説明

木質繊維板とその製造方法

【課題】曲げ強度や剥離強度等の強度物性を低下させることなく、寸法安定性を向上させた木質繊維板を得る。
【解決手段】通常の方法により製造された木質繊維板に対して、2−ヒドロキシエチルモノメタクリレートを添加したポリエチレングリコールモノメタクリレートを含浸する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質繊維板とその製造方法に関し、特に、寸法安定性などの物性を改善するためにポリエチレングリコールモノメタクリレートを含浸する処理を行った木質繊維板において、その曲げ強度と剥離強度を改善することのできる木質繊維板とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
植物繊維を、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂をバインダーとして板状に熱圧成形して、種々の木質繊維板とすることは知られている。しかし、これらの木質繊維板は、一般に、水分の吸排出による寸法変化率が大きく、物品の構成材料として使用したときに、物品に変形や寸法ズレを生じやすい。そのために、熱圧成形した木質繊維板に対して薬剤を含浸させて、寸法安定性を向上させることが行われている。例えば、特許文献1には、板状に熱圧締成形した木質繊維板(パーティクルボード)に対して、液状非吸湿材(ポリエチレングリコールまたはポリエチレングリコールメタアクリル酸)を浸透含浸させて、寸法の安定したパーティクルボードを製造することが記載されている。また、特許文献2には、バインダーとしてフェノール系樹脂を用いた木質繊維板において、木質繊維板にポリエチレングリコールメタアクリレートを、木質繊維板の重量に対して5〜60重量%となるように、塗布または含浸させて、寸法安定性を確保することが記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開平8−300320号公報
【特許文献2】特開2002−337116号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
木質繊維板に対して上記のような薬剤を含浸する処理を行うことにより、高い寸法安定性は得られる。しかし、他の物性値、例えば、木質繊維板の曲げ強度や剥離強度が未処理のものよりも低下することが指摘されている。
【0005】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、寸法安定化処理を施した木質繊維板において、曲げ強度や剥離強度の低下率を少なくした、あるいは向上させた木質繊維板およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決すべく、本発明者らは多くの実験と研究を行うことにより、通常の方法により製造された木質繊維板に、寸法安定化剤としてポリエチレングリコールモノメタクリレートを含浸させるときに、そこに2−ヒドロキシエチルモノメタクリレートを添加した状態で含浸を行うことにより、曲げ強度や剥離強度をほぼ維持しながら、高い寸法安定性を確保できることを知見した。
【0007】
本発明は、上記の知見に基づくものであり、本発明による木質繊維板は、植物繊維を熱硬化性樹脂をバインダーとして板状に熱圧成形した木質繊維板であって、前記木質繊維板には、さらに、2−ヒドロキシエチルモノメタクリレートを添加したポリエチレングリコールモノメタクリレートが含浸されていることを特徴とする。
【0008】
また、本発明による木質繊維板の製造方法は、植物繊維を熱硬化性樹脂をバインダーとして板状に熱圧成形した後、2−ヒドロキシエチルモノメタクリレートを添加したポリエチレングリコールモノメタクリレートを含浸する処理を施すことを特徴とする。
【0009】
いずれの場合も、限定するものではないが、含浸する液として、ポリエチレングリコールモノメタクリレートの固形分100重量部に対し、20〜300重量部の2−ヒドロキシエチルモノメタクリレートを添加した、樹脂固形分20〜100%水溶液を用いることが望ましく、それにより、より物性値の改善された木質繊維板を得ることができる。
【0010】
なお、2−ヒドロキシエチルモノメタクリレートの添加量が上記未満(20重量部未満)だと、曲げ強度や剥離強度を低下させない効果が小さく、また、上記の範囲を超過する(300重量部を越える)と寸法安定性に影響を与え、寸法安定性がやや低下する。さらに、含浸液として樹脂固形分が20%未満のポリエチレングリコールモノメタクリレート水溶液を用いる場合にも、寸法安定性がやや低下する。
【0011】
本発明において、木質繊維板への含浸液の含浸方法に特に制限はなく、常圧での塗布含浸でもよく、減圧含浸でもよいが、減圧含浸は迅速かつ均一な含浸が得られることから、より好ましい。減圧含浸の場合、減圧程度は、60〜5kPaの範囲で行うことが好ましく、本発明者らの実験では、60kPaよりも低い減圧度では、均一な含浸を短い時間で行うことができず、5kPaよりも高い減圧値とすることは、現状では技術的に困難である。
【0012】
本発明において、木質繊維板の種類やその製造方法に特に制限はなく、通常の方法により製造される木質繊維板、すなわち、植物繊維をフェノール樹脂、尿素−メラミン樹脂などの熱硬化性樹脂をバインダーとして熱圧締して得られる木質繊維板を適宜用いることができる。例として、高密度繊維板(HB)や中密度繊維板(MDF)などを挙げることができるが、薬剤の含浸が容易である理由から、中密度繊維板(MDF)は最も好適である。
【実施例】
【0013】
以下、実施例により本発明を説明する。
[実施例]
ポリエチレングリコールモノメタクリレート(分子量387〜467)(日本油脂社のブレンマーPE350)の固形分100重量部に対し、30重量部の2−ヒドロキシエチルモノメタクリレートを添加した、樹脂固形分30%水溶液を、バインダーとしてフェノール樹脂を用いた密度0.83g/cm、厚さ2.7mmの木質繊維板に、60kPaの減圧条件下で含浸させ、硬化させた。含浸時間は5分であり、含浸量は樹脂固形分の含有量が、木質繊維板の重量に対して12重量%となるようにした。
【0014】
得られた木質繊維板から、50mm×300mm×2.7mmの共試材料を作り、下記要領により、2態様での寸法変化率、曲げ強度、剥離強度を測定した。表1、表2にその結果を示す。なお、試験データはいずれも共試材料6の平均値をとっている。
【0015】
[寸法変化率]
1.気乾状態の共試材料を恒温乾燥機(105℃)に入れ、全乾状態(105℃、3日後)となったときの長手方向での寸法変化率
2.全乾状態から温度40℃、湿度90%の環境試験室に1週間放置した後の寸法変化率
【0016】
[曲げ強度試験]
JISA5905に準じた試験であり、共試材料をスパン200mmにセットし、共試材料の表面から平均変形速度10mm/分荷重を加え、その最大荷重を測定し、次式(1)により曲げ強度を測定。
【0017】
式(1) 曲げ強度(kgf/cm)=3PL/2bt
【0018】
ここで、P:最大荷重(kgf)、L:スパン(cm)、b:共試材料の幅(cm)、t:共試材料の厚さ(cm)
【0019】
[剥離強度試験]
JISA5905に準じた試験であり、2枚の鋼ブロック間に接着剤を用いて共試材料を接着し、垂直引っ張り荷重を加え、剥離破壊時の最大荷重を測定し、次式(2)により剥離強度を測定。
【0020】
式(2) 剥離強度(kgf/cm)=P/bL
【0021】
ここで、P:剥離破壊時の最大荷重(kgf)、b:共試材料の幅(cm)、L:共試材料の長さ(cm)
【0022】
[比較例1]
実施例で用いた木質繊維板であって、含浸処理を行わない木質繊維板を用い、実施例と同様にして、2態様での寸法変化率、曲げ強度、剥離強度を測定した。表1、表2にその結果を示す。
【0023】
[比較例2]
実施例で用いた木質繊維板に対して、ポリエチレングリコールモノメタクリレートの樹脂固形分30%水溶液、すなわち、2−ヒドロキシエチルモノメタクリレートを添加しないポリエチレングリコールモノメタクリレート水溶液を、実施例と同様にして含浸処理した木質繊維板を用い、実施例と同様にして、2態様での寸法変化率、曲げ強度、剥離強度を測定した。表1、表2にその結果を示す。
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】

【0026】
[考察]
(1)寸法変化率については、2態様の寸法変化率のいずれにおいても、実施例品は、無処理のもの(比較例1品)よりも小さくなっており、ポリエチレングリコールモノメタクリレートの含浸による寸法安定化処理は有効に機能している。しかし、比較例2品と比較すると大きな値となっているが、これは、2−ヒドロキシエチルモノメタクリレートを添加したことによる影響が出ているものと推測される。
【0027】
(2)曲げ強度については、ポリエチレングリコールモノメタクリレートを含浸させた影響で比較例2品は、曲げ強度が比較例1品(無処理品)から大きく(−171kgf/cm)低下しているが、実施例品は、その低下度が小さく(−102kgf/cm)なっている。これは、2−ヒドロキシエチルモノメタクリレートをさらに添加したことに起因すると解することができる。
【0028】
(3)剥離強度については、ポリエチレングリコールモノメタクリレートを含浸させた影響で比較例2品は、剥離強度が比較例1品(無処理品)から大きく(−10kgf/cm)低下しているが、実施例品は、剥離強度は+2kgf/cm増加している。これは、2−ヒドロキシエチルモノメタクリレートをさらに添加したことに起因すると解することができる。
【0029】
(4)上記のように、本発明品は、2−ヒドロキシエチルモノメタクリレートを添加したポリエチレングリコールモノメタクリレートを含浸したことにより、木質繊維板の寸法安定性は改善されながら、従来のもの(比較例2品)のように曲げ強度が大きく低減することはなく、剥離強度に至ってはむしろ向上している。これにより、本発明の優位性が立証される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物繊維を熱硬化性樹脂をバインダーとして板状に熱圧成形した木質繊維板であって、前記木質繊維板には、さらに、2−ヒドロキシエチルモノメタクリレートを添加したポリエチレングリコールモノメタクリレートが含浸されていることを特徴とする木質繊維板。
【請求項2】
ポリエチレングリコールモノメタクリレートの固形分100重量部に対し、20〜300重量部の2−ヒドロキシエチルモノメタクリレートを添加した、樹脂固形分20〜100%水溶液を含浸させて得られたものであることを特徴とする請求項1に記載の木質繊維板。
【請求項3】
植物繊維を熱硬化性樹脂をバインダーとして板状に熱圧成形した後、2−ヒドロキシエチルモノメタクリレートを添加したポリエチレングリコールモノメタクリレートを含浸する処理を施すことを特徴とする木質繊維板の製造方法。
【請求項4】
ポリエチレングリコールモノメタクリレートの固形分100重量部に対し、20〜300重量部の2−ヒドロキシエチルモノメタクリレートを添加した、樹脂固形分20〜100%水溶液を含浸させることを特徴とする請求項3に記載の木質繊維板の製造方法。
【請求項5】
含浸処理を減圧含浸で行うことを特徴とする請求項3または4に記載の木質繊維板の製造方法。

【公開番号】特開2006−205492(P2006−205492A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−19280(P2005−19280)
【出願日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【出願人】(000000413)永大産業株式会社 (243)
【Fターム(参考)】