説明

木質樹脂成形品の製造方法

【課題】 強度や寸法安定性を有する木質樹脂成形品の製造方法を提供すること。
【解決手段】 木質粉体と熱可塑性樹脂とを混合して成形する木質樹脂成形品の製造方法において、木質粉体が、木質廃材が粉砕されたものであり、かつ、酸無水物又はジカルボン酸で改質されたものであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質樹脂成形品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
木質粉体と塩化ビニルやオレフィン系の熱可塑性樹脂を混練し成形した木質樹脂複合材(Wood Plastic Conposit)(以下、単にWPCと略称する)が、デッキ、ベンチ等のエクステリアや造作材等の内装材として用いられている。
【0003】
WPCにおける木質粉体の熱可塑性樹脂に対する比率は、通常20〜50質量%程度であるが、最近では木質粉体比率が70質量%以上という高木質率のWPCも上市されてきており、木質粉体の需要が増加している。
【0004】
そのため、WPC等に使用される木質粉体として、製材の端材や建築廃材等の木質廃材を粉砕した粉体を用いたものが提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実用新案登録第3085587号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
製材の端材や建築廃材等の木質廃材のうち、合板や繊維板等の木質ボード等の木質廃材を利用した場合、これらには一般的にバインダーとしてメラミン樹脂、ユリア樹脂、フェノール樹脂、イソシアネート樹脂等の熱硬化性樹脂からなる接着剤が含まれており、これらの木質廃材を用いて成形した木質樹脂成形品は、強度や寸法安定性等の品質が低下するという問題があった。
【0007】
また、木質廃材の利用については、木質廃材の履歴が不明なケースがあり、用途が限定されると木質廃材ごとに分別する必要もあり膨大な手間がかかっていた。
【0008】
本発明は、以上のとおりの事情に鑑みてなされたものであって、優れた強度や寸法安定性を有する木質樹脂成形品の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下のことを特徴としている。
【0010】
即ち、本発明の木質樹脂成形品の製造方法は、木質粉体と熱可塑性樹脂とを混合して成形する木質樹脂成形品の製造方法において、木質粉体が、木質廃材が粉砕されたものであり、かつ、酸無水物又はジカルボン酸で改質されたものであることを特徴とする。
【0011】
この木質樹脂成形品の製造方法において、熱可塑性樹脂と、酸無水物又はジカルボン酸を溶融混練した後、木質粉体を加えて溶融混練することにより木質粉体を改質することが好ましい。
【0012】
また、前記木質樹脂成形品の製造方法において、木質粉体と、酸無水物又はジカルボン酸と、熱可塑性樹脂を混合して加熱溶融させ、高せん断力を作用する状態で混練することにより木質粉体を改質することが好ましい。
【0013】
また、前記木質樹脂成形品の製造方法において、木質粉体が、熱硬化性樹脂を含む木質廃材を粉砕した木質粉体であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の木質樹脂成形品の製造方法によれば、優れた強度や寸法安定性を有する木質樹脂成形品を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の木質樹脂成形品の製造方法について詳細に説明する。
【0016】
本発明の木質樹脂成形品の製造方法は、木質粉体と熱可塑性樹脂とを混合して成形する木質樹脂成形品の製造方法において、木質粉体が、木質廃材を粉砕したものであり、かつ、酸無水物又はジカルボン酸で改質されたものである木質樹脂成形品の製造方法である。
【0017】
酸無水物又はジカルボン酸による改質は、酸無水物又はジカルボン酸と木質粉体及び熱可塑性樹脂の粉体又は粒状の材料を、混練機で加熱混練することにより改質することができる。
【0018】
酸無水物又はジカルボン酸及び熱可塑性樹脂を所定の温度で溶融させ木質粉体と加熱下で混練することにより、酸無水物又はジカルボン酸を木質粉体及び熱可塑性樹脂に付加結合させカルボキシル基を導入させて改質することができる。
【0019】
熱可塑性樹脂に親水基であるカルボキシル基を導入することにより木質粉体との相溶性を良好にし、また、木質粉体に対しては木質粉体成分の水酸基と導入したカルボキシキル基とのエステル結合を生じさせることで、木質粉体の疎水化や寸法安定化が可能となり、木質樹脂成形品の外観や物性の低下を抑制することができる。
【0020】
本発明の木質樹脂成形品の製造方法では、熱可塑性樹脂と、酸無水物又はジカルボン酸を溶融混練した後に木質粉体を加えて改質することができる。
【0021】
本発明で用いられる熱可塑性樹脂としては、一般に公知の熱可塑性樹脂を制限なく用いることができ、これらのものとしては、例えばオレフィン系樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)樹脂、ポリスチレン(PS)樹脂等を挙げることがでる。これらの中でもオレフィン系樹脂のポリプロピレン樹脂を好適に用いることができる。
【0022】
本発明で用いられる酸無水物としては、無水マレイン酸、無水フタル酸を挙げることができる。また、マレイン酸、フタル酸を用いて加熱混練することで酸無水物に変換させることも可能である。
【0023】
これらの酸無水物の添加量は木質樹脂成形品全体の0.5〜5質量%の範囲が好ましい。酸無水物の添加量をこの範囲とすることにより優れた強度や寸法安定性を有する木質樹脂成形品を製造することができる。
【0024】
本発明で用いられるジカルボン酸としては、フマル酸、コハク酸、アジピン酸を好適に用いることができる。これらのジカルボン酸の添加量は、木質樹脂成形品全体の0.5〜5質量%の範囲が好ましい。ジカルボン酸の添加量をこの範囲とすることにより優れた強度や寸法安定性を有する木質樹脂成形品を製造することができる。
【0025】
本発明で用いられる木質粉体は、製材の端材や建築廃材等の木質廃材を粉砕したものを用いることができ、屋外で放置された木質廃材や合板、MDF、パーティクルボード、集成材等の木質ボードの切断屑や端材等であってもよい。
【0026】
木質ボードの廃材や切断屑、端材を利用した場合、これらの木質ボードにはバインダーとしてメラミン樹脂、ユリア樹脂、フェノール樹脂、イソシアネート樹脂等の熱硬化性樹脂からなる接着剤が含まれている場合がある。
【0027】
本発明では、このような熱硬化性樹脂からなる接着剤が含まれている木質ボードの廃材や切断屑、端材等の木質廃材を粉砕した木質粉体に対しても、酸無水物又はジカルボン酸による改質が可能である。
【0028】
木質粉体は木質廃材を粉砕して用いられるが、木質粉体の粒度は木質樹脂成形品の用途に応じて必要とされる粒度が異なるため、特に制限されるものではなく、適宜設定することができる。
【0029】
なお、木質樹脂成形品の表面平滑性が要求される場合には、ふるいにより細かい木質粉体のみを選別して用いることができ、この場合には45メッシュ以下のふるいで分級することが好ましい。
【0030】
また、木質粉体に水分が多く含まれる場合には、酸無水物が水和して開環したり、あるいは酸の脱水が生じにくくなるため、特に吸湿しやすい木質粉体の含水率は10質量%以下であることが好ましい。
【0031】
本発明で用いられる混練機としては、投入した材料を十分に混練できるものであれば特に制限はないが、加熱と同時にせん断力を作用させ、一定時間以上連続して混練できる装置、例えばニーダーや二軸混練機、ロール混練機等を好適に用いることができる。
【0032】
さらに、投入した材料に高せん断力を作用させることのできるブレードやスクリュー形状を備えた混練機で混練することがより好ましい。
【0033】
投入した木質粉体や熱可塑性樹脂に対して高せん断力を作用させることにより、機械的な撹拌に加え、材料の成分変性を生じさせることができ、メカノケミカル反応により、より短時間で高反応率の改質を行うことが可能となる。
【0034】
特に、添加する酸が酸無水物ではないジカルボン酸の場合、特にメカノケミカル反応により熱可塑性樹脂や木質粉体との改質を効率的に進めることができる。
【0035】
また、混練の条件は混練機やスクリュー、ブレード形状により適宜設定することができる。混練温度は熱可塑性樹脂及び、酸無水物又はジカルボン酸が溶融する温度以上が必要であり、通常150〜220℃の範囲で設定される。
【0036】
なお、温度がこの範囲であれば木質粉体成分が熱分解することがないため好ましい。混練時間は材料の種類や量、設備能力により適宜設定することができる。
【0037】
本発明では、木質廃材を粉砕して得られた木質粉体、酸無水物又はジカルボン酸、熱可塑性樹脂以外の成分を、本発明の効果を阻害しない範囲で配合することが可能である。
【0038】
これらの成分としては、例えば、ガラス繊維、ワラストナイト、パルプ、等の繊維や、タルク、炭酸カルシウム、マイカ等の無機フィラー、滑材、撥水材等の添加材や、木質廃材由来ではない木質粉体を挙げることができる。
【0039】
また、混練を行った後、押出機、射出成形機、プレス成形機等により成形して木質樹脂成形品を得ることができる。混練の後に、一旦ペレットにしてもよく、これらを用いて連続的に成形することもできる。
【0040】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【実施例】
【0041】
<実施例1>
MFR(Melt flow rate)10のポリプロピレン樹脂ペレット(日本ポリプロ製、ノバテックSA04C)100質量部を、高せん断混練タイプのディスク型ブレードを設置したプラストミル(東洋精機製作所製 セグメントミキサーKF15V)に投入し、190℃、60rpmで混練し溶融させた後に、無水マレイン酸粉末(日油製、クリスタルMAN)をポリプロピレン樹脂ペレット100質量部に対して3質量部加えた。
【0042】
さらに針葉樹合板の切削端材を粉砕後、ふるいにより45メッシュ以下に分級した含水率4質量%の木質粉体120質量部を加え、20分間、120rpmの回転速度で混練を行った。
【0043】
せん断摩擦による発熱により材料温度は210℃まで達した。混練した材料を一旦取り出し、そのまま200℃に設定したプレスでスペーサーを設置し12MPaで1分間加圧後、冷却することにより2mmの厚みの木質樹脂成形品を得た。
<実施例2>
【0044】
MFR(Melt flow rate)10のポリプロピレン樹脂ペレット(日本ポリプロ製、ノバテックSA04C)100質量部を、高せん断混練タイプのディスク型ブレードを設置したプラストミル(東洋精機製作所製 セグメントミキサーKF15V)に投入し、190℃、60rpmで混練し溶融させた後に、無水フタル酸粉末(ナカライテスク試薬)をポリプロピレン樹脂ペレット100質量部に対して3質量部加えた。
【0045】
さらに、パーティクルボードの切削屑をふるいにより45メッシュ以下に分級した含水率6質量%の木質粉体120質量部を加え、20分間、120rpmの回転速度で混練を行った。
【0046】
せん断摩擦による発熱により材料温度は210℃まで達した。混練した材料を一旦取り出し、そのまま200℃に設定したプレスでスペーサーを設置し12MPaで1分間加圧後、冷却することにより2mm厚みの木質樹脂成形品を得た。
【0047】
<実施例3>
アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂ペレット(UMG ABS製、EX120)を、高せん断混練タイプのディスク型ブレードを設置したプラストミル(東洋精機製作所製 セグメントミキサーKF15V)に投入し、210℃、60rpmで混練し溶融させた後に、アジピン酸粉末(ナカライテスク試薬)を樹脂ペレット100質量部に対して5質量部加えた。
【0048】
さらにMDF(Mタイプ)の切削端材を粉砕後、ふるいにより45メッシュ以下に分級した含水率0.5質量%の木質粉体80質量部を加え、20分間、120rpmの回転速度で混練を行った。
【0049】
せん断摩擦による発熱により材料温度は210℃まで達した。混練した材料を一旦取り出し、そのまま220℃に設定したプレスでスペーサーを設置し12MPaで1分間加圧後、冷却することにより2mm厚みの木質樹脂成形品を得た。
【0050】
<比較例1>
MFR(Melt flow rate)10のポリプロピレン樹脂ペレット(日本ポリプロ製、ノバテックSA04C)100質量部とマレイン酸変性プリプロピレン樹脂ペレット(三洋化成製、ユーメックス1010)5質量部を、ローラ型ブレードを設置したプラストミル(東洋精機製作所製)に投入し、190℃、60rpmで混練し溶融させた後に、さらに接着剤を含まない木材を加工した製材の切削端材を粉砕後、ふるいにより45メッシュ以下に分級した含水率4質量%の木質粉体120質量部を加え、20分間混練を行った。
【0051】
材料温度は設定温度190℃のままであった。混練した材料を一旦取り出し、そのまま200℃に設定したプレスでスペーサーを設置し12MPaで1分間加圧後、冷却することにより2mm厚みの木質樹脂成形品を得た。
【0052】
<比較例2>
MFR(Melt flow rate)10のポリプロピレン樹脂ペレット(日本ポリプロ製、ノバテックSA04C)100質量部とマレイン酸変性プリプロピレン樹脂ペレット(三洋化成製、ユーメックス1010)5質量部を、ローラ型ブレードを設置したプラストミル(東洋精機製作所製)に投入し、190℃、60rpmで混練し溶融させた後に、さらに針葉樹合板の切削端材を粉砕後、ふるいにより45メッシュ以下に分級した含水率4質量%の木質粉体120質量部を加え、12MPaで1分間混練を行った。
【0053】
材料温度は設定温度190℃のままであった。混練した材料を一旦取り出し、そのまま200℃に設定したプレスでスペーサーを設置し加圧後、冷却することにより2mm厚みの木質樹脂成形品を得た。
【0054】
上記の実施例1〜3及び比較例1、2の各木質樹脂成形品について曲げ試験、アイゾット衝撃試験、吸水試験を行った。
【0055】
曲げ試験は、JIS7171(荷重速度1mm/分)に基づいて行い、曲げヤング率及び曲げ強度を測定した。その試験結果を表1に示す。
【0056】
アイゾット衝撃試験は、JIS7111(ノッチ無し)に基づいて行った。その試験結果を表1に示す。
【0057】
吸水試験は、JIS7209(23℃24h浸漬)に基づいて行い、吸水率及び吸水体積変化率を測定した。その試験結果を表1に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
実施例1〜3では接着剤を含まない木材からの木粉を用いた比較例1と同等以上の強度を示し、特に吸水試験では比較例1、2よりも優れた吸水に対する寸法安定性を示した。
【0060】
また、接着剤を含む廃材を用い、酸無水物又はジカルボン酸による改質を施さなかった比較例2では、全ての試験項目について低下が確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質粉体と熱可塑性樹脂とを混合して成形する木質樹脂成形品の製造方法において、木質粉体が、木質廃材が粉砕されたものであり、かつ、酸無水物又はジカルボン酸で改質されたものであることを特徴とする木質樹脂成形品の製造方法。
【請求項2】
熱可塑性樹脂と、酸無水物又はジカルボン酸を溶融混練した後、木質粉体を加えて溶融混練することにより木質粉体を改質することを特徴とする請求項1に記載の木質樹脂成形品の製造方法。
【請求項3】
木質粉体と、酸無水物又はジカルボン酸と、熱可塑性樹脂を混合して加熱溶融させ、高せん断力を作用する状態で混練することにより木質粉体を改質することを特徴とする請求項1又は2に記載の木質樹脂成形品の製造方法。
【請求項4】
木質粉体が、熱硬化性樹脂を含む木質廃材を粉砕した木質粉体であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の木質樹脂成形品の製造方法。

【公開番号】特開2013−107999(P2013−107999A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−254693(P2011−254693)
【出願日】平成23年11月22日(2011.11.22)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】