説明

木酢液添加堆肥および白紋羽病防除方法

【課題】 リンゴ等の果樹その他広範囲の植物を対象とした白紋羽病防除において、農薬を用いずに、したがって園内や圃場環境その他の環境破壊や、農薬公害の懸念をなくし、安全性が高く、自然に近い状態で処理することができ、さらに処理作業にもさほどの労力を要しない、白紋羽病防除方法を提供すること
【解決手段】 堆肥中に、木材や竹材を乾留する際に得られる水溶性溶液木酢液・竹酢液の少なくともいずれか一方が混合され、かつこれに木炭を混合した木酢液添加堆肥を、白紋羽病罹病株に施用する。木酢液等は、堆肥1t当たり60L以上を混合する。また木炭は、堆肥1t当たり20kg以上を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は木酢液添加堆肥および白紋羽病防除方法に係り、特に、リンゴ等の果樹その他の植物が広く病原菌の寄主となる白紋羽病を、農薬を用いずに、したがって環境破壊や農薬公害を防止して自然に近い状態で、安全かつ効果的に防除することを可能とする、木酢液添加堆肥および白紋羽病防除方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
白紋羽病は、糸状菌つまりカビの一種であるロゼリニア・ネカトリックスRosellinia necatrixの寄生が原因で発生する病気であり、リンゴその他の果樹、花木、その他の樹木全般、さらにクワ、サツマイモ、スイセンなど、これまで80種以上の植物が病原菌の寄主範囲となることが確認されている。被害根の残渣上に生存する菌糸束が伝染源となる場合もあり、病原菌は根の内部に侵入する。
【0003】
感染初期は、病原菌が根部に寄生しても地上の植物体の外観に特に変化は認められない。しかし、葉の黄変や矮小化、萎ちょうなど樹勢が衰弱し始める段階では、既に根部や地際の幹の表面に白色ないし灰白色の菌糸束が絡み付き、菌糸は形成層にまで侵入しており、根が褐変腐敗していることがほとんどであり、その結果、防除は手遅れとなり枯死することが多い。
【0004】
従来行われている白紋羽病の予防方法は、堆肥管理を徹底して病原菌に対する植物体の抵抗力を強化すること、およびクロルピクリン等の薬剤による植え付け前の土壌消毒が中心である。また感染してしまった場合は、その病根を抜き取り、跡地を薬剤で消毒するという方法が採られている。
【0005】
また、チオファネートメチル剤(商品名「トップジン」(登録商標))やベノミル剤(商品名「ベンレート」(登録商標))等の化学物質による農薬を主体として、作物の根を健全に維持することを目的にした防除も行われている。また一部では、バチルス属細菌・好熱性細菌等を用いて防除する方法も採られている。
【0006】
なお後掲各特許文献は、これら従来の防除技術の開示されている例である。このうち、特許文献1開示技術は1.3−クロロ−N−(3−クロロ−5−トリフルオロメチル−2−ピリジル)−α,α,α−トリフルオロ−2,6−ジニトロ−p−トルイジン含有薬液を用いるもの、また、特許文献2開示技術はヨウ素−シクロデキストリン包接化合物を土壌等に施用するもの、特許文献3開示技術はバチルス属細菌および塩基性無機塩を含有する白紋羽病防除剤組成物を植物の根周の土壌に施用等する方法、そして、特許文献4開示技術は好熱性細菌を含有した防除剤を用いるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開 2002−104907号公報「紋羽病防除方法」
【特許文献2】特開 2005−263733号公報「白紋羽病防除剤および白紋羽病防除方法」
【特許文献3】特開 2005−206496号公報「白紋羽病防除剤および白紋羽病の防除方法」
【特許文献4】特開 2002−284615号公報「好熱性細菌を含む白紋羽病防除剤、及び白紋羽病防除方法」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし従来技術は、各特許文献開示技術も含めて、消毒剤や農薬、あるいは微生物を用いた防除剤を用いるものであり、園内や圃場環境その他の環境破壊や、農薬公害の懸念があり、安全性の観点から問題がある。さらに、消毒作業には消毒剤等の塗布・浸漬・灌注・注入、その他土の掘り起こしや根の切除など、多大な労力を要する。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、かかる従来技術の問題点を除き、リンゴ等の果樹その他広範囲の植物を対象とした白紋羽病防除において、農薬を用いずに、したがって園内や圃場環境その他の環境破壊や、農薬公害の懸念をなくし、安全性が高く、自然に近い状態で処理することができ、さらに処理作業にもさほどの労力を要しない、白紋羽病防除方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者は上記課題について検討した結果、木酢液を混合した堆肥を用い、これを植物体の株元に投入するだけで、充分な白紋羽病防除効果が得られることを見出し、本発明に至った。すなわち、上記課題を解決するための手段として本願で特許請求される発明、もしくは少なくとも開示される発明は、以下の通りである。
【0011】
(1) 堆肥中に木酢液または竹酢液の少なくともいずれか一方が混合されている、木酢液添加堆肥。
(2) 堆肥中に木酢液または竹酢液の少なくともいずれか一方、および植物炭化物が混合されている、木酢液添加堆肥。
(3) 前記植物炭化物は木炭であることを特徴とする、(2)に記載の木酢液添加堆肥。
(4) 白紋羽病防除可能な程度の量以上の木酢液または竹酢液の少なくともいずれか一方が混合されていることを特徴とする、(1)ないし(3)のいずれかに記載の木酢液添加堆肥。
(5) 堆肥1tに対して、木酢液または竹酢液の少なくともいずれか一方が10L以上、木炭その他の植物炭化物が20kg以上混合されていることを特徴とする、木酢液添加堆肥。
【0012】
(6) 堆肥には果実または野菜の搾汁残渣が主原料の一つとして用いられていることを特徴とする、(1)ないし(5)のいずれかに記載の木酢液添加堆肥。
(7) 前記搾汁残渣はリンゴ搾汁残渣であることを特徴とする、(6)に記載の木酢液添加堆肥。
(8) 乾燥堆肥試料1g当たりの抽出DNA量が150μg以上であることを特徴とする、(1)ないし(7)のいずれかに記載の木酢液添加堆肥。
(9) (1)ないし(8)のいずれかに記載の木酢液添加堆肥を植物の株元に散布する、白紋羽病防除方法。
(10) (1)ないし(8)のいずれかに記載の木酢液添加堆肥を樹の株元に一株当たり60L以上散布する、リンゴ、ニホンナシその他のバラ科果樹の白紋羽病防除方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の木酢液添加堆肥および白紋羽病防除方法は上述のように構成されるため、これによれば、リンゴ等の果樹その他広範囲の植物の白紋羽病防除において、園内や圃場環境その他の環境破壊や、農薬公害の懸念をなくし、安全性が高く、自然に近い状態で、白紋羽病防除処理を行い、そして充分な防除効果を得ることができる。つまり、従来にはなかった、自然農法とも云うべき安全・安心な白紋羽病防除が可能となる。また、木酢液添加堆肥を株元に散布するのみの作業であるため、処理作業にもさほどの労力を必要としない。
【0014】
また、本発明の木酢液添加堆肥は誰にでも簡単に使用することができ、使用量の如何に関わらず、人体にも土壌にも全く害がない。
【0015】
本発明の木酢液添加堆肥を用いた白紋羽病防除方法では、白紋羽病の予防のみならず、罹病した植物における根治も可能である。白紋羽菌に羅病した根は枯死するが、そこに存在する白紋羽菌の繁殖は堆肥注の木酢液等の抗菌力によって防止され、植物は株元から新たに根を伸長させることができ、このようにして白紋羽病を根治することができる。
【0016】
また本発明の木酢液添加堆肥を用いた白紋羽病防除方法によれば、白紋羽病の予防や罹病している場合の根治のみならず、植物体の生育を従前よりも良好にすることもできる。これは、本発明堆肥による発根促進作用によるものと思われる。特に白紋羽病が根治した後の植物体は、白紋羽菌に羅病する以前よりも生育が良好となる。これは、白紋羽菌による被害根の発生した植物体が、新たな発根作用によって急激に生育しようとする生態であるものと思われる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】乾燥堆肥試料1g当たりのDNA抽出量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明をより詳細に説明する。
本発明の木酢液添加堆肥は、堆肥中に木酢液または竹酢液(以下、「木酢液等」ともいう。)の少なくともいずれか一方が混合されたものである。ここで、木酢液とは一般に、木材を乾留する際に得られる水溶性溶液をいう。また竹酢液は同様に、竹材を乾留する際に得られる水溶性溶液をいい、木酢液の代替手段として用いることができる。以下の説明では木酢液を主として説明することがあるが、その場合であっても、当該説明は竹酢液についても同様に該当する。
【0019】
木酢液の組成・品質は、原料として使用する木材の樹種(広葉樹・針葉樹・竹材・その他おが粉や樹皮など)、乾留に用いる窯・採液装置の構造、採取温度等の抽出条件その他により変動がある。しかしながら、酢酸、プロピオン酸、乳酸および酪酸のような有機酸を主成分とすること、さらに各種有機フェノール、アルデヒド等のカルボニル化合物、アルコール類、塩基、その他の中性成分等が含まれている点では共通する。本発明の木酢液添加堆肥に用いる木酢液としては、上記一般的な木酢液・竹酢液の範囲に含まれるものならば、樹種・乾留条件等に関わらず、特に限定なく広く採用することができる。
【0020】
もっとも、特定の規格を満たす木酢液等を用いることとしてもよい。たとえば、木竹酢液認証協議会(東京都中央区銀座)による木竹酢液認証協議会規格の木酢液等である。なお同規格の概要は、次の通りである。
木酢液・竹酢液の規格
pH1.5〜3.7
比重1.005以上
酸度2〜12(%)
(2006年6月2日発行 日本木酢液協会講演会講演要旨集)
【0021】
なおまた、木竹酢液認証協議会規格でいう蒸留木酢液・蒸留竹酢液を本発明に使用可能であることはいうまでもないが、さらに、同粗木酢液・粗竹酢液も、本発明への採用を排除されない。各用語は、次のように定義されている。
〈1〉粗木酢液・竹酢液:炭化炉(土窯・レンガ窯など)あるいは乾留炉により、木材・竹材を炭化する時に生じる排煙を冷却・凝縮させた液体。
〈2〉木酢液・竹酢液:粗木酢液・竹酢液を90日以上静置し、上層の軽質油、下層の沈降タールを除いた中層の液体。
〈3〉蒸留木酢液・竹酢液:蒸留木酢液・竹酢液又は木酢液・竹酢液を蒸留したもの。
【0022】
木酢液には抗菌力があることは従来知られている。たとえば、木質炭化学会誌第2巻第1/2合併号(2006年1月31日発行)には、農産廃棄物から得た木酢液の成分と抗菌活性が示されている。同文献には、籾殻からの木酢液およびリンゴ剪定枝からの木酢液の場合は1.0%以上、リンゴ搾り粕酢液からの木酢液の場合は3.0%以上の各濃度によって、灰色かび病菌、果樹灰星病菌、イネごま葉枯病菌およびヤマハギ炭素病菌に対して菌糸成長を抑制することが報告されている。本発明は灰色かび病菌などを抑制するかかる木酢液の抗菌力に着目し、これを利用して、白紋羽病の病原体である白紋羽菌を防除するものである。
【0023】
また、本発明の木酢液添加堆肥に、さらに木炭、あるいはその他の植物炭化物を混合した構成とすることができる。木炭は、その構造中に微生物を多量に内包することができるため、白紋羽菌に対する抗菌力のある木酢液と併せ用いることにより、白紋羽菌以外の非病原性の微生物、特に非病原性の細菌類を多く繁殖させることができ、白紋羽菌を数量的にさらに劣勢になさしめることができ、白紋羽病防除効果を一層高めることができる。
【0024】
植物炭化物は、上記木炭に限定されない。たとえばその他にも、籾殻や稲藁の炭化物、その他の植物の炭化物も使用することができる。植物炭化物は、一種類のものを単独で用いても、あるいはまた二種類以上のものを任意の混合比で用いてもよい。植物炭化物として木炭を単独あるいは他の植物炭化物との併用で用いる場合、その原料とする樹種は、ナラ・ブナを主体とした広葉樹全般が特に適している。また、木炭のサイズとしては、粉炭程度からせいぜい径5cmまたは最大長5cm程度のものが望ましい。また、リンゴ等果樹の剪定枝や、摘果・落果して廃棄せざるを得ない果樹果実などを炭化して得る炭化物を、本植物炭化物として用いてもよい。
【0025】
本発明堆肥には、白紋羽病防除可能な程度の量以上の木酢液等が混合されている必要があるが、たとえば、堆肥1tに対して、木酢液または竹酢液の少なくともいずれか一方が10L以上用いられていれば、白紋羽病防除目的として充分である。なお、より望ましくは堆肥1t中に10L以上の添加とすればよい。
【0026】
また、植物炭化物も所定量以上混合されていることで、上記の非病原性微生物を好適に繁殖させることができるが、木炭の場合であれば、堆肥1tに対して20kg以上混合されていれば、白紋羽病防除目的として充分である。なお、より望ましくは堆肥1t中に20kg以上の添加、すなわち重量にして2%以上の添加とすればよい。
【0027】
本発明の木酢液添加堆肥には、果実または野菜の搾汁残渣を、主原料の一つとして用いることができる。ここで果実には、リンゴ・ニホンナシ・モモ・ブドウ・ミカン・ナツミカン・その他柑橘類・セイヨウナシ・カキ・クリ・オウトウ・ウメ・バナナ・パインアップル・ブルーベリー・カシス・キウイフルーツその他果実全般が、また野菜には、イチゴ・スイカ・メロン等の果実的野菜、トマト・カボチャ・エダマメ・スイートコーン等の果菜類、ホウレンソウ・ニンニク・タマネギ等の葉茎菜類、ニンジン・ビート・ゴボウ・ナガイモ・ナガイモ以外のヤマノイモ属・ヤーコン等の根菜類、ショウガ等の香辛野菜、その他野菜全般が含まれる。
【0028】
特にリンゴ等、ジュース製造過程で産出される搾汁残渣の廃棄処理が高コストである等問題となっているような果実や野菜を、本発明木酢液添加堆肥の原料として用いることは、果実・野菜ジュース製造におけるコスト低減を図れるだけでなく、地球温暖化防止にも資するものである。
【0029】
上述のように本発明木酢液添加堆肥は、木炭その他の植物炭化物を混合した構成とすることにより、白紋羽菌以外の非病原性の微生物を多く繁殖させて白紋羽病防除効果を高めることができるが、特に、乾燥堆肥試料1g当たりの抽出DNA量が150μg以上となる程の微生物存在量を有する堆肥とすることもできる。堆肥1tに対して木炭を20kg以上用いた本木酢液添加堆肥であれば、実施例に後述するようにかかる高い抽出DNA量を示す。かかる状態はすなわち、本発明堆肥において、非病原性の微生物が多く繁殖して白紋羽病防除効果が高い状態である。
【0030】
本発明の木酢液添加堆肥は、所定量を白紋羽病防除した植物の株元に散布するだけで、その防除効果を得、かつ白紋羽病に罹病している場合にはそれを根治することができる。白紋羽菌に羅病した根は枯死するが、木酢液が有する抗菌力によって防除された状態下で株元から新たな根が発根し、非病原性微生物を多く繁殖させている木酢液添加堆肥(植物炭化物混合)内に根が伸長し、かかる過程を経て白紋羽病の克服、根治がなされる。
【0031】
本木酢液添加堆肥を用いてリンゴの白紋羽病防除・根治を行うには、リンゴの樹の株元の地表上に一株当たり60L以上を散布するだけで、目的とする防除・根治効果を得ることができる。後述実施例はリンゴの例であるが、同じ方法はニホンナシその他のバラ科果樹の白紋羽病防除・根治にも充分適用できるものである。
【0032】
本木酢液添加堆肥の施用方法としては、株元への散布という簡単な方法だけでなく、土壌中に鋤き込むことによって、より良好な結果が得られると考えられる。しかし、リンゴ等果樹栽培における労力軽減が求められており、本発明のように株元の地表面に散布するだけで充分な白紋羽病の防除・根治効果が得られることは、かかる耕作労力軽減の要望も充足するものである。
【0033】
リンゴの場合、本発明の効果を得るために、1株当たりの株元散布量は最低60Lとすることとして、株元から1m程度離れた周位全体に散布することが望ましい。なお、散布量を多くするほどより良好な防除・根治効果が得られる。かかる労力も考慮すれば、60L以上100L程度を散布することが、実際上はより望ましい。なおまた、リンゴ園は斜面が多いため、株元周位全体に木酢液添加堆肥を行き渡らすためには、ある程度多量を散布する方がよい。特に急斜面の場所に植えられた樹の場合は、100L程度を散布することが推奨される。
【0034】
本発明木酢液添加堆肥の散布時期と回数は、青森県の場合は、大体4月〜6月に1回でよい。要するに、地表面から雪が消えた時期に、後れずに施肥することが望ましい。
【実施例】
【0035】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明がかかる実施例に限定されるものではない。
[実施例1]木酢液添加堆肥(木炭入り)の施肥効果試験
1−1 木酢液添加堆肥(木炭入り)の製造
下表1に示す仕様にしたがい、木酢液添加堆肥(木炭入り)を製造した。
〈1〉堆肥の原料と重量組成
表1
リンゴ搾汁残渣(リンゴ粕) 50%
鶏糞 15%
もみ殻 15%
ウニ殻 10%
バーク 8%
木炭 2%
【0036】
〈2〉木炭
樹種は、ナラ・ブナを主体にした広葉樹を用いた。
添加する際のサイズは、粉炭ないし、径または最長5cm程度とした。
上記の通り、堆肥全体の2%、すなわち1t当たり20kgを用いた。
【0037】
〈3〉木酢液
樹種は、ナラ・ブナを主体にした広葉樹を用いた。
炭を焼く煙から木酢液を採取した。採取温度は80〜190℃とした。製造された木酢液の分析結果は、下表2の通りである。
表2
pH 3.4
比重 1.010(25℃)
酸度 2.3%
【0038】
上記〈2〉の木炭を用いて〈1〉の堆肥を製造し、さらに〈3〉の木酢液を堆肥1tに対して10L添加して、木酢液添加堆肥(木炭入り。以下単に「本例堆肥」ともいう。)を完成した。完成した本例堆肥の化学分析結果を、表3に示す。
表3
水分 67.5 (100℃乾燥減量法)
窒素全量(T−N) 1.05 (サリチル硫酸法)
リン酸全量(T−P) 0.84 (バナドモリブデン酸アンモニウム法)
カリ全量(T−KO) 0.50 (炎光光度法)
(以上、単位:%現物)
炭素窒素比(C/N) 13 (有機炭素含量%÷全窒素%)
(2008年3月26日 エムアールシーユニテック株式会社分析)
【0039】
1−2 施肥試験条件
下記の通り、本例堆肥を用いて、白紋羽病を罹病したリンゴ果樹に対する施肥試験を行った。
〈1〉実験日 平成19年4月〜10月、平成20年4月〜10月
〈2〉実験場所 青森県弘前市貝沢地域 岩木山崩地区
〈3〉施用方法 リンゴ園から雪の消えた4〜6月中に1回、各樹の株元から約1m半径で、地表に本例堆肥を60〜100L散布した。使用量は、各樹の植えられている場所の斜面の程度を考慮して加減した。
〈4〉試験した果樹の樹種、数量等 下表4に示す。
【0040】
表4
いずれも白紋羽菌に感染し白紋羽病を羅病したリンゴ果樹
王林 15年生 1本
16年生 1本
17年生 2本
ふじ 15年生 2本
16年生 2本
17年生 2本
ジョナゴールド 16年生 2本
世界一 16年生 2本
【0041】
1−3 試験結果
羅病したリンゴ果樹に本例堆肥を使用したところ、すべてのリンゴ果樹において新たな発根が認められ、しかもそれが本例堆肥中に年50cm前後の長さで伸長しているのが認められた。そして、全羅病株とも白紋羽病が根治して、正常な生育をし、問題なくリンゴ果実を収穫することができた。
【0042】
[実施例2]本例堆肥の微生物量推定試験
上述の通り、本発明堆肥が有する白紋羽病防除・根治効果は、木酢液の抗菌性に加えて、木炭による非病原性微生物の多量存在が影響していると考えられる。堆肥乾燥重量当たりの抽出DNA量から堆肥中のDNA含有量を算出し、それに基づき棲息微生物量を推定することとした(試験:国立大学法人弘前大学農学生命科学部、園木和典。2008年7月30日)。
【0043】
2−1 材料と方法
本例堆肥その他試験した堆肥試料は下記の通りである。
S:本例堆肥
A:比較例1 発酵牛糞(家庭用堆肥市販品 千葉県、池田牧場)
B:比較例2 発酵低臭鶏糞(同上 茨城県、太田油脂株式会社)
C:比較例3 炭堆肥(同上 栃木県、株式会社ニッケイ)
【0044】
2−2 DNA抽出および各測定方法
〈1〉堆肥試料からのDNA抽出
株式会社ニッポンジーン製のDNA抽出キット「ISOIL」を用い、各堆肥試料からDNAを抽出した。抽出方法は、同キット所定の方法にしたがった。抽出は3回行い、平均値を算出した。
【0045】
〈2〉乾燥重量の測定
各堆肥試料を105℃で2時間処理した後、デシケーター中で放冷し、その後重量を測定した。
〈3〉含水率の産出
測定乾燥重量と堆肥試料の生重量(湿重量)の差から算出した。
なお、堆肥試料により含水率が大きく異なったため、乾燥重量で抽出DNA量を補正した。
【0046】
2−3 試験結果
図1は、乾燥堆肥試料1g当たりのDNA抽出量を示すグラフである。図示するように、実施例・比較例計4件の堆肥試料の中で、本発明の木酢液添加堆肥(木炭入り)において、DNA含量が顕著に多いことが明確に示された。ここで用いた抽出法は比較的温和な手法であり、カビなど固い細胞壁を有する微生物群からはDNAが充分に抽出されていない可能性があるが、乳酸菌や納豆菌、大腸菌などの細菌群からは効率よくDNA抽出が行われる試薬を用いている。したがって、本例堆肥は、微生物の中で細菌群の含有量が高いことが推定される。
【0047】
今回抽出されたDNA量から微生物量の相対値を産出したところ、本例堆肥および各比較例堆肥に棲息する微生物種に大きな違いがないと仮定すれば、本例堆肥は、各比較例1〜3堆肥(グラフのA、BおよびCにそれぞれ対応)と比較して、2.7〜8倍程度もの微生物量の存在が推定できる結果であった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の木酢液添加堆肥および白紋羽病防除方法によれば、大きな労力も要せず、リンゴ等の果樹その他広範囲の植物の白紋羽病防除において、安全・安心な防除効果・根治効果を得ることができる。したがって、農業分野や園芸分野等において利用価値が高い発明である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
堆肥中に木酢液または竹酢液の少なくともいずれか一方が混合されている、木酢液添加堆肥。
【請求項2】
堆肥中に木酢液または竹酢液の少なくともいずれか一方、および植物炭化物が混合されている、木酢液添加堆肥。
【請求項3】
前記植物炭化物は木炭であることを特徴とする、請求項2に記載の木酢液添加堆肥。
【請求項4】
白紋羽病防除可能な程度の量以上の木酢液または竹酢液の少なくともいずれか一方が混合されていることを特徴とする、請求項1ないし3のいずれかに記載の木酢液添加堆肥。
【請求項5】
堆肥1tに対して、木酢液または竹酢液の少なくともいずれか一方が10L以上、木炭その他の植物炭化物が20kg以上混合されていることを特徴とする、木酢液添加堆肥。
【請求項6】
堆肥には果実または野菜の搾汁残渣が主原料の一つとして用いられていることを特徴とする、請求項1ないし5のいずれかに記載の木酢液添加堆肥。
【請求項7】
前記搾汁残渣はリンゴ搾汁残渣であることを特徴とする、請求項6に記載の木酢液添加堆肥。
【請求項8】
乾燥堆肥試料1g当たりの抽出DNA量が150μg以上であることを特徴とする、請求項1ないし7のいずれかに記載の木酢液添加堆肥。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれかに記載の木酢液添加堆肥を植物の株元に散布する、白紋羽病防除方法。
【請求項10】
請求項1ないし8のいずれかに記載の木酢液添加堆肥を樹の株元に一株当たり60L以上散布する、リンゴ、ニホンナシその他のバラ科果樹の白紋羽病防除方法。


【図1】
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【公開番号】特開2010−180069(P2010−180069A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−22472(P2009−22472)
【出願日】平成21年2月3日(2009.2.3)
【出願人】(509034236)合同会社ツリーワーク (1)
【Fターム(参考)】