益な薬剤および第1のポリマー・キャリアーの固体層を形成するために前記第1の溶剤を蒸発させる工程と、
(e)前記(c)及び(d)の工程を繰り返す工程と、
(f)前記第1の有益な薬剤と異なる第2の有益な薬剤、第2のポリマー・キャリアー、および溶剤の第2溶液を作る工程と、
(g)当該第2溶液を前記第1の有益な薬剤の層の上部開口部に与える工程と
を備えることを特徴とする拡張可能な医療器具を形成する方法。
【請求項2】
第3の有益な薬剤、第3のポリマー・キャリアー、および溶剤の第3の溶液を作る工程と、
当該第3の溶液を前記第1の有益な薬剤の層の上部開口部に与える工程と
を更に備えることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記有益な薬剤は、活性薬剤であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記有益な薬剤は、抗増殖性部物質であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記有益な薬剤は、抗炎症剤であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記有益な薬剤は、閉塞性動脈硬化症剤であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記有益な薬剤は、蛋白質薬であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記第1の有益な薬剤は抗血小板凝集阻害薬である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記第1の有益な薬剤はパクリタキセルである、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記第1の有益な薬剤はラパマイシンである、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記第1の有益な薬剤はヘパリンである、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記第1の有益な薬剤は抗血栓症剤であり、前記第2の有益な薬剤は抗豚増殖性腸炎剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記第1の有益な薬剤は抗豚増殖性腸炎剤であり、前記第2の有益な薬剤は抗炎症剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記第1の有益な薬剤及び前記第2の有益な薬剤は、前記デバイス本体の第1の面に与えられるように配置されている、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
溶剤の第3の溶液および第3のポリマー・キャリアーを作る工程と、
前記第3の溶液を前記開口部に与えて該開口部にバリア層を形成する工程と
を更に備えることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記第1の有益な薬剤が前記開口部内に配置されて第1の放出プロファイルを達成し、前記第2の有益な薬剤が前記開口部内に配置されて、前記第1の放出プロファイルとは異なる第2の放出プロファイルを達成する、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記層の全ての厚さは2μmから1μmである、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記開口部の面積は、少なくとも0.0032mm2である、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記開口部の深さの合計は、125μmから140μmである、請求項1に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15A】
【図15B】
【図15C】
【図16A】
【図16B】
【図16C】
【図17A】
【図17B】
【図18A】
【図18B】
【図18C】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15A】
【図15B】
【図15C】
【図16A】
【図16B】
【図16C】
【図17A】
【図17B】
【図18A】
【図18B】
【図18C】
【図19】
【公開番号】特開2013−99550(P2013−99550A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−111(P2013−111)
【出願日】平成25年1月4日(2013.1.4)
【分割の表示】特願2008−231146(P2008−231146)の分割
【原出願日】平成14年6月5日(2002.6.5)
【出願人】(308021741)イノヴェイショナル・ホールディングズ・エルエルシー (6)
【氏名又は名称原語表記】INNOVATIONAL HOLDINGS, LLC
【住所又は居所原語表記】One Johnson & Johnson Plaza, New Brunswick, New Jersey 08933, United States of America
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成25年1月4日(2013.1.4)
【分割の表示】特願2008−231146(P2008−231146)の分割
【原出願日】平成14年6月5日(2002.6.5)
【出願人】(308021741)イノヴェイショナル・ホールディングズ・エルエルシー (6)
【氏名又は名称原語表記】INNOVATIONAL HOLDINGS, LLC
【住所又は居所原語表記】One Johnson & Johnson Plaza, New Brunswick, New Jersey 08933, United States of America
【Fターム(参考)】
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