説明

木質ボードの製造方法

【課題】木質原料に多価カルボン酸を添加することを前提に、強度と寸法安定性、特に含水率変化に対するボードの面方向の寸法安定性を高めた木質ボードを製造する方法を提供する。
【解決手段】
水分を含む雰囲気下で木削片を加熱した後、該加熱した木削片から湿式繊維に解繊する工程と、該解繊された湿式繊維に、多価カルボン酸を溶解した水溶液、または、多価カルボン酸無水物を溶解した水溶液を塗布することにより、該解繊された湿式繊維の表面に多価カルボン酸を付着させる工程と、該多価カルボン酸が付着した湿式繊維を加圧及び加熱することにより、木質ボードを成形する工程と、を少なくとも含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質原料に多価カルボン酸を添加して熱圧成形することで、強度と寸法安定性に優れた木質ボードを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、木質ボードは、フレーク、チップ、繊維等の木質原料に接着剤となる合成樹脂を加え、これらを熱圧成形して製造される。
【0003】
しかし、接着剤として用いられる合成樹脂は、資源枯渇の問題など地球環境の観点から、必ずしも好ましいと言えない。このような観点から、例えば、粉末化または小片化された木質由来物(木質原料)とクエン酸などの多価カルボン酸を混合し、この混合物を加熱、加圧して木質ボードを成形する方法が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【0004】
また、別の製造方法として、チップ、フレークなどの木質原料に、マレイン酸等の多価カルボン酸を添加し、木質原料を水蒸気に接触させる処理を行い、これを乾燥、粉砕と順次処理した後に、加熱、加圧により木質成形体を製造する方法が提案されている(たとえば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開2001/1988号
【特許文献2】特開2008−238448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、木質原料に多価カルボン酸を添加して木質ボード・成形体を製造する試みが行われている。しかしながら、これらの技術は、木質原料にカルボン酸を添加して成形・接着することに主眼が置かれており、上述した木質原料で、木質ボード成形したとしても、木質ボードにとって実用上重要な性能である、強度と寸法安定性が充分に得られない場合があった。
【0007】
本発明は、このような点を鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、木質原料に多価カルボン酸を添加することを前提に、強度と寸法安定性、特に含水率変化に対するボードの面方向の寸法安定性を高めた木質ボードを製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を鑑みて、発明者らが鋭意検討を重ねた結果、木質ボードの強度を高めるには、木材に含まれるリグニンと、多価カルボン酸とを積極的に接触させながら、木質ボードを熱圧により成形することが重要であることがわかった。
【0009】
そこで、発明者は、上述した木質粉末の表面にはリグニンが豊富に存在しているとはいえず、またはチップ状、フレーク状の木質小片は、その内部の木質繊維にリグニンが豊富に含まれているので、多価カルボン酸の添加量にかかわらず、木質原料に含まれるリグニンと多価カルボン酸とを積極的に接触させるに至らないと考えた。
【0010】
そして、発明者は、様々な形態の木質原料を用いてさらなる実験を行うことにより、水分を含む雰囲気下で木削片を加熱した後に、この木削片を解繊した木質繊維(以下、湿式繊維という)の繊維表面には、上述したものに比べてリグニンを豊富に含む層が露出し、このような形態の木質原料(湿式繊維)は、リグニンを多価カルボン酸に積極的に接触することができるとの新たな知見を得た。
【0011】
以下に示す第1〜第3の発明は、発明者の上記新たな知見に基づくものであり、第1の発明に係る木質ボードの製造方法は、水分を含む雰囲気下で木削片を加熱した後、該加熱した木削片から湿式繊維に解繊する工程と、該解繊された湿式繊維に、多価カルボン酸を溶解した水溶液、または、多価カルボン酸無水物を溶解した水溶液を塗布することにより、前記解繊された湿式繊維の表面に多価カルボン酸を付着させる工程と、該多価カルボン酸が付着した湿式繊維を加圧及び加熱することにより、木質ボードを成形する工程と、を少なくとも含むことを特徴とする。
【0012】
第2の発明に係る木質ボードの製造方法は、水分を含む雰囲気下で木削片を加熱した後、該加熱した木削片から湿式繊維に解繊する工程と、該解繊された湿式繊維に、多価カルボン酸アンモニウム塩を溶解した水溶液を塗布することにより、該解繊された湿式繊維の表面に多価カルボン酸アンモニウム塩を付着させる工程と、該多価カルボン酸が付着した湿式繊維を加圧及び加熱することにより、木質ボードを成形する工程と、を少なくとも含むことを特徴とする。
【0013】
第3の発明に係る木質ボードの製造方法は、水分を含む雰囲気下で木削片を加熱した後、該加熱した木削片から湿式繊維に解繊する工程と、該解繊された湿式繊維の表面に多価カルボン酸の粉末、または、多価カルボン酸無水物の粉末を付着させる工程と、該粉末が付着した湿式繊維を加圧及び加熱することにより、木質ボードを成形する工程と、を少なくとも含むことを特徴とする。
【0014】
ここで、水分を含む雰囲気下で木削片を加熱した後にこれを解繊した木質繊維は、その繊維表面にリグニンを豊富に含む層が露出する。このリグニンを利用することにより、これまでに比べて、第1〜第3の発明のいずれの発明の場合であっても、僅かな量の多価カルボン酸により、成形時(熱圧時)における湿式繊維の流動性が向上し、木質ボードの表面が高密度となる強度に優れた木質ボードを得ることができる。さらに、木質原料の長繊維化と多価カルボン酸の添加によるエステル結合の生成により、木質ボードの強度、および吸湿時における面方向の寸法安定性を向上させることができる。
【0015】
具体的には、多価カルボン酸またはその粉末が付着した湿式繊維を加熱及び加圧する(熱圧する)ことにより、湿式繊維表面の水酸基と、多価カルボン酸のカルボキシル基とが脱水縮合反応する。これにより、湿式繊維の表面においてエステル結合が生成される。ここで、多価カルボン酸には複数カルボキシル基が存在するので、多価カルボン酸のエステル結合を介して湿式繊維間が架橋される。
【0016】
このような結果、湿式繊維同士を接着(拘束)して強度が発現する。またこれにより、繊維が吸放湿に伴って膨潤・収縮を起こしても繊維同士の動きが拘束され、木質ボードの寸法変化も抑制される。さらに、エステル結合の生成により湿式繊維が疎水化され、木質ボードの含水率変化を抑えることができる。
【0017】
なお、第1の発明の場合には、多価カルボン酸無水物を溶解した水溶液を用いた場合、多価カルボン酸無水物は加水分解されて多価カルボン酸となる。したがって、多価カルボン酸を溶解した水溶液および多価カルボン酸無水物を溶解した水溶液のいずれの水溶液を用いた場合であっても、湿式繊維の表面に多価カルボン酸を付着させることが可能となり、上述した効果を期待することができる。
【0018】
また、第1の発明の場合には、多価カルボン酸を溶解した水溶液、または、多価カルボン酸無水物を溶解した水溶液を前記湿式繊維に塗布することにより、前記湿式繊維に前記多価カルボン酸を付着させるので、第3の発明のこれらの粉末を用いたものに比べて、湿式繊維の表面に、多価カルボン酸を均一に付着することができる。
【0019】
また、第2の発明の場合には、多価カルボン酸アンモニウム塩は、水溶液の状態では多価カルボン酸とアンモニアに電離し、さらに、その後乾燥した場合には、多価カルボン酸アンモニウム塩となって、これが湿式繊維に付着する。そして、木質ボードの成形工程で、熱圧により、多価カルボン酸アンモニウム塩は、多価カルボン酸とアンモニアに熱分解し、さらに、湿式繊維の表面に付着したアンモニアは加熱により揮発するので、その結果、ボードのpH値を低下させ、成形段階で木質ボードを酸性にすることができる。そのため、第1の発明(請求項1に記載発明)の効果と同様に、木材とカルボン酸の反応(エステル化)が進行し、多価カルボン酸未添加の木質ボードと比較して、強度と寸法安定性に優れた木質ボードが得られる。
【0020】
さらに、第3の発明の場合、粉末状態の多価カルボン酸は、第1の発明と同様に、成形工程の熱圧により、湿式繊維とエステル化反応を起こす。また、粉末状態の多価カルボン酸無水物は、無水物の状態で湿式繊維とエステル化反応を起こす。
【0021】
ここで、湿式繊維とは、例えば、水、水蒸気など水分を含む雰囲気下で加熱して、木削片の木質繊維を解し(木削片を軟化させ)、解した木質繊維をリファイナーなどを用いて解繊処理した繊維のことをいう。
【0022】
第1〜3の発明の解繊工程における解繊方法としては、例えば、木削片を煮沸槽内で煮沸し、煮沸した木削片を解繊する煮沸解繊処理、蒸気を利用した蒸気解繊処理などを挙げることができる。しかしながら、より好ましい態様としては、前記解繊工程において、木削片を0.5〜1.0MPaの蒸気圧下で1〜10分間蒸気処理し、前記蒸気処理された木削片を、前記蒸気圧下で湿式繊維に解繊する。
【0023】
この態様によれば、解繊処理を行うことにより、煮沸処理後の解繊繊維に比べて、湿式繊維を損傷させることなく、より長い湿式繊維を得ることができる。これにより、木質ボードの強度をより高めることができる。
【0024】
さらに、湿式繊維に解繊されるときに、上述した蒸気圧力下(すなわち、高温・高圧下)で処理された湿式繊維表面のリグニンは、木質ボードの成形時に、多価カルボン酸と反応しながら軟化するので、加圧時に湿式繊維同士が流動し易くなる。これにより、木質ボードの表面が高密度となる木質ボードを得ることができる。
【0025】
ここで、蒸気圧が0.5MPa未満の場合、または、蒸気処理時間が1分未満の場合には、木削片の木質繊維は解され難いため、その後、解繊処理により湿式繊維を得ることが難しい場合がある。一方、蒸気圧が、1.0MPaを超えた場合、または、蒸気処理時間が10分を超えた場合には、木削片の木質繊維が損傷する場合があり、煮沸解繊繊維の繊維長さと同等、またはそれよりも短くなるおそれがある。
【0026】
また、より好ましい態様としては、前記解繊工程において、上述した範囲の蒸気圧および蒸気処理時間を選定することにより、前記湿式繊維の繊維長さを少なくとも1mm以上に解繊する。この態様によれば、湿式繊維の繊維長さを1mm以上とすることにより、木質ボードの強度を向上することができる。
【0027】
また、第1および第2の発明の場合、前記湿式繊維に水溶液を塗布した後に、湿式繊維を乾燥させ、乾燥した湿式繊維で木質ボードを成形してもよい。木質ボードに成形する前の湿式繊維を予め乾燥させるので、乾燥を行わないものと比べて、成形後の木質ボード内の含水量を抑えることができ、木質ボードの寸法安定性を図ることができる。
【0028】
また、第1の発明に係る多価カルボン酸を付着させる工程において、多価カルボン酸または多価カルボン酸無水物は、上述した効果を期待することができるものであれば特に限定されるものではない。しかしながら、より好ましい態様としては、前記多価カルボン酸に、クエン酸、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸、マレイン酸、リンゴ酸、及びイタコン酸の群の少なくとも一種から選択された多価カルボン酸を用い、前記多価カルボン酸無水物に、前記選択された多価カルボン酸の無水物を用いる。
【0029】
この態様によれば、これらの水溶液に含まれる多価カルボン酸は、少なくとも200℃以上で湿式繊維の繊維表面のリグニンを軟化させることができる。特に1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸、マレイン酸は、他の多価カルボン酸に比べて、少なくとも160℃以上でリグニンを軟化させることができるので、木質ボードの成形をより低温で行うことができる。
【0030】
より好ましい態様としては、前記多価カルボン酸に、クエン酸またはクエン酸無水物を用い、前記湿式繊維に対して、前記クエン酸またはクエン酸無水物を2〜15質量%含有させる。この態様によれば、木質ボードの曲げ強度の向上と、吸湿時における寸法安定性の向上とを発現することができる。
【0031】
すなわち、含有させるクエン酸またはその無水物の量が2質量%未満の場合には、木質ボードの曲げ強度の低下や、寸法安定性の低下が懸念される。一方、含有させるクエン酸またはその無水物の量が15質量%を超えたとしても、それ以上の効果が期待できず、木質ボードの変色(退色)が進行するおそれがある。
【0032】
また、別の態様としては、多価カルボン酸に、マレイン酸を用い、前記多価カルボン酸無水物に、マレイン酸無水物を用い、前記湿式繊維に対して、前記マレイン酸または前記マレイン酸無水物を2〜15質量%含有させる。
【0033】
この態様によれば、木質ボードの曲げ強度の向上と寸法安定性の向上とを発現することができる。上述したように、マレイン酸またはマレイン酸無水物を用いた場合には、クエン酸またはクエン酸無水物を用いた場合に比べて、より低い加熱温度(160℃以上)で木質ボードを成形できる。
【0034】
また、含有させるマレイン酸、または、マレイン酸無水物が2質量%未満である場合には、曲げ強度の低下や、寸法安定性の低下が懸念される。一方、含有させるマレイン酸またはマレイン酸無水物が15質量%を超えたとしても、それ以上の効果を期待することができない。
【0035】
また、第2の発明に係る多価カルボン酸アンモニウム塩は、上述した効果を期待することができるものであれば特に限定されるものではない。しかしながら、より好ましい態様としては、多価カルボン酸アンモニウム塩に、マレイン酸アンモニウム塩を用いる。
【0036】
この態様によれば、マレイン酸アンモニウム塩を用いることにより、第1の発明の如く、マレイン酸、またはマレイン酸無水物を用いた場合よりも、さらには、クエン酸アンモニウム塩等を用いた場合よりも、木質ボードの曲げ強度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、木質原料に多価カルボン酸を添加することを前提に、強度と寸法安定性、特に含水率変化に対するボードの面方向の寸法安定性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施例1、2に係る湿式繊維、比較例1に係る木粉、実施例1、2及び比較例1に係る木質ボードの表面を顕微鏡で観察した写真図であり、(a)は、実施例1に係る湿式繊維の写真図、(b)は、実施例1に係る木質ボードの表面の写真図、(c)は、実施例2に係る湿式繊維の写真図、(d)は、実施例2に係る木質ボードの表面の写真図、(e)は、比較例1に係る木粉の写真図、(f)は、比較例1に係る木質ボードの表面の写真図。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下に、第1〜第3の発明に係る実施形態を説明する。いずれの発明に係る実施形態も、木質片を木質繊維に解繊し、該解繊した木質繊維から木質ボードを製造する方法であり、中質繊維板(MDF)などの乾式の木質ボードを製造する方法である。
【0040】
これらの本実施形態における木質ボードの製造方法は、以下に示す、1.解繊処理工程、2.多価カルボン酸付着工程、及び3.成形工程を少なくとも含むものである。以下に、各工程について説明する。
【0041】
〔1.解繊処理工程〕
まず、第1〜第3の発明に係る実施形態の木質ボードの出発材料として、チップ状の木削片を準備する。木削片としては、例えば、スギ、マツ、ヒノキなどの針葉樹、ラワンなどの一般的に知られた広葉樹などを挙げることができる。
【0042】
次に、このような木削片を水分を含む雰囲気下で加熱後、加熱した木削片から湿式繊維に解繊する。具体的には、木削片を圧力容器内に投入し、0.5〜1.0MPaの蒸気圧下で1〜10分間蒸気処理する(蒸気処理)。その後、同じ圧力容器内で、蒸気処理後の木削片を、蒸気処理と同じ蒸気圧下で、リファイナーにより1mm以上の湿式繊維に解繊処理する。
【0043】
別の具体例としては、上述した解繊処理を常圧下で行っても良く、さらなる別の具体例としては、この木削片を沸騰水中に投入し、これを2〜3時間煮沸し(煮沸処理)、煮沸処理後の木削片をリファイナーにより解繊処理してもよい。
【0044】
このように、水分を含む雰囲気下で木削片を加熱した後にこれを解繊した木質繊維(湿式繊維)は、その繊維表面にリグニンを豊富に含む層を露出させることができる。ここで、蒸気処理の場合には、蒸気圧が0.5MPa未満の場合、または、蒸気処理時間が1分未満の場合には、木削片の木質繊維は解され難いため、その後、解繊処理により湿式繊維を得ることが難しい場合がある。一方、蒸気圧が、1.0MPaを超えた場合、または、蒸気処理時間が10分を超えた場合には、木削片の木質繊維が損傷する場合があり、煮沸処理後の湿式繊維の繊維長さと同等、またはそれよりも短くなるおそれがある。
【0045】
〔2.多価カルボン酸付着工程〕
このようにして、解繊された湿式繊維の表面に多価カルボン酸を付着する。
第1の発明の場合に係る実施形態の場合には、湿式繊維に多価カルボン酸を溶解した水溶液、または、多価カルボン酸無水物を溶解した水溶液を塗布し、塗布後の湿式繊維を乾燥させる(含水率5〜10%)ことにより、湿式繊維に前記多価カルボン酸を付着させる。これにより、湿式繊維の表面に、多価カルボン酸を均一に付着することができる。
【0046】
ここで、多価カルボン酸としては、クエン酸、リンゴ酸、イタコン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、アジピン酸、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸、マロン酸、グルタル酸、シュウ酸、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸などを挙げることができ、多価カルボン酸無水物としては、これらの例示した多価カルボン酸の無水物を挙げることができる。これらのうち、発明者の実験によれば、多価カルボン酸に、クエン酸、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸、マレイン酸、リンゴ酸、及びイタコン酸などを用いることがより好ましく、これらの多価カルボン酸の無水物を用いても、略同様の効果を期待することができる。
【0047】
そして、クエン酸またはクエン酸無水物を用いる場合には、湿式繊維に対して、クエン酸またはクエン酸無水物を2〜15質量%含有させる(添加する)。マレイン酸またはマレイン酸の無水物を用いる場合には、湿式繊維に対して、マレイン酸またはマレイン酸の無水物を2〜15質量%含有させることが好ましい。
【0048】
このように、本実施形態では、これらの多価カルボン酸またはこれらの酸の無水物の添加量の下限値に示すように僅かな多価カルボン酸であっても、充分に、後述する成形工程において、木質ボードの曲げ強度の向上と寸法安定性の向上とが両立した木質ボードを得ることができる。
【0049】
ここで、クエン酸またはクエン酸無水物の量が2質量%未満の場合には、木質ボードの曲げ強度の低下や、寸法安定性の低下が懸念される。一方、含有させるクエン酸またはクエン酸無水物の量が15質量%を超えたとしても、それ以上の効果が期待できず、木質ボードの変色(退色)が進行するおそれがある。
【0050】
マレイン酸またはマレイン酸無水物が2質量%未満である場合には、曲げ強度の低下や、寸法安定性の低下が懸念される。一方、含有させるマレイン酸またはマレイン酸無水物が15質量%を超えたとしても、それ以上の効果を期待することができない。
【0051】
また、第2の発明に係る実施形態では、多価カルボン酸を溶解した水溶液の代わりに、多価カルボン酸アンモニウム塩を溶解した水溶液を用いる。この実施形態では、多価カルボン酸アンモニウム塩は、水溶液の状態では多価カルボン酸とアンモニアに電離し、さらにその後乾燥した場合には、多価カルボン酸アンモニウム塩となって、これが湿式繊維に付着する。そして、以下に示す成形工程の熱圧により、多価カルボン酸アンモニウム塩は、多価カルボン酸とアンモニアに熱分解し、さらに、湿式繊維の表面に付着したアンモニアは加熱により揮発する。その結果、ボードのpH値を低下させ、成形段階で木質ボードを酸性にすることができる。そのため、第1の発明の効果と同様に、木材とカルボン酸の反応(エステル化)が進行し、多価カルボン酸未添加の木質ボードと比較して、強度と寸法安定性に優れた木質ボードが得られる。
【0052】
また、多価カルボン酸アンモニウム塩としては、上述の第1の発明に係る多価カルボン酸で例示した、多価カルボン酸とのアンモニウム塩を挙げることができ、より好ましい多価カルボン酸アンモニウム塩は、マレイン酸アンモニウム塩である。マレイン酸アンモニウム塩を用いることにより、マレイン酸、またはマレイン酸無水物を用いた場合よりも、さらには、クエン酸アンモニウム塩等を用いた場合よりも、木質ボードの曲げ強度を向上させることができる。
【0053】
また、第3の発明に係る実施形態では、多価カルボン酸を溶解した水溶液の代わりに、多価カルボン酸の粉末、または、多価カルボン酸無水物の粉末を用い、この粉末を直接、解繊された湿式繊維の表面に付着させる。このような方法であっても、成形工程の熱圧により、湿式繊維とエステル化反応を起こすので、後述する成形工程を経て得られた木質ボードは、第1の発明に実施形態で得られた木質ボードと略同等の曲げ強度をおよび寸法安定性を得ることができる。
【0054】
〔3.成形工程〕
第1〜第3のいずれの発明に係る実施形態も以下の成形工程を行う。具体的には、上述した多価カルボン酸、多価カルボン酸無水物、多価カルボン酸アンモニウム塩、多価カルボン酸の粉末、または多価カルボン酸無水物の粉末が付着した湿式繊維をマット成形機を用いて木質マットに成形する。成形された木質マットをプレス機に投入して、加圧及び加熱(熱圧)することにより、木質ボードを成形する。具体的には、多価カルボン酸が付着した湿式繊維からなる木質マットを、成形装置に投入し、加熱温度を160℃〜260℃、加圧条件として、0.2MPa〜7MPaで加圧保持時間1〜5分間で熱圧する。また、別の態様としては、所定の厚さ(例えば、3mm)で、所定のボード密度(例えば、0.8kg/cm)となる量の木質マットを準備し、これを所定の厚さ(例えば、3mm)まで、上記加熱温度および加圧保持時間(その厚さに到達してからの保持時間)で、木質マットを加圧してもよい。
【0055】
ここで、第1の発明に係る実施形態で示した1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸、マレイン酸、またはこれらのいずれかの酸の無水物を用いた場合には、クエン酸またはクエン酸無水物を用いた場合に比べて、以下の成形工程でより低い加熱温度(160℃以上)で木質ボードを成形できる。
【0056】
このように、これらの実施形態では、水分を含む雰囲気下で木削片を加熱した後にこれを解繊した木質繊維は、その繊維表面にリグニンを豊富に含む層を露出しているので、このリグニンを利用することにより、これまでに比べて、僅かな量の多価カルボン酸により、成形時における湿式繊維の流動性が向上し、強度に優れた木質ボードを得ることができる。さらに、木質原料の繊維化と多価カルボン酸の添加によるエステル結合の生成により、木質ボードの強度および寸法安定性を向上させることができる。
【実施例】
【0057】
以下に、本発明の実施例を説明する。
【0058】
〔実施例1〕
木削片として、大きさ数センチの針葉樹チップ(スギ)を100℃の煮沸槽で2〜3時間煮沸した。次に、常圧で、リファイナーで湿式繊維(煮沸解繊繊維)に解繊した。得られた湿式繊維の平均繊維長さを顕微鏡で測定した(サンプル数100の平均値)。この結果を表1に示す。得られた湿式繊維を顕微鏡観察した。結果を図1(a)に示す。
【0059】
次に、解繊された湿式繊維の表面に、湿式繊維(乾燥質量)に対して、多価カルボン酸として表2に示す割合のクエン酸が添加されるように、クエン酸水溶液を湿式繊維に塗布(噴霧)した。次に、ドライヤー(乾燥機)で含水率6%前後まで湿式繊維を乾燥し、カルボン酸を均一に木質原料の表面に固着(付着)させた。
【0060】
次に、このクエン酸が付着した湿式繊維を、マット成形機を用いて、厚さ70mmの木質マットに成形した。この木質マットを、プレス機に投入して、加熱条件、すなわち熱圧温度220℃、熱圧時間5分間、厚さ3mm(ボード密度0.8g/cm)となるように加圧することにより、木質ボード(木質繊維板)を得た。得られた木質ボードの表面を顕微鏡観察した。この結果を図1(b)に示す。
【0061】
〔実施例2〕
実施例1と同じようにして、木質ボードを製造した。実施例1と相違する点は、スギを含む木削片の蒸気処理と解繊処理を同一の圧力容器内で行った点である。具体的には、上述した大きさ数センチの針葉樹チップを0.5〜1.0MPa(具体的には、0.8MPa)の蒸気圧下で1〜10分間(具体的には、5分間)蒸気処理し、蒸気処理した木削片を同一の蒸気圧下(0.5〜1.0MPa(具体的には、0.8MPa))でリファイナーにより湿式繊維(高圧解繊繊維)に、解繊処理した点が相違している。得られた湿式繊維を顕微鏡観察した。結果を図1(c)に示す。
【0062】
そして、実施例1と同様に表2に示す割合のクエン酸が添加されるように、同様の方法で湿式繊維にクエン酸を付着させ、湿式繊維を乾燥し、これを木質マットに成形し、成形したマットを加圧および加熱することにより、木質ボードを成形した。なお、実施例1と同様に、得られた湿式繊維の平均繊維長さを顕微鏡で測定した(サンプル数100の平均値)。この結果を表1に示す。得られた木質ボードの表面を顕微鏡観察した。結果を図1(d)に示す。
【0063】
〔比較例1〕
実施例1と同じようにして、木質ボードを製造した。実施例1と相違する点は、木質原料として、針葉樹角材(スギ)をベルトサンダー(研磨紙♯80)で研削して得たサンダー粉(木粉)を用いた点である。そして、実施例1と同様に表2に示す割合のクエン酸が添加されるように、同様の方法で木粉にクエン酸を付着させ、その後加圧および加熱することにより、木質ボードを成形した。なお、実施例1と同様に、得られた木粉の平均長さを顕微鏡で測定した(サンプル数100の平均値)。この結果を表1に示す。得られた木粉および成形した木質ボードの表面を顕微鏡観察した。結果を図1(e)および(f)に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
<木質ボードの曲げ強度の測定>
実施例1、2および比較例1にかかる木質ボードとして、熱圧成形後の自然状態(気乾状態:含水率5〜9%)の試験体(大きさ50mm×200mm×厚さ3mm)を準備した。試験は、材料試験機を用いて中央集中荷重を、負荷速度は10mm/分で作用させたときの常態曲げ強度(N/mm)を測定した。この結果を、表2に示す。なお、実施例1、2および比較例1に係る木質ボードの気乾密度を測定した。具体的には、気乾状態の木質ボードについて重量と体積を算出し、この重量を体積で除すことにより求めた。この結果を、表2の括弧内に示す。
【0066】
【表2】

【0067】
<木質ボード内の密度分布の測定>
さらに、実施例1、2および比較例1にかかる木質ボードの試験体として、50mm×50mm×厚さ3mmを複数個に切り出して、これらの試験体の中から密度0.80±0.01g/cmの範囲に収まる試験体を抽出し、この試験体(木質ボード)内の密度分布を測定した。具体的には、0.02mmピッチで厚さ方向にX線を照射し、このX線の透過率から厚さ方向に沿った試験体(木質ボード)内の密度分布を測定した。得られた密度分布から、ボード表層の密度最大値とボード内層の密度最小値の差(表内層密度差)を算出した。この結果を、表3に示す。
【0068】
【表3】

【0069】
[結果1および考察]
表2に示すように、比較例1と比較して、実施例1および2の木質ボードの曲げ強度は高かった。強度が高い理由として二つの要因が挙げられる。一つは、表1と図1に示すように、実施例1および2の繊維長が比較例1と比べて長く、さらにその繊維同士が熱圧によって新たな結合を生成することによって、その強度が発現したためである。二つ目は、表3に示すように、実施例2の木質ボードの表内層密度差が、比較例1および実施例1に比べて大きく、ボード表面が高密度化されたためである。
【0070】
<ボード長さ変化量>
実施例1、2および比較例1に係る木質ボード(気乾状態:含水率3〜5%)を、長さ250×幅50mm前後に切削して試験体とし、試験体を40℃、90%R.H.の恒温恒湿器内に入れて、重量変化がほぼ落ち着く期間である2週間後に取り出して、試験前後の長さ方向の木質ボードの長さ変化量(%)を測定した。なお、ここで、恒温恒湿器内での試験後の実施例1、2および比較例1に係る木質ボードを105℃で乾燥し、全乾状態の木材重量に対する水分重量から、含水率(%)を算出し、恒温恒湿器内での試験前後の含水率から含水率変化量を算出した。この結果を、表4の括弧内に示す。
【0071】
【表4】

【0072】
[結果2および考察]
表4に示すように、比較例1と比較して、実施例1および2の木質ボードの長さ変化量は小さかった。寸法安定性が高い理由として二つの要因が挙げられる。一つは、図1に示したように、実施例1および2の木質ボード原料が長繊維状であるため、繊維同士の絡み合いが吸湿時の膨潤に伴う動きを拘束し易いと考えられる。二つ目は、表4に示すように、クエン酸を添加した木質ボードが、熱圧成形に伴い新たな結合を生成したことと、疎水化に伴う含水率変化量の低下である。
【0073】
[総合評価]
以上のことから、実施例1及び2の木質繊維は、比較例1に比べて、木質繊維が長繊維化されて、その繊維表面にリグニンを豊富に含む層を露出しているので、強度と寸法安定性に優れた木質ボードを得ることができたと考えられる。
【0074】
特に、実施例2の湿式繊維は、実施例1のものに比べて、長繊維であり、なおかつ湿式繊維表面のリグニンが解繊時に高温・高圧処理されているので、リグニンが低分子化されていると推定され、これにより、熱圧時に湿式繊維が流動しやすくなったと考えられる。この結果、表内層密度差も大きくなり(表層の密度が高くなり)、実施例2に係る木質ボードの曲げ強度が他のものに比べて高くなったと考えられる。
【0075】
また、木質原料の繊維化とクエン酸の添加によるエステル結合の生成により、湿式繊維が疎水化され、木質ボードの含水率変化を抑え、寸法安定性を向上させることができたと考えられる。実施例1および2の場合には、木質ボード内で湿式繊維同士が交錯し、合板のクロスバンド効果の如く作用し、吸湿時の木質原料の膨潤が拘束され易い。この結果、実施例1および2に係る木質ボードの長さ変化量が小さくなり、含水率変化に対する木質ボードの面方向の寸法の変化が抑制されたと考えられる。
【0076】
〔実施例3〜7〕
実施例2と同じ湿式繊維(高圧解繊繊維)を用いて、実施例1に記載の製造条件で、木質ボードを製造した。実施例3の木質ボードは、湿式繊維にクエン酸を15質量%添加した木質ボードであり、実施例4〜7は、湿式繊維に多価カルボン酸の添加量15質量%添加したときの木質ボードであり、それぞれ、多価カルボン酸として、マレイン酸、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸、イタコン酸、リンゴ酸を用いたものである。
【0077】
これらの木質ボードに対して、実施例2と同じように、曲げ強度と、表内層密度差を測定した。この結果を表5に示す。なお、曲げ強度の測定において、実施例3〜7の木質ボードの含水率は、気乾状態で2〜4%であった。
【0078】
【表5】

【0079】
さらに、実施例2と同じように、実施例3〜7に係る吸湿時前後の木質ボードのボード長さ変化量と、含水率変化量を測定した。なお、吸湿前の木質ボードの含水率は、気乾状態で含水率2〜5%であった。この結果を、表6に示す。
【0080】
【表6】

【0081】
[結果3および考察]
表5および表6に示すように、クエン酸と同じように、マレイン酸、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸、イタコン酸、リンゴ酸の如き多価カルボン酸を用いた場合であっても、木質ボードの曲げ強度を高め、吸湿時における木質ボードの寸法安定性を確保することができた。
【0082】
<熱圧温度と表内層密度差の関係を測定>
実施例1に記載のボード製造条件で、実施例3〜7に係る熱圧温度を変化させたときの、木質ボードの表内層密度差を測定した。この結果を、表7に示す。
【0083】
【表7】

【0084】
[結果4及び考察]
表7に示すように、クエン酸の場合には、熱圧温度が200℃以上、マレイン酸、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸の場合には、熱圧温度が160℃以上、イタコン酸、リンゴ酸の場合には、熱圧温度180℃以上で、表内層密度差が0.15(g/cm)以上となり、この熱圧条件で、木質ボードの曲げ強度を高めることができる。
【0085】
〔実施例8〕
実施例2と同じ湿式繊維(高圧解繊繊維)を用いて、実施例1に記載の製造条件で、木質ボードを製造した。実施例8の木質ボードは、多価カルボン酸にマレイン酸を用い、マレイン酸の酸添加量を表8に示すように変化させたときの木質ボードの性能を実施例2と同じように評価した。この結果を表8(実施例8)に示す。なお、曲げ強度の測定において、実施例8の木質ボードの含水率は、気乾状態で2〜4%であった。
【0086】
【表8】

【0087】
[結果5及び考察]
表8に示すように、マレイン酸の場合では、湿式繊維に対して少なくとも2質量%添加すれば、木質ボードの曲げ強度を高めることができ、吸湿時における木質ボードの面方向における寸法安定性を確保することができると考えられる。
【0088】
〔実施例9−1,9−2〕
実施例2と同じ湿式繊維(高圧解繊繊維)を用いて、実施例1に記載の製造条件で、木質ボードを製造した。
【0089】
実施例9−1の木質ボードは、マレイン酸水溶液を用いて、湿式繊維に対してマレイン酸を10質量%添加した木質ボードである。実施例9−2の木質ボードは、マレイン酸アンモニウム塩を溶解した水溶液を用いて、湿式繊維に対してマレイン酸アンモニウム塩を10質量%添加した木質ボードである。これらの木質ボードは、熱圧温度を200℃で成形したものであり、実施例9−1は、第1の発明に相当し、実施例9−2は、第2の発明に相当する。なお、実施例2の場合の長さ変化量は、木質ボードを2週間吸湿させたときの木質ボードの長さ変化量(%)であったが、実施例9以降に示す、長さ変化量は、木質ボードを1週間吸湿させたときの木質ボードの長さ変化量(%)である。
【0090】
〔実施例10−1,10−2〕
実施例2と同じ湿式繊維(高圧解繊繊維)を用いて、実施例1に記載の製造条件で、木質ボードを製造した。
【0091】
実施例10−1の木質ボードは、クエン酸水溶液を用いて、湿式繊維に対してクエン酸を10質量%添加した木質ボードであり、実施例10−2の木質ボードは、クエン酸アンモニウム塩を溶解した水溶液を用いて、湿式繊維に対してクエン酸アンモニウム塩を10質量%添加した木質ボードである。これらの木質ボードは、熱圧温度を200℃で成形したものであり、実施例10−1は、第1の発明に相当し、実施例10−2は、第2の発明に相当する。
【0092】
各木質ボードの性能を実施例2と同じように評価した。また、水溶液および木質ボードのpHを測定した。この結果を、表9に示す。
【0093】
〔比較例2、3〕
実施例2と同じ湿式繊維(高圧解繊繊維)を用いて、実施例1に記載の製造条件で、木質ボードを製造した。
【0094】
比較例2の木質ボードは、マレイン酸ナトリウム水溶液を用いて、湿式繊維に対して、マレイン酸ナトリウムを10質量%添加した木質ボードである。比較例3の木質ボードは、クエン酸ナトリウム水溶液を用いて、湿式繊維に対してクエン酸ナトリウムを10質量%添加した木質ボードである。これらの木質ボードは、熱圧温度を200℃で成形したものである。各木質ボードの性能を実施例2と同じように評価した。また、水溶液および木質ボードのpHを測定した。この結果を、表9に示す。なお、表9には、参考例として、多価カルボン酸を添加していない木質ボードの結果も示した。
【0095】
【表9】

【0096】
[結果6及び考察]
表9に示すように、実施例9−1,9−2,10−1,10−2の木質ボード(マレイン酸、マレイン酸アンモニウム塩、クエン酸、クエン酸アンモニウム塩を用いた木質ボード)は、比較例2、3、参考例のものよりも、曲げ強度が高く、長さ変化量および含水率変化量が小さかった。また、実施例9−2の木質ボード(マレイン酸アンモニウム塩を用いた木質ボード)の曲げ強度が最も高かった。
【0097】
実施例9−2,10−2のように、マレイン酸アンモニウム塩またはクエン酸アンモニウム塩を用いた場合、湿式繊維に付着したこれらの塩は、木質ボード成形時の熱圧により、分解したアンモニアは揮発するので、表9に示すように、水溶液pH値に対してボードpH値は低下し、成形段階の木質ボード内部を酸性にすることができる。
【0098】
そのため、第1の発明の効果と同様に、木材とカルボン酸の反応(エステル化)が進行し、参考例の木質ボードと比較して、強度と寸法安定性に優れた木質ボードが得られる。また、マレイン酸アンモニウム塩またはクエン酸アンモニウム塩を溶解した水溶液は、略中性であるので、製造時のハンドリング性等に優れている。また、クエン酸アンモニウム塩に比べて、マレイン酸アンモニウム塩を用いた木質ボードの方が曲げ強度が高かったのは、マレイン酸に含まれるC=Cが起因していると考えられる。
【0099】
一方、比較例2および3に示すように、マレイン酸ナトリウムまたはクエン酸ナトリウムなどの多価カルボン酸ナトリウム塩を用いた場合、木質ボード成形時の熱圧によらずナトリウムが残存するので、表9に示すように、ボードpH値が低下し難い。この結果、木材とカルボン酸の反応(エステル化)が進行し難く、得られた木質ボードは、参考例の木質ボードと同程度またはそれ以下の強度と寸法安定性となったと考えられる。
【0100】
〔実施例11−1〜11−4〕
実施例2と同じ湿式繊維(高圧解繊繊維)を用いて、実施例1に記載の製造条件で、木質ボードを製造した。
【0101】
実施例11−1〜11−4の木質ボードは、マレイン酸水溶液、マレイン酸無水物を溶解した水溶液、マレイン酸粉末、無水マレイン酸粉末を用いたものであり、実施例11−1,11−2は、第1の発明に相当し、実施例11−3,11−4は、第3の発明に相当する。
【0102】
それぞれ、カルボン酸の添加量は、水溶液、粉末(粉体)のどちらの場合も、湿式繊維に対して10質量%添加している。なお、木質ボードの成形時の熱圧温度は、200℃、熱圧時間は5分である。各木質ボードの性能を実施例2と同じように評価した。この結果を、表10に示す。
【0103】
〔実施例12−1〜12−4〕
実施例2と同じ湿式繊維(高圧解繊繊維)を用いて、実施例1に記載の製造条件で、木質ボードを製造した。
【0104】
実施例12−1〜12−4の木質ボードは、クエン酸水溶液、クエン酸無水物を溶解した水溶液、クエン酸粉末、無水クエン酸粉末を用いたものであり、実施例12−1,12−2は、第1の発明に相当し、実施例12−3,12−4は、第3の発明に相当する。
【0105】
それぞれ、カルボン酸の添加量は、水溶液、粉末(粉体)のどちらの場合も、湿式繊維に対して10質量%添加している。なお、木質ボードの成形時の熱圧温度、熱圧時間は実施例11−1と同じである。各木質ボードの性能を実施例2と同じように評価した。この結果を、表10に示す。
【0106】
【表10】

【0107】
[結果7及び考察]
表10に示すように、実施例11−1〜11−4の木質ボードの曲げ強度、長さ変化量および含水率変化量は、略同じであり、実施例12−1〜12−4の木質ボードの曲げ強度、長さ変化量および含水率変化量は、略同じ結果となった。これにより、多価カルボン酸を溶解した水溶液の代わりに、多価カルボン酸無水物、多価カルボン酸の粉末、または多価カルボン酸無水物の粉末を用いても、略同様の効果が発現されると考えられる。
【0108】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。
【0109】
本実施形態では、中質繊維板(MDF)などの乾式の木質ボードを製造する方法を例としてあげたが、例えば、ハードボード、高密度繊維板(HDF)などの乾式の木質ボードを製造する方法であってもよく、例えば、インシュレーションボードなどの湿式の木質ボードを製造する方法により、木質ボードを製造してもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分を含む雰囲気下で木削片を加熱した後、該加熱した木削片から湿式繊維に解繊する工程と、
該解繊された湿式繊維に、多価カルボン酸を溶解した水溶液、または、多価カルボン酸無水物を溶解した水溶液を塗布することにより、前記解繊された湿式繊維の表面に多価カルボン酸を付着させる工程と、
該多価カルボン酸が付着した湿式繊維を加圧及び加熱することにより、木質ボードを成形する工程と、を少なくとも含むことを特徴とする木質ボードの製造方法。
【請求項2】
前記解繊工程において、木削片を0.5〜1.0MPaの蒸気圧下で1〜10分間蒸気処理し、前記蒸気圧下で前記蒸気処理された木削片を前記蒸気圧下で湿式繊維に解繊することを特徴とする請求項1に記載の木質ボードの製造方法。
【請求項3】
前記多価カルボン酸を付着させる工程において、前記水溶液を塗布後の湿式繊維を乾燥することを特徴とする請求項1または2に記載の木質ボードの製造方法。
【請求項4】
前記多価カルボン酸に、クエン酸、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸、マレイン酸、リンゴ酸、及びイタコン酸の群の少なくとも一種から選択された多価カルボン酸を用い、前記多価カルボン酸無水物に、前記選択された多価カルボン酸の無水物を用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の木質ボードの製造方法。
【請求項5】
多価カルボン酸に、クエン酸またはマレイン酸を用い、前記多価カルボン酸無水物に、クエン酸無水物、またはマレイン酸無水物を用い、前記湿式繊維に対して、前記クエン酸、前記マレイン酸、クエン酸無水物、またはマレイン酸無水物を2〜15質量%含有させることを特徴とする請求項1〜4に記載の木質ボードの製造方法。
【請求項6】
水分を含む雰囲気下で木削片を加熱した後、該加熱した木削片から湿式繊維に解繊する工程と、
該解繊された湿式繊維に、多価カルボン酸アンモニウム塩を溶解した水溶液を塗布することにより、該解繊された湿式繊維の表面に多価カルボン酸アンモニウム塩を付着させる工程と、
該多価カルボン酸が付着した湿式繊維を加圧及び加熱することにより、木質ボードを成形する工程と、を少なくとも含むことを特徴とする木質ボードの製造方法。
【請求項7】
前記多価カルボン酸アンモニウム塩に、マレイン酸アンモニウム塩を用いることを特徴とする請求項6に記載の木質ボードの製造方法。
【請求項8】
水分を含む雰囲気下で木削片を加熱した後、該加熱した木削片から湿式繊維に解繊する工程と、
該解繊された湿式繊維の表面に多価カルボン酸の粉末、または、多価カルボン酸無水物の粉末を付着させる工程と、
該粉末が付着した湿式繊維を加圧及び加熱することにより、木質ボードを成形する工程と、を少なくとも含むことを特徴とする木質ボードの製造方法。
【請求項9】
前記解繊工程において、木削片を0.5〜1.0MPaの蒸気圧下で1〜10分間蒸気処理し、前記蒸気圧下で前記蒸気処理された木削片を前記蒸気圧下で湿式繊維に解繊することを特徴とする請求項6〜8のいずれかに記載の木質ボードの製造方法。
【請求項10】
前記解繊工程において、前記湿式繊維の繊維長さを少なくとも1mm以上に解繊することを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の木質ボードの製造方法。

【図1】
image rotate