説明

木質壁材、その製造方法、および木質壁材を用いた壁構造

【課題】木質繊維板の裏面に単板積層板を積層し、この裏面に凹溝を形成することにより吸放湿を高め、該吸放湿による反りを低減することができる。
【解決手段】木質壁材1Aは、木質繊維板2Aと、該木質繊維板2Aの裏面22Aに接合された単板積層板3Aと、を少なくとも備えている。木質壁材1Aは、単板積層板3Aの裏面32A側から木質繊維板1Aの少なくとも裏面22Aに達するまで複数の凹溝34Aが形成されている。また、単板積層板3Aは、複数に分割された分割積層部材30Aを含み、前記分割積層部材30A同士は、間隔をあけて木質繊維板2Aの裏面22Aに接合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質繊維板の裏面に、単板積層板を配置した木質壁材に係り、吸放湿を好適に行うことができる木質壁材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、室内の湿度調整をすべく、調湿性を有した壁材として、無機系壁材または木質系壁材(木質壁材)等が用いられている(たとえば、特許文献1参照)。木質系壁材は、無機系の壁材に比べて、吸放湿速度が劣る。
【0003】
そこで、木質壁材の吸放湿速度を改善するために、例えば、木質系壁材の裏面に、繊維方向と交差する方向に凹溝を形成したり、調湿剤を塗布したりする技術が提案されている。たとえば、凹溝を形成する技術として、木質繊維板に、合板を積層した複合板であって、その裏面に、木質繊維板の裏面に達しない凹溝が形成された複合板が提案されている(例えば、特許文献2または特許文献3参照)。また、調湿剤に、例えば尿素を含浸させた調湿建材が提案されている(たとえば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−31494号公報
【特許文献2】特開2008−25165号公報
【特許文献3】特開2007−216437号公報
【特許文献4】特開2009−209651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2または3の如く、木質繊維板の裏面に、合板のような単板積層板を積層した木質壁材は、吸放湿時に、木質繊維板と単板積層板との膨潤差または収縮差によって、これらの界面にせん断力が生じ、このせん断力によって、木質壁材に反りが生じることがある。特に、特許文献4の如く、調湿剤を用いた場合には、上述した膨潤差または収縮差が大きくなり、このような反りはより顕著なものとなる。
【0006】
そして、この反りを低減するには、例えば、せん断力に対して、変形しないように木質繊維板と単板積層板との厚さを調整することも考えられる。しかし、特許文献2または3の如き木質壁材の場合、凹溝の形成により木質壁材の剛性が局所的に弱いところが発生するので、木質繊維板と単板積層板との厚さを単に調整するだけでは、木質壁材の反りを容易に低減することができない。
【0007】
本発明は、このような点を鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、木質繊維板の裏面に単板積層板を積層し、この裏面に凹溝を形成することにより吸放湿を高め、該吸放湿による反りを低減することができる木質壁材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を鑑みて、発明者は、鋭意検討を重ねた結果、吸放湿時に、木質繊維板と、単板を積層した単板積層板との膨潤差または収縮差によって、これらの界面に生じるせん断力に対して、変形しない(反らない)ように厚さを調整するのでなく、せん断力そのものを低減する(分散する)ことが重要であると考えた。そこで、発明者は、繰り返し実験を行った結果、凹溝を形成する際に、その凹溝により、単層積層板を分断することにより、上述したせん断力を低減できるとの新たな知見を得た。
【0009】
本発明は、上述した発明者の新たな知見に基づくものであり、第1の発明に係る木質壁材は、木質繊維板と、該木質繊維板の裏面に接合された単板積層板と、を少なくとも備えた木質壁材であって、前記木質壁材は、前記単板積層板の裏面側から前記木質繊維板の少なくとも裏面に達するまで複数の凹溝が形成されている。
【0010】
第1の発明によれば、木質壁材の裏面に、複数の凹溝が形成されることにより、凹溝を構成する単板積層板の溝壁面から、木質壁材の木材の水分を吸放湿させることができる。これにより、木質壁材の吸放湿性能を高めることができる。
【0011】
さらに、木質壁材の吸放湿が高まることにより、吸放湿時に、木質繊維板と単板積層板とが、膨潤・収縮するが、単板積層板の裏面側から木質繊維板の少なくとも裏面に達するまで複数の凹溝が形成されているので、凹溝を挟んだ位置の単板積層板は、それぞれ独立して膨潤・収縮することになる。これにより、木質繊維板と単板積層板の膨潤差または収縮差により生じるせん断力を抑え(分散させ)、木質壁材の反りを防止することができる。
【0012】
ここで、単板積層板は、複数の単板を積層したものであり、複数の単板の繊維方向が、すべて同じ方向となるように複数の単板を積層してもよく、複数の単板の繊維方向が交互に交差するように、単板を積層したものであってもよい。
【0013】
しかしながら、より好ましい態様としては、単板積層板は、複数の単板の繊維方向が交差するように前記単板を厚さ方向に積層した合板であり、前記凹溝は、前記木質繊維板の裏面に接合される接合面を含む単板の繊維方向に沿うように形成されている。
【0014】
この態様によれば、前記合板の凹溝が、接合面を含む単板の繊維方向に沿うように形成されているので、溝幅方向に収縮しやすい接合面の単板の膨潤量・収縮量を抑えることができる。これにより、単板の接合面と、合板の接合面との間に生じるせん断力を抑え、木質壁材の反りを抑えることができる。さらに、積層された単板のうち、中間層の単板の繊維断面(木口)が溝内部において露呈するので、木質壁材の吸放湿性をさらに高めることができる。
【0015】
また、第2の発明に係る木質壁材は、木質繊維板と、該木質繊維板の裏面に接合された単板積層板と、を少なくとも備えた木質壁材であって、前記単板積層板は、複数に分割された分割積層部材からなり、前記分割積層部材同士は、間隔をあけて前記木質繊維板の裏面に接合されていることを特徴とする。
【0016】
第2の発明によれば、前記分割積層部材同士が、間隔をあけて木質繊維板の裏面に接合されているので、分割積層部材同士の隙間から、木質壁材の木材の水分を吸放湿させることができる。これにより、木質壁材の吸放湿性能を高めることができる。
【0017】
さらに、木質壁材の吸放湿が高まることにより、吸放湿時に、木質繊維板と単板積層板とが、膨潤・収縮するが、単板積層板は、複数に分割された分割積層部材からなるので、分割積層部材は、独立して膨潤・収縮することになる。これにより、単板積層板全体と木質繊維板との膨潤差または収縮差により生じるせん断力を抑え、木質壁材の反りを防止することができる。
【0018】
ここで、単板積層板およびこれを分割した分割積層部材は、複数の単板をこれらの厚さ方向に積層したものであり、これらは、複数の単板の繊維方向が、すべて同じ方向となるように複数の単板を積層してもよく、複数の単板の繊維方向が交互に交差するように、単板を積層したものであってもよい。
【0019】
しかしながら、より好ましい態様としては、各分割積層部材は、複数の単板の繊維方向が交差するように前記単板を積層した合板から形成されており、各分割積層部材は、前記間隔をあけて配置した分割積層部材同士の間に形成された凹溝が、前記木質繊維板の裏面に接合される接合面を含む単板の繊維方向に沿うように配置されている。
【0020】
この態様によれば、分割積層部材同士の間に形成された凹溝が、接合面を含む単板の繊維方向に沿って形成されているので、溝幅方向に収縮しやすい接合面の単板の膨潤量・収縮量を抑えることができる。これにより木質繊維板の接合面と合板の接合面との間に生じるせん断力をより確実に抑え、木質壁材の反りを抑えることができる。さらに、積層された単板のうち、中間層の単板の繊維断面(木口)が溝内部において露呈するので、木質壁材の吸放湿性をさらに高めることができる。
【0021】
本発明として、上述した木質壁材の好適な製造方法も提供する。本発明に係る木質壁材の製造方法は、木質繊維板と単板積層板とを少なくとも備えた木質壁材を製造する方法であって、前記木質繊維板の裏面に単板積層板を接合する工程と、前記単板積層板の裏面側から前記木質繊維板の少なくとも裏面に達するまで、前記単板積層板に複数の凹溝を切り込む工程と、を少なくとも含むことを特徴とする。
【0022】
本発明によれば、吸放湿を高めつつ、この吸放湿が起因となった木質繊維板と単板積層板との収縮差が起因となる反りを抑制した木質壁材を容易に製造することができる。そして、このような凹溝を切り込むことができるのであれば、単板積層板の繊維方向は特に限定されるものではない。
【0023】
しかしながら、より好ましい態様としては、前記単板積層板に、複数の単板の繊維方向が交差するように前記単板を積層した合板を用い、前記木質繊維板の裏面に接合される接合面を含む単板の繊維方向に沿うように、前記凹溝を切り込む。
【0024】
発明者が実験したところ、木質繊維板の裏面に接合される接合面を含む単板の繊維方向に交差(直交)するように、前記凹溝を切り込んだ場合には、吸放湿を起因とした木質壁材の反り、波打ちなどの変形が生じやすかった。しかし、このような態様することにより、凹溝の切り込みの際に、溝の底部に、接合した合板の一部の木材が残った場合であっても、吸放湿を起因とした木質壁材の反り、波打ちなどの変形を抑えることができる。
【0025】
そして第1および第2の発明に係る木質壁材、または上述した製造方法により製造された木質壁材を備えた壁構造は、前記木質壁材の裏面と、壁下地剤との間に間隙が形成されるように、配置されていることがより好ましい。この態様によれば、前記木質壁材の裏面と壁下地材との間に、木質壁材の吸放湿するための空間が形成されるので、前記木質壁材の裏面の吸放湿性を高めることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、木質繊維板の裏面に単板積層板を積層し、この裏面に凹溝を形成することにより吸放湿を高め、該吸放湿による反りを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】第1の発明に係る本実施形態の木質壁材の模式図であり、(a)は、木質壁材を裏面側から見た模式的斜視図、(b)は、(a)の長手方向から見た側面図。
【図2】図1に示す木質壁材の製造方法を説明するための模式図であり、(a)は、木質繊維板に、単板積層板(合板)を接合する工程を示した図、(b)は、単板積層板に複数の凹溝を切り込む工程を示した図。
【図3】第2の発明に係る本実施形態の木質壁材の模式図であり、(a)は、木質壁材を裏面側から見た斜視図、(b)は、(a)の長手方向から見た側面図、(c)は、(a)の木質繊維板の製造方法を説明するための側面図。
【図4】図1及び図3に示す木質壁材が配置された壁構造の模式的斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に図面を参照して、本発明の本実施形態に係る木質壁材および壁構造について説明する。
【0029】
図1は、第1の発明にかかる実施形態に係る木質壁材の模式図であり、(a)は、木質壁材を裏面側から見た模式的斜視図、(b)は、(a)の長手方向Yから見た側面図である。
【0030】
図1に示すように、本実施形態に係る木質壁材1Aは、壁材として使用される建材であり、木質繊維板2Aと、木質繊維板2Aの裏面22Aに接合された単板積層板3Aと、を少なくとも備えている。
【0031】
木質繊維板2Aは、スギ、ヒノキ、マツなどの針葉樹の木質繊維、またはラワンなどの広葉樹の木質繊維を例えば接着剤と共に熱圧することによりボード状に成形した成形体である。このような木質繊維板2Aとして、例えばインシュレーションボード、MDF,HDF、ハードボードなどを挙げることができ、その厚さは2.5〜30mmである。
【0032】
このように木質繊維板2Aの表面21Aを、木質壁材1Aの表面11Aとすることにより、木質壁材1Aの平滑性を保つことができる。さらに、この木質繊維板2Aの表面21Aは、化粧用に印刷または塗装されていてもよく、化粧単板、樹脂製の化粧シート、突板のような表面化粧材が貼着されていても良い。
【0033】
木質繊維板2Aの裏面22Aには、単板積層板3Aが、例えば酢酸ビニルエマルジョンのような水性の接着剤を用いて接合(接着)されている。単板積層板3Aは、3つの単板3a,3b,3cを、繊維方向が交差(直交)するように木質壁材1Aの厚さ方向に積層した合板である。各単板は、スギ、ヒノキ、マツなどの針葉樹の単板、またはラワンなどの広葉樹の単板などからなり、各単板同士は、フェノール樹脂等の接着剤により接着されている。ここで、木質繊維板2Aの裏面22Aに接合される接合面31Aを含む単板3aの繊維方向が、木質壁材1Aの長手方向Xに沿うように、単板積層板3Aは配置されている。
【0034】
このような木質壁材1Aは、単板積層板3Aの裏面32Aの側から、木質繊維板2Aの裏面22Aに達するまで、複数の凹溝34A,34Aが形成されており、本実施形態では、各凹溝34Aは、木質繊維板2Aの裏面に到達し、さらに裏面22Aの表層23Aまで達している。
【0035】
より具体的には、複数の凹溝34Aは、短手方向Yに所定のピッチで、木質壁材1Aの長手方向Xに沿って略平行に形成されている。すなわち、各凹溝34Aは、単板積層板3Aに対して上述した単板3aの繊維方向に沿うように形成されていることになる。このような凹溝34Aを設けることにより、各凹溝34Aを形成する溝壁面35Aに、単板積層板3Aの中間層となる単板3bの木口が露出することになる。
【0036】
ここで、凹溝34A,34A,…の溝ピッチは、3mm以上、30mm以下であることが好ましく、木質壁材1Aの裏面12Aにおける吸放湿性を確保することができるのであれば、特に等ピッチである必要はない。溝ピッチが3mm未満の場合には、製造上、凹溝34Aを設けることが難しくなる。一方、溝ピッチが30mmを超えた場合には、単板積層板3Aの裏面32Aの面積に対する溝壁面35Aの面積が減少するため、木質壁材1Aの裏面側の吸放湿を損なうおそれがある。
【0037】
各凹溝34Aの溝幅は、0.5mm〜20mmであることが望ましい。溝幅が、0.5mm未満の場合には、水分を吸放湿する空間が充分に確保できないことがある。一方、溝幅が、20mm以上の場合には、裏面32Aの面積に対する溝壁面35Aの面積が減少するばかりでなく、木質壁材1Aの機械的強度が低下するおそれがある。
【0038】
凹溝34Aの深さは、上述したように、単板積層板3Aの裏面32Aの側から、少なくとも木質繊維板2Aの裏面22Aに達するまで、形成されていればよく、木質壁材1Aの機械的強度を確保することができるのであれば、木質繊維板2Aの内部にまで達していても良く、この場合には、後述する桟木などに木質壁材1Aを容易に倣わすことができる。ここで、木質繊維板2Aの表層23Aは、繊維密度が高く内部に比べて硬質であるため、非透水性が高いので、この表面層よりもさらに繊維密度の低い内部に達しないように凹溝を形成することが望ましい。
【0039】
また、凹溝34Aの溝断面は、矩形状である。溝断面を矩形状にしたのは、木質繊維板2Aと単板積層板3Aの接合部分の占有率をより少なくし、後述する木質壁材1Aの反りを低減さえるためである。したがって、このような凹溝34Aを形成する場合には、加工時において、単板3aの一部の木材が、凹溝34Aの底部に残らないのであれば、木質壁材1Aのより高い強度を望む場合には、凹溝34Aの底面は、木質繊維板2Aの裏面22Aに一致することが好ましい。
【0040】
しかしながら、このような反りを低減することができるであれば、凹溝34Aの溝断面の形状は、V字状、U字上であってもよく、この場合には、本実施形態の如く、凹溝34Aは、木質繊維板2Aの裏面22Aからさらにその表層23Aまで形成されていることが好ましい。
【0041】
また、溝壁面35Aに、調湿剤が付加されていてもよい。これにより、木質壁材1Aの裏面12A側の吸放湿性をさらに高めることができる。このような調湿剤は、吸湿性があり、そのまま、またはこれを水溶させ、これを木質壁材1Aの裏面から塗布することにより、単板積層板3Aの裏面32Aおよび溝壁面35Aに含浸させることができるものが好ましい。
【0042】
このような調湿剤としては、例えば、アルカリ金属の水酸化物(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等)、水溶性高分子(ポリエチレングリコール)、グリコール類(グリセリン、エチレングリコール等)、尿素誘導体、無機塩(塩化ナトリウム等)、水溶性アミン類(例えば、取りエタノールアミン)、アクリル酸塩(アクリル酸ソーダ、ポリアクリル酸ソーダ等)、ポリビニルアルコール類、酸ヒドラジド類、または糖類など吸水・吸湿性のある物質を挙げることができる。
【0043】
上述した実施形態に係る木質壁材1Aによれば、木質壁材1Aの裏面12Aに、複数の凹溝34A,34A…が形成されることにより、凹溝34Aを構成する単板積層板3Aの溝壁面35Aから、木質壁材1Aの木材の水分を吸放湿させることができる。これにより、木質壁材1Aの吸放湿性能を高めることができる。ここで、中間層である単板3bの繊維断面(木口)が溝壁面35Aの一部を構成し、溝内部において露呈するので、木質壁材1Aの吸放湿性を高めることができる。特に、発明者の経験上、木質繊維板2Aに接合される単板3aの木口を露出させる場合に比べて、中間層である単板3bの木口を露出させたほうが、凹溝34Aの底部から開口まで、木口から水分が拡散しやすいので、木質壁材1Aの吸放湿性をさらに高めることができる。
【0044】
このように複数の凹溝34Aを設けることにより、木質壁材1Aの吸放湿が高まり、さらに調湿剤を塗布した場合には、木質壁材1Aの吸放湿がさらに高まる。この吸放湿時に、木質繊維板2Aと単板積層板3Aとが、膨潤・収縮するが、単板積層板3Aの裏面32A側から木質繊維板2Aの少なくとも裏面22Aに達するまで複数の凹溝34A,34A,…が形成されているので、凹溝34A,34Aを挟んだ位置の単板積層板3Aは、それぞれ独立して膨潤・収縮することになる。これにより、木質繊維板2Aと単板積層板3Aの膨潤差または収縮差により生じるせん断力を抑え、木質壁材1Aの反りを防止することができる。
【0045】
特に、本実施形態では、合板である単板積層板3Aに形成された凹溝34Aが、接合面31Aを含む単板3aの繊維方向に沿うように形成されているので、溝幅方向(短手方向Y)に収縮しやすい接合面31Aの単板3aの膨潤量・収縮量を抑えることができ、より一層、木質壁材1Aの反りを防止することができる。
【0046】
上述した木質壁材1Aの製造方法について、図2を参照して以下に説明する。図2は、図1に示す木質壁材1Aの製造方法を説明するための図であり、(a)は、木質繊維板2Aに、単板積層板(合板)3Aを接合する工程を示した図、(b)は、単板積層板3Aに複数の凹溝34Aを切り込む工程を示した図である。
【0047】
まず、図2(a)に示すように、木質繊維板2Aと、単板積層板3Aとを準備し、酢酸ビニルエマルジョンのような水性の接着剤を、これらの少なくとも一方の表面(接合面)に塗布して、木質繊維板2Aと単板積層板3Aとを接合する。この際に、接着剤を介して、木質繊維板2Aと、単板積層板3Aと積層したものを熱圧処理により成形してもよい。
【0048】
ここで、実施形態では、酢酸ビニルエマルジョンを用いたが、例えば、エチレン酢酸ビニル樹脂、合成ゴム、ニカワなどの熱可塑性樹脂、また、上記を架橋できるように変性した樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、尿素・メラミン共縮合樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂がある。通常取扱いの容易な水性樹脂を用いるが、問題なければ油性樹脂を用いてもよい。
【0049】
次に、図2(b)に示すようにして、単板積層板3Aの裏面32A側から木質繊維板2Aの少なくとも裏面22Aに達するまで(本実施形態では、木質繊維板2Aの裏面22Aの表層23Aまで)、のこ(丸のこ)9を用いて単板積層板3Aに複数の凹溝34A,34A,…を切り込んで溝加工を行う。より具体的には、木質繊維板2Aの裏面22Aに接合される接合面31Aを含む単板3aの繊維方向に沿うように、複数の凹溝34A,34A,…を切り込む。
【0050】
ここで、本実施形態では、のこ9で木質繊維板2Aの裏面22Aの表層23Aまで凹溝34の切り込みを行っているが、これは、凹溝34Aの底面の一部に付着(接着された)単板3aの残材を完全に取り除くためである。
【0051】
また、このような溝加工は、レーザー加工、ウォータージェット加工、超音波カッター、エンドミル(ルーター)、ナイフ刃、トムソン刃、等の従来知られている加工手段により加工することができる。
【0052】
このように、単板積層板3Aの裏面32A側から木質繊維板2Aの裏面22Aの表層23Aまで、凹溝34Aを切り込むので、接合した単板3aの一部の木材が残存することがなく、これによる木質壁材1Aの反り、波うちを低減することができる。
【0053】
また、凹溝34Aを単板積層板3Aの裏面32A側から木質繊維板2Aの裏面22Aまで加工した場合、上述したのこを用いた場合には、この刃の刃先の形状から、凹溝34Aの底部に、接合した単板3aの一部の木材が接着状態で残存しやすく、これにより、吸放湿時に木質壁材の反り、波打ちなどの変形が懸念される。しかしながら、このような場合であっても、木質繊維板2Aの裏面22Aに接合される接合面31Aを含む単板3aの繊維方向に沿うように、凹溝34Aを切り込んだので、吸放湿を起因とした木質壁材の反り、波打ちなどの変形を抑えることができる。
【0054】
図3は、第2の発明に係る本実施形態の木質壁材の模式図であり、(a)は、木質壁材を裏面側から見た斜視図、(b)は、(a)の長手方向から見た側面図、(c)は、(a)の木質繊維板の製造方法を説明するための側面図である。なお、図1に示す実施形態と同じ機能を有する部材については、その末尾の符号AをBに変更し、その詳細な説明は一部省略する。
【0055】
図3(a)、(b)に示すように、第2の発明に係る木質壁材1Bは、木質繊維板2Bと、木質繊維板2Bの裏面22Bに接合された単板積層板3Bと、を少なくとも備えている。この木質繊維板2Bの材質及び寸法等は、上述したものと同じであり、図1に示す形態の木質繊維板2Aと相違する点は、木質繊維板2Bの表層23Bには、凹溝34Bの一部が形成されていない点である。
【0056】
すなわち、本実施形態では、単板積層板3Bは、複数に分割された分割積層部材30B,30B,…を含み、分割積層部材30B,30B同士は、間隔をあけて木質繊維板2Bの裏面22Bに、上述した接着剤を介して接合されている。
【0057】
分割積層部材30Bは、3枚の単板3a,3b,3cを厚さ方向に積層した合板から成形されたものであり、3枚の単板3a,3b,3cの繊維方向が交互に交差するように、単板を積層した合板により成形された部材である。各分割積層部材30B,30B,…は、間隔をあけて配置した分割積層部材30B,30B同士の間に形成された凹溝34Bが、木質繊維板2Bの裏面22Aに接合される接合面31Bを含む単板3aの繊維方向に沿うように配置されている。
【0058】
このような凹溝34Bは、分割積層部材30Bの形状と、これらの間の間隔によって決定されるものであり、溝ピッチおよび溝幅は、上述した範囲であり、溝深さは、分割積層部材そのものの厚みである。図3では、図1に示す実施形態の如き凹溝を示しているが、特にこの形状に限定されるものではなく、例えば、図3の短手方向Yに沿った凹溝がさらに形成されていてもよい。
【0059】
本実施形態によれば、分割積層部材30B,30B同士が、間隔をあけて木質繊維板2Bの裏面22Bに接合されているので、分割積層部材30B,30B同士の隙間から、木質壁材1Bの木材の水分を吸放湿させることができる。これにより、木質壁材1Bの吸放湿性能を高めることができる。積層された単板のうち、中間層の単板3bの繊維断面(木口)が溝内部において露呈するので、木質壁材1Bの吸放湿性をさらに高めることができる。
【0060】
さらに、木質壁材1Bの吸放湿が高まることにより、吸放湿時に、木質繊維板2Bと単板積層板3Bとが、膨潤・収縮するが、単板積層板3Bは、複数に分割された分割積層部材30Bからなるので、分割積層部材30Bは、独立して膨潤・収縮することになる。これにより、単板積層板全体と木質繊維板との膨潤差または収縮差により生じるせん断力を抑え、木質壁材1Bの反りを防止することができる。特に、分割積層部材30B,30B同士の間に形成された凹溝34Bが、接合面31Bを含む単板3aの繊維方向に沿って形成されているので、溝幅方向(短手方向Y)に収縮しやすい接合面の単板3aの膨潤量・収縮量を抑えることができる。これにより単板3aと木質繊維板2Bとの間に生じるせん断力をより確実に抑え、木質壁材1Bの反りを抑えることができる。また、本実施形態では、木質繊維板2Bの裏面22Bの表層23Bに、凹溝34Bが達していないので、木質壁材1Bの強度を確保することができる。
【0061】
上述した木質壁材1Bは、図3(c)に示すように、木質繊維板2Bと複数の分割積層部材30Bを準備し、上述した酢酸ビニルエマルジョンのような水性の接着剤を、これらの少なくとも一方の表面(接合面)に塗布して、分割積層部材30B,30B同士を上述した凹溝34Bが形成されるように、木質繊維板2Bと分割積層部材30Bとを接合する。この際に、接着剤を介して、木質繊維板2Bと、分割積層部材30Bと積層したものを熱圧処理により成形してもよい。また、木質壁材1Bを補強するための補強プレートをさらに、木質壁材1Bに隣接して配置してもよい。
【0062】
上述した木質壁材1Aまたは1Bを備えた壁構造10Aまたは10Bを以下に説明する。図4は、図1及び図3に示す木質壁材が配置された壁構造の模式的斜視図である。図4に示すように、壁構造10A(10B)は、複数の木質壁材1A(1B)を備えた壁構造10A(10B)であって、木質壁材1A(1B)の裏面12A(12B)を、桟木8,8を介して対面させ、木質壁材1A(1B)の裏面12A(12B)と、壁下地材Wとの間に間隙(空間)Sが形成されるように、木質壁材1A(1B)が配置されている。
【0063】
このように、木質壁材1A(1B)の裏面と壁下地材Wとの間に、木質壁材1A(1B)の吸放湿するための間隙Sが形成されるので、木質壁材1A(1B)の裏面12A(12A)の吸放湿性を高めることができる。また、短手方向の木質壁材1A(1B)の強度は、実質的には、木質繊維板2A(2B)に依存するので、たとえ僅かに木質壁材1A(1B)が短手方向に反ったとしても、桟木に倣うようにその反りを容易に矯正することができる。また、桟木だけでなく金具などで固定することもできる。
【実施例】
【0064】
以下に本発明を実施例により説明する。
〔実施例1〕
以下に示すようにして、木質壁材を製作した。1820mm×910mm×厚さ5.5mmのMDF(木質繊維板)と、1820mm×910mm×厚さ9mm(単板2.5mm+4mm+2.5mm)の3プライのスギ合板(単板積層板)と準備し、これらを酢酸ビニルエマルジョン接着剤を介して接合(接着)した。なお、MDFに接合される接合面を有する単板(2.5mm厚の単板)が、長手方向に繊維方向が沿うように、MDFに合板を接合する。
【0065】
次に、丸のこを用いて、合板の裏面から、木質繊維板の表層まで、溝深さ9.5mm(以下の表1参照)、短手方向に溝ピッチ10mm、溝幅3mmの凹溝を長手方向に沿って形成した。すなわち、この溝は、MDFの表層の一部に達した凹溝であり、MDFに接合される接合面を有する単板(2.5mm厚の単板)に沿った矩形状の凹溝である。
【0066】
〔比較例1〕
実施例1と同じようにして、木質壁材を製作した。実施例1と相違する点は、以下の表1に示すように、MDFの裏面側から木質繊維板の少なくとも裏面に達しないように、溝深さ、5mm、6.5mm、7.5mmの溝をそれぞれの木質壁材に対して形成した点である。
【0067】
〔反りの測定〕
実施例1及び比較例1の木質壁材を、60℃で24時間乾燥した後、40℃、RH90%の環境に、6日間静置し、平置きした状態の短手方向の矢高を測定した。この結果を表1に示す。木質壁材の中央部が裏面側に膨らむように、木質壁材が反っているときは、両縁部に対する中央部の高さを矢高(+)とし、木質壁材の中央部が表面側に膨らむように、木質壁材が反っているときは、両縁部に対する中央部の高さを矢高(−)として測定した。
【0068】
【表1】

【0069】
〔結果1及び考察1〕
(1)実施例1の木質壁材の矢高は、比較例1のものに比べて小さく、木質壁材の反りが小さかった。(2)比較例1のうち、溝深さ5mmの木質壁材の矢高は、他の比較例1のものに比べて、小さかった。
【0070】
(1)に示す結果となったのは、実施例1の木質壁材の場合、合板層を完全に断ち切るように凹溝を形成したことにより、合板とMDFに生じるせん断応力を分散することができたからであると考えられる。
【0071】
(2)に示す結果となったのは、木質繊維板と合板に、これらの間に生じるせん断応力に対して変形しないような剛性があった(木質繊維板と合板の剛性のバランス取れていた)ためであると考えられる。しかしながら、溝深さ5mmの木質壁材の場合には、合板2層目(中間層の単板)の木口が露呈している割合が少ないので、他の木質壁材に比べて吸放湿の性能は低いと考えられる。
【0072】
このように、実施例1の如く、合板の裏面から、木質繊維板のすくなくとも裏面に達するように凹溝深さの凹溝を形成すればよく、比較例1に示す木質壁材の如く、木質繊維板と合板の剛性のバランスを考えて、最適な溝深さ(例えば上述した場合5mmの溝深さ)を決定する必要はない。
【0073】
〔実施例2〕
実施例1と同じようにして、木質壁材を製作した。実施例1と相違する点は、1820mm×910mm×厚さ2.7mmのMDF(木質繊維板)を用いた点である。
【0074】
〔比較例2〕
実施例2と同じようにして、木質壁材を製作した。実施例2と相違する点は、以下の表2に示すように、MDFの裏面側から木質繊維板の少なくとも裏面に達しないように、溝深さ、6.5mm、7.5mm、8.5mmの溝をそれぞれの木質壁材に対して形成した点である。
【0075】
〔反りの測定〕
実施例1と同じようにして、実施例2及び比較例2の木質壁材を、60℃で24時間(1日)乾燥した後、平置きした状態の短手方向の矢高、および、40℃、RH90%の環境に、6日間静置し、平置きした状態の短手方向の矢高を測定した。この結果を表2に示す。
【0076】
【表2】

【0077】
〔結果2及び考察2〕
実施例2の木質壁材の矢高は、比較例2のものに比べて小さく、木質壁材の反りが小さかった。表1及び表2の結果から、MDFの厚さに関係なく、合板層を完全に断ち切るように凹溝を形成したことにより、合板とMDFに生じるせん断応力を分散することができ、これにより、木質壁材の反りを低減することができると考えられる。
【0078】
〔実施例3〕
実施例1と同じようにして、木質壁材を製作した。実施例1と相違する点は、1820mm×910mm×厚さ12mm(単板2mm+3mm+2mm+3mm+3mm)の5プライのスギ合板(単板積層板)を用い、溝深さを12.1mmにした点である。
【0079】
〔比較例3〕
実施例2と同じようにして、木質壁材を製作した。実施例2と相違する点は、以下の表3に示すように、MDFの裏面側から木質繊維板の少なくとも裏面に達しないように、溝深さ、5mm、10mm、11.9mmの溝をそれぞれの木質壁材に対して形成した点である。
【0080】
〔反りの測定〕
実施例1と同じようにして、実施例3及び比較例3の木質壁材を、60℃で24時間(1日)乾燥した後、平置きした状態の短手方向の矢高、および、40℃、RH90%の環境に、6日間静置し、平置きした状態の短手方向の矢高を測定した。この結果を表3に示す。
【0081】
【表3】

【0082】
〔結果3及び考察3〕
(3)実施例3の木質壁材の矢高は、比較例3のものに比べて小さく、木質壁材の反りが小さかった。(4)比較例3のうち、40℃、RH90%の試験後の溝深さ5mmの木質壁材の矢高は、他の比較例3のものに比べて、小さかった。
【0083】
表1および(3)に示す結果から、合板の厚さに関係なく、合板層を完全に断ち切るように凹溝を形成したことにより、合板とMDFに生じるせん断応力を分散することができ、これにより、木質壁材の反りを低減することができると考えられる。なお(4)に示す結果となったのは、上述した(2)(比較例1参照)と同様に、木質繊維板と合板に、これらの間に生じるせん断応力に対して変形しないような剛性があったためであると考えられる。
【0084】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。
【0085】
たとえば、本実施形態では、単板積層板は、3枚の単板を積層したものであったが、単板の枚数は複数枚であれば、特に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0086】
1A,1B:木質壁材、2A,2B:木質繊維板、3A,3B:単板積層板、3a,3b,3c:単板、8:桟木、9:のこ、10A,10B:壁構造、11A,11B:木質壁材の表面、12A,12B:木質壁材の裏面、21A,21B:木質繊維板の表面、22A,22B:木質繊維板の裏面、23A,23B:木質繊維板の表層、30B:分割積層部材、31A,31B:単板積層板の接合面、32A,32B:単板積層板の裏面、34A,34B:凹溝、35A,35B:溝壁面、W:壁下地材、X:長手方向、Y:短手方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質繊維板と、該木質繊維板の裏面に接合された単板積層板と、を少なくとも備えた木質壁材であって、
前記木質壁材は、前記単板積層板の裏面側から前記木質繊維板の少なくとも裏面に達するまで複数の凹溝が形成されていることを特徴とする木質壁材。
【請求項2】
前記単板積層板は、複数の単板の繊維方向が交差するように前記単板を積層した合板であり、前記凹溝は、前記木質繊維板の裏面に接合される接合面を含む単板の繊維方向に沿うように形成されていることを特徴とする請求項1に記載の木質壁材。
【請求項3】
木質繊維板と、該木質繊維板の裏面に接合された単板積層板と、を少なくとも備えた木質壁材であって、
前記単板積層板は、複数に分割された分割積層部材からなり、前記分割積層部材同士は、間隔をあけて前記木質繊維板の裏面に接合されていることを特徴とする木質壁材。
【請求項4】
各分割積層部材は、複数の単板の繊維方向が交差するように前記単板を積層した合板により形成されており、各分割積層部材は、前記間隔をあけて配置した分割積層部材同士の間に形成された凹溝が、前記木質繊維板の裏面に接合される接合面を含む単板の繊維方向に沿うように配置されていることを特徴とする請求項3に記載の木質壁材。
【請求項5】
木質繊維板と単板積層板とを少なくとも備えた木質壁材を製造する方法であって、
前記木質繊維板の裏面に単板積層板を接合する工程と、
前記単板積層板の裏面側から前記木質繊維板の少なくとも裏面に達するまで、前記単板積層板に複数の凹溝を切り込む工程と、を少なくとも含むことを特徴とする木質壁材の製造方法。
【請求項6】
前記単板積層板に、複数の単板の繊維方向が交差するように前記単板を積層した合板を用い、
前記木質繊維板の裏面に接合される接合面を含む単板の繊維方向に沿うように、前記凹溝を切り込むことを特徴とする請求項5に記載の木質壁材の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれかに記載の木質壁材、または請求項5または6に記載の製造方法により製造された木質壁材を備えた壁構造であって、前記木質壁材の裏面と、壁下地材との間に間隙が形成されるように、前記木質壁材が配置されていることを特徴とする壁構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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