説明

末梢性の動脈疾患のためのバイオマーカーとしてのβ−2ミクログロブリン

本発明は、被験体における末梢性の動脈疾患(PAD)を認定するための、または評価するためのバイオマーカーとしてのβ2−ミクログロブリンを提供するものである。早期に診断された場合、PADは、疾患の進行を遅くする処置を受ける可能性がある。また、アテローム硬化をともなう患者において心臓発作および卒中を予防することが知られている薬剤が、PAD患者においては十分に利用されていない。患者がPADを有し得る可能性を警告するスクリーニング検査の必要性が存在する。PADのための血液検査は、日常の臨床上の設定において実行され得ることから有益である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連する出願への相互参照)
本願は、2006年3月11日に出願された米国仮特許出願第60/781,403号および2006年11月1日に出願された米国仮特許出願第60/863,951号に対する優先権を主張するものであって、それらの出願の開示は、本明細書においてその全体が参考として援用される。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、全般的に臨床的診断に関するものである。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
アテローム硬化は、脈管の内皮細胞の管腔壁への脂質フィブリンプラークの蓄積である。アテローム硬化型プラークの存在は、標的器官への脈管の流れをひどく減少させ得、病的状態および死を引き起こす。アテローム硬化型プラークは、冠状動脈において(狭心症および心臓発作をおこし得る冠状動脈疾患「CAD」)、頸動脈において(卒中を引き起こし得る頸動脈疾患)、および四肢の動脈(通常は脚の動脈に影響し、末梢性の動脈疾患「PAD」としても知られる)において、生じ得る。個人は、一つ以上のこれらの領域に狭窄を有し得る。米国では、おおよそ1500万人のCAD、800万人のPAD、そして約500万人の頸動脈疾患の人が存在する。頸動脈疾患および冠状動脈疾患は、通常は内科医により見分けられるが、PADの診断は通常、見のがされる。
【0004】
パートナー試験(PARTNER trial)は、日常の訪問のために最初の開業医を訪問する、55歳を超える年齢の喫煙者または糖尿病患者、または70歳を超える任意の個人における、PADの罹患率を調べる最近のスクリーニング研究であった(非特許文献1)。スクリーニングされた7000人を超える患者において、足首の圧力測定により検出した場合、25%を超える患者がPADを有することが見出された。残念ながら、これらの患者の1/3だけが、先に診断されていた。大多数は、PADを有することが彼等の医師により認識されていなかった。PADは、多くの患者が典型的な総合的症状を表さないことから、一般に診断されず、そして一部でしか処置されない。静養により軽減される労作性の脚の痛みは、患者の10〜30%と示されているだけである(Hirschら、上記)。結果として、アテローム硬化の適切な処置は、これらの患者の多くにおいては、開始されていない。
【0005】
PAD患者が診断されておらず、そして処置されていないため、PAD患者には心血管性死の高いリスクがある。未処置PADは、可動性の減少、潰瘍、壊疽を引き起こし得、そして最終的には、影響された手足の切断を必要とし得る。PADをともなう患者は、心筋梗塞、脳血管性の発作、大動脈瘤破裂、および脈管性の死の増大したリスクを持つ(非特許文献2;非特許文献3)。
【0006】
PADのための有用なスクリーニング検査は、足首関節指数(「ABI」)である。ABIは、腕および足首で血圧が計られることを必要とする。上腕での心臓収縮圧に対する下肢での心臓収縮圧の割合を計算する。ほとんどの健康な人では、その割合は、1に近く(すなわち、0.90以上)、一方、PADが診断される患者は、0.9より小さい割合を有する。一般的に、その割合がより低いと、その疾患は、より重症である。足首での圧力を評価するため、特別な装置、すなわちドップラー超音波プローブの使用を必要とする。成人の脚の血管は、腕の血管よりも固くなる傾向があり、そして血圧測定用カフの収縮の間のコロトコフ音を生じないため、簡単な聴診器は十分でない。残念ながら、ドップラー超音波装置は、特別のトレーニングを必要とし、そして最初の開業医のオフィスでは用いられない。したがって、PADは、通常は診断されない。さらに、30%を超えるPADを有する患者を構成する、糖尿病の患者では、脈管の乏しい圧縮性が、ABI検査に偽陰性を生じさせ得る。
【0007】
早期に診断された場合、PADは、疾患の進行を遅くする処置を受ける可能性がある。また、アテローム硬化をともなう患者において心臓発作および卒中を予防することが知られている薬剤(例えば、抗血小板剤、スタチン(statin)、アンギオテンシン変換酵素阻害剤)が、PAD患者においては十分に利用されていない。したがって、臨床医に彼等の患者がPADを有し得る可能性を警告するスクリーニング検査の必要性が存在する。特に、PADのための血液検査は、日常の臨床上の設定において実行され得ることから有益である。
【非特許文献1】Hirsch ATら、「Peripheral arterial disease detection,awareness,and treatment in primary care」JAMA,286:1317−24(2001)
【非特許文献2】Criqui MHら、「The epidemiology of peripheral arterial disease:importance of identifying the population at risk」Vasc Med.,2:221−6(1997)
【非特許文献3】Meijer WTら、「Peripheral arterial disease in the elderly:The Rotterdam Study」Arterioscler Thromb Vasc Biol.,18:185−92(1998)
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
(発明の要旨)
一つの実施形態において、本発明は、被験体由来の生物学的サンプル中のβ2−ミクログロブリンを測定する行程を含む、被験体において末梢性の動脈疾患のリスクを認定するか、または評価するための方法を提供する。関連する実施形態において、(a)被験体由来の生物学的サンプル中のβ2−ミクログロブリンを測定し、そして(b)該測定または末梢性の動脈疾患での測定が非末梢性動脈疾患に対して相互に関連づけられる。別の関連する実施形態において、該サンプルは、血液サンプルまたは血液誘導体サンプルである。さらに、別の関連する実施形態において、β2−ミクログロブリンに加えて、サンプル中の一つ以上のバイオマーカーのレベルが測定される。別の関連する実施形態において、さらなる測定されるバイオマーカーは、シスタチンCまたはリゾチームまたは両方である。別の関連する実施形態において、β2−ミクログロブリン、シスタチンCまたはリゾチームの測定は、イムノアッセイにより達成される。
【0009】
被験体において末梢性の動脈疾患を認定するための方法の別の実施形態において、シスタチンCまたはリゾチームまたは両方が被験体由来の生物学的サンプル中で測定され、そして該測定が、末梢性の動脈疾患の状態と関連づけられる。
【0010】
被験体において末梢性の動脈疾患の状態を認定するための方法の別の実施形態において、サンプル中のβ2−ミクログロブリンが、質量分析法により測定される。さらに別の関連する実施形態において、該質量分析法はSELDI−MSである。
【0011】
被験体において末梢性の動脈疾患の状態を認定するための方法の別の実施形態において、被験体由来のサンプル中のβ2−ミクログロブリンは、質量分析法以外の方法、例えばイムノアッセイ、により測定される。
【0012】
被験体において、末梢性の動脈疾患のリスクを認定するか、または評価するための方法の別の実施形態において、該方法は、分類アルゴリズムのソフトウェアを実行することにより、被験体中のβ2−ミクログロブリンの測定されたレベルを関連づけることを含む。別の実施形態において、末梢性の動脈疾患の状態を認定するための方法はさらに、該状態を被験体に知らせる行程を含む。別の実施形態において、該方法はさらに、有形の媒体上に該状態を記録することを含む。さらに別の実施形態において、該方法はさらに、被験体の末梢性の動脈疾患の状態に基づいて、被験体の処置を管理することを含む。さらに別の実施形態において、該方法はさらに、被験体の管理後の少なくとも一つのバイオマーカーの測定、および該測定と疾患の進行を関連づけることを含む。
【0013】
別の実施形態において、本発明は、(a)第一に被験体由来の生物学的サンプル中のβ2−ミクログロブリンを測定し;(b)第二に被験体由来の生物学的サンプル中のβ2−ミクログロブリンを測定し;そして(c)第一の測定および第二の測定を比較し、ここで比較に基づいた測定が、末梢性の動脈疾患のための処置の有効性を決定する行程を含む、末梢性の動脈疾患の経過を決定するための方法を提供する。
【0014】
別の実施形態において、本発明は、(a)取り付けられた少なくとも一つの捕捉剤を含む固体支持体であって、ここで該捕捉剤がβ2−ミクログロブリンを結合する支持体、そして(b)β2−ミクログロブリンを検出するために該固体支持体を使用するための取扱い説明書、を含むキットを提供する。関連する実施形態において、該固体支持体が含む捕捉剤は、SELDIプローブである。別の関連する実施形態において、該キットはさらに、β2−ミクログロブリンの標準対照を含む。
【0015】
別の実施形態形態において、本発明は、(a)サンプルに帰するデータにアクセスするコードであって、該データがサンプルにおける少なくとも一つのバイオマーカーの測定値を含み、ここで少なくとも一つのバイオマーカーがβ2−ミクログロブリンであるコード、および(b)該サンプルの末梢性の動脈疾患の状態を、該測定値の関数として分類する分類アルゴリズムを実行するコード、を含むソフトウェア製品を提供する。
【0016】
本発明の別の実施形態は、被験体由来のサンプルにおける少なくとも一つのバイオマーカーの相関から決定される末梢性の動脈疾患の状態に関する診断を被験体に伝える工程であって、ここで少なくとも一つのバイオマーカーがβ2−ミクログロブリンである工程、を含む方法を提供する。関連する実施形態において、β2−ミクログロブリンの測定値はイムノアッセイにより得られる。別の関連する実施形態において、診断がコンピュータにより生成される媒体を介して被験体に伝えられる、方法である。
【0017】
さらに別の実施形態において、本発明は、被験体における末梢性の動脈疾患の状態を認定するための方法であって、(a)被験体由来の生物学的サンプル中の少なくとも一つのバイオマーカーを測定し、ここで該少なくとも一つのバイオマーカーが、β2−ミクログロブリン、リゾチーム、およびシスタチンCからなる群より選択される工程、および(b)該被験体の、以下に示す基準、すなわちC反応タンパク質レベル、総コレステロールレベル、トリグリセリドレベル、低密度脂質タンパク質レベル、高密度脂質タンパク質レベル、血糖、血圧、ホモシステインレベル、足首関節指数、インターロイキンレベル、フィブリノーゲンレベル、脂質タンパク質(a)レベル、8−イソ−プロスタグランジンF2α(8−イソ−PGF2α)、および可溶性Fasレベル、の一つ以上をさらに測定する工程、ならびに(c)末梢性の動脈疾患での該測定値(a)および(b)を、非末梢性の動脈疾患に対して関連づける工程、を含む方法を提供する。特定の実施形態において、該関連づける工程は、一つ以上の先述の値をアルゴリズム中に入れることを含み、その後、そのアルゴリズムは、末梢性の動脈疾患を有する個体のリスクを予想することができる。別の関連する実施形態において、β2−ミクログロブリン、シスタチンC、またはリゾチームの測定値は、イムノアッセイにより得られる。
【0018】
別の実施形態において、本発明は、末梢性の動脈疾患を処置するための治療上のレジメンへの被験体の応答を予想するための方法であって、(a)第一に被験体由来の生物学的サンプル中の少なくとも一つのバイオマーカーを測定し、ここで該少なくとも一つのバイオマーカーがβ2−ミクログロブリン、リゾチーム、およびシスタチンCからなる群より選択される工程、そして(b)該第一の測定工程後、末梢性の動脈疾患を処置するための治療上のレジメンにおいて最初の処置を施す工程、そして(c)該処置後、該少なくとも一つのバイオマーカーの2回目の測定を行う工程、そして(d)該第一の測定と第ニの測定値を比較する工程であって、ここで該少なくとも一つのバイオマーカーのレベルの減少が、該治療上のレジメンへの被験体の応答の可能性の増加と相関する工程、を含む方法を提供する。関連する実施形態において、β2−ミクログロブリン、シスタチンC、またはリゾチームの測定値は、イムノアッセイにより得られる。
【0019】
本発明はさらに、β2−ミクログロブリンと相互作用する化合物を同定するための方法を提供し、ここで該方法は、(a)β2−ミクログロブリンを試験化合物と接触させる工程、そして(b)該試験化合物がβ2−ミクログロブリンと相互作用するか否か決定する工程、を含む。
【0020】
他の好ましい実施形態が、本明細書中の他の場所および請求項に記載される。本発明の、さらなる特徴、目的、および利点、ならびに本発明の好ましい実施形態が、以下に続く詳細な説明、実施例および請求項より明白になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
(発明の詳細な説明)
1. 導入
バイオマーカーは、有機体の生体分子であって、別の表現型状態(例えば、疾患を有しない)と比較したとき、一つの表現型状態(例えば、疾患を有する)の被験体から得たサンプル中に特異的に存在する。バイオマーカーは、異なる群におけるバイオマーカーの平均発現レベルまたは中央発現レベルが、統計的に有意であると計算されるならば、異なる表現型状態間で差示的に存在する。統計的な有意性に関する一般的な試験としては、中でも、t検定、ANOVA、クラスカル・ワリス、ウィルコクソン、マン−ホイットニー、およびオッズ比が挙げられる。単独または組み合わせにおいて、バイオマーカーは、一つの表現型状態または別のものに被験体が属す相対的リスクの測定値を提供する。したがって、バイオマーカーは、疾患(診断)のためのマーカー、薬物の治療上の有効性(theranostics)のためのマーカー、および薬物の毒性のマーカーとして有用である。
【0022】
本発明のバイオマーカーは、一部において、SELDIを用いて発見された。それゆえに、本発明のバイオマーカーは、一部において、それらの質量電荷比、質量スペクトルにおけるピークの形、およびそれらの結合特性により特徴付けられる。これらの特徴は、該生体分子の固有の特徴を示し、そして該生体分子が識別される様式におけるプロセスの制限を示すものではない。
【0023】
本発明のバイオマーカーは、一部において、それらの質量電荷比により特徴付けられる。各バイオマーカーの質量電荷比が、本明細書において提供される。例えば、「M11.7K」として示される特定の分子マーカーは、11.7KDの測定された質量電荷比を有する。質量電荷比は、Ciphergen Biosystems,Inc.のPBSII質量分析計またはCiphergen PCS4000質量分析計で生成される質量スペクトルから決定された。PBSIIは、約+/−0.15%の質量精度を有する装置である。加えて、該装置は、約400〜1000m/dmの質量解像度を有し、ここでmは質量、dmはピークの高さ0.5での質量スペクトルの幅である。該PCS4000装置は、外部測定質量精度0.1%および内部測定質量精度0.01%で予測された約+/−0.12%の生データの質量精度を有する。さらに、該装置は、約1000〜2000m/dmの質量解像度を有し、ここでmは質量、dmはピークの高さ0.5での質量スペクトルピークの幅である。バイオマーカーの質量電荷比は、Biomarker Wizardtm software (Ciphergen Biosystems,Inc)を用いて決定された。Biomarker Wizardは、PBSIIまたはPCS4000により決定した場合、全ての分析したスペクトルからの同一のピークの質量電荷比をクラスタリングし、該クラスターにおける最大および最小の質量電荷比を取り、2で割ることにより、バイオマーカーに質量電荷比を与える。それゆえに、提供された質量は、これらの仕様を反映する。
【0024】
本発明のバイオマーカーは、飛行時間型質量分析法における、そのスペクトルピークの形により、さらに特徴付けられ得る。
【0025】
本発明のバイオマーカーはまた、吸着体表面への、その結合特性により特徴付けられる。該バイオマーカーの結合特性がまた、本明細書中に記載される。
【0026】
2. 末梢性の動脈疾患のためのバイオマーカー
2.1 β2−ミクログロブリン
出願人らは、β2−ミクログロブリンが、末梢性の動脈疾患のためのバイオマーカーとして有用であることを発見した。β2−ミクログロブリンの質量は、国際公開第2005/121758A1号パンフレット(Fungら)に記載された末梢性の動脈疾患のための11.7K Daltonのバイオマーカーに対応する。β2−ミクログロブリンは、119アミノ酸の前駆体から得られる99アミノ酸のタンパク質である(GI:179318;SwissProt アクセッション番号P61769)。β2−ミクログロブリンは、例えば、Abcam(カタログAB759)(www.abcam.com,Cambridge,MA)から入手できる抗体により認識される。β2−ミクログロブリンバイオマーカーの詳細は、表1、票2、および図3に示される。表1で参照される画分は、実施例1において記載されるQHyper DFカラムから該バイオマーカーが溶出する画分である。
【0027】
【表1】

3. バイオマーカーおよびタンパク質の異なる形態
サンプル中のタンパク質は、しばしば複数の異なる形態で存在する。これらの形態は、翻訳前修飾および翻訳後修飾のどちらか、または両方に起因し得る。翻訳前修飾形態としては、対立遺伝子改変体、スプライスバリアント、およびRNA編集形態(RNA editing form)が挙げられる。翻訳後修飾形態としては、タンパク質分解切断(例えば、親タンパク質のフラグメント)、グリコシル化、リン酸化、脂質化(lipidation)、酸化、メチル化、システイニル化(cysteinylation)、スルホン化、およびアセチル化に起因する形態が挙げられる。サンプル中のタンパク質を検出または測定する場合、タンパク質の異なる形態間で区別する能力は、相違の性質および検出または測定に用いられる方法に依存する。例えば、モノクローナル抗体(例えば、β2−ミクログロブリンのエピトープに結合するモノクローナル抗体)を用いるイムノアッセイは、そのエピトープを含有するタンパク質の全ての形態を検出するが、それらの間の区別はしない。しかしながら、タンパク質上の異なるエピトープに対して指向する二つの抗体を用いるサンドイッチイムノアッセイは、両方のエピトープを含有するタンパク質の全ての形態を検出し、そしてエピトープの一つだけを含有するそれらの形態を検出しない。診断上の分析において、使用される特定の方法により検出される該形態が、任意の特定の形態と同じように等しく良いバイオマーカーである場合、タンパク質の異なる形態を区別することに無力であることは、ほとんど影響がない。しかしながら、タンパク質の特定の形態(または特定の形態のサブセット)が、特定の方法により一緒に検出される異なる形態の集まりよりも、より良いバイオマーカーである場合、該分析の能力は低下し得る。この場合、タンパク質の形態間で区別し、そして望ましい形態または該タンパク質の形態を特異的に検出および測定する、分析方法を用いることは有用である。分析物の異なる形態を区別するか、または分析物の特定の形態を特異的に検出することは、分析物を「分析する」といわれる。
【0028】
質量分析法は、タンパク質の異なる形態を分析する、特に強力な方法である。なぜならば、異なる形態は、質量分析により分析され得る異なる質量を一般的に有するからである。したがって、タンパク質の一つの形態が、(該バイオマーカーの別の形態よりも)疾患に関してすぐれたバイオマーカーであるならば、質量分析法は、従来のイムノアッセイがその形態を区別できず、そして有用なバイオマーカーを特異的に検出できない場合、該有用な形態を特異的に検出および測定することができ得る。
【0029】
一つの有用な方法は、質量分析法をイムノアッセイと組み合わせる。第一に、生物特異的(biospecific)な捕捉剤(例えば、バイオマーカーおよび該バイオマーカーの他の形態を認識する抗体、アプタマーまたはAffibody)が、目的のバイオマーカーを捕捉するために用いられる。好ましくは、生物特異的な捕捉剤は、ビーズ、プレート、膜、またはチップのような固相に結合される。非結合物質が洗浄された後、捕捉された分析物が、質量分析法により検出および/または測定される。(この方法はまた、タンパク質に結合するタンパク質インターアクター(interactor)か、またはさもなければ抗体により認識されることから、それ自体がバイオマーカーとなり得るタンパク質相互作用物質の捕捉という結果になる。)質量分析法の多様な形態(従来のMALDIまたはSELDI、および電気スプレー電離のようなレーザー脱離の方法を含む)が、タンパク質形態を検出するために有用である。
【0030】
したがって、特定のタンパク質を検出するか、または特定のタンパク質の量を測定することが本明細書において参照される場合、タンパク質の多様な形態を分析をともうか、またはともなわない、タンパク質の検出および測定を意味する。例えば、「β2−ミクログロブリンを測定する」工程は、タンパク質の多様な形態間で区別しない方法(例えば、特定のイムノアッセイ)により、ならびに他の形態からある形態を区別する方法によるか、またはタンパク質の特定の形態を測定する方法により、β2−ミクログロブリンを測定することを含む。対照的に、タンパク質の特定の形態を測定することが望ましい場合(例えば、β2−ミクログロブリンの特定の形態)、該特定の形態が具体的に挙げられる。例えば、「β2−ミクログロブリン(M11.7K)を測定する」ことは、β2−ミクログロブリンの他の形態から、それを区別する方法でβ2−ミクログロブリン(M11.7K)を測定することを意味する。
【0031】
4. β2−ミクログロブリンの検出
本発明での、β2−ミクログロブリンバイオマーカー、シスタチンCバイオマーカー、およびリゾチームバイオマーカーは、任意の適切な方法により検出され得る。検出の方法論は、光学的方法、電気化学的方法(ボルタメトリーおよびアンペロメトリー技法)、原子間力顕微鏡法、および無線周波数法(例えば、多極性の共鳴スペクトル)を含む。共焦点および非共焦点の両方の顕微鏡法に加えて、光学的な方法の実例は、蛍光、ルミネッセンス、ケミルミネッセンス、吸光度、反射率、透過率、および複屈折または屈折率の検出(例えば、表面プラズモン共鳴、偏光解析法、共鳴ミラー法、グレーティングカプラ導波管法、または干渉測定)である。
【0032】
一つの実施形態において、サンプルは、バイオチップの方法により分析される。バイオチップは、捕捉剤(吸着剤または親和性剤とも呼ばれる)が取り付けられた実質的に平面の表面を有する固体支持体を一般に含む。しばしば、バイオチップの表面は、複数のアドレス可能位置を含み、その各々がそこに結合した捕捉剤を有する。
【0033】
タンパク質バイオチップは、ポリペプチドの捕捉のために適合されたバイオチップである。多くのタンパク質バイオチップが、当該分野で記載されている。これらは、例えば、Ciphergen Biosystems,Inc.(Fremont,CA)、Zyomyx(Hayward,CA)、Invitrogen(Carlsbad,CA)、Biacore(Uppsala,Sweden)、およびProcognia(Berkshire,UK)により生産されたタンパク質バイオチップを含む。そのようなタンパク質バイオチップの例は、以下の特許または公開された特許出願に記載されている:米国特許第6,225,047号明細書(HutchensおよびYip);米国特許第6,537,749号明細書(KuimelisおよびWagner);米国特許第6,329,209号明細書(Wagnerら);国際公開第00/56934号パンフレット(Englertら);国際公開第03/048768号パンフレット(Boutellら)および米国特許第5,242,828号明細書(Bergstromら)。
【0034】
4.1 質量分析法による検出
好ましい実施形態において、本発明のバイオマーカーは、気相イオンを検出するために質量分析計を用いる方法である質量分析法により検出される。質量分析計の例は、飛行時間型、扇形磁場、四重極フィルター、イオントラップ、イオンサイクロトロン共鳴、静電扇形分析器(electrostatic sector analyzer)、およびこれらの混成物がある。
【0035】
さらに好ましい方法において、質量分析計は、レーザー脱離/イオン化質量分析計である。レーザー脱離/イオン化質量分析法において、分析物は、質量分析計のプローブインターフェースを作動させるように適合された装置であり、そして分析物をイオン化および質量分析計への導入のためのイオン化エネルギーに提出する装置である、質量分析計のプローブの表面に置かれる。レーザー脱離質量分析計は、レーザーエネルギー(典型的には紫外線レーザーに由来するが、赤外線レーザーにもまた由来する)を、分析物を表面から脱着し、揮発させ、そして分析物をイオン化して、そして分析物を質量分析計のイオン光学装置で利用可能にするために用いる。LDIによるタンパク質の分析は、MALDIの形態またはSELDIの形態をとり得る。
【0036】
4.1.1. SELDI
本発明における使用のための好ましい質量分析技法は、例えば米国特許第5,719,060号明細書および同第6,225,047号明細書(両者ともHutchensおよびYipによる)に記載されたように、「表面増強レーザー脱離およびイオン化(Surface Enhanced Laser Desorption and Ionization)」または「SELDI」である。これは、分析物(ここでは一つ以上のバイオマーカー)がSELDI質量分析法プローブの表面に捕捉される、脱離/イオン化気相イオン分光測定法(例えば、質量分析法)の方法をいう。
【0037】
SELDIはまた、「親和性捕捉質量分析法(affinity capture mass spectrometry)」または「表面増強親和性捕捉(Surface−Enhanced Affinity Capture)」(「SEAC」)とも呼ばれてきた。この型は、物質と分析物間の非共有結合性の親和性相互作用(吸着)をとおして分析物を捕捉するプローブ表面上の物質を有するプローブの使用を含む。該物質は、「吸着剤」、「捕捉剤」、「親和性剤」、または「結合部分」と、さまざまに呼ばれる。そのようなプローブは、「親和性捕捉プローブ」として、および「吸収性表面」を有するとして言及され得る。該捕捉剤は、分析物を結合することができる任意の物質であり得る。該捕捉剤は、物理吸着または化学吸着によりプローブ表面に取り付けられる。特定の実施形態において、該プローブは、該表面に前もって取り付けられた該捕捉剤を有する。他の実施形態において、プローブは前もって活性化され、そして該捕捉剤を(例えば、共有結合または配位共有結合を形成する反応をとおして)結合することができる反応性部分を含む。エポキシドおよびアシル−イミジゾール(acyl−imidizole)は、抗体または細胞のレセプターのようなポリペプチド捕捉剤を共有結合する、有用な反応性部分である。ニトリロ三酢酸およびイミノ二酢酸は、ヒスチジン含有ペプチドと非共有結合的に相互作用する金属イオンを結合するキレート剤として機能する、有用な反応性部分である。吸着剤は、一般的に、クロマトグラフィー吸着剤および生物特異的吸着剤として分類される。
【0038】
「クロマトグラフィー吸着剤」は、クロマトグラフィーにおいて典型的に用いられる吸着性の物質に関するものである。クロマトグラフィー吸着剤は、例えば、イオン交換物質、金属キレート剤(例えば、ニトリロ三酢酸またはイミノ二酢酸)、固定化金属キレート化合物、疎水性相互作用吸着剤、親水性相互作用吸着剤、色素、単純な生体分子(例えば、ヌクレオチド、アミノ酸、単糖類、および脂肪酸)、および混合様式の吸着剤(例えば、疎水性引力/クーロン反発力吸着剤)を含む。
【0039】
「生物特異的吸着剤」は、生体分子(例えば、核酸分子(例えばアプタマー)、ポリペプチド、多糖類、脂質、ステロイド、またはこれらの複合体(例えば、糖タンパク質、リポタンパク質、糖脂質、核酸(例えばDNA)−タンパク質複合体))を含む吸着剤に関するものである。特定の実施例において、生物特異的吸着剤は、多タンパク質複合体、生物学的膜、またはウイルスのような巨大分子構造であり得る。生物特異的吸着剤の例は、抗体、レセプタータンパク質、および核酸である。生物特異的吸着剤は、クロマトグラフィー吸着剤よりも、標的分析物に対する、より高い親和性を典型的に有している。SELDIにおいて用いられる吸着剤のさらなる例は、米国特許第6,225,047号明細書において見い出され得る。「生物選択性吸着剤」は、少なくとも10−8Mの親和性で分析物に結合する吸着剤に関するものである。
【0040】
Ciphergen Biosystems,Inc.により生産されるタンパク質バイオチップは、アドレス可能位置に取り付けられたクロマトグラフィー吸着剤または生物特異的吸着剤を有する表面を含む。Ciphergen ProteinChip(登録商標)アレイは、NP20(親水性);H4およびH50(疎水性);SAX−2、Q−10および(陰イオン交換);WCX−2およびCM−10(陽イオン交換);IMAC−3、IMAC−30およびIMAC−50(金属キレート化合物);ならびにPS−10、PS−20(アシル−イミジゾール(acyl−imidizole)をもつ反応性表面、エポキシド)およびPG−20(アシル−イミジゾール(acyl−imidizole)をとおして結合したprotein G)を含む。疎水性ProteinChipアレイは、イソプロピルまたはノニルフェノキシ−ポリ(エチレングリコール)メタクリル酸塩の官能性を有する。陰イオン交換ProteinChipアレイは、四級アンモニウムの官能性を有する。陽イオン交換ProteinChipアレイは、カルボン酸塩の官能性を有する。固定化金属キレート化合物ProteinChipアレイは、キレート化により、銅、ニッケル、亜鉛およびガリウムのような遷移金属イオンを吸着する、ニトリロ三酢酸の官能性(IMAC3およびIMAC30)またはO−メタクリロイル−N,N―ビス―カルボキシメチルチロシンの官能性(IMAC50)を有する。前もって活性化されたProteinChipアレイは、共有結合のためにタンパク質上の基と反応し得るアシル−イミジゾールまたはエポキシドの官能基を有する。
【0041】
そのようなバイオチップは、さらに、以下に記載される:米国特許第6,579,719号明細書(HutchensおよびYip、「Retentate Chromatography」、2003年6月17日);米国特許第6,897,072号明細書(Richら、「Probes for a Gas Phase Ion Spectrometer」、2005年5月24日);米国特許第6,555,813号明細書(Beecherら、「Sample Holder with Hydrophobic Coating for Gas Phase Mass Spectrometer」、2003年4月29日);米国特許出願公開第2003−0032043A1号明細書(PohlおよびPapanu、「Latex Based Adsorbent Chip」、2002年7月16日);および国際公開第03/040700号パンフレット(Umら、「Hydrophobic Surface Chip」、2003年5月15日);米国特許出願公開第2003−0218130A1号明細書(Boschettiら、「Biochips With Surfaces Coated With Polysaccharide−Based Hydrogels」、2003年4月14日)および米国特許出願公開第2005−059086A1号明細書(Huangら、「Photocrosslinked Hydrogel Blend Surface Coatings」、2005年3月17日)。
【0042】
一般的に、吸着性の表面を持つプローブは、サンプル中に存在するバイオマーカーが該吸着剤に結合することを可能にするに十分な期間の間、サンプルと接触させられる。インキュベーション期間後、支持体は、非結合物質を除去するために洗浄される。任意の適切な洗浄溶液が用いられ得るが;好ましくは、水性溶液が用いられる。分子が結合して残る範囲は、該洗浄の強度を調節することにより操作され得る。洗浄溶液の溶出特性は、例えば、pH、イオン強度、疎水性、カオトロピズムの程度、界面活性剤の強度、および温度に依存し得る。プローブがSEACおよびSENDの両方の特性(本明細書中に記載される)を有さない限り、エネルギー吸収分子は、その後、結合したバイオマーカーをもつ支持体に接触させられる。
【0043】
さらに別の実施方法において、該バイオマーカーを結合する抗体を有する固相結合免疫吸着剤を用いて、バイオマーカーを捕捉することができる。非結合物質を除去するため、該吸着剤を洗浄した後、該バイオマーカーは、固相から溶出され、そして該バイオマーカーに結合するSELDIチップに接触させ、そしてSELDIにより分析することにより検出される。
【0044】
支持体に結合したバイオマーカーは、飛行時間型質量分析計のような気相イオン分光器において検出される。該バイオマーカーは、レーザーのようなイオン化源によりイオン化され、生じたイオンは、イオン光学装置により集められ、そしてその後、通過するイオンを質量分析器が分散させ分析する。検出器が、その後、検出されたイオンの情報を質量/電荷数に変換する。バイオマーカーの検出は、典型的には、シグナル強度の検出を含む。したがって、バイオマーカーの量および質量の両方が、検出され得る。
【0045】
4.1.2 SEND
レーザー脱離質量分析の別の方法は、表面増強ニート脱離(Surface−Enhanced Neat Desorption)(「SEND」)と呼ばれる。SENDは、プローブ表面に化学的に結合された、エネルギー吸収分子を含有するプローブ(「SENDプローブ」)の使用を含む。「エネルギー吸収分子」(EAM)という句は、レーザー脱離/イオン化源からのエネルギーを吸収可能で、そしてその後、その分子と接触している分析物分子の脱離およびイオン化に関与する分子を表す。EAMカテゴリーは、MALDIで用いられる分子を含み、しばしば「マトリックス」といわれ、例としては、桂皮酸誘導体、シナピン酸(SPA)、シアン化ヒドロキシ桂皮酸(CHCA)およびジヒドロキシ安息香酸、フェルラ酸、ならびにヒドロキシアセトフェノン誘導体が挙げられる。特定の実施形態において、エネルギー吸収分子は、線状ポリマーまたは架橋されたポリマー(例えば、ポリメタクリレート)中に組み込まれる。例えば、組成物は、α−シアノ−4−メタクリロイルオキシ桂皮酸およびアクリレートのコポリマーであり得る。別の実施形態において、組成物は、α−シアノ−4−メタクリロイルオキシ桂皮酸、アクリレート、および3−(トリ−エトキシ)シリルプロピルメタクリレートのコポリマーである。別の実施形態において、組成物は、α−シアノ−4−メタクリロイルオキシ桂皮酸およびオクタデシルメタクリレート(「C18 SEND」)のコポリマーである。SENDはさらに、米国特許第6,124,137号明細書および国際公開第03/64594号パンフレット(Kitagawa、「Monomers And Polymers Having Energy Absorbing Moieties Of Use In Desorption/Ionization Of Analytes」、2003年8月7日)に記載される。
【0046】
SEAC/SENDは、レーザー脱離質量分析の型であり、ここで、捕捉剤およびエネルギー吸収分子の両方が、表面を提示しているサンプルに取り付けられる。SEAC/SENDプローブは、したがって、外部のマトリックスに接触させる必要性はなく、親和性の捕捉およびイオン化/脱離をとおして分析物の捕捉を可能にする。C18 SENDバイオチップは、SEAC/SENDの型であり、捕捉剤として機能するC18部分、およびエネルギー吸収部分として機能するCHCA部分を含む。
【0047】
4.1.3. SEPAR
LDIの別の型は、表面増強感光性付着および放出(Surface−Enhanced Photolabile Attachment and Release)(「SEPAR」)と呼ばれる。SEPARは、分析物を共有結合し得る表面に取り付けられた部分を有し、そしてその後、光への(例えば、レーザー光への(米国特許第5,719,060)号明細書を参照のこと)曝露後、該部分における感光性の結合の破壊をとおして該分析物を放出するプローブの使用を含む。SEPARおよびSELDIの他の型は、本発明に従って、バイオマーカーまたはバイオマーカーのプロフィールを検出するために容易に適応される。
【0048】
4.1.4. MALDI
MALDIは、タンパク質および核酸のような生体分子を分析するために用いられるレーザー脱離/イオン化の従来からの方法である。一つのMALDIの方法において、サンプルは、マトリックスと混合されMALDIチップ上に直接置かれる。しかしながら、血清または尿のような生物学的サンプルの複雑さによって、サンプルの前もっての分画なしには、この方法は最適ではない。したがって、特定の実施形態において、バイオマーカーは、樹脂(例えば、スピンカラム中の)のような固体支持体に結合された、生物特異的物質(例えば、抗体)またはクロマトグラフィー物質で、好ましくは最初に捕捉される。β2−ミクログロブリンを結合する特異的な親和性物質は、先に記載した。親和性物質上での精製後、バイオマーカーは、溶出され、そしてその後、MALDIにより検出される。
【0049】
4.1.5. 質量分析法におけるイオン化の他の形態
別の方法において、バイオマーカーは、LC−MSまたはLC−LC−MSにより検出される。これは、液体クロマトグラフィーを1回または2回通過させ、その後質量分析法の分析(典型的にはエレクトロスプレーイオン化)により、サンプル中のタンパク質を分析することを含む。
【0050】
4.1.6 データ分析
飛行時間型質量分析による分析物の分析は、飛行時間型スペクトルを生成する。最終的に分析される飛行時間型スペクトルは、典型的にはサンプルに対するイオン化エネルギーの1パルスからのシグナルを示さないが、しかしむしろ多数のパルスからのシグナルの総和を示す。これはノイズを減少させ、そしてダイナミックレンジを増加させる。この時間飛行のデータが、その後、データ処理に供される。CiphergenのProteinChip(登録商標)ソフトウェアにおいてデータ処理は、典型的には、質量スペクトルを生成するTOFからM/Zへの変換(TOF−to−M/Z transformation)、装置のオフセットを除去するためのベースラインのサブトラクション、および高周波数のノイズを減少させる高周波数ノイズフィルタリングを含む。
【0051】
バイオマーカーの脱離および検出により生成されるデータは、プログラム可能なデジタル化されたコンピュータを使用して分析され得る。該コンピュータプログラムは、検出される各バイオマーカーの数、ならびに必要に応じて、検出される各バイオマーカーのシグナルの強度および決定される分子質量を示すために、該データを分析する。データ分析は、バイオマーカーのシグナル強度を決定する工程、および、前もって決定された統計学的な分布から逸脱するデータを除去する工程を含み得る。例えば、観察されたピークは、ある基準に対して各ピークの高さを計算することにより、正規化され得る。
【0052】
コンピュータは、結果のデータを表示のために多様なフォーマットに変換し得る。標準スペクトルが表示され得るが、一つの有用なフォーマットにおいて、ピークの高さおよび質量の情報のみがスペクトルビューから保持され、明確なイメージを生じ、そしてほぼ同一の分子量を持つバイオマーがをより容易に見えるようにする。別の有用なフォーマットにおいて、二つ以上のスペクトルが比較され、簡便に特有のバイオマーカーおよびサンプル間でアップレギュレートまたはダウンレギュレートされるバイオマーカーを強調する。これらのフォーマットのいずれかを用いて、特定のバイオマーカーがサンプル中に存在するか容易に決定し得る。
【0053】
分析は、一般的に、分析物からのシグナルを示すスペクトル中のピークの同定を含む。ピークの選択は、視覚的になされ得るが、CiphergenのProteinChip(登録商標)ソフトウェアパッケージの一部として、ピークの検出を自動化するソフトウェアが入手可能である。一般的に、このソフトウェアは、選択された閾値より上のシグナル対ノイズ比を有するシグナルを同定し、そしてピークシグナルの質量中心におけるピークの質量を標識することにより機能する。一つの有用な適用において、多くのスペクトルが、質量スペクトルのいくつかの選択された部分中に存在する同一のピークを同定するために比較される。このソフトウェアの一つのバージョンは、規定された質量範囲内の多様なスペクトル中に現れる全てのピークをクラスターにして、そしてその質量(M/Z)クラスターの中点近くにある全てのピークに質量(M/Z)を割り当てる。
【0054】
データを分析するために用いられるソフトウェアは、シグナルが、本発明によるバイオマーカーに対応するシグナル中のピークを示すかどうか決定するためのシグナルの分析に、アルゴリズムを適用するコードを含み得る。該ソフトウェアはまた、観察されたバイオマーカーのピークに関するデータを、試験下で特定の臨床パラメーターの状態を表示するバイオマーカーのピークまたはバイオマーカーのピークの組み合わせが存在するかどうかを決定するため、分類ツリーまたはANN分析に供し得る。データの分析は、サンプルの質量スペクトルの分析から、直接的か非直接的かのどちらかで得られる多様なパラメーターに、「適合させ」得る。これらのパラメーターは、一つ以上のピークの存在または欠如、ピークまたはピークの群の形、一つ以上のピークの高さ、一つ以上のピークの高さの対数、およびピークの高さのデータの計算操作を含むが、それらに限定されない。
【0055】
4.1.7 末梢性の動脈疾患のためのバイオマーカーのSELDI検出のための一般的な手順
例えば、本発明のバイオマーカーの検出のための好ましい手順は、以下のとおりである。試験される生物学サンプル(例えば、血清)は、好ましくはSELDI分析前に前もっての分画にかけられる。これは、サンプルを単純化し、そして感度を向上させる。前もっての分画の好ましい方法は、サンプルを、Q HyperD(BioSepra,SA)のような陰イオン交換クロマトグラフィー物質と接触させることを含む。結合した物質は、その後、pH9、pH7、pH5、およびpH4の緩衝剤を用いる段階的pH溶出にかけられる。バイオマーカーが溶出される分画はまた、表1、表2(pHによる)、および図3にも示される。バイオマーカーを含む多様な分画が集められる。
【0056】
試験されるサンプル(好ましくは前もって分画された)は、再び表1、表2および/または図3において示されるように、その後、陽イオン交換吸着剤(好ましくはCM10 ProteinChipアレイ(Ciphergen Biosystems,Inc))またはIMAC吸着剤(好ましくはIMAC30 ProteinChipアレイ(Ciphergen Biosystems,Inc))を含む親和性捕捉プローブと接触させられる。非結合分子を洗い流すが、バイオマーカーは保持する緩衝剤で、プローブは洗浄される(下記の例1を参照のこと)。バイオマーカーは、レーザー脱離/イオン化質量分析法により検出される。
【0057】
あるいは、サンプルは、変性させるか、または変性させることなく、適切なアレイ結合緩衝剤中で希釈され、そして結合され、そして各分析物を検出するために最適化された条件下で洗浄され得る。
【0058】
あるいは、バイオマーカーを認識する抗体が入手可能ならば(例えば、Dako、U.S.Biological、Chemicon、Abcam、およびGenwayより)、これらは、プローブ(例えば、前もって活性化されたPS10またはPS20 ProteinChipアレイ(Ciphergen Biosystems,Inc.))の表面に取り付けられ得る。これらの抗体は、バイオマーカーを、サンプルからプローブ表面上へ捕捉し得る。その後、バイオマーカーは、例えば、レーザー脱離/イオン化質量分析法により検出され得る。
【0059】
流体工学操作を実行する任意のロボット(例えば、TecanまたはHamiltonから入手可能なロボット)が、これらの分析において用いられ得る。
【0060】
4.2. イムノアッセイによる検出
本発明の別の実施形態において、本発明のバイオマーカーは、質量分析法以外の方法または該バイオマーカーの質量の測定に頼る方法以外の方法により測定される。質量に依存しない、一つのそのような実施形態において、β2−ミクログロブリンが、イムノアッセイにより測定される。イムノアッセイは、バイオマーカーを捕捉するために、抗体のような生物特異的な捕捉剤を必要とする。抗体は、当該分野で周知の方法により(例えば、該バイオマーカーで動物を免疫化することにより)、産生され得る。バイオマーカーは、バイオマーカーの結合特性に基づいてサンプルから単離され得る。あるいは、ポリペプチドバイオマーカーのアミノ酸配列が知られているならば、該ポリペプチドが合成され得、そして当該分野で周知の方法により抗体を生成するために用いられ得る。β2−ミクログロブリン抗体、および標準的な分析を用いてβ2−ミクログロブリンを検出するための方法が、当該分野で記載されている(例えば、Hilgertら(Folia Biol(Praha)(1984)30:369−76))。通常の患者と比較してPAD患者におけるβ2−ミクログロブリンの増加したレベルを検出する、これらの抗体の使用の例が、本明細書において提供される。リゾチームおよびシスタチンCのイムノアッセイ検出のための同様の方法がまた当該分野において公知である。
【0061】
本発明は、例えば、ELISAを含むサンドイッチイムノアッセイまたは蛍光に基づくイムノアッセイ、他の酵素イムノアッセイおよびウエスタンブロットを含む従来のイムノアッセイを企図する。比濁分析は、抗体が溶液中に存在する液相において実行される分析である。抗原の抗体への結合は、測定される吸光度の変化を生じる。SELDIに基づくイムノアッセイにおいて、バイオマーカーのための生物特異的捕捉剤が、前もって活性化されたProteinChipアレイのようなMSプローブの表面に取り付けられる。該バイオマーカーは、その後、この捕捉剤をとおしてバイオチップ上に特異的に捕捉され、そして該捕捉されたバイオマーカーは質量分析法により検出される。
【0062】
5. 被験体の末梢性の動脈疾患の状態の決定
本発明のバイオマーカーは、被験体における末梢性の動脈疾患の状態を評価する(例えば、末梢性の動脈疾患を有する患者のリスクを評価する)診断上の試験において用いられ得る。「末梢性の動脈疾患」の句は、該疾患の任意の区別可能な徴候(非疾患を含む)を含む。例えば、末梢性の動脈疾患の状態は、疾患の存在または非存在(例えば、末梢性の動脈疾患対非末梢性の動脈疾患)、疾患発症のリスク、該疾患の段階、疾患の進行(例えば、長期間の疾患の進行または疾患の寛解)および疾患の処置への有効性または応答を含むが、限定はされない。
【0063】
末梢性の動脈疾患の状態と試験結果の相関は、ある種の分類アルゴリズムを該結果に適用して該状態を記述することを含む。該分類アルゴリズムは、測定されたβ2−ミクログロブリンの量が、特定のカットオフ値の上または下にあるか否かを決定するだけの単純さであり得る。複数のバイオマーカーまたは心臓血管のリスクファクター(例えば、年齢、性別、血圧、血糖、および血中コレステロール)が用いられる場合、該分類アルゴリズムは、線形回帰式でありえる。あるいは、該分類アルゴリズムは、本明細書に記載される多数の学習アルゴリズムのいずれかの産物であり得る。
【0064】
複雑な分類アルゴリズムの場合においては、該アルゴリズムをデータ上で実行する必要があり得、したがって、コンピュータ(例えば、プログラム可能なデジタルコンピュータ)を用いて、分類を決定する。したがって、いずれの場合においても、状態を有形の媒体、例えば、メモリードライブまたはディスクのようなコンピュータで読み込み可能なフォーマット中に記録、または単純に紙上に印刷することができる。結果はまた、コンピュータ画面上で報告され得る。
【0065】
5.1. 単一マーカー
状態を正確に予測する診断上の試験の能力は、一般的に、分析の感度、分析の特異性、または受信者特性(「ROC」)曲線下の面積として測定される。感度は、陽性になる試験によって予測される真の陽性の割合であり、一方、特異性は陰性になる試験によって予測される真の陰性の割合である。ROC曲線は、1−特異性の関数としての試験の感度を提供する。ROC曲線下面積が大きいほど、試験の予測値はより強力である。試験の有意性の他の有用な測定は、陽性の予測値および陰性の予測値である。陽性の予測値は、実際に陽性である、試験が陽性の人の割合である。陰性の予測値は、実際に陰性である、試験が陰性の人の割合である。
【0066】
β2−ミクログロブリンは、異なる末梢性の動脈疾患における統計的な相違を示す。これらのバイオマーカーを単独で、または組み合わせで用いる診断上の試験は、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、および約100%の感度および特異性を示す。高い感度を有するが特異性が低い試験は、その陰性予測値がPADの診断を排除するために十分に高い場合は、なお有用であり得る。高い感度を有するが特異性が低い、臨床的に非常に有用な試験の例は、肺換気‐血流スキャンである。陰性予測値が95%を超えることから、陰性試験は、事実上、肺塞栓症を排除する。そのような試験結果は、さらなるそしてより高価な試験の必要性を減少させ得る。
【0067】
β2−ミクログロブリン、リゾチーム、シスタチンCは、末梢性の動脈疾患において差異的に存在し、そしてそれゆえ、それら自体が末梢性の動脈疾患の状態の決定の方法において、それぞれ有用である。該方法は、第一に、本明細書に記載される方法(例えば、イムノアッセイまたは質量分析による検出が後に続くSELDIバイオチップ上での捕捉)を用いて被験体サンプルにおけるβ2−ミクログロブリンを測定し、そして第二に、その測定値を、末梢性の動脈疾患状態陰性から末梢性の動脈疾患状態陽性を区別する診断上の量またはカットオフと比較することを含む。診断上の量は、被験体が、特定の末梢性の動脈疾患状態を有すると分類されるより高いか、または低い、バイオマーカーの測定された量を示す。例えば、β2−ミクログロブリンは、正常と比較して、末梢性の動脈疾患においてアップレギュレートされているため、したがって、診断上のカットオフより上のβ2−ミクログロブリンの測定量は、末梢性の動脈疾患のリスクの増加を示す。対照的に、おそらく十分に低いレベルは、診断として事実上PADを排除する。当該分野で十分に理解されているように、分析において用いられる特定の診断上のカットオフを調節することにより、診断医の選択に依存して診断上の分析の感度または特異性を増加させることができる。特定の診断上のカットオフは、例えば、本明細書中で行われたように、異なる末梢性の動脈疾患の状態の被験体からの統計的に有意な数のサンプルにおけるバイオマーカーの量を測定し、そして診断医に所望されるレベルの特異性および感度に合せるようにカットオフを描くことにより、決定され得る。
【0068】
5.2. マーカーの組み合わせ
個々のバイオマーカーは、有用な診断上のバイオマーカーであるが、バイオマーカーの組み合わせが、一つのバイオマーカー単独よりも特定の状態のより高い予測値を提供し得ることが見い出された。特に、サンプル中の複数のバイオマーカーの検出は、試験の感度および/または特異性を増大させ得る。少なくとも二つのバイオマーカーの組み合わせが、しばしば「バイオマーカープロフィール」または「バイオマーカーフィンガープリント」として言及される。したがって、β2−ミクログロブリンは、診断上の試験の感度および/または特異性を改善するため、末梢性の動脈疾患のための他のバイオマーカーと組み合わされ得る。PADのスクリーニングために有用な他のバイオマーカーの例は、2005年5月26日に出願されたPCT出願第US2005/018728号(国際公開第2005/121758号パンフレット)において見い出される。
【0069】
5.3. 末梢性の動脈疾患の状態
末梢性の動脈疾患の状態を決定することは、典型的には、診断上の試験の結果に基づいて、個体を二つ以上の群(状態)の一つに分類することを含む。本明細書中に記載される診断上の試験は、多数の異なる状態間で分類するために用いられ得る。「PAD状態」の句は、区別すること(とりわけ、PAD対非PAD(例えば、正常)および/またはPAD対「長期跛行性者」PAD(LC PAD))を含む。長期跛行性者は、他の患者よりも制限を受けていないPADの個体である(すなわち、長期跛行性者は、スキナー−ガードナープロトコル(Skinner−Gardner protocol)を用いてトレッドミル上で12分間以上歩行できる)。この状態に基づいて、さらなる診断上の試験または治療上の手順もしくはレジメンを含む、さらなる手順が示され得る。
【0070】
(5.3.1.疾患の存在)
1つの実施形態において、本発明は、被験体において末梢性の動脈疾患のリスク(状態:末梢性の動脈疾患 対 非末梢性動脈疾患)を評価するための方法を提供する。末梢性の動脈疾患のリスクは、関連バイオマーカーを測定し、次いで、その測定を分類アルゴリズムに提示するか、あるいはその測定を特定のリスクレベルと関連するバイオマーカーの参照量および/またはパターンと比較するかのいずれかによって、決定される。
【0071】
(5.3.2.疾患を発症するリスクの決定)
1つの実施形態において、本発明は、被験体において末梢性の動脈疾患を発症するリスク(状態:低リスク 対 高リスク)を決定するための方法を提供する。バイオマーカーの量またはパターンは、種々のリスク状態(例えば、高い、中程度または低い)に特徴的である。疾患を発症するリスクは、関連バイオマーカーを測定し、次いで、その測定を分類アルゴリズムに提示するか、あるいはその測定を特定のリスクレベルと関連するバイオマーカーの参照量および/またはパターンと比較するかのいずれかによって、決定される。
【0072】
(5.3.3.疾患の病期の決定)
1つの実施形態において、本発明は、被験体において疾患の病期を決定するための方法を提供する。疾患の各病期は、バイオマーカーの特徴的な量またはバイオマーカーのセットの相対量(パターン)を有する。疾患の病期は、関連バイオマーカー(例えば、β2−ミクログロブリン)を測定し、次いで、その測定を分類アルゴリズムに提示するか、あるいはその測定を特定の特定の病期と関連するバイオマーカーの参照量および/またはパターンと比較するかのいずれかによって、決定される。例えば、初期の末梢性の動脈疾患と非末梢性動脈疾患との間を分類することができる
(5.3.4.疾患の経過(進行/寛解)の決定)
1つの実施形態において、本発明は、被験体において疾患の経過を決定するための方法を提供する。疾患の経過とは、疾患の進行(悪化)および疾患の退行(改善)を含む経時的な疾患状態の変化をいう。時間とともに、上記バイオマーカーの量または相対量(例えば、パターン)は、変化する。例えば、高いβ2−ミクログロブリンレベル、および/または高いリゾチームレベルおよび/または高いシスタチンCレベルは、PADと関連づけられる。したがって、罹患または非罹患に関して経時的に増加するかまたは減少するかのいずれかであるこれらのマーカーの傾向は、その疾患の経過をモニタリングするために使用され得る。したがって、本方法は、少なくとも2つの異なる時点(例えば、第1の時間および第2の時間)について被験体における1種以上のバイオマーカーを測定すること、および存在する場合、量の変化を比較することを包含する。疾患の経過は、これらの比較に基づいて決定される。
【0073】
(5.4.上記状態の報告)
本発明のさらなる実施形態は、アッセイ結果または診断あるいはその両方を例えば、技術者、医師または患者に連絡することに関する。特定の実施形態において、コンピューターは、アッセイ結果または診断あるいはその両方を、目的とするパートナー(例えば、医師およびそれらの患者)に連絡するために使用される。いくつかの実施形態において、上記アッセイは、結果または診断が連絡される国家または管区とは異なる国家または管区において行われるか、あるいは上記アッセイ結果は、結果または診断が連絡される国家または管区とは異なる国家または管区において分析される。
【0074】
本発明の好ましい実施形態において、検査被験体におけるβ2−ミクログロブリンおよび/またはリゾチームおよび/またはシスタチンCに基づく診断は、その診断が得られた後にその被験体に連絡される。上記診断は、被験体の処置医によってその被験体に連絡され得る。あるいは、上記診断は、電子メールによって検査被験体に送られてもよく、電話によってその被験体に伝達されてもよい。コンピューターは、電子メールまたは電話によって上記診断を伝達するために使用され得る。特定の実施形態において、診断検査の結果を含む伝達事項は、遠距離通信の当業者になじみのあるコンピューターハードウェアとソフトウェアとの組合せを使用して、作成され得、そして上記被験体に対して自動的に伝達され得る。健康保険対応型の伝達システム(healthcare−oriented communications system)の1つの例は、米国特許第6,283,761号に記載されるが;しかし、本発明は、この特定の伝達システムを利用する方法に限定されない。本発明の方法の特定の実施形態において、本方法の工程(サンプルをアッセイすること、疾患を診断すること、およびアッセイ結果または診断を伝達することが挙げられる)の全てまたはいくつかは、種々(例えば、外国)の管区において行われ得る。
【0075】
(5.5.被験体の管理)
末梢性の動脈疾患状態を定量または評価する方法の特定の実施形態において、その方法は、その状態に基づいて被験体の処置を管理することをさらに含む。このような管理は、末梢性の動脈疾患状態を決定することに続く医師または臨床家の行為を包含する。例えば、医師が末梢性の動脈疾患の診断を行う場合、処置の特定のレジメンが後に続き得る。処置の適切なレジメンとしては、管理された自動運動プログラム;血圧、糖摂取、および/または脂質レベルの制御;任意の必要なカウンセリングまたはニコチンの置換を含む喫煙の中止;ならびにアスピリンの投与(ジピリダモールを伴うかまたは伴わない)、クロピドグレルの投与、シロスタゾールの投与、および/またはペントキシフィリンの投与を含む薬物療法が挙げられ得るが、これらに限定されない。あるいは、PADの診断は、患者がPADの特定の形態に罹患しているか否か、または患者が関連する疾患(例えば、冠状動脈疾患)に罹患しているか否かを決定するためのその後のさらなる検査を含み得る。また、診断検査がPAD状態において不確定な結果を与える場合、さらなる検査が、要求され得る。
【0076】
(6.末梢性の動脈疾患状態を低了するための分類アルゴリズムの作成)
いくつかの実施形態において、「既知のサンプル」などのサンプルを使用してもたらされるスペクトル(例えば、質量スペクトルまたは飛行時間型スペクトル)に由来するデータは、次いで、分類モデルを「トレーニング」するために使用され得る。「既知のサンプル」は、予め分類されているサンプルである。上記スペクトルに由来し、そして上記分類モデルを形成するために使用されるデータは、「トレーニングデータセット」と称され得る。一旦トレーニングされると、上記分類モデルは、未知のサンプルを使用してもたらされるスペクトルに由来するデータにおいてパターンを認識し得る。次いで、上記分類モデルは、上記未知のサンプルをクラスに分類するために使用され得る。これは、例えば、特定の生物学的サンプルが特定の生物学的状態(例えば、罹患 対 非罹患)に関連するか否かを予想することにおいて有用であり得る。
【0077】
上記分類モデルを形成するために使用されるトレーニングデータセットは、生データまたは予め処理されたデータを含み得る。いくつかの実施形態において、生データは、飛行時間型スペクトルまたは質量スペクトルから直接得ることができ、次いで必要に応じて、上に記載される通り、「予め処理」され得る。
【0078】
分類モデルは、上記データに存在する客観的パラメータに基づいてデータの本体をクラスへと分離することを試みる任意の適切な統計学的分類(または「学習」)方法を使用して形成され得る。分類方法は、管理されているか、または管理されていないかのいずれかであり得る。管理されている分類プロセスおよび管理されていない分類プロセスの例は、Jain、「Statistical Pattern Recognition:A Review」、IEEE Transactions on Pattern Analysis and Machine Intelligence、第22巻、第1号、2000年1月(この教示は、参考として援用される)に記載される。
【0079】
管理されている分類において、既知のカテゴリーの例を含むトレーニングデータは、既知のクラスの各々を規定する関係の1つ以上のセットを学習する学習機構に与えられる。次いで、新規データは、上記学習機構に適用され得、次いでその学習機構は、学習された関係を使用して新規データを分類する。管理されている分類プロセスの例としては、線形回帰プロセス(例えば、重回帰(MLR)、偏相関最小二乗(PLS)回帰および主成分回帰(PCR))、2分決定木(例えば、CART−分類・回帰木(classification and regression trees)などの再帰分割プロセス)、逆伝搬網(back propagation network)などの人工ニューラルネットワーク(artificial neural network)、判別分析(例えば、ベイズ分類子またはフィッシャー分析)、ロジスティック分類子、およびサポートベクター分類子(support vector classifier)(サポートベクターマシン)が挙げられる。
【0080】
好ましい管理されている分類方法は、再帰分割プロセスである。再帰分割プロセスは、未知のサンプルに由来するスペクトルを分類するために、再帰分割木を使用する。再帰分割プロセスについてのさらなる詳細は、米国特許第6,675,104号(Paulseら、「Method for analyzing mass spectra」)に提供される。
【0081】
他の実施形態において、作成される分類モデルは、管理されていない学習方法を使用して形成され得る。管理されていない分類は、上記トレーニングデータセットが得られたスペクトルを予め分類することなく、そのトレーニングデータセットにおける類似性に基づいて分類を学習することを試みる。管理されていない学習方法としては、クラスター分析が挙げられる。クラスター分析は、データを「クラスター」またはグループに分けることを試み、そのクラスターまたはグループは、理想的には、互いに非常に類似し、かつ他のクラスターのメンバーとは非常に異なるメンバーを有するべきである。次いで、類似性が、いくつかの距離(データ項目間の距離を測定し、および互いに近いデータ項目を一緒にクラスター化する)を使用して測定される。クラスター化技術としては、MacQueenのK−平均アルゴリズムおよびKohonenの自己組織化マップアルゴリズムが挙げられる。
【0082】
生物学的情報の分類における使用に関して主張される学習アルゴリズムは、例えば、PCT国際公開01/31580号(Barnhillら、「Methods and devices for identifying patterns in biological systems and methods of use thereof」)、米国特許出願第2002 0193950号A1(Gavinら、「Method for analyzing mass spectra」)、米国特許出願第2003 0004402号A1(Hittら、「Process for discriminating between biological states based on hidden patterns from biological data」)、および米国特許出願第2003 0055615号A1(ZhangおよびZhang、「Systems and methods for processing biological expression data」)に記載される。
【0083】
上記分類モデルは、任意の適切なデジタル化されたコンピューターにおいて形成および使用され得る。適切なデジタル化されたコンピューターとしては、任意の標準または専門のオペレーティングシステム(例えば、Unix(登録商標)ベース、Windows(登録商標)ベースまたはLinux(登録商標)ベースのオペレーティングシステム)を使用する、マイクロコンピューター、ミニコンピューター、または大型コンピューター(large computer)が挙げられる。使用されるデジタル化されたコンピューターは、目的のスペクトルを生成するために使用される質量分析計から物理的に分離され得るか、またはそのデジタル化されたコンピューターは、質量分析計に結合され得る。
【0084】
本発明の実施形態に従うトレーニングデータセットおよび分類モデルは、デジタル化されたコンピューターによって実行または使用されるコンピューターコードによって具現化され得る。上記コンピューターコードは、光学ディスクまたは磁気ディスク、スティック、テープなどを含む任意の適切なコンピューター読み取り可能な媒体に保存され得、そしてそのコンピューターコードは、C、C++、ビジュアルベーシックなどを含む任意の適切なコンピュータープログラミング言語で書かれ得る。
【0085】
上に記載される学習アルゴリズムは、既に発見されているバイオマーカーのための分類アルゴリズムの開発、または末梢性の動脈疾患についての新規バイオマーカーを見出すための分類アルゴリズムの開発の両方に有用である。次いで、上記分類アルゴリズムは、単独かまたは組み合わせて使用されるバイオマーカーについての診断値(例えば、カットオフポイント)を提供することによって診断検査の基礎を形成する。
【0086】
(7.材料の組成物)
別の局面において、本発明は、本発明のバイオマーカー(例えば、β2−ミクログロブリン、リゾチーム、シスタチンCおよび表1、表2および図3に列挙される他のバイオマーカー)に基づく材料の組成物を提供する。
【0087】
1つの実施形態において、本発明は、本発明のバイオマーカーを精製された形態で提供する。精製されたバイオマーカーは、抗体を惹起する抗原としての有用性を有する。精製されたバイオマーカーはまた、アッセイ手順における標準としての有用性を有する。本明細書中で使用される場合、「精製されたバイオマーカー」は、そのバイオマーカーが見出される生物学的サンプルに由来する他のタンパク質およびペプチド、ならびに/または他の物質から単離されている、バイオマーカーである。上記バイオマーカーは、生物学的流体(例えば、尿または血清)から単離され得る。バイオマーカーは、当該分野において公知である任意の方法を使用して精製され得、その方法としては、機械的分離(例えば、遠心分離)、硫酸アンモニウム沈殿、透析(サイズ排除透析が挙げられる)、電気泳動(例えば、アクリルアミドゲル電気泳動)、サイズ排除クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、アニオン交換クロマトグラフィー、カチオン交換クロマトグラフィー、および金属キレートクロマトグラフィーが挙げられるが、これらに限定されない。このような方法は、任意の適切なスケール(例えば、クロマトグラフィーカラム、またはバイオチップ)において行われ得る。
【0088】
別の実施形態において、本発明は、本発明のバイオマーカーに特異的に結合する生物特異的捕捉剤を、必要に応じて、精製された形態で提供する。1つの実施形態において、上記生物特異的捕捉剤は、抗体である。このような組成物は、上記バイオマーカーを検出アッセイにおいて検出するため(例えば、診断のため)に有用である。
【0089】
別の実施形態において、本発明は、本発明のバイオマーカーに結合する生物特異的捕捉剤を含む物品を提供し、この試薬は、固相に結合される。例えば、本発明は、生物特異的捕捉剤によって誘導体化されたビーズ、チップ、メンブレン、モノリスまたはマイクロタイタープレートを備えるデバイスを企図する。このような物品は、バイオマーカー検出アッセイにおいて有用である。
【0090】
別の局面において、本発明は、本発明のバイオマーカーに結合される生物特異的捕捉剤(例えば、抗体)を含む組成物を提供し、その組成物は、必要に応じて、精製された形態である。このような組成物は、上記バイオマーカーを精製するために有用であるか、または上記バイオマーカーを検出するためのアッセイにおいて有用である。
【0091】
別の実施形態において、本発明は、吸着剤(例えば、クロマトグラフフィー吸着剤または生物特異的捕捉剤)が付着する固体基材を備える物品を提供し、その吸着剤は、本発明のバイオマーカーにさらに結合される。1つの実施形態において、上記物品は、質量分析のためのバイオチップまたはプローブ(例えば、SELDIプローブ)である。このような物品は、上記バイオマーカーを精製するためか、または上記バイオマーカーを検出するために有用である。
【0092】
(8.末梢性の動脈疾患についてのバイオマーカーの検出のためのキット)
別の局面において、本発明は、末梢性の動脈疾患状態を定量するためのキットを提供し、そのキットは、本発明に従うバイオマーカーを検出するために使用される。1つの実施形態において、上記キットは、固体支持体(例えば、チップ、マイクロタイタープレートまたはビーズもしくは樹脂)を備え、その固体支持体に捕捉剤が付着しており、その捕捉剤は、本発明のバイオマーカーに結合する。したがって、例えば、本発明のキットは、SELDIのための質量分析プローブ(例えば、ProteinChip(登録商標)アレイ)を備え得る。生物特異的捕捉剤の場合において、上記キットは、反応性の表面を有する固体支持体、および生物特異的捕捉剤(例えば、β2−ミクログロブリンに対する抗体)を含む容器を備え得る。
【0093】
上記キットはまた、洗浄溶液または洗浄溶液を作製するための説明書を備えることができ、そのキットにおいて、捕捉剤と洗浄溶液との組合せは、例えば、質量分析によるその後の検出のための、固体支持体上でのバイオマーカーの捕捉を可能にする。上記キットは、1種よりも多い型の吸着剤を含むことができ、その吸着剤の各々は、異なる固体支持体上に存在する。
【0094】
さらなる実施形態において、このようなキットは、適切な操作パラメータについての説明書をラベルまたは別個の挿入物の形態で備え得る。例えば、その説明書は、サンプルを回収する方法、プローブを洗浄する方法または検出されるべき特定のバイオマーカーについての情報を、消費者に提供する。
【0095】
なお別の実施形態において、上記キットは、較正のための標準として使用されるべきバイオマーカーサンプルを含む1つ以上の容器を備え得る。
【0096】
(9.薬学的薬物の治療効力の決定)
別の実施形態において、本発明は、薬学的薬物の治療効力を決定するための方法を提供する。これらの方法は、薬物の臨床試験を行うこと、およびその薬物に対する患者の経過をモニタリングすることにおいて有用である。治療または臨床試験は、薬物を特定のレジメンにおいて投与することを包含する。上記レジメンは、単回用量の薬物または経時的な複数回用量の薬物を含み得る。医師または臨床研究者は、患者または被験体に対する薬物の効果を、投与の経過にわたってモニタリングする。薬物が上記状態に対して薬理学的影響を有する場合、β2−ミクログロブリン(またはリゾチームおよび/もしくはシスタチンC)の量または相対量(例えば、パターンまたはプロフィール)は、非疾患プロフィールへと変化する。例えば、β2−ミクログロブリンは、PADを有する患者において増加する。したがって、PADを有する被験体における処置の効果(および他のバイオマーカー)を処置の経過の間に追跡できる。したがって、この方法は、薬物治療を受ける被験体において1種以上のバイオマーカーを測定すること、およびそのバイオマーカーの量とその被験体の疾患状態とを関連づけることを包含する。この方法の1つの実施形態は、薬物治療の経過の間の少なくとも2つの異なる時点(例えば、第1回および第2回)についての上記バイオマーカーのレベルを決定すること、および存在する場合、そのバイオマーカーの量の変化を比較することを包含する。例えば、上記バイオマーカーは、薬物投与の前後または薬物投与の間における2つの異なる時点で測定され得る。治療の効果は、これらの比較に基づいて決定される。処置が有効である場合、上記バイオマーカーは、正常へと向かうが、処置が有効ではない場合、上記バイオマーカーは、疾患適応へと向かう。処置が有効である場合、上記バイオマーカーは、正常へと向かうが、処置が有効ではない場合、上記バイオマーカーは、疾患適応へと向かう。
【0097】
(10.スクリーニングアッセイにおける末梢性の動脈疾患についてのバイオマーカー使用および末梢性の動脈疾患を処置する方法)
本発明の方法は、同様に他の用途も有する。例えば、上記バイオマーカーは、インビトロまたはインビボにおけるそのバイオマーカーの発現を調節する化合物(次いで、この化合物は、患者において末梢性の動脈疾患を処置または予防することに有用であり得る)についてスクリーニングするために使用され得る。別の例において、上記バイオマーカーは、末梢性の動脈疾患についての処置に対する応答をモニタリングするために使用され得る。なお別の例において、上記バイオマーカーは、被験体が末梢性の動脈疾患を発症するリスクを有するか否かを決定するための家系学研究において使用され得る。
【0098】
治療的検査に適切な化合物は、最初に、β2−ミクログロブリンおよび本明細書中に列挙される1種以上のバイオマーカー(例えば、リゾチームまたはシスタチンC)と相互作用する化合物を同定することによってスクリーニングされ得る。例として、スクリーニングは、バイオマーカーを組換え発現させること、そのバイオマーカーを精製すること、およびそのバイオマーカーを基材に固定することを包含し得る。次いで、試験化合物は、代表的には水性条件において上記基材と接触され、そしてその試験化合物と上記バイオマーカーとの間の相互作用が、例えば、塩濃度の関数として溶出速度を測定することによって測定される。特定のタンパク質は、表1、表2または図3の1種以上のバイオマーカーを認識および切断し得、この場合において、そのタンパク質は、標準的なアッセイにおいて1種以上のバイオマーカーの消化をモニタリングすること(例えば、そのタンパク質のゲル電気泳動)によって検出され得る。
【0099】
関連する実施形態において、試験化合物が1種以上の上記バイオマーカーの活性を阻害する能力が、測定され得る。当業者は、特定のバイオマーカーの活性を測定するために使用される技術がそのバイオマーカーの機能および特性に依存して変わることを認識する。。例えば、バイオマーカーの酵素的活性は、適切な基質が利用可能であること、および基質の濃度または反応生成物の出現が容易に測定可能であることを条件として、アッセイされ得る。潜在的に治療的な試験化合物が所定のバイオマーカーの活性を阻害または増強する能力は、その試験化合物の存在下または非存在下において触媒作用の速度を測定することによって決定され得る。試験化合物がβ2−ミクログロブリン、リゾチーム、シスタチンCまたは本明細書中の別の1種以上のバイオマーカーの非酵素的(例えば、構造的)な機能または活性を妨げる能力もまた、測定され得る。例えば、β2−ミクログロブリンを含む複数のタンパク質の複合体の自己集合は、試験化合物の存在下または非存在下における分光学によってモニタリングされ得る。あるいは、上記バイオマーカーが転写の非酵素的エンハンサーである場合、そのバイオマーカーが転写を増強する能力を妨げる試験化合物は、その試験化合物の存在下および非存在下で、インビボまたはインビトロにおけるバイオマーカー依存性の転写のレベルを測定することによって同定され得る。
【0100】
表1、表2または図3の任意のバイオマーカーの活性を調節し得る試験化合物は、末梢性の動脈疾患に罹患しているか患者、または末梢性の動脈疾患を発症するリスクを有する患者に投与され得る。例えば、特定のバイオマーカーの活性を増大させる試験化合物の投与は、インビボにおける特定のバイオマーカーの活性が末梢性の動脈疾患に関するタンパク質の蓄積を妨げる場合、患者において末梢性の動脈疾患のリスクを減少させ得る。対照的に、特定のバイオマーカーの活性を減少させる試験化合物の投与は、そのバイオマーカーが少なくとも部分的に末梢性の動脈疾患の発症を担う場合、患者において末梢性の動脈疾患のリスクを減少させ得る。
【0101】
さらなる局面において、本発明は、β2−ミクログロブリン、リゾチーム、またはシスタチンCの改変された形態のレベルの増大に関連する障害(例えば、末梢性の動脈疾患)の処置のために有用である化合物を同定するための方法を提供する。例えば、1つの実施形態において、細胞抽出物または発現ライブラリーは、完全長β2−ミクログロブリンのβ2−ミクログロブリンの切断された(truncated)形態への切断(cleavage)を触媒する化合物についてスクリーニングされ得る。このようなスクリーニングアッセイの1つの実施形態において、β2−ミクログロブリンの切断は、フルオロフォアをβ2−ミクログロブリンに結合させることによって検出され得、フルオロフォアを結合させることは、β2−ミクログロブリンが切断されない場合、消光したままであるが、そのタンパク質が切断される場合、蛍光を発する。あるいは、アミノ酸xとアミノ酸yとの間のアミド結合を切断不可能にするように改変された完全長β2−ミクログロブリンのバージョンは、インビボで完全長β2−ミクログロブリンをその部位にて切断する細胞プロテアーゼに選択的に結合するか、またはその細胞プロテアーゼを選択的に「捕捉」するために使用され得る。プロテアーゼおよびそれらの標的をスクリーニングする方法およびプロテアーゼおよびそれらの標的を同定する方法は、科学文献(例えば、Lopez−Ottinら(Nature Reviews、3:509−519(2002)))において充分に文書化される。
なお別の実施形態において、本発明の方法は、切断されたβ2−ミクログロブリンのレベルの増大に関連する疾患(例えば、末梢性の動脈疾患)の進行または可能性を処置または低減させるための方法を提供する。例えば、完全長β2−ミクログロブリンを切断する1種以上のタンパク質が同定された後、コンビナトリアルライブラリーは、同定されたタンパク質の切断活性を阻害する化合物についてスクリーニングされ得る。化学ライブラリーをこのような化合物についてスクリーニングする方法は、当該分野において周知である。例えば、Lopez−Otinら(2002)を参照のこと。あるいは、阻害性化合物は、β2−ミクログロブリンの構造に基づいてデータ処理可能に(intelligently)設計され得る。
【0102】
完全長β2−ミクログロブリンは、身体の鉄貯留の調節、ならびに遺伝性ヘモクロマトーシス、慢性腎不全、および腎性貧血に関連すると考えられる。β2−ミクログロブリン発現はまた、インターロイキンカスケードを介する身体の免疫応答の一部として含まれる。β2−ミクログロブリンはそのプレプロ形態およびプロ形態から高度にプロセシングされるので、β2−ミクログロブリンを標的とし、そしてそれを切断するプロテアーゼが存在するであろう。したがって、さらなる実施形態において、本発明は、その標的プロテアーゼに関して切断されたβ2−ミクログロブリンの親和性を増大させる化合物を同定するための方法を提供する。例えば、化合物は、β2−ミクログロブリンを切断するそれらの能力についてスクリーニングされ得る。β2−ミクログロブリンの切断またはβ2−ミクログロブリンと相互作用する分子の活性を調節し得る試験化合物は、次いで、被験体における末梢性の動脈疾患の進行を遅延または停止させるそれらの能力についてインビボで試験される。
【0103】
臨床的レベルにおいて、試験化合物をスクリーニングすることは、被験体が試験化合物に曝される前後において試験被験体に由来するサンプルを得ることを包含する。表1、表2または図3に列挙される1種以上のバイオマーカーのサンプルのレベルは、バイオマーカーの変化のレベルが試験化合物に曝された後に変化するか否かを決定するために、測定および分析され得る。上記サンプルは、本明細書に記載される通り、質量分析によって分析され得るか、またはそのサンプルは、当業者にとって公知である任意の適切な手段によって分析され得る。例えば、表1、表2、または図3に列挙される1種以上のバイオマーカーのレベルは、そのバイオマーカーに特異的に結合する放射標識された抗体または蛍光標識された抗体を使用するウェスタンブロットによって直接的に測定され得る。あるいは、1種以上のバイオマーカーをコードするmRNAのレベルの変化が測定され得、そして被験体に対する所定の試験化合物の投与と関連づけられ得る。さらなる実施形態において、上記バイオマーカーの1種以上の発現レベルの変化は、インビトロにおいて方法および物質を使用して測定され得る。例えば、表1、表2または図3の1種以上のバイオマーカーを発現するか、あるいは発現し得るヒト組織培養細胞は、試験化合物と接触され得る。試験化合物によって処置されている被験体は、慣用的に、その処置から得られ得る任意の生理学的効果について調べられる。特に、上記試験化合物は、それらが被験体において疾患の可能性を低減させる能力について評価される。あるいは、上記試験化合物が先に末梢性の動脈疾患と診断された被験体に投与される場合、試験化合物は、その疾患の進行を遅延または停止させるそれらの能力についてスクリーニングされる。
【実施例】
【0104】
(11.1.実施例1.PADについてのバイオマーカーの発見)
本発明のバイオマーカー(β2−ミクログロブリン、リゾチームおよびシスタチンCを含む)は、最初、Ciphergen Biosystems,Inc.(Fremont,CA)(“Ciphergen”)からのProteinChipアレイを利用するSELDI技術を使用するスクリーニング研究において、PADについてのバイオマーカーとして同定された。この研究の組(set)は、PADを有する45人の患者およびPADを有さない43人の患者から構成された。PAD群に配置した被験体は、0.9以下の足首関節指数を有する被験体であった。これらの群に関連のある特性を、図1にまとめ、比較する。PAD群の患者は、僅かに年長であり、一般的に高頻度の心臓血管の危険因子を有していた。
【0105】
血漿サンプルを、絶食状態の被験体から得た。以下の詳細なプロトコールに記載されるように、各血漿サンプルを、CiphergenのProteinChipを使用する分析の前に、QhyperDFカラム上の分別に供した。分別後、選択した画分を、CiphergenのIMAC30またはCM10 ProteinChipを使用して分析した。サンプル中のポリペプチドのスペクトルを、Ciphergen PBSII質量分析計による飛行時間質量分析法によって生成した。ピーク強度値(1619個のピーク/サンプル)を、Statistical Analysis of Microarrays(SAM)ソフトウェアによって分析した。
【0106】
本研究は、β−ミクログロブリンレベルと動脈の剛性(arterial stiffness)のような症状との間の関連を示すことを意図する研究(例えば、Saijoら、Hypertens.Res.,28(6):505−511(2005)を参照のこと)とは異なる。これらの研究は、その試行から、PDAと診断された被験体および低いABI(<0.9)を有する患者を排除した。また、これらの研究は、患者を含める/排除するために脈波速度(pulse wave velocity)(PWV)アッセイに依存した。PWVアッセイは、血管の伸展性を測定するが、本質的に動脈疾患は測定しない。Saijoらの試行で使用された被験体の動脈は、「正常な」被験体の動脈に比べ伸展性が乏しい(less compliant)場合があったが、これらは、必ずしも、PADを有する被験体の狭まったおよび/または塞がった動脈ではなかった。
【0107】
分別、サンプル取扱いおよびデータ収集に使用した代表的なプロトコールを以下に記載する。
【0108】
Q HYPER DF陰イオン交換分別
陰イオン交換分別のための緩衝液のリスト:
U1(1M尿素、0.22% CHAPS、50mM Tris−HCl pH9)
50mM Tris−HCl(0.1% OGP含有)pH9(洗浄緩衝液1)
50mM Hepes(0.1% OGP含有)pH7(洗浄緩衝液2)
100mM 酢酸Na(0.1% OGP含有)pH5(洗浄緩衝液3)
100mM 酢酸Na(0.1% OGP含有)pH4(洗浄緩衝液4)
33.3%イソプロパノール/16.7%アセトニトリル/0.1%トリフルオロ酢酸(trifluoracetic acid)(洗浄緩衝液5)。
【0109】
注記:洗浄緩衝液4が樹脂に加えられているまで、洗浄緩衝液5を緩衝液トレイに分取(aliquot)しない。このことは、揮発性有機溶媒の蒸発が問題にならないことを確実にする。
【0110】
材料のリスト
フィルタープレート
5つのv−ウェル 96ウェルディッシュ、F1〜F5と標識。
【0111】
a.樹脂を洗浄する
5ベッド容積(bed volume)の50mM Tris−HCl pH9で3回、Hyper Q DF樹脂(BioSepra,Cergy,France)を洗浄することによって樹脂を調製する。次に、50%懸濁物で50mM Tris−HCl pH9中に保存する。
【0112】
b.樹脂を平衡化する
125μLのHyper Q DFをフィルタープレートの各ウェルに添加する。
フィルターを緩衝液で処理する。
150μLのU1を各ウェルに添加する。
フィルターを緩衝液で処理する。
150μLのU1を各ウェルに添加する。
フィルターを緩衝液で処理する。
150μLのU1を各ウェルに添加する。
フィルターを緩衝液で処理する。
【0113】
c.血漿を樹脂に結合させる
各管から150μLのサンプルをフィルタープレートの適切なウェルにピペットで入れる(pipet)。
4°で30分間ボルテックスする。
【0114】
d.画分を収集する
v−ウェル 96ウェルプレートF1をフィルタープレートの下に置く。
フロースルー(flow−through)をプレートF1に収集する。
100μLの洗浄緩衝液1をフィルタープレートの各ウェルに添加する。
室温(RT)で10分間ボルテックスする。
pH9溶出物をプレートF1に収集する。
画分1はフロースルーおよびpH9溶出物を含む。
100μLの洗浄緩衝液2をフィルタープレートの各ウェルに添加する。
室温(RT)で10分間ボルテックスする。
v−ウェル 96ウェルプレートF2をフィルタープレートの下に置く。
画分2をプレートF2に収集する。
100μLの洗浄緩衝液2をフィルタープレートの各ウェルに添加する。
室温(RT)で10分間ボルテックスする。
画分2の残りをプレートF2に収集する。
画分2はpH7溶出物を含む。
100μLの洗浄緩衝液3をフィルタープレートの各ウェルに添加する。
室温(RT)で10分間ボルテックスする。
v−ウェル 96ウェルプレートF3をフィルタープレートの下に置く。
画分3をプレートF3に収集する。
100μLの洗浄緩衝液3をフィルタープレートの各ウェルに添加する。
室温(RT)で10分間ボルテックスする。
画分3の残りをプレートF3に収集する。
画分3はpH5溶出物を含む。
100μLの洗浄緩衝液4をフィルタープレートの各ウェルに添加する。
室温(RT)で10分間ボルテックスする。
v−ウェル 96ウェルプレートF4をフィルタープレートの下に置く。
画分4をプレートF4に収集する。
100μLの洗浄緩衝液4をフィルタープレートの各ウェルに添加する。
室温(RT)で10分間ボルテックスする。
画分4の残りをプレートF4に収集する。
画分4はpH4溶出物を含む。
100μLの洗浄緩衝液5をフィルタープレートの各ウェルに添加する。
室温(RT)で10分間ボルテックスする。
v−ウェル 96ウェルプレートF5をフィルタープレートの下に置く。
画分5をプレートF5に収集する。
100μLの洗浄緩衝液5をフィルタープレートの各ウェルに添加する。
室温(RT)で10分間ボルテックスする。
画分5の残りをプレートF5に収集する。
画分5は、有機溶媒溶出物を含む。
チップ結合プロトコールを進めるまで凍結する。
【0115】
チップ結合プロトコール
チップ洗浄緩衝液のリスト:
IMAC30アレイ(Ciphergen Biosystems,Inc.):適切な洗浄液(wash)(500mM NaClを補充した50mM Tris pH8.0が挙げられるが、これに限定されない)
CM10アレイ(Ciphergen Biosystems,Inc.):適切な洗浄液(100mM 酢酸アンモニウム pH4.0が挙げられるが、これに限定されない)。
【0116】
アレイの調製:
アレイをバイオプロセッサー(bioprocessor)に置く。
【0117】
IMAC30アレイに銅を入れる
50μlのCuSOをIMAC30アレイの各スポットに入れる。
室温(RT)で15分間ボルテックスする。
CuSOを除去し、繰り返す。
水ですすぐ。
【0118】
アレイを平衡化する:
アレイに適した100μlのチップ洗浄緩衝液を各ウェルに添加する。
RTで5分間ボルテックスする。
ボルテックス後、緩衝液を除去する。
アレイに適した100μlのチップ洗浄緩衝液を各ウェルに添加する。
RTで5分間ボルテックスする。
ボルテックス後、緩衝液を除去する。
【0119】
Hyper Q DFカラムからの血漿画分をアレイに結合させる:
アレイに適した60μlのチップ洗浄緩衝液を各ウェルに添加する。
20μlの血漿画分を添加する。
RTで30分間ボルテックスする。
サンプルおよび緩衝液を除去する。
【0120】
アレイを洗浄する:
アレイに適した100μlのチップ洗浄緩衝液を各ウェルに添加する。
RTで5分間ボルテックスする。
ボルテックス後、緩衝液を除去する。
アレイに適した100μlのチップ洗浄緩衝液を各ウェルに添加する。
RTで5分間ボルテックスする。
ボルテックス後、緩衝液を除去する。
アレイに適した100μlのチップ洗浄緩衝液を各ウェルに添加する。
RTで5分間ボルテックスする。
ボルテックス後、緩衝液を除去する。
水で2回すすぐ。
【0121】
マトリクスを添加する
バイオプロセッサーの頂部とガスケットを除去する。
アレイを乾燥させる。
SPA:
0.8μlの50% SPA(シナピン酸)を50%アセトニトリルおよび0.5% TFAに添加する。
空気乾燥。
0.8μlの50% SPAを添加する。
空気乾燥。
CHCA
50%アセトニトリル+0.5%に溶解させた0.8μlの20% CHCAを添加する。
空気乾燥。
0.8μlの20% CHCAを添加する。
空気乾燥。
【0122】
データ収集の設定
エネルギー吸収分子:50% SPA
高質量を100000ダルトンに設定し、最適化質量を2000ダルトン〜100000ダルトンに設定する。
開始レーザー強度を200に設定する。
開始検出器感度を8に設定する。
8000ダルトンでの質量に集中させる。
質量デフレクター(Mass Deflector)を1000ダルトンに設定する。
データ収集法をSeldi定量(quantitation)に設定する。
Seldi収集パラメータ20を設定する。デルタ(delta)を4に、トランジエント(transients per)を10に、エンドポジション(ending position)を80に設定する。
強度225での2ショット(shot)をもちいてウォーミングポジション(warming position)を設定する(ウォーミングショットを含まない)。
サンプルを処理する。
【0123】
バイオマーカーピーク強度の測定および分析
Significance Analysis for Microarraysソフトウェア(「SAM」)を使用して、有意なピークの組を同定した。SAMは、Tusherら(PNAS(2001)98:5116〜5121)に詳細に記載されている。SAM分析の結果は図2に示される。図2は、1619個のバイオマーカーのうち11個が、PAD群と非PAD群との間で有意に異なるとして同定されたことを示す。
【0124】
図3は、上記で考察したSAM分析(タンパク質が見出されたチップおよびQHyper DF画分を含む)で同定された11個のタンパク質に関するデータを要約する表を示す。図3の表の四角で囲まれた領域に示されるように、11個のタンパク質のうち6個が、β2−ミクログロブリンの質量分析フィンガープリントに一致した。実験的な分子量を、質量分析データに基づいて計算するが、表における計算された分子量を、β2−ミクログロブリンの既知のアミノ酸組成および示される場合、SPA付加物の質量から決定する。表2はまた、図2における11個の顕著なタンパク質に関するデータをまとめ、これは、選択された差示的に発現されたタンパク質についてのABI値とピーク強度との間の線形回帰分析の正確なp値を含む。
【0125】
表2.発見データセットにおける、選択された差示的に発現されたタンパク質についてのピーク強度とABIとの間の線形回帰分析の正確なp値
【0126】
【表2】

(11.2.PAD患者におけるβ2−ミクログロブリン過剰発現のウェスタンブロット分析)
ウェスタンブロットおよび抗−β2ミクログロブリン抗体を使用して、より高いβ2−ミクログロブリン濃度は、4人の対照被験体由来のサンプルと比較して、PADを有する4人の患者由来のサンプルで観察された。この結果を図4に示す。pH5で分別された血漿を使用した場合または分別されていない全血漿を使用した場合、この知見は一貫している。
【0127】
(11.3.確認研究)
観察された相関が他の患者特性(例えば、他の心臓血管の危険因子、腎機能など)によって揺るがないことを確認するために、確認研究を実施した。この確認研究に関して、血漿を、PADを有する20人の患者および20人の対照被験体(PADについても冠性疾患(coronary disease)についても臨床上の証拠を有さない)から取得した。図5は、2つの群における患者をまとめる表を示す。2つの比較群における患者は、年齢および性において類似していた。しかしながら、予想したように、PAD群は、より高頻度の心臓血管の危険因子およびより低い糸球体濾過率になる傾向を有した。
【0128】
全ての血漿を絶食状態の患者から取得した。市販のELISAキットを使用してβ2−ミクログロブリンを測定した。図6は、Mann−Whitneyノンパラメトリック検定を使用して、血漿および血清のβ2−ミクログロブリンレベルが対照被験体よりもPAD患者において有意に高かったことを示す。
【0129】
図7は、スピアマンの階数相関分析の結果を示す。この結果は、β2−ミクログロブリンレベルとABIとの間に強い負の相関(r<−0.5)が存在することを示す。図10に示されるようにβ2mのピーク強度と跛行時間との間にも相関が観察された(ACT;跛行しない正常な被験体である群;12分より長い絶対ACTを有するPAD;または12分より短いACTを有するPAD)。
【0130】
データの線形回帰分析は、心臓血管疾患についての伝統的な危険因子の中でも、喫煙歴、高脂血症および糖尿病が足首関節指数の統計的に有意な単変量の予測因子(predictor)であったことを示した。さらに、糸球体濾過率は、足首関節指数との相関に向かう正の傾向を有した。β2−ミクログロブリン(対数変換して歪度を減らす)は、足首関節指数と強く相関した。この結果を図8に要約する。
【0131】
0.2未満の有意値(significance value)で図8に列挙された変数を使用して、多変量モデルを生成し、logβ2−ミクログロブリンと足首関節指数との間の独立した関連性を評価した。図9に示されるように、この分析は、高いβ2−ミクログロブリンレベルとより低い足首関節指数との間の独立した関連性を確認する。特に、この結果は、PAD患者におけるより低い糸球体濾過率の潜在的に変動させる(confounding)影響について調整した後でもなお、logβ2−ミクログロブリンレベルが足首関節指数と逆数様式(inverse manner)で独立して関連するままであることを示す。このモデルは、この研究で観察された足首関節指数の分散の推定45%を予測した。
【0132】
(11.4.PADの危険がある集団における確証研究)
既知のPAD状態を有さない冠動脈造影を受けている患者(n=237)において、血清β2mはPADを有する患者において高かった。包括的な臨床上の特徴づけ(人口統計学(demographics)、民俗学(ethnicity)、クオリティオブライフ、機能的能力(functional capacity);血漿、血清およびゲノムDNAについての静脈穿刺;ならびに冠動脈造影を聞き出すための質問票を含んだ)の前にABIを決定した。PADを有する患者は、安静時に0.90未満のABIを有したか、または非圧縮性の足根関節動脈を有する患者において、0.60未満の足指−上腕(toe−brachial)指数を有した。糸球体濾過率(GFR)を、腎疾患研究における食事の改変(Modification of Diet in Renal Disease Study)(MDRD)法 14によって見積もった。β2−ミクログロブリンレベルは、多変量回帰分析によって他の血管危険因子およびGFRとは独立してABIと相関した(表3)。
【0133】
表3
指数ABIの予測因子についての多変量回帰(n=273)
従属変数:足首関節指数
独立した有意な相関を太字にした。
【0134】
【表3】

本明細書に記載された実施例および実施形態は例示目的のみのためであって、これらを鑑みて、種々の改変または変更が、当業者に示唆され、これらは、この出願の精神および範囲ならびに添付の特許請求の範囲の中であるべきことが理解される。本明細書内で引用された全ての刊行物、特許および特許出願は、全ての目的のために、それらの全体が参考として本明細書に援用される。
【図面の簡単な説明】
【0135】
【図1】図1は、PADバイオマーカーのためのスクリーニング研究において用いられた患者を要約した表を示す。CAD、冠状動脈疾患;HTN、高血圧;ABI、足首関節指数;BMI、体格指数。発見研究におけるPAD患者に関する測定されたABIの平均値は、0.60±0.18;対照患者に関する測定されたABIの平均値は1.06±0.10であった。
【図2】図2は、図1において記載された患者から得られた血漿サンプルを用いるSELDI−TOFの分析の結果を示す。データは、マイクロアレイの統計的な分析(SAM)ソフトウェアで分析された。
【図3】図3は、図2において有意と同定された11タンパク質に関するデータを要約する表を示す。この分析は、第2の生命情報工学上の研究方法(マイクロアレイのための予測解析、または「PAM」(Tibshuraniら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA(2002)99:6567−72))により確認された。
【図4】図4は、4人の対照被験体からのサンプルと比較した、PADの4患者からのサンプルにおけるβ2−ミクログロブリン濃度のウエスタンブロットの結果を示す。
【図5】図5は、確認研究において用いられた患者の二つの群を要約した表を示す(詳細は本明細書の実施例2を参照のこと)。GFR、糸球体濾過率。
【図6】図6は、ELISA分析を用いて測定したときの、PADおよび対照被験体における、血漿および血清β2−ミクログロブリンの、マン−ホイットニーノンパラメトリック統計分析の結果を示す。
【図7】図7は、患者のABI測定とELISAにより測定されたβ2−ミクログロブリンレベルの間の関係のスピアマンの順位相関分析の結果を示す。
【図8】図8は、ELISAで測定されたβ2−ミクログロブリンレベルおよび他の患者の特性の、線形回帰分析の結果を示す。
【図9】図9はlog β2−ミクログロブリンとABIの間の独立した関係を評価するために作成された多変量モデルの結果を示す。
【図10】図10は、PADをともなうか、またはともなわない被験体における、6つのβ2−ミクログロブリンタンパク質の総ピーク強度と比較したACT(平均跛行時間)を示す。対照、n=43、すなわち運動間の跛行なし;PAD(LC)>12分、n=6;PAD<12分、n=39。総ピーク強度は、任意の単位で示される。平均差は、ボンフェロニ多重比較により、p<0.05レベルで有意である。(*)は、P<0.05のp値を有するボンフェロニの補正をともなう一元配置ANOVAによる群間の差を示す。誤差線は、標準偏差を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体における末梢性の動脈疾患の状態を認定するための方法であって、以下:
(a) 該被験体由来の生物学的サンプル中のβ2−ミクログロブリンを測定する工程;および
(b) 末梢性の動脈疾患の測定値を、非末梢性の動脈疾患に対して、関連付ける工程、
を含む方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、β2−ミクログロブリンに加えて前記生物学的サンプル中の複数のバイオマーカーを測定することを含む、方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法であって、ここで前記複数のさらなるバイオマーカーが、バイオマーカーであるリゾチームおよびシスタチンCからなる群より選択される少なくとも一つのバイオマーカーを含む、方法。
【請求項4】
請求項2に記載の方法であって、ここで少なくともβ2−ミクログロブリンおよびリゾチームが測定される、方法。
【請求項5】
請求項2に記載の方法であって、ここで少なくともβ2−ミクログロブリンおよびシスタチンCが測定される、方法。
【請求項6】
請求項2に記載の方法であって、ここで少なくともβ2−ミクログロブリン、シスタチンC、およびリゾチームが測定される、方法。
【請求項7】
請求項2に記載の方法であって、ここで三つのバイオマーカーが測定され、そしてここで、該三つのバイオマーカーが、β2−ミクログロブリン、シスタチンC、およびリゾチームである、方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法であって、ここでβ2−ミクログロブリンが、質量分析法により測定される、方法。
【請求項9】
請求項1に記載の方法であって、ここで質量分析法が、SELDI−MSである、方法。
【請求項10】
請求項1に記載の方法であって、ここでβ2−ミクログロブリンが、質量分析法以外の方法により測定される、方法。
【請求項11】
請求項1に記載の方法であって、ここでβ2−ミクログロブリンが、イムノアッセイにより測定される、方法。
【請求項12】
請求項2〜7のいずれかに記載の方法であって、ここでβ2−ミクログロブリン、シスタチンC、およびリゾチームからなる群より選択される少なくとも一つの前記バイオマーカーが、イムノアッセイにより測定される、方法。
【請求項13】
請求項1に記載の方法であって、ここで前記サンプルが、血液または血液誘導体である、方法。
【請求項14】
請求項1に記載の方法であって、ここで前記関連付ける工程が、ソフトウェアの分類アルゴリズムを実行することにより実行される、方法。
【請求項15】
請求項1に記載の方法であって、さらに以下:(c)被験体に前記状態を報告する工程を含む、方法。
【請求項16】
請求項1に記載の方法であって、さらに以下:(c)有形の媒体上に前記状態を記録する工程を含む、方法。
【請求項17】
請求項1に記載の方法であって、さらに以下:(c)前記状態に基づいて被験体の処置を管理する工程を含む、方法。
【請求項18】
請求項17に記載の方法であって、さらに以下:(d)被験体の管理後、少なくとも一つのバイオマーカーを測定し、そしてその測定値を疾患の進行と関連させる工程を含む、方法。
【請求項19】
末梢性の動脈疾患の経過を決定するための方法であって、以下:
(a) 最初に、被験体由来の生物学的サンプル中のβ2−ミクログロブリンを測定する工程;
(b) 第二番目に該被験体由来の生物学的サンプル中のβ2−ミクログロブリンを測定する工程;そして
(c) 該最初の測定値および該第二の測定値を比較する工程;
を含み、ここで比較した測定値が、該末梢性の動脈疾患の経過を決定する、方法。
【請求項20】
キットであって、以下:
(a) 固体支持体に取り付けられた少なくとも一つの捕捉剤を含む固体支持体であって、ここで該捕捉剤が、β2−ミクログロブリンに結合する、固体支持体;および
(b) β2−ミクログロブリンを検出するために、該固体支持体を用いるための使用説明書を含む、キット。
【請求項21】
請求項20に記載のキットであって、ここで捕捉剤を含む前記固体支持体が、SELDIプローブである、キット。
【請求項22】
請求項20に記載のキットであって、さらにβ2−ミクログロブリンの標準対照を含む、キット。
【請求項23】
ソフトウェア製品であって、以下:
a. サンプルに属するデータにアクセスするコードであって、該データが該サンプルにおける少なくとも一つのバイオマーカーの測定値を含み、ここで少なくとも一つのバイオマーカーが、β2−ミクログロブリンである、コード;および
b. 該サンプルの末梢性の動脈疾患の状態を、該測定値の関数として分類する分類アルゴリズムを実行するコード、を含むソフトウェア製品。
【請求項24】
被験体由来のサンプルにおける少なくとも一つのバイオマーカーの相関から決定される末梢性の動脈疾患の状態に関する診断を、該被験体に知らせる工程を含む方法であって、ここで少なくとも一つのバイオマーカーがβ2−ミクログロブリンである、方法。
【請求項25】
請求項24に記載の方法であって、ここで前記診断が、コンピュータにより生成される媒体を介して前記被験体に知らされる、方法。
【請求項26】
β2−ミクログロブリンと相互作用する化合物を同定する方法であって、ここで該方法が以下:
a) β2−ミクログロブリンを試験化合物と接触させる工程;および
b) 該試験化合物がβ−2ミクログロブリンと相互作用するか否か決定する工程、
を含む方法。
【請求項27】
被験体における末梢性の動脈疾患の状態を認定するための方法であって、以下:
(a) 該被験体由来の生物学的サンプル中のシスタチンCを測定する工程;そして
(b) 末梢性の動脈疾患の測定値を、非末梢性の動脈疾患に対して、関連付ける工程、
を含む方法。
【請求項28】
被験体における末梢性の動脈疾患の状態を認定するための方法であって、以下:
(a) 該被験体由来の生物学的サンプル中のリゾチームを測定する工程;そして
(b) 末梢性の動脈疾患の測定値を、非末梢性の動脈疾患に対して、関連付ける工程、
を含む方法。
【請求項29】
請求項27または28に記載の方法であって、前記生物学的サンプル中の複数のバイオマーカーを測定する工程を含み、ここで、少なくとも一つのさらなるバイオマーカーが、β2−ミクログロブリンである、方法。
【請求項30】
被験体における末梢性の動脈疾患の状態を認定するための方法であって、以下:
(a) 該被験体由来の生物学的サンプル中の少なくとも一つのバイオマーカーを測定する工程であって、ここで該少なくとも一つのバイオマーカーが、β2−ミクログロブリン、リゾチーム、およびシスタチンCからなる群より選択される、工程;および
(b) 該被験体の一つ以上の次に示す基準:C反応タンパク質レベル、総コレステロールレベル、トリグリセリドレベル、低密度脂質タンパク質レベル、高密度脂質タンパク質レベル、ホモシステインレベル、インターロイキンレベル、フィブリノーゲンレベル、リポタンパク質Aレベル、8−イソ−プロスタグランジンF2α(8−イソ−PGF2α)レベル、および可溶性Fasレベルをさらに測定する工程、そして
(c) 末梢性の動脈疾患の該測定値(a)および(b)を、非末梢性の動脈疾患に対して、関連付ける工程、
を含む方法。
【請求項31】
末梢性の動脈疾患を処置するための治療上のレジメンに対する被験体の応答を予測するための方法であって、以下:
(a) 該被験体由来の生物学的サンプル中の少なくとも一つのバイオマーカーを最初に測定する工程であって、ここで該少なくとも一つのバイオマーカーが、β2−ミクログロブリン、リゾチーム、およびシスタチンCからなる群より選択され;そして
(b) 該最初の測定工程後、末梢性の動脈疾患を処置するための治療上のレジメンにおいて、最初の処置を施す工程;そして
(c) 該処置の後、該少なくとも一つのバイオマーカーの二回目の測定を行う工程;そして
(d) 該最初の測定値と二回目の測定値を比較する工程であって、ここで該少なくとも一つのバイオマーカーのレベルが、該治療上のレジメンに対する被験体の応答の増加した可能性と相関する工程、を含む、
方法。
【請求項32】
請求項27〜31のいずれかに記載の方法であって、ここでバイオマーカーの前記測定が、イムノアッセイを用いて実行される、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2009−529694(P2009−529694A)
【公表日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−500423(P2009−500423)
【出願日】平成19年3月12日(2007.3.12)
【国際出願番号】PCT/US2007/006276
【国際公開番号】WO2007/106466
【国際公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【出願人】(501243030)ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ レランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティー (17)
【出願人】(507345871)バーミリオン, インコーポレイテッド (4)
【出願人】(504447730)味の素株式会社 (2)
【Fターム(参考)】