説明

木材寄生線虫用くん蒸剤および木材くん蒸方法

【課題】オゾン層破壊物質としてその使用が世界的に規制されている臭化メチルに代わる木材寄生線虫用くん蒸剤および木材くん蒸方法を提供すること。
【解決手段】液化炭酸ガスに溶解しているヨウ化メチルを使用する木材寄生線虫用くん蒸剤、または前記ヨウ化メチルとフッ化スルフリル、メチルイソチオシアナート、ホスフィン、酸化エチレン、硫化カルボニルおよびプロピレンオキサイドからなる群から選ばれる1種または2種以上の化合物を併用する木材寄生線虫用くん蒸剤、およびこれらのくん蒸剤を用いて木材寄生線虫を殺虫することを特徴とする木材くん蒸方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は木材寄生線虫用くん蒸剤に関する。さらに詳しく言えば、ヨウ化メチル(CH3I)を液化炭酸ガスに溶解してなる木材寄生線虫用くん蒸剤および木材くん蒸方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日本に輸入される農林産物は植物防疫の観点から必ず検査され、必要に応じてくん蒸等により有害な動植物を駆除することが義務付けられており、日本国内に生息しない有害動植物の侵入繁殖の防止が図られている。輸入木材についても同様の観点から輸入木材検疫要項により消毒方法の基準が示され、消毒が実施されている。この目的で現在実用化されている輸入木材の処理方法としては、臭化メチル等の薬剤による処理方法、水中に水没させて処理する物理的方法およびそれらを組み合わせた方法が実施されているが、これらの中で、もっとも頻繁に実施されているのは臭化メチルを用いたくん蒸方法である。この方法は簡便で、効果も確実なため、広く実用に供されている。しかし臭化メチルはオゾン層破壊の原因物質の一つであり、近年地球環境保護の観点から、臭化メチルの使用を規制しようとする動きが強まっている。
【0003】
木材梱包材は輸出入貨物に多用されているが、その殆どが何の処理も施されていない生材で作られている。従って、有害動植物が木材梱包材に付着・寄生して輸出入国へ侵入する恐れがある。
中国は平成11年に米国および日本から輸出される貨物の針葉樹を用いた梱包材につき緊急検疫措置を発表した。松枯れの原因であるマツノザイセンチュウの侵入阻止のため、熱処理を要求したのである。その後、ブラジル、ロシア、フィンランドおよびEC諸国でも同様の検疫措置がとられた。
平成12年には、FAOにおける植物検疫措置暫定委員会が「国際貿易における木製梱包材の規制ガイドライン」を採択し、これが植物検疫措置に関する国際基準として主要国に取り入れられていく動きとなっている。
【0004】
上記「国際貿易における木製梱包材の規制ガイドライン」の中で木材梱包材に関連する承認された措置としては、(1)熱処理(材の中心温度56℃、30分)、(2)キルンドライ、(3)防腐剤の加圧注入、(4)臭化メチルくん蒸が記載されている。
【0005】
このような状況において、臭化メチルに代わるくん蒸剤として、メチルイソチオシアナート(特許第2887746号公報:特許文献1)またはこれとフッ化スルフリル(特開2001−31501号公報:特許文献2)を有効成分とするくん蒸剤、およびヨウ化メチルを有効成分とするくん蒸剤(特開2003−136506号公報:特許文献3)が提案されている。しかしながら、これらはいずれも木材害虫である昆虫のくん蒸剤に関するものであり、前記検疫措置と関連するマツノザイセンチュウ等の木材寄生線虫に関するくん蒸剤およびくん蒸方法は知られていない。
【0006】
【特許文献1】特許第2887746号公報
【特許文献2】特開2001−31501号公報
【特許文献3】特開2003−136506号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
木材梱包材に関連する承認された措置の中で、熱処理、キルンドライおよび防腐剤の加圧注入等はいずれも設備が必要で、消毒場所が限定され、簡易的に実施できない。一方、臭化メチルくん蒸は比較的安価で簡易的な消毒方法であるが、前記の通り、臭化メチルはオゾン層破壊物質としてその使用が世界的に規制されている。
従って、本発明の課題は臭化メチルに代わる新規な木材寄生線虫用くん蒸剤ならびに木材のくん蒸方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、臭化メチルに代わる、簡易的に、安価に、どこでも木材の消毒が実施できるくん蒸剤を鋭意検討した。ヨウ化メチルは臭化メチルと同様に線虫に対して優れた殺虫効果を示すが、沸点が42.5℃と高いためそのままでは木材に寄生している線虫のくん蒸には使用できないが、これを液化炭酸ガスに溶解させると、液化炭酸ガスの高圧により微粒子の状態でヨウ化メチルを処理室内に噴霧・拡散導入することができ、導入されたヨウ化メチル微粒子は短時間に気化し木材内に寄生している線虫を駆除(くん蒸)できることを見出した。さらに、フッ化スルフリル、メチルイソチオシアナート、ホスフィン、酸化エチレン、硫化カルボニルおよびプロピレンオキサイドからなる群から選ばれる1種または2種以上の化合物を、液化炭酸ガスに溶解させたヨウ化メチルと併用することにより同様に木材内に寄生している線虫を効率よく駆除できることを確認して本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、下記の木材寄生線虫用くん蒸剤および木材くん蒸方法を提供する。
1.ヨウ化メチルを液化炭酸ガスに溶解してなることを特徴とする木材寄生線虫用くん蒸剤。
2.液化炭酸ガス中のヨウ化メチルの濃度が、20〜90質量%である前記1に記載の木材寄生線虫用くん蒸剤。
3.液化炭酸ガスに溶解しているヨウ化メチルと、フッ化スルフリル、メチルイソチオシアナート、ホスフィン、酸化エチレン、硫化カルボニルおよびプロピレンオキサイドからなる群から選ばれる1種または2種以上の化合物とを併用して木材寄生線虫を殺虫することを特徴とする木材くん蒸方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、オゾン層破壊物質としてその使用が世界的に規制されている臭化メチルに代わる、簡易的に、安価に、どこでも木材の消毒が実施できる木材寄生線虫用くん蒸剤および木材くん蒸方法を提供する。ヨウ化メチルは、沸点が42.5℃と、くん蒸剤としては高い沸点であるためそのままでは木材に寄生している線虫のくん蒸には使用できないが、これを液化炭酸ガスに溶解させたものを処理室に導入すると、液化炭酸ガスの高圧により微粒子の状態で噴霧・拡散されるため、短時間に気化し木材内に寄生している線虫を100%駆除することができる。また、前記液化炭酸ガスに溶解させたヨウ化メチルとフッ化スルフリル、メチルイソチオシアナート(以下、MITCと略記することがある。)、ホスフィン、酸化エチレン、硫化カルボニルおよびプロピレンオキサイドからなる群から選ばれる1種または2種以上の他の有効化合物を実質的に同時に投薬すると高いくん蒸効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明において、くん蒸剤の有効成分として使用するヨウ化メチルは、前述の通り、沸点が42.5℃であり、くん蒸剤としては高い沸点である。そこで本発明者らは、各種液化高圧ガスに対するヨウ化メチルの溶解性を調べた。その結果、ヨウ化メチルは炭酸ガス(液化状態の容器内の圧力約6MPa )によく溶解すること、溶解したヨウ化メチルは液化炭酸ガスの持つ圧力で吐出できるために容器から吐出すると微粒子状に噴霧、拡散され、ヨウ化メチルの速やかな気化を容易にし、検疫くん蒸の目的に使用可能であることを確認した。液化炭酸ガスは、低価格であること、不活性、安定で毒性が殆どないことから有効成分が本来有する薬効のみの発現が期待できること、不燃性であること、圧力が高く広い空間に大量に噴霧できること等の特長を有する。
【0012】
ヨウ化メチルは液化炭酸ガスに対して、任意に溶解する。木材寄生線虫用くん蒸剤において、有効成分であるヨウ化メチルの液化炭酸ガス中の濃度は、20〜90質量%で使用可能であるが、30〜80質量%が好ましく、40〜60質量%が特に好ましい。ヨウ化メチルの液化炭酸ガス中の濃度が低いほど(ガス圧が高いほど)、微粒子状のヨウ化メチルが生成するが、低すぎると所望の効果を得るために多量の炭酸ガスを必要とし効率的でない。また、ヨウ化メチルの液化炭酸ガス中の濃度が90質量%を超えると充分な噴射圧が得られず、ヨウ化メチルを含む粒子径が大きくなり、揮発蒸散効果が低下する。
【0013】
ヨウ化メチルを炭酸ガスに溶解させた薬剤の使用量、すなわち、くん蒸に必要なヨウ化メチルの量(気化量)は、処理系の密封状態、処理域の温度、処理時間等の具体的実施条件に依って異なるが、密封条件下、環境温度10〜25℃、処理時間24〜48時間でくん蒸する場合、50〜110g原体/m3の薬量で木材寄生線虫を完全に殺虫することができる。
【0014】
[木材寄生線虫用くん蒸剤]
本発明による木材寄生線虫用くん蒸剤は、液化炭酸ガスに溶解したヨウ化メチル、またはこれとフッ化スルフリル、MITC、ホスフィン、酸化エチレン、硫化カルボニルおよびプロピレンオキサイドからなる群から選ばれる1種または2種以上の化合物とを有効成分とする。
液化炭酸ガスに溶解したヨウ化メチルに、さらにフッ化スルフリル、MITC、ホスフィン、酸化エチレン、硫化カルボニルおよびプロピレンオキサイドからなる群から選ばれる1種または2種以上の化合物を組み合わせて用いる場合は、木材寄生線虫に対する殺虫効果がそれぞれの化合物の使用量を単独で用いた場合よりも低減できる効果(相乗効果)を得ることができる。
【0015】
液化炭酸ガスに溶解したヨウ化メチルとフッ化スルフリル、MITC、ホスフィン、酸化エチレン、硫化カルボニルおよびプロピレンオキサイドからなる群から選ばれる1種または2種以上の他の有効化合物の組み合わせに於ける実施の態様は特に限定されない。液化炭酸ガスに溶解したヨウ化メチルと前記他の有効化合物の単剤を実質的に同時に噴霧してもよい。
【0016】
液化炭酸ガスに溶解したヨウ化メチルとフッ化スルフリル、MITC、ホスフィン、酸化エチレン、硫化カルボニルおよびプロピレンオキサイドからなる群から選ばれる1種または2種以上の他の有効化合物の使用比は、使用薬剤の組み合わせおよびくん蒸処理の対象となる木材の種類や状態により異なるが、一般に1:0.1(前者がヨウ化メチル)〜0.5:1である。
【0017】
[くん蒸方法]
本発明のくん蒸方法では、例えば、木材を収納した処理室内において、液化炭酸ガスに溶解したヨウ化メチルを液化炭酸ガスの圧力を利用して投薬するか、または、前記液化炭酸ガスに溶解しているヨウ化メチルと、フッ化スルフリル、MITC、ホスフィン、酸化エチレン、硫化カルボニルおよびプロピレンオキサイドからなる群から選ばれる1種または2種以上の他の有効化合物とを適宜組み合わせて、木材を収納した処理室内に導入することにより投薬する。
【0018】
すなわち、本発明のくん蒸剤の投薬は、例えば、上記のようにして、これを前記処理室内において揮発させまたは噴霧して実施する。
具体的には、液化炭酸ガスに溶解しているヨウ化メチルを液化炭酸ガスの圧力を利用して、または前記液化炭酸ガスに溶解しているヨウ化メチルと前記他の有効化合物とを密封された前記処理室内の木材に噴射し、所定温度で所定時間木材を処理して木材寄生線虫を殺虫する。
液化炭酸ガスに溶解したヨウ化メチルは液化炭酸ガスの持つ圧力で吐出できるために容器から吐出すると微粒子状に噴霧、拡散され、ヨウ化メチルの速やかな揮散を容易にし、検疫くん蒸の目的が達成される。
投薬量は、線虫の種類および態、木材の種類および量、処理室の形状、温度等にもよるが、ヨウ化メチルの場合は、通常処理室1m3 当たり30〜120g、好ましくは50〜110gを用いる。なお、ヨウ化メチルと前記他の有効化合物とを前記使用比で併用する場合は、ヨウ化メチルの使用量は上記通常の使用量よりも少なくてもよい。
【0019】
その他のくん蒸条件は、慣用の方法とほぼ同様でよい。例えば、ヨウ化メチルを用いる場合のくん蒸温度は、5℃以上であるが、低温では薬量が多く必要となるため、好ましくは15℃以上である。くん蒸時間は、薬量およびくん蒸温度によって変えることが可能であるが、通常は24時間である。
くん蒸方法としては、天幕くん蒸、本船くん蒸、はしけくん蒸、倉庫くん蒸などが挙げられる。
【0020】
対象となるくん蒸木材の産地、種類、形状などは特に限定されない。木材の産地および種類は米材(針葉樹)、北洋材(針葉樹)、南洋材(広葉樹)などである。形状としては原木丸太のほか角材や板など製材も含まれる。
殺虫の対象となる木材寄生線虫の例として、特に重要なものは、松材に寄生するマツノザイセンチュウであるが、これは典型的な例を挙げたものであり、適用対象はこれらに限定されるものではない。
本発明のくん蒸方法によると、木材の樹皮下および木材内に寄生している線虫を、簡易な方法で、安価に、そして効率的に駆除することができる。
【実施例】
【0021】
以下に製剤例、実施例を挙げて本発明を説明するが、これらは本発明を説明するための例示であり、本発明はこれらの製剤例、実施例によって何ら制限されるものではない。
製剤例1
高圧ボンベにヨウ化メチル1000gを秤り入れた後、液化炭酸ガスを充填して溶解し、液化炭酸ガス中のヨウ化メチル濃度50質量%の木材寄生線虫用くん蒸剤を調製した。
【0022】
実施例1
マツノザイセンチュウが寄生した赤松材を15cm角材、10cm角材および2cm×10cm板材に製材し、それぞれを1mの長さに切り揃えた。パイプ枠内に各木材を適当に配し、1m3 容積となるよう山積みした。パイプ枠をくん蒸シートで覆い、2.0m3容積の天幕を作製した。製剤例1で調製したヨウ化メチル製剤160g/m3(ヨウ化メチルとして80g/m3)を天幕内に噴射、投薬し、15℃で24時間くん蒸した。くん蒸終了後天幕を開放し、供試木材を1週間放置した。線虫調査はベルマン法で行なった。くん蒸処理前の検査で木片100g当たり10,000頭以上のマツノザイセンチュウが寄生した木材を調査対象とした。15cm角材、10cm角材、板材各3本づつ供試し、1供試木材当たり3ヶ所以上の部位から木片100gを採取し、その中の線虫数を調査した。その結果、くん蒸処理区の木材には生存線虫は認められず、100%殺虫された。
【0023】
実施例2
実施例1と同様のくん蒸効果試験を行なった。温度条件を10℃、製剤例1で調製したヨウ化メチル製剤の投薬量を192g/m3(ヨウ化メチルとして96g/m3)とした以外は実施例1と同条件にした。ただし、ヨウ化メチルを製剤化せず、そのまま注射筒で天幕内に注入、投薬する対照区を設定した。その結果、対照区(ヨウ化メチル投薬量:96g/m3)では98%の殺線虫効果しか得られなかったが、本発明の製剤例1で調製したヨウ化メチルを投薬した区では100%の殺線虫効果が認められた。検疫消毒の場合は100%殺虫が必須であり、本発明の有効性が明確となった。
実施例3
【0024】
実施例1と同様のくん蒸効果試験を行なった。製剤例1で調製したヨウ化メチル製剤の投薬量を50g/m3(ヨウ化メチルとして25g/m3)とし、さらにフッ化スルフリルを25g/m3で同時投薬した以外は実施例1と同条件とした。なお、フッ化スルフリルを単独で投薬した対照区を設定した。その結果、対照区(フッ化スルフリル投薬量:50g/m3)では89%の殺線虫効果であったが、本発明の製剤例1で調製したヨウ化メチルとフッ化スルフリルを同時投薬した区では100%の殺線虫効果が認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヨウ化メチルを液化炭酸ガスに溶解してなることを特徴とする木材寄生線虫用くん蒸剤。
【請求項2】
液化炭酸ガス中のヨウ化メチルの濃度が、20〜90質量%である請求項1に記載の木材寄生線虫用くん蒸剤。
【請求項3】
液化炭酸ガスに溶解しているヨウ化メチルと、フッ化スルフリル、メチルイソチオシアナート、ホスフィン、酸化エチレン、硫化カルボニルおよびプロピレンオキサイドからなる群から選ばれる1種または2種以上の化合物とを併用して木材寄生線虫を殺虫することを特徴とする木材くん蒸方法。

【公開番号】特開2006−76951(P2006−76951A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−264089(P2004−264089)
【出願日】平成16年9月10日(2004.9.10)
【出願人】(591057511)ヤシマ産業株式会社 (12)
【出願人】(591107034)液化炭酸株式会社 (17)
【出願人】(591070923)社団法人日本くん蒸技術協会 (1)
【出願人】(501353373)アリスタ ライフサイエンス株式会社 (2)
【Fターム(参考)】