説明

木材防黴組成物

【課題】製材に黴が発生することを防止するために用いられる木材防黴組成物、特にケカビ、クモノスカビなどの接合菌類による木材汚染を長期間効果的に防止する木材防黴組成物を提供する。
【解決手段】ナトリウムピリチオン、亜鉛ピリチオン、銅ピリチオンから選ばれる少なくとも1種の金属ピリチオン系化合物とオキシ塩化銅、ヒドロオキシ炭酸銅、炭酸銅、硫酸銅、オキシ硫酸銅、酢酸銅、酸化銅、ナフテン酸銅、水酸化第二銅、テレフタル酸銅、ドデシルベンゼンスルホン酸ビスエチレンジアミン銅、ノニルフェノールスルホン酸銅、ヒドロキシノニルベンゼンスルホン酸銅、ポリスチレンスルホン酸銅、オキシン銅から選ばれる少なくとも1種の銅化合物とを含有することを特徴とする木材防黴組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は製材に黴が発生することを防止するために用いられる木材防黴組成物に関するものである。特にケカビ、クモノスカビなどの接合菌類による木材汚染を長期間効果的に防止する木材防黴組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
製材は長期間屋外に静置される場合が多く、静置中に様々な微生物や昆虫の生育場所となるため、生物劣化の被害を受けやすい。例えば、担子菌類による木材腐朽やコウジカビ、クロカビ、アオカビ等の不完全菌類による着色や表面汚染は、木材そのものの強度劣化や美観を損ねたりするのみならず、黴の胞子飛散によってアレルギーを引き起こす原因にもなっている。近年、特に接合菌類のケカビ、クモノスカビによる表面汚染の被害も多く見られるようになった。
【0003】
従来、このような微生物被害を防ぐ手段として、用途に応じて各種防黴剤を組み合わせ
て抗菌スペクトルを広げたり、防黴効果の改良が試みられている。
【0004】
例えば、ベンゾイミダゾール系化合物とイソチアゾリン系化合物およびヨード系化合物の組み合せや(特許文献1)、ベンゾイミダゾール系化合物とイソチアゾリン系化合物の合剤が開示されている(特許文献2)。またアゾール化合物、イソチアゾリン系化合物、ピリジン系化合物、ヨード系化合物、チオシアネート系化合物および4級アンモニウム塩からなる木材防黴剤も提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61−97204号
【特許文献2】特開平03−251508号
【特許文献3】特開平19−254321号
【0006】
しかしこれらの木材防黴剤は化合物の種類が少なく、また使用される化合物がある程度限定されること、また抗菌スペクトルが狭く黴発生を十分に抑制できないという問題点があった。従ってより優れた効果を有する木材防黴剤が要求されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来の木材防黴剤の組み合わせでは十分な効果が得られなかった広範囲の黴類、特に接合菌類のケカビ、クモノスカビに有効な木材防黴組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的は、ナトリウムピリチオン、亜鉛ピリチオン、銅ピリチオンから選ばれる少なくとも1種の金属ピリチオン系化合物と少なくとも1種の銅化合物とを含有することを特徴とする木材防黴組成物によって解決することができる。
銅化合物は、好ましくは、オキシ塩化銅、ヒドロキシ炭酸銅、炭酸銅、硫酸銅、オキシ硫酸銅、酢酸銅、酸化銅、ナフテン酸銅、水酸化第二銅、テレフタル酸銅、ドデシルベンゼンスルホン酸ビスエチレンジアミン銅、ノニルフェノールスルホン酸銅、ヒドロキシノニルベンゼンスルホン酸銅、ポリスチレンスルホン酸銅、オキシン銅から選ばれ、より好ましくは、オキシ塩化銅、ヒドロキシ炭酸銅、炭酸銅、オキシ硫酸銅、硫酸銅、酢酸銅、酸化銅、ナフテン酸銅、オキシン銅から選ばれ、最も好ましくはオキシン銅である。
これらの銅化合物は市販されている。
【0009】
本発明の木材防黴組成物は、2種以上の有効成分を用いる場合には、2種以上の有効成分を含有した木材防黴組成物を添加しても良いし、有効成分を別々に添加しても良い。更に公知の木材防黴剤のアゾール化合物、イミダゾール化合物、ヨード系化合物、イソチアゾリン系化合物、ニトリル系化合物、4級アンモニウム塩などを必要に応じて混合しても良い。
【0010】
本発明の有効成分である金属ピリチオン系化合物はいずれも、アーチ・ケミカルズ社から容易に入手することが出来る。
金属ピリチオン系化合物が亜鉛ピリチオンであることが好ましい。
【0011】
金属ピリチオン系化合物と銅化合物の配合割合は重量基準で、好ましくは1:50〜50:1の範囲であり、より好ましくは2:1〜20:1の範囲である。
【0012】
更に必要に応じて公知の防黴剤、例えばテブコナゾール、ヘキサコナゾール、プロピコナゾール、シプロコナゾール、エポキシコナゾール、イプコナゾール、シメコナゾール、メトコナゾール等のアゾール系化合物、2−(4−チアゾリル)ベンズイミダゾール、2−ベンズイミダゾリルカルバミン酸メチル、2−メトキシカルボニルアミノベンズイミダゾール等のイミダゾール系化合物、3−ヨード−2−プロピニルブチルカーバメート、4−クロロフェニル−3−ヨードプロパルギルホルマール等のヨード系化合物、2−(4−チオシアノメチルチオ)ベンゾチアゾール、メチレンビスチオシアネート等のチオシアネート化合物、塩化ベンザルコニウム、塩化セチルピリジウム等の4級アンモニウム塩、テトラクロルイソフタロニトリル等のニトリル系化合物、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、n−ブチル−1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン等のイソチアゾリン系化合物も混合できる。
【0013】
また金属ピリチオン系化合物は、例えば水溶液中に鉄イオンが存在している場合は、変
色をおこしやすいので変色防止剤として、公知のキレート化合物や有機酸の亜鉛塩、無
機物の亜鉛塩、水酸化亜鉛、酸化亜鉛等の亜鉛化合物も混合できる。
【0014】
本発明の木材への処理方法は、塗布処理、浸漬処理、加圧処理などが挙げられる。その処理方法または添加対象物に適したように製剤化することが好ましい。
製剤化にあたっては特に限定されるものではなく、組み合わせる化合物の特徴に応じて、また使用目的に応じて適宜選択が可能であるが、一般的には油剤、乳剤、懸濁剤などの製剤として使用される。製剤化する際に用いられる溶媒、界面活性剤などは特に限定はない。
【0015】
本発明の組成を有する木材防黴組成物は必要に応じて、例えば水および/または有機溶媒が使用できる。好ましい有機溶媒としてはエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール等のグリコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル等のセロソルブ類、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のカルビトール類が挙げられる。
【0016】
更にこの他に界面活性剤(例えばポリオキシアルキレンエーテル、ポリオキシアリルエーテル、ポリオキシアルキレンアミノエーテル、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等のノニオン系界面活性剤や脂肪酸ナトリウム、硫酸アルキル塩、硫酸ポリオキシエチレン塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、アルキルリン酸塩等のアニオン系界面活性剤、アルキルジメチルアミンオキシド、アルキルカルボキシベタイン、アルキルスルホベタイン、アミドアミノ酸塩等の両性界面活性剤)やコハク酸やクエン酸、酒石酸等の有機酸やその塩、公知のキレート剤、消泡剤等の添加剤を使用することができる。
【0017】
本発明の木材防黴組成物は、製剤化したものをそのまま使用することもできるし、水や有機溶剤に希釈して使用することもできる。
【発明の効果】
【0018】
本発明組成物は木材に発生する黴、特にケカビ、クモノスカビなどの接合菌類に対して優れた防カビ効果を示し、木材防黴剤として製材、合板等に利用できる。
【実施例】
【0019】
以下、製剤例、実施例、比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって制限されるものではない。実施例、比較例中の「%」は「重量%」を表す。
【0020】
以下実施例は、本発明の木材防黴組成物の防黴効果を示すものである。以下比較例は、その他の木材防黴組成物の組み合わせによる防黴効果を示すものである。
【0021】
表1に示す配合割合でI液、II液、III液を調製した。I液を調製する際は各成分を直径0.8mmのガラスビーズを使用してダイノーミルで10分間粉砕し、得られた粉砕物を200メッシュの金網でろ過した。II液およびIII液の場合は透明になるまで高速ホモジナイザーで撹拌した。尚、表1中の化合物の記号の意味は下記の通りである。
A:2−ベンズイミダゾールカルバミン酸メチル
B:2,4,5,6−テトラクロロイソフタロニトリル
C:オキシン銅
D:アニオン系界面活性剤(アルキルベンゼンスルホン酸塩)
E:エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル
F:硫酸銅
【0022】
【表1】

【0023】
表2に示す配合割合で木材防黴組成物を調製し、試験例1によりその防黴効果を調べた。
【0024】
【表2】

【0025】
(試験例1)
ラジエタパイン製材を約5cm角にカットし84℃、7時間乾燥させた。
乾燥した木材片を実施例で示された各木材防黴組成物に1分間浸漬した。浸漬後、1週間室温で放置したものを評価用試験片として使用した。
防カビ効果の確認は、下記の方法に従った。
【0026】
(評価基準)
バーミキュライトを敷きつめたプラスチック容器に評価用試験片を並べ各試験片にケカビを接種し、その後蓋をして28℃のインキュベーターに保管した。1週間ごとにケカビ 接種し5週間後の状態を目視観察した。
評価基準は、試験片表面全体にケカビの生育が観察された場合は、防黴効果不良(×)、ケカビの生育が観察されなかった場合は防黴効果良好(○)とした。また試験片の一部にケカビの生育が観察されたものを防黴効果不十分(△)として判定した。
【0027】
(比較例1〜4)
表3に示したように比較例1〜5の木材防黴組成物を試験例1によりその防黴効果を調べた。結果を表4に示した。
【0028】
【表3】

【0029】
【表4】

【0030】
表4よりナトリウムピリチオン、亜鉛ピリチオン、銅ピリチオンから選ばれる少なくとも1種の金属ピリチオン系化合物とオキシン銅のような銅化合物を少なくとも1種含有する実施例1〜5の組成物は、比較例1〜5の組成物に比べて、優れた防黴効果を有することが分かる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナトリウムピリチオン、亜鉛ピリチオン、銅ピリチオンから選ばれる少なくとも1種の金属ピリチオン系化合物と少なくとも1種の銅化合物とを含有することを特徴とする木材防黴組成物。
【請求項2】
銅化合物が、オキシ塩化銅、ヒドロキシ炭酸銅、炭酸銅、硫酸銅、オキシ硫酸銅、酢酸銅、酸化銅、ナフテン酸銅、水酸化第二銅、テレフタル酸銅、ドデシルベンゼンスルホン酸ビスエチレンジアミン銅、ノニルフェノールスルホン酸銅、ヒドロキシノニルベンゼンスルホン酸銅、ポリスチレンスルホン酸銅、オキシン銅から選ばれることを特徴とする請求項1に記載の木材防黴組成物。
【請求項3】
銅化合物が、オキシ塩化銅、ヒドロキシ炭酸銅、炭酸銅、オキシ硫酸銅、硫酸銅、酢酸銅、酸化銅、ナフテン酸銅、オキシン銅から選ばれることを特徴とする請求項1に記載の木材防黴組成物。
【請求項4】
銅化合物がオキシン銅であることを特徴とする請求項1に記載の木材防黴組成物。
【請求項5】
金属ピリチオン系化合物が亜鉛ピリチオンであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の木材防黴組成物。
【請求項6】
金属ピリチオン系化合物と銅化合物の配合割合が重量基準で1:50〜50:1の範囲であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の木材防黴組成物。
【請求項7】
金属ピリチオン系化合物と銅化合物の配合割合が重量基準で2:1〜20:1の範囲であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の木材防黴組成物。


【公開番号】特開2011−98517(P2011−98517A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−254956(P2009−254956)
【出願日】平成21年11月6日(2009.11.6)
【出願人】(502239380)アーチ・ケミカルズ・ジャパン株式会社 (11)
【Fターム(参考)】