有音程の膜鳴打楽器の調律方法および装置
【課題】 調律対象音以外の音が存在するような環境下では、正確な調律を可能とする有音程の膜鳴打楽器の調律方法および装置の提供。
【解決手段】 可撓性を有するシート状圧電センサを膜鳴打楽器の膜に配置して膜の振動を電気信号に変換し、当該電気信号を処理する電子回路により音名を判別することを特徴とする有音程の膜鳴打楽器の調律方法およびその装置。好ましくは、前記圧電センサが、カンチレバータイプの圧電フィルムセンサである。
【解決手段】 可撓性を有するシート状圧電センサを膜鳴打楽器の膜に配置して膜の振動を電気信号に変換し、当該電気信号を処理する電子回路により音名を判別することを特徴とする有音程の膜鳴打楽器の調律方法およびその装置。好ましくは、前記圧電センサが、カンチレバータイプの圧電フィルムセンサである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有音程の膜鳴打楽器の調律方法および装置に関し、特にティンパニ(ケトルドラムともいう)の調律方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有音程打楽器のチューニング(調律)を簡単に行うチューナーとしては、マイクロフォンから採取した音声を電気信号に変換し、増幅器により所望のレベルの電気信号に増幅し、増幅器の出力信号からマイクロフォンで採取した音声の基本周期を抽出し、あらかじめ設定した基準音により調律する調律装置がある。特許文献1には、外付けマイクによりヘッドの打音を検出し、チューニングメーターにより周波数を測定して音程を判別し、その判別信号に基づきヘッドの張り具合を自動設定するティンパニの音程調節装置が開示されている。
【0003】
管楽器のチューニング(調律)を簡単に行うチューナーとしては、コンタクトマイク・ピエゾマイクを使用したクリップタイプのものが販売されている。コードレスタイプのものも提案されており、例えば、特許文献2には、楽器に装着するためのクリップと、前記クリップに設けられた振動センサと、前記クリップと連結部を介して連結されるとともに、前記振動センサから得られた信号を処理することで前記楽器における音声状態を判別する電子回路と、前記電子回路での判別結果を表示する表示部を有することを特徴とする調律装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4109302号公報
【特許文献2】特開2003−255932号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のようにマイクロフォンで音を採取する構成においては、周囲の全ての音が検出されるため、多人数で合奏するような場合など調律対象音以外の音が存在するような環境下では、正確な調律が困難であるという問題があった。特に演奏中にチューニングゲージを用いて音程変更を正確に行うことは実質上不可能であった。
【0006】
また、特許文献2に示すようなコンタクトマイク・ピエゾマイクと管楽器用チューナーを膜鳴打楽器(革やプラスチック膜を張った打楽器)のチューニングに使用することはできなかった。
【0007】
本発明は、上記課題を解決することができる、有音程の膜鳴打楽器の調律方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
従来のコンタクトマイク・ピエゾマイクにより有音程の膜鳴打楽器のチューニングを行った場合、打音の周波数を正確に測定することはできなかった。これは、従来のコンタクトマイク・ピエゾマイクでは、セラミック系圧電(ピエゾ)センサを使用していることが原因であることを発明者は考えた。すなわち、発明者は、セラミック系圧電センサは図1に示すように硬い材料でできており柔軟な構造ではないため、ティンパニのヘッドに取り付けた場合、ヘッドの振動を阻害するだけでなく図2に示すようなティンパニのヘッドの振動を電気信号に変換することができないことの知見をえた。そこで、発明者は、可撓性を有するシート状圧電センサにより打音の周波数を正確に測定することはできないかと考え、鋭意検討の上、本発明を創作した。
【0009】
すなわち、第1の発明は、可撓性を有するシート状圧電センサを膜鳴打楽器の膜に配置して膜の振動を電気信号に変換し、当該電気信号を処理する電子回路により音名を判別することを特徴とする有音程の膜鳴打楽器の調律方法である。
第2の発明は、第1の発明において、前記圧電センサが、カンチレバータイプの圧電フィルムセンサであることを特徴とする。
第3の発明は、第1の発明において、前記圧電センサが、その下面が膜鳴打楽器の膜に配置されるU字状の圧電フィルムセンサを有ることを特徴とする。
第4の発明は、第11ないし3のいずれかの発明において、前記圧電センサが、ポリフッ化ビニルデン(PVDF)のフィルムを含んで構成されることを特徴とする。
第5の発明は、第1ないし4のいずれかの発明において、前記膜鳴打楽器が、ティンパニであることを特徴とする。
【0010】
第6の発明は、膜鳴打楽器の膜に配置され、膜の振動を電気信号に変換する、可撓性を有するシート状圧電センサと、前記圧電センサから得られた電気信号を外部チューナーに送信する出力回路と、を備えることを特徴とする有音程の膜鳴打楽器の調律装置である。
第7の発明は、膜鳴打楽器の膜に配置され、膜の振動を電気信号に変換する、可撓性を有するシート状圧電センサと、前記圧電センサから得られた電気信号を処理して音名を判別する処理部と、処理部による判別結果を表示する表示部と、を備えることを特徴とする有音程の膜鳴打楽器の調律装置である。
第8の発明は、第6または7の発明において、前記圧電センサが、カンチレバータイプの圧電フィルムセンサであることを特徴とする。
第9の発明は、第6または7の発明において、前記圧電センサが、その下面が膜鳴打楽器の膜に配置されるU字状の圧電フィルムセンサを有ることを特徴とする。
第10の発明は、第6ないし9のいずれかの発明において、前記圧電センサが、ポリフッ化ビニルデン(PVDF)のフィルムを含んで構成されていることを特徴とする。
第11の発明は、第6ないし10のいずれかの発明において、前記膜鳴打楽器が、ティンパニであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、有音程の膜鳴打楽器の調律を圧電センサにより簡易かつ正確に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】従来のセラミック系圧電センサの構造を示す側面図である。
【図2】ティンパニのヘッドの振動イメージを示す上面図である。
【図3】実施例1に係る調律装置を用いた測定態様を示す写真である。
【図4】実施例1に係る調律装置により測定した際の電圧変化のグラフである。
【図5】図4の周波数スペクトルである。
【図6】実施例2に係る調律装置により測定した際の電圧変化のグラフである。
【図7】図6の周波数スペクトルである。
【図8】実施例3に係る圧電フィルムセンサの構造を示す上面図および側面図である。
【図9】圧電フィルムセンサの構造と共振周波数の変化の仕方を説明する図である。
【図10】実施例3に係る圧電フィルムセンサにより測定した際の電圧変化のグラフである。
【図11】図10の周波数スペクトルである。
【図12】実施例4に係る圧電フィルムセンサにより測定した際の電圧変化のグラフである。
【図13】図12の周波数スペクトルである。
【図14】実施例4に係る圧電フィルムセンサの構造を示す側面図である。
【図15】実施例4に係る圧電フィルムセンサにより測定した際の周波数スペクトルである。
【図16】図14のi〜ivの各位置で測定した際の周波数スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、可撓性を有するシート状圧電センサを膜鳴打楽器の膜に配置して膜の振動を電気信号に変換し、当該電気信号を処理する電子回路により音名を判別する有音程の膜鳴打楽器の調律方法および装置に関する。
【0014】
圧電センサはヘッド(膜)の振動に追従する必要があるため、可撓性を有するシート状圧電センサ、好ましくは弾性のあるフィルム形状のものを利用する。圧電フィルムとしてはPVDF(Polyvinylidene fluoride film:ポリフッ化ビリニデン)やチタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)などからなる圧電セラミックまたは圧電セラミック薄膜が挙げられるが、軽量で柔軟性に富み、加工性がよいPVDFが好ましい材としてあげられる。PVDFは応答帯域がきわめて広く、固有の共振周波数を持ちにくいという特徴も有する。なお、圧電素子にはセラミック等の非可撓性材からなるものもあるが、上述のとおりヘッド(膜)の振動に追従できないため、本発明では利用しない。
【0015】
圧電センサの下面側には、必要に応じて粘着層を形成し、或いは両面粘着シートや粘着テープ等を用いてティンパニのヘッドに貼着可能とする。この際、圧電センサの上面側から一定面積以上の面または複数点で押圧する部材によって圧電センサをヘッドに圧接させてもよい。
他の形態としては、カンチレバータイプの圧電フィルムセンサを用いることが開示される。この圧電フィルムセンサは、膜鳴打楽器の膜に配置される基板と、基板に垂直に設けられたピンと、基板と略水平になるようにピンに取りつけられた板状の検知エレメントと、検知エレメントに配置されたシート状圧電センサ(圧電フィルム)と、検知エレメントに取付取り外し自在に設けられた重りを備えて構成される。
圧電センサの数は単数でもよいし、複数設けてもよい。
【0016】
圧電センサは、導電布テープなどでシールドすることでノイズ対策を施すのが好ましい。導電布テープは電子機器の電磁波や静電気のシールド、信号ケーブルやコネクタのシールドに使用される一般的なものでよく、粘着面にも導電性があり、貼り合わせても導通があるため、確実にシールド効果を得ることができる。
【0017】
圧電センサからの信号は、必要に応じ増幅回路により所望のレベルの電気信号に増幅され、市販のチューニングメーター(調律器)に入力される。チューニングメーターでは、入力された音の基本周期を分析して抽出し、抽出した基本周期と基本音の周期が比較されて入力された音の音程が決定され、決定された音程におけるピッチ誤差が検出される。入力された音の音程とピッチ誤差は、チューニングメーターの表示部に表示される。このように、本発明に係る圧電センサは、市販のチューニングメーターを利用して調律を行うことを可能とするものである。
上述した可撓性を有するシート状圧電センサ(または増幅回路)からの電気信号を記憶手段に記憶した判別基準情報に基づき音名を判別する処理部および液晶ディスプレイ等の表示手段にピッチ誤差がcent目盛等で表示する表示部を備えた調律装置も本発明の範囲に含まれる。
【0018】
有音程の膜鳴打楽器として、ティンパニが知られている。ティンパニは、ヘッドの張り具合を調整することで音程を変え、正確にドレミの音を出し分けることができる。1つのティンパニには例えばドからラ♭(フラット)までの音域があり、演奏時には4〜5つのティンパニを並べて使用するのが通常である。
【0019】
ティンパニは、銅、FRP、アルミなどでできた丸い鍋型のケトルにヘッド(膜)を張り、それをバチ(マレット)で叩くことにより演奏する。ヘッドの張り具合を調整することで音程を変え、正確にドレミの音を出し分けることができる。ヘッドの張り具合の調整手段としては、チューニングボルトを1つ1つ手で締める手締め式、全てのチューニングボルトをハンドルを回して一度に調整するハンドル式、ペダルの踏みこみ操作によりヘッドの張力を変化させるペダル式がある。チューニングボルトは、ヘッド中央の金具から放射線状に設けられたテンションロッドと接続されており、テンションロッドによりヘッドの張り具合が調整される。
【0020】
ティンパニは、ヘッドの中央ではなく、ヘッドの縁の近傍をバチで叩いて音を出す。ヘッド全体は中央を左右に通る直線を節にして波打っていて、縁は振動の腹の部分に当たる。図2は、縁の近傍を叩いた際のヘッドの振動イメージを示す上面図である。図2中、塗りつぶした箇所がふくらんだ部分、塗りつぶしていない箇所がへこんだ部分であり、(A)と(B)の状態を繰り返し、ヘッド全体が波打ちながら音を出す。丸いケトルの中に閉じ込められた空気により規律の正しい整数倍の膜振動が得られると言われている。
【0021】
以下では、本発明の詳細を実施例により説明するが、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0022】
実施例1は、圧電フィルムセンサを用いたティンパニの調律装置に関する。
実施例1では、予め調律されたティンパニのヘッドのほぼ中央に圧電フィルムを貼着して、音名判別が正しく行えるかを実験した(図3参照)。実施例1の調律装置は、圧電フィルムからの信号を、第1の増幅器(自作のチャージアンプ)および第2の増幅器(四国計測工業社製)で増幅し、データロガー(OMRON社製ZR−MDR10)およびその専用PCソフトで観測するように構成されている。
増幅器を2段構成とされており、1段目(チャージアンプ)は圧電フィルムに誘起された電荷を電圧に変換するアンプであり、2段目(電圧調整アンプ)は出力側の測定機器等の入力電圧によって電圧変換するアンプである。1段目(チャージアンプ)で増幅度を変更すると入力抵抗等が変化する可能性があるため、1段目(チャージアンプ)を一定として入力抵抗変化なしに圧電フィルムに誘起された電荷を電圧に変換し、出力電圧が小さい場合は2段目(電圧調整アンプ)で増幅するようにしている。
実施例1の調律装置は、圧電フィルムからの信号を、四国計測工業社製の第1の増幅器(チャージアンプ)および第2の増幅器(電圧調整アンプ)で増幅し、データロガー(OMRON社製ZR−MDR10)およびその専用PCソフトで観測するように構成されている。
【0023】
電源周波数である60Hz(東日本は50Hz)とその3倍高調波である180Hz(東日本は150Hz)付近は測定条件により雑音が観測される可能性があるため、ノッチフィルタを入れている。
【0024】
実施例1では東京センサ社の圧電フィルム(FDTシリーズ)を使用した。この製品は、この圧電フィルムは、銀インクスクリーン印刷電極をセンサ部と一体のフレキシブル回路として延ばし、コネクタをつけて構成される。実施例1で使用した圧電フィルムの仕様を以下に示す。
【0025】
型番:FDT1−052K
シート部寸法:16mm×235mm
電極部寸法:12mm×30mm
全体の厚さ:85μm
フィルムの厚さ:52μm
静電容量:0.74nF
【0026】
図4は、Aの音(220Hz)を打音した際の圧電フィルムからの信号を、第1の増幅器で1000倍に増幅し、第2の増幅器で11.3倍に増幅して得られた電圧変化のグラフである。図5は、図4をフーリエ変換して得られた周波数スペクトルであり、222.17Hzにピークを観測することができた
【0027】
続いて、市販のチューナー(ヤマハ社製TDM−70)との連系実験をした。予め調律されたティンパニを弱く叩き、チューニング周波数を440Hzに設定したチューナーに、第1の増幅器で1000倍に増幅した圧電フィルムの信号を入力したところ、cent目盛の針が中央の0を示すと共に音が合ったことを示すグリーンランプが点灯した。
【0028】
以上の結果から、実施例1の調律装置により、Aの音(220Hz)を正しく判別できることを確認することができた。
【実施例2】
【0029】
実施例1と同じ調律装置を用いて、ティンパニのヘッドのほぼ中央に圧電フィルムを貼着して、音名判別が正しく行えるかを実験した。実施例2では、実施例1からティンパニのペダルを動かし、調律がされていない状況とした。なお、実施例2は、実施例1と同じ強さで叩いているが、人手によるため完全に同じ強さではない。
【0030】
図6は、Aの音(220Hz)を打音した際の圧電フィルムからの信号を、第1の増幅器で3倍に増幅し、第2の増幅器で11.3倍に増幅して得られた電圧変化のグラフである。図7は、図6をフーリエ変換して得られた周波数スペクトルである。図7から、221.56Hzにピークを観測することができた。
【実施例3】
【0031】
実施例3は、カンチレバータイプの圧電フィルムセンサを用いたティンパニの調律装置に関する。実施例3では、実施例1と比べ約10倍程度の出力が得られため、増幅器を用いない簡易な構成とすることができる。すなわち、実施例3の圧電フィルムセンサによれば、市販のチューナー(ヤマハ社製TDM−70)に圧電フィルムセンサを直結して調律を行うことも可能である。
【0032】
図8は、実施例3に係るカンチレバータイプの圧電フィルムセンサの上面図および側面図である。実施例1では東京センサ社のMiniSense 100を使用した。この製品は、低コストのカンチレバータイプの振動センサで、低周波数で高い感度を発揮するおもり13を備えている。ピン12は簡単に取り付けられるように設計されており、プリント基板(PCB)等に半田付けが可能である。アクティブなセンサ部分がシールド加工されており、RFI/EMIノイズの影響を受けにくくなっている。圧電フィルム11はPVDFであり、異なる周波数応答および感度を選択できるように、検知するおもりの重量を変更することができる。水平に取り付けられたビームの端部に重量の慣性力がかかると、垂直平面の加速度によってビームに曲がりが生じ、ビームが歪むことによってピエゾ電気が応答し、センサの電極から電荷すなわち電圧出力として検知される。MiniSense 100はもともとローパスフィルタになっているためティンパニの発生する周波数に合わせることができれば電子回路的なフィルタはほとんど必要ない。また、共振周波数もあるため感度の高い共振部分を使用することも考えられる。
【0033】
圧電フィルムセンサは、ティンパニの中心付近に設置するのが好ましい。叩いた反対側にセンサを張り付けると振動が制限されるためである。ティンパニの真中は理論的には殆ど振動しない部分ではあるが、実際にはセンサで検出するのに十分な程度は振動していることが後述の測定結果より確認できた。
圧電フィルムセンサの構造と共振周波数の変化は、図9に示す相関関係がある。すなわち、共振周波数の上下は、おもりの重さ、おもりとピンの距離、圧電フィルムの硬さとそれぞれ相関関係が認められる。
【0034】
実施例1と同じデータロガーおよびその専用PCソフトを用いて、Aの音(220Hz)を圧電フィルムセンサにより測定した。
図10は、Aの音(220Hz)をおもりの重さを変えて測定した場合の電圧変化を示すグラフである。図10(A)では2個のおもり(約0.24g)を圧電フィルム先端に配置し、図10(B)では1個のおもり(約0.12g)を圧電フィルム先端に配置し、図10(C)ではおもり無しで測定を行った。
図11は図10をフーリエ変換して得られた周波数スペクトルのグラフである。図11(A)および(B)ではAの音に近い223Hz付近に大きなピークが見られる。なお、164Hz付近にもピークが見られるが、これは叩いたときの衝撃によるものと推測される。図11(C)では、224Hz付近に加え、166Hzおよび336Hzにそれより小さなピークが観測できる。ここで、336Hzのピークが新たにでてきたが、これは基本周波数の1オクターブ下の112Hzの3倍音なので、これが観測できても不思議なことではない。
図10および図11から、カンチレバータイプの圧電フィルムセンサによれば、増幅器を用いずとも高い出力を得られることが確認された。
【実施例4】
【0035】
実施例3と同じ条件で、Gの音(97Hz)をおもりの重さを変えて測定した。
図12は、Gの音(97Hz)をおもりの重さを変えて測定した場合の電圧変化を示すグラフである。図12(A)では2個のおもり(約0.24g)を圧電フィルム先端に配置し、図12(B)では1個のおもり(約0.12g)を圧電フィルム先端に配置し、図12(C)ではおもり無しで測定を行った。
図11は図12をフーリエ変換して得られた周波数スペクトルのグラフである。図13(A)および(B)ではGの音に近い97Hz付近に大きなピークが見られる。なお、ここでは余韻をフーリエ変換しても比率に変化はなかった。図13(C)では、97Hz付近にピークを観測することができなかった。これは、おもり無しの場合、高い周波数成分しか拾えないためである。
図12および図13から、おもりの重さと共振周波数の変化に相関関係があることが確認された。また、Gの音は周波数が低いため、この製品のおもりとピンの距離、圧電フィルムの硬さでは、おもり無しでは測定が難しいことが確認された。
なお、実施例3と比べ1オクターブ下のAの音(110Hz)においても同様の傾向が観測され、おもり無しでは測定が難しいことが確認された。
【実施例5】
【0036】
実施例5は、湾曲させた圧電フィルムセンサを有するティンパニの調律装置に関する。
本実施例の圧電センサ10は、U字状に湾曲した圧電フィルム11と、圧電フィルム11の上面が固定されたアーム14と、アーム14に連結された棒状体からなる支持部15と、支持部15の下方に設けられた固定部16とを備える。この圧電センサ10は、固定部16から延出される図示しない信号線により、実施例1の第1および第2の増幅器に接続されて使用される。圧電フィルム11は、上面、下面および湾曲部を有し、上面と下面が略水平となる体勢において、下面がティンパニのヘッド21に当接する状態で使用される。ここで、上面と下面の長さは同じ長さである必要はなく、下面の一定面積がヘッド21に当接すれば足りる。
【0037】
図14に示すように、圧電センサ10は、固定部16によりティンパニのチューニングボルトやフレーム等に着脱自在に固定することができる。本実施例の固定部16は、ティンパニのチューニングボルト22をバネ付勢された顎により掴持する器具である。圧電センサ10は、圧電フィルム11の下面がティンパニのヘッド21に当接する位置に取り付けられる。ここで、支持部15は、ネジ等により棒状体の長さを調節できるように構成することが好ましい。
アーム14は、圧電フィルム11がヘッド21の外周(締め枠)から所定の距離に位置する長さに構成される。
図15は、本実施例の圧電センサ10による出力をフーリエ変換して得られた周波数スペクトルのグラフである。図15(A)はGの音を、図15(B)ではEの音を測定した結果を示すところ、前者では98Hzにピークが見られ、後者では82Hzにピークが見られ、良好な測定結果が得られることが確認された。
【0038】
測定可能な周波数は、圧電フィルム11とヘッド21との位置関係により異なる。すなわち、圧電フィルム11のヘッド21の外周からの距離を変えることにより、測定可能な周波数が異なるものとなる。そのため、ティンパニの半径の範囲でアーム14の長さをネジ等により長さを調節できるように構成することが好ましい。また、ティンパニ毎にアーム14の最適長さは異なるため、各メーカーの特定の型番に対応した長さのアーム14を有する圧電センサ10を提供するようにしてもよい。
【0039】
図16は、図14のi〜ivの各位置においてGの音を測定した際の出力をフーリエ変換して得られた周波数スペクトルのグラフである。同図から分かるように、測定となる周波数(98Hz)以外のピークの出方が、測定位置(締め枠からの距離)によって異なることが分かる。すなわち、最適な測定位置(同図においてはiiiの位置)を選択することにより、測定対象となる周波数を低ノイズで測定できることを確認することができる。
【符号の説明】
【0040】
1 上部電極
2 圧電材料
3 下部電極
4 配線+
5 配線−
10 圧電センサ
11 圧電フィルム
12 ピン
13 おもり
14 アーム
15 支持部
16 固定部
20 ティンパニ
21 ヘッド
22 チューニングボルト
23 フレーム
24 ケトル
【技術分野】
【0001】
本発明は有音程の膜鳴打楽器の調律方法および装置に関し、特にティンパニ(ケトルドラムともいう)の調律方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有音程打楽器のチューニング(調律)を簡単に行うチューナーとしては、マイクロフォンから採取した音声を電気信号に変換し、増幅器により所望のレベルの電気信号に増幅し、増幅器の出力信号からマイクロフォンで採取した音声の基本周期を抽出し、あらかじめ設定した基準音により調律する調律装置がある。特許文献1には、外付けマイクによりヘッドの打音を検出し、チューニングメーターにより周波数を測定して音程を判別し、その判別信号に基づきヘッドの張り具合を自動設定するティンパニの音程調節装置が開示されている。
【0003】
管楽器のチューニング(調律)を簡単に行うチューナーとしては、コンタクトマイク・ピエゾマイクを使用したクリップタイプのものが販売されている。コードレスタイプのものも提案されており、例えば、特許文献2には、楽器に装着するためのクリップと、前記クリップに設けられた振動センサと、前記クリップと連結部を介して連結されるとともに、前記振動センサから得られた信号を処理することで前記楽器における音声状態を判別する電子回路と、前記電子回路での判別結果を表示する表示部を有することを特徴とする調律装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4109302号公報
【特許文献2】特開2003−255932号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のようにマイクロフォンで音を採取する構成においては、周囲の全ての音が検出されるため、多人数で合奏するような場合など調律対象音以外の音が存在するような環境下では、正確な調律が困難であるという問題があった。特に演奏中にチューニングゲージを用いて音程変更を正確に行うことは実質上不可能であった。
【0006】
また、特許文献2に示すようなコンタクトマイク・ピエゾマイクと管楽器用チューナーを膜鳴打楽器(革やプラスチック膜を張った打楽器)のチューニングに使用することはできなかった。
【0007】
本発明は、上記課題を解決することができる、有音程の膜鳴打楽器の調律方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
従来のコンタクトマイク・ピエゾマイクにより有音程の膜鳴打楽器のチューニングを行った場合、打音の周波数を正確に測定することはできなかった。これは、従来のコンタクトマイク・ピエゾマイクでは、セラミック系圧電(ピエゾ)センサを使用していることが原因であることを発明者は考えた。すなわち、発明者は、セラミック系圧電センサは図1に示すように硬い材料でできており柔軟な構造ではないため、ティンパニのヘッドに取り付けた場合、ヘッドの振動を阻害するだけでなく図2に示すようなティンパニのヘッドの振動を電気信号に変換することができないことの知見をえた。そこで、発明者は、可撓性を有するシート状圧電センサにより打音の周波数を正確に測定することはできないかと考え、鋭意検討の上、本発明を創作した。
【0009】
すなわち、第1の発明は、可撓性を有するシート状圧電センサを膜鳴打楽器の膜に配置して膜の振動を電気信号に変換し、当該電気信号を処理する電子回路により音名を判別することを特徴とする有音程の膜鳴打楽器の調律方法である。
第2の発明は、第1の発明において、前記圧電センサが、カンチレバータイプの圧電フィルムセンサであることを特徴とする。
第3の発明は、第1の発明において、前記圧電センサが、その下面が膜鳴打楽器の膜に配置されるU字状の圧電フィルムセンサを有ることを特徴とする。
第4の発明は、第11ないし3のいずれかの発明において、前記圧電センサが、ポリフッ化ビニルデン(PVDF)のフィルムを含んで構成されることを特徴とする。
第5の発明は、第1ないし4のいずれかの発明において、前記膜鳴打楽器が、ティンパニであることを特徴とする。
【0010】
第6の発明は、膜鳴打楽器の膜に配置され、膜の振動を電気信号に変換する、可撓性を有するシート状圧電センサと、前記圧電センサから得られた電気信号を外部チューナーに送信する出力回路と、を備えることを特徴とする有音程の膜鳴打楽器の調律装置である。
第7の発明は、膜鳴打楽器の膜に配置され、膜の振動を電気信号に変換する、可撓性を有するシート状圧電センサと、前記圧電センサから得られた電気信号を処理して音名を判別する処理部と、処理部による判別結果を表示する表示部と、を備えることを特徴とする有音程の膜鳴打楽器の調律装置である。
第8の発明は、第6または7の発明において、前記圧電センサが、カンチレバータイプの圧電フィルムセンサであることを特徴とする。
第9の発明は、第6または7の発明において、前記圧電センサが、その下面が膜鳴打楽器の膜に配置されるU字状の圧電フィルムセンサを有ることを特徴とする。
第10の発明は、第6ないし9のいずれかの発明において、前記圧電センサが、ポリフッ化ビニルデン(PVDF)のフィルムを含んで構成されていることを特徴とする。
第11の発明は、第6ないし10のいずれかの発明において、前記膜鳴打楽器が、ティンパニであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、有音程の膜鳴打楽器の調律を圧電センサにより簡易かつ正確に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】従来のセラミック系圧電センサの構造を示す側面図である。
【図2】ティンパニのヘッドの振動イメージを示す上面図である。
【図3】実施例1に係る調律装置を用いた測定態様を示す写真である。
【図4】実施例1に係る調律装置により測定した際の電圧変化のグラフである。
【図5】図4の周波数スペクトルである。
【図6】実施例2に係る調律装置により測定した際の電圧変化のグラフである。
【図7】図6の周波数スペクトルである。
【図8】実施例3に係る圧電フィルムセンサの構造を示す上面図および側面図である。
【図9】圧電フィルムセンサの構造と共振周波数の変化の仕方を説明する図である。
【図10】実施例3に係る圧電フィルムセンサにより測定した際の電圧変化のグラフである。
【図11】図10の周波数スペクトルである。
【図12】実施例4に係る圧電フィルムセンサにより測定した際の電圧変化のグラフである。
【図13】図12の周波数スペクトルである。
【図14】実施例4に係る圧電フィルムセンサの構造を示す側面図である。
【図15】実施例4に係る圧電フィルムセンサにより測定した際の周波数スペクトルである。
【図16】図14のi〜ivの各位置で測定した際の周波数スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、可撓性を有するシート状圧電センサを膜鳴打楽器の膜に配置して膜の振動を電気信号に変換し、当該電気信号を処理する電子回路により音名を判別する有音程の膜鳴打楽器の調律方法および装置に関する。
【0014】
圧電センサはヘッド(膜)の振動に追従する必要があるため、可撓性を有するシート状圧電センサ、好ましくは弾性のあるフィルム形状のものを利用する。圧電フィルムとしてはPVDF(Polyvinylidene fluoride film:ポリフッ化ビリニデン)やチタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)などからなる圧電セラミックまたは圧電セラミック薄膜が挙げられるが、軽量で柔軟性に富み、加工性がよいPVDFが好ましい材としてあげられる。PVDFは応答帯域がきわめて広く、固有の共振周波数を持ちにくいという特徴も有する。なお、圧電素子にはセラミック等の非可撓性材からなるものもあるが、上述のとおりヘッド(膜)の振動に追従できないため、本発明では利用しない。
【0015】
圧電センサの下面側には、必要に応じて粘着層を形成し、或いは両面粘着シートや粘着テープ等を用いてティンパニのヘッドに貼着可能とする。この際、圧電センサの上面側から一定面積以上の面または複数点で押圧する部材によって圧電センサをヘッドに圧接させてもよい。
他の形態としては、カンチレバータイプの圧電フィルムセンサを用いることが開示される。この圧電フィルムセンサは、膜鳴打楽器の膜に配置される基板と、基板に垂直に設けられたピンと、基板と略水平になるようにピンに取りつけられた板状の検知エレメントと、検知エレメントに配置されたシート状圧電センサ(圧電フィルム)と、検知エレメントに取付取り外し自在に設けられた重りを備えて構成される。
圧電センサの数は単数でもよいし、複数設けてもよい。
【0016】
圧電センサは、導電布テープなどでシールドすることでノイズ対策を施すのが好ましい。導電布テープは電子機器の電磁波や静電気のシールド、信号ケーブルやコネクタのシールドに使用される一般的なものでよく、粘着面にも導電性があり、貼り合わせても導通があるため、確実にシールド効果を得ることができる。
【0017】
圧電センサからの信号は、必要に応じ増幅回路により所望のレベルの電気信号に増幅され、市販のチューニングメーター(調律器)に入力される。チューニングメーターでは、入力された音の基本周期を分析して抽出し、抽出した基本周期と基本音の周期が比較されて入力された音の音程が決定され、決定された音程におけるピッチ誤差が検出される。入力された音の音程とピッチ誤差は、チューニングメーターの表示部に表示される。このように、本発明に係る圧電センサは、市販のチューニングメーターを利用して調律を行うことを可能とするものである。
上述した可撓性を有するシート状圧電センサ(または増幅回路)からの電気信号を記憶手段に記憶した判別基準情報に基づき音名を判別する処理部および液晶ディスプレイ等の表示手段にピッチ誤差がcent目盛等で表示する表示部を備えた調律装置も本発明の範囲に含まれる。
【0018】
有音程の膜鳴打楽器として、ティンパニが知られている。ティンパニは、ヘッドの張り具合を調整することで音程を変え、正確にドレミの音を出し分けることができる。1つのティンパニには例えばドからラ♭(フラット)までの音域があり、演奏時には4〜5つのティンパニを並べて使用するのが通常である。
【0019】
ティンパニは、銅、FRP、アルミなどでできた丸い鍋型のケトルにヘッド(膜)を張り、それをバチ(マレット)で叩くことにより演奏する。ヘッドの張り具合を調整することで音程を変え、正確にドレミの音を出し分けることができる。ヘッドの張り具合の調整手段としては、チューニングボルトを1つ1つ手で締める手締め式、全てのチューニングボルトをハンドルを回して一度に調整するハンドル式、ペダルの踏みこみ操作によりヘッドの張力を変化させるペダル式がある。チューニングボルトは、ヘッド中央の金具から放射線状に設けられたテンションロッドと接続されており、テンションロッドによりヘッドの張り具合が調整される。
【0020】
ティンパニは、ヘッドの中央ではなく、ヘッドの縁の近傍をバチで叩いて音を出す。ヘッド全体は中央を左右に通る直線を節にして波打っていて、縁は振動の腹の部分に当たる。図2は、縁の近傍を叩いた際のヘッドの振動イメージを示す上面図である。図2中、塗りつぶした箇所がふくらんだ部分、塗りつぶしていない箇所がへこんだ部分であり、(A)と(B)の状態を繰り返し、ヘッド全体が波打ちながら音を出す。丸いケトルの中に閉じ込められた空気により規律の正しい整数倍の膜振動が得られると言われている。
【0021】
以下では、本発明の詳細を実施例により説明するが、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0022】
実施例1は、圧電フィルムセンサを用いたティンパニの調律装置に関する。
実施例1では、予め調律されたティンパニのヘッドのほぼ中央に圧電フィルムを貼着して、音名判別が正しく行えるかを実験した(図3参照)。実施例1の調律装置は、圧電フィルムからの信号を、第1の増幅器(自作のチャージアンプ)および第2の増幅器(四国計測工業社製)で増幅し、データロガー(OMRON社製ZR−MDR10)およびその専用PCソフトで観測するように構成されている。
増幅器を2段構成とされており、1段目(チャージアンプ)は圧電フィルムに誘起された電荷を電圧に変換するアンプであり、2段目(電圧調整アンプ)は出力側の測定機器等の入力電圧によって電圧変換するアンプである。1段目(チャージアンプ)で増幅度を変更すると入力抵抗等が変化する可能性があるため、1段目(チャージアンプ)を一定として入力抵抗変化なしに圧電フィルムに誘起された電荷を電圧に変換し、出力電圧が小さい場合は2段目(電圧調整アンプ)で増幅するようにしている。
実施例1の調律装置は、圧電フィルムからの信号を、四国計測工業社製の第1の増幅器(チャージアンプ)および第2の増幅器(電圧調整アンプ)で増幅し、データロガー(OMRON社製ZR−MDR10)およびその専用PCソフトで観測するように構成されている。
【0023】
電源周波数である60Hz(東日本は50Hz)とその3倍高調波である180Hz(東日本は150Hz)付近は測定条件により雑音が観測される可能性があるため、ノッチフィルタを入れている。
【0024】
実施例1では東京センサ社の圧電フィルム(FDTシリーズ)を使用した。この製品は、この圧電フィルムは、銀インクスクリーン印刷電極をセンサ部と一体のフレキシブル回路として延ばし、コネクタをつけて構成される。実施例1で使用した圧電フィルムの仕様を以下に示す。
【0025】
型番:FDT1−052K
シート部寸法:16mm×235mm
電極部寸法:12mm×30mm
全体の厚さ:85μm
フィルムの厚さ:52μm
静電容量:0.74nF
【0026】
図4は、Aの音(220Hz)を打音した際の圧電フィルムからの信号を、第1の増幅器で1000倍に増幅し、第2の増幅器で11.3倍に増幅して得られた電圧変化のグラフである。図5は、図4をフーリエ変換して得られた周波数スペクトルであり、222.17Hzにピークを観測することができた
【0027】
続いて、市販のチューナー(ヤマハ社製TDM−70)との連系実験をした。予め調律されたティンパニを弱く叩き、チューニング周波数を440Hzに設定したチューナーに、第1の増幅器で1000倍に増幅した圧電フィルムの信号を入力したところ、cent目盛の針が中央の0を示すと共に音が合ったことを示すグリーンランプが点灯した。
【0028】
以上の結果から、実施例1の調律装置により、Aの音(220Hz)を正しく判別できることを確認することができた。
【実施例2】
【0029】
実施例1と同じ調律装置を用いて、ティンパニのヘッドのほぼ中央に圧電フィルムを貼着して、音名判別が正しく行えるかを実験した。実施例2では、実施例1からティンパニのペダルを動かし、調律がされていない状況とした。なお、実施例2は、実施例1と同じ強さで叩いているが、人手によるため完全に同じ強さではない。
【0030】
図6は、Aの音(220Hz)を打音した際の圧電フィルムからの信号を、第1の増幅器で3倍に増幅し、第2の増幅器で11.3倍に増幅して得られた電圧変化のグラフである。図7は、図6をフーリエ変換して得られた周波数スペクトルである。図7から、221.56Hzにピークを観測することができた。
【実施例3】
【0031】
実施例3は、カンチレバータイプの圧電フィルムセンサを用いたティンパニの調律装置に関する。実施例3では、実施例1と比べ約10倍程度の出力が得られため、増幅器を用いない簡易な構成とすることができる。すなわち、実施例3の圧電フィルムセンサによれば、市販のチューナー(ヤマハ社製TDM−70)に圧電フィルムセンサを直結して調律を行うことも可能である。
【0032】
図8は、実施例3に係るカンチレバータイプの圧電フィルムセンサの上面図および側面図である。実施例1では東京センサ社のMiniSense 100を使用した。この製品は、低コストのカンチレバータイプの振動センサで、低周波数で高い感度を発揮するおもり13を備えている。ピン12は簡単に取り付けられるように設計されており、プリント基板(PCB)等に半田付けが可能である。アクティブなセンサ部分がシールド加工されており、RFI/EMIノイズの影響を受けにくくなっている。圧電フィルム11はPVDFであり、異なる周波数応答および感度を選択できるように、検知するおもりの重量を変更することができる。水平に取り付けられたビームの端部に重量の慣性力がかかると、垂直平面の加速度によってビームに曲がりが生じ、ビームが歪むことによってピエゾ電気が応答し、センサの電極から電荷すなわち電圧出力として検知される。MiniSense 100はもともとローパスフィルタになっているためティンパニの発生する周波数に合わせることができれば電子回路的なフィルタはほとんど必要ない。また、共振周波数もあるため感度の高い共振部分を使用することも考えられる。
【0033】
圧電フィルムセンサは、ティンパニの中心付近に設置するのが好ましい。叩いた反対側にセンサを張り付けると振動が制限されるためである。ティンパニの真中は理論的には殆ど振動しない部分ではあるが、実際にはセンサで検出するのに十分な程度は振動していることが後述の測定結果より確認できた。
圧電フィルムセンサの構造と共振周波数の変化は、図9に示す相関関係がある。すなわち、共振周波数の上下は、おもりの重さ、おもりとピンの距離、圧電フィルムの硬さとそれぞれ相関関係が認められる。
【0034】
実施例1と同じデータロガーおよびその専用PCソフトを用いて、Aの音(220Hz)を圧電フィルムセンサにより測定した。
図10は、Aの音(220Hz)をおもりの重さを変えて測定した場合の電圧変化を示すグラフである。図10(A)では2個のおもり(約0.24g)を圧電フィルム先端に配置し、図10(B)では1個のおもり(約0.12g)を圧電フィルム先端に配置し、図10(C)ではおもり無しで測定を行った。
図11は図10をフーリエ変換して得られた周波数スペクトルのグラフである。図11(A)および(B)ではAの音に近い223Hz付近に大きなピークが見られる。なお、164Hz付近にもピークが見られるが、これは叩いたときの衝撃によるものと推測される。図11(C)では、224Hz付近に加え、166Hzおよび336Hzにそれより小さなピークが観測できる。ここで、336Hzのピークが新たにでてきたが、これは基本周波数の1オクターブ下の112Hzの3倍音なので、これが観測できても不思議なことではない。
図10および図11から、カンチレバータイプの圧電フィルムセンサによれば、増幅器を用いずとも高い出力を得られることが確認された。
【実施例4】
【0035】
実施例3と同じ条件で、Gの音(97Hz)をおもりの重さを変えて測定した。
図12は、Gの音(97Hz)をおもりの重さを変えて測定した場合の電圧変化を示すグラフである。図12(A)では2個のおもり(約0.24g)を圧電フィルム先端に配置し、図12(B)では1個のおもり(約0.12g)を圧電フィルム先端に配置し、図12(C)ではおもり無しで測定を行った。
図11は図12をフーリエ変換して得られた周波数スペクトルのグラフである。図13(A)および(B)ではGの音に近い97Hz付近に大きなピークが見られる。なお、ここでは余韻をフーリエ変換しても比率に変化はなかった。図13(C)では、97Hz付近にピークを観測することができなかった。これは、おもり無しの場合、高い周波数成分しか拾えないためである。
図12および図13から、おもりの重さと共振周波数の変化に相関関係があることが確認された。また、Gの音は周波数が低いため、この製品のおもりとピンの距離、圧電フィルムの硬さでは、おもり無しでは測定が難しいことが確認された。
なお、実施例3と比べ1オクターブ下のAの音(110Hz)においても同様の傾向が観測され、おもり無しでは測定が難しいことが確認された。
【実施例5】
【0036】
実施例5は、湾曲させた圧電フィルムセンサを有するティンパニの調律装置に関する。
本実施例の圧電センサ10は、U字状に湾曲した圧電フィルム11と、圧電フィルム11の上面が固定されたアーム14と、アーム14に連結された棒状体からなる支持部15と、支持部15の下方に設けられた固定部16とを備える。この圧電センサ10は、固定部16から延出される図示しない信号線により、実施例1の第1および第2の増幅器に接続されて使用される。圧電フィルム11は、上面、下面および湾曲部を有し、上面と下面が略水平となる体勢において、下面がティンパニのヘッド21に当接する状態で使用される。ここで、上面と下面の長さは同じ長さである必要はなく、下面の一定面積がヘッド21に当接すれば足りる。
【0037】
図14に示すように、圧電センサ10は、固定部16によりティンパニのチューニングボルトやフレーム等に着脱自在に固定することができる。本実施例の固定部16は、ティンパニのチューニングボルト22をバネ付勢された顎により掴持する器具である。圧電センサ10は、圧電フィルム11の下面がティンパニのヘッド21に当接する位置に取り付けられる。ここで、支持部15は、ネジ等により棒状体の長さを調節できるように構成することが好ましい。
アーム14は、圧電フィルム11がヘッド21の外周(締め枠)から所定の距離に位置する長さに構成される。
図15は、本実施例の圧電センサ10による出力をフーリエ変換して得られた周波数スペクトルのグラフである。図15(A)はGの音を、図15(B)ではEの音を測定した結果を示すところ、前者では98Hzにピークが見られ、後者では82Hzにピークが見られ、良好な測定結果が得られることが確認された。
【0038】
測定可能な周波数は、圧電フィルム11とヘッド21との位置関係により異なる。すなわち、圧電フィルム11のヘッド21の外周からの距離を変えることにより、測定可能な周波数が異なるものとなる。そのため、ティンパニの半径の範囲でアーム14の長さをネジ等により長さを調節できるように構成することが好ましい。また、ティンパニ毎にアーム14の最適長さは異なるため、各メーカーの特定の型番に対応した長さのアーム14を有する圧電センサ10を提供するようにしてもよい。
【0039】
図16は、図14のi〜ivの各位置においてGの音を測定した際の出力をフーリエ変換して得られた周波数スペクトルのグラフである。同図から分かるように、測定となる周波数(98Hz)以外のピークの出方が、測定位置(締め枠からの距離)によって異なることが分かる。すなわち、最適な測定位置(同図においてはiiiの位置)を選択することにより、測定対象となる周波数を低ノイズで測定できることを確認することができる。
【符号の説明】
【0040】
1 上部電極
2 圧電材料
3 下部電極
4 配線+
5 配線−
10 圧電センサ
11 圧電フィルム
12 ピン
13 おもり
14 アーム
15 支持部
16 固定部
20 ティンパニ
21 ヘッド
22 チューニングボルト
23 フレーム
24 ケトル
【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有するシート状圧電センサを膜鳴打楽器の膜に配置して膜の振動を電気信号に変換し、当該電気信号を処理する電子回路により音名を判別することを特徴とする有音程の膜鳴打楽器の調律方法。
【請求項2】
前記圧電センサが、カンチレバータイプの圧電フィルムセンサであることを特徴とする請求項1の有音程の膜鳴打楽器の調律方法。
【請求項3】
前記圧電センサが、その下面が膜鳴打楽器の膜に配置されるU字状の圧電フィルムセンサを有ることを特徴とする請求項1の有音程の膜鳴打楽器の調律方法。
【請求項4】
前記圧電センサが、ポリフッ化ビニルデン(PVDF)のフィルムを含んで構成されることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかの有音程の膜鳴打楽器の調律方法。
【請求項5】
前記膜鳴打楽器が、ティンパニであることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかの有音程の膜鳴打楽器の調律方法。
【請求項6】
膜鳴打楽器の膜に配置され、膜の振動を電気信号に変換する、可撓性を有するシート状圧電センサと、
前記圧電センサから得られた電気信号を外部チューナーに送信する出力回路と、を備えることを特徴とする有音程の膜鳴打楽器の調律装置。
【請求項7】
膜鳴打楽器の膜に配置され、膜の振動を電気信号に変換する、可撓性を有するシート状圧電センサと、
前記圧電センサから得られた電気信号を処理して音名を判別する処理部と、処理部による判別結果を表示する表示部と、を備えることを特徴とする有音程の膜鳴打楽器の調律装置。
【請求項8】
前記圧電センサが、カンチレバータイプの圧電フィルムセンサであることを特徴とする請求項6または7の有音程の膜鳴打楽器の調律装置。
【請求項9】
前記圧電センサが、その下面が膜鳴打楽器の膜に配置されるU字状の圧電フィルムセンサを有ることを特徴とする請求項6または7の有音程の膜鳴打楽器の調律装置。
【請求項10】
前記圧電センサが、ポリフッ化ビニルデン(PVDF)のフィルムを含んで構成されていることを特徴とする請求項6ないし9のいずれかの有音程の膜鳴打楽器の調律装置。
【請求項11】
前記膜鳴打楽器が、ティンパニであることを特徴とする請求項6ないし10のいずれかの有音程の膜鳴打楽器の調律装置。
【請求項1】
可撓性を有するシート状圧電センサを膜鳴打楽器の膜に配置して膜の振動を電気信号に変換し、当該電気信号を処理する電子回路により音名を判別することを特徴とする有音程の膜鳴打楽器の調律方法。
【請求項2】
前記圧電センサが、カンチレバータイプの圧電フィルムセンサであることを特徴とする請求項1の有音程の膜鳴打楽器の調律方法。
【請求項3】
前記圧電センサが、その下面が膜鳴打楽器の膜に配置されるU字状の圧電フィルムセンサを有ることを特徴とする請求項1の有音程の膜鳴打楽器の調律方法。
【請求項4】
前記圧電センサが、ポリフッ化ビニルデン(PVDF)のフィルムを含んで構成されることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかの有音程の膜鳴打楽器の調律方法。
【請求項5】
前記膜鳴打楽器が、ティンパニであることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかの有音程の膜鳴打楽器の調律方法。
【請求項6】
膜鳴打楽器の膜に配置され、膜の振動を電気信号に変換する、可撓性を有するシート状圧電センサと、
前記圧電センサから得られた電気信号を外部チューナーに送信する出力回路と、を備えることを特徴とする有音程の膜鳴打楽器の調律装置。
【請求項7】
膜鳴打楽器の膜に配置され、膜の振動を電気信号に変換する、可撓性を有するシート状圧電センサと、
前記圧電センサから得られた電気信号を処理して音名を判別する処理部と、処理部による判別結果を表示する表示部と、を備えることを特徴とする有音程の膜鳴打楽器の調律装置。
【請求項8】
前記圧電センサが、カンチレバータイプの圧電フィルムセンサであることを特徴とする請求項6または7の有音程の膜鳴打楽器の調律装置。
【請求項9】
前記圧電センサが、その下面が膜鳴打楽器の膜に配置されるU字状の圧電フィルムセンサを有ることを特徴とする請求項6または7の有音程の膜鳴打楽器の調律装置。
【請求項10】
前記圧電センサが、ポリフッ化ビニルデン(PVDF)のフィルムを含んで構成されていることを特徴とする請求項6ないし9のいずれかの有音程の膜鳴打楽器の調律装置。
【請求項11】
前記膜鳴打楽器が、ティンパニであることを特徴とする請求項6ないし10のいずれかの有音程の膜鳴打楽器の調律装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2012−208487(P2012−208487A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−55309(P2012−55309)
【出願日】平成24年3月13日(2012.3.13)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年3月13日(2012.3.13)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【Fターム(参考)】
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