説明

木質材料の処理方法、当該方法で処理された木質材料及びその用途

【課題】含水率の変化に対する木質材料の寸法安定性を大幅に改善し、また、未反応物の残留による表面のベトツキがなく硬い表面が形成されるので木質材料の表面にキズが付きにくく、更に、光による黄褐変などの変色を大幅に改善することのできる木質材料の処理方法を提供する。
【解決手段】環状尿素化合物とグリオキサールとの付加生成物からなる第1成分と、4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノン或いはその誘導体からなる第2成分とを含有する処理液を木質材料に含浸し、当該木質材料中で前記第1成分及び前記第2成分を反応硬化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木材など木質材料の処理方法であって、更に詳しくは、木質材料の寸法安定化及び表面硬化を目的とする処理方法に関するものである。また、本発明は、当該処理方法により処理された木質材料及びその用途に関するものである。
【背景技術】
【0002】
木材、合板、パーティクルボード、MDF(Medium Density Fiberbord)、或いは、LVL(Laminated Veneer Lumber)などの木質材料(以下、単に「木質材料」という)は、木材本来の性質として含水率の変化によって伸び縮みして寸法変化が生じる。また、その厚さ、幅及び長さ方向の寸法変化の程度が異なることから、反りや捩れなどの狂いが発生するという欠点がある。
【0003】
更に、比重が低く表面が比較的柔らかい木質材料であるスギ、ヒノキなどにおいては、表面にキズが付きやすく、床材、内装材或いはテーブルの天板などに使用しづらいという欠点もある。
【0004】
これらの木質材料本来の欠点を解消する方法として、従来から、種々の寸法安定化処理或いは表面硬化処理が行われている。例えば、ユリア樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂などの初期縮合物を木質材料に含浸してから、これらの樹脂を加熱硬化して木質材料の細胞内腔、細胞間隙及び細胞壁内に充填する方法がある。しかし、この方法は、初期縮合物の重合性が高いことから処理液のポットライフが短く処理液の再利用が困難である。また、処理後に木質材料から多くの遊離ホルマリンが発生するという問題があった。
【0005】
そこで、別の方法として、ホルムアルデヒド、尿素及びグリオキサールの初期縮合物に触媒を添加した後、木質材料中に含浸し、加熱硬化させる方法が下記特許文献1に提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平6−67564号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記特許文献1の方法では、ホルムアルデヒド、尿素及びグリオキサールの初期縮合物は、自己重合性が低く、処理液のポットライフが長く再利用することも可能となる。また、加熱硬化後の遊離ホルマリンも上記ユリア樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂などに比べ大幅に軽減できる。
【0008】
しかし、この初期縮合物は、木質材料を構成する細胞壁内のセルロース分子と反応し、これを架橋して木質材料の細胞壁を強化することにより、寸法安定性と表面硬化を図るものである。従って、この初期縮合物は、上記ユリア樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂などに比べ、木質材料の細胞内腔、細胞間隙及び細胞壁内に充填する効果が低く、その為、寸法安定性と表面硬化の効果が十分とはいえなかった。また、この初期縮合物は、樹脂固有の黄褐変が生じるという問題があった。
【0009】
一方、ホルムアルデヒド、尿素及びグリオキサールの初期縮合物にポリグリコール類を併用し、当該初期縮合物とポリグリコール類との反応物で充填効果を補強する方法も提案されている。しかし、この方法においては、充填量が多くなると加熱硬化後に未反応物が残留し、木質材料の表面にベトツキが残るという問題があった。更に、処理後の木質材料の表面が、光によって黄褐変を起こして変色するという問題があった。
【0010】
そこで、本発明は、以上のようなことに対処して、含水率の変化に対する木質材料の寸法安定性を大幅に改善し、また、未反応物の残留による表面のベトツキがなく硬い表面が形成されるので木質材料の表面にキズが付きにくく、更に、光による黄褐変などの変色を大幅に改善することのできる木質材料の処理方法を提供することを目的とする。また、本発明は、当該方法で処理された木質材料及びその用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題の解決にあたり、本発明者らは、鋭意研究の結果、環状尿素化合物とグリオキサールとの付加生成物を主剤として配合することにより、木質材料の寸法安定化、表面のベトツキがない表面硬化、及び、光による変色を大幅に改善できることを見出し本発明の完成に至った。
【0012】
即ち、本発明に係る木質材料の処理方法は、請求項1の記載によると、
環状尿素化合物とグリオキサールとの付加生成物からなる第1成分と、
4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノン或いはその誘導体からなる第2成分とを含有する処理液を木質材料に含浸し、
当該木質材料中で上記第1成分及び上記第2成分を反応硬化させることを特徴とする。
【0013】
上記構成によれば、木質材料中に含浸された環状尿素化合物とグリオキサールとの付加生成物からなる第1成分が、4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノン或いはその誘導体からなる第2成分と反応硬化して、当該反応物が木質材料の細胞内腔、細胞間隙及び細胞壁内に充填される。このことにより、木質材料の強度が向上し、更に、木質材料の表面が硬化して表面強度も向上する。
【0014】
また、木質材料中に含浸された4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノン或いはその誘導体からなる第2成分は、木質材料の細胞壁を構成するセルロース分子間を架橋する可能性を有している。このことにより、木質材料の細胞壁の強度が向上すると共に、含水率の変化に対する木質材料の寸法安定化がより図られる。
【0015】
また、上記第1成分及び第2成分は、未反応物による木質材料表面のベトツキも残さず、且つ、光による黄褐変などの変色を生じることがない。
【0016】
よって、請求項1に記載の発明においては、含水率の変化に対する木質材料の寸法安定性を大幅に改善し、また、未反応物の残留による表面のベトツキがなく硬い表面が形成されるので木質材料の表面にキズが付きにくく、更に、光による黄褐変などの変色を大幅に改善することのできる木質材料の処理方法を提供することができる。
【0017】
また、本発明は、請求項2の記載によると、請求項1に記載の木質材料の処理方法において、
上記第1成分及び上記第2成分に加えて、グリコール類からなる第3成分を含有する処理液を木質材料に含浸し、
当該木質材料中で上記第3成分を上記第1成分及び上記第2成分と共に反応硬化させることを特徴とする。
【0018】
上記構成によれば、第1成分及び第2成分に加えて、グリコール類からなる第3成分を追加するようにしてもよい。この第3成分は、上述の第1成分及び第2成分と共に反応硬化して、当該反応物が木質材料の細胞内腔、細胞間隙及び細胞壁内に充填される。このことにより、木質材料の強度が向上すると共に、木質材料の表面が硬化して表面強度も向上する。更に、含水率の変化に対する木質材料の寸法安定化が図られる。
【0019】
よって、請求項2に記載の木質材料の処理方法においても、請求項1に記載の発明と同様の作用効果を達成することができる。
【0020】
また、本発明は、請求項3の記載によると、請求項1又は2に記載の木質材料の処理方法において、
上記第1成分は、
2−イミダゾリジノンとグリオキサールとの付加生成物からなり、2−イミダゾリジノン1モルに対してグリオキサールを0.9モル〜1.2モル付加してなることを特徴とする。
【0021】
上記構成によれば、第1成分の付加生成物は、2つの成分である2−イミダゾリジノンとグリオキサールとが等モル数に近い割合で付加されている。すなわち、2−イミダゾリジノン1モルに対してグリオキサール0.9モル〜1.2モルの範囲に限られている。
【0022】
よって、この反応から生成した付加生成物においては、その分子の両末端が異なる成分から構成されている可能性が高くなる。従って、第1成分の分子同士が木質材料中で自己重合反応を生じる機会が多くなる。このことにより、木質材料の細胞内腔、細胞間隙及び細胞壁内に充填される重合物の重合度が大きくなり、充填効果による木質材料の強度向上と寸法安定化がより一層向上する。
【0023】
よって、請求項3に記載の木質材料の処理方法においても、請求項1又は2に記載の発明と同様の作用効果がより一層具体的に達成され得る。
【0024】
また、本発明は、請求項4の記載によると、請求項1〜3のいずれか1つに記載の木質材料の処理方法において、
上記第2成分は、
1,3−ジメチル−4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノン、1,3−ビス(ヒドロキシメチル)−4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノン、1,3−ビス(ヒドロキシエチル)−4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノンからなる群から選ばれた少なくとも1種からなることを特徴とする。
【0025】
上記構成によれば、第2成分が4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノンの特定の誘導体であることが好ましい。すなわち、4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノン分子中の1位と3位の2つの窒素原子にそれぞれ、メチル基、ヒドロキシメチル基或いはヒドロキシエチル基が付加された化合物であることが好ましい。また、第2成分は、これらの誘導体の配合であってもよい。
【0026】
これらの第2成分は、木質材料の細胞壁を構成するセルロース分子間との反応性が高く、セルロース分子間を強固に架橋する。また、第1成分の重合物或いは第1成分と第3成分の重合物とも良好に反応して、当該重合物間を架橋し、或いは、当該重合物と細胞壁を構成するセルロース分子間を架橋する。このことにより、木質材料の強度が更に向上すると共に、木質材料の寸法安定化がより図られる。
【0027】
よって、請求項4に記載の木質材料の処理方法においても、請求項1〜3のいずれか1つに記載の発明と同様の作用効果がより一層具体的に達成され得る。
【0028】
また、本発明に係る木質材料の処理方法は、請求項5の記載によると、
2−イミダゾリジノン1モルに対してグリオキサールを0.9モル〜1.2モル付加した付加生成物からなる第1成分と、
1,3−ビス(ヒドロキシエチル)−4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノンからなる第2成分とを含有し、
これらの含有量が固形分比率(重量比)で上記第1成分を1とすると、上記第2成分が3〜6の範囲内にある処理液を木質材料に含浸し、
当該木質材料中で上記第1成分及び上記第2成分を反応硬化させることを特徴とする。
【0029】
上記構成によれば、2つの成分が等モル数に近い割合で付加された第1成分においては、その分子の両末端が異なる成分から構成されている可能性が高くなる。従って、第1成分の分子同士が木質材料中で自己重合反応を生じる機会が多くなる。このことにより、木質材料の細胞内腔、細胞間隙及び細胞壁内に充填される重合物の重合度がより大きくなる。
【0030】
一方、第2成分である1,3−ビス(ヒドロキシエチル)−4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノンは、木質材料の細胞壁を構成するセルロース分子間との反応性が高く、セルロース分子間を強固に架橋する。また、第1成分の重合物とも良好に反応して、当該重合物間を架橋し、或いは、当該重合物と細胞壁を構成するセルロース分子間を架橋する。このことにより、木質材料の強度が更に向上すると共に、木質材料の寸法安定化がより図られる。
【0031】
更に、上記構成によれば、第1成分と第2成分との固形分比率(重量比)を所定の範囲内にすることにより、木質材料の細胞内腔、細胞間隙及び細胞壁内への充填、細胞壁を構成するセルロース分子間の架橋、第1成分の重合物間の架橋、及び、当該重合物と細胞壁を構成するセルロース分子間との架橋をより効率よく行うことができる。
【0032】
また、上記第1成分及び第2成分を上記固形分比率で配合することにより、未反応物による木質材料表面のベトツキも残さず硬い表面を形成し、且つ、光による黄褐変などの変色を生じることがない。
【0033】
よって、請求項5に記載の木質材料の処理方法においては、含水率の変化に対する木質材料の寸法安定性を大幅に改善し、また、未反応物の残留による表面のベトツキがなく硬い表面が形成されるので木質材料の表面にキズが付きにくく、更に、光による黄褐変などの変色を大幅に改善することのできる木質材料の処理方法を提供することができる。
【0034】
また、本発明に係る木質材料の処理方法は、請求項6の記載によると、
2−イミダゾリジノン1モルに対してグリオキサールを0.9モル〜1.2モル付加した付加生成物からなる第1成分と、
1,3−ビス(ヒドロキシメチル)−4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノンからなる第2成分と、
ジプロピレングリコールからなる第3成分とを含有し、
これらの含有量が固形分比率(重量比)で上記第1成分を1とすると、上記第2成分が3〜6の範囲内にあり、上記第3成分が2.5〜5.5の範囲内にある処理液を木質材料に含浸し、
当該木質材料中で上記第1成分、上記第2成分及び上記第3成分を反応硬化させることを特徴とする。
【0035】
上記構成によれば、2つの成分が等モル数に近い割合で付加された第1成分においては、その分子の両末端が異なる成分から構成されている可能性が高くなる。従って、第1成分の分子同士が木質材料中で自己重合反応を生じる機会が多くなる。また、第3成分であるジプロピレングリコールは、第1成分或いはその重合物と反応し、また、第2成分とも反応し得る。このことにより、木質材料の細胞内腔、細胞間隙及び細胞壁内に充填される重合物の重合度がより大きくなる。
【0036】
一方、第2成分である1,3−ビス(ヒドロキシメチル)−4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノンは、木質材料の細胞壁を構成するセルロース分子間との反応性が高く、また、第1成分の重合物或いは第1成分と第3成分との重合物とも良好に反応して、当該重合物間を架橋し、或いは、当該重合物と細胞壁を構成するセルロース分子間を架橋する。このことにより、木質材料の強度が更に向上すると共に、木質材料の寸法安定化がより図られる。
【0037】
更に、上記構成によれば、第1成分と第2成分と第3成分との固形分比率(重量比)を所定の範囲にすることにより、木質材料の細胞内腔、細胞間隙及び細胞壁内への充填、細胞壁を構成するセルロース分子間の架橋、第1成分の重合物或いは第1成分と第3成分との重合物間の架橋、及び、当該重合物と細胞壁を構成するセルロース分子間との架橋をより効率よく行うことができる。
【0038】
また、上記第1成分、第2成分及び第3成分を上記固形分比率で配合することにより、未反応物による木質材料表面のベトツキも残さず硬い表面を形成し、且つ、光による黄褐変などの変色を生じることがない。
【0039】
よって、請求項6に記載の木質材料の処理方法においては、含水率の変化に対する木質材料の寸法安定性を大幅に改善し、また、未反応物の残留による表面のベトツキがなく硬い表面が形成されるので木質材料の表面にキズが付きにくく、更に、光による黄褐変などの変色を大幅に改善することのできる木質材料の処理方法を提供することができる。
【0040】
また、本発明に係る木質材料は、請求項7の記載によると、
請求項1〜6のいずれか1つに記載の木質材料の処理方法により処理されたことを特徴とする。
【0041】
上記構成によれば、含水率の変化に対する木質材料の寸法安定性を大幅に改善し、また、未反応物の残留による表面のベトツキがなく硬い表面が形成されるので木質材料の表面にキズが付きにくく、更に、光による黄褐変などの変色を大幅に改善することのできる木質材料を提供することができる。
【0042】
また、本発明に係る集成材は、請求項8の記載によると、
請求項7に記載の木質材料からなる一次ラミナを縦継ぎしてなる二次ラミナを幅はぎ又は/及び積層してなる集成材において、
上記二次ラミナは、上記一次ラミナの木目の繊維方向が互いに交差するようにして接合した縦継ぎ部分を有することを特徴とする。
【0043】
上記構成は、本発明に係る木質材料の一つの用途に係る集成材に関するものであり、この集成材には、請求項7に記載の木質材料が採用されている。上記構成によれば、集成材は、寸法安定化が施された一次ラミナ同士を縦継ぎして二次ラミナを構成し、この二次ラミナ同士を幅はぎ或いは積層し、又は、幅はぎと積層の両方を行って構成されている。
【0044】
ここで、一次ラミナ同士の縦継ぎ部分においては、一方の一次ラミナの木目の繊維方向と、これに縦継ぎされる他方の一次ラミナの木目の繊維方向とが交差している。この結果、幅はぎされた接合部位及び積層された接合部位においても一次ラミナの木目の繊維方向が交差した部分が生じる。
【0045】
従来の集成材においては、一次ラミナの含水率の変化による厚さ、幅及び長さ方向の寸法変化の程度が異なり、例えば、幅方向と長さ方向を接合した場合には、含水率の変化に伴って接合部位に歪が生じて剥がれることになる。この歪は例え蟻桟を入れて補強しても防ぐことができない。
【0046】
これに対して、上記構成による集成材においては、一次ラミナに請求項7に記載の木質材料が採用され寸法安定化が施された結果、一次ラミナの含水率の変化による厚さ、幅及び長さ方向の寸法変化がいずれも小さくなる。更に、厚さ、幅及び長さ方向の寸法変化の差も小さくなり、一次ラミナ同士の木目の繊維方向を交差して接合することができる。
【0047】
このことにより、上記構成による集成材は、含水率の変化による反りや捩れなどの狂いが生じることがない。更に、この集成材を造作用に使用する場合には、木目の繊維方向が交差した接合部位を表面に露出させて繊維方向にとらわれない自由な組み合わせが可能となり集成材の意匠性を高めることができる。
【0048】
よって、請求項8に記載の発明によれば、含水率の変化に対する木質材料の寸法安定性を大幅に改善し、また、未反応物の残留による表面のベトツキがなく硬い表面が形成されるので木質材料の表面にキズが付きにくく、更に、光による黄褐変などの変色を大幅に改善することのできる集成材を提供することができる。
【0049】
また、本発明に係る集成材は、請求項9の記載によると、
請求項7に記載の木質材料からなる一次ラミナを積層してなる二次ラミナを縦継ぎ又は/及び幅はぎしてなる集成材において、
上記二次ラミナは、上記一次ラミナの木目の繊維方向が互いに交差するようにして接合した積層部分を有することを特徴とする。
【0050】
上記構成は、上記請求項8と同様に、本発明に係る木質材料の一つの用途に係る集成材に関するものであり、この集成材には、請求項7に記載の木質材料が採用されている。上記構成によれば、集成材は、寸法安定化が施された一次ラミナ同士を積層して二次ラミナを構成し、この二次ラミナ同士を縦継ぎ或いは幅はぎし、又は、縦継ぎと幅はぎの両方を行って構成されている。
【0051】
このことにより、上記構成による集成材は、上記請求項8と同様に、含水率の変化による反りや捩れなどの狂いが生じることがない。更に、この集成材を造作用に使用する場合には、木目の繊維方向が交差した接合部位を表面に露出することにより意匠性を高めることができる。
【0052】
よって、請求項9に記載の発明においても、請求項8と同様の作用効果を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明に係る木質材料を使用した集成材の第1実施形態を示す斜視図である。
【図2】本発明に係る木質材料を使用した集成材の第2実施形態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
本発明において、木質材料とは、木材を原料とする材料、或いは、木材を原料として調整された種々の材料をいうものであって、上述のように、木材、合板、パーティクルボード、MDF(Medium Density Fiberbord)、或いは、LVL(Laminated Veneer Lumber)などを含むものをいう。
【0055】
特に、無垢の木材は、特に寸法安定化処理をすることが好ましく、これらの木材としては、針葉樹や広葉樹などいずれであってもよく、例えば、スギ、ヒノキ、マツ、ラジャターパインなどどのようなものであってもよい。更に、表面の意匠性に優れたナラ、カバ、ケヤキ、チークなどであってもよい。特に、本発明は、表面の柔らかいスギ、ヒノキなどの針葉樹や低比重の広葉樹において大きな効果を発揮する。
【0056】
本発明に係る処理方法で処理された木質材料の用途には、建造物の構造材、インテリアなどの内装材や床材、家具やテーブル、或いは、これらの目的に使用される集成材などあらゆるものがある。ここで、集成材とは、木材小片を接着して得られる板材や柱材などであって、これらの集成材をテーブルの天板や床材に使用するには、含水率の変化に対する寸法安定性と表面硬化によるキズの付きにくさが特に要求される。
【0057】
本発明において、処理液の第1成分を構成する環状尿素化合物とグリオキサールとの付加生成物とは、例えば、5員環或いは6員環など種々の環状尿素化合物の複数の窒素原子の少なくとも1つにグリオキサールが付加した化合物の総称をいう。特に、本発明においては、下記の化1に示す2−イミダゾリジノンとグリオキサールとの付加生成物を用いることが好ましい。
【化1】

化1において、nは1以上の整数であって、2−イミダゾリジノンの一方のイミノ基とグリオキサールの一方のアルデヒド基が反応し、2−イミダゾリジノンとグリオキサールが交互に重付加を繰り返して初期重合物を形成している。
【0058】
この初期重合物の両末端の構造は、2−イミダゾリジノンに付加するグリオキサールのモル数の比率を変化させることによって調整することができる。例えば、2−イミダゾリジノンをグリオキサールより多く使用すれば、初期重合物の両末端には、2−イミダゾリジノンのイミノ基が多く存在し、一方、グリオキサールを2−イミダゾリジノンより多く使用すれば、初期重合物の両末端には、グリオキサールのアルデヒド基が多く存在するようになる。
【0059】
ここで、2−イミダゾリジノンに付加するグリオキサールのモル数の比率はどのようなものであってもよいが、本発明においては、2−イミダゾリジノン1モルに対してグリオキサールを0.9モル〜1.2モル付加してなる初期重合物が好ましい。このように、2−イミダゾリジノンとグリオキサールとのモル数の比率を同程度にすることにより、化1に示すような両末端にイミノ基とアルデヒド基との両方を有する初期重合物が多く調整される。このことにより、木質材料の細胞内腔、細胞間隙及び細胞壁内で第1成分を構成する初期重合物が自己重合しやすくなり、その結果、より高分子量の樹脂として充填されることとなる。
【0060】
次に、本発明において、処理液の第2成分を構成する4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノン或いはその誘導体とは、下記の化2に示す4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノンそのもの、
【化2】

及び、4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノンの2つのイミノ基の水素原子を他の基で置換した化合物の総称をいう。特に、本発明においては、1,3−ジメチル−4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノン、3−ビス(ヒドロキシメチル)−4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノン、1,3−ビス(ヒドロキシエチル)−4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノンからなる群から選ばれた少なくとも1種からなる誘導体を用いることが好ましい。
【0061】
まず、1,3−ジメチル−4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノンの構造式を下記の化3に示す。
【化3】

化3において、4位と5位のヒドロキシ基は、木質材料の細胞壁を構成するセルロース分子と反応性があり、これらのセルロース分子間に架橋構造を形成して細胞壁の強度向上と寸法安定化に寄与する。また、これらのヒドロキシ基は、化1の初期重合物が自己重合した高分子量の樹脂とも反応して、木質材料の細胞内腔、細胞間隙及び細胞壁内に充填された当該樹脂と細胞壁を結合する役割も果たす。このことにより、木質材料の細胞壁の強度向上と細胞内腔、細胞間隙及び細胞壁内への充填がなされ、木質材料の寸法安定性と表面硬化が良好に達成される。
【0062】
次に、1,3−ビス(ヒドロキシメチル)−4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノンの構造式を下記の化4に示す。
【化4】

化4において、1位と3位のヒドロキシメチル基は、木質材料の細胞壁を構成するセルロース分子との反応性が非常に高く、セルロース分子間に強固な架橋構造を形成し、細胞壁の強度向上と寸法安定化に大きく寄与する。また、4位と5位のヒドロキシ基もセルロース分子と反応性があり、セルロース分子間に架橋構造を形成する。更に、これらのヒドロキシメチル基或いはヒドロキシ基は、化1の初期重合物が自己重合した高分子量の樹脂とも反応して、木質材料の細胞内腔、細胞間隙及び細胞壁内に充填された当該樹脂と細胞壁を結合する役割も果たす。このことにより、木質材料の細胞壁の強度向上と細胞内腔、細胞間隙及び細胞壁内への充填がなされ、木質材料の寸法安定性と表面硬化が良好に達成される。
【0063】
次に、1,3−ビス(ヒドロキシエチル)−4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノンの構造式を下記の化5に示す。
【化5】

化5において、1位と3位のヒドロキシエチル基は、木質材料の細胞壁を構成するセルロース分子との反応性があり、セルロース分子間に架橋構造を形成し、細胞壁の強度向上と寸法安定化に大きく寄与する。また、4位と5位のヒドロキシ基もセルロース分子と反応性があり、セルロース分子間に架橋構造を形成する。更に、これらのヒドロキシエチル基或いはヒドロキシ基は、化1の初期重合物が自己重合した高分子量の樹脂とも反応して、木質材料の細胞内腔、細胞間隙及び細胞壁内に充填された当該樹脂と細胞壁を結合する役割も果たす。このことにより、木質材料の細胞壁の強度向上と細胞内腔、細胞間隙及び細胞壁内への充填がなされ、木質材料の寸法安定性と表面硬化が良好に達成される。
【0064】
次に、本発明において、処理液の第3成分を構成するグリコール類とは、二価のアルコールであって、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、トリメチレングリコール、ヘキサメチレングリコールなど種々のものを使用することができる。また、本発明においては、上記各グリコール類のモノエーテルも親水性を有するものであれば含めるものとする。
【0065】
特に、本発明においては、グリコール類として炭素数3〜8のアルキル基を有するアルキレングリコールが好ましく、中でも、ジプロピレングリコールがより好ましい。
【0066】
これらのグリコール類を処理液の第3成分として併用すると、グリコール類のヒドロキシ基が第1成分のアルデヒド基或いは第2成分のヒドロキシ基、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基と反応して、充填効果や架橋効果に寄与することとなる。
【0067】
また、本発明においては、グリコール類を併用した場合であっても、第1成分及び第2成分が含有されていることにより、未反応物によるベトツキが残ることがない。
【0068】
上述の第1成分、第2成分及び第3成分の各反応には、触媒が併用される。この触媒としては、プロトン酸やルイス酸が用いられ、例えば、塩化亜鉛、塩化マグネシウム、燐酸、パラトルエンスルホン酸や各種有機アミン塩酸塩などを使用することができる。これらの触媒の種類と使用量は、反応温度と反応時間によって適宜調整される。
【0069】
以下、本発明に係る木質材料の処理方法を各工程に従って説明する。但し、本発明は、以下の工程にのみ限定されるものではない。また、処理される木質材料の形状はどのようなものであってもよく、板材、柱材或いは修正材用のラミナなどであってもよい。
【0070】
A.処理液調整工程
上述の第1成分、第2成分及び触媒を配合して処理剤を調整する。また、必要により、第3成分を配合する。これらの成分は、第1成分の初期重合物を含め全てが親水基を多く有する水溶性の物質であり、処理液は水溶液とすることが好ましい。また、処理液には必要により水以外の溶媒、例えば、イソプロピルアルコールなどのアルコール類を一部配合してもよい。処理液が水溶液である場合には、乾燥処理や必要により行われる洗浄処理などが容易となり、作業環境も良好となる。
【0071】
木質材料に付与する各成分の付与量は、木質材料の種類と形状、使用する用途によって適宜調整すればよいが、後述の反応後に反応樹脂の固形分による木質材料の絶乾重量に対する重量増加率が8%〜80%の範囲内とすることが好ましい。木質材料に付与される反応樹脂の固形分が上記範囲内にあることにより、木質材料の細胞内腔、細胞間隙及び細胞壁内への充填、細胞壁を構成するセルロース分子間の架橋などが十分に行われる。このことにより、木質材料の寸法安定性が十分に達成され、また、重量増加率に比例して表面硬化が高くなる。
【0072】
一方、処理液中の各成分の配合比率は、木質材料の種類と形状、使用する用途によって適宜調整すればよい。例えば、第1成分と第2成分を配合した処理液の場合、固形分比率(重量比)で第1成分を1とすると、第2成分が3〜6の範囲内にあることが好ましく、更に、第2成分が4〜5の範囲内にあることがより好ましい。また、この処理液に第3成分を配合する場合には、固形分比率(重量比)で第1成分を1とすると、第2成分が3〜6の範囲内にあり、第3成分が2.5〜5.5の範囲内にあることが好ましく、更に、第2成分が4〜5の範囲内にあり、第3成分が3.5〜4.5の範囲内にあることがより好ましい。
【0073】
処理液中の各成分の配合比率が上記範囲内にあることにより、木質材料の細胞内腔、細胞間隙及び細胞壁内への充填、細胞壁を構成するセルロース分子間の架橋、第1成分の重合物或いは第1成分と第3成分との重合物間の架橋、及び、当該重合物と細胞壁を構成するセルロース分子間との架橋をより効率よく行うことができる。
【0074】
また、処理液には、本発明の効果に影響を及ぼさない範囲で、木質材料の処理に使用される各種助剤を併用することができる。これらの助剤には、例えば、着色剤、防腐剤、防火剤、防虫剤、防蟻剤、割れ防止剤などがある。更に、これらの助剤を処理液に併用するのではなく、本発明にかかる処理方法の前後に各種助剤による処理を組み合わせるようにしてもよい。
【0075】
B.処理液含浸工程
上記処理液調整工程で調整した処理液を木質材料に含浸する。含浸方法には、木質材料の各種処理で使用される方法である、塗布法、吹き付け法、浸漬法、温冷浴法などの常圧処理法や、ベッセル法、リュービング法、ローリー法、乾式注入法、加圧注入法、減圧注入法などの圧力処理法などがある。本発明においては、木質材料の通導を通して細胞内腔、細胞間隙及び細胞壁内に処理液を十分に含浸するために減圧・加圧交代法(OPM法)が好ましい。
【0076】
具体的には、木質材料を含浸装置である圧力容器中に装填した後、装置内を減圧して木質材料の細胞内腔、細胞間隙及び細胞壁内に存在する空気を脱気する。その後、減圧状態で装置内に処理液を供給し、処理液中に木質材料を浸漬する。次に、装置内を段階的に加圧して所定時間加圧状態を維持することで、処理液を木質材料の細胞内腔、細胞間隙及び細胞壁内に十分に含浸することができる。
【0077】
木質材料への処理液の含浸量は、処理液中の各成分の含有量と木質材料の空隙量により異なるが、本発明においては、通常、木質材料の重量に対して、60%〜400%の範囲内とすることが好ましい。
【0078】
このように、含浸工程は室温にて行われるので、処理液中に触媒を含有している場合であっても各成分の反応は進行しておらず、処理液の反応性は残存している。仮に、このことにより、木質材料の細胞内腔、細胞間隙及び細胞壁内に含浸されずに含浸装置内に残留した処理液は、回収して次の含浸工程に再利用することができる。
【0079】
C.反応工程
処理液を含浸した木質材料は、含浸装置から取り出され、乾燥装置内で十分に乾燥される。乾燥は、通常、40℃〜90℃の範囲内で行われるので、この90℃以下の段階では、各成分の反応は起こっていない。なお、木質材料の乾燥は、樹種と寸法に準じ生材からのキルンドライ乾燥スケジュールに準じて行われる。また、真空状態で加熱することにより乾燥することもできる。
【0080】
次に、乾燥された木質材料は、熱処理装置内で熱処理され各成分の反応が進行する。熱処理の条件は、木質材料の形状と各成分の種類及び反応触媒の種類と使用量により適宜選定すればよいが、例えば、厚さ1mm〜20mm程度の板材の場合、110℃〜160℃で2分間〜30分間で反応が行われる。
【0081】
この反応によって、処理液中の第1成分が自己重合して木質材料の細胞内腔、細胞間隙及び細胞壁内に充填されると共に、第2成分が細胞壁のセルロース分子間を架橋して木質材料の細胞壁の強度を向上させる。また、第1成分が自己架橋した樹脂と第2成分及び第3成分が反応して、更に、木質材料の寸法安定性と表面硬化を達成する。
【0082】
以下、本発明に係る木質材料の処理方法において、次のような各実施例の処理を行った。
【実施例1】
【0083】
木質材料として厚み20mm×幅110mm×長さ700mmの白手スギ板材を使用した。処理液は、第1成分として2−イミダゾリジノンとグリオキサールとを等モル数で反応させた化合物の水溶液(固形分:40重量%)を104g/リットルと、第2成分として1,3−ビス(ヒドロキシエチル)−4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノンの水溶液(固形分:40重量%)を470g/リットルと、触媒として塩化マグネシウム水溶液(固形分:25重量%)を99g/リットルとを含有する水溶液を調整した。
【0084】
含浸装置に白手スギ板材を装填し、含浸装置内を25mmHgの減圧状態として120分間維持した。その後、減圧状態を維持したまま含浸装置内に上記処理液を供給し、処理液中に白手スギ板材を浸漬した。次に、含浸装置内を0.2MPaまで加圧して30分間この状態を維持し、続いて、含浸装置内を0.4MPaまで加圧して30分間この状態を維持し、更に、含浸装置内を最大0.5MPaまで加圧して60分間の液加圧により白手スギ板材の細胞内腔、細胞間隙及び細胞壁内に処理液を含浸した。このときの含浸量は、白手スギ板材の重量に対して330%であった。
【0085】
含浸後、白手スギ板材を含浸装置から取り出し、室温50℃、湿度60%の乾燥装置内で1日間乾燥し、続いて、室温60℃、湿度50%の乾燥装置内で3日間乾燥し、更に、最終室温80℃、湿度40%の乾燥装置内で3日間乾燥した。乾燥された白手スギ板材は、120℃熱処理装置内で30分間熱処理され各成分の反応を行い、第1成分と第2成分との反応硬化を行った。この反応による樹脂の充填量は、白手スギ板材の絶乾重量に対して71%であった。
【実施例2】
【0086】
木質材料として厚み20mm×幅110mm×長さ700mmのヒノキ板材を使用した。処理液は、上記第1実施例と同じ処方を採用した。但し、本第2実施例の処理液の一部には、上記第1実施例で含浸装置内に残留した回収処理液を再利用した。具体的には、回収処理液80容量%と新たに調整した処理液20容量%とを混合して使用した。
【0087】
処理液含浸工程と反応工程は、上記第1実施例と同様にして行った。含浸工程における含浸量は、ヒノキ板材の重量に対して270%であった。また、反応工程における樹脂の充填量は、ヒノキ板材の絶乾重量に対して60%であった。
【実施例3】
【0088】
木質材料として厚み20mm×幅110mm×長さ700mmの赤手スギ板材を使用した。処理液には、第1成分として2−イミダゾリジノンとグリオキサールとを等モル数で反応させた化合物の水溶液(固形分:40重量%)を62g/リットルと、第2成分として1,3−ビス(ヒドロキシメチル)−4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノンの水溶液(固形分:40重量%)を280g/リットルと、第3成分としてジプロピレングリコール(100%品)を93g/リットルと、触媒として塩化マグネシウム水溶液(固形分:25重量%)を93g/リットルとを含有する水溶液を調整した。
【0089】
処理液含浸工程と反応工程は、上記第1実施例と同様にして行った。含浸工程における含浸量は、赤手スギ板材の重量に対して280%であった。また、反応工程における樹脂の充填量は、赤手スギ板材の絶乾重量に対して53%であった。
【0090】
次に、上記実施例1〜3で処理した木質材料についての評価を行った。評価項目としては、寸法安定性を評価する収縮率試験、表面の耐傷性を評価する鉛筆硬度試験とキャスター試験、光によるヤケ防止性を評価する耐光試験、及び、表面のベトツキを評価する触指試験を行った。以下、各試験項目及び評価結果について説明する。
【0091】
a.収縮率試験(寸法安定性の評価):
含水率の変化に対する寸法安定性の評価は、木質材料の厚さ方向(柾目方向)、幅方向(板目方向)及び長さ方向(繊維方向)における寸法変化率(収縮率)の値で評価した。本発明において、この評価方法は、JIS−Z2103「木材の収縮率測定方法」に準拠して、当該方法にいうところの全収縮率(%)を採用した。なお、評価用試験片は、側面2方柾目木取したもの(板目面)を使用した。
【0092】
この評価方法において、木質材料の厚さ方向(柾目方向)、幅方向(板目方向)及び長さ方向(繊維方向)の各寸法変化率(全収縮率)の値が、いずれも2%以下であることが好ましい。各寸法変化率(全収縮率)の値が2%以下である場合には、含水率の変化によって木質材料に反りや捩れなどの狂いが生じることがない。
【0093】
b.鉛筆硬度試験(耐傷性の評価):
表面の耐傷性の評価の方法として、鉛筆硬度試験を採用した。本発明において、この評価方法は、JIS−K5400「鉛筆ひっかき試験方法」に準拠した。木質材料の表面に硬度6B(硬い)〜B(柔らかい)の各鉛筆の芯を45度に傾けた状態で各荷重(300g・700g・1000g)をかけ、木質材料上を引きずった後の表面の凹み状態の目立ち易さを目視評価した。凹み状態が目立ち難いものを○(良好)とし、△(やや不良)、×(不良)の3段階で評価し、○となる条件の中で最も硬い鉛筆の硬度とその時の荷重で示した。
【0094】
c.キャスター試験(耐傷性の評価):
表面の耐傷性の評価の方法として、更に、キャスター試験を採用した。本発明において、この評価方法は、直径50mm、幅9mmの回転輪が2個ついたプラスチック製のダブルキャスター1個に20kgの荷重をかけ、片道1回のひねりを入れて、木質材料上を35000回往復させた後の凹みの深さと目立ち易さを評価した。凹みの深さが30μm以下であって目立ち難いものを○(良好)とし、△(やや不良)、×(不良)の3段階で評価した。
【0095】
d.耐光試験(ヤケ防止性の評価):
光によるヤケ防止性の評価は、木質材料の表面に光を照射し、照射前後の明度差ΔL*及び色差ΔE*abの両面から評価した。本発明において、この評価方法は、JIS−D0205「自動車部品の耐候性試験方法」のWAS−1S(散水なし)に準拠した。サンシャインウエザーメーター(カーボンアーク灯式)で150時間照射後の変色をJIS−Z8730「色差表示方法」によって明度差ΔL*及び色差ΔE*abを計算した。L*a*b*表色系において、色差ΔE*abは下記の式、

ΔE*ab=〔(Δa*)+(Δb*)+(ΔL*)1/2

で表される。
【0096】
e.触指試験(ベトツキの評価):
未反応物の残留による表面のベトツキの評価は、木質材料の表面を人差し指で触ることにより樹脂が指に付着しない指触状態で評価した。ベトツキの無いものを○(良好)とし、△(やや不良)、×(不良)の3段階で評価した。
【0097】
上記実施例1〜3で処理した木質材料及びこれらの比較例としての未処理材に対する各評価結果を表1に示す。
【表1】

表1から分かるように、実施例1〜3で処理した木質材料は、いずれも良好な評価結果を示している。寸法安定性を示す全収縮率においては、各未処理材の全収縮率の値が大きく、また、厚さ方向、幅方向及び長さ方向の値の差異が大きいことに対し、各実施例の木質材料では、全収縮率の値が、いずれも2%以下であり、且つ、厚さ方向、幅方向及び長さ方向の値の差異がほとんどない。
【0098】
また、表面の耐傷性を示す鉛筆硬度試験においては、各未処理材が硬度6Bの鉛筆に対して凹み状態が非常に目立つことに対し、各実施例の木質材料では、いずれも硬度6Bの鉛筆に対して凹み状態が目立ち難くなっている。更に、キャスター試験においても、各実施例の木質材料は良好な結果を示した。
【0099】
また、光によるヤケ防止性を示す耐光試験においては、各未処理材の明度差ΔL*及び色差ΔE*abの値が、赤手スギ材を除き大きな値を示していることに対し、各実施例の木質材料では、明度差ΔL*及び色差ΔE*abの値が、いずれも小さく、良好なヤケ防止性を示している。このことは、各実施例の木質材料が長時間の使用においても常に新鮮な木の色を持続できる画期的な結果を示している。なお、赤手スギ材において各未処理材の明度差ΔL*及び色差ΔE*abの値が小さいことは、元々の材料の色相が赤く、光により変色しても目立ち難いものと考えられる。
【0100】
また、未反応物の残留による表面のベトツキを示す触指試験においては、各実施例の木質材料においてベトツキが感じられず、良好な結果を示している。
【0101】
よって、本発明においては、含水率の変化に対する木質材料の寸法安定性を大幅に改善し、また、未反応物の残留による表面のベトツキがなく硬い表面が形成されるので木質材料の表面にキズが付きにくく、更に、光による黄褐変などの変色を大幅に改善することのできる木質材料の処理方法、及び、当該方法で処理された木質材料を提供することができる。
【0102】
次に、上記木質材料の処理方法で得られた寸法安定性と表面硬化に優れた木質材料の用途として、集成材を例にして2つの実施形態を説明する。ここで、集成材とは、上述のように、木材小片(以下「ラミナ」という)を接着して得られる板材や柱材などであって、これらの集成材をテーブルの天板や床材に使用するには、含水率の変化に対する寸法安定性と表面硬化によるキズの付きにくさが特に要求される。
【0103】
第1実施形態:
上記実施例1において処理された白手スギ板材を所定寸法に成形して集成材を構成する一次ラミナを準備した。これらの一次ラミナの寸法変化率(全収縮率)の値は、表1に示す通りであった。
【0104】
図1は、集成材10の斜視図である。集成材10は、単層の集成材の板材であって、3枚の二次ラミナ11、12、13から構成されている。これらの二次ラミナ11、12、13は、それぞれ、水性ビニルウレタン樹脂を介して幅はぎ(幅方向につなぐこと)されて図示B方向(幅方向)に接合されている(図1参照)。
【0105】
二次ラミナ11は、3枚の一次ラミナ11a、11b、11cから構成されており、これらの一次ラミナ11a、11b、11cは、それぞれ、縦継ぎ(長さ方向につなぐこと)されて図示A方向(長さ方向)に接合されている(図1参照)。
【0106】
ここで、一次ラミナ11a、11cは、その木目の繊維方向を図示A方向(長さ方向)に平行にして配置されており、一方、一次ラミナ11bは、その木目の繊維方向を図示B方向(幅方向)に平行にして配置されている。従って、一次ラミナ11a、11cと一次ラミナ11bとは、互いに木目の繊維方向を直交させて接合されている。
【0107】
一次ラミナ11aと一次ラミナ11bの接合部位14a、及び、一次ラミナ11cと一次ラミナ11bの接合部位14bは、いずれも水性ビニルウレタン樹脂を介してフィンガージョイントによって接合されている。二次ラミナ12及び二次ラミナ13の構成も、上記二次ラミナ11の構成と同様である。
【0108】
このように構成した集成材10においては、各一次ラミナの木目の繊維方向が直交するように接合されているが、上述のように、各一次ラミナの寸法変化率の値は、いずれも2%以下(表1参照)と小さく、且つ、厚さ、幅及び長さ方向において同程度であることから、反りや捩れなどの狂いが生じることがない。
【0109】
また、これら一次ラミナの木目の繊維方向が直交するように接合された部分の意匠性は高く、表面材として使用することができる。
【0110】
よって、本第1実施形態においては、一次ラミナの含水率の変化による寸法変化率が小さいので一次ラミナの木目の繊維方向を互いに交差して接合することができ、反りや捩れなどの狂いが生じることがなく、また、未反応物の残留による表面のベトツキがなく硬い表面が形成されるので木質材料の表面にキズが付きにくく、更に、光による黄褐変などの変色を大幅に改善し、且つ、交差接合した部分の高い意匠性によって商品価値の高い集成材を提供することができる。
【0111】
第2実施形態:
次に、集成材の他の構成例について説明する。この集成材においても、上記実施例1において処理された白手スギ板材を所定寸法に成形して一次ラミナを準備した。
【0112】
図2は、集成材20の斜視図である。集成材20は、3層に積層された集成材であって、3枚の二次ラミナ21、22、23から構成されている。これらの二次ラミナ21、22、23は、それぞれ、水性ビニルウレタン樹脂を介して図示C方向(厚さ方向)に接合されている(図2参照)。
【0113】
二次ラミナ21は、3枚の一次ラミナ21a、21b、21cから構成されており、これらの一次ラミナ21a、21b、21cは、それぞれ、縦継ぎされて図示A方向(長さ方向)に接合されている(図2参照)。
【0114】
ここで、一次ラミナ21a、21cは、その木目の繊維方向を図示A方向(長さ方向)に平行にして配置されており、一方、一次ラミナ21bは、その木目の繊維方向を図示B方向(幅方向)に平行にして配置されている。従って、一次ラミナ21a、21cと一次ラミナ21bとは、互いに木目の繊維方向を直交させて接合されている。
【0115】
一次ラミナ21aと一次ラミナ21bの接合部位24a、及び、一次ラミナ21cと一次ラミナ21bの接合部位24bは、いずれも水性ビニルウレタン樹脂を介してフィンガージョイントによって接合されている。二次ラミナ22及び二次ラミナ23の構成も、上記二次ラミナ21の構成と同様である。
【0116】
このように構成した集成材20においては、各一次ラミナの木目の繊維方向が直交するように接合されているが、上述のように、各一次ラミナの寸法変化率の値は、いずれも2%以下(表1参照)と小さく、且つ、厚さ、幅及び長さ方向において同程度であることから、反りや捩れなどの狂いが生じることがない。
【0117】
また、これら一次ラミナの木目の繊維方向が直交するように接合された部分の意匠性は高く、この部分が表面に現れるように使用することができる。
【0118】
よって、本第2実施形態においては、一次ラミナの含水率の変化による寸法変化率が小さいので一次ラミナの木目の繊維方向を互いに交差して接合することができ、反りや捩れなどの狂いが生じることがなく、また、未反応物の残留による表面のベトツキがなく硬い表面が形成されるので木質材料の表面にキズが付きにくく、更に、光による黄褐変などの変色を大幅に改善し、且つ、交差接合した部分の高い意匠性によって商品価値の高い集成材を提供することができる。
【符号の説明】
【0119】
10、20…集成材、11〜13、21〜23…二次ラミナ、
11a〜11c、21a〜21c…一次ラミナ、
14a、14b、24a、24b…接合部位。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状尿素化合物とグリオキサールとの付加生成物からなる第1成分と、
4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノン或いはその誘導体からなる第2成分とを含有する処理液を木質材料に含浸し、
当該木質材料中で前記第1成分及び前記第2成分を反応硬化させることを特徴とする木質材料の処理方法。
【請求項2】
前記第1成分及び前記第2成分に加えて、グリコール類からなる第3成分を含有する処理液を木質材料に含浸し、
当該木質材料中で前記第3成分を前記第1成分及び前記第2成分と共に反応硬化させることを特徴とする請求項1に記載の木質材料の処理方法。
【請求項3】
前記第1成分は、
2−イミダゾリジノンとグリオキサールとの付加生成物からなり、2−イミダゾリジノン1モルに対してグリオキサールを0.9モル〜1.2モル付加してなることを特徴とする請求項1又は2に記載の木質材料の処理方法。
【請求項4】
前記第2成分は、
1,3−ジメチル−4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノン、1,3−ビス(ヒドロキシメチル)−4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノン、1,3−ビス(ヒドロキシエチル)−4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノンからなる群から選ばれた少なくとも1種からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の木質材料の処理方法。
【請求項5】
2−イミダゾリジノン1モルに対してグリオキサールを0.9モル〜1.2モル付加した付加生成物からなる第1成分と、
1,3−ビス(ヒドロキシエチル)−4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノンからなる第2成分とを含有し、
これらの含有量が固形分比率(重量比)で前記第1成分を1とすると、前記第2成分が3〜6の範囲内にある処理液を木質材料に含浸し、
当該木質材料中で前記第1成分及び前記第2成分を反応硬化させることを特徴とする木質材料の処理方法。
【請求項6】
2−イミダゾリジノン1モルに対してグリオキサールを0.9モル〜1.2モル付加した付加生成物からなる第1成分と、
1,3−ビス(ヒドロキシメチル)−4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノンからなる第2成分と、
ジプロピレングリコールからなる第3成分とを含有し、
これらの含有量が固形分比率(重量比)で前記第1成分を1とすると、前記第2成分が3〜6の範囲内にあり、前記第3成分が2.5〜5.5の範囲内にある処理液を木質材料に含浸し、
当該木質材料中で前記第1成分、前記第2成分及び前記第3成分を反応硬化させることを特徴とする木質材料の処理方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1つに記載の木質材料の処理方法により処理されたことを特徴とする木質材料。
【請求項8】
請求項7に記載の木質材料からなる一次ラミナを縦継ぎしてなる二次ラミナを幅はぎ又は/及び積層してなる集成材において、
前記二次ラミナは、前記一次ラミナの木目の繊維方向が互いに交差するようにして接合した縦継ぎ部分を有することを特徴とする集成材。
【請求項9】
請求項7に記載の木質材料からなる一次ラミナを積層してなる二次ラミナを縦継ぎ又は/及び幅はぎしてなる集成材において、
前記二次ラミナは、前記一次ラミナの木目の繊維方向が互いに交差するようにして接合した積層部分を有することを特徴とする集成材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−52518(P2013−52518A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−190290(P2011−190290)
【出願日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(000177014)三木理研工業株式会社 (20)
【Fターム(参考)】