説明

木材成分のアセチル化方法

表IIに記載されたウェット・ドライ/凍結・融解サイクルを25回行った後の、厚み膨張の平均値が5%以下である、アセチル化木材成分を含む複合木材製品である。代替的な特徴は弾性係数、破断係数、及び、曲げ強度が含まれる。また、木材成分の2段階アセチル化方法が記載される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無地の又は装飾の施された板材(sheets)及び/又は繰形(mouldings)に関し、特に、木材のストランド、パーティクル、繊維及び/又はセルロール繊維からなるシングル又はマルチラップ・コア層をプレスしたものであって、かかる木材成分(wood elements)がアセチル化、合成樹脂バインダーによる含浸、熱硬化及びプレスされてなる屋内又は屋外用の板材及び/又は繰形に関する。
【背景技術】
【0002】
以下、便宜上、上述のような板材及び繰形を「複合材(composite)」という。これらには、スプルースやパイン等の軟材から主に作製される、中密度繊維板、配向性ストランドボード、パーティクルボード等のエンジニアード・ウッド製品が含まれる。
【0003】
このような複合材を含む物品は、建物の外壁クラッディング;外部羽目板用途;網、筋かい、壁、屋根、床における構造物用途;バルコニーのクラッディング;胸壁パネルや腰壁パネルのクラッディング;壁や家具の内部ライニング;ウェットルームや実験装置の内部ライニングに使用することができる。
【0004】
複合材の表面は、無地であっても、コーティング又はラミネートベニアからなる化粧層で仕上げられてもよい。
【0005】
従来、合成樹脂又はセメントを母材とした、木材チップや木材繊維からなる板材が開示されている。このような板材は、一般的に密度が均一であり、また湿気のある屋外や屋内の用途には通常適していない。また、いずれもメンテナンス・フリーではなく、端部や表面からの水分の吸収が激しいため、通常、全側面を後処理する必要がある。水の吸収は激しい膨張を引き起こし、板材の寸法が大きくなったり、材料の機械的強度が実質的に失われることがある。
【0006】
また、これら材料は耐候性の点でも不十分である。耐候性試験2〜3週間後、激しい水分吸収とそれに伴う周囲部の膨張とコアの分裂が起こり、表面にクラックが発生しうることが観察されている。また、アセチル化木材成分から作製された板材と比較して、既存の板材は生物攻撃に対する耐性を尺度とした耐久性が悪い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
よって本発明は、前記問題が無く、変化する気候条件の影響下において膨張挙動が好都合に低減された木材系複合材を提供することを目的とする。
【0008】
本発明の他の目的は、長寿命且つ丈夫な、すなわち、天候又は生物攻撃の影響下で腐朽、腐敗又は分解しない木材系複合材を提供することである。
【0009】
本発明の更に他の目的は、常温の水中に長時間浸漬させて水と平衡状態にした後の機械的強度の低下が、既存の複合材と比較して実質的に小さい木材系複合材を提供することである。本明細書において「長時間」とは数週間又は数ヶ月を意味する。
【0010】
本発明の他の目的は、湿潤つまりプライミング処理を行った後に、繊維が取れやすくなったり表面から立ち上がることが実質的に無い、表面が滑らかな木材系複合材を提供することにある。これにより、コーティングや塗料を効率的に、よって安価に塗工することができる。さらに、寸法安定性も改善されるためコーティングの耐用年数が実質的に延び、メンテナンス・コストが低くなる。繊維つまり木材成分が複合材の表面から1〜2mm立ち上がり、表面に「有毛感」を付与することがある。
【0011】
本発明の更なる目的は、本発明の木材系複合材の製造の基本原料となるアセチル化木材成分の製造方法を提供することにある。
【0012】
本発明に係るアセチル化に適する木材成分は、典型的には下記表Iに示すものである。
【0013】
【表1】

【0014】
好適にアセチル化された木材成分は、大面積の木材成分(ウェハー状など)をアセチル化して次いで所望の最終寸法に小型化して得ても、まず未処理木材を直接所望の最終寸法に小型化した後にアセチル化して得てもよい。
【課題を解決するための手段】
【0015】
したがって、本発明は、表IIに記載されたウェット・ドライ/凍結・融解試験サイクルを25回行った後の、厚み膨張の平均値が5%以下であることを特徴とする、アセチル化木材成分を含む複合木材製品である。
【0016】
また、前記アセチル化木材成分を含む複合材は、表IIに記載されたウェット・ドライ/凍結・融解試験サイクルを25回行った後、弾性係数が平均値で少なくとも90%保持されていることを特徴としうる。
【0017】
あるいは、前記アセチル化木材成分を含む複合材は、表IIに記載されたウェット・ドライ/凍結・融解試験サイクルを25回行った後、曲げ強度が平均値で少なくとも90%保持されていることを特徴としうる。
【0018】
さらに、前記アセチル化木材成分を含む複合材は、常温で48時間水中に浸漬した後、破断係数が少なくとも70%保持されていることを特徴としうる。
【0019】
前記アセチル化木材成分を含む複合材はまた、上記製品物性の2つ以上を有することを特徴としうる。
【0020】
また本発明は、(a)30〜190℃、常圧〜15bargの条件で、木材成分を無水酢酸で最大80分間処理するステージと、(b)次いで、1〜5bargの条件で、前記木材成分を、無水酢酸と又は無水酢酸及び酢酸の混合物と混合されうる不活性ガスで、5〜300分間、150〜190℃に加熱するステージとを含む、木材成分の2段階アセチル化方法である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
ステージ(a)及びステージ(b)は好適な高圧容器内で容易に行うことができる。
【0022】
木材成分は、アセチル化前に従来公知の方法で含水量2〜10%(重量)まで乾燥させることが好ましい。
【0023】
ステージ(a)に先だって、木材成分に真空を印加して内在ガスを除去することが望ましい。
【0024】
アセチル化後、木材成分の常圧乾燥、真空乾燥、又は両方が都合良く行われうる。
【0025】
ステージ(a)は、無水酢酸で60〜130℃、8〜12barg、5〜20分間が好ましく;一方、ステージ(b)は、不活性ガス(窒素など)を用いて、130〜145℃、2〜4時間が好ましい。本ステージにおいて、容器内の圧力は1〜3bargに上昇しうり、不活性ガスは無水酢酸及び酢酸で完全に飽和される。
【0026】
本発明の製造方法の一例において、スプルース由来の木材チップ(寸法:約40mm×40mm×10mm;含水量4〜10%(重量))をワイヤー・メッシュ壁のカゴ(流体の透過させるため)に入れ、高圧容器内に入れた。そして、−0.95bargの真空を5分間チップに印加した。その後、130℃でプレ加熱したアセチル化用流体(無水酢酸95%及び酢酸5%の混合液からなる)を容器内に導入し、10分間10bargに加圧した。反応器から流体を流出させ、145℃に加熱した循環窒素ガスにチップを60分間暴露した。本製造方法の当該箇所において、容器内の圧力は1〜2bargに上昇しうる。圧力を開放した後、アセチル化したチップを−0.92bargで真空乾燥し、合計5〜10時間、典型的には6〜7時間冷却した(つまり、乾燥・冷却工程)。アセチル化度はアセチル基含有量で20%程度であった(高速液体クロマトグラフィー/近赤外分光法を用いて測定)。
【0027】
次いで、アセチル化したチップを従来公知の解繊機を通過させて繊維化し、接着剤pMDIと混合し(下記詳細を参照)、高温・高圧を印加して複合材パネル(ボード)とした。かかるボードのサンプルと未アセチル化スプルース木材繊維から作製したボードのサンプルとについて、表IIに記載されたウェット・ドライ/凍結・融解試験手順(DIN EN 12467/12)を行った。
【0028】
【表2】

【0029】
ウェット・ドライ/凍結・融解試験サイクルを25サイクル行った後のアセチル化繊維ボードの厚み膨張の平均値は、未アセチル化木材繊維を含むボードが27%であるのに対して3%であり、アセチル化木材チップから作製したボードの値が優れていることが容易にわかる。
【0030】
本発明に係るアセチル化木材成分を含む複合材(パネル)の更に優れた性能を下記表III〜Xに詳細に示す。
【0031】
2種類の接着剤を使用してパネルを作製した。これらは、フェノールホルムアルデヒド接着剤(PF、「ベークライト(R)PF 1279 HW」 Hexion GmbH)、ジ−フェニルメタンジイソシアナート・ポリマー(pMDI、「Desmodur(R) 1520 A20」 Bayer AG)であり、後者が好ましい接着剤である。
【0032】
厚み膨張
常温で水中に24時間浸漬させた下記パネルについて測定を行った。
【0033】
【表3】

【0034】
アセチル化木材成分を含むパネルのサンプルの厚み膨張は1.2〜2.2%と最も小さいことに留意されたい。
【0035】
本発明の製造方法に従って、木材の繊維、チップ又はストランドから複合材サンプルA〜Fを更に作製し、下記表IVに詳述するとおり中密度繊維板及び配向性ストランドボードとした。
【0036】
【表4】

【0037】
表IIに記載されたウェット・ドライ/凍結・融解試験サイクルを25サイクル行った後の平均厚み膨張の変化に対する影響を表IVに示す。この結果はまた、アセチル化材料が厚み膨張に対して有利な効果をもたらすことを示している。
【0038】
【表5】

【0039】
破断係数及び弾性係数
常温で水中に48時間浸漬させた、スプルース繊維から作製したMDFパネルについて測定を行った。
【0040】
【表6】

【0041】
pMDI接着剤を使用した場合、アセチル化木材成分から作製したMDFパネルのMOR及びMOEに対する影響が最も小さいことに留意されたい。
【0042】
弾性率及び曲げ強度
表IIに記載されたウェット・ドライ/凍結・融解試験を25サイクル行った後の、弾性係数及び平均曲げ強度の平均値変化に対する影響を表VII及び表VIIIにそれぞれ示す。
【0043】
【表7】

【0044】
i)未アセチル化のサンプルDと比較して、アセチル化MDFのサンプルC,B,Aの係数損失は最も小さく、ii)同様に、未アセチル化のサンプルFと比較して、アセチル化OSBのサンプルEの係数損失は最も小さいことに留意されたい。
【0045】
【表8】

【0046】
i)未アセチル化のサンプルDと比較して、アセチル化MDFのサンプルC,B,Aの強度損失は最も小さく;ii)未アセチル化のサンプルFの強度が低下したのに対して、アセチル化OSBのサンプルでは強度が向上したことに留意されたい。
【0047】
表面接着性
本発明の他の利点は、簡単な試験によって示されうるように、アセチル化木材成分を含む複合材の表面接着性に対する有利な影響である。所定の長さのアルミニウム接着剤テープをサンプルAの表面に付着した後、ウェット−ドライ/ストレスサイクルを25サイクル行っても、テープを剥がしたときに実質的に全く繊維がテープに付着していない。サンプルBの場合、2〜3本の繊維がテープに付着したが、テープをサンプルDから剥がした場合、接着面のほぼ100%が未アセチル化木材繊維で覆われている。
【0048】
また、アセチル化したサンプルの表面は、未アセチルの化サンプルとは異なり、濡らした後でも滑らかなままであることがわかった。
【0049】
生物分解
下記表IX及び表Xに示す結果は、複合材(パネル)製品の製造にアセチル化木材成分を使うことにより、微生物からの攻撃から守る点で更に有益な効果が得られることを示している。所定の菌類及び/又はバクテリアに暴露された木材は、多くの場合重量及び/又は強度の大幅な損失を伴って急激に劣化しうり、複合材製品の利用の重大な妨げとなることがよく知られている。本実験では、未アセチル化ボード及びアセチル化ボードのサンプルを制御温度及び制御湿度条件下で土壌内に部分的に埋める、従来公知の試験方法を使用した。そして、サンプルの劣化の兆候を最大72ヶ月間に亘って調査した。
【0050】
【表9】

【0051】
【表10】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
表IIに記載されたウェット・ドライ/凍結・融解サイクルを25回行った後の、厚み膨張の平均値が5%以下である、アセチル化木材成分を含む複合木材製品。
【請求項2】
表IIに記載されたウェット・ドライ/凍結・融解サイクルを25回行った後、弾性係数が平均値で少なくとも90%保持されている、アセチル化木材成分を含む複合木材製品。
【請求項3】
表IIに記載されたウェット・ドライ/凍結・融解サイクルを25回行った後、曲げ強度が平均値で少なくとも90%保持されている、アセチル化木材成分を含む複合木材製品。
【請求項4】
常温で48時間水中に浸漬した後、破断係数が少なくとも70%保持されている、アセチル化木材成分を含む複合木材製品。
【請求項5】
請求項1〜4に記載された製品物性の2つ以上を有する、アセチル化木材成分を含む複合木材製品。
【請求項6】
ジ−フェニルメタンジイソシアナート・ポリマー接着剤を含んでなる、請求項1〜5のいずれか一項に記載のアセチル化木材成分を含む複合木材製品。
【請求項7】
アセチル化木材成分を含む複合木材製品の製造のためのジ−フェニルメタンジイソシアナート・ポリマー接着剤の使用。
【請求項8】
(a)30〜190℃、常圧〜15bargの条件で、木材成分を無水酢酸で最大80分間処理するステージと、
(b)次いで、1〜5bargの条件で、前記木材成分を、無水酢酸と又は無水酢酸及び酢酸の混合物と混合されうる不活性ガスで、5〜300分間、150〜190℃に加熱するステージとを含む、木材成分の2段階アセチル化方法。
【請求項9】
前記木材成分はスプルース又はパインを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記木材成分は、アセチル化前に含水量2〜10%(重量)まで乾燥される、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
前記ステージ(a)の前に、前記木材成分に真空を印加して内在ガスを除去する、請求項8〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記ステージ(a)において、温度は60〜130℃、圧力は8〜12barg、時間は5〜20分間である、請求項8〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記ステージ(b)において、温度は130〜145℃、圧力は1〜3barg、時間は2〜4時間である、請求項8〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記ステージ(b)の圧力は1〜2bargである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記不活性ガスは窒素である、請求項8〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記窒素は無水酢酸及び酢酸で完全に飽和される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
実施例を参照して明細書で説明した、アセチル化木材成分を含む複合木材製品。
【請求項18】
実施例を参照して明細書で説明した、木材成分の2段階アセチル化方法。



【公表番号】特表2013−518743(P2013−518743A)
【公表日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−551691(P2012−551691)
【出願日】平成23年2月4日(2011.2.4)
【国際出願番号】PCT/GB2011/050202
【国際公開番号】WO2011/095824
【国際公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【出願人】(512203861)チタン ウッド リミテッド (1)
【Fターム(参考)】