説明

未成熟顆粒球の計測方法

血液サンプル中の未成熟顆粒球の計測方法を記載する。当該方法は、血液サンプルの赤血球を溶解試薬で溶解し、DCインピーダンス計測により上記サンプル混合物を分析し、得られたDCヒストグラムから未成熟顆粒球を測定し、そして上記血液サンプル中の未成熟顆粒球を報告するステップを含む。当該方法は、血液サンプル中の有核赤血球を計測することをさらに含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本発明は、現在特許第6,410,330号として特許されている2001年7月27日に出願された米国特許出願第09/917,533号の継続出願である、現在放棄された2002年6月7日に出願された米国特許出願第10/165,699号の一部継続出願である、現在米国特許第6,673,618号として特許されている2002年8月23日に出願された米国特許出願第10/226,800号の継続出願である、2003年11月6日に出願された米国特許出願第10/702,352号の一部継続出願である。先行出願の全てを、全体として本明細書中に援用する。
【0002】
本発明は、血液サンプル中の未成熟顆粒球の測定方法に関する。より特に、本発明に係る方法は、直流インピーダンス計測を用いて未熟顆粒球を測定する。
【背景技術】
【0003】
末梢血液中の未成熟顆粒球(immature granulocytes(IG))の存在は、高められた骨髄活性化を示す潜在的に重要な情報である。白血病の診断のための芽細胞の自明を重要性に加えて、骨髄成熟の前骨髄球、骨髄球、及び後骨髄球状態は、全身性炎症ストレス又は白血病反応を示しうる。未成熟顆粒球の測定は、肉眼顕微鏡により日常的に行われ、これは、各血液サンプルのスミアの手動検査を要求し、そして労働集約的であり、かつ、時間のかかる仕事である。
【0004】
今日、光学、蛍光、及びインピーダンス計測を利用するいくつかのハイエンド血液分析が、血液サンプルの未成熟顆粒球の自動化測定を提供している。しかしながら、これらの機器及びそれらの検出システムは、高価であり、そして低コストの分析装置のためには好適ではない。それゆえ、未成熟顆粒球の自動化され、かつ、安価な測定、及び手動検査割合の低減の必要性が在る。
【0005】
他方において、末梢血液中の、有核赤血球(NRBCs)、又は赤芽球、未成熟赤血球の1のタイプともいわれるものの存在も、特定の疾患、例えば、貧血、及び白血球等の診断にとって重要な情報である。それゆえ、血液サンプル中の有核赤血球を計測することは臨床上重要である。伝統的には、NRBCの分別及び計数は手動で行われる。このプロセスは、顕微鏡スライド上に血液サンプルをスミアし、そして当該スライドを染色し、その後、個々のスライドを手動で視覚的に分析することを含む。NRBC濃度は、白血球100個当りのNRBCの数として報告される。通常、200個の白血球、及び血液スミア上の同一領域内に存在するNRBCの数がカウントされ、そしてその数は2で割って、NRBC/100WBCの数として、NRBC濃度を表す。このアプローチは、時間がかかり、そして当該スライドを分析する者の解釈に委ねられる。
【0006】
近年、いくつかの蛍光フロー・サイトメトリー法がNRBCsを分別するために開発されてきた。これらの方法は、NRBCsを他の細胞型から区別するため特別な核染色技術を利用する。なぜなら、NRBCsの電気又は光学特性に基づき当該NRBCsを分別することは難しいからである。
【0007】
(Liらに付与された)米国特許第6,410,330号は、有核赤血球の分別方法を開示する。この方法は、溶解試薬で血液サンプルの赤血球を溶解し、非焦点フロー孔(non−focused flow aperture)におけるDCインピーダンス計測により有核血液細胞を計測し、有核赤血球を他の細胞型から分別し、そして上記血液サンプル中の有核赤血球を報告するステップを含む。
【0008】
(Huoらに付与された)米国特許第6,472,215号は、有核赤血球を分別する方法を教示し、当該方法は、血液サンプルの第1アリコートと第2アリコートを、別々に、第1溶解試薬系と第2溶解試薬系を用いて溶解し;DCインピーダンス、放射周波数、及び光散乱計測により、フロー・セルにおいて第1サンプル混合物を計測し;非焦点フロー孔におけるDCインピーダンス計測により第2サンプル混合物中の細胞分布を計測し、そして残存血液細胞をカウントし;上記第1サンプル混合物を計測すること、及び上記第2サンプル混合物を計測することから、それぞれ、得られる血液細胞分布パターンを分析し;そして併合した分析をさらに行って、上記血液サンプル中の他の細胞型からNRBCsを分別し、そしてNRBCsの数を測定する、ことにより行われる。
【0009】
さらに、NRBC含有サンプルに伴う周知の問題は、上記サンプルについて血液分析装置により報告される誤った白血球カウント数(WBC)である。NRBCの核容積は、白血球の核容積に近似し、そしてそれらは、血液細胞のサイズを計測する血液分析装置において白血球として通常カウントされ、これは、WBCの上昇となる。それゆえ、血液分析装置から報告されるWBCに対するNRBC寄与の校正が、NRBCを含有するサンプルについて要求される。臨床実験における最近の実務は、手動カウントにより得られたNRBCの数を、血液分析装置により報告されたWBCカウントから、差引きすることである。これは、時間がかかり、かつ、誤りを導く。
【0010】
以上により、有核赤血球を分別し、かつ、計数するための簡単、かつ、安価な分析方法の必要性が在る。さらに、1の同時テストにおいて有核赤血球の測定とともに未成熟顆粒球の自動測定を提供することが望ましい。
【発明の開示】
【0011】
本発明の要約
1の態様において、本発明は、未成熟顆粒球を計測する方向に関する。本発明に係る方法は、血液サンプルを溶解試薬と混合して、赤血球を溶解し、そして血液サンプル混合物を作り;DCインピーダンス計測により上記血液サンプル混合物を分析し;上記DCインピーダンス計測から上記血液サンプル混合物の血液細胞分布を取得し;得られた血液細胞分布から未成熟顆粒球を測定し;そして上記血液サンプル中の未成熟顆粒球を報告するステップを含む。本明細書中に使用するとき「未成熟顆粒球」とは、骨髄球、前骨髄球、後骨髄球、骨髄芽球、及び前骨髄芽球を含む。
【0012】
さらなる態様において、本発明は、未成熟顆粒球と有核赤血球を同時に計測する方法に関する。上記方法は、血液サンプルを溶解試薬と混合して赤血球を溶解し、そして血液サンプル混合物を作り;上記血液サンプル混合物をDCインピーダンス計測により分析し、そして当該インピーダンス計測から血液細胞分布を取得し;得られた血液細胞分布から有核赤血球と未成熟顆粒球を測定し;そして上記血液サンプル中の有核赤血球と未成熟顆粒球を報告する。上記DCインピーダンス計測は、非焦点フロー孔又は焦点フロー・セルを用いて実行されうる。この非焦点フロー孔は、0.7以上の孔アスペクト比を有する。
【0013】
本発明は、血液サンプルの、未成熟顆粒球を計測し、そして同時に、有核赤血球を計数するためのDCインピーダンス計測を用いた安価な方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の詳細な説明
1の態様において、本発明は、未成熟顆粒球(IG)を計測する方法を提供する。より特に、本発明に係る方法は、直流(DC)インピーダンス計測により血液サンプル中の未成熟顆粒球を計測する。
【0015】
本明細書中に使用するとき、「未成熟顆粒球」とは、骨髄球、前骨髄球、後骨髄球、骨髄芽球、及び前骨髄芽球を含む。
【0016】
1の特別な態様において、本発明に係る方法は、血液サンプルを溶解試薬と混合して、赤血球を溶解し、そして血液サンプル混合物を作り;上記血液サンプル混合物をDCインピーダンス計測により分析し、そして当該血液サンプル混合物の血液細胞分布ヒストグラムを取得し;得られた血液細胞分布から未成熟顆粒球を測定し;そして上記血液サンプル中の未成熟顆粒球を報告するステップを含む。
【0017】
血液サンプルを溶解するためには、当該血液サンプルは、まず血液希釈剤により希釈され、その後、赤血球を溶解するために十分な量の溶解試薬と混合される。本発明のためには、上記血液希釈剤は、上記サンプル混合物のインピーダンス計測のために十分な量の塩(単数又は複数)を含有する。好適な塩の例は、アルカリ金属塩である。
【0018】
赤血球を計測するために血液サンプルを希釈するための血液希釈剤が、自動化血液分析装置上で一般に使用され、ここで、当該血液希釈剤は、血液細胞容積を維持するために塩によって等張に調整される。本発明のためには、商業的に入手可能な血液希釈剤を使用することが便利である。但し、未成熟顆粒球の計測のために、等張性は要求されない。
【0019】
本発明のための血液希釈剤とともに使用されるための好適な溶解試薬組成物は、米国特許第6,410,330号と同第6,573,102号中に記載されている。これらを全体として本明細書中に援用する。あるいは、インピーダンス計測のために十分な量の塩(単数又は複数)をさらに含有する溶解試薬が、別個の血液希釈剤を用いずに血液サンプルを溶解するために使用されうる。好適な塩の例は、アルカリ金属塩、例えば、硫酸塩、塩酸塩、リン酸塩、及びクエン酸塩である。
【0020】
未成熟顆粒球の計測は、非焦点フロー孔、又は焦点フロー・セルにおけるDCインピーダンス計測により実行されうる。粒子、例えば血液細胞が、孔を通過するとき、導電率又はインピーダンスの変化に因り、電気信号が計測されうる。このパルス形状、高、及び幅は、粒子のサイズに直接的に関係し、そして計測された粒子のサイズに変換されうる。異なるサイズの2以上の粒子が計測されるとき、当該計測から得られるヒストグラムは、当該粒子のサイズ分布を表しうる。
【0021】
DCインピーダンス計測装置を具備する血液分析装置による血液細胞計数及びサイジングのために使用される検出方法は、(Coulterに付与された)米国特許第2,656,508号、及び(Coulterらに付与された)同第3,810,011号中に一般に記載される。これらを全体として本明細書中に援用する。
【0022】
実施例1は、DCインピーダンス計測を用いた未成熟顆粒球の例示的計測方法を説明する。図1Aは、実施例1に記載の手順に従って分析された正常血液サンプルのDCヒストグラムを示す。正常血液サンプルについて示されるように、白血球は、2群分布をもち、左手がリンパ球亜集団、そして右手が骨髄球亜集団である。骨髄亜集団の右側には細胞集団はない。
【0023】
図1Bは、実施例1に記載の手順に従って分析された、図1Aに示す同一血液サンプルのVCS散乱図を示す。VCSの項は、それがフロー・セルを通過するときの、直流(DC)と放射周波数(RF)インピーダンス、及び血液細胞の光散乱信号を計測する3次元計測技術を表す。VCS技術の詳細は、米国特許第5,125,737号中に記載されている。これを全体として本明細書中に援用する。正常血液サンプルについて示されるように、白血球は、この2次元、すなわち、DC対RLS散乱図において4つの亜集団に分別される。好中球上の領域に細胞集団はない。RLSは、中央角光散乱信号とDCインピーダンス信号の関数として定義される、用語「回転された光散乱(rotated light scatter)」の略号である。
【0024】
図2Aは、実施例1に記載の手順に従って分析された未成熟顆粒球を含有する臨床サンプルのDCヒストグラムを示す。手動参照分析は、後骨髄球、骨髄球、及び前骨髄球を含む約25%の未成熟顆粒球を報告した。図示されるように、骨髄亜集団の右側にかなりの量の細胞が存在する。
【0025】
図2Bは、実施例1に記載の手順に従って分析された、図2Aに示す同一の臨床血液サンプルのVCS散乱図を示す。図示するように、好中球の上の領域内にかなりの量の細胞が存在する。これは、未成熟顆粒球がVCS散乱図において典型的に現われる領域であり、そしてVCS技術を用いて未成熟顆粒球の存在を検出するために使用されてきた領域である。
【0026】
実施例2は、上記のDCインピーダンス計測を用いる未成熟顆粒球の同定を説明する。実施例2において説明するように、第1の試験血液サンプルは、インビトロにおいてセルラインにより生産された所定量の前骨髄球を、図1Aと1Bに示す正常全血サンプルに添加することにより調製された。図3Aは、実施例1に記載の手順に従って分析された、第1試験血液サンプルのDCヒストグラムを示す。図示するように、図2Aに示すのと同様に、骨髄亜集団の右側にかなりの量の細胞が存在する。図3Bは、図3Aに示す第1試験血液サンプルのVCS散乱図を示す。前骨髄球が、単球と好中球の上に存在することは明らかである。未成熟顆粒球の同定のためには、全血サンプル中に異常に多量の前骨髄球が添加されていたことに留意すべきである。この添加は、上記ヒストグラムと散乱図において増加された量の上記サンプルの破壊物を生じさせ、そして好中球の安全性に対する影響を及ぼした。
【0027】
第2の試験血液サンプルは、インビトロにおいてセルラインにより生産された所定量の前骨髄芽球を、図1Aと1Bに示す正常全血サンプルに添加することにより調製された。図4Aは、実施例1に記載の手順に従って分析された、第2の試験血液サンプルのDCヒストグラムを示す。図示するように、骨髄亜集団の右側にかなりの量の細胞が存在する。図4Bは、図4Aに示す第2試験血液サンプルのVCS散乱図を示す。前骨髄芽球が単球の上に存在することは明らかである。
【0028】
上記2つの試験サンプルは、未熟顆粒球として図2A中に示す臨床サンプルの細胞を陽性に同定したDCヒストグラム上の2つの未成熟顆粒球の分布特性をはっきりと示し、そしてこれは、手動参照報告と矛盾するものではなかった。
【0029】
さらなる態様においては、本発明は、未成熟顆粒球と有核赤血球を同時に計測する方法を提供する。当該サンプル混合物のサンプル調製、試薬、及びDC計測は、先に記載した。有核赤血球の存在下、得られた血液細胞分布ヒストグラムは、血液サンプル中の未成熟顆粒球と有核赤血球の両者を測定するために使用されうる。
【0030】
DCインピーダンス計測を用いた有核赤血球の計測方法は米国特許第6,410,330号中に記載されている。これを、全体として本明細書中に援用する。より特に、孔の長さ対孔の幅の比として定義される孔アスペクト比は、異なるサイズの血液細胞の分離に影響を及ぼすことが分っており、これは特に、有核赤血球をリンパ球から分離する状況の如き、比較的狭い分布をもつ細胞集団にとってそうである。本発明の方法を用いれば、NRBC集団を他の細胞型から分離することは、0.7以上の孔アスペクト比を用いることにより達成されうる。
【0031】
孔アスペクト比は、当該孔を通過する流れの流動特性に影響を及ぼし、これは次に、当該流れの粒子の軌道に影響を及ぼすということが理解されている。一般に、固定した孔幅を用いる場合、流れの中心における流れ速度は、孔の長さの増加とともに、上昇する。それゆえ、孔のアスペクト比が増加すれば、流れの中心に向かって孔の壁と相互作用する当該流れの両側からの流速勾配が、増加する。このような流速勾配の存在下では、孔を通過する流れの中に懸濁された粒子は、流れの中心に移動する。それゆえ、このような条件下では、粒子は、焦点化されたフロー孔を通過する粒子と類似の挙動を呈する。焦点化フロー孔は、有核血液細胞を計測するために、特に、類似のサイズをもつ血液細胞を分別するために、本発明において使用されうる。しかしながら、焦点化フロー孔の費用は、非焦点化フロー孔よりもかなり高い。
【0032】
他方において、孔の断面において、課された電場が断面に沿って異なる強度をもつことが知られている。したがって、非焦点化フロー孔を通過する粒子は、さまざまなパルス形状を生成することができる。なぜなら、各粒子は、孔の断面に沿ったその位置に依存して異なる電場を経験することができるからである。これらのパルス歪みは、計測されたヒストグラムにおける粒子サイズ分布の歪みを引き起こす。歴史的には、パルス編集は、著しく歪められたパルスを編集し、そしてある程度まで粒子サイズ分布を改善するために、本分野において広く使用されてきた。孔アスペクト比が増加すると、中心から孔の側壁まで、断面に沿う電場勾配が低下すると理解される。したがって、孔の中心を通過しない粒子から生成する電気パルスは、断面に沿ったより均質な電場の存在により、より低下した歪みをもつ。
【0033】
それゆえ、孔アスペクト比の増加により、2つの効果、すなわち、非焦点フロー孔における粒子軌道の制御と孔の断面に沿った電場勾配の低下が、異なるサイズの粒子の分別能力を改善する。
【0034】
0.7以上の孔アスペクト比を用いた非焦点フロー孔を用いると、NRBC集団は、近似するサイズの他の有核血液細胞、特にリンパ球から区別されうることが発見された。特に、1.0以上の孔アスペクト比が使用される。より特に、孔アスペクト比約1.2が使用される。
【0035】
孔アスペクト比をさらに増加させるために、他の細胞型からのNRBCの分離は、さらに改良されうる。しかしながら、孔アスペクト比が、1.5以上であるときには、計測の間の孔を通過するサンプル混合物の処理量がかなり低下し、そしてそれは、当該装置を、血液装置の処理要求に対して不適合なものにする。それゆえ、集団分離と実際上の理由のための計測処理量との間のバランスに基づき、孔アスペクト比約1.2が選択されると理解すべきである。理論的には、1.2を超える孔アスペクト比が、NRBCsを他の細胞型から分離するために使用されうる。
【0036】
図5Aは、実施例3に記載するような、実施例1に記載する手順を用いて分析した10% NRBCsと10%未成熟顆粒球を含有する臨血液サンプルのDCヒストグラムを示す。図示するように、当該ヒストグラムの最も左にNRBC集団が存在し、そして未成熟顆粒球は、骨髄集団の右側に延びている。これら2つのタイプの未成熟細胞は、ひじょうに異なる分布特性をもつことに留意すべきである。NRBCsは狭いピークで表れるが、一方、未成熟顆粒球は、当該ヒストグラムの大きな領域内に広がり、これゆえ、平たい外観をもっていた。図5Bは、図5Aに示す同一臨床血液サンプルのVCS散乱図を示す。図から分かるように、当該散乱図の上部に沿って少量の大きな細胞が出現し、これは、図5Aに示すDCヒストグラム上の細胞分布パターンと矛盾しないものであった。
【0037】
以下の実施例は、本発明を説明するものであり、請求の範囲に規定する本発明の範囲を何ら制限するものではないと理解すべきである。さまざまな他の成分及び割合が、開示の手順に従って使用されうると理解すべきである。
【実施例】
【0038】
実施例1
全血サンプルを、実験血液分析装置により吸引させた。28μlの第1アリコートを、6mlのCoulter(登録商標)LH Series Diluent(Beckman Coulter,Inc.,Miami,Florida)で希釈し、その後、1mlの第1溶解試薬組成物と混合して、WBC浴内で赤血球を溶解した。この第1溶解試薬は、25.0g/Lのテトラデシルトリメチルアンモニウム・ブロミド、15.0g/LのIgepal SS・837(Rhone・Poulencからのエトキシル化フェノール)、4.0g/LのPlurofac A38 prill界面活性剤(BASF Corp.からのもの)を含有し、そして6.2のpHを有していた。上記実験血液分析装置は、改良LH750(Beckman Coulter,Inc.,Miami,Floridaの製品)であり、これは、上記の調製されたサンプル混合物の計測のために、100μの長さ及び80μの幅の非焦点孔を具備していた。サンプル混合物を、一定真空により(平行して配置された)3つの孔のセットを通して吸引した。有核血液細胞を、DCインピーダンス計測によりカウントし、そして上記血液細胞のヒストグラムを、同様に、パルス編集後に、作製した(3つの孔の計測値から平均した)。図1Aは、得られたDCヒストグラムを示す。正常血液サンプルについて示されるように、白血球は、2群の(bi−module)分布をもち、左にリンパ球亜集団が、そして右に骨髄球亜集団があった。骨髄亜集団の右側に細胞集団は存在しなかった。
【0039】
全血サンプルの31μlの第2アリコートを、混合チャンバー内で第2溶解試薬と混合して、赤血球を溶解し、そしてその後、一定容積のStabiLyseTM(Beckman Coulter,Inc.,Miami,Floridaの製品)と混合して、上記第2サンプル混合物中のさらなる溶解反応を遅らせた。この第2サンプル混合物を、シース液、Coulter(登録商標)LH Series Diluentで、焦点フロー・セルにデリバリーした。この第2溶解試薬は、27モルの酸化エチレンでエトキシル化されたステアリル・アミン20g/L、1.6mlのギ酸、及び14g/Lの可溶化剤を含有していた。上記第2溶解試薬及び白血球の分別のための使用は、米国特許第5,843,608号に記載されている。これを、全体として本明細書中に援用する。
【0040】
第2のサンプル混合物を、DC計測手段、放射周波数インピーダンス(radio frequency impedance(RF))計測手段、及び光散乱計測(LS)手段を含む検出器により、焦点フロー・セル内で計測した。この光散乱計測手段は、約10°〜70°の平均角光散乱シグナルを検出する。3次元散乱図は、上記3つの計測されたパラメーター、そしてこれらのパラメーターの関数を用いて得られる。これを本明細書中、VCS散乱図という。図1Bは、得られたサンプルの第2アリコートの得られたVSC散乱図を示す。正常血液サンプルについて見られるように、白血球は、この2次元(DC対RLS散乱図において)4つの亜集団、すなわち、単球(MO)、リンパ球(LY)、好中球(NE)、及び好酸球(EO)に分別される。好中球の上の領域には細胞集団は存在しなかった。
【0041】
図2Aは、上記手順に従って分析された未成熟顆粒球を含有する臨床サンプルのDCヒストグラムを示す。手動参照は、後骨髄球、骨髄球、及び前骨髄球を含む、未成熟顆粒球(IG)約24%を報告した。図から分かるように、骨髄亜集団の右側にはかなりの量の細胞が存在した。図2Bは、上記の手順に従って分析された、図2Aに示す同一臨床血液サンプルのVCS散乱図を示す。図から分かるように、好中球の上の領域内にかなりの量の細胞が存在した。
【0042】
実施例2
実施例1に記載した方法及び検出条件下で未成熟顆粒球の分布特性を同定するために、2つのタイプの未成熟顆粒球を、セルラインによりインビトロにおいて増殖させた。
【0043】
未成熟顆粒球の第1のタイプは、HL−60前骨髄球セルライン(ATCC証明セルラインCCL−240,HL−60)により増殖したヒト前骨髄球である。未成熟顆粒球の第2のタイプは、KG−1セルライン(ATCC証明セルラインCCL−246.1 KG−La)により増殖したヒト骨髄芽球である。使用した細胞培養条件は、細胞培養のために知られた一般的な手順である。より特に、使用した培養基は、10%胎児ウシ血清、1%L−グルタミン、及び1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含む、RPML 1640(Roswell Park Memorial Institute,Buffalo,New Youkの製品)である。RPMI 1640培養基50mlと上記特定の細胞型50mlを一緒に添加し、そして5%CO2下37℃で24時間維持した。増殖の間の細胞濃度を、Vi−CELLTMアナライザー(Beckman Coulter,Inc.,Fullerton,Californiaの製品)上での計数により測定した。
【0044】
第1の試験血液サンプルを、上記の前骨髄球の25×106細胞を、図1Aと1Bに示す正常全血サンプル2000μLに添加することにより調製した。調製された試験サンプルは、100白血球当り約304個の前骨髄球を含有していた。このレベルの未成熟細胞は、臨床環境において通常見られる未成熟顆粒球のレベルを超えるものである。同定のために、上記の高濃度を使用した。調製された試験サンプルを、実施例1に記載した手順に従って分析した。図3Aは、調製された試験サンプルの第1のアリコートの得られたDCヒストグラムであり、これは骨髄球集団の右側に前骨髄球を示し、そしてこれは、臨床全血サンプルの未成熟顆粒球の分布パターンと矛盾しない。図3Bは、調製された試験サンプルの第2のアリコートからのVCS散乱図を示し、これは、単球と顆粒球の上に前骨髄球を示している。
【0045】
第2の試験血液サンプルを、上記の前骨髄芽球の25×106細胞を、図1Aと1Bに示す正常全血サンプル2000μLに添加することにより調製した。この調製された試験サンプルは、100白血球当り約304個前骨髄芽球を含有していた。再び、同定のために、上記高濃度を使用した。第2の調製された試験サンプルを、実施例1に記載した手順に従って分析した。図3Aは、第2の調製された試験サンプルの第1アリコートの得られたDCヒストグラムであり、これは、骨髄球集団の右側に前骨髄芽球を示し、そしてこれは、臨床全血サンプルの未成熟顆粒球の分布パターンと矛盾しないものであった。図3Bは、第2の調製された試験サンプルの第2のアリコートからのVCS散乱図であり、これは、単球の上の前骨髄芽球を示すものであった。
【0046】
実施例3
未成熟顆粒球と有核赤血球の両者を含有する臨床サンプルを、実施例1に記載する手順に従って分析した。手動参照は、約10%のNRBCと約10%の未成熟顆粒球であって後骨髄球、骨髄球、及び前骨髄球を含むものを報告した。図5Aは、臨床サンプルの第1アリコートの得られたDCヒストグラムであり、これはNRBC集団と未成熟顆粒球の両者を示す。図5Bは、同一臨床血液サンプルの第2アリコートからのVCS散乱図を示し、これは、第1のアリコート血液からのDCヒストグラムの細胞集団分布に直接的に相関する同一臨床血液サンプルの第2アリコートからのVCS散乱図を示す。
【0047】
NRBC集団は、白血球から分別され、そしてNRBCsと白血球(×100)の間の比は、NRBC/100WBCの数として報告された。あるいは、NRBCは、白血球の合計カウント数を取り込むことにより、血液サンプル中の絶対カウント数として報告されることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】Fig.1Aは、実施例1に記載の手順に従って分析した正常血液サンプルのDCヒストグラムを示し、そしてFig.1Bは、実施例1に記載の手順に従って分析されたFig.1Aに示すものと同一の血液サンプルのVCS散乱図を示す。
【図2】Fig.2Aは、実施例1に記載の手順に従って分析した未成熟顆粒球を含む臨床サンプルのDCヒストグラムを示し、そしてFig.2Bは、実施例1に記載の手順に従って分析されたFig.2Aに示すものと同一の血液サンプルのVCS散乱図を示す。
【図3】Fig.3Aと3Bは、実施例2に記載する、インビトロにおけるセルラインにより生産された前骨髄球の添加による、正常サンプルの、それぞれ、DCヒストグラムとVCS散乱図を示す。
【図4】Fig.4Aと4Bは、実施例2に記載する、インビトロにおけるセルラインにより生産された前骨髄球の添加による正常サンプルの、それぞれ、DCヒストグラムとVCS散乱図を示す。
【図5】Fig.5Aと5Bは、実施例3に記載する、未成熟顆粒球と有核赤血球を含む臨床血液サンプルの、それぞれ、DCヒストグラムとVCS散乱図を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
未成熟顆粒球の計測方法であって、以下のステップ:
(a)血液サンプルを溶解試薬と混合して、赤血球を溶解し、そして、血液サンプル混合物を作り;
(b)上記血液サンプル混合物をDCインピーダンス計測により分析し、そして当該DCインピーダンス計測から上記血液サンプル混合物の血液細胞分布を取得し;
(c)ステップ(b)において取得した上記血液細胞分布から未成熟顆粒球を測定し;そして
(d)上記血液サンプルから未成熟顆粒球を報告する、
を含む前記方法。
【請求項2】
前記未成熟顆粒球が、骨髄球、前骨髄球、後骨髄球、骨髄芽球、及び前骨髄芽球を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記DCインピーダンス計測による前記血液サンプル混合物の分析が、非焦点フロー孔(non−focused flow aperture)を用いて実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記DCインピーダンス計測による前記血液サンプル混合物の計測は、焦点フロー・セル(focused flow cell)を用いて実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記血液サンプルと溶解試薬との混合が、前記血液サンプルを血液希釈剤で希釈して、希釈血液サンプルを作り、そして当該希釈血液サンプルを前記溶解試薬と混合することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記血液サンプルと溶解試薬との混合は、前記血液サンプルを、塩を含有する溶解試薬と混合して、当該血液サンプルの希釈と溶解を同時に実行する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
未成熟顆粒球と有核赤血球の同時計測方法であって、以下のステップ:
(a)血液サンプルを溶解試薬と混合して、赤血球を溶解し、そして血液サンプル混合物を作り;
(b)上記血液サンプル混合物をDCインピーダンス計測により分析し、そして当該DCインピーダンス計測から血液細胞分布を取得し;
(c)ステップ(b)において取得した上記血液細胞分布から有核赤血球細胞と未成熟顆粒球を測定し;そして
(d)上記血液サンプル中の有核赤血球細胞と未成熟顆粒球を報告する、
を含む前記方法。
【請求項8】
前記血液サンプル混合物の分析が、非焦点フロー孔(non−focused flow aperture)を用いて実行される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記非焦点フロー孔が、0.7以上の長さ対幅の孔アスペクト比を有する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記非焦点フロー孔が、1.0以上の長さ対幅の孔アスペクト比を有する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記未成熟顆粒球が、骨髄球、前骨髄球、後骨髄球、骨髄芽球、及び前骨髄芽球を含む、請求項7に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2007−520708(P2007−520708A)
【公表日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−551114(P2006−551114)
【出願日】平成17年1月7日(2005.1.7)
【国際出願番号】PCT/US2005/000411
【国際公開番号】WO2005/075977
【国際公開日】平成17年8月18日(2005.8.18)
【出願人】(505275295)ベックマン コールター,インコーポレイティド (25)
【Fターム(参考)】