説明

木質材料からの炭化乾留液の精製方法

【課題】炭化乾留液から有害成分のみを簡易にかつ効率的に除去し、かつ血糖降下作用のある有効成分を残すことのできる炭化乾留液の精製方法を提供する。
【解決手段】セルロース及びリグニンを含む木質材料から生成される炭化乾留液から有害物質を除去するものであって、炭化乾留液にパイナップル未熟果実からのプロテアーゼ及びタンニンを添加して、炭化乾留液に残留するタール成分を分解及び凝集沈降する。また、その後に炭化乾留液のタール成分をプロテアーゼ及びタンニンにより分解及び凝集沈降した後、減圧蒸留により精製処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質材料から生成される炭化乾留液から有害物質を除去する精製方法に関し、特に未熟果実からのプロテアーゼ及びタンニンを添加することで有害物質を除去する精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロース、リグニンを含む木質材料からの炭化乾留液(木酢液、竹酢液等)は、木の地上部を蒸焼することにより生ずる煙の中に含まれる水分として採取される。これは製炭時の副産物として副次的に抽出されるものであり、農業用に利用されることが多いものであるが、医薬として効果が認められ、また、強力な静菌作用と好ましい燻臭があることから消臭剤や食品添加物にもなり得るといったことが知られ、一部の良質な炭化乾留液は医薬部外品として利用されている。
【0003】
しかし、これらの木質材料からの炭化乾留液には、人体にとって有害物質であるタールやフェノール等を多量に含有しており、従ってこれらを薬や食品添加物として安全に使用するためには、原料の炭化乾留液から有害物質を除去する必要がある。
【0004】
木質材料からの炭化乾留液からタール分を除去する方法としては、原液を貯蔵し1年程度静置して沈殿を待つ静置沈澱法が一般的に初期精製法として通常行われ、その後、上澄み液に活性炭を入れ吸着ろ過する方法、数度にわたって蒸留精製をくり返す方法が二次的な精製方法として一般的におこなわれている。蒸留精製により炭化乾留液から有害物質を除去する方法としては、例えば特許文献1に挙げるようなものがある。
【特許文献1】特開2005−255865号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
繰り返し蒸留を行う精製方法によって、有害な成分を経口摂取に適した状態にまで除去精製することができるが、時間やコストがかかるうえに繰り返し蒸留することで有効成分まで除去されるといった欠点があった。これは有害な低分子のタール分が一部可溶化した状態で残留し、それを除去しようと蒸留を繰り返すことで、血糖降下作用のある有効成分までが除去され、限り無く酢酸と水のみに精製されてしまうことにある。
【0006】
また、活性炭による除去方法では、時間はあまり必要とされないものの、有害物質であるタールやフェノール等だけでなく、血糖降下作用のある有効な物質まで活性炭に吸着し取り除かれてしまうといった問題がある。
【0007】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、セルロース、リグニンを含む木質材料からの炭化乾留液(木酢液、竹酢液等)から有害成分のみを簡易にかつ効率的に除去し、かつ血糖降下作用のある有効成分を残すことのできる炭化乾留液の精製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明に係る木質材料からの炭化乾留液の精製方法は、セルロース及びリグニンを含む木質材料から生成される炭化乾留液から有害物質を除去する精製方法において、
前記炭化乾留液にパイナップル未熟果実またはチャヨテ未熟果実からのプロテアーゼ及びタンニンを添加して、前記炭化乾留液に残留するタール成分を分解及び凝集沈降することを特徴として構成されている。
【0009】
また、本発明に係る木質材料からの炭化乾留液の精製方法は、前記炭化乾留液のタール成分をプロテアーゼ及びタンニンにより分解及び凝集沈降した後、減圧蒸留により精製処理することを特徴として構成されている。
【0010】
さらに、本発明に係る木質材料からの炭化乾留液の精製方法は、前記炭化乾留液のタール成分をプロテアーゼ及びタンニンにより分解及び凝集沈降した後、活性炭により精製処理することを特徴として構成されている。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る木質材料からの炭化乾留液の精製方法によれば、炭化乾留液にパイナップル未熟果実またはチャヨテ未熟果実からのプロテアーゼ及びタンニンを添加して、炭化乾留液に残留するタール成分を分解及び凝集沈降することにより、簡易な方法で炭化乾留液から有害物質を人体に影響のない程度まで除去することができ、またこの精製方法により得た液体は、医薬、化粧品原料や食品添加物として活用することができる。
【0012】
また、本発明に係る木質材料からの炭化乾留液の精製方法によれば、炭化乾留液のタール成分をプロテアーゼ及びタンニンにより分解及び凝集沈降した後、減圧蒸留により精製処理することにより、有害物質をより低い濃度まで除去することができる。
【0013】
さらに、本発明に係る木質材料からの炭化乾留液の精製方法によれば、炭化乾留液のタール成分をプロテアーゼ及びタンニンにより分解及び凝集沈降した後、活性炭により精製処理することにより、有害物質をより低い濃度まで除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の実施形態について詳細に説明する。本実施形態における炭化乾留液の精製方法は、木質材料から生成した原材料液に、パイナップル由来ブロメリン等のプロテアーゼを添加して所定時間経過させた後、さらにタンニンを添加し、静置凝集後、処理された炭化乾留液を減圧蒸留し、分画するものである。図1には本実施形態における精製方法のフローチャートを示している。
【0015】
まず、本実施形態における精製方法の原材料となる炭化乾留液(木酢液、竹酢液等)は、セルロース、リグニンを含む木質材料から生成されるものである。なお、その原料となる木または竹等の種類及び採取する方法にあっては特に限定されるものではない。炭化乾留液は、木質材料を170度〜800度の温度で炭化させ、この炭化により発生する水分を含んだ煙を誘導してこれを冷却し、煙に含まれた水分を液化することによって生成される(S1)。この液を遠心分離により或いは2〜3カ月静置して、液内のタールや固形不純物を沈澱分離した上澄液を取り出すことによって原材料液を生成する(S2)。
【0016】
この原材料液にパイナップル未熟果実に含まれるプロテアーゼを添加し、室温条件下で所定時間経過させ、次いでタンニンを添加して室温条件下でさらに所定時間経過させる(S3)。この際には果実をスライスしたものを原材料液に浸漬させる処理方法によるのが望ましい。
【0017】
実際には、原材料液に対して重量比10〜90%のパイナップル未熟果実をスライスし、これを原材料液に浸漬して室温条件下で1日以上プロテアーゼ処理を行った後、タンニンを加えてタール凝集沈澱処理を同様に1日以上、室温で行う。ここで、パイナップル未熟果実は、腐敗を防止するために原材料液に対して完全に浸漬するようにすることが望ましい。
【0018】
この間、パイナップル未熟果実に由来するプロテアーゼが、タール分に含まれるタンパク質架橋(アグリゲート)を分解し、ついでタンニンが結合することで容易に凝集沈澱することが認められる。
【0019】
凝集沈殿の後、処理された原材料液からパイナップル未熟果実の残さや凝集沈殿物をろ過除去する(S4)。このとき、原材料液に含有されていたタール分については、かなりの部分をこの段階で除去することができる。この除去は低速遠心分離によっても可能である。
【0020】
ついで、摂氏35〜60度の条件下において低温減圧蒸留し、中間部分の50%を回収して血糖降下作用のある精製分画とする(S5)。この結果、人体有害物質が医薬、食品添加物として問題にならない程度に微量となった炭化乾留液が得られる。パイナップル未熟果実を用いてタール分の凝集沈殿処理を行っていることにより、蒸留前の時点で既に有害物質の大部分は除去されているので、蒸留を繰り返し行う必要がなく、したがって血糖降下作用のある有効成分を充分残すことができる。
【0021】
表1には、精製による有害物質除去の試験結果を示す。この表に示すように、パイナップル未熟果実を浸漬することと、低温減圧蒸留とによって、炭化乾留液中に含まれるタール分を充分に除去することができる。そしてこれを飲用することで血糖降下作用のある有効成分を摂取することができる。また、こうして得られた炭化乾留液には、パイナップル未熟果実の成分も微量含まれ、これも飲用することで摂取することができる。
【0022】
【表1】

【0023】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の適用は本実施形態に限られず、その技術的思想の範囲内において様々に適用されうるものである。本実施形態では、パイナップル未熟果実を用いて、原材料液に含まれるタール分を凝集沈殿させ分離するようにしたが、チャヨテ未熟果実を用いても同様にタール分を凝集沈殿させることができる。この場合のチャヨテ未熟果実の分量及び浸漬させる日数、温度などは、パイナップル未熟果実と同様の条件で行うことができる。
【0024】
また、本実施形態ではタール分の凝集沈殿の後、低温減圧蒸留によって有害物質をより低い濃度まで除去することとしたが、低温減圧蒸留の代わりに活性炭を用いて有害物質を除去するようにしてもよい。この場合にあっても、血糖降下作用のある有効成分まで除去してしまわない程度に処理を行う必要がある。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本実施形態における炭化乾留液の精製方法のフローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース及びリグニンを含む木質材料から生成される炭化乾留液から有害物質を除去する精製方法において、
前記炭化乾留液にパイナップル未熟果実またはチャヨテ未熟果実からのプロテアーゼ及びタンニンを添加して、前記炭化乾留液に残留するタール成分を分解及び凝集沈降することを特徴とする木質材料からの炭化乾留液の精製方法。
【請求項2】
前記炭化乾留液のタール成分をプロテアーゼ及びタンニンにより分解及び凝集沈降した後、減圧蒸留により精製処理することを特徴とする請求項1記載の炭化乾留液の精製方法。
【請求項3】
前記炭化乾留液のタール成分をプロテアーゼ及びタンニンにより分解及び凝集沈降した後、活性炭により精製処理することを特徴とする請求項1記載の炭化乾留液の精製方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−332173(P2007−332173A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−162098(P2006−162098)
【出願日】平成18年6月12日(2006.6.12)
【出願人】(506200131)株式会社亜熱帯薬酵技術研究所 (2)
【Fターム(参考)】