説明

未反応金属定量方法

【課題】従来の金属酸化物粉末中の未反応金属の定量分析方法の問題点を解決するものであり、長い測定時間と費用のかかる機器分析などを利用することなく、製造された金属酸化物粉末中の未反応金属を、簡易的、迅速かつ安い費用で高精度な定量分析方法を提供することを解決すべき課題とする。
【解決手段】アルミナなどの金属酸化物粉末に、金属と反応して水素ガスを発生する水素生成剤を反応させる水素生成工程と、発生した水素ガスを定量し、未反応金属であるアルミニウムの量を算出する定量工程とを有することにある。未反応金属を水素ガスに変換してその水素の量を定量することにより簡単に未反応金属の量を定量できる。水素生成剤としては水酸化ナトリウムなどのアルカリや酸が例示できる。アルカリや酸は金属酸化物と反応しても水素を発生することがない(又は発生が殆ど無視できる)から精密な定量のためには望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物粉末中に存在する未反応金属を定量する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属酸化物の物性は多様であり、それに伴い使用用途も多岐にわたる。用途の1つとして、プラスチック、複合材料に金属酸化物からなる無機フィラーを添加する事により、材料に対し機械的・化学的に必要な性能を付与することができる。具体的には、アルミナの熱伝導を生かした放熱用フィラー、二酸化ケイ素の絶縁体を生かした半導体用フィラー、酸化チタンの屈折率を生かしたガラス材料用フィラーなどが挙げられる。
【0003】
そのような無機フィラーとして、金属酸化物粉末が用いられ、その金属酸化物粉末は高純度でなければならない用途が数多く存在する。この純度を表す指標の一つとして、金属を酸化させ製造する金属酸化物の製造方法に特有な未反応金属含有量という物性がある。ほとんどの利用分野で、この未反応金属含有量未反応物量は、20ppm以下であることが要求され、近年さらに未反応金属含有量の少ない高純度金属酸化物粉末が要求されてきている。
【0004】
従来、この未反応金属は、以下のように定量分析されてきたが、どれも満足のいく定量方法ではなかった。
(1)ヨウ素メタノール法:未反応金属を含んだ金属酸化物粉末にヨウ素メタノール溶液を添加し、未反応金属が反応しヨウ化物になって完全溶解するまで撹拌後、ろ過し、溶解した未反応金属をろ液として取り出す。そのろ液から、含まれる塩類を除去した後、未反応金属の濃度をヨウ化物の濃度から測定する方法である。ヨウ化物の濃度は機器分析により測定することが多い。
(2)金属酸化物と未反応金属との粒径差・比重差を利用した方法:未反応金属を含んだ金属酸化物粉末を収容した遠心沈降管にエタノールを添加し、超音波分散処理後、エタノール懸濁液を遠心分離機によりる分級処理を行う。この分級処理の結果、エタノールを含む懸濁液からなる層、金属酸化物からなる層、未反応金属からなる層に分離する。未反応金属からなる層の大きさ、色の濃さなどを目視で確認して、標準試料と比較する方法(特許文献1)などがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−196614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、金属酸化物粉末中の未反応金属の定量分析方法が困難であった理由として、製造された金属酸化物粉末中の未反応金属は未反応金属表面に酸化被膜を有しており、製造された金属酸化物と化学的性質が似ており、化学分析が困難なことにある。
【0007】
また、現在、使用されている未反応金属の定量分析方法にも以下のような問題点がある。
【0008】
ヨウ素メタノール法では、ヨウ素メタノール添加後の撹拌時間が長いと未反応物だけでなく、金属酸化物粉末も溶解してしまい、実際の未反応金属含有量よりも高い濃度が検出される。また、撹拌時間が短いと未反応金属が完全に溶解せず、実際の未反応金属含有量よりも低い濃度が検出される。従って、未反応金属の量を正確に測定しようとすると熟練が必要である。また、この方法は前記したように複雑かつ長時間を費やす工程からなっているので、簡易かつ迅速に未反応金属を定量する方法が要求される。
【0009】
粒径差・比重差を利用した方法では、金属酸化物と未反応金属の粒径差・比重差が近い場合、金属酸化物と未反応金属の色が似通っている場合、また金属酸化物よりも未反応金属の粒径・比重が小さい場合などにおいては、この方法は使用できない。また、未反応金属の層を目視で判断して標準試料と比較するという方法であるので、簡便な方法ではあるが正確な定量方法とはいえない。
【0010】
本発明は、上記実情に鑑み完成したものである。すなわち、従来の金属酸化物粉末中の未反応金属の定量分析方法の問題点を解決するものであり、長い測定時間と費用のかかる機器分析などを利用することなく、製造された金属酸化物粉末中の未反応金属を、簡易的、迅速かつ安い費用で高精度な定量分析方法を提供する事を解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための請求項1に係る未反応金属定量方法の構成上の特徴は、金属酸化物粉末に、未反応金属と反応して水素ガスを発生する水素生成剤を反応させる水素生成工程と、
発生した水素ガスを定量し、前記未反応金属の量を算出する定量工程と、
を有することにある。未反応金属を水素ガスに変換してその水素の量を定量することにより簡単に未反応金属の量を定量できる。水素生成剤としてはアルカリや酸が例示できる。アルカリや酸は金属酸化物と反応しても水素を発生することがない(又は発生が殆ど無視できる)から精密な定量のためには望ましい。
【0012】
また請求項2に係る未反応金属定量方法の構成上の特徴は、請求項1において、前記金属酸化物粉末は酸化アルミニウムであり、前記未反応金属は金属アルミニウムであることにある。金属アルミニウムの表面には不動態が形成されやすいため、従来の定量法の適用が困難であるためである。
【0013】
また請求項3に係る未反応金属定量方法の構成上の特徴は、請求項2において、前記水素生成剤はアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物であることにある。金属アルミニウムを効率的に溶解し、水素を発生できるからである。金属アルミニウムを良く溶解して水素を発生する酸としては塩酸があるが、塩酸は気化するため、発生する水素の定量を精密に行うためには気化しない上述のような水素生成剤を採用することが望ましい。
【0014】
また請求項4に係る未反応金属定量方法の構成上の特徴は、請求項1〜3の何れか1項において、前記金属酸化物粉末は酸素含有雰囲気中に金属粉末を投入して前記金属粉末を酸化燃焼させて製造されたものであることにある。金属粉末を酸化燃焼することにより得ることができる金属酸化物粉末は純度を向上しやすく、極微量の未反応金属の存在を問題にすることが多いため、本発明の未反応金属定量方法を適用して未反応金属の量を精密に定量する要求があるためである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の未反応金属定量方法について具体的な実施形態に基づき詳細に説明を行う。本実施形態の未反応金属定量方法は金属酸化物粉末に含まれる未反応金属を定量する方法である。金属酸化物粉末としてはアルミナ、シリカ、マグネシア、チタニアなどが例示でき、未反応金属としてはそれぞれに対応する金属である、金属アルミニウム、金属ケイ素、金属マグネシウム、金属チタンが挙げられる。これらの金属酸化物粉末は酸素含有雰囲気中に金属粉末を投入して酸化燃焼させて製造されたものであることが望ましい。
【0016】
本実施形態の未反応金属定量方法は水素発生工程と定量工程とを備える。水素発生工程は測定対象である金属酸化物粉末に対して、含有している未反応金属と反応して水素ガスを発生する水素生成剤を反応させる工程である。この反応により生成した水素の量は金属酸化物粉末中に含まれる未反応金属の量に対応するため、未反応金属の量を正確に測定しようとすると、生成した水素は全て捕集する必要がある。生成した水素を全て捕集するためには、この反応を密閉した空間で行うなどの手法を採用することができる。
【0017】
金属酸化物粉末は所定量を精密に秤量する。所定量は含有される未反応金属の量に応じて決定する。本定量方法は未反応金属の量に比例して生成する水素の量を測定するため、適正な測定(例えば、定量結果として必要な有効数字が得られること)ができるだけの水素を発生させる未反応金属が含まれると推定される量の金属酸化物粉末を所定量とする。ここで所定量は多い方が本定量方法の精度は向上するが、水素生成剤との反応に要する時間が長くなるため、できるだけ短時間で定量を行うためには100g以下の量を採用することが望ましい。
【0018】
水素生成剤としては未反応金属と反応することにより水素を発生させることができるものであれば特に限定しないが、酸、アルカリが例示できる。水素生成剤の種類、適用する量、濃度、反応時間、反応温度などは未反応金属の量、種類により適正に制御し、特に2以上の金属酸化物粉末について相互に比較する場合には、その条件を揃えることが望ましい。例えば、未反応金属としての金属アルミニウムを定量する場合にはアルカリ金属、アルカリ土類金属の水酸化物(水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど)を水素生成剤に採用し、更に、金属アルミニウムの溶解を容易にするために比較的高濃度で反応させることが望ましい。酸、アルカリを使用する場合には水溶液として反応させることができる。
【0019】
反応条件は金属酸化物粉末中に含まれる未反応金属がほぼ完全に反応し且つ金属酸化物が殆ど反応しない条件である。この条件は予備試験などにより探索して予め設定することができる。
【0020】
水素生成剤は先に説明した反応条件において、未反応金属と反応した場合に水素を発生するが、金属酸化物と反応しても水素を発生しないものが適正な水素生成剤として選択される。ここで、「金属酸化物と反応しても水素を発生しない」とは、金属酸化物との反応により全く水素を生成しないものの他、金属酸化物と反応するものであっても、含有する未反応金属と反応して生成する水素の量に対して、金属酸化物と反応して生成する水素の量が充分に少ない場合も含む。金属酸化物と反応して生成する水素の量が充分に少ないといえるためには必要な精度で未反応金属の量が定量できるような量の水素しか金属酸化物との反応では発生しないことが必要である。従って、先に述べた反応条件によって適正な水素生成剤であるか否かが変化することがあるため、水素生成剤の選択は反応条件の選択・設定と併せて行うことが望ましい。なお、金属酸化物粉末としてのアルミナに対し、未反応金属としての金属アルミニウムを定量する場合には水素生成剤として水酸化ナトリウムや水酸化カリウムを用いることで、金属酸化物(アルミナ)と反応して生成する水素の量は無視できる。
【0021】
定量工程は水素発生工程により発生した水素の量を定量し、その定量結果から金属酸化物粉末に含まれる未反応金属の量を算出する工程である。発生した水素の量の測定方法は特に限定しない。例えば、水素を酸素と反応させて水とした上で、生成した水の量を定量する方法がある。水の定量は過塩素酸マグネシウムと反応させた際の変色の程度により測定する方法、カールフィッシャー法などの常法が適用できる。その他、水素を定量する方法としては、燃焼式水素センサ、半導体型水素センサ、定電位電解型水素センサなどの水素センサにより測定することができる。この中でも水素を酸素と反応させた後、生成する水の量を定量する装置が市販されている(例えば、光明理化学工業株式会社製、北川式ガス検知管137U水素。この検知管は試料ガス中に含まれる水蒸気による影響は受けない)。この装置は、ガラス管内に水素と酸素との反応を促進する触媒と、過塩素酸マグネシウムとがこの順に充填されており、発生した水分の量に応じて過塩素酸マグネシウムが変色(H2O+Mg(ClO42→Mg(ClO42・H2O)するため、変色部分の長さを測定することで水素濃度が測定できる。測定した水素濃度から発生した水素の総量(質量)を求めることができる。水素の質量を求めるには測定雰囲気の温度、気圧からボイル・シャルルの補則に則り算出できる。
【0022】
定量した水素の総量(質量)から未反応金属の量を算出する。未反応金属が金属アルミニウムであって、水素生成剤が水酸化ナトリウムである場合は金属アルミニウム1molに対して1.5molの水素が生成するため、定量した水素の総量から未反応金属の量が算出できる。
【実施例】
【0023】
本発明の一実施例を説明する。未反応金属としての金属アルミニウムを含む金属酸化物粉末(アルミニウム酸化物、以下、アルミナと称する)粉末約50gを正確に測り取り、500mL三角フラスコ中に投入した。その後、2M水酸化ナトリウム溶液を220mL投入し、シリコン栓にて素早く密封した後、マグネチックスターラーを用いて、1000〜1200rpmで撹拌を開始した。ここで、撹拌開始時の気温:T1を測定した。
【0024】
金属アルミニウムと水酸化ナトリウムとの反応が終了すると考えられる時間(約15分間)密閉状態で撹拌を続けた。発生した水素は三角フラスコ中に捕集された。撹拌停止後、すぐにシリコン栓に水素用検知管(光明理化学工業株式会社:北川式ガス検知管 水素137U)を差し込み、検知管用ガス採取器(光明理化学工業株式会社:北川式ガス採取器 AP−20)を取り付け、密閉三角フラスコ内の気体を50mL吸引し、水素濃度(0.05〜0.8%)を測定した。
【0025】
検知管及びガス採取器を取り外し、シリコン栓に棒状温度計を差し込み、三角フラスコ内の温度:T3を測定した。その後、栓を取り外し、三角フラスコ内にメスシリンダーを用いて水を入れ、三角フラスコ内に入った水の容積から、三角フラスコ内の空間容積:Vを測定した。
【0026】
以上の測定値から、理想気体の状態方程式及びボイル=シャルルの法則を用いた次式を用いて未反応金属濃度を測定する。
(未反応金属濃度:ppm)=水素濃度(%)×(273(K)+T1(℃))×(V(mL)+ガス吸引量(mL))/{V(mL)×(273(K)+T3(℃))}×10000×V(mL)/1000×1/{22.4(L)×(273(K)+T1(℃))/273(K)}×(未反応金属と水素の反応モル比)×未燃焼金属の原子量×1/使用試料量(g)
ここで(未反応金属と水素の反応モル比)は未反応金属1モルあたり水素が何モル生成するかを示す値であり、未反応金属がアルミニウムの場合には1.5である。
【0027】
以下、金属酸化物粉末としてのアルミナに対して、未反応金属を表1に示す割合で混合して試験試料とした。各試験試料について上述の定量方法により未反応金属(アルミニウム)の濃度(ppm)を測定した。
【0028】
【表1】

【0029】
表1より明らかなように、非常に精度よく金属酸化物粉末中の未反応金属を定量分析できる事がわかった。また、測定レンジが大変広く、未反応金属含有量が低濃度でも高濃度でも非常に精度良く測定できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物粉末に、未反応金属と反応して水素ガスを発生する水素生成剤を反応させる水素生成工程と、
発生した水素ガスを定量し、前記未反応金属の量を算出する定量工程と、
を有することを特徴とする金属酸化物粉末中の未反応金属定量分析方法。
【請求項2】
前記金属酸化物粉末は酸化アルミニウムであり、前記未反応金属は金属アルミニウムである請求項1に記載の未反応金属定量方法。
【請求項3】
前記水素生成剤はアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物である請求項2に記載の未反応金属定量方法。
【請求項4】
前記金属酸化物粉末は酸素含有雰囲気中に金属粉末を投入して前記金属粉末を酸化燃焼させて製造されたものである請求項1〜3の何れか1項に記載の未反応金属定量方法。

【公開番号】特開2011−209191(P2011−209191A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−78629(P2010−78629)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(501402730)株式会社アドマテックス (82)
【Fターム(参考)】