説明

木材の防腐・防蟻処理方法

【課題】
木材に防腐・防蟻処理して、耐用年数を延ばすことができる木材の防腐・防蟻処理方法を提供する。
【解決手段】
燃焼室内で植物性有機燃料を燃焼させて煙を発生させ、この煙を燻煙乾燥処理室に送り込む。そして、送り込まれた煙により、燻煙乾燥処理室内に収容された木材を乾燥させる。燻煙処理は2回実施する。これにより、細胞の組織が開放された木材に乾燥することができる。この後、燻煙乾燥処理を行い、その組織を開放した状態の木材に、防腐効果および防蟻効果を有する薬液を加圧注入する。この結果、防腐・防蟻処理された木材を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は木材の防腐・防蟻処理方法、詳しくは燻煙処理後の木材についての防腐・防蟻処理方法の改良技術に関する。
【背景技術】
【0002】
木材は、軽量であり、取り扱いや運搬が容易である。しかも、木材は加工が簡単であり、外観が美しく、周囲の景観および環境になじみやすいなどの特有の利点を有している。したがって、木材は、個人の住宅に限られず、例えば、道路や公園などにおいて環境施設の防護柵・木柵として使用されている。また、案内板の支持枠、ベンチ、モニュメント、展望台などに幅広く使用されている。このように、木材は、一般的に屋外で使用されることが多いため、防腐・防蟻対策することを施すことが必要である。
例えば、木材の防腐・防蟻対策として、特許文献1には木材の処理装置および処理方法が開示されている。すなわち、水中での爆薬の爆轟により発生する水中衝撃波を入射させるなどして、木材中の閉塞した有縁壁孔を選択的に破壊処理する。次いで、この有縁壁孔を破壊処理した木材に粉末を浸透させる。これにより、木材に各種の液体、樹脂、および粉末の浸透させることにより、断熱性、不燃性を高める方法が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開2003−1607号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、未乾燥の木材は、その組織中のものが開放しないため、薬液を加圧注入しても木材の内部まで浸透しにくい。すなわち、未乾燥の木材では、木材の仮導管内の有縁壁孔が開くことができずに、その内部で水分を保つ状態を保持する作用が働いていた。このため、防腐剤・防蟻剤を含む薬液を木材の内部に浸透できずに、防腐・防蟻の効果があまり得られない問題が生じていた。
また、上記特許文献1の記載にあっては、木材の仮導管にある閉塞有縁壁孔を水素衝撃波処理によって破壊し、この破壊した閉塞有縁壁孔に粉末を加圧注入するものである。しかしながら、この特許文献1に記載発明は、木材の組織を破壊してしまうものである。
【0005】
この発明は、上記問題を解決するためになされたもので、木材組織の仮導管内の有縁壁孔を開放させるとともに、防腐・防蟻処理できる木材の防腐防蟻処理方法を提供することを目的とする。
また、この発明は、燻煙処理後の木材について薬液の含浸率を高めることができる防腐防蟻処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、木材を防腐・防蟻処理する木材の防腐・防蟻処理方法であって、煙を燻煙処理室内に送り込み、この燻煙処理室内に収納された木材を燻煙処理する工程と、上記燻煙処理後の木材に薬液を加圧注入する工程と、を含む木材の防腐・防蟻処理方法である。
木材は限定されず、例えば、スギ、マツ、ブナなどが挙げられる。
木材を燻煙処理する燻煙処理装置は、例えば、特開2003−11107号公報に記載の材木の燻煙処理装置を用いる。この燻煙処理装置は、燃焼室で発生させた煙を乾燥処理室内に循環させて、再び燃焼室に戻す装置である。これにより、木材を均一に乾燥することができる。
加圧注入する方法およびその装置は限定されない。加圧注入は、例えば、湿式でも乾式でもよい。
燻煙処理された木材には、薬液が加圧注入される。薬液は、防腐作用・防蟻効果を有するものが使用される。薬液は、例えば、大日本木材防腐株式会社製の加圧注入用木材保存剤(商品名:モクボーAAC40EC)である。
【0007】
請求項1に記載の木材の防腐防蟻処理方法にあっては、燃焼室と燻煙処理室とを有する燻煙処理装置において、例えば、燃焼室内で植物性有機燃料を燃焼させて煙を発生させる。次に、この煙を燻煙処理室に送り込む。そして、送り込まれた煙により、燻煙処理室内に収容された木材について第1回目の燻煙処理を行う。これにより、ヤング率の高い木材に乾燥することができる。また、歪みのもととなるヘミセルロースを乾燥時に溶出し、個々の細胞が均一化・安定化する。この後、木材について第2回目の燻煙処理を施す。これにより、木材の組織の仮導管内の有縁壁孔を開かせることができる。
この後、この有縁壁孔が開放された木材を、薬液を用いて加圧注入する。加圧注入する薬液は、防腐剤および防蟻剤を含有する加圧注入用木材保存剤である。燻煙処理して木材の組織の仮導管内の有縁壁孔を開かせた後に、薬液を木材に加圧注入すれば、燻煙処理後の木材の内部に深く防腐剤および防蟻剤を含有する薬液を浸透しやすくなる。これらの有効な成分が木材内部に深く浸透しているので、雨や太陽にさらされても、この有効な成分が流出することがない。この結果、木材の耐用年数を延ばすことができる。
【0008】
請求項2に記載の発明は、上記燻煙処理は、燻煙処理室内の木材について温度110〜130℃に6〜7時間保持して燻煙処理する過程と、この後、燻煙処理室内を110〜130℃から室温に降温する過程と、次に、燻煙処理室内を室温から80〜90℃に昇温する過程と、この後、燻煙処理室内の木材について温度80〜90℃に1〜2時間保持して燻煙処理する過程と、を含む請求項1に記載の木材の防腐・防蟻処理方法である。
【0009】
請求項2に記載の木材の防腐防蟻処理方法にあっては、木材について2回の燻煙処理を連続して行う。まず、第1回目は燻煙処理室内の木材について室温から温度110〜130℃に昇温し、この温度で6〜7時間保持して燻煙処理する。これにより、含水率20%以下の木材に乾燥することができる。
次に、第2回目は燻煙処理室内の木材について室温から温度80〜90℃に昇温し、この温度で1〜2時間保持して燻煙処理する。これにより、木材組織の仮導管内の有縁壁孔を開かせることができる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、上記燻煙処理後の温度が55℃以上に保持された木材に、この木材の温度未満の薬液を加圧注入する請求項1または請求項2に記載の木材の防腐・防蟻処理方法である。
【0011】
請求項3に記載の木材の防腐防蟻処理方法にあっては、上記燻煙処理後の木材の温度は55℃以上に保持されている。この温度を保てば、木材の組織内の仮導管を開放した状態にできるからである。そして、この木材の温度よりも低い温度を有する木材保存剤を加圧注入すれば、この木材への薬液の含浸率を高めることができる。
【0012】
請求項4に記載の発明は、上記薬液は防腐剤および防蟻剤を含有する木材保存剤である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の木材の防腐・防蟻処理方法である。
薬液は、防腐作用・防蟻効果を有するものを使用する。薬液は、例えば、大日本木材防腐株式会社製の加圧注入用木材保存剤(商品名:モクボーAAC40EC)である。この加圧注入用木材保存剤は、次世代の防腐・防蟻原体であるN、N−ジデシル−N−メチルポリ(オキシエチル)アンモニウムプロピオネート(DMPAP)を主成分に、これに効力増強剤としてアゾール系木材保存剤と非エステル系ピレスロイド系木材防蟻剤を配合したものである。
【0013】
請求項4に記載の木材の防腐防蟻処理方法にあっては、木材に加圧注入する薬液は、防腐剤および防蟻剤を含有する木材保存剤を使用する。燻煙処理することにより組織内の有縁壁孔が開放された木材に上記薬液を加圧注入すれば、木材の内部に深く浸透させることができる。これにより、防腐・防蟻処理が高められた木材を得ることができる。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、燃焼室と燻煙処理室とを有する燻煙処理装置において、まず、燃焼室内で植物性有機燃料を燃焼させて煙を発生させる。次に、この煙を燻煙処理室に送り込む。そして、送り込まれた煙により、燻煙処理室内に収容された木材について第1回目の燻煙処理を行う。これにより、ヤング率の高い木材に乾燥される。すなわち、木材の個々の細胞が均一化・安定化して強度が増す。
次いで、第1回目の燻煙処理した後の木材について第2回目の燻煙処理を施す。これにより、木材の組織の仮導管内の有縁壁孔を開かせることができる。
この後、この有縁壁孔が開放された木材に薬液を加圧注入する。加圧注入する薬液は、防腐作用および防蟻作用を有する加圧注入用木材防腐剤である。燻煙処理して木材の組織の仮導管内の有縁壁孔を開かせた後に、木材保存剤を加圧注入すると、燻煙後の木材の内部に深く防腐作用および防蟻作用を有する薬液を浸透しやすくなる。これらの有効な成分が木材の内部に深く浸透しているので、雨や太陽にさらされても、上記有効な成分が流されることがない。この結果、木材の耐用年数を延ばすことができる。
【実施例】
【0015】
以下、この発明の一実施例を、図1から図3を参照して説明する。
まず、本実施例に係る木材11(スギ)の燻煙処理装置について図2および図3を参照して説明する。燻煙処理装置は、燻煙処理室2と燃焼室3とを有している。
燃焼室3は画成された室で構成され、この室の中に図示していない熱源発生装置が設けられている。
燃焼室3と燻煙処理室2との間には隔壁10が設けられている。この隔壁10の上下には、電子制御ダンパー14、18が配設されている。
燻煙処理室2は、一端側が上記燃焼室3と隔壁10を介して連結されている。また、他端側には乾燥用の木材11を、この燻煙処理室2内に搬入出する搬入口6が設けられている。燻煙処理室2は、天井1を燃焼室3から離れるつれ高くなるように勾配を形成している。これは、燃焼室3で発生した煙を天井1に沿って、燃焼室3から搬入口6へ送るようにしたものである。
また、燻煙処理室2の側壁には、煙を上部から下部に循環させる煙管15が所定間隔を有し複数設けられている。これらの煙管15の下部には、上部から送り込まれた煙を下方から上方に向かって対流させる送風ファン17がそれぞれ設けられている。
さらに、燻煙処理室2の側壁の中央には、この燻煙処理室2内の温度を感知する温度センサが設けられている。すなわち、燻煙処理室2内の温度を一定にするために電子ダンパー14、18の開閉を制御するために温度センサ21が設けられている。
【0016】
次に、燻煙処理装置でのスギ11の燻煙処理方法について説明する。
まず、横幅70mm、長さ150mm、高さ12mmのスギ11を準備する。そして、このスギ11を台車5に載せ、燻煙処理室2の搬入口6よりこの燻煙処理室2内に搬入する。次いで、搬入口6の扉4を閉じて燻煙処理室2内を密閉する。この後、図示していない熱源発生装置により、植物性有機燃料を燃焼させて煙を発生させる。発生した煙は、隔壁10に設けられた上ダンパー14から燻煙処理室2に送り込まれる。そして、送り込まれた煙は、勾配が設けられた天井1に沿って、燃焼室3から搬入口6の方向に送り込まれる。天井1への煙は、煙管15により上部から下部に送り込まれる。一部は、送風ファン17により燻煙処理室2内の上方に送り込まれる。そして、もう一部は、下方に沿って流れ、隔壁10に設けられた下ダンパー18を介して燃焼室3に戻される。 さらに、温度センサ21により、燻煙処理室2内を適温になるように設定する。すなわち、隔壁10に設けられた電子ダンパー14、18を作動させて、燻煙処理室2上部に設置された散霧ノズル23による水分補充も行なわせる。または、未処理材木付近に煙突24を設置し、燻煙処理室2内の内部気圧が上昇すると、煙突24下部の排気弁25が作動し、内部気圧が一定になるように制御することもできる。この後、燻煙処理室内の温度を室温にする。
燻煙処理室2でスギ11を乾燥させるときの温度を以下のように設定する。すなわち、図1に示すように、燻煙処理室2に設けられた温度センサ21を用いて温度を管理する。具体的には、まず、第1回目は燻煙処理室内の木材について室温から温度110〜130℃に昇温し、この温度の範囲内を6〜7時間保持して加熱する。これにより、含水率20%以下の木材に乾燥することができ、かつ、スギ11のヤング率を向上させることができる。すなわち、歪みのもととなるヘミセルロースを乾燥時に溶出し、スギ11の個々の細胞が均一化・安定化する。また、未乾燥のマツを使用した場合には、プレーナ加工後に多量のヤニが流出してしまう。しかし、燻煙処理を行うことにより、ヤニの精油成分が揮発するため樹脂成分が固まり、ヤニの流出を抑えることができる。この後、燻煙処理室内の温度を室温にする。
次に、第2回目の燻煙処理は、燻煙処理室内のスギ11について室温から温度80〜90℃に昇温し、この温度で1〜2時間保持して燻煙処理する。これにより、木材の組織の仮導管内の有縁壁孔を開かせることができる。この後、燻煙処理後の木材を55℃以上に保持する。
【0017】
次に、加圧注入装置について説明する。加圧注入装置は一般の木材11に加圧注入しているものを使用する。加圧注入装置には、円筒状の注薬缶が設けられている。この注薬缶には、加圧注入をするときの圧力を測定する自記記録圧力計を備えている。そして、注薬缶は木材11が載置された台車を取り込むことができる。注薬缶には、この缶内を真空にする排気口が設けられている。注薬缶の周囲には、木材11に加圧注入する薬液が貯蔵された薬液タンクが設けられている。
次に、燻煙乾燥されたスギ11に薬液を加圧注入する方法について説明する。加圧注入は、JIS A 9002(木材の加圧式防腐処理方法)に準拠して行う。
まず、上記燻煙処理されたスギ11を準備し、このスギ11について含浸率を測定する。そして、スギ11を台車の載置した状態で加圧注入装置の注薬缶内に搬入する。そして、注薬缶内を密閉し、注薬缶内を減圧0.08MPa以上で前排気をする。次に、薬液タンクから送流管を介して注薬缶内に薬液を充填する。そして、この薬液に圧力(例えば、0.4〜2.2MPa)を加えながらスギ11に加圧注入する。薬液の温度は20℃程度である。そして、薬液を温度55℃以上に保持された木材に加圧注入する。
加圧注入後は注薬缶内の薬液を取り除くための後排気(減圧0.08MPa以上)を行う。そして、換気を行い注薬缶内に空気を取り込む。加圧注入処理後、加圧注入した薬液の成分を木材中に定着させる養生工程を実施する。これにより、燻煙処理されたスギ11について、加圧注入された薬液がスギ11の組織内に深く浸透する。最後に、密閉された注薬缶内から加圧注入されたスギ11を台車に載置した状態で搬出する。
上記薬液は、防腐作用・防蟻効果を有するものが使用される。薬液は、例えば、大日本木材防腐株式会社製の加圧注入用木材保存剤(商品名:モクボーAAC40EC)である。この加圧注入用木材保存剤は、次世代の防腐・防蟻原体であるN、N−ジデシル−N−メチルポリ(オキシエチル)アンモニウムプロピオネート(DMPAP)を主成分に、これに効力増強剤としてアゾール系木材保存剤と非エステル系ピレスロイド系木材防蟻剤を配合したものである。
以上の結果、木材11を燻煙処理をした後に、加圧注入用木材保存剤を木材に加圧注入する。これにより、防腐・防蟻効果を有する木材を提供することができ、この木材は、土中、水中、海中を問わず、あらゆる自然環境下において長期間保持することができ、公園、道路、河川、港湾などの設備にも使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この発明の一実施例に係る木材の燻煙処理時の時間と温度との関係を示すグラフである。
【図2】この発明の一実施例に係る木材の燻煙処理装置の構成を示す平面図である。
【図3】この発明の一実施例に係る木材の燻煙処理装置の構成を示す側面図である。
【符号の説明】
【0019】
2 燻煙処理室、
11 木材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木材を防腐・防蟻処理する木材の防腐・防蟻処理方法であって、
煙を燻煙処理室内に送り込み、この燻煙処理室内に収納された木材を燻煙処理する工程と、
上記燻煙処理後の木材に薬液を加圧注入する工程と、を含む木材の防腐・防蟻処理方法。
【請求項2】
上記燻煙処理は、燻煙処理室内の木材について温度110〜130℃に6〜7時間保持して燻煙処理する過程と、
この後、燻煙処理室内を110〜130℃から室温に降温する過程と、
次に、燻煙処理室内を室温から80〜90℃に昇温する過程と、
この後、燻煙処理室内の木材について温度80〜90℃に1〜2時間保持して燻煙処理する過程と、
を含む請求項1に記載の木材の防腐・防蟻処理方法。
【請求項3】
上記燻煙処理後の温度が55℃以上に保持された木材に、この木材の温度未満の薬液を加圧注入する請求項1または請求項2に記載の木材の防腐・防蟻処理方法。
【請求項4】
上記薬液は防腐剤および防蟻剤を含有する木材保存剤である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の木材の防腐・防蟻処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−334913(P2006−334913A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−162035(P2005−162035)
【出願日】平成17年6月1日(2005.6.1)
【出願人】(302054615)
【出願人】(504190593)
【出願人】(504190607)
【出願人】(504190629)
【出願人】(504190630)
【出願人】(505204527)
【出願人】(505204538)
【Fターム(参考)】