説明

未延伸ポリエステルシートの製造方法、太陽電池用保護シート、及び太陽電池モジュール

【課題】製造過程での冷却ムラを抑えて結晶化を防ぎ、耐加水分解性に優れ、長期耐久性を具えた未延伸ポリエステルシートの製造方法を提供する。
【解決手段】ポリエステル樹脂を押出ダイからシート状に溶融押出を行い、押出されたポリエステル樹脂がキャスティングドラム12に到達するまでの間にポリエステル樹脂に振動を与えた後、キャスティングドラム12に密着させることで冷却しシート状に成形する工程と、キャスティングドラム12の曲面に沿って二次元配置された複数の噴霧ノズルから霧状の水を、噴霧ノズルを挟むように配設された少なくとも2つの整流ノズルから霧状の水を挟み込むようにエアをあてて整流すると共にキャスティングドラム12に密着されたポリエステル樹脂に対して噴霧し、ポリエステル樹脂を冷却する工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、未延伸ポリエステルシートの製造方法、太陽電池用保護シート、及び太陽電池モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル樹脂は、その機械的特性、耐熱性、電気的特性の点から、各種分野に汎用されている。例えば、ポリエステル樹脂を用いたフィルムは、太陽電池発電モジュール、照明用フィルム、農業用シートなどの屋外用途に適用されており、このような適用形態においては、常に風雨に曝されるような環境に置かれることから、高い耐候性能を備えていることが必要とされる。
【0003】
特に、近年では地球環境の保護の観点から、太陽光を電気に変換する太陽光発電が注目されている。この太陽光発電に用いられる太陽電池モジュールは、太陽光が入射するガラスの上に、(封止剤)/太陽電池素子/封止剤/バックシートがこの順に積層された構造を有するものが一般的である。
【0004】
太陽電池モジュールは、風雨や直射日光に曝される過酷な使用環境下でも、数十年もの長期間に亘って発電効率などの電池性能を保持できるよう、高い耐候性能を備えていることが必要とされる。このような耐候性能を与えるためには、太陽電池発電モジュールを構成する支持基材や太陽光が入射する側と反対側に配される裏面保護シート(いわゆるバックシート)、太陽電池素子を封止する封止材などの諸材料も耐候性が求められる。
【0005】
太陽電池モジュールを構成するバックシートには、一般にポリエステル樹脂などの樹脂材料が使用されている。ポリエステルは、一般に末端カルボキシル基が自己触媒として働き、水分が存在する環境では加水分解を起こしやすく、経時で劣化する傾向にある。そのため、屋外等の常に風雨に曝されるような環境に置かれる太陽電池モジュールに用いられるポリエステル樹脂には、その加水分解性が抑えられていることが求められる。
また、太陽電池発電モジュール用途以外の屋外用途に適用されるポリエステル樹脂についても同様、加水分解性が抑えられていることが求められる。
【0006】
耐加水分解性を高めるため、末端カルボキシル基の量を抑えながら極限粘度を高める方法として、ポリエステル樹脂を固相重合する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
また、未延伸ポリエステルシートは、太陽電池モジュールの太陽光が直接入射する側と反対側の裏面を保護する保護シート(いわゆるバックシート)の形成用材料として使用され、耐電圧性付与の観点からシート状ポリエステル樹脂の厚手化が不可欠とされている。ところが、ポリエステルは結晶性ポリマーであり、溶融押出機にて未延伸のポリエステル樹脂を厚手のシート状(3〜5mm)にキャスティングドラムに押出し、冷却してポリエステル樹脂をシート状に成形しようとすると、押出後の冷却時の冷却速度が遅くなり、冷却の遅れはポリエステル樹脂の結晶化を促進させる。結晶化が促されることで、その後に延伸してフィルム化する際に延伸ムラが発生しやすくなり、結果としてフィルムの幅方向(TD方向)、長手方向(MD方向)において、耐候性が不均一になる場合がある。
【0008】
上記と関連する技術として、シート状物の回転冷却ドラムと密着している面と反対側の表面(エアー面)の温度が熱可塑性樹脂の融点−25℃より低い温度になった後に、エア面へ水を噴霧する熱可塑性樹脂シートの製膜方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。また、合成樹脂シートをロール圧延方法により押出成形する成形方法において、冷却ロールに接触していない側の合成樹脂シート表面に純水を噴霧する合成樹脂シート成形方法が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−202837号公報
【特許文献2】特開平10−029239号公報
【特許文献3】特開2000−043117号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のように、従来からシート状のポリエステルを得るにあたり、エアや霧状の水を噴霧することで冷却することは行なわれており、エアや水により急冷されるのが通例であり、急冷によってポリエステル自体の結晶化を抑制してきた。しかしながら、例えば3〜5mmの比較的厚手のシート状ポリエステル樹脂を作製しようとする場合、エアでは冷却効率が低く、水の噴霧による方法では、冷却効率は高いものの、噴霧した水の整流が不充分なために、冷却ムラが発生しやすく、冷却ムラに伴なう結晶化を抑制することは困難であった。
【0011】
上記従来の技術のうち、エア面へ水を噴霧する特許文献2に記載の製膜方法では、排気設備がないため、長手方向で厚み変動が大きくなり、延伸ムラが発生して耐侯性に不均一が生じ、また特許文献3のように冷却ロールに接触していない側に純水を噴霧する成形方法では、冷却ドラム面に付着した水滴によって冷却ムラができ、延伸ムラが発生することで耐侯性にムラが生じる。
【0012】
本発明は、上記に鑑みなされたものであり、製造過程での冷却ムラを抑えて結晶化を防ぎ、従来のポリエステルシートに比べ、耐加水分解性に優れ、長期耐久性を具えた未延伸ポリエステルシート及び太陽電池用保護シート、並びに長期に亘り安定的な発電性能が得られる太陽電池モジュールを提供することを目的とし、該目的を達成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
<1> ポリエステル樹脂を押出ダイからシート状に溶融押出を行ない、押出されたポリエステル樹脂がキャスティングドラムに到達するまでの間に前記ポリエステル樹脂に振動を与えた後、キャスティングドラムに密着させることで冷却し、前記ポリエステル樹脂をシート状に成形するシート成形工程と、筐体内に配設され、前記キャスティングドラムの曲面に沿って二次元配置された複数の噴霧ノズルから霧状の水を、前記噴霧ノズルを挟むように配設された少なくとも2つの整流ノズルから前記霧状の水を挟み込むようにエアをあてて整流するとともに前記噴霧ノズルの両端に配設された排気口を通じて水滴を排出しながら、前記キャスティングドラムに密着されたポリエステル樹脂に対して噴霧し、前記ポリエステル樹脂を冷却する噴霧冷却工程と、を有する未延伸ポリエステルシートの製造方法である。
【0014】
<2> 前記シート成形工程は、シート状の前記ポリエステル樹脂に0.01〜0.5mmの振幅で振動を与える前記<1>に記載の未延伸ポリエステルシートの製造方法である。
<3> 前記噴霧冷却工程は、前記ポリエステル樹脂を冷却後、前記ポリエステル樹脂をキャスティングドラムから剥離し、前記キャスティングドラムに対向配置された吸水ロールを、前記キャスティングドラムに接触させてドラム上に残存する水を回収する前記<1>又は前記<2>に記載の未延伸ポリエステルシートの製造方法である。
<4> 前記噴霧冷却工程は、噴霧量を100〜1000ml/mとし、噴射される霧状の水の最大粒径を50μm以下とし、水温を15℃〜30℃の範囲として、霧状の水を噴射する前記<1>〜前記<3>のいずれか1つに記載の未延伸ポリエステルシートの製造方法である。
【0015】
<5> 前記噴霧冷却工程は、シート状の前記ポリエステル樹脂の表面温度が220℃以上であるときに霧状の水の噴射を開始する前記<1>〜前記<4>のいずれか1つに記載の未延伸ポリエステルシートの製造方法である。
<6> 前記噴霧冷却工程は、シート状の前記ポリエステル樹脂の冷却開始点での冷却を、シート幅方向における両端部を押圧しながら行なう前記<1>〜前記<5>のいずれか1つに記載の未延伸ポリエステルシートの製造方法である。
【0016】
<7> 前記<1>〜前記<6>のいずれか1つに記載の未延伸ポリエステルシートの製造方法により作製された未延伸ポリエステルシートを延伸して得られたポリエステルフィルムを有する太陽電池用保護シートである。
<8> 太陽光が入射する透明性の基板と、前記基板の一方の側に配された太陽電池素子と、該太陽電池素子の前記基板が配された側と反対側に配された前記<7>に記載の太陽電池用保護シートと、を備えた太陽電池モジュールである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、製造過程での冷却ムラを抑えて結晶化を防ぎ、従来のポリエステルシートに比べ、耐加水分解性に優れ、長期耐久性を具えた未延伸ポリエステルシート及び太陽電池用保護シートを提供することができる。また、
本発明によれば、長期に亘り安定的な発電性能が得られる太陽電池モジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施形態に係る成膜・冷却を行なう装置の一部を示す概略断面図である。
【図2】図1の断面の一部を拡大して示す概略断面図である。
【図3】本実施形態のノズル孔が二次元配列された構成を示す平面図である。
【図4】図1の断面の一部を拡大して示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の未延伸ポリエステルシートの製造方法について詳細に説明し、該説明のもと、これを用いた本発明の太陽電池用保護シート及び太陽電池モジュールについても詳述することとする。
【0020】
本発明の未延伸ポリエステルシートの製造方法は、〔1〕ポリエステル樹脂を押出ダイからシート状に溶融押出を行ない、押出されたポリエステル樹脂がキャスティングドラムに到達するまでの間に前記ポリエステル樹脂に振動を与えた後、キャスティングドラムに密着させることで冷却し、前記ポリエステル樹脂をシート状に成形するシート成形工程と、〔2〕筐体内に備えられた前記キャスティングドラムの幅方向に沿って該筐体内に配設され、複数のノズル孔が二次元に配置された噴霧ノズルから、霧状の水を、前記噴霧ノズルを挟むように配設された少なくとも2つの整流ノズルから前記霧状の水を挟み込むようにエアをあてて整流するとともに前記噴霧ノズルの両端に配設された排気口から排水しながら、前記キャスティングドラムに密着されたポリエステル樹脂に対して噴射し、前記ポリエステル樹脂を冷却する噴霧冷却工程と、を設けて構成されたものである。
また、本発明の未延伸ポリエステルシートの製造方法は、必要に応じて、他の工程がさらに設けられてもよい。
【0021】
本発明においては、シート成形時に溶融押出されたシート状のポリエステル樹脂(以下、メルトともいう。)をキャスティングドラムで冷却する前に予め、押出ダイとキャスティングドラムとの間においてポリエステル樹脂に所定の振動を与えることで、ポリエステル樹脂の結晶化を抑制する。また、メルトの冷却は、キャスティングドラムにメルトを密着させると共に密着されたメルトの表面に更に水を噴霧することで行なわれ、この場合に噴霧ノズルを筐体に収納し、噴霧ノズルのドラム幅方向と平行方向における両端に排気口を設けて廃熱と共に霧状(ミスト状)の水分(水滴)を雰囲気と共に排出することで、水分が装置外に出てくるのを防ぎ、冷却前のダイからシート状に押出されたポリエステル樹脂に水分が部分的に付着するのが抑制される。これにより、冷却ムラの防止が図れる。さらに、メルト面に水を噴霧するに際し、噴霧される水をその上下もしくは左右等から挟み込むようにエアを供給し、噴霧された水の噴出方向が整流されることで、所望位置に水が噴霧され、冷却が均一に行なえる。このとき、霧状の水が雰囲気中に散在したりメルト面で跳ね返って飛散するのが防止され、未冷却のポリエステルシートに水分が部分的に付着するのを防ぐことができる。これにより、狙った範囲のみを均一に冷却することが可能であり、水分の装置外への漏れが防止され、従来噴霧ノズルの上流に吸引ノズルを設置しても取り除くことができなかったミスト状の水の付着が回避される。よって、冷却ムラが抑えられて一様に耐加水分解性が向上し、長期耐久性を具えた未延伸ポリエステルシートが得られる。
【0022】
以下、各工程ごとに詳細に説明する。
−〔1〕シート成形工程−
本発明におけるシート成形工程では、ポリエステル樹脂を押出ダイからシート状に溶融押出を行ない、押出されたポリエステル樹脂がキャスティングドラムに到達するまでの間に前記ポリエステル樹脂に振動を与えた後、キャスティングドラムに密着させることで冷却し、前記ポリエステル樹脂をシート状に成形する。
【0023】
ポリエステル原料樹脂及びポリエステル原料樹脂を溶融押出する方法については、ポリエステル原料樹脂が用いられ、これを溶融押出し、更に冷却することによりシート状のポリエステル樹脂が得られるものであれば、特に限定されない。また、ポリエステル原料樹脂の合成に用いる触媒や重合方法等により、ポリエステルの固有粘度は所望の範囲に調整することができる。
【0024】
本発明においては、未延伸ポリエステルシートの耐加水分解性の観点から、ポリエステルの固有粘度(IV)は0.75以上であることが好ましい。更に、ポリエステルの固有粘度(IV)は、0.75〜0.9であることが好ましい。IVが0.75以上であると、ポリエステルの分子運動が阻害され、結晶化が抑えられる。また、IVは0.9以下であると、押出機内の剪断発熱によるポリエステルの熱分解が起こり過ぎず、結晶化が抑制され、また、酸価(AV)を低く抑えることができる。中でも、IVは、0.75以上0.85以下であることがより好ましく、0.78以上0.85以下がより好ましい。
【0025】
特に、エステル化反応において、Ti触媒を使用し、さらに固相重合して、ポリエステルの固有粘度(IV)を、0.75以上0.9以下とすることで、未延伸ポリエステルシートの製造工程における溶融樹脂の冷却工程において、ポリエステルが結晶化することを抑制し易い。
したがって、縦延伸及び横延伸に適用するポリエステルフィルムの原料であるポリエステルは、固有粘度が0.75以上0.9以下であることが好ましく、さらに触媒(Ti触媒)由来のチタン原子を含有することが好ましい。
【0026】
固有粘度(IV)は、溶液粘度(η)と溶媒粘度(η0)の比ηr(=η/η0;相対粘度)から1を引いた比粘度(ηsp=ηr−1)濃度で割った値を濃度がゼロの状態に外挿した値である。IVは、ウベローデ型粘度計を用い、ポリエステルを1,1,2,2−テトラクロルエタン/フェノール(=2/3[質量比])混合溶媒に溶解させ、25℃の溶液粘度から求められる。
【0027】
本発明におけるシート成形工程では、後述するようにして得られるポリエステル原料樹脂を溶融押出し、さらに冷却して未延伸ポリエステルシートを成形する。
ポリエステル原料樹脂の溶融押出は、例えば、1本又は2本以上のスクリューを備えた押出機を用い、ポリエステル原料樹脂の融点以上の温度に加熱し、スクリューを回転させて行なう。ポリエステル原料樹脂は、加熱及びスクリューによる混練により、押出機内で溶融してメルトとなる。また、押出機内での熱分解(ポリエステルの加水分解)を抑制する観点から、押出機内を窒素置換して、ポリエステル原料樹脂の溶融押出しを行なうことが好ましい。
溶融されたポリエステル原料樹脂(メルト)は、ギアポンプ、濾過器等を通して、押出ダイから押出す。押出ダイは、単に「ダイ」とも称する〔JIS B8650:2006、a)押出成形機、番号134参照〕。
このとき、メルトは、単層で押出してもよいし、多層で押出してもよい。
【0028】
ダイからメルト(ポリエステル)をキャスティングドラム上に押出すことで、フィルム状に成形(キャスト処理)することができる。このとき、ダイから押出されたポリエステル樹脂がキャスティングドラムに到達するまでの間に、該ポリエステル樹脂に振動を与える。振動を与えることにより、結晶化が抑えられる。これは、メルトを振動させることで、結晶核の生成を抑制しているためと考えられる。
【0029】
メルトへの振動の付与は、シート状のポリエステル樹脂に0.01〜0.5mmの振幅で振動を与えることによって行なえる。振幅は、0.01mm以上とすることで、振動を与えることによる結晶化の抑制効果が大きく、また0.5mm以下とすることで、シートMD方向の厚み変動を抑えつつ、結晶化を抑制できる点で有利である。
振動の振幅は、0.01〜0.3mmの範囲とするのが好ましく、0.05〜0.3mmの範囲とするのがより好ましい。
【0030】
メルトへの振動の付与は、ダイとキャスティングドラムとの間の搬送路において、シート状のポリエステル樹脂に対して、押出機スクリュに適度な回転ムラを与えることでメルトを振動させることによって好適に行なうことができる。
【0031】
キャスト処理により得られる未延伸ポリエステルシートの厚みは、0.5mm〜5mmであることが好ましく、0.7mm〜4.7mmであることがより好ましくは、0.8mm〜4.6mmであることがさらに好ましい。未延伸ポリエステルシートの厚みを5mm以下とすることで、メルトの蓄熱による冷却遅延を回避し、また0.5mm以上とすることで、押出しから冷却までの間に、ポリエステル中のOH基やCOOH基がポリエステル内部に拡散され、加水分解反応の一因となるOH基及びCOOH基がポリエステル表面に露出することを抑制する。
【0032】
押出ダイから押出されたメルトを冷却する手段としては、メルトに冷風を当てたり、キャストドラム(冷却キャストドラム)に接触させたり、水を噴霧する等の方法が挙げられるが、本発明においては、少なくとも、メルトをキャストドラムに密着させると共に、水を噴霧することによって行なわれる。これらに併せて、冷風による冷却を行なってもよい。
【0033】
また、キャストドラム等を用いて冷却された未延伸ポリエステルシートは、剥ぎ取りロール等の剥ぎ取り部材を用いて、キャストドラム等の冷却部材から剥ぎ取られる。
【0034】
ここで、以下にポリエステル原料樹脂について説明する。
(ポリエステル原料樹脂)
ポリエステル原料樹脂は、ポリエステルフィルムの原料となり、ポリエステルを含んでいる材料であれば、特に制限されず、ポリエステルのほかに、無機粒子や有機粒子のスラリーを含んでいてもよい。また、ポリエステル原料樹脂は、触媒由来のチタン元素を含んでいてもよい。
ポリエステル原料樹脂に含まれるポリエステルの種類は特に制限されない。
ジカルボン酸成分と、ジオール成分とを用いて合成してもよいし、市販のポリエステルを用いてもよい。
【0035】
ポリエステルを合成する場合は、例えば、(A)ジカルボン酸成分と、(B)ジオール成分とを、周知の方法でエステル化反応及び/又はエステル交換反応させることによって得ることができる。
(A)多価カルボン酸成分としては、例えば、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸、エイコサンジオン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、メチルマロン酸、エチルマロン酸等の脂肪族ジカルボン酸類、アダマンタンジカルボン酸、ノルボルネンジカルボン酸、イソソルビド、シクロヘキサンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸、などの脂環族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、フェニルエンダンジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、フェナントレンジカルボン、9,9’−ビス(4−カルボキシフェニル)フルオレン酸等の芳香族ジカルボン酸などのジカルボン酸もしくはそのエステル誘導体が挙げられる。
【0036】
(B)多価アルコール成分としては、例えば、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール等の脂肪族ジオール類、シクロヘキサンジメタノール、スピログリコール、イソソルビドなどの脂環式ジオール類、ビスフェノールA、1,3―ベンゼンジメタノール,1,4−ベンセンジメタノール、9,9’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、などの芳香族ジオール類等のジオール化合物が挙げられる。
【0037】
(A)ジカルボン酸成分として、芳香族ジカルボン酸の少なくとも1種が用いられる場合が好ましい。より好ましくは、ジカルボン酸成分のうち、芳香族ジカルボン酸を主成分として含有する。なお、「主成分」とは、ジカルボン酸成分に占める芳香族ジカルボン酸の割合が80質量%以上であることをいう。芳香族ジカルボン酸以外のジカルボン酸成分を含んでもよい。このようなジカルボン酸成分としては、芳香族ジカルボン酸などのエステル誘導体等である。
また、(B)ジオール成分として、脂肪族ジオールの少なくとも1種が用いられる場合が好ましい。脂肪族ジオールとして、エチレングリコールを含むことができ、好ましくはエチレングリコールを主成分として含有する。なお、主成分とは、ジオール成分に占めるエチレングリコールの割合が80質量%以上であることをいう。
【0038】
脂肪族ジオール(例えばエチレングリコール)の使用量は、前記芳香族ジカルボン酸(例えばテレフタル酸)及び必要に応じそのエステル誘導体の1モルに対して、1.015〜1.50モルの範囲であるのが好ましい。該使用量は、より好ましくは1.02〜1.30モルの範囲であり、更に好ましくは1.025〜1.10モルの範囲である。該使用量は、1.015以上の範囲であると、エステル化反応が良好に進行し、1.50モル以下の範囲であると、例えばエチレングリコールの2量化によるジエチレングリコールの副生が抑えられ、融点やガラス転移温度、結晶性、耐熱性、耐加水分解性、耐候性など多くの特性を良好に保つことができる。
【0039】
エステル化反応及び/又はエステル交換反応には、従来から公知の反応触媒を用いることができる。該反応触媒としては、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、亜鉛化合物、鉛化合物、マンガン化合物、コバルト化合物、アルミニウム化合物、アンチモン化合物、チタン化合物、リン化合物などを挙げることができる。通常、ポリエステルの製造方法が完結する以前の任意の段階において、重合触媒としてアンチモン化合物、ゲルマニウム化合物、チタン化合物を添加することが好ましい。このような方法としては、例えば、ゲルマニウム化合物を例に取ると、ゲルマニウム化合物粉体をそのまま添加することが好ましい。
【0040】
例えば、エステル化反応工程は、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとを、チタン化合物を含有する触媒の存在下で重合する。このエステル化反応工程では、好ましくは、触媒であるチタン化合物として、有機酸を配位子とする有機キレートチタン錯体を用いると共に、工程中に少なくとも、有機キレートチタン錯体と、マグネシウム化合物と、置換基として芳香環を有しない5価のリン酸エステルとをこの順序で添加する過程を設けて構成される。
【0041】
まず初めに、芳香族ジカルボン酸及び脂肪族ジオールを、マグネシウム化合物及びリン化合物の添加に先立って、チタン化合物である有機キレートチタン錯体を含有する触媒と混合する。有機キレートチタン錯体等のチタン化合物は、エステル化反応に対しても高い触媒活性を持つので、エステル化反応を良好に行なわせることができる。このとき、ジカルボン酸成分及びジオール成分を混合した中にチタン化合物を加えてもよいし、ジカルボン酸成分(又はジオール成分)とチタン化合物を混合してからジオール成分(又はジカルボン酸成分)を混合してもよい。また、ジカルボン酸成分とジオール成分とチタン化合物とを同時に混合するようにしてもよい。混合は、その方法に特に制限はなく、従来公知の方法により行なうことが可能である。
【0042】
より好ましいポリエステルは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン−2,6−ナフタレート(PEN)であり、さらに好ましいのはPETである。さらに、PETは、ゲルマニウム(Ge)系触媒、アンチモン(Sb)系触媒、アルミニウム(Al)系触媒、及びチタン(Ti)系触媒から選ばれる1種又は2種以上を用いて重合されるものが好ましく、より好ましくはTi系触媒である。
【0043】
前記Ti系触媒は、反応活性が高く、重合温度を低くすることができる。そのため、特に重合反応中にポリエステルが熱分解し、COOHが発生するのを抑制することが可能である。すなわち、Ti系触媒を用いることで、熱分解の原因となるポリエステルの末端カルボン酸の量を低減することができ、異物形成を抑制することができる。ポリエステルの末端カルボン酸の量を低減しておくことで、ポリエステルフィルムを製造した後に、ポリエステルフィルムが熱分解することを抑制することもできる。
【0044】
前記Ti系触媒としては、酸化物、水酸化物、アルコキシド、カルボン酸塩、炭酸塩、蓚酸塩、有機キレートチタン錯体、及びハロゲン化物等が挙げられる。Ti系触媒は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、二種以上のチタン化合物を併用してもよい。
Ti系触媒の例としては、テトラ−n−プロピルチタネート、テトラ−i−プロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネートテトラマー、テトラ−t−ブチルチタネート、テトラシクロヘキシルチタネート、テトラフェニルチタネート、テトラベンジルチタネート等のチタンアルコキシド、チタンアルコキシドの加水分解により得られるチタン酸化物、チタンアルコキシドと珪素アルコキシドもしくはジルコニウムアルコキシドとの混合物の加水分解により得られるチタン−珪素もしくはジルコニウム複合酸化物、酢酸チタン、蓚酸チタン、蓚酸チタンカリウム、蓚酸チタンナトリウム、チタン酸カリウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸−水酸化アルミニウム混合物、塩化チタン、塩化チタン−塩化アルミニウム混合物、チタンアセチルアセトナート、有機酸を配位子とする有機キレートチタン錯体、等が挙げられる。
【0045】
ポリエステルを重合する際において、触媒としてチタン(Ti)化合物を、チタン元素換算値で1ppm以上50ppm以下、より好ましくは2ppm以上30ppm以下、さらに好ましくは3ppm以上15ppm以下の範囲で用いて重合を行なうことが好ましい。この場合、ポリエステル原料樹脂には、1ppm以上50ppm以下のチタン元素が含まれる。
ポリエステル原料樹脂に含まれるチタン元素の量が1ppm以上であると、ポリエステルの重量平均分子量(Mw)が上がり、熱分解しにくい。そのため、押出機内で異物が軽減される。ポリエステル原料樹脂に含まれるチタン元素の量が50ppm以下であると、Ti系触媒が異物となり難く、ポリエステルシートの延伸の際に延伸ムラが軽減される。
【0046】
[チタン化合物]
触媒成分であるチタン化合物として、有機酸を配位子とする有機キレートチタン錯体の少なくとも1種が用いられることが好ましい。有機酸としては、例えば、クエン酸、乳酸、トリメリット酸、リンゴ酸等を挙げることができる。中でも、クエン酸又はクエン酸塩を配位子とする有機キレート錯体が好ましい。
【0047】
例えばクエン酸を配位子とするキレートチタン錯体を用いた場合、微細粒子等の異物の発生が少なく、他のチタン化合物に比べ、重合活性と色調の良好なポリエステルが得られる。更に、クエン酸キレートチタン錯体を用いる場合でも、エステル化反応の段階で添加する方法により、エステル化反応後に添加する場合に比べ、重合活性と色調が良好で、末端カルボキシ基の少ないポリエステルが得られる。この点については、チタン触媒はエステル化反応の触媒効果もあり、エステル化段階で添加することでエステル化反応終了時におけるオリゴマー酸価が低くなり、以降の重縮合反応がより効率的に行なわれること、またクエン酸を配位子とする錯体はチタンアルコキシド等に比べて加水分解耐性が高く、エステル化反応過程において加水分解せず、本来の活性を維持したままエステル化及び重縮合反応の触媒として効果的に機能するものと推定される。
また、一般に、末端カルボキシ基量が多いほど耐加水分解性が悪化することが知られており、上記の添加方法によって末端カルボキシ基量が少なくなることで、耐加水分解性の向上が期待される。
【0048】
前記クエン酸キレートチタン錯体としては、例えば、ジョンソン・マッセイ社製のVERTEC AC−420など市販品として容易に入手可能である。
【0049】
芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジオールは、これらが含まれたスラリーを調製し、これをエステル化反応工程に連続的に供給することにより導入することができる。
【0050】
また、チタン化合物としては、有機キレートチタン錯体以外には一般に、酸化物、水酸化物、アルコキシド、カルボン酸塩、炭酸塩、蓚酸塩、及びハロゲン化物等が挙げられる。本発明の効果を損なわない範囲であれば、有機キレートチタン錯体に加えて、他のチタン化合物を併用してもよい。
このようなチタン化合物の例としては、テトラ−n−プロピルチタネート、テトラ−i−プロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネートテトラマー、テトラ−t−ブチルチタネート、テトラシクロヘキシルチタネート、テトラフェニルチタネート、テトラベンジルチタネート等のチタンアルコキシド、チタンアルコキシドの加水分解により得られるチタン酸化物、チタンアルコキシドと珪素アルコキシドもしくはジルコニウムアルコキシドとの混合物の加水分解により得られるチタン−珪素もしくはジルコニウム複合酸化物、酢酸チタン、蓚酸チタン、蓚酸チタンカリウム、蓚酸チタンナトリウム、チタン酸カリウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸−水酸化アルミニウム混合物、塩化チタン、塩化チタン−塩化アルミニウム混合物、チタンアセチルアセトナート等が挙げられる。
【0051】
本発明においては、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとを、チタン化合物を含有する触媒の存在下で重合するとともに、チタン化合物の少なくとも一種が有機酸を配位子とする有機キレートチタン錯体であって、有機キレートチタン錯体とマグネシウム化合物と置換基として芳香環を有しない5価のリン酸エステルとをこの順序で添加する過程を少なくとも含むエステル化反応工程と、エステル化反応工程で生成されたエステル化反応生成物を重縮合反応させて重縮合物を生成する重縮合工程と、を設けて構成されているポリエステルの製造方法により作製されるのが好ましい。
【0052】
この場合、エステル化反応の過程において、チタン化合物として有機キレートチタン錯体を存在させた中に、マグネシウム化合物を添加し、次いで特定の5価のリン化合物を添加する添加順とすることで、チタン触媒の反応活性を適度に高く保ち、マグネシウムによる静電印加特性を付与しつつ、かつ重縮合における分解反応を効果的に抑制することができるため、結果として着色が少なく、高い静電印加特性を有するとともに高温下に曝された際の黄変色が改善されたポリエステルが得られる。
これにより、重合時の着色及びその後の溶融製膜時における着色が少なくなり、従来のアンチモン(Sb)触媒系のポリエステルに比べて黄色味が軽減され、また、透明性の比較的高いゲルマニウム触媒系のポリエステルに比べて遜色のない色調、透明性を持ち、しかも耐熱性に優れたポリエステルを提供できる。また、コバルト化合物や色素などの色調調整材を用いずに高い透明性を有し、黄色味の少ないポリエステルが得られる。
【0053】
このポリエステルは、透明性に関する要求の高い用途(例えば、光学用フィルム、工業用リス等)に利用が可能であり、高価なゲルマニウム系触媒を用いる必要がないため、大幅なコスト低減が図れる。加えて、Sb触媒系で生じやすい触媒起因の異物の混入も回避されるため、製膜過程での故障の発生や品質不良が軽減され、得率向上による低コスト化も図ることができる。
【0054】
エステル化反応させるにあたり、上記のようにチタン化合物である有機キレートチタン錯体と添加剤としてマグネシウム化合物と5価のリン化合物とをこの順に添加する過程を設けるときは、有機キレートチタン錯体の存在下、エステル化反応を進め、その後はマグネシウム化合物の添加を、リン化合物の添加前に開始することができる。
【0055】
[リン化合物]
5価のリン化合物として、置換基として芳香環を有しない5価のリン酸エステルの少なくとも一種が用いられる。例えば、炭素数2以下の低級アルキル基を置換基として有するリン酸エステル〔(OR)−P=O;R=炭素数1又は2のアルキル基〕が挙げられ、具体的には、リン酸トリメチル、リン酸トリエチルが特に好ましい。
【0056】
リン化合物の添加量としては、P元素換算値が50ppm以上90ppm以下の範囲となる量が好ましい。リン化合物の量は、より好ましくは60ppm以上80ppm以下となる量であり、さらに好ましくは60ppm以上75ppm以下となる量である。
【0057】
[マグネシウム化合物]
ポリエステルにマグネシウム化合物を含めることにより、ポリエステルの静電印加性が向上する。この場合に着色がおきやすいが、本発明においては、着色を抑え、優れた色調、耐熱性が得られる。
マグネシウム化合物としては、例えば、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、マグネシウムアルコキシド、酢酸マグネシウム、炭酸マグネシウム等のマグネシウム塩が挙げられる。中でも、エチレングリコールへの溶解性の観点から、酢酸マグネシウムが最も好ましい。
【0058】
マグネシウム化合物の添加量としては、高い静電印加性を付与するためには、Mg元素換算値が50ppm以上となる量が好ましく、50ppm以上100ppm以下の範囲となる量がより好ましい。マグネシウム化合物の添加量は、静電印加性の付与の点で、好ましくは60ppm以上90ppm以下の範囲となる量であり、さらに好ましくは70ppm以上80ppm以下の範囲となる量である。
【0059】
エステル化反応工程においては、触媒成分である前記チタン化合物と、添加剤である前記マグネシウム化合物及びリン化合物とを、下記式(i)から算出される値Zが下記の関係式(ii)を満たすように、添加して溶融重合させる場合が特に好ましい。ここで、P含有量は芳香環を有しない5価のリン酸エステルを含むリン化合物全体に由来するリン量であり、Ti含有量は、有機キレートチタン錯体を含むTi化合物全体に由来するチタン量である。このように、チタン化合物を含む触媒系でのマグネシウム化合物及びリン化合物の併用を選択し、その添加タイミング及び添加割合を制御することによって、チタン化合物の触媒活性を適度に高く維持しつつも、黄色味の少ない色調が得られ、重合反応時やその後の製膜時(溶融時)などで高温下に曝されても黄着色を生じ難い耐熱性を付与することができる。
(i)Z=5×(P含有量[ppm]/P原子量)−2×(Mg含有量[ppm]/Mg原子量)−4×(Ti含有量[ppm]/Ti原子量)
(ii)0≦Z≦+5.0
これは、リン化合物はチタンに作用のみならずマグネシウム化合物とも相互作用することから、3者のバランスを定量的に表現する指標となるものである。
前記式(i)は、反応可能な全リン量から、マグネシウムに作用するリン分を除き、チタンに作用可能なリンの量を表現したものである。値Zが正の場合は、チタンを阻害するリンが余剰な状況にあり、逆に負の場合はチタンを阻害するために必要なリンが不足する状況にあるといえる。反応においては、Ti、Mg、Pの各原子1個は等価ではないことから、式中の各々のモル数に価数を乗じて重み付けを施してある。
【0060】
本発明においては、特殊な合成等が不要であり、安価でかつ容易に入手可能なチタン化合物、リン化合物、マグネシウム化合物を用いて、反応に必要とされる反応活性を持ちながら、色調及び熱に対する着色耐性に優れたポリエステルを得ることができる。
【0061】
前記式(ii)において、重合反応性を保った状態で、色調及び熱に対する着色耐性をより高める観点から、+1.0≦Z≦+4.0を満たす場合が好ましく、+1.5≦Z≦+3.0を満たす場合がより好ましい。
【0062】
本発明における好ましい態様として、エステル化反応が終了する前に、芳香族ジカルボン酸及び脂肪族ジオールに、Ti元素換算値で1ppm以上30ppm以下のクエン酸又はクエン酸塩を配位子とするキレートチタン錯体を添加後、該キレートチタン錯体の存在下に、Mg元素換算値で60ppm以上90ppm以下(より好ましくは70ppm以上80ppm以下)の弱酸のマグネシウム塩を添加し、該添加後にさらに、P元素換算値で60ppm以上80ppm以下(より好ましくは65ppm以上75ppm以下)の、芳香環を置換基として有しない5価のリン酸エステルを添加する態様が挙げられる。
【0063】
上記において、キレートチタン錯体(有機キレートチタン錯体)とマグネシウム塩(マグネシウム化合物)と5価のリン酸エステルとの各々について、それぞれ全添加量の70質量%以上が、前記順序で添加される態様が好ましい。
【0064】
エステル化反応は、少なくとも2個の反応器を直列に連結した多段式装置を用いて、エチレングリコールが還流する条件下で、反応によって生成した水又はアルコールを系外に除去しながら実施することができる。
【0065】
また、上記したエステル化反応は、一段階で行なってもよいし、多段階に分けて行なうようにしてもよい。
エステル化反応を一段階で行なう場合、エステル化反応温度は230〜260℃が好ましく、240〜250℃がより好ましい。
エステル化反応を多段階に分けて行なう場合、第一反応槽のエステル化反応の温度は230〜260℃が好ましく、より好ましくは240〜250℃であり、圧力は1.0〜5.0kg/cmが好ましく、より好ましくは2.0〜3.0kg/cmである。第二反応槽のエステル化反応の温度は230〜260℃が好ましく、より好ましくは245〜255℃であり、圧力は0.5〜5.0kg/cm、より好ましくは1.0〜3.0kg/cmである。さらに3段階以上に分けて実施する場合は、中間段階のエステル化反応の条件は、前記第一反応槽と最終反応槽の間の条件に設定するのが好ましい。
【0066】
−重縮合−
重縮合は、エステル化反応で生成されたエステル化反応生成物を重縮合反応させて重縮合物を生成する。重縮合反応は、1段階で行なってもよいし、多段階に分けて行なうようにしてもよい。
【0067】
エステル化反応で生成したオリゴマー等のエステル化反応生成物は、引き続いて重縮合反応に供される。この重縮合反応は、多段階の重縮合反応槽に供給することにより好適に行なうことが可能である。
【0068】
例えば、3段階の反応槽で行なう場合の重縮合反応条件は、第一反応槽は、反応温度が255〜280℃、より好ましくは265〜275℃であり、圧力が100〜10torr(13.3×10−3〜1.3×10−3MPa)、より好ましくは50〜20torr(6.67×10−3〜2.67×10−3MPa)であって、第二反応槽は、反応温度が265〜285℃、より好ましくは270〜280℃であり、圧力が20〜1torr(2.67×10−3〜1.33×10−4MPa)、より好ましくは10〜3torr(1.33×10−3〜4.0×10−4MPa)であって、最終反応槽内における第三反応槽は、反応温度が270〜290℃、より好ましくは275〜285℃であり、圧力が10〜0.1torr(1.33×10−3〜1.33×10−5MPa)、より好ましくは5〜0.5torr(6.67×10−4〜6.67×10−5MPa)である態様が好ましい。
【0069】
上記のようにして合成されたポリエステルには、光安定化剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、易滑剤(微粒子)、核剤(結晶化剤)、結晶化阻害剤などの添加剤を更に含有させてもよい。
【0070】
ポリエステルシートの原料であるポリエステルは、固相重合したペレットであることが好ましい。
エステル化反応により重合した後に、さらに固相重合することにより、ポリエステルフィルムの含水率、結晶化度、ポリエステルの酸価、すなわち、ポリエステルの末端カルボキシ基の濃度(Acid Value;AV)、固有粘度(Interisic Viscosity;IV)を制御することができる。
【0071】
ポリエステルの固相重合には、既述のエステル化反応により重合したポリエステル又は市販のポリエステルを、ペレット状などの小片形状にしたものを、出発物質として用いればよい。
ポリエステルの固相重合は、連続法(タワーの中に樹脂を充満させ、これを加熱しながらゆっくり所定の時間滞流させた後、順次送り出す方法)でもよく、バッチ法(容器の中に樹脂を投入し、所定の時間加熱する方法)でもよい。
固相重合は、真空中あるいは窒素雰囲気下で行なうことが好ましい。
ポリエステルの固相重合温度は、150℃以上250℃以下、より好ましくは170℃以上240℃以下、さらに好ましくは180℃以上230℃以下、特に好ましくは190℃以上220℃以下であることが好ましい。温度が上記範囲内であると、ポリエステルの酸価(AV)がより低減する点で好ましい。
また、固相重合時間は、1時間以上100時間以下が好ましく、より好ましくは5時間以上100時間以下、さらに好ましくは10時間以上75時間以下、特に好ましくは15時間以上50時間以下である。固相重合時間が上記範囲内であると、ポリエステルの酸価(AV)と固有粘度(IV)とを好ましい範囲に容易に制御できる。
【0072】
−〔2〕噴霧冷却工程−
本発明における噴霧冷却工程では、筐体内に配設され、キャスティングドラムの曲面に沿って二次元配置された複数の噴霧ノズルから霧状の水を、前記噴霧ノズルを挟むように配設された少なくとも2つの整流ノズルから前記霧状の水を挟み込むようにエアをあてて整流するとともに前記噴霧ノズルのドラム幅方向と平行方向における両端に配設された排気口を通じて水滴を排出しながら、前記キャスティングドラムに密着されたポリエステル樹脂に対して噴霧し、前記ポリエステル樹脂を冷却する。
【0073】
図1に示すように、キャスティングドラム12と、キャスティングドラム12の曲面のドラム幅方向に沿って、キャスティングドラム12と対向配置された冷却装置14とを備えている。図1は、本実施形態に係る成膜装置において、キャスティングドラムに水を噴霧して冷却する冷却装置が配置された構成を示している。
【0074】
キャスティングドラム12は、断面円形の金属製の柱状体からなり、押出ダイからシート状に押出されたポリエステル樹脂13を、回転しながら静電印加法により密着させて保持し、冷却できるようになっている。このキャスティングドラム12は、所望とする温度に制御することができ、ポリエステルシートはドラムとの間で熱交換して冷却されることになる。
【0075】
冷却装置14は、図2に示すように、筐体16と、筐体16に固定されると共に、キャスティングドラム12の曲面に沿って配置されたノズルプレート18とを備えている。回転するキャスティングドラム12の表面にポリエステルシート13が密着した状態で冷却装置14の位置まで搬送されると、ノズルプレート18の各噴霧ノズル24からポリエステルシート13の表面に直接、水を噴霧して冷却を行なうことができる。
【0076】
筐体16の内部には、図3に示すように噴霧ノズルであるノズルプレート18のキャスティングドラム12の幅方向両端部に対向する位置に、筐体内部の雰囲気を外部に排出するための排気口(ダクト)22が設けられており、筐体内部の雰囲気の熱を逃すと共に、雰囲気中の水分を排出することができるようになっている。
【0077】
ノズルプレート18は、筐体16のキャスティングドラム12と向き合う面に取り付けられており、ドラムの周方向の一部においてその幅方向全体がノズルプレート18で覆われている。具体的には図3に示されるように、ノズルプレート18には、水を噴霧する複数の噴霧ノズル24が二次元配列されており、キャスティングドラム12に密着されたポリエステルシート13の表面全体に亘り均一に水を噴霧されるようになっている。
【0078】
ノズルプレート18に二次元的に配列された各噴霧ノズル24は、図2、4に示すように、ノズルプレート端部に配置された数個を除き、その噴射方向がドラム面に対して垂直になるように設けられている。また、各噴霧ノズル24は、噴霧口と逆側の一端がそれぞれ給水配管28と接続されており、給水配管から各噴霧ノズルにほぼ均等に給水できるようになっている。
【0079】
また、各噴霧ノズル24の、ドラム回転方向における上流側及び下流側には、各噴霧ノズル24から噴霧された水を挟み込むようにエアが出るように、各噴霧ノズルごとに2つの整流ノズル(エア供給孔)26が設けられており、噴霧方向から外れて飛散する水滴の発生を抑え、噴霧された水滴が整流される構成になっている。すなわち、図4中に矢印で示されるように、噴霧ノズル24から噴霧された水に対して、整流ノズル26から矢印方向にエアを出すことで、噴霧された水滴が飛び散らないようにすることができる。これにより、水をポリエステルシートの表面に噴霧して冷却する場合に、雰囲気中に存在するミスト量を減じ、水が冷却装置から外に出て、ドラム状のポリエステルシートに付着するのを防ぐことができる。水滴は暖められた雰囲気中で装置上方に移動しやすいため、装置上方から外に出た水滴は冷却前のポリエステルシートに付着することになり、水滴の付着部分とそれ以外の部分とで冷却差が大きく生じる。その結果、冷却ムラが生じやすく、後に延伸工程に供された場合に延伸ムラが発生し、結果的にフィルムの耐侯性に不均一が生じやすくなる。
【0080】
また、図2及び図4に示すように、ノズルプレート18のドラム回転方向における上流側に配置された上流端から4つの噴霧ノズル24は、その噴射方向が、ドラム面に対して垂直な方向より下流側に傾けて配置されている。上流側の噴霧ノズルの設置角度を適切な角度でドラム回転方向下流側に向けて傾けることで、噴霧された水が外部(特に装置上方に配置されたダイ側)に漏れ出るのを防ぐことができる。冷却ドラムに対して垂直に噴霧すると、ポリエステルシート(メルト)の表面で跳ね返った水が飛散してしまい、仮に噴霧ノズルの上流側に雰囲気を吸引する吸引ノズルを設置しても完全に取り除くことができず、未冷却のメルトに付着し、結果として耐候性が不均一になりやすい。これに対し、噴霧ノズルの噴霧方向がドラム面に垂直な方向よりも更にドラム回転方向下流側に傾けることで、噴霧した水は下流側へ跳ね返りやすくなるので、上流端からの水の漏れを防ぐことができる。これにより、狙った範囲をより均一に冷却することができる。本発明では、結晶核の生成抑制と水噴霧による急冷により、ポリエステルの結晶化を防ぎ、比較的厚手でも耐候性に優れたポリエステルシートでも得ることができる。
【0081】
噴霧ノズル18のドラム回転方向における上端及び下端には、噴霧されてミスト状に雰囲気中に散在する水滴(水)が冷却装置の外に出てポリエステルシートに付着しないように、邪魔板20が取り付けられている。
【0082】
本発明における噴霧冷却工程においては、噴霧ノズル24から噴霧される霧状の水を、100〜1000ml/mの噴霧量にて噴霧することが好ましい。噴霧量が100ml/m以上であることで、冷却ムラなく急冷できるので、結晶化度のバラツキを軽減することができる。また、噴霧量が1000ml/m以下であると、噴霧した水によりシートのTD厚みムラを抑制できる点で有利である。
中でも、上記同様の理由から、噴霧量としては、200〜900ml/mがより好ましく、300〜900ml/mが更に好ましい。
【0083】
また、噴霧される水は、霧状に、すなわち水滴状に噴射されることが好ましい。この場合、霧状の水の最大粒径としては、50μm以下であるのが好ましい。最大粒径が50μm以下であることで、噴霧した水が蒸発する時に発生する斑点状のムラを防止できる点で有利である。
【0084】
また、噴霧される水の温度(水温)としては、ポリエステルシートの冷却が行なえる温度であれば、特に制限されるものではないが、15℃〜30℃の範囲とするのが好ましい。水温は、15℃以上であると、噴霧する水を供給する配管やノズルの結露を防止でき、ミストを整流する点で有利であり、また30℃以下であると、メルトの冷却効率を落とさずに製膜できる点で有利である。中でも、上記同様の理由から、噴霧される水の温度は、17〜30℃の範囲がより好ましく、17〜25℃の範囲が更に好ましい。
【0085】
噴霧冷却工程では、ポリエステルシートをキャスティングドラムに密着させると共に水を噴霧して冷却した後、ポリエステルシートをキャスティングドラムから剥離し、キャスティングドラムに対向配置された吸水ロールを、キャスティングドラムに接触させてドラム上に残存する水を回収する過程を設けることが好ましい。
【0086】
図1に示すように、キャスティングドラム12の、ドラム回転方向におけるポリエステルシートの剥離点より下流側に、キャスティングドラムと略同一幅の吸水ロール30が配置されている。吸水ロール30は、ドラム状に残存する水分を吸収し、ドラム面とシート状に供給されてくるポリエステル樹脂との間に不均一に水分が付着して冷却ムラが生じないように構成されている。
【0087】
吸水ロールとしては、水分の吸収が可能な材質であれば。特に制限されるものではなく、例えば、表面が不織布、フェルトなどの吸水性のロールの中から適宜選択して用いることができる。
【0088】
吸水ロールのサイズ(外径など)については、特に制限はなく、ドラム状に残存する水分量やドラムの回転速度など、必要とされる吸水性等に応じて選択すればよい。
【0089】
本発明における噴霧冷却工程においては、ダイからシート状に押出されたポリエステル樹脂(ポリエステルシート)を、その表面温度が220℃以上の温度領域にあるときに水の噴射を開始することが好ましい。表面温度が上記温度領域にあるときに冷却を開始することで、急冷時に発生しやすい冷却ムラが効果的に防止され、冷却ムラに伴なう結晶化がより抑制されることになる。表面温度の上限としては、MD方向の厚みムラの抑制の観点から240℃が望ましい。
【0090】
本発明における噴霧冷却工程では、シート状のポリエステル樹脂(ポリエステルシート)の幅方向、すなわちキャスティングドラムの回転方向と直交する幅方向における厚み分布に合わせて、各噴霧ノズルからの水の噴霧量を調節することにより冷却を行なうことが好ましい。具体的には、二次元配列された噴霧ノズル24の各々から噴霧される水の量を、シート厚の厚い領域(例えば平均シート厚より厚い領域)では多くし、逆にシート厚の薄い領域(例えば平均シート厚より薄い領域)では少なくなるように制御することで、噴霧量を制御した冷却が行なえる。
ポリエステルシートの厚みに分布があると、厚い部分と薄い部分とで保熱の程度が異なるため、温度分布ができやすく、冷却時には冷却ムラとなって現れやすい。この冷却ムラは、結晶化度のバラツキを招来し、耐候性を損なう。
【0091】
噴霧冷却工程において、シート状のポリエステル樹脂(ポリエステルシート)の冷却開始点では、ポリエステルシートを、そのシート幅方向、すなわちキャスティングドラムの回転方向と直交するドラム幅方向における両端部において、押圧しながら冷却する態様が好ましい。噴霧冷却工程での冷却開始点とは、キャスティングドラムに密着されたポリエステルシートに噴射された水が供された時点をいう。
【0092】
押圧は、ポリエステルシートの表面を傷つけないように、キャスティングドラムの回転に合わせて可動する機構を備えている部材が好ましく、例えば、ロールなどを用いて好適に行なえる。
【0093】
冷却開始点では、比較的多量の水が供給された際に噴霧した水がシートとドラムの隙間に入り込み、シート端部がドラム面から離れやすくなり、端部での冷却がより一層遅れ、シート全体の冷却ムラがより促進されることになる。したがって、冷却開始点では、シート両端部を押圧することによって、冷却ムラを軽減し、ひいては耐候性をより向上させることができる。
【0094】
<太陽電池用保護シート>
本発明の太陽電池用保護シートは、既述の未延伸ポリエステルシートの製造方法により作製された未延伸ポリエステルシートを縦延伸及び/又は横延伸して得られたポリエステルフィルムを備えている。
【0095】
既述の未延伸ポリエステルシートが用いられるので、得られるポリエステルフィルム(太陽電池用保護シート)は、耐加水分解性に優れ、ひいては耐候性に優れる。
【0096】
縦延伸は、例えば、未延伸ポリエステルシートを挟む1対のニップロールにフィルムを通して、フィルムの長手方向(MD方向)にフィルムを搬送しながら、フィルムの搬送方向に並べた2対以上のニップロール間で緊張を与えることにより行なうことができる。縦延伸工程において、縦延伸倍率は2〜5倍が好ましく、2.5〜4.5倍がより好ましく、2.8〜4倍がさらに好ましい。
【0097】
また、横延伸は、予熱されたポリエステルを長手方向(MD方向)と直交する幅方向(TD方向)に緊張を与えて行なうことができる。
【0098】
延伸後のポリエステルフィルムには、更に、縦延伸及び横延伸が施された後のポリエステルを加熱して結晶化させることで熱固定する熱固定工程や、熱固定工程で固定されたポリエステルフィルムを加熱し、ポリエステルフィルムの緊張を緩和し、残留歪みを除去する熱緩和工程が設けられてもよい。
【0099】
本発明のポリエステルシートは、所望の延伸処理を施した後、電池側基板との接着性を高める易接着性層、紫外線吸収層、白色顔料等を含んで光反射性に構成された反射層等の白色層(着色層)などの機能性層を少なくとも1層設けることで、太陽電池用保護シートを構成することができる。例えば、1軸延伸後及び/又は2軸延伸後のポリエステルフィルムに機能性層を塗布形成してもよい。塗布形成には、ロールコート法、ナイフエッジコート法、グラビアコート法、カーテンコート法等の公知の塗布技術を用いることができる。
また、これらの塗設前に表面処理(火炎処理、コロナ処理、プラズマ処理、紫外線処理等)を実施してもよい。さらに、粘着剤を用いて貼り合わせることも好ましい。
【0100】
<太陽電池モジュール>
太陽電池モジュールは、一般に、太陽光の光エネルギーを電気エネルギーに変換する太陽電池素子を、太陽光が入射する透明性の基板と既述の本発明のポリエステルフィルム(太陽電池用バックシート)との間に配置して構成されている。具体的な実施態様として、電気を取り出すリード配線(不図示)で接続された発電素子(太陽電池素子)をエチレン・酢酸ビニル共重合体系(EVA系)樹脂等の封止剤で封止し、これを、ガラス等の透明基板と、本発明のポリエステルフィルム(バックシート)との間に挟んで互いに張り合わせることによって構成される態様であってもよい。
【0101】
太陽電池素子の例としては、単結晶シリコン、多結晶シリコン、アモルファスシリコンなどのシリコン系、銅−インジウム−ガリウム−セレン、銅−インジウム−セレン、カドミウム−テルル、ガリウム−砒素などのIII−V族やII−VI族化合物半導体系など、各種公知の太陽電池素子を適用することができる。基板とポリエステルフィルムとの間は、例えばエチレン−酢酸ビニル共重合体等の樹脂(いわゆる封止材)で封止して構成することができる。
【実施例】
【0102】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0103】
(実施例1〜13、比較例1〜2)
<ポリエステル原料樹脂の合成>
以下に示すように、テレフタル酸及びエチレングリコールを直接反応させて水を留去し、エステル化した後、減圧下で重縮合を行なう直接エステル化法を用いて、連続重合装置によりポリエステル(Ti触媒系PET)を得た。
【0104】
(1)エステル化反応
第一エステル化反応槽に、高純度テレフタル酸4.7トンとエチレングリコール1.8トンを90分かけて混合してスラリー形成させ、3800kg/hの流量で連続的に第一エステル化反応槽に供給した。更にクエン酸がTi金属に配位したクエン酸キレートチタン錯体(VERTEC AC−420、ジョンソン・マッセイ社製)のエチレングリコール溶液を連続的に供給し、反応槽内温度250℃、攪拌下、平均滞留時間約4.3時間で反応を行なった。このとき、クエン酸キレートチタン錯体は、Ti添加量が元素換算値で9ppmとなるように連続的に添加した。このとき、得られたオリゴマーの酸価は600当量/トンであった。
【0105】
この反応物を第二エステル化反応槽に移送し、攪拌下、反応槽内温度250℃で、平均滞留時間で1.2時間反応させ、酸価が200当量/トンのオリゴマーを得た。第二エステル化反応槽は内部が3ゾーンに仕切られており、第2ゾーンから酢酸マグネシウムのエチレングリコール溶液を、Mg添加量が元素換算値で75ppmになるように連続的に供給し、続いて第3ゾーンから、リン酸トリメチルのエチレングリコール溶液を、P添加量が元素換算値で65ppmになるように連続的に供給した。
【0106】
(2)重縮合反応
上記で得られたエステル化反応生成物を連続的に第一重縮合反応槽に供給し、攪拌下、反応温度270℃、反応槽内圧力20torr(2.67×10−3MPa)で、平均滞留時間約1.8時間で重縮合させた。
【0107】
更に、第二重縮合反応槽に移送し、この反応槽において攪拌下、反応槽内温度276℃、反応槽内圧力5torr(6.67×10−4MPa)で滞留時間約1.2時間の条件で反応(重縮合)させた。
【0108】
次いで、更に第三重縮合反応槽に移送し、この反応槽では、反応槽内温度278℃、反応槽内圧力1.5torr(2.0×10−4MPa)で、滞留時間1.5時間の条件で反応(重縮合)させ、反応物(ポリエチレンテレフタレート(PET))を得た。
【0109】
次に、得られた反応物を、冷水にストランド状に吐出し、直ちにカッティングしてポリエステルのペレット<断面:長径約4mm、短径約2mm、長さ:約3mm>を作製した。
【0110】
得られたポリエステルについて、高分解能型高周波誘導結合プラズマ−質量分析(HR-ICP-MS;SIIナノテクノロジー社製AttoM)を用いて以下に示すように測定した結果、Ti=9ppm、Mg=75ppm、P=60ppmであった。Pは当初の添加量に対して僅かに減少しているが、重合過程において揮発したものと推定される。
得られたポリマーは、IV=0.65、末端カルボキシ基の量(AV)=22当量/トン、融点=257℃、溶液ヘイズ=0.3%であった。
【0111】
IV及びAVの測定は、以下の方法により行なった。
IVは、ウベローデ型粘度計を用い、ポリエステルを1,1,2,2−テトラクロルエタン/フェノール(=2/3[質量比])混合溶媒に溶解させ、25℃の溶液粘度から求めた。
AVは、ポリエステルをベンジルアルコール/クロロホルム(=2/3;体積比)の混合溶液に完全溶解させ、指示薬としてフェノールレッドを用い、基準液(0.025N KOH−メタノール混合溶液)で滴定し、その適定量から末端カルボン酸基量(eq/t(当量/トン);=末端COOH量)を算出した。
【0112】
(3)固相重合反応
上記のようにして得たポリエステルのペレットを、バッチ法で固相重合を実施した。すなわち、ポリエステルのペレットを容器に投入した後、真空にして撹拌しながら、150℃で予備結晶化処理し、その後190℃で30時間の固相重合反応を行なった。
【0113】
<未延伸ポリエステルシートの作製>
−シート成形工程−
上記で得られたポリエステル原料樹脂を、含水率100ppm以下に乾燥させた後、直径50mmの1軸混練押出機のホッパーに投入した。ポリエステル原料樹脂1は、300℃に溶融し、下記押出条件により、ギアポンプ、濾過器(孔径20μm)を介し、ダイから押出した。なお、ポリエステルシートの厚さが4mmとなるように、ダイのスリットの寸法を調整した。ポリエステルシートの厚さは、キャストドラムの出口に設置した自動厚み計により測定した。
【0114】
このとき、図1〜図4に示すように構成された装置を用い、溶融樹脂の押出は圧力変動を1%、溶融樹脂の温度分布を2%とする条件にて行なった。具体的には、ポリエステル樹脂を充分に乾燥させた後、融点+(10〜50℃)の温度範囲に制御された押出機によりフィルター及びダイを通じてシート状に溶融押出し、回転するキャスティングドラム12上にキャストし、静電印加法を用いてキャスティングドラムに密着させ、急冷固化することにより、ポリエステルシートを得た。このとき、PET結晶核生成を抑制するため、ダイから吐き出されたメルトに対して下記表1に示す振幅で適度な振動を与えた。また、諸条件を下記の表1に示すように変更して行なった。なお、メルトの振幅は冷却ドラム側面にCCDカメラを設置してメルトの振動する様子を観察し、得られた画像から振幅を求めた。また、溶融樹脂の冷却は、キャスティングドラムの温度を25℃に設定すると共に、キャストドラムに対面して設置されたノズルプレート18(噴霧ノズル)から下記表1に示す温度の水を噴霧し、キャスティングドラム上のシート状のポリエステルのドラム幅方向両端部をローラを押し当てながら、溶融樹脂の表面に対して行なった。
その後、キャスティングドラム12に対向配置された不図示の剥ぎ取りロールによって、キャスティングドラム12から厚さ4mmの未延伸ポリエステルシートを剥離した。
【0115】
(評価)
以下の評価を行ない、評価結果を下記表1に示す。
−1.耐候性ムラ−
未延伸ポリエステルシートを延伸した後のフィルムの破断伸度を以下のフローに沿って評価した。評価は、フィルムを幅方向に10サンプル切り出して行なった。
(1)引張試験機でフィルムが破断するときの伸びを記録した。
(2)120℃、湿度100%で105時間ホールドしてサーモ処理した。
(3)サーモ後のフィルムを引張試験機で破断するまで引っ張り、伸びを記録した。
(4)下記式から破断伸度保持率[%]として評価した。
破断伸度保持率=(サーモ後の破断伸度)/(サーモ前の破断伸度)×100
【0116】
−2.ヘイズ−
幅方向で等間隔に10サンプルを切り出し、ヘイズ計(スガ試験機械株式会社製、HZ−1)にて測定した値[%]を平均して求めた。
【0117】
−3.厚み分布−
接触式卓上型厚み計測装置(TOF−4R、山文電気社製)を用い、シート幅方向全体を測定し、平均の厚みを求めた。得られた値から、(最大厚み−最小厚み)/厚み平均値×100で求められる値[%]を厚みムラとした。
<評価基準>
○:厚みムラは1%未満であった。
△:厚みムラが1%以上3%未満であった。
×:厚みムラは3%以上であった。
【0118】
【表1】



【0119】
実施例では、耐候性のムラが抑えられていた。シートの裏面は冷却ドラムにより、シートの表面は噴霧した水により冷却することができるので、十分な冷却能力を得ることができた。これにより、結晶化を防ぎ、延伸ムラを下げることで耐侯性ムラの少ないフィルムが得られる。また、整流ノズルを噴霧ノズルの周囲に、噴霧ノズルを上下から挟み込むように設置したことで、冷却効率が一定のまま、面状の優れたフイルムを得ることができた。
これに対し、比較例では、耐候性のムラを抑えることができなかった。すなわち、噴霧した水の整流を行わない場合、整流ノズルに水滴が徐々に付着し、ヘイズが徐々に悪化した。さらにこの閉塞により、冷却ムラ(斑点状の冷却ムラ)が大きくなり、面状が悪化した。
【0120】
更に、得られた未延伸ポリエステルシートをそれぞれ、逐次2軸延伸し、得られた2軸延伸ポリエステルフィルムを用いて、下記のようにしてバックシートを作製することができる。
【0121】
<反射層の形成>
−顔料分散物の調製−
下記組成中の成分を混合し、その混合物をダイノミル型分散機により1時間、分散処理を施し、顔料分散物を調製する。
<組成>
・二酸化チタン(体積平均粒子径=0.42μm・・・39.9質量%
(タイペークR−780−2、石原産業(株)製、固形分100質量%)
・ポリビニルアルコール ・・・8.0質量%
(PVA−105、(株)クラレ製、固形分:10質量%)
・界面活性剤 ・・・0.5質量%
(デモールEP、花王(株)製、固形分:25質量%)
・蒸留水 ・・・51.6質量%
【0122】
−反射層用塗布液の調製−
下記組成中の成分を混合し、反射層用塗布液を調製する。
<組成>
・上記の顔料分散物 ・・・80.0部
・ポリアクリル樹脂水分散液 ・・・19.2部
(バインダー:ジュリマーET410、日本純薬(株)製、固形分:30質量%)
・ポリオキシアルキレンアルキルエーテル ・・・3.0部
(ナロアクティーCL95、三洋化成工業(株)製、固形分:1質量%)
・オキサゾリン化合物(架橋剤) ・・・2.0部
(エポクロスWS−700、日本触媒化学工業(株)製、固形分:25質量%)
・蒸留水 ・・・7.8部
【0123】
−反射層の形成−
得られた反射層用塗布液を2軸延伸ポリエステルフィルム上に塗布し、180℃で1分間乾燥させて、着色層として、二酸化チタン量が6.5g/mの白色層(光反射層)を形成する。
【0124】
<易接着性層の形成>
−易接着性層塗布液の調製−
下記組成中の成分を混合し、易接着性層用塗布液を調製する。
<組成>
・ポリオレフィン樹脂水分散液 ・・・5.2部
(バインダー:ケミパールS−75N、三井化学(株)製、固形分:24質量%)
・ポリオキシアルキレンアルキルエーテル ・・・7.8部
(ナロアクティーCL95、三洋化成工業(株)製、固形分:1質量%)
・オキサゾリン化合物(架橋剤) ・・・0.8部
(エポクロスWS−700、日本触媒化学工業(株)製、固形分:25質量%)
・シリカ微粒子水分散物 ・・・2.9部
(アエロジルOX−50、日本アエロジル(株)製、体積平均粒子径=0.15μm、固形分:10質量%)
・蒸留水 ・・・83.3部
【0125】
−易接着性層の形成−
得られた塗布液を前記光反射層の上に、バインダー量が0.09g/mになるように塗布し、180℃で1分間乾燥させて、易接着性層を形成する。
【0126】
<バック層>
−バック層塗布液の調製−
下記組成中の成分を混合し、バック層用塗布液を調製する。
<組成>
・セラネートWSA−1070(バインダー) ・・・323部
(アクリル/シリコーン系バインダー、DIC(株)製、固形分:40質量%)
・オキサゾリン化合物(架橋剤) ・・・52部
(エポクロスWS−700、日本触媒化学工業(株)製、固形分:25質量%)
・ポリオキシアルキレンアルキルエーテル(界面活性剤)・・・32部
(ナロアクティーCL95、三洋化成工業(株)製、固形分:1質量%)
・蒸留水 ・・・594部
【0127】
−バック層の形成−
得られたバック層塗布液を、2軸延伸ポリエステルフィルムの反射層及び易接着層が形成されていない側に、バインダー量がウェット塗布量で3.0g/mになるように塗布し、180℃で1分間乾燥させて、乾燥厚み3μmのバック層を形成する。
以上のようにして、バックシートを作製する。
【0128】
−太陽電池モジュールの作製−
厚さ3mmの強化ガラスと、EVAシート(三井化学ファブロ(株)製のSC50B)と、結晶系太陽電池セルと、EVAシート(三井化学ファブロ(株)製のSC50B)と、上記で得られたバックシートとをこの順に重ね合わせ、真空ラミネータ(日清紡(株)製、真空ラミネート機)を用いてホットプレスすることによりEVAと接着させ、結晶系の太陽電池モジュールを作製する。このとき、バックシートを、その易接着性層がEVAシートと接触するように配置し、接着は以下に示す方法により行なう。
<接着方法>
真空ラミネータを用い、128℃で3分間の真空引きした後、2分間加圧して仮接着する。その後、ドライオーブンにて150℃で30分間、本接着処理を施す。
【0129】
上記で作製した太陽電池モジュールを発電運転させると、太陽電池として良好な発電性能が得られる。
【符号の説明】
【0130】
12・・・キャスティングドラム
13・・・ポリエステルシート
14・・・冷却装置
16・・・筐体
18・・・噴霧ノズル
22・・・排気口(ダクト)
24・・・噴霧ノズル
26・・・整流ノズル
30・・・吸水ロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル樹脂を押出ダイからシート状に溶融押出を行ない、押出されたポリエステル樹脂がキャスティングドラムに到達するまでの間に前記ポリエステル樹脂に振動を与えた後、キャスティングドラムに密着させることで冷却し、前記ポリエステル樹脂をシート状に成形するシート成形工程と、
筐体内に配設され、前記キャスティングドラムの曲面に沿って二次元配置された複数の噴霧ノズルから霧状の水を、前記噴霧ノズルを挟むように配設された少なくとも2つの整流ノズルから前記霧状の水を挟み込むようにエアをあてて整流するとともに前記噴霧ノズルの両端に配設された排気口を通じて水滴を排出しながら、前記キャスティングドラムに密着されたポリエステル樹脂に対して噴霧し、前記ポリエステル樹脂を冷却する噴霧冷却工程と、
を有する未延伸ポリエステルシートの製造方法。
【請求項2】
前記シート成形工程は、シート状の前記ポリエステル樹脂に0.01〜0.5mmの振幅で振動を与える請求項1に記載の未延伸ポリエステルシートの製造方法。
【請求項3】
前記噴霧冷却工程は、前記ポリエステル樹脂を冷却後、前記ポリエステル樹脂をキャスティングドラムから剥離し、前記キャスティングドラムに対向配置された吸水ロールを、前記キャスティングドラムに接触させてドラム上に残存する水を回収する請求項1又は請求項2に記載の未延伸ポリエステルシートの製造方法。
【請求項4】
前記噴霧冷却工程は、噴霧量を100〜1000ml/mとし、噴射される霧状の水の最大粒径を50μm以下とし、水温を15℃〜30℃の範囲として、霧状の水を噴射する請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の未延伸ポリエステルシートの製造方法。
【請求項5】
前記噴霧冷却工程は、シート状の前記ポリエステル樹脂の表面温度が220℃以上であるときに霧状の水の噴射を開始する請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の未延伸ポリエステルシートの製造方法。
【請求項6】
前記噴霧冷却工程は、シート状の前記ポリエステル樹脂の冷却開始点での冷却を、シート幅方向における両端部を押圧しながら行なう請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の未延伸ポリエステルシートの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の未延伸ポリエステルシートの製造方法により作製された未延伸ポリエステルシートを延伸して得られたポリエステルフィルムを有する太陽電池用保護シート。
【請求項8】
太陽光が入射する透明性の基板と、前記基板の一方の側に配された太陽電池素子と、該太陽電池素子の前記基板が配された側と反対側に配された請求項7に記載の太陽電池用保護シートと、を備えた太陽電池モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−201107(P2012−201107A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−71230(P2011−71230)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】