説明

木管楽器リード用樹脂組成物

【課題】 安定した品質の木管楽器用リードを提供する。
【解決手段】 熱可塑性樹脂100質量部に対して、セルロース繊維5〜200質量部を含有する木管楽器リード用樹脂組成物を用い、公知の射出成形法を適用して木管楽器用リードを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木管楽器リード用樹脂組成物と、前記樹脂組成物を成形してなる木管楽器用リードに関する。
【背景技術】
【0002】
クラリネット、サクソフォーン等の木管楽器用のリードは、竹製のものが使用されてきた。しかし、竹製のものは品質を均一にすることが困難である点で問題があった。
【0003】
特許文献1には、過熱水蒸気を含む煙雰囲気下で燻煙処理された竹製品を木管楽器用リードにする発明が開示されている。特許文献2には、無水酢酸を用いてアセチル化した木材を用いたリード楽器用リードの発明が開示されている。特許文献3には、少なくとも振動部分をシリコーン系樹脂で表面処理した木管楽器用リードにする発明が開示されている。特許文献4には、液晶ポリマーで形成された木管楽器用リードの発明が開示されている。
【特許文献1】特開2002−18815号公報
【特許文献2】特許第2974652号公報
【特許文献3】特開平8−202349号公報
【特許文献4】特開2001−75556号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1、2の発明は、品質の安定化の点で充分ではなく、特許文献3、4の発明は、工程が煩雑であり、製造コストも高いという点で問題がある。
【0005】
本発明は、安定した品質のリードを供給することができる木管楽器リード用樹脂組成物と、前記樹脂組成物から得られた木管楽器用リードを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明は、課題の解決手段として、熱可塑性樹脂100質量部に対して、セルロース繊維5〜150質量部を含有する木管楽器リード用樹脂組成物及びそれから得られる木管楽器用リードを提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の木管楽器リード用樹脂組成物を使用して、公知の樹脂成形法を適用することで、安定した品質の木管楽器用リードを供給することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
<木管楽器リード用樹脂組成物>
熱可塑性樹脂としては、オレフィン系樹脂(好ましくはポリエチレン、ポリプロピレン)、スチレン系樹脂(ホモポリマー、AS樹脂、HIPS等)、ゴム含有スチレン系樹脂(ABS樹脂、AES樹脂、ABSM樹脂、AAS樹脂等)、ポリアミド樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリカーボネート樹脂、非結晶(透明)ナイロン、液晶ポリマー、(メタ)アクリル系樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、アクリロニトリル・スチレン共重合樹脂、生分解性樹脂(PBS系、PBSA系、PCL系、PLA系、セルロースアセテート系)等を挙げることができる。これらの熱可塑性樹脂は、単独で又は2種類以上を混合して用いることができる。
【0009】
セルロース繊維としては、麻繊維、竹繊維、綿繊維、木材繊維、ケナフ繊維、ヘンプ繊維、ジュート繊維、バナナ繊維、ココナツ繊維等を挙げることができる。セルロース繊維は、熱安定性が高い点から、αセルロース含有量が高いものが好ましく、80質量%以上がより好ましく、85質量%以上が更に好ましく、90質量%以上が特に好ましい。
【0010】
セルロース繊維の平均繊維径は、0.1〜1000μmが好ましく、1〜500μmがより好ましく、5〜200μmが更に好ましく、10〜50μmが特に好ましい。
【0011】
セルロース繊維の平均繊維長さは、0.01〜100mmが好ましく、0.01〜50mmがより好ましく、0.1〜10mmが更に好ましく、0.1〜5mmが特に好ましい。
【0012】
セルロース繊維のアスペクト比(長さ/径)は、2〜1000が好ましく、3〜500がより好ましく、5〜200が更に好ましく、5〜100が特に好ましい。
【0013】
セルロース繊維は、カップリング剤(アミノ基、置換アミノ基、エポキシ基、グリシジル基等の官能基を有するシランカップリング剤)で表面処理されていてもよい
セルロース繊維の含有量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して5〜200質量部であり、好ましくは30〜190質量部、より好ましくは50〜180質量部である。
【0014】
本発明の組成物には、必要に応じて、無機顔料、有機顔料、染料、助色剤、分散剤、安定剤、可塑剤、改質剤、紫外線吸収剤又は光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、潤滑剤、離型剤、結晶促進剤及び耐衝撃性改良用のエラストマー等を配合することができる。
【0015】
本発明の組成物は、含有されるセルロースが繊維状を保持している限りにおいて、その製造方法に制限はなく、例えば、熱可塑性樹脂に対してセルロース繊維を配合し、押出機による溶融混練する等の公知の方法を適用して製造することができる。セルロース繊維は、市販品を含めた公知のもののほか、例えば、以下に示す製造方法の第1工程を適用して得られたものを用いることができる。
【0016】
本発明の組成物は、熱可塑性樹脂とセルロース繊維をより均一になるように混合し、成形品を木管楽器用リードとして使用したときの品質の安定性を高める観点から、以下に示す第1工程〜第3工程を有する製造方法を適用して得ることが好ましい。
【0017】
〔第1工程〕
第1工程において、攪拌手段として回転羽根を有するミキサー中にセルロース繊維集合体を入れ、高速攪拌することにより、前記セルロース繊維集合体を解繊する。
【0018】
ミキサーは、攪拌手段として回転羽根を有するものであればよく、好ましくは加温手段を有しているものであり、例えば、三井鉱山(株)製ヘンシェルミキサー、FM20C/I(容量20L)や(株)カワタ製スーパーミキサー、SMV−20(容量20L)を用いることができる。
【0019】
回転羽根は、通常、上羽根と下羽根の2枚構成、あるいは上羽根、中間羽根、下羽根の3枚構成であるが、その枚数に制約はない。また、羽根の形状に制約はないが、たとえば上羽根には混練用タイプ、下羽根には高循環・高負荷用、中間羽根を使用する場合は溶融液用を用いる。
【0020】
第1工程では、攪拌時の回転羽根の平均周速が10〜100m/秒の範囲で攪拌することが好ましく、より好ましくは平均周速が10〜90m/秒、更に好ましくは平均周速が10〜80m/秒で攪拌する。
【0021】
第1工程における処理は、セルロース繊維集合体の解繊を充分に行うことができればよく、例えば、セルロース繊維集合体が綿状に変化したことが目視にて確認できた時点を第1工程の処理の終了とすることができる。回転羽根の平均周速と攪拌時間は、セルロース繊維集合体の種類、形状、大きさ、投入量等により変化するものであるため、前記したように綿状に変化した時点を基準とすることが好適である。
【0022】
セルロース繊維集合体は、多数のセルロース繊維が結合一体化されたものであり、天然物でも工業製品でもよく、麻繊維、竹繊維、綿繊維、木材繊維、ケナフ繊維、ヘンプ繊維、ジュート繊維、バナナ繊維、ココナツ繊維等の集合体を用いることができる。
【0023】
セルロース繊維は、熱安定性が高い点から、αセルロース含有量が高いものが好ましく、80質量%以上がより好ましく、85質量%以上が更に好ましく、90質量%以上が特に好ましい。
【0024】
セルロース繊維集合体としては、パルプシート又はその切断物が好ましい。パルプシート又はその切断物の厚み、形状、大きさは特に制限されず、ミキサーへの投入作業や攪拌作業が円滑にできる範囲で選択することができる。
【0025】
セルロース繊維集合体がシートの場合は、例えば、厚さが0.1〜5mm、好ましくは1〜3mmで、幅1〜50cmで、長さ3〜100cm程度のものを用いることができる。
【0026】
セルロース繊維集合体がシートの切断物の場合は、例えば、厚さが0.1〜5mm、好ましくは1〜3mmで、幅2mm〜1cmで、長さ3mm〜3cm程度の短冊状のもの、又は一辺が2mm〜1cm程度の四角形状のものが好ましい。
【0027】
セルロース繊維集合体の水分含有率は、20質量%以下が好ましく、17質量%以下がより好ましく、15質量%以下が更に好ましい。水分含有率が20質量%以下であると、次工程において摩擦熱の発生による昇温が容易になり、セルロース繊維集合体が解繊され易く凝集物が残らないので好ましい。なお、水分含有率は、カールフッシャー法による水分測定等により求める。
【0028】
必要に応じて、セルロース繊維以外の有機繊維を使用することができるが、セルロース繊維と有機繊維の合計量中、セルロース繊維の割合が50質量%以上になるようにすることが好ましく、より好ましくは55質量%以上である。セルロース繊維以外の有機繊維としては、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維等を用いることができる。
【0029】
〔第2工程〕
第2工程において、前記ミキサー内に熱可塑性樹脂を入れた後に攪拌することで、発生した摩擦熱により前記熱可塑性樹脂を溶融させて、解繊されたセルロース繊維に前記熱可塑性樹脂が付着した混合物を得る。第1工程と第2工程は、ミキサーの攪拌を停止することなく、連続した1つの工程にすることができる。
【0030】
第1工程において、ミキサー内にてセルロース繊維集合体が解繊されているため、そこに所要量の熱可塑性樹脂を投入し、高速攪拌する。この高速攪拌により、摩擦熱が発生してミキサー内が昇温するため、熱可塑性樹脂が溶融し、解繊されたセルロース繊維に付着して、セルロース繊維と熱可塑性樹脂との混合物が得られる。
【0031】
第2工程では、攪拌時の回転羽根の平均周速が10〜100m/秒の範囲で攪拌することが好ましく、より好ましくは平均周速が10〜90m/秒、更に好ましくは平均周速が10〜80m/秒で攪拌する。攪拌を継続するとミキサー内の温度が上昇し続け、モーターの動力が上昇する。この動力の上昇及びミキサー内の温度に応じて攪拌速度を徐々にあるいは一気に減速して回転数を低下させることが好ましく、平均周速が前記範囲になるようにする。
【0032】
この状態で撹拌を継続した場合、再び動力が上昇するので、連結する次の第3工程で使用する冷却ミキサーに混合物を排出する。このとき、この混合物では、解繊されたセルロース繊維が熱可塑性樹脂中にほぼ均一に付着している。
【0033】
第2工程では、ミキサー内の昇温を補助して、セルロース繊維と熱可塑性樹脂との混合物の製造を容易にするため、加温手段により、ミキサーを加温することもできる。このときの温度は120〜140℃程度が好ましい。
【0034】
〔第3工程〕
第3工程において、第2工程で得られた混合物を冷却しながら低速攪拌する。この工程の処理により、前記混合物を固化する(固化により造粒する)。第3工程では、ミキサーの冷却効率を高めるため、第1工程と第2工程で用いたミキサーとは別のミキサー(好ましくは冷却手段を有しているもの)を用いることが好ましい。
【0035】
第3工程では、攪拌時の回転羽根の平均周速が1〜30m/秒の範囲で攪拌することが好ましく、より好ましくは平均周速が2〜25m/秒、更に好ましくは平均周速が3〜25m/秒で攪拌する。第3工程の攪拌速度は、第1工程及び第2工程の攪拌速度よりも小さい。
【0036】
第3工程における処理は、セルロース繊維と熱可塑性樹脂との混合物が、成形用の材料として取り扱いできる程度に固化された時点を第3工程の処理の終了とすることができる。なお、摩擦熱の発生により、ミキサー内の温度が上がりすぎると一旦固化された熱可塑性樹脂が再溶融してしまうため、第3工程においても、ミキサー内の温度を管理することが好ましい。
【0037】
〔第4工程〕
第1工程〜第3工程の処理により、熱可塑性樹脂とセルロース繊維を含む固化物(造粒物)が得られる。前記造粒物に対して、必要に応じて任意成分を混合して、本発明の組成物を得ることができる。
【0038】
<木管楽器用リード>
本発明の組成物を用い、射出成形法、プレス成形法、切削等の公知の成形法を適用して、所定寸法の木管楽器用リードを得ることができる。木管楽器用リードは、クラリネット属、サクソフォーン属のような木管楽器用のリードとして適している。
【実施例】
【0039】
実施例及び比較例
表1に示す成分を用いて、下記の方法により、本発明の組成物を製造した。
【0040】
〔第1工程〕
ヒーターミキサー(上羽根:混練用タイプ、下羽根:高循環・高負荷用,ヒーター及び温度計付き,容量20L,品名ヘンシェルミキサーFM20C/I,三井鉱山(株)製)を140℃に加温し、表1に示すセルロース繊維品を投入し、平均周速50m/秒で攪拌した。約2分経過時点において、セルロース繊維品が綿状に変化した。
【0041】
〔第2工程〕
引き続き、ヒーターミキサー内に表1に示す熱可塑性樹脂を投入した後、平均周速50m/秒で攪拌を続けた。このときのモーターの動力は2.5kWであった。ミキサーの温度が120℃に達した時に、MPPを投入し攪拌を続けた。
【0042】
約10分経過時点において、動力が上がり始めた。更に1分後、動力は4kWに上昇したので、周速を25m/secの低速に落とした。更に、低速の撹拌の継続により、動力が再度上昇し始めた。低速回転開始1分30行後、電流値は5kWに達したので、ミキサーの排出口をあけ、接続する冷却ミキサーに排出した。
【0043】
〔第3工程〕
冷却ミキサー〔回転羽根:冷却用標準羽根,水冷手段(20℃)及び温度計付き,容量45L,品名クーラーミキサーFD20C/K,三井鉱山(株)製)平均周速10m/秒で攪拌を開始し、ミキサー内の温度が80℃になった時点で攪拌を終了した。第3工程の処理により、熱可塑性樹脂とセルロース繊維の混合物は固化して、直径が数mmから2cm程度の造粒物が得られた。
【0044】
得られた造粒物を用いて、下記の方法で成型した。
(射出成形)
PPベースの組成物
成形温度:170-200℃,金型温度:70℃,冷却時間40sec
ポリ乳酸ベースの組成物
成形温度:180-210℃,金型温度:40℃,冷却時間60sec
(射出成形−切削)
120×120×6mm厚のサイドゲートである金型にて、下記条件にて射出成形した後、市販のクラリネット用リードと同寸になるようNC切削機にて削りだしたもの。
【0045】
PPベースの組成物
成形温度:170-200℃,金型温度:70℃,冷却時間40sec
ポリ乳酸ベースの組成物
成形温度:180-210℃,金型温度:40℃,冷却時間60sec
表1に示す各成分の詳細は、次のとおりである。
PP:サナロマー社製 J139
ポリ乳酸:三井化学社製 LASEA H100
木材繊維:日本製紙社製 溶解パルプNDP−T
竹繊維:タイ・フェニックス社製 竹パルプ
市販品のリード:VANDOREN社のクラリネット用リードNo.3
(試験方法)
表1に示す試験方法の詳細は、次のとおりである。
(1)音の反応
クラリネット奏者10人に各リードを使用してもらい、音が途切れなく、反応が良いとした奏者の人数で評価した。
(2)音程のバランス
クラリネット奏者10人に各リードを使用してもらい、良いとした奏者の人数で評価した。
【0046】
(3)音の鳴り
クラリネット奏者10人各リードを使用してもらい、音量のばらつきがあるリードの枚数が1枚以下のものを良いとし、良いとした奏者の人数で評価した。
【0047】
【表1】

【0048】
実施例1〜10の各リード間には差がなく、音の反応、音の鳴り、音程のバランスも良いとの評価を得た。






【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂100質量部に対して、セルロース繊維5〜200質量部を含有する木管楽器リード用樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1記載の樹脂組成物からなる木管楽器用リード。




【公開番号】特開2008−197450(P2008−197450A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−33429(P2007−33429)
【出願日】平成19年2月14日(2007.2.14)
【出願人】(501041528)ダイセルポリマー株式会社 (144)
【出願人】(507049407)