説明

木質繊維板の加熱処理方法及び該処理方法で処理した木質繊維板

【課題】本発明は、木質繊維板を着色するとともに、木質繊維板のはく離強度を増すことができ、しかも、少ない工程で安価にできる木質繊維板の加熱処理方法を提供する。
【解決手段】本発明の木質繊維板の加熱処理方法は、アクリル系エマルジョン又はSB(スチレン・ブタジエン)系エマルジョンに、顔料及び界面活性剤を混合して処理剤を作り、この処理剤を木質繊維板に含浸させ、処理剤を含浸させた木質繊維板を熱圧して木質繊維板に含浸させた処理剤を造膜させる。本発明は、木質繊維板に着色するとともに、木質繊維板のはく離強度を増すことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質繊維板を着色するとともに木質繊維板のはく離強度を強化する木質繊維板の加熱処理方法及び該処理方法で処理した木質繊維板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
木質繊維板は、緻密、均質であるため、床材、壁材、家具の扉、引き出しのフロント等に利用されている。そして、意匠性を増すため、あるいは、表面強度を高めるために木質繊維板には色々な表面処理が施されている。例えば、木質繊維板の表面を研磨して素地調整をして、その上に顔料系ステインを用いて素地着色し、その上にポリウレタン系の透明サンディングシーラを塗布して表面を平滑にし、さらに、ポリウレタン系の透明サンディングシーラを塗布している(特許文献1)。また、木質繊維板の表面に、光硬化に支障が生じない量の着色顔料と硬化機能を有する硬化剤とが添加された紫外線硬化型の塗料樹脂によって下地塗膜層を形成し、この下地塗膜層の表面にウレタンエナメル層を形成し、さらに、この表面にウレタンクリア層を形成している(特許文献2)。
【0003】
【特許文献1】特開2004−267898号公報
【特許文献2】特開2005−246816号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1のものは、意匠性を良好にすることはでき、また、特許文献2のものは、意匠性を良好にするとともにその表面強度を高めることができる。しかしながら、いずれのものも、木質繊維板のはく離強度を強化することについては何ら考慮されておらず、また、工程数が多く、手間がかかる。
【0005】
本発明の目的は、上記のような問題点を解決し、木質繊維板に着色して意匠性を増すとともに、木質繊維板のはく離強度を強化することができ、しかも加工工程が少ない木質繊維板の加熱処理方法を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明者らは多くの実験を繰り返し、アクリル系エマルジョン又はSB(スチレン・ブタジエン)系エマルジョンに、界面活性剤を加え、これに顔料を混合し、この混合したものを木質繊維板に含浸させ、これを造膜させると、木質繊維板のはく離強度が強化され、しかも、混合した顔料によって木質繊維板に着色することができるとともにその着色した色がはがれにくいことを知徳した。
【0007】
本発明は、上記知徳に基づいてなされたものであり、アクリル系エマルジョン又はSB(スチレン・ブタジエン)系エマルジョンに、顔料及び界面活性剤を混合した処理剤を木質繊維板に含浸させた後に加熱することにより、形成された含浸層で処理剤が造膜することを特徴とする木質繊維板の加熱処理方法である。
【0008】
そして、本発明は、木質繊維板に顔料によるはがれにくい着色を施すことができるとともに、木質繊維板のはく離強度を強化することができる。
【0009】
本発明における界面活性剤としては、アニオン系、非イオン系、カチオン系のいずれであってもよく、アニオン系界面活性剤としては、スルホン酸型、硫酸エステル型などが、また、非イオン系の界面活性剤としては、ノニルフェノールエチレンオキシド付加物、オクチルフェノールエチレンオキシド付加物などが利用できる。さらに、本発明における顔料としては、酸化チタン、硫酸バリウム、炭酸カルシウム等の無機顔料でもよいし、シアニンブルー、イソインドリノンイエロー等の有機顔料でもよい。
【0010】
本発明は、処理剤を木質繊維板にいかなる方法によって含浸させてもよく、例えば、処理剤を刷毛で木質繊維板に塗布して含浸させてもよいし、処理剤中に木質繊維板を浸漬させて含浸させてもよい。
【0011】
本発明の加熱処理方法によって処理する木質繊維板は、中密度木質繊維板(MDF)、高密度木質繊維板(HDF)、ハードボードなどの公知の木質繊維板のいずれであってもよい。
【0012】
本発明において、例えば、熱圧処理するときの加熱温度は、MFT(最低造膜温度)〜300℃であればよく、MFT以下であれば、十分に造膜しない等の理由で好ましくなく、また、300℃以上であれば、木質繊維が炭化する等、強度の劣化及び外観の悪化等の理由で好ましくない。
【0013】
また、圧力は4〜10kg/cmであればよく、木質繊維板の種類等に応じて適宜調整してもよい。
上記加熱する手段として、熱圧以外に加熱乾燥、高周波加熱などの公知の加熱手段が用いられる。
【0014】
なお、本発明によって着色・強化した木質繊維板は、合板、パーティクルボード、ウエハーボード、OSB、集成材等の表面に貼って、床材、壁材、家具の扉、引き出しのフロント等に利用することができ、図1に、本発明の加熱処理方法によって得た木質繊維板1を床材2の表面に貼り付けたものを示している。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、アクリル系エマルジョン又はSB(スチレン・ブタジエン)系エマルジョンに、顔料及び界面活性剤を混合した処理剤を木質繊維板に含浸させた後に加熱し、含浸させた処理剤を造膜させているので、木質繊維板に顔料によるはがれにくい着色を施すことができるとともに、はく離強度の強い木質繊維板を、少ない工程で、しかも安価に得ることができる。
【実施例】
【0016】
以下、実施例と比較例とを比較しながら本発明の木質繊維板の加熱処理方法について説明する。
【0017】
(実施例1)
アクリル系エマルジョン(Tg:43℃) 100
水 46.6
無機顔料(酸化チタン) 68.2
アニオン界面活性剤(スルホン酸型) 2.2
の重量割合で配合して処理剤を得た。
【0018】
この処理剤を厚さ1.0mmのMDF(中密度木質繊維板)に32.1g/尺塗布して1分間放置し、処理剤をMDFに含浸させた。その後、処理剤を含浸させたMDFを、加圧(8kg/cm)しながら60秒間、加熱(115℃)し、MDFに含浸した処理剤を造膜させた。MDFは、顔料である酸化チタンによって白色に着色され、処理剤は加熱によって造膜した。
【0019】
実施例1の熱圧処理方法によって処理したMDFに対してはく離試験(JISA5905)を実施した。はく離強度は1.44N/mであった(後記の試験結果参照)。
【0020】
(実施例2)
実施例2は、処理剤の配合割合(水と無機顔料(酸化チタン)の配合割合)を実施例1のものとは変えており、その配合割合は次のとおりである。処理剤の配合割合以外は、実施例1と同じである。
アクリル系エマルジョン(Tg:43℃) 100
水 73.8
無機顔料(酸化チタン) 41.2
アニオン界面活性剤(スルホン酸型) 2.2
MDFは、顔料である酸化チタンによって白色に着色され、処理剤は造膜した。
【0021】
実施例2の熱圧処理方法によって処理したMDFに対してはく離試験(JISA5905)を実施した。はく離強度は1.30N/mであった(後記の試験結果参照)。
【0022】
(実施例3)
実施例3は、処理剤の配合割合(水と無機顔料(酸化チタン)の配合割合)を実施例1のものとは変えており、その配合割合は次のとおりである。処理剤の配合割合以外は、実施例1と同じである。
アクリル系エマルジョン(Tg:43℃) 100
水 101
無機顔料(酸化チタン) 13.5
アニオン界面活性剤(スルホン酸型) 2.2
【0023】
MDFは、顔料である酸化チタンによって白色に着色され、処理剤は造膜した。
実施例3の熱圧処理方法によって処理したMDFに対してはく離試験(JISA5905)を実施した。はく離強度は1.46N/mであった(後記の試験結果参照)。
【0024】
(実施例4)
実施例4は、実施例1のアクリル系エマルジョンをSB系エマルジョンに変えており、処理剤の配合割合は次のとおりである。その他は、実施例1と同じである。
SB系エマルジョン(Tg:50℃) 100
水 56.1
無機顔料(酸化チタン) 72.7
アニオン界面活性剤(スルホン酸型) 2.3
【0025】
MDFは、顔料である酸化チタンによって白色に着色され、処理剤は造膜した。
実施例4の熱圧処理方法によって処理したMDFに対してはく離試験(JISA5905)を実施した。はく離強度は1.91N/mであった(後記の試験結果参照)。
【0026】
(実施例5)
実施例5は、実施例1のアクリル系エマルジョンをSB系エマルジョンに変えており、処理剤の配合割合は次のとおりである。その他は、実施例1と同じである。
SB系エマルジョン(Tg:50℃) 100
水 114
無機顔料(酸化チタン) 14.4
アニオン界面活性剤(スルホン酸型) 2.3
【0027】
MDFは、顔料である酸化チタンによって白色に着色され、処理剤は造膜した。
実施例5の熱圧処理方法によって処理したMDFに対してはく離試験(JISA5905)を実施した。はく離強度は2.48N/mであった(後記の試験結果参照)。
【0028】
(比較例)
本発明の加熱処理方法を施していない、厚さ1.0mmのMDF(中比重木質繊維板)に対してはく離試験(JISA5905)を実施し、はく離強度を測定した。
【0029】
上記実施例1〜5によって処理したMDFと比較例のMDFについて実施したはく離試験の試験結果は次のとおりであった。
はく離試験結果
(N/m
比較例のMDF 0.99
実施例1のMDF 1.44
実施例2のMDF 1.30
実施例3のMDF 1.46
実施例4のMDF 1.91
実施例5のMDF 2.48
【0030】
上記試験結果から、本発明の加熱処理方法によって処理した実施例1〜5のMDFは、加熱処理していない比較例のものと比べ、はく離強度が弱いもの(実施例2)でも比較例の1.3倍に強化され、強いもの(実施例5)では比較例の2.5倍に強化された。これは、処理剤がMDF中に含浸し、これが造膜したためと推測される。また、実施例4及び実施例5のはく離強度がより一層強化されたのは、ベースとなるエマルジョンのTg(ガラス転移点)を上げ、造膜の剛性を上げたことの理由によるものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の熱圧処理方法によって処理したMDFを表面に貼った床材の縦断面図。
【符号の説明】
【0032】
1…MDF、2…床材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系エマルジョン又はSB(スチレン・ブタジエン)系エマルジョンに、顔料及び界面活性剤を混合した処理剤を木質繊維板に含浸させた後に加熱することにより、形成された含浸層で処理剤が造膜することを特徴とする木質繊維板の加熱処理方法。
【請求項2】
前記界面活性剤がアニオン系であることを特徴とする請求項1に記載の木質繊維板の加熱処理方法。
【請求項3】
前記界面活性剤が非イオン系であることを特徴とする請求項1に記載の木質繊維板の加熱処理方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項記載の木質繊維板の加熱処理方法によって処理したことを特徴とする木質繊維板。

【図1】
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【公開番号】特開2007−144953(P2007−144953A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−346075(P2005−346075)
【出願日】平成17年11月30日(2005.11.30)
【出願人】(000000413)永大産業株式会社 (243)
【Fターム(参考)】