説明

木質バイオマスへの金属担持方法及び木質バイオマスの金属担体、銀イオン水の製造方法、ナトリウムイオン水の製造方法

【課題】木質バイオマスに新しい機能を持たせて、資源としての有効利用を促進させることを実現する、木質バイオマスへの金属担持方法を提供する。
【解決手段】木質バイオマスに対して、酸素プラズマを照射する第1のプラズマ照射工程と、金属元素を含有するプラズマを照射する第2のプラズマ照射工程とを行って、第2のプラズマ照射工程で照射したプラズマの金属元素を木質バイオマスに担持させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温プラズマを用いた木質バイオマスへの金属担持方法、及びこの金属担持方法により得られる、木質バイオマスの金属担体に係わる。
また、本発明は、木質バイオマスの銀担体を用いて、銀イオン水を製造する方法に係わる。
また、本発明は、木質バイオマスのナトリウム担体を用いて、ナトリウムイオン水を製造する方法に係わる。
【背景技術】
【0002】
科学の発展とともに、ダイオキシン類や重金属類による土壌汚染等が問題視されている(例えば、非特許文献1参照)。
また、浄水処理過程の塩素殺菌処理において、原水中の有機物との反応によって、有害なトリハロメタンが発生する。
このトリハロメタンへの対策として、塩素に替わる新しい殺菌法の開発が期待されている(例えば、非特許文献2及び非特許文献3参照)。
【0003】
ところで、今日、木質系廃棄物の再利用と木質バイオマスの利用が見直されている。
木質バイオマスを利用する際には、従来から、リグニン・ヘミセルロース・セルロースの各主要成分を完全に分離して、その後に分離した各成分を利用していた。
そして、各成分の分離は、熱及びアルカリや有機溶媒による抽出と、酸による加水分解とそれらの組み合わせ等により行われている。
しかしながら、成分へのダメージを生じることに加えて、多くの処理工程を要して操作が煩雑であることから、製造コストの増大を招いてしまう(例えば、非特許文献4及び非特許文献5参照)。
【0004】
また、リグニン成分が完全に除去された後の木粉の処理として、従来からグラフト重合法が採用されており、化学的に無機質やプラスチック等を木粉と結合させていた(例えば、非特許文献6参照)。
このようなグラフト重合法は、溶媒を用いた湿式法がほとんどであるため、処理工程が多くなり、操作も煩雑であり、処理のランニングコストが高いのが特徴である。
【0005】
一方、乾式法としては、ガンマ線放射を用いて、ポリエチレン、ポリプロピレン、セルロース等の基材ポリマーに各種官能基をモノマーとして導入するグラフト重合法が注目されている(例えば、非特許文献7及び非特許文献8参照)。
しかしながら、微量な放射線被爆量は人体にとって危険ではない、という意識改革が未だに浸透していないことから、放射線の使用に対してはかなりの抵抗がある。そのため、放射線の使用は敬遠されている。
【0006】
【非特許文献1】Kim,H.K. et al.,”Dioxins in Drinking Water Treatment Process”,OrganohalogenCompounds,51,p.135-138,(2001)
【非特許文献2】Bellar,T.A. et al.,”The Occurrence of Organohalidesin Chlorinated Drinking Waters”,J. American Water Works Association,66,p.703-706,(1974)
【非特許文献3】Gray,N.F.,”Drinking Water Quality”,John Wiley & Sons,p.315,(1994)
【非特許文献4】Nakamura et al.,”Resinification of Woody Lignin and Its Characteristics on safety and Biodegradation”,J. Chem. Eng.Jpn.,34,p.1309-1312,(2001)
【非特許文献5】Minowa et al.,”Decomposition of Cellulose and Glucose in Hot-Compressed Water under Catalyst-Free Conditions”,J. Chem. Eng.Jpn.,31,p.131-134,(1998)
【非特許文献6】Hamada K.,”Practical Use of Wood Materials by Graft Polymerization (Part1) Graft Polymerization of Methyl Methacrylate onto Wood Using Tetravalent Cerium as Initiator”,The Research Report of Kochi Prefecture Industrial Technology Center,33,p.15-19,(2002)
【非特許文献7】Wada et al,”Control of Biodegradability of Poly(3-Hydroxybutyric Acid) Film with Grafting Acrylic Acid and Thermal Remolding”,J. Appl. Polym. Sci.,101,p.3856-3861,(2006)
【非特許文献8】Furusawa et al.,”Structural and Kinetic Modification of Aquenous Hydroxypropylmethylcellose(HPMC) Induced by Electron Beam Irradiation”,PhysicaA,353,p.9-20,(2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、土壌汚染への対策や、塩素に替わる新しい殺菌法の開発が求められている。
また、木質バイオマスの資源としての有効利用が求められている。
【0008】
上述した問題の解決のために、本発明においては、木質バイオマスに新しい機能を持たせて、資源としての有効利用を促進させることを実現する、木質バイオマスへの金属担持方法、及び木質バイオマスの金属担体を提供するものである。
また、木質バイオマスの金属担体を利用した、銀イオン水の製造方法及びナトリウムイオン水の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の木質バイオマスへの金属担持方法は、木質バイオマスに対して、酸素プラズマを照射する第1のプラズマ照射工程と、金属元素を含有するプラズマを照射する第2のプラズマ照射工程とを行って、第2のプラズマ照射工程で照射したプラズマの金属元素を木質バイオマスに担持させるものである。
【0010】
即ち、本発明の金属担持方法においては、まず、木質バイオマスに対して、木材の成分が分離されていない状態のままで、第1のプラズマ照射工程として、酸素プラズマを照射する。
この第1のプラズマ照射工程では、ドライ状態で処理が行われ、リグニン成分が酸素プラズマ(オゾン)の強い酸化力によって酸化される。その結果、木質バイオマスが多孔質となり、酸素に富んだ官能基がリグニンの表面に修飾されやすくなる。同様に、セルロース成分についても、官能基が表面に修飾されやすくなる。
【0011】
本発明の金属担持方法においては、次に、第2のプラズマ照射工程として、銀やナトリウムや酸化チタン等、金属元素を含有するプラズマを照射する。これにより、多孔質となった木質バイオマスに金属元素を含有する物質(金属や金属化合物等)が担持される。
【0012】
本発明方法に係る、第1のプラズマ照射工程及び第2のプラズマ照射工程は、可視光の波長域におけるグロー放電プラズマを照射することによって実行することが可能であり、このようなプラズマ照射を行うことにより、人体への被爆や残留の危険性を全くなくすことができる。
また、強い電子エネルギーによって、ドライ状態下でのグラフト重合が可能になる。
【0013】
本発明において使用する、木質バイオマスの素材としては、例えば、ウッドチップ、ごみとして処理されている廃材や間伐材を木粉化したもの、リグニンが含有されたままの木材粉末、またドリップ式コーヒーのかす、等が挙げられる。
そして、好ましくは、木質バイオマスを、粉体もしくは数mm以下と小さくして、プラズマ照射工程を行いやすく、かつ効率良くプラズマで処理ができるようにする。
このような木質バイオマスは、安価に入手できる有機物であり、自然環境下にて分解されるため、バルク材として用いれば、コストや環境負荷の面から特に有効である。
【0014】
第2のプラズマ照射工程において、硝酸銀を用いて、銀を含有するプラズマを発生させた場合には、木質バイオマスの銀担体を製造することができる。
このようにして得られた銀担体は、銀イオン水の原料として用いることができる。
【0015】
第2のプラズマ照射工程において、ナトリウムアミドを用いて、ナトリウムを含有するプラズマを発生させた場合には、木質バイオマスのナトリウム担体を製造することができる。
このようにして得られたナトリウム担体は、ナトリウムイオン水の原料として用いることができる。また、ナトリウムの強い還元反応を利用して、塩素等のハロゲンの除去を行うことができ、例えば土壌汚染の浄化等に使用することが可能になる。
【0016】
第2のプラズマ照射工程において、四塩化チタンを用いて、酸化チタンを含有するプラズマを発生させた場合には、木質バイオマスの酸化チタン担体を製造することができる。
このようにして得られた酸化チタン担体は、光触媒としての機能を有し、紫外線を照射すると表面で強力な酸化力を生じるため、有機化合物等を分解することができる。これにより、水や大気の清浄化、汚染防止材、抗菌材、脱臭材等に、応用することが可能になる。
【0017】
本発明の木質バイオマスの金属担体は、金属元素を含む物質が、木質バイオマスに担持されているものである。
この本発明の木質バイオマスの金属担体は、上述した本発明の木質バイオマスへの金属担持方法によって得られる。
【0018】
また、本発明の銀イオン水の製造方法は、本発明に係る木質バイオマスへの金属担持方法により作製した木質バイオマスの銀担体を用いて、この銀担体を水中に入れて、銀イオンを水中に溶出させるものである。
【0019】
また、本発明のナトリウムイオン水の製造方法は、本発明に係る木質バイオマスへの金属担持方法により作製した木質バイオマスのナトリウム担体を用いて、このナトリウム担体を水中に入れて、ナトリウムイオンを水中に溶出させるものである。
【発明の効果】
【0020】
上述の本発明の木質バイオマスへの金属担持方法によれば、木質バイオマスに担持させた金属元素に対応する新しい機能を持たせることができる。
【0021】
本発明の木質バイオマスの金属担体は、木質バイオマスに担持させている金属元素によって、この金属元素に対応する新しい機能を有する。
例えば、イオン水の原料として使用して、高濃度のイオン水を作製することや、抗菌材、脱臭材、浄化材等に応用すること等が可能になる。
従って、本発明により、木質バイオマスの資源としての有効利用を促進させることが可能になる。
【0022】
本発明の銀イオン水の製造方法によれば、本発明に係る木質バイオマスへの金属担持方法により作製した木質バイオマスの銀担体を水中に入れて、銀イオンを水中に溶出させることにより、多孔質の木質バイオマスが広い表面積に多量の銀を担持しているので、濃度の高い銀イオン水を製造することが可能になる。
また、銀担体から徐々に銀イオンを溶出させることができるため、銀担体から何度も繰り返して銀イオン水を製造することができる。
従って、銀イオン水としての残留性・保持耐久力が優れているため、比較的少量の銀担体で銀イオン水を作製することが可能になり、銀イオン水の原料の運搬等が容易にできる。
【0023】
本発明のナトリウムイオン水の製造方法によれば、本発明に係る木質バイオマスへの金属担持方法により作製した木質バイオマスのナトリウム担体を水中に入れて、ナトリウムイオンを水中に溶出させることにより、多孔質の木質バイオマスが広い表面積に多量のナトリウムを担持しているので、濃度の高いナトリウムイオン水を製造することが可能になる。
また、ナトリウム担体から徐々にナトリウムイオンを溶出させることができるため、ナトリウム担体から何度も繰り返してナトリウムイオン水を製造することができる。
従って、ナトリウムイオン水としての残留性・保持耐久力が優れているため、比較的少量のナトリウム担体でナトリウムイオン水を作製することが可能になり、ナトリウムイオン水の原料の運搬等が容易にできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の具体的な実施の形態について説明する。
本発明において、金属元素は、金属元素のみ(合金も含む)、もしくは金属酸化物等の金属化合物の状態で、木質バイオマスに担持させる。
【0025】
本発明の木質バイオマスへの金属担持方法においては、まず、酸素プラズマを発生させて、第1のプラズマ照射工程を行い、次に、担持させる金属元素を含むプラズマを発生させて、第2のプラズマ照射工程を行う。
第1のプラズマ照射工程及び第2のプラズマ照射工程は、プラズマ反応管炉を使用して実行することができる。
そして、これら第1のプラズマ照射工程と第2のプラズマ照射工程とを、原料ガスを変更することにより、同一のプラズマ反応管炉を使用して実行することができる。
【0026】
本発明の木質バイオマスの金属担体を製造するための、製造装置の一形態の概略構成図を、図1に示す。
本装置は、プラズマ反応管炉5を使用して、本発明方法に係る第1のプラズマ照射工程及び第2のプラズマ照射工程を行う。
このプラズマ反応管炉5は、プラズマを発生させる反応管から成り、この反応管の周囲には、電磁誘導コイル4が巻きつけられている。反応管は、例えば、石英管により構成する。電磁誘導コイル4は、例えば、銅パイプにより構成する。
このプラズマ反応管炉5は、外部誘導型の低圧低温プラズマ炉である。そのため、炉5の内部に電極がなく、安定した前駆体のプラズマを、大きい容積にわたって均一に得ることができ、3次元的なプラズマ照射ができる、という特徴を有する。
酸素プラズマを発生させるための酸素ガスボンベ6が、プラズマ反応管炉5に接続されている。
本装置は、高周波加熱を行うための高周波を供給する、高周波電源3を備えている。この高周波電源3から、電磁誘導コイル4の銅パイプに、高周波電力を供給して、プラズマ反応管炉5に対して、高周波誘導加熱を行うことができる。
本装置は、高周波電源3及び電磁誘導コイル4の銅パイプ内に送り込む冷却水を供給するために、水タンク1及び揚水ポンプ2を備えている。
危険な反応排ガスを捕獲するためのトラップ部として、プラズマ反応管炉5の後段に、液体窒素トラップ7及び消石灰入りトラップ8が接続されている。
その後段に、真空排気装置として、真空度を測定するためのピラニー真空計9、真空ポンプ10を備えている。真空ポンプ10としては、例えば、油回転ポンプを用いる。真空ポンプ10によってプラズマ反応管炉5の内部の真空引きを行うことにより、低温でプラズマを発生させることができる。
さらに後段には、真空ポンプ10からの排気ガスを処理するために、強制吸引を行う電気吸引機11と、スクラバー(排気ガス洗浄装置)12とが設けられている。
【0027】
本発明の金属担体を製造するための製造装置は、図1に示した装置構成に限定されるものではない。
図1に示した装置構成は、実験的なものであり、比較的少量を作製する場合に適した構成である。
木質バイオマスの金属担体を、大量に生産する場合には、大量生産に適した装置構成とすれば良い。
【0028】
本発明による木質バイオマスの銀担体を使用することにより、300W程度の小電力で、高濃度の銀イオン水が得られる。
また、銀イオン水としての残留性・保持耐久力が優れているため、比較的少量の銀担体で銀イオン水を作製することが可能になり、銀イオン水の原料の運搬等が容易にできる。
【0029】
銀イオン水においては、局所的に及び瞬時に、ヒドロキシルラジカル(活性酸素)と水素ラジカルが発生して、その殺菌効果が発揮される。
銀イオン水は、浄水場、病院、温泉地、プール、公園の噴水池、冷却塔、工場・家庭排水等の浄化用として、設置場所の大小に関係なく、その適用が期待できる。
【0030】
木質バイオマスの銀担体を作製する際の銀の原料としては、硝酸銀が適しているが、その他の原料を用いても構わない。
硝酸銀の場合、固体の状態から溶融・気化させて、ガスプラズマを発生させることができる。
【0031】
本発明による木質バイオマスのナトリウム担体を、重金属やダイオキシン類等の汚染土壌に散布すると、その強い還元反応によって、自然環境下で、塩素を含む有機化合物とPCBの脱塩素化を図ることができる。
【0032】
本発明による木質バイオマスのナトリウム担体を使用することにより、高濃度のナトリウムイオン水が得られる。
また、ナトリウムイオン水としての残留性・保持耐久力が優れているため、比較的少量のナトリウム担体でナトリウムイオン水を作製することが可能になり、ナトリウムイオン水の原料の運搬等が容易にできる。
【0033】
木質バイオマスのナトリウム担体を作製する際のナトリウムの原料としては、ナトリウムアミドが適しているが、その他の原料を用いても構わない。
ナトリウムアミドの場合、固体の状態から溶融・気化させて、ガスプラズマを発生させることができる。
【0034】
本発明による木質バイオマスの酸化チタン担体は、光触媒としての機能を有し、紫外線を照射すると表面で強力な酸化力を生じるため、有機化合物等を分解することができる。これにより、例えば、ダイオキシン等の有害物質、トリハロメタン等の発がん性物質、細菌を分解することができる。
従って、水や大気の清浄化、汚染防止材、抗菌材、脱臭材等に、応用することが可能になる。
【0035】
木質バイオマスの酸化チタン担体を作製する際のチタンの原料としては、四塩化チタンが適しているが、その他の原料を用いても構わない。
四塩化チタンの場合、液体の状態から減圧気化させて、ガスプラズマを発生させることができる。
【0036】
他の物質(金属元素や金属化合物等)を木質バイオマスに担持させることも可能である。
金属元素を含む物質のうち、ガスプラズマ化が可能な物質であれば、本発明を適用することが可能である。
【0037】
上述した、銀、ナトリウム、チタン以外の金属元素を、木質バイオマスに担持させた場合でも、その金属元素に対応した特性を、木質バイオマスの金属担体が有するようになると考えられる。
例えば、アルカリ土類元素は、脱硫等に用いられているので、木質バイオマスにアルカリ土類元素を担持させることにより、脱硫性能を付与することが期待できる。
また、イオン化傾向の高い金属元素の場合、金属担体を水中に入れることにより、高濃度のイオン水を、繰り返し製造することが可能であると考えられる。
また、チタンと同様に酸素と結びつきやすい金属元素の場合、金属酸化物の状態で担持されると考えられる。
【実施例】
【0038】
図1に示した装置を使用して、実際に、木質バイオマスの金属担体を作製した。
プラズマ反応管炉5は、石英製で、外径300mm、内径290mm、長さ1000mmの寸法として、透明な石英管から内部を容易に見ることが可能な構成とした。電磁誘導コイル4には、直径6mmの銅パイプを用いて、石英製の反応管炉5の周囲に38回巻き付けた。
また、高周波電源3から、周波数360kHzの高周波を発振させるように設定した。
【0039】
第1の試料として、針葉樹のウッドチップを用意して、これを粉砕ミキサーで砕いて、約0.5mm〜1mm程度の直径及び長さの木粉に加工した。
第2の試料として、市販のドリップタイプのインスタントコーヒーの飲みかすを用意して、これを充分に乾燥した。
【0040】
第1のプラズマ照射工程は、次のようにして行った。
まず、予め、約5gの試料木粉を、石英平板上に薄く一応に散布して、これをプラズマ反応管炉5内に挿入した。
その後に、酸素ガスボンベ6から、高純度(G2クラス:純度99.999%)の酸素ガスを、1L/分の割合でプラズマ反応管炉5内に送り込んだ。また、反応炉内の圧力を、酸素ガスボンベ6からの酸素ガスの供給量と真空ポンプ10の排気量とのバランスによって、約5Torrに保持した。
そして、高周波電源3から、電圧3kVの高周波アノード電圧を印加して、プラズマ反応管炉5内に、一様の薄紫色のプラズマグロー放電を発生させた。
【0041】
第2のプラズマ照射工程は、次のようにして行った。
銀を担持させる場合には、硝酸銀粉末(3〜10gの所定量)を鉄板上に敷き詰めて、この鉄板をプラズマ反応管炉5内に挿入した。そして、高周波誘導加熱により熱せられた鉄板を介して溶融・気化した銀の気化ガスプラズマを発生させた。
ナトリウムを担持させる場合には、ナトリウムアミドの粉末(3〜10gの所定量)を鉄板上に敷き詰めて、この鉄板をプラズマ反応管炉5内に挿入した。そして、高周波誘導加熱により熱せられた鉄板を介して溶融・気化したナトリウムの気化ガスプラズマを発生させた。
酸化チタンを担持させる場合には、四塩化チタンの液体(100mL)をビーカー内に注いで、このビーカーをプラズマ反応管炉5内に挿入し、減圧下での気化促進効果によって、蒸気化させて、四塩化チタンの気化ガスプラズマを発生させた。
その後に、硝酸銀プラズマ及び四塩化チタンプラズマを照射した場合には、蒸留水による洗浄を行った。これに対して、ナトリウムアミドプラズマを照射した場合には、ナトリウムと水との反応性を考慮して洗浄を行わなかった。
【0042】
ここで、第1のプラズマ照射工程の酸素プラズマの照射時間を、5分から150分までの6段階に変えて、それぞれの照射時間の試料に対して、XPS(X線光電子分光法)によるマルチ測定を行った。
その測定結果から、木粉への酸素プラズマの照射時間によって、木粉の主成分である炭素原子及び酸素原子の相対含有率が変化することがわかった。具体的には、照射時間が増えると共に、炭素原子の相対含有率が減り、酸素原子の相対含有率が増えていくが、照射時間が120分以上になると、相対含有率がほぼ一定値を維持することがわかった。
第2のプラズマ照射工程についても、プラズマの照射時間を6段階に変えて、同様の実験を行ったところ、照射時間が30分以上になると、金属の吸着量が一定値を維持することがわかった。
この結果を踏まえて、以下、第1のプラズマ照射工程の酸素プラズマの照射時間を120分に、第2の照射工程の照射時間を30分に、それぞれ設定した。
【0043】
プラズマ照射工程を行った各試料は、蒸留水で洗浄した後に、XPS測定を行った。XPS測定において、励起X線源として、Alのモノクロ線を使用して、測定電圧を15kV、出力を400Wとした。なお、イオン銃及び試料表面への蒸着作業は施さず、試料のオリジナルの状態で測定を行った。
また、プラズマ照射工程を行っていない、オリジナル試料の木粉に対しても、XPS測定を行った。
四塩化チタンプラズマ照射後の木粉のXPS測定結果を、図2に示す。
ナトリウムアミドプラズマ照射後の木粉のXPS測定結果を、図3に示す。
硝酸銀プラズマ照射後の木粉のXPS測定結果を、図4に示す。
【0044】
図2〜図4にそれぞれ示すように、チタン、ナトリウム、銀を含有した各前駆体ガスプラズマを照射することによって、それぞれ、チタン、ナトリウム、銀のスペクトルピークが新たに出現した。
また、図示しないが、プラズマ照射工程を行っていないオリジナル試料の場合では、酸素と炭素を除いては、当然のことながら、酸化チタン、ナトリウム及び銀のピークは現れなかった。
図2において、塩素のスペクトルピークは、現れなかった。このことは、四塩化チタンプラズマ照射後の水洗浄中に塩素が除去されたことを意味している。
図3及び図4において、窒素のピークは確認されなかった。
【0045】
プラズマ非照射のオリジナル試料と、第1のプラズマ照射工程(酸素プラズマ照射)のみを行った試料と、第2のプラズマ照射工程を行った3種類(チタン、ナトリウム、銀)の試料とについて、試料中の酸素、炭素、チタン、ナトリウム、銀の各濃度を、表1にまとめて示す。
また、比較対照として、酸素プラズマの照射を省略して、硝酸銀ガスプラズマを直接木粉に照射した場合の試料の測定も行った。この比較対象の試料の各濃度を、AgNOとして、表1に併せて示す。
【0046】
【表1】

【0047】
セルロース表面への金属の担持は、セルロース分子と金属とが共有結合することによって可能となる。しかしながら、リグニン成分は、セルロール分子と金属との共有結合を阻止する働きをする。
そこで、リグニンをオゾンの強い酸化力によって酸化固定させる必要がある。
表1から、酸素プラズマ照射の場合では、オリジナルと比べ、36%の酸素濃度の増加が確認できた。このことから、木粉中のリグニン成分がオゾン酸化されたことが、十分に推測できる。その結果、目的の金属を1%〜4%の割合で、ウッドチップにそれぞれ担持させることができた。
また、表1のAgNOの試料の銀含有濃度は0.75%であり、酸素プラズマ照射工程を省略すると、木粉への銀の担持が十分に行われないことが分かった。
従って、木粉に金属を担持させるには、リグニンのオゾン酸化が重要な工程の一つである。
【0048】
第2の試料のコーヒーかすについても、第1の試料の木粉と同様に実験を行った。第2の試料(コーヒーかす)の各試料中の酸素、炭素、チタン、ナトリウム、銀の各濃度を、表2に示す。
【0049】
【表2】

【0050】
表2より、第2のプラズマ照射工程を行った金属担体の金属の含有割合は、1%かそれ以下に過ぎなかった。
コーヒーの成分は、一般に、セルロース10%、リグニン5%であり、木粉の1/5以下である。このように、オゾン酸化される成分の割合が少ないことが、担持される金属の含有割合が小さくなった要因であると考えられる。実際に、オリジナルの試料と酸素プラズマ照射のみの試料とを比較すると、酸素の増加量が表1と比較してかなり小さくなっており、この推測を裏付けている。
【0051】
(親水性テスト)
一般に、試料が一旦酸素プラズマによって暴露されると、試料表面には親水性に富んだ官能基が修飾される。
ここで、プラズマ照射工程による親水性の変化を調べた。
200mL用のガラスビーカーの約2/3を蒸留水で満たし、その液面上に、各々3gの木粉試料を静かに投下した。
そして、90%の木粉が容器の底に到達するまでの時間を計測した。約10%程度の木粉は、ゴミの付着や粉体同士の重なりのために、液面上に停滞するので、除外した。
非プラズマ照射のオリジナルの試料、酸素プラズマ照射のみを行った試料、各金属を担持させた3種類の木粉試料について、それらの水中内沈降・水没時間を測定した。この測定結果を、図5に示す。
図5に示すように、オリジナル木粉の場合、木粉が容器底に到達するのに352秒かかった。他方、このオリジナル木粉が酸素プラズマ照射されると、急激に親水性能が向上することが分かった。また、金属を担持させると、親水性が低下しており、親水性の官能基に金属が作用したことがわかる。
【0052】
次に、酸素プラズマ照射によって、試料表面に親水性に富んだ官能基が確かに修飾されていることを確かめるために、各試料のFT−IR測定を行った。
まず、オリジナル木粉の測定結果を図6Aに示し、酸素プラズマ照射のみを行った試料の測定結果を図6Bに示す。
図6Aに示すように、オリジナル木粉に関しては、顕著な官能基は存在していない。
しかし、図6Bに示すように、酸素プラズマ照射を行った試料の場合では、C−O結合のピークが波数1030cm−1の近傍において現れ、また1500cm−1の近傍にベンゼン環が、2900cm−1の近傍に−COOH(カルボキシル基)が、3300cm−1の近傍に−OH(ヒドロキシル基)が、それぞれ出現した。
【0053】
酸素プラズマの照射によって、木粉の表面にこのような官能基が修飾される理由は、以下のプラズマ化学反応によるものと考えられる。
木粉の表面が低温プラズマによって照射されると、その木粉を構成している分子結合、即ちC−H結合は、プラズマの強い電子エネルギーによって切断され、水素原子は軽いのですぐに引抜かれる。このとき、プラズマの前駆体として酸素ガスが導入されると、酸素分子そのものは酸素原子と結合してオゾンを生成する。同時に、プラズマ反応炉内では、・OH,・H,O等の活性種が多く生成される。その結果として、これらの活性種が水素原子の引き抜かれた木粉と反応することにより、−CO−,−COOH,−OH等の酸素に富んだ官能基が表面に修飾される。
【0054】
第2のプラズマ照射工程により金属を担持させた各試料のFT−IR測定の測定結果を、図7C〜図7Eに示す。図7Cは、四塩化チタンプラズマを照射した試料の測定結果である。図7Dは、ナトリウムアミドプラズマを照射した試料の測定結果である。図7Eは、硝酸銀プラズマを照射した試料の測定結果である。
図7C〜図7Eに示すように、図6Bで出現していた、官能基が現れていない。
このことは、修飾された官能基の先端に、金属がそれぞれ置換され、担持されたことを裏付けている。例えば、2価のカルボニル基の結合の1つが金属と置換され、また1価のヒドロキシル基やカルボキシル基の水素原子が金属と置換される。
【0055】
(銀イオン水の銀イオン濃度)
木質バイオマスの銀担体から銀イオン水を作製した場合を想定して、銀イオン水の銀イオンの濃度を調べた。
具体的には、100mLの蒸留水が入ったビーカーに、銀が吸着された木粉3gを投入し、銀イオン濃度の時間変化を測定した。
銀が吸着された木粉試料をビーカー内の水面に静かに散らすと、試料が浸水し始めるが、約90%の試料が浸水した時点で、銀イオン濃度の測定を開始した。
銀イオン濃度の測定は、ポータブルイオン・PH測定器に、銀イオン複合センサー(測定範囲:0.1mg/L〜108,000mg/L,Ag)を取り付けることによって、行った。
測定により得られた銀イオン濃度の時間変化を、図8に示す。
図8に示した第1回目の実験(run1)は、この状態で測定した銀イオン濃度の時間変化である。測定開始時において約40mg/Lの濃度を示したが、時間の経過と共に濃度は減少した。この減少の主要因は、水中の水酸化物イオンOHの発現に伴い、銀イオンがこれと反応して水酸化銀に変化し、更に酸化銀へと変化したためと考えられる。事実、30時間後には、水容器内壁に酸化銀と思われる褐色固体の付着が確認された。
【0056】
第2回目の実験として、第1回目の実験の使用済み試料を24時間乾燥させて、再び第1回目と同様に100mLの蒸留水が入ったビーカー内に静かに投入して、銀イオン濃度の時間変化を測定した。この測定結果を、図8のrun2に示す。
第2回目(run2)の測定の開始時では、run1と比べて濃度は僅か減っているが、10時間強過後にはrun1とほとんど同じ濃度の0.63mg/Lを示した。
このことは、木粉内に、再利用性の高い触媒機能を備えた活性金属種が生成されたことを意味している。銀イオン水濃度が0.1mg/Lでは、大半の菌類が滅菌されるという報告(例えば、菊地靖志,「抗菌性金属材料の現状と課題」,まてりあ,Vol.39,p.146-150,(2000)や、内田他,「最小発育阻止濃度環境における銀イオンの抗菌作用」,防菌防黴学会誌,Vol.32,p.115-121,(2004)を参照のこと)から判断すると、0.63mg/Lは滅菌に対して十分に高い濃度であると言える。
【0057】
3回目の実験として、第1回目の実験に使用した試料と同様にして得られた銀が吸着された木粉試料を、100mLの蒸留水が入ったビーカー内に投入して、銀イオン濃度の減衰特性を調べた。ただし、測定開始前に、試料の水中内攪拌と、試料の入ったビーカーの毎分100回の速さで30分間の揺振とを、それぞれ行った。そして、試料をビーカーから取り除いて、その状態でのビーカーの内部の水に含有されている銀イオン濃度を測定した。この測定結果を、図8のrun3に示す。
3回目の実験(run3)では、開始時に139mg/Lの高濃度の銀イオンが現われ、時間が経過しても濃度の極端な減少は認められなかった。15時間後には117mg/L、30時間後には112mg/Lの濃度を示した。
このことは、試料液中での酸化銀への反応変化が飽和に達したため、銀イオン濃度はほぼ一定値を維持するからであると考えられる。
【0058】
第2のプラズマ照射工程における、炉内に前駆体として挿入する硝酸銀の量を、5g,10gとして、それぞれ銀を吸着させた木粉試料を作製した。
作製したそれぞれの試料に対して、銀イオンの濃度の時間変化を調べた。実験条件は、図8の第1回目の実験(run1)と同じ条件とした。
測定結果として、測定開始時の濃度を100%としてそれを基準に正規化された銀イオン水濃度の時間変化を、図9に示す。
【0059】
図9より、いずれの試料においても、時間の経過と共に、銀イオン水中の銀イオン濃度が減少している。
また、硝酸銀の量を10gと多くした方が、銀イオン濃度の減少割合が少なくなっている。これは、プラズマ反応管炉5内に前駆体として挿入する硝酸銀の量を増やすと、銀の蒸発量が増して、結果として銀イオン濃度が高くなるものと考えられる。
硝酸銀10gの試料の場合、2時間後でも最初の濃度の80%を保持し、24時間後でも75%を保持していた。
しかしながら、前駆体としての硝酸銀の量を増やせば、プラズマ反応管炉5から真空ポンプ10を介して気化物質が無駄に排気される量も増す結果となることから、木粉試料の量に見合った前駆物質の適量が存在する。即ち、真空ポンプを介して気化物質が無駄に排気されること無く、気化物質が有効に担体に吸着されることが重要である。
【0060】
(殺菌効果の検証)
銀イオンは、それ自体が人体に無害であり、殆どの細菌(レジオネラ属菌、サルモネラ菌、黄色ブドウ球菌、緑膿菌、大腸菌O−157H7、ヘリコバクターピロリ菌)等に対して、強い殺菌力を有する点が注目されている。
そこで、木質バイオマスの銀担体の殺菌効果の実証実験を、次のようにして行った。
【0061】
ミャンマー産の黒胡麻の表面に付着した一般生菌を用いて、以下に示すペトリフィルムを用いたコロニー検査によって、殺菌効果を確かめた。
まず、黒胡麻を蒸留水中に投入した後に、攪拌棒で十分にかき回す。これにより、全ての付着菌が水中に放出される。
次に、その蒸留水1mLをペトリフィルム培地上に接種させて、インキュベータ内において、培養温度35℃、炭酸ガス濃度5%の条件で、48時間培養させた。
48時間後に、赤色斑点を形成する菌のコロニーを計数することによって、殺菌効果を評価した。
【0062】
黒胡麻から採取した一般生菌を培養した結果を、図10Aの写真に示す。この場合、157個のコロニーが確認された。
これに対して、一般生菌を100ppmの銀イオン濃度の銀イオン水に5分間投入した後に、培養した場合の結果を、図10Bの写真に示す。この場合、コロニーは確認されず、菌は直ちに死滅したことが実証された。
また、一般生菌をpH=3.46に調整した酸性水に5分間投入した後に、培養した場合の結果を、図10Cの写真に示す。これは、用いた銀イオン水がpH=3.46であったため、滅菌に及ぼす酸性の影響を検討したものである。この場合、111個のコロニーが検出された。このことから、菌の死滅は、酸性の影響によるものではなく、銀イオンによるものであることが確認された。
【0063】
(ナトリウム担体の特性評価)
銀担体の試料と同様に、ナトリウム担持の試料を水中に投入して、発現するナトリウムイオンの濃度を調べた。
100mLの蒸留水に、ナトリウムが吸着された粉体を、0.1gずつ静かに投入し、投入毎に、水中に常時挿入されたナトリウムイオン電極によって、水中のナトリウムイオン濃度を読み取った。全量で2.0g投入して、投入を終了した。
測定結果として、投入した試料の量と、ナトリウムイオンの濃度との関係を、図11に示す。
【0064】
図11より、水中に投入する試料の量が増えると共に、ナトリウムイオンの濃度が増すことを示している。
そして、ナトリウム担体を全量2.0g投入したとき、ナトリウムイオンの濃度は、約20mg/Lであった。
【0065】
続いて、木質バイオマスのナトリウム担体について、塩素の吸着効果を調べた。
37%濃度の塩化水素水溶液(塩酸)を使用して、減圧下及びプラズマ照射下におけるナトリウム担体への塩素結合状態を調べた。
塩酸10mLの入ったビーカー及びナトリウム担体の試料2.5gを、石英反応管炉内に装填し、減圧状態下(炉内は5Torrに保持)で30分間放置した場合と、高周波電源アノード電圧3kVをかけて塩化水素ガスプラズマを発生させ、この塩化水素ガスプラズマ状態下で30分間暴露させた場合との、2種類の実験を行った。
それぞれの実験後の試料に対して、XPSによるマルチ測定を行って、ナトリウム担体に含有されている塩素の割合を測定した。
この測定結果を、表3に示す。
【0066】
【表3】

【0067】
表3から、プラズマが発生しない減圧状態下においても、ナトリウムを担持した木粉が、塩化水素から塩素を奪って、塩素を木粉に吸着させることが判明した。
プラズマを照射した場合には、塩化水素ガスそのものがプラズマによって水素イオンと塩素イオンに電離されるため、木粉への吸着割合は減圧条件下の場合よりも大きくなる。
【0068】
ここで、XPS測定によって、Naバンドの束縛エネルギー値を調べたところ、1072.5eV付近にピークが認められた。このピーク位置は、Na化合物であるNaClに相当しているため、塩素の吸着はNaClを含む化合物の生成によって達成されている、ということが確認できた。
減圧条件及びプラズマ条件のいずれの場合も、このNaバンドの束縛エネルギー値は同じであった。
【0069】
本発明に係る木質バイオマスの金属担体が有するリグニン成分は、土壌汚染を引き起こすダイオキシン類と分子構造が似ている。また、木材が腐朽する時には、その成分であるリグニンを分解する酵素群を持つ白色腐朽菌(キノコの一種)の存在が現在明らかにされている。
そこで、この菌を採取して、ダイオキシン類に汚染された土壌の浄化やダイオキシン類などの多様な難分解性化合物を分解させるバイオレメディエーション技術が研究されている。
また、ナトリウムイオン水となって、汚染土壌に浸み込んだ際には、そのイオン水は強い吸着機能によって脱塩素化を促し、そこに吸着させ、塩素のみならず、各種金属及びイオンをも含有した溶液となって、地下深くまで浸透する。そして、その溶液は、平衡状態における濃度よりも濃く、そこには多くの分子やイオンを含んだ溶質が混在し、更に地下圧力によって、一旦は過飽和状態が達成される。次に、この状態下において、何らかのトリガー(例えば地盤振動等)によって、瞬時に固体結晶が生成する。重金属類等は、このようにして結晶中の成分となって、地下に固定されることが期待できる。
【0070】
(光触媒機能の測定)
木質バイオマスの二酸化チタン担体の光触媒機能を調べるため、臭いモニター(OMX−SR)を用いて、臭気の吸着度を測定した。
オリジナルの木粉及び二酸化チタン担体の各試料を、それぞれ用意した。
まず、各試料3gを線香の排煙で充満された密閉容器内に挿入し、60分間臭いを木粉に吸着させた。
次に、密閉容器から木粉試料を取り出した後に、それぞれの木粉内に臭いモニターのサンプリング口を挿入して、臭気強度を測定した。この臭いモニターにおいて、臭気強度は無次元数で示され、その臭気強度が小さければ臭気は弱いことを示し、臭気強度が大きければ、臭気が残存していて、強いことを示す。
さらに、密閉容器から取り出した木粉試料を、波長253.7nmの紫外線に3時間暴露させた。ここで、紫外線の出力は4.9W、紫外線の放射強度は51μW/cmであった。
紫外線に暴露させた各試料について、再び臭気強度を測定した。
臭気強度の測定結果を、表4に示す。表4において、“Before”は紫外線への暴露前の臭気強度を示し、“After”は、暴露後の臭気強度を示している。
【0071】
【表4】

【0072】
オリジナルの木粉試料は、光触媒性を示さず、紫外線を照射しても、臭気は変化しなかった。
他方、二酸化チタン担体の試料は、紫外線照射後の臭気強度が照射前の1/3に減少した。このことから、臭いの大半は、物理的に吸着しているわけではなく、化学的に結合しており、光触媒によって分解されるものであることが判明した。
【0073】
酸化チタンを担持させた木粉は、脱臭機能のみならず、抗菌機能を有している。
そのため、酸化チタン担体は、タバコの煙を分解するフィルター材のような脱臭材のみならず、例えば、病院内での空気洗浄・抗菌材として応用も期待できる。
【0074】
続いて、各試料表面をSEM(走査型電子顕微鏡)によって観察した。観察した結果を、図12A〜図12Eの写真に示す。図12Aは、オリジナル木粉の試料(倍率1000倍)を示している。図12Bは、酸素プラズマのみを照射した試料(倍率1000倍)を示している。図12Cは、酸化チタン担体の試料(倍率1000倍)を示している。図12Dは、ナトリウム担体の試料(倍率1000倍)を示している。図12Eは、酸化チタン担体の試料(倍率5000倍)を示している。
【0075】
図12Aと他の写真とを比較してわかるように、プラズマに暴露された表面は、非照射のオリジナル木粉の表面と比べて滑らかさは失っている。
図12Bに示すように、酸素プラズマのみを照射した試料では、一様な長い筋模様が現れている。
図12C及び図12Dに示すように、金属担体は、いずれも全面が多孔質性を示している。ナトリウム担体の場合において、それが顕著に現れている。そして、図12Eに示すように、拡大して観察すると、酸化チタン担体はかなり多孔質性に富んでいることが判明する。
【0076】
SEMによる観察結果からでは、多孔質表面の比表面積、平均細孔径等の定量的な特性は不明である。
しかしながら、金属イオンや光触媒性が発現するためには、木質バイオマスの金属担体が多孔質性に富んでいることが重要であることが確認された。
【0077】
本発明は、上述の実施の形態や実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲でその他様々な構成が取り得る。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】木質バイオマスの金属担体の製造装置の一形態の概略構成図である。
【図2】四塩化チタンプラズマ照射後の木粉のXPS測定結果である。
【図3】ナトリウムアミドプラズマ照射後の木粉のXPS測定結果である。
【図4】硝酸銀プラズマ照射後の木粉のXPS測定結果である。
【図5】各試料の水中内沈降・水没時間を比較して示す図である。
【図6】A、B 各試料のFT−IR測定結果を示す図である。
【図7】C〜E 各試料のFT−IR測定結果を示す図である。
【図8】銀イオン濃度の時間変化を示す図である。
【図9】正規化された銀イオン水濃度の時間変化を示す図である。
【図10】A〜C 一般生菌の培養試験の結果を示す写真である。
【図11】ナトリウム担持粉体試料を水中に投入したときのナトリウムイオン濃度を示す図である。
【図12】A〜E 各試料表面のSEMによる観察結果を示す写真である。
【符号の説明】
【0079】
1 水タンク、2 揚水ポンプ、4 銅パイプ、5 プラズマ反応管炉、6 Oガス、10 真空ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質バイオマスに対して、
酸素プラズマを照射する第1のプラズマ照射工程と、
金属元素を含有するプラズマを照射する第2のプラズマ照射工程とを行って、
前記第2のプラズマ照射工程で照射したプラズマの金属元素を、前記木質バイオマスに担持させる
ことを特徴とする木質バイオマスへの金属担持方法。
【請求項2】
前記第2のプラズマ照射工程において、硝酸銀を用いて、銀を含有するプラズマを発生させることを特徴とする請求項1に記載の木質バイオマスへの金属担持方法。
【請求項3】
前記第2のプラズマ照射工程において、ナトリウムアミドを用いて、ナトリウムを含有するプラズマを発生させることを特徴とする請求項1に記載の木質バイオマスへの金属担持方法。
【請求項4】
前記第2のプラズマ照射工程において、四塩化チタンを用いて、チタンを含有するプラズマを発生させることを特徴とする請求項1に記載の木質バイオマスへの金属担持方法。
【請求項5】
金属元素を含む物質が、木質バイオマスに担持されていることを特徴とする木質バイオマスの金属担体。
【請求項6】
前記金属元素を含む物質として、銀、ナトリウム、酸化チタンのいずれかが担持されていることを特徴とする請求項5に記載の木質バイオマスの金属担体。
【請求項7】
請求項2に記載された木質バイオマスへの金属担持方法により作製した前記木質バイオマスの銀担体を、水中に入れて、銀イオンを水中に溶出させることを特徴とする銀イオン水の製造方法。
【請求項8】
請求項3に記載された木質バイオマスへの金属担持方法により作製した前記木質バイオマスのナトリウム担体を、水中に入れて、ナトリウムイオンを水中に溶出させることを特徴とするナトリウムイオン水の製造方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図11】
image rotate

【図10】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2009−101331(P2009−101331A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−278122(P2007−278122)
【出願日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年5月22日〜25日 社団法人 日本伝熱学会主催の「第44回 日本伝熱シンポジウム」に文書をもって発表
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【Fターム(参考)】