説明

木炭微粉末入り楮紙及び該楮紙の製造方法

【課題】木炭微粉末入りの楮紙を研磨紙として用いて、包丁の刀身を磨くために、木炭微粉末を十分に含む木炭微粉末入り楮紙及び当該楮紙の製造方法を提供する。
【解決手段】木炭微粉末入り楮紙は、楮の繊維10と繊維10に付着した木炭の微粉末とを備える木炭微粉末入りの楮紙である。木炭の微粉末12は、アルカリ性水溶液中で楮の皮とともに煮ることによって楮の繊維10に付着させられたことを特徴とする木炭微粉末入り楮紙。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木炭微粉末入り楮紙及び該楮紙の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属製の刃物には錆が発生し易く、ステンレス製の包丁にあっても、刀身の一部が変色したりすることがある。このような錆や変色部を除去する方法として、例えば研磨剤入りの洗剤で刀身を磨くことがあげられる。
しかしながら、研磨剤入りの洗剤で刀身を磨く作業は煩雑である。
また、錆や変色部を除去する方法として、研磨紙で刀身を磨くことがあげられる。研磨紙は、例えば、紙からなる基材の表面に、酸化アルミニウム等からなる砥粒が接着剤で固定されたものである。
【0003】
しかしながら、一般家庭等では、包丁の刀身を磨くために研磨紙を用いることは稀である。これは、食材を切るのに用いられる包丁を磨くにあたって、材質の安全性を考慮してみたときに、適当な研磨紙が無いことによるものと考えられる。
一方、研磨紙ではないものの、包装用の和紙として、竹炭微粉末入りの楮和紙が知られている(特許文献1参照)。この和紙は、繊維の間に漉き込まれた竹炭微粉末により、消臭作用や吸着性能を有するといわれている。
【特許文献1】特開2005−307385号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、材質の安全性を考慮し、木炭微粉末入りの楮紙を研磨紙として用いて、包丁の刀身を磨くことに想到した。
しかしながら、特許文献1に記載されているように、漉き船の中に、楮繊維紙料、ネリ及び水からなる水溶液中に木炭微粉末を混入しても、木炭微粉末は浮いてしまい、流し漉きしているときに流出してしまう。このため得られる楮紙は、木炭微粉末を殆ど含まず、刀身の研磨には不適当であった。
【0005】
本発明は上述の事情に基づいてなされたものであって、その目的とするところは、木炭微粉末を十分に含む木炭微粉末入り楮紙及び当該楮紙の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した目的を達成すべく、楮の繊維と前記繊維に付着した木炭の微粉末とを備える木炭微粉末入りの楮紙であって、前記木炭の微粉末は、アルカリ性水溶液中で楮の皮とともに煮ることによって前記繊維に付着させられたことを特徴とする木炭微粉末入り楮紙が提供される(請求項1)。
好ましくは、金属製の刃物を磨くのに使用されることを特徴とする請求項1に記載の木炭微粉末入り楮紙(請求項2)。
【0007】
また、本発明によれば、アルカリ性水溶液中で楮の皮と木炭の微粉末とを煮る煮沸工程を備えることを特徴とする木炭微粉末入り楮紙の製造方法が提供される(請求項3)。
【発明の効果】
【0008】
本発明の請求項1の木炭微粉末入りの楮紙にあっては、木炭の微粉末がアルカリ性水溶液中で楮の皮とともに煮ることによって繊維に付着させられているため、楮紙の質感を保ちながら、十分な量の木炭の微粉末を含む。
また、この木炭微粉末入りの楮紙は、微粉末を付着させるために合成糊を使用していないので安全である。
【0009】
このため、この木炭微粉末入りの楮紙は、金属製の包丁の刀身を研磨するのに好適である(請求項2)。
請求項3の木炭微粉末入りの楮紙の製造方法によれば、アルカリ性水溶液中で楮の皮と木炭の微粉末とを煮ることによって、楮の繊維に木炭の微粉末が付着するため、十分な量の木炭の微粉末を含む木炭微粉末入りの楮紙が製造される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態に係る木炭微粉末入り楮紙について説明する。
木炭微粉末入り楮紙は、図1に示したように、楮の繊維10と、楮の繊維10に付着した木炭の微粉末12とからなる。この木炭微粉末入りの楮紙は、木炭の微粉末12が均一に分散した状態で楮の繊維10に付着しているため、楮紙の質感を保ちながら、黒色を呈する。
そして、この木炭微粉末入りの楮紙は、木炭の微粉末12を含むため、抗菌性、研磨性、脱臭性、脱脂性、脱色性を有し、金属製の包丁の刀身に発生した錆や変色を除去するのに好適する。
【0011】
なお、木炭微粉末12は、備長炭の微粉末であるのが好ましく、500メッシュ〜800メッシュの粒径を有するのが好ましい。また、この木炭微粉末入りの楮紙は、100gの楮の繊維10に対し、400g以上800g以下の木炭微粉末12を含むのが好ましい。
この木炭微粉末入り楮紙は、以下のようにして製造される。
【0012】
図2に示したように、まず、原料としての楮の皮(白皮)と、木炭の微粉末とを、アルカリ性水溶液中で混合しながら煮沸する(煮沸工程S10)。楮の皮は、楮の靭皮から黒皮及び甘皮層を除去したものである。
煮沸工程S10において、アルカリ性水溶液の温度は例えば60℃以上120℃以下の範囲に設定され、楮の皮及び木炭の微粉末は、例えば2時間以上5時間以下の間、撹拌されながら煮沸される。
【0013】
アルカリ性水溶液としては、例えば、炭酸カリウム、酸化カルシウム(石灰)、炭酸ナトリウム(ソーダ灰)又は水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)を溶質として含む水溶液を用いることができ、好ましい溶質として炭酸ナトリウムを用いることができる。
煮沸に用いられるアルカリ性水溶液の質量は、例えば、楮の皮の質量の8倍以上10倍以下であり、煮沸に用いられる溶質の質量は、例えば、煮沸される楮の皮の質量の12%以上15%以下である。
【0014】
この煮沸工程S10の後、アルカリ性水溶液から楮の皮を取り出し、必要に応じて、洗浄された楮の皮に含まれる不所望の塵を除去する。この後、楮の皮を叩いてほぐし、楮の繊維を得る(叩き工程S12)。
そして、得られた楮の繊維及び粘剤(ねり)を水に添加して混合し、得られた水溶液から流し漉き又は溜め漉きによって、楮の繊維からなる層状物を得る(漉き工程S14)。
【0015】
この層状物を脱水機にかけてから乾燥させることにより(乾燥工程S16)、木炭微粉末入り楮紙が製造される。
上述した製造方法によれば、煮沸工程S10において、木炭の微粉末12が、均一に分散した状態で楮の繊維10に付着する。これは、煮沸工程S10において、アルカリ性水溶液中で糊状の物質が生成され、この糊状の物質を介して、木炭の微粉末12が楮の繊維10に付着するからである。
【0016】
そして、漉き工程S14では、楮の繊維10に対して既に木炭の微粉末12が付着しているため、木炭の微粉末12が浮くことはなく、十分な量の木炭の微粉末12を均一に分散した状態で楮紙に含ませることができる。
また、煮沸工程S10において木炭微粉末12を繊維10に付着させるため、新たな工程の追加を必要とせずに、木炭微粉末入り楮紙を製造することができる。
【0017】
本発明は上記した一実施形態に限定されることはなく、種々の変形が可能である。例えば、粘剤は合成糊であってもよいが、材質の安全性を考慮して、トロロアオイやノリウツギから抽出された天然の粘剤であるのが好ましい。
また、木炭微粉末入り楮紙の用途は、刃物の刀身の研磨に限定されることはなく、例えば障子紙等にも使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係る木炭微粉末粉入り楮紙を示す斜視図であり、円内は当該楮紙の一部を拡大して示す概略図である。
【図2】図1の木炭微粉末入り楮紙の製造方法を説明するための工程図である。
【符号の説明】
【0019】
10 楮の繊維
12 木炭微粉末

【特許請求の範囲】
【請求項1】
楮の繊維と前記繊維に付着した木炭の微粉末とを備える木炭微粉末入りの楮紙であって、
前記木炭の微粉末は、アルカリ性水溶液中で楮の皮とともに煮ることによって前記繊維に付着させられた
ことを特徴とする木炭微粉末入り楮紙。
【請求項2】
金属製の刃物を磨くのに使用されることを特徴とする請求項1に記載の木炭微粉末入り楮紙。
【請求項3】
アルカリ性水溶液中で楮の皮と木炭の微粉末とを煮る煮沸工程を備えることを特徴とする木炭微粉末入り楮紙の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−221615(P2009−221615A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−64146(P2008−64146)
【出願日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(000160201)吉田金属工業株式会社 (9)
【Fターム(参考)】