説明

服薬遵守モニターシステム

本発明は、患者が処方薬を服用した後の呼気中のマーカーを検出することによる、処方薬の服用における患者の遵守をモニターするための新規な方法を提供する。特に、本発明は、薬物と組合される添加物の新規製造方法を提供する。患者の体内での薬物/添加物製剤の生物学的分解に際して、添加物の生物学的分解から直接生じたマーカーを、センサー技術を用いて呼気において検出する。本発明の或る実施形態においては、服薬遵守モニターシステムおよび方法は、患者のコンプライアンスを(遠隔的または近接的に)追跡し、必要な警告を患者、治療奉仕者、医療提供者などに与えうる報告システムを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願に対する相互参照
本出願は、2006年3月7日付け出願の米国仮特許出願第60/779,729号(その全体を参照により本明細書に組み入れることとする)の利益を主張するものである。
【0002】
発明の分野
本発明は、服薬遵守(drug adherence)をモニターするための、においなどの形態のマーカー検出、より詳しくは、マーカーが薬物と組合されている場合の、薬物が患者により服用された後の呼気におけるマーカーの検出のための方法および装置に関する。
【背景技術】
【0003】
呼気は独特の体液である。血液、尿、糞便、唾液、汗および他の体液とは異なり、それは呼気ごとに入手可能であり、したがって連続的なものである。それは非侵襲的なサンプル採取で容易に入手可能であり、肺は心臓の右側からの血流の全てを受容するため、呼気中のアナライト/化合物の測定値は血中濃度に相関すると示唆されている。呼気サンプル採取のもう1つの有利な点として、他の体液と比べて、呼気は重篤な感染症の伝染に結びつく可能性が低いことが挙げられる。さらに、呼気サンプルの採集は比較的簡便であり、痛みを伴わない。
【0004】
さらに、呼気は37℃(体温)で100%の湿度を含有し、したがって、それはエーロゾルとみなされうる。採集サンプルの温度が37℃以上に維持されれば、それはこの状態を保ち続け、水に不溶性であるか又は水から容易に拡散する化合物の気体として取り扱われうる。この場合、気体媒体で機能するよう設計されたセンサーが好ましいであろう。高度に水溶性であり溶解状態のまま存在すると思われる化合物の場合には、呼気サンプルは、冷却されて生じる凝縮物として採集されうる。ついで、液体に基づく分析用に設計されたセンサーで、この液体を分析することが可能である。気相において検出可能であると思われる化合物は典型的には、静脈内麻酔薬であるプロポホールのように親油性(疎水性)であり、一方、液相において検出されると思われる化合物は、グルコース、乳酸および恐らくは更には電解質のように親水性である。したがって、呼気サンプルは、ある化合物およびセンサーに関しては気体マトリックスを、そしてその他のものに関しては液体マトリックスを与えるよう取り扱われうる。2以上の化合物を検出することが望ましい場合(例えば、呼気中の親水性分子および疎水性分子の検出)には、サンプルを分割し、一部分を気体として維持し、一部分を液体として凝縮させることが可能である。
【0005】
処方薬の作用は、服用された薬物の量(用量)、および薬物の連続投与を隔てる時間間隔に左右されることが、医学文献において十分に立証されている。薬物非コンプライアンス(または非遵守)は、処方された投与量で時間どおりに薬物を服用しないことを意味し、これは患者における過少薬物または過剰薬物につながる。服薬遵守の欠如は、多数の疾患と同様に危険かつ不経済である。医師または治療奉仕者の誰もが理解しているとおり、医薬は、処方されたとおりに服用された場合にのみ有効となる。
【0006】
非コンプライアンスは患者および疾患の全範疇に影響を及ぼす。短いクールの抗生物質の投与を受けている者だけでなく、乳癌、臓器移植および高血圧を有する者も皆、自分自身の薬物の服用を忘れることがあるのである。研究者は、患者が遵守するかどうかに影響を及ぼす200を超える変数を特定している。また、コンプライアンス率は、無症候性疾患を有する患者の場合には特に、時間経過と共に減少するようである。
【0007】
担当医師により処方された薬物投与計画に対する患者の非コンプライアンスは、毎年約1000億ドルと見積もられる欠勤、過剰な医療費、治療費の増大、より高い合併症発生率、および薬物浪費を招く。非コンプライアンスは米国だけでも毎年125,000の死亡例を引き起こしていることを、種々の研究が示している [Smith, D., “Compliance Packaging: A Subject Education Tool,” American Pharmacy, NS29(2) (1989)]。さらに、薬物非遵守は病院および養護施設への入院の10〜25%につながっており、国際的に広まりつつある [Standberg, L.R., “Drugs as a Reason for Nursing Home Admissions,” American Healthcare Association Journal, 10(20) (1984); Schering Report IX, The Forgetful Subject: The High Cost of Improper Subject Compliance; Oregon Department of Human Resources, A study of Long-Term Care in Oregon with Emphasis on the Elderly, (March 1981)]。
【0008】
毎年調合される20億件の処方の約50%は適切に服用されていない [National Council for Subject Information and Education]。患者の1/3は彼らの全ての医薬を服用し、患者の1/3は処方薬の一部を服用し、患者の1/3は全く何も服用しない [Hayes, R.B., NCPIE Prescription Month, (October 1989)]。米国人全体が高齢化し、老化に伴う疾患と闘うために薬物に益々頼ることになるため、種々の研究により報告されているそのような最善とは言えないコンプライアンス率は、より一層大きな懸念材料となる。2025年までに、米国の人口の17%以上が65歳以上となり [Bell JA, May FE, Stewart RB: Clinical research in the elderly: Ethical and methodological considerations. Drug Intelligence and Clinical Pharmacy, 21: 1002-1007, 1987]、高齢者は、平均して、65歳未満の集団と比べて3倍以上多数の薬物を服用する [Cosgrove R: Understanding drug abuse in the elderly. Midwife, Health Visitor & Community Nursing 24(6):222-223, 1988]。老化に伴うことのある忘れっぽさも、コンプライアンスを大規模にモニターするための費用効果的な方法を案出することを、より一層緊急なものとする。
【0009】
さらに、伝染性の疾患を有する患者の非コンプライアンスは公衆衛生機関に毎年数百万ドルを費やさせ、薬物耐性の可能性を増加させ、流行につながる薬物耐性病原体の広範な広がりを招きうる。例えば、非コンプライアンスの最も重大な結末は、HIVの新たな薬物耐性株の突発的集団発生を含み、これは、複雑な薬物投与計画を適切に遵守しない患者に原因があるとされている。また、抗生物質の長期的な誤使用は、かつては治療可能であった、最も進んだ薬物に不感受性の疾患形態を生み出している。
【0010】
健康問題に対する現在の服薬遵守改善方法は大抵は複雑であり、労働集約的であり、予測可能に有効なものではない [McDonald, HPら, “Interventions to enhance subject adherence to drug prescriptions: scientific review,” JAMA, 289(4):3242 (2003)]。米国人全体に対するこの重大な脅威に対処するために、費用効果的であるが実施困難な計画が米国内の数箇所において開発されている。それは、熟練した専門家による全ての薬物送達の直接的な観察(直接観察療法(directly observed therapy): DOT)を伴うが、大規模な実施に実用的なものでない。また、多数の技術が侵襲的である(例えば、採血)。
【0011】
本発明者らにより開示されている従来の服薬遵守モニターシステムは、処方されたとおりに患者が薬物をいつ服用したか及び/又は薬物を服用したかどうかを検出するための手段としての呼気の使用に関するものであった(例えば、米国特許出願番号10/722,620(2003年11月26日付け出願)および11/097,647(2005年4月1日付け出願)を参照されたい)。それらの出願に記載されているモニターシステムは、薬物、薬物の代謝産物または検出マーカー(薬物と組合されたもの)もしくはその代謝産物のいずれかを呼気において検出した。それらの出願において使用を考慮されたマーカーの多数は主として、FDAによる分類におけるGRAS(「安全であると概ね認められる(Generally Recognized As Safe)」)化合物であった。残念ながら、現在利用可能な検出器(センサー)は、呼気中のこれらの化合物を、実際の装置において使用されるのに十分な濃度で、信頼でき且つ特異的なように検出しない。
【0012】
したがって、非侵襲的であり、直観的であり、衛生的である、薬物投与の簡便なモニターをもたらす、薬物コンプライアンスを改善するためのシステムおよび方法が、当技術分野において必要とされている。特に、商業的に入手可能な検出器を使用して非常に低い濃度でさえも呼気において容易に検出可能であり高揮発性である、遵守モニターのために薬物と組合されうる特有のマーカーの群が必要とされている。
【発明の開示】
【0013】
発明の概要
本発明は、患者の体内における薬物の吸収、分布、代謝および/または排泄の産物である呼気中のマーカーを検出することによる、服薬遵守の非侵襲的モニターのための方法および装置を提供することにより、当技術分野におけるそのような要求を満たすものである。好ましくは、マーカーは、薬物と組合された添加物に由来し、ここで、マーカーは、患者による薬物および添加物の両方の吸収、分布、代謝および/または排泄に際して呼気において検出可能である。
【0014】
本発明においては、マーカーは、現在利用可能な多数のセンサー技術を用いて呼気において検出されうる。1つの実施形態においては、本発明は、好ましくは、呼気中のマーカーを検出し患者の服薬コンプライアンスを非侵襲的にモニターするために、「人工鼻(artificial nose)/電子鼻(electronic nose)」または「電子舌(electronic tongue)」と称される市販の装置を利用する。
【0015】
ある実施形態においては、本発明のシステムおよび方法は、マーカーを検出するだけでなく、患者の服薬コンプライアンスの指標となる、呼気中のマーカーの濃度の定量および傾向分析をも行う。本発明の1つの態様においては、呼気中のマーカーの濃度は、患者により服用された薬物の濃度と相関することが可能であり、適当な薬物量が患者により服用されたかどうかの非侵襲的評価を可能にする。
【0016】
本発明のこのシステムおよび方法は、代謝されると、呼気において検出可能なマーカーを産生する添加物を含む、患者により服用されるべき少なくとも1つの薬物と、少なくとも1つのマーカーの存在および/または濃度に関して患者の呼気を分析するための呼気センサーとを含む。マーカーは患者の服薬コンプライアンスの指標となる。
【0017】
本発明の方法は、患者の呼気における1以上のマーカーの濃度を検出および/または測定する工程を含む。呼気におけるマーカー濃度は、患者の血液中の薬物の濃度(または投与量)を定量するために用いられうる。
【0018】
本発明の或る実施形態においては、患者の服薬コンプライアンスの尺度としてマーカーの存在を検出し及び/又はマーカーの濃度を定量するために、呼吸周期の特定の相、すなわち、呼気の安静呼気終末部分をサンプル採取する。他の実施形態においては、マーカーの存在を検出し及び/又はマーカーの濃度を定量するために、呼気中に存在する液体成分をセンサー技術に付す。
【0019】
本発明において使用するセンサーには、患者による服薬遵守を非侵襲的にモニターするための「人工」または「電子」鼻または舌として一般に公知の市販装置が含まれるが、これらに限定されるものではない。本発明のセンサーには、金属-絶縁物-金属アンサンブル(MIME)センサー、交差反応性光学マイクロセンサーアレイ、蛍光高分子膜、コロナ装置、表面増強ラマン分光法(SERS)、半導体ガスセンサー技術、導電性高分子ガスセンサー技術、表面音響波ガスセンサー技術、機能化マイクロカンチレバー(functionalized microcantilever)、顕微分光器およびイムノアッセイが含まれうるが、これらに限定されるものではない。
【0020】
本発明は、薬物と組合わせるための添加物の開発(development)のための方法を含み、ここで、添加物に対する患者の生物活性から生じる添加物副産物(本明細書中ではマーカーとも称される)が呼気中に出現する。患者の医療提供者により処方されたとおりに患者が彼/彼女の薬物を摂取したかどうかを誰にとっても簡便な方法で判定するために、マーカーが使用される。
【0021】
ある実施形態においては、本発明のシステムは、マーカーの存在/濃度を(遠隔的または近接的に)追跡し必要な出力、制御および警告を与えうる報告システムを含む。例えば、ある実施形態においては、本発明は、1以上の薬物の服用における患者のコンプライアンスを(呼気におけるマーカー検出を介して)追跡し、患者、医療従事者および/または介護者に非コンプライアンスを警告しうる報告システムを提供する。提供される警告は、アラームおよび/または報告を含みうる。
【0022】
本発明の服薬遵守モニターシステムは、臨床場面、または患者が本拠とする場所において使用されうる。小さな手持ち携帯用服薬遵守モニターシステム(MAMS)装置が、家庭、職場、養護施設において又は歩行しながら、患者により使用されうるであろう。一方、手術室、集中治療室、および病院または他の医療施設(例えば、この性能が貴重となる、診療所、医師室)の他の区域における連続的モニターのために、他のMAMSが設計されうるであろう。
【0023】
本発明の1つの実施形態においては、マーカーの存在および/または濃度のモニターは、本発明のシステムを使用して連続的に行われる。本発明のもう1つの実施形態においては、マーカーの存在および/または濃度のモニターは、本発明のシステムを使用して断続的に行われる。1つの具体例においては、本発明のセンサーは、患者の呼気中の標的マーカーを検出および/または測定することにより患者への薬物の適当な送達をモニターするために、医療現場または患者が本拠とする遠隔地において使用されるであろう。
【0024】
したがって、本発明は、個々の患者の薬物投与計画がプログラムされたコンピューターとセンサーとを含む薬物モニターシステムを提供し、ここで、コンピューターは、センサーの結果を追跡し記憶し、アラームを発し、報告を作成するなどの能力を有する。薬物を患者に投与する時点で、患者の呼気のサンプルを随意性呼気を介してセンサーに供与し、あるいは気管内(ET)または気管切開チューブが患者に挿管されている場合には、チューブに接続するようセンサーを配置して、患者の呼気中に存在するマーカーを検出および/または定量する。そのような薬物モニターシステムにより、臨床家は、患者が介護者により適切に投薬されているかどうかを記録し追跡することが可能である。また、そのようなシステムは、薬物過誤が生じるのを予防しうるであろう。
【0025】
本発明のもう1つの態様は、ハウジング、該ハウジング内に配置されたセンサー(センサーは、呼気中の標的マーカーの存在を検出し及び/又はマーカー濃度を定量する能力を有する)、およびセンサーに隣接してハウジング内に配置された報告モジュール(センサーによる呼気中のマーカーの存在の検出および/またはマーカー濃度の定量が報告モジュールを介して使用者に連絡されるよう、報告モジュールはセンサーに機能的に接続されている)を含む、呼気中の標的マーカーの存在を検出するための服薬遵守モニターキットを含む。
【0026】
したがって、呼気中のマーカーを分析するセンサーを使用して、呼気中に存在するマーカー(薬物に関連したもの)の存在および/または濃度をモニターすることにより患者の服薬コンプライアンスを非侵襲的にモニターすることが、本発明の目的である。
【0027】
本発明の得られる利点は、非侵襲的、使用容易、費用効果的および連続的に患者の服薬遵守をモニターしうることである。本発明は特に、処方薬の不適切な使用をもたらす原因に対して、現在市販されているものより良好に対処するシステムを提供する。また、本発明は、薬物非コンプライアンスに関連した経済的および社会的経費の削減(例えば、薬物効力の増強による入院の減少に関連した経費、および微生物薬物耐性の対策に関連した経費の削減)を可能にする。
【0028】
次に、限定的なものではなく例示として、添付図面に関して本発明を説明する。本発明の他の目的、特徴および利点は以下の詳細な開示および添付の特許請求の範囲から明らかであろう。
【0029】
発明の詳細な説明
本発明は、患者の体内における薬物の吸収、分布、代謝および/または排泄の産物である呼気中のマーカーを検出することによる、患者による服薬遵守の非侵襲的モニターのための方法および装置を提供する。好ましくは、マーカーは、薬物が患者により服用された後、呼気において検出可能である。1つの実施形態においては、検出されるマーカーは、薬物と組合された新規添加物に由来し、ここで、添加物および薬物の両方が患者の体内で吸収され、分布し、代謝され、および/または排泄される。
【0030】
この開示の全体にわたり、マーカーは、処方されたとおりに患者により服用されるべき薬物に添加される物質(本明細書中では添加物とも称される)の副産物と定義される。患者による物質/添加物の吸収、分布、代謝および/または排泄に際して、マーカーが呼気において検出可能である。好ましくは、マーカーは、その物理的または化学的特性により、呼気において検出可能であり、患者が薬物の服用指示を遵守した指標として用いられる。
【0031】
本発明は、患者の体内における薬物の吸収、分布、代謝および/または排泄の指標となるマーカーの存在に関して患者の呼気を分析することによる、患者の服薬遵守の非侵襲的モニターのためのシステムおよび方法を提供する。
【0032】
ある実施形態においては、センサー技術を用いて、少なくとも1つのマーカーの呼気中濃度を分析し、ここで、マーカー濃度は患者における薬物の濃度、特に血中薬物濃度に相関する(本明細書中では薬物モニター [TDM]とも称される)。したがって、マーカーの呼気濃度に基づき、患者における対応薬物の濃度が非侵襲的かつ効率的に評価されうる。患者における薬物濃度の知見は、適当な薬物量が患者により服用されたかどうかの評価において特に有用である。
【0033】
定義
本明細書中で用いる「薬物」なる語は、疾患または状態の診断、治療または予防において使用される物質を意味し、ここで、薬物の服用における患者のコンプライアンスが確保されるよう、患者における薬物の存在(または患者の血流中の薬物の濃度)がモニターされる。本発明の薬物には、例えば以下の状態(それらに限定されるものではない)のいずれかの治療に有用な薬物が含まれる:注意欠陥障害(ADDまたはADHD)、副腎障害、エイズおよび他のウイルス疾患、アレルギー、不安、細菌感染症、先天性欠損、血液障害、癌、心血管障害、抑うつ障害、糖尿病、消化障害、失読症、耳、鼻および喉の病態、内分泌障害、子宮内膜症、眼障害、遺伝障害、尿生殖器障害、口臭、二日酔い、痔、ホルモン障害、免疫障害、感染症、インスリン抵抗性、筋骨格障害、神経障害、栄養障害、上皮小体、寄生生物感染、下垂体、多房性卵巣症候群、妊娠合併症、早漏、呼吸障害、性感染症、皮膚障害、睡眠障害および甲状腺。
【0034】
本開示の全体にわたり、「マーカー」は、本発明のセンサーを使用して、その物理的または化学的特性により、呼気において検出される物質と定義される。本発明のマーカーは、好ましくは、呼気における特有のもの(例えば、それらは、呼気中に一般に存在する分子ではなく、それらは食物中には見出されず、それらは内因的には産生されない、など)であり、代謝的に安定であり、患者に対して無毒性であり、薬物の薬物動態および/または薬力学を変化させず、相対的に安価であり、容易に利用可能であり、容易に合成され薬物と組合される。
【0035】
ハロゲン化化合物(すなわち、フッ素化マーカー)は特に有望である。なぜなら、それらは、易揮発性かつ高揮発性であり、必要量でのヒトによる消費に安全であり、種々のタイプの可搬性フレオン(Freon)漏出検出器で呼気において容易に検出されるからである。これらの化合物のいくつかは、肺経路による薬物の送達(例えば、定量吸入器)のための噴射剤(propellant)として使用され、したがって、安全であることが公知であり、FDAにより承認されている。フレオン漏出を検出するために最もよく用いられる技術には、負イオン捕捉、加熱センサー/セラミック半導体、赤外吸収、およびTIF TIFXP-1A陰極コロナ漏出(Negative Corona Leak)検出器が含まれる。多数の薬物がフッ素化されており、代謝産物は、しばしば、極めて揮発性であり、呼気において検出可能である。マーカーとして使用可能であり薬物の製造中に賦形剤として添加可能な多数のそのような化合物が入手可能である。
【0036】
本明細書中で用いる「患者」は、本発明において呼気サンプルの採集源となる、哺乳動物を含む生物を示す。薬物モニターのための本開示のシステムおよび方法から利益を受ける哺乳動物種には、霊長類、チンパンジー、ヒト、サルおよび家畜動物(例えば、ペット)、例えばイヌ、ネコ、マウス、ラット、モルモットおよびハムスターが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0037】
本発明において、本発明のシステムおよび方法を用いて呼気において検出可能なマーカーには、呼気ガス、呼気凝縮物(液相)、呼吸飛沫、呼気蒸発物、水蒸気および/または気管支もしくは肺胞エーロゾル中に見出されうるものが含まれる。
【0038】
本明細書中で用いる「薬力学」なる語は、患者の身体の構成成分との薬物の相互作用(生化学的および生理学的)、および患者の身体に対する薬物作用(すなわち、身体に対する薬物効果)のメカニズムを意味する。
【0039】
本明細書中で用いる「薬物動態」なる語は、正常な生理学的過程と薬物との間の経時的な相互作用(すなわち、薬物に対する身体効果)の数学的特徴づけを意味する。ある生理学的過程(吸収、分布、代謝および消失)は、患者において所望の効果を薬物がもたらす能力に影響を及ぼすであろう。薬物の薬物動態の知見は薬物の血流中濃度の解明の助けとなり、薬理学的に有効な薬物投与量の決定において有用である。
【0040】
本明細書中で用いる「アプタマー」なる語は、薬物マーカーに対して特異的作用を及ぼす、非天然で生じるオリゴヌクレオチド鎖を意味する。アプタマーには、核酸の候補混合物から特定された核酸が含まれる。好ましい実施形態においては、アプタマーには、SELEX法により単離された核酸リガンドに対して実質的に相同な核酸配列が含まれる。実質的に相同は、70%を超える、最も好ましくは80%を超える、一次配列相同性の度合を意味する。
【0041】
本明細書中で用いる「SELEX(商標)」法は、所望の作用(例えば、嗅マーカーへの結合)において標的マーカーと相互作用する選択された核酸リガンドと、それらの選択された核酸の増幅との組合せを含む。選択/増幅工程の随意的な反復サイクリングは、非常に多数の核酸を含有するプールからの標的マーカーと最も強力に相互作用する1つ又は少数の核酸の選択を可能にする。選択/増幅法のサイクリングは、選択された目的が達成されるまで継続される。SELEX法は以下の米国特許および特許出願に記載されている:米国特許出願番号07/536,428ならびに米国特許第5,475,096号および第5,270,163号。
【0042】
本明細書中で用いる「製薬上許容される担体」なる語は、医薬組成物のその他の成分に一般に適合可能であり、患者に有害ではなく、生物学的にもその他の点においても不都合でない、医薬組成物の製造において有用である担体を意味し、ヒトへの医薬使用だけでなく獣医学的使用にも許容される担体を包含する。本明細書および特許請求の範囲において用いる「製薬上許容される担体」は、1以上のそのような担体を含む。
【0043】
服薬遵守モニターシステム
本発明は、患者の呼気のサンプル中の薬物マーカーを検出するために呼気センサーを定期的に[例えば、処方された(定められた)間隔で]使用し、センサーの結果に基づいて、処方薬物投与計画に関する患者のコンプライアンスを定期的に(例えば、呼気サンプルが採取されセンサーに適用される、処方された間隔で)評価することを含む服薬遵守モニターのシステムおよび方法に関するものであり、ここで、薬物マーカーは処方薬と関連づけられている。ある実施形態は、コンプライアンスを改善するために、妥当な場合には患者に介入することを含む。介入の妥当性は、処方薬物投与計画に基づく予想マーカー濃度と比較した場合の、呼気サンプル中のマーカーの検出濃度に左右される。
【0044】
ある実施形態においては、マーカーは、投与された具体的な薬物および/または具体的な処方量に関する指標となりうる。例えば、ある患者には、種々の投与量の特定のタイプの薬物が処方されうる。本発明のMAMSは、患者が薬を服用しているかどうかだけでなく、患者が処方薬の適切な量を服用しているかどうかをも判別しうる。
【0045】
本発明の服薬遵守モニターシステム(本明細書中ではMAMSとも称される)は、処方薬物投与計画に関する患者のコンプライアンスの、進行中の測定に基づく。MAMSの構成部分は、患者のコンプライアンスを改善するための、呼気中の薬物マーカーのモニターされたレベルから導かれる特定の介入を含む。本発明のMAMSは、少なくとも1つの薬物投与計画に関する患者のコンプライアンスをモニターするための装置を含み、これは、患者の呼気のサンプルを得るための手段、サンプル中の少なくとも1つの薬物マーカーを検出するためのセンサー、および検出された薬物マーカーを処理するための手段[これは、検出された薬物マーカーに関するデータを記憶するための、ならびにモニターおよび/または臨床用途のために薬物マーカーの検出濃度を評価する(すなわち、薬物マーカーの検出濃度を、計画期間に関する予想濃度、それまでに記録された濃度および/または他の薬物マーカー濃度と比較する)ための手段を含む]を含む。
【0046】
本発明のMAMSを使用する方法は、患者の呼気をサンプル採取し、薬物マーカーの存在を検出するために呼気サンプルにセンサーを適用し、サンプル中の薬物マーカーの検出濃度を処方薬に関する薬物マーカーの予想濃度との対比において評価することを含む。
【0047】
遵守をモニターするための関連方法は更に、処方薬物投与計画に関する患者の種々のコンプライアンスの臨床結果に関するデータを分析し、処方投薬期間またはその一部に基づいてサンプル中の薬物マーカーの予想濃度を定め、患者に関する処方投与計画を改変、維持、中止または追加し、患者のコンプライアンスに関する結果を使用者(これは患者、医師などを含む)に提供し、MAMSにより得られた薬物コンプライアンスのパターンに基づいて患者の健康状態を評価し、処方計画を実施しながら患者の病態の進行の指標を評価し(例えば、血圧;体重または身体サイズの関連指標;コレステロールおよびその種々の画分の血漿中レベル;血中のグリコシル化ヘモグロビンレベルまたはグルコース濃度を含む、糖尿病制御のパラメーター;ならびに他の生化学的および生物物理学的指標を評価し)、呼気において検出可能なマーカーを産生する薬物を与え、患者のコンプライアンスを改善するために、適当な場合には患者に介入する工程のいずれか1つ又は組合せを含みうる。
【0048】
1つの実施形態においては、本発明のMAMSは、以下の医学的および工学的制約下で機能するよう設計される:1)臨床医学において今日使用される大多数の薬物は経口的に1日1回(PO QD)または2回(PO BID)投与されるため、MAMSは、いずれかの薬物投与計画のために機能するよう設計されうる;および2)最大の利益を患者にもたらし、最も広範な薬品市場にMAMS技術を最も早くもたらすために、(それぞれの特定の薬物ごとに開発される特定のMAMSとは対照的に)すべての経口投与薬をモニターするよう機能する単一のMAMSが構築されうる;および3)市販の既製(COTS)装置または商業的に入手可能な検出技術がMAMSの検出成分を構成しうる。
【0049】
関連実施形態においては、本発明のMAMSは、可搬性であり、迅速(そして或る場合にはリアルタイム)で高感度で特異的なマーカー検出および/もしくは呼気媒体におけるマーカー濃度の測定をもたらし、ならびに/または或る与えられた患者において薬物の摂取が生じたことが保証されるよう既存の十分に開発された技術(例えば、生物測定法、テレビ電話)と組合されうる。したがって、マーカー濃度の測定は必ずしも定量的である必要はなく、ある実施形態においては、既にMAMSで評価された薬物用量との重複が測定により回避される限り、「半定量的」測定で十分である。
【0050】
他の実施形態においては、MAMSは、非経口薬物送達(例えば、静脈内、眼、皮膚など)で投与される薬物に適用される。
【0051】
本発明においては、呼気におけるマーカーの検出に使用するセンサーはデータ処理システムに機能的に接続されうる。処理システムは、好ましくは、呼気サンプルにおいて検出されたマーカーに関してセンサーにより生成された出力信号を同化し分析するようプログラムされる。1つの実施形態においては、処理システムはコンピューターである。マーカー分析結果はコンピュータースクリーン上に表示され、記憶され、送信等されうる。さらに、コンピューター処理ユニット(またはCPU)がデータ処理/制御ユニットとして提供されうる。1つの実施形態においては、患者の呼気サンプルにおけるモニターされた薬物マーカーデータに対する、処方薬物投与計画の推奨マーカーレベルに関するデータの比較を行って、処方薬、投与量および/または薬物の持続時間範囲からの逸脱が存在するかどうかを判定するよう、処理ユニットをプログラムすることが可能である。
【0052】
1つの実施形態においては、呼気におけるマーカー検出および/またはマーカー濃度の適切な追跡および分析が可能となるよう、CPUはセンサーからの信号(シグナル)を自動的に検出し、記憶しうる。CPUに機能的に接続されたフローセンサー(flow sensor)が設けられた関連実施形態においては、CPUは、呼気のサンプル採取を制御するよう、フローセンサーからの信号を自動的に検出し、記憶しうる。CPUは更に、予め入力された情報に基づいて又は薬物血中濃度(これは呼気中に存在するマーカーの濃度に基づいて決定される)における傾向の分析に基づいて、処方された服薬時間および量に関する適当な警告を使用者/患者に与えうる。したがって、本発明のMAMSは可搬性でありうることが本発明において想定される。
【0053】
本発明においては、データ分析装置は、(センサーからの)応答のパターンを、既知マーカーからの既に測定され特徴づけられた応答と比較することが可能である。それらのパターンの突合せ(マッチング)は、人工知能システム(例えば、ニューラルネットワーク)を含む多数の公知技術を用いて行われうる。例えばニューラルネットワークを用いて、(患者の呼気サンプルにおける、分析されたマーカーに基づいて)センサーからの類似(アナログ)出力を「ブランク」または対照マーカー出力と比較することにより、そのマーカーに特有のパターンを確立することが可能であり、ついでMAMSはマーカーを認識できるようになる。1つの実施形態においては、人工知能システムが薬物マーカー濃度の評価を行うことが可能であり、評価に基づいて、処方薬物投与計画に関する患者のコンプライアンスを確認すること(特定の薬物が患者により服用されたかどうか、および/または適当な薬物量が患者により服用されたかどうかを確認することを含む)が可能である。適当な場合には、人工知能システムは、患者の健康の維持を確保し薬物転換を防ぐために、介入(例えば、処方計画の中止、改変、維持または追加)を推奨することも可能である。
【0054】
本発明のMAMSにおいて用いられうる1つの通常のアプローチは、センサーから得たデータを処理するためのニューラルネットワークを含む。ほとんどの経験的モデリング技術の場合と同様に、ニューラルネットワークの開発は、使用するために適切にフォーマット化されたデータの収集を要する。特に、当技術分野において公知のとおり、入力データ、および/または中間ネットワーク処理層の出力は、使用前に正規化される必要があるかもしれない。ニューラルネットワーク内に導入すべきデータを数値表現に変換して、数値表現のそれぞれを、例えば0および1の数字により、予め決められた範囲内の数字に変換することが公知である。したがって、本発明の知能システムは、好ましくは、1)センサーデータ出力信号から、検出された薬物マーカーデータの少なくとも一部を選択し、2)検出薬物マーカーデータの選択部分を数値表現に変換し、3)数値表現を、予め決められた範囲の数字に変換するための手段を有する。
【0055】
本発明の1つの実施形態においては、処方計画またはその一部に基づく呼気サンプル中の薬物マーカーの予想レベル/濃度に関する入力データおよびセンサーからの出力データをニューラルネットワークに提供することにより、知能システムを訓練する。知能システムの評価は、対応する入力データおよび出力データと共に、データ記録と称される。おそらくは多数の異なる患者(例えば、男性対女性、成人対小児)に関して採取された、すべての入手可能なデータ記録は、データセットを含む。本発明においては、対応するデータセットはメモリー内に記憶され、訓練、診断および決定のための処理システムによる使用のために利用可能となる。通常、知能システムは、患者から抽出されたデータを用いて、前もって訓練される。訓練データから学習したことを利用して、ニューラルネットワークはそれを他の/新たな患者に応用することが可能である。
【0056】
1つの実施形態においては、検出される個々のマーカーに対する所望の応答が最適化されるよう、センサーの個々の抵抗器の配置が選択されうる。例えば、標的マーカーの存在および/または濃度に関して液相または気相生物学的溶液を分析するための本発明における使用には、自己較正高分子「電子鼻(electronic nose)」システムが適している。ある場合には、自己較正高分子システムは、種々のマーカー、ひいては種々の薬物を検出するのに有用である。
【0057】
呼気サンプルのMAMS分析からの結果は、所望により、報告手段を介して使用者(または患者)に提供される。1つの実施形態においては、センサー技術は報告手段を含む。想定される報告手段は、電子的な又は印刷された結果を提供しうる、センサー技術に連結されたコンピュータープロセッサーを含む。あるいは、報告手段は、デジタル表示パネル、輸送可能な読取り/書込み磁気媒体(例えば、輸送され別の装置で読取られうるコンピューターディスクおよびテープ)、および印刷された報告書の作成のためのプリンター(例えば、ターミナル、レーザーまたはインクジェットプリンター)を含みうる。
【0058】
報告手段は、ファクシミリ、電子メール、郵便もしくは宅配便サービス、または報告を患者に安全かつ確実に送る任意の他の手段により、結果を使用者(または患者)に提供しうる。対話式報告手段、例えば対話式音声応答システム、コンピューターに基づく対話式報告システム、対話式電話押しボタンシステムまたは他の類似したシステムも、本発明において想定される。使用者(または患者)に提供される報告は、特定の期間にわたって行われた分析の要約または個々のサンプル分析に関する詳細な情報を含む多数の形態をとりうる。結果は、研究室用データベースまたは統計データベースを構築するためにも用いられうる。
【0059】
好ましくは、実施において、必要に応じて薬物投与の前に患者に関するベースラインスペクトルを特定するために、センサーを使用する。これは、患者が同時に2以上の薬物の投与を受ける場合に2以上の薬物マーカーの検出に、ならびに胃、口、食道および肺における種々の食物およびにおいからの考えられうる干渉の検出に有益であろう。
【0060】
本発明においては、MAMSは、呼気のサンプル中の標的マーカーの存在を検出するための試験キットとして提供されることが可能であり、試験キットは、ハウジング、ハウジング内に配置されたセンサー(センサーは、呼気サンプル中のマーカーの存在を検出し及び/又はマーカーを定量する能力を有する)、およびセンサーに隣接してハウジング内に配置された報告モジュール(センサーによるマーカーの検出および/または定量が報告モジュールにより使用者に連絡されるよう、報告モジュールはセンサーに機能的に接続されている)を含む。
【0061】
関連実施形態においては、薬物投与計画に関する患者のコンプライアンスをモニターし制御するためのキットを提供する。センサー、呼気サンプル採取手段および報告モジュールに加えて、キットは更に、薬物投薬装置、および投薬装置に連結された投薬制御システムを含みうる。投薬制御システムは、モニターされた患者のコンプライアンスに基づいて、患者への薬物の制御放出(コントロールリリース)を可能にする。したがって、キットは更に、センサー、報告モジュールおよび投薬制御システムに連結された処理システムを含みうる。処理システムは、好ましくは、センサーからの入力を受け取り、分析して、患者のコンプライアンスを判定する。処理システムにより得られた結果は、報告モジュールを使用して、使用者に報告されうる。適当な場合(例えば、患者の非コンプライアンスが確認された場合)には、処理システムは、患者への薬物の放出を制御するために投薬制御システムを作動させうる。
【0062】
MAMSは呼気サンプルの採取および分析により行われるが、本発明においては、MAMSは、体液(例えば、全血、血漿、尿、精液、唾液、リンパ液、髄膜液、羊水、陰茎亀頭液、喀痰、糞便、汗、粘液および脳脊髄液、例えば、糞便、組織および生検サンプルのようなホモジナイズされた固体物質を含有する前記溶液または混合物の全ての実験的に分離された画分)に関する患者のコンプライアンスの評価においても同等に有効でありうると予想される。当業者は、本明細書に記載されているセンサーがそのような体液における薬物マーカーの検出にも適用可能である、と容易に認識するであろう。
【0063】
呼気サンプル採取
一般に、呼出ガス(呼気)流は幾つかの順序または段階を含む。呼出の最初には、初期段階(第II相)が存在し、その代表的なガスは、呼吸システムの解剖学的に不活性な(死腔)部分から、すなわち、口および上気道から呼出される。これに続いてプラトー段階(第III相)が存在する。プラトー段階の前においては、ガスは死腔ガスと代謝的に活性なガスとの混合物である。呼気の最終部分を含むプラトー相においては、深肺ガス(いわゆる肺胞ガス)以外は存在しない。肺胞から呼出されるこのガスは呼気終末ガスと称される。
【0064】
本発明においては、呼気サンプル中の標的マーカーの存在に関して検出し及び/又はマーカー濃度を定量するために、呼吸周期の任意の特定の相からの呼気がサンプル採取されうる。例えば、初期相または呼気終末(後期プラトー)相から採取された呼気サンプルに、本明細書に記載のセンサー技術が適用されうる。
【0065】
呼気サンプルがいつ又はどの段階で採集されたのかを判定するためには、呼気終末成分のモニターに用いられる技術(例えば、CO2センサー、O2センサー、NOセンサーおよびサーミスター)が用いられうる。気道圧の測定またはガス流のモニターのための公知方法は、呼吸周期の適当な相においてサンプルを採集する他の方法を提供する。好ましい実施形態においては、呼気終末呼出において呼気サンプルを採集する。
【0066】
1つの実施形態においては、呼気サンプルを採集し分析するために、VaporLab(商標)ブランドの装置を使用する。VaporLab(商標)装置は、本発明における呼気サンプル中の成分の検出に適した、SAWに基づく手持ち式電池式化学蒸気同定装置である。この装置は、より大きな精度および識別度のために直交(orthogonal)蒸気応答をもたらす高安定性SAWセンサーアレイを使用し、揮発性および半揮発性化合物に感受性である。関連実施形態においては、この装置は、高度パターン解析および報告の作成を行うために、コンピューターに接続される。好ましい実施形態においては、この装置は、「訓練」目的の、すなわち、迅速な「オンザフライ(on-the-fly)」分析のために化学蒸気シグネチャーパターンを覚えるためのニューラルネットワークを含む。
【0067】
1つの例においては、本発明のセンサーは、薬物と共に投与された添加物から生じた患者の呼気中の標的マーカーを検出および/または測定することにより患者への薬物の適当な送達をモニターするために、臨床場面または患者が本拠とする遠隔地において使用されるであろう。
【0068】
本発明の1つのMAMSは、連続的または半連続的な患者の管理が必要とされる臨床場面(例えば、病院、熟練した介護施設、養護施設など)における使用が意図される。1つの実施形態においては、MAMSは、補助換気を要する患者に使用される。この場合、MAMSは、ベンチレータまたは他の換気補助装置の呼吸循環に「直列」に配置されうる。呼吸循環は、補助呼吸、換気、麻酔薬送達などのような目的に臨床場面で用いられる多数の通常の呼吸循環のいずれかでありうる。呼吸循環センサーは、気流にさらされる表面を有するセンサーを含み、化学蒸気または蒸気群の選択的吸収性物質を含む。センサーは、分析能を有するコンピューターに接続され、ここで、センサーは、蒸気中の標的マーカーの存在の指標となる電気信号を生成する。コンピューターは、個々の患者の適当な薬物投与計画の決定、蒸気中の標的マーカーのおおよその濃度の決定、結果の表示、警告の発令などにおける更なる有効な能力を伴いうる。
【0069】
もう1つの実施形態においては、本発明は、薬物の投与の前、途中および後に患者をモニターする方法を含み、ここで、患者は機械的ベンチレータまたは他の換気補助装置の呼吸循環に接続される。方法においては、患者への薬物の投与の前、途中および後に、少なくとも1つのセンサーを患者の呼気にさらし、薬物からin situで生じた1以上の標的マーカーをセンサーで検出し、標的マーカーの存在および/または濃度を決定する。
【0070】
さらにもう1つの実施形態においては、患者の呼気をサンプル採取し、薬物介入の開始時(薬物投与前)にMAMSで分析して、比較用のベースラインを得る。例えば、薬物投与前に呼気中に存在しうるマーカーを使用してベースラインを構築すれば、薬物コンプライアンスの正確な評価が保証されるであろう。したがって、ベースラインの確定は、薬物の服用における患者のコンプライアンス(または非コンプライアンス)の正確な反映を可能にする。
【0071】
関連実施形態においては、本発明は、ガス状薬物(例えば、麻酔薬)の投与の前、途中および後に患者をモニターする方法を含み、ここで、患者は呼吸循環に接続される。方法においては、第1センサーを吸入ガスにさらし(ここで、少なくとも1つの吸入ガスはガス状薬物である)、第2センサーを呼出ガスにさらし、1以上の標的マーカーをセンサーで検出し、標的マーカーの存在および/または濃度を決定する。
【0072】
もう1つの関連実施形態においては、方法は、薬物投与計画に対する適当な遵守が保証されるよう薬物が患者に送達される時点を評価する工程をも含みうる。方法に対する追加工程は、薬物投与計画に対する適当な遵守が達成されているかどうかを評価し、薬物コンプライアンスに関する評価を記録し連絡することを含む。
【0073】
さらにもう1つの実施形態においては、本発明は、処方薬の服用における患者のコンプライアンスを確保するための自動薬物送達およびモニターシステムを含む。本発明の自動化システムは、好ましくは、呼吸循環および/またはIVにより、適当な薬物量を一定の時点で自動的に患者に送達する。したがって、システムは、(1)ガス状薬物供給装置(これは、供給装置により呼吸循環に供給される揮発性薬物の量を制御するための制御装置を有する)、および/または(2)患者に静脈内投与されるIV薬物の量を制御するための制御装置を有するIV薬物供給装置、(3)患者の血流中の薬物の存在および/または濃度の指標となる少なくとも1つのマーカーの濃度に関して患者の呼気を分析するための呼気分析装置、ならびに(4)信号を受信し、信号に基づいて呼吸循環および/またはIVにより投与薬物量を制御する、薬物供給装置(IVおよび/または気体状薬物供給装置)のそれぞれに接続されたシステム制御装置を含む。システムが患者へのガス状薬物の送達を含む場合、システムは、好ましくは、(5)呼吸循環内のガス状薬物の濃度を分析するための吸入ガス分析装置を更に含む。
【0074】
MAMSが呼吸循環を含む場合には、通常の直列(in-line)(または主流)サンプル採取法により採集された単一または複数のサンプルが好ましいが、センサー捕捉(sensor acquisition)時間が短縮される場合には、支流サンプル採取が用いられうる。直列サンプル採取では、本発明のセンサーは気流内のETチューブの遠位に直接的に配置される。後者においては、サンプルは気管内(ET)チューブの近位末端の遠位のアダプターを介して採取され、薄い内径の細管を介して本発明のセンサーに引き込まれる。直列サンプル採取を用いる或る実施形態においては、センサーは、患者の気流内に配置されたサンプル採取チャンバー内に配置される。呼気終末ガスをサンプル採取する代わりに、呼吸の呼出相の全体にわたってサンプルを採取し、平均値を決定し、血中濃度に相関させることが可能である。サンプルサイズおよびセンサー応答時間に応じて、連続周期において呼気が採集されうる。関連実施形態においては、サンプルは、別のサンプル採取口を有するチューブを介してETチューブの遠位末端において採集される。これは、各呼吸周期中の「より清潔な(より少ない死腔の)」サンプルを得ることを可能にすることにより、サンプル採取を改善しうる。
【0075】
本発明の或る実施形態は、呼気サンプル中に存在するマーカーの濃度を定量しうるセンサー技術(検出技術)を提供する。本発明のそのようなシステムおよび方法は更に、マーカー濃度結果を、患者のコンプライアンスの判定および/または臨床応用(すなわち、患者における薬物の血中濃度の計算)において使用するために、使用者(例えば、患者、臨床医、薬剤師など)に提供するための報告手段を含みうる。好ましい実施形態においては、分析からの結果は、呼気のサンプル採取の直後に連絡されうる。関連実施形態においては、そのようなセンサー技術は更に、呼出の開始および完了を検出するためのフローセンサーの使用を含む。
【0076】
本出願において提示される、MAMSの有用な構成は、呼気サンプル中に存在する薬物マーカーの濃度および薬物の薬物動態パラメーターの既存の知見から計算される、薬物への患者の内部暴露を導出しうるものである。内部暴露の計算は、有効性のための血漿中薬物最小濃度であると一般に認識されているいわゆるEC50未満に血漿中薬物濃度がいつ低下するのかを推定することを可能にする。
【0077】
呼気中のマーカー濃度と相関する患者(特に血中)における薬物濃度は、患者が高用量(すなわち、毒性用量)、低用量(すなわち、無効用量)または有効(すなわち、適当)用量の薬物の投与を受けていることを示しうる。呼気マーカー濃度の知見、ひいては血中薬物濃度(または投与量)は、患者の服薬コンプライアンスを使用者がモニターすることを可能にするだけでなく、薬物が血中に蓄積していて薬物の危険毒性レベルに達する可能性があるかどうか、または濃度が低下していて薬物の不適当な用量に達する可能性があることを使用者が知ることをも可能にする。したがって、本発明における呼気中のマーカー濃度の変化のモニター(ひいては血中薬物濃度のモニター)は有用である。
【0078】
ある実施形態においては、本発明は患者の服薬遵守の即時モニターを可能にする。本発明において想定される即時モニターは、薬物投与後の短時間のうちに実質的に完全に含まれる(すなわち、一般には数分〜約24時間以内)、患者からの呼気のサンプル採取および標的マーカーに関する分析を意味する。
【0079】
他の実施形態においては、本発明は患者の服薬コンプライアンスの遅延評価を可能にする。本発明において想定される、患者のコンプライアンスの遅延評価は、マーカーが尚も呼気において検出されうる或る時間が経過した後の、患者からの呼気のサンプル採取および分析を意味する。
【0080】
したがって、本発明のシステムおよび/または方法は、薬物の遵守の断続的または連続的モニターのために、薬物を服用する患者に提供されうる。ある実施形態においては、本発明のモニターシステムおよび方法は、処方された間隔(例えば、毎時間、毎日、毎週、毎月または更には毎年)で薬物を服用する患者に適用されうる。さらに、追加的な薬物が処方された場合には、追加的なモニターが患者に対して行われうる。また、本発明のMAMSを用いて、複数の処方薬物投与計画に関する同時モニターも行われうる。
【0081】
本発明の方法を実施するために、呼気サンプル採取装置の多数の変形が用いられうる。例えば、1つの実施形態においては、呼気サンプル採取装置は、呼気が流動する通常の流動チャンネル(flow channel)を含む。流動チャンネルは、標的マーカーを検出し及び/又はマーカー濃度を測定するための本発明のセンサーを備えている。さらに、呼気サンプル採取装置と共に、少なくとも測定された濃度または検出されたマーカーの結果を必要に応じて使用者に伝えるための必要な出力要素が含まれうる。
【0082】
警告装置も提供されうる。類似タイプの装置が米国特許第5,971,937号の図1および2に示されている。
【0083】
呼気中のマーカー濃度のレベルを測定するもう1つの実施形態においては、マーカー濃度レベルに数値(例えば、1から100の等級尺度のうちの50)が付与される。濃度がその値未満に低下すれば、その新たな値は濃度の減少を示すものであろう。濃度がその値を超えて増加すれば、その新たな値は濃度の増加を示すものであろう。この数値尺度は、濃度変化の、より容易なモニターを可能にするであろう。数値尺度は、警告、出力、描図および外部装置(例えば、注入ポンプ)の制御のための制御信号へのより容易な変換をも可能にするであろう。閾値(例えば、薬物の無効レベルから危険レベルまで)を示す上限および下限が設定されうるであろう。
【0084】
本発明は、呼気からの液相化合物の非侵襲的採集、ならびにそれに続く、標的マーカーの存在および/または濃度に関する1工程の定量的または半定量的な凝縮物の分析を可能にするよう設計された幾つかの採集装置の使用を含む。本発明においては、呼気凝縮物は、一般には、唇により保持されたマウスピースを介して採集されうるが、重篤な呼吸窮迫を伴う患者においては、凝縮物採集チャンバー(例えば、後記のもの)への呼気および液相成分の迂回を可能にする一方で酸素の送達を可能にする気密性でぴったりとフィットする顔面マスクを患者に装着することにより、サンプルが採集されうる。
【0085】
一般に、本発明の呼気凝縮物採集装置は、呼気中の気相成分から液相成分への凝縮を促すのに十分な温度に冷却されうる無菌性内壁を有する採集チャンバーを含む。好ましくは、採集チャンバーの内壁は約32°F以下の温度に冷却されうる。そのような呼気凝縮物採集装置は、好ましくは、使い捨て可能かつ軽量である。
【0086】
ある実施形態においては、本発明の凝縮物採集装置は、外的に又は内部吸熱反応により冷却されうる冷却剤を含有する介在領域を有する同軸チャンバーを含む。そのような呼気凝縮物採集装置はよく知られており、現在入手可能である。そのような装置の具体例には、米国特許出願番号10/42,721および10/778,477に全般的に記載されているものが含まれる。
【0087】
1つの実施形態においては、患者からの呼気の液相成分を採集し分析するための装置は、患者の呼気をサンプル採取するための導管として働く呼気流動管と、呼気凝縮物採集装置とを含む。本発明の1つの実施形態においては、凝縮物採集装置は、内部を有する中央チャンバー(ここで、中央チャンバーは、呼気中の気体成分から液相成分への凝縮を促すのに十分な温度、例えば約32°F以下に冷却されうる)、中央チャンバーの内部と呼気流動管とに流体連絡されて中央チャンバーの一端に配置された呼気入口部(呼気入口部は呼気流動管および中央チャンバーを接続している)、中央チャンバーの内部に流体連絡されて中央チャンバーのもう一方の端に配置された出口部、ならびに中央チャンバーからの呼気の凝縮液成分を採集するために出口部に接続された真空装置を含む。
【0088】
本発明のもう1つの実施形態においては、呼気凝縮物採集装置は、内部と第1および第2対抗端を有する中央チャンバー、中央チャンバーの内部に流体連絡された呼気入口部、ならびに中央チャンバーの内部に流体連絡された出口部(出口部は細管を含み、細管は、その中に配置されたセンサーを有し、センサーは、標的マーカーの存在および/または濃度を高い特異性で検出する能力を有する)を含む。
【0089】
この態様の特徴において、センサーは、標的マーカーに特異的なアプタマーに含浸されたファイバーマトリックスであり、装置は更に、ピストンとハンドルとを有するプランジャ部を含み、ここで、ピストンは、滑り動きが可能なように中央チャンバーの内部に配置されており、ハンドルは、ピストンを中央チャンバー内で動かすのを可能にするよう、中央チャンバーの第1端から伸長しており、それにより、採集された呼気凝縮物は、細管内に配置された繊維状アプタマーマトリックスに接触しうる。ある関連実施形態においては、凝縮物採集装置は更に観察窓を含み、それを通して、標的マーカーへのアプタマー結合における物理的な可視変化の視覚的検出が行われうる。
【0090】
さらにもう1つの実施形態においては、細管内に配置されたセンサーは、金めっきされたセンサーに結合した官能基化アプタマーを含み、ここで、アプタマーの遊離末端はメチレンブルーで官能基化されている。標的マーカーの存在下では、アプタマーが曲がり、メチレンブルー末端が金めっきセンサーに接触して電流を変化させて、標的マーカーの存在を使用者に知らせる。例えば、Xiao Yら, " A reagentless signal-on architecture for electronic, aptamer-based sensors via target-induced strand displacement," J Am Chem Soc., 127(51):17990-1 (2005); Xiao Yら, "Label-free electronic detection of thrombin in blood serum by using an aptamer-based sensor," Angew Chem Int Ed Engl., 26;44(34):5456-9 (2005); Jhaveri, S.ら, "In vitro selection of signaling aptamers," Nat Biotechnol., 18(12):1293-7 (2000); およびCollett JRら, "Production and processing of aptamer microarrays," Methods, 37(1):4-15 (Epub 2005 Sep 30))を参照されたい。
【0091】
センサー技術
本発明においては、呼気中のマーカーを検出および/または定量するために、気相および/または液相媒体中のアナライトの測定のための多数の商業的に入手可能な既製(COTS)の分析アプローチのいずれかが用いられうる。本発明のMAMSは、所望のマーカー濃度データを捕捉するための少なくとも1つのセンサーまたは複数のセンサーを含みうると想定される。各センサーは、呼気(または体液)のサンプル中の薬物マーカーの存在に基づいて出力信号を生成する。本明細書に記載のシステムおよび方法において用いられうる或るCOTSアプローチの具体例には、高電子移動度トランジスタ(HEMT)、核磁気共鳴(NMR)、高分子に基づく膜 - ケモレジスティブ(chemoresistive)(Cyranose);高分子表面音響波(SAW)および電気化学的化学アレイ(HazmatcadおよびHazmatcad Plus);分光法に基づく分析;可視分光法;UV分光法;TIF TIFXP-1A Negative Corona Leak Detector;負イオン捕捉センサー;加熱センサー/セラミック半導体センサー;赤外吸収;核磁気共鳴分光法;光電子放出分光法;ラマン分光法;フーリエ変換分光法-FTIR;時間分解分光法;炎光分光法;プラズマ発光分光法;力分光法(force spectroscopy);誘電分光法;円二色性分光法;屈折率などが含まれるが、これらに限定されるものではない。他の想定されるセンサーには、マイクロカンチレバー(microcantilever)、分子刷り込み(molecularly imprinted)高分子および増幅性蛍光高分子に基づくセンサーが含まれる。好ましい実施形態においては、小規模ガスクロマトグラフィーセンサー技術が本発明において用いられる。
【0092】
本発明は、好ましくは、呼気中のマーカーの存在および/または濃度を非侵襲的にモニターするために、「人工」または「電子」舌または鼻として公知の市販の装置のようなセンサー技術を利用する。電子鼻は大抵は食品、ワインおよび香料産業において使用されており、それらの感度は、におい化合物間の識別を可能にする。例えば、電子鼻は、香料産業において、グレープフルーツ油とオレンジ油とを識別するのに有用であり、腐敗しやすい食品における腐敗物を、腐敗臭が人間の鼻に明らかになる前に特定するのに有用である。
【0093】
過去においては、これらの人工/電子舌および鼻の、医学に基づく研究および応用はほとんど存在しなかった。しかし、最近の使用はこの非侵襲的技術の威力を示している。例えば、電子鼻は、個々の細菌に特異的なにおいに関して患者の呼気を分析することにより肺における細菌感染の存在を判定するために使用されている(Hanson CW, Steinberger HA, "The use of a novel electronic nose to diagnose the presence of intrapulmonary infection," Anesthesiology, 87(3A):Abstract A269, (1997))。また、尿生殖器科クリニックは、細菌性膣症をスクリーニングし検出するために電子鼻を利用しており、訓練後に94%の成功率が得られている(Chandiok S,ら, "Screening for bacterial vaginosis: a novel application of artificial nose technology," Journal of Clinical Pathology, 50(9):790-1 (1997))。特異的細菌種も、生物により産生される特別なにおいに基づいて、電子鼻で特定されうる(Parry ADら, "Leg ulcer odor detection identifies beta-haemolytic streptococcal infection," Journal of Wound Care, 4:404-406 (1995))。
【0094】
本発明において用いられうるガスセンサー技術を記載している幾つかの特許には、米国特許第5,945,069号、第5,918,257号、第4,938,928号、第4,992,244号、第5,034,192号、第5,071,770号、第5,145,645号、第5,252,292号、第5,605,612号、第5,756,879号、第5,783,154号および第5,830,412号が含まれるが、これらに限定されるものではない。本発明に適した他のセンサーには、金属-絶縁物-金属アンサンブル(MIME)センサー、交差反応性光学マイクロセンサーアレイ、蛍光高分子膜、表面増強ラマン分光法(SERS)、ダイオードレーザー、選択イオンフローチューブ、酸化金属センサー(MOS)、非分散性赤外分光計、バルク音響波センサー、比色チューブ、機能化マイクロカンチレバー(functionalized microcantilever)、および赤外分光法が含まれうるが、これらに限定されるものではない。
【0095】
本発明のために同様にセンサーとして用いられうる検出の分野の最近の進展には、ガスクロマトグラフィー、半導体ガスセンサー、質量分析計(プロトン移動反応質量分析を含む)、および赤外(IR)または紫外(UV)または可視または蛍光分光光度計(すなわち、非分散性赤外分光計)が含まれるが、これらに限定されるものではない。例えば、半導体ガスセンサーを使用した場合、マーカーは、半導体の電気抵抗を変動させることにより半導体の電気的特性の変化を引き起こし、これらの変動の測定はマーカーの濃度の決定を可能にする。もう1つの例においては、気体組成物の分子を分離することによる選択的検出の方法よりなるガスクロマトグラフィーが、呼気サンプル中のマーカーを分析するための手段として使用されうる。
【0096】
本発明においては、マーカーを検出/定量するためのセンサーは、約数秒間の比較的短い検出時間を用いる。本発明のMAMSにおいて使用されると想定される他の最近のガスセンサー技術には、導電性高分子ガスセンサー(「高分子」)、アプタマーバイオセンサー、増幅性蛍光高分子(AFP)センサーを利用する装置、または表面音響波(SAW)ガスセンサーを有する装置が含まれる。
【0097】
導電性高分子ガスセンサー(「ケモレジスター(chemoresistor)」とも称される)は、標的物質(時には、におい物質)の分子に感受性の導電性高分子から構成される膜を有する。標的マーカー分子との接触に際して、センサーの電気抵抗が変化し、これはマーカーの存在の指標となる。この抵抗の変動の測定は、存在するマーカーの濃度の決定を可能にする。このタイプのセンサーの利点は、それが、室温に近い温度で機能することである。代替導電性高分子を修飾または選択することにより、異なるマーカーを検出するために異なる感度が得られうる。
【0098】
高分子ガスセンサーはセンサーのアレイ内に組み込まれることが可能であり、ここで、各センサーは、異なるマーカーに対しては異なって応答するよう、そして薬物マーカーの選択性を増強するよう設計される。例えば、本発明のセンサーは、それぞれがマーカーにさらされる高分子のアレイ(すなわち、32個の異なる高分子)を含みうる。個々の高分子のそれぞれは、特異的マーカーの存在に対して異なるように膨張して、その膜の抵抗の変化をもたらし、その特異的マーカーに応答した類似電圧(「シグネチャー」)を生成する。ついで、センサーアレイにおけるパターン変化に基づいてマーカーのタイプ、量および/または質を特定するために、抵抗における正規化された変化がプロセッサーへ送信されうる。その特有の応答は、マーカーを特徴づけるために用いられる独特な電気的指紋を生成する。アレイの抵抗変化のパターンはサンプル中のマーカーに特徴的なものであり、一方、パターンの振幅はサンプル中のマーカーの濃度を示す。
【0099】
標的マーカーに対する高分子ガスセンサーの応答は、通常のガスセンサー特徴づけ技術の組合せを用いて十分に特徴づけられうる。例えば、センサーはコンピューターに接続されうる。結果はコンピュータースクリーン上に表示され、記憶され、送信等されうる。データ分析装置は、応答のパターンを、既知物質からの既に測定され特徴づけられた応答と比較しうる。それらのパターンの突合せ(マッチング)は、ニューラルネットワークを含む多数の公知技術を用いて行われうる。例えば、32個の高分子のそれぞれからの類似(アナログ)出力を「ブランク」または対照と比較することにより、ニューラルネットワークは、そのマーカーに特有のパターンを確立することが可能であり、ついでマーカーを認識できるようになる。検出される個々のマーカーに対する所望の応答が最適化されるよう、個々の抵抗器の配置が選択される。1つの実施形態においては、本発明のセンサーは、種々の標的マーカーを同時に検出するための液相または気相生物学的溶液に適した自己較正高分子システムである。
【0100】
本発明のもう1つのセンサーはアプタマーの形態で提供されうる。1つの実施形態においては、高いアフィニティーおよび特異性で薬物マーカーを認識するアプタマーを得るために、SELEX(商標)(Systematic Evolution of Ligands by EXponential enrichment)法を用いる。SELEX法により得られたアプタマーは、特有の配列、および所望のマーカーに特異的に結合する特性を有する。SELEX法は、単量体であるか重合体であるかを問わず実質的に全ての化合物に関して、リガンド(形態特異的結合ペア)として作用するのに十分な利用可能な化学的多様性を単量体内に有する種々の二次元および三次元構造を形成するのに十分な能力を核酸が有するという洞察に基づくものである。
【0101】
したがって、本発明においては、任意のサイズまたは組成の薬物マーカーがアプタマーに対する標的として働きうる。Jayasena, S., "Aptamers: An Emerging Class of Molecules That Rival Antibodies for Diagnostics," Clinical Chemistry, 45:9, 1628-1650 (1999)も参照されたい。
【0102】
本発明においては、呼気サンプル中のマーカーの存在を検出するために、アプタマーバイオセンサーが使用されうる。1つの実施形態においては、アプタマーに基づくセンサーは、標的マーカーへのアプタマーの結合または解離事象により生じる、発振(振動)システムの質量の変調による共振周波数における僅かな変化を検出しうる共振発振石英センサーから構成される。
【0103】
同様に、分子ビーコン(MB)および分子ビーコンアプタマー(MBA)は、特定の標的配列の存在下の蛍光シグナルの増強を得るために、蛍光共鳴エネルギー転移に基づく方法を用いる。本質的には、分子ビーコンは天然または合成リガンド(例えば、アプタマー、酵素、抗体など)に結合し、この場合、標的マーカーへのリガンドの結合に際して、分子ビーコンは、使用者により可視検出可能なシグナルを生成する。Stojanovic, Milan N., de Prada, PalomaおよびLandry, Donald W., "Aptamer-Based Folding Fluorescent Sensor for Cocaine" J. Am. Chem. Soc. 2001, 123, 4928-4931 (2001); Jayasena, Sumedha D., "Aptamers: An Emerging Class of Molecules That Rival Antibodies of Diagnostics, Clinical Chemistry 45:9, 1628 - 1650 (1999)も参照されたい。
【0104】
本発明においては、呼気サンプル中の薬物マーカーの存在を検出するために、増幅性蛍光高分子(AFP)センサーが使用されうる。AFPセンサーは、増幅性蛍光高分子を使用する、極めて高感度で高選択的な化学センサーである。標的マーカーが高分子の薄膜に結合すると、膜の蛍光が減少する。単一の分子結合事象が多数の高分子反復単位の蛍光を消光して、消光の増幅を引き起こす。膜へのマーカーの結合は可逆的であり、したがって膜は再利用されうる。
【0105】
表面音響波(SAW)センサーは高い周波数で発振し、一般には、化学選択性物質により覆われた基質を有する。SAWセンサーにおいては、基質は、インターディジタル微小電極(interdigitated microelectrode)(すなわち、変換器を形成するためのもの)のセット間に表面音響波を伝播させるために使用される。化学選択性物質は変換器上にコーティングされる。マーカーが、基質上にコーティングされた化学選択性物質と相互作用すると、相互作用は伝播波の速度の振幅のようなSAW特性における変化を引き起こす。特徴的な波における検出可能な変化は、一般に、マーカーの質量負荷(すなわち、患者の血中薬物濃度に対応する、呼気中のマーカー濃度)に比例する。
【0106】
本発明の或る実施形態は、公知のSAW装置、例えば、米国特許第4,312,228号および第4,895,017号ならびにGroves W.A.ら, "Analyzing organic vapors in exhaled breath using surface acoustic wave sensor array with preconcentration: Selection and characterization of the preconcentrator adsorbent," Analytica Chimica Acta, 371:131-143 (1988)に記載されているものを利用する。本発明のMAMSの製造および実施に適用可能な化学選択性コーティングを利用する当技術分野で公知の他のタイプの化学センサーには、バルク音響波(BAW)装置、プレート音響波装置、インターディジタル微小電極(interdigitated microelectrode)(IME)装置、光学的導波管(optical waveguide)(OW)装置、電気化学センサーおよび電気導電性センサーが含まれる。
【0107】
1つの実施形態においては、本発明のセンサーは表面音響波(SAW)センサーに基づくものである。SAWセンサーは、好ましくは、標的マーカーを選択的に吸収しうる高分子コーティングにより覆われた圧電特徴を有する基質を含む。SAWセンサーは高い周波数で発振し、ある分子の質量負荷に比例した摂動に応答する。これはセンサー表面上で蒸気相において生じる。
【0108】
関連実施形態においては、本発明のMAMSは、Stubbs, D.ら(Stubbs, D.ら, "Investigation of cocaine plumes using surface acoustic wave immunoassay sensors," Anal Chem., 75(22):6231-5 (Nov. 2003) およびStubbs, D.ら, "Gas phase activity of anti-FITC antibodies immobilized on a surface acoustic wave resonator device," Biosens Bioelectron, 17(6-7):471-7 (2002)を参照されたい)のSAWセンサーに基づくセンサーを利用する。例えば、本発明のセンサーは、250MHzの中心周波数を有するST-X石英上の二端子共振器を含みうる。切断された石英上で、インターディジタル変換器により温度補償表面音響波(SAW)が生成される。ついで標的マーカーに特異的な抗体をタンパク質架橋物質を介してセンサー装置表面上の電極(すなわち、幅1.5ミクロン)に結合させる。センサー表面上の蒸気相において、標的マーカーが存在すれば、周波数の変化が生じて、標的マーカーが認識されたという警告が使用者に発せられる。
【0109】
関連実施形態においては、SAWセンサーはコンピューターに接続され、この場合、周波数における任意の検出可能な変化がコンピューターにより検出され測定されうる。好ましい実施形態においては、SAWセンサーのアレイ(4-6)が使用され、そのそれぞれは、分子の特異的クラスの蒸気に選択的に結合し及び/又はそれを吸収する異なる化学選択性高分子でコーティングされる。得られたアレイまたは「シグネチャー」は特異的化合物を特定する。
【0110】
化学選択性膜コーティングを使用するほとんどの化学センサーの作動性能は、コーティングの厚さ、均一性および組成により著しく影響される。これらのセンサーの場合、コーティングの厚さの増加は感度に有害な影響を及ぼす。変換器は、変換器/基質に直接隣接したコーティングの部分を感知するに過ぎない。
【0111】
例えば、高分子コーティングが厚すぎると、周波数の変化を記録するためのSAW装置の感度は低下する。コーティング物質のこれらの外層は、感知されるコーティングの層と、マーカーに関して競合し、したがってセンサーの感度を低下させる。コーティングの均一性も、化学選択性コーティングを利用するセンサーの性能における決定的に重要な因子である。なぜなら、平均表面積の変化はSAW装置の局所振動シグネチャーに大きな影響を及ぼすからである。したがって、15〜25nmの厚さで1nm以内まで均一な膜が蒸着されるべきである。この点において、装置のセット全てが同じ感度で作動するよう、コーティングが均一で、異なる装置間で再現可能であるだけでなく、単一の装置上のコーティングが基質の活性領域全体にわたって均一であることも重要である。
【0112】
コーティングが不均一であれば、マーカー曝露に対する応答時間およびマーカー曝露後の回復時間が増加し、センサーの作動性能が損なわれる。コーティングの薄い領域は、厚い領域より迅速に、標的マーカーに応答する。その結果、センサー応答信号は、平衡値に達するまでに、より長時間を要し、得られる結果は、均一なコーティングの場合より不正確となる。
【0113】
高分子および生体材料の、大きな面積の膜を作製するための現在のほとんどの技術は、巨大分子および揮発性溶媒の溶液への基質のスピニング(spinning)、噴霧または浸漬を含む。これらの方法は、選択性を伴わずに基質全体をコーティングし、時には、不均一な溶媒蒸発の結果、膜における溶媒の混入および形態学的不均一性を招く。生体分子および高分子単層の、小さな面積がパターン化されることを可能にするマイクロコンタクトプリンティング(microcontact printing)およびヒドロゲルスタンピングのような技術も存在するが、これらの膜を微小装置(microdevice)に変換するためには写真製版または化学蒸着のような別の技術が必要とされる。
【0114】
熱蒸発およびパルスレーザーアブレーションのような他の技術は、激しい加熱過程によって変性しない安定な高分子に対してのみ用いられる。膜コーティングの厚さおよび均一性の、より厳密かつ正確な制御は、基質上にセラミックコーティングを形成させるために最近開発された物理的蒸着技術であるパルスレーザー蒸着(PLD)を用いることにより達成されうる。この方法により、コーティングに使用する化学量論的化学組成物を含む標的がパルスレーザーによりアブレーションされて、基質上に蒸着するアブレーション物質の煙が生じる。
【0115】
Naval Research Laboratoryの研究者により開発された、マトリックス支援パルスレーザー蒸発(Matrix Assisted Pulsed Laser Evaporation)(MAPLE)と称される、レーザーに基づく新技術を用いる高分子薄膜は、化学選択性表面音響波蒸気センサーの感度および特異性を増加させることが最近示された。溶媒蒸発により誘発される、膜の不完全性を排除し、特異的標的マーカーへの分子結合を検出することにより、改善されたSAWバイオセンサー応答を得ることにより、高い感度および特異性が可能となる。
【0116】
本発明のシステムおよび方法においては、患者からの呼気をモニターするために、ある極めて高感度の市販の既製(COTS)の電子鼻、例えばCyrano Sciences, Inc.(「CSI」)により提供されているもの[すなわち、CSIの可搬性電子鼻(Portable Electronic Nose)およびCSIのにおい検出用鼻-チップ集積回路(Nose-Chip integrated circuit for odor-sensing);米国特許第5,945,069号 - 図1を参照されたい]が使用されうる。これらの装置は最小のサイクル時間を示し、複数のマーカーを検出することが可能であり、特別なサンプル調製または単離条件を伴わずに、ほとんどあらゆる環境において作動することが可能であり、高度なセンサー設計も試験間の洗浄も不要である。
【0117】
他の実施形態においては、シグナル生成物質の存在に関して体液サンプルを試験するために、競合結合イムノアッセイが用いられうる。イムノアッセイ試験は、一般に、吸収性の繊維性ストリップを含み、これは、ストリップ上の特定の領域に1以上の試薬を含有する。体液サンプルをストリップ上に注入し、サンプルは毛管作用によりストリップ沿いに泳動して特定の試薬領域に進入し、この領域内で化学反応が生じうる。関心のあるシグナル生成物質の最小量の存在下で検出可能な応答(例えば、変色)を示す少なくとも1つの試薬が含まれる。イムノアッセイ技術を記載している特許には、米国特許第5,262,333号および第5,573,955号が含まれる。
【0118】
1つの実施形態においては、本発明の装置は、呼気サンプル採取装置を必要とすることなく患者が口または鼻から本発明のセンサー上に直接的に呼出しうるよう設計されうる。例えば、呼気をセンサーに容易に送出するために、患者を装置に接続するためのマウスピースまたはノーズピース(nosepiece)が設けられる(すなわち、米国特許第5,042,501号を参照されたい)。センサーがニューラルネットワークに接続された関連実施形態においては、同一患者が装置内に直接的に呼出する場合と、センサーが呼気をサンプル採取する前に呼気を乾燥させた場合とで、ニューラルネットワークからの出力は類似している。
【0119】
もう1つの実施形態においては、本発明のセンサー(すなわち、質量分析計)を使用する後続分析のために、患者の呼気サンプルを容器(器)内に捕捉することが可能である。
【0120】
「乾燥」気体でのみ機能する或る電子鼻装置では、呼気中の湿気が問題となる(しかし、SAWセンサーではそのような問題は無い)。そのような湿気感受性装置を使用する場合、本発明はそのような電子鼻技術を修飾して、サンプルを除湿するための手段により、患者が装置内に直接的に呼出できるようにする。これは、市販の除湿器または熱湿気交換器(heat moisture exchanger)(HME)(乾燥気体での換気中の気道の乾燥を防ぐよう設計された装置)を含めることにより達成される。
【0121】
あるいは、患者は、正常な呼吸中の乾燥を防ぐための解剖学的生理的除湿機構である鼻から呼出しうる。あるいは、GCカラムの特性の幾つかを有するプレコンセントレーターをセンサー装置に装備することが可能である。気体サンプルは、センサーアレイ上を通過する前にプレコンセントレーターを経由して送られる。気体を加熱し揮発させることにより、湿気を除去し、測定するマーカーを潜在的阻害物質から分離することが可能である。
【0122】
遠隔通信システム
本発明のもう1つの実施形態は、本発明のMAMSにインターフェースされる、家庭(または他の遠隔地)における通信装置を含む。家庭用通信装置は、本発明のMAMSにより収集されたデータを、直接的に又は標準的な電話線(または他の通信送信手段)により、即座に又は所定間隔で送信しうるであろう。データの通信は、決められた薬物の服用の指示を患者が遵守しているかどうか及び/又は薬物の適当な投与量が患者に投与されているかどうかを使用者が遠隔的に確認しうることを可能にする。
【0123】
家庭から送信されたデータはコンピューターにダウンロードされることも可能であり、この場合、検出されたマーカーの存在および/または血中薬物レベルがデータベース内に記憶され、患者の遵守が使用者に通知されうるよう記憶データの範囲外の逸脱にはフラッグ(標識)がつけられる。1つの実施形態においては、ダウンロードされた情報は、薬物マーカーレベル/濃度(または更には、呼気における検出マーカーレベルに基づく、計算された血中薬物レベル)に関するものであり、センサーに接続されたコンピュータープロセッシングユニットにより与えられた示唆に従い又は医療従事者(すなわち、医師)により与えらた投与示唆に従い使用者(すなわち、患者、医師、看護師)が薬物投与量を適当に調節しうるよう、所定濃度(ひいては薬物の薬理学的効力)からの逸脱には自動的にフラッグ(すなわち、警告)がつけられるであろう。
【0124】
前記を考慮すると、本発明は、呼気を代用測定対象として用いて、多種多様な薬物の服用における患者のコンプライアンスを非侵襲的に、そして或る場合には連続的にモニターする可能性を提供する。
【0125】
薬物マーカー
本発明においては、患者における薬物の存在および/または濃度の指標として有用な薬物マーカーには、以下の嗅マーカーが含まれる(それらに限定されるものではない):ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトアルデヒド、アセトフェノン、トランス-アネトール(Anethole)(1-メトシキ-4-プロペニルベンゼン)(アニス)、ベンズアルデヒド(安息香酸アルデヒド)、ベンジルアルコール、ベンジルシンナマート、カジネン、カンフェン、カンファー、シンナムアルデヒド(3-フェニルプロペナール)、ニンニク、シトロネラール、クレーゾール、シクロヘキサン、ユーカリプトールおよびオイゲノール、オイゲニルメチルエーテル、ブチルイソブチラート(n-ブチル 2, メチルプロパノアート)(パイナップル)、シトラール(2-トランス-3,7-ジメチル-2,6-アクタジエン-1-アール)、メントール(1-メチル-4-イソプロピルシクロヘキサン-3-オール)、およびα-ピネン(2,6,6-トリメチルビシクロ-(3,1,1)-2-ヘプテン)。これらのマーカーが好ましいのは、それらが食品産業において香料成分として使用されFood and Drug Administrationにより許可されているからである。前記のとおり、本発明において使用する嗅マーカーは、多数の入手可能な化合物から選択可能であり(Fenaroli’s Handbook of Flavor Ingredients, 4th edition, CRC Press, 2001を参照されたい)、そのような他の適用可能なマーカーの使用が本発明において想定される。
【0126】
本発明のマーカーには、米国政府により承認されておりGRAS(「安全であると概ね認められる(generally recognized as safe)」として分類されている化合物も含まれ、これらは、U.S. Food and Drug Administration Center for Food Safety and Applied Nutritionにより管理されているデータベース上で入手可能である。呼気において容易に検出可能なGRASとして分類されているマーカーには、硫酸水素ナトリウム、ジオクチルナトリウムスルホスクシナート、ポリグリセロールポリリシノール酸、カルシウムカゼインペプトン-リン酸カルシウム、植物性薬品(すなわち、キク、カンゾウ、ゼリー植物(jellywort)、スイカズラ、ロファテルム(lophatherum)、クワの葉、インドソケイ、セイヨウウツボグサ、エンジュ花の芽)、鉄(II)ビスグリシナートキレート、海草由来カルシウム、DHASCO(ドコサヘキサエン酸に富む単細胞油)およびARASCO(アラキドン酸に富む単細胞油)、フルクトオリゴ糖、トレハロース、γシクロデキストリン、フィトステロールエステル、アラビアゴム、硫酸水素カリウム、ステアリルアルコール、エリトリトール、D-タガトースならびに菌タンパク質が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0127】
ハロゲン化化合物(すなわち、フッ素化薬またはマーカー)は特に有望である。なぜなら、それらは、易揮発性かつ高揮発性であり、必要量でのヒトによる使用に安全であり、種々のタイプの可搬性フレオン(Freon)漏出検出器で呼気において容易に検出されるからである。これらの化合物のいくつかは、肺経路による薬物の送達(例えば、定量吸入器)のための噴射剤として使用され、したがって、安全であることが公知であり、FDAにより承認されており、そのうちの幾つかはGRAS化合物でもある。フレオン漏出を検出するために最もよく用いられる技術には、負イオン捕捉、加熱センサー/セラミック半導体、赤外吸収、およびTIF TIFXP-1A陰極コロナ漏出(Negative Corona Leak)検出器が含まれる。多数の薬物がフッ素化されており、代謝産物は、しばしば、極めて揮発性であり、呼気において検出可能である。マーカーとして使用可能であり薬物の製造中に賦形剤として添加可能な多数のそのような化合物が入手可能である。
【0128】
前記のとおり、マーカーは、その物理的および/または化学的特性により検出される。本発明において想定される薬物マーカーは、呼気中のマーカーの検出/定量における差異を増強するために所望の薬物投与計画に加えられる添加物に由来する副産物である。本明細書に記載されているとおり、薬物マーカーは、患者による添加物の吸収、分布、代謝および/または排泄に際して、呼気において検出される。一般に、本発明においては、薬物マーカーは水に難溶性であり、このため、呼気におけるそれらの揮発性および検出が促進される。
【0129】
本発明においては、呼気におけるマーカー検出を容易にするために薬物と組合される添加物は以下の特徴のいずれか1つ又は組合せを有しうる:(1)臨床医薬において使用される全ての経口投与薬(例えば、経口的に1日1回-PO Qまたは2回-PO BID投与される薬物)に適用可能である(呼気において検出される添加物副産物またはマーカーは、活性な医薬/薬物またはその代謝産物には関連していないことを意味する);(2)QDまたはBID投与に適用可能であり、この場合、呼気における、生じたマーカーの存在の持続時間は5時間以下かつ1時間以上である;(3)添加物からの呼気中のマーカーの生成を可能にする代謝のタイプによる制限を受けない(例えば、潜在的な薬物-薬物相互作用(DDI)を回避するための非CYP代謝(例えば、エステラーゼ));(4)呼気中の検出可能なマーカーを放出するよう添加物に作用する酵素システムは高頻度の遺伝的可変性に対して感受性であるべきではなく、高頻度の薬物誘発機能抑制(有害な薬物反応)を受けるべきではなく、その機能活性を低下させうる因子の存在下でさえも添加物からマーカーを生成するのに十分な触媒能を有するべきである;(5)添加物から生じたマーカーは代謝的に安定である;(6)薬物と共に添加物が存在することは薬物の薬力学(PD)をも薬物動態(PK)をも変化させない(例えば、同じ生物学的同等性、同じ代謝);(7)安価であり、容易に入手可能であり、容易に合成される;(8)主薬錠剤(または他の投与用製剤)中に賦形剤として容易に組み込まれる;および不燃性であり、製造中または患者が薬物を保存している間に活性薬に対して物理的危険性を及ぼさない。
【0130】
本発明においては、薬物と組合される添加物から生じるマーカーは以下の特徴のいずれか1つ又は組合せを有しうる:(1)MAMSの利用に要求される濃度で本質的毒性を示さない;(2)安全であると概ね認められている(GRAS)化合物である;(3)FDAにより承認された化学的実体である;(4)それ自体は目的に関してFDAにより承認されていない化合物であるが、ヒトにおけるその毒性データは、規制機関の承認を支持するために用いられうる;および(5)ヒトにおける毒性データを有さない新規化学的実体(NCE)である;(6)呼気に特有であり(例えば、複数の食物においては見出されず、内因的に産生されない)、ここで、マーカーは、本発明のMAMSセンサーを使用した場合に、顕著な信号対ノイズ(S:N)比を示し、ベースラインMAMS測定を必要としない;(7)患者による添加物/薬物の吸収の後に呼気中に迅速に出現し始める;(8)呼気中の出現の、再現可能な持続時間を有する;(9)迅速で可搬性で安価で小型でケア実施場所(point-of-care)(POC)での分析に利用可能な複数のセンサー技術により、容易に検出可能である;(10)錠剤中への賦形剤としての配合に過剰ではない経口添加物用量において、維持可能な濃度で呼気中に存在する(例えば、丸剤中で活性薬と組合される添加物-賦形剤の用量は過剰であってはならず、センサー装置を使用してマーカーが呼気中で検出されうるのに十分なマーカーを生成しなければならない);ならびに(11)マーカーは、MAMS適用のための呼気中の存在時間に関する最適なマーカーの選択を可能にする柔軟な化学製剤形態から生成される。
【0131】
本発明においては、薬物と添加物との同時投与の際には、マーカー(例えば、添加物の代謝産物)の検出は幾つかの状況下で生じうる。薬物が経口投与される1つの例においては、マーカーは、摂取後、口、食道および/または胃において「コーティング」されているか又は存続することが可能であり、呼出と同時に検出されうる(口臭予防用のハッカを食べた後に口内に残存する風味または香味と同様である)。
【0132】
薬物および添加物が経口投与される第2の場合には、添加物は口または胃内の環境と作用してマーカーを産生または遊離し、ついでマーカーが呼出に際して検出されうる(例えば、口内の非酵素反応は呼気におけるマーカーの遊離を引き起こしうる;酸または酵素もマーカーを産生または遊離しうる)。第3に、添加物は胃腸管内で吸収され、肺において排泄されうる(すなわち、アルコールは急速に吸収され、ブレスアナライザー(Breathalyzer)で検出されうる)。一般に、本発明の薬物マーカーは、患者の服薬コンプライアンスを判定するための手段を提供するだけでなく、(血中薬物濃度に対する呼気中マーカー濃度の相関に基づいて)薬物の薬力学および薬物動態を決定するためにも用いられうる。
【0133】
1つの実施形態においては、添加物は丸剤の形態の薬物と共に投与される(すなわち、添加物は、製薬上許容される担体として与えられ、添加物は、急速に溶解するグルコースおよび/またはスクロースから構成される薬物コーティングとして与えられる)。丸剤、カプセル剤および急速溶解性錠剤の形態で投与される薬物の場合には、添加物はコーティングとして適用され、または物理的に一緒にされ(組合され)、または薬物に添加されうる。添加物は、液体形態(すなわち、シロップ剤、吸入器または他の投与手段によるもの)で投与される薬物と共に加えられることも可能である。
【0134】
1つの実施形態においては、添加物は、口内に存在する酵素(唾液)による分解に感受性ではないであろう。特に、常軌を逸した患者(例えば、統合失調症患者、裁判所により命令された薬物療法を受けている患者)または認知障害患者(例えば、アルツハイマー患者)は意図的または非意図的に経口薬(例えば、錠剤またはカプセル剤)を口内で「咀嚼」し、標的マーカーを口腔内で生成させる可能性があり、そしてそれが、本発明のセンサーを使用して検出され、丸剤摂取の偽陽性指標を示しうるであろう。
【0135】
ある実施形態においては、口内酵素による分解に潜在的に感受性である添加物を含有する経口薬(例えば、錠剤)の咀嚼を伴う場合であっても、標的マーカーの最高濃度(TM CMax)および標的マーカー濃度-時間関係は、腸、血液および/または肝臓内に存在する酵素の作用により生じるマーカー濃度とは顕著に異なるであろう(例えば、腸、血液および/または肝臓酵素と比べて、錠剤咀嚼の場合の口内酵素は、呼気における、遥かに低いTM CMaxを与え、より小さな曲線下面積(AUC)を有する平坦な標的マーカー濃度-時間関係を示すであろう)。そのような特徴は、適切な薬物コンプライアンスの遵守における患者の異常または障害の特定を可能にするはずである。
【0136】
前記のとおり、いくつかの実施形態においては、標的マーカーは、体内で天然または非天然に生じる揮発性有機化合物(VOC)、例えばホルムアルデヒドを含みうる。例えば、VOC代謝産物は、多数の薬物(デキストロメトルファンおよびベラパミルを含むが、これらに限定されるものではない)に対する酵素作用(例えば、CYP代謝)の産物でありうる。
【0137】
本発明の薬物マーカーは、特定の薬物または薬物クラスを示すために使用されうるであろう。例えば、患者は、抗うつ薬(三環式化合物、例えばノルトリプチリン)、抗生物質、抗高血圧薬(すなわち、ベータ-ブロッカー、アンジオテンシン変換酵素(ACE)インヒビター、アンジオテンシン受容体ブロッカー(ARB)、鎮痛薬、および(食道)抗逆流薬)を服用している可能性がある。あるマーカーは、クラスとしての抗生物質、または抗生物質のサブクラス、例えばエリスロマイシンに関して、使用されうるであろう。別なマーカーは、クラスとしての抗高血圧薬、または抗高血圧薬の特定のサブクラス、例えばカルシウムチャンネルブロッカーに関して、使用されうるであろう。抗逆流薬に関しても、同じことが当てはまるであろう。さらに、やや少数のマーカーが多数の薬物を特異的に特定するのを可能にするマーカー物質の組合せが使用されうるであろう。
【0138】
マーカーの設計のための方法
本発明においては、マーカーの開発の際に、種々の設計考慮事項が考慮されうる。そのような考慮事項には以下のものが含まれる(それらに限定されるものではない):(1)呼気中にマーカーを生成するための種々の生物学的ゲーティングメカニズム、例えば、酵素に基づくメカニズム、環境に基づくメカニズム(例えば、身体機能、例えば、添加物のpH媒介性加水分解を誘発して検出可能なマーカーを遊離させるための胃内pH)(これらに限定されるものではない)の利用;これは、患者におけるpHを増加させうるH2受容体アンタゴニスト(例えば、シメチジン、ラニチジン)またはPPI(例えば、ランソプラゾール、オメプラゾール、パントプラゾールおよびエソメプラゾール)の場合に多数の患者に特に有用である;(2)胃、腸、肝臓および血液(これらに限定されるものではない)のような生物学的部位によって異なる生物学的吸収メカニズムの利用;(3)マーカーを検出するために使用されうる、呼気からの検出媒体の、異なる相の利用、例えば、呼気における気相および呼気の凝縮物における液相(呼気凝集物 - EBC)の測定(これらに限定されるものではない);ならびに(4)呼気における測定すべきマーカーの遊離をゲーティングするための異なる方法、例えば、環境要因に基づく非常に短い寿命の揮発性物質の徐放(例えば、pHゲーティング薬物放出の際の薬物の徐放)またはプロドラッグである添加物の遅い酵素分解(例えば、エステラーゼはA→Bを開裂する)に基づく非常に短い寿命の揮発性物質の徐放(これらに限定されるものではない)の利用。
【0139】
本発明の1つの実施形態においては、前記で確立された基準を満たすセンサー/COTS装置を使用して測定されうる種々のタイプの添加物およびマーカーが特定される。すなわち、本発明の添加物またはマーカーは、呼気中のマーカーを検出するための基準をどの検出技術が満たすかに基づいて選択される。好ましい実施形態においては、呼気中のマーカーの検出に用いるために、COTSに基づくMAMSが選択される。他の実施形態においては、呼気中のマーカーの検出に用いるために、ナノ技術に基づくセンサーが選択される。
【0140】
本発明の1つの実施形態においては、薬物と共に摂取される添加物はマーカー自体であってもそうでなくてもよく、以下のいずれかから生成される:クラスI物質(GRAS化合物)、クラスII物質(FDAにより承認されている化学的実体)、クラスIII物質(目的に関してはFDAにより承認されていない化合物であるが、ヒトにおけるその毒性データは、規制機関の承認を支持するために使用されうる)、または添加物を生成するための化学的鋳型としてのクラスIV物質(ヒトにおける毒性データを有さないNCE)。
【0141】
本発明におけるマーカーとしての使用に種々のクラスの物質を想定する場合、以下のタイプの化合物が考慮されうる:アルデヒド、アルコール、ケトン、エノール、エーテル、エステルおよびホスファート含有化合物。エステルは、本発明の目的において、マーカーとして特に魅力的である。なぜなら、それらの多くは食品および/または香料産業において既に使用されているからである。本発明においてマーカーとして使用するエステルの具体例には、限定的なものではないが以下のものが含まれる:メチルブタノアート(パイナップルまたはリンゴ)、メチルサリシラート(ウィンターグリーン油)、メチルベンゾアート(マーチパン)、エチルブタノアート(パイナップル)、エチルメタノアート(ラズベリーまたはラム酒)、エチルブタノアート(パイナップルまたはアンズまたはイチゴ)、エチルサリシラート(ハッカ)、エチルヘプタノアート(ブドウ)、ブチルエタノアート(ラズベリー)、ペンチルエタノアート(バナナ)、ペンチルペンタノアート(リンゴ)、ペンチルブタノアート(セイヨウナシまたはアンズ)、オクチルエタノアート(オレンジ)およびベンジルエタノアート(ジャスミン)。
【0142】
本発明の1つの実施形態においては、マーカーは、胃腸管または血液中に添加物が実質的に放出される能力に基づいて選択される。添加物がマーカーである或る関連実施形態においては、添加物は比較的揮発性であり、(代謝されずに)不変のまま体外へ排出されうる。これとは対照的に、マーカーが添加物から生じる場合には、添加物のその貯蔵部位からの徐放が、呼気において検出可能なマーカーを迅速に生成するであろう。
【0143】
本発明のもう1つの実施形態においては、広範な血中半減期を有し、したがってマーカー放出の広範な持続時間を有し、次第に、より高い度合の立体的/電子的障害を構造内に有するようになる(例えば、エステラーゼまたはアルカリホスファターゼのような酵素が分子を開裂する能力が低下する)プロ「マーカー」ドラッグ(例えば、エステル化合物)のタイプの添加物が開発される。このように、プロ「マーカー」ドラッグ添加物は、呼気において特定されるマーカーを徐放するよう特別に設計される。
【0144】
薬物
本発明において想定される、本発明においてモニターすべき薬物には、以下のものが含まれる(それらに限定されるものではない):麻酔薬、精神科薬(すなわち、抗うつ薬、抗精神病薬、抗不安薬、抑制薬)、鎮痛薬、興奮薬、生体応答調節薬、NSAID、コルチコステロイド、疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARD)、タンパク同化ステロイド、制酸薬、抗不整脈薬、抗細菌薬、抗生物質、抗凝固薬および血栓溶解薬、抗痙攣薬、止しゃ薬、鎮吐薬、抗ヒスタミン薬、抗高血圧薬、抗炎症薬、抗腫瘍薬、解熱薬、抗ウイルス薬、バルビツール酸誘導体、βブロッカー、気管支拡張薬、鎮咳薬、細胞毒、充血除去薬、利尿薬、去痰薬、ホルモン、免疫抑制薬、血糖低下薬、緩下薬、筋弛緩薬、鎮静薬、トランキライザおよびビタミン。
【0145】
例えば、本発明は、以下の非限定的な一覧の薬物の血中濃度を有効にモニターしうる:慢性関節リウマチまたはその症状の治療薬、全身性エリテマトーデスまたはその症状、変性関節炎、脈管炎、炎症疾患、狭心症、冠状動脈疾患、末梢血管疾患、潰瘍性大腸炎およびクローン病、抗臓器拒絶薬、抗てんかん薬および抗不安薬。
【0146】
本発明において患者における存在および/または血中濃度レベルがモニターされうる薬物には、以下のものが含まれる(それらに限定されるものではない):α-ヒドロキシ-アルプラゾラム(Alprazolam)、アセカイニド(Acecainide)(NAPA)、アセトアミノフェン(Acetaminophen)(ティレノール(Tylenol))、アセチルモルヒネ(Acetylmorphine)、アセチルサリチル酸(Acetylsalicylic Acid)(サリシラートとして)、α-ヒドロキシ-アルプラゾラム(alprazolam)、アルプラゾラム(Alprazolam)(ザナックス(Xanax))、アマンタジン(Amantadine)(シンメトレル(Symmetrel))、アンビエン(Ambien)(ゾルピデム(Zolpidem))、アミカシン(Amikacin)(アミキン(Amikin))、アミオダロン(Amiodarone)(コルデアロン(Cordarone))、アミトリプチリン(Amitriptyline)(エラビル(Elavil))&ノルトリプチリン(Nortriptyline)、アモバルビタール(Amobarbital)(アミタール(Amytal))、アナフラニル(Anafranil)(クロミプラミン(Clomipramine))&デスメチルクロミプラミン(Desmethylclomipramine)、アチバン(Ativan)(ロラゼパム(Lorazepam))、アベンチル(Aventyl)(ノルトリプチリン(Nortriptyline))、ベナドリル(Benadryl)(デフェンヒドラミン(Dephenhydramine))、ベンベンジオジアゼピン(Benziodiazepines)、ベンゾイルエクゴニン(Benzoylecgonine)、ベンズトロピン(Benztropine)(コゲンチン(Cogentin))、ブピバカイン(Bupivacaine)(マルカイン(Marcaine))、ブプロピオン(Bupropion)(ウェルブトリン(Wellbutrin))およびヒドロキシブプロピオン(Hydroxybupropion)、ブタバルビタール(Butabarbital)(ブチゾール(Butisol))、ブタルビタール(Butalbital)(フィオリナール(Fiorinal))、カルバマゼピン(Carbamazepine)(テグレトール(Tegretol))、カルジゼム(Cardizem)(ジルチアゼム(Diltiazem))、カリソプロドール(Carisoprodol)(ソマ(Soma))&メプロバメート(Meprobamate)、ならびにセレキサ(Celexa)(シタロプラム(Citalopram)&デスメチルシタロプラム(Desmethylcitalopram))。
【0147】
本発明において存在および/または血中濃度レベルがモニターされうる他の薬物には、以下のものが含まれる:セロンチン(Celontin)(メトスクシミド(Methsuximide))(デスメチルメトスクシミドとして)、セントラックス(Centrax)(プラゼパム(Prazepam))(デスメチルジアゼパム(Desmethyldiazepam)として)、クロラムフェニコール(Chloramphenicol)(クロロミセチン(Chloromycetin))、クロルジアゼポキシド(Chlordiazepoxide)、クロルプロマジン(Chlorpromazine)(トラジン(Thorazine))、クロルプロパミド(Chlorpropamide)(ジアビネース(Diabinese))、クロナゼパム(Clonazepam)(クロノピン(Klonopin))、クロラゼペート(Clorazepate)(トランキセン(Tranxene))、クロザピン(Clozapine)、コカエチレン(Cocaethylene)、コデイン(Codeine)、コジェンティン(Cogentin)(ベンズゾトロピン(Benztropine))、コンパジン(Compazine)(プロクロルペラジン(Prochlorperazine))、コルダロン(Cordarone)(アミオダロン(Amiodarone))、クマジン(Coumadin)(ワルファリ(Warfarin))、シクロベンザプリン(Cyclobenzaprine)(フレクセリル(Flexeril))、シクロスポリン(Cyclosporine)(サンディミュン(Sandimmune))、シラート(Cylert)(ペモリン(Pemoline))、ダルマン(Dalmane)(フルラゼパム(Flurazepam))&デスアルキルフラゼパム(Desalkylflurazepam)、ダルボセット(Darvocet)、ダルボン(Darvon)(プロポキシフェン(Propoxyphene))&ノルプロポキシフェン(Norpropoxyphene)、デメロール(Demerol)(メペリジン(Meperidine))&ノルメペリジン(Normeperidine)、デパケン(Depakene)(バルプロン酸(Valproic Acid)、デパコート(Depakote)(ジバルプロエックス(Divalproex))(バルプロン酸として測定)、デシプラミン(Desipramine)(ノルプラミン(Norpramin))、デスメチルジアゼパム(Desmethyldiazepam)、デシレル(Desyrel)(トラゾドン(Trazodone))、ジアゼパム(Diazepam)&デスメチルジアゼパム(Desmethyldiazepam)、ジアゼパム(Diazepam)(バリウム(Valium))、デスメチルジアゼパム(Desmethyldiazepam)、ジエルドリン(Dieldrin)、ジゴキシン(Digoxin)(ラノキシン(Lanoxin))、ジランチン(Dilantin)(フェニトイン(Phenytoin))、ジソピラミド(Disopyramide)(ノルパス(Norpace))、ドロフィン(Dolophine)(メタドン(Methadone))、ドリデン(Doriden)(グルテチミド(Glutethimide))、ドキセピン(Doxepin)(シネクアン(Sinequan))およびデスメチルドキセピン(Desmethyldoxepin)、エフェキソル(Effexor)(ベンラファキシン(Venlafaxine))、エフェドリン(Ephedrine)、エクワニル(Equanil)(メプロバメート(Meprobamate))エタノール、エトスクシミド(Ethosuximide)(ザロンチン(Zarontin))、エトトイン(Ethotoin)(ペガノン(Peganone))、フェルバメート(Felbamate)(フェルバトール(Felbatol))、フェンタニル(Fentanyl)(イノバール(Innovar))、フィオリセット(Fioricet)、フィプロニル(Fipronil)、フルニトラゼパム(Flunitrazepam)(ロヒプノール(Rohypnol))、フルオキセチン(Fluoxetine)(プロザック(Prozac))&ノルフルオキセチン(Norfluoxetine)、フルフェナジン(Fluphenazine)(プロリキシン(Prolixin))、フルボキサミン(Fluvoxamine)(ルボックス(Luvox))、ガバペンチン(Gabapentin)(ニューロンチン(Neurontin))、ガンマ-ヒドロキシ酪酸(GHB)、ガラマイシン(Garamycin)(ゲンタマイシン(Gentamicin))、ゲンタマイシン(Gentamicin)(ガラマイシン(Garamycin))、ハラゼパム(Halazepam)(パキシパム(Paxipam))、ハルヂオン(Halcion)(トリアゾラム(Triazolam))、ハルドール(Haldol)(ハロペリドール(Haloperidol))、ヒドロコドン(Hydrocodone)(ヒコダン(Hycodan))、ヒドロキシジン(Hydroxyzine)(ビスタリル(Vistaril))、イブプロフェン(Ibuprofen)(アドビル(Advil)、モトリン(Motrin)、ヌプリン(Nuprin)、ルフェン(Rufen))、イミプラミン(Imipramine)(トフラニル(Tofranil))およびデシプラミン(Desipramine)、インデラル(Inderal)(プロプラノロール(Propranolol))、ケップラ(Keppra)(レベチラセタム(Levetiracetam))、ケタミン(Ketamine)、ラモトリジン(Lamotrigine)(ラミクタール(Lamictal))、ラノキシン(Lanoxin)(ジゴキシン(Digoxin))、リドカイン(Lidocaine)(キシロカイン(Xylocaine))、リンダン(Lindane)(ガンマ-BHC)、リチウム、ロプレッサー(Lopressor)(メトプロロール(Metoprolol))、ロラゼパム(Lorazepam)(アチバン(Ativan))、およびルジオミル(Ludiomil)。
【0148】
本発明において存在および/または血中濃度レベルがモニターされうる以下の薬物も含まれる(それらに限定されるものではない):マプロチリン(Maprotiline)、メバラール(Mebaral)(メフォバルビタール(Mephobarbital))&フェノバルビタール(Phenobarbital)、メラリル(Mellaril)(チオリダジン(Thioridazine))&メソリダジン(Mesoridazine)、メフェニトイン(Mephenytoin)(メサントイン(Mesantoin))、メプロバメート(Meprobamate)(ミルタウン(Miltown)、エクワニル(Equanil))、メサントイン(Mesantoin)(メフェニトイン(Mephenytoin))、メソリダジン(Mesoridazine)(セレンチル(Serentil))、メサドン(Methadone)、メトトレキセート(Methotrexate)(メキセート(Mexate)、メトスクシミド(Methsuximide)(セロンチン(Celontin))(デスメトスクシミドとして)、メキシレチン(Mexiletine)(メキシチル(Mexitil))、ミダゾラム(Midazolam)(ベルセド(Versed))、ミルタザピン(Mirtazapine)(レメロン(Remeron))、モガドン(Mogadone)(ニトラゼパム(Nitrazepam))、モリンドン(Molindone)(モバン(Moban))、モルヒネ(Morphine)、ミソリン(Mysoline)(プリミドン(Primidone))、&フェノバルビタール(Phenobarbital)、NAPA&プロカインアミド(Procainamide)(プロネスチル(Pronestyl))、NAPA(N-アセチル-プロカインアミド)、ナバン(Navane)(チオチキセン(Thiothixene))、ネブシン(Nebcin)(トブラマイシン(Tobramycin))、ネファゾドン(Nefazodone)(セルゾン(Serzone))、ネンブタール(Nembutal)(ペントバルビタール(Pentobarbital))、ノルジアゼパム(Nordiazepam)、オランザピン(Olanzapine)(ジプレキサ(Zyprexa))、オピエート(Opiates)、オリナーゼ(Orinase)(トルブタミド(Tolbutamide))、オキサゼパム(Oxazepam)(セラックス(Serax))、オクスカルバゼピン(Oxcarbazepine)(トリレプタール(Trileptal)(10-ヒドロキシオクスカルバゼピンとして)、オキシコドン(Oxycodone)(ペルコダン(Percodan))、オキシモルホン(Oxymorphone)(ヌモルファン(Numorphan))、パメロール(Pamelor)(ノルトリプチリン(Nortriptyline))、パロキセチン(Paroxetine)(パキシル(Paxil))、パキシル(Paxil)(パロキセチン(Paroxetine))、パキシパム(Paxipam)(ハラゼパム(Halazepam))、ペガノン(Peganone)(エトトイン(Ethotoin))、PEMA(フェニルエチルマロンアミド(Phenylethylmalonamide))、ペントタール(Pentothal)(チオペンタール(Thiopental))、ペルフェナジン(Perphenazine)(トリラフォン(Trilafon))、フェネルガン(Phenergan)(プロメタジン(Promethazine))、フェノチアジン(Phenothiazine)、フェンテルミン(Phentermine)、フェニルグリオキシル酸、プロカインアミド(Procainamide)(プロネスチル(Pronestyl))&NAPA、プロマジン(Promazine)(スパリン(Sparine))、プロパフェノン(Propafenone)(リトモル(Rythmol))、プロトリプチリン(Protriptyline)(ビバクチル(Vivactyl))、プソイドエフェドリン(Pseudoephedrine)、クエチアピン(Quetiapine)(セロクエル(Seroquel))、レストリル(Restoril)(テマゼパム(Temazepam))、リスペルダール(Risperdal)(リスペリドン(Risperidone))およびヒドロキシリスペリドン(Hydroxyrisperidone)、セコバルビタール(Secobarbital)(セコナール(Seconal))、セルトラリン(Sertraline)(ゾロフト(Zoloft))&デスメチルセルトラリン(Desmethylsertraline)、ステラジン(Stelazine)(トリフルオペラジン(Trifluoperazine))、スルモンチル(Surmontil)(トリミプラミン(Trimipramine))、トカイニド(Tocainide)(トノカルド(Tonocard))ならびにトパマックス(Topamax)(トピラメート(Topiramate))。
【0149】
本発明の薬物は、薬学的に有用な組成物を製造するための公知方法に従い、添加物(これは、呼気における検出可能なマーカーを生成する)を含むよう製剤化されうる。製剤は多数の刊行物に記載されており、それらはよく知られており、当業者に容易に入手可能である。例えば、Remington’s Pharmaceutical Science(Martin EW [1995] Easton Pennsylvania, Mack Publishing Company, 19th ed.)は、本発明において使用されうる製剤を記載している。非経口投与に適した製剤には、例えば、抗酸化剤、バッファー、静菌剤、および意図される被投与者の血液に対して製剤を等張にする溶質を含有しうる水性無菌注射溶液;ならびに懸濁化剤および増粘剤を含みうる水性および非水性無菌懸濁液が含まれる。
【0150】
本発明の薬物-添加物製剤は単位用量または複数用量容器、例えば密封アンプルおよびバイアルに入れて提供されることが可能であり、使用前に無菌液体担体(例えば、注射用水)の条件のみを要する凍結乾燥状態で貯蔵されてもよい。用事調製(extemporaneous)注射溶液および懸濁液は無菌散剤、顆粒剤、錠剤などで調製されうる。前記で特に挙げた成分に加え、本発明の製剤は、問題の製剤のタイプに応じて、当技術分野において通常使用される他の物質を含みうると理解されるべきである。
【0151】
本発明においては、薬物および添加物の投与は、当業者に現在公知である又は将来公知となる任意の適当な方法および技術により達成されうる。好ましい実施形態においては、薬物は、特許可能であり容易に摂取されうる経口製剤、例えば丸剤、トローチ剤、錠剤、ガム、嗜好飲料などとして、添加物と共に製剤化される。
【0152】
本発明においては、薬物は添加物と共に、制御された投薬(dispenser)手段(すなわち、丸剤投薬装置、IVバッグなど)から送達されうる。患者への薬物の送達に際して、本発明のセンサーは、薬物の標的マーカーの少なくとも1つを検出するために患者の呼気を分析する。標的マーカーが検出されると、薬物の服用における患者のコンプライアンスが実証される。また、マーカーの濃度を評価する場合には、薬物の適当な投与量が患者により服用されたかどうかを導き出すために用いる血中薬物濃度が決定されうる。
【0153】
1つの実施形態においては、本発明のMAMSは、患者の服薬コンプライアンスの度合を分析し呼気分析に基づく導出データを利用して次の処方服薬時間に関する注意喚起を与える処理システムを含む。関連実施形態においては、MAMSは、導出データに基づいて供給手段から患者へ適当な投与量を投薬しうる、投薬システム制御装置に機能的に連結された投薬手段を含む。
【0154】
本発明においては、追加的な実施形態も想定される。特に喘息および慢性閉塞性肺疾患のような状態に対する、薬物の肺送達がよく知られている。これらの場合、薬物(すなわち、コルチコステロイド、気管支拡張薬、抗コリン薬など)はしばしば噴霧用製剤化またはエーロゾル化され、口から直接的に肺内へ吸入される。これは罹患器官(肺)への直接送達を可能にし、経腸(経口)送達に一般的な副作用を軽減する。この経路により薬物を送達するためには、定量吸入器(MDI)またはネブライザ(噴霧器)が一般に使用される。最近、乾燥粉末吸入器が益々一般的になりつつある。なぜなら、それはCFCのような噴射剤の使用を必要としないからである。噴射剤は、オゾン層の減少だけでなく、喘息発作の悪化にも関連づけられている。インスリン、ペプチドおよびホルモンのような、かつては他の経路で投与されていた薬物にも、乾燥粉末吸入器が使用されている。
【0155】
これらの送達システムにも嗅マーカーが添加されうる。装置は、肺経路により薬物を送達するよう設計されるため、装置内にはセンサーアレイを組み込むことが可能であり、患者は装置を介して息を吐き戻すだけで文書が作製される。
【0156】
最後に、鼻腔内経路により薬物を送達するための装置が利用可能である。この経路はウイルス感染症またはアレルギー性鼻炎の患者に用いられることが多いが、ペプチドおよびホルモンの送達にも益々頻繁に用いられてきている。この場合にも、これらの装置内にセンサーアレイを組み込むことが簡便であり、あるいは患者は、マーカー検出システムによる検出のために鼻から呼出することが可能である。
【0157】
以下は、本発明を実施するための方法を例示する実施例である。これらの実施例は限定的なものではないと解釈されるべきである。特に示さない限り、すべての比率(%)は重量%であり、すべての溶媒混合率は容量%である。
【実施例1】
【0158】
マーカー検出
本発明のMAMSがどのように機能するかを例示するために、以下の仮想的シナリオを記載する。ここでは、肝臓によりA1へと代謝されるAと称される抗精神病薬を統合失調症患者が経口摂取する。この実施例においては、Tと称される添加物を賦形剤として、Aの錠剤に添加する。Tは主要代謝産物T1へと代謝される。
反応1: A→A1
反応2: T→T1
【0159】
このシナリオにおいては、Aの錠剤が患者により摂取されたことを実証するために呼気において測定するマーカーとして使用する以下の4つの候補物質が存在する:(選択肢1)活性医薬A;(選択肢2)活性医薬の主要代謝産物A1;(選択肢3)Aを含有する錠剤に賦形剤として添加される添加物T;(選択肢4)添加物の代謝産物T1。これらの種々の選択肢は、特有の利点および欠点を有する。後記の理由により、選択肢4が、MAMSに使用する添加物およびマーカーを選択し製造するための本発明の好ましいアプローチである。
【0160】
選択肢1:選択肢1(薬物の経口摂取後の呼気における活性薬自体の検出)の主な欠点は、MAMSがその1つの特定の活性医薬Aに対してしか機能しないことである。これはこのアプローチの大きな欠点であり、例えば年間世界売上高が40億ドルを超えるオランザピンのような広く使用されている大ヒット(blockbuster)タイプの分子に対してそれが行われる場合にのみ、開発が実施可能であろう。選択肢1の第2の欠点は、特定の活性医薬の物理化学的特徴または有効濃度が、呼気におけるこの分子の実施可能な検出を可能にするのに適さない可能性があることである。選択肢1の第3の欠点は、特に、常軌を逸した意図を有する患者において、丸剤摂取に関する偽陽性が、より高率であることだろう。A1ではなくAを検出することにより、錠剤を嚥下する過程における汚染が錠剤摂取の偽陽性指標を与えうる可能性がある(例えば、常軌を逸した患者は錠剤を口に入れ、ついで錠剤を実際には摂取することなくそれを吐き出すことがあるであろう)。最後に、薬物は数時間から数日間にわたって呼気中に存在する可能性があり、したがって、個々の用量がいつ服用されたかを識別することができない。
【0161】
選択肢2:選択肢2(薬物の経口摂取後の呼気における薬物の主要代謝産物A1の検出)の主な欠点は選択肢1と同じである。しかし、選択肢2は、選択肢1と比べて、1つの有意な利点を有する。選択肢1とは対照的に、A1が呼気中で即座に検出され、これらの物質が肝臓内の特異的酵素の作用により生成されるとすると、それは、患者が丸剤を彼/彼女の口に入れたこと、およびそれが食道から胃腸管(例えば、胃、小腸)内へ移行し、その部位において、それが血流中に吸収され、代謝のために肝臓へ送られたことを保証している。それでも、選択肢2は尚も、システムを、特定の活性薬の摂取の検出に限定するものである。さらに、選択肢1の場合と同様に、活性医薬の代謝産物A1は、呼気における実施可能な検出のためのAの用量における適当な物理化学的特徴および/または濃度プロファイルを有さないかもしれない。一方、選択された状況においては、A1が、Aの半減期に比べて十分に短い半減期を有する場合およびそれが、COTS検出技術で容易に測定されうる特有の化学的部分(例えば、アミド、硫黄および/またはフッ素含有分子)を含有する場合には特に、本発明のMAMSを使用して呼気においてA1を成功裏に測定することが可能かもしれない。
【0162】
選択肢3:選択肢3(Aを含有する丸剤の賦形剤として与えられるTの検出)の主な利点は、それが、理想的マーカー(前記のとおり)の属性を有する化学的添加物の選択を可能にするだけでなく、それが、1つの特定の薬物(選択肢1および2の欠点)ではなく任意の活性医薬の経口摂取を実証するためにも利用されうることである。しかし、Tが錠剤内の賦形剤として単に取り込まれている(表面またはマトリックス内への取り込み)だけであれば、Tの代謝産物(選択肢4)ではなくTを利用することにより、それは、錠剤が摂取されたことを保証し得ない(すなわち、Tによる口内の表面汚染がMAMSにおける偽陽性を招きうるであろう)。この欠点は、丸剤がどのように構成されるか(例えば、pH感受性外層を有するカプセルよりなる丸剤;それが胃にさらされた場合にのみ、胃内でコーティングを溶解し、その内容物を放出するといった酸性環境)などの丸剤設計因子により、有意に緩和され、更には除去されうる。
【0163】
選択肢4:それらの4つの選択肢のうち、本発明のMAMSに好ましいアプローチは、選択肢4(T1の検出)であり、この場合、AおよびTが同一丸剤中に共存する。選択肢4は以下の3つの主な利点を有する:(1)理想的マーカーの属性を有する化学的添加物の選択を可能にする;(2)任意の活性医薬の経口摂取を実証するために利用されうる;および(3)活性医薬が摂取され、血中区画に進入し、その生物学的標的部位に移行し、効力の基礎をなすそのメカニズムによりその作用を発現したことを保証しうる。例えば、肝臓内に存在する或る酵素がTをT1へ変換するとすると、呼気におけるT1の検出は、患者が実際に彼/彼女の口に錠剤を入れ、患者において活性薬物の丸剤摂取がなされたことを決定的に証明するものである。本発明において想定される、T1を生成させるために用いる酵素システムは、肝臓に限定されるわけではなく、血中エステラーゼなどの他の肝臓外酵素を包含しうるであろう。
【実施例2】
【0164】
服薬遵守モニターシステム(MAMS)の開発
この典型的な実施例においては、in vivoで遊離され、MAMSに最適な時間にわたって呼気中に出現し、他の用途のために現在市販されているリアルタイムの高精度なケア現場(point of care)用COTS装置により容易に検出される一連の(本発明におけるMAMS適用に要求される濃度において)無毒性であり非内因性であり非常に特徴的な化合物(例えば、フルオロアルコール、フルオロアルデヒド)の新規化学法を用いる。本発明の好ましいMAMSの設計および構築は、以下の2つの決定的に重要な要素に基づく:(a)マーカーを生成させるための新規化学法の開発、および(b)マーカーを測定するためのCOTS検出技術の開発。本発明のMAMSの幾つかの実施形態においては、システムは、以下の要素のいずれか1つ又は組合せを含みうる:(1)肺胞ガスサンプル採取装置、(2)マーカーの検出などを使用者に知らせるための連絡手段。
【0165】
添加物の製造
本発明において、薬物と組合される添加物には、添加物の構造上にR基(例えば、使用されうるR基の、図1、表1を参照されたい)およびR’基(表2を参照されたい)を含む、エステルに基づく化合物が含まれる。Rおよび/またはR’基(限定的なものではないが、カルボニル部分の領域内のアルキル基を含む)は、好ましくは、添加物のエステル結合の加水分解をもたらすものである。エステルとエステラーゼとの間の立体障害および/または電子的相互作用の度合を様々に変化させることにより、Rおよび/またはR’の性質およびサイズが、エステル加水分解の速度、ひいては検出可能なアルコール(R'-OH)(本明細書においてはマーカーとも称される)の生成の速度を著しく変化させうる。
【0166】
図1は、カルボン酸およびアルコールへの、エステルの加水分解を例示する。本発明においては、アルコールは、呼気において検出可能な薬物マーカーであり、ここで、RおよびR’基は、表1に記載されている基に従い様々なものとなりうる。選択されるRおよびR’基は、エステルからアルコールへの、患者における加水分解変換の速度を調節するために用いられうる。
【0167】
1つの実施形態においては、R'-OHマーカーはフルオロアルコールである。この実施例においてマーカーとして働く各タイプのフルオロアルコール(R'-OH)は、特有の物理化学的特徴(例えば、蒸気圧、沸点、融点、引火点、親油性など)およびヒトにおける代謝半減期を有する。また、ヒトにおいて内因的に生成されうる硫黄化合物またはアミンのような他のものとは異なり、揮発性フッ素分子実体はヒトにおいて天然では見いだされない。したがって、フッ化アルコールは、丸剤摂取の非常に特徴的なマーカーとして働き、これは、安価なリアルタイムのCOTSセンサー装置を使用して容易に検出されうる。
【0168】
本発明においては、第3級フルオロアルコール(化合物R'1、R'2およびR'3に由来するもの)は代謝に対して特に抵抗性であるはずである。血中のフルオロアルコールの相対揮発性および安定性を考慮すると、エステルに基づく本発明の添加物に由来するフルオロアルコールマーカーの有意な割合が身体から肺を介して呼気中に排泄されるはずである。
【0169】
前記のとおり、本発明の1つの態様は、呼気中に出現し適当な時間にわたって存在し続けるマーカーの設計方法を含む。この実施例においては、合計10個のR基および合計4個のR'基がそれぞれ表1および2に示されている。したがって、化合物安定性および化合物合成の容易さに応じて、薬物に添加される添加物として使用される合計40個の新規分子が、このアプローチにより容易に合成されうるであろう。表1および2に挙げられているRおよびR’基は包括的なものではなく、他の化合物を含むよう容易に拡張されうる。
【0170】
本発明においては、この実施例ではフルオロアルコールであるマーカーが呼気中に存続しうる持続時間は、以下の2つの異なる因子の関数である:(1)エステルの加水分解からのフルオロアルコールの放出の速度(RおよびR’基の置換の関数)、および(2)フルオロアルコールの固有特性(例えば、生理的温度における蒸気圧のような物理化学的特性の関数、および代謝半減期、クリアランスおよび分布体積のような薬物動態学的特徴)。エステルに基づく40個のRおよびR’の添加物を使用することにより、本発明は、MAMSにおけるマーカーとして使用する理想的なフルオロアルコールを特定するための新規かつ有利な方法を提供する。
【0171】
センサー技術 - COTS
呼気において検出可能なマーカーとしてのフルオロアルコールを得るためにエステルに基づく添加物化学を利用することにより、本発明のMAMSにおいて使用するための実質的に理想的な性能特性をそれぞれが有する多数のCOTSセンサー装置が本発明において容易に使用されうる。これらの装置は、フレオン(Freon)、ヒドロフルオロカーボンおよびクロロフルオロカーボン(CFC)の漏出を検出するために使用されている。本発明において使用するための好ましいタイプのCOTSには、陰極コロナ漏出検出器(Negative Corona Leak Detector)(例えば、TIF TIFXP-1A)、負イオン捕捉(Negative Ion Capture)(例えば、Ion Science SF6 Leak Check P1およびGas Check P1)、加熱センサー/セラミック半導体(Heated Sensor/ Ceramic Semiconductor)(例えば、Yellow Jacket Accuprobe; Ion Science GasCheck R2pc)、および赤外吸収(例えば、PSICORP GasScan Miniature Diode Laser-based Ambient Gas Sensor; INFICON D-Tek IR Leak Detector; BACHARACH H25-IR Leak Detector)が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0172】
前記のセンサーは本発明のMAMSに理想的である。なぜなら、それらは、小型/可搬性であり、高い信頼性を有し、リアルタイムで機能し、高感度/特異的であり、使用が容易であり、実施に伴う妨害因子(例えば、湿度)が僅かであり、安価であるからである。同様に、これらのタイプのセンサーは、肺胞ガス採集システム(必要とは考えられない)を含有する携帯電話(またはコンピューター)内に非常に容易に組み込まれることが可能であり、外部モニター(例えば、家族、中央機関、病院、診療所)に服薬遵守を連絡するために使用されうる連絡手段にインターフェースされうる。
【0173】
【表1】

【0174】
【表2−1】

【0175】
【表2−2】

【0176】
【表3】

【実施例3】
【0177】
添加物の選択および合成
呼気中にマーカーを生成させるために化学法が容易に修飾されうることを更に示すために、この例示的実施例においては、マーカーを生成させるために使用する添加物は、酵素アルカリホスファターゼによるアルカリ加水分解により加水分解されるホスファート化合物である(図2)。生じる生成物はアルコール、ケトンおよびホスファートである。実施例2と同様に、アルカリホスファターゼによる加水分解の速度は、R’、R”および/またはR'''の位置の置換基により結合上に課される立体/電子的障害の度合により調節されうる。考えられうるR’、R”および/またはR'''基が示されているが、表4に記載のものに限定されるわけではない。本実施例において、R”およびR'''基がそれぞれ、単なるH原子を含有する場合には、図2において生じるケトンは、アルデヒドであるホルムアルデヒド(HCOH)である。この特定の実施例においては、(R’基を介して)生じるアルコールはフルオロアルコールとなろう。実施例2と同様に、マーカーとして生じる、考えられうるフルオロアルコールが示されているが、表2に挙げたものに限定されるわけではない。
【0178】
ここに示されている本実施例に記載の2つの酵素システム(すなわち、エステラーゼ、アルカリホスファターゼ)に加えて、多数の他の酵素システム(例えば、CYP/P450システムの種々の画分)も、添加物からマーカーを生成させるために容易に使用されうる。本実施例に記載のとおりにマーカーとしてフルオロアルコールを使用することに加えて、硫黄含有化合物またはアミドを含む(それらに限定されるものではない)多数の他の分子が本発明のマーカーとして使用されうるであろう。これらの化合物の多くは、ヒトの体内で産生される又は食物として頻繁に摂取される天然化合物であり、これらは添加物として直接使用可能であり、あるいはin vivoで産生されて、前記の酵素アプローチ(例えば、エステラーゼ、アルカリホスファターゼ、CYP)を用いて、検出可能なマーカーを与えうるであろう。
【0179】
フルオロアルコール以外のマーカー(例えば、硫黄、アミド)を高感度かつ特異的に測定するためには、可搬性リアルタイムCOTSセンサー装置が使用されうる。フッ素化化合物をマーカーとして使用する場合には、ベースライン呼気測定は不要と思われる。体内に天然に生じるマーカーの使用は、薬物摂取を検出するためにベースライン測定を要するかもしれない(あるいは要しないかもしれない)。
【0180】
COTS装置が特定のマーカーと組合され、そしてマーカーが特定の薬物と組合される場合には、複数の薬物に関する患者の遵守のモニターが本発明において実施可能である。例えば、3つの異なる薬物を処方された患者における遵守をモニターするためには、各薬物に特有の添加物がそれぞれ、COTSセンサー装置における異なる検出技術により検出されるマーカー(例えば、薬物Aにはフルオロアルコール;薬物Bには天然硫黄化合物;および薬物Cには天然アミン)を生成するであろう。
【0181】
【表4】

【実施例4】
【0182】
CYP 2D6基質添加物の合成
前記のとおり、添加物からマーカーを生成させるために、エステラーゼおよびアルカリホスファターゼ酵素システムに加えて多数の他の酵素システム(例えば、CYP/P450システムの種々の画分)が容易に使用されうるであろう。前記実施例に記載されているようにマーカーとしてフルオロアルコールを使用することに加えて、(フルオロアルコールを上回るほどではなくてもそれと同程度に)揮発性であるフッ化カルボニル化合物を含む(それらに限定されるものではない)多数の他の分子が、本発明におけるマーカーとして使用されうる。多数のそのようなフッ化カルボニル化合物が、CYP/P450酵素システムの種々のアイソフォームを介して代謝される添加物からin vivoで生成され(そして検出のために呼気中に排泄され)うるであろう。そのような添加物および生じるフッ化カルボニル化合物/マーカーの一例を以下に示す。
【0183】
材料および方法
一般的な化学的方法
すべての試薬はSigma(St. Louis, MO)から購入した。使用したすべての溶媒は試薬等級のものであり、Fisher Scientific(Atlanta, GA)から入手した。カラムクロマトグラフィーはFisherシリカゲル(230〜400メッシュ)上で行った。薄層クロマトグラフィー(TLC)分析はFisherシリカゲル60-F254プレート上で行い、UV光(254 nm)を使用して可視化した。1H NMR(300 MHz)スペクトルはVarian Unity 300分光計上で記録した。化学シフトはピーピーエム(ppm)で示されている。特徴的なピークのみが示されている。APCI質量スペクトルは、Thermo Finnigan(San Jose, CA)LCQ質量分析計を使用して得た。元素(燃焼)分析はAtlantic Microlab, Inc.(Norcross, GA)により行った。
【0184】
O-トリフルオロエチルデキストロルファンの合成
3-(O-デスメチル)デキストロメトルファン (2): デキストロメトルファン臭化水素酸塩1 (10 g, 28.4 mmol) を48%水性臭化水素酸 (50 ml)に溶解した。溶液を還流温度まで18時間加熱した。混合物を破砕氷上に注ぎ、pH = 10になるまでK2CO3で処理した。混合物をクロロホルム (3×100 mL)で抽出した。
【0185】
合わせた有機抽出物をブラインで洗浄し、Na2SO4で乾燥させ、濾過し、溶媒を減圧下で除去して固体(6 g, 81%)を得た。薄層クロマトグラフィー (TLC)を用いる分析は、非常に僅かな出発物質が残存していることを示した: Rf = 0.2 (95:5 CH2Cl2/MeOH)。ここで、物質は、更なる精製を行うことなく使用した。1H NMR (CDCl3): δ 6.97 (d, J = 8.1Hz, 1H, C1-H), 6.72 (d, J = 2.4Hz, 1H, C4-H), 6.61 (dd, J = 2.7, 8.1Hz, 1H, C2-H), 2.40 (s, 3H, N-CH3); MS (APCI): m/z 258 [M+1]+
【0186】
N, O-ビス(ビニルオキシカルボニル)モルヒナン (3): 2 (6 g, 23.4 mmol) およびプロトンスポンジ (Proton Sponge) (1,8-ビス(ジメチルアミノ)ナフタレン, 6 g, 28.2 mmol)をN2下、60℃で1,2-ジクロロエタン (50 mL)に溶解した。ビニルクロロホルマート (6 g, 53 mmol)を加えた後、溶液を還流温度で一晩加熱した。TLCは、出発物質が残存していないことを示した。混合物を濾過し濃縮し、残渣を、CH2Cl2で溶出するカラムクロマトグラフィーにより精製した。所望の画分を合わせ、ついで溶媒を除去して黄色油 (5 g, 56%) Rf = 0.67(CH2Cl2)を得た。1H NMR (CDCl3): δ 7.28 (d, J = 8.1Hz, 1H, C1-H), 7.20 (m, 2H, H2C=CHO-COR, R=NおよびO), 7.11 (s, 1H, C4-H), 7.01 (dd, J = 2.4, 8.1Hz, 1H, C2-H), 5.04 (dd, J = 2.1, 13.8Hz, 1H, trans-H2C=CHO-COO), 4.77 (d, J = 14.4Hz, 1H, trans-H2C=CHO-CON), 4.68 (dd, J = 2.1, 6.3Hz, 1H, cis-H2C=CHO-COO), 4.45 (d, J = 6.9Hz, 1H, cis-H2C=CHO-CON); MS (APCI): m/z 384 [M+1]+
【0187】
3-ヒドロキシ-N-ビニルオキシカルボニル-モルヒナン (4): 3 (3.27 g, 8.5 mmol) を、408 mg (10.2 mmol)のNaOHを含有するジオキサン (36 mL) および水 (12 mL) に溶解した。溶液を60℃で3時間加熱した。TLCは、出発物質が存在しないことを示した。混合物を室温に冷却し、ブライン中に注ぎ、エーテル (3×50mL)で抽出した。合わせたエーテル抽出物をNa2SO4で乾燥させ、濾過し、溶媒を真空中で蒸発させて残渣を得、これを、ヘキサン中の10〜50%EtOAcで溶出するカラムクロマトグラフィーにより精製して油 (2.5 g, 94%), Rf = 0.29 (CH2Cl2)を得た。1H NMR (CDCl3): δ 7.18 (m, 1H, NCOOCH=CH2), 6.93 (d, J = 6.6Hz, 1H, C1-H), 6.76 (d, J = 1.8Hz, 1H, C4-H), 6.64 (dd, J = 2.1, 6.3Hz, 1H, C2-H), 4.69 (dd, J = 0.9, 10.5Hz, 1H, trans-H2C=CHO-CON), 4.37 (dd, J = 0.9, 4.8Hz, 1H, cis-H2C=CHO-CON); MS (APCI): m/z 314 [M+1]+
【0188】
2,2,2-トリフルオロエチル p-トルエンスルホナート (5): CH2Cl2 (10 mL)に溶解した p-トルエンスルホニルクロリド (4.5 g, 24 mmol) をN2下、0℃で10 mL CH2Cl2中の2,2,2-トリフルオロエタノール (1.6 g, 16 mmol)の溶液に滴下し、ついで4.5 mLのTEAを滴下した。TEAの添加が完了した後、反応液を室温で16時間攪拌した。混合物を濃縮し、残渣をEtOAc (150 mL)に溶解し、NaHCO3 (100 mL)、0.5 M クエン酸 (100mL)、蒸留水 (100mL)で洗浄し、Na2SO4で乾燥させた。溶媒を真空中で蒸発させて残渣を得、これを、ヘキサン中の10% EtOAcで溶出するカラムクロマトグラフィーにより精製して、生成物5 (3.2 g, 80%), Rf = 0.33 (4:1 ヘキサン/CH2Cl2)を得た。1H NMR (CDCl3): δ 7.75 (d, J = 6.9Hz, 2H, 芳香族性H), 7.33 (d, J = 6.9Hz, 2H, 芳香族性H), 4.32 (q, J = 7.8Hz, 2H, CH2CF3), 2.38 (s, 3H, CH3)。
【0189】
3-(2,2,2-トリフルオロエチル)-N-ビニルオキシカルボニル-モルヒナン (6): 乾燥DMF(25 mL)中の4 (2 g, 6.4 mmol)の高速攪拌溶液に、N2下、NaH (60%油分散液, 400 mg, 10 mmol) を加えた。1時間の攪拌後、10 mLのDMF中の5 (2.3 g, 9.1 mmol) を滴下した。混合物を室温で一晩攪拌し、ついで100 mLのブライン中に注ぎ、エーテル (3×40mL)で抽出した。合わせた有機抽出物をNa2SO4で乾燥させ、濾過し、真空中で濃縮した。残渣を、CH2Cl2/MeOHで溶出するカラムクロマトグラフィーにより精製して、油 (1g, 40%), Rf = 0.22 (4:1:0.1 ヘキサン/CH2Cl2/MeOH)を得た。1H NMR (CDCl3): δ 7.18 (m, 1H, NCOOCH=CH2), 6.93 (d, J = 6.6Hz, 1H, C1-H), 6.76 (d, J = 1.8Hz, 1H, C4-H), 6.64 (dd, J = 2.1, 6.3Hz, 1H, C2-H), 4.69 (dd, J = 0.9, 10.5Hz, 1H, trans-NCOOCH=CH2), 4.37 (dd, J = 0.9, 4.8Hz, 1H, cis-NCOOCH=CH2): m/z 396 [M+1]+
【0190】
O-トリフルオロエチルデキストロルファン(7): 6 (730 mg, 1.84 mmol)を乾燥THF (25 mL)に溶解し、N2下、氷浴内で30分間攪拌した。LiAlH4 (300 mg, 7.9 mmol) を、0℃で高速攪拌しながら少量ずつ加えた。混合物を室温で一晩攪拌した。混合物に0.3 mLの水および0.3 mLの15%水性NaOHを加えた。混合物を75 mLの水に注ぎ、エーテル (4×30 mL)で抽出した。合わせた有機抽出物をNa2SO4で乾燥させ、濾過し、真空中で濃縮した。残渣を、CH2Cl2中の5〜20% MeOHで溶出するカラムクロマトグラフィーにより精製して、油 (360 mg, 58%), Rf = 0.2 (95:5 CH2Cl2/MeOH)を得た。1H NMR (CDCl3): δ 7.05 (d, J = 8.1Hz, 1H, C1-H), 6.85 (d, J = 2.7Hz, 1H, C4-H), 6.70 (dd, J = 2.7, 8.1Hz, 1H, C2-H), 4.32 (q, J = 8.1Hz, 2H, CF3CH2), 2.39 (s, 3H, NCH3); MS (APCI): m/z 340 [M+1]+。油 (60mg)をジエチルエーテル (1 mL)に溶解し、48% 水性HBr (200μL)で処理し、ついで真空中で蒸発させ、乾燥させて白色固体臭化水素酸塩を得た。分析 (C19H24F3NO・1.5HBr・0.6H2O): C, H, N。
【0191】
CYP 2D6阻害アッセイ
CYP 2D6阻害アッセイがNovascreen(Hanover, MD)により行われた。簡潔に説明すると、化合物(10-10 M〜10-5 Mの範囲の濃度のデキストロメトルファンまたはトリフルオロエチルデキストロルファン)を含有する100μlの溶液および混合された50μLの補因子溶液を100 mM リン酸カリウムバッファー (pH = 7.4)中、37℃で10分間プレインキュベートした後、ヒト組換えCYP2D6 (1.5 pmol) およびAMMC (1.5 μM)の50μLの新たに混合された溶液を各ウェルに加えた。最終的な補因子濃度は1.3 mM NADP+、3.3 mM グルコース-6-リン酸、0.4 U/ml グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼであった。サンプルを45分間インキュベートし、反応を75μLのTris/アセトニトリル停止溶液で停止させた。キニジンを参照化合物として使用した。蛍光プレートスキャナーを390 nmの励起波長および460 nmの発光波長を使用して、AMMCの代謝産物であるAMHCを測定した。図5に示すとおり、AMMC代謝を阻害する能力はデキストロメトルファンとトリフルオロエチルデキストロルファンとに関して類似していた。
【0192】
ヒト肝臓ミクロソームアッセイ
プールされたヒト肝臓ミクロソームおよびNADPH再生システムをGentest (Woburn, MA)から入手し、-80℃で保存した。LpDNPH S10カートリッジをSupelco (Bellefonte, PA)から入手した。すべての溶媒はHPLC等級であり、Fisher Scientific (Atlanta, GA)から入手した。
【0193】
100 mM リン酸カリウムバッファー (pH 7.5)中に2 mg/mL ヒト肝臓ミクロソーム、5.2 mM NADP+、13.2 mM グルコース-6-リン酸、1.6 U/ml グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ、6.6 mM 塩化マグネシウムおよび1 mM トリフルオロエチルデキストロルファンを含有する1.5mLポリプロピレンバイアル内でミクロソームのインキュベーションを行った。全容量は1.5mLであった。
【0194】
5 mLシリンジによりもたらされる吸引により1.5時間のインキュベーション混合物から生じたトリフルオロアセトアルデヒドを採集するために、LpDNPH S10カートリッジを使用した。インキュベーションは3回重複して行った。1.5時間のインキュベーションの後、カートリッジを3mLのアセトニトリルで洗浄し、20μLの[15N4]トリフルオロアセトアルデヒド2,4-ジニトロフェニルヒドラゾン (内部標準, 50 μg/mL)を加えた。アセトニトリルを窒素気流下で除去し、残渣を20μLのジクロロメタンに溶解し、2μLをGC/MS分析に使用した。
【0195】
ガスクロマトグラフィー - 質量分析
Thermo Finnigan PolarisQ Mass Spectrometer (MS)システム (PolarisQ MS、TRACE GCおよびXcalibur Data Systemよりなる)を使用した。GC条件は以下のとおりであった: カラム, Rtx(登録商標)-5MSシリカキャピラリーカラム (30m×0.25mm i.d., 0.25μm); 流速1mL/分のヘリウムキャリヤーガス; インジェクター温度220℃; カラムヘッド圧7.8 psi。初期オーブン温度は1分間にわたり40℃であり、25℃/分で300℃まで上昇させ、300℃で3分間維持した。すべてのサンプル注入は、無分割(splitless)モードを用いて行った。MS条件は以下のとおりであった: イオン源温度, 200℃; 界面温度, 300℃; イオン化電圧, 70eV。トリフルオロアセトアルデヒド-2,4-ジニトロフェニルヒドラゾンの特定および定量のために、負化学イオン化 (NCI)モードを用いた。メタンを試薬ガスとして使用した。
【0196】
トリフルオロアセトアルデヒドのそのDNPH誘導体としての決定のための内部標準として、[15N4]トリフルオロアセトアルデヒド2,4-ジニトロフェニルヒドラゾンを使用した。定量は、内部標準[15N4]トリフルオロアセトアルデヒド2,4-ジニトロフェニルヒドラゾン (m/z 185)に対する、最も強力なフラグメントイオンであるトリフルオロアセトアルデヒド2,4-ジニトロフェニルヒドラゾン (m/z 182)の選択イオンモニター (selected ion monitoring)(SIM)により行った。
【0197】
結果
化学
O-トリフルオロエチルデキソトロファンの合成は5工程の操作を含むものであった (例えば、Senderoff SG, Landvatter SWおよびHeys JR, 2000ならびにOlofson RAおよびSchnur RC, 1977, "Value of the vinyloxycarbonyl unit in hydroxyl protection: application to the synthesis of nalorphine" Tetrahed. Lett. 18: 1571-1574の方法を参照されたい)。まず、デキソトロメトルファン臭化水素酸塩を還流温度での48% 水性臭化水素酸での処理によりO-脱メチル化し、得られたO-デスメチルデキソトロメトルファン臭化水素酸塩をその遊離塩基に変換した。次にこの遊離塩基を1,2ジクロロエタン中の2.25当量のビニルクロロホルマートおよびProton Sponge (商標)で処理してビスビニルオキシカルボニル誘導体を得た。ついでビス-ビニルオキシカルボニルモルヒナンを60℃でジオキサン/水性水酸化ナトリウム (3:1)での加水分解により選択的にO-脱保護した。第4工程において、得られたN-ビニルオキシカルボニルフェノールをN,N-ジメチルホルムアミド中の水素化ナトリウムおよび2,2,2-トリフルオロエチルp-トルエンスルホナート (p-トルエンスルホニルクロリドを使用する2,2,2-トリフルオロエタノールのトシル化により調製したもの)で処理して3-トリフルオロエトキシN-ビニルオキシカルボニルモルヒナンを得た (Sonesson C, Lin CH, Hansson L, Waters N, Svensson K, Carlsson A, Smith MWおよびWikstrom H., 1994)。最後に、このトリフルオロエチル誘導体をテトラヒドロフラン中の水素化アルミニウムリチウムにより還元してO-トリフルオロエチルデキストロルファン遊離塩基を得、この遊離塩基を48% 臭化水素酸で処理することにより最終化合物を得た。合成を図4に示す。
【0198】
トリフルオロアセトアルデヒドの決定
本実施例においては、トリフルオロエチルデキストロルファン(添加物)の脱トリフルオロエチル化の後、トリフルオロアセトアルデヒド(検出可能なマーカー)が産生されるはずである。特に、図6に示すとおり、CYP酵素システム(例えば、CYP2D6)による添加物トリフルオロエチルデキストロルファンの代謝は、(添加物と共に投与された)薬物の服用における患者のコンプライアンスの指標として呼気において容易に検出される揮発性のトリフルオロアセトアルデヒドマーカーを与える。その形成を検出するために、90分間のミクロソームのインキュベーション中にトリフルオロアセトアルデヒドを採集した。アルデヒドの高い揮発性および反応性により、それは通常、ある与えられた時点でその濃度を固定するための決定の前に最初に誘導体化される。
【0199】
DNPHは、誘導体化のために最も一般に使用される試薬である (Kolliker S, Oehme MおよびDye C, 1998, "Structure Elucidation of 2,4-Dinitrophenylhydrazone Derivatives of Carbonyl Compounds in Ambient Air by HPLC/MS and Multiple MS/MS Using Atmospheric Chemical Ionization in the Negative Ion Mode" Anal Chem 70: 1979-1985)。頭隙内に放出されたトリフルオロアセトアルデヒドを、固相捕捉カートリッジを使用して、そのDNPH付加体へと誘導体化した後、GC/(NCI)MSによる分析を行った。分析は、しばしば、フレームイオン化 (Priego-Lopez E, Luque de Casto MD, 2002, "Pervaporation-gas chromatography coupling for slurry samples. Determination of acetaldehyde and acetone in food" J Chromatogr A 2002, 976:399-407)、電子捕捉 (Ohata H, Otsuka MおよびOhmori S, 1997, "Determination of acetaldehyde in biological samples by gas chromatography with electron-capture detection" J Chromatogr B Biomed Sci Appl. 693: 297-305; Tomita M, Okuyama T, Hatta YおよびKawai S, 1990, "Determination of free malonaldehyde by gas chromatography with an electron-capture detector" J. Chromatogr B Biomed. Appl. 526: 174-179)または質量分析検出 (Park HM, Eo YW, Cha KS, Kim YMおよびLee KB, 1998, "Determination of free acetaldehyde in total blood for investigating the effect of aspartate on metabolism of alcohol in mice" J Chromatogr B Biomed Sci Appl. 719: 217-221)を備えたGCにより行われる。
【0200】
液体クロマトグラフィー(Lucas D, Menez JF, Berthou F, Pennec YおよびFloch HH, 1986, "Determination of free acetaldehyde in blood as the dinitrophenylhydrazone derivative by high-performance liquid chromatography" J Chromatogr 382: 57-66; Shara MA, Dickson PH, Bagchi DおよびStohs SJ, 1992, "Excretion of formaldehyde, malondialdehyde, acetaldehyde and acetone in the urine of rats in response to 2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin, paraquat, endrin and carbon tetrachloride" J. Chromatogr B Biomed. Appl. 576:221-233)、液体クロマトグラフィー - 質量分析(LC/MS; Kolliker S, Oehme MおよびDye C, 1998, "Structure Elucidation of 2,4-Dinitrophenylhydrazone Derivatives of Carbonyl Compounds in Ambient Air by HPLC/MS and Multiple MS/MS Using Atmospheric Chemical Ionization in the Negative Ion Mode" Anal Chem 70: 1979-1985; Kempter C, Zurek GおよびKarst U, 1999, "Determination of carbonyls using liquid chromatography-mass spectrometry with atmospheric pressure chemical ionization" J Environ Monit 1: 307-311; Zurek GおよびKarst U, 1999, "Liquid chromatography-mass spectrometry method for the determination of aldehydes derivatized by the Hantzsch reaction" J. Chromatogr A 864: 191-197)および液体クロマトグラフィー - タンデム質量分析(LC/MS/MS) (Nagy K, Pollreisz F, Takats ZおよびVekey K, 2004, "Atmospheric pressure chemical ionization mass spectrometry of aldehydes in biological matrices" Rapid. Commun. Mass. Spectrom. 18: 2473-2478)も用いられている。
【0201】
トリフルオロエチルアルデヒド2,4-ジニトロフェニルヒドラゾンの構造を確認するために、触媒としてp-トルエンスルホン酸を使用してトリフルオロアセトアルデヒドエチルヘミアセタールをトルエン中のDNPHで処理し、溶液を還流下で4時間加熱することにより、標準化合物を合成した (Abouabdellah A, Begue JP, Bonnet-Delpon DおよびNga TTT, 1997, "Diastereoselective synthesis of the nonracemic methyl syn-(3-fluoroalkyl)isoserinates" J. Org. Chem. 62: 8826-8833; Guanti G, Banfi L, Narisano E, Scolastico CおよびBosone E, 1985, "Monobactams: stereoselective synthesis of trans-3-amino- and 3-acylamino-4-trifluoromethyl-2-azetidinones" Synthesis 6/7: 609-611)。標識DNPHを使用して、MS内部標準として、15N標識トリフルオロアセトアルデヒド2,4-ジニトロフェニルヒドラゾンも合成した (ProkaiおよびForster, 米国特許出願番号60/614,951)。アナライトと内部標準とは同じ保持時間を有するが、分子イオンのm/zにおける4-uの差を示す。2つのNの間でフラグメンテーションが生じるため、それらの2つの強力なフラグメントイオンのm/zは3 uだけ異なる。図7A〜Dは、これらの2つの化合物のクロマトグラムおよび質量スペクトルを示す。定量のために、フラグメントイオンm/z 182および185をモニターした。既知量 (1μg)の添加内部標でのSIMクロマトグラムの内部標準ピーク面積に対するアナライトの比率を掛け算することにより、LpDNPH S10カートリッジにより捕捉されたトリフルオロアセトアルデヒド2,4-ジニトロフェニルヒドラゾンの量を計算した。このアッセイ法は、潜在的フッ素性呼気マーカーの代謝生成を確認するために使用したミクロソームインキュベーション混合物の頭隙から120 ngのトリフルオロアセトアルデヒドが捕捉されることを示した。したがって、トリフルオロエチルデキストロルファンは、薬物と組合される優れた添加物であろう。
【0202】
本発明においては、トリフルオロエチルデキストロルファンの他の類似体が添加物として使用されうる。例えば、トリフルオロプロピルデキストロルファンおよびトリフルオロブチルデキストロルファンが添加物として使用可能であり、この場合、患者において脱トリフルオロエチル化の後でトリフルオロ化アルデヒドが生成する。これらの類似体は、呼気サンプルにおける検出可能なマーカーの生成において、トリフルオロエチルデキストロルファンを上回ることはないとしてもそれと同等に有効である。
【実施例5】
【0203】
センサーの選択
以下は、本発明の方法の実施において利用されうる種々のセンサー技術の実施例である。
【0204】
微量重量センサー
微量重量センサーは、特定の物質または構造類似体の群に対して選択的に予め決められた、高分子または生体分子に基づく吸着剤の製造に基づく。標的マーカーと吸着剤との結合により誘発される質量変化の直接測定はセンサーの基質内の音響せん断波の伝播により観察されうる。音響波の位相および速度はセンサー表面上への標的マーカーの具体的な吸着により影響される。石英(SiO2)または酸化亜鉛(ZnO)のような圧電気材料は、発振場において励起されると特定の超音波周波数において機械的に共振する。電磁エネルギーは音響波に変換され、それにより、圧電気は、異方性結晶構造を有する材料の電気的分極に関連づけられる。一般に、発振法は、音響波作用をモニターするために用いられる。特に、発振法は共振センサーの一連の共振周波数を測定する。微量重量センサーに由来するセンサーのタイプには、厚さ-せん断モード(thickness-shear mode)(TSM)を適用する石英結晶微量天秤(quartz crystal microbalance)(QCM)装置、および表面音響波(SAW)検出原理を適用する装置が含まれる。微量重量センサーに由来する他の装置には、曲げプレート波(flexural plate wave)(FPW)、せん断水平音響プレート(shear horizontal acoustic plate)(SH-APM)、表面横波(surface transverse wave)(STW)および細棒音響波(thin-rod acoustic wave)(TRAW)が含まれる。
【0205】
導電性高分子
導電性高分子センサーは、迅速な応答時間、低いコストならびに良好な感度および選択性を約束する。技術は概念的には比較的単純である。炭素のような導電体を特定の非導電性高分子中で均一に混合し、酸化アルミニウム基質上に薄膜として蒸着させる。膜は2本の電気導線を挟んで配置されて、ケモレジスター(chemoresistor)を形成する。高分子が種々の化学蒸気にさらされるにつれて、それは膨張して、炭素粒子間の距離を増加させ、それにより抵抗を増加させる。高分子マトリックスが膨張するのは、アナライトの蒸気が、アナライトの分配係数により定められる度合で膜内に吸収されるからである。分配係数は、特定の温度における蒸気相と凝縮相との間のアナライトの平衡分布を定める。各検出器要素は、最小吸収量のアナライトが、ベースラインノイズを超えて検知されうる応答を引き起こすことを要する。高分子の化学組成を変化させることにより、種々の蒸気に対する選択性が達成される。これは、各センサーが特定の化学蒸気に適合化されることを可能にする。したがって、ほとんどの適用には、選択性を改善するために直交(orthogonal)応答センサーのアレイが要求される。アレイにおけるセンサーの数にかかわらず、関心のある化学蒸気を正確に特定するためには、それらからの情報をパターン認識ソフトウェアで処理する必要がある。感知濃度は良好である(数十ppm)と報告されている。技術は非常に可搬性であり(小型で低い電力消費)、応答時間が比較的迅速であり(1分未満)、低コストであり、堅固で信頼しうるものであるはずである。
【0206】
電気化学センサー
電気化学センサーは、検出要素に対する標的マーカーの化学的相互作用により引き起こされる検出要素の出力電圧の変化を測定する。ある電気化学センサーは変換器(transducer)の原理に基づく。例えば、ある電気化学センサーは、サンプルとセンサー表面との間の電荷分離をもたらすイオン選択膜を含むイオン選択性電極を使用する。他の電気化学センサーは電極自体を錯化剤としての表面として使用し、この場合、電極電位の変化は標的マーカーの濃度に関連づけられる。電気化学センサーの他の例は、いわゆるソースおよびドレイン電極間の金属ゲート上に形成された電極の表面の電荷をモニターするための半導体技術に基づく。表面電位は標的マーカー濃度と共に変動する。
【0207】
他の電気化学センサー装置には、電流測定(amperometric)イムノセンサー、導電率測定(conductometric)イムノセンサーおよび容量性(capacitive)イムノセンサーが含まれる。電流測定イムノセンサーは、一定電圧で電気化学反応により生じた電流を測定するよう設計される。一般に、電気化学的に活性な標識が、直接的に、または酵素反応の生成物として、検出電極における標的マーカーの電気化学反応に必要とされる。電流測定イムノセンサーにおいては、酸素およびH2O2電極を含む多数の商業的に入手可能な電極が使用されうる。
【0208】
容量性イムノセンサーは、一定電圧での溶液中の電極導電率の変化を測定する、センサーに基づく変換器であり、この場合、導電率の変化は、イオンを特異的に生成または消費する生化学的酵素反応により引き起こされる。電気化学システムを用いて容量変化が測定され、この場合、生物活性要素は金属または白金電極のような一対の金属電極上に固定化される。
【0209】
導電率測定イムノセンサーも、表面導電率の変化を測定する、センサーに基づく変換器である。容量性イムノセンサーの場合と同様に、電極の表面上に生物活性要素が固定化される。生物活性要素が標的マーカーと相互作用すると、それは電極間の導電率の減少を引き起こす。
【0210】
電気化学センサーは、低いピーピーエム濃度の検出に優れている。それは堅固であり、ほとんど電力を消費せず、線形性であり、大げさな支援電子工学装置や蒸気処理(ポンプ、バルブなど)を要しない。それはコスト的にも適度(低容量の場合50ドル〜200ドル)であり、小型サイズである。
【0211】
ガスクロマトグラフィー/質量分析(GC/MS)
ガスクロマトグラフィー/質量分析(GC/MS)は実際には2つの技術の組合せである。一方の技術が化学成分を分離し(GC)、もう一方の技術がそれを検出する(MS)。厳密には、ガスクロマトグラフィーは、移動相および固定相の2つ相の間の2以上の化合物の示差的分布に基づく、それらの2以上の化合物の物理的分離である。移動相は、分離が生じる固定相でコーティングされたカラムを通って蒸発サンプルを移動させるキャリヤーガスである。分離されたサンプル成分がカラムから溶出すると、検出器はカラム溶出物を電気信号に変換し、それが測定され記録される。信号はクロマトグラムプロットにおけるピークとして記録される。クロマトグラフピークは、それらの対応保持時間から特定されうる。保持時間はサンプル注入の時点からピーク最大の時点まで測定され、他のサンプル成分の存在によって影響されない。保持時間は、選択されたカラムおよび成分に応じて、数秒〜数時間の範囲となりうる。ピークの高さはサンプル混合物中の成分の濃度に関連している。
【0212】
分離後、化学成分が検出される必要がある。質量分析計は1つのそのような検出方法であり、それは、分離されたサンプル成分分子がカラムから溶出したら、サンプル成分分子に電子ビームで衝撃を加える。これは分子に電子を失わせ、正電荷を有するイオンを形成させる。分子を互いに結びつける結合の幾つかが過程において破壊され、生じたフラグメントが再構成され、または更に破壊されて、より安定なフラグメントを形成する。ある与えられた化合物は、ある与えられた一連の条件下、再現可能にイオン化し、フラグメント化し、再構成されるであろう。これは分子の特定を可能にする。質量スペクトルは、サンプル分子からのイオンおよびそのフラグメントに関する存在量データに対する質量/電荷比を示すプロットである。この比は通常、そのフラグメントの質量に等しい。スペクトルにおける最大ピークは基準ピークである。GC/MSは高精度であり、選択的であり、高感度である。医療施設で使用される小さな卓上装置が今や現実のものとなるほどまでに、最近の進歩はこれらの装置のサイズおよびコストを減少させている。これらの装置は大量破壊兵器の発見に頻繁に使用され、そのような現場に配置される必要があるため、近い将来、更なる小型化および低コスト化が達成される可能性がある。
【0213】
赤外分光法(FTIR、NDIR)
赤外(IR)分光法は、有機および無機化学者により用いられる最も一般的な分光技術の1つである。簡潔に言えば、それは、IRビームの光路中に配置されたサンプルによる種々のIR周波数の吸収測定である。IR放射は、0.78〜1000マイクロメートル(ミクロン)の波長を有する広範な電磁スペクトルに及ぶ。一般に、IR吸収はその波数により表され、それはその波長の逆数の10,000倍である。IR分光法を用いて検出すべき或る与えられたサンプルに関して、サンプル分子はIR領域において活性でなければならず、このことは、分子が、IR放射にさらされると振動しなければならないことを意味する。このデータを含む幾つかの参考書、例えばHandbook of Chemistry and Physics(CRC Press)が入手可能である。
【0214】
IR分光計の2つの一般的クラス(分散および非分散)が存在する。典型的な分散IR分光計においては、広帯域源からの放射がサンプルを通過し、モノクロメーターにより成分周波数に分散する。ついでビームは検出器(典型的には熱または光子検出器)に当たり、それは分析用の電気信号を生成する。フーリエ変換IR分光計(FTIR)は、より優れた速度および感度を有するため、分散IR分光計に取って代わっている。FTIRは、可動鏡マイケルソン干渉計を使用し信号のフーリエ変換を行うことにより、光学的成分周波数の物理的分離を省略する。
【0215】
逆に、非分散IR(NDIR)分光計においては、ある範囲のサンプル気体を分析するために幅広いIRスペクトルを得る代わりに、NDIRは、標的サンプルの吸収波長に対応する特定の波長を供給する。これは、比較的幅広いIR源を使用しスペクトルフィルターを使用して励起を関心波長に限定することにより達成される。例えば、NDIRは、4.67ミクロンの波長のIRエネルギーを吸収する一酸化炭素を測定するために頻繁に使用される。設計においてIR源および検出器を注意深く調整することにより、高容量生成COセンサーが製造される。これは特に素晴らしいことである。なぜなら、二酸化炭素は一般的な干渉物であり、COのIR吸収波長に非常に近い4.26ミクロンのIR吸収波長を有するからである。
【0216】
NDIRセンサーは低コスト(200ドル未満)であり、経常コストを伴わず、良好な感度および選択性を有し、較正を要さず、高い信頼性を有することを約束する。それは小型であり、電力をほとんど消費せず、迅速に応答する(1分未満)。ウォームアップ時間はごく僅かである(5分未満)。残念ながら、それは1つの標的気体しか検出できない。より多数の気体を検出するためには、追加的なスペクトルフィルターおよび検出器、ならびに広帯域IR源を導くための追加的な光学装置を要する。GC-MSの場合と同様に、医療施設において使用される小さな卓上装置が今や現実のものとなるほどまでに、最近の進歩はこれらの装置のサイズおよびコストを減少させている。これらの装置は大量破壊兵器の発見に頻繁に使用され、そのような現場に配置される必要があるため、近い将来、更なる小型化および低コスト化が達成される可能性がある。
【0217】
イオン移動度分光法(IMS)
イオン移動度分光法(IMS)は、チューブ内の電場に付されたイオン化分子サンプルをそれらの移動時間に基づいて分離する。サンプルが装置内に引き込まれるにつれて、それは弱い放射能源によりイオン化される。イオン化された分子は、電場の影響下、セル内をドリフトする。電子シャッターグリッドがドリフト管内へのイオンの周期的導入を可能にし、ドリフト管内で、それは電荷、質量および形状に基づいて分離される。より小さなイオンは、より大きなイオンより速くドリフト管内を移動し、より早く検出器に到達する。検出器からの増幅された電流が時間の関数として測定され、スペクトルが生成される。マイクロプロセッサが標的化合物のスペクトルを評価し、ピーク高さに基づいてその濃度を決定する。
【0218】
IMSは極めて迅速な方法であり、ほぼリアルタイムの分析を可能にする。それは非常に高感度でもあり、関心のあるアナライトの全てを測定しうるはずである。IMSはコスト的にも適度であり(数千ドル)、そのサイズおより電力消費はより大きい。
【0219】
酸化金属半導体(MOS)センサー
酸化金属半導体(MOS)センサーは、半導体酸化金属結晶、典型的には酸化スズを検出材料として利用する。酸化金属結晶を約400℃に加熱し、この温度で表面が酸素を吸着する。結晶内の供与電子は吸着酸素に転移して、正電荷が空間電荷領域内に残される。したがって表面電位が生じ、これはセンサーの抵抗を増加させる。センサーを脱酸素性(すなわち還元性)ガスに付すと、表面電位が消失し、これにより抵抗が低下する。最終結果として、センサーは脱酸素性ガスに対する曝露によりその電気抵抗を変化させるのである。抵抗の変化はほぼ対数関数的である。
【0220】
MOSセンサーは、迅速な分析時間(数ミリ秒〜数秒)を有すると共に極めて低コスト(低容量で8ドル未満)であるという利点を有する。それは長い運転寿命(5年以上)を有し、貯蔵寿命の問題は報告されていない。
【0221】
厚さ-せん断モード(Thickness-Shear Mode)センサー(TSM)
TSMセンサーは、AT切断圧電結晶(AT-cut piezoelectric crystal)ディスク(生物学的流体中の化学的安定性および極端な温度に対する抵抗性の点から、最も一般的には石英のAT切断圧電結晶ディスク)、およびディスクの反対側に結合された2つの電極(好ましくは金属)よりなる。電極は振動電場をかける。一般に、TSMセンサー装置は5〜20MHzの範囲で運転される。利点としては、化学的に不活性であることのほかに、装置が低コストであること、および大量生産された石英ディスクが信頼しうる品質を有することが挙げられる。
【0222】
光イオン化検出器(PID)
光イオン化検出器は、すべての要素および化学物質がイオン化されうることに基づくものである。電子を離脱させ気体を「イオン化」させるために必要なエネルギーはそのイオン化ポテンシャル(IP)と称され、電子ボルト(eV)の単位で示される。PIDは、気体をイオン化するために紫外(UV)光源を利用する。UV光源のエネルギーは、サンプル気体のIPと少なくとも同程度の大きさでなければならない。例えば、ベンゼンは9.24eVのIPを有し、一酸化炭素は14.01eVのIPを有する。PIDがベンゼンを検出するためには、UVランプは少なくとも9.24eVのエネルギーを有していなければならない。ランプが15eVのエネルギーを有していれば、ベンゼンおよび一酸化炭素の両方がイオン化されるであろう。一旦イオン化されると、検出器は電荷を測定し、信号情報を表示濃度へと変換する。残念ながら、表示はそれらの2つの気体を識別するものではなく、両方の総和の合計濃度を単に読み取るに過ぎない。
【0223】
3つのUVランプエネルギー(9.8、10.6および11.7 eV)が一般に利用可能である。関心のある気体をイオン化するのに十分なエネルギーを保有させる一方で最低エネルギーのランプを選択することにより、ある程度の選択性が達成されうる。PIDにより測定される化合物の最大のグループは有機化合物(炭素を含有する化合物)であり、それらは典型的にはピーピーエム(ppm)の濃度まで測定されうる。PIDは、窒素、酸素、二酸化炭素および水蒸気のような、11.7eVを超えるIPを有するいずれの気体をも測定しない。CRC Press Handbook of Chemistry and Physicsは、種々の気体のIPを一覧した表を含む。
【0224】
PIDは、高感度(低ppm)であり、低コストであり、迅速に応答し、可搬性である検出器である。それはまた、電力をほとんど消費しない。
【0225】
表面音響波センサー(SAW)
表面音響波(SAW)センサーは、表面音響波の生成および検出の両方のための、圧電基質上に構築されたインターディジタル金属電極から構成される。表面音響波は、表面においてその最大振幅を有する波であり、そのエネルギーは表面の15〜20波長内にほぼすべて含まれる。振幅は表面において最大であるため、そのような装置は非常に表面感受性である。通常、SAW装置は携帯電話における電子帯域フィルターとして使用される。SAWの表面に接触する物質によりその性能が変化しないことが保証されるよう、それは密閉的にパッケージングされる。
【0226】
SAW化学センサーは、センサーとして機能するよう、この表面感受性を利用する。特定の化合物に対する特異性を増加させるために、SAW装置は、予測可能かつ再現可能に装置の周波数および挿入損失に影響を及ぼす薄い高分子膜でコーティングされることが多い。センサーアレイ内の各センサーは、異なる高分子でコーティングされ、高分子コーティングの数およびタイプは、検出すべき化学物質に基づいて選択される。ついで、高分子コーティングを有する装置が、高分子材料中に吸収される化学蒸気にさらされると、装置の周波数および挿入損失が更に変化する。装置が化学センサーとして機能することを可能にするのは、この最終変化である。
【0227】
いくつかのSAW装置のそれぞれが、異なる高分子材料でコーティングされている場合には、ある与えられた化学蒸気に対する応答は装置によって異なる。高分子膜は通常、それぞれが、種々の有機化学クラス、すなわち、炭化水素、アルコール、ケトン、酸素化物、塩素化物および窒素化物に対して異なる化学的アフィニティーを有するよう選択される。高分子膜が適切に選択されれば、関心のある各化学蒸気は、装置のセットに対して、特有の全体的な効果を及ぼすであろう。SAW化学センサーは、軽い揮発性極値のヘキサンから、重い低揮発性極値の半揮発性化合物までの、有機化合物の範囲において有用である。
【0228】
サンプルをアレイ内に及びアレイを介して導くために、モーター、ポンプおよびバルブが使用される。アレイの前に化学プレコンセントレーター(chemical preconcentrator)を使用する選択肢を採用することにより、システムの感度は、低い蒸気濃度では増強されうる。運転において、プレコンセントレーターは或る時間にわたって試験蒸気を吸収し、ついで加熱されて蒸気を遥かに短い時間にわたって放出し、それによりアレイにおける蒸気の有効濃度を増加させる。システムは、アレイのための何らかのタイプの駆動および検出電子機構を用いる。システムの順序を制御し、アレイからのデータを解釈し分析する計算能力を得るためには、搭載マイクロプロセッサーが使用される。
【0229】
SAWセンサーは、合理的な値段であり(200ドル未満)、非常に良好な選択性と共に良好な感度(数十ppm)を有する。それは可搬性であり、堅固であり、僅かな電力を消費する。それは2分未満のうちにウォームアップされ、ほとんどの分析には1分未満しか要さない。それは典型的には高精度定量用途には使用されず、したがって較正は不要である。SAWセンサーは経時的にドリフトせず、長い運転寿命(5年以上)を有し、貯蔵寿命の問題は知られていない。それは湿気に敏感であるが、これは熱脱着コンセントレーター(thermally desorbed concentrator)および処理アルゴリズムの使用により解決される。
【0230】
増幅性蛍光高分子技術
センサーは、感受性標的マーカー検出器として揮発性化学物質と反応する蛍光高分子を利用することが可能である。通常の蛍光検出は一般に、標的マーカーの単一分子が単離発色団と相互作用した場合に生じる、蛍光強度または励起波長の増加または減少を測定するものであり、この場合、標的マーカーと相互作用する発色団は消光され、残存発色団は蛍光し続ける。
【0231】
このアプローチの変法として、YangおよびSwager, J. Am. Chem. Soc., 120:5321-5322 (1998) ならびにCummingら, IEEE Trans Geoscience and Remote Sensing, 39:1119-1128 (2001)(それらの両方の全体を参照により本明細書に組み入れることとする)に記載されている「分子ワイヤー(molecular wire)」形態が挙げられる。分子ワイヤー形態においては、いずれかの発色団による光の単光子の吸収が連鎖反応を引き起こして、多数の発色団の蛍光を消光し、センサーの応答を数桁増幅する。分子ワイヤー形態に基づくセンサーは爆発物の検出用に作製されている(SwagerおよびWosnick, MRS Bull, 27:446-450 (2002)(その全体を参照により本明細書に組み入れることとする)を参照されたい)。
【0232】
光ファイバーミクロスフェア技術
光ファイバーミクロスフェア技術は複数のミクロスフェアセンサー(ビーズ)のアレイに基づくものであり、ここで、各ミクロスフェアは、複数のマイクロメートル規模のウェルを含有する光学基質上に配置された標的マーカーに関連づけられた異なるクラスに属する(例えば、Michaelら, Anal Chem, 71:2192-2198 (1998); Dickinsonら, Anal Chem., 71:2192-2198 (1999); AlbertおよびWalt, Anal Chem, 72:1947-1955 (2000); ならびにStitzelら, Anal Chem, 73:5266-5271 (1001)(それらの全ての全体を参照により本明細書に組み入れることとする)を参照されたい)。各タイプのビーズは、ビーズおよびその位置を特定するために、特有のシグネチャーでコード化される。ビーズは、標的マーカーにさらされると、標的マーカーに応答し、それらの強度および波長シフトを用いて、蛍光応答パターンを得、そしてそれを既知パターンと比較して標的マーカーを特定する。
【0233】
インターディジタル微小電極アレイ(IME)
インターディジタル微小電極アレイ(interdigitated microelectrode array)は、有機単分子層殻によりそれぞれがコーティングされた、ナノメートルサイズの金属粒子の集団を取り込む変換膜(transducer film)の使用に基づく(例えば、WohltjenおよびSnow, Anal Chem, 70:2856-2859 (1998); ならびにJarvisら, Proceedings of the 3rd Intl Aviation Security Tech Symposium, Atlantic City, NJ, 639-647 (2001)(それらの両方の全体を参照により本明細書に組み入れることとする)を参照されたい)。そのようなセンサー装置は、薄い絶縁層により分離されたコロイドサイズの導電性金属コアの大きなグループの組合せのため、金属-絶縁体-金属アンサンブル(MIME)としても公知である。
【0234】
微小電気機械システム(MEMS)
MEMSに基づくセンサー技術は、標的マーカーの検出に使用するために、機械的要素、センサー、アクチュエーターおよび電子機構を共通のシリコン基質上に統合したものである(例えば、Pinnaduwageら, Proceedings of 3rd Intl Aviation Security Tech Symposium, Atlantic City, NJ, 602-615 (2001); およびLareauら, Proceedings of 3rd Intl Aviation Security Tech Symposium, Atlantic City, NJ, 332-339 (2001)(それらの両方の全体を参照により本明細書に組み入れることとする)を参照されたい)。
【0235】
MEMSに基づくセンサー技術の一例として、マイクロカンチレバー(microcantilever)センサーが挙げられる。マイクロカンチレバーセンサーは、現在使用されているセンサーより少なくとも1,000倍高い感度を有しより小型である、シリコンに基づく毛状の装置である。ほとんどのマイクロカンチレバーセンサーの作動原理は変位(displacement)の測定に基づく。特に、バイオセンサー用途においては、カンチレバープローブの変位はカンチレバービームの(活性化)表面上の分子の結合に関連づけられ、これらの結合の強度、および検討中の溶液中の特異的試薬の存在を計算するために用いられる(Fritz, J.ら, "Translating biomolecular recognition into nanomechanics," Science, 288:316-318 (2000); Raiteri, R.ら, "Sensing of biological substances based on the bending of microfabricated cantilevers," Sensors and Actuators B, 61:213-217 (1999)(それらの両方の全体を参照により本明細書に組み入れることとする))。これらの装置の感度は、検出可能な最小運動に大きく左右されることが明らかであり、それは、実用的対理論的に達成可能な性能に制約を課す。
【0236】
マイクロカンチレバー技術の一例は、異なるセンサー/ディテクター(検出器)層(例えば、抗体またはアプタマー)でコーティングされたシリコンカンチレバービーム(好ましくは長さ数百マイクロメートルおよび幅1μm)を使用する。カンチレバー表面は、標的マーカーにさらされると、標的マーカーを吸収し、それは、カンチレバーを曲げる、センサーと吸収層との間の界面応力をもたらす。各カンチレバーは、各標的マーカーに典型的な特徴的に曲がる。時間の関数としての、カンチレバーの曲げ応答の大きさから、各標的マーカーの指紋パターンが得られうる。
【0237】
マイクロカンチレバーセンサーは、相対湿度、温度、圧力、流量、粘度、音、紫外線および赤外線放射、化学物質ならびに生体分子、例えばDNA、タンパク質および酵素を検出し測定しうる点で非常に有利である。マイクロカンチレバーセンサーは堅固であり、再利用可能であり、極めて高感度であり、それにもかかわらず、それは非常に低コストであり、電力をほとんど消費しない。センサーを使用する場合のもう1つの利点は、それが空気中、真空中または液体環境下で作動することである。
【0238】
分子刷り込み(molecularly imprinted)高分子
分子刷り込みは、高分子材料における特異的分子認識部位(結合性または触媒性)の鋳型誘発性形成の一過程であり、この場合、鋳型は自己集合メカニズムにより高分子材料の構造成分の配置および配向を誘導する(例えば、Olivierら, Anal Bioanal Chem, 382:947-956 (2005); およびErsozら, Biosensors & Bioelectronics, 20:2197-2202 (2005)(それらの両方の全体を参照により本明細書に組み入れることとする)を参照されたい)。高分子材料には、有機高分子および無機シリカゲルが含まれうる。分子刷り込み高分子(MIP)は、蛍光分光法、UV/Vis分光法、赤外分光法、表面プラズモン共鳴、化学発光吸着アッセイおよび反射率測定干渉(reflectometric interference)分光法を含む(これらに限定されるものではない)種々のセンサー形態において使用されうる。そのようなアプローチは、非常に効率的で高感度な標的マーカー認識の実現を可能にする。
【実施例6】
【0239】
呼気におけるグルコースの検出
現在、糖尿病患者は自分の血中グルコースレベル(血糖値)を毎日1から6〜8回検査している。血中グルコースレベルを知ることは、高血糖を制御するために使用されるインスリンおよび他の薬物の適切な投与および投薬を導くために絶対に必要である。現在、患者は、ランセット装置を使用して血液サンプルを通常は手指から採取し、血中グルコース濃度を示すグルコースモニター内に挿入される「試験ストリップ」上にサンプルを配置しなければならない。この方法は相当な技術、時間を要し、糖尿病患者に糖尿病であるとの直接的な認識をさせる必要があり、したがって当惑、そして更には求職の際の偏見および/または差別を招く可能性がある。
【0240】
魅力的な代替法は、呼気のサンプルを採集するセンサーシステムを使用することであり、これは、極めて親水性であるグルコースのような化合物に関してサンプルを「凝縮物」へと凝縮させ、ついでそれをポンプまたはマイクロフルイディック(microfluidic)システムによりセンサーと接触させる。したがって、呼気サンプルからの血中グルコース濃度を示し、ついで血液サンプルに必要な複数の工程を行う小さな手持ち型装置内に、特に公衆の場においても人目につくことなく、糖尿病患者が呼出することが遥かにやりやすくなる。この技術は、頻繁な血中グルコースモニターの受け入れを促し、自分の手指から採血しなければならない場合に多数の糖尿病患者が感じる当惑を軽減すると思われる。頻繁な血中グルコース試験およびそれに続く適当な用量のインスリンの投与に関する遵守は糖尿病関連合併症の頻度を劇的に低下させることが示されている。したがって、呼気グルコースの頻繁なモニターは、劣悪な糖尿病制御に関連した合併症の頻度を低下させるための厳格な薬物投与計画に関する遵守を示すための1つの手段である。
【0241】
本明細書に記載されている実施例および実施形態は専ら例示目的のものに過ぎず、それらを考慮した種々の修飾または変更が当業者に示唆され、本出願の精神および認識範囲ならびに添付の特許請求の範囲の範囲内に含められるべきであると理解されるべきである。特に、本発明のマーカー検出方法は、電子鼻技術を利用する装置での患者による呼気を介した検出だけでなく、ガスクロマトグラフィー、経皮検出、半導体ガスセンサー、質量分析計、IRまたはUVまたは可視または蛍光分光光度計のような他の適当な技術を用いる検出をも包含すると意図される。
【0242】
本明細書中に言及もしくは引用されている又は優先権の利益の主張の基礎となる全ての特許、特許出願、仮出願および刊行物の全体を、それらが本明細書の明示的教示に矛盾しない程度に、参照により本明細書に組み入れることとする。
【図面の簡単な説明】
【0243】
【図1】図1は、呼気において検出可能なアルコールへと患者の体内で代謝される、添加物のエステル基の例示である。
【図2】図2は、呼気において検出可能なアルコールへと患者の体内でアルカリホスファターゼにより代謝される、もう1つの添加物の基の例示である。
【図3】図3はCYP2D6によるデキストロメトルファンのO-脱メチル化の概要図である。
【図4】図4は、本発明の1つの実施形態における添加物(O-トリフルオロエチルデキストロルファン)の合成の概要図である。
【図5】図5は、デキストロメトルファンおよびトリフルオロエチルデキストロルファンの10-10 Mから10-5 Mへの濃度の増加によるAMMCのCYP 2D6活性の抑制のグラフ図である。
【図6】図6は、検出可能な揮発性マーカー化合物(トリフルオロアセトアルデヒド)を与える、添加物(O-トリフルオロエチルデキストロルファン)のin vivo代謝のグラフ図である。
【図7A−B】図7AおよびBは、GC/MS分析の際の、それぞれトリフルオロアセトアルデヒド2,4-ジニトロフェニルヒドラゾンおよびその15N4-標識内部標準の全イオンクロマトグラムのグラフ図である。
【図7C−D】図7CおよびDは、GC/MS分析の際の、それぞれトリフルオロアセトアルデヒド2,4-ジニトロフェニルヒドラゾンおよびその15N4-標識内部標準のフルスキャン(full scan)NCI質量スペクトルのグラフ図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)処方された間隔で患者の呼気のサンプルを入手するための手段、
b)患者が薬物を服用したことの指標となる呼気サンプル中の少なくとも1つのマーカーを検出するためのセンサーであって、呼気サンプル中のマーカーの存在または非存在を示す出力信号を生成するセンサー、
c)処方どおりの薬物投与計画に関する患者の服薬遵守の確認に使用するために、出力信号を受信し、呼気サンプル中に存在するマーカーの濃度を評価するための処理手段
を含んでなる、少なくとも1つの処方薬物投与計画に関する患者の服薬遵守をモニターするためのシステム。
【請求項2】
処理手段が、処方薬物投与計画に関する服薬遵守を判定するために、薬物マーカーの所定のマーカー濃度に対するマーカー濃度の比較を行う、請求項1記載のシステム。
【請求項3】
処理手段から得られた結果を報告するための手段を更に含む、請求項1記載のシステム。
【請求項4】
処方薬物を投薬するための手段を更に含む、請求項1記載のシステム。
【請求項5】
複数の薬物投与計画が患者に処方される、請求項1記載のシステム。
【請求項6】
センサーが、高電子移動度トランジスタ(HEMT)、金属-絶縁物-金属アンサンブル(MIME)センサー、核磁気共鳴(NMR)、交差反応性光学マイクロセンサーアレイ、蛍光高分子膜、表面増強ラマン分光法(SERS)、ダイオードレーザー(diode laser)、選択イオンフローチューブ、酸化金属センサー(MOS)、バルク音響波(BAW)センサー、比色チューブ、赤外分光法、ガスクロマトグラフィー-質量分析(「小型」ガスクロマトグラフィーを含む)、半導体ガスセンサー技術、質量分析計、蛍光分光光度計、導電性高分子ガスセンサー技術、アプタマーセンサー技術、増幅性蛍光高分子(AFP)センサー技術、表面音響波ガスセンサー技術または量子カスケードレーザーよりなる群から選ばれる、請求項1記載のシステム。
【請求項7】
システムが可搬性である、請求項1記載のシステム。
【請求項8】
薬物マーカーが、患者における薬物マーカーの酵素分解に際して呼気において検出可能である、請求項1記載のシステム。
【請求項9】
呼気薬物マーカーが、患者における薬物マーカーの自発的非酵素的変換に際して呼気において検出可能である、請求項1記載のシステム。
【請求項10】
呼気薬物マーカーが、薬物マーカーの更なる化学的修飾を伴うことなく呼気において検出可能である、請求項1記載のシステム。
【請求項11】
呼気薬物マーカーが、薬物、薬物の代謝産物、薬物投与計画にしたがい送達される添加物、または薬物と共に送達される添加物の代謝産物である、請求項1記載のシステム。
【請求項12】
a)処方された間隔で患者の呼気のサンプルを入手し、
b)サンプル中の少なくとも1つの薬物マーカーの存在を特定するために、センサー技術を用いてサンプルを分析し、
c)処方薬物投与計画に関する患者の遵守を示す、所定閾値を超えるレベルでの少なくとも1つの薬物マーカーの存在を判定する
ことを含んでなる、少なくとも1つの処方薬物投与計画に関する患者の服薬遵守をモニターするための方法。
【請求項13】
工程(c)から得られた結果に基づいて、患者が処方薬物投与計画を遵守しているかどうかを報告する工程d)を更に含む、請求項12記載の方法。
【請求項14】
工程(c)から得られた結果に基づいて、処方薬物投与計画を改変、維持または中止する工程を更に含む、請求項12記載の方法。
【請求項15】
処方薬物投与計画に関する患者の遵守パターンを評価することにより患者の健康状態を評価する工程を更に含む、請求項12記載の方法。
【請求項16】
処方薬物投与計画で治療可能な状態を有する患者を特定する工程、患者に薬物投与計画を処方する工程、処方薬物投与計画に関する遵守の許容レベルを定める工程、および処方薬物投与計画を実施しながら患者の状態の進行の指標を評価する工程のいずれか1つ又は組合せを更に含む、請求項12記載の方法。
【請求項17】
呼気サンプルを入手する工程を薬物の各処方投与時に行う、請求項12記載の方法。
【請求項18】
呼気サンプルを入手する工程を薬物の各処方投与以外の処方頻度で行う、請求項12記載の方法。
【請求項19】
比較のためのベースラインを確立するために、薬物の投与の前に呼気サンプルを入手する工程を更に含む、請求項12記載の方法。
【請求項20】
処方された間隔で薬物を患者に投与する工程を更に含み、ここで、薬物を経口的に、吸入により、眼内に、経皮的に、静脈内に、腹腔内に又は膣に投与する、請求項12記載の方法。
【請求項21】
a)処方薬物を投薬するための手段、
b)ハウジング、
c)呼気中の少なくとも1つの薬物マーカーの存在を検出する能力を有する、ハウジング内に配置されたセンサー、および
d)サンプル中の薬物マーカーの存在の検出が処方間隔で連絡されるようセンサーに機能的に接続された、ハウジングと共に又はハウジング内に配置された報告モジュール
を含んでなる、少なくとも1つの処方薬物投与計画に関する患者の遵守をモニターするためのキット。
【請求項22】
薬物が、薬物の酵素分解に際して呼気において検出可能なマーカーを含む、請求項21記載のキット。
【請求項23】
薬物が、患者における薬物に対する自発的非酵素的活性発現に際して呼気において検出可能なマーカーを含む、請求項21記載のキット。
【請求項24】
呼気薬物マーカーが、薬物、薬物の代謝産物、薬物投与計画で送達される添加物、または薬物と共に送達される添加物の代謝産物である、請求項21記載のキット。
【請求項25】
薬物マーカーが、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトアルデヒド、アセトフェノン、トランス-アネトール(1-メトシキ-4-プロペニルベンゼン)(アニス)、ベンズアルデヒド(安息香酸アルデヒド)、ベンジルアルコール、ベンジルシンナマート、カジネン、カンフェン、カンファー、シンナムアルデヒド(3-フェニルプロペナール)、ニンニク、シトロネラール、クレーゾール、シクロヘキサン、ユーカリプトールおよびオイゲノール、オイゲニルメチルエーテル、ブチルイソブチラート(n-ブチル 2, メチルプロパノアート)(パイナップル)、シトラール(2-トランス-3,7-ジメチル-2,6-アクタジエン-1-アール)、メントール(1-メチル-4-イソプロピルシクロヘキサン-3-オール)、α-ピネン(2,6,6-トリメチルビシクロ-(3,1,1)-2-ヘプテン)、フルオロアルコールならびにフルオロアルデヒドよりなる群から選ばれる、請求項21記載のキット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7A−B】
image rotate

【図7C−D】
image rotate


【公表番号】特表2009−529673(P2009−529673A)
【公表日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−558388(P2008−558388)
【出願日】平成19年3月7日(2007.3.7)
【国際出願番号】PCT/US2007/005890
【国際公開番号】WO2007/103474
【国際公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【出願人】(504433168)ユニバーシティ オブ フロリダ リサーチ ファウンデーション,インク. (10)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITY OF FLORIDA RESEATCH FOUNDATION,INC.
【Fターム(参考)】