説明

木材塗料用ポリウレタン系水分散体の製造方法

【課題】変色、特に黄変し難く、且つ優れた耐溶剤性及び耐湿熱性等を有する皮膜を形成することができる木材塗料用ポリウレタン系水分散体の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の木材塗料用ポリウレタン系水分散体の製造方法は、脱水ヒマシ油脂肪酸骨格を有するポリオール(A)と、親水性化合物(ジメチロールプロピオン酸等)と、ポリイソシアネート化合物(B)(水添MDI等)と、を反応させてイソシアネート末端プレポリマーを生成させ、次いで、反応液と水とを混合することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木材塗料用ポリウレタン系水分散体の製造方法に関する。更に詳しくは、本発明は、木材用塗料の主成分として用いたときに、変色、特に黄変し難く、且つ優れた耐水性、耐溶剤性及び耐湿熱性等を有する皮膜を形成することができる木材塗料用ポリウレタン系水分散体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ヒマシ油系ポリオール等のポリオールを用いて製造されたイソシアネート末端プレポリマーが水に分散されてなる各種のポリウレタン系水分散体が提案されており、塗料等の主成分として用いられている。例えば、不飽和脂肪酸エステルポリオール等のポリオール化合物と、有機ジイソシアネート化合物と、ジアルキルモノヒドロキシアルカン酸との反応生成物を必須成分とする水性ウレタン化アルキッド樹脂分散体が知られている(例えば、特許文献1参照。)。また、ポリイソシアネート化合物、ヒマシ油系ポリオール化合物、分子内に水酸基以外の親水性基を有し、且つ水酸基を2個以上有する化合物、を反応させて得られたイソシアネート末端プレポリマーに、活性水素を2個以上有する化合物を作用させて鎖延長反応させてなるウレタン系水性組成物が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【0003】
【特許文献1】特開平7−166130号公報
【特許文献2】特開2000−273138号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、塗料等として用いられる各種のウレタン系水分散体などが知られている。しかし、特許文献1では、有機ジイソシアネート化合物が数多く例示されてはいるものの、皮膜の変色との関連で特定の有機ジイソシアネート化合物を選択することについては何ら着目されていない。また、実施例では、変色し易いトリレンジイソシアネートが用いられており、イソホロンジイソシアネートも用いられているが、このジイソシアネートであっても、特定のポリオールを用いないときは変色の問題がある。更に、特許文献2では、ポリオール原料として脱水ヒマシ油を用いること、及び塗膜を酸化重合により硬化させることについて何ら記載がなく、被膜の変色にも全く着目されていない。
【0005】
本発明は上記の従来の状況に鑑みてなされたものであり、木材用塗料の主成分として用いたときに、木材に塗布された後、含有されるイソシアネート末端プレポリマー(以下、「プレポリマー」と略記することもある。)が酸化重合し、架橋されて、変色、特に黄変し難く、且つ優れた耐水性、耐溶剤性及び耐湿熱性等を有する皮膜を形成することができる木材塗料用ポリウレタン系水分散体(以下、「水分散体」と略記することもある。)の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下のとおりである。
1.脱水ヒマシ油脂肪酸骨格を有するポリオール(A)と、親水性化合物と、ポリイソシアネート化合物(B)と、を反応させてイソシアネート末端プレポリマーを生成させ、その後、反応液と水とを混合することを特徴とする木材塗料用ポリウレタン系水分散体の製造方法。
2.上記ポリオール(A)は、脱水ヒマシ油及び/又は脱水ヒマシ油脂肪酸と、4官能以上のポリオールとの反応生成物であり、該脱水ヒマシ油及び/又は該脱水ヒマシ油脂肪酸と、該4官能以上のポリオールとの合計を100質量%とした場合に、該4官能以上のポリオールは5〜40質量%である上記1.に記載の木材塗料用ポリウレタン系水分散体の製造方法。
3.上記ポリオール(A)のヨウ素価が80〜130である上記1.又は2.に記載の木材塗料用ポリウレタン系水分散体。
4.上記ポリイソシアネート化合物(B)が、2個のシクロヘキシル基を有するジイソシアネート化合物である上記1.乃至3.のうちのいずれか1項に記載の木材塗料用ポリウレタン系水分散体の製造方法。
5.上記反応液と上記水とを混合するのと同時に、又は該混合後に、混合液にカルボジイミドが添加され、該混合液に含有される固形分を100質量部とした場合に、該カルボジイミドは0.3〜3.0質量部である上記1.乃至4.のうちのいずれか1項に記載の木材塗料用ポリウレタン系水分散体の製造方法。
6.上記1.乃至5.のうちのいずれか1項に記載の木材塗料用ポリウレタン系水分散体の製造方法により製造されたことを特徴とする木材塗料用ポリウレタン系水分散体。
【発明の効果】
【0007】
本発明の木材塗料用ポリウレタン系水分散体の製造方法によれば、酸化重合により塗膜が容易に硬化し、十分な硬度を有する皮膜を形成することができるイソシアネート末端プレポリマーを含有する水分散体を効率よく製造することができる。また、亜麻仁油、大豆油等の植物油由来の従来のポリオールを用いたときは、変色し易いが、本発明の製造方法では、特定の構造のポリオール(A)を使用することにより、変色を十分に抑えることができる。更に、1液型でありながら、ポリオール(A)を用いることにより、従来の2液型の塗料と同様に優れた耐水性及び耐溶剤性を有し、且つ十分な耐湿熱性等を備える皮膜を形成することができるイソシアネート末端プレポリマーを含有する水分散体を効率よく製造することができる。
また、ポリオール(A)が、脱水ヒマシ油及び/又は脱水ヒマシ油脂肪酸と、4官能以上のポリオールとの反応生成物であり、該脱水ヒマシ油及び/又は該脱水ヒマシ油脂肪酸と、該4官能以上のポリオールとの合計を100質量%とした場合に、該4官能以上のポリオールは5〜40質量%である場合、及びポリイソシアネート化合物(B)が、2個のシクロヘキシル基を有するジイソシアネート化合物である場合は、これらを反応させ易く、プレポリマーを容易に生成させることができる。
更に、ポリオール(A)のヨウ素価が80〜130である場合は、木材用塗料として用いたときに、十分な硬度等を有する被膜を形成することができる。
また、反応液と水とを混合するのと同時に、又は混合後に、混合液にカルボジイミドが添加され、混合液に含有される固形分を100質量部とした場合に、カルボジイミドが0.3〜3.0質量部である場合は、カルボジイミドにより架橋が促進され、より容易に皮膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳しく説明する。
本発明の木材塗料用ポリウレタン系水分散体の製造方法は、脱水ヒマシ油脂肪酸骨格を有するポリオール(A)と、親水性化合物と、ポリイソシアネート化合物(B)と、を反応させてイソシアネート末端プレポリマーを生成させ、その後、反応液と水とを混合することを特徴とする。
【0009】
[1]脱水ヒマシ油脂肪酸骨格を有するポリオール(A)
上記「脱水ヒマシ油脂肪酸骨格を有するポリオール(A)」は、脱水ヒマシ油、脱水ヒマシ油脂肪酸等と4官能以上のポリオールとをエステル交換反応、又はエステル化反応させて生成させることができる。具体的な方法は特に限定されないが、例えば、攪拌装置、冷却器等を備える反応容器に、脱水ヒマシ油及び/又は脱水ヒマシ油脂肪酸、4官能以上のポリオール及び触媒を投入し、加熱しながら攪拌し、反応させて生成させることができる。反応雰囲気は窒素ガス雰囲気、及びアルゴンガス雰囲気等の不活性ガス雰囲気などの不活性雰囲気であることが好ましい。反応温度及び反応時間は特に限定されないが、反応温度は190〜250℃、特に200〜240℃とすることが好ましく、反応時間は2〜10時間、特に2.5〜8時間とすることが好ましい。
【0010】
脱水ヒマシ油は、ヒマシ油を構成するリシノール酸が有するヒドロキシル基を、触媒により隣接する炭素に結合する水素とともに引き抜くことにより脱水して二重結合に変化させた化合物である。リシノール酸は9位にヒドロキシル基、12位に二重結合を有しているため、脱水反応により生成する二重結合は他の二重結合と共役系になることもあるし、共役系にならないこともあり、脱水ヒマシ油には共役系と非共役系とが混在している。また、脱水ヒマシ油脂肪酸は、脱水ヒマシ油を加水分解しグリセリンを除去した化合物である。
【0011】
4官能以上のポリオールとしては、ペンタエリスリトール、ジトリメチロールプロパン、ジグリセリン、ジペンタエリスリトール、ソルビトール、シュルクゾール等が挙げられる。これらのうちでは、4官能のポリオールが好ましく、ペンタエリスリトールが多用される。4官能以上のポリオールは1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、官能基数の異なるポリオールを併用することもできる。
【0012】
脱水ヒマシ油及び/又は脱水ヒマシ油脂肪酸と4官能以上のポリオールとの配合割合は特に限定されないが、4官能以上のポリオールは、4官能以上のポリオール(Mモルとする。)と脱水ヒマシ油及び/又は脱水ヒマシ油脂肪酸(Mモルとする。併用する場合は合計量とする。)とのモル比(M/M)が0.40〜1.00、特に0.45〜0.90となる配合量とすることが好ましい。このモル比(M/M)が0.40〜1.00であれば、2官能を少し越えるポリオール(A)を容易に合成することができる。また、脱水ヒマシ油及び/又は脱水ヒマシ油脂肪酸と4官能以上のポリオールとのエステル交換反応/エステル化反応においては、他のポリオールとしてヒマシ油等を併用することができる。この他のポリオールの配合量は、ポリオールの全量を100質量%とした場合に、50質量%以下であることが好ましい。50質量%を越えると、脱水ヒマシ油及び/又は脱水ヒマシ油脂肪酸による酸化重合架橋の効果が低くなるため好ましくない。
【0013】
触媒としては、エステル交換反応/エステル化反応に一般に用いられる触媒を使用することができる。この触媒としては、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウム−t−ブトキシド、テトラエトキシチタン、テトラブトキシチタン等のアルコキシド触媒、各種の酸化物触媒、各種の水酸化物触媒、及び各種のジアルキルスズ化合物触媒などが挙げられる。
【0014】
ポリオール(A)のヨウ素価は特に限定されないが、80〜130、特に85〜125であることが好ましい。ヨウ素価が80〜130であれば、プレポリマーの酸化重合が十分になされ、優れた耐水性及び耐溶剤性を有し、且つ十分な耐湿熱性等を備える皮膜を形成することができる。また、酸価は、通常、1.5mgKOH/g以下、特に1.2mgKOH/g以下である。更に、水酸基価は、100〜200mgKOH/g、特に100〜170mgKOH/gである。また、25℃で測定した粘度は200〜600mPa・s、特に250〜550mPa・sである。この粘度が高すぎる場合は、プレポリマーの生成時、有機溶媒の質量割合を増加させることにより調整することができる。
【0015】
[2]イソシアネート末端プレポリマーの生成
上記「親水性化合物」は、少なくとも2個のヒドロキシル基と、少なくとも1個のカルボキシル基とを有する。この親水性化合物は、イソシアネート末端プレポリマーの生成時、ポリオール(A)とともにポリイソシアネート化合物と反応し、カルボキシル基を有するプレポリマーを生成させることができる。この親水性化合物としては、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸、ジメチロールペンタン酸、ジメチロールノナン酸等のジメチロールアルカン酸が挙げられる。親水性化合物は1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0016】
上記「ポリイソシアネート化合物(B)」は特に限定されないが、皮膜の変色を抑えるという観点で、2又は3個のシクロヘキシル基を有するポリイソシアネート化合物(B)が好ましい。このポリイソシアネート化合物(B)としては、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)の水添物、トリジンジイソシアネートの水添物、トリフェニルメタンジイソシアネートの水添物、トリフェニルメタントリイソシアネートの水添物等が挙げられる。これらのうちでは、2個のシクロヘキシル基を有するジイソシアネート化合物、例えば、MDIの水添物が好ましい。また、このように2又は3個のシクロヘキシル基を有することで、シクロヘキシル基を1個有するポリイソシアネート化合物、例えば、イソホロンジイソシアネートを用いたときと比べて、皮膜の耐溶剤性等を向上させることができる。更に、水添物ではない、例えば、MDIを用いたときは、反応性が高すぎ、粒子状のプレポリマーが水に分散する前に、反応が進みすぎて樹脂状になってしまい、水分散体とすることができないことがある。ポリイソシアネート化合物(B)は1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0017】
更に、プレポリマーを生成させる際、ポリオールとして、ポリオール(A)と他のポリオール(但し、上記「親水性化合物は除く。)とを併用することもできる。この他のポリオールは特に限定されないが、例えば、(1)エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、3−メチルペンタンジオール、1,6ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ビスフェノールA、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の短鎖ポリオール、及びダイマー酸ジオール等の長鎖ポリオール、(2)上記(1)の短鎖ポリオールのエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイド付加物、ポリテトラメチレングリコール等のポリエーテルポリオール、(3)アジピン酸、マロン酸、セバシン酸、アゼライン酸、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、無水フタル酸、トリメリット酸等の多塩基酸と、上記(1)の短鎖ポリオールとを公知の方法で反応させてなるポリエステルポリオール、及びカプロラクトン等の開環重合により得られるラクトン系ポリエステルポリオールなどのポリエステルポリオール、(4)上記(1)の短鎖ポリオールと、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート等との脱アルコール反応によって合成されるポリカーボネートポリオール、(5)ポリブタジエンポリオール、ポリイソプレンポリオール等のポリオレフィンポリオール、などが挙げられる。これらの他のポリオールは1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0018】
プレポリマー生成時の、ポリオール(A)(他のポリオールを併用する場合はポリオールの合計量)、親水性化合物及びポリイソシアネート化合物(B)の各々の配合割合は特に限定されないが、親水性化合物は、親水性化合物(Mmmolとする。)と、ポリオール(A)又はポリオールの合計量(Mgとする。)との比(M/M)が、0.25〜0.60、特に0.30〜0.50となる配合量であることが好ましい。この比(M/M)が0.25〜0.60であれば、プレポリマーに所要量のカルボキシル基を導入することができる。また、ポリオール(A)又はポリオールの合計量と、ポリイソシアネート化合物(B)との量比を表すイソシアネートインデックスは、1.10〜2.00、特に1.20〜1.70であることが好ましい。
【0019】
プレポリマーの生成に用いる触媒としては、ジオクチルチンジラウレート、ジブチルチンジラウレート、ジブチルチンジアセテート、ジブチルチンジマレエート、オクテン酸鉛等の金属触媒、及びトリエチルアミン、トリエチレンジアミン、ジメチルアミノエタノール等のアミン触媒などが挙げられる。触媒は1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよく、金属触媒とアミン触媒とを併用することもできる。
【0020】
プレポリマーは、有機溶媒を用いることなく生成させることもでき、有機溶媒を媒体として生成させることもできる。有機溶媒を用いる場合、この有機溶媒は、ポリオール(A)、親水性化合物、ポリイソシアネート化合物(B)等を室温(例えば、25〜35℃)以上の温度で溶解させることができ、且つ生成するプレポリマーを室温(例えば、25〜35℃)以上の温度で溶解させることができればよく、特に限定されない。有機溶媒としては、ウレタン化反応に不活性で水との親和性が高い溶媒が好ましく、メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、及びN−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン等が挙げられ、中でも十分な溶解力を有し、且つ低沸点であるケトン類、特にメチルエチルケトンが好ましい。また、N−メチルピロリドン等の沸点が水よりも高い溶媒は、通常の有機溶媒を留去させるときの条件では留去させることができず、木材用塗料として基材に塗布した後も残留するが、プレポリマー粒子等の結合剤及び造膜助剤としても機能するため、併用することが好ましい。有機溶媒の使用量は、プレポリマーを100質量部とした場合に、10〜100質量部の範囲とすることができる。
【0021】
また、プレポリマーの末端イソシアネート基の含有量は特に限定されないが、プレポリマーを100質量%とした場合に、1.5〜5.5質量%、特に2.0〜4.5質量%とすることができる。この末端イソシアネート基の含有量は、研磨性、硬度、光沢、耐薬品性等の所要物性を勘案し、設定することが好ましい。
【0022】
[3]水分散体及び水分散体組成物
上記のようにして調製した、プレポリマーが溶解した反応液と水とを混合することにより水分散体とすることができる。また、上記の沸点が水よりも高い有機溶媒は、通常、水分散体に残留する。
上記「水」は特に限定されないが、蒸留水、イオン交換水、純水等の純度の高い水を用いることが好ましい。反応液と水とを混合する方法も特に限定されないが、大量の水と一時に混合するよりも、反応液に液滴として水を滴下する方法が好ましい。この滴下する方法であれば、水にプレポリマーをより均一に分散させることができ、より均質な水分散体とすることができる。
【0023】
また、反応液と水とを混合する前に、反応液に、プレポリマーに導入されたカルボキシル基を中和するための中和剤を添加することが好ましい。中和剤としては、塗膜硬化後、被膜内に残留しないため、アミン類が好ましく、第3級アミンがより好ましい。この第3級アミンは特に限定されないが、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−プロピルアミン、トリ−n−ブチルアミン等の脂肪族第3級アミン、及びN,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン等の芳香族第3級アミンなどを用いることができる。第3級アミンは1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。この中和により、プレポリマーの親水性が向上し、より均質な水分散体とすることができる。
【0024】
中和剤として用いる第3級アミンは、プレポリマー中に導入したカルボキシル基と等モル量であることが好ましく、これによりプレポリマーの親水性がより向上し、プレポリマー粒子がより均一に分散した水分散体とすることができる。
【0025】
更に、反応液と水とを混合するのと同時に、又は混合した後に、混合液に鎖延長剤を添加することが好ましい。また、プレポリマーの生成に有機溶媒を用いた場合、鎖延長剤は有機溶媒の留去の前に添加することがより好ましい。鎖延長剤としては、イソシアネート基と反応する活性水素を2個以上有する化合物を用いることができ、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、イソホロンジアミン、ピペラジン、フェニレンジアミン等のジアミン、及び3官能以上のポリアミンなどが挙げられる。この鎖延長により、プレポリマー分子が結合されて鎖延長されるとともに、鎖延長された分子の末端がアミノ基又はヒドロキシル基となる。これにより、分子末端がイソシアネート基のままである場合、水と反応してしまうプレポリマーの反応を抑え、水分散体を安定化することができる。
【0026】
鎖延長剤として用いられるジアミンの使用量は、化学分析により測定されるプレポリマーのイソシアネート基含有量との当量比に基づいて設定することができる。ジアミンは、ジアミンのアミノ基当量(Mとする。)と、プレポリマーのイソシアネート基当量(Mとする)との比(M/M)が0.5〜1.0となる当量比で使用することが好ましい。鎖延長反応の反応条件は特に限定されないが、反応温度は30〜60℃、反応時間は30分〜4時間の条件で反応させることが好ましい。
【0027】
鎖延長されたプレポリマーにおける脱水ヒマシ油及び/又は脱水ヒマシ油脂肪酸に由来する成分の、プレポリマーの全量に対する質量割合は特に限定されないが、プレポリマーの全量を100質量%とした場合に、脱水ヒマシ油等に由来する成分は20〜60質量%であることが好ましい。この成分の質量割合が20〜60質量%であれば、水分散体を含有する木材用塗料を基材に塗布した後、プレポリマーの酸化重合が容易になされ、十分な硬度等を有する被膜を形成することができる。
【0028】
また、プレポリマーが中和され、鎖延長された後の混合液に、カルボジイミド化合物を添加することが好ましい。このカルボジイミド化合物は、分子中にカルボジイミド基を有する化合物であれば特に限定されないが、水溶性のカルボジイミド化合物であることがより好ましい。従って、より好ましいカルボジイミド化合物としては、ジイソシアネート化合物を脱二酸化炭素縮合反応により重合させた後、末端イソシアネート基をヒドロキシル基等の反応性を有する親水性基を備える有機化合物でキャップした化合物を挙げることができる。具体的には、日清紡績社製のカルボジライトシリーズ等の化合物が挙げられる。この製品は水溶性タイプとなっており固形分含有量は約40質量%である。カルボジイミド化合物の添加量は特に限定されないが、混合液(水分散体)に含有される固形分を100質量部とした場合に、0.3〜3.0質量部であることが好ましい。
【0029】
上記「木材塗料用ポリウレタン系水分散体」には、必要に応じて各種の添加剤を配合して水分散体組成物とすることができる。この添加剤としては、例えば、(1)フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、アジピン酸ジブチル等の可塑剤、(2)ロジン、テルペン樹脂、クマロン樹脂等の粘着付与樹脂、(3)炭酸カルシウム、シリカ、クレー、タルク、カーボンブラック等の無機充填剤、(4)酸化防止剤、紫外線吸収剤、紫外線防止剤等の安定剤、などの他、酸化重合促進剤、難燃剤、防黴剤、防錆剤等の各種の添加剤が挙げられる。
【0030】
水分散体の具体的な製造方法及び製造条件は特に限定されないが、例えば、攪拌装置、冷却器等を備える反応容器に、有機溶媒、ポリオール(A)、親水性化合物、及び触媒を投入し、溶解後、ポリイソシアネート化合物(B)を仕込み、これらを加熱しながら攪拌し、反応させてプレポリマーを生成させ、次いで、反応液と水とを混合することにより製造することができる。また、有機溶媒を用いた場合、この有機溶媒を留去する方法は特に限定されず、温度は有機溶媒の沸点等により設定することが好ましい。また、減圧下に留去してもよく、常圧下に留去してもよいが、減圧下に留去することが好ましい。減圧下に留去すれば設定温度を低下させることもでき、プレポリマーに必要のない熱を加えることなく、且つ短時間で効率よく有機溶媒を留去することができる。
【0031】
製造時の雰囲気は不活性雰囲気でも大気雰囲気でもよいが、窒素ガス雰囲気、及びアルゴンガス雰囲気等の不活性ガス雰囲気などの不活性雰囲気で反応させることが好ましい。また、プレポリマー生成時の反応温度及び反応時間は特に限定されないが、反応温度は60〜100℃、特に70〜90℃とすることが好ましく、反応時間は4〜10時間、特に5.5〜8.5時間とすることが好ましい。
【0032】
鎖延長されたプレポリマーの生成に用いられる脱水ヒマシ油等の原料の全量に対する脱水ヒマシ油及び/又は脱水ヒマシ油脂肪酸の質量割合は特に限定されないが、原料の全量を100質量%とした場合に、20〜60質量%、特に25〜55質量%であることが好ましい。脱水ヒマシ油等の質量割合が25〜60質量%であれば、水分散体を含有する木材用塗料を基材に塗布した後、プレポリマーの酸化重合が容易になされ、十分な硬度等を有する被膜を形成することができる。
【0033】
[5]木材用塗料
本発明の方法により製造された木材塗料用ポリウレタン系水分散体、及びこれに各種の添加剤を配合した水分散体組成物は、塗料として用いるための各種の添加剤等を配合して木材用塗料として使用することができる。
【0034】
水分散体は、25℃で測定した粘度が10〜200mPa・s、特に15〜170mPa・sであることが好ましい。この範囲の粘度であれば、木材用塗料の調製時、取り扱い易く、塗料の調製が容易である。また、水分散体の水素イオン指数(pH)は7.0〜9.0、特に7.0〜8.5であることが好ましい。この範囲のpHであれば、ポリウレタン系の水分散体として安定である。更に、水分散体における不揮発分は、水分散体を100質量%とした場合に、25〜60質量%、特に30〜55質量%であることが好ましい。この範囲の不揮発分であれば、低粘度であり、且つ塗料の樹脂分としても十分である。尚、水分散体組成物である場合も、その粘度、pH及び不揮発分は、それぞれ上記の水分散体と同様の範囲であることが好ましく、それにより、同様の作用効果が奏される。
【0035】
本発明の方法により製造された水分散体、及び水分散体組成物を主成分とする木材用塗料には、各種の添加剤が配合される。この添加剤としては、(1)(a)ポリプロピレングリコールを付加したポリメチルシロキサン、ポリフェニルメチルシロキサン等のシリコン系、(b)ポリビニルイソブチルエーテル等のエーテル系、(c)ポリイソブチルアクリレート等のアクリル系などのレベリング剤、(2)(a)プロピレングリコール、エステル化した植物油脂肪酸、セロソルブアセテート、ブチルセロソルブ、ブチルセロソルブアセテート等のセロソルブ系、(b)テキサノール、(c)ポリプロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテルなどの造膜助剤、(3)(a)ジメチルポリシロキサン等のシリコン系、ポリビニルイソブチルエーテル等のエーテル系、(b)ポリラウリルメタクリレート等のアクリル系などの消泡剤、(4)カーボンブラック、弁柄、炭酸カルシウム、紺青、亜鉛華、鉛丹等の無機顔料、及びアゾ系、アントラキノン系、フタロシアニン系等の有機顔料、などの各種の添加剤が挙げられる。これらの各種の添加剤は、それぞれ1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これら添加剤の配合量の合計は、プレポリマーを100質量%とした場合に、5〜25質量%、特に10〜20質量%であることが好ましい。言い換えれば、プレポリマーは75〜95質量%、特に80〜90質量%であることが好ましい。
【0036】
木材用塗料を基材に塗布する方法は特に限定されず、刷毛塗り、ローラーコート、スプレーコート、グラビアコート、リバースロールコート、エアナイフコート、バーコート、カーテンロールコート、ディップコート、ロッドコート、ドクターブレードコート等の各種の塗布方法により塗布することができる。また、木材用塗料を基材に塗布した後、塗膜を乾燥させ、硬化させて皮膜とする方法も特に限定されないが、大気雰囲気下、所定温度で所要時間静置し、水を揮散させ、鎖延長されたプレポリマーを酸化重合、及びカルボジイミド化合物を用いる場合は、この化合物による重合と併せて、重合させ硬化させることができる。温度及び時間は特に限定されないが、高温短時間であるよりも低温長時間であることが好ましく、温度は30〜60℃、特に35〜50℃とすることが好ましく、時間は、温度及びプレポリマーの反応性等にもよるが、48〜288時間、特に96〜240時間とすることが好ましい。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
[1]脱水ヒマシ油の合成
攪拌機、温度計、窒素導入管、還流コンデンサ及び留出器を備える反応器に、ヒマシ油を1000g(0.93モル)、硫酸水素ナトリウムを4.0g及び水を4.0g投入し、徐々に減圧して5mmHgの圧力とし、240℃まで昇温させた。その温度を継続したままで3時間攪拌し、脱水反応をさせて反応水を系外に留出させた。反応終了後、100℃以下に冷却し、炭酸水素ナトリウム3.0gと水10gとを添加して触媒を中和し、再度減圧にして水分を取り除いた後、中和塩を除去した。得られた脱水ヒマシ油の酸価は3.0mgKOH/g、水酸基価は10mgKOH/g、25℃における粘度は150mPa・sであった。
【0038】
[2]ポリオールの合成
合成例1
攪拌機、温度計、窒素導入管及び還流コンデンサを備える反応器に、脱水ヒマシ油を1500g(1.66モル)、ペンタエリスリトールを113g(0.83モル)、及びナトリウムメトキシドの28質量%メタノール溶液を2.4g投入し、窒素気流下、220℃で3時間攪拌し、反応させた。その後、100℃以下に冷却し、リン酸の75質量%水溶液を1.3g添加して、触媒を中和し、除去した。得られたヒマシ油系ポリオールのヨウ素価は123、酸価は1.0mgKOH/g、水酸基価は129mgKOH/g、25℃における粘度は500mPa・sであった(以下、「ポリオールA−1」という。また、表1、2でも「ポリオールA−1」と表記する。)。
【0039】
合成例2
脱水ヒマシ油を1200g(1.33モル)とし、ペンタエリスリトールに代えてペンタエリスリトールのプロピレンオキサイド付加物(水酸基価;410mgKOH/g)400g(0.73モル)を用いた他は、合成例1と同様にしてヒマシ油系ポリオールを製造した。得られたヒマシ油系ポリオールのヨウ素価は99、酸価は1.0mgKOH/g、水酸基価は111mgKOH/g、25℃における粘度は300mPa・sであった(以下、「ポリオールA−2」という。また、表1、2でも「ポリオールA−2」と表記する。)。
【0040】
合成例3
脱水ヒマシ油を1040g(1.16モル)、ペンタエリスリトールのプロピレンオキサイド付加物を560g(1.02モル)とした他は、合成例2と同様にしてヒマシ油系ポリオールを製造した。得られたヒマシ油系ポリオールのヨウ素価は86、酸価は1.0mgKOH/g、水酸基価は147mgKOH/g、25℃における粘度は400mPa・sであった(以下、「ポリオールA−3」という。また、表1、2、3でも「ポリオールA−3」と表記する。)。
【0041】
合成例4
脱水ヒマシ油を960g(1.07モル)とし、ポリオールとしてペンタエリスリトール96g(0.71モル)と、ヒマシ油544g(0.58モル)とを用いた他は、合成例1と同様にしてヒマシ油系ポリオールを製造した。得られたヒマシ油系ポリオールのヨウ素価106、酸価は1.0mgKOH/g、水酸基価は154mgKOH/g、25℃における粘度は500mPa・sであった(以下、「ポリオールA−4」という。また、表1、2でも「ポリオールA−4」と表記する。)。
【0042】
合成例5
攪拌機、温度計、窒素導入管及び検水管、還流コンデンサを備える反応器に、脱水ヒマシ油脂肪酸を590g(2モル)、ペンタエリスリトールのプロピレンオキサイド付加物138g(0.25モル)、トリイソプロピルチタネート0.2gを投入し、窒素気流下、220℃で6時間攪拌し、反応水を36g留出させ反応させ、その後、100℃以下に冷却し、減圧脱水した。得られたヒマシ油系ポリオールのヨウ素価は118、酸価は1.0mgKOH/g、水酸基価は101mgKOH/g、25℃における粘度は500mPa・sであった(以下、「ポリオールA−5」という。また、表1、2でも「ポリオールA−5」と表記する。)。
【0043】
比較合成例1
脱水ヒマシ油に代えて亜麻仁油1500g(1.66モル)を使用し、ペンタエリスリトールを113g(0.83モル)とした他は合成例1と同様にしてヒマシ油系ポリオールを製造した。得られたヒマシ油系ポリオールのヨウ素価は166、酸価は1.0mgKOH/g、水酸基価116mgKOH/g、25℃における粘度は500mPa・sであった(以下、「ポリオールB」という。また、表1、3でも「ポリオールB」と表記する。)。
以上、合成例1〜4及び比較合成例1のポリオール(A−1〜5及びB)のヨウ素価、酸価、水酸基価及び25℃における粘度を表1に記載する。
尚、ヨウ素価はJIS K 0070−6に従って測定した。また、酸価はJIS K 0070−3に従って測定した。更に、水酸基価はJIS K 0070−7に従って測定した。また、粘度はJIS K 8803−8に従って測定した。
【0044】
【表1】

【0045】
[2]木材塗料用ポリウレタン系水分散体の製造
実施例1
攪拌機、温度計、窒素導入管及び還流コンデンサを備える反応器に、ポリオールA−1を110g、MEKを80g、DMBAを10.9g、NMPを20g、及びDBTDLを0.06g投入し、溶解後、HMDIを68.3g仕込み、次いで、昇温させ、80℃で7時間反応させ、イソシアネート末端プレポリマー(プレポリマーを100質量%とした場合に、2.6質量%のイソシアネート基を有する。)を含有する反応液を得た。その後、40℃にてこの反応液にTEAを6.7g添加し、中和した。次いで、IPDAを6.0g配合したイオン交換水を420g滴下し、鎖延長反応させるとともに転相させ、その後、カルボジイミド化合物(日清紡績社製、商品名「カルボジライトSV−02」)を3.9g添加し、その後、十分攪拌して均一にし、次いで、減圧下、50℃でMEKを留去し、木材塗料用ポリウレタン系水分散体を製造した。
【0046】
実施例2
攪拌機、温度計、窒素導入管及び還流コンデンサを備える反応器に、ポリオールA−2を554g、MEKを300g、DMPAを61g、NMPを61g、及びDBTDLを0.15g投入し、溶解後、HMDIを328g仕込み、次いで、昇温させ、80℃で7時間反応させ、イソシアネート末端プレポリマー(プレポリマーを100質量%とした場合に、2.9質量%のイソシアネート基を有する。)を含有する反応液を得た。その後、40℃にて、この反応液にTEAを46g添加し、中和した。次いで、IPDAを46.0g配合したイオン交換水を2020g滴下し、鎖延長反応させるとともに転相させ、その後、カルボジイミド化合物(日清紡績社製、商品名「カルボジライトSV−02」)を19.8g添加し、その後、十分攪拌して均一にし、次いで、減圧下、50℃でMEKを留去し、木材塗料用ポリウレタン系水分散体を製造した。
【0047】
実施例3
攪拌機、温度計、窒素導入管及び還流コンデンサを備える反応器に、ポリオールA−3を83.6g、SA/MPDを20.8g、MEKを60g、DMPAを11.6g、NMPを28g、及びDOTDLを0.04g投入し、溶解後、HMDIを65.6g仕込み、次いで、昇温させ、80℃で7時間反応させ、イソシアネート末端プレポリマー(プレポリマーを100質量%とした場合に、2.3質量%のイソシアネート基を有する。)を含有する反応液を得た。その後、40℃にて、この反応液にTEAを8.7g添加し、中和した。次いで、IPDAを6.8g配合したイオン交換水を370g滴下し、鎖延長反応させるとともに転相させ、その後、カルボジイミド化合物(日清紡績社製、商品名「カルボジライトSV−02」)を3.8g添加し、その後、十分攪拌して均一にし、次いで、減圧下、50℃でMEKを留去し、木材塗料用ポリウレタン系水分散体を製造した。
【0048】
実施例4
攪拌機、温度計、窒素導入管及び還流コンデンサを備える反応器に、ポリオールA−4を113.6g、MEKを63g、DMPAを12.6g、NMPを30g、及びDBTDLを0.06g投入し、溶解後、HMDIを82.0g仕込み、次いで、昇温させ、80℃で7時間反応させ、イソシアネート末端プレポリマー(プレポリマーを100質量%とした場合に、2.9質量%のイソシアネート基を有する。)を含有する反応液を得た。その後、40℃にて、この反応液にTEAを9.5g添加し、中和した。次いで、IPDAを12g配合したイオン交換水を490g滴下し、鎖延長反応させるとともに転相させ、その後、カルボジイミド化合物(日清紡績社製、商品名「カルボジライトSV−02」)を4.4g添加し、その後、十分攪拌して均一にし、次いで、減圧下、50℃でMEKを留去し、木材塗料用ポリウレタン系水分散体を製造した。
【0049】
実施例5
攪拌機、温度計、窒素導入管及び還流コンデンサを備える反応器に、ポリオールA−5を132.1g、AP−2を9.3g、MEKを60g、DMPAを14.0g、NMPを30g、及びDBTDLを0.06g投入し、溶解後、HMDIを85.0g仕込み、次いで、昇温させ、80℃で7時間反応させ、イソシアネート末端プレポリマー(プレポリマーを100質量%とした場合に、2.6質量%のイソシアネート基を有する。)を含有する反応液を得た。その後、40℃にて、この反応液にTEAを9.5g添加し、中和した。次いで、ピペラジンを5.1g配合したイオン交換水を440g滴下し、鎖延長反応させるとともに転相させ、その後、カルボジイミド化合物(日清紡績社製、商品名「カルボジライトSV−02」)を4.8g添加し、その後、十分攪拌して均一にし、次いで、減圧下、50℃でMEKを留去し、木材塗料用ポリウレタン系水分散体を製造した。
【0050】
実施例6
攪拌機、温度計、窒素導入管及び還流コンデンサを備える反応器に、ポリオールA−1を77.0g、1,4−BDを4.5g、MEKを60g、DMBAを9.0g、NMPを23g、及びDBTDLを0.06g投入し、溶解後、HMDIを70.9g仕込み、次いで、昇温させ、80℃で7時間反応させ、イソシアネート末端プレポリマー(プレポリマーを100質量%とした場合に、3.6質量%のイソシアネート基を有する。)を含有する反応液を得た。その後、40℃にて、この反応液にTEAを4.9g添加し、中和した。次いで、IPDAを6.0g配合したイオン交換水を340g滴下し、鎖延長反応させるとともに転相させ、その後、カルボジイミド化合物(日清紡績社製、商品名「カルボジライトSV−02」)を3.3g添加し、その後、十分攪拌して均一にし、次いで、減圧下、50℃でMEKを留去し、木材塗料用ポリウレタン系水分散体を製造した。
【0051】
実施例7
攪拌機、温度計、窒素導入管及び還流コンデンサを備える反応器に、ポリオールA−1を70.5g、1,4−BDを4.3g、AP−2を4.4g、MEKを60g、DMPAを7.8g、NMPを17g、及びDBTDLを0.06g投入し、溶解後、HMDIを73.5g仕込み、次いで、昇温させ、80℃で7時間反応させ、イソシアネート末端プレポリマー(プレポリマーを100質量%とした場合に、4.2質量%のイソシアネート基を有する。)を含有する反応液を得た。その後、40℃にて、この反応液にTEAを4.7g添加し、中和した。次いで、IPDAを4.0g配合したイオン交換水を380g滴下し、鎖延長反応させるとともに転相させ、その後、カルボジイミド化合物(日清紡績社製、商品名「カルボジライトSV−02」)を3.2g添加し、その後、十分攪拌して均一にし、次いで、減圧下、50℃でMEKを留去し、木材塗料用ポリウレタン系水分散体を製造した。
【0052】
比較例1
攪拌機、温度計、窒素導入管及び還流コンデンサを備える反応器に、AA/HGを492g(0.246モル)、MEKを300g、DMBAを36.4g、NMPを50g、及びDBTDLを0.08g投入し、溶解後、HMDIを210g仕込み、次いで、昇温させ、80℃で7時間反応させ、イソシアネート末端プレポリマー(プレポリマーを100質量%とした場合に、3.7質量%のイソシアネート基を有する。)を含有する反応液を得た。その後、40℃にて、この反応液にTEAを24.8g添加し、中和した。次いで、IPDAを23.5g配合したイオン交換水を1200g滴下し、鎖延長反応させるとともに転相させ、その後、減圧下、50℃でMEKを留去し、木材塗料用ポリウレタン系水分散体を製造した。
【0053】
比較例2
攪拌機、温度計、窒素導入管及び還流コンデンサを備える反応器に、AA/IPAを200g(0.10モル)、TMPを3g、MEKを150g、DMPAを39.0g、NMPを30g、及びDBTDLを0.06g投入し、溶解後、HMDIを184g仕込み、次いで、昇温させ、80℃で7時間反応させ、イソシアネート末端プレポリマー(プレポリマーを100質量%とした場合に、4.2質量%のイソシアネート基を有する。)を含有する反応液を得た。その後、40℃にて、この反応液にTEAを32g添加し、中和した。次いで、EDAを10g配合したイオン交換水を800g滴下し、鎖延長反応させるとともに転相させ、その後、減圧下、50℃でMEKを留去し、木材塗料用ポリウレタン系水分散体を製造した。
【0054】
比較例3
攪拌機、温度計、窒素導入管及び還流コンデンサを備える反応器に、ポリオールBを80.6g、1,4−BDを4.7g、MEKを60g、DMBAを9.5g、NMPを23g、及びDBTDLを0.06g投入し、溶解後、HMDIを70.9g仕込み、次いで、昇温させ、80℃で7時間反応させ、イソシアネート末端プレポリマー(プレポリマーを100質量%とした場合に、3.6質量%のイソシアネート基を有する。)を含有する反応液を得た。その後、40℃にて、この反応液にTEAを5.2g添加し、中和した。次いで、IPDAを6.0g配合したイオン交換水を340g滴下し、鎖延長反応させるとともに転相させ、その後、減圧下、50℃でMEKを留去し、木材塗料用ポリウレタン系水分散体を製造した。
【0055】
比較例4
汎用大豆油系ポリウレタン系水分散体(市販品)を用いた。
【0056】
比較例5
攪拌機、温度計、窒素導入管及び還流コンデンサを備える反応器に、ポリオールA−3を83.6g、SA/MPDを20.8g、MEKを60g、DMBAを11.6g、NMPを23g、及びDOTDLを0.04g投入し、溶解後、IPDIを55.6g仕込み、次いで、昇温させ、80℃で7時間反応させ、イソシアネート末端プレポリマー(プレポリマーを100質量%とした場合に、2.5質量%のイソシアネート基を有する。)を含有する反応液を得た。その後、40℃にて、この反応液にTEAを8.7g添加し、中和した。次いで、IPDAを6.8g配合したイオン交換水を370g滴下し、鎖延長反応させるとともに転相させ、その後、減圧下、50℃でMEKを留去し、木材塗料用ポリウレタン系水分散体を製造した。
【0057】
尚、実施例及び比較例における略記の意味は以下のとおりである。
DMPA;ジメチロールプロピオン酸
DMBA;ジメチロールブタン酸
MEK;メチルエチルケトン
NMP;N−メチルピロリドン
DBTDL;ジブチルチンジラウレート
DOTDL;ジオクチルチンジラウレート
HMDI;MDIの水添物
IPDI;イソホロンジイソシアネート
TEA;トリエチルアミン
IPDA;イソホロンジアミン
EDA;エチレンジアミン
TMP;トリメチロールプロパン
1,4−BD;1,4−ブタンジオール
AP−2;ビスフェノールAのプロピレンオキサイド2モル付加物
SA/MPD;セバシン酸と3メチルペンタンジオールとの反応物であるポリエステルポリオール(重量平均分子量;3500、水酸基価;34mgKOH/g)
AA/HG;アジピン酸とヘキサンジオールとの反応物であるポリエステルポリオール(重量平均分子量;2000、水酸基価;56mgKOH/g)
AA/IPA=1/1(モル比)/HG;アジピン酸及びイソフタル酸(モル比で1/1)とヘキサンジオールとの反応物であるポリエステルポリオール(重量平均分子量;2000、水酸基価;56mgKOH/g)
【0058】
以上、実施例1〜7及び比較例1〜5の木材塗料用ポリウレタン系水分散体の粘度、pH、不揮発分及び脱水ヒマシ油含有量を、それぞれ表2、3に記載する。
尚、粘度はJIS K 8803−8に従って測定した。また、pHは堀場製作所製の「pH meter F−22」により測定した。更に、不揮発分(表2、3では「NV」と略記する。)はJIS K 0067−2−3に従い、125℃で3時間加熱したときの揮発残分とした算出した。
不揮発分(%)=[(加熱後の全重量−容器の重量)/(加熱前の全重量−容器の重量)]×100
また、表2、3における「脱水ヒマシ油の質量割合」は、鎖延長されたプレポリマーの生成に用いられた原料の合計量を100質量%とした場合の、脱水ヒマシ油の質量割合である。
脱水ヒマシ油の質量割合(%)=(脱水ヒマシ油の質量/原料の合計質量)×100
【0059】
【表2】

【0060】
【表3】

【0061】
[3]塗装用及びフィルム作製用の各々の配合物の調製
実施例1〜7及び比較例1〜5の木材塗料用ポリウレタン系水分散体(表4では「PUD」と略記する。)の不揮発分(表4では「NV」と略記する。)を30質量%に調整し、この水分散体と、レベリング剤(サイテック社製、商品名「Additol XW395」)、造膜助剤(ダウ・ケミカル日本社製、商品名「ダワノールDPM」)及びイオン交換水とを表4に記載の塗料用及びフィルム作製用の各々の組成となるように配合し、試験片の作製に供した。
【0062】
【表4】

【0063】
[4]性能評価
(1)塗膜の評価
縦200mm、横150mmのラワン合板の基材の一面に、実施例1〜7及び比較例1〜5の木材塗料用ポリウレタン系水分散体を用いて表4の組成になるように配合した塗料を4回重ね塗りし、一回につき塗布量が4.0〜6.0gになるように調整し、塗膜を形成した。各々の塗布の間隔は6時間以上(6〜10時間)とし、1〜3層は雰囲気温度(25℃)で乾燥させた。また、1〜3層は上層の塗布前に表面を240番のサンドペーパーで研磨した。一方、最上層、即ち、4層目は研磨せず、40℃で1週間養生させ、評価に供した。
尚、上記の研磨時の研磨性を目視により評価した。評価基準は、○;サンドペーパーの目詰まりがなく、良好である、△;少し目詰まりがみられるが、研磨することができる、である。
【0064】
上記(1)のようにして基材の表面に形成した皮膜の性能を評価した。
(a)黄変性;養生後、30日経過した時点で皮膜の着色を目視で観察した。評価基準は、○;変色がなく良好、△;少し黄色に変色、×:黄変する、である。
(b)鉛筆硬度;JIS K 5600−5−4に従って評価した。
(c)光沢;堀場製作所製、型式「IG−331」を用いてJIS K 5600−4−7に従って60°鏡面光沢度を評価した。
(d)スポットテスト(耐薬品性):JIS K 5600−6−1[方法3(点滴法)]に従い、表5に記載の液体を皮膜に滴下し、過度の蒸発を防ぐために試験面をポリキャップにより覆い、24時間静置後、試験面の状態を目視で観察した。評価基準は、○;滴下跡が視認されず、良好である、△;滴下跡が視認され、液体に少し侵されている、×;滴下面に皺等がみられ、液体に侵されている、である。
尚、NaCO、酢酸及びEtOH(エタノール)は、いずれも水溶液である。また、洗剤はP&G社製、商品名「ジョイ」であり、ラッカーシンナーはJIS K 5538に定められた製品である。
(e)耐湿熱性;底面が直径100mmの円形のステンレス製容器に沸騰水を入れ、この容器を、水を流延させた皮膜面に静置し、30分間経過後、容器を取り除き、皮膜表面を目視で観察した。評価基準は、○;静置跡が視認されず、良好である、△;静置跡が視認され、湿度及び熱の影響を少し受けている、である。
以上、(a)〜(e)の評価結果を表5に記載する。
【0065】
【表5】

【0066】
表5の結果によれば、実施例1〜7の木材塗料用ポリウレタン系水分散体を用いた場合は、研磨性、黄変性及び耐湿熱性は全く問題なく、十分な硬度を有し、且つ光沢も81以上であり、優れている。また、エタノール、ラッカーシンナーに対する耐薬品性(耐溶剤性)が少し低いこともあるが、総体的に十分な耐薬品性を有していることが分かる。一方、比較例1〜5の木材塗料用ポリウレタン系水分散体を用いた場合は、研磨性、酢酸及び洗剤に対する耐薬品性に大きな問題はないものの、その他の評価で大きく劣っている項目があることが分かる。特に、汎用大豆油系ポリウレタン系水分散体を用いた比較例4では、脱水ヒマシ油に代えて乾性油である亜麻仁油を用いて合成したポリオールを使用した比較例3では黄変が激しい。また、脱水ヒマシ油を用いて合成したポリオールを使用しているものの、シクロヘキシル基が1個のイソホロンジイソシアネートを用いた比較例5では、耐溶剤性に劣ることが分かる。
【0067】
(2)フィルムの評価
実施例1〜7及び比較例1〜5の木材塗料用ポリウレタン系水分散体を用いて表4の組成になるように配合したフィルム作製用配合物を用いて、金属製の型に流し込むようにして厚さ300μmのフィルムを作製し、このフィルムから縦100mm、横30mmの試験片を切り出し、この試験片を40℃の温水に浸漬し、48時間経過後、表面に付着した水をガーゼで拭き取り、重量変化率を算出し、外観を目視で評価した。
重量変化率(%)=[(浸漬後重量−浸漬前重量)/浸漬前重量]×100
結果を表6に記載する。
【0068】
【表6】

【0069】
表6の結果によれば、実施例1〜7の木材塗料用ポリウレタン系水分散体を用いた場合は、重量変化率は+2.4%以下、即ち、重量増加率は2.4%以下であり、吸水性が極めて低く、外観も若干濁りがみられる程度であり、全く問題ないことが分かる。一方、比較例1〜5の木材塗料用ポリウレタン系水分散体を用いた場合、比較例1〜2及び4〜5では、重量増加率が大きく、比較例1、4、5、特に比較例4では、重量増加率が極めて大きく、問題である。また、比較例3では、重量増加率及び外観ともに全く問題ないが、前記の黄変性が劣っており、問題である。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、木質の床、壁、天井及び家具等の、木製であり、且つ美観を向上させるため表面に塗料を塗布し、皮膜を形成する必要のある各種の用途において利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱水ヒマシ油脂肪酸骨格を有するポリオール(A)と、親水性化合物と、ポリイソシアネート化合物(B)と、を反応させてイソシアネート末端プレポリマーを生成させ、その後、反応液と水とを混合することを特徴とする木材塗料用ポリウレタン系水分散体の製造方法。
【請求項2】
上記ポリオール(A)は、脱水ヒマシ油及び/又は脱水ヒマシ油脂肪酸と、4官能以上のポリオールとの反応生成物であり、該脱水ヒマシ油及び/又は該脱水ヒマシ油脂肪酸と、該4官能以上のポリオールとの合計を100質量%とした場合に、該4官能以上のポリオールは5〜40質量%である請求項1に記載の木材塗料用ポリウレタン系水分散体の製造方法。
【請求項3】
上記ポリオール(A)のヨウ素価が80〜130である請求項1又は2に記載の木材塗料用ポリウレタン系水分散体。
【請求項4】
上記ポリイソシアネート化合物(B)が、2個のシクロヘキシル基を有するジイソシアネート化合物である請求項1乃至3のうちのいずれか1項に記載の木材塗料用ポリウレタン系水分散体の製造方法。
【請求項5】
上記反応液と上記水とを混合するのと同時に、又は該混合後に、混合液にカルボジイミドが添加され、該混合液に含有される固形分を100質量部とした場合に、該カルボジイミドは0.3〜3.0質量部である請求項1乃至4のうちのいずれか1項に記載の木材塗料用ポリウレタン系水分散体の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のうちのいずれか1項に記載の木材塗料用ポリウレタン系水分散体の製造方法により製造されたことを特徴とする木材塗料用ポリウレタン系水分散体。

【公開番号】特開2010−70690(P2010−70690A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−241595(P2008−241595)
【出願日】平成20年9月19日(2008.9.19)
【出願人】(000118556)伊藤製油株式会社 (15)
【Fターム(参考)】