説明

木質の板状部材の切断加工方法、及び、床材の切断加工方法

【課題】仕上げ加工が不要な木質の板状部材の切断加工方法、及び、仕上げ加工が不要な床材の切断加工方法を提供することである。
【解決手段】木質の板状部材1を切断する際に、板状部材1の切断箇所2に予め接着剤3を塗布硬化させておく。そして、当該部位の切削刃4による切断を開始する。切削刃4は板状部材1の接着剤3が含浸した部位を切削し、当該部位を切断する。また、木質の板状部材である床材21の実構造15が形成される切断予定部17に接着材13を含浸硬化させ、しかる後に、切断予定部17を切削加工して切断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質の板状部材の切断加工方法と、木質の板状部材同士を実構造で結合して床材を構成する、床材の切断加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
木質の板状部材は、様々な用途で採用され、適宜加工されている。例えば、剛性を有する基板に対して、意匠性を有する化粧板を貼付すると、意匠性に優れた剛性を有する合板が得られる。
【0003】
さらに、木質の板状部材に対して熱可塑性樹脂層を積層し、熱可塑性樹脂層に溝を形成することによって、古来の寄せ木貼り意匠を模倣する表面加工方法が特許文献1において提案されている。特許文献1では、木質基材に熱可塑性樹脂中間層を積層し、熱可塑性樹脂中間層の上に化粧シートを貼付し、化粧シートから熱可塑性樹脂中間層の途中に至る溝を形成することにより、古来の寄せ木貼り床面の意匠を模倣している。
【0004】
また、実(さね)構造を有する複数の板材を接合して床材を構成する発明が特許文献2に開示されている。特許文献2では、木質系の板材と副板を実構造で接合して床材を構成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−84284号公報
【特許文献2】実開平3−24538号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1において、木質基材に熱可塑性樹脂中間層を積層し、溝が木質基材に達しないように熱可塑性樹脂中間層の途中で止めるのは、木質基材に溝を形成すると、バリやヒゲが生じてしまうためである。よって、特許文献1の発明においては、熱可塑性樹脂中間層が必須であり、木質基材に対して直に化粧シートを貼付することができず、これが板状部材の構造の複雑化を招き、作業工数が増加して製造のコストアップにつながっている。
【0007】
また、特許文献2における板材と副板を接合する実部分は、強度を得るために、一般に木材の木目が延びる方向に沿って形成される。そのため、実部分の先の部分を切断加工すると、切断箇所にバリが生じ易い。バリとは、切断加工又は切削加工によって木目の直交方向に切断刃(回転刃)が移動した場合に、切断刃の移動方向に切断しきれずに切断面に残った繊維組織をいう。このバリを放置すると、実(さね)の凹凸嵌合に支障を来すことがあるため、バリを取り除く処理が必要である。すなわち、仕上げ加工が必要であり、その結果作業工数が増加しコストアップにつながっている。
【0008】
そこで本発明は、仕上げ加工が不要な木質の板状部材の切断加工方法、及び、仕上げ加工が不要な床材の切断加工方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための請求項1に記載の発明は、木質の板状部材の切断予定部の一方側の面から接着剤を塗布硬化させ、切断予定部の他方側の面から切削刃による切削を開始し、前記切断予定部を切削加工して切断することを特徴とする木質の板状部材の切断加工方法である。
【0010】
請求項1の発明では、木質の板状部材の切断予定部の一方側の面から接着剤を塗布硬化させる。よって、板状部材の切断予定部の一方側の面から接着材が浸透し硬化する。接着材は、板状部材の他方側の面に達する場合もあれば、達しない場合もある。
【0011】
そして切断予定部の他方側の面から切削刃による切削を開始し、切断予定部を切削加工して切断する。よって切削刃は、板状部材における接着材が塗布硬化した部位を必ず最後に通過して切断予定部を切削し、板状部材を切断する。
【0012】
すなわち、接着材が一方側の面から他方側の面に達している場合には、切削刃は最初から最後まで接着材が塗布硬化している部分を通過し、接着材が一方側の面から他方側の面に達していない場合には、切削刃は最初は接着材が含浸していない部位を通過し、途中で接着材が含浸硬化した部位に達して切断予定部を切削し、板状部材を切断する。
【0013】
接着材が塗布硬化すると、板状部材の繊維組織が凝結される。その結果、板状部材の切削部分にはバリが発生しない。これにより、バリを除去する仕上げ作業が不要になる。すなわち、発生したバリを除去する従来の仕上げ加工よりも、はるかに簡単な作業でバリの発生を防止できる。
【0014】
ここで、接着材が板状部材の一方側の面から他方側の面まで浸透して硬化している場合には、板状部材のどちら側の面から切断を開始しても、切断部分にバリは発生しない。
【0015】
請求項2の発明は、木質の板状部材である床材の切断加工方法であって、床材同士を隣接配置した際に、当該床材同士を結合する実構造を各床材の対向部分に形成するにあたって、前記実構造は雄実部と雌実部が結合するものであり、雄実部を、結合相手の雌実部に合わせて切断して長さ調整をする際に、雄実部の切断予定部の一方側から接着剤を塗布硬化させ、前記切断予定部の他方側から切削刃による切削を開始し、前記切断予定部を切削加工して切断することを特徴とする床材の切断加工方法である。
【0016】
請求項2の発明では、雄実部の切断予定部の一方側から接着剤を塗布硬化させる。よって、雄実部の切断予定部の一方側の面から接着材が浸透し硬化する。接着材は、雄実部の他方側の面に達する場合もあれば、達しない場合もある。
【0017】
そして切断予定部の他方側の面から切削刃による切削を開始し、切断予定部を切削加工して切断する。よって切削刃は、雄実部における接着材が塗布硬化した部位を必ず最後に通過して切断予定部を切削し、雄実部を切断加工する。
【0018】
すなわち、接着材が一方側の面から他方側の面に達している場合には、切削刃は最初から最後まで接着材が含浸硬化している部分を通過し、接着材が一方側の面から他方側の面に達していない場合には、切削刃は最初は接着材が含浸していない部位を通過し、途中で接着材が塗布硬化した部位に達して切断予定部を切削し、雄実部を切断する。
【0019】
接着材が塗布硬化すると、板状部材(雄実部)の繊維組織が凝結される。その結果、雄実部の切断面にはバリが発生しない。これにより、バリを除去する仕上げ作業が不要になる。すなわち、発生したバリを除去する従来の仕上げ加工よりも、はるかに簡単な作業でバリの発生を防止できる。
【0020】
ここで、接着材が雄実部の一方側の面から他方側の面まで浸透して硬化している場合には、雄実部のどちら側の面から切削(切断)を開始しても、切断面にバリは発生しない。
【発明の効果】
【0021】
本発明の木質の板状部材の切断加工方法によれば、板状部材の切削面にバリが発生せず美観が良好であり、バリを除去する仕上げ加工が不要になる。
【0022】
また、本発明の床材の切断加工方法によれば、床材の実構造の雄実部が形成される切断予定部を切削加工して切断する時にバリが発生せず美観が良好であり、バリを除去する仕上げ加工が不要になる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】木質の板状部材の断面図であり、(a)は切断前の状態を示し、(b)は切断箇所の周囲に接着剤を塗布した状態を示し、(c)は切断装置で切断する直前の状態を示し、(d)は切断装置で切断された状態を示し、(e)は切断箇所に接着剤を塗布せずに切断装置で切断する直前の状態を示し、(f)は(e)の状態から切断装置で切断し切断箇所にバリが生じた状態を示している。
【図2】床材の雄実部が形成される部位の断面図であり、(a)は雄実部の切断加工前の状態を示し、(b)は(a)の雄実部が形成される部位に接着剤を塗布した状態を示しており、(c)は(b)の接着剤が浸透した状態を示し、(d)は(c)の接着剤が硬化し切断装置で切断する直前の状態を示し、(e)は(d)において切断が実施されて雄実部が形成された状態を示し、(f)は(e)の雄実部が対応する雌実部と嵌合する状態を示しており、(g)は雄実部が形成される部位に接着剤を塗布せずに切断装置で切断してバリが生じた状態を示し、(h)は(g)の雄実部が対応する雌実部と嵌合できない状態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下では、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の説明は、実施形態の理解を容易にするためのものであり、これによって、本発明が制限して理解されるべきではない。
【0025】
最初に、図1を参照しながら木質の板状部材の切断加工方法について説明する。
【0026】
図1(a)に示す板状部材1は木質の平板であり、中央には切断予定線2が破線で描写されている。この板状部材1を、切断予定線2(切断予定部)に沿って以下の手順で切断する。
【0027】
切断予定線2は仮想的な線であるが、板状部材1の表面上に視認可能に引いてもよい。この切断予定線2で示される板状部材1の切断箇所に、図1(b)に示すように接着剤3を塗布する。接着剤3は、例えばシアノアクリレート系等の、板状部材1に浸透可能な液状のものを選定する。また接着剤3は、ブラシや専用チューブ等を使用して板状部材1に塗布する。
【0028】
板状部材1に塗布された接着剤3は、図1(c)に示すように板状部材1内に浸透し、やがて硬化(含浸硬化)する。その結果、木質の板状部材1の繊維組織が凝結される。図1(c)に示す例では、上面1aから接着剤3を塗布しており、接着剤3が下面1bに達していない。
【0029】
板状部材1に浸透した接着剤3が硬化すると、切断装置の切削刃4で板状部材1を切断予定線2に沿って切削を開始する。すなわち切削刃4は、図1(c)に示すように、板状部材1の下面1b(他方側の面)側から切削を開始する。そして切削刃4が板状部材1の上面1aに達すると、板状部材1は切断予定線2に沿って切削され、切断片5,6に切断される。すなわち、図1(d)に示すような切断面5a,6aにバリのない切断片5,6が得られる。
【0030】
ここで、接着材3の含浸が下面1b側に達していない場合には、必ず下面1b側から切断を開始する。その結果、切削刃4は、板状部材1における接着剤3が含浸硬化した部位を最後に通過して板状部材1を切断し、切断片5,6の切断面5a,6aにバリが生じない。
【0031】
切断前(切削前)に板状部材1には接着剤3が浸透し硬化しているので、切削時に板状部材1の切断箇所の繊維組織が凝結しており、切断片5の切断面5aと、切断片6の切断面6aにはバリは発生しない。すなわち、接着剤3が浸透していない側(下面1b側)を切断する際には、切断箇所が上面1a側の接着剤3で凝結された部位でしっかりと連結されており、切削刃4は安定して板状部材1を切断することができ、切断面5a,6aにはバリが生じにくい。よって、切断面5a,6aの見栄えは良好である。
【0032】
また、切削刃4が上面1a側に達した際には、当該部位の繊維組織が接着剤3によって凝結されているので、切削刃4から伝達される振動によって板状部材1が割れることがない。その結果、切削刃4が板状部材1を完全に切断するまでの間に、切断面5a,6aにバリが生じることがない。
【0033】
また、仮に接着材3の含浸が上面1aから下面1bに達している場合には、切削刃4による切削は、上面1a側と下面1b側のどちら側から開始してもよい。すなわち、この場合には、どちら側から切削(切断)を開始しても、切断面5a,6aにはバリが生じない。
【0034】
ここでバリとは、切削加工によって木目の直交方向に切削刃4(回転刃)が移動した場合に、切削刃4の移動方向に切断しきれずに切断面5a,6aに残った繊維組織をいう。
【0035】
ところで、従来のように板状部材1に接着剤3を塗布せず(図1(e))、いきなり切断を開始すると、図1(f)に示すように、切削刃4が上面1aに達する前に切断箇所が割れてしまい、切断面にバリ7,8が生じてしまう。よって、この場合には切断面のバリを除去する仕上げ加工が必要である。すなわち、仕上げ加工を実施した結果、仮に切断面を余計に切削してしまうと切断片5,6の長さが変わってしまい、部材としての基本性能に悪影響を及ぼす恐れがある。そのため、慎重にバリのみを除去しなければならず、バリの除去作業は煩雑である。
【0036】
しかし、本発明を実施すると、このような煩雑な仕上げ加工は不要であり、従来よりも製造コストを低減することができる。
【0037】
また、本発明を実施して板状部材1を切断すると、切断して直ちに切断面5a,6aを塗装したり、別の作業を実施することができるようになる。
【0038】
次に、図2を参照しながら床材の切断加工方法について説明する。
【0039】
構成部材10は木質の板形状を呈している。そして図2(a)に示すように、構成部材10の左端側には雌実部11が形成されており、右端側には雄実形成部12が形成されている。雄実形成部12には仮想的な切断予定線17が設定されている。切断予定線17よりも先端側は余長部12a(長さ調整部)である。
【0040】
この余長部12aは、雄実部の突出長さを雌実部11の窪み深さに対応させるために、構成部材10の製造段階で設けられる。すなわち、雌実部11の窪み深さに対応するように、雄実形成部12に切断予定線17を設定する。
【0041】
このような構成部材10の余長部12aを切断する手順を説明する。
【0042】
図2(b)に示すように、最初に雄実形成部12の上面(一方側の面)に接着剤13を塗布する。接着剤13は、図1(b)に示す接着剤3と同様のものを使用する。
【0043】
図2(c)に示すように、接着剤13は雄実形成部12に浸透し硬化(含浸硬化)する。そして図2(d)に示すように、切断装置の切削刃14により、接着材13が含浸していない下面(他方側の面)側から切削(切断)を開始する。切削刃14は、切断予定線17に沿って下面側から上面側へ雄実形成部12の先端部分を切削し、最後に接着剤13が硬化した部位13aを通過する。
【0044】
その結果、図1(e)に示すように雄実部15が形成され、その端面15a(切断面)は平坦であってバリは生じない。すなわち、雄実形成部12内における接着剤13が硬化した部位の繊維組織が凝結し、この接着剤13が硬化した部位を切削刃14が最後に通過するので、端面15aにバリを生じさせることなく雄実形成部12を切断し、雄実部15を形成することができる。よって、仕上げ加工をしなくても、切断直後の端面15aの見栄えが良好である。
【0045】
ここで接着材13の含浸が、雄実形成部12の下面側まで達している場合には、切削刃14による切削(切断)は、上面側と下面側のどちら側から開始してもよい。
【0046】
図2(e)のように雄実部15が形成された構成部材10に対して、図2(f)に示すように別の構成部材20の雌実部22が嵌合する。構成部材20は、構成部材10と同じ構成を有する。よって、構成部材20の雌実部22は、構成部材10の雌実部11と同じ形状を呈する。雌実部22は、雄実部15がちょうど嵌合する形状に形成されている。
【0047】
ところで、仮に雄実形成部12に接着剤13を塗布せずに雄実形成部12を切削刃14で切削して切断すると、図2(g)に示すように端面15aにバリ16が生じる。その結果、雄実部15を構成部材20の雌実部22に嵌合させようとしても、バリ16が障害となって嵌合させることができなくなる恐れがある。そのため、従来は手間をかけてバリ16を除去する煩雑な仕上げ作業が必要であった。
【0048】
しかし本発明を実施すると、バリが生じず切断面の外観は良好であり、仕上げ処理は不要になる。また、雌実部22に若干の余裕をもって雄実部15を挿入できるようにすると、バリが生じても両者(雌実部22と雄実部15)を嵌合させることはできるが、両者間に目隙が生じ、施工不良につながる恐れがあるので、両者の寸法はちょうど嵌合できる寸法に形成する必要がある。
【0049】
床材21の構成部材10,20として、例えば0.2〜0.6の軽い比重の素材をNC加工する場合には特にバリが多く発生する。従来はバリを除去する仕上げ加工が必要であったため、バリが生じ易い素材を選定すると仕上げ加工が煩雑化し、製造コストの向上を招いていた。しかし、本発明を実施することにより、バリが生じにくくなるので、構成部材10,20の素材を幅広く選定することができるようになる。
【符号の説明】
【0050】
1 板状部材
1a 上面
1b 下面
2 切断予定線(切断予定部)
3 接着剤
4 切削刃
5,6 切断片
5a,6a 切断面
7,8 バリ
10 床の構成部材
11 雌実部
12 雄実形成部
13 接着剤
14 切削刃
15 雄実部
15a 端面(切断面)
16 バリ
17 切断予定線
20 床材の構成部材
21 床材
22 雌実部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質の板状部材の切断予定部の一方側の面から接着剤を塗布硬化させ、切断予定部の他方側の面から切削刃による切削を開始し、前記切断予定部を切削加工して切断することを特徴とする木質の板状部材の切断加工方法。
【請求項2】
木質の板状部材である床材の切断加工方法であって、床材同士を隣接配置した際に、当該床材同士を結合する実構造を各床材の対向部分に形成するにあたって、前記実構造は雄実部と雌実部が結合するものであり、雄実部を、結合相手の雌実部に合わせて切断して長さ調整をする際に、雄実部の切断予定部の一方側から接着剤を塗布硬化させ、前記切断予定部の他方側から切削刃による切削を開始し、前記切断予定部を切削加工して切断することを特徴とする床材の切断加工方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−240387(P2012−240387A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−115392(P2011−115392)
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】