説明

末端に酸無水物基を有するポリマーの製造方法、及び該ポリマーを含有する樹脂組成物

【課題】 常温以上の工業的に有利な条件で末端に酸無水物基を有するポリマーの製造方法、該製造方法により得られる末端に酸無水物基を有するポリマー、該ポリマーからなる樹脂改質剤、及び該ポリマーと他の熱可塑性樹脂とを含有する樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 リビングポリマーとアルミニウム等の典型金属元素を含有する化合物とからなるアート錯体にマレイン酸ジt−アルキル等のジエステル化合物を反応させることにより、末端にジエステル基を有するポリマーを製造した後、該ジエステル基を酸無水物基に変換することによる、末端に酸無水物基を有するポリマーの製造方法、該製造方法により得られる末端に酸無水物基を有するポリマー、該ポリマーからなる樹脂改質剤、及び該ポリマーと他の熱可塑性樹脂とを含有する樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、末端に酸無水物基を有するポリマーの製造方法及び該ポリマーを含有する樹脂組成物に関する。より詳細には、本発明は、常温以上の工業的に有利な条件で末端にジエステル基を有するポリマーを製造した後、該ジエステル基を酸無水物基に変換することによる、末端に酸無水物基を有するポリマーの製造方法、該製造方法により得られる末端に酸無水物基を有するポリマー、該ポリマーからなる樹脂改質剤、及び該ポリマーと他の熱可塑性樹脂とを含有する樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
非極性ポリマーに反応性、あるいは極性を付与するために、ポリマーに官能基を導入する方法が一般的に知られている。特に非極性ポリマーへの反応性の付与を目的とした場合、ポリマーの分子鎖の中間への酸無水物基の導入が一般的に行われ、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリスチレン−(ポリエチレン/ポリブチレン)−ポリスチレン等のポリマーに酸無水物基をペンダント型に導入したエラストマーが市販されている。該エラストマーは非常に高い反応性を有するため、活性水素を分子中に有する樹脂、例えば、ポリアミド、ポリエステルなどと混練することで容易にブロック共重合体あるいはグラフト共重合体を生成し、高い相容化効果などを示すことが知られている。
【0003】
ポリマーへの酸無水物基の導入方法としては、ラジカル発生剤の存在下でポリマーに無水マレイン酸を作用させる方法が一般的に知られている(例えば、特許文献1〜3参照)。しかしながら、該方法では、ポリマーを製造した後、さらに該ポリマーに酸無水物基を付加させる工程が必要であり、製造が煩雑になるといった問題がある。また、該ポリマーが十分な反応性を有するには、該ポリマーに比較的大量の酸無水物基を導入する必要があり、その結果、酸無水物基の導入前後でポリマーとしての性質や外観が異なってしまうという問題が生じる場合がある。
【0004】
この問題の発生を抑制するために、酸無水物基をペンダント型に導入したポリマーよりも高い反応性を有する末端官能化ポリマーを用いる方法が知られている(例えば、非特許文献1参照)。しかしながら、末端官能化ポリマーは、その末端官能基の数や分子量分布が制御されていないと十分な効果や物性が得られない場合がある。そのため、末端官能化ポリマーの製造においては、アニオン重合法、中でもリビングアニオン重合法が主として用いられ、得られたリビングポリマーの末端に官能基を導入する方法が採用されている。
【0005】
リビングポリマーの末端への官能基導入方法としては、例えば、リビングアニオン成長末端に官能性キャッピング剤を反応させる方法が知られており、特に、酸無水物基を導入する方法としては、官能性キャッピング剤としてマレイン酸誘導体を用いてポリマーの末端にジエステル基を導入した後に、加熱処理を行う方法が知られている(非特許文献2〜4参照)。
【0006】
しかしながら、非特許文献2〜4の方法では、リビングポリマーの末端へのジエステル基導入の際、−78℃以下の極低温が必要であったり、副反応を抑制すべく5℃程度まで冷却するなど、工業的に不利な条件が採用されているのが現状である。
【特許文献1】特開昭50−56427号公報
【特許文献2】特開昭55−13720号公報
【特許文献3】特開昭55−25315号公報
【非特許文献1】Macromolecules(2004年),37巻,2563〜2571頁
【非特許文献2】Macromolecules(1994年),27巻,4914〜4918頁
【非特許文献3】Polymer Preprint(1996年),37巻,2号,653〜654頁
【非特許文献4】Macromolecules(1997年),30巻,5213〜5219頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、末端に酸無水物基を有するポリマーの製造方法及び該ポリマーを含有する樹脂組成物を提供することにある。より詳細には、常温以上の工業的に有利な条件で末端にジエステル基を有するポリマーを製造した後、該ジエステル基を酸無水物基に変換することによる、末端に酸無水物基を有するポリマーの製造方法、該製造方法により得られる末端に酸無水物基を有するポリマー、該ポリマーからなる樹脂改質剤、及び該ポリマーと他の熱可塑性樹脂とを含有する樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、重合性モノマーのリビングアニオン重合により得られたリビングポリマーと、特定の典型金属元素を含有する化合物とを反応させてアート錯体とし、該アート錯体に特定のジエステル化合物を作用させてリビングポリマーの末端にジエステル基を導入した後、該ジエステル基を酸無水物基に変換することによって常温以上の工業的に有利な条件で末端に酸無水物基を有するポリマーが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、
〔1〕 末端に酸無水物基を有するポリマーの製造方法であって、以下の工程(1)〜(4):
工程(1) 重合性モノマーのリビングアニオン重合によりリビングポリマーを得る工程;
工程(2) 該リビングポリマーと、ホウ素、アルミニウム、亜鉛及びマグネシウムから選ばれる典型金属元素を含有する化合物とを反応させてアート錯体を形成させる工程;
工程(3) 該アート錯体と、下記一般式
【化2】

(式中、Rは水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基、RおよびRはそれぞれ炭素数4〜12の第3級アルキル基である。)で示されるジエステル化合物とを反応させ、該リビングポリマーの末端にジエステル基を導入する工程;及び
工程(4) 工程(3)で得られたポリマーの末端にあるジエステル基を酸無水物基に変換する工程;
を含む末端に酸無水物基を有するポリマーの製造方法、
〔2〕 典型金属元素を含有する化合物が、有機アルミニウム化合物である上記〔1〕に記載の末端に酸無水物基を有するポリマーの製造方法、
〔3〕 重合性モノマーが、ビニル芳香族化合物及び/又は共役ジエン化合物である上記〔1〕又は〔2〕に記載の末端に酸無水物基を有するポリマーの製造方法、
〔4〕 重合性モノマーが少なくとも共役ジエン化合物を含有し、更に以下の工程(5):
工程(5) 工程(3)及び/又は工程(4)で得られたポリマーを水素添加する工程;
を含む上記〔3〕に記載の末端に酸無水物基を有するポリマーの製造方法、
〔5〕 リビングポリマーが、ビニル芳香族化合物重合体ブロック−共役ジエン化合物重合体ブロック−ビニル芳香族化合物重合体ブロックのトリブロック構造である上記〔4〕に記載の末端に酸無水物基を有するポリマーの製造方法、
〔6〕 上記〔1〕〜〔5〕の製造方法により得られる末端に酸無水物基を有するポリマー、
〔7〕 上記〔6〕に記載の末端に酸無水物基を有するポリマーからなる樹脂改質剤、並びに
〔8〕 上記〔6〕に記載の末端に酸無水物基を有するポリマーと、他の熱可塑性樹脂とを含有する樹脂組成物、
に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、常温以上の工業的に有利な条件で末端にジエステル基を有するポリマーを製造した後、該ジエステル基を酸無水物基に変換することによる、末端に酸無水物基を有するポリマーの製造方法、該製造方法により得られる末端に酸無水物基を有するポリマー、該ポリマーからなる樹脂改質剤、及び該ポリマーと他の熱可塑性樹脂とを含有する樹脂組成物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の末端に酸無水物基を有するポリマーの製造方法は、工程(1)〜(4)を含み、さらに必要に応じて工程(5)を含む。以下、工程毎に説明する。
【0012】
工程(1)
この工程は、重合性モノマーのリビングアニオン重合により、分子鎖の末端に酸無水物基を有するポリマーの前駆体となるリビングポリマーを製造する工程である。
【0013】
工程(1)で用いる重合性モノマーは、リビングアニオン重合が可能なモノマーであれば特に制限はなく、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、1−ビニルナフタレン、4−メチルスチレン、4−エチルスチレン、4−t−ブチルスチレン、ジビニルベンゼンなどのビニル芳香族化合物、1,3−ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチルブタジエン、2−フェニル−1,3−ブタジエン、1,3−シクロヘキサジエンなどの共役ジエン化合物などが挙げられ、中でも工業的経済性の観点より、スチレン、1,3−ブタジエン、イソプレンが好ましい。これらは単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0014】
2種以上の重合性モノマーを併用する場合は、リビングポリマーにおけるモノマー単位の結合形態は特に制限されず、ランダム状、ブロック状、またはテーパード状のいずれであってもよい。リビングポリマーが、例えばブロック共重合体からなるものであって、ビニル芳香族化合物単位からなる重合体ブロック(i)〔以下、単に「(i)」と記載する場合がある〕と共役ジエン化合物単位からなる重合体ブロック(ii)〔以下、単に「(ii)」と記載する場合がある〕とからなる直鎖状である場合、「(i)−(ii)」で示されるジブロック構造、「(i)−(ii)−(i)」で示されるトリブロック構造、「(i)−(ii)−(i)−(ii)」で示されるテトラブロック構造、あるいは、(i)と(ii)とが5個以上直鎖状に結合しているマルチブロック構造をとることができる。それらの中でも、得られるポリマーの力学物性や相容化効果の観点から、重合体ブロックの結合形態は、「(i)−(ii)−(i)」で示されるトリブロック構造であることが好ましい。
上記「(i)−(ii)−(i)」で示されるトリブロック構造のコポリマーとしては、例えば、ポリスチレン−ポリイソプレン−ポリスチレンブロックコポリマー、ポリスチレン−ポリブタジエン−ポリスチレンブロックコポリマー、ポリスチレン−ポリ(イソプレン/ブタジエン)−ポリスチレンブロックコポリマーなどを挙げることができる。
【0015】
工程(1)によって得られるリビングポリマーの分子量は特に制限されず、水素添加をしない状態における数平均分子量(Mn)が1,000〜2,000,000の範囲内にあることが、ポリマーの反応性や取扱性の点から好ましい。
なお、ここでいう数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により、標準ポリスチレン検量線から求めた値をいう。
【0016】
工程(1)のリビングアニオン重合は、通常の方法に従い、重合開始剤を用い、有機溶媒中で重合性モノマーを反応させることによって行うことができる。
【0017】
工程(1)のリビングアニオン重合で用いる重合開始剤としては、リビングアニオン重合が可能なものであれば特に制限はなく、例えば、有機リチウム、有機ナトリウムなどの有機アルカリ金属化合物等を用いることができる。この中でも取扱性および工業的経済性の観点から有機リチウム化合物が好ましく、重合性モノマーとの反応性の観点からアルキルリチウム、アリールリチウムがより好ましい。
【0018】
上記アルキルリチウムの例としては、メチルリチウム、エチルリチウム、プロピルリチウム、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウム、イソブチルリチウム、ヘキシルリチウム、オクチルリチウム、テトラメチレンジリチウム、m−ジイソプロペニルベンゼンのジリチオ化物等が挙げられ、上記アリールリチウムの例としては、フェニルリチウム、トリルリチウム等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよく、取扱性および工業的経済性の観点から、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウムが好ましく、モノマーとの反応性の観点から、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウムがより好ましい。
【0019】
工程(1)のリビングアニオン重合で用いる有機溶媒としては、重合の進行を妨げない非極性の有機溶媒であれば特に制限はなく、例えば、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の飽和脂肪族炭化水素化合物、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素化合物等が挙げられ、これらは単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0020】
工程(1)のリビングアニオン重合に際し、例えば、リビングポリマーにおけるモノマー単位の結合形態を制御する等のために、必要に応じ、重合の進行を妨げない範囲において、反応系内に少量の極性化合物を添加してもよい。極性化合物としては、水酸基やカルボニル基等のカルボアニオンと反応する官能基を有さず、かつ酸素原子や窒素原子を有する化合物を用いることができ、例えば、ジエチルエーテル、モノグライム、ジグライム、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン等を挙げることができる。
【0021】
工程(1)のリビングアニオン重合における反応温度としては、特に制限されるものではなく、−100℃〜100℃の範囲であることが好ましく、工業的な観点からは0〜60℃の範囲であることがより好ましい。
【0022】
工程(1)のリビングアニオン重合におけるその他の反応条件としては、例えば、副反応を抑制する等の観点から、予め十分に脱水及び乾燥された化合物を用いることが好ましく、反応系内に湿気や酸素等が存在しない不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0023】
工程(2)
この工程は、工程(1)で得られたリビングポリマーに、ホウ素、アルミニウム、亜鉛及びマグネシウムから選ばれる典型金属元素を含有する化合物とを反応させてアート錯体を形成させる工程である。
【0024】
工程(2)で用いるホウ素、アルミニウム、亜鉛及びマグネシウムから選ばれる典型金属元素を含有する化合物としては、例えば、有機ホウ素化合物、有機アルミニウム化合物、有機亜鉛化合物及び有機マグネシウム化合物等を挙げることができる。
【0025】
上記の有機ホウ素化合物としては、例えば、トリエチルボラン、トリブチルボラン、ジエチルメトキシボラン、ジイソプロポキシメチルボラン等のアルキルボラン、トリメチルボレート、トリエチルボレート、トリイソプロピルボレート、トリブチルボレート、2−ブチル−1,3,2−ジオキサボロリナン等のボロン酸エステル類を挙げることができる。
【0026】
上記の有機アルミニウム化合物としては、例えば、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリプロピルアルミニウム、トリブチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、エチルジメチルアルミニウム、ジイソブチル(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウム、イソブチルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウム、アルミニウムトリイソプロポキシド等を挙げることができる。
【0027】
上記の有機亜鉛化合物としては、例えば、ジメチル亜鉛、ジエチル亜鉛、ジプロピル亜鉛、ジブチル亜鉛、ジフェニル亜鉛等を挙げることができる。
【0028】
上記の有機マグネシウム化合物としては、例えば、ジメチルマグネシウム、ジエチルマグネシウム、ジプロピルマグネシウム、ジブチルマグネシウム、ジシクロヘキシルマグネシウム、ジフェニルマグネシウム等を挙げることができる。
【0029】
上記の典型金属元素を含有する化合物は、単独で用いても2種以上を併用してもよく、工業的経済性の観点から有機アルミニウム化合物を用いることが好ましく、取扱性等の観点からトリイソブチルアルミニウム、イソブチルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウムを用いることがより好ましい。
【0030】
上記の典型金属元素を含有する化合物の使用量は、本発明の効果を損わない範囲内であれば特に制限されず、後述する工程(3)における副反応を抑制する等の観点から、工程(1)で用いた重合開始剤に対し、0.1〜50等量の範囲であることが好ましく、1〜5等量の範囲であることがより好ましい。
【0031】
工程(2)の反応は、工程(1)で得られたリビングポリマーの溶液に、上記の典型金属元素を含有する化合物、又は該化合物を含有する有機溶媒溶液を添加し、これらを攪拌混合することによって行うことができる。
なお、工程(2)の反応の進行度は、例えば、カルボアニオン由来の色を有するリビングポリマーがアート錯体に変換されると無色に変化することを利用し、混合液の色の変化を観察することによって容易に確認することができる。
【0032】
工程(2)における反応温度、必要に応じて用いる有機溶媒の種類等の反応条件は、本発明の効果を損わない範囲内であれば特に制限されず、工業的経済性の観点から、上記の工程(1)で採用した反応条件に合わせることが好ましい。
【0033】
工程(3)
この工程は、工程(2)で得られたアート錯体と、下記一般式
【化3】

(式中、Rは水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基、RおよびRはそれぞれ炭素数4〜12の第3級アルキル基である。)で示されるジエステル化合物とを反応させ、リビングポリマーの末端にジエステル基を導入する工程である。
【0034】
上記のジエステル化合物において、Rは、入手が容易である観点から水素原子、又は炭素数1〜5のアルキル基である。また、R、Rはそれぞれ炭素数4〜12の第3級アルキル基であり、例えば、tert−ブチル基、tert−アミル基、2−メチル−2−ペンチル基、2−メチル−2−ヘキシル基、3−メチル−3−ペンチル基、3−エチル−3−ペンチル基等が挙げられ、中でも後述する工程(4)の実施を容易にする観点からtert−ブチル基、tert−アミル基が好ましい。R、Rの炭素数が13を超えると、後述する工程(4)において生じる副生物の除去が困難となるため好ましくない。また、R、Rが、例えば、第1級又は第2級アルキル基のように、第3級アルキル基でない場合は、後述する工程(4)の実施に先立って、ポリマー末端のジエステル基を加水分解によりジカルボン酸へ変換する前処理が必要となり、操作が煩雑となるため好ましくない。ジエステル化合物としては、中でもマレイン酸ジt−ブチルが好ましく、導入されるジエステル基としては、ジt−ブチルコハク酸−2−イル基であるのが好ましい。
【0035】
工程(3)の反応は、工程(2)で得られたアート錯体の溶液に、上記のジエステル化合物、又は該化合物を含有する有機溶媒溶液を添加し、これらを攪拌混合することによって行うことができる。
【0036】
工程(3)における反応温度、必要に応じて用いる有機溶媒の種類等の反応条件は、本発明の効果を損わない範囲内であれば特に制限されず、工業的経済性の観点から、上記の工程(1)及び(2)で採用した反応条件に合わせることが好ましい。
【0037】
工程(3)では、ジエステル化合物を反応させた後、リビングアニオン重合を停止させるためメタノール等の停止剤を加えることが好ましい。
【0038】
工程(4)
この工程は、工程(3)で得られたリビングポリマーの末端にあるジエステル基を酸無水物基に変換する工程であり、変換方法としては、例えば、工程(3)で得られたリビングポリマーを加熱処理することが挙げられる。
【0039】
工程(4)における加熱処理の方法としては、例えば、せん断操作を伴わないアニール処理等の加熱処理や、ロール、ブラベンダーミキサー、バンバリーミキサー、単軸押出機、二軸押出機等を用いた加熱せん断処理が挙げられ、ジエステル基を効率的に酸無水物基に変換する観点から、加熱せん断処理を行うことが好ましい。
【0040】
工程(4)における加熱処理条件は、加熱処理を行う装置の種類等に応じて適宜選択することができ、通常100〜500℃の温度で1〜60分程度行うのが好ましく、ポリマーの劣化防止及び経済性の観点から、180〜300℃の温度で3分〜30分程度行うのがより好ましい。
【0041】
本発明の製造方法により得られるポリマーは、少なくとも片末端に酸無水物基を有するものであるが、末端に酸無水物基を導入する反応の反応率が完全でない場合を考慮して末端酸無水物基の平均含有量が、1分子当たり0.2個以上であるものをも包含する。末端酸無水物基の平均含有量は0.8個以上であるのがより好ましい。末端酸無水物基の平均含有量が1分子当たりで0.2個未満であると、得られるポリマーの他の熱可塑性樹脂に対する反応性が低下するので好ましくない。なお、重合開始剤として、例えば、二官能開始剤である有機ジリチウム化合物を用いた場合には、両末端に酸無水物基を有するブロック共重合体を製造することができる。
【0042】
工程(5)
この工程は、工程(1)で用いる重合性モノマーとして少なくとも共役ジエン化合物を含有する場合において、必要に応じて含まれる工程であって、より具体的には、上記の工程(3)及び/又は工程(4)で得られたポリマー中の共役ジエン化合物からなる重合体ブロックの一部又は全部を水素添加(以下、「水添」ということがある)する工程である。
【0043】
上記の水素添加方法は特に限定されず、例えば、アルキルアルミニウム化合物とコバルト、ニッケルなどからなるチーグラー触媒や、チタノセン化合物等のメタロセン触媒などの水添触媒の存在下に共役ジエン化合物からなる重合体ブロックを有するポリマーと水素とを反応させる方法等が挙げられる。なお、水添されたポリマーにおける共役ジエン単位由来の不飽和二重結合の水添率は、ヨウ素価滴定法、赤外分光スペクトル測定、核磁気共鳴スペクトル(H−NMRスペクトル)測定等の分析手段を用いて算出することができる。
【0044】
本発明の製造方法によって得られたポリマーは高い反応性を有するため、例えば、他の熱可塑性樹脂と混合混練することで樹脂組成物とすることができるだけなく、他の熱可塑性樹脂に対する樹脂改質剤や相容化剤、並びに各種フィラーに対する分散性向上剤として有効に機能することができる。
【0045】
上記樹脂組成物は、最終的に末端に酸無水物基を有するポリマーを含有するものであれば、その製造に係る方法に制限はなく、例えば、下記の(イ)又は(ロ):
(イ)上記の工程(1)〜(4)によって末端に酸無水物基を有するポリマーを製造した後、該ポリマーに他の熱可塑性樹脂を添加して混合混練して樹脂組成物とする方法;
(ロ)上記の工程(1)〜(3)によって末端にジエステル基を有するポリマーを製造した後、該ポリマーに他の熱可塑性樹脂を添加して混合混練し、上記の工程(4)と樹脂組成物の製造とを同時に行う方法;
およびこれらの方法に、さらに使用する重合性モノマーの種類により必要に応じて工程(5)を追加した方法等を挙げることができる。
【0046】
上記樹脂改質剤によって改質される熱可塑性樹脂としては特に制限はなく、例えば、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、アイオノマー系樹脂、酢酸ビニル系樹脂(ケン化物も含む)、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、オレフィン系樹脂、スチレン系樹脂等を挙げることができ、これらは単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0047】
上記相容化剤によって相容化される樹脂としては特に制限はなく、例えば、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、アイオノマー系樹脂、酢酸ビニル系樹脂(ケン化物も含む)、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂等の極性樹脂と、オレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、スチレン系ブロック共重合体樹脂等の非極性樹脂との組み合わせを挙げることができる。
【0048】
上記分散性向上剤によって分散されるフィラーとしては特に制限はなく、例えば、カーボンブラック、シリカ、アルミナ、タルク、炭酸カルシウム、クレイ等を挙げることができ、これらは単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。なお、上記分散性向上剤のマトリクスとなる樹脂についても特に制限はなく、例えば、上記樹脂改質剤によって改質される樹脂として記載した樹脂を使用することができる。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を実施例等により具体的に説明するが、本発明はそれにより何ら限定されるものではない。また、以下の実施例及び比較例において使用した薬品は常法により乾燥精製し、移送及び供給は窒素雰囲気下で行った。
【0050】
また、以下の実施例、比較例及び参考例において使用した測定機器を記す。
(1)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による数平均分子量(Mn)、分子量分布(Mw/Mn)及び成分比の算出
機器:東ソー社製ゲルパーミエーションクロマトグラフ(HLC−8020)
カラム:東ソー社製TSKgel GMHXL、G4000HXL及びG5000HXLを直列に連結
溶離液:テトラヒドロフラン、流量1.0ml/分
カラム温度:40℃
検量線:標準ポリスチレンを用いて作成
検出方法:示差屈折率(RI)
【0051】
(2)高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による、ポリマー末端のジエステル基数又は酸無水物基数の測定
機器:島津製作所製高速液体クロマトグラフ(LC−10AD)
検出器:Polymer Laboratories社製エバポレイティブ光散乱検出器(PL−EMD960)
カラム:SUPELCO社製SUPELCOSIL LC−3−Si
溶離液:酢酸エチル/シクロヘキサン=50/50(容量比)で2分保持後、18分間かけて酢酸エチル/シクロヘキサン=100/0(容量比)まで酢酸エチルの容量比を直線的に上げた後、酢酸エチル/シクロヘキサン=100/0で10分保持。流量1.0ml/分
カラム温度:40℃
【0052】
(3)核磁気共鳴スペクトル(H−NMRスペクトル)によるポリマーの水素添加率、ポリマー末端のジエステル基数の測定
ポリマーの末端ジエステル基数は、核磁気共鳴スペクトルによっても確認した。
機器:日本電子社製核磁気共鳴装置(JNM−LA400)
溶媒:重クロロホルム
【0053】
(4)JIS K7110に準拠したアイゾット衝撃強度の測定
機器:東洋精機社製DG−UBデジタル衝撃試験機
試験片:2mm厚に熱プレス成形したシートから、長さ31.5mm、幅6.2mmの短冊を切り出し、ノッチングマシーンを利用して深さ1.2mmの切欠きを入れて作成
【0054】
≪製造例1≫ マレイン酸ジ−t−ブチルの製造
乾燥した200mLのガラス製耐圧容器内にマレイン酸34.8g(0.3モル)を仕込み、容器内の気体を窒素ガスで置換した。次に溶媒としてジクロロメタン60mL、触媒として濃硫酸2mLを加え攪拌し、マレイン酸を十分に分散させた。そこにイソブチレン40.4g(0.72モル)を添加した。反応は室温から開始し、最高で32℃まで温度が上昇した。反応の進行とともにイソブチレンが消費され容器内の圧力が低下し、またジクロロメタンに不溶のマレイン酸は徐々に減少した。圧力の低下に対し、窒素ガスによる加圧(0.5MPa)を3回行い、攪拌を15時間継続すると、反応容器内は完全な均一状態となって反応が終了した。得られた溶液は、ジエチルエーテルで希釈し、重炭酸ナトリウム水溶液で中和したのち水で洗浄した。得られた溶液を硫酸マグネシウムで一晩乾燥した後、硫酸マグネシウムを濾別し、溶液を濃縮することで白色結晶を得た。得られた結晶をヘキサンに溶解し、−78℃に冷却して再結晶し精製することによってマレイン酸ジ−t−ブチルを得た。
【0055】
≪実施例1≫ 末端に酸無水物基を有するポリスチレン(1)の製造
窒素置換を十分に行ったガラス製反応容器内にシクロヘキサン30mLを仕込み、50℃に加温した後、該容器内にsec−ブチルリチウムのシクロヘキサン溶液0.23mL(sec−ブチルリチウムとして0.3mmol)及びスチレン1.5gを添加して重合反応を30分間継続した。さらに、該容器内にトリイソブチルアルミニウムのシクロヘキサン溶液0.38mL(トリイソブチルアルミニウムとして0.3mmol)を添加して5分間攪拌し、製造例1で得られたマレイン酸ジ−t−ブチルのシクロヘキサン溶液(マレイン酸ジ−t−ブチルとして0.6mmol)を添加して反応を10分間継続した後、該容器内にメタノール0.1mLを添加して反応を停止した。得られたポリマー溶液を少量の硫酸を含有する水及び水で十分に洗浄した後、大過剰のメタノールで再沈殿させることによって末端にジエステル基を有するポリスチレン〔以下、(1−1)とする〕を得た。ついで、(1−1)1gをガラス製反応容器に入れ、真空ポンプで脱気しながら230℃で20分間加熱した後、ゆっくりと室温まで冷却することによって末端に酸無水物基を有するポリスチレン〔以下、(1−2)とする〕を得た。得られた(1−1)及び(1−2)について、上記した数平均分子量、分子量分布、成分比、末端のジエステル基数又は酸無水物基数を測定、算出したところ、表1に示す通りであった。
【0056】
≪実施例2≫ 末端に酸無水物基を有するポリスチレン(2)の製造
上記実施例1で用いたトリイソブチルアルミニウムのシクロヘキサン溶液の添加量を0.38mLから3.8mL(トリイソブチルアルミニウムとして0.3mmolから3mmol)に変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、末端にジエステル基を有するポリスチレン〔以下、(2−1)とする〕、及び末端に酸無水物基を有するポリスチレン〔以下、(2−2)とする〕を得た。得られた(2−1)及び(2−2)について、上記した数平均分子量、分子量分布、成分比、末端のジエステル基数又は酸無水物基数を測定、算出したところ、表1に示す通りであった。
【0057】
≪実施例3≫ 末端に酸無水物基を有するポリマー(3)の製造
窒素置換を十分に行った1.5Lのオートクレーブ中に、シクロヘキサン750mL、sec−ブチルリチウムのシクロヘキサン溶液6.41mL(sec−ブチルリチウムとして8.33mmol)を仕込み、50℃に加温した後、該容器内にスチレン37.5gを添加して重合反応を完結した。ついで、該容器内にイソプレン88g及びブタジエン88gを添加して重合反応を完結した。その後、該容器内にスチレン37.5gを添加して重合反応を完結してポリスチレン−ポリ(イソプレン/ブタジエン)−ポリスチレンブロックコポリマーのシクロヘキサン溶液を得た。該溶液に、トリイソブチルアルミニウムのシクロヘキサン溶液15.8mL(トリイソブチルアルミニウムとして12.5mmol)を添加して15分間攪拌し、マレイン酸ジ−t−ブチルのシクロヘキサン溶液(マレイン酸ジ−t−ブチルとして16.7mmol)を添加して反応を10分間継続した後、該容器内にメタノール1mLを添加して反応を停止した。得られたポリマー溶液を少量の硫酸を含有する水及び水で十分に洗浄した後、大過剰のメタノールで再沈殿させることによって末端にジエステル基を有するポリマー〔以下、(3−1)とする〕を得た。ついで、(3−1)1gをガラス製反応容器に入れ、真空ポンプで脱気しながら230℃で20分間加熱した後、ゆっくりと室温まで冷却することによって末端に酸無水物基を有するポリマー〔以下、(3−2)とする〕を得た。得られた(3−1)及び(3−2)について、上記した数平均分子量、分子量分布、成分比、末端のジエステル基数又は酸無水物基数を測定、算出したところ、表1に示す通りであった。
【0058】
また、窒素置換を十分に行った5Lのオートクレーブに(3−1)125gを仕込み、シクロヘキサン1Lを加えて溶液とした。該溶液に、オクチル酸ニッケルとトリイソブチルアルミニウムから調製したニッケル触媒を仕込み、水素添加反応を60℃で5時間行った。ついで、反応後の溶液を洗浄して触媒を除去してから大過剰のアセトン/メタノール混合液で再沈殿することによって末端にジエステル基を有し、かつ水素添加されたポリマー〔以下、(3−3)とする〕を得た。得られた(3−3)について、上記した数平均分子量、分子量分布、成分比、末端のジエステル基数、水素添加率を測定、算出したところ、表1に示す通りであった。
【0059】
さらに、上記(3−3)をボプラストミル(東洋精機製)に仕込み、230℃、ロータ回転数100rpmの条件下で5分間素練りすることによって、末端に酸無水物基を有し、かつ水素添加されたポリマー〔以下、(3−4)とする〕を得た。得られた(3−4)について、上記した数平均分子量、分子量分布、成分比、末端の酸無水物基数を測定したところ、表1に示す通りであった。
【0060】
≪比較例1≫ 末端に酸無水物基を有するポリスチレン(4)の製造
上記実施例1で用いたトリイソブチルアルミニウムのシクロヘキサン溶液を用いなかった以外は実施例1と同様の操作を行い、末端にジエステル基を有するポリスチレン〔以下、(4−1)とする〕、及び末端に酸無水物基を有するポリスチレン〔以下、(4−2)とする〕を得た。得られた(4−1)及び(4−2)について、上記した数平均分子量、分子量分布、成分比、末端のジエステル基数又は酸無水物基数を測定、算出したところ、表1に示す通りであった。
【0061】
≪比較例2≫ 末端に官能基を有するポリスチレン(5)の製造
上記実施例1において、マレイン酸ジ−t−ブチルの代わりにマレイン酸ジメチルを用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、末端にジエステル基を有するポリスチレン〔以下、(5−1)とする〕を得た。ついで、(5−1)1gをガラス製反応容器に入れ、真空ポンプで脱気しながら230℃で20分間加熱した後、ゆっくりと室温まで冷却することによってポリスチレン〔以下、(5−2)とする〕を得た。得られた(5−1)及び(5−2)について、上記した数平均分子量、分子量分布、成分比、末端のジエステル基数又は酸無水物基数を測定、算出したところ、表1に示す通りであった。
【0062】
≪参考例1≫ ポリスチレン(6)の製造
乾燥したガラス製反応容器内にシクロヘキサン30mLを仕込み、50℃に加温した後、該容器内にsec−ブチルリチウムのシクロヘキサン溶液0.23mL(sec−ブチルリチウムとして0.3mmol)及びスチレン1.5gを添加して重合反応を30分間継続した。その後、該容器内にメタノール0.1mLを添加して反応を停止した。得られたポリマー溶液を少量の硫酸を含有する水及び水で十分に洗浄した後、大過剰のメタノールで再沈殿することによってポリスチレン〔以下、(6−1)とする〕を得た。ついで、(6−1)1gをガラス製反応容器に入れ、真空ポンプで脱気しながら230℃で20分間加熱した後、ゆっくりと室温まで冷却することによってポリスチレン〔以下、(6−2)とする〕を得た。得られた(6−1)及び(6−2)について、上記した数平均分子量、分子量分布、成分比、末端のジエステル基数又は酸無水物基数を測定、算出したところ、表1に示す通りであった。
【0063】
【表1】

【0064】
≪実施例4≫ 末端に酸無水物基を有するポリマーを含有する樹脂組成物の製造
上記実施例3で得られた(3−4)とUBEナイロン6 1022B(宇部興産社製;ポリアミド6;以下、PA6とする)とを表2に示した割合でラボプラストミル(東洋精機社製)に仕込み、260℃、ロータ回転数100rpmの条件下で5分間混練して樹脂組成物を得た。該樹脂組成物について、上記したアイゾット衝撃強度を測定したところ、表2に示す通りであった。
【0065】
≪比較例3〜7≫末端に酸無水物基を有さないポリマーを含有する樹脂組成物の製造
上記実施例4において、(3−4)の代わりに、以下の(イ)〜(ホ)のうちのいずれか一種の樹脂:
(イ)セプトン2002(クラレ社製;スチレン系ブロックポリマー;以下、SEEPSとする);
(ロ)セプトンHG−252(クラレ社製;末端に水酸基を有するスチレン系ブロックポリマー;以下、SEPS−OHとする);
(ハ)タフテックM1911(旭化成ケミカルズ社製;側鎖マレイン酸変性スチレン系ブロックポリマー;以下、MAn−SEBS1とする);
(ニ)タフテックM1913(旭化成ケミカルズ社製;側鎖マレイン酸変性スチレン系ブロックポリマー;以下、MAn−SEBS2とする);又は
(ホ)T7711SP(ジェイエスアール社製;マレイン酸変性エチレンプロピレンゴム;以下、MAn−EPRとする);
を用いた以外は実施例4と同様の操作を行って樹脂組成物を得た。該樹脂組成物について、上記したアイゾット衝撃強度を測定したところ、表2に示す通りであった。
【0066】
≪参考例2≫
上記のPA6のみをラボプラストミル(東洋精機社製)に仕込み、260℃、ロータ回転数100rpmの条件下で5分間素練りしたものについて、上記したアイゾット衝撃強度を測定したところ、表2に示す通りであった。
【0067】
【表2】

【0068】
表1の結果から、本発明の構成要件をすべて満たす実施例1〜3の製造方法によって得られたポリマーは、本発明で特定したホウ素、アルミニウム、亜鉛及びマグネシウムから選ばれる典型金属元素を含有する化合物を用いなかった比較例1の製造方法によって得られたポリマー、及び本発明で特定したジエステル化合物を用いなかった比較例2の製造方法によって得られたポリマーに対し、副反応による高分子量成分の生成が抑えられ、ポリマーの末端への酸無水物基の導入数も高く、目的とするポリマーが得られていることがわかる。
【0069】
表2の結果から、本発明の構成要件をすべて満たす実施例4の樹脂組成物は、末端に酸無水物基を有するポリマーを含有していない点で本発明の構成要件を満たしていない比較例3〜7の樹脂組成物に対し、耐衝撃性が向上していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明により、常温以上の工業的に有利な条件で末端に酸無水物基を有するポリマーの製造方法、該製造方法により得られる末端に酸無水物基を有するポリマー、該ポリマーからなる樹脂改質剤、及び該ポリマーと他の熱可塑性樹脂とを含有する樹脂組成物が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
末端に酸無水物基を有するポリマーの製造方法であって、以下の工程(1)〜(4):
工程(1) 重合性モノマーのリビングアニオン重合によりリビングポリマーを得る工程;
工程(2) 該リビングポリマーと、ホウ素、アルミニウム、亜鉛及びマグネシウムから選ばれる典型金属元素を含有する化合物とを反応させてアート錯体を形成させる工程;
工程(3) 該アート錯体と、下記一般式
【化1】

(式中、Rは水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基、RおよびRはそれぞれ炭素数4〜12の第3級アルキル基である。)で示されるジエステル化合物とを反応させ、該リビングポリマーの末端にジエステル基を導入する工程;及び
工程(4) 工程(3)で得られたポリマーの末端にあるジエステル基を酸無水物基に変換する工程;
を含む末端に酸無水物基を有するポリマーの製造方法。
【請求項2】
典型金属元素を含有する化合物が、有機アルミニウム化合物である請求項1に記載の末端に酸無水物基を有するポリマーの製造方法。
【請求項3】
重合性モノマーが、ビニル芳香族化合物及び/又は共役ジエン化合物である請求項1又は2に記載の末端に酸無水物基を有するポリマーの製造方法。
【請求項4】
重合性モノマーが少なくとも共役ジエン化合物を含有し、更に以下の工程(5):
工程(5) 工程(3)及び/又は工程(4)で得られたポリマーを水素添加する工程;
を含む請求項3に記載の末端に酸無水物基を有するポリマーの製造方法。
【請求項5】
リビングポリマーが、ビニル芳香族化合物重合体ブロック−共役ジエン化合物重合体ブロック−ビニル芳香族化合物重合体ブロックのトリブロック構造である請求項4に記載の末端に酸無水物基を有するポリマーの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5の製造方法により得られる末端に酸無水物基を有するポリマー。
【請求項7】
請求項6に記載の末端に酸無水物基を有するポリマーからなる樹脂改質剤。
【請求項8】
請求項6に記載の末端に酸無水物基を有するポリマーと、他の熱可塑性樹脂とを含有する樹脂組成物。

【公開番号】特開2007−84711(P2007−84711A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−275945(P2005−275945)
【出願日】平成17年9月22日(2005.9.22)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】